日本のクリーン・コール・テクノロジー

日本のクリーン・コール・テクノロジー
石炭分野における技術革新を目指して
独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構
財団法人 石炭エネルギーセンター
日本のクリーン・コール・テクノロジー
石炭分野における技術革新を目指して
4. 多目的石炭利用技術
はじめに・
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A. 液化技術
第1編 CCTの分類 ・
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・3
4A1. 日本の石炭液化技術開発・
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(1)
コールフローによるCCTの分類 ・
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・3
4A2. 瀝青炭液化技術(NEDOL)
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・59
(2)
クリーン・コール・テクノロジー体系 ・
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4A3. 褐炭液化技術(BCL)
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(3)市場におけるCCTの位置付け ・
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・6
4A4. ジメチルエーテル製造技術(DME)
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(4)産業分野別クリーン・コール・テクノロジー ・
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B. 熱分解技術
(5)環境技術分野・
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4B1. 多目的石炭転換技術(CPX)・
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(6)国際協力分野 ・
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・13
4B2. 石炭部分水素化熱分解技術(ECOPRO)・
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・67
C. 粉体化・流体化・共利用技術
第2編 技術概要 ・
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・15
4C1. コール・カートリッジ・システム(CCS)・
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・69
1.石炭資源開発技術
4C2. 石炭スラリー製造技術(CWM)・
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・70
1A1. 石炭資源探査技術 ・
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・15
4C3. ブリケット製造技術 ・
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1A2. 石炭生産技術 ・
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・17
4C4. 石炭・バイオマス混焼技術 ・
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・73
1A3. 炭鉱保安技術 ・
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・19
D. 脱灰・改質技術
1A4. 資源開発環境技術 ・
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・21
4D1. ハイパーコール利用高効率燃焼技術(Hyper Coal)
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・75
2. 石炭火力発電技術
4D2. 低品位炭改質技術(UBC)・
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A. 燃焼技術
5. 環境負荷低減技術
2A1. 高効率微粉炭火力発電技術(USC)
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・23
A. CO2対策技術
2A2. 循環型常圧流動床ボイラ
(CFBC)
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・25
5A1. 石炭利用CO2回収型水素製造技術(HyPr-RING)・
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・79
2A3. 常圧内部循環流動床ボイラ
(ICFBC)
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・26
5A2. CO2回収・固定・隔離技術・
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・81
2A4. 加圧内部循環流動床ボイラ
(PICFBC)・
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・28
5A3. CO2転換技術 ・
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・82
2A5. 石炭部分燃焼炉技術(CPC)
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・29
5A4. 微粉炭酸素燃焼技術(CO2回収技術)・
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・83
2A6. 加圧流動床燃焼技術(PFBC)・
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・31
B. 排煙処理・ガスクリーニング技術
2A7. 高度加圧流動床燃焼技術(A-PFBC)
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・33
5B1. SOx処理技術 ・
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・85
B. ガス化技術
5B2. NOx処理技術 ・
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・87
2B1. 噴流層石炭ガス化技術(HYCOL)・
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・35
5B3. 同時脱硫脱硝技術 ・
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・89
2B2. 石炭ガス化複合発電技術(IGCC)・
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・37
5B4. ばいじん処理技術・微量元素除去技術 ・
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・91
2B3. 多目的石炭ガス製造技術(EAGLE)・
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・39
5B5. ガスクリーニング技術・
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・93
2B4. 石炭ガス化燃料電池複合発電技術(IGFC)
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・41
C. 石炭灰有効利用技術
2B5. 次世代高効率石炭ガス化発電プロセス
(A-IGCC/A-IGFC)・
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・42
5C1. 石炭灰発生プロセスとその利用・
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・95
3. 製鉄・一般産業技術
5C2. セメント・コンクリート分野 ・
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・97
A. 製鉄技術
5C3. 土木建築・農林水産分野 ・
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・99
3A1. 成形コークス製造技術 ・
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・43
5C4. 人工鉱物製造技術(人工ゼオライト)等 ・
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・101
3A2. 高炉微粉炭吹込み技術(PCI)・
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・45
6. 石炭利用基盤技術
3A3. 石炭直接利用溶融還元製鉄技術(DIOS)・
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・47
6A1.石炭ガス化反応のモデル化とシミュレーション ・
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・103
3A4. 石炭高度転換コークス製造技術(SCOPE21)
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・49
7. コプロダクションシステム
3A5. コークス乾式消火設備技術(CDQ)・
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・51
7A1. コージェネレーションシステム・
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・107
B. 一般産業技術
7A2. 燃料併産発電システム・
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・109
3B1. 流動床セメント焼成キルンシステム(FAKS)
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・53
第3編 CCTの将来展望 ・
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・111
3B2. 石炭直接利用金属溶融システム(NSR)・
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・55
数表・
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・114
1
はじめに
このパンフレットは、これまで歩んで来た日本の「クリーン・コール・テクノロジー
(CCT)」の歴史を振り返り、現状を出来る限り体系的に整理し、次の新しい技術
革新に向けた資料として、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構
と財団法人 石炭エネルギーセンターが協力して、作り上げたものである。
地球温暖化問題を中心に、石炭利用に対する厳しさが増す中で、日本のCCTが
魅力あるものとして理解され、これからのCCTの飛躍的発展と新しい石炭利用
システム構築につながることを期待している。
我々がたどったCCT開発の道は、ここに整理された様に、まさに世界最高水準の
技術的体系を構築しており、石炭エネルギーに依存するアジア諸国にとっては、
本当に魅力溢れるものとなっている。我が国においても、1998年以来の石炭消
費量は著しい拡大を示している。火力発電の発電端効率は、ここ10数年で38%
程度から41%にまで向上し、火力発電所における発電電力量あたりのCO2やS
Ox、NOxの排出量についても、先進国の中で特に優れた値を示している。これ
からも、
GDPの成長を維持しながら、
CO2排出量の削減を達成する、経済と環境
が両立する世界に向けた、更なる努力がCCTに期待されているのである。
技術革新が追求する世界は無限である。この無限の可能性は、一歩一歩前進す
る人類のたゆまない努力と、それをしっかりと積み上げ、その基盤の上に立って
人類社会を支えようとする地道な営みによってもたらされるものである。このパ
ンフレットが、これからのCCT開発の参考となることを願い、石炭分野に素晴ら
しい技術革新がもたらされることを期待するものである。
日本の石炭消費の拡大と経済・環境・エネルギーの推移(1990-2004)
1.40
1.35
1.30
石炭消費量
1.25
1.20
発電電力量
一次エネルギー総供給量
1.15
CO2排出量
1.10
1.05
GDP
火力発電効率
1.00
CO2排出量/GDP
0.95
0.90
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004
年度
2
第1編 CCTの分類
コールフローによるCCTの分類
ガス化
液 化
EAGLE
スラリー化
石炭鉱山
石炭探査
DME
微粉炭・ブリケット化
石炭専用船
コークス化
落盤予知
石炭専用列車
選炭工場
SCOPE21
探査・採掘・保安・選炭
石炭資源開発技術
粉砕・輸送・貯蔵
燃料・化学原料
加工・改質・転換
多目的石炭利用技術
1A1 石炭資源探査技術
3B3 噴流層石炭ガス化技術
2B1
EAGLE
(HYCOL)
1A2 石炭生産技術
石炭ガス化・水素化技術
1A3 炭鉱保安技術
2B3 多目的石炭ガス製造技術(EAGLE)
5C1 石炭利用CO2回収型水素製造技術(HyPr-RING)
5A1
炭鉱保安技術
1A3 資源開発環境技術
1A4
石炭液化技術
●石炭の物理的性質
無煙炭
瀝青炭
褐 炭
1.5∼1.8
1.2∼1.7
0.8∼1.5
見掛け比重
−
0.75∼0.80
0.55∼0.75
比 熱
0.22∼0.24
0.24∼0.26
0.26∼0.28
熱伝導率(W/(m・K))
−
1.26∼1.65
−
着火点(℃)
400∼450
300∼400
250∼300
真比重
発熱量(Kcal/kg)
4A2 瀝青炭液化技術(NEDOL)
4A3 褐炭液化技術 (BCL)
4A4 ジメチルエーテル製造技術 (DME)
8,200∼8,500 7,500∼8,800 5,500∼7,500
熱分解技術
●炭化度による石炭の分類
分類
無煙炭
発熱量 Kcal/kg(無水鉱物基)
−
8,400以上
瀝青炭
8,100以上
亜瀝青炭
褐炭
7,800以上
7,300以上
6,800以上
5,800以上
燃料比
4.0以上
1.5以上
1.5以下
1.0以上
1.0以下
1.0以上
1.0以下
−
粘結性
非粘結
−
非粘結
TEXレポートの表記
貿易統計での石炭表記
無煙炭
無煙炭
強粘結
粘結
弱粘結
弱粘結
非粘結
非粘結
強粘結性の
コークス用炭
灰分が8%以下のもの
その他
コークス用炭
灰分が8%以下のもの
原料炭D
一般炭A
その他
灰分が8%を越えるもの
原料炭A
一
般
炭
原料炭B
原料炭C
瀝青炭
粉体化・流体化
・共利用技術
一般炭C
その他石炭
4C1 コール・カートリッジ・システム(CCS)
4C2 石炭スラリー製造技術(CWM)
4C3 ブリケット製造技術
4C4 石炭・バイオマス混焼技術
灰分が8%を越えるもの
脱灰・改質技術
4D1 ハイパーコール利用高効率燃焼技術(Hyper Coal)
4D2 低品位炭改質技術(UBC)
灰分が8%を越えるもの
灰分が8%以下のもの
一般炭B
4B1 多目的石炭転換技術 (CPX)
4B2 石炭部分水素化熱分解技術
石炭部分水素化熱分解技術
(ECOPRO)
●利用のされ方による石炭の分類(石炭表記)
原
料
炭
4A1 日本の石炭液化技術開発
石炭利用基盤技術
灰分が8%を越えるもの
3
6A1 石炭ガス化反応のモデル化とシミュレーション
Clean Coal Technologies in Japan
C02対策
排煙処理
電気集塵器
発電所
CO2によるEOR
セメント工場
石炭灰の有効利用
排煙脱硫装置
製鉄所
化学プラント
排煙脱硝装置
利 用
横浜ランドマーク
環境対策
CO2対策技術
高効率利用技術
微粉炭火力発電技術(USC)
2A1 高効率微粉炭火力発電技術(USC)
石炭火力発電技術
5C1 石炭利用CO2回収型水素製造技術(HyPr-RING)
5A1
2A2 循環型常圧流動床ボイラ(CFBC)
2A3 常圧内部循環流動床ボイラ(ICFBC)
5C2 CO2回収・固定・隔離技術
5A2
2A4 加圧内部循環流動床ボイラ(PICFBC)
燃焼技術
5C3 CO2転換技術
5A3
2A5 石炭部分燃焼炉技術(CPC)
2A5 加圧石炭部分燃焼技術(PCPC)
5C4 微粉炭酸素燃焼技術(CO2回収技術)
5A4
2A6 加圧流動床燃焼技術(PFBC)
排煙処理・ガスクリーニング技術
2A7 高度加圧流動床燃焼技術(A-PFBC)
4D1 ハイパーコール利用高効率燃焼技術(Hyper Coal)
ガス化技術
5B1 SOx処理技術
2B1 噴流層石炭ガス化技術 (HYCOL)
5B2 NOx処理技術
2B2 石炭ガス化複合発電技術 (IGCC)
2B3 石炭ガス化燃料電池複合発電技術(IGFC)
2B4
5B3 同時脱硫脱硝技術
2B3 次世代高効率石炭ガス化発電プロセス
2B5
石炭ガス化燃料電池複合発電技術
(A-IGCC/A-IGFC)
(IGFC)
製鉄技術
5B4 ばいじん処理技術・微量元素除去技術
成型コークス製造技術
3A1 成形コークス製造技術
3A2 高炉微粉炭吹込み技術 (PCI)
5B5 ガスクリーニング技術
3A3 石炭直接利用溶融還元製鉄技術 (DIOS)
石炭灰有効利用技術
3A4 石炭高度転換コークス製造技術(SCOPE21)
5A1 石炭灰発生プロセスとその利用
5C1
コークス乾式消火設備(CDQ)技術
3A5 コークス乾式消火設備技術(CDQ)
一般産業技術
5A2 セメント・コンクリート分野
5C2
流動層セメント焼成システム (FAKS)
(FAKS)
3B1 流動床セメント焼成キルンシステム
コプロダクション
システム
3B2 石炭直接利用金属溶融システム(NSR)
地盤改良工法
・農林水産分野
(FGC)
5A3 土木建築
5C3
7A1 コージェネレーションシステム
5A4 人工鉱物製造技術(人工ゼオライト)等
5C4
7A2 燃料併産発電システム
4
第1編 CCTの分類
Clean Coal Technologies in Japan
クリーン・コール・テクノロジー体系
(コールフロー)
(狙い)
採炭
破砕
低エミッション石炭
エネルギー利用システム
選炭
選炭
在来型選炭技術
(ジグ、浮選、重選)
選炭プロセス管理技術
エネルギー源の多様化
バイオ・ブリケット
低品位炭改質技術(UBC)
乾留ブリケット
ハイパーコール
脱灰・改質・加工
改質
利用分野の拡大
コールカートリッジシステム(CCS)
ハンドリング
石炭液体混合燃料(CWM、COM)
使い勝手の向上
脱硫型CWM
末端小口ユーザでは行い
にくい環境対策の一括前
瀝青炭液化
液化
処理
褐炭液化
液化油アップグレーディング
転換
噴流床石炭ガス化複合発電(IGCC)
石炭利用水素製造(HYCOL)
ガス化
エネルギー利用の高効率化
CO2削減
燃料電池用石炭ガス化ガス製造技術(EAGLE)
急速熱分解
部分水素化熱分解
熱分解
トッピング燃焼
燃焼
(地球温暖化対策)
加圧流動床燃焼
流動床燃焼
SOx、NOx、煤塵の削減
高効率燃焼
酸素富化燃焼 流動床セメント焼成
(酸性雨対策)
(地球環境対策)
溶融還元製鉄
高度排煙処理
排ガス処理
湿式脱硫
乾式脱硫・脱硝
高温排煙処理
脱硝
アルカリ除去等
脱塵
後処理
灰利用
石炭灰有効利用技術
(技術の成熟度)
◆世界の石炭および石油天然ガス資源の埋蔵量(単位:石油換算億トン)
◆主な資源の確認可採埋蔵量と可採年数
2,010
石 炭
石 油
天然ガス
ウラン
確認可採埋蔵量
9,091億トン
1兆1,886億バレル
180兆m3
459万トン
北米
地 中南米(注3)
域
欧州
別
賦
旧ソ連
存
中東
状
況 アフリカ
アジア・大洋州
27.8%
2.3%
7.1%
24.5%
0.0%
5.6%
32.7%
3.9%
9.7%
1.6%
10.0%
61.7%
9.4%
3.5%
3.9%
4.2%
2.9%
32.4%
40.6%
7.8%
7.9%
17.1%
3.6%
2.8%
28.7%
0.2%
20.5%
27.2%
年生産量
可採年数
293億バレル
55.4億トン (80.3百万BD)
164年
40.5年
2.7兆m3
3.6万トン
66.7年
85年
1,781
1,099
1,727
2,078
432
99
576
6,363
802
1,000ロシア
190
80 66
655
647
欧州・旧ソ連
352 127
149
アフリカ
1,619
1,616
中国
29
中東
2320
7 8
インド
144
139 64
中南米
0 0
南アフリカ
5 22
オーストラリア
石 石天
炭 油然
ガ
ス
世界
5
36 48
米国
128
55
アジア太平洋
550
342
【出所】石油、天然ガス、石炭:BP2005
ウラン:OECD/NEA、IAEA、URANIUM2003
北米
(出所:BP 2005)
市場におけるCCTの位置付け Clean Coal Technologies in Japan
技術的課題大
国内 利用技術
国内 転換・改質技術
HyPr-RING
PCPC
ハイパーコール利用高効率発電
技術的、経済的
課題が残る技術範囲
IGFC
EAGLE
ハイパーコール
A-PFBC
IGCC
HYCOL
ガス化炉(流動床、噴流床)
PFBC
実用化レベルにある技術
DME
経
済
的
課
題
大
U S C
F B C
セメント原料
石膏ボード
商用段階技術
脱灰CWM
CWM
COM
PICFB
ICFB
CFBC
PCFBC
NEDOL
B C L
T移
簡易乾式脱硫
練炭豆炭
バイオコール
湿式選炭
CPX
FAKS
溶融繊維化
FGC深層混合処理
流動床固化体
人 工 骨 材
排煙処理
CC
N S R
高度排煙処理
PCI
C C S
気流搬送
SCOPE21
DIOS
成型コークス
経
済
的
課
題
大
転
褐炭脱水
DME
コストダウン技術開発
GTL
乾式選炭
ハイパーコール
海外実証(共同実証)
従来の
技術開発範囲
海外 転換・改質技術
海外 利用技術
技術的課題大
◆世界各国の石炭生産量・消費量(単位:百万 t 、2004年度世界の石炭生産量総計 5,508百万 t・消費量5,535百万 t )
出所:IEA COAL INFORMATION 2005
および 日本の石炭輸入量(単位:百万 t 、2004年度石炭総輸入量 183百万 t )
1,956
280
5,508 5,535
1,889
1,008 1,006
237
66 55
161
25 61
145
カナダ
ロシア
イギリス 250
211 ポーランド
9.
7(
5.
402 432
ドイツ
4.3
8.0(
中国
)
1%
0
南アフリカ
0.
.1(
)
%
184
生
産
量
アメリカ
)
4.8(2.6%
消
費
量
世界
0
17,428
その他 465
日本
16,317
セメント 618
15,236 15,457
化学工業 91
◆日本の産業分野別石炭消費量の推移
26
.4(
14
.4%
)
インド
223
156
%)
3.3
6.0(
3%
)
(単位:万トン)
13,057
104.1(56.7%)
11,145
129
電力 8,219
11,548
355
22
9,394
9,079
インドネシア
136
8,225
一
般
炭
パルプ・紙
オーストラリア
ガス
製鉄 8,035
原
料
炭
'70年度
'75
'80
'85
'90
'95
'00
'01
'02
'03
(出所:総合エネルギー統計2003)
6
第1編 CCTの分類
産業分野別クリーン・コール・テクノロジー
発電分野
石炭火力発電所の分布
( )内は発電容量(万kW)
2005年末現在
砂川(25)
奈井江(35)
苫東厚真(173.5)
七尾大田(120)
富山新港共同(50)
能代(120)
敦賀(120)
舞鶴(建設中)
高砂(50)
水島(28.1)
大崎(25.9)
竹原(130)
三隅(100)
1800
国内石炭総消費量
石炭消費量(百万トン)
160
1600
140
1400
120
1200
発電電力量
100
80
1000
800
石炭消費量(発電)
60
600
40
400
20
200
0
1990 '91 '92 '93 '94 '95 '96 '97 '98 '99 '00 '01 '02 '03
発電量(GkWh)
180
酒田(70)
仙台(35)
新地(相馬)(200)
原町(200)
広野(建設中)
勿来(145)
常陸那珂(100)
磯子(60)
新小野田(100)
下関(17.5)
戸畑共同(15.6)
苅田(36)
港(15.6)
松浦(270)
松島(100)
碧南(310)
橘湾(210+70)
苓北(140)
新居浜東(4.25)
新居浜西(15)
西条(40.6)
金武(44)
石川(31.2)
具志川(31.2)
0
発電分野の石炭消費量と発電量
製鉄分野
製鉄所の分布
( )内は粗鋼生産量( t )
2005年末現在
神戸製鋼 神戸(1,062,063)
神戸製鋼 加古川(5,397,267)
住友金属 鹿島(6,820,450)
JFEスチール 水島(8,423,478)
JFEスチール 千葉(4,186,020)
JFEスチール 福山(9,885,534)
国内石炭総消費量
140
120
120
粗鋼生産量
100
100
80
石炭消費量(鉄鋼)
80
60
60
40
40
20
20
0
新日本製鐵 八幡
(3,514,941)
160
140
JFEスチール 京浜(3,472,723)
新日本製鐵 名古屋(5,651,300)
粗鉄生産量(百万トン)
石炭消費量(百万トン)
160
新日本製鐵 君津(9,195,689)
180
180
住友金属 和歌山(3,412,887)
新日本製鐵 大分(8,012,585)
0
1990 '91 '92 '93 '94 '95 '96 '97 '98 '99 '00 '01 '02 '03
製鉄分野の石炭消費量と粗鋼生産量
7
Clean Coal Technologies in Japan
石炭火力発電技術
2A1 高効率微粉炭火力発電技術(USC)
2A4 加圧内部循環流動床ボイラ(PICFBC)
2A2 循環型常圧流動床ボイラ(CFBC)
2A5 石炭部分燃焼炉技術(CPC)
2A3 常圧内部循環流動床ボイラ(ICFBC)
2A6 加圧流動床燃焼技術(PFBC)
2A7 高度加圧流動床燃焼技術(A-PFBC)
燃焼炉
一般炭
ボイラー
石炭
ガス
クリーニング
燃料
電池
煙突
微粉炭
石炭
ガス
スチーム
ガス化炉
タービン
タービン
ジェネレータ
5B5 ガスクリーニング技術
電力
2B1 噴流層石炭ガス化技術 (HYCOL)
2B4
石炭ガス化燃料電池複合発電技術(IGFC)
2B2 石炭ガス化複合発電技術 (IGCC)
2B5
次世代高効率石炭ガス化発電プロセス(A-IGCC/A-IGFC)
2B3 多目的石炭ガス製造技術 (EAGLE)
4D1 ハイパーコール利用高効率燃焼技術(Hyper Coal)
排水
製鉄技術
3A2 高炉微粉炭吹込み技術(PCI)
3A1 成形コークス製造技術
高炉
原料炭
銑 鉄
成型
コークス炉
転 炉
PCI
電気炉
鉄鋼
石炭
SCOPE21
スラグ
一般炭
DIOS
NSR
3A4 石炭高度転換コークス製造技術(SCOPE21)
3A3 石炭直接利用溶融還元製鉄技術(DIOS)
3B2 石炭直接利用金属溶融システム(NSR)
3A5 コークス乾式消火設備(CDQ)技術
8
第1編 CCTの分類
産業分野別クリーン・コール・テクノロジー
セメント製造分野
セメント工場の分布
( )内はクリンカ製造能力(千t /年)
2005年末現在
日鐵セメント 室蘭(968)
明星セメント 糸魚川(2,108)
電気化学工業 青海(2,703)
太平洋セメント 上磯(3,944)
三菱マテリアル 青森(1,516)
住友大阪セメント 岐阜(1,592)
八戸セメント 八戸(1,457)
敦賀セメント 敦賀(816)
太平洋セメント 大船渡(2,680)
三菱マテリアル 岩手(670)
トクヤマ 南陽(5,497)
東ソー(2,606)
日立セメント 日立(848)
住友大阪セメント 栃木(1,489)
秩父太平洋セメント 秩父(800)
太平洋セメント 熊谷(2,267)
三菱マテリアル 横瀬(1,213)
太平洋セメント 埼玉(1,655)
デイ・シイ 川崎(1,108)
宇部興産(1,612)
宇部興産(4,872)
180
180
国内石炭総消費量
160
140
140
120
120
セメント生産量
100
100
80
80
60
60
40
40
石炭消費量(セメント)
20
0
セメント生産量(百万トン)
石炭消費量(百万トン)
160
20
1990 '91 '92 '93 '94 '95 '96 '97 '98 '99 '00 '01 '02 '03
0
セメント製造分野の石炭消費量とセメント生産量
太平洋セメント 藤原(2,407)
太平洋セメント 土佐(1,165)
太平洋セメント 高知(4,335)
太平洋セメント 津久見(4,598)
太平洋セメント 佐伯(1,426)
新日鐵高炉セメント 戸畑(808)
三菱マテリアル 九州(8,039)
宇部興産 苅田(3,447)
苅田セメント 苅田(1,085)
香春太平洋セメント 香春(800)
三井鉱山 田川(1,977)
麻生セメント 田川(1,412)
琉球セメント 屋部(722)
石炭化学・その他分野
化学コンビナートの分布
( )内はエチレン製造能力(千t /年)
2005年末現在
三菱化学 水島(450)
旭化成 水島 山陽石油化学(443)
三菱化学 鹿島(828)
丸善石油化学 五井(480)
京浜エチレン(690)
三井化学 岩国大竹(623)
出光石油化学 徳山(623)
4,600
540
(20.3)
(19.5)
(19.7)
GDP
4,200
(18.7)
(19.0)
3,000
2,800
460
(16.6)
(16.3)
(17.1)(16.5)(17.5)
(16.7)(16.7)
3,600
3,200
480
石炭
供給量
石炭エネルギー供給量
3,800
1,235 1,242
(17.0)
1,213
(16.3)(16.3)
1,198
(16.8)
1,122 1,131
1,248
1,239
1,228
1,195
1,252
1,214
CO2排出量(Mt-CO
Mt-CO2)
1,149
三菱化学 四日市
500
(18.1)
(17.8)
(17.8)
4,000
新日本石油化学 川崎(404)
東燃化学 川崎(478)
520
1,139
1990 '91 '92 '93 '94 '95 '96 '97 '98 '99 '00 '01 '02 '03
440
420
東ソー 四日市(493)
GDP(兆円)
石炭エネルギー供給量(PJ)
4,400
3,400
三井化学 市原(553)
出光石油化学 千葉(374)
住友化学工業 姉ヶ崎・袖ヶ浦(380)
三井化学 大阪
大阪石油化学(455)
昭和電工 大分(581)
400
琉球セメント 屋部(722)
380
360
日本の石炭エネルギー供給とGDP、CO2排出量
( )内の数字は一次エネルギー総供給に占める石炭の構成比(%)
9
Clean Coal Technologies in Japan
セメント製造技術
3B1
流動床セメント焼成キルンシステム(FAKS)
5C2 〈石炭灰有効利用技術〉セメント・コンクリート分野
石炭
電気集塵機
電気集塵機
トラック
石膏
石灰石
粘土類
セメント セメント
クーラー サイロ
石炭ミル
鉄原料
ドライヤ
重油タンク
リサイクル原料
エア
セパレータ
サイロ
タンカー
原料ミル
予熱装置
エア
セパレータ
ロータリー
キルン
クリンカ
クーラー
クリンカ
サイロ
石炭化学プロセス
予備粉砕ミル
4A1 日本の石炭液化技術開発
4A4 ジメチルエーテル製造技術 (DME)
4A2 瀝青炭液化技術開発 (NEDOL)
5A1 石炭利用CO2回収型水素製造技術(HyPr-RING)
石炭
排気
4A3 褐炭液化技術 (BCL)
(分留工程)
(原料供給工程)
中質油
(石炭転換工程)
重質油
水
(分離・精製工程)
空気
高付加価値成分
(BTXや1∼2環成分等)
残渣炭
(リサイクル)
排水
4B1 多目的石炭転換技術 (CPX)
4D1 ハイパーコール利用高効率燃焼技術(Hyper Coal)
4B2 石炭部分水素化熱分解技術(ECOPRO)
4D2 低品位炭改質技術(UBC)
10
第1編 CCTの分類
環境技術分野
CO2排出量削減の取り組み
2005年2月16日、京都議定書が発効し、
日本は2008年から12
①利用効率の向上によるCO2発生量の低減
年までの期間中に、温室効果ガス
(二酸化炭素、
メタン、亜酸
②石炭に含まれる炭素成分の原料分野への利用による、直接
化窒素、代替フロン等)の排出量を1990年に比べ6%削減す
燃焼により発生するCO2排出量の抑制
ることが必要となりました。
③排ガス中に含まれるCO2を分解・回収し、地中等への隔離・
我が国は、世界で最も進んだ石炭技術(クリーン・コール・テク
貯留
ノロジー)
を持った国の1つとして、温室効果ガスの中で影響の
等の技術開発と、京都メカニズムを利用した国際協力による
大きな二酸化炭素(CO2)の排出量削減のために、
CO2排出量の削減が進められています。
発電効率の向上
我が国のエネルギー起源CO2排出量の推移
出典:CCT Journal 第11号
65
出典:総合エネルギー統計(2004年度版)
A-IGFC
∼65%
2.55
1300.0
A-IGCC
1700℃級 GT
57%
55
IGCC
IGFC
1500℃級 GT
55%
湿式ガスクリーニング
46%
IGCC 実証機
A-PFBC
1200℃ 級GT
IGCC
1300℃級 GT
乾式ガスクリーニング
45
1500℃ 級GT
46%
40.5%
乾式ガスクリーニング
48%
40
2000
2010
2020
実用化年度
1280.0
2.50
1260.0
50
2030
1251.7
1240.0
2.45
1220.0
2.40
1200.0
1180.0
2.35
2.35
1160.0
2.30
CO2 排出量
1140.0
コプロダクション
CO2 排出量/実質GDP
出典:JCOAL Journal 創刊号
2.25
1120.0
メタンガス
IGCC/IGFC
都市ガス
ST
FC
石炭層
90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 2000 2001 2002 2003 2004
年 度
電力
合成燃料
ガスエンジン/GT
DME合成
CBM回収
GT
ボイラー
電力
合成燃料
(DME、GIL)
石炭
CO2炭層貯留
FT合成
DME合成
メタンガス
合成ガス
(H2、CO)
事前処理
COシフト
CO2分離回収
1040.0
主要国のCO
2排出量(百万トン)
発電所、
自動車等
電力
民生・運輸
CO2
ガス化
H2分離精製
1020.0
H2燃料電池
定置型燃料電池
米国
2001
2002
2010
2015
2020
2025
4,989
5,692
5,751
6,561
6,988
7,461
7,981
473
573
588
681
726
757
807
尿素肥料
エンプラ
西欧
3,413
3,585
3,549
3,674
3,761
3,812
3,952
ロシア
2,347
1,553
1,522
1,732
1,857
1,971
2,063
中国
2,262
3,176
3,322
5,536
6,506
7,373
8,133
インド
583
1,009
1,025
1,369
1,581
1,786
1,994
日本
990
1,182
1,179
1,211
1,232
1,240
1,242
化学
CO2の隔離・貯留
21,460 24,072 24,409 30,201 33,284 36,023 38,790
世界全体
地上: 液化CO2パイプライン
海上: 液化CO2輸送船
1990
カナダ
アンモニア合成
メタノール合成
<輸送>
出典:IEO2005
燃料電池
H2
バイオガス
<分離・回収>
化学吸収法
物理吸着法
膜分離法
酸素燃焼
<隔離・貯留>
地中: 帯水層
石炭層
海洋: 溶解・拡散
ハイドレード
(海底)
主要国の発電電力量あたりのCO2排出量
発電所
(t -CO 2 / 百万円)
GDP当CO 2 排出量
A-IGCC
1500℃級 GT
53%
CO 2 排出量
(百万 t - CO 2)
送電端効率[%]
60
CO2固定とCH4回収炭層
出典:電気事業連合会
(kg-CO2/kWh)
0.7
0.6
0.5
0.58
0.46
0.47
0.43
0.39
0.4
0.3
0.21
0.2
0.1
0
11
0.06
アメリカ ドイツ イギリス フランス カナダ イタリア
日本
(2003)(2003)(2003)(2003)(2003)(2003)(2003)
Clean Coal Technologies in Japan
選炭技術
排煙処理技術
石炭を燃やしたあとに出る排ガスを処理したり、燃やす方法を工
石炭利用に伴う硫黄酸化物の排出低減は環境保全の重要な
夫することによって、煤塵や硫黄酸化物、窒素酸化物を取り除く、
課題で、選炭は灰分や硫黄酸化物の発生源となる黄鉄鉱粒
エミッション低減への技術開発が進められています。
子を石炭を使う前に除去できる環境対策技術の一つです。
電気集塵器のしくみ
排煙脱硝装置のしくみ
排煙脱硫装置のしくみ
NH3
(アンモニア)
NO X
直流高電圧
NO X
電極
NO X
クリーンガス
(煙突へ)
NO X
NH 3
NO X
NO X
NH 3
NH 3
NO X
NH 3
NO X
ポンプ
触媒
放電電極
浮選機
石灰石と
水の混合液
捕集された
灰塵
H 2O
N2
N2
集塵電極
H 2O
H 2O
H 2O
排ガス
N2
N2
石こう
ポンプ
石こう
排ガス
ボイラから
●電気集塵器
重液サイクロン
高圧の電気を流した2つの電極の間に、煤塵を含んだ排ガスを
通すと、煤塵は(−)の電気を帯びて(+)側の電極に吸い寄
スラッジ炭回収・脱水技術
せられます。電極に吸着し堆積した煤塵を、周期的な槌打によ
って集塵器の下部に落として排ガスや煤塵を取り除く方法です。
選炭後に流される排水の中には微粉炭が含まれており、
このま
この原理は、摩擦によって静電気を帯びた下敷などに紙やゴミ
ま河川等へ排出すると環境問題を引き起こす可能性があります。
が付着するのと同じものです。
したがって、効率の高いスラッジ炭回収・脱水技術の開発を資
●排煙脱硫装置
源有効利用の面からも進めています。
石灰石を粉状にして水との混合液(石灰石スラリー)
を作り、
こ
れを硫黄酸化物を含んだ排ガスに噴霧すると、排ガス中の硫黄
酸化物と石灰が反応して亜硫酸カルシウムになります。この亜
硫酸カルシウムを、
さらに酸素と反応させて、石こうとして取り出
します。
●排煙脱硝装置
窒素酸化物を含んだ排ガスにアンモニアを噴霧して、金属系
の触媒(化学反応を起こさせる物質)の中を通します。排ガス
排水シックナ
中の窒素酸化物は、触媒の働きで化学反応を起こし、窒素と
水に分解します。
脱水装置
反応式
石炭灰の有効利用技術
4NO + 4NH3 + O2 → 4N2 + 6H2O
(一酸化窒素)
(アンモニア) (窒素ガス)
石炭を燃やした時に発生する灰は、
セメント原料などに有効利用
6NO2 + 8NH3 → 7N2 + 12H2O
(二酸化窒素) (窒素ガス)
することをはじめ、
多目的な利用に関する検討が進められています。
日本の電力・一般産業から発生する
石炭灰の有効利用状況
(2003年度)
主要国の火力発電電力量あたりのSOxとNOx排出量
出典:電気事業連合会
(g/kWh)
4.5
4.0
(火力発電所)
3.9
3.7
3.5
3.0
2.0
0.5
0
肥料・土壌改良材等 172 2.1%
その他建築材
19 0.2%
建材ボード
377 4.5%
2.0 2.0
1.7
1.5
1.5
1.0
SOx
NOx
2.6
2.5
0.7 0.6
セメント原材料
5,876 70.1%
出所:石炭灰全国実態調査報告書(JCOAL)
土木工事用
その他
216 2.6%
1.9
1.7
道路路盤材
160 1.9%
0.7
0.2 0.3
炭鉱充填材
204 2.4%
アメリカ ドイツ イギリス フランス カナダ イタリア
日本
(2002)(2002)(2002)(2002)(2002)(2002)(2004)
12
その他
663 7.9%
その他
7.9%
農林水産分野 2.1%
建築分野 4.7%
土木分野 9.8%
合計 8,380
(単位:千トン) セメント分野
75.5%
セメント混合材 308 3.7%
コンクリート混和材 143 1.7%
地盤改良材 242 2.9%
第1編 CCTの分類
国際協力分野
国際協力の現状
発展途上国では、工業化、都市化などが進むにつれて、大気や
水の汚染が深刻な問題となっています。特にアジア地域では、
エネルギー消費における石炭の割合が高く、経済発展にとも
ない、環境対策の整った石炭利用技術の普及・展開が、一層
重要な課題となっています。
途上国は、資金、技術、人材などが不足しているため、
自国の
努力だけでは改善に限界があり、我が国をはじめとする先進諸
に含まれるCDM(Clean Development Mechanism)
は、先
国や国際機関などによる支援が求められています。そのため、
進諸国と途上国が協力して温室効果ガスの削減を目指すこと
我が国は、
これまで、GAP対象国(中国、
インドネシア、
タイ、
マ
のできる、新しい国際協力の一つであるということができます。
レーシア、
フィリピン、
インド、
ヴェトナム)
を中心に、国際協力を
環境問題は地球規模に拡大しており、
グローバルな環境問題
進めて来ました。
克服の観点からも、開発途上国側にも、増大する公害問題や
近年、地球温暖化問題は、国際社会の中で、強い関心を集め
地球温暖化を少しでも防ぐ、環境改善への自助努力が求めら
ています。地球温暖化は、地球と人類の未来にとって深刻な
れているのです。
問題である一方で、人類の経済活動やこれに伴うエネルギー
我が国としては、石炭需要が増大する中国などアジア諸国に
消費と密接な関係にあり、
「環境」と「開発や経済」との両立
対し、
わが国のクリーン・コール・テクノロジー(CCT)
を積極的
が重要な課題となっています。
に展開し、途上国の経済成長と環境の改善に協力すると共に、
1997年12月、京都で締結され、2005年2月16日に発効した「京
経済性、供給安定性という石炭の優位性を高めつつ、石炭をさ
都議定書」には、
「京都メカニズム」と呼ばれる、国際協力の
らに有効な資源・エネルギーとして位置付けるため、豪州との技
重要な「しくみ」が含まれています。特に、
この「京都メカニズム」
術協力も進めています。
(1)人材の育成
1)炭鉱技術の海外移転
我が国の炭鉱が長年培って来た優れた坑内掘による石炭生産・
保安技術を活用し、
アジア・太平洋地域の石炭生産国に技術協
力を行うことにより、当該石炭生産国の石炭生産・保安技術のレ
ベルアップを図り、
ひいては我が国の海外炭安定供給確保に資
することを目的に、我が国への技術者の受け入れ、及び海外石
炭生産国への技術者の派遣による研修事業を実施しています。
への技術移転を実施しています。
受け入れ事業では、中国、
インドネシア、ベトナムより年間合計
また、派遣事業では、中国においては我が国の石炭技術者を
で300名余りの管理者クラス以上の石炭技術者を受け入れ、
派遣してセミナー方式の研修を、
インドネシア、ベトナムにおい
釧路炭鉱、及び長崎炭鉱技術研修センターの現場において、
ては、
わが国の石炭技術者を炭鉱に派遣し、現場において実
経営管理、採鉱、保安、機械・電気設備等について、人から人
務を直接指導しています。
石炭安定供給のための我が国炭鉱技術の
アジア・太平洋地域への移転
Transfer of Japan’s Coal mining technology to
Asia-Pacific region to ensure a stable supply of coal
人材育成事業
Human resources
Development
グリーンエイドプランの中での
環境技術の移転
炭鉱技術海外移転事業
Training Project on
Coal Mining Technology
クリーンコールテクノロジー
移転事業
Clean Coal Technology
Transfer Project
Transfer of environmental technology
through the Green Aid Plan
ODAの中での世界各国の
石炭技術者の育成
JICA研修事業
JICA Training Project
Training of coal engineers worldwide
within the ODA system
13
Clean Coal Technologies in Japan
2)クリーン・コール・テクノロジーの普及促進
3)JICA研修事業の支援
クリーン・コール・テクノロジーの普及促進と石炭利用技術に
JICAがインドネシア、ベトナムで行う石炭に係るプロジェクトや研
関する理解の熟成と技術の向上を図ることを目的に、APEC域
修事業を支援・実施しています。また、
インドネシア、ベトナムから
内の諸国より技術者を我が国に受け入れて、SOx、NOx、煤塵
技術者を日本に受け入れ、炭鉱技術や保安技術の研修を実施
を減らすための「環境対策技術」や、
エネルギー利用効率の改
しています。
善をめざす「高効率発電技術」などの石炭の利用分野および
石炭の品質管理等、関連の技術移転を実施しています。
(2)GAPにかかわるクリーン・
コール・テクノロジー・モデル事業一覧
事業所名
事業期間
対象国
実施場所
カウンター・パート
'93年度∼'95年度
中華人民共和国
● 坊化工厰(山東省)
●南寧化学工業集団公司
(広西壮族自治区)
●長寿化工厰(四川省)
国家計画委員会・化学工業部
国家計画委員会・化学工業部 '95年度∼'97年度
タイ
●タイ・ユニオン製紙会社(サムットプラカーン)
工業省
'98年度∼'01年度
中華人民共和国
●湖南湘氣実業有限公司(湖南省)
国家発展計画委員会
'99年度∼'02年度
中華人民共和国
●安陽鋼鉄集団有限責任公司(河南省)
国家発展計画委員会
中華人民共和国
●房山服装集団公司
(北京市)
● 博鉱務局嶺子炭鉱
(山東省)
国家計画委員会・北京市計画委員会
国家計画委員会・煤炭工業部
◆ 燃焼後のクリーン化
簡易脱硫設備
コークス炉ガス脱硫設備
国家計画委員会・化学工業部 ◆ 燃焼中のクリーン化・燃焼効率向上
循環流動床ボイラ
'93年度∼'95年度
フィリピン
●バタンガス石炭火力発電所(カラカ)
エネルギー省
'95年度∼'97年度
中華人民共和国
●棗荘鉱務局柴里炭鉱
(山東省)
国家計画委員会・煤炭工業部
錦州
●バスキラハマット製紙会社(バニュワンギ)
科学技術応用評価庁
●
'96年度∼'98年度
インドネシア
中華人民共和国
●錦州熱電総公司
(遼寧省)
国家計画委員会・錦州市計画委員会
'96年度∼'99年度
中華人民共和国
●浙江虎覇集団公司
(浙江省)
国家計画委員会・浙江省計画・経済委員会
'97年度∼'99年度
タイ
●インドラマ化学会社
(サラブリ県)
産業省工場局
'97年度∼'01年度
中華人民共和国
●遼源市熱力能源公司
(吉林省)
国家計画委員会・遼源市計画委員会
◆ 燃焼前のクリーン化
中華人民共和国
●臨沂鉱務局湯庄炭鉱
(山東省)
国家計画委員会・煤炭工業部
インドネシア
●タンジュンエニム炭鉱(タンジュンエニム)
鉱山エネルギー省鉱山総局
インドネシア
● PT・アラス・ウィラタマ・
ブリケット会社
(チレボン)
鉱山エネルギー省・
アラス・ウィラタマ・ブリケット社
'97年度∼'99年度
タイ
●タイ電力公社
(ランパン県)
工業省工場局
'98年度∼'02年度
フィリピン
●フィルシステムズ社(セブ島)
貿易産業局
省水型選炭システム
'94年度∼'97年度
中華人民共和国
国家計画委員会・煤炭工業部
国家計画委員会・煤炭工業部 脱硫型CWM設備
'95年度∼'98年度
中華人民共和国
●淮南鉱務局望峰崗選煤厰
(安徽省)
● 州鉱務局東灘選煤厰
(山東省)
●燕山石化公司
(北京市)
ブリケット製造設備
'93年度∼'95年度
'96年度∼'98年度
●遼源
●北京
燕山 ●
安陽●
博●
州●
●
● 坊
●臨沂
棗荘
●淮南
●
●重慶
●株洲
浙江
国家計画委員会
●:
(財)石炭利用総合センター実施プロジェクト ●:その他の機関の実施プロジェクト
●南寧
カラカ
●
●ランパン
サムットプラカーン
サラブリ● ●
●セブ島
導入支援事業(モデル事業)
●…簡易脱硫設備
●…コークス炉ガス脱硫設備
●…流動床ボイラ
●…ブリケット
●…脱硫型CWM
共同実証事業
●…省水型選炭システム
●
タンジュンエニム
●
チレボン
14
バニュワンギ
●
第2編 技術概要
石炭資源開発技術
1A1. 石炭資源探査技術
技術概要
1.背景
石炭は我が国の一次エネルギー供給の20%を占め
る重要なエネルギー資源であるが、
その供給の99%
は海外からの輸入に依存している。石炭生産国や生
産ポテンシャルが有望な地域における持続安定的な
石炭資源開発を促進するため、
地質調査や情報解析、
多面的な評価がエネルギー安定供給上重要である。
高密度地層下に賦存する石炭層の分解能向上や
物理検層時に石炭中の灰分・硫黄分を直接推定で
きる技術研究など石炭資源探査技術の高分解能化、
高精度化をすすめている。試錐調査など探査技術を
ベースとして、地域環境とともに地球環境への負荷
新探査システム概念図
軽減も視野に入れた石炭資源の開発計画や生産
計画に直接資する石炭資源の評価が重要である。
2.技術概要
インドネシアでの石炭資源情報解析調査やベトナム石炭共
②ベトナム石炭・鉱物工業グループ(VINACOMIN)
と共同
同探査など海外石炭生産国における石炭資源ポテンシャル
で、ベトナム北部クアンニン炭田の深部探査を行い、坑内採
評価技術の向上を図るとともに、炭鉱メタンガス回収技術,
二
掘、石炭開発を目指している。
酸化炭素炭層固定化技術並びに採掘跡地復元技術など
③モンゴル産業通商省と共同で潜在的な供給ポテンシャル
の地球温暖化防止に係る分野に関しても展開を図っている。
が予想される東ゴビ区域での石炭資源探査を進めている。
(1)資源探査
①インドネシアエネルギー鉱物資源省と共同で、南スマトラ地
域を対象にGIS関連技術導入により、石炭資源データのデ
ジタル化、資源情報データベース構築による石炭資源の総
合評価を進めるとともに、統合ソフトウェア製作を進めている。
15
Clean Coal Technologies in Japan
●石炭資源評価システム
● 地質調査(試錐調査)
最適石炭開発支援システム
インドネシアにおける試錐調査
炭鉱メタンガス回収・利用
16
第2編 技術概要
石炭資源開発技術
1A2. 石炭生産技術
技術概要
石炭は地中に緩傾斜層、急傾斜層若しくは不連続なレンズ
採掘機器は自然条件の変化に対応する機動性が求められる
状に堆積賦存しているが、賦存深度、数、炭層の厚さは地域
と共に、空間上の制約から、大型化での設備容量増大には制
により異なる。炭鉱開発に際し、石炭の品質、賦存深度、炭
約がある。
層厚さ、炭層傾斜、断層褶曲の有無、夾炭層の性状等の地
地表近くに賦存する石炭は、表層を剥土し採掘する露天採掘
質条件や地表の状況により、生産性、資源回収率は大きく影
が採用される。石炭層が、急傾斜や累層である場合は、剥土
響を受け、採用される採掘方法も様々である。坑内採掘は地
を採掘に影響しない場所に集積し、採掘では地表に窪み(凹)
中の石炭層に坑道を掘削して採掘を行う。これらの坑道では
が形成されるオープンピット法が採用される。水平から緩傾斜
機材・人員を運搬し、通気と排水を行うとともに探鉱の目的も
の石炭層では、剥土を採掘場所の横に一時的に置き採掘終
ある。採掘の進展に伴い採掘区域は深部化するが、地圧の
了後は元に戻すストリップマイニング
(サイドキャスティング)法
増大に伴う空間維持、
ガスの湧出、湧水などの問題が生じる。
が採用される。
1.背景
深部化、複雑な地質条件下での採掘など、
アジア太平洋区域
て実施し、安全性と生産性の向上を図ることで、石炭生産国の
の石炭生産国が抱える課題に対応しつつ、安全に且つ生産
安定生産体制の確立と生産能力を向上させて、我が国への石
性を向上させるには、新たな技術対応が必要である。石炭生産
炭の安定供給に資している。また、発展途上石炭生産国にお
国が抱える課題に対応しつつ、我が国で涵養され蓄積してきた
いても、
現地との共同研究を通じて石炭生産技術の向上を図り、
技術を基本とした生産技術に関する研究開発を国内外におい
石炭産業の健全な発展に向けた協力が行われている。
2.開発技術
複雑な地質条件下での採掘など、アジア・太平洋域内の石
代表的な露天掘りの概略
炭生産国が抱える課題に対応しつつ、安全に、更には生産
性を向上させて安定的な供給を確保するためには、新たな技
石炭層
術的対応が必要である。
(1)露天採掘
・ドラッグライン
・パワーショベル+ダンプトラック
・露天採掘の概略
・サイドキャスティング式O/C
サイドキャスト式露天堀
(2)坑内採掘
・ロングウォール採炭
・高出力採炭機
・ハイウォールマイニング
(オーガ採炭)
ドラッグライン
パワーショベル+ダンプトラック
坑内採掘 (立坑櫓)
17
ズリ
Clean Coal Technologies in Japan
●高出力採炭機の開発
硬く厚い石炭層の採掘条件下でも生産能率向上を達成するために、
高出力マルチモータ採炭機の開発を豪州炭鉱で実証した。
高出力採炭機(倣い制御機能)
ロングウォール採炭(SD採炭)
ドラムシアラとシールド枠
●硬岩高出力掘削機の開発
岩石坑道掘進の能率向上を目的として、
ロックボルト打
設機器搭載型の高出力岩盤掘進機を開発した。
ハイウォールマイニング
(傾斜対応型オーガ採炭システム)
坑道掘進用ロードヘッダ MRH-S220型
●高速人車の開発
坑内掘炭鉱の採掘現場の奥部化に伴う現場作業時間の確保対策として、輸送システムの集約化、高効率化、輸送・移動時間の
短縮を実現するために、最高時速50km/h で運行することのできる高速人車を開発した。
高速人車(旧太平洋炭礦)
高速人車(旧池島炭鉱)
18
第2編 技術概要
石炭資源開発技術
1A3. 炭鉱保安技術
技術概要
1.背景
「保安技術開発・移転長期計画」に基づき、重点項目に則っ
て炭鉱保安技術開発を進めるとともに、技術開発の成果をベ
ースに海外との共同研究や技術協力・移転も進展している。
2.開発技術
(1)保安技術の海外適用化
(2)保安技術の共同研究
我が国が保有する保安技術を、発展途上石炭生産国のモデ
国内での技術開発や先進石炭生産国との共同研究により保
ル炭鉱に適用化することで炭鉱災害の減少を図り、保安の向
安技術開発と高度化をすすめ、先進産炭国を含む石炭生産諸
上と安定生産に貢献している。
国の更なる保安技術水準の向上に寄与する共同研究を実施
①中国では、煤炭科学研究総院を通して、安徽省淮南礦業(集
している。
団)有限責任公司張集礦において、
ガス監視システム導入、方
①落盤の危険性を検知するシステム及び落盤を未然に防止す
向制御(指向性)
ガス抜きボーリング技術によるガス抜きの高
る技術開発等により、坑道や採炭切羽での落盤災害を防止す
効率化、坑内通気解析ソフトウェア導入並びに坑内無線シス
る技術を評価するとともに現場適用化を図っている。システム
テム適用化の4項目を実施し、
ガス爆発災害防止技術の適用
開発のため、北海道釧路炭鉱において長尺ロックボルトの現
化を進めている。
場実証試験を実施するとともに、現場基礎試験として、微振動
②インドネシアでは、
鉱物石炭技術研究開発センター
(TekMIRA)
に伴う固有振動数計測、打撃試験による弾性波計測や音響
を通して、PTBAオンビリン炭鉱に於いて、COや温度などのモニ
特性計測を実施した。また、
ロックボルト打設時の機械量データ
タリング技術、
ガス分析、坑内通気網解析及び炭壁グラウト技
を解析し天盤状況を把握するシステムの研究をすすめている。
術などの自然発火災害防止技術の適用化を進めている。
②総合坑内ガス管理技術の開発のため、採掘進展に伴う応力
③ベトナムでは、
ベトナム石炭・鉱物工業グループ
(VINACOMIN)
変化に基づく、数値解析ソフトウェア「MGF-3D」の改良とモデ
を通して、
マオケー炭鉱等において、水文データ収集・分析、水
ル解析を進め、気液2相解析機能を追加し、解析精度の向上を
理地質モデルを使用した地下水流動解析、先進試錐及び抜
進めている。
水試錐技術、流量計測・揚水システムなど、出水災害防止技
③豪州連邦科学産業研究機構(CSIRO)
との共同研究として、
術の現地適用化を進めている。
坑内保安を確保、安定生産するための高度監視・通信システ
ムを開発し、現場適用化を図っている。更に、災害に繋がるリス
ク
(作業、環境、装置・機器に関するリスク)
をリアルタイムで評
価するためのリスク情報管理の基本システム構築を目指してい
る。また、早期発見技術として世界標準規格の臭気センサーに
関して豪州鉱山安全試験研究局(SIMTARS)
との共同研究
を実施している。釧路炭鉱において、
マンロケーションシステムと
坑内通信システムの現場実証試験を実施した。
19
Clean Coal Technologies in Japan
●集中監視・管理技術
坑内の保安に関する各種計測情報や機械の運転状況等に関する情報(受
発信)
は全て坑外の集中監視制御室のコンピュータで一括管理されている。
集中監視制御室
集中監視コンピュータ
●坑道支保技術(ロックボルト支保)
ロックボルトによる坑道支保技術は、我が国の軟弱な岩盤条件を克服する、
岩盤評価と計測を重視した独自のボルト支保技術である。
データ伝送型天盤変位計
ボルト孔穿孔時の機械量計測による天盤状況の把握技術
データ伝送型天盤変位計
ボルト支保坑道
穿孔
●ガス抜き技術
爆発の危険性のあるメタンガスの坑内湧出防止のために、炭層や払跡からガス抜きを実施し
ている。ガス抜き量や濃度の管理も集中監視を利用して安全に行われている。
ガス抜きボーリング
ガス抜き孔
ガス抜き監視センサ類
20
ガス抜き監視用コンピュータ
第2編 技術概要
石炭資源開発技術
1A4. 資源開発環境技術
技術概要
1.背景
二酸化炭素の炭層固定に関する現場実証試験により我が
に加え、環境的に大きなポテンシャルを有する石炭資源の地
国の石炭層の貯留層特性を調査し二酸化炭素による基礎
下ガス化によるエネルギー回収技術の調査に取り組むとともに、
データを取得した。また、従来の選炭・改質、CMM回収・利用
CDM事業の発掘、事業化に努めた。
2.開発技術
(1)選炭・改質技術
①インドネシアにおいて,
性状の異なる原炭を高効率で選別
することにより,
品質の安定化と環境負荷低減を図っている。
既存選炭工場の改善に必要な設備機器の一部を製作した。
また,
オンライン灰分計を用いたジグ選別機のフィードバック制
御を選炭プロセスに導入するため,
フィードバック制御の適用
性試験調査の結果に基づいて制御ルールを試作した。
②低炭化度炭の有効利用を促進するため,
褐炭埋蔵量の割
浮選機
合が多いインドネシアにおいて,
低品位炭をマイルドな条件に
おいて油スラリー中で脱水し,
撥水性と安定性発現を図る
UBCプロセスの改質プラント
(原炭処理量5トン/日)の試験
運転を実施した。試験プラントの運転により,
性質の異なるイ
ンドネシア炭種を試験するとともに,
運転により得られたデータ
について自然発火性試験、燃焼性評価試験等を行い、改質
炭のハンドリング性、燃焼性が瀝青炭と同等以上の性状を有
することを確認した。
重液サイクロン
排水シックナ
21
Clean Coal Technologies in Japan
(2)地球環境技術
①二酸化炭素CO 2 の大気中への放出を抑制するため,
せて浸透率の改善を図るとともにCO 2ブレークスルーの先
CO2を深部の石炭層内に安定して固定化させる技術開発
行ガスとしてはN 2ガスを利用する。CO 2は石炭層の破砕を
の予備試験を北海道夕張市南部で実施している。平成18
誘発しない最大限圧力で圧入し、900t以上のCO 2圧入を
年度まで現場圧入試験を行い、
メタンガス観測井PW-1に
目指す。また、
ガスの注入性や生産性改善のため石炭層へ
おけるCO2ブレークスルーの達成を目指す。平成15年度に
の水圧破砕を試験することになっている
掘削したIW-1注入井においてCO2吸着膨潤による浸透率
②北海道の国内廃止炭鉱に於いて,
湧出する炭鉱メタンガ
低下が予測されるため、N 2ガスを圧入しCO 2吸着を低減さ
スを安定的に回収利用する技術の現場試験を実施した。
現状
回収・利用
炭鉱メタンガス回収・利用概念図
22
第2編 技術概要
石炭火力発電技術〈燃焼技術〉
2A1. 高効率微粉炭火力発電技術(USC)
技術概要
1.微粉炭火力発電システム
微粉炭火力発電システム(図-1)は、極めて信頼性の高い、
純変圧方式による主蒸気温度600℃、再熱蒸気温度610℃
確立された技術として、広く利用されている。2000年には、電
が採用されている。今後、一層の高度化に向けた課題として、
源開発(株)橘湾1、2号(各1050MW) において600/610℃
「使用石炭種の多様化」、「発電効率の向上」、
「環境性の
向上」、
「負荷運用性の向上」などが考えられている。
が採用され、2002年に運開した電源開発(株)磯子新1号では、
水蒸気
発電機
排煙
微粉炭ボイラ
石炭
微粉炭
G
蒸気タービン
空気
微粉炭機
コンデンサー
圧力(kg/cm2)
蒸気条件
温度(℃)
亜臨界
169
566
超臨界
246
538
超超臨界
325
596
給水ポンプ
石炭灰
図-1 微粉炭火力発電システム(ランキンサイクル)
2.高効率化
発電プラントの熱効率向上は、発電コスト低減という経済性
及び東 北 電力( 株 )原 町2号 機( 1 0 0 0 M W )において、
のみならずCO2発生抑制の観点からも重要な課題であり、特
24.5MPa×600℃/600℃が採用された。さらに、2000年、電
に昨今の大型火力発電プラントの主流である石炭焚きプラン
源開発(株)橘湾1,
2号機(1050MW)において、25.0MPa
トでは蒸気条件の高温高圧化が顕著である。図-2に近年の
×600℃/610℃が採用された。図-3に超臨界圧プラントの
蒸気条件の変遷を示した。
蒸気条件と送電端効率・CO2削減割合の関係を示す。蒸気
1989年中部電力
(株)
川越1号機
(700MW)
にて316kg/cm2g
温度の高温化に伴い耐高温腐食性、耐水蒸気酸化性及び工
(31.0MPa)
×566℃/566℃が採用され、
1993年中部電力
(株)
作性に優れた高強度材料の開発・実用化が電力会社、鋼材メ
碧南3号機(700MW)にて246kg/cm2g(24.1MPa)×538
ーカ及びボイラメーカによって推進されており、650℃級用の高温
℃/593℃と国内で初めて593℃が再熱蒸気温度に採用され
材料については、既に実用化段階にある。更なる高効率化に向
た。その後、1998年中国電力(株)三隅1号機(1000MW)、
けて、700℃級に対応する高温材料等の検討が進められている。
538°
C
610°
C
593°
C
31.0MPa
30
24.1MPa
16.6MPa
400
20
蒸気圧力 MPa
500
蒸気温度 °
C
24.5MPa
蒸気温度
(左目盛)
送電端効率(%LHV)
600
46
0
45
−1
ー2
44
CO2削減割合
43
ー3
効率
ー4
42
蒸気圧力
(右目盛)
300
10
ー5
41
主蒸気温度(°
C)
200
1910
0
1920
1930
1940
1950
1960
1970
1980
538
538
再熱蒸気温度(°
C) 566
593
(Base)
566
600
625
593
600
625
蒸気温度(℃)
1990 2000 2005
図-3 蒸気条件と送電端効率・CO2削減割合
図-2 蒸気条件の変遷 23
CO2削減割合(%)
600°
C
566°
C
Clean Coal Technologies in Japan
3.燃焼技術
わが国の厳しい環境規制や高効率燃焼に対するニーズに
(1)石炭バーナにおける低NOx燃焼
合わせ各種燃焼技術が開発・実用化されている。石炭の燃
最新のバーナでは、大型ボイラメーカ各社で構造は相違するが、
焼に伴い発生するNOxや煤塵は、
その最終排出レベルはボ
着火性向上と火炎内脱硝の両方が図られている。微粉炭流の
イラ下流の排煙処理に依存するが、ボイラ本体排出レベル
濃淡化や燃焼用空気の多層投入を基本としているが、図-4から図-
でも世界で最も低いレベルが達成されている。NOxと煤塵
7に各社のバーナ構造を示す。
は表裏一体であるのでここでは主に低NOx燃焼技術につい
てまとめる。低NOx燃焼技術はバーナでのNOx発生抑制と
炉内全体を使った炉内脱硝に大別される。
図-5 川崎重工製CC型微粉炭焚きバーナ 図-4 三菱重工製微粉炭焚きA-PMバーナ
図-7 バブコック日立製微粉炭焚きNRバーナ
図-6 石川島播磨重工製DFインターベーン微粉炭焚きバーナ
(2)炉内脱硝
炉内脱硝法は主バーナ域で発生したNOxを残存する炭化水
素や主バーナ上部から少量の燃料油を投入して発生させた炭
化水素によって還元するもので二段階の工程からなっている。
第一段階では炭化水素によるNOxの還元を行い、第二段階
で追加投入された空気により未燃分を完全燃焼させる。図-8
にその概念図を示す。
図-8 炉内脱硝法概念図
24
第2編 技術概要
石炭火力発電技術〈燃料技術〉
2A2. 循環型常圧流動床ボイラ(CFBC)
技術概要
1.特徴
循環型常圧流動床ボイラの特徴を以下に示す。
℃と低いため、サーマルNOx(温度依存の発生NOx)の生成量を抑
①幅広い燃料適合性
制できる。また、流動床部での還元燃焼、
フリーボード部での酸化燃
従来型の発電用ボイラが高品位炭や油・ガス等の化石燃料にしか
焼による二段燃焼により低NOx化が図られる。さらに、未燃カーボン
対応できないのに対し、低品位炭やバイオマス、スラッジ、廃プラステ
をボイラ出口に設置された高温サイクロンにより捕捉しボイラに戻す
ィック、廃タイヤなどをも燃料として使用できる。
循環により、脱硝効率を高めている。
②低公害性
③高燃焼効率
NOx、SOxといった環境汚染物質の排出量を、特別な環境設備を
循環流動方式による燃焼時間の向上により、高燃焼効率が得られる。
付加することなく、大幅に減らすことができる。流動床ボイラの場合、
④省スペース・高メンテナンス性
脱硫は主に石灰石を流動媒体として使用した炉内脱硫である。脱
独立した脱硫・脱硝・燃料微粉砕設備を必要としない。そのため、省
硝に関しては、火炉内での燃焼温度が、微粉炭燃焼ボイラの場合
スペースであり、故障発生可能部分が少なくメンテナンスも容易であ
1,400∼1,500℃であるのに対し、循環流動層ボイラでは850∼900
る。
2.技術概要
CFBCの代表的プロセスフローを図-1に示す。
また、熱効率を
発生蒸気
石灰
高温サイクロン
CFBCボイラ本体
上げるために、
石灰石
熱回収部に流
排気ガス
動 用 空 気 、燃
ボイラ給水
サイクロン
器やボイラの給
循環流動床火炉
給水加熱器
焼空気の予熱
二次空気
一次空気
空気予熱機
電気集塵機
熱回収部
IDファン
水加熱器が設
煙突
置されている。
このボイラ技術
灰貯蔵タンク
は、ほとんどが
図-1 CFBC概略プロセスフロー
海 外の技 術で
図-2 CFBC概略構造図
図-2にCFBCの概略構造図を示す。一般的に、ボイラ本体と
あり、
そのメーカ
高温サイクロンによって構成されており、炉内ガス流速は、
4∼
としては、
フォスターウィーラー
(米)、
ルルギ(独)、
シュタインミュ
8m/sと早く、排ガス中の粒径の大きな流動媒体やチャーは高
ラー(独)、
アールストーム(フィンランド)、
バブコック&ウィルコッ
温サイクロンにより捕捉され、ボイラ本体にもどされる。この循
クス
(米)等が有名である。
環により、層高の維持や脱硝効率のアップが行われている。
3.実施場所・利用分野
写真-1にCFBCボイラ設備の概観写真を示す。、 CFBCは、主に石
宇部興産伊佐工場(210t/h)等があり、RDF
炭焚きボイラとして普及してきたが、最近はRDFや木質系バイオマス
焚きボイラでは、サニックス苫小牧がある。また、
を燃料としたものが脚光を浴びてきている。石炭焚きボイラとして 具
バイオマス関係では石炭との混焼がCO2削減
体的には、
クラレ玉島工場(70t/h)、出光興産千葉製油所(300t/h)、
を目的として行われるようになってきている。
4.実施期間
循環型常圧流動床ボイラは、
ほとんどが外国からの技術導入
写真-1 CFBC外観
であり、1986年頃から日本への導入が行われてきた。
5.これまでの経過と今後の課題
石炭焚きボイラとして海外から技術導入され、製鉄会社、製
しては、RDFや産業廃棄物、木質系バイオマスを燃料としたボ
紙会社等で使用されている。そして、GAP(グリーンエイドプラ
イラにおいて、
イニシャルコストの低減、効率の更なる向上が
必要と思われる。
ン)によって中国に対して普及が図られている。今後の課題と
25
Clean Coal Technologies in Japan
2A3. 常圧内部循環型流動床ボイラ(ICFBC)
研究開発者
(財)石炭利用総合センター、
(株)荏原製作所、出光興産(株)
事業の種類
開発期間
石炭生産・利用技術振興補助事業 1987∼1993年
技術概要
1.特徴
③低公害性
ICFBCは、以下に示す基本的機能を有している。
Ⅰ.砂の旋回流により流動層温度が均一。
NOx、SOxといった環境汚染物質の排出量を、特別な環境
Ⅱ.砂の動きが活発なため不燃物の排出が容易。
設備を付加することなく、大幅に減らすことができる。流動床
Ⅲ.流動床からの回収熱量を調節して流動床温度を制御する
ボイラの場合、脱硫は主に炉内脱硫であるが、ICFBCの場合、
ことが可能。
流動部分に伝熱管が設置されていないため、層内伝熱管の
このようなことから以下に示す特徴を有している。
摩耗の問題がないことから、流動媒体には柔らかな石灰石を
①多種燃料への対応
使用する必要がなく、硅砂を使用することができる。そのため
前述のCFBC同様に、高品位炭や油・ガス等の化石燃料だ
炉内脱硫剤としての石灰石は、必要最低限の量を投入する
けでなく、低品位炭やバイオマス、
スラッジ、廃プラスティック、
だけでよい。そして、炭種、使用石灰石、
そして流動床温度に
廃タイヤなどをも燃料として使用できる。
より差はあるが、Ca/sモル比が2程度で、90%近い脱硫率が
②層温制御
得られる。脱硝は、流動床部での還元燃焼、
フリーボード部で
熱回収室の空気流量の変化により総括熱伝達係数がほぼリ
の酸化燃焼による二段燃焼により行われる。さらに、ボイラか
ニアに変化するため、空気流量のコントロールによって熱回
らの未燃カーボンをボイラ出口に設置された高温サイクロンに
収量を容易にコントロールすることができる。また、熱回収量を
より捕捉し、
ボイラに戻す循環により、脱硝効率を高めている。
制御することにより流動床温度を制御することもでき、
しかもそ
④省スペース・高メンテナンス性
れが空気流量の変化だけで行えることから、負荷制御が非常
前述のCFBC同様、独立した脱硫・脱硝・燃料微粉砕設備を
に簡便であることが大きな特徴である。
必要としないため省スペース設置であり、
メンテナンスも容易
である。
2.技術概要
ICFBCの概略図を図-1に示す。流動層内は主燃焼室と熱回
フリーボード部
収室とに傾斜仕切壁で区分し、主燃焼室内の旋回流と主燃
流動床部
焼室と熱回収室の間の循環流を形成している。さらに、ボイラ
出口のサイクロンからの未燃チャーや未反応石灰石をボイラ
に戻す循環流が形成されている。流動媒体は珪砂である。
①主燃焼室内の旋回流については、主燃焼室におけるウィン
熱回収室
ドボックスを3分割し、中央部には少ない風量を入れて弱い流
動床(移動層)
を形成し、両端部からは多量の空気を投入し
て激しい流動床を形成するように構成したものであり、
その結果、
主燃焼室の中央部は緩やかな下降移動層となり、両端から
激しく吹きあげられた流動媒体が中央部で沈降し、再び両端
部で上昇するという旋回流が生じる。
図-1 ICFBC概略図
26
第2編 技術概要
石炭火力発電技術〈燃料技術〉
②主燃焼室と熱回収室の間の循環流については、以下に示
3.実施場所・利用分野
す動きにより形成される。主燃焼室内の両端部にて激しく吹
石炭焚きのICFBCとしては、青島荏原(10t/h)、中国江山(35
きあげてきた流動媒体が傾斜仕切壁の上で一部は熱回収室
t/h)、
日本製紙勿来(104t/h)等がある。産業廃棄物を燃料
側へ反転する。熱回収室は下方から吹きこまれる循環層空気
としたICFBCでは、
トヨタ自動車元町(70t/h)、
ブリジストン栃
によって緩やかな流動床(下降移動層)
を形成しており、結果
木(27t/h)、大昭和製紙富士(62t/h)、
ブリジストン甘木(7.2
として流動媒体は主燃焼室から熱回収室、
そして熱回収室下
t/h)、東北製紙秋田(61.6t/h)等があり、RDFを燃料としたも
部から再び主燃焼室へと循環する。熱回収室内部には伝熱
のでは中外製薬静岡(3.7t/h)がある。ICFBCの概観写真を
管が設けてあることから、
この循環流により主燃焼室内の熱
写真-1に示す。
エネルギーを回収する。
③ボイラ出口のサイクロンからの循環流については、未燃チャ
ーや飛散した流動媒体、
そして未反応石灰石をサイクロン等
で捕集したあとスクリューコンベヤや空気輸送等により主燃焼
室、
あるいは熱回収室に戻すものであり、燃焼効率の向上、
4.実施期間
この内部循環流動床ボイラ(ICFBC)は、1987年に開発に
着手し、1988年から1993年の6ヶ年にわたる通産省石炭利
用技術振興補助事業の「流動床燃焼技術に関する研究」
により多品種石炭用低公害小型高効率流動床ボイラとして
NOxの低減及び脱硫率の向上に極めて効果的である。
開発、実証されたものである。
5.これまでの経過と今後の課題
当初は発熱量の高い産業廃棄物燃焼用として開発されたが、
石炭焚きボイラとしても建設されてきた。石炭資源の多い中
国での生産拠点として、青島にボイラ工場の建設も行われた。
最近では、
日本国内において木質系バイオマスを燃料として
使用する場合も出てきているが、東南アジア等バイオマス資
源及び低品位炭が豊富な地域に普及を図れるように更なる
設備コストの低減を行う必要がある。
写真-1 ICFBCの外観写真
蒸気
ボイラドラム
乾燥石炭
煙突
乾式供給
システム
熱ガス
エア
フィルター ヒーター
石炭バンカー
PICFB
クラシャー
減圧
装置
微粉炭
排気ファン
蒸気
バグ
フィルター
CWP混合装置
石灰石
ガスクーラー
スラリー
供給システム
CWPポンプ
エアーコンプレッサー
CWP:石炭水ペレット
灰
灰冷却パイプ
加圧容器
脱灰装置
ボイラ水
循環ポンプ
空気式灰輸送システム
熱風発生器
図-2 PICFBCシステムフロー図
27
Clean Coal Technologies in Japan
2A4. 加圧内部循環流動床ボイラ(PICFBC)
研究開発者
事業の種類
開発期間
(財)石炭利用総合センター、
(株)荏原製作所
石炭生産・利用技術振興補助事業
1992∼1998年
技術概要
1.概要
基盤となる技術は前項で述べた内部循環流動床燃焼技術
であり、圧力容器内にICFBCを設置したものである。
2.特徴
ICFBCの技術をそのまま適用して加圧型内部循環流動床ボ
の問題が軽減されるので、流動媒体に硅砂を使うことができ、
イラ
(PICFBC)
を構成しており、流動層高を変化させることな
石灰石は炉内脱硫に必要な最小限の量とすることができるた
く負荷制御を行うことが出来、
しかも負荷制御の際に層内伝
め、灰の発生量も抑えられる。さらに、主燃焼室に層内伝熱管
熱管の層上露出がないので燃焼ガスの冷却が避けられるため、
がないため、層内伝熱管による粒子阻害がなく、
アグロメレー
CO2の発生を最小限に抑えることができるとともに、
ガスタービ
ション(溶融媒体の固化)の発生が防止できる。
ン入口温度の維持が容易である。また、層内伝熱管の磨耗
3.技術概要
PICFBCの概略図を図-1に示す。円柱形の圧力容器内に円
混ぜスラリー状で供 給する
柱形のICFBCを設置している。流動媒体にはICFBCと同様
CWP(石炭水ペレット)
ミキシ
に硅砂を使用し、流動層内を主燃焼室と熱回収室とに傾斜
ングシステムの2系統を有して
仕切壁にて区分し、主燃焼室内の旋回流、主燃焼室と熱回
いる。燃焼ガスは、
セラミックス
収室の間の循環流を形成している。図-2に袖ヶ浦で実施した
製高温バグフィルターによって
ホットモデル試験プラントのフローシートを示す。石炭供給設
除塵されるようになっている。
備としては、塊炭で投入できるロックホッパーシステムと、水と
図-1 PICFBC概略図
4.実施場所・利用分野
千葉県袖ヶ浦市中袖の出光興産(株)石炭研究所横の敷
燃料電池発電
地でPICFBCのホットモデル試験を実施した。利用分野として
等使用される水
は、発生蒸気による蒸気タービン発電と燃焼排ガスによるガス
素製造プラント
タービン発電が可能であることから、石炭焚き火力発電所で
として利 用でき
のIGCCが考えられる。写真-1にPICFBC 4MWthのホットモ
る。2003年に昭
デルの据付時の写真を示す。写真-2に廃プラスチック処理
和電工(株)川
量として30t/dの加圧2段ガス化実証試験プラントの外観写真
崎に廃プラスチック処理量195t/dの商用プラントが稼動して
を示す。加圧2段ガス化技術は、石炭からアンモニア合成や、
いる。
写真-1 据付時のPICFBC 写真-2 加圧2段ガス化プラント外観写真
5.実施期間
P1992∼1997年に、ICFBCホットモデル試験を実施。本プロジ
宇部興産(株)
と共同開発し、2000年1月から廃プラスチック処
ェクトは、通産省の石炭利用技術振興補助事業として、
(財)石
理量30t/dプラントでの実証運転を実施し、2001年1月から商用
炭利用総合センターと共同で実施した。加圧2段ガス化技術は、
運転を行ったものである。
6.これまでの経過と今後の課題
石炭焚きのPICFBCとしては、袖ヶ浦でのホットモデル試験ま
いる。加圧系のプラントとして、燃料供給系のロックホッパー
でであるが、
この技術から加圧流動床での熱負荷やロックホッ
システムの信頼性の向上、低温腐食対策等が今後の課題と
パーシステムを応用展開した加圧2段ガス化技術に発展して
して考えられる。
28
第2編 技術概要
石炭火力発電技術〈燃焼技術〉
2A5. 石炭部分燃焼炉技術(CPC)
研究開発者
事業の種類
開発期間
(財)石炭利用総合センター、川崎重工業(株)、川崎製鉄(株)、中部電力(株)、電源開発(株)
石炭生産・利用技術振興補助事業
1984∼1999年(15年間)
技術概要
1.背景と技術の概要
石炭は埋蔵量が豊富であり、産出国が広く世界中に分布して
石炭部分燃焼炉(CPC:Coal Partial Combustor)
は、石炭
いることからその供給安定性が高く今後の重要なエネルギー
と空気を旋回溶融炉の接線方向から高速で吹き込み、高温・
源の一つとして位置づけられている。
しかしながら、油・ガスな
高負荷かつ高還元雰囲気で部分燃焼(ガス化)
させるとともに、
どの燃料と比較し、石炭は多量の灰と窒素分を含み、使用に
石炭中の灰の大部分を溶融、分離、除去した後、生成した燃
当たっては灰による装置のトラブルや大幅なNOx発生量の
料ガスを2次燃焼させるもので、ボイラやガスタービンでの石炭
増加など課題が多い。また、近年地球温暖化問題が国際的
のガス化燃焼により、環境性に優れ、高効率な利用を図ろうと
にクローズアップされており、主要原因物質の一つであるCO2
する技術である。CPCには、常圧の低カロリークリーンガスを
の排出低減技術の開発が急務となっているが、発熱量当た
生成するための常圧CPC技術とその開発技術をベースに加
りのCO2発生量の多い石炭の高効率かつ環境性に優れた
圧化し、
ガスタービンとの組み合わせにより、高効率発電を実
利用技術の開発が世界的に求められている。
現しようとする加圧CPC技術(PCPC)がある。
2.常圧石炭部分燃焼炉技術
ボイラから排出される灰の減容・無害化と難燃性石炭の使用
を目的とした溶融燃焼方式のボイラは、欧米を中心に多数運
転されてきている。
しかしながら、
この溶融燃焼方式は、燃焼
効率が高く、灰を無害な溶融スラグとして回収できるというメリ
ットを持つ反面、高温燃焼であるため、
NOx排出量が多いとい
う欠点があった。
本技術開発では、石炭中の灰の溶融除去と低NOx化を同時
に達成することを目標に、石炭部分燃焼炉(CPC)
システム
の開発に着手した。本システムは、
CPCを直接ボイラ側壁に
取付け、
CPCで生成した可燃性ガスをそのままボイラ火炉に
投入し、空気を加えて完全燃焼を行わせる。
中・小型石炭ボイラとしては油焚き並のコンパクトさを保ったま
図-1 常圧石炭部分燃焼炉(CPC)ボイラ 概念図
ま大幅な低NOx化が可能で、石炭灰を全量溶融スラグとして
回収できるものである。右図に常圧CPCボイラの構造概念図
を示す。
29
Clean Coal Technologies in Japan
3.加圧石炭部分燃焼炉技術
加圧CPC技術は、常圧CPCの開発実績をベースに、
CPCを
CPCパイロットプラントの概略フローを示す。本試験では、
ガス
加圧化、
ガスタービンと組み合わせた複合サイクル発電システ
タービンへの適用が可能な圧力(20ata)
で、実際にCPCを用
ムへの適用を目的としたものである。
いた石炭ガス生成試験を実施し、
その有効性を確認している。
下図に石炭処理量25
t/d
(酸素濃度21%運転時)の加圧
図-2 加圧CPCパイロットプラントの概略フロー
4.今後の課題および実用化の状況
常圧CPC技術については、石炭を対象に灰溶融型低NOxボ
イラとして開発が進められている。また、
ごみガス化溶融炉の
旋回溶融炉や重質油極低NOxボイラの低NOx化技術など
にも適用されている。
加圧CPC技術については、パイロットプラント試験が終了した
段階で、今後の実用化を目指した研究開発が民間ベースで
続けられている。さらにこれらの基盤技術は、バイオマスガス化
ガスタービン発電技術の開発などにも引き継がれている。
写真-1 パイロットプラント全景
30
第2編 技術概要
石炭火力発電技術〈燃焼技術〉
2A6. 加圧流動床燃焼技術(PFBC)
研究開発者
事業の種類
開発期間
(財)石炭利用総合センター、電源開発(株)
石炭生産・利用技術振興補助事業
1989年∼1999年(11年間)
技術概要
1.背景とプロセス概要
(1)加圧流動床複合発電技術の研究開発は電源開発(株) (2)設備概要
の若松石炭利用技術試験所(現若松研究所)において、我
プラント出力71.0MWe
国初の71MWe-PFBCプラントで実施された。この試験設備
加圧流動床燃焼貫流ボイラ
(ABB−IHI製)
は高温・高圧ガスの高性能集塵が可能なセラミックチューブフ
バブリング型加圧流動床、石炭ペースト(70∼75%)供給方式
ィルター
(CTF)
を採用したプラントとしては世界最初のもので
燃焼温度860℃
ある。プロセスフローを図-1に示す。
燃焼空気圧力1MPa
図-1 PFBC実証プラントのプロセスフロー
31
Clean Coal Technologies in Japan
2.開発目標と開発すべき技術
PFBC技術開発目標
PFBC技術開発結果
(1) 加圧流動床燃焼条件を利用した複合発電による高効
(1) 加圧流動床燃焼条件を利用した複合発電による高効
率化(発電端効率43%)
率化により発電端効率約43%を達成
(2) 炉内脱硫によるSOx低減、低燃焼温度(約860℃)によ
(2) 炉内脱硫によるSOx約5ppm,
低燃焼温度(約860℃)
るNOx低減、CTFによる煤塵低減、及び高効率化によ
によるNOx約100ppm,
、CTFによる煤塵1mg/m3N以
るCO2低減等の高度環境特性を有すること。
下を達成した。
(3) 加圧によるボイラのコンパクト化や、脱硫設備が不要な
ことによるプラント設置スペースの低減などが上げられる。
3.開発の進捗状況および成果
平成2年度に設備の詳細設計を開始し、平成4年4月工事着
Phase−2実証試験を実施した。Phase-1の運転時間
工、平成4年10月機器据付開始、平成5年4月試運転開始、
10,981時間及びPhase-2の運転時間5,156時間を含めた累
平成5年9月石炭投入開始、平成6年1月100%負荷達成、平
積運転時間は16,137時間となり、特にPhase-2においては
成6年9月使用前検査合格(2段サイクロンシステム)、平成6
1,508時間の連続運転を達成し、性能及び信頼性の面で貴
年12月使用前検査合格(CTFシステム)
を経て、平成9年12
重なデータ及び知見を得る事ができた。これらの成果は電力3
月までPhase−1実証試験を行った.
その後、灰循環型PFBC
社による商用機建設に展開済みである。
ボイラへの改造を行い、平成10年8月から平成11年12月まで
PFBC開発 スケジュール
年度
項目
1989
1990
1991
1992
1993
着工
併入
1994
1995
1996
基本・詳細設計
1997
1998
中
間
評
価
実証機プラント製作・建設
1999
最
終
評
価
試運転・調整
運転試験
実証試験Phase-1
改
造
改造
改造
実証試験Phase-2
運転試験
4.今後の課題および実用化の見通し
PFBCの特徴は、優れた燃焼性能による難燃・低質、廃棄物
境特性と脱硫装置が不要なことによるプラント設置スペース
などの燃料の多様化、炉内脱硫、触媒あるいは無触媒脱硝と
の低減により都市型立地向きである。これらのシステムの特
の組合せ、
CTFによる高温超精密脱塵により、
SOx10ppm
徴を活かし立地による経済性の追求が今後の課題である。
以下、
NOx10ppm、煤塵濃度1mg/m3N以下が可能である環
●参考文献
山田他:石炭燃焼発電技術日本エネルギー学会誌Volume 82 Number11 November 2003 p822-829
32
第2編 技術概要
石炭火力発電技術〈燃焼技術〉
2A7. 高度加圧流動床燃焼技術(A-PFBC)
研究開発者
事業の種類
開発期間
(財)石炭利用総合センター、電源開発(株)、中部電力(株)、三菱重工業(株)
石炭生産・利用技術振興補助事業
1996∼2002年(7年間)
技術概要
1.概要
地球温暖化ガス削減及び省資源の観点から、石炭利用高効
ン入口温度の上昇(約850℃⇒約1,350℃)
と高温の蒸気回
率発電技術の開発は緊急の課題です。本技術開発(A-PFBC)
収を可能とし、
より高効率な発電(送電端効率約46%[現状
は、PFBC(加圧流動床燃焼)技術を更に発展させたもので、
石炭火力約40%])
を目指して開発を実施した。
(図-1参照)
PFBCに流動床ガス化技術を組合せることにより、
ガスタービ
図-1 A-PFBC 複合発電システムフロー
2.開発目標と開発すべき技術
(1)高効率な発電[送電端効率約46%]
(3)関連技術の成果活用
・ガスタービン入口温度の高温化(約850℃⇒約1,350℃)
・ PFBC技術
・ 高温蒸気の回収(高温脱硫炉の採用により生成ガス冷
・各種石炭ガス化技術
却器での高温蒸気回収)
(2)ガス化条件の緩和[炭素転換率85%程度]
・酸化炉(完全酸化雰囲気)
との組合せにより、部分酸化
炉での100%ガス化
33
Clean Coal Technologies in Japan
3.開発進歩状況および成果
上記システム実用化を目指し小規模のプロセス開発試験
装置(図-3 PDU全景写真参照)
を電源開発(株)若松研
究所(北九州市)内に設置し、平成13年7月よりPDU試験
運転を実施した。平成14年度末までに累計ガス化運転
1,200時間と連続ガス化運転時間190時間を達成した。今
回のPDU試験において、
システム検証である3炉(酸化炉・
部分酸化炉・脱硫炉)連携運転を確認し、各炉の特性を取
得し、
スケールアップに必要なデータを確認することができた。
今後の開発課題としては、パイロット規模によるガスタービン
と組合せた全体システムの検証が上げられる。
(1)プロセス開発試験装置(PDU)試験の概要
[試験の目的]
3炉(図-2参照)の反応特性、運転特性の把握、
プロセスの
検証を行い、
スケールアップデータの取得を行う。
図-2 プロセス開発試験装置(PDU)レイアウト
・3炉連携システムの検証 ・各機器性能確認
(酸化・ガス化・脱硫等)
・基本運転方法の確認 ・各特性把握、
スケールアップデータ取得 他
図-3 PDU全景
A-PFBC開発 スケジュール
年度
項目
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
(1)研究計画・技術検討
(2)基本設計・要素試験・調査
据付完了 設計・製作・据付 (3)PDU試験
(4)
プロセス評価
●参考文献
(財)石炭利用技術センター主催 第13回石炭利用技術会議予講集 A-PFBC
34
試験運転
第2編 技術概要
石炭火力発電技術〈ガス化技術〉
2B1. 噴流層石炭ガス化技術(HYCOL)
研究開発者
HYCOL組合[出光興産(株)、大阪ガス(株)、電源開発(株)、東京ガス(株)、東邦ガス(株)、
(株)
日鉱共石、
(株)
日本製鋼所、
(株)
日立製作所、三井石炭液化(株)]
事業の種類
NEDO委託事業
技術概要
1. 背景とプロセス概要
高温・高圧下で、微粉炭に酸素を反応させ、水素と一酸化炭
(2)
ガス化炉内耐火壁表面に均質なスラグ層を形成し、耐火
素に富む中カロリーのガスを得る噴流層ガス化技術であり、
壁の長寿命化を図るための、
セルフコーティング技術が開発
HYCOLプロセスと呼んでいる。シフト反応により一酸化炭素
されている。
とスチームを二酸化炭素と水素に変換し、
その後分離・精製
(3)多数のバーナに石炭を簡易に、
かつ均等に分配する技
術として、旋回流気流分配器を開発、採用している。
して高純度の水素を得ることが出来る。
ガス
水素は石油精製や化学工業で、
また石炭液化でも利用され、 (4)石炭中の灰分はガス化炉内で溶融し、流下するが、
また、一酸化炭素を含む合成ガスは化学合成原料や燃料電
化炉下部の炉床に設置したスラグ流下孔の他にも孔を開け、
池用燃料、産業用燃料等として広範な用途が期待される。
炉床を貫流する高温ガスの流れを作る。これにより、
スラグ孔
HYCOLプロセスは次のような特徴を有している。
の温度保持が図られ、
スラグの円滑な流下が確保される。
(1)
ドライフィードの一室二段旋回噴流層ガス化炉である。即
(5)
ガスと同伴してガス化炉より出る未反応のチャーについて
ち、
ロックホッパーで加圧した微粉炭は、
ドライな状態で、二段
は、
サイクロン等で分離し、高温・高圧の状態でガス化炉へリ
に設置された各段四本のバーナよりガス化炉の旋回方向に
サイクルし、反応の完結を期す。
吹込まれる。また、上段、下段の酸素/微粉炭比は、個別に
(6)石炭中の灰分は、有害成分の溶出のないスラグとして回
制御される。これらにより高い熱効率が達成され、
かつ高負荷
収される。また、S分、N分はH2S、NH3として容易に回収され
のガス化が可能となる。
るので、環境への負荷が大幅に軽減される。
なお、石炭は灰分の流動点の低いものほど、
また燃料比(固
定炭素/揮発分)の低いものほどガス化し易い。
2. 開発の進捗状況及び成果
3.今後の課題及び実用化の見通し
このパイロットプラントによる研究開発は、
NEDOが上記民間9
この技術を活用し、発電用の石炭ガス化燃料電池複合発電
社で構成するHYCOL組合に委託すると同時に、
ガス化炉や
システム(IGFC)の開発が平成7年より開始された(EAGLE
材料に関する基礎的な研究を民間5社[(株)
日立製作所、バ
プロジェクト)。
ブコック日立(株)、旭硝子(株)、品川白煉瓦(株)、
日本特殊
陶業(株)]に委託して実施した。
プロセスを確立するために、千葉県袖ヶ浦にパイロットプラント
が建設され、1991年(平成3年)
より1994年まで運転研究が
行われた。初期の目標を達成し、世界のトップレベルのガス化
炉技術を確立した。
35
Clean Coal Technologies in Japan
前処理工程
水洗浄工程
ガス化工程
生成ガス焼却工程
ガス化炉
ボ
イ
ラ
ロック
ホッパ
石炭
水洗塔
焼却炉
微粉炭機
排熱ボイラ
分配器
脱硫装置
ロック
ホッパ
エアヒータ
リサイクルガス圧縮機
灰処理工程
図-1 パイロットプラントフロー図
パイロットプラントの仕様と目標性能
石炭処理量
最大50 ton/日
ガス化剤
酸素
ガス化圧力
30 kg/cm 2(G)
ガス化温度
1500 ∼ 1800 ℃
O2 /Coal
0.8 ∼ 0.9 (wt比)
製造ガス量
約91 kNm 3 /日
ガス組成
(設計値)
CO
61%
H2
31%
CO2
3%
炭素転換率
98%以上
冷ガス効率
78 %以上
36
第2編 技術概要
石炭火力発電技術〈ガス化技術〉
2B2. 石炭ガス化複合発電技術(IGCC)
研究開発者
事業の種類
開発期間
(株)クリーンコールパワー研究所(2000年迄は東京電力(株)を幹事会社とする電力各社の共同研究として実施)
噴流床石炭ガス化発電プラント開発
1999∼2009年度
技術概要
1. IGCC実証試験の概要と目的
①発電効率の向上……現状の微粉炭火力に対して、商用
石 炭 ガス 化 複 合 発 電
段階で約2割の送電端効率向上が可能。
(IGCC)
は、石炭をガス化し、
ガスタービン燃料とする高
②環境特性の向上……発電効率の向上により、発電電力
効率発電技術である。日本
量あたりのSOx、NOx、
ばいじんの排出量が低減される。ま
の電力会社は、海外の先行
たCO2の排出原単位は石油火力並となる。
機より高い効率が期待でき
③適用炭種の拡大……既設微粉炭火力では利用し難い低
る勿来パイロッ
トプラント
(PP)
灰融点炭も利用可能となるため、石炭火力発電に利用可
(図-1、乾
方式ガス化炉1,2)
能な炭種が拡大される。
式給炭 酸素富化空気吹き
④灰の有効利用拡大……石炭灰をガラス状の溶融スラグと
加圧二段噴流床式)
を軸と
して排出するため、土木工事用材料などとしての有効利用
したIGCC技術の研究開発
を進めてきた3)。
が期待される。
図-1 勿来PP方式ガス化炉
⑤用水使用量の削減……生成ガスを直接脱硫するため、多
これまでの成果を受け、IGCCの信頼性、運用性、保守性、経
量の用水を使う排煙脱硫装置が不要となり、既設微粉炭
済性などを実証し、石炭焚きIGCCの商用機としての成立性
火力と比べ、用水使用量を大幅に削減できる。
を確認することを目的に、IGCC実証試験が開始された。
IGCCは従来の微粉炭火力に比べ、次のような多くのメリット
を持っている。
2.IGCC実証機の仕様と目標
IGCC実証機の系統図を図-2に、主な仕様と目標値を表-1に、
炉には勿来PP方式ガス化炉を、ガス精製には(Methyl Di-
実証機完成予想図を図-3に示す。IGCC実証機は、商用機
Ethanol Amine)
を用いた湿式ガス精製を、ガスタービンには、
の約1/2規模の250MW(石炭使用量1700t/day)
で、ガス化
出力250MWに対応する1200℃級ガスタービンを採用した。
表-1 IGCC実証機の主な仕様と目標値
出
250MW級
約1,700t/日
力
石炭使用量
方
式
目標熱効率
(LHV)
環境特性
(目標値)
図-2 IGCC実証機の系統図
37
ガ ス 化 炉
ガ ス 精 製
ガスタービン
発
電
端
送
電
端
SOx排出濃度
NOx排出濃度
ばいじん排出濃度
乾式給炭空気吹き加圧二段噴流床
湿式ガス精製(MDEA)+石膏回収
1200℃級
48%
42%
8ppm(O2 16%換算)
5ppm(O2 16%換算)
4mg/m3N(O2 16%換算)
Clean Coal Technologies in Japan
3.IGCC実証試験の実施体制
IGCC実証試験は、電力9社と電源開発(株)
が設立した(株)
クリーンコールパワー研究所(CCP研究所)により推進されて
いる。プロジェクトコストについては、国(経済産業省)
からその
30%にあたる補助を受け、電力9社、電源開発(株)、
(財)電
力中央研究所の11法人が残る70%を分担している
(図-4)。
資源エネルギー庁
補助金 30%
共同研究契約
分担金 70% 電力9社
電源開発
電力中央研究所
研究員
CCP研究所
図-4 実証試験実施体制
図-3 実証機完成予想図
4.工程と進捗状況
表-2に実証試験工程を示す。2006年3月現在、実証機が建
設中で、2007年度下期より約3年に亘る実証機運転試験が
予定されている。
表-2 IGCC実証試験工程
年 度
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
事前検証試験
実証機設計
CCP研究所設立▼
環境アセスメント
実証機建設
実証機運転試験
5.これまでの経緯
実証試験の前段階であるパイロット試験(石炭使用量200t/日)
は、1986∼1996年度に、電力9社、電源開発(株)
および(財)
電力中央研究所が、NEDOの委託事業として福島県いわき
市の常磐共同火力(株)勿来発電所構内(図-5)
で実施され、
789時間連続運転試験を含む4770時間の試験運転により、
IGCC技術の成立性が検証された3)。
本実証試験は、
この成功を受け、NEDOが実施したFSで選
定された最適システムを反映したものであり、種々の検討の結
果、再び常磐共同火力(株)勿来発電所構内のパイロット試
験実施場所で試験されることとなった。
図-5 パイロット試験実施場所・実証試験予定地(福島いわき市)
●参考文献
1)Shozo Kaneko,et.al.,”250MW AIR BLOWN IGCC DEMONSTRATION PLANT PROJECT”,
Proceeding of the ICOPE-03(2003),3-163∼167 2)Christopher Higman,Maarten van der Burgt,”Gasification”
(2003),126-128
3)荒木成光,花井義春,日エネ誌,75-9(1996),839-850
38
第2編 技術概要
石炭火力発電技術〈ガス化技術〉
2B3. 多目的石炭ガス製造技術(EAGLE)
研究開発者
事業の種類
開発期間
(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構、電源開発(株)
石炭生産・利用技術振興補助事業、燃料電池用燃料ガス高度精製技術開発
1995∼2006年(12年間予定)
技術概要
1.技術概要
EAGLE(coal Energy Application for Gas, Liquid and
ステムの確立を目指すものである。
Electricity)
は、環境負荷低減、特に地球温暖化ガス発生量
本ガス化炉を適用し、
ガスタービン、蒸気タービン及び燃料電
の低減を図ることを目的として、高効率で合成ガス
(CO+H2)
池を組み合わせることにより、既設火力発電と比較し最大
を製造する事が出来る、最も先進的な、酸素吹き1室2段旋回
30%のCO2排出削減が期待される石炭ガス化燃料電池複合
流ガス化炉をはじめ、化学原料用、水素製造用、合成液体燃
発電(IGFC)
システムを構成することができる。
料用、電力用等幅広い用途への適用が可能な石炭ガス化シ
2.開発目標と開発すべき技術
表- 1 開発目標
EAGLEプロジェクトの開発目標は表-1のとおりである。石炭ガ
項 目
ス化ガスを燃料電池発電や合成燃料・水素・化学肥料製造用
に適用する場合、
ガス中に含まれる硫黄化合物などの不純物
石炭ガス化性能
ガス精製性能
硫黄化合物 1ppm以下
ハロゲン化合物 1ppm以下
アンモニア 1ppm以下
ばいじん 1mg/m3N
その他全般
連続運転 1,000時間以上
5炭種以上のガス化データの取得
スケールアップデータの取得
が燃料電池及び反応器触媒を被毒し、性能低下の原因となる
ので、燃料電池、触媒の要求する精製レベルに合わせた目標を
設定した。特に燃料電池の被毒物質(ハロゲン等)の影響に
ついては、世界的に見ても報告例が少なく、米国エネルギー省
及びMCFC組合等の報告を参考に、
目標レベルを設定した。
開 発 目 標
カーボン転換率 98%以上
冷ガス効率 78%以上
生成ガス発熱量(高位) 10,000kJ/m3N以上
3.パイロット試験設備
本プロジェクトでは、電源開発(株)若松研究所構内に石炭処
主要設備の仕様を示す。試験設備は、石炭前処理設備、石炭
理量150t/d規模のパイロット試験設備を設置し、運転研究を
ガス化設備、空気分離設備、
ガス精製設備、排水処理設備、生
行っている。図-1にパイロット試験設備の概略フローを、表-2に
成ガス燃焼設備及びガスタービン設備他で構成されている。
表- 2 主要設備の仕様
項 目
石炭ガス化炉型式
図-1 EAGLE150
t/dパイロットプラント系統図
39
仕様
酸素吹き1室2段旋回型噴流床炉
石炭処理量
150t/d(6.3t/h)
ガス化温度
1,200∼1,600℃
ガス化圧力
2.5MPa
ガス精製設備方式
湿式化学吸収法
吸収液
メタルジエタノールアミン(MDEA)
処理量
約14,800m3N/h
S分回収方式
湿式石灰石石膏法
空気分離設備方式
加圧深冷分離法
原料空気圧力
1.09MPa
原料空気処理量
約27,500m3N/h
酸素製造量
約4.600m3N/h
酸素純度
95%
ガスタービン型式
開放単純サイクル1軸型
出力
8,000kW
Clean Coal Technologies in Japan
4.工程と進捗状況
本プロジェクトは新エネルギー産業技
表-3 研究目標達成状況
最終目標
術総合開発機構、電源開発株式会
実 績
ガス発電量
10,000kJ/m3N以上
10,100kJ/m3N以上
カーボン転換率
98%以上
99%以上
発株式会社技術開発センター若松
冷ガス効率
78%以上
78%以上
研究所構内にパイロットプラント
(150t/
硫黄化合物
1ppm以下
N.D(<1ppm以下)
アンモニア
1ppm以下
1ppm
(※1)
ハロゲン化合物
1ppm以下
1ppm以下
ばいじん
1mg/m3N
1mg/m3N以下(※2)
社が共同で進めており、現在、電源開
d)
を建設し
(写真-1)、運転研究が進
石炭ガス化性能
ガス精製性能
められている。
・石炭処理量 150t/day確認 [※1:吸収塔出口 ※2:第2水洗塔出口]
EAGLE開発スケジュール
年度
項目
1995
年度
1996
年度
1997
年度
1998
年度
1999
年度
2000
年度
2001
年度
2002
年度
2003
年度
2004
年度
2005
年度
2006
年度
F/S
概念/詳細設計
製作・建設
運転研究
5.今後の予定
主要な開発項目としては、多炭種対応、
スケールアップデータ
極の発電システムである。また、酸素吹き石炭ガス化炉である
取得、経済性向上を目指した高度化対応、
システム検証等が
EAGLEから得られる石炭ガス化ガスは、
COとH2以外の成分(N2
計画されており、開発目標の早期達成を目指して進められて
等)の比率が非常に少ないため、液体燃料や化学原料等を
いる。EAGLEは、
ガスタービン発電設備及び蒸気タービン発
効率よく製造することが可能である。
電設備との組合せによる石炭ガス化複合発電システム
(IGCC)
、
米国では石炭を燃料とし水素を製造し、水素ガスタービン発
更には燃料電池を組込んだ究極のトリプルコンバインドサイク
電や燃料電池発電システムとCO2分離回収・隔離を組み合
ルである石炭ガス化燃料電池複合発電システム(IGFC)に
わせたプロジェクトも提案されている。EAGLE技術は、今後予
活用できる。IGFCでは、従来の微粉炭火力に比べて飛躍的
想される水素社会へ向けた時代の要請にも応えられる技術と
な効率向上が見込まれ、
その送電端効率は55%を超える究
して期待されている。
写真-1 パイロット試験設備外観
図-2 石炭ガス化燃料電池複合発電システム
●参考文献
1)外岡正夫:石炭ガス化技術(Ⅱ)−燃料電池用石炭ガス化製造技術(EAGLE)−日本
エネルギー学会誌Volume 82 Number 11 November 2003 p836−840
40
第2編 技術概要
石炭火力発電技術〈ガス化技術〉
2B4. 石炭ガス化燃料電池複合発電技術(IGFC)
技術概要
1.IGFCのプロセスフロー
石炭ガス化燃料電池複合発電システム(IGFC)
は、石炭をガ
込まれる高効率発電技術です。
IGFCの商用化には安価で高
ス化することにより燃料電池、
ガスタービン、蒸気タービンの3
効率な燃料電池の開発など、
まだ乗り越えるべき課題はたくさ
種の発電形態を組み合わせてトリプル複合発電を行なうもの
んありますが、将来の石炭火力発電技術として期待されていま
です。実現すれば55%以上の送電端効率が可能となり、
CO2
す。
(図-1)
排出量も既存微粉炭火力に比べて約30%低減することが見
石炭
石炭ガス化炉
送電端効率: 55%
CO2削減 : 30%
脱硫塔
石膏回収装置
水洗塔
シン ガス
クーラ
石膏
再生塔
GGH
COS転換器
フィルター
AC
DC
FC
スラグ
廃水処理装置
排熱回収ボイラー
燃焼タービン
煙突
蒸気タービン
精留塔
復水器
図-1 IGFCプロセスフロー
2.燃料電池の種類と特長
水素と酸素を電気化学的に反応させて直接発電する燃料電
池(PAFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)、固体酸化
池は、
その高効率と優れた環境特性から脚光を浴びている。
物形燃料電池(SOFC)、固体高分子形燃料電池(PEFC)
その種類は、電解質に用いる材料によって、
りん酸形燃料電
等に分類される。
種類
りん酸形(PAFC)
溶融炭酸塩形(MCFC)
固体酸化物形(SOFC)
固体高分子形(PEFC)
電解質
Li/Na系炭酸塩
安定化ジルコニア
イオン導電種
りん酸水溶液
H+
固体高分子膜
H+
運転温度
約200℃
約650∼700℃
2−
2−
CO3
O
900∼1000℃
70∼90℃
発電効率(HHV)
35%∼42%
45%∼60%
45%∼65%
30%∼40%
原燃料
天然ガス、
メタノール、ナフサ
天然ガス、
メタノール、ナフサ、石炭
天然ガス、
メタノール、ナフサ、石炭
天然ガス、
メタノール、ナフサ
適用
コジェネ・分散配置型電気事業用
コジェネ・分散配置型電気事業用
火力発電代替用
コジェネ・分散配置型電気事業用
火力発電代替用
コジェネ・可搬電源、自動車用
燃料電池の中でMCFC、SOFCは作動温度が高く、
(1)
ガス
発電方式とは異なり、
ダイレクトに電気エネルギーが取り出せる
タービンとの組合せが可能であること、
(2)石炭ガスの利用が
ため、
ロスが低く、高い発電効率を得ることができます。
出来ることから、高効率の次世代大型発電所対応技術として
SOFCは、
イオン伝導性のセラミックスで構成され、化学反応の
期待されています。
際に900∼1,000℃という高温の熱が発生するため、
ガスタービ
SOFCによる発電は、
ガス化した燃料から取り出した水素と空
ン複合発電を行うことで、他の燃料電池より高い発電効率を得
気中の酸素を電気化学反応させて、水の電気分解とは逆の
ることができます。燃料としては石炭ガス化ガスをはじめ、LNGや
反応で電気を生み出す仕組みである。
メタノール、バイオガスなども使用することができます。
燃料を燃やして発生する熱を電気エネルギーに変換する従来の
41
Clean Coal Technologies in Japan
2B5. 次世代高効率石炭ガス化発電プロセス(A-IGCC/A-IGFC)
技術概要
1.エクセルギー再生技術による次世代IGCC/IGFC
現在我が国で開発が進められている石炭ガス化複合発電
である水蒸気改質ガス化炉にガスタービンあるいは燃料電池
(IGCC)
は乾式ガスクリーニングで48%、IGFCでも55%と、
の 排 熱をリサイクルするエクセルギー再 生 型 の 次 世 代
発電効率は天然ガス炊きIGCC/IGFCに比べて7-8%低く
IGCC/IGFCであり、現在、
この技術開発が進められています。
なっている。我が国にとって安定供給が可能な石炭をより高
エクセルギー再生によって、1700℃級ガスタービンを使用した
効率に利用する技術を開発していくことが重要である。
場合のA-IGCCでは57%、燃料電池を使用したA-IGFCでは
A-IGCC/A-IGFCは、部分酸化ガス化炉と燃料電池、
ガスタ
65%もの高い発電効率が期待され、
システムの飛躍的な高
ービン、蒸気タービンをカスケード的にインテグレーションさせ
効率化により将来のエネルギー資源の確保とCO2の低減を
た従来のカスケード利用型IGCC/IGFCに対して、吸熱反応
図ることが可能な技術として期待されている。
65
表-1 従来型IGCCとA-IGCCの比較
A-IGCC/IGFC
複合化方式
カスケード式
エクセルギー再生型
ガス化方式
高温部分酸化
(1100-1500℃)
水蒸気改質
(700-1000℃)
ガス化炉
噴流層
発電効率
46-48% (55%)
60
送電端効率[%]
従来型 IGCC/IGFC
A-IGFC
∼65%
高濃度高速循環流動層
(multi-loop high density CFB)
53-57% (65%)
A-IGCC
1700℃級 GT
57%
A-IGCC
1500℃級 GT
53%
55
IGCC
1500℃級 GT
湿式ガスクリーニング
50
46%
IGCC 実証機
1200℃ 級GT
IGCC
乾式ガスクリーニング
45
1500℃ 級GT
40.5%
乾式ガスクリーニング
48%
40
2000
2010
実用化年度
IGFC
55%
A-PFBC
1300℃級 GT
46%
2020
2030
図-1 A-IGCC/IGFCの効率の見通し
2.A-IGFCの概要
図-2にA-IGFCの基本プロセスフローを示す。
ためである。これに対して、
エクセルギー再生技術に基づいて、
従来のエネルギーカスケード利用型IGFCは、
ガス化炉、燃
燃料電池において発生する高温の排熱をガス化炉にリサイク
料電池、
ガスタービン、蒸気タービンをカスケード的に組み合
ルし、吸熱反応である水蒸気改質ガス化によってガス化する
わせている。ガス化炉で製造された水素リッチガスは、
ガスク
エクセルギー再生型IGFCでは、大幅な効率の改善が期待で
リーニングにより精製され燃料電池に送られる。燃料電池で
きる。これは、
エクセルギー損失が小さな燃料電池の排熱をリ
利用されなかった燃料はガスタービンに送られ、
ガスタービン
サイクルして、吸熱反応である水蒸気改質ガス化に用いるこ
により発電する。このとき燃料利用率は低いため、
ガスター
とで、冷ガス効率が大きく向上するとともに、燃焼によるエクセ
ビン入り口温度は1100℃程度であり、送電端効率は55%に
ルギー損失を大幅に低減できるからである。
留まっている。これは石炭の冷ガス効率が80%程度と低い
A-IGFC
効率:64.5%( 所内率約5%として、60%)
SOFCの燃料利用率75%、効率40%で計算
燃料電池
発電設備
CO2 : 63.5 kg/s,
H2 : 6.4 kg/s,
H2 O : 6.2 kg/s
石炭ガス化炉
179.9 MJ/s
P=1.0 MPa, T=1000
273.9 MJ/s
1000
1332.2
No.2
147.6
ガス
MJ/s
タービン
454.3
103.1
MJ/s
5.55 kPa
48
No.1
ガスタービン MJ/s
超々臨界
微粉炭火力
(USC)
coal:23kg/s
( 667MJ/s)
steam:53 kg/s
700
ガスタービン
(GT)
USC
ACC
closed
GTCC
水素
タービン
IGCC
(O2 blow)
ガス化炉
204.3
MJ/s
IGHAT
IGCC/IGHAT
(coproduction)
A-IGCC
IGCC
(air blow)
燃料電池
(FC)
13.0
MJ/s
ACC
AHAT
5 MPa
727.8
20 MPa
400
53kg/s
USC
3 MPa
蒸気タービン
PFBC
IGFC
A-PFBC
2000
2010
2020
図-3 高効率発電技術連関図
図-2 A-IGFCの基本プロセスフロー
42
A-IGFC
FC
combined
2030
ゼ
ロ
エ
ミ
ッ
シ
ョ
ン
高
効
率
発
電
シ
ス
テ
ム
第2編 技術概要
製鉄・一般産業技術〈製鉄技術〉
3A1. 成形コークス製造技術
研究開発者
開発期間
(財)石炭利用総合センター、
(社)
日本鉄鋼連盟
1978∼1986年度(9年間)
技術概要
1.概要
3.研究成果
連続式成形コークス製造法は、非粘結炭を主原料として結合
①非粘結炭100%での成形コークス製造
材(バインダー)
を用いて成形炭を作り、
これを堅形炉でその
パイロットプラントでは、
通常非粘結炭70%、
粘結炭30%の配
形状のまま乾留しコークスとする方法。
合により操業を行ったが、
非粘結炭100%配合の操業にも成功。
②安定操業技術およびエンジニアリング技術の確立
2.特徴
設備能力200t/日での長期運転を行うと共に、設計能力の1.5
連続式成形コークス製造法は、原料の処理、成形、成形炭の
倍にあたる300t/日の生産も達成。また、熱原単位としては
乾留および冷却の一連の工程から成り立っており、特に乾留、
320Mcal/t-成形炭を達成。
冷却はクローズドシステムの堅形炉で従来の室炉法に比べ、
③大型高炉における長期連続使用試験
作業環境、労働生産性、停止・起動の容易さ、所要スペース
実大型高炉において、
74日間にわたり、通常20%、
最高30%の
の面等で数多くの優れた特徴を有している。
配合により長期の連続使用試験を行った結果、成形コークス
は室炉コークスと同様に使用できることを確認。
4.研究開発経緯
研究開発経緯図
年 度
1978
1979
1980
1981
1982
1983
1984
1985
要素研究
建 設
パイロットプラント試験
試験操業
43
1986
Clean Coal Technologies in Japan
連続式成形コークス製造フロー
非粘結炭
粘結炭
乾留工程
成形炭は乾留炉⑤に装入され低温乾留ゾーンを経て、高
温乾留ゾーン⑦で1000℃まで加熱、乾留されます。そ
の間つぶれ、ふくれや収縮による割れがないように加熱
①乾燥
速度を制御します。乾留されたコークスは、冷却ゾーンで
炉の最下部から常温で吹き込まれたガスによって100℃
②粉砕
以下に冷却され排出されます。
バインダー
成形工程
原 料 は 、非 粘 結 炭 を 主 原 料
③混練
(60∼80%)とし、水分2∼
発生ガス
3%に乾燥①し、
これを粉砕②
します。石炭にタール等の結
合材(バインダー)を加え混練③、
炉頂からのコークス炉ガス(300-350℃)は、プレクー
④成形
ラー⑨、プライマリークーラー⑩で冷却され、⑪でタール
成形④し、
成形炭が得られます。
ミスト除去後大半のガスは循環使用されます。余剰分は
系外に技き出され精製・脱硫後、高力ロリークリーン燃料
成形炭
(3800kcal/Nm3)として使用されます。
⑨プレクーラー
⑤乾留炉
⑩プライマリークーラー
⑪電気集塵機
(発生ガス)
主排風機
⑥低温乾留ゾーン
安 水 ⑫デカンター
タール
⑦高温乾留ゾーン
副産物
⑧冷却ゾーン
⑬高温ガス加熱炉
⑮エジェクター
⑭低温ガス加熱炉
ガス中の液体はデカンター⑫
に導かれタールと安水が沈降
分離され、それぞれ既設プラ
ントヘ送られ処理されます。
処理後、タールは、成形炭用の
バインダーとして再利用され
ます。
ガス循環
成形コークス
電気集塵機でタールミスト除去後のガスは高温ガス加熱炉⑬で約
1000℃に加熱されて高温乾留ゾーン⑦に吹き込まれます。又低温ガ
ス加熱炉⑭で450℃に加熱されたガスは⑮エジェクターを駆動し、
コ
ークス冷却に用いた高温ガスを吸引し、約600℃で低温乾留ゾーン⑥
に吹き込まれます。
44
第2編 技術概要
製鉄・一般産業技術〈製鉄技術〉
3A2. 高炉微粉炭吹込み技術(PCI)
研究開発者
開発期間
新日本製鐵(株)ほか高炉製鉄メーカー各社
1981年より順次、国内各高炉に導入
技術概要
1.背景とプロセス概要
我が国での高炉微粉炭吹込み操業は、1981年に新日鐵大
④石炭の乾燥、粉砕、捕集は、高炉安定操業のため2系列の
分1高炉で開始された。高炉の主たる還元材はコークスであ
並列システムとする。
るが、1960年代以降の高炉操業では、羽口から重油を補助
⑤搬送空気の流速設定や設備の耐圧に関しては火災や爆
燃料として吹込むことにより高生産性、高効率化、大型化が
発に対する安全性に配慮する。
促進されてきた。
しかし、二度にわたるオイルショックの後は、
サイクロン
重油価格の高騰のため還元材をコークスのみに依存するオ
原料炭バンカー
ールコークス操業への移行が余儀なくされたものの、重油に
ホッパー
代わる安価な補助燃料の導入が高炉のコスト低減や安定操
業のために切望されていた。
貯蔵タンク
ファン
大分1高炉では、国内の1号機としてARMCO方式の微粉炭
吹込みシステムが導入された(図-1)。この方式の特徴は、以
分配器
フィーダー
下のとおりである。
1
2
フィードタンク
①高圧圧送、吹込みラインに機械的回転部が無く、損耗、故
障トラブルが回避できる。
3
輸送ライン
エアーヒーター 粉砕器
高炉
粉体供給装置
N2 コンプレッサー
②使用される気体は信頼性を確保するため循環使用しない。
③微粉炭の羽口分配は、流体の幾何学的対称流れの特性
エアーコンプレッサー
図-1 大分1高炉の微粉炭吹込み設備
を活用して均一分配を行う。
2.開発目標と開発すべき課題
海外で実績のある技術の導入ではあったが、設備構成、設備
③実炉1本羽口吹込み試験:実炉羽口前での燃焼性評価、
規模、操業条件の違いを踏まえ、以下の点を中心に試験・検
炉内コークス採取・評価。
討を行い、設計に反映させた。①微粉炭燃焼試験:微粉炭の
④微粉炭円周分配バランス:実機サイズ模型による粉体流
銘柄、粒度、送風温度、圧力、酸素富化条件などの影響評価。
れ特性の把握、分配精度の測定。
②石炭処理、搬送、制御に関するモデルプラント試験(1t/h規模)
3.開発の進捗状況および成果
大分1高炉における1号機の能力は、増産期の重油吹込みレ
大分1高炉での成功以降、国内では、1982年に合同製鐵で
ベルやそれまでの長期実績レベルを考慮し、80kg/tと設定し、
の独自開発方式がスタートし、次いで米国Petrocarb技術を
25t/hの能力のミルを2系列設置した。スタート後の設備稼働、
導入した神戸製鋼所が1983年にKobelco方式を加古川2高
吹込み操業は順調に推移し、安定生産体制が構築された。
炉、神戸3高炉に設置し、1984年には新日鐵名古屋1高炉、
45
Clean Coal Technologies in Japan
日新製鋼呉2高炉にARMCO方式が実機化された。1986年
550
200
には国内高炉の50%の16基、1996年には25基、1998年に
され、国内平均の微粉炭比も130kg/tレベルに達した
(図-2)。
表-1に高炉微粉炭設備の各種吹込み方式を示す。また、微
粉炭吹込み操業下での高炉の代表的操業指標の国内の最
高水準を表-2に示す。
150
コークス割合
500
微粉炭割合
100
450
50
400
コークス割合(kg/t-pig)
微粉炭割合(kg/t-pig), PCI高炉数
は国内で稼動する全ての高炉に微粉炭吹込み設備が装備
PCI高炉数
0
1980
350
2000
(年)
1990
図-2 我が国における高炉微粉炭吹込みの普及
表-1 高炉微粉炭吹込み設備の方式
方式名
分配/配送方式
支管流量制度
適用
気送濃度
流速
低
高
低
高
同上(Up take)
JFE(川鉄)
中
高
低
同上・流量計
Thyssen
大
旧PW
中
低
ロータリーバルグ
Dunkerque
中
Simon Macawber
低
高
スラリーポンプ
Scunthorpe
大
低
高
等圧損配管均等分配
新日鐵、Hoogovers
小
高
低
紋加圧損配管均等分配
Sidmar、Solac Fod
小
高
低
同上
Dunkerque、Taranto
小
低
低
住金
中
Petrocarb
デンカ
フィードタンクから
直接配管による各羽口への
Kuettner
気送方式
ARMCO
新PM
Klockner
住金
フィードタンクから
メインパイプ経由で
分配器に送り、
各羽口へ気送する方式
キャリヤーガス圧・量
(Down take)
National Steel
神鋼、JFE(NKK)
ロータリーフィーダ+等圧損
分配
設備費
中
表-2 高炉微粉炭吹込み操業における国内最高水準操業指標
年・月
製鉄所・高炉
微粉炭比
kg/t
コークス比
kg/t
還元材比
kg/t
出鉄比
t/d/m3
最大微粉炭比(PCR)
98.6
福山・3高炉
266
289
555
1.84
最低コークス比(CR)
99.3
神戸・3高炉
214
288
502
2.06
最低還元材比(RAR)
94.3
大分・1高炉
122
342
464
1.95
最大出鉄比
97.1
名古屋・1高炉
137
350
487
2.63
4.今後の課題および実用化の見通し
国内でのコークス炉の平均稼動年数が30年前後にまで達し
高炉羽口からの廃プラスチックやバイオマスなどの還元材や
ている今日、高炉の補助燃料としての微粉炭吹込み技術の
還元鉱石などとの複合吹込みを可能とする高炉に変革させる
重要性はますます増加してきている。また、粘結炭に依存する
可能性を含んでおり、資源、
エネルギー、CO2問題に対応する
コークスに対して弾力的に石炭資源に対応できる点からも微
高炉の中核的技術として発展してゆくことが期待される。
粉炭吹込みへの期待は大きい。今後の微粉炭吹込み技術は、
●参考文献
和栗眞次郎:ふぇらむ、vol.8(2003),371
46
第2編 技術概要
製鉄・一般産業技術〈製鉄技術〉
3A3. 石炭直接利用溶融還元製鉄技術(DIOS)
研究開発者
開発期間
(財)石炭利用総合センター、
(社)
日本鉄鋼連盟
1988∼1995年度(8年間)
技術概要
1.概要
3.研究成果
DIOS法は、粉・粒状の非粘結炭、鉄鉱石を高炉法で必要な
高炉法とDIOS法の商業プラントをいずれも臨海地域に新設
コークス法、焼結法によらず直接使用するもの。非粘結炭は
するケースでFSを行った結果、溶銑6,000トン
(年産200万トン)
直接、鉄鉱石は予備還元したのち、溶融還元炉に装入し、溶
のモデルでは高炉法に対して次のとおりDIOS法の可能性を
銑を生産する技術。
得た。
①建設コストは35%低くなる。
2.特徴
②溶銑製造コストは19%低くなる。
①安価原燃料(非粘結炭、製鉄所内ダスト等)の利用可能
③溶銑生産1トン当りの石炭消費は高炉法と同等レベルの
②低操業費
730∼750kgとなる。
③生産変動に柔軟に対応可能
④純消費エネルギーは3∼4%低くなる。
④設備がコンパクトで設備投資額が低い
⑤製鉄プロセスでのCO2排出量は4∼5%削減となる。
⑤高品質鉄源の安定供給可能
⑥石炭エネルギーの有効利用
⑦エネルギーの併産が容易(コージェネレーション)
⑧環境負荷が低い(低SOx、NOx、CO2、煤塵が少なく、
コークス炉ガスの漏れ無し)
4.研究開発経緯
研究開発経緯図
年 度
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
要素研究
建 設
パイロットプラント試験
試験操業
1)要素研究(1988∼1990年度)
②各種原料条件下で、高炉代替可能な高熱効率を達成する
溶融還元炉(SRF)の熱効率向上、予備還元炉(PRF)
と
設備条件および操業条件を把握した。
の連結技術、出銑滓技術およびSRFのスケールアップ等、
③炉体水冷技術の確立をはじめ商用機の概念設計と経済
パイロットプラント建設に必要な要素技術を確立した。
性評価(FS)
を実施し、研究成果に記載した様な対高炉
2)パイロットプラント試験(1993∼1995年度)
優位性を示す設備・操業条件を明確化した。
①粉・粒状鉱石、石炭を直接使用可能なことを確認し、必要
な設備条件を明らかにした。
47
Clean Coal Technologies in Japan
プラント規模 溶銑 500t/日
Plant size
溶融還元炉
Smelting reduction
furnace
予備還元炉
Prereduction
furnace
石炭
Coal
952kg
副原料
Flux
80kg
鉄鉱石
Iron ore
1450kg
高さ 9.3m
内径 3.7mφ
内圧 300kPa(G)以下
高さ 8.0m
内径 2.7mφ
予熱炉
Preheating
furnace
RD 8.7%
2,326Nm3
2,789Mcal(11.7GJ)
RD 8.6%
600℃
予備還元炉
Prereduction
furnace
湿式集塵機
Venturi scubber
RD 27.0%
779℃
O2
608Nm3
RD 27.1%
圧力調整弁
Pressure control value
OD 31.6%
副生ガス
Off-gas
出銑滓設備
Tapping device
溶銑
Molten iron
溶融還元炉
Smelting reduction
furnace
1.9kg/cm2 ・G(290kPa)
24.7t/h
1,540℃
1,000kg
N2 70Nm3
図-1 DIOS パイロットプラントの操業例(溶銑1t 当たりの量)
48
凡例
Legend
OD : ガス酸化度
Oxidation degree
RD : 還元率
Reduction degree
第2編 技術概要
製鉄・一般産業技術〈製鉄技術〉
3A4. 石炭高度転換コークス製造技術(SCOPE21)
研究開発者
事業の種類
開発期間
(財)石炭利用総合センター、
(社)
日本鉄鋼連盟
石炭生産・利用技術振興補助事業
1994∼2003年(10年間)
技術概要
1.背景とプロセス概況
従来、1200℃のコークス炉に対して、
あらかじめ石炭を350℃
SCOPE21プロセスは、図に示すように、現行法のコークス製
で急速加熱(低温乾留)
し、850℃のコークス炉に導入するこ
造工程の流れに従って、石炭急速加熱、高速乾留および中
とで20%の省エネを達成可能とするプロセス。現行のコーク
低温コークス改質の3工程に区分し、各工程の機能を極限ま
ス製造法は、
コークス強度の制約から主として強粘結炭を使
で追求し、
かつ全体的に調和のとれた革新的なプロセスの開
用せざるを得ないという炭種の制約や、
エネルギー多消費構
発を行ったものである。
造および環境問題等多くの課題を抱えている。このため平均
SCOPE21は世界で唯一の新コークスプロセスの大型開発
炉令30年のわが国のコークス炉が更新時期を迎えるに当たり、
プロジェクトであり、実用化が期待されている。
石炭資源の柔軟性に富み、環境対策・省エネルギー、生産性
に優れた革新的次世代コークス製造技術を開発する必要が
ある。そこで新たなコークスプロセスを開発することとなった。
図-1 次世代コークス炉プロセスの概要
2.開発目標と開発すべき技術
(1)非微粘結炭の使用比率を50%まで拡大
(2)生産性を3倍に向上
コークスに不向きで現行では20%程度しか利用できない非微
生産性を現状の3倍に高めることを目標に、炭化室壁の高熱
粘結炭の使用比率を50%まで高めることを目標に、石炭の急
伝導化および通常の乾留温度より低温で窯出し
(中低温乾留)
速加熱技術による粘結性の向上効果と微粉石炭の成形処
することによる乾留時間の大幅短縮、乾留温度不足分はコー
クスの乾式消火設備(CDQ)
で再加熱して品質を確保する。
理による装入石炭の嵩密度向上技術を開発する。
49
Clean Coal Technologies in Japan
(3)NOx30%低減と無煙・無臭・無発塵の達成
(4)省エネルギー20%
プラグ輸送方式による石炭の密閉搬送、
コークスの密閉輸送
装入石炭の高温予熱による乾留開始温度の引き上げ、中低
や炉内圧調整によるコークス炉からのガス漏れ防止により、
コ
温乾留による窯出し温度の低下による乾留熱量の、高生産
ークス製造に伴う発煙、臭気、発塵を徹底的に防止できる。ま
性による設備縮小で発生ガスや燃焼排ガスの顕熱回収が容
た、
コークス炉の燃焼構造改善による低NOx化を図る。
易となることでコークス製造に必要なエネルギーを20%削減す
ることを目標とする。
3.開発の進捗状況および成果
本プロジェクトは
(財)石炭利用総合センターおよび(社)
日本
鉄鋼連盟が共同で、新日本製鐵(株)
・名古屋製鐵所構内
にパイロットプラント
(6t/h)
を建設(写真参照)
し、試験操業を
実施した。
省エネ・経済性評価
SCOPE21プロセスは、革新的な高度技術の集大成と
して構成され、石炭資源の有効利用、高生産性、省エネ
ルギー、高環境対応が達成できる。その結果、現行プロ
セスと比較して大きな経済効果がもたらされる。
【設備費評価:現行炉の設備費合計に対する割合】
乾留炉
事前処理
共通
高環境対応他
合計
現行プロセス
89
ーーー
11
100
SCOPE21
40
25
19
84
写真-1 パイロットプラント全景
[省エネルギー評価]
[製造コスト評価]
100
800
電力
燃料ガス
600
80
CDQ
回収蒸気
▲271
133
400
CDQ
回収蒸気
▲277
21%低減
600
200
18%低減
70
総合
エネルギー
399
460
総合
エネルギー
316
製造コスト
(%)
エネルギー消費量(Mcal/t-coal)
●省エネルギー
事前処理設備での石炭直接加熱化、各部顕熱の熱回収
等による乾留炉の高効率化によって、21%の省エネルギ
ーが可能。
●設備費
石炭事前処理と環境対策の設備費の増加がありますが、
乾留炉の設備費低減が大きく寄与し、16%の設備費低
減が可能。
●コークス製造コスト
石炭事前処理工程での電力・燃料ガスなどの用役費が増
えますが、非微粘結炭の多配合および設備費の低減によ
って、
コークス製造コストは18%削減可能。
変動費
47
変動費
38
60
40
20
固定費
53
固定費
44
0
現行プロセス
SCOPE21
0
現行プロセス
SCOPE21
研究開発経緯図
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
調査研究
要素技術開発
要素組合せ試験
建 設
解体研究
パイロットプラント試験
試験操業
(4)今後の課題および実用化の見通し
コークス炉の炉体補修技術の進展はあるものの老朽化は確
変わりはない。経済情勢にも影響されるが、今後老朽化コー
実に進んでおり、
コークス炉リプレースの必要性、必要時期に
クス炉更新時に導入されると思われる。
●参考文献
1)西岡邦彦ら:第13回石炭利用技術会議講演集p.2-2.1、2003年12月東京
50
第2編 技術概要
製鉄・一般産業技術〈製鉄技術〉
3A5. コークス乾式消火設備技術(CDQ)技術
技術概要
1.概要
●CDQ(Coke Dry Quenching)システムの概要
蒸気を発生させ、除塵器でダストを除去された後、再度チャ
コークス炉は、乾留の熱効率を上げるため薄板状の炭化室を
ンバーに送られて循環利用される。発生した水蒸気は、
プロ
交互に並べたサンドイッチのような形をしている。
セス蒸気や発電用に利用される。
炭化室内の原料は、耐火煉瓦を隔てた両側の燃焼室で高炉
ガスなどを燃焼させた熱により約1100∼1350℃に加熱され、
12∼14時間程度空気を遮断して乾留される。この過程で原
材料中の固定炭素分などは炭化室下部で融着・固結して赤
熱状態のコークスとなり、揮発分は蒸発・分解し気体となって
コークス表面から抜けていき炭化室上部の配管から回収され
る。乾留が終わると、赤熱コークス
(約1,050℃)
は、
コークス炉
から排出されたチャンバーの塔頂に運ばれて投入され、塔内を
降下しながら塔底から吹き込まれる循環ガスと熱交換されて、
約200℃まで冷却された後、塔底から排出される。一方、800℃
以上にまで昇温された循環ガスは、ボイラーで高温高圧の水
CDQ操業データの一例
CDQ設備
数 値
項 目
事業所
対象炉団 コークス処理量
(T/Hr)
*基 蒸気(T/H) 圧力(Kg/cm2) 温度(℃)
会社名
事業所
新日本製鐵
大分
No.1,2
190*1
112.0
95
520
S63.10
大分
No.3,4
180*1
92.5
93
520
S60.8
八幡
No.4,5
175*1
120.0
75
495
S62.2
S60.9
稼動年月
能力
56t/h
投入コークス温度
1000∼1050℃
出口コークス温度
200℃
送風入口温度
170℃
名古屋
No.1,2
106*1
65.0
117
525
送風出口温度
800∼850℃
名古屋
No.3
96*1
65.0
117
525
H7.7
蒸気発生量
25t/h
名古屋
No.4
129*1
71.4
117
525
S57.2
蒸気圧力
40kgf/cm2
君津
No.1,2,3
110*3
60.0
95
520
S57.10-S58.8
蒸気温度
440℃
君津
No.4,5
170*1
108.0
95
520
S63.1
総風量
84000Nm3/h
室蘭
No.5,6
108*1
56.5
64
490
S56.7
No.5
100*1
50.0
52.5
436
S56.4
No.6,7
56*3
30.0
25.0
228
S52.1
S51.9
新日鐵化学
北海製鉄
東日本
JFEスチール
CDQコークス品質の比較
項 目
(千葉)
湿式消火
乾式消火
東日本
No.1
70*5
39.0
20
280
(京浜)
No.2
70*3
39.0
20
280
S54.7
水分(%)
2∼5
0.1∼0.3
灰分(%)
11.35
11.39
揮発分(%)
0.50
0.41
平均粒度(mm)
65
55
13
粉率(カッタ後)
(−15mm%)
気孔率(%)
10
49
83.5
85.5
150
DI 15 (%)
12.9
17.9
小型反応後強度(%)
50
52
100*2
64.9
99.0
330
S58.8-9
(倉敷)
No.5,6
130*1
85.0
99.0
330
S61.1
西日本
No.4
125*1
69.0
105
540
S61.4
(福山)
No.5
200*1
116.5
85
520
H2.2
No.3
185*1
111.7
86
523
H9.1
No.1ABCD
195*1
100.0
105.0
545
S61.3
No.2AB
150*1
65.0
105.0
545
S59.1
No.2CD
130*1
65.0
105.0
545
S56.11
住友金属工業 鹿児島
循環ガスの組成
濃度(%)
No.3,4
48
150
DI 15 (%)
ガ ス
西日本
CO2
CO
H2
N2
10∼15
8∼10
2∼3
70∼75
和歌山
No.6
100*1
60.0
102
540
H6.4
関西熱化学
加古川
No.1,2
140*1
84.0
112.0
556
S62.6
No.3,4
150*1
98.0
112.0
556
H10.10
中山製鉄所
船町
58*1
31.0
65
490
H3.5
51
No.2
Clean Coal Technologies in Japan
2.CDQシステムの特長
コークス炉から押し出された赤熱コークスは散水冷却され、
その冷却に用いた水は水蒸気となり大気
従来方式
中に放散される。赤熱コークスの熱エネルギーは水の蒸発熱として失われ、且つコークス粉塵の飛
散という問題も生じる。
閉鎖系内で循環するガスによって赤熱コークスが冷却されるため、
コークス粉塵の飛散がなく、
かつ、
CDQ
放散されていた赤熱コークスの熱エネルギーがボイラーにて水蒸気として回収され、利用されるため、
化石燃料の使用量が低減でき、CO2排出量が削減され地球温暖化防止にも貢献することになる。
CDQプロセスフロー
3.コークス乾式消火設備(CDQ)の普及
CO2削減量(期待される省エネルギー効果 発生蒸気の回収熱量=604.3Tcal/年)
CDQはエネルギーの有効利用につながる環境にやさしい技術
として、
日本では多くの製鉄所、
コークス炉に設置されている。
シナリオと効果
NEDOのモデル事業の実施により、中国でもCDQの有効性が
CO2排出量
(t・CO2/年)
CDQプロジェクトでのCO2排出量
1,771,569
ベースラインによるCO2排出量
1,908,311
認知され、2000年には中国政府の国家第10次5カ年計画で
普及目標に定められている。
漢方・北京・承徳・杭州の製鉄所等においては、
すでに日本の
予測されたCO2排出削減量
136,742
CDQ設備が導入されている。
4.今後の展開
アジア地域では、今後も粗鋼生産量の増大が見込まれており、
日本の「京都議定書」の目標達成に貢献することができる確
中国やインドにおいて、CDQの普及に向けた努力が行われて
立した技術の一つである。
いる。CDQは京都議定書で定められたCDMプロジェクトとして、
52
第2編 技術概要
製鉄・一般産業技術〈一般産業技術〉
3B1. 流動床セメント焼成キルンシステム(FAKS)
技術概要
1.特徴
流動床セメント焼成キルンシステムは、流動床プロセス固有
の燃焼性能、熱伝達性能、粒子拡散および造粒特性を利用
することにより、低品位炭を効率よく燃焼すること、NOx排出
を顕著に低減すること、
プロセスから排出される物およびガス
からの熱回収効率を向上させること、
これらによりひいては、地
球環境保全、省エネルギーおよび多品種特殊セメント需要に
対応することが可能である。
セメントクリンカ
写真-1 流動層キルンによるクリンカ
写真-2 200t/d スケールアッププラント全景
2.技術概要
流動床セメント焼成キルンシステムは、高品質のセメント焼成
を可能とするため、原料粉を所要の大きさまで造粒しその造粒
サイクロン
物を高温で焼成する造粒焼成炉、および熱回収率を向上さ
せるため、流動層急冷クーラと移動層徐冷クーラを組み合わ
原料
(C2サイクロンより)
せた2段クーラで構成されている。
空気遮断弁
このシステムにおける最も重要な技術は、造粒制御技術であり、
それまでの技術開発が「造粒制御のために、造粒の核となる
FCK:造粒焼成炉
核クリンカを外部から投入し、
その周りに高温の原料粉を付着・
成長させていた」のに対し、世界で初めて「原料粉の1部を造
FBQ:流動層クーラ
微粉炭
PBC:移動層クーラ
粒炉内で凝集させ核として自ら発生させ、
その他の原料粉を
その周りに付着・成長させることにより造粒制御を行おうとす
る=熱間自己造粒」が用いられている。
造粒焼成炉には、
この造粒制御のために原料吹き込み装置、
底部分級排出装置という2つの主要技術が組み込まれている。
セメントクリンカー
図-1 FAKSシステム構成図
53
Clean Coal Technologies in Japan
3.実施場所・利用分野
1)200t/d実証
①実施場所 : 住友大阪セメント
(株)
栃木工場
②利用分野 : セメント製造
③実施期間 : 1996年∼1998年
分級排出装置
流動床セメントキルン
原料
一次分級
二次分級
原料吹き込み装置
2)1,000t/d実証
①実施場所 : 中国山東省溜博市
山東宝山生態建材有限公司
②利用分野 : セメント製造
③実施期間 : 2005年∼2007年
特殊分散板
クリンカー粒子
図-2 造粒焼成炉主要技術構成図
4.実施場所・利用分野
本技術開発は、1984年より川崎重工業(株)
と住友大阪セメ
同で200t/d規模スケールアッププラントの基本計画および設
ント(株)の自主研究によって基礎研究が実施され、
それらの研
計が開始され、1996年2月より、実用化に向けた運転試験に
究成果をベースに1986年より通産省資源エネルギー庁の石
よるシステムの実証を確認して1997年12月末に完了した。
炭生産・利用技術振興補助事業として推進された。1989年
さらに、2005年5月よりNEDOは国際石炭利用対策事業として、
6月、20t/d規模パイロットプラントが、
(財)石炭利用総合セン
中国山東省溜博市山東宝山生態建材有限公司において、
ター、川崎重工業(株)、住友大阪セメント
(株)の3社の共同
1,000t/d規模の流動床セメント焼成キルンシステム共同実
で建設され、パイロットプラント試験が開始された。1993年4月
証事業を開始した。
からは、石炭利用総合センターと社団法人セメント協会が共
5.今後の課題
1,000t/d規模の商業機における従来技術とFAKSの性能比
較を下表に示す。今後、従来技術に替わる革新的なセメント
製造技術として商業機への展開が期待される。
1,000t/d規模におけるロータリキルン方式とFAKS技術の環境改善効果の比較
排出量
NO2
石炭中N分1% O2
10%換算値
電力および石炭によるCO2
排出量(注1)
ロータリーキルン方式
流動床方式
排出量(mg/Nm3)
708
476
341
233
245
220
118x103
108x103
t-clinker/day
1,000
1,000
t-cement/day
1,050
1,050
330
330
3411x103
2993x103
27
36
年間排出量
(t-NO2/year)
排出量(g/Nm3)
年間排出量
(t-CO2/year)
計算根拠
生産能力
年間運転日数
Day/year
熱消費量
kJ/t-clinker
電力消費量
KWh/t-clinker
焼成系排出ガス量
Nm3/kg-clinker
石炭低位発熱量
kJ/kg-coal
1.46
1.49
25,116
25,116
(注1)Based onI
PCC:Guideline for National Greenhouse Gas Inventories, Reference Manual(カーボン排出係数=26.8t-c/TJ, 酸化カーボン分率=0.98)
●参考・引用文献
1)橋本勲,渡辺達也ら, 流動床セメント焼成技術の開発(第9報)第8回石炭利用技術会議, 日本, 1998.9月
54
第2編 技術概要
製鉄・一般産業技術〈一般産業技術〉
3B2. 石炭直接利用金属溶融システム(NSR)
研究開発者
事業の種類
開発期間
(財)石炭利用総合センター、
日本酸素(株)、
日本鋼管(株)
(現 JFE スチール(株))
石炭生産・利用技術振興補助事業
1992∼1997 年(6年間)
技術概要
1.背景
日本国内では、年間約3,000万トンの鉄スクラップがリサイク
セスは、微粉炭を直接酸素で燃焼することによって得られる高
ルされている。これらは、主にアーク炉で大量の電力により溶
温のエネルギーを利用して鉄スクラップ等の金属を溶解する
解されている。アーク炉でのエネルギー効率は、発電・送電効
脱電力溶解技術であり、従来法に比べ大幅なエネルギー効
率などを考慮した一次エネルギー換算で約25%と低く、
よりエ
率の向上を目指して開発したものである。
ネルギー効率の高い溶解プロセスが望まれている。NSRプロ
2.開発スケジュール
本開発は、
(財)石炭利用総合センターと日本酸素(株)およ
配置であり、バッチ式溶解炉から検討を開始し、
これらの成果
び日本鋼管(株)
(現JFE スチール(株))
が共同で実施した。
をベースに、
より高いエネルギー効率を目指して連続溶解炉の
主な開発課題は、高効率溶解のための炉構造およびバーナ
開発を行った。
開発スケジュール
1992
1993
1994
1995
1996
1997
調 査
ベンチスケール(1T/ch)
バッチ炉
パイロットスケール(5T/ch)
連続炉(パイロットスケール6T/h)
3.プロセス概要と成果
図-1に連続溶解炉のプロセス概要を示す。溶解炉は、
それぞ
設置されている。このバーナに供給される酸素は、酸素予熱
れ機能化された溶解部、湯溜部および保持部の三つのゾー
装置により400∼600℃に加熱され、
その高温酸素により微
ンより構成される。それぞれの部位には微粉炭-酸素バーナが
粉炭を燃焼する。
湯溜部 保持部
溶解部
図-1 NSR プロセスフロー
図-2 パイロット設備(6T/h)
55
Clean Coal Technologies in Japan
高温酸素による燃焼により、燃焼速度の遅い微粉炭でも重
溶解エネルギーが削減でき、高いエネルギー効率を達成する
油等の液体燃料と同等の高速・高効率燃焼が可能となる。
ことができた。さらに、
ダスト排出量の大幅削減(微粉炭中の
溶解部はシャフト状であり、炉頂から装入された原料は炉下部
灰分を除く)や炉内雰囲気制御によるダイオキシン発生の大
のバーナ火炎により直接溶解される。溶解された原料は、湯
幅抑制等、環境問題に対しても従来法に比べ極めて優位な
溜部、保持部へと順次流れ込む。湯溜部では溶鋼を保熱し、
結果を得ることができた。
炉内に粉状コークスを吹込み、溶鋼中の炭素濃度をコントロ
ールすることもできる。保持部では溶鋼を一端保持し、約
1600
1600℃まで迅速に昇温し、電炉方式により出鋼する。湯溜部・
1400
溶解エネルギー
(Mcal/T)
コークス
保持部には、炉底より溶鋼撹拌ガスを吹込み火炎から溶鋼へ
の伝熱およびスラグ-メタル反応を促進させる。各部位の燃焼
ガスは、全量溶解部を通過させ、溶解部で原料予熱に利用し
て炉頂より排出される。原料は、炉頂より連続的に供給・溶解
され、保持部での出鋼は間欠的に行うプロセスである。
このプロセスにより酸素バーナの伝熱特性を有効に利用でき、
酸素
1200
1000
800
電力
600
400
微粉炭
200
高効率溶解が可能となる。図-3に本プロセスでの溶解エネル
0
ギーをアーク炉と比較した結果を示す。電力(酸素も電気によ
電炉
(380Wh/T)
り製造されるため積算)は、発電・送電などのロスを含めた一
NSR
図-3 溶解エネルギー比較
次エネルギー換算した。一般的なアーク炉と比較して40%の
4.実用化について
すでに実機スケールの設計を完了しているが、電炉業界の経
であり、電力インフラの影響を受けないという大きな特徴をって
済情勢の悪化にも影響され、現在まで実用化には至っていな
いる。今後、海外も含め、引き続き実用化の可能性を検討し
い。
しかし、本プロセスは世界でも数少ない脱電力溶解技術
ていく。
図-4 実機設備(50T/h)
●参考文献
1)五十嵐 弘、諏訪俊雄、有賀敬記、小林伸明.材料とプロセス.12,(1),135,(1999).
2)五十嵐 弘、小林伸明、中林宏行.日本酸素技報.(19),30-37(2000).
56
第2編 技術概要
多目的石炭利用技術〈液化技術〉
4A1. 日本の石炭液化技術開発
技術概要
1.石炭液化技術開発の背景
石炭は、産業革命以来人類の重要なエネルギー資源として
活用されてきた。1800年代後半、石炭の使用量が、薪や木
炭を上回り石炭が世界の主要なエネルギー源となった。我が
国でもやや遅れて、1900年代に入り、石炭が主要なエネルギ
ー源となった。
しかし、1960年代に入り、
より使用し易いエネル
ギーとして石油が石炭に取って代わることとなり、石炭の存在
感は薄れていった。石炭が再び見直されるのは、1973年及び
1978年の石油危機以降である。石油危機を契機としてエネ
ルギー源の多様化が叫ばれ、石油代替エネルギー開発、特に
石炭の利用技術開発が脚光を浴びることとなった。石炭液
化もこの時期、巨大な資源量を背景に石油代替エネルギー
の最右翼として位置づけられ、世界各国で開発が進められて
きた。
ドイツ及び米国においては、1日石炭処理量が数百トン
規模のパイロットプラントによる研究が行われた。
我が国においても、サンシャイン計画の下、新エネルギー・産
業技術総合開発機構(NEDO)
を中心として我が国独自の
石炭液化技術の開発を行ってきた。
ドイツ及び米国に10年
余りの遅れをとっていたが、着実に開発を進め、平成10年
150t/d規模の瀝青炭液化パイロットプラントによる運転を多
大な成果をもって終了し、
ドイツ及び米国からの遅れを取り戻
すとともに、世界最新鋭の石炭液化技術を確立した。また、中
国及びインドネシア等の産炭国が、石炭液化の実用化に関し
て高い関心を示しており、今後の展開が期待される。
NEDOLプロセス開発の歴史
年度
∼
記事等
液化三法
① ② ③
1980(昭和55)
サンシャイン計画スタート
(昭和49年7月)
液化三法研究スタート
①溶剤抽出法 ②直接水添法 ③ソルボリシス法
1981(昭和56)
NEDO設立(昭和55年10月1日)石炭技術開発室
液化三法継承
1979(昭和54)
1982(昭和57)
1983(昭和58)
1984(昭和59)
1985(昭和60)
1986(昭和61)
250t/d
概念設計
250t/d
設計
1987(昭和62)
1988(昭和63)
1989(平成1)
150t/d
設計
●第1回中間報告(合同審議会報告以下に同じ)
(昭和58年8月)
:液化三法の統合を答申
NEDO PP概念計画に着手(三法及び統合案)
三法統合 NEDOLプロセスの構築 基本構想、
概念設計の作成
・NCOL設立(昭和59年10月1日)
●PDU(住金波崎 1t/d)による
●PSU(新日鐵君津 1t/d)による研究(設計)
スタート
(昭和60年度)
●PSU運転研究スタート
(昭和62年度)
150t/d PPスタート (PP規模縮小:250t/d→150t/d)
1990(平成2)
●総事業費縮減検討(平成3年4月 運営会議で合意)
1991(平成3)
1992(平成4)
建設
1993(平成5)
1994(平成6)
1995(平成7)
1996(平成8)
2.我が国における石炭液化技術開発の歴史
2.1石炭液化技術開発の黎明期
大正末期から昭和初期にかけて、南満州鉄道株式会社では、
Bergius法に基づく石炭液化の基礎研究を開始し、昭和10
年頃にはベンチプラントからPDU(Process Development Unit)
クラスの運転が実施された。この研究に基づき中国撫順炭
鉱に液化油年産2万トンのプラントが建設され、昭和18年まで
運転が行われた。また、昭和13年から18年にかけて、朝鮮人
造 石 油 株 式 会 社が、阿 吾 地 工 場において石 炭 処 理 量
100t/d規模の直接石炭液化プラントの連続運転に成功して
いる。このいずれのプラントも軍の要請により石炭液化油の
生産を中止し、重質油水添あるいはメタノール製造のための
プラントとして利用された。
昭和初期、直接石炭液化法すなわちBergius法とは別に、間
接石炭液化法であるFischer法(合成法)による石炭液化研
究及び合成石油製造も行われた。昭和10年ドイツにおいて
Fischer法が発表されると同時に、
日本に導入され、昭和12年
三池において工場建設が開始され、昭和15年合成油年産3
万トンの石油合成工場が完成した。
戦時下の特殊事情を背景に、人造石油の生産は終戦を迎え
るまで続けられた。
57
1997(平成9)
運転
1998(平成10)
1999(平成11)
2000(平成12)
2001(平成13)
洗浄等
解体研究
撤去
・鹿島事業所開設(平成3年10月1日)
・パイロットプラント起工式(平成3年11月25日)
●NEDO石炭技術開発室→CCTCへ改組(平成4年10月)
●総事業費見直し検討→総事業費明定(平成4年11月)
688億円を設定
ニューサンシャイン計画スタート
(平成5年度)
●第48回石炭転換分科会答申(平成7年3月)
期間延長:研究終了(平成11年3月31日)
・研究センター発足(平成7年6月24日)
・パイロットプラント竣工式(平成8年7月10日)
・石炭装入試運転(平成8年11月26日∼29日、
平成9年2月25日∼27日)
・コールイン RUN-1(平成9年3月26日∼)
・コールイン RUN-7(∼平成10年9月9日)
合計コールイン時間 6,062hrs(除試運転)延べ262日間
最長コールイン連続運転時間 1,921hrs
・運転終了式 平成10年9月29日
・PP運転完了報告会(平成10年12月1日)於 学士会館
・PP運転研究終了(平成12年3月31日)
2.2戦後の石炭液化研究
戦後すぐ、我が国に進駐した米国軍司令部は、軍事研究であ
るとして、石炭液化の研究を禁止した。昭和30年に入り石炭
液化研究は、国立研究所、大学等において再開された。
しかし、
石炭液化油の製造ではなく、石炭の高圧水素化分解による
ケミカルズの製造に関しての研究であり、昭和50年頃まで続
けられた。
第1次石油危機の後、昭和49年サンシャイン計画が発足し、
石油代替エネルギー開発の一環として、
日本独自の石炭液
化技術開発に取り組むこととなった。サンシャイン計画におい
て、瀝青炭液化技術開発としてソルボリシス法、溶剤抽出法、
直接水添法の三法の技術開発が行われてきた。また昭和55
年度来、褐炭液化法についても研究開発が行われたきた。
Clean Coal Technologies in Japan
2.3瀝青炭液化三法の統合
溶剤抽出方式(PDU)
石炭液化技術開発は、石油
NEDOLプロセス
(触媒)
溶
危機を契機として、液体燃料 石炭
剤
液化油
液化反応
分 離
高性能触媒(Fe)
水
添
溶 剤
450℃、150気圧
の大量かつ安定供給、エネ 溶剤
技
水素
石炭
術
ルギーの多様化、石油代替
溶剤水添
液化反応
分 離
液化油
(中質∼やや重質)
Ni-Mo触媒
溶剤
溶 剤
450℃、170気圧
エネルギー開発における我が
水素
直接水添方式(PDU)
国の国際的責務等の意義が
Ni-Mo触媒
高性能触媒(Fe)
高
大であるとして、昭和49年度
性
溶剤水添
能
石炭
(重質)
触
液化反応
分 離
液化油
媒
に発足したサンシャイン計画 溶剤
技
溶 剤
450℃、250気圧
水素
術
水素
に組み入れられ、開発が進め
られた。
[参考]EDSプロセス(米国)
ソルボリシス方式(PDU)
溶
450℃、140気圧
Ni-Mo触媒
Ni-Mo触媒
昭和58年、NEDO(新エネル
剤
石炭
Ni-Mo触媒
石炭
重
液化反応
分 離
溶剤水添
液化油
質
溶解反
SRC
脱灰
液化反応
分離
液化油
溶剤
ギー総合開発機構、現在の 重質溶剤
溶 剤
化
ボトム
(超重質油)
重質溶剤
技
水素
水素
450℃、15気圧
術
リサイクル
灰
水素
(独)新エネルギー・産業技
400℃、150気圧
術総合開発機構)
はこれまで
図-1 NEDOL法の基本理念
の瀝青炭液化3法について
の研究開発成果を以下にように取りまとめた。
①直接水添液化法の成果:一定の反応条件においても触
インドネシア褐炭を対象とした商業プラントの実現を目指した
媒性能が良くなればなるほど液収率は高くなる。
新たな褐炭液化技術開発を開始した。
②溶剤抽出液化法の成果:水素供与性溶剤を用いると温和
昭和49年のサンシャイン計画の発足以来続けられてきた石
な条件で液化が行われる。
炭液化技術開発も、パイロットプラントの終了と共に、研究段
③ソルボリシス液化法の成果:軽質油を重点的に得るために
階から実用化段階に入った。特に中国やインドネシア等の産
は、循環溶剤を重質化することが有効であること。
炭国への国際協力を通じて、実用化が進むものと考えられる。
そして、
これら3法の特徴を生かしてNEDOLプロセスとして統合した。 中国においては、下図に示すとおり、
日本だけではなく米国及
2.4瀝青炭液化技術開発(NEDOL法)
びドイツも立地可能性調査を実施し、実用化に向けた検討が
瀝青炭液化技術開発については「3A-2」に記載する。
進められている。
2.5褐炭液化技術開発(BCL法)
依蘭炭
褐炭液化技術開発については「3A-3」に記載する。
日本(CCUJ−JICA)
3.今後の石炭液化
中国は、将来的に石油需給の逼迫することが予想されており、
このため、石炭液化技術の開発、導入に積極的な姿勢を示し
ている。NEDOでは、国際協力の一環として、昭和57年中国に
0.1t/d液化装置を設置し、中国炭の液化試験、液化触媒の探
査、人材育成等を行ってきた。平成9年からは中国からの要請
に応えて、黒竜江省・依蘭炭を用いての石炭液化プラント立
地可能性調査の実施に関し、協力している。また、中国の要請
により、陜西省・内モンゴル自治区の神華炭は、埋蔵量が約
2,000億トンとも推定され、安価なエネルギー源として大いに期
待されている。
インドネシアも、近い将来石油輸入国になることが確実視され
ている。平成4年インドネシア褐炭を対象とした石炭液化研
究に関する協力要請がインドネシア政府より提案された。これ
を受けて、平成6年NEDOはインドネシア科学技術応用評価
庁(BPPT)
と石炭液化研究協力に関する覚え書きを締結し、
神華炭
①米国(HTI−USDOE)
②日本(NEDO)
黒竜江
ハルピン
モンゴル
吉 林
内蒙古自治区
遼 寧
河 北
ペキン
甘 粛
寧夏
山 西
山 東
青 海
陝 西
江 蘇
河 南
湖 北
安 徽
四 川
淅 江
湖 南
江 西
福 建
貴 州
クンミン
雲 南
台湾
広西壮族自治区
広 東
先鋒炭
海 南
ドイツ(ルーアコーレ−ノースライン・ウエストファーレン州)
図-2 中国における石炭液化実用化検討
●参考文献
1)和坂貞雄、
日本エネルギー学会誌、78(798)、1999
2)石炭液化技術の開発−商業化への架け橋−、
日本コールオイル株式会社
3)石炭液化パイロットプラント、新エネルギー・産業技術総合開発機構 吉田晴彦
58
第2編 技術概要
多目的石炭利用技術〈液化技術〉
4A2. 瀝青炭液化技術(NEDOL)
研究開発者
(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構、
日本コールオイル(株)
[住友金属工業(株)、出光興産(株)、
新日本製鐵(株)、千代田化工建設(株)、日本鋼管(株)、
(株)日立製作所、三井石炭液化(株)、三井造船(株)、
三菱重工業(株)、
(株)神戸製鋼所、
(株)ジャパンエナジー、住友金属鉱山(株)、旭化成工業(株)、
トヨタ自動車(株)
住友石炭鉱業(株)、日産自動車(株)、
(株)日本製鋼所、横河電機(株)、
(株)日本興業銀行]
事業の種類
開発期間
瀝青炭液化技術の開発、NEDOLプロセスの開発
1983∼2000年(18年間)
技術概要
1.NEDOLプロセス開発の概要
1984年度から250t/dパイロットプラント
(PP)の概念設計が
開始されたが財政状況の変化などから、1988年度から150t/d
PPの設計がスタート、
この支援研究として、1t/dプロセスサポ
ートユニット
(PSU)の運転研究が実施された。
1t/dPSUは、1988年度に新日本製鐵(株)君津製鉄所内に
設置された。このPSUは石炭貯蔵・前処理、液化反応、液化
油蒸留および溶剤水素化の4つの工程から構成された。
1989年度から1998年度までの10年間、新日本製鐵(株)、三
井石炭液化(株)および日本コールオイル(株)の共同研究
体制で、9炭種72水準の条件で運転研究が行われた。その
間の26,949時間の石炭スラリー累積運転を通じ、NEDOL法
の安定性および総合運転性が確認され、
さらなる最適化がな
され、設計データが取得された。
150t/d PPは茨城県鹿嶋市住友金属工業(株)鹿島製鉄所
内に1991年から約5年を費やして建設された。PPは石炭前
処理設備、液化反応設備、液化油蒸留設備および溶剤水素
化設備、水素製造設備の5つの主要設備から構成された。
2.NEDOLプロセスの評価
戦前からの石炭液化技術の進歩を、世代別に液化反応の過酷
度と液化油収率の関係として表すと図のようになる。NEDOLプ
ロセスは、欧米各プロセスと比較して、技術、経済性、運転の安
定性のいずれも遜色なく、最短で実用化へのシフトが可能な状
態に到達している世界最先端のプロセスと言うことができる。
大
第3世代
NEDOLプロセス
CC-ITSLプロセス(米)
IGOR+プロセス(独)
液
化
油
収
率
第1世代
第2世代
1940年代の諸プロセス
オイルショック後の諸プロセス
小
シビア
反応過酷度
マイルド
図-1 液化反応の過酷度と液化油収率の関係
石炭前処理技術
液化反応設備
液化油蒸留設備
ガ ス
鉄系触媒
石 炭
分離器
循環ガス圧縮機
常圧蒸留塔
水素
スラリー混合機
水素圧縮機
石
炭
ビ
ン
スラリー
貯槽
予熱炉
170kg/cm2G
(16.7MPa)
450℃
スラリー
熱交換器
高圧
スラリーポンプ
高温
分離器
減圧蒸留塔
レッドダウン
バルブ
分離器
水素
2
110kg/cm G
(10.8MPa)
320℃
(水素供給性溶剤)
灯・軽油留分
液化反応塔
(3基)
燃料
乾燥粉砕機
加熱炉
燃料
予熱炉
残渣
溶剤昇圧
ポンプ
ストリッパー
溶剤水素化設備
ナフサ留分
溶剤水素化
反応塔
燃料
図-2 瀝青炭液化技術(NEDOL法)のプロセスフロー
59
(重質油留分)
Clean Coal Technologies in Japan
3.NEDOLプロセスの特長
NEDOLプロセスは「直接水添法」、
「溶剤抽出法」、
「ソルボ
リシス法」の三つの瀝青炭液化法のそれぞれの長所を集めた
技術的にも経済的にも優れた我が国独自のプロセスであり、
次のような特長を有している。
①鉄系微粉触媒と水素供与性溶剤の使用により、
マイルドな
液化反応条件下で高い液収率が得られる。
②軽質留分の多い液化油が得られる。
③信頼性のある要素工程から構成され、
プロセスの安定性が高い。
④亜瀝青炭から石炭化度の低い瀝青炭までの各種の炭種
に適用可能である。
触 媒
液化触媒
水素化触媒
48.2
触媒組成 Fe(wt%)
51.0
S(wt%)
0.8
その他(wt%)
6.1
比表面積(m2/g)
粉砕粒径[D50]
(μm) 0.7∼0.8
触媒組成 Fe(wt%)Ni-Mo/γAl2O3
190
比表面積(m2/g)
0.7
細孔容積(ml/g)
14.5
平均細孔径(nm)
4.NEDOLプロセスの代表的反応条件
液化反応
温度
圧力
触媒種
触媒添加量
450℃
170kg/cm2・G
鉄系微粉触媒
3wt%(dry coal basis)
溶剤水素化反応
スラリー濃度
40wt%(dry coal basis)
スラリー滞留時間
60min
ガススラリー比
700Nm3/t
リサイクルガス中の水素濃度
85vol%
ガス溶剤比
500Nm3/t
リサイクルガス中の水素濃度
90vol%
320℃
110kg/cm2・G
温度
圧力
触媒種
LHSV
Ni-Mo-Al2O3
1 hr(−1)
5.パイロットプラント開発目的と達成状況
開発目標項目
目 標
達成状況
1.液化油収率
運転基準炭において、軽・中質油収率で50wt%
以上、全液収率で54wt%以上
運転基準炭で、軽・中質油収率で51wt%、
全液収率で58wt%を達成
2.スラリー濃度
スラリー中の石炭濃度を40∼50wt%
50wt%で安定運転達成
3.触媒添加量
硫化鉄系触媒の添加量を乾燥炭基準で2∼3wt%
1.5∼3wt%の範囲で運転
4.連続運転時間
運転基準炭において1,000時間以上
運転基準炭で80日間(1920時間)の連続運転達成
5.炭種の範囲
3炭種以上
石炭化度の幅広いアダロ炭、
タニトハルム炭及び池島炭で運転を実施
6.NEDOL方式パイロットプラント研究開発スケジュール
(年度)
∼1983
1984
1985
1986
1987
250t/d設計
1988
1989
1990
1991
1992
150t/d設計
1993
1994
1995
1996
建 設
1997
1998
運 転
要素・支援研究
7.研究開発成果
PPによるデータに加え、基盤研究および
支援研究で得られた全てのデータが、実用
化に備えて技術パッケージとしてまとめられ、
1999年12月22日の産業技術審議会評価
部会瀝青炭液化技術開発評価委員会に
おいて、NEDOLプロセスは技術的に世界
最高水準にあり、国際的展開も期待でき
る段階に到達していると高く評価された。
これによって、
日本の石炭液化技術開発は、
研究段階から実用化段階へと進んでいる。
また、材料面や新しいプロセス開発など、
他産業への波及効果も期待されている。
中央制御棟
石炭前処理設備
燃料設備
液化反応設備
液化油蒸留設備
溶剤水素化設備
水素製造設備設備
貯槽設備
図-3 NEDOLプロセスパイロットプラント
(150t/d)の全景
●参考文献
1)和坂貞雄、
日本エネルギー学会誌、78(798)、1999
2)石炭液化技術の開発−商業化への架け橋−、
日本コールオイル株式会社
3)石炭液化パイロットプラント、新エネルギー・産業技術総合開発機構 吉田晴彦
60
第2編 技術概要
多目的石炭利用技術〈液化技術〉
4A3. 褐炭液化技術(BCL)
研究開発者
(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構、
(株)神戸製鋼所、
日商岩井(株)、三菱化学(株)、
コスモ石油(株)、出光興産(株)、
日本褐炭液化(株)
事業の種類
開発期間
褐炭液化技術の開発、液化基盤技術の開発、石炭液化国際協力事業等
1981∼2002年(21年間)
技術概要
1.背景とプロセス概況
石炭の経済的可採埋蔵量は全世界で約1兆トンと言われるが、
図-1に示すように、本プロセスは低品位炭に含まれる水分を
その約半量は亜瀝青炭・褐炭等の低品位炭が占める。石油
効率的に除去するためのスラリー脱水工程、高活性リモナイ
や天然ガスと比較して、豊富な可採年数を有する石炭ではあ
ト触媒とボトムリサイクル技術の活用により高い液化油収率
るが、
これらを真に有効に活用するためには、低品位炭の有
を達成する液化工程、石炭液化油中のヘテロ化合物(含硫
効利用が鍵を握っていると言っても過言ではない。
しかしなが
黄化合物、含窒素化合物等)
を取り除いて高品質のガソリン・
ら、低品位炭は瀝青炭等と比較して水分を多く含み、乾燥す
軽油留分等を得るための系内水素化工程、石炭中の灰分や
ると自然発火性を示す。褐炭液化技術は、
このように利用の
添加した触媒を効率よくプロセスの系外へ排出するための溶
難しい低品位炭からクリーンなガソリン・軽油等の輸送用燃
剤脱灰工程、
これらの四つの工程で構成される。
料を製造することにより、取り扱いの容易で有用な形態に転
アジア地域では経済の成長にともない、
エネルギー需要は堅
換するとともに、我が国のエネルギーの安定供給に資すること
調に増加しており、
インドネシア等の低品位炭資源国で本技
を目的として開発が進められた。
術の商業化が期待されている。
図-1 褐炭液化プロセスフロー
61
Clean Coal Technologies in Japan
2.開発目標と開発すべき技術
日豪政府間協力のもとで実施されたパイロ
ットプラント
(図-2参照)
による運転研究では、
下記の開発課題が課せられた。
(1)高液化油収率の達成(50%以上)
(2)連続運転時間1,000時間以上
(3)脱灰性能1,000ppm以下
(4)新スラリー脱水法の確立
これらの課題は、1987-1990年までの4年
間の運転研究で、全て達成するとともに、
パイロットプラントの運転を通して液化商業
プラントの建設に必要なスケールアップデ
ータの取得やプラント操業のノウハウを習
図-2 50t/dパイロットプラント
(オーストラリア)
得した。
しかしながら、当時(1990年代)は、国際的な石油需給の緩
開発やボトムリサイクルで循環される触媒の活性維持方法の
和による原油価格の低位安定状況が続き、石炭液化プロセ
確立、石炭液化油の品質を大幅に改善するための系内水素
スの経済性を更に向上させる必要が生じたこと、および環境
化技術の開発、運転の信頼性を向上させるための種々の改
問題に対する関心の高まりにより更にクリーンな液化油が求
良等を達成し、褐炭液化プロセスの経済性、信頼性、
ならびに
められたことから、
(株)神戸製鋼所高砂製作所内に0.1トン/
環境調和性を大幅に向上させた改良BCLプロセス
(Improved
日規模のベンチプラントを建設し、
プロセスの改良研究に取り
Brown Coal Liquefaction Process、前頁のフローシート参
組んだ。その結果、従来の液化触媒と比較して極めて高活性
照)
を確立した。
で、粉砕性等のハンドリング特性にも優れたリモナイト触媒の
3.開発の進捗状況および成果
1994年からインドネシア共和国の科学技術応用評価庁と新
また、1999年から、
インドネシア国内において3ヶ所の液化プラ
エネルギー・産業技術総合開発機構の間で締結した石炭液
ント立地候補地を選定し、石炭液化の経済性評価を含むフィ
化に関する研究協力覚書に基づき、
インドネシアの低品位炭
ジビリティー・スタディーを実施した。その結果、石油価格が現
調査や液化試験を実施し、液化候補炭のスクリーニングを行
状レベルで推移すると、石炭液化は経済的にも十分に成立
うとともに、
インドネシア技術者の指導や液化試験機器の供
するとの結果を得ている。
与を通して、
インドネシア技術者のレベルアップを図ってきた。
4.今後の課題および実用化の見通し
アジア地域は堅調な経済成長にともない、急速にエネルギー
ギーの安定供給の確保は我が国のエネルギーセキュリティー
需要も増加している。また、
インドネシアにおいては、現在は石
に大きく寄与することから、未利用の低品位炭を活用した褐
油輸出国の立場にあるが、2010年頃までには石油の純輸入
炭液化技術の実用化の実現が期待されている。
国に転ずることが予想されている。アジア地域におけるエネル
●参考文献
1)矢内俊一、重久卓夫、CCT Journal、Vol.7、29(2003)
2)石炭液化国際協力事業(低品位炭液化技術開発に関する研究協力)成果報告書(2003)
62
第2編 技術概要
多目的石炭利用技術〈液化技術〉
4A4. ジメチルエーテル製造技術(DME)
研究開発者
(有)ディーエムイー開発、JFEホールディングス(株)、大陽日酸(株)、豊田通商(株)、
(株)
日立製作所、
丸紅(株)、出光興産(株)、国際石油開発(株)、
トタルS.A.、エルエヌジージャパン(株)、石油資源開発(株)
事業の種類
開発期間
環境負荷低減型燃料転換技術開発
2002年から2006年(5年間)
技術概要
1.背景とプロセス概況
DME(Di-Methyl Ether)
は燃焼時に硫黄酸化物やすすの発
DMEは現在メタノールの脱水反応により、
わが国で約1万トン
生が全くない環境負荷の少ないクリーンエネルギーである。毒
/年、全世界で15万トン/年が製造され、
スプレー剤として利用
性もなく、液化しやすいのでハンドリング性にも優れ、民生用
されている。DMEが大量にかつ安価に製造できるようになれば、
燃料(LPG代替)
をはじめ、輸送用燃料(ディーゼル自動車、
上記のような優れた性質から燃料としての幅広い利用が見込
燃料電池自動車)、発電用燃料(火力発電、
コジェネ発電、燃
まれている。
料電池)、
および化学原料としても利用できる。
2.開発目標と開発すべき技術
DMEを合成ガス
(H2とCOの混合ガス)
から、直接合成するプ
(1)3CO+3H2→CH3OCH3+CO2
ロセス
(反応式(1))の開発を目的とする。
(2)CO+2H2→CH3OH
メタノールの脱水反応(3)によるDME製造は既存技術では
(3)2CH3OH→CH3OCH3+H2O
あるが、実際に稼働している装置規模は小さく、燃料としての
100
DME製造には大型化が課題である。またメタノール合成反応
(1)3CO + 3H2 → CH3OCH3 + CO2
H2+CO反応率[%]
(2)の反応率は比較的低い。
一方、DME直接合成反応(1)は、
メタノール合成の平衡制
約を避けることができ、
メタノール合成よりも高い反応率が得
られるので、効率的である。
DME直接合成に関する反応式及びメタノール合成とDME直
80
60
40
(2)CO + 2H2 → CH3OH
20
接合成の平衡反応率を図-1に示す。
また直接合成では、合成ガス組成がH2/CO=1で反応率が最
0.0
大となるので、石炭ガス化ガス
(H2/CO=0.5∼1)
を原料とする
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
H2/CO比[-]
に適している。
図-1 平衡反応率(280℃,
5Mpa)
本開発の目標は〈①DME製造量100トン/日以上、合成ガス
総合転化率95%以上、DME反応選択率90%以上、DME純
度99%以上 ②スケールアップ技術の確立 ③ステムの最
適化 ④運転方法の確立〉などである。
63
3.0
第2編 技術概要
多目的石炭利用技術〈液化技術〉
Clean Coal Technologies in Japan
3.開発の進捗状況および成果
4A4. ジメチルエーテル製造技術(DME)
研究開発者
直接合成プロセスの開発はJFEを中心に進められてきた。第
産業省の補助金による100トン/日の実証プラントであり、
1ステップは直接合成用触媒の探索、第2が5kg/日規模の小
2003年11月に竣工し、同年末から2006年にかけて2∼5ヶ月
環境負荷低減型燃料転換技術開発
型ベンチプラント、第3が経済産業省の補助金を得て建設さ
の長期連続運転を6回実施する予定となっており、合計生産
2002年から2006年(5年間)
れた5トン/日規模の大型ベンチプラント1)2)、第4が同じく経済
量は、約19,000トンに達している。
(有)ディーエムイー開発、JFEホールディングス(株)、大陽日酸(株)、豊田通商(株)、
(株)
日立製作所、
丸紅(株)、出光興産(株)、国際石油開発(株)、
トタルS.A.、エルエヌジージャパン(株)、石油資源開発(株)
事業の種類
開発期間
技術概要
1.背景とプロセス概況
DME(Di-Methyl Ether)
は燃焼時に硫黄酸化物やすすの発
DMEは現在メタノールの脱水反応により、
わが国で約1万トン
生が全くない環境負荷の少ないクリーンエネルギーである。毒
/年、全世界で15万トン/年が製造され、
スプレー剤として利用
性もなく、液化しやすいのでハンドリング性にも優れ、民生用
されている。DMEが大量にかつ安価に製造できるようになれば、
燃料(LPG代替)
をはじめ、輸送用燃料(ディーゼル自動車、
上記のような優れた性質から燃料としての幅広い利用が見込
燃料電池自動車)、発電用燃料(火力発電、
コジェネ発電、燃
まれている。
写真-1 5トン/日大型ベンチプラント
写真-2 100トン/日実証プラント
4.今後の課題および実用化の見通し
料電池)、
および化学原料としても利用できる。
DMEの燃料としての利用は、中国内陸部で小規模ながらすで
2006年の供給を目標としている。これらはいずれも初期投資の
に実現している。国内では(有)DME開発の出資者が事業化
少ない天然ガスを原料として計画されているが、将来的には資
検討を目的に設立したDMEインターナショナル(株)、日本
源制約の少ない石炭原料を目指すと見られ、
その際には反応
DME(株)
(これは三菱ガス化学、三菱重工、
日揮、伊藤忠の4
式(1)で発生するCO2が分離精製工程にて高純度で得られる
社によって設立された)、三井物産+東洋エンジニアリング など
ので、CO2貯留技術が確立された段階では、石炭からCO2負荷
が実用化を目指し活動中であり
(後2者はメタノール脱水法)
の少ない燃料としてのDME製造が可能となる。(図-2参照)
2.開発目標と開発すべき技術
DMEを合成ガス
(H2とCOの混合ガス)
から、直接合成するプ
(1)3CO+3H2→CH3OCH3+CO2
ロセス
(反応式(1))の開発を目的とする。
(2)CO+2H2→CH3OH
メタノールの脱水反応(3)によるDME製造は既存技術では
(3)2CH3OH→CH3OCH3+H2O
あるが、実際に稼働している装置規模は小さく、燃料としての
100
DME製造には大型化が課題である。またメタノール合成反応
(1)3CO + 3H2 → CH3OCH3 + CO2
H2+CO反応率[%]
(2)の反応率は比較的低い。
一方、DME直接合成反応(1)は、
メタノール合成の平衡制
約を避けることができ、
メタノール合成よりも高い反応率が得
られるので、効率的である。
DME直接合成に関する反応式及びメタノール合成とDME直
パージガス
80
35m3 N/h
60
CO 2
CO 2
未対応ガス
天然ガス
40
DME
5t /d
炭層メタン
石炭
(2)CO + 2H2 → CH3OH
20
接合成の平衡反応率を図-1に示す。
酸素
スチーム
また直接合成では、合成ガス組成がH2/CO=1で反応率が最
0.0
大となるので、石炭ガス化ガス
(H2/CO=0.5∼1)
を原料とする
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
気液分離器
H2/CO比[-]
に適している。
反応条件
250∼280℃
3∼7Mpa
750m3 N/h
図-1 平衡反応率(280℃,
5Mpa)
本開発の目標は〈①DME製造量100トン/日以上、合成ガス
CO、CO 2、H 2
総合転化率95%以上、DME反応選択率90%以上、DME純
合成ガス発生炉
メタノール
ガス精製塔
DME合成反応器
CO 2 分離塔
図-2 石炭を原料としたDME直接合成プラントのプロセスフロー
度99%以上 ②スケールアップ技術の確立 ③ステムの最
適化 ④運転方法の確立〉などである。
●参考文献
1)上條綱雄ら、第8回石炭利用技術会議講演集、東京、1998、194-205
2)大野陽太郎ら、第30回石油石油化学討論会講演要旨集、東京、2000、26-29
3)大野陽太郎、
日本DMEフォーラムワークショップ2002、東京、2004、113−122
63
64
DME精製塔
0.8t /d
第2編 技術概要
多目的石炭利用技術〈熱分解技術〉
4B1. 多目的石炭転換技術(CPX)
研究開発者
(財)石炭利用総合センター、新日本製鐵(株)、
日本鋼管(株)、川崎製鉄(株)、
住友金属工業(株)、
(株)神戸製鋼所、宇部興産(株)、出光興産(株)、新日鐵化学(株)
事業の種類
開発期間
石炭生産・利用技術振興補助事業
1996∼2000年(5年間)
*「CPX」はCoal Pyrolysisと多種類の生成物Xを意味します。
技術概要
1.技術の特徴
本開発は、石炭のより一層の多面的な利用拡大を図るために、
③多炭種に対応可能。
産業用燃料としての中カロリーガスおよび化学原料としての
・亜瀝青炭から高揮発瀝青炭クラスの安価な石炭を主原
液生成物の製造を主な狙いとする、効率性、経済性、
かつ環
料とし、多量のガス・タールを得ることが可能である。
境調和性に優れた石炭の多目的転換技術の開発を行うこと
④石炭灰を効率よく分離。
を目的としている。
・石炭灰はガス化炉から溶融スラグとして排出され、水砕される。
本プロセスの特徴は以下の通りである。
⑤多様な生成物を利用可能。
①マイルドな操業条件。
・生成物のうちガスは産業用燃料として、液体(軽油、
ター
・熱分解反応器の温度は600∼950℃程度の低温である。
ル)
は化学原料、固体チャーは燃料・還元剤として、
スラ
・反応圧力が1MPa以下で石炭液化プロセスや水添ガス
グはセメント原料として利用可能。
化プロセスの操業圧力である数から数十MPaに比較し
・プロセスから生成されるガスの発熱量は3500kcal/Nm3
て低い。
に達する。
②総合熱効率が高い。
・ガス+液(軽油・タール)の収率は投入石炭の70%以上
・石炭の急速熱分解+生成チャーの部分リサイクルによ
である。
るチャーガス化によりプロセスの熱効率が高い。
⑥生成物の収率制御が可能。
・熱分解温度(600∼950℃)、炭種の変更により、生成物
収率を変更することが可能である。
図-1 プロセスフローシート
65
Clean Coal Technologies in Japan
2.技術概要
本プロセスは、石炭の急速熱分解と熱分解生成チャーの部
いる。サイクロンで分離された固体生成物(チャー)の一部は、
分リサイクルによるチャー/酸素ガス化を低圧下でコンパクト
チャーガス化炉へリサイクルされ、余剰チャーは熱回収後製品
に組み合わせ、
チャーガス化ガスの顕熱を微粉炭の急速加熱・
となる。液状生成物を含むガスは熱媒油による間接熱交換で
熱分解反応の熱源に利用することで高い総合効率が得られ
350℃程度まで冷却され、ベンチュリスクラバーおよびタールク
ることに特徴がある
(図-1)。コークス炉ガス(COG)相当の
ーラーを経てタールの回収が行われる。熱分解ガスは軽油(BTX)
発熱量を持つ価値の高いガスおよび液(タール+軽油)の生
回収、脱硫などのガス精製後に産業用燃料ガスとして利用さ
産量が多く、熱分解に必要な熱を効率的に供給するプロセス
れる。
として、気流層型石炭急速熱分解プロセスを構築した。
新日本製鐵(株)八幡製鉄所構内に建設された石炭処理量
微粉砕・乾燥された石炭(粒径約50μm)は、熱分解反応器
100t/dのパイロットプラント
(写真-1)において、
プロセスの要
に吹き込まれ、温度600∼950℃、反応時間2秒、数気圧の圧
素技術およびトータルシステム技術を評価・検証し、実用化の
力で高温ガスと混合され急速加熱・熱分解される。熱分解反
ための基本技術の確立を図ること、実機プラント
(1000t/d)
応部で必要な熱は、熱分解生成物の固体チャーの一部を高
の設計および経済性評価のためのデータを得ることを主な狙
温ガス発生部(チャーガス化炉)にリサイクルし、酸素・スチー
いとして試験が行われた。平成11年から2年間で計10回の試
ムによる部分酸化でCO、H2を主成分とする1500∼1600℃
験操業を行い、最長210時間の安定した連続操業を達成した。
程度の高温ガス流を発生させ、
その顕熱を利用することで供
その中で、生成物が熱分解温度で制御可能であること
(図-2)
給する。この熱分解反応器では、高温ガスが反応器下部より
も検証された。
供給され、熱分解石炭が混合された後熱分解生成物とともに
反応器上部より系外に出ていくアップフロー方式を採用して
写真-1 パイロットプラント全景
図-2 熱分解生成物収率と温度の関係
PDU:7t/d試験装置
●参考文献
1)小水流広行ら:石炭利用国際会議(2001)
2)小野田正巳ら:第10回石炭利用技術会議要旨集(2000)
3)橋本 茂ら:Pittsburgh Coal Conference(2000)
66
第2編 技術概要
多目的石炭利用技術〈熱分解技術〉
4B2. 石炭部分水素化熱分解技術(ECOPRO)
研究開発者
(財)石炭利用総合センター、
(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構、
(独)産業技術総合研究所、
新日本製鐵(株)、バブコック日立(株)、三菱化学(株)
事業の種類
開発期間
石炭生産・利用技術振興補助事業
①石炭利用次世代技術開発調査:1996∼1999年(4年間)、②石炭利用実用化技術開発:2003∼2008年(6年間)
技術概要
1.技術の目的
クリーンコールテクノロジーに係わる単一業界を視野にすえた
しての軽質オイルを併産しつつ、
石炭ガス化複合発電(IGCC)
、
単一製品を追求する技術開発は効率的、経済的に限界にな
間接液化(GTL)や化学原料等への展開が容易な合成ガス
りつつあり、
エネルギーと物質生産のあり方を根底から変える
を一つの炉から高効率に得る技術である。
革新的技術の開発が必要である。
本技術をコアとする石炭をベースとした業界融合型複合事業
石炭部分水素化熱分解技術(Coal Flash Partial Hydropy
(電力/化学/鉄鋼を中心)
を実現することにより、
トータルエ
rolysis Technology)
は高圧(2∼3MPa)
かつ適度な水素雰
ネルギー利用効率の飛躍的な向上を図ることが期待される。
囲気下で微粉炭を瞬時に反応させ、化学原料および燃料と
2.技術の概要
図-1に本技術の全体プロセスフローを示す。石炭部分水素
下で改質反応(部分水素化熱分解反応)
を瞬時に完了させる。
化熱分解炉の部分酸化部において、微粉炭およびリサイク
また、部分酸化部からの高温ガスは改質部における所要反応
ルチャーを酸素、
スチームによって圧力2∼3MPa、温度1500
熱の供給源としても機能する。改質部では微粉炭から放出さ
∼1600℃でガス化し、COおよびH2を主成分とする高温ガスを
れたタール等の一次熱分解生成物にH2を移行させる水素化
発生させる。部分酸化部とスロートで直結した改質部には、微
反応がin-siteで進行し、重質なタール状物質が軽質オイル化
粉炭をリサイクルH2と共に部分酸化部からの高温ガス流に吹
される。部分水素化熱分解炉において生成したガス、軽質オ
き込み、圧力2∼3MPa、温度700∼900℃、水素濃度30∼50
イル、
チャーはサイクロンにおいてチャーを分離後、顕熱回収し、
%程度(高温ガス中H2とリサイクルH2を合わせた値)の条件
オイル回収および脱硫等のガス精製を経て、
合成ガス
(syngas)
図-1 プロセスフローシート
67
Clean Coal Technologies in Japan
となる。合成ガスの一部はシフト反応、脱炭酸(CO2回収)に
①高効率:部分酸化部から発生する高温ガスの顕熱を改質
よってH2リッチガスへ転換され、熱交換による予熱後、部分水
部において必要な熱源として有効に利用するため、
エネルギ
素化熱分解炉の改質部へリサイクルされる。最終的な製品
ー転換効率が高い(85%以上)。
合成ガスは、H2、CO、CH4を主成分とするH2/CO≒1程度の
②フレキシブルな生産性:改質部の温度、吹込み水素量を制
高水素含有ガスとなり、IGCC、GTL、化学原料等への原料ガ
御することにより、
ガスおよびオイルの組成並びに生産比率を
スとして利用される。また、軽質オイルはベンゼン、ナフタレン
自由に変更でき、需要サイドのニーズに柔軟に対応できる。
等の1∼2環の芳香族化合物を主成分とし、化学原料あるい
③経済性:合成ガス生産を目的とした場合、併産する高付加
は発電燃料として利用される。
価値なオイルによる控除によってガス製造コストを削減できる。
本技術の特徴をまとめると次のようになる。
3.開発の進捗状況
1)部分水素化熱分解基礎試験(1996∼1999年,
1kg/day)
改質部と部分酸化部を一体化したPDU試験設備を用い、本
小型試験装置を用い、本技術において狙いとする条件下に
技術の核となる部分水素化熱分解炉の基本性能を評価し、
おける石炭の熱分解挙動について検討し、石炭の急速加熱・
炉内反応を明確にした。
熱分解反応によって放出される一次タールの水素化熱分解
3)パイロットプラント試験(2003∼2008年,
∼20t/day)
が進行していることを確認した。
炉本体の熱自立が可能であり、
かつ炉以外のプロセス付帯
2)
プロセス開発装置(PDU)試験(2000∼2003年,
1t/day
設備を有するパイロットプラントによる試験を実施し、次ステッ
※新日鐵社内研究)
プである実証実機(∼1000t/day)への見通しをたてる。
パイロットプラント試験における開発課題
技術課題
研究開発内容
炉内反応(部分水素化熱分解炉)の
確性、炉内制御技術の確立
・部分水素化熱分解炉内反応の定量化
・最適遷移域形成のための炉内条件の確立
・高効率ガス化(部分酸化部)操業条件の確立
プロセス・要素技術の開発
・ガス中のチャー分離回収技術の確立
・オイル共存ガスからの熱回収技術の確立
トータルシステム評価その他
・長時間連続操業技術の確立
・実証機設計のためのスケールアップ手法の確立
開発スケジュール
2003年
2004年
2005年
パイロットプラント試験
設計・製作・工事
試験研究
解体研究
支援研究
●参考文献
1)下田ら,第10回石炭利用技術会議講演集,p296,2000
2)H.Yabe et al.,2nd Japan-Australia Coal Research Workshop Proceedings,p257,2002
68
2006年
2007年
2008年
第2編 技術概要
多目的石炭利用技術〈粉体化・液体化・共利用技術〉
4C1. コール・カートリッジ・システム(CCS)
技術概要
1.システムの概要
CCS(Coal Cartridge System)は、年間の石炭使用量が数万
基地の実証試験が行われ、CCSの信頼性を確立するとともに、
トン規模の、独自で海外炭を安定輸入することが難しい中小口
CCS標準炭製造の混炭基準と適合品質の確立が図られた。こ
需要家を対象として、海外炭をまとめて輸入し、各々の需要家に
の結果、1991年我が国最初のCCSセンター(製造能力20万ト
適した品質に混炭し、微粉炭にして供給するシステムである。
ン/年)が建設され、次いで2ヶ所のCCS炭専用のボイラが稼動した。
この技術は、1985年度から3ヶ年計画で製造・供給基地と、燃焼
3.技術データ
2.システムの特徴
一般的な微粉炭燃焼システムでは、貯炭場にストックされた石
CCS炭の一般性状を示す。
炭を、燃焼する前に、
ミルで微粉炭にしてボイラーに供給してい
CCS炭の特性
銘柄
原炭混炭
全水分 Wt%
発熱量 kcal/kg
水分 Wt%
工
灰分
Wt%
業
揮発分
Wt%
分
析
固定炭素
Wt%
燃料比
炭素 Wt%
水素
Wt%
元
窒素
Wt%
素
分
酸素
Wt%
析
硫黄 Wt%
全硫黄 Wt%
粒度 -200mesh るが、CCSでは、製造供給工場における微粉炭の製造以降、
タ
ンクローリー車への積み込み、需要家の貯炭サイロへの払い出
し、ボイラへの供給まで、全て密閉系の気体搬送で行われること
になる。このため、炭塵飛散の問題もなく、
クリーンな環境が保
てるとともに、ボイラの負荷変動に対しても粉体の流量制御で
容易なことから、円滑な運転を実現することが出来る。
需要家サイドにおいても、
ミル設備が不要なこと、貯炭がサイ
ロで出来るため貯炭場の必要がないこと、
コンパクトな設備構
成のため設備投資も少なく、省力化と環境改善につながる利
点を持っている。
以上のように、CCSは石炭を微粉炭にし、密閉系の粉体輸送
システムによって、石炭のハンドリングを改善した石炭利用シ
ステムである。
4.プロセスフロー
(図-1)にCCS炭製造供給設備のフローシー
トと設備概要を示す
図-1 CCSの製造のプロセスフロー
69
基準
AR
*
dry
dry
dry
dry
daf
daf
daf
daf
daf
dry
dry
A
3種
2.9
6490
0.0
12.1
39.6
48.3
1.22
80.30
5.80
1.60
11.80
0.48
0.45
84.5
B
3種
2.8
6480
0.0
12.4
39.5
48.1
1.22
80.00
5.80
1.50
12.40
0.47
0.43
78.9
C
2種
2.7
6490
0.0
12.1
35.6
50.3
1.41
82.00
5.90
1.50
10.50
0.45
0.41
83.50
Clean Coal Technologies in Japan
4C2. 石炭スラリー製造技術(CWM)
技術概要
1.石炭スラリーの概要
石炭は固体であるため、液体に比べハンドリングが複雑なこと、
粉塵に対する環境対策が必要なこと、貯炭場などの広い用
地を要する等の問題があり、石炭をクリーンで重油並に利用
する手段として、石炭スラリーが注目された。石炭スラリー燃
料としては、水と混合したCWM(Coal Water Mixture)のほ
かに、
石炭に重油を加えてスラリー化したCOM
(Coal Oil Mixture)
がある。COMは燃焼に都合の良い石炭と重油の組合せであ
るため、
CWMより一歩先に技術的検討が開始されたが、重
油を必要とすることがかえって問題となり、普及には至らなかっ
た。
2.高濃度CWMの特性
代表的な高濃度CWM(中国炭CWM)の特性を、次の表-1に示す。
3)粒子径分布
CWMの高濃度化・安定化を図るには、粉砕された石炭粒子
の粒子径分布はシャープな分布よりも幅の広い分布の方が
好ましい。通常用いられている粒子径は、概略表-2のようにな
っている。
表-1 高濃度CWMの特性
石炭濃度(wt%)
高位発熱量(kcal/kg)
低位発熱量(kcal/kg)
見掛粘度(mPa・s)
比重(−)
灰分(wt%)
硫黄(wt%)
200メッシュ以下の粒子(%)
CWMは水と石炭の混合物であり、自然発火や粉塵飛散の
問題もなく、ハンドリングし易い流体として取扱うことが出来る
利点を持っている。高濃度CWMは、石炭の粒子径分布の研
究や分散剤などの添加剤の開発によって、加える水を少なく
しても流動性と安定性が保たれ、脱水することなく直接燃焼
することが可能である。ごく少量の添加剤を加えることによって、
ある特定の粒子径分布を有する石炭粒子が、約70%の重量
濃度で均一に分散する、安定な石炭・水スラリーを実現するこ
とが出来る。
68∼70
5,000∼5,200
4,600∼4,800
1,000
1.25
6.0
0.2
80∼85
表-2 高濃度CWMの粒子径分布
1)炭種
一般的傾向として、炭化度が高く、固有水分が低く
(工業分
析値:約5%以下)、酸素含有量の少ない(元素分析値:約8
%以下)、石炭が高濃度CWMを作るのに適している。
2)添加剤
添加剤には、分散剤と安定剤がある。分散剤は、静電気的反
発効果や立体反発効果によって、石炭粒子をスラリー中に分
散させる役割を持ち、ナフタレン、ポリスチレン、ポリメタアクリ
レート、
ポリオレフィン等のスルフォン酸ソーダが用いられている。
スラリー中の石炭粒子の沈降を防止し安定化するために、
C
MC、
キサンタンガム等の安定剤が用いられる。
最大粒子径
150∼500μm
平均粒子径
10∼20μm
74μm以下の粒子
80%以上
数μm以下の微粒子
10%程度
4)レオロジー特性
CWMの流動特性は、非ニュートン流体の特性を持つが、近
似的にはビンガム流体として取り扱える。炭種、濃度、添加剤
及び流動状態等によっても流動特性は変化する。見かけ粘
度は概略1,000mPa・s(室温、剪断速度=100 /s)
である。
5)発熱量
発熱量は原料とする石炭の発熱量に依存する。平均的な低
位発熱量は4,600∼4,800kcal/kgである。
原料炭受け入れ・貯炭
3.高濃度CWMの製造プロセス
高濃度CWMの製造は、石炭を
CWMに適した粒度分布に粉
砕し、適正な添加剤(分散剤と
安定剤)
を選定し、石炭・水・添
加剤を適切に混合することにより、
高濃度・低粘性・高安定性で良
質のCWMを製造することが可
能となる。CWM製造プロセス
のブロックフローを図-1に示す。
粉 砕
高濃度湿式粉砕
石炭粉砕と水,
添加剤との
混合を一つの粉砕機で行う
低濃度湿式粉砕
乾 式 粉 砕
脱 水
粉砕石炭・水・添加剤の混合
粉砕石炭・水・添加剤の混合
混合促進
CWM貯蔵
CWM出荷
Coal Water Mixture(CWM)
図-1 CWMの製造プロセス
70
第2編 技術概要
多目的石炭利用技術〈粉体化・液体化・共利用技術〉
4C3. ブリケット製造技術
技術概要
1.背景
近年CO2等による地球温暖化問題が世界的規模で議論され、
ブリケット製造技術は、
ブリケットの安定供給を通じ、水害防止、
その吸収源である森林資源を保護するため、薪・木炭等の木
森林資源の保護に寄与する環境対策技術でもある。
質燃料消費に伴う森林伐採の抑制が課題となり、木炭の代
替燃料の開発が重要視されている。
2.乾留ブリケット
(1)
プロセス概要
(2)乾留プロセス
石炭乾留ブリケットの製造工程は、乾留工程と成型工程から
原料石炭(表面水分10%以下、粒径5mm∼ 50mm)
をロー
なる。図-1に基本プロセスを示す。
タリードライヤーで予備乾燥する。乾燥に使用されたガスはマ
乾留工程では、内熱式低温流動乾留炉(乾留温度:約450℃)
ルチクロンにて除塵し大気へ放出する。半成コークス中に約
によって、揮発分約20%の無煙半成コークスを製造する。乾
20%の揮発分を残留させ、
かつ最も効率よく乾留できる熱式
留炉はシンプルな構造で、内部に目皿や攪拌機がないため運
低温流動乾留炉の断面図を図-2に示す。
転やメンテナンスが容易である。
炉 中 付 近より、予
成型工程では、予め決められた配合量の無煙半成コークス及
備乾燥した原炭を
び副原料(消石灰、粘土)
を投入し充分な混合を行い、混合、
供 給し、炉内で流
粉砕された原料に粘結剤を添加すると同時に水分を添加し
動乾留させ炉頂よ
て水分調整する。粘結剤、水分を添加された原料は粘結剤
り乾 留ガスと共に
の混合を均一化すると共に粘度を高め、成型し易い状態にす
製品である半成コ
るため混練し、成型機でブリケットに成型された後、乾燥・冷却
ークスを取り出し、
される。
一次サイクロン、二
タール
石炭ガス
石炭
半成コークス
自然流動域
噴流域
次サイクロンにより
乾留ガスと半成コ
ークスを分離する。
石炭
スロート
空気
送風箱
半成コークスは冷
乾燥機
却された後、ストッ
半成コークス
サイクロン
破砕機
炭化装置
混練機
図-2 乾留炉断面図
クヤードに搬送され、
乾留ガスは燃焼炉に導かれる。乾留ガスは空気と混合し、耐
脱硫剤
バインダー
水
火物内張の燃焼炉で燃焼し、発生する熱風は原炭乾燥装置
及び後段のブリケット乾燥装置に導入され、原料石炭の予備
ミキサー
乾燥と成型豆炭の乾燥熱源として利用する。
成型器
ブリケット
(3)成型プロセス
乾留工程で製造した半成コ−クス
(コ−ライト)
は、適正揮発分、
乾燥機
低灰分、低硫黄の無煙・無臭のブリケット原料である。この半
図-1 プロセスフロー
成コ−クスを主要原料とし消石灰(硫黄固定剤)、成型補助
剤として粘土、及び粘結剤を混合する。
71
Clean Coal Technologies in Japan
混合した原料は製品均一化と成型性向上のため十分な混練
を行う。成型は常温で線圧約1,000kg/cm(300∼500kg/cm2)
のロ−ル式成型機で成型する。成型状況を写真-1に示す。
成型されたブリケットは連続式乾燥機で乾燥され製品となる。
ブリケットの原料である半成コークスは着火し易いため、乾燥
炉は低温で運転する必要がある。
写真-1 成型状況
3.バイオブリケット
バイオブリケットは、石炭に木材バガス
(サトウキビの絞りかす)、
ばいじん発生が多くなっている。
しかし、バイオブリケットでは石
わら、
トウモロコシの茎などの植物質(バイオマス)
を10∼25%
炭粒子間に入っている着火温度の低いバイオマス物質が同
と石炭中の硫黄量に応じた脱硫剤(Ca(OH)2)
を添加、混
時に燃焼することで、石炭の低温域で出てくる揮発分が燃焼
合し高圧で成型した固形燃料である。バイオブリケットは1∼
するために、
ばいじんの発生を大幅に減少することが出来る。
3t/cm2の高圧ブリケッティングによって、石炭粒子と繊維状の
②バイオブリケットは着火時間を大幅に短縮出来るとともに、
植物質が強く絡み合い密着しており、燃焼時にも分離せず着
膨張粘結性が低く、暖房ストーブの連続燃焼においてもブリ
火温度の低い植物質と石炭が複合燃焼する。このことから、
ケット間の通風性が保たれ、良好な燃焼特性を示す。従って、
着火性、燃焼性が良く、
ばいじんがほとんど発生せず、燃焼灰
燃焼持続性も良く暖房ストーブ等で空気量を少なくして燃焼
は砂状になってクリンカをつくらないなどの特徴がある。また、
量を落とした状態でも、立ち消えすることもなく、燃焼量の調
脱硫剤も石炭粒子に密着していることから、石炭中の硫黄と
整が容易にできる。
効果的に反応し60∼80%を灰中に固定することができる。
③石炭粒子間に繊維状のバイオマスが入っているので、燃焼
原料の石炭には、瀝青炭、亜瀝青炭、褐炭など広範囲の炭
時に石炭中の灰が溶着して塊状のクリンカを造ることがなく、
種もが適用可能である。特に灰分が多く発熱量の低い低品
灰は砂状になってロストルより落下する。そのために、通風が
位炭を利用したバイオブリケットは、
クリーン化の効果は大きく、
保たれ、燃焼が安定する。また、
クリンカを作らないので灰中の
家庭用暖房、産業用小型ボイラーなどのクリーン燃料をつくる
未燃石炭はほとんど残らない。
有効な技術である。
④バイオプリケットは高圧縮力で成型されているので脱硫剤と
(1)バイオブリケットの製造フロー
石炭粒子が強く密着しており、燃焼時に効果的に反応する・
バイオブリケット製造の基本フロー図を図-3に示す。原料の
Ca/S比が1.2∼2程度の脱硫剤の添加で石炭中の硫黄の
石炭、
バイオマスを略3mm以下に粉砕し、乾燥後、脱硫剤(Ca
60∼80%が灰中に固定される。 を混合する。次に、高圧ブリケッティングマシンで圧
(OH)2 )
縮成型する・粉状の石炭は粉砕しないで利用することも可能
石炭
バイオマス
である。また炭種によっては少量のバインダを添加する。
製造工程は、高温での処理操作はなく、乾式高圧ブリケッティ
乾燥
粉砕
ングマシンを中心に構成されており、単純な設備フローであり
乾燥
粉砕
安全で、高度な運転技術を必要としない。高圧ブリケッティン
脱臭剤
グ方式を用いているので、石炭粒子とバイオマスが強く絡み
粘結剤
合い密着するため、燃焼中でも分離しない強い成型炭ができ
粘結剤は炭種によって
必要となる場合があります。
混合
るなどの特徴がある。
(2)バイオブリケットの特徴
高圧ブリケッティング
①石炭の直接燃焼と比較するとばいじんの発生量は1/5∼
バイオブリケット
1/10に減少する。石炭の直接燃焼では200∼400°
Cの低温
域で出てくる揮発分が完全に燃焼しないで排出されるために
図-3 バイオブリケットの製造の基本フロー
72
第2編 技術概要
多目的石炭利用技術〈粉体化・液体化・共利用技術〉
4C4. 石炭・バイオマス混焼技術
研究開発者
事業の種類
開発期間
(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構、中国電力(株)、
(株)日立製作所、バブコック日立(株)
バイオマスエネルギー高効率転換技術開発
2001∼2003年度(3年間)
技術概要
1.背景
地球温暖化抑止策の一環として、再生可能エネルギーを利
種類の方法がある。一つは、単純に既設のミル(微粉炭機)に
用する発電の導入を促進する仕組みが先進諸国で実施され
木質バイオマスを投入して粉砕し、既設のバーナを用いて微
ている。そのうちの一つが、
RPS(Renewable Portfolio Standard)
粉炭とバイオマスの混合燃料をボイラで燃焼させる方法である。
制度である。わが国でも、2003年4月より「電気事業者による
この方法は設備改造が少なく、低コストである反面、通常の微
新エネルギー等の利用に関する特別措置法(RPS法)」が施
粉炭機では木質バイオマスが粉砕しにくいために、バイオマス
行され、電気事業者に一定割合の新エネルギーの発電への
の混合割合が数%を越えるとミルの電力消費量が急増する
利用を義務付けている。新エネルギー電気の基準利用量(義
問題点がある。もう一つは、バイオマス専用のミルを設ける方
務量)は、2003年度の33億kWhから2010年度には122億
法であるが、前者に比べて設備コストはかかるが、混合割合を
kWhへと拡大するものと推定されている。新エネルギーとして
大きくとることができる上、NOxの発生量を低減できるメリット
定義されたものの中にバイオマス燃料がある。
がある。
発電分野における石炭と木質バイオマス燃料の混焼は、既に
ここでは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の
欧米等で実施されているものの、新しい試みであり、種々の技
委託により技術開発が進められている後者の方法について
術課題を抱えている。微粉炭焚ボイラでの混焼は、大別して2
紹介する。
③燃焼試験及び評価
①木質バイオマスの
技術的調査
④実用化に向けたFS
②前処理技術の開発
図-1 石炭・バイオマス混焼プロセスフロー図
73
Clean Coal Technologies in Japan
2.開発目標
3.開発項目
(1)木質バイオマスの混焼率:
5∼10%
(1)粉砕を主体とした木質バイオマス前処理技術
(2)現状の環境規制値をクリア
(2)木質バイオマス燃焼技術(混焼バーナ、バイオマス専焼
(3)既設石炭火力発電所並みの発電効率:木質バイオマス
バーナ)
の混焼率5%(カロリーベース)のときに送電端効率の低
下を0.5%以下にする。
図-2 パイロット試験設備フロー
4.開発の進捗状況および成果
本プロジェクトはNEDOの委託を受けて、中国電力(株)、
(株)
現在パイロットプラントによる燃焼試験結果の評価と実用化
日立製作所およびバブコック日立(株)の共同で進めており、
に向けたFSを実施している。
研究開発スケジュール
2001年度
2002年度
2003年度
2004年度
石炭・木質バイオマス混焼技術の研究開発(NEDO委託事業)
2005年度
実証試験
受入から貯蔵,粉砕,乾燥,ボイラでの燃焼及び排煙・灰処理に至るプロセスの要素技術開発
要素技術開発の成果を踏まえた
実証試験への展開
①木質バイオマス技術的調査
②前処理技術の開発
計画
③燃焼試験及び評価
設備工事
④実用化に向けたFS
実証試験
【自治体による森林バイオマス活用検討】
活用プラン策定、
システム設計・検証
供給システム等整備・構築
●参考文献
1)前 一廣:石炭利用技術情報 NO.253 p.3-5(2002.2)
2)湯浅博司ら:平成15年度火力原子力発電大会講演集p.102-103、2003年10月福岡
74
第2編 技術概要
多目的石炭利用技術〈脱灰・改質技術〉
4D1. ハイパーコール利用高効率燃焼技術(Hyper Coal)
研究開発者
(財)石炭利用総合センター、
(独)産業技術総合研究所、
(株)神戸製鋼所
事業の種類
石炭利用次世代技術開発調査
開発期間
2002∼2007年(6年間予定)
技術概要
1.背景・目的
石炭は、他の化石燃料と比較してCO2等の環境に与える影
とで既存の微粉炭火力発電より高効率な発電が可能である。
響が懸念されるが、埋蔵量が豊富で安定供給が見込め、
かつ
従って、石炭から不純物である灰分やアルカリ金属類を除去
安価であることから、使用量は増大していくことが予想される。
すれば、
これを燃料としてガスタービンで直接燃焼させることが
そのような情勢の中で、石炭の使用に大きな割合を占めてい
可能である。
る石炭火力発電部門からCO2排出量を削減するためには、
よ
そこで、石炭を溶剤抽出・イオン交換して、灰分・アルカリ金属
り熱効率を高めた発電技術を開発し、普及していくことが重要
類を取り除いた石炭(ハイパーコール)の製造と、
それをガスタ
である。
ービンで直接燃焼させる複合発電システムについての技術
石炭を直接ガスタービン燃料とすることができれば、
ガスタービ
開発が行われている。
ン・蒸気タービンを組み合わせた複合発電システムを用いるこ
2.ハイパーコールとは?
石炭との親和性の高い溶剤で石炭を抽出し、不要な灰
分を沈降除去して作った超低灰分炭である。
図-1 石炭からハイパーコール製造の概念図
3.ハイパーコール製造装置
(2)沈降分離装置
(1)加熱濾過装置
石炭を溶剤で抽出し、急速濾過により残渣と
石炭抽出能力を持つ沈降槽(設計温度500℃、
分離してハイパーコールを製造する
(設計温
設計圧力5MPa)。縦に5つ並ぶバルブからサ
度500℃、設計圧力3MPa)。
ンプルを採取することで、加圧・加温状態での
未溶解成分の沈降状況などを知ることができ
る。
写真-1 加熱濾過装置
写真-2 沈降分離装置
75
Clean Coal Technologies in Japan
4.ハイパーコールの特徴
・灰分200ppm以下、
アルカリ金属類(Na,K)
は、
イオン交換
・揮発分多く、無灰なのでガス化用原料としても優れ、冷ガス
により、0.5ppmまで削減
効率等大幅な向上が期待される。
・発熱量は原炭より10∼20%程度高くなる
・無機イオウ分は完全除去
・固体状の微量重金属は大幅減少(1/100以下)
・製造過程で30∼40%程度発生する残渣は、一般炭として
利用可能
・製造コストはおおよそ950∼1,200円/トン-HPCと安い
・着火性、燃えきり性に優れている
・流動性が高く、直接還元鉄や非鉄金属精錬用の炭材とし
ても優れている。
写真-3 ハイパーコール連続製造試験装置(BSU)
5.ハイパーコール利用高効率発電システムプロセスフロー
海外山元(炭鉱)
粗脱灰炭
(灰分5%以下)
イオン交換塔では、高温腐
食の原因となるアルカリ金
属類を取り除きます。
乾燥塔中にフラッシュ噴霧
して溶剤と分離します。溶
剤は回収し、再利用します。
ガスタービンコンバインドサイクル発電は、
ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた
発電方式です。燃焼ガス温度1350℃級ガスタービンを使用すると、微粉炭火力発電
と比較しておよそ20%のCO2排出が削減できます。.
・
石炭を溶剤中に投入し、
加圧・加温して、石炭質を
溶剤中に分散させます。
不溶の灰分はセトラーにて
重力沈降により除去し、残
渣炭とします。石炭質が分
散した溶剤は、
イオン交換
塔へ送ります。
従来型発電方式。残渣炭を燃焼させて発電します
6.ハイパーコール利用発電システムコンセプト
7.研究開発スケジュール
76
第2編 技術概要
多目的石炭利用技術〈脱灰・改質技術〉
4D2. 低品位炭改質技術(UBC)
研究開発者
事業の種類
開発期間
(財)石炭エネルギーセンター、
(株)神戸製鋼所
産炭国適用技術共同研究事業等
2001∼2004年(4年間)
技術概要
1.背景とプロセス概況
石炭資源の約半分を占める褐炭や亜瀝青炭は低品位炭と
プロセス)
は、
このような低品位炭を有効活用するための技術
呼ばれ、発熱量が低く自然発火性があるため利用が限られて
として開発が進められている。
いる。
しかしながら、
これらの低品位炭の中には低硫黄・低灰
本プロセスは褐炭液化プロセス
(BCLプロセス)のスラリー脱
分といった瀝青炭には見られない特徴を持つものも多く、
これ
水技術を応用したものであり、1)
スラリー調製・脱水工程、2)
らを効率的に改質して発熱量の高い高品位炭に転換するこ
固液分離・油分回収工程、3)成型工程の3つの工程で構成
とができれば、エネルギーの安定供給に資するのみならず、
される。
(図-1参照)
環境問題に対する寄与も大きい。低品位炭改質技術(UBC
スラリー調整
生炭
アスファルト
スラリー脱水
デカンター
蒸発器
(140℃/350kPa)
溶剤回収
循環溶剤
排水
改質炭(UBC)
改質炭ブリケット
図-1 低品位炭改質プロセス
(UBCプロセス)の概要
スラリー調製・脱水工程では、微粉砕した高水分の低品位
水分の再吸着や湿潤熱の蓄積も防ぐ働きがある。図-2に
炭と循環油(通常は石油系の軽質油)
を混合し、少量の重
低品位炭改質のイメージ図を示す。
質油(アスファルト等)
を加えてシェル&チューブ式蒸発器で
加熱した後、水分を蒸気として回収する。この水蒸気はコン
プレッサーで加圧して蒸発器のシェル側に送り、加熱源とし
て再利用することにより、脱水過程でのエネルギー消費を大
幅に低減している。また、低品位炭は多くの細孔構造を有し、
その中の水分は蒸発過程で取り除かれるが、
この際に、少量
添加した重質油が細孔表面に効果的に吸着されることにより、
図-2 低品位炭改質の原理
自然発火を抑止する。さらに、
この重質油は撥水性も発現して、
77
Clean Coal Technologies in Japan
固液分離・油分回収工程では、脱水改質後のスラリーをデカン
ターで固液分離して循環油を回収した後、
スチームチューブラ
ードライヤーで改質炭の細孔中に残存した循環油も回収する。
UBCプロセスで得られる改質炭はそのままでは粉状であり、搬
送するために成型加工する必要がある。この改質炭は通常、
バインダレスブリケッティングが可能であり、
ダブルロール成型
器で容易に成型することができる。成型改質炭を写真-1に示
写真-1 成型改質炭
す。
2.開発目標
4.今後の課題および実用化の見通し
1)改質コスト
2005年まで、
インドネシアの西ジャワ州チレボン市に、
(財)石炭
発熱量が6,500kcal/kgの瀝青炭のFOB価格が20ドル/トンで
エネルギーセンターおよびインドネシアエネルギー鉱物資源省
あるとすれば、4,500kcal/kgの亜瀝青炭のFOB価格は、
カロ
研究開発庁が推進母体となって、
本プロセスを使った5トン/日
(原
リー 換 算 で 1 3ドル /トン 程 度と考 えられる 。これから
炭ベース)の実証プラントが建設、運転された。
(写真-2)
6,500kcal/kgの改質炭を得るとすると、処理コストは7ドル/トン
インドネシアを中心とした低品位炭産出国では、石炭生産者
がガイドラインとなる。低品位炭の特徴である低灰分などの利
のUBCプロセスに対する関心も高く、
その早期実用化が望ま
用上の利点を加味して、10ドル/トン以下の処理コストを目標と
れている。
している。
2)改質の熱効率
UBC製造から発電を含めた総合的な比較で、低品位炭の生
焚発電を上回る熱効率が得られるように、改質工程における
熱効率は90%以上を目標としている。
3.開発の進捗状況および成果
改質炭の発熱量は炭種にもよるが6,500kcal/kg程度にまで
向上され、
自然発火性も抑制される。また、成型した改質炭の
写真-2 低品位炭改質実証プラント
ハンドリング性ならびに再粉砕性は通常の瀝青炭と同程度で
あることが確認された。
さらに、改質炭は燃焼させる際に良好な燃え切り性を有してお
り、低NOx燃焼条件下でも未燃分をほとんど排出せず、優れ
た燃料としての特質を有していることも確認されている。
●参考文献
1)杉田哲ら、改質褐炭(UBC)製造プロセス開発、神戸製鋼技法、53、41(2003)
78
第2編 技術概要
環境負荷低減技術〈CO2対策技術〉
5A1. 石炭利用CO2回収型水素製造技術(HyPr-RING)
研究開発者
(財)石炭利用総合センター、
(独)産業技術総合研究所、石川島播磨重工業(株)、
バブコック日立(株)、三菱マテリアル(株)、
日揮(株)
事業の種類
石炭生産・利用技術振興補助事業
開発期間
2000∼2010年度(11年間予定)
技術概要
1.HyPr-RINGの概要
石炭は、世界的にもっとも豊富に存在するエネルギー資源であり、経
CO2分離熱の炉内利用
済的にも優れていることから、重要な一次エネルギーとして使われてい
従来のガス化では、
ガス化に必要な熱を石炭の一部を燃やして確保し
る。経済成長、人口増加に伴い、今後もその使用量は増加することが
ており、
ガス化炉内の反応は(6)式のようになる。
予想される。
一方、CO2による地球温暖化をはじめとする地球環境問題の解決が
投入石炭の炭素1モルから、水素約1モル(COから生成可能なH2も合
人類に課せられた課題となっており、石炭をクリーンにかつより効率的
わせて)が生成する。
しかし、
ガス化後に低温シフト反応器を経て、
さら
に使う技術、特に、CO2削減に貢献する技術が強く求められている。
にアミン等の低温吸収剤によってCO2を分離する必要がある。その時
本技術はそのような要求に応える技術として、将来の水素エネルギー
の水素1モルあたりのCO2ガス分離量は1モルとなる。
社会に必要な水素を石炭から製造し、供給し、同時にCO2の回収を可
従来法による水素製造の実例として、米国のTexacoガス化炉による
能とする技術として現在実用化に向けて開発を進めている。
水素製造法がある(2)。このガス化炉では熱効率は75-80%であるが、
生成した水素の冷ガス効率は約63%程度であり、
ガス化炉後段の水
素製造までの損失が大きい。
2.HyPr-RING法の原理
一方、HyPr-RING法は乾式CaO脱炭酸剤を使用し、高温(加圧)炉
HyPr-RING法は、石炭ガス化炉内に直接CO2吸収剤であるCaOを
内でCO2を吸収する。その際、CO2吸収熱は700-800℃の熱エネルギ
添加し、生成するCO2をCaCO3として固定することで、一つの炉内で
ーとして放出され、水素生成反応に共されるので、炉内温度維持のた
水素を生成してしまう方法である。CaOとH2Oとの反応により熱が発
めの石炭の燃焼熱や外熱は不要である。
生し、反応に必要な熱が炉内に供給されるので、熱的にも大きなメリッ
また、CO2吸収後のCaCO3はカ焼(再生)によって再びCaOに戻さ
トを有している。炉内で起こる一連の反応は、(1)-(4)式のようになり、
れるが、
その際に必要な熱エネルギーの50-80%はCaOの化学エネル
総括反応は、(5)式となる。
ギーに変わり、再びガス化炉内で使われる(図-2と表-1)。
さらに、(5)式から判るように、炭素1モルから水素2モルを生成すること
も大きな特徴である。
この総括反応は、C、H2O及びCaOを出発反応物とする発熱反応とな
る。すなわち、原理的には外からの熱が必要ないことになる。また、
石炭
吸収剤
水
高圧反応装置
CO2の固定によって、(2)及び(3)の反応がH2生成方向にシフトするこ
とがわかる。
図-1にHyPr-RINGプロセスの概念を示す。生成したCaCO3はカ焼に
浄水装置
よってCaOに再生することで、再び吸収剤として使われる。カ焼に必
要とされた熱エネルギーの大半はCaOの化学エネルギーとして運ばれ、
吸収剤
再生装置
炉内のH2生成反応に供される。
石炭灰
図-2. HyPr-RING水素製造プロセス
表-1. CO2分離エネルギー
炭素の発熱量(C→CO2)
CO2の吸収エネルギー
CO2/H2生成比
生成H2/モル当りの
CO2分離エネルギー
放熱量
図-1. HyPr-RINGプロセスの概念
79
HyPr-RING
(CaO吸収法)
部分化
(モノエタノールアミン吸収法)
393 kJ/mol
178 kJ/mol
0.5 mol/mol
393 kJ/mol
84.5 kJ/mol
1 mol/mol
89 kJ/mol
84.5 kJ/mol
973-1073 K
about 323 K
Clean Coal Technologies in Japan
3.HyPr-RINGのプロセス
冷ガス効率
HyPr-RING法は低温(600∼700℃)条件でガス化
し易い部分をガス化して水素に転換し、残った反応
し難いチャーはCaCO3のカ焼の燃料として利用する。
この場合、純CO 2を回収するためには、酸素による
燃焼を行う必要がある。図-3には流動層ガス化炉と
内部燃焼式カ焼炉から構成されたプロセスの例を
示す。生成ガス組成がH2 95%とCH4 5%の場合で、
冷ガス効率は約0.76となった。
ガス炉内の温度分布
反応器の入り口(I)
ではCO2濃度が低いため、CaO
が先ずH2Oと反応してCa(OH)2になり、石炭の熱分
解に熱を提供する。さらにCO 2 分圧の高い領域で
Ca(OH)2がCO2を吸収しCaCO3になり、熱を放出
する。この熱はチャーガス化反応に利用される。
CaO吸収剤利用の問題点及び解決策
図-3. HyPr-RINGプロセス
高温シンタリングによるCaOの活性低下を防ぐため、
炉内で、Ca(OH)2を経由してCO2を吸収する方法を
採用する。さらに、
カルシウム鉱物の共晶溶融を防ぐ
ため、できるだけ低温でのガス化を採用する。この場
合、発生する未反応炭素は、CaOの再生用熱源と
して利用できる。
4.プロジェクトの概要
本プロジェクトは平成12年度からスタートし、バッチ、半連続装置による
表-2. 開発目標
試験を経て、
プロセス構成の確認及びFSを実施すると共に、必要な
項 目
各種要素試験を実施した。
目 標
①ガス化効率
②生成ガス純度
③CO2回収
平成15年度から50kg/d(石炭ベース)の連続試験装置を製造して連
続試験を実施している。さらに、本試験結果に基づいてFSを実施し、
実用化プロセスを確立する予定である。表-2にプロジェクト開発目標、
①冷ガス効率:75%以上
②生成ガス中の硫黄分1ppm以下
③高純度CO2回収率:投入した石炭中の
炭素の40%以上を回収(単位エネルギー
当たりのCO2排出を天然ガス以下にする)
表-3にプロジェクト開発スケジュールを示した。
表-3. 開発スケジュール
項 目
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
(1)要素試験
(2)設計データ取得
(3)50kg/d連続装置試験
中
間
評
価
中
間
評
価
(4)FS
パイロットプラント試験
(第2フェーズ予定)
●参考文献
1) 林石英、鈴木善三、幡野博之、特許第2979149 (1999)
2) Energy Technology and the Environment, Editors: A. Bisio and S. Boots, John Wiley & Sons, New York, 1995
80
最
終
評
価
2010
第2編 技術概要
環境負担低減技術〈CO2対策技術〉
5A2. CO2回収・固定・隔離技術
技術概要
1.CO2回収技術
(1)CO2回収技術(天然ガス、合成ガス、燃焼排ガス)
中にCO2を放出している。この結果、大気中のCO2濃度が上昇
CO2の分離回収は天然ガスや合成ガスの分野において広く行わ
して地球の温暖化を引き起こしていると言われており、大気に放
れており、
既に数十年の歴史がある。天然ガス中に含まれるCO2は、
出されているCO2を削減しない限り温暖化防止にはならない。
し
それ自体役に立たない上、
天然ガスのカロリーを低下させたり、
また、
かしながら、車や船舶のような移動体からCO2を回収し、隔離す
LNGプラントやエタン回収プラントにおいてはCO2がドライアイスとな
ることは困難が点が多く、
おのずとボイラやガスタービンのような
って固化するトラブルをもたらす。そこでこれらのトラブルを防止する
固定CO2排出源からCO2を回収する方が容易である。
ためにCO2が除去されている。天然ガスやナフサを改質してH2を製
(3)排ガスからのCO2回収技術の特徴と優位性
造するプラントにおいては、
合成ガスとしてH2と同時に生成される
関西電力(株)
と三菱重工業(株)
は共同して1990年から温暖
COをCO2に変換した後、
CO2が分離されている。
またアンモニア/
化対策を目的に、発電所等の排ガスからCO2を回収する研究開
尿素プラントにおいては、
H2、
N2、
CO2混合ガスからCO2が分離され、
発を開始した。まず従来から用いられている“モノエタノールアミン”
H2、
N2から合成されたアンモニアと分離されたCO2を用いて尿素が
(MEA)吸収液をベースにした、当時最も省エネルギーのCO2回
製造されている。一方、
燃焼排ガスからCO2を分離回収するニーズ
収技術とされていた技術の評価を行った。この技術はダウ社が
は今まであまり多くなく、
食品やドライアイス製造用にわずかに行わ
開発し、
後にフロアーダニエル社が権利を取得したプロセスである。
れていたにすぎなかった。天然ガスや合成ガスからCO2を分離する
このMEAをベースにした技術は、CO2回収に必要なエネルギー
場合、
ガスが高圧であることからCO2の分離は比較的容易であるが、
が大きいこと、吸収液の劣化が早く損失が大きいこと等の問題
燃焼排ガスからCO2を分離回収する場合、
排ガスの圧力レベルが
があり、温暖化対策用に大規模プラントに用いる場合、問題が
非常に低いことと、
また排ガス中に酸素やSOx、
NOx、
煤塵を含む
あることが判明した。関西電力(株)
と三菱重工業(株)
は基礎
ことから、
技術的にも困難な点が多い。
研究から開始し、
新しい吸収液の探索を行った結果、
省エネルギ
(2)固定排出源からCO2回収を行う必要性
ーでかつ劣化と損失が少ない新吸収液を開発し、既にマレーシ
化石燃料(石油、天然ガス、石炭)は、
そのほとんどが、
ボイラ、
ガス
アにおいて尿素製造用に実用化している。
タービンや内燃機関の燃料に使用され、燃焼排ガスとして大気
2.CO2隔離技術
CO2の隔離方法としては地中隔離と海洋隔離が広く研究され、
地
ーにおいては既に実施されている。日本の場合、
ノルウェーと同様
中隔離は既にコマーシャルプロジェクトが実施されている。CO2の
に大陸棚に分布する帯水層へのCO2隔離が最も現実的と考えら
地中隔離としては原油増産回収(EOR)法と、
炭層隔離とともに
れている。帯水層以外にも既に生産を終えた廃油田、
廃ガス田へ
行われるコールベッドメタンの回収法があるが、
単にCO2の隔離の
廃ガス田は、
太古の昔から、
そ
のCO2隔離も可能である。廃油田、
みを目的とした場合、
帯水層隔離、
廃油田、
廃ガス田への隔離法も
の上部に油、
ガスの漏れない地質構造があったために油田、
ガス
ある。図1にCO2回収とEORを組み合わせた概念図を示す。
田ができたものであり、
ここへのCO2圧入はCO2の漏れに対する安
CO2によるEORは1970年代から米国を中心に商業化されており、
全性が確認された場所と考えられている。
現在毎日約20万バレルの原油増産が行われている。米国以外で
もカナダやトルコ、
ハンガリーなどで実施されている。実際CO2の用
途別消費量では、
EOR用が最も大きい。地下の帯水層は、
地球
上で堆積層が存在する所には広く分布している。日本は火山国で
あり地震国であるため、
帯水層も少なくまた構造も小さいが、
それで
もCO2隔離の可能性を求め調査が行われている。地中の空げき
のある地層では、
その空げきに水(主に塩水)が入っているが、
ここに
CO2を圧入し水を押しのけ、
CO2を隔離することができる。
ノルウェ
写真-1 発電所排ガスからCO2を回収しEORを行う概念図 ●参考文献
飯嶋正樹ら、
「CO2回収・有効利用・固定化と事業化」、三菱重工技報、39(5)、286(2002)
81
Clean Coal Technologies in Japan
5A3. CO2転換技術 技術概要
1.尿素製造
現在尿素は主に安価な天然ガスを原料にアンモニアを合成し、
整し、尿素の生産量最大化が可能となる。三菱重工業(株)
その時のオフガスのCO2とアンモニアから尿素が合成されて
がマレーシアペトロナスファーティライザー社に納入したプラン
いる。
しかしながら天然ガスを原料として尿素を合成する場合、 トはこの目的に合致したものである。同プラントの外観を写真
アンモニアとオフガスのCO 2のバランスからCO 2が不足する
1に示す。
場合がある。この場合、天然ガスから水素とCOを製造する改
質炉(スチームリフォーマ)の排ガスからCO2を回収し、尿素合
成用に供給することにより、
アンモニアとCO2のバランスを調
2.メタノール製造
メタノールも現在主に天然ガスを原料に製造されている。天
然ガスをスチームリフォーミングしてH2とCOを合成するとH2と
COとの比率は3:1となる。一方、
メタノール合成のためにはH2
とCO比率は2:1が最適であり、
スチームリフォーマ排ガスから
CO2を回収し、炭素分のCO2をプロセス内に添加することによ
りメタノールの生産量を最大化することができる。現在サウジ
アラビアのメタノールプラントの生産能力向上のため、CO2を
添加する計画が進んでいる。図-1は天然ガスを原料としてメタ
写真1 プラント全景
ノールを生産するプロセスにおいて、
スチームリフォーマ排ガス
からCO2を回収しH2とCOの比率をメタノール合成に最適化し、
CO2
CO2 回収
排ガス
メタノールの生産量を増大させるシステムを示す。
天然ガス
スチーム
合成ガス
コンプレッサー
改質炉
メタノール
合成
メタノール
燃料
3.DME(ジメチルエーテル)製造
DMEは現在、
メタノール経由で合成されている。プロセスでは、
図-1 メタノールブランドにおいて排ガスからのCO2を回収し
メタノールを増産するシステム
前記メタノール製造と同様のシステムが用いられる。
CO2
CO2 回収
排ガス
天然ガス
スチーム
4.GTL製造
合成ガス
コンプレッサー
改質炉
GTLとはGas to Liquidの略で一般には天然ガスから灯油、軽
メタノール
合成
DME
合成
燃料
油をフィッシャー・
トロプシュ法(FT法)により合成する方法で
図-2 排ガスからのCO2回収を組込んだDME製造システム
ある。このGTL合成にはメタノールと同様にH2とCOの比率を
CO2
2:1に調整する必要があり、
メタノール生産と同様にスチーム
CO2 回収
排ガス
リフォーマ排ガスからCO2を回収しプロセス系内に投入するこ
天然ガス
スチーム
とによりH2とCO2の比率調整が可能となる。一方、全体シス
改質炉
合成ガス
コンプレッサー
FT
合成
液体燃料
Fuel
テムとしては、FT合成系からの反応に寄与しないCO2をスチ
図-3 排ガスからのCO2回収を組込んだ液体燃料製造システム
ームリフォーマ前流にリサイクルする方法を用いる。
●参考文献
飯嶋正樹ら、
「CO2回収・有効利用・固定化と事業化」、三菱重工技報、39(5)、286(2002)
82
DME
第2編 技術概要
環境負担低減技術〈CO2対策技術〉
5A4. 微粉炭酸素燃焼技術(CO2回収技術)
研究開発者
(財)石炭利用総合センター、電源開発(株)、石川島播磨重工業(株)、
日本酸素(株)、
(財)産業創造研究所
事業の種類
開発期間
石炭生産・利用技術振興補助事業
1992∼2000年(8年間)
技術概要
1.背景とプロセス概要
近年の地球温暖化問題の中で、CO2 排出抑制に向けた努力
また、
さらに高効率を目指した酸素吹きのIGCCを適用したCO2
が世界的に進められている。特に石炭は将来においても持続
回収システムについても別途検討を行った。
的なエネルギー資源として期待されているものの、環境負荷物
通常の回収方法
質(SOx、NOx、CO2など)の排出量が多いことでも知られている。
煙突
また、単位発熱量当たりのCO2発生量が多いことから、
さまざま
石炭
な視点でCO2回収・隔離技術に関する研究開発が取り組まれ
ボイラ
脱塵
脱流
空気
CO2
回収分離
圧縮機
ている。このような中、酸素(O2 /CO2 )燃焼を適用した石炭火
CO2
回収
力発電プラントからのCO2回収技術開発に取り組み、研究を進
めてきた。酸素燃焼からのCO2回収は、大規模石炭火力からの
直接的CO2回収方法の一つとして期待されるものである。
酸素燃焼による回収方法
通常の石炭火力発電所において、通常石炭は空気により燃焼
石炭
空気
されている。空気は、N2を79%含んでおり、燃焼過程においては
N 2がそのまま排出されることとなり、燃焼排ガス中CO 2 濃度は
空気分離
装置
圧縮機
ボイラ
脱塵
O2/CO2
排ガス再循環
13∼15%に留まる。一方、酸素燃焼は燃焼用空気から酸素を
分離し、その酸素で直接石炭を燃焼させることで排ガス中の
CO2濃度を90%以上まで高めることができ、排ガスをそのまま回
図-1 酸素燃焼と通常空気燃焼からのCO2回収とのプロセス比較
収することができ、CO2回収に有効なシステムである
(図-1参照)。
2.開発の成果
微粉炭酸素燃焼発電システムは、酸素製造・燃焼・排ガス処
理のプロセスから構成され、従来の微粉炭火力システムに、
酸素製造装置、排ガス圧縮設備が追加されたものである。酸
素製造装置はスケールメリットの面で優れ、大規模プラントの
実績もある深冷分離方法を採用することとし、製造最適酸素
純度については、酸素製造動力および回収ガス圧縮機の動
力を考慮し、
消費動力が最も小さくなる低純度酸素濃度(97.5%)
を選定した。システムとして、酸素予熱器にノンリーク型熱交
換器を採用したこと、
ガス圧縮による地中処分を想定している
ことから、脱硫・脱硝装置をなしとしたことなどが主な特徴である。
図-2 酸素燃焼を適用したCO2回収型発電プラントのイメージ図
83
CO2
回収
Clean Coal Technologies in Japan
図-2には、CO2回収型微粉炭酸素燃焼発電プラントのイメー
本システムは、COシフト反応でCO2への変換割合(CO2除去
ジ図を示す。
率)
を変化できること、
またガスタービンにはCO2を除去した後
将来の高効率発電技術として期待されているIGCCからの
のガス(主にH2)が供給されるため空気での燃焼が可能で、
CO2回収について、
システムの検討および性能検討を実施し
その分酸素製造量が減らすことができる特徴的なシステムで
た。システムの検討は、1000MW級の発電容量、1300℃級ガ
ある。本システムにおいて、CO2除去率約60%での送電端効
スタービンをベースとし、空気分離装置から回収CO2の圧縮ま
率が39%以上を達成できており、現在の最新鋭微粉炭火力
でを検討範囲としている。
と同等の効率を得られることが確認できている。また、1500℃
経済的および効率的なCO2回収型IGCCシステムとして、酸
級ガスタービンを適用することで、CO2除去率90%以上、送電
素吹きガス化、
ガス化ガスからCO2除去、空気燃焼ガスタービ
端効率を40%近くまで向上できることも確認している。
ンによる燃焼システム方式(図-3参照)
を得ることができた。
回収CO2
CO2圧縮
CO2
ガス化
CO2
H2
H 2O
CO2
CO
石炭
ガス精製
COシフト
N2
H2
H2
CO2除去
HRSG
H2O
水蒸気
空気
空気
N2
空気分離
空気燃焼GT
抽気
図-3 CO2回収型IGCCシステム
3.今後の課題および実用化の見通し
本研究開発をとおして、CO 2回収型酸素燃焼発電システム
の、地球温暖化の抑制、CO2排出削減に向けた有効な発電
およびCO2回収型IGCCに関し、CO2回収技術の一つとして、
システムを提案できたと考えている。今後の実用化に際しては、
性能および経済的に優位な発電システムを提案でき、
また、
これら結果を踏まえ積極的に取り組んでいくこととし、既設プラ
基礎的な燃焼試験でも学術的に貴重な結果(排出NOx低
ントに本技術適用の場合ならびに新設プラントの場合など、
減効果など)が得られた。
CO2回収型微粉炭酸素燃焼システムとCO2回収型IGCCの
酸素燃焼を適用した発電システムの安全性、CO 2 回収型
適用をそれぞれ考慮していく。
IGCCの運用性などの技術的検証課題がまだ残っているもの
●参考文献
1)下田博巳、第10回石炭利用技術会議講演集、pp.211(2000)
2)S. Amaike, Proceeding of the 5th ASME/JSME Joint Thermal Engineering Conference,“AJTE99-6410”(1999)
,
84
第2編 技術概要
環境負担低減技術〈排煙処理・ガスクリーニング技術〉
5B1. SOx処理技術
技術概要
1.背景
硫黄酸化物SOx(主にSO2)の規制については、排出口の
性能化およびコスト低減が図られてきた。現在、
ほとんどの微
高さおよび地域毎の係数により許容量が定められるK値規
粉炭焚き火力発電所には、湿式石灰石-石膏法を用いた脱
制と地域全体の総排出量を定めた総量規制がある。このよ
硫装置が設置され、
さらには、排水処理を不要とする乾式脱
うな規制に対し、1973年、排煙脱硫装置が実用化され、高
硫法の開発が進められ、実用化しつつある。
2.技術
(1)湿式石灰石・石膏法
研究開発者
三菱重工業(株)、バブコック日立(株)、
する。総括反応は次のようになる。
石川島播磨重工業(株)、千代田化工建設(株)、
CaCO3+SO2+0.5H2O→CaSO3・0.5H2O+CO2
川崎重工業(株)、他
CaSO3・0.5H2O+0.5O2+1.5H2O→CaSO4・2H2O
●概要
吸収塔の方式には、図-1に示すようにCaSO3・0.5H2Oの酸
石灰石−石膏法においては、前流に集じん、HCl
・HFの除
化塔を別置にした方式と、一体化した内部酸化方式がある。
去および冷却を行う除じん塔(冷却塔)
を配したスート分離
現在、
設備費、
運転費が低減できる内部酸化方式の比率が年々
方式と除じん塔を持たないスート混合方式がある。スート分
増加している。吸収塔部での循環吸収液とSO2を接触させる
離方式は、
ばいじんなどを含まない純度の高い石膏を要求す
方式には、吸収液を噴霧するスプレー方式、
グリッド状の充填
る場合に採用される。
しかし、現在、低温電気集じん装置の
物の表面に吸収液を流すグリッド方式、吸収液に排ガスを吹
ような高性能な集じん装置が開発され、
ばいじん濃度が低く
き込むジェットバブリング方式、吸収塔内で吸収液を噴水状に
なっており、設備費の安いスート混合型の採用が多くなって
流す水柱方式などがある。
いる。
また、発展途上国用としては、排ガス煙道や煙突下部に設置
一方、吸収塔では、水と混ぜた石灰石スラリーと排ガス中の
できる簡易型も実用化されている。
SO2を反応させ、硫黄分を石膏(CaSO4・2H2O)
として回収
図-1 石灰石-石膏法脱硫方式概要
85
Clean Coal Technologies in Japan
(2)石炭灰利用乾式脱硫法
研究開発者
北海道電力(株)、
(株)日立製作所、バブコック日立(株)
られ、
さらに集じんおよび脱硝能力もあり、脱硝率約20%、集
事業の種類
石油代替エネルギー関係技術実用化開発費補助金
じん率96%以上が得られている。2003年度時点においては、
1986∼1989年
北海道電力苫東厚真火力発電所1号機(35万kW)の排ガ
開発期間
スの半量に処理する設備として設置され、稼動している。
●概要
石炭灰の有効利用の一環として開発された技術である。石
炭灰、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)および使用済みの吸
石
炭
灰
硝
石
灰
使用済
脱硫剤
収剤から新規に吸収剤を製造して、
この吸収剤を用
ボイラ
混練機
いて排ガス中のSOxを除去する方式である。図-2にそのプ
コンベア
押出
成形機
乾燥器
熱空気
脱サ
硫イ
料ロ
混合機
ロセスの概要を示す。このプロセスは吸収剤の製造工程も
排ガス
水
コンベア
前
置
吸
収
塔
主
吸
収
塔
蒸気
含んでいる。脱硫反応としては、Ca(OH)2によりSO 2が除
ク
リ
ー
ン
ガ
ス
脱硫ファン
計量器
計量器
スクリーン
蒸気養正装置
去される。温度条件は100∼200℃で脱硫率90%以上が得
使用済脱硫剤
破砕機
図-2 石灰石-石膏法脱硫方式概要
(3)スプレードライヤー法
研究開発者
電源開発(株)、三菱重工業(株)、北海道電力(株)
(CaSO3・0.5H2O)の混合粒子となる。この粒子は後流の
事業の種類
自主、
グリーンエイドプラン
集塵機で回収される。この方式では良質の石膏は得られず、
さらに灰も混入するため、脱硫後の粒子は廃棄物として処
●概要
半乾式法と呼ばれる方法で、生石灰(CaO)に水を加えて、
理される。電源開発は、
「グリーンエイドプラン」の一環として
スラリーを作り、
スプレードライヤー内に
消石灰(Ca(OH)2)
中国青島の黄島発電所4号機(21万kW)に排ガス処理量
噴霧して、排ガス中のSO2とCa(OH)2を反応させて除去す
30万m3N/h:半量)のスプレードライヤー脱硫装置を設置し、
る方法である。
ドライヤー内では、脱硫反応と石灰の乾燥が
脱硫率70%の実証試験(1994∼1997)
を行い、現在稼働
同時に生じ、石膏(CaSO 4 ・2H 2 O)や亜硫酸カルシウム
中である。
(4)炉内脱硫法
研究開発者
事業の種類
北海道電力(株)、九州電力(株)、電源開発(株)、
現在、電源開発(株)竹原火力発電所2号機常圧型流動
中国電力(株)、三菱重工業(株)、
床ボイラー、北海道電力(株)苫東厚真火力発電所・加圧
石川島播磨重工業(株)、川崎重工業(株)
流動床ボイラー、九州電力(株)新苅田火力発電所・加圧
自主
流動床ボイラーおよび中国電力(株)大崎火力発電所・加
●概要
圧流動床ボイラーで採用されている。
流動床ボイラーに用いられる脱硫法である。脱硫用の石灰
また、加圧流動床ボイラーでは、CO2分圧が高いため、石灰
石は石炭と混合し、石炭と同時に供給され、以下の反応に
石はCaOに分解せず、以下の反応によりSO2が除去される。
より炉内温度760∼860℃で、SO2を除去する。
CaCO3+SO2→CaSO3 +CO2
CaCO3→CaO+CO2
CaO+SO2→CaSO3
●参考文献
1)「入門講座火力発電所の環境保全技術・設備、 脱硫設備」火力電子力発電Vol.41 No.7,911, 1990
2)工藤他「石炭灰利用乾式脱硫装置の開発」火力電子力発電Vol.41 No.7,911, 1990
3)「石炭利用乾式排煙脱硫装置」パンフレット,北海道電力
4)火力発電総論電気学会,2002
86
第2編 技術概要
環境負担低減技術〈排煙処理・ガスクリーニング技術〉
5B2. NOx処理技術
技術概要
1.背景
窒素酸化物の規制については、燃料の種類、ボイラの規模
改善やコスト低減が図られてきた。脱硝法としては、主にアン
毎に濃度が定められている。
しかし、現在はさらに規制が強化
モニアを用いて窒 素 酸 化 物を分 解する選 択 接 触 還 元
され、硫黄酸化物と同様に地域全体の総排出量を定めた総
(SCR:Selective Catalytic Reduction)
法が用いられてい
量規制が定められている地域もある。このような規制に対し、
る。
1977年、排煙脱硝装置が実用化され、脱硝触媒の耐久性の
2.技術
(1)選択接触触媒還元法
研究開発者
三菱重工業(株)、石川島播磨重工業(株)、
400℃以上の高温になるとNH3が酸化され、
それに伴いNH3
バブコック日立(株)、他
が減少し、
脱硝性能は低下する。
また、
脱硝装置からリークす
●概要
リークするNH3が多
るNH3は5ppm以下になるよう設計され、
を排ガスに吹き込み、触媒によりアンモニ
アンモニア(NH 3)
いと排ガス中のSO3と反応して、
NH4HSO4が生成し、空気
ア(NH3)
と窒素酸化物NOx(NO、NO2)
を選択的に反応させ、
予熱器で析出することにより、配管の詰まりが生じる。
水(H2O)
と窒素(N2)に分解する方法である。脱硝装置では、
脱硝率は、微粉炭焚き火力発電所で80∼90%程度である。
排ガス中にばいじんが同伴するため、写真-1及び写真-2に示
一方、ボイラの大型化に対応して、NH 3の排ガス中への均
す格子状および板状の触媒が主に利用されている。触媒は、
一な分散・混合および排ガス流れの均一化を図るため、
ガス
図-1に示すように反応器に充填され、触媒層入口部に吹き
入口部におけるガイドベーンと呼ばれる整流板の設置やガ
込んだNH3との反応によりNOx(NO, NO2)
は水蒸気(H2O)
ス入口部を格子状に分割して、
それぞれにNH3注入ノズルを
と窒素(N2)に分解する。触媒の成分は、TiO2を主成分とし、
配置するなどの工夫がされている。
活性成分であるバナジウム(V)
タングステン(W)
などが添加
されている。
4NO + 4NH3 +O2 → 4N2 + 6H2O
操作温度域は触媒が性能を発揮する350℃である。これより
低温では、排ガス中のSO3がNH3と反応し、硫酸水素アンモ
ニウム(NH4HSO4)
を生成して触媒表面を覆い、脱硝性能を
低下させる。350℃以上になると、
このNH4HSO4は分解する
ためSO3濃度に関係なく、高い脱硝性能が得られる。
しかし、
写真-1 格子状触媒
図-1 選択接触還元法脱硝プロセス
写真-2 板状触媒
87
Clean Coal Technologies in Japan
(2)無触媒脱硝法
(SNCR: Selective Non-Catalytic Reduction)
研究開発者
中部電力(株)、三菱重工業(株)
事業の種類
自主
●概要
図-2に示すように排ガス温度850∼950℃のボイラ部にNH3
を吹き込み、触媒を用いずにNOxをN2とH2Oに分解する方法
注入ノズル
である。この方法では、触媒が不要でかつ設備コストが低い
利点を有するが、NH3/NOxモル比が1.5で脱硝率は40%程
ノ
ズ
ル
冷
却
用
缶
水
度と低いため、高い脱硝率を必要としない地域や装置におい
て用いられる。また、選択接触還元法に比べ、NH3のリーク量
AH
が多く、SO3濃度の高い排ガスにおいては、NH4HSO4の析
アンモニア
出に対する対応が必要となる。この技術は、主に事業用小型
SAH
混合器
ボイラやごみ焼却炉等で用いられている。火力発電所におい
希釈用空気
ブースタファン
ては、1977年に重油を燃料とした中部電力知多火力発電所
図-2 無触媒脱硝法脱硝プロセス
2号機(37.5万kW)に設置されたのみである。
(3)ラジカル照射法
研究開発者
事業の種類
(財)石炭利用総合センター
石炭生産・利用技術振興費補助金
●概要
図-3に示すようにNH3にアルゴンプラズマを照射し、NH2-や
NH2-などのプラズマを生成させて、
これをボイラ内に吹き込む
ことによりNOxをN2とH2Oに分解する方法である。目標性能
としてNOx濃度10ppm以下を狙った技術である。
図-3 ラジカルインジェクション法の概要
●参考文献
1)小澤政弘他、
「排煙脱硝装置の最新技術」,石川島播磨技報,Vol.39, No.6, 1999
2)仙石忠正他、
「ボイラ用無触媒脱硝法」,火力原子力発電,Vol.29,No.5,1978
3)石炭利用次世代技術開発調査環境調和型石炭燃焼技術分野(高度排煙処理技術)NEDO成果報告書,2002.3
4)平野雅幸、
「大型ボイラ・ガスタービン用排煙脱硝装置の新技術」,火力電子力発電, Vol.50, No.8,1999
88
FDF
第2編 技術概要
環境負担低減技術〈排煙処理・ガスクリーニング技術〉
5B3. 同時脱硫脱硝技術
技術概要
1.背景
湿式脱硫法は、技術的にも完成された方法であるが、多くの
となる。このため、用水、排水処理および触媒を必要とせずに、
用水および高度な廃水処理を必要とする。また、既に実用化
同時に脱硫と脱硝を行う乾式同時脱硫脱硝法の開発が進
されているアンモニア選択接触触媒還元(SCR)脱硝法では、
められている。
高価な脱硝触媒の寿命管理、
リークアンモニア対策が必要
2.技術
(1)活性炭吸着法
研究開発者
電源開発(株)、住友重機械工業(株)、三井鉱山(株)
施した。SOxは一段目の脱硫塔でほぼ完全に除去され、脱硝
事業の種類
自主、石炭利用振興補助事業
性能についても脱硝効率80%を達成している。
●概要
この技術は、処理ガス量15万m3N/h規模にスケールアップさ
活性炭吸着法は、活性炭上で排ガス中のSO2と吹き込んだ
れて実証され、1995年に竹原石炭火力発電所2号機の常圧
NH3とを120∼150℃で反応させ、SO2を硫酸水素アンモニウ
型流動床ボイラー(35万kW)の脱硝装置に採用され、稼働
ム(NH4HSO4)や硫酸アンモニウム((NH4)2SO4)の形態
している。さらに、2002年に電源開発磯子火力発電所新1号
に変換して吸着・除去し、NOxをSCR法と同様に窒素と水に
機(60万kW)の脱硫装置(写真-1)
として設置され、稼動中
分解するものである。図-1にプロセスを示す。一段目の移動
である
(ただし、高環境性を維持するため、別途、脱硫装置が
床吸着塔(脱硫塔)でSO 2が除去され、二段目(脱硝塔)で
設置されている)。
NOxが分解される。この活性炭吸着法では、SO2が高濃度で
存在すると脱硝効率が低下するため、最初に脱硫を行い、
そ
の後に脱硝を行う方式となっている。
また、NH4HSO4を吸収した活性炭は脱離塔で350℃以上に
加熱され、NH4HSO4はNH3とSO2に分解され、脱離し、活性
炭は再生される。脱硫塔でNH3を吹き込まなくても、SO2は硫
酸(H2SO4)の形態で吸着・除去が可能であるが、
この脱離
時に、以下のような炭素分との反応が生じ、活性炭を消費す
るため、
これを防止する目的で脱硫時にNH3が添加されている。
図-1 活性炭法脱硫プロセス
H2SO4 → SO3 + H2O
SO3 + 0.5C → SO2 + CO2
脱離されたSO2は900℃で石炭により単体硫黄に還元されて
回収される。また、SO3を酸化して硫酸として回収する方式も
ある。この技術は、電源開発松島火力発電所において開発
が進められ、最初に、処理ガス量30万m3N/h規模(9万kW相
当)
の活性炭脱硫法(一塔の吸着塔)
の実証試験(1983-1986)
図3-4-B-3 選択接触還元法脱硝プロセス
が行われ、脱硫率98%、脱硝率30%程度を得ている。さらに
脱硝性能を向上させるため2塔にした処理ガス量3000m3N/h
の同時脱硫・脱硝パイロットプラント試験(1984-1986)
を実
写真-1 活性炭法脱硫装置
89
Clean Coal Technologies in Japan
(2)電子ビーム法
度で脱硫率98%以上、脱硝効率80%が得られる。また、脱硫
研究開発者
日本原子力研究所、中部電力(株)、
(株)荏原製作所、他
性能は、入口SO2濃度に影響しないが、脱硝効率は、SO2濃
事業の種類
自主
度が高いほど高くなるという特徴を持つ。この技術は、荏原製
●概要
作所と米国エネルギー省等の共同出資により技術開発が進
図-2に示すように排ガス中のSOxおよびNOxと吹き込んだ
められた(1981-1987)。この成果を基に、国内では、中部電
NH3とを電子ビームを照射して反応させ、微粒の硫酸アンモ
力(株)新名古屋発電所にパイロットプラント(処理ガス量
ニウム((NH4)2SO4)や硝酸アンモニウム(NH4NO3)にして
12000m3N/h)
が建設され、技術が検証された(1991-1994)。
後流の集塵機で回収する方法である。副生物である硫酸ア
また、中国四川省成都熱電工場(熱併給の発電所)に処理
ンモニウムおよび硝酸アンモニウムは肥料として使われる。
ガス量30万m3N/h(9万kW)のプラント
(写真-2)が設置され、
性能については、70∼120℃において、NH3/NOモル比が1程
脱硫率80%の条件で実証運転されている。
既設 空気 乾式電気
ボイラ 予熱器 集じん器
煙突
空気
冷却水
電子ビーム発生装置
乾式電気集じん器
反応器
冷却塔
造粒設備
アンモニア設備
窒素肥料
(硫安・硝安)
図-2 電子ビーム法脱硫プロセス
写真-2 電子ビーム法脱硫装置
●参考文献
1)花田他、
「石炭火力発電所における乾式脱硫脱硝技術乾式活性炭法硫黄回収式」火力電子力発電, Vol.40, No.3,1989
2)「生まれかわる磯子火力発電所」パンフレット電源開発
3)青木、
「電子ビーム排ガス処理技術」,燃料協会誌, Vo.69, No.3,1990
4)S.Hirono 他、”Ebara Electro-beam simultaneous SOx/Nox Removal”, proc 25th Int Tech Conf Util Sys 2000
90
第2編 技術概要
環境負担低減技術〈排煙処理・ガスクリーニング技術〉
5B4. ばいじん処理技術・微量元素除去技術
技術概要
1.背景
ばいじんの規制については、NOxと同様に燃料の種類、ボイ
発電技術として加圧流動床燃焼発電技術や石炭ガス化複
ラの規模毎に濃度が定められている。
しかし、現在は硫黄酸
合発電技術の開発が進められ、
サイクロンや精密に除去する
化物、窒素酸化物と同様に地域全体の総排出量を決めた総
セラミックフィルター、金属フィルターが使われている。
量規制が定められている地域もある。このような規制に対し、
一方、現在、排水規制におけるホウ素(B)、
セレン(Se)の追
1966年、世界で初めて横須賀火力発電所に電気集塵器が
加や米国における水銀(Hg)の規制など、微量元素に関する
導入され、主に火力発電所に導入されている。また、高効率
規制が強化されつつある。
2.技術
(1)電気集じん法
研究開発者
三菱重工業(株)、
(株)
日立製作所、
住友重機械工業(株)、他
直流高電圧
●概要
電極
電気集じん法は、図-1に示すように放電極におけるコロナ放
電によりマイナスに帯電したばいじんが、
プラス極の集じん電
極に付着する原理を利用して排ガス中のばいじんを除去する
放電電極
方式である。電極に付着したばいじんは、槌打ち装置で電極
捕集された
灰塵
に振動を与え、剥離落下させる。集じん性能はばいじんの電
集塵電極
気抵抗に依存し、見かけの電気抵抗率が104∼1011Ω・cmの
範囲の粒子が適しているが、微粉炭火力においては電気抵
抗が高い粒子が多く、高電気抵抗粒子に対する様々な対策
が取られている。
排ガス
ボイラから
この対策としては、集じん温度の調整がなされている。電気抵
図-1 活性炭法脱硫プロセス
抗は図-2に示すように温度とともに変化する。この特性を利
用し、操作温度を従来の低温電気集塵器(130∼150℃)
よ
り高くして350℃にすることにより電気抵抗を下げて運転する
高温電機集塵器、操作温度を露点以下(90∼100℃)にして
電気抵抗を下げて運転する低低温電気集塵器が開発・実用
化されている。また、集じん極でのばいじんの堆積による逆電
離を防ぐため、集じん極を移動させてばいじんをブラシで除去
する移動電極方式や電極に液膜を流し、
ばいじんを洗い流す
半湿式電気集塵器が実用化されている。同時に、放電方式
による対策も行われており、電圧を数ミリセカンドオーダーでパ
ルス状に与える間欠荷電方式や数十マイクロセカンドオーダ
ーで与えるパルス荷電方式も実用化されている。現在、1990
年以降に新設された主な微粉炭火力においては、様々な性
状のばいじんに対応できる低低温電気集塵器が採用されて
図-2 活性炭法脱硫装置
いる。
91
Clean Coal Technologies in Japan
(2)高温集じん法
(株)、
(株)
日立製作所、
研究開発者 三菱重工業
川崎重工業(株)、他
●概要
加圧流動床燃焼発電技術や石炭ガス化複合発電技術(IGCC)
IGCCにおいては、勿来200トン/日IGCCパイロットプラントで
において高温のガス中のばいじんを除去する技術として開発
検証されると共に、EAGLEプロジェクトおいて検証されている。
が進められている。この技術においては、
マルチサイクロン、
セ
また、2007年に稼動予定のIGCC実証機(25万kW)にも採
ラミックや金属を用いたフィルター、珪砂やムライトなどのろ過
用される予定である。
材層にガスを通してばいじんを除去するグラニュラーベッド法
が用いられている。マルチサイクロンについては、粗取り用とし
て主に用いられている。精密に除去する方法として、SiCなど
の無機材料や鉄アルミ合金を円筒状多孔質体に成形したセ
ラミックおよび金属フィルター(写真-1)が使われている。これ
らフィルターについては、
日本碍子や海外のポール・シューマッ
ハ社などで開発したものが用いられている。現在の技術につ
いては、耐久性評価や実証が進められており、北海道電力苫
東厚真火力発電所の加圧流動床燃焼発電に用いられ、
写真-1 SiC製セラミックフィルター
(3)微量元素除去技術
研究開発者
事業の種類
(財)石炭利用総合センター
石炭生産・利用技術振興費補助金
●概要
石炭中に含まれる微量元素の中で、大気に放出される割合
石炭利用総合センターは、水銀を吸収する物質として活性炭、
が最も高い物質として水銀が挙げられ、集塵装置や脱硫装
天然無機鉱物、石灰石など選定して吸収特性を評価している。
置で除去できなない約3割が大気放出されると言われている。
この成果として、活性炭やFCC灰触媒を煙道に吹き込みに
はほとんど除去され、排出される水銀
また、2価の水銀(Hg2+)
よる金属水銀除去と排煙処理装置での除去を組み合わせる
は0価の水銀(Hg)
である。この0価の水銀を除去する方法に
ことにより、容易に水銀を90%以上除去できることを示してい
ついて、検討が進められている。まだ、基礎研究段階であるが、
る。
●参考文献
(1)「火力原子力発電必携第6版」,火力電子力発電協会,2002
(2) 佐藤、
「高温電気集じん装置の設計と運転実績, 火力原子力 ,Vol34,No.4,1983
(3) 土屋他、
「石炭火力用高性能排煙処理システムにおける低低温EP技術の開発」,
(4) 「石炭ガス化複合発電の実現に向けて」,電中研レビュー,No.44,2001三菱重工技報, Vol.34, No.3,1997
(5) 石炭利用次世代技術開発調査環境調和型石炭燃焼技術分野(微量元素の測定および除去技術)NEDO成果報告,2003
92
第2編 技術概要
環境負担低減技術〈排煙処理・ガスクリーニング技術〉
5B5. ガスクリーニング技術
技術概要
1.背景
石炭ガス化ガスを用いた発電技術や燃料合成技術を開発す
これらの湿式ガス精製法の問題点を解決するため、現在、高
るためには、
硫黄化合物(H2S、
COS)
、
ハロゲン化物(HCl、
HF)
温のまま石炭ガス化ガスを精製する乾式ガス精製技術の開
などのガス成分を除去する必要がある。この技術として、図-1
発が進められている。
に示したように、水スクラバーで水溶性のハロゲン化物等を除
去し、
その後、
メチルジエタノールアミン(MDEA)吸収液等の
アミン系吸収液により脱硫してガスを精製する湿式ガス精製
法が主に用いられている。
しかし、
この方法では、室温程度ま
でガスを冷却する必要があるため、熱損失が大きい。さらに、
熱交換器に加え、除去しにくいCOSをH2Sに変換する触媒が
必要となるためプロセスが複雑となる。また、硫黄化合物を
1ppmレベルまで精密に除去することは困難である。
図-1 湿式ガス精製プロセス
2.技術
(1)乾式脱硫法
研究開発者
(財)石炭利用総合センター、IGCC研究組合
検証している。一方、電力中央研究所−三菱重工業(株)
は、
(財)電力中央研究所、川崎重工業(株)
固定床脱硫システム(図-4)に用いることを前提に、酸化鉄系
石川島播磨重工業(株)、三菱重工業(株)
事業の種類
ハニカム脱硫剤を開発した。さらに、勿来200トン/日IGCCパ
噴流床石炭ガス化発電プラント、他
イロットプラントプロジェクト
(石炭ガス量:43600m3N/h)にお
●概要
いて、石炭ガス量の10分の1を処理できるパイロットプラントを
図-2に示すように金属酸化物が石炭ガス化ガスにより還元さ
建設し、
その性能を検証している。また、川崎重工(株)
は集じ
れ、
その後、硫黄化合物と反応して、硫化物となり、
ガス中から
んも同時に行う移動床脱硫システム(図-5)に用いる耐摩耗
硫黄分を除去する方法であり、硫化物を酸素と反応させ、硫
性の高い粒状の酸化鉄系脱硫剤を開発し、勿来200トン/日
黄分をSO2として放出させることにより、金属酸化物に戻して、
IGCCパイロットプラントプロジェクトにおいて、石炭ガス量の
繰り返し利用する。
40分1を処理できるパイロットプラントを建設し、
その性能を評
この方法は、石炭ガス化複合発電(IGCC)のための技術とし
て、配管に経済的な炭素鋼を用いることのできる400∼500℃
の温度域で硫黄化合物を100ppm以下まで除去できることを
目標に開発が進められた。金属酸化物としては、酸化鉄が選
定され、石川島播磨重工業(株)は、勿来200トン/日IGCC
パイロットプラントプロジェクト
(1991∼1995)において、100
∼200μmの鉄鉱石粒子を用い、全量の石炭ガスを処理でき
る流動床脱硫パイロットプラント
(図-3)
を建設し、
その性能を
図-2 選択接触還元法脱硝プロセス
93
Clean Coal Technologies in Japan
図-3 流動床脱硫プロセス
図-4 固定床脱硫プロセス
価した。このようにIGCCのための高性能技術が、既に実証
段階に達している。
現在、溶融炭酸塩形燃料電池、固体電解質形燃料電池およ
び燃料合成などに用いるため、1ppmレベルまで硫黄化合物
を除去できる脱硫剤の開発が進められている。電力中央研究
所においては、鉄と亜鉛の複酸化物である亜鉛フェライト
を用いた脱硫剤を開発し、1ppm以下まで除去で
(ZnFe2O4)
きることを明らかにし、実ガスでの検証段階にある。また、空気
吹き噴流床ガス化ガスへの対応を主に検討が進められてきた
が、脱硫剤中に炭素を析出させ、粉化させてしまう一酸化炭素
の濃度の高い酸素吹きガス化ガスへの適用も重要な課題と
図-5 移動床同時集じん・脱硫プロセス
なっている。
(2)乾式脱ハロゲン法
研究開発者
事業の種類
(財)電力中央研究所
自主
●概要
溶融炭酸塩形燃料電池、固体電解質形燃料電池および燃
去する方法の開発が進められている。電力中央研究所にお
料合成などに石炭ガス化ガスを用いるためには、
ばいじん、硫
を用いた吸収剤を試
いては、
アルミン酸ナトリウム(NaAlO2)
黄化合物に加えてハロゲン化物も除去する必要がある。
作し、1ppm以下まで除去できることを確認しているが、実験
これらの技術に適用するため、1ppm以下まで除去できるハロ
室規模であり、開発途上にある。この方法においては、吸収
ゲン化物吸収剤の開発が進められている。現在、ナトリウム
剤の再生又は再利用法が重要な課題である。
系の化合物を用い、
ガス中のHCl、HFをNaCl、NaFとして除
●参考文献
1)中山他、
「石炭ガス化複合発電用乾式ガスクリーンアップ技術開発乾式ガスクリーンアップ3方式の開発状況」,
日本エネルギー学会誌,Vol. 75 ,No. 5,1996
2)白井他、
「石炭ガス化ガスにおける固定床乾式脱硫技術の開発」,粉体工学会誌,Vol.40 ,No. 8,2003
3)M.Nunokawa他、”Developments of Hot Coal Gas Desulfurization and Dehalide Technologies for IG-MCFC
Power Generation System”, CEPSI proceedings 2002 Fukuoka
94
第2編 技術概要
環境負担低減技術〈石炭灰有効利用技術〉
5C1. 石炭灰発生プロセスとその利用
技術概要
1.背景と発生プロセス概況
送電線
蒸気→
石炭灰の利用は、
1950年代の前半にセメント混和材として
家庭・工場
蒸気タービン
実用化されてから、
セメント原料、
セメント混合材、道路材、埋
発電桟
変圧器
立材、盛土材など多岐にわたり利用されているが、
セメント分
ボイラ
野での利用、特にセメント原料(粘土代替)
としての利用が大
石炭火力発電所
煙
突
節炭器
空気
予熱器
電気集じん器
半を占めている。
クリンカ
ホッパ
フライアッシュ
Fly Ash
破砕機
2.発生量
(85∼95%)
クリンカアッシュ
Bottom Ash
(5∼15%)
分級器
財団法人石炭利用総合センター(現JCOAL)が平成17年3
わが国における石炭灰
月に発行した調査報告書1)によれば、
サイロ
脱水槽
発生量の平成15年実績は年間987万トンに達しており、前年
サイロ
袋詰機
サイロ
加湿器
加湿器
ジェットパック車 ダンプトラック
ジェットパック車 ダンプトラック
度に比べて、63万トン、6.8%増加している。電気事業用の石
ダンプトラック
炭焚きボイラーは、大半が微粉炭焚きである。一方、一般産
船
トラック
図-1 微粉炭ボイラーからの石炭灰発生プロセス例
日本フライアッシュ協会の資料より
業においても出力1,
000kW以上の発電設備を持つ石炭焚
ボイラーは132缶稼動しており、燃焼方式別では、微粉炭焚き
が過半数を占めている。ボイラーの容量(蒸気発生量)
では、
50t/h以下ではストーカー焚きが、
また100t/h以上では、微粉炭
焚きが大半を占めている。
1992∼2003年度の電気事業ならびに1,000kW以上の発電
設備を有する一般産業事業所の石炭灰発生量と利用量の
推移を図-2に示す。
図-2 石炭灰発生量と利用量の推移
3.石炭灰の物性
わが国の石炭灰発生量のうち、微粉炭燃焼灰が90%以上で
粒砂より細かくシルト相当である。化学組成は、
シリカ
(SiO2)
あり、流動床燃焼灰は7%程度、
ストーカー燃焼灰は1∼2%
とアルミナ(Al2O3)が多く山土に近く、
この2つの無機質で全
程度である。また、
フライアッシュとクリンカアッシュ
(ボトムアッ
体の70∼80%を占める。その他少量の酸化第二鉄(Fe2O3),
シュ)
との発生割合は、
ほぼ9
:
1となっている。
酸化マグネシウム(Mg0)、酸化カルシウム(CaO)
などが含ま
石炭灰の形状は、融点の低い灰は球形が多く、高融点の灰
れる。わが国には世界各国から100銘柄以上の石炭が輸入
は不定形が多くなっている。微粉炭燃焼のフライアッシュの
されており、石炭灰の物性も大きく異なる3)。
平均粒径は25μm程度で、地盤材料的には粘土より粗く、細
95
Clean Coal Technologies in Japan
4.利用分野
2003年度の分野別の有効利用量を、表-2に示す。
ことは難しい。
したがって、今後の石炭灰の増加に対処するた
セメント分野での利用は年々増えており、総利用量838万トン
めには、
その他の分野での利用拡大が重要な課題となってお
のうち633万トン、75.5%を占めている。
しかしながら、
セメント
り、特に大量利用の可能性の大きい土木材料としての利用
生産量は近年減少傾向にあり、今後も大幅な増産を見込む
が期待されている。
表-2 石炭灰の有効利用分野内訳(平成15年度)
電気事業
項 目
分 野
内 容
セメント分野
利用量(千t)
構成比(%)
1,522
66.90
5,876
70.12
セメント混合材
149
2.44
159
6.99
308
3.68
95
1.56
48
2.11
143
1.71
4,598
75.32
1,729
76.00
6,327
75.50
地盤改良材
138
2.26
104
4.57
242
2.89
土木工事用
103
1.69
25
1.10
128
1.53
電力工事用
79
1.29
0
0.00
79
0.94
道路路盤材
50
0.82
110
4.84
160
1.91
9
0.15
0
0.00
9
0.11
炭坑充填材
204
3.34
0
0.00
204
2.43
計
583
9.55
239
10.51
822
9.81
建材ボード
213
3.49
164
7.21
377
4.50
0
0.00
0
0.00
0
0.00
18
0.29
1
0.04
19
0.23
231
3.78
165
7.25
396
4.73
肥料(含:融雪剤)
53
0.87
26
1.14
79
0.94
土壌改良剤
11
0.18
82
3.60
93
1.11
計
64
1.05
108
4.75
172
2.05
4
0.07
1
0.04
5
0.06
製鉄用
13
0.21
8
0.35
21
0.25
その他
612
10.02
25
1.10
637
7.60
計
629
10.30
34
1.49
663
7.91
6,105
100.00
2,275
100.00
8,380
100.00
人工軽量骨材
コンクリート2次製品
計
その他
構成比(%)
71.32
アスファルト・フィラー材
農林・水産分
利用量(千t)
4,354
計
建築分野
構成比(%)
合 計
セメント原材料
コンクリート混和材
土木分野
利用量(千t)
一般産業
下水汚水処理剤
有効利用合計
●参考文献
1)財団法人石炭利用総合センター:石炭灰全国実態調査報告書(平成15年度実績)、
(2005)
2)環境技術協会、
日本フライアッシュ協会:石炭灰ハンドブック平成12年版、(2000)
3)細田信道:財団法人石炭利用総合センター、石炭灰利用シンポジウム講演集、(1998)
4)資源エネルギー庁資源・燃料部:コール・ノート
(2003年版)、(2003)
96
第2編 技術概要
環境負担低減技術〈石炭灰有効利用技術〉
5C2. セメント・コンクリート分野
技術概要
1.技術概要
セメント分野でのフライアッシュの利用に関しては、古くからポ
ュの規格、1960年にはフライアッシュセメントの規格が制定さ
ゾランに関する調査研究が行われてきた。フライアッシュを良
れ、一般構造物のコンクリートに広く利用されるようになった。
質のポゾランとして活用する研究が進み、1940年代後半アメ
一方、1978年からセメント原料の粘土代替としての利用がは
リカでコンクリート混和材としてダムなどの構造物に使用され
じまり、2003年には全有効利用量の70.1%がこの用途で利
はじめてから各国に普及した。わが国では、1950年代の前半
用されている。
にセメント混和材として実用化され、1958年にはフライアッシ
2.セメント分野での利用
1)
セメント原料である粘土の代替利用
2)
セメント混合材としての利用
セメントの原料は、石灰石・粘土・珪石・酸化鉄から構成されて
JIS規格でフライアッシュセメントの規格2)が定められており、
おり、
この中で粘土は全体の約15%を占めている。シリカ
(SiO2)
フライアッシュを5∼30%混合することができる。また、
フライア
とアルミナ(Al2O3)
を含む石炭灰は、
この粘土代替として使用
ッシュは普通ポルトランドセメントの混合材としても5%以下の
される。石炭灰は粘土に比べ、SiO2が少なくAl2O3が多いため、
使用ができる。
石炭灰を多く使うと不足するSiO2源として珪石の使用量が増
えることになり、
この点から石炭灰の粘土代替率には限度があ
る。現在、
セメント原料の約5%が石炭灰で代替されているが、
理論的には10%程度まで使用が可能といわれている。
3.コンクリート分野での利用
1)
コンクリート混和材としての利用
置換率は、
20∼30%である。現在までにこの工法で建設され
① ダムコンクリート
たダムの数は30余にものぼり、技術的にも確立した施工法と
フライアッシュのコンクリート混和材としての研究は、
わが国で
いえる。
は1950年頃から始まり、1953年にダム現場で実用化され良
②プレパックドコンクリート
好な性能と経済性が実証された。
プレパックドコンクリート
(Prepacked Concrete)
は、所定の
RCD(Roller Compacted Dam-Concreate)
は、超硬練りの
粒度を持つ粗骨材を予め型枠内または施工箇所に投入し、
そ
コンクリートを振動ローラーで締め固めて造るコンクリートで、
の間隙にモルタルを適当な圧力で注入して作るコンクリートで
当時の建設省を中心にコンクリートダムの合理的施工方法と
ある。ここで使用されるモルタルは流動性が大きく、材料分離
して独自に技術開発を進め、RCD工法として体系化され、
が少なく、
かつ適度の膨張性を有するものが求められ、一般に
1978年からダム建設で実用化された。
フライアッシュを25∼50%混合して使用される。
一般にダムコンクリートでは、ひび割れの発生を防止するた
用途としては、水中コンクリート、
マスコンクリート、既設コンクリ
めに、温度上昇の小さなコンクリートが要求されるが、RCD
ートの補修・補強などがあり、本四連絡橋の下部も本工法で
用コンクリートでは、
この温度上昇を規制する目的でセメント
施工された。
の一部をフライアッシュで置換したものが使用されている。
97
Clean Coal Technologies in Japan
③高流動コンクリート
④コンクリート用フライアッシュの工業規格
FEC(Fly ash Enriched Concrete)
は、粉体としてセメントと
粉末度が高く、未燃炭素分の少ないフライアッシュがコンクリ
フライアッシュを用いた2成分系の高流動コンクリートである。
ート混和材として優れた性能を持つとの評価を得て、高度分
フライアッシュを40%以上と多量に含むことにより、
自己充填
級機による高粉末度品の商品化がなされ、
また、JISの規格
性に優れ打設時の締め固めが不要、水和発熱によるひび割
外品を中心に、
より性能の高い品質のもの、および規格から
れが発生し難い、長期強度が増進する、アルカリ骨材反応・
外れても混和材としての効果が見込まれるものを、JIS規格3)
塩害・酸害に対する耐久性に優れているなどの特徴がある。
に追加して4等級化し、使用目的に応じた品質の選択に便宜
FS(Fly ash and Slag Concrete)
は、鉄鋼スラグと石炭灰を
が図られた。微細粉フライアッシュの一部は、止水性・耐久性
骨材として利用するコンクリートで、
それほど強度を必要としな
等の要求されるコンクリート、海洋コンクリート、長区間を圧送
い防波堤上部工や根固めブロック、消波ブロックなどの無筋
する特殊裏込シールド材等の混和材として利用されている。
コンクリートとして開発された。
フライアッシュの品質(JIS A 6201)
種類
項目
フライアッシュ
Ⅰ種
フライアッシュ
Ⅱ種
フライアッシュ フライアッシュ
Ⅲ種
Ⅳ種
二酸化けい素(%)
45.0以上
湿分(%)
1.0以下
強熱減量*1(%)
3.0以下
密度(g/cm3)
粉末度*2 45μmふるい残分(網ふるい方法)
*3(%)
8.0以下
5.0以下
1.95以上
10以下
40以下
40以下
70以下
5000以上
2500以上
2500以上
1500以上
105以上
95以上
85以上
75以上
材齢28日
90以上
80以上
80以上
60以上
材齢91日
100以上
90以上
90以上
70以上
比表面積(ブレーン)方法(cm2/g)
フロー値比(%)
活性度指数(%)
5.0以下
*1 強熱減量に代えて、未然炭素含有率の測定をJIS M 8819又はJIS R 1603に規定する方法で行い、
その結果に対し強熱減量の規定値を適用してもよい。
*2 粉末度は、網ふるい方法又はブレーン方法による。
*3 粉末度を網ふるい方法による場合は、
ブレーン方法による比表面積の試験結果を参考値として併記する。
ダムへの利用
建築物への利用
●参考文献
1)社団法人セメント協会:セメントの常識、(2000)
2)JIS R 5213-1997、
(1997)
3)JIS A 6201-1999、
(1999)
98
第2編 技術概要
環境負担低減技術〈石炭灰有効利用技術〉
5C3. 土木建築・農林水産分野
技術概要
1.技術概要
土木分野での石炭灰の利用は、
コンクリート用以外では、道
が予測され、
これに対処するためにはこの分野での利用拡大
路材・地盤改良材・埋立材などの土工材として、建築分野では、
が必要であり、現在も利用技術の開発が行われている。これ
人工軽量骨材として広く利用されている。一方、農林・水産
を実効あるものとするためには、技術の普及、需要の開拓、流
分野では、肥料や土壌改良材として利用されている。
通機構の整備等解決していかなければならない課題もある。
今後も石炭火力発電所の新設等に伴い石炭灰の大量発生
2.土木分野での利用
2)土工材
1)道路材
フライアッシュはアスファルト
「アスファルト舗装要綱」1)では、
フライアッシュは一般的な土工材と比較して軽量であるため、
フィラー材として、
クリンカーアッシュは下層路盤材・凍上抑制
盛土材や裏込材として有効活用できる。このため、近年、様々
材・遮断層材としての利用ができるようになっている。
な技術開発6,7,8)が実施されており、石炭灰にセメントを固化
フライアッシュは、上層路盤・下層路盤・路床で使用可能であ
材として添加して粉体状のまま利用する方法、安定化処理材
る。また、
セメント安定処理工法では、
フライアッシュにセメント
として利用する方法や固化物にする方法、
あるいは粒状化す
を添加して適度の含水比で処理して使用する。この工法は、
るなどの加工を行って用いる方法などがある。また、
フライアッ
早期に強度を発現させ、長期的に安定性を得るものである。
シュはポゾラン活性が高く自硬性を有するため、軟弱地盤や
その他にも、
石炭灰を加工して道路材として活用する技術2,3,4,5)
建設汚泥などの改良材としての実用化9)も検討されている。
が開発されている。
なお、土工材として石炭灰を使用するためには、環境上問題
なく使用しなければならないため、石炭灰の微量成分の溶出
に関する基礎的研究10)も行われている。
写真-1 道路への利用
99
Clean Coal Technologies in Japan
3.建築分野での利用
4.農林水産分野での利用
1)人工軽量骨材
1)肥料
石炭灰とセメント等を造粒・焼成して人工軽量骨材を製造す
石炭灰は微粉炭燃焼灰として、1960年にフライアッシュが、
る技術11,12)が開発されている。都市開発の進展や建築物
1992年にクリンカーアッシュが、特殊肥料の指定を受けている。
の高層化等に伴う需要拡大が期待されており、人工軽量骨
また、石炭灰に含まれる難溶性の珪酸を有効活用する珪酸
材の更なる技術開発および製造コストの低減が重要となって
加里肥料も、年間数万トン程度生産されている。
いる。
2)土壌改良材
2)
その他
クリンカーアッシュは主成分が一般土壌とほぼ同じで、大半が
石炭灰の含有成分が既存の建築材の化学組成と類似して
SiO2とAl2O3であり植物の生育に適している。また、無数の細
いることから、
その特性を活用して、粘土瓦・れんが・タイルなど
孔を有し保水性が良いため、肥料の効果を永続でき、形状は
窯業製品の粘土代替原料やボード類(建築用内外壁材)の
砂に似ており透水性も同程度であるため、
ゴルフ場の芝生土、
セメント混合材としても利用されている。
排水不良箇所の改善、農地土壌改良などに利用されている。
3)水産分野での利用
石炭灰を利用した漁礁・藻礁の利用例は古くからある。近年
では、人工湧昇流を発生させるための人工海底山脈のマウン
ド材に、石炭灰を利用する試みがなされている13)。
写真-2 石炭灰から製造した人工骨材の例(タフライト)
写真-3 肥料として利用
●参考文献
1)日本道路協会:アスファルト舗装要綱、
(1992)
2)環境技術協会、
日本フライアッシュ協会:石炭灰ハンドブック平成12年版、
(2000)
3)土木研究センター:土木系材料技術・技術審査証明報告書「アッシュロバン」、
(1997)
4)土木研究センター:土木系材料技術・技術審査証明報告書「ポゾテック」、
(1997)
5)大和田ら:石炭利用総合センター、第11回石炭利用技術会議講演集、
(2001)
6)新谷ら:土木工学第54回年次学術講演会概要集、」-B、
(1999)
7)土木研究センター:土木系材料技術・技術審査証明報告書「頑丈土破砕材」、
(2000)
8)大中昭:クリーン・ジャパン・センター第11回資源循環技術研究発表会講演論文集、
(2003)
9)小笹ら:石炭利用総合センター、第11回石炭利用技術会議講演集、
(2001)
10)地盤工学会:廃棄物の地盤材料としての利用に関する研究委員会報告、
(2000)
11)石井ら:日本化学会誌、5,431、
(1992)
12)小笹ら:石炭利用総合センター、第10回石炭利用技術会議講演集、
(2000)
13)鈴木達雄:第14回ACAA国際シンポジウム講演集、
(2001)
100
第2編 技術概要
環境負担低減技術〈石炭灰有効利用技術〉
5C4. 人工鉱物製造技術(人工ゼオライト)等
技術概要
1.技術概要
石炭灰利用技術は、資源の有効活用の観点からも様々な研
イト化による吸収剤・触媒・イオン交換剤・乾燥剤としての利用、
究開発が行われている。
脱硫剤、高分子材料(ゴム、
プラスチック)の混和剤・充填剤、
物理的・化学的処理による石炭灰中の有価物回収、
ゼオラ
防錆材などへの利用が検討されてきた。
2.有価物回収
石炭灰には、
セノスフェア(中空灰)、
マグネタイト、
シリカ、
アル
2)化学処理による有価物の回収
ミナ、酸化鉄、酸化チタンなどの有価物が含まれており、
その
①直接フッ酸抽出法
他にも微量ではあるが有価金属がある。
化学的処理によるフライアッシュ中の有価物回収方法として、
1)物理的処理による有価物の回収
フッ酸と塩酸の混酸を用いる酸抽出法が開発されている。回
①磁選によるマグネタイト回収
収したSiO2は、高純度で(99.9%以上)微粒子(1μm以下)
フライアッシュからマグネタイト
(Fe3O4)の回収は、同時にSi、
状のものが得られることが特徴である。
Al、Ti、Fe等の有価物を回収する化学処理法の前工程として
②カルシンター法
位置付けられている。マグネタイトは、磁選によって回収され重
フライアッシュにカルシウム源を加えて焼成し、酸に安定なフラ
選メジュームの代替品などとして利用できる。
イアッシュ中のムライトを、酸に可溶なアノーサイトもしくはゲー
レナイトに替える方法で、Al回収率が高いことが特徴である。
3.人工ゼオライト
ゼオライトは、結晶性の含水アルミナケイ酸塩の総称であり、
証試験を実施している。この石炭灰ゼオライト製造プロセスで
多孔質で比表面積が大きいこと、
イオン交換性の陽イオンを
は、石炭灰と水酸化ナトリウム水溶液を攪拌しながら煮沸した
含むこと、吸脱着可能な結晶水を含むこと、
などの特徴を有す
のち、固形分を分離、水洗、脱水することで石炭灰ゼオライト
る。これらのゼオライトの特性を活かして、吸着剤や触媒、
イオ
が得られる。生成するゼオライトは、Na−P型ゼオライトである。
ン交換剤、乾燥剤1)等として利用されている。
一方、従来実用化されてきた石炭灰ゼオライト製造プロセス
石炭灰とアルカリ水溶液の混合物を水熱処理2)すると、
その
は石炭灰に限らず回分式であったのに対し、流通式の連続合
反応条件によって様々なゼオライト種が生成することが知られ
成プロセスも開発4)されている。さらに、大量利用が可能な用
ている。
途の開拓と製造コストの低減、用途に即したゼオライト種の
財団法人クリーン・ジャパン・センター3)では、1990年に年産1
合成技術が検討されているところである。
万トン規模の石炭灰ゼオライト製造実証プラントを建設し実
石炭灰
苛性ソーダ
煮沸
攪拌
バッファ
タンク
脱 液
水 洗
NaOH排液ピット
脱 水
排水ピット
図-1 石炭灰ゼオライトの製造工程
101
一 次
製品在庫
水処理場
乾 燥
袋 詰
Clean Coal Technologies in Japan
4.その他の分野への利用
1)脱硫剤
木粉・パルプ等のプラスチック混和剤代替としての利用が検
石炭灰・消石灰・石こうを混合した硬化物が優れた脱硫性能
討されている。
を有することから、石炭灰を使った乾式脱硫技術が実用化さ
3)
その他
れている。
その他にも、石炭灰の特性を活用して、防錆剤・水浄化剤・
2)高分子材料(ゴム、
プラスチック)の混和剤・充填剤フライ
鋳物砂などの適用技術が開発されている。
アッシュは、小さな丸いガラス玉状の微粒子の集まりであるた
めゴム充填剤としての利用や、炭酸カルシウム・シリカ・アルミナ・
構 造
A
分子式
細孔容積
(cc/g)
細孔径
(Å)
Na 12 [(AlO 2 ) 12 (SiO 2 ) 12 ]・
Na型:4
27H 2 O
Ca型:5
Na型:0.3
CEC
(meq/100g)
548
SiO4
P
X
AlO4
Na 6 [(AlO 2 ) 6 (SiO 2 ) 10 ]・
Na型:2.6
Na型:0.36
15H 2 O
514
*数値は大きいが、
交換速度は小さい。
Na 86 [(AlO 2 ) 86 (SiO 2 ) 106 ]・
264H 2 O
Na型:7.4
Na型:0.24
陽イオンを含むアルミノケイ酸塩であり、構造・組成により多くの種類が存在し、
種類によって性能・用途が異なる。
●参考文献
1)環境技術協会、
日本フライアッシュ協会:石炭灰ハンドブック平成12年版、(2000)
2)逸見彰男:日本土壌肥料学雑誌、58(3)、
(1987)
3)財団法人クリーン・ジャパン・センター:クリーンジャパン、86、(1991)
4)松方正彦:石炭利用総合センター、第12回石炭利用技術会議講演集、(2002)
102
473
第2編 技術概要
石炭利用基盤技術
6A1. 石炭ガス化反応のモデル化とシミュレーション
研究開発者
事業の種類
(財)石炭利用総合センター
NEDO委託事業
技術概要
1.石炭利用基盤技術(BRAIN−C)の概要
化石燃料の消費は様々な形で環境に影響を与える。石炭も
ラムでは、普遍的かつ有効に利用できる高度な基盤技術の
またその生産・輸送・利用の各過程で自然に影響を及ぼす。
データベース構築を目指し、有効な基礎データの取得法の検
特に利用過程では、炭塵・煤塵・酸性ガス(NOx,SOx)・炭酸
討とデータの蓄積及び高精度数値シミュレーション技術確立
ガス等を排出し、無秩序な石炭の大量消費は環境に大きなイ
の両面から技術開発を進めている。
ンパクトを与える可能性がある。一方、
これらへの対応技術と
図-1に「BRAIN-Cの技術マップ」を示す。本プロジェクトから
して、石炭の使用によって引き起こされる環境へのインパクト
得られる成果物は、大別して、以下3つの項目から構成されて
を最小に抑制する技術をクリーンコールテクノロジー
(CCT)
と
いる。
総称し、
日本を含めた世界の主要先進諸国で、高度なCCT
(1)噴流層ガス化シミュレータ
の研究開発が広範囲に進められている。
(2)各種モデル・パラメータ予測相関式
この様な背景の中、
「石炭利用基盤技術開発プログラム
(3)石炭データベース
(BRAIN-C)」では、石炭ガス化技術を主たるターゲットに据え、
以下、
それぞれの項目について説明する。また、
これら3つの項
技術の早期商用化実現のため、様々な角度から石炭の基礎
目は、実際に成果を様々な場面に利用するにあたり、
どれひと
データを蓄積している。一方、数値シミュレーション技術は、上
つとして欠かせない要素であり、
かつ、
これら3つの要素を利用
述の基礎データからパイロットまたは実機の特性を予測するた
する場面に応じて上手に使いこなすことで、本プロジェクトの
めに、
また逆に、有用な基礎データを評価選定するために非
成果を最大限に引き出すことが可能となる。
常に有効なツールである。この様な観点からBRAIN-Cプログ
図-1 BRAIN-C技術マップ
103
Clean Coal Technologies in Japan
2.噴流層ガス化シミュレータ
噴流層ガス化シミュレータは、流れ、反応及び伝熱を同時に解
析できる熱流体解析ソフト
(CFD)
をベースとしており、炉形状、
操作条件及び石炭の性状または反応データ等の特性をイン
プットデータとして与えると、
ガス化炉内の温度分布、灰付着
位置及びガス組成等を計算することができる。そのイメージ図
を図-2に示す。
シミュレータから得られた信頼性の高い予測結果は、運転操
作の有効性及び炉の設計等の事前評価に利用することがで
きる。BRAIN−Cプログラムでは、噴流層ガス化シミュレーショ
ン技術を確立するために、図-3に示す石炭のガス化反応モデ
ルや図-4に示す粒子の付着モデルを基本CFDの中に構築し、
図-2 噴流層ガス化シミュレータの機能
それらの計算結果を石炭利用水素製造技術(HYCOL炉及
びEAGLE炉等)のガス化炉運転データと比較することで、
そ
の妥当性を検証している。
図-3 石炭ガス化過程のモデル化
図-4 灰粘度を利用した付着判定モデル
104
第2編 技術概要
石炭利用基盤技術
図-5にガス化シミュレータから得られた灰溶融層形成位置と
色部)
が小さくなる一方で、
炉上部が高温化(赤色領域が増加)
運転後のガス化炉内の状況を比較した結果を一例として示す。
し、灰が付着し易い領域が形成されることがわかり、運転上あ
これより、本シミュレータにより算出された灰溶融層形成位置
まり好ましくない条件と判断できる。
は実際に溶融層が存在した位置と良く一致しており、計算の
この様に、
ガス化シミュレータは、
ガス化条件変更時等の解析
妥当性は実際のデータで裏付けることができた。
が容易に実施可能となっており、今後のガス化プロジェクトに
図-6には、
ガス化シミュレーションを用いたHYCOL炉のケース
おける利用に期待が高まっている。
スタデイ結果を示す。図-6左側に示した壁面近傍温度及び壁
面上の灰粘度は、1,000時間運転を達成した時の条件を計
算で再現したものである。スラグが流れ落ちる炉底部の温度(赤
色部)が高く、
その領域の灰粘度(青色部)
は低いことがわか
る。また、炉上部は温度が低く
(緑色部)、粒子が付着し難い
条件となっていることがわかる。一方、図-6右側に示した壁面
近傍温度及び壁面上の灰粘度は、故意に運転条件を変更し
た時の計算結果である。本ケースは、左図よりも上段の酸素
比を上げ、下段の酸素比を下げたものである。この場合、炉
底部の温度が低下し
(オレンジ色)
、
その付近の低粘度領域(青
図-5 灰付着位置に関する検証結果
図-6 シミュレータを用いたスタディー
3. 各種モデル・パラメータ予測相関式
噴流層ガス化シミュレータは、様々な炉形状及び運転条件に
的には、図-1に示した汎用的な揮発化モデルや付着判定式
対して汎用的であるが、石炭毎の特性に関しては汎用化され
等がパラメータ生成のためのツールである。一方で、微量元
ていないため、
その特徴を炭種毎にパラメータとしてシミュレー
素分配モデルや灰成長流動判定モデルは、
シミュレーション
タにインプットする必要がある。このパラメータは、一般に基礎
結果から判断を行うモデルであり、
これらもまた非常に重要な
的な実験装置で得られたデータを利用するが、評価の迅速性
役割を持つ。BRAIN-Cプログラムでは、
ガス化シミュレータを
を考えると、石炭の一般分析あるいは構造物性データ等から
有効かつ迅速に利用できるように、
シミュレータ周辺の予測式
パラメータを取得する手段(予測相関式や実験条件まで取り
も併せて開発している。
込んだ高度な予測モデル)
を確立することが望まれる。具体
105
Clean Coal Technologies in Japan
4.石炭データベース
さらに相関式またはモデルを構成するためには、一般分析をは
おり、図-8に示す様にすでに閲覧や検索が可能となっている。
じめとした石炭の物性データ及び基礎実験データが必要不
また、
これらデータの多くは、計算加工が容易なエクセルファイ
可欠となる。
しかしながら、石炭は銘柄(炭鉱名)が同じでも到
ル(図-9参照)
で保管されており、
データのダウンロードも可能
着ロット毎に特性が異なるという大きな問題がある。これより、
となっている。
質の高いデータベースを作るためには、
まず、物性や基礎デー
タを取得する各試験機関で全く同じ石炭サンプルを使用する
必要があった。図-7は、産業技術総合研究所内に設置されて
20リットル容器(2段)
いる石炭サンプルバンクである。このように分析試験サンプル
を一元管理することによって、各試験研究機関に同一のサン
50リットル容器
プルが出荷できるようになった。
標準サンプル炭保管状況(産総研)
このような同一サンプルを利用して測定したデータは、本プロ
ジェクトの中で、一般・特殊分析データついては100炭種、基
礎実験データに関しては項目にもよるが、最低でも10炭種以
上の代表データの測定を実施する予定である。最終的には、
これらすべての測定データが、
インターネットで閲覧可能な石
炭データベースに掲載される。尚、現在までに取得したデータ
の一部は、石炭利用総合センターのサーバーにアップされて
標準サンプル炭(配布用)
図-7 石炭サンプルバンク
図-8 石炭データベース
図-9 基礎データの取得
5.石炭利用基盤技術成果の普及
BRAIN-Cプログラムで開発した噴流層ガス化シミュレータは、
の詳細な利用マニュアルの整備、講習会の開催も行ってい
各種モデル及び基礎データを利用することで、実用に耐えうる
るので、
これらの成果を有効に活用して戴けることを期待する。
予測が可能となっている。BRAIN-Cプログラムは平成16年
また、本プログラムは、石炭ガス化技術を中心に開発が行われ
度でプロジェクト最終年度を迎えるが、本プロジェクトで開発し
てきたが、
シミュレーションコードそのものは燃焼等、幅広い分
た成果を十分に利用して戴けるように、
プログラム及び基礎デ
野に利用できることから、
ガス化プロジェクト以外の方の利用
ータを取り揃えて提供できる体制を整えている。また、
そのため
も大いに期待するところである。
106
第2編 技術概要
コプロダクションシステム
7A1. コージェネレーションシステム
技術概要
1.コージェネレーションの定義
燃料(一次エネルギ)
を燃焼させて、電気や熱などに変換して
複数の二次エネルギを連続的に同時に取り出すシステムをコ
ージェネレーションシステムと呼ぶ。
2.コージェネレーションシステム
コージェネレーションシステムには、大別して2種類の方式があ
前者は、一般的に液体燃料や気体燃料を使用し、ホテル、
ス
る。一つは、
ディ−ゼルエンジン、
ガスエンジンあるいはガスター
ーパー、病院などを対象にした小規模な設備が多い。後者は、
ビン等の原動機を回転させて発電し、原動機の排熱をボイラ
ボイラ用燃料として、石炭を含むあらゆる燃料が使用されており、
等で熱交換して、温水や蒸気として回収する方式であり、
もう
比較的大規模な自家用火力発電設備が多い。また、電気供
一つはボイラで発生した蒸気で蒸気タービンを回転させて発
給を主とする場合(復水タービン)
と蒸気(熱)供給を主とする
電し、必要に応じて所望の圧力の蒸気をプロセス蒸気として
場合(背圧タービン)
とに大別される。
取り出す方式である。
電 気
ジャケット冷却水
電 気
暖 房
温 水
給 油
冷却水熱交換機
蒸 気
発電器
ディーゼルまたは
ガスエンジン
排熱回収ボイラー
プロセス蒸気
煙 突
図-1 ディーゼルエンジン、
ガスエンジンコージェネレーションシステムの構成例
3.効率
一般的に電気のみを取り出す石炭火力発電設備の発電効
(1)大容量石炭火力発電所におけるコージェネレーション
率は40%前後である。一方、コージェネレーションシステムの
神鋼神戸発電所は、発電規模1400MW(700MW×2基)の
場合、発電効率と熱回収効率の合計である総合熱効率は、
大型石炭火力発電設備を有する大容量石炭火力発電所で
電気供給を主体とするか、
あるいは熱供給を主体とするかで、
あり、独立発電事業者(IPP)
として、電力卸供給事業を開始
総合熱効率は異なるが、熱供給を主体とする場合のコージェ
した。発電した電気は全量、関西電力(株)へ供給することに
ネレーションシステムの総合効率は、80%にも達する。
なっており、1号機は既に2002年4月に営業運転を開始し、2
号機は2004年4月に営業運転を開始する予定である。
107
Clean Coal Technologies in Japan
(2)地域への熱供給
発電に使用している蒸気の一部を取り出し、近隣の酒造会
社4社へ最大40t/hの蒸気を供給している。これは,ボイラで
発生した蒸気の約2%に相当し、熱供給の割合は小さい。
今まで、酒造各社の複数のボイラで発生した蒸気をヘッダで
まとめて工場へ送っていた。これを、
ヘッダを取り合い点として、
タービンで仕事をした後の蒸気を抽気して酒造会社へ供給
することにより、地域全体で省エネルギを図っている。
(3)熱供給条件
発電所のタービン抽気は防錆剤として微量のヒドラジンが
発電所全景
含まれているため、蒸気が米に直接触れる工程を有する酒
造会社へ直接供給することができない。タービン抽気(1次
蒸気)
を熱源とする蒸気発生器を用いて、間接的に発生さ
せた蒸気(2次蒸気)
を酒造会社へ供給している。設備の概
略を右に示す。
No.1 発電プラント
蒸気
ボイラ
蒸気タービン
発電機
抽出蒸気
給水ライン
冷却水
(海水)
1次蒸気
醸造メーカー
バックアップ用
No.2 発電プラント
2次蒸気
沢の鶴
富久娘
蒸気発生器
白鶴
工業用水
排水冷却器
月桂冠
工業用水タンク
蒸気発生装置
図-2 熱供給設備の概略
●参考文献
1)柴本ほか:特集火力発電所の熱効率向上第3章熱効率管理の動向発電システムとしての熱管理p.1242-1246,Vol.54, No.565, 火力原子力発電(2003.10)
2)
(財)火力原子力発電技術協会:入門講座、.
自家用火力発電設備他p.1539-1546 Vol.54,No.567,火力原子力発電(2003.12)
3)木田ほか:神鋼神戸発電所における発電設備の概要p.2-7, Vol.53, No.2,神戸製鋼技報(2003.9)
4)宮部ほか:神鋼神戸発電所の余剰蒸気を利用した熱供給設備p.14-18, Vol.53, No.2, 神戸製鋼技報(2003.9)
108
第2編 技術概要
コプロダクションシステム
7A2. 燃料併産発電システム
技術概要
1.燃料併産発電システムの可能性
従来のような単一の業界における革新的プロセスの開発は、
を形成し、
その周辺に各種生産工場が集まることにより、
コア
限界になりつつある。今後さらなるCO2排出量削減を図るた
工場を中心とした産業の融合化がなされ、新しいエネルギー・
めには、従来のエネルギー・物質生産システムを根本から見直
物質生産システムによる石炭コンビナートが形成される。その
し、変換効率向上や省エネルギーにとどまらず、
エネルギーと
結果、現在の産業形態から次第に次世代のハイブリッド産業
物質生産システムを根源的、系統的に変える、個々のプロセ
形態へと融合化が進展することになる。
スとプロセス間のインターフェイスの最適化を実現する技術を
この様な燃料併産発電システムのコア技術は石炭ガス化技
開発することが必要である。
術であり、IGFCのような高効率発電システムと、貯蔵可能な
石炭をベースとして電力と燃料や化学原料を併産する、
この「燃
燃料を併産するプロセスを組合わせることにより、
ガス化炉の
料併産発電システム:コプロダクション」では、石炭コンビナー
負荷平準化と大幅なCO2削減が可能となる。
トを形成することにより、産業の融合化によるトータルエネルギ
さらに、石炭コンビナートにおける廃熱源を用いて、吸熱的な
ー利用効率の向上を図ることが可能となる。
反応を生じさせつつ石炭から化学原料を回収するなどにより、
エネルギー源として石炭の使用量が多い電力、鉄鋼、化学等
さらにエネルギー効率の高い、高度化した石炭コンビナートが
の分野において、
エネルギーと化学原料を併産するコア工場
形成されることになる。
蒸気
既設・新鋭機
蒸気用ボイラ
ST
GT
FC
ガス化センター
石炭+バイオマス
(廃棄物、廃プラ、
石油系残渣等)
電力
H2、CO
プロセス蒸気
流動床ガス化炉
H2
過熱用燃料
石炭
石炭
噴流床ガス化炉
熱分解炉
未反応
ガス
水素製造用
DME市場
DME
石油化学工場用
H2、CO
H2
プロピレン
C2留分
C4留分
製鉄所の
水添脱硫用
H2、CO
BTX等
CH4
図-1 エネルギーフロー
109
燃料電池発電用等
製油所用、化学工場用
製鉄所用
石油化学工場用
石油化学工場・ガス会社
Clean Coal Technologies in Japan
2.
併産する燃料や化学原料
石炭ガス化により電力と併産する燃料や化学原料については、
その他に、
関係する企業のニーズに因るが、海外の石炭ガス化によるコ
DME
:クリーン燃料、
プロピレン製造用原料としても活用できる。
プロダクションの例として、南アフリカのサソールグループの合
水素:燃料電池用燃料など、水素エネルギー社会に向けた新
成燃料(GTL)等の製造、米国イーストマンケミカル社のアセ
しい需要も予想されている。
チル化学品製造が代表的なものである。その他に、
中国、
欧州、
製鉄所用クリーンガス:将来の製鉄所におけるエネルギーバ
米国の石炭ガス化による化学合成では、
メタノール、
メタン等
ランスの変化に対応する。
の実例が存在している。
などが考えられている。
3.
コプロダクションシステム
コプロダクションシステムは、物質とエネルギーを併産すること
などのエネルギー生産を同時に行うコプロダクションシステムは、
により、従来、主に燃焼過程で発生していたエクセルギー損失
新しいエネルギー市場の創成や、新規産業の創出が期待で
を大幅に低減し、革新的なエネルギー有効利用を達成しよう
きる点でも注目すべきものである。
とするものである。
石炭ガス化を中心とした石炭のコプロダクションシステムは、
従来型のエネルギー変換効率の向上を目指すシステムや、発
高度で、総合的な石炭利用技術を実現することによって、
生した熱エネルギーを出来るだけ有効に利用しようとするコジ
CO2排出量を大幅に削減するなど、環境問題の改善も可能
ェネレーションのようなシステムだけではなく、
エネルギーと物質
である。この様なシステムの技術開発を通して、石炭利用分
を併産することによってエネルギーと物質の消費量を大幅に
野に技術革新をもたらし、国際競争力の向上と、循環型社会
低減しようとする新しい生産システムなのである。そして、
この
の構築へ向けて大きく前進していくことが期待される。また、
プロセスをクリーン化することによって、
エネルギー問題と環境
国際社会の中でも、
グローバルな環境問題の改善に向けた、
問題の同時解決につながり、経済的な活力を生み出すことも
重要な技術的課題と考えることが出来る。
期待することが出来る。即ち、物質生産の中で、電力や燃料
燃料
既設の蒸気タービン発電システムによる発電
電力
発電用燃料
電力
蒸気
製鉄所
外販
コンビナートエリア用IGCC
製鉄所自家発電GT-CC
共同火力GT-CC
蒸気
ガス
BTX等
回収蒸気
ガス化センター
加熱用燃料
熱分解炉
石油コンビナート
流動床ガス化炉
噴流床ガス化炉
ガス
シフト反応
コールヤード
廃棄物
プロセス蒸気
加熱用燃料
残渣油
H2/CO>2
H2分離
水 素
未
反
応
ガ
ス
DME製造
未回収ガス
水添反応用
外販用
図-2 発電/蒸気/プロセス加熱用燃料/水素/DME/製鉄所用エネルギー供給システム
(この製鉄所と融合したコプロダクションシステムにおける総合効率は、現状より14%程度向上し、
CO2排出原単位も17%程度減少することが予想されている。)
110
第3編 CCTの将来展望
クリーン・コール・テクノロジーの将来
石炭分野の技術革新に向けてクリーン・コール・テクノロジ−
の将来を展望してみると、次の様な、人類社会にとって極めて
重要で、
かつ多様な技術の流れが存在している。
その第1は、現在進められている石炭ガス化技術を中心として、
様々な技術開発システムが存在することである。それは、現在
実用化に向けて着実に進められている「IGCC
(石炭ガス化
複合発電)」や「IGFC
(石炭ガス化燃料電池複合発電)」な
どの高効率発電システムへの展開であり、
メタノールやDME、
GTLといった、不純物を含まないクリーンな「液体燃料や化学
原料への転換」である。そしてこれらの技術の到達する先には、
図-1 予想される発電効率の向上
コージェネレーションを含む「コプロダクション」というゼロエミッ
出典:財団法人エネルギー総合工学研究所
ションに向けた世界が存在しているのである。
図-2 石炭ガス化を核とする多様なCCTの展開
第2は、将来エネルギー分野が進むであろう「水素エネルギー
100.0
社会」への対応である。
I
IASA2000(International Institute
水素エネルギー
for Applied Systems Analysis 2000)によれば、世界の一次
10.0
天然ガス: H/C = 4
H/C
エネルギー消費量を「H/C
(水素/炭素)」の比で見ると、
1800年代の半ばから1980年頃までにかけて、
ほぼ一定の上
1.0
増大の影響を受けて、
H/C=2付近で横ばいの傾向を示し
メタンエネルギー
石油: H/C = 2
昇傾向があると分析されている。1980年以降は石油利用の
石炭: H/C = 1
ているが、全体として1980年までの傾向をたどるとして、2030
年ごろにはH/C=4の状態に達すると予想されている。この
0.1
1800
様な天然ガスから水素エネルギーに至る社会においては、
カー
1850
1900
1950
2000
2050
2100
図-3 一次エネルギーにおける水素と炭素の比(H/C)の推移
ボンの燃焼による最終エネルギー消費は抑制され、石炭エネ
出典・IIASA 2000
111
第3編 CCTの将来展望
Clean Coal Technologies in Japan
クリーン・コール・テクノロジーの将来
石炭分野の技術革新に向けてクリーン・コール・テクノロジ−
ルギー(H/C≒1)の利用はHyP
r-R
I
NG
(石炭利用CO2回
油やガスを回収する上流側技術と石炭をガス化・改質・転換
の将来を展望してみると、次の様な、人類社会にとって極めて
収型水素製造技術)の世界となり、石炭の直接燃焼で発生
することによって、石炭の持つ炭素成分を燃料や化学原料とし、
重要で、
かつ多様な技術の流れが存在している。
するCO2を分離・回収し、隔離・固定する技術に大きく依存せ
直接燃焼によるCO2排出量を少なくする高効率石炭利用技
その第1は、現在進められている石炭ガス化技術を中心として、
ざるを得ない状態も予想されている。石炭の直接燃焼によっ
術がクリーン・コール・テクノロジ−の重要な課題として存在し
様々な技術開発システムが存在することである。それは、現在
て発生するCO2を分離・回収し、隔離・貯蔵すると同時に、原
ている。
実用化に向けて着実に進められている「IGCC
(石炭ガス化
<分離・回収>
複合発電)」や「IGFC
(石炭ガス化燃料電池複合発電)」な
<隔離・貯留>
脱炭した後のガス
CO2濃度2%
どの高効率発電システムへの展開であり、
メタノールやDME、
分離・回収
GTLといった、不純物を含まないクリーンな「液体燃料や化学
海上施設よる圧入
原料への転換」である。そしてこれらの技術の到達する先には、
地上施設より圧入
図-1 予想される発電効率の向上
コージェネレーションを含む「コプロダクション」というゼロエミッ
タンカー輸送
出典:財団法人エネルギー総合工学研究所
ションに向けた世界が存在しているのである。
排出
CO2濃度
22%
分離回収
CO2濃度
99%
溶解
拡散
キャップロック
(不透水層)
CO2排出源
パイプライン輸送
(発電所、鉄鋼プラント等)
CO2
<分離・回収>
化学吸収法
物理吸着法
膜分離法
<輸送>
地上: 液化CO2パイプライン
海上: 液化CO2輸送船
<隔離・貯留>
地中: 帯水層
石炭層
海洋: 溶解・拡散
ハイドレード(海底)
CO2
地中:帯水層、石炭層
図-4 CO 2 の分離・回収・隔離・貯留
第3は、我が国の重点的技術開発分野として位置付けられて
の固定化や有効利用への道が開かれる可能性が存在する。
いる、環境・エネルギー技術、バイオテクノロジー、
ナノテクノロ
そして、ハイパーコール製造技術開発の延長線上には、石炭
ジー及びI
Tの4分野の中で、石炭技術が、
それぞれの技術革
をカーボンとして高度利用する技術が存在している。さらには、
新と共に、
それらと相互に関連した技術的発展を遂げる可能
ナノカーボンファイバーの様なナノテクノロジーに関する技術
性を秘めていることである。
革新の期待される技術分野が存在しているのである。
環境・エネルギー技術の重点は、前述した様に「CO2対策」を
また、ITの発展は、石炭分野のモデル化やシミュレーション技
中心とするゼロエミッション社会の実現に向けた展開であり、
術に革新的進歩をもたらすはずである。
コプロダクションシステムがこの技術革新の到達目標として考
鉄 鋼
えられている。
図-2 石炭ガス化を核とする多様なCCTの展開
化学品
製鉄プラント
コ
ー
ク
ス
化
プ
ロ
セ
ス
化学
エネルギー
空気・水
ス
セ
ロ
プ
解
石炭: H/C = 1
電 気
熱
電気・磁気
エネルギー
分
熱
・
化
1.0
熱
エネルギー
エネルギー変換システム
液
昇傾向があると分析されている。1980年以降は石油利用の
増大の影響を受けて、
H/C=2付近で横ばいの傾向を示し
メタンエネルギー
石油: H/C = 2
水 素
力学
エネルギー
セ
メ
ント
焼
成
プ
ラ
ント
H/C
天然ガス: H/C = 4
光
エネルギー
発電プラント
1800年代の半ばから1980年頃までにかけて、
ほぼ一定の上
石炭
(固体燃料)
10.0
ント
ラ
プ
学
水素エネルギー
for Applied Systems Analysis 2000)によれば、世界の一次
ガス化・燃焼プロセス
社会」への対応である。
I
IASA2000(International Institute
燃料
(ガス・液体)
化
100.0
エネルギー消費量を「H/C
(水素/炭素)」の比で見ると、
その他
副製品
バイオテクノロジーの進歩によっても、石炭化学をはじめ、
CO2
原 料
第2は、将来エネルギー分野が進むであろう「水素エネルギー
セメント
(蒸気・熱水)
環境対策設備
ているが、全体として1980年までの傾向をたどるとして、2030
年ごろにはH/C=4の状態に達すると予想されている。この
排 気
0.1
1800
様な天然ガスから水素エネルギーに至る社会においては、
カー
1850
1900
1950
2000
2050
図-3 一次エネルギーにおける水素と炭素の比(H/C)の推移
ボンの燃焼による最終エネルギー消費は抑制され、石炭エネ
排 熱
図-6 コプロプロダクションシステム
図-5 CCTが支える未来のエネルギー社会(2030年)
このシステムの究極の目標は、
ゼロエミッション(常温の浄水と空気の排出状態)にある。
出典・IIASA 2000
111
排 水
2100
112
第3編 CCTの将来展望
数 表
Clean Coal Technologies in Japan
クリーン・コール・テクノロジーの将来
(2)SI系の接頭語
(1)主なSI単位
CCTは、
エネルギー分野のみならず、製鉄分野においても大
問題解決につながる重要な手段となるものと考えられる。
きな役割を担っている。
経済成長には、
エネルギーの安定供給の裏付けが不可欠で
製鉄分野における石炭の役割は、単にエネルギー資源として
あるが、環境保全は、地球規模で取り組むべき課題であり、相
の利用にとどまらず、良質の還元剤としての製鉄原料の役割
互に制約関係が存在する。そして、
これらの根底には有史以
を担うものである。高炉法による完成された製鉄システムの
来の爆発的な「人口増加」も存在している。地球温暖化問
将来に課せられる課題は、
D
I
OS
(溶融還元製鉄技術)の様な、
題を中心とする、
ゼロエミッションに向けた環境保全への努力
一般炭を用いた鉄と合成ガス、
電力や水素・熱エネルギー、
技術概要
こそ、
「日本のクリーン・コール・テクノロジ−」の開発にとって
化学原料などを併産するコプロダクションシステムによって、
の最優先課題でなければならない。そして、国際協力活動も
石炭の革新的な総合利用効率を達成し、
ゼロエミッションに
含めて、地球環境への影響を最小限に抑制した、効率的で
向けた、
よりすぐれた環境対策を実現して行くことであろう。
高度な石炭エネルギー利用システムを構築して行くことが重
要である。
また、世界最大の石炭輸入国である我が国は、国際社会の
中でクリーン・コール・テクノロジ−のトップランナーとして、
ア
我々は、現在、最も重点的に解決しなければならないエネルギ
ジアを中心とする途上国への技術移転や人材育成などの国
ー分野の1つである石炭分野の技術開発を担う立場として、
際協力活動を、
引き続き、積極的に展開して行かなければなら
革新的な「クリーン・コール・テクノロジー」の開発に努力し、
ない。このことは、石炭エネルギーによって経済成長を目指す
経済と環境が両立した、豊かでクリーンな社会の構築に向け
諸国のためだけでなく、我が国にとっても、
エネルギーの安定
て一層努力して行くことが必要である。
供給や、
CDM(Clean Development Mechanism)
を中心と
量
SI単位
角度
長さ
面積
体積
時間
周波数、振動数
質量
密度
力
圧力
仕事、
エネルギー
動力、仕事率
熱力学温度
熱量
rad
m
m2
m3
s(秒)
Hz(ヘルツ)
kg
kg/m2
N(ニュートン)
Pa(パスカル)
J(ジュール)
W(ワット)
K(ケルビン)
J(ジュール)
接頭語
単位に乗じる倍数
(度)
° 、
(分)
'
、
(秒)
''
1018
1015
1012
109
106
103
102
10
10-1
10-2
10-3
10-6
10-9
10-12
(リットル)
d(日)、h(時)、min(分)
(
t トン)
bar(バール)
eV(電子ボルト)
(3)代表的換算係数
名 称
記 号
Exa
Peta
Tera
Giga
Mega
kilo
hecto
deca
deci
centi
milli
micro
nano
pico
E
P
T
G
M
k
h
da
d
c
m
u
n
p
(4)
ガス化の基本反応式
① basic Energy Units
1J(joule)=0.2388cal
1cal(calorie)=4.1868J
1Btu(British thermal unit)=1.055kJ=0.252kcal
② Standard Energy Units
1toe(ton of oil equivalent)=42GJ=10,034Mcal
1tce(ton of coal equivalent)=7,000Mcal=29.3GJ
1 barrel=42 US gallons≒159
1m3=35.315 cubic feet=6.2898 barrels
1kWh=3.6MJ≒860kcal
1,000scm(standerd cubic meters
of natural gas)=36GJ(Net Heat Value)
1 ton of uranium=10,000∼16,000toe(軽水炉、
オープンサイクル)
1 ton of peat=0.2275toe
1 ton of fuelwood=0.3215toe
〈熱分解〉
石炭 → CH4 + C(チャー/コークス)+(発熱)
〈酸素との反応〉
97.0kcal/mol
→ CO2 +
C + O2
1
29.4kcal/mol
2
→ CO +
C + O
2
〈二酸化炭素との反応〉
38.2kcal/mol
C + CO2 → 2CO −
〈水蒸気との反応〉
C + H2O → CO + H2 − 31.4kcal/mol
C + 2H2O → CO2 + 2H2 − 18.2kcal/mol
CO + H2O → CO2 + H2 + 10.0kcal/mol
〈水素との反応〉
17.9kcal/mol
C + 2H2 → CH4 +
CO + 3H2 → CH4 + H2O + 49.3kcal/mol
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
(7)
(8)
(9)
(5)
エネルギー源別標準発熱量
エネルギー源
[石 炭]
石 炭
輸入原料炭
コークス用原料炭
吹込用原料炭
輸入一般炭
国産一般炭
輸入無煙炭
石炭製品
コークス
コークス炉ガス
高炉ガス
転炉ガス
する京都メカニズム展開の可能性を高め、
グローバルな環境
SI単位として併用してよい単位
[石 油]
原 油 原 油
NGL・コンデンセート
石油製品
LPG
ナフサ
ガソリン
ジェッ
ト燃料
灯 油
軽 油
A重油
C重油
潤滑油
他重質石油製品
単 位
標準発熱量
Kcal換算標準発熱量
旧標準発熱量
kg
kg
kg
kg
kg
kg
28.9
29.1
28.2
26.6
22.5
27.2
MJ
MJ
MJ
MJ
MJ
MJ
6904
6952
6737
6354
5375
6498
kcal
kcal
kcal
kcal
kcal
kcal
7600 kcal
― ― 6200 kcal
5800 kcal
6500 kcal
kg
Nm3
Nm3
Nm3
30.1
21.1
3.41
8.41
MJ
MJ
MJ
MJ
7191
5041
815
2009
kcal
kcal
kcal
kcal
7200
4800
800
2000
38.2 MJ
35.3 MJ
kg
50.2
34.1
34.6
36.7
36.7
38.2
39.1
41.7
40.2
42.3
kg
9126 kcal
8433 kcal
MJ
MJ
MJ
MJ
MJ
MJ
MJ
MJ
MJ
MJ
11992
8146
8266
8767
8767
9126
9341
9962
9603
10105
kcal
kcal
kcal
kcal
kcal
kcal
kcal
kcal
kcal
kcal
暫定値
kcal
kcal
kcal
kcal
9250 kcal
8100 kcal
12000
8000
8400
8700
8900
9200
9300
9800
9600
10100
備 考
旧NGL
kcal
kcal
kcal
kcal
kcal
kcal
kcal
kcal
kcal
kcal
旧他石油製品
kg
Nm3
35.6 MJ
44.9 MJ
8504 kcal
10726 kcal
8500 kcal
9400 kcal
[ガ ス]
可燃性天然ガス
輸入天然ガス(LNG)
国産天然ガス
都市ガス
都市ガス
kg
Nm3
54.5 MJ
40.9 MJ
13019 kcal
9771 kcal
13000 kcal
9800 kcal
Nm3
41.1 MJ
9818 kcal
10000 kcal
[電 力]
発電時
発電端投入熱量
消費時
電力発生熱量
kWh
9.00 MJ
2150 kcal
2250 kcal
kWh
3.60 MJ
860 kcal
860 kcal
kg
2.68 MJ
641 kcal
― オイルコークス
製油所ガス
[ 熱 ]
消費時
蒸気発生熱量
日本のクリーン・コール・テクノロジー
平成18年3月15日発行
旧LNG
旧天然ガス
効率 39.98%
100°
C, 1気圧
飽和乾蒸気
独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構
〒212-8554 神奈川県川崎市幸区大宮町1310番 ミューザ川崎セントラルタワー16階
TEL.044-520-5290 FAX.044-520-5292
財団法人 石炭エネルギーセンター
〒108-0073 東京都港区三田3丁目14番10号 明治安田生命三田ビル 9階
TEL.03-6400-5193 FAX.03-6400-5207
113
114
数 表
(2)SI系の接頭語
(1)主なSI単位
量
SI単位
SI単位として併用してよい単位
角度
長さ
面積
体積
時間
周波数、振動数
質量
密度
力
圧力
仕事、
エネルギー
動力、仕事率
熱力学温度
熱量
rad
m
m2
m3
s(秒)
Hz(ヘルツ)
kg
kg/m2
N(ニュートン)
Pa(パスカル)
J(ジュール)
W(ワット)
K(ケルビン)
J(ジュール)
1018
1015
1012
109
106
103
102
10
10-1
10-2
10-3
10-6
10-9
10-12
(リットル)
d(日)、h(時)、min(分)
(
t トン)
bar(バール)
eV(電子ボルト)
(3)代表的換算係数
接頭語
単位に乗じる倍数
(度)
° 、
(分)
'
、
(秒)
''
名 称
記 号
Exa
Peta
Tera
Giga
Mega
kilo
hecto
deca
deci
centi
milli
micro
nano
pico
E
P
T
G
M
k
h
da
d
c
m
u
n
p
(4)
ガス化の基本反応式
① basic Energy Units
1J(joule)=0.2388cal
1cal(calorie)=4.1868J
1Btu(British thermal unit)=1.055kJ=0.252kcal
② Standard Energy Units
1toe(ton of oil equivalent)=42GJ=10,034Mcal
1tce(ton of coal equivalent)=7,000Mcal=29.3GJ
1 barrel=42 US gallons≒159
1m3=35.315 cubic feet=6.2898 barrels
1kWh=3.6MJ≒860kcal
1,000scm(standerd cubic meters
of natural gas)=36GJ(Net Heat Value)
1 ton of uranium=10,000∼16,000toe(軽水炉、
オープンサイクル)
1 ton of peat=0.2275toe
1 ton of fuelwood=0.3215toe
〈熱分解〉
石炭 → CH4 + C(チャー/コークス)+(発熱)
〈酸素との反応〉
97.0kcal/mol
→ CO2 +
C + O2
1
29.4kcal/mol
2
→ CO +
C + O
2
〈二酸化炭素との反応〉
38.2kcal/mol
C + CO2 → 2CO −
〈水蒸気との反応〉
C + H2O → CO + H2 − 31.4kcal/mol
C + 2H2O → CO2 + 2H2 − 18.2kcal/mol
CO + H2O → CO2 + H2 + 10.0kcal/mol
〈水素との反応〉
17.9kcal/mol
C + 2H2 → CH4 +
CO + 3H2 → CH4 + H2O + 49.3kcal/mol
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
(7)
(8)
(9)
(5)
エネルギー源別標準発熱量
エネルギー源
[石 炭]
石 炭
輸入原料炭
コークス用原料炭
吹込用原料炭
輸入一般炭
国産一般炭
輸入無煙炭
石炭製品
コークス
コークス炉ガス
高炉ガス
転炉ガス
[石 油]
原 油 原 油
NGL・コンデンセート
石油製品
LPG
ナフサ
ガソリン
ジェッ
ト燃料
灯 油
軽 油
A重油
C重油
潤滑油
他重質石油製品
単 位
標準発熱量
Kcal換算標準発熱量
旧標準発熱量
kg
kg
kg
kg
kg
kg
28.9
29.1
28.2
26.6
22.5
27.2
MJ
MJ
MJ
MJ
MJ
MJ
6904
6952
6737
6354
5375
6498
kcal
kcal
kcal
kcal
kcal
kcal
7600 kcal
― ― 6200 kcal
5800 kcal
6500 kcal
kg
Nm3
Nm3
Nm3
30.1
21.1
3.41
8.41
MJ
MJ
MJ
MJ
7191
5041
815
2009
kcal
kcal
kcal
kcal
7200
4800
800
2000
38.2 MJ
35.3 MJ
kg
50.2
34.1
34.6
36.7
36.7
38.2
39.1
41.7
40.2
42.3
kg
9126 kcal
8433 kcal
MJ
MJ
MJ
MJ
MJ
MJ
MJ
MJ
MJ
MJ
11992
8146
8266
8767
8767
9126
9341
9962
9603
10105
kcal
kcal
kcal
kcal
kcal
kcal
kcal
kcal
kcal
kcal
暫定値
kcal
kcal
kcal
kcal
9250 kcal
8100 kcal
12000
8000
8400
8700
8900
9200
9300
9800
9600
10100
備 考
旧NGL
kcal
kcal
kcal
kcal
kcal
kcal
kcal
kcal
kcal
kcal
旧他石油製品
kg
Nm3
35.6 MJ
44.9 MJ
8504 kcal
10726 kcal
8500 kcal
9400 kcal
[ガ ス]
可燃性天然ガス
輸入天然ガス(LNG)
国産天然ガス
都市ガス
都市ガス
kg
Nm3
54.5 MJ
40.9 MJ
13019 kcal
9771 kcal
13000 kcal
9800 kcal
Nm3
41.1 MJ
9818 kcal
10000 kcal
[電 力]
発電時
発電端投入熱量
消費時
電力発生熱量
kWh
9.00 MJ
2150 kcal
2250 kcal
kWh
3.60 MJ
860 kcal
860 kcal
kg
2.68 MJ
641 kcal
― オイルコークス
製油所ガス
[ 熱 ]
消費時
蒸気発生熱量
日本のクリーン・コール・テクノロジー
平成18年3月15日発行
旧LNG
旧天然ガス
効率 39.98%
100°
C, 1気圧
飽和乾蒸気
独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構
〒212-8554 神奈川県川崎市幸区大宮町1310番 ミューザ川崎セントラルタワー16階
TEL.044-520-5290 FAX.044-520-5292
財団法人 石炭エネルギーセンター
〒108-0073 東京都港区三田3丁目14番10号 明治安田生命三田ビル 9階
TEL.03-6400-5193 FAX.03-6400-5207
114
石炭資源開発
技術
多目的石炭利用
環境負荷低減
技術
技術
CCT
製鉄・一般産業
Clean Coal Technology
石炭火力発電
技術
技術
コプロダクション
石炭利用基盤
システム
技術
独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構
〒212-8554 神奈川県川崎市幸区大宮町1310番 ミューザ川崎セントラルタワー16階
TEL.044-520-5290 FAX.044-520-5292
ホームページ http://www.nedo.go.jp/
財団法人 石炭エネルギーセンター
〒108-0073 東京都港区三田三丁目14番10号 明治安田生命三田ビル9階
TEL.03-6400-5193 FAX.03-6400-5207
ホームページ http://www.jcoal.or.jp/