第1章第1部全編

注:本作品において、カタカナの「パ」は、
「ペ」と読み替える場合があります。
「僕の奥様は女王陛下」
作:浜造堕
第1部
―なりそめ―
目の下に広がるペルシャ絨毯の模様を見つめていると、宇宙の深遠の中を漂っているよ
うに思えてくる。しかし、そんな幻想的な思いとは裏腹に両腕は疲れきっていた。僕の背
中の上に座られた女王様の重みで耐えられないほどの苦痛を味わっていた。といって、こ
こで潰れる訳にはいかない。女王様に恥をかかせてはならない。そんな事になったら、僕
は、廃棄奴隷にされ、二度と女王様に、お目通りする事すら叶わなくなってしまう。そん
な悲しい事にならないよう、ただ頑張って堪えるしかなかった。
4時間にも及ぶ会議で、2回の休息が入っただけだ。議場の他の人間椅子達は休息の度
に交換されるが、女王陛下の専属奴隷である僕には交代してくれる他の人間椅子はいない。
最初の内は汗も滴っていた。しかし、今は水分も涸れ果て、脂汗が滲み出て来るだけだ
った。あとは自然に潰れるまで、耐え忍ぶしかなかった。
「イラソ首長国連邦政府に採掘権の一部を譲渡します」
女王様が発言された。
「そこまで、譲歩する必要はない。我々は勝利しているのだ」
元老院議員の誰かが発言している。案の定、ブーイングが幾つも囁かれた。
女王様の言われるとおりで良いのだ、それで良い。もう石油の時代は終わっている。い
まさら石油の採掘権に固守しても益はない。
「今、勝利を明確にする事は、次に隣国及び世界と対峙する事になるでしょう。今は耐え
る時です。この勝利を世界の目から隠さなければいけません。その代わり実質的な勝利を
手にしましょう。我が経典に法った世界を作るための第一歩とするために」
力を込めて女王様が発言された。同意を表す拍手が議場を揺るがせた。
「これで、イラソ首長国連邦内におけるワンダ女権国の発言力は増すでしょう。今から流
れが変わるでしょう。我等がキリスト・マリアマグダラが定めし、正しき教えが世界に認
められる日まで、あと少しです。やがて人類の救済に貢献出来る日までの辛抱です。元老
院最高会議に御出席の皆様方の英知に感謝いたします」
女王様が立ち上がられた。スーッと背中の上から重みが消えた。
僕には見えない、きっと女王様は片手を上げられて歓迎の拍手に応えられておられるの
だろう。全てが上手く行っている。これでワンダ女建国も安泰だ。予言の書に書かれてい
るとおりに歴史が動き出している。ここに世界が変わる第一歩が標されたのだ。
僕の股間から伸びる真っ赤な手綱を女王様が牽かれた。股間が引っ張られたので、僕は
それに従って円卓の後ろの通路に出る。大きな拍手が議場に木霊していた。会議は大成功
だった。女王様は満面の笑みを湛え、元老院最高会議の 100 名の議員に片手を上げて応え
られていた。女王様が右側へ回り込まれて、そちら側の議員席の後ろを歩かれ、出口に向
かった。僕も牽かれて四つん這いで着いて行った。
議場に入ってきた時は反対側から右に回り込んだ。そちら側から見るペルシャ織の絨毯
の模様は、まるで憂鬱さを映し出したように重みのある濃く深い赤の表情だったのに、退
出する今は、その様相を変えてピンク色の明るい表情を見せている。ペルシャ絨毯は見る
方向によって雰囲気をガラッと変えるものだ。この議場のインテリアは、そこまで考慮さ
れているのだった。
外光の射す明るい回廊に出てもペルシャ絨毯が敷き詰められていた。それは四つん這い
で歩く奴隷の膝の為を思ってのものではないのだろうが、奴隷である僕にとっても負担が
少なく好ましいことだった。
回廊に出たとたん、いきなり股間が強く引っ張られた。女王様が急くように早足で歩か
れていた。当然、僕もそれに従うしかなかった。女王の控の間まで 30mはあっただろうか。
エリザベーラは飛び込むように部屋に入り、後ろ手で鍵を掛けた。そして、部屋の真ん中
まで歩くと僕を見下ろし、両膝を折り、正座して控えている僕の目線まで顔を下ろしてき
た。
エリザベーラの両手が僕の顔を抱え、唇を重ねてくる。僕もそれに応えるように、エリ
ザベーラの身体に両腕を回し硬く強く彼女を抱きしめた。唇が離されると、エリザベーラ
の喜びに満ちた青い瞳が、僕の目を見つめ返してくる。
「愛しているわ、隼人さん」
エリザベーラが嬉しそうに続けて言った。
「やったわ、大成功。これも、みんな隼人さんのお陰よ。ありがとう」
「エリザベーラの努力と意志の強さの為せる業です。僕は予言の書に記されているとおり
に行なっただけです。でも上手くいって良かった。ここから世界が変わるでしょう。経典
の教えに間違いのない事が証明されていくでしょう。エリザベーラが、それを成し遂げる
のです。大丈夫、きっと上手く行きます」
僕はエリザベーラの青い瞳を見つめて言った。
「隼人さんと一緒なら大丈夫よね」
エリザベーラと僕は再び強く抱き合い、口付けを交わしたが、すぐにエリザベーラは立
ち上がった。その目が泳いでいる。
「女王様、大丈夫です。仰って下さい」
僕はエリザベーラに向かって訴えた。
「本当に大丈夫なの、隼人さん?」
確かめるように、エリザベーラは僕の顔を見つめている。
僕は頷いた。
「ごめんなさい、
・・・・!」
僕に向かって女王様が初めて命令する言葉を発した。
その言葉を聴けて僕は嬉しかった。4時間にも及ぶ会議で、僕を人間椅子として使い続
け、その信頼の上に立って、ご命令して頂けたのだ。僕は、女王様の信頼に応えなければ
いけない。
立っているエリザベーラの後ろに、僕は四つん這いになって回り込んだ。真っ赤なアバ
ヤと呼ばれる1枚布をたくしあげ、頭をその中に滑り込ませた。目の前にエリザベーラの
すべすべで、ふくよかで陶器のような白い双球が迫る。僕はその割れ目に顔を押し込み、
真ん中の菊門に口先を押し付けて、緊張して口を開いた。僕に本当に出来るのだろうか。
でも、御命令を遂行しなければならない。僕を信頼して女王様は命令されたのだ。この命
令を確実に実行できる奴隷は他にも居た。でも女王様は、僕を信頼して御命令されたのだ。
その事が一番嬉しかった。
直ぐに、暖かく柔らかな感触の便が僕の口の中に押し込まれてきた。僕はそれを一生懸
命に飲み込み、自分の腹の中に導いて行く。空気に触れる事もなく女王様の便は、人間便
器となった僕の口の中に排出されていた。臭いが外に漏れる事はなかった。初めて食する
エリザベーラの便だった。屈辱感も有った。でも、それより、エリザベーラの僕に対する
信頼と愛おしさの方が増さっていた。
僕は、エリザベーラの腰から前に両手を回し、お尻を抱えるようにしていた。ちょうど
両掌に、エリザベーラのフサフサとした陰毛の柔らかさを感じながら。僕の逸物はそれに
反応してムクムクと膨れ上がっていったが、竿の中ほどに嵌め込まれた金属の筒の中で性
の快楽を享受する事を拒否されていた。金属の筒の内側に張り出した鋲が、硬く膨らむパ
ニスに強烈な苦痛を与える事となるのだ。性の快楽は僕にとっては地獄の業炎に焼かれる
ようなものだった。それでも、エリザベーラをこうして抱ける事に幸せを感じていた。
エリザベーラと出逢ったのはいつの事だったろうか――。
あの日、エリザベーラに出逢えなかったとしたら、エリザベーラの運命も、僕の運命も、
世界の運命も違ったものになっていただろう。まるで周到に用意された出逢いとしか言い
ようがなかった。
前日、僕は大学の研究会の仲間と飲んでいた。二次会、三次会と飲み歩き、最後に行き
つけの店に一人で入り、カウンターに座って更に飲み続けていた。かなり酔いも回ってい
たと思う。気が付くといつの間にか金髪の美女が、僕の隣に座っていた。表情は少女のよ
うでもあった。
彼女は僕に不思議な話をした。
”明日 11 時に目白駅に行くと僕の運命を決する人に出逢
える”と言うのだ。
金髪の美女なのに不思議と僕には違和感がなかった。なんだか肉親と接しているような、
そんな親密感さえ感じさせる女性だった。酔っているとはいえ、金髪フェチの僕にとって
は忘れようもない出来事だった。
朝、泥酔している僕の頭の中に、高校生の妹、夢子の甲高い声が割り込んできた。僕の
部屋の放送設備を通して呼び掛けられたので、頭に響き、とても五月蝿かった。僕は、妹
の声を無視してでも寝続けて居たかった。今日は授業もなかったし、大学へ行かなくても
良い。昨日は、その心算で飲んでいたのだ。
「隼人お兄さま。大学の担当教官と言う人から電話が入っていますよ。早く出て下さい」
夢子の声が部屋中に響き渡っていた。
「解った、切り替えてくれ」
僕の研究テーマの担当教官は、老齢の学会でも重鎮と目される教授だったが、僕に対し
ては、とても一生懸命に面倒を見てくれていた。それに結構優しいところもあり、僕の無
理は大概聞いて貰っていた。ところが今日は、どうしても話したいことがあり、学校に出
てきて欲しいと言うのだ。僕は二日酔いで、とても学校には行けないとお断りしたのだが、
教授はそれでも構わないので出てくるように強く僕を諭すのだった。仕方なく、昼過ぎな
ら学校に行けると思うと答えたのだが、教授は昼にはいなくなるので 11 時半までに教授室
に来るようにと一方的に言われてしまった。
仕方ないと思い、僕は漸くベッドから身体を起こした。11 時半まで、そんなに時間的な
余裕もない。
ラッシュを避けた朝の遅い時間帯にも拘らず電車内は混み合っていた。都市への人口の
一極集中は止む事がなく、首都圏 100Km 以遠では、中核都市を除き過疎化と温暖化による
高温多湿のため、人手の入らなくなった広大な遊休地はジャングル化の様相を見せていた。
国内は人口の激減に見舞われているとはいえ、首都TOKYOは衰える事を知らないよう
に、電車内は今日も人で溢れかえっていた。
漆黒に描かれた窓の外が、駅のホームに滑り込むと明るく輝く。足元まで見渡せる大き
な窓からはホームの様子もよく見えた。
電車が止まる瞬間、ホームに金髪の大柄な女性が歩いているのを目に留めた。金髪フェ
チの僕は、その美女を目で追った。飲み屋で声を掛けてきた女性かもしれない。
昨日の不思議な美女との事が思い出されたが、店内は暗かったので、ちゃんと顔まで確
認できた訳ではない。同一人物だったかどうかなど解らない。
電車が止まり、ホームのドアと電車のドアが同時に開いた。ホームに出ると僕は、その
金髪の美女を捜した。彼女はキョロキョロと辺りを見回しながら、改札のあるエスカレー
タに向かって歩いていた。僕も彼女の向かう改札に急いだ。
首都TOKYOの地上からは、あらゆる交通機関は姿を消していた。全ての交通機関と
車道は地下に集約されている。そのため、電車の駅は地下の深部にあり、電車を降りても
地上に出るまでには、ある程度の時間を要する。それが難と言えば難と言えないこともな
い。
改札付近で彼女は一人で立ち尽くしていた。輝くような金髪の下に明るいブルーの瞳が
印象的に光っていた。僕はすっかり魅せられてしまい、困っている様子の彼女に近づいた。
昨日出会った金髪の女性とは違う。昨日の女性は、僕と同じぐらいの年代だった。ここに
いる金髪の美女は、まだ 10 代末だろう。雀
斑が顔に、まだ残っている。しかし、身長は僕よりも頭1つ分、完全に高かった。
身長差に圧倒されながらも、彼女を見上げて英語で声を掛ける。ところが英語は、まっ
たく通じなかった。彼女が俯いて僕を見つめていた。
「アッサラーム、アライコム」
驚いた、アラビア語だ。僕が話せるのは日本語、英語とアラビア語だけだったので、ア
ラビア語を話す少女を見上げて嬉しくなってしまった。まだ幼く美女とは言えない彼女に
話し掛けてみた。
事情を聞くと、大学の入学手続きに訪れたのだけれど、書記官と逸れてしまい捜してい
るとの事だった。僕は彼女と駅事務室へ行き放送設備を借りて、アラビア語で、その書記
官へアナウンスして呼び掛けてあげた。
それほど待つ事もなく、全身を黒い民族衣装で覆った書記官が駅事務室に現れた。アバ
ヤと呼ばれる1枚布で出来た黒い民族衣装で全身を覆い、頭からはシェイラと呼ばれるス
カーフで顔を隠した姿は、雑多な国際都市TOKYOであっても目を引くものだった。
地上に出ると、G大学の西門はすぐ近くにある。青空の下、満開の桜が春の訪れを告げ
ていた。
正門近くにある事務棟まで案内し、別れ際に、入学したら僕の主宰する研究会に入って
くれるようお願いした。事務棟前で魅力的な金髪の彼女に再び会える事を願って別れた。
教授の指定した時間が迫っていた。僕は急いで教授室に出向いたが教授は不在だった。
教授は、どこから僕に連絡を寄越したのだろうか。とにかく、あの電話1本が、僕の運命
を決定付けた事に違いはなかった。後日、教授に確認したところ、そんな事をする筈がな
いと否定された。確かに、そんな無理を言う
教授ではなかった。
僕は、金髪の美女に会えた喜びで、教授とのそんな些細なトラブルはすぐに忘れてしま
った。ただ、僕の運命を変えた、その事実を、いつまでも忘れられなかった。
僕は宮家の3男坊として生まれた。100 年前には女系継承問題で揉めた時代を経て、必然
的に女子にも皇位継承が認められるようになり、女系宮家も幾つか誕生するようになると、
継承権の末端に位置する僕になど公式の場で活躍するチャンスも与えられなかった。と言
って就職も難しく将来に不安を抱えたまま4回生へと進級した。
昨年、僕は国際問題研究会とは別に中東問題研究会を立ち上げ、そこの部長に納まって
いた。学校の性格上、積極的な政治批判は行えなかったが、僕は古代の中東世界に興味を
抱いていた。
ユダヤ教から離れて発展してきたキリスト教圏とイスラム教を成立させた中東圏の対立。
十字軍による中東地域への虐殺を経て膨らむ増悪の歴史。そして 19 世紀から始まるエネル
ギーの争奪戦を経て、世界の火薬庫と言われた時代。最後に 21 世紀に入ってからの終局の
大混乱時代を迎え、中東各国の大編成が為された。太古の昔より、石油に対する魅力が失
われるまでの間、ゴタゴタの絶えない地域だったが、思いを馳せれば 5000 年を数える歴史
の蓄積がこの地域にはあった。なんと魅力的な場所なのだろう。僕は、そこに魅せられて
研究会を立ち上げたのだった。
大学のキャンパスの新緑も生え揃った4月末、僕の主宰する研究会にも幾人かの新入部
員があった。驚いた事に、その中に、あの金髪で長身の美女、エリザベーラの姿もあった。
僕の誘いを覚えていてくれたのだ。
僕は当然のように部長の特権を生かして、彼女と国際政治について積極的に個別討論を
展開した。特に彼女が生まれ育った中東の混乱した不幸な歴史を紐解き、現代に繋がる政
治体制と、今後のあるべき姿について議論を進めた。しかし、彼女の考え方はアラブ側か
ら見た被虐の歴史観しかなく、非常に狭い中東の一部族からの視点でしか世界情勢を捉え
る事が出来ていなかった。僕は彼女に 21 世紀初頭の混乱した中東情勢から紐解き、後半の
世界政治体制を把握できるように教え、世界が平和を維持するために、どう政治を動かし
て行かなければならないのかを議論した。
ただその時、エリザベーラの世界観がイスラム教による影響を殆ど受けていない事を感
じた。彼女の信仰する宗教は、ユダヤ教から発したキリスト教や7世紀頃に発生したイス
ラム教の教義とも、少し違っている事にも気が付いた。しかし、この宗教観の違いから来
る世界観の捉え方の違いを、我々島国の人間は感じ取る事が出来ず、どうしても、そこの
ところは曖昧になってしまった。
エリザベーラとは、部長と新入部員と言う関係は最初の内だけで、すぐに恋人同士の関
係に発展した。1年後、僕はG大学を卒業し、籍を大学院に移した。その後、エリザベー
ラが卒業するまでの3年間を恋人同士として楽しく過ごす事が出来た。
エリザベーラが4回生となった時、僕は意を決して彼女に結婚を申し込んだ。しかし、
宮家の人間が結婚するには難しい問題が様々ある。宮家を出るに当たり、先ず経済的に自
立しなければならない。独立のための一時金は貰えたとしても、その後の収入の道を見つ
けなければならなかった。さらに、彼女の国にも認めてもらわなければならない。ところ
が、エリザベーラの国には婚姻制度そのものがなかったのだ。この二つをクリアする事は
不可能に思えた。僕は諦めて、エリザベーラが大学を卒業して帰国するのを指を咥えて見
ているしか道は残されていなかった。
その頃、僕を密かに追いかけていたマスコミの記者が一人いた。どこからの情報なのか、
彼女の生い立ちまで調べ上げていた。エリザベーラは、アラブ圏の中にある小さな自治区
内の小国の王女様だった。境遇も僕と似ていて、沢山の兄弟姉妹の末の方に位置している
ため、国王の継承権も末の方だった。それ
でも王女様には違いがなかった。
最初の内こそ小さな報道だったが、直ぐに興味本位の国民性を煽りだした。
『宮家の三男坊主と、アラブの王女様の恋』と言うタイトルが、ネット上を駆け巡った。
それが追い風になり、僕を雇いたいと言う企業が幾つか名乗りを上げたのだ。彼女の国の
許可が得られないのであれば、僕の国でそのまま暮せば良い。いずれ彼女の国にも婚姻制
度が出来であろう。その時、エリザベーラが望むのであれば、彼女の国に僕も一緒に戻っ
て暮らしても良い。僕が、エリザベーラの事を全面的に支えるだけなのだ。何の問題もな
い。
こうして僕達は、マスコミに踊らされた形で結婚した。盛大な結婚式はテレビ放映もさ
れ、マスコミの絶大な援助の下で執り行われた。ただ、エリザベーラの国からは無視され
たかのように、書記官のファミーレさんと護衛官の二人にしか参列して貰えなかったが、
僕は、エリザベーラをしっかりと支えた。何があろうと僕は、エリザベーラのために自分
を捧げる決意が出来ていた。僕は“ヤプー”男児なのだ、と意気込んでみた。
マスコミのクルーも同行して世界一周の新婚旅行に出た。すでに、エリザベーラはマス
コミ受けするほどの美女に育ち、18 歳で大学に入学してきた頃の雀斑だらけの少女の面影
は、どこにも残っていなかった。
先ずは常夏のハワイに飛び、それから北アメリカを横断し、中米から南米へと旅を続け
た。南極大陸に立った時には、丁度、夏の訪れる直前だった。オーロラの下で抱き合う姿
がヤーパンで放映されていた。
温暖化の影響は南極大陸に一番影響を及ぼしていた。それでも大部分の大陸氷は健在だ
った。極点を経由してアフリカにはケープタウンから上陸した。ケニアを経て、インド洋
シェーシェル群島に逗留している時に、そのニュースが飛び込んで来た。
スコールが通り過ぎた後に陽射しが戻ると、僕はマスコミへのサービスの心算で、エリ
ザベーラの大きな身体を御姫様抱っこして持ち上げてカメラに向かってポーズをとってい
た。ビキニの水着姿の、エリザベーラは、とても香しくエロチシズムに溢れていた。エリ
ザベーラの真っ白な両腕が僕の首に回されている。当然に僕の股間は勃起して、エリザベ
ーラの尻に圧迫され、もがいていた。同行の取材クルーが、そんな僕たちにカメラを向け
ていた。そこに、いつも黒いアバヤで身を覆ったファミーレさんが、今日に限って黒のビ
キニ姿のままで現れた。僕はファミーレさんの均整の取れたスタイルに気を取られてしま
ったが、ファミーレさんの手には携帯ディスプレイが握られていて、その画面を、エリザ
ベーラに向けて見せた。
「どうしたの、ファミーレ」
エリザベーラが訊ねた。
「エリザベーラ。女王陛下の別宮にミサイルが打ち込まれました。丁度、陛下の誕生パー
ティーが行なわれていた時でした。王族の方々、全てが集まっておられたようです。全員、
死亡されたとの事です。爆発は1メガトン級の核爆発に匹敵するものだったようです。…
…それで、エリザベーラが、女王継承権のトップになってしまいました」
ファミーレさんが淡々と告げる。
「誰か、助かった家族は居なかったの」
驚いた様子も見せず、エリザベーラが聞いた。
「妹のセルベリーナさんと、兄のヤーコブは巻き込まれなかったようです」
「そう、それは良かったわ」
エリザベーラが口先だけで答えた。
「どうしましょう、エリザベーラ。すぐに国に戻らなければ」
ファミーレさんが慌てたように言った。
僕は、エリザベーラを砂の上に降ろした。エリザベーラはコテージの方へ歩いて行った。
ファミーレさんも従って着いて行った。僕は椰子の下のベンチに腰を降ろした。僕には何
もしてあげられなかった。もうヤーパンには帰れないかもしれないなと、漠然とした、そ
んな予感を感じた。
エリザベーラが決断するなら、僕は、エリザベーラとともに彼女の国に行く事を選ぶだ
ろう。どのような試練が待っているとしても、エリザベーラが一国の国民を見捨てるはず
がないと僕には思えた。ところで、女王陛下の亭主にはどのような処遇が待ち構えている
のだろうか。エリザベーラの苦悩も理解できず、僕は勝手にアラブでの王宮生活を夢想し
て浮かれていた。
昼下がり。僕は大きく欠伸をしてベンチに身体を任せた。目蓋が重かった。波の音も心
地良い。
どうやら、そのまま眠ってしまったようだ。オレンジ色の空を背景に、黒いシルエット
の、エリザベーラが目の前に立っていた。
「御目覚めね、隼人さん」
エリザベーラが優しく声を掛けてくれた。
「眠ってしまったようだ。エリザベーラの方は大丈夫かい?」
僕は彼女の国で起こったことを思い出して心配して聞いた。
「えぇ、大丈夫です。家族と言っても、いつも離れ離れに暮らしていましたから、皆がミ
サイルの爆発で死んでしまったと言っても、それほど強烈なショックも悲しみもありませ
ん。それよりも、今後の事を考えると憂鬱になります。
私には女王として国を治める義務が生じてしまいました。貴方の国の法律であれ、私は
隼人さんと結婚したのです。隼人さんと別れて暮す事は出来ません。私の国に一緒に来て
頂きたいのですが、私の国には婚姻制度も夫婦で一緒に暮らすと言う習慣もありません。
そこで長老達に相談しています。何とか一緒に暮らせる方法がないものかと。今、少しお
待ちになって、隼人さん」
エリザベーラが申し訳なさそうに言った。
「大変な事になってしまったね。僕の事など二の次で構わないから、先ずは国へ帰った方
が良いだろう。僕なら、エリザベーラと一緒に行くから、何とでもなるさ」
僕は、エリザベーラの苦悩を少しでも和らげてあげたいと思った。
「隼人さん、ありがとう。明日の朝にも返事が来ると思います。それまでは待ちます」
僕の横に腰を降ろし、エリザベーラが耳元で囁いた。
僕の両腕は自然に、エリザベーラの身体に回り、抱きしめていた。手を繋いでコテージ
のベッドルームへ移動した。エキゾチックな南国の雰囲気の中で二人は激しく求め合った。
こんなにも激しい男と女の営みは初めてだった。でも、これが、エリザベーラとの最後の
営みになろうとは思ってもいなかった。
翌朝僕は、エリザベーラのために朝食をベッドまで運ばせた。彼女の女陰へ舌先での愛
撫、それが彼女を目覚めさせる御決まりだった。僕は、エリザベーラの剥き出しになった、
こんもりと盛り上がった黄金の陰毛の小山に顔を埋め、舌先を伸ばした。女陰の筋に沿っ
て舌先を尖らせて刺激する。エリザベーラの
身体がピクピクと反応していた。僕は尖らせた舌先を、お腹から臍へと這わせて行く。大
きな胸の膨らみを掌で押し上げ、乳輪の周りへも舌先を這わせる。胸の谷間に顔を突っ込
み、そこから首筋、顎へと舌先を這わせて行く。そして、エリザベーラの唇に僕の唇を重
ねる。
エリザベーラは目覚めていた。そんな僕を見つめて強く抱きしめてくれるのが、エリザ
ベーラの朝の日課だった。僕は子犬のように、エリザベーラの胸に抱えられ、幸せを堪能
していた。
ノックの音と伴に部屋のドアが開かれ、ファミーレさんが慌てて入って来た。僕とエリ
ザベーラは裸で、ベッドの上で抱き合ったままだった。
「失礼します、エリザベーラ。専用機が空港に到着しています。すぐに出掛けますよ」
ファミーレさんが急かすように言った。
「何を着て行けば良いかしら、ファミーレ」
エリザベーラが両手を開いて裸体を晒して見せた。エリザベーラの、たわわな胸が揺れ
ていた。
「そのままでも大丈夫です。専用機の中に全て用意は整っています」
ファミーレさんが微笑んだ。
取り敢えず、エリザベーラと僕は、その辺に脱ぎ捨ててあるものを身に着け、外へ出た。
海際の道路にタクシーが3台止まっていた。黒いアバヤに身を包んだ、エリザベーラの国
の役人達が待ち構えていた。エリザベーラが近づき声を掛けた。少しやり取りがあり、エ
リザベーラが僕の方を向いて手招きした。僕は彼女に近づき一緒にタクシーに乗り込んだ。
海際に椰子の林が立ち並んだ空港の滑走路に、真っ白な優雅な姿を見せる政府専用機が
晴れ渡った真っ青な空の下に駐機していた。僕と、エリザベーラとファミーレさんはタラ
ップを登った。報道クルーの2名も同乗しようとしたが、タラップの下で待機していた黒
いアバヤの政府の役人に拒絶されていた。
専用機は、すぐに動き出し離陸した。エリザベーラは僕の隣の席に座って手を握ってく
れていたが、機が上昇を止めると安全ベルトを外し前方にあるオフィススペースへ姿を消
した。
「隼人さん、大丈夫ですよ。エリザベーラは、貴方の処遇について、国の長老達に掛け合
っているところです。きっと良い解決策が提案されるでしょう」
向かいの席に対面して座るファミーレさんが、微笑みながら僕に言ってくれた。
エリザベーラは、なかなか席に戻って来なかった。その間、僕はファミーレさんから、
イラソ首長国連邦についてのレクチャーを受けていた。
脱石油の流れの中で、アラブ地域から利権を漁る国々が撤退していった。その影響で民
族間の覇権争いが一時的に激化した。その混乱も、やがて収束を迎え、21 世紀後半に入り
幾つかの国に再編されていった。彼女の国、ワンダ女建国は幾つもの小国が集まり、イラ
ソ首長国連邦を形成した中の一つに含まれて
いた。
ワンダ女建国の政治形態について話が及んだ時に、真っ赤なアバヤに着替えた、エリザ
ベーラが戻ってきた。その艶やかな赤色は、女王の威厳を醸し出していた。しかし、エリ
ザベーラの表情は険しかった。僕も、その表情に接し笑顔を返せなかった。
僕の不安な表情を察して、エリザベーラはすぐに笑顔に作り変えた。
「大丈夫です、隼人さん。長老達は2つの提案をしてくれました。1つは私のサーバント
として仕える事。もう一つは、外国人政治顧問として王宮の外から、私に助言を与えてく
れる役職に就く事です。サーバントとは、私の世話係のようなもので、常に私と一緒にい
る事が出来ます。外国人政治顧問は、首都にオフィスを持って年に数回、国外情勢につい
て王宮に来てレクチャーする役職です。常に一緒にいられるのはサーバントなのですが、
これは私の従者という事で、隼人さんの自尊心を傷付ける事になってしまいます。詳しい
内容は到着してから担当の役人が説明してくれますから、王宮に着くまでに決めて下され
ば良いのです」
さらに、慎重に言葉を続ける、エリザベーラだった。
「大丈夫です。どちらを選んだとしても、隼人さんを恨むことはありません。私の国の中
では男性が就ける仕事は限られています。ですから、詳しい説明を聞いてから、ゆっくり
と考えて下さい」
「今、丁度、国の事を話していたところです」
ファミーレさんが言った。え!?
何にも聞いていないよ。心の内で僕は言ったが、エリザ
ベーラの大変さを思うと口には出せなかった。
「良かったわ。では、多少の事情は解って貰えているのね。詳しい事は、役人が説明して
くれますから、それで判断して下さい、隼人さん」
専用機はすぐに着陸態勢に入った。窓から見下ろすイラソ首長国連邦は、黄一色の世界
だった。広大な砂漠には無数のデューン(砂丘)が連なり、風が砂を舞い上げていた。
“当機は、ワンダ女建国、サディスチン空港に到着いたします。到着するまで座席ベルト
の着用をお願いします”
インフォメーションが告げていた。
何の抵抗もなく専用機は空港に舞い降りた。
扉が開くとエキゾチックなアラブの楽曲が専用機の中にまで聞こえて来た。同時に、エ
リザベーラの表情はキリッと引き締まった。僕は手を伸ばし、エリザベーラの頭を自分の
方に引き寄せて口付けした。
僕から求めて口付けするのも、これが最後のものとなった。
「少し待っていて、すぐに迎えが来ますから」
「うん。解ったよ、女王陛下」
僕は茶化すように言った。
「僕の奥様が女王陛下になるなんて思ってもみなかったよ」
僕は微笑んだ。
彼女の心境が、どんなものだったのか僕には想像も出来ない。エリザベーラは扉に向か
って歩いて行った。ファミーレさんも後に続く。僕は窓から、エリザベーラを追って外を
眺めた。
専用機の下に、十数人の軍楽隊が並ぶ。そして、黒塗りのリムジンが2台、専用機のタ
ラップの脇に駐車していた。21 世紀初頭に作られたものと思われるリムジンの脇には、数
人の黒いアバヤを纏った出迎えの役人が並んでいる。完全なガソリンエンジン車だった。
真っ赤なアバヤの、エリザベーラと黒いアバヤに着替えたファミーレさんがタラップか
ら降り、前方のリムジンへ歩いて行く。エリザベーラが迎えの役人と話を交わしてから、
すぐにリムジンに乗り込んだ。
窓の外を注視していた僕の肩を誰かが叩いた。振り返ると、黒いアバヤにシャイラを被
った黒尽くめの女性が立っていた。
「隼人さんですね。私の後に着いて来て下さい」
澄んだ声の女性だった。
僕は立ち上がり、彼女の後ろに着いて専用機の扉を潜った。外のタラップに立つと、凄
い熱気が僕の身体中を包んだ。服の裾からも熱気が身体に滲み入ってくるようだった。身
体に叩き付けられる陽射しが無茶苦茶に暑かった。その強烈な陽射しの下、足元の砂の上
に出来た小さな僕の影は漆黒の穴のようにも見えた。眩しさに目を細めて前を見ると、エ
リザベーラを乗せたリムジンは既に出発を待つばかりになっていた。
後ろのリムジンに近づくと、前のリムジンのドアが開き、真っ赤で艶やかなアバヤをは
ためかせて、エリザベーラが飛び出して来た。僕に駆け寄ると、その大きな身体で僕を抱
き締め、唇を重ねて来た。長い時間、僕達は抱き合ったまま唇を重ねていた。
頭の天辺が陽射しに晒されて熱い。僕の舌先は、エリザベーラの口の中で引き千切られ
るほどに強く吸い込まれていた。長い長い口付けから、漸く、エリザベーラは唇を離した。
「隼人さん、明日には逢えます。それまで我慢して下さい」
エリザベーラが切羽詰ったように言った。
「大丈夫だよ、エリザベーラ。僕はヤーパン男児だ、明日までちゃんと待っているから、
心配しないで君の職務を果たすんだ」
エリザベーラの両肩に手を置いて、安心させるように言ってあげた。
しかし、エリザベーラとの対等な口付けも、これが最後のものとなってしまった。
「そうね、私の見込んだ隼人さんですもの、大丈夫に決っているわね。でも、無理はしな
いで、隼人さん」
相変わらず心配そうな、エリザベーラだった。何だか、僕まで不安になって来る。
「行くんだ、エリザベーラ」
エリザベーラの両肩を突き放して僕は言った。それでも僕の気持ちは、ちっとも大丈夫
ではなかった。リムジンに乗り込む前に、エリザベーラが僕に向かって片手を挙げて微笑
んだ。
輝くような長い金髪の髪、透き通った青い瞳、普通に愛おしく、エリザベーラを見る事
が出来たのも、これが最後のものとなった。続いて僕も、後続のリムジンに乗り込んだ。
既に僕の乗り込んだリムジンの後部座席には、一人の黒いアバヤとシェイラに身を包ん
だ女官が乗っていた。僕が座るとさらに僕を挟むように、もう一人の女官が乗り込んで来
た。僕の目の前に、さっき機内まで僕を呼びに来た女官が対面して座り、僕は黒いアバヤ
の装束の女性3人に挟まれた形になった。車内は運転手も含め、顔まで黒いシェイラで身
を覆った黒尽くめの異様な雰囲気だった。軽いエンジン音を響かせて、リムジンは砂漠の
中へ走り出す。
「隼人さん、ワンダ女建国へようこそいらっしゃいました。私は、エリザベーラの昔から
の親友で、アリーネと申します。エリザベーラがアル・ヤーパンで結婚したと聞いて、と
ても羨ましかったのです。私の国には婚姻制度もなく結婚の習慣もありません。だから、
結婚できた、エリザベーラが羨ましかったのです。でも親友が結婚したのですから、本当
は嬉しかったのです」
僕の目の前のアリーネと名のる女性が唐突に話しはじめた。
「では、僕の事は色々聞いているのですか」
「それはもう、全て、エリザベーラから聞いています。それで、今回の、このような事態
になってしまって、エリザベーラと貴方を一緒に住まわせる方法はないものかと、長老達
からも相談を受けていました。それで、二つの選択しかないだろうという事になったので
す」
僕は、そのアリーネさんに、エリザベーラから聞いた少ない情報の事を詳しく知りたい
と思い尋ねた。
「エリザベーラから聞きました。一つはサーバントで、もう一つは、外国人政治顧問とか。
それで、外国人政治顧問だと年に数回しか逢えないと、エリザベーラが言っていましたが」
「数回と?
エリザベーラは言いましたか。そうですね、王宮に呼ばれる事は正式には年
に2回。臨時で、もう1∼2回呼ばれる事があるかも知れませんが、後は女王陛下の買い
物の時、サディスチンの街に出掛けられますので、その時にも逢う事は可能ですよ」
アリーネさんが答えてくれた。
「そうすると、エリザベーラといつも一緒に居られる方法は、サーバントとか呼ばれる役
職しかないのでしょうか」
僕は不安に思って尋ねた。
「王宮は、全て女性によって運営されていますので、掃除夫とか下働きと言った、スード
ラと呼ばれる身分では、王宮の地下部屋で別に暮す事になってしまいます。だから、日常
的にも接点はなくなってしまいます。やはり毎日、エリザベーラを御側で世話出来るサー
バントなら、夜も一緒に過す事が出来ますね」
アリーネさんが説明してくれた。
「サーバントとは、執事とか従者と言う事なのですね?」
確認のために僕は聞いた。でも、アリーネさんは答えてくれなかった。僕が言ったとお
りなので、答えてくれなかったのだろうと勝手に解釈した。
「解りました。エリザベーラのサーバントになります。その方が、何かと、エリザベーラ
に助言したり力になったりする事が出来ます。サーバントになるにはどうしたら良いので
しょうか、アリーネさん」
「大丈夫です。ちゃんと訓練も受けて貰います。その前に、契約書にサインして下さい」
アリーネさんはバッグの中から1枚の紙を取り出した。そういえば、久し振りに紙と言
う物を見た。僕は、その紙を受け取り、その紙に書かれた文字を読んだ。
“本サーバント契約は、キリスト・マリアマグダラ法典に基づき厳正に執り行われる。
”
これは最初の1行目だ。そして、
“専属サーバント契約書”の文字に続き、
“甲:エリザ
ベーラ、乙:HAYATO
SAGINOMIYA、をして対等な立場において本契約を取り交わす
ものである。甲は乙を専属サーバントとして所有し、キリスト・マリアマグダラ法典に基
づく教義の全ての履行が義務付けられるものとする。乙がサーバントである証拠として、
金属管をペニス亀頭下部に装着するものとする。
なお、乙の拒否により、本契約の全てを破棄する事ができるものとする。
”
契約書の内容は、それだけだった。最後に、日付けとエリザベーラの自筆のサインが既
にされていた。エリザベーラは僕がサインする事を想定して、用意していたのだろう。エ
リザベーラと一緒に居られるなら地獄の底にでも出掛けよう。僕は、その時そう思った。
しかし、せめて、キリスト・マリアマグダラ法典とは、どんな内容のものなのかを聞いて
おくべきであった。イスラム教圏にあって、キリストの教えを守っている政治体制に安心
感を覚えたのかもしれない。キリストは愛を説き、弱者に対する救済を用意したのだ。
マグダラのマリアとは、確かイエス・キリストの妻となった娼婦だったように記憶して
いる。きっと、イスラム教の別の流派の教義なのだろう。キリストを名乗るのなら、その
教義に間違いはないだろう。
その時は、そう思ったのだけれど、ところが、それが単なる僕の勘違いだった事をすぐ
にも思い知らされる事になる。この時点では想像すら出来なかった。
僕はアリーネさんからペンを受け取り、エリザベーラのサインの下に自分の署名を書き
連ね、契約書をアリーネさんに返した。
「あの、3点ほどお聞きしたい事があるのですが」
僕は申し訳ないと思いつつ訊ねた。
「どうぞ。誤解があってはなりません。何なりと御質問下さい。契約書をもう一度、お返
ししましょうか」
アリーネさんが言ってくれた。
「いえ、質問だけです。契約書は納めておいて下さい」
僕は掌を広げ、アリーネさんに向けて拒否のジェスチャーをした。
「ありがとうございます。これで、エリザベーラも喜ぶ事でしょう」
アリーネさんが嬉しそうに言った。
「ところで、金属管をパニス亀頭下部に装着する、と書いてありましたが、これはどうい
う意味でしょうか」
一番目の疑問を投げ掛けた。
「それは、今すぐに実行しますので隼人さんの目で確認して下さい」
アリーネさんの緑の瞳が、微笑んだように見えた。突然、僕の両脇の黒尽くめの女官が、
僕の着衣に手を掛けて、ナイフを取り出すと肌と生地の間に刃先を差し込み、僕の着衣を
切り裂いてしまった。僕は一瞬にして、真っ裸にされた。あまりの早業に僕は呆然と身体
を硬直させている事しか出来なかった。
「股を開いて下さい」
アリーネさんが平然として言ったが、その意味が解らなかった。そんな事よりも僕の下
半身にはパンツすら残っていなかったのだ。取り敢えず僕は、両手でパニスを隠す。とこ
ろが両側にいる女官に、すぐ僕の左右の腕を抱えられ、パニスを隠すどころか逆に晒しも
のにされてしまった。無抵抗にダラリと垂れたパニスが、3人の女性の目の前に曝け出さ
れ、縮こまっていた。せめても、と股を閉じたが惨めなパニスを隠す事は出来なかった。
「隼人さん、素直になりなさい。契約に基づき、金属管を隼人さんのパニス亀頭下部に装
着するのです。心配は要りません」
アリーネさんが、物静かに言った。
アリーネさんの手元を見ると、銀色に輝く長さ3∼4cmほどの金属管が目に止まった。
僕は恥かしさで、顔が真っ赤になっていた。円筒形の金属管は縦に割れ、湾曲した管の内
側には幾つもの鋭い突起が並んで配列され、鋭い先端が飛び出して見えた。
柔らかく伸びきった僕の陰茎を、アリーネさんは掌に乗せ、金属管を開いたままパニス
の竿の部分に被せて閉じた。"カチッ"と言う音が響き、円筒管は絞まってしまった。小さな
南京錠が2個、その開閉を阻止するように繋ぎ目に装着される。その南京錠の小さな鍵を
僕の目の前に晒して、アリーネさんがポケットに納めた。金属の円筒管を嵌められたが、
特に痛みを感じなかった。僕は安堵した。それよりもパニスを晒している恥かしい状況の
方が気掛かりだった。
「あの∼、僕の着替えは……?」
とても間抜けな質問だとは思いつつ、聞かずにはいられなかった。
「サーバントに着衣は必要ありません」
アリーネさんが優しく答えてくれた。そして、黒いシェイラを頭から外すと、驚くよう
な美女の顔立ちが現れた。彫りの深い顔、頭を覆う金髪。妖艶な赤い唇。グリーンの透き
通った瞳が、僕の下半身を見つめているように思えた。
僕の両腕を抱えた女性達も、同じようにシェイラを外した。やっぱり妖艶な美女揃いだ。
だた二人は、アリーネさんの白人種系のゲルマン民族とは違う、インド・アーリア系の濃い
顔立ちだった。
「エリザベーラからは、隼人さんの性感帯も聞いていますよ」
意味深にアリーネさんが言った。両腕を取られて、パニスと同じように晒し者となって
いる乳首を、両側の女性が摘んで引っ張ってきた。突然、性的な刺激を受けたが、悶える
に悶えられなかった。僕は一生懸命に理性を保とうとした。こんなアラビアンナイトのよ
うな状況を、どう理解しようと言うのだ。さらに、アリーネさんが僕の剥き出しの亀頭の
膨らんだ部分を摘んで揉んでいた。僕の性的興奮は否応なく高まってしまった。パニスは
ムクムクと膨らみ、立ち上がってきた。ところが急にパニスに強烈な痛みが襲った。
「嗚呼」
あまりの痛さに、僕は声を漏らしてしまった。
「どうしました、隼人さん?」
アリーネさんが亀頭の先を揉みながら、わざとらしく聞いてきた。
「パニスが痛いのです。お願いです、刺激しないで下さい」
僕は慌てて懇願した。
「二人とも止めなさい」
アリーネさんが言ってくれた。
性的刺激の攻撃が止み、パニスが急速に萎えていった。徐々に痛みが遠退く。僕は溜息
を付いて、ただただホッとした。
「金属管の役目は、よく理解できたでしょう。エリザベーラにお仕えしている時に不届き
な考えを持たないよう、それと避妊の効果も絶大です。もし、射精できたとしても尿道管
が潰されていますので、女性の体内に精液を放出する危険性はありません。言いそびれま
したが、外国人政治顧問でしたら年に数回でも、エリザベーラに逢えた時にセックスは可
能でした。でも、この状態ではセックスも不可能ですね。今からでも契約書は破棄出来ま
すよ、隼人さん」
アリーネさんの言葉が急に強気に変わっていた。僕もヤーパン男児だ。一度下した決断
を簡単に覆す事など、出来はしなかった。
「大丈夫です。ところで、サーバントとは、ヤーパン語で何と訳せば良いのでしょうか?」
既に、その言葉の意味を何となく理解してはいた。
「奴隷です」
アリーネさんが当然だと言う様に答えた。アリーネさんが微笑んでいる。全て計画どお
りに進んでいると言う満足げな微笑だった。
「もう一つ、質問があると言っていましたね、何でしょう」
アリーネさんが親切に尋ねてくれる。
「別に、どうでも良い事なのですが。キリスト・マリアマグダラとは、どんな意味なのか
な、と思いまして」
何だか聞くのも恐ろしい感じになってきた。
「マグダラのマリアは御存知だとは思いますが、イエス・キリストの妻の名前です。娼婦
だったとも言われていますが、生い立ちは不明です」
アリーネさんが続ける。
「イエスを救世主と崇める一団がありました。キリストとは救世主の意味です。それでキ
リスト教とは、イエスの唱えた救済を目的とする宗教なのでキリスト教と呼んだのです。
そのキリスト教がユダヤ教の中から分かれたのが紀元 30 年以降でした。その後の時代背景
は、混乱と戦争の支配する不幸な時代へと世界
は突き進んで行きました。それ故にイエス・キリストの唱えた救済の宗教は、その後の不
幸な世界では受け入れられ易かったのです。しかし、それは神に奉げる祝福の行為ではあ
りませんでした。その後、紀元7世紀頃、今から 1500 年前に発生したイスラム教は神に奉
げる5つの行為を義務として信徒に課しました。それを確実に実行する事で神から祝福を
与えられ、死後、天国へのパスポートが得られるのです。イスラム教は教義を重んじ、そ
れを確実に実行しなければならない宗教です。それ故、同じ体験を共有する信徒達の結束
力が強まる宗教なのでした。
でも、マグダラ地方から来たと言われるマリアは、実は神の国から直接に遣わされた伝
道師だったのです。たまたま同名の地域が存在していただけなのです。マリアマグダラは
イエスに人類の救済の策を授けましたが、人間同士の醜い権力抗争の中で、今のキリスト
教のような形になってしまいました。それで
マリアマクダラの意思を継いだ、イスカリオテのユダとともに独自の布教活動に出ざるを
得ませんでした。
その教義を脈々と繋いできたのが、今のワンダ女建国の女王家なのです。私達の宗教だ
けが世界と宇宙を救えると、キリスト・マリアマグダラは予言されています。経典の予言
の書に、エリザベーラと隼人さんの事が記されていたのです。
私達も隼人さんを受け入れるために最大限の努力をしています。エリザベーラと隼人さ
んの二人が、ワンダ女建国の未来には不可欠なファクターなのです。それでも、エリザベ
ーラは、サーバントの境遇がとても過酷な事を知っていますから契約はいつでも破棄出来
るように、条文に付け加えさせたのです。それが人を愛すると言う事だと、エリザベーラ
が言っていました。私にも、この国の住民にも、男性を愛すると言う事は理解でませんが、
それは仕方ありません。経典に記された予言は、実行されなければならないのです。です
から、隼人さんには、どんな形であれ、エリザベーラと一緒に、この国に留まって頂きた
いのです」
アリーネさんが強く訴えた。話の内容が神秘的過ぎて、僕には、とても理解など出来な
かった。
「その、経典の予言の書を、僕に読ませて頂けるのでしょうか」
「今は無理です。予言の書は封印されています。読んで良い時間と場所と人まで指定され
ています。大法院が、それを管理しているのです。読んで良い人の中に、隼人さんの名前
があると聞いています。時間と場所も指定されていますので、その時が来たら読めるでし
ょう。私が知っている事は、それだけなのです。
もし、奴隷の身分に嫌気が差したら、いつでも契約は破棄して下さい。教養を積まれた
方に奴隷の身分は耐えられないでしょう。勿論、隼人さんが契約書にサインしたとおり奴
隷として、エリザベーラに仕えるのでしたら、私達は全面的に協力します。その役目を私
が、エリザベーラから頼まれています。隼人さんの、エリザベーラへの想いが試されてい
るのかも知れませんが……」
アリーネさんが意味深に言った。
こんな真っ裸にされた恥かしい状況で、僕の、エリザベーラに対する愛を試されようと
は思いもよらなかった。それよりも僕は目の前の妖艶な美女、アリーネさんに魅せられて
しまっていた。
「大丈夫です。僕はヤパーン男児、ヤーパン魂を持っています。ちょっとやそっとでは挫
けません。アリーネさんが僕に、奴隷としての心得や躾を教えて下さるなら、僕は頑張り
ます。アリーネさん、よろしくお願いします」
僕は情けない格好ながら胸を張った。
アリーネさんが嬉しそうに微笑んだ。
「では、私の事は今から学院長様、とお呼びなさい。それから、王宮内では奴隷は立って
歩く事は許されていません。四つん這いでの歩行が基本です」
驚くような事をアリーネさんが言った。
何も解らない僕は、言われるまま従うしかないのだろう。僕を乗せたリムジンは高い塀
の内側に入り、幾つもの尖塔が聳える王城の中を走っていた。やがて、大きなモスクのよ
うな丸屋根を持つ建物の前で停車した。リムジンのドアが開くと、僕の横の女官が外へ出
た。僕も続いて、尻をドアの方に移動させた。片足を外に出して地面に立とうとすると、
突然、身体を後ろから強く押された。僕は外へ転げ出てしまった。僕の身体は砂の上を転
がり、全身が砂だらけになってしまった。倒れたまま見上げると、先ほどの女官達が黒い
シャイラを顔に被り、僕を見下ろしている。
彼女達の後方に巨大な宮殿の丸屋根が聳えていた。
空は青く陽射しが暑い。空気は乾燥し、砂っぽかった。仕方ないので、僕は立ち上がろ
うと地面に手を付き、身体を持ち上げ掛けた。一人の女官に僕の腰の辺りを強く蹴られた。
僕はまた転がり、仰向けに倒れた。僕を囲んだ黒いアバヤの女官達が、さらに僕を見下ろ
している。
「這って、付いてきなさい」
アリーネさんが冷たく言い放った。
仕方なく、僕は四つん這いの格好になった。アリーネさんの手には長い鎖が握られてい
る。僕の前に屈み込んで、その長い鎖を僕のパニスに装着された金属の円筒から飛出たフ
ックに取り付けた。アリーネさんが鎖の手綱を引っ張る。僕は股間を強く引っ張られた。
僕は四つん這いの惨めな格好のまま、首を持ち上げて黒いアバヤのアリーネさんを見上
げる。僕の股間から伸びた鎖の手綱をアリーネさんは他の女官に渡すと、僕に背を向けて
歩き出した。他の女官達もアリーネさんの後に付いて歩き出した。僕は股間を引っ張られ
たまま後に続き、四つん這いで歩き出すしか
なかった。
=サーバン・エリート・アカデミー=
幾人もの銃を捧げ持った兵士達が僕を見つめている。彼らは斜めに黒い襷を掛けただけ
の裸同然だったが、下半身にはちゃんと黒のビキニパンツを履いていた。兵士以外の使役
人の男達もいたが、上半身は裸のままでも下半身にはやはり同じように白のビキニパンツ
を履いている。彼ら兵士や使役人をスードラと言うのだろう。
全裸でペニスに鎖の手綱を付けられ、四つん這いの惨めな格好で這っているのは僕一人
だけだった。恥かしさが全身を包み、身体中が火照ったように熱かった。そんな屈辱的な
格好で王宮内の大理石を敷き詰めた回廊を 50mも這って行くと、膝頭が擦りむけて痛くな
ってきた。仕方なく僕は尻を高く持ち上げて膝を付かないように足を爪先立ちして這うし
かなくなった。するとたちまちのうちに頭に血が集まり意識が朦朧としてきた。そのお陰
で羞恥心は消えてしまった。
5人の女官に曳かれて僕は広い中庭に出ていた。中庭と言っても、木陰があるわけでも
なく殺風景な白い砂の上に強い陽射しが焼き付けるように射しているだけ。その明るい庭
の隅に小さな建物がある。炎天下の焼けた白い砂は、猛烈に熱い。とても裸足で歩けるよ
うなところではなかった。僕は、その建物の中に引きずられていった。
建物に入ると空調が効いていたが、
連れ込まれた部屋は殺風景な 100 平米ほどの広さで、
ガランとした部屋だった。
僕は不慣れな四つん這いからヤーパン式に正座した。アリーネさんと他の女官達も僕を
囲むように立ち、僕を見下ろしている。
「サーバン・エリート・アカデミーにようこそ」
アリーネさんが、僕を見下ろして言った。
大理石の天井には幾つもの滑車がぶら下り、床には沢山のフックが突き出ている。よく
見ると色々な家具や道具も置いてあったが、その使い道には想像もいたらなかった。
「両手を揃えて前に出しなさい」
アリーナさんが言う。
言われるまま両手を揃えて素直に前に差し出すと、一番近くにいた女官が僕の手に革の
拘束ベルトを装着した。
さらに、女官達が顔を隠すシェイラを外す。どの女官もエキゾチックな美女揃いだった。
僕はただ、その美しさに見とれてしまった。
両手を拘束した革ベルトは天井からぶら下がる鎖の一つに引っ掛けられた。別な女官が
滑車を回す鎖を引く。ガラガラという滑車の回る音が響き、僕はあっという間に高々と手
を天井の方へ持って行かれた。全体重が拘束された両手首に重く掛かる。足先が爪先立ち
したところで、ようやく滑車は止った。僕は真っ裸の惨めな裸体を、美しい女官達の目の
前に晒していた。
アリーネさんが僕を見下ろしながら言う。
「サーバン・エリート・アカデミーに入学するにあたり、健康診断を行います」
爪先立ちした僕の視線は、それでもアリーネさんの視線よりも幾分低かった。僕を囲む
ように5人の女官達が一本鞭を握り絞めて立っている。
「まずは、肉体の強度ね!」
そう言うと同時にアリーネさんの鞭が飛んできて、胸板で炸裂した。
「アゥ……!」
僕の口から自然に呻き声が吹き出した。
激痛が走った。とても絶えられるような痛みではない。しかし、すぐに次々と鞭の嵐が
襲ってくる。その度に身体中を激痛が走っていった。僕は大声で叫び続けた。
あまりの理不尽さに怒りは頂点に達していた。
何故、こんな酷い仕打ちを受けなければならないのだ。僕は、この国の女王の夫なのに!
激痛は身体から体力を急速に奪って行く。そして、やがて痛みは遠のき、感じなくなっ
ていた。ただ、鞭の衝撃と肉を打つ鞭の音だけが聞こえ、あとは何も感じない。もう爪先
立ちでは自分の全体重を支えきれなかった。僕は疲れきってしまって伸びきった両腕の手
首だけに全体重が掛かっていた。意識すら薄れ、やがて気絶してしまったようだ。
目覚めても状況は少しも変わっていなかった。ただ見るものが虚ろな別世界のように意
識された。周りには美女たちがいて、相変わらず鞭を構えたまま微笑んでいるのだ。僕は
どこで、何をしているのだろうか。朦朧とした頭の中は、何も思考できないでいた。
意識の遠くで滑車の回る音が聞こえ、両足の裏が床にぴったりとついた。しかし、足の
裏で体重を支えることなど、疲れきった僕にはできるはずもなかった。そのまま膝が折れ、
床に前のめりに倒れた。長々と床の上に寝そべるように倒れ込んでしまった。
両手の拘束が女官達によって外された。彼女らが僕に近づき両手を引っ張る。低く長い
台の上に引き上げられ、今度は両手両足首が、台の四隅に取り付けられた革ベルトで拘束
された。
乳首がくすぐったかった。女官達の指先で、僕の乳首は引っ張られ、摘まれ、好きなよ
うに弄ばれていた。性的快感が身体中を熱く駆け巡る。くたくたに疲れきった身体なのに、
性的興奮だけは高まってくる。少しずつパニスが持ち上がっていくのが分かる。
薄目を開けると、美女5人に見下ろされていた。そのエキゾチックな美女達に僕のパニ
スは反応してしまった。
だが、快楽もそこまでだった。突然パニスを抓られたように激痛が走った。そう、パニ
スが金属管の中で膨らみ、針のように尖った鋲の先に竿が食い込んでいく苦痛に苛まれて
いるのだった。
「うぅ」
僕は呻いた。しかし、乳首への刺激は止まない。それどころか脇腹、太腿の内側、睾丸
の裏側へと美女の指先は執拗に刺激していった。僕は股間のあまりの痛さに、ただ呻くこ
としかできなかった。
「わぁ! 亀頭が真っ赤に膨らんでいるわ」
女官の誰かが楽しげに声を上げた。
「ほんと! 可哀想に。呻いているわ」
やっぱり楽しげな声が上から振ってきた。
「アリーネ学院長、性能検査の必要があります」
そんな声がした。鞭打ちのあとの女官達は息を弾ませ上気している。その色香にも下半
身が反応してしまう。僕はパニスへ与えられる激痛に呻き続け、耐えるしかなかった。
「ラーネ、パニスの筒を外しなさい」
アリーネさんの命令する声が聞こえた。
ラーネと呼ばれた若い女官が近づき、跪いてパニスに手を伸ばした。絞め付けられて痛
みに悶えるパニスを引き寄せる。小さな南京錠に鍵を差し込み、金属の筒を開いたようだ
った。たちまち僕のパニスは元気に思いっきり膨らんだ。その瞬間、僕は苦痛から解放さ
れ、存分に性の快楽を堪能した。
「学院長、凄いです!
パンパンに張っています。パニスの先からネバネバの液が溢れ出
ています。なんて恥ずかしい竿なんでしょう」
若い女官が、甲高く甘い声で言っていた。僕は恥ずかしさに顔が真っ赤になるのを感じ
た。その時、誰かの足蹴りが僕のパニスを直撃した。パニスは弾かれ太腿に当たり、勢い
よく反発して左右に揺れていた。
「駄目よ。私のところまで、ネバネバ液が飛んで来たわよ」
別な若い女官が嫌気に言った。僕は所在がなかった。消え入りたいほどの恥ずかしさに
包まれていた。
「学院長からどうぞ」
若い女官達の黄色い声が弾んでいた。本当に楽しげな若い女官達。嬉しそうな声が響く。
アリーネさんが僕のパニスの真上に立った。天井に着くほどに高い位置にあるアリーネさ
んの顔の表情は、僕を蔑むように見下ろしていた。
「学院長からどうぞ」
若い女官達の黄色い声が弾んでいた。本当に楽しげな若い女官達。嬉しそうな声が響く。
アリーネさんが僕のパニスの真上に立った。天井に着くほどに高い位置にあるアリーネさ
んの顔の表情は、僕を蔑むように見下ろしていた。
その姿は驚いたことに、黒いアバヤを脱ぎ、黒のビキニブラ1枚だけだった。輝く金髪、
グリーンの透き通った瞳、妖艶な口元。白い肌を強調するかのような黒いブラ、下半身に
は何も着けず、その股間は金髪の陰毛が覆っているだけだった。あまりりの美しさに僕の
パニスはさらに膨張してしまった。妖艶な笑みを浮かべたまま、アリーネさんが腰を落と
してくる。僕のいきり立つパニスに手を伸ばし亀頭を摘むと、そのまま女陰に導き、スル
リと挿入してしまった。僕のパニスは、熱いアリーネさんの女陰の中で嬉しそうに膨らん
でいた。
ラーネと呼ばれた別の女官が僕の顔の真上に立った。やはりブラ1枚の裸に近い格好だ。
見上げた先には彼女の股間が見え、そこには黒い陰毛がフサフサと茂っていた。すぐに僕
の顔の上に腰を下ろす。僕の顔の真上に、ラーネの黒い茂みが迫ってくる。そのまま僕の
鼻と口を覆う。腐ったチーズのような異臭が嗅覚を通り越し、脳を直接刺激する。険悪感
に顔を左右に振って逃げようとするが、臭い陰毛に圧迫され太腿の間に包まれてしまった。
その臭いの強烈さには耐えられなかった。その上、ラーネの女陰はたっぷりと濡れ、僕の
顔をべっとりと濡らした。
パニスはアリーネさんの熱い女陰の中で締め上げられていく。僕の顔の上では若い女官
が、女陰で僕の顔面を圧迫しながら円を描きながら蠢いていた。ブルーチーズのような異
臭に僕は閉口していたが、僕は舌先を尖らせ女官の女陰を刺激した。エリザベーラとのセ
ックスを思い出すようだった。
アリーネさんの動きも激しかったが、顔の上の女官もまた、激しく動いている。アリー
ネさんが僕の下半身で上下に波打っていた。アリーネさんはすぐに絶頂に達した。僕の顔
の上の女官も同じようにエクスタシーに達していく。僕も遅れず高まり、パニスが痺れ、
突き上げるように射精した。ドクドクと噴き
上げる精液をアリーネさんの体内に送り込んでいた。
十分にエクスタシーを楽しんだアリーネさんは、その女陰から僕のパニスを引き抜き、
身体を震わせた。一度射精したからといって、僕のパニスは硬さを失ってはいなかった。
そのままアリーネさんが僕の顔の上に移動した。
ラーネと呼ばれた若い女官がアリーネさんと交代するように、僕のパニスの上に立った。
聳り立つパニスがラーネの指先で摘まれると、女陰に導かれ挿入。女陰の中の熱い温もり
がパニスから伝わってくる。アリーネさんの金髪の茂みも、ゆっくりと僕の顔に迫ってい
た。その金髪の茂みには、僕から放出されたばかりの白い精液が、べっとりと付着してい
る。むっちりとした魅力的な太腿の間を覆う金髪の茂みが眼前を塞ぐ。結局、自分の精液
を自分で舐めるはめになってしまった。強烈にしょっぱい。僕の顔は、ラーネが擦り付け
ていった愛液に、自分の精液とアリーネさんの愛液が混ざり、ぐちょぐちょに濡れてしま
った。
そういえばエリザベーラも、こんなセックスが好きだった。
強引なセックスの中で僕は、また射精した。アリーネさんも再度エクスタシーに身体を
硬直させ、僕の顔を股間で強く挟み付けている。僕は呼吸もできず、ただ舌先だけを動か
し続けた。
ようやくアリーネさんが立ち上がり、僕の顔の上から離れた。僕のパニスを納めていた
ラーネは、また僕の顔の真上に移動し、巨大な尻を下ろしてくる。黒いフサフサの陰毛に
は、やはり僕が放出した純白の精液をぶら下げていた。こうして結局、5人の美女の体内
に射精し続けた。5人の美しい女官の愛液と僕の精液がすべて混ざり合ったように、僕の
顔を見るも無残なドロドロな状態にしていた。さすがに僕のパニスもうな垂れるしかなか
った。その惨めに縮小したパニスには、また金属の円筒管が嵌められた。
「これが、お前にとっての最後の射精だったかも知れないね」
アリーネさんが寂しげに言った。
「何故です?」
「その前に教えておきます。奴隷が質問することは許されていません。学院では1回の質
問には5ポイントのペナルティーを課せられます。50 ポイントになった時点で刑を執行し
ます。今日は、まだ正式な入学資格を得ていませんので 10 ポイントにオマケしておきます」
アリーネさんは淡々と理不尽なことを説明する。
「何故最後の射精だったのかは、いずれ実感することでしょう。今は気にしないほうが幸
せです」
謎めいたことをアリーネさんが微笑みながら言った。僕の不安は急速に大きくなってい
った。いつの間にか手足の拘束は解かれていた。僕は四つん這いになり、小柄な美女、ラ
ーネに曳かれて調教部屋から通路に出された。殺風景な大理石の廊下を、股間から伸びる
鎖の手綱に曳かれ、トボトボと四つん這いで
ラーネのあとに付いていくと、すぐ近くの小部屋に連れ込まれた。
部屋の壁には 50 インチの 3D テレビが填め込まれている。僕はもうくたくたに
疲れきっていた。
「ここがお前の寝る部屋だ。棚には傷薬もある。部屋の奥に、地下へ通じる階段がある。
地下に水路があるから、そこで身づくろいと排泄を行うこと」
それだけを言うとラーネは部屋から出て行った。
テレビの前には、大型犬用の黄色い食餌トレーが置かれている。その中には冷たいドロ
ドロの液体が入っていた。なんだろうと、トレーを持ち上げて鼻を近づけた。少しカレー
風味の匂いがした。僕はテレビと対面する壁に背中をもたれ掛けた。そして、大型犬のト
レーの縁に口を付け中の液体を啜ってみた。
「う、うまい……!」
空腹には、どんなものでも美味しく感じられる。
そのときテレビのスイッチが自動的に入り、BBC 放送のニュースが流れた。新婚旅行で
飛び回っていたので、もう半年近くも世界情勢に触れていないので僕の目には新鮮に写る。
エリザベーラも突然、女王に戴冠して、何の知識もないまま今後の政治を司るのは大変
なことだろう、と心配になった。僕が支えてあげなければならない。そんな思いも交差し
て、テレビから流れてくるニュースに見入った。しかし、疲労しきっていた僕は、意識を
テレビに集中することはできなかった。
BBC の女性キャスターが解説する。
「中東のイラソ首長国連邦内部に内戦の危機が迫っています。詳しいことはま
だ解っていませんが、イラソ首長国連邦内での覇権争いのようです」
僕には、その意味するところも解らなかった。何か危険な兆候が現れているのだろうか。
エリザベーラは大変な事態の渦中に巻き込まれているのかもしれない。
目の前の犬の黄色いトレーの横には、白い瓶も置いてあった。瓶を手に取り、その中の
甘い水も飲み干したあと、ふと周りに目をやった。1mほどの幅がある背丈ほどの鏡が壁
に嵌め込まれていた。そこに写った自分の惨めな姿は、おそらく一生涯、忘れる事はでき
ないだろう。
身体中に鞭の赤い蚯蚓腫れが走り、全身は傷だらけだ。顔も頭髪も精液と愛液でベトベ
トだった。
どうやら落ち着いたせいか、尿意も便意も高まって来ていた。ラーネの説明通り、部屋
の隅に地下へ降りる螺旋階段があった。その薄暗い階段を 10mほど降りていくと、灰色を
した広い地下空洞が広がっていた。明るくはなかったが、用を足すのに十分な光は満ちて
いた。水の流れる音が聞こえる。50cm 幅くらいの水路があり、澄んだ綺麗な水が流れてい
た。
僕は水路を跨ぎ、排便と排尿を済ませた。尿道を精液が塞いでいるので、小水が飛散し
て狙いも定まらずに勢い良く飛び散る。大量の便も水飛沫を上げて落ちていった。
この水路は、水深が 20cm ほどしかない。ラーネに言われた通り、その水に入り身体を丁
寧に洗った。それほど冷たさを感じる水ではなかった。
誰もいないだろうと思っていたが、遠くに人の気配を感じた。しかし、疲れきっていた
ので、それを確認することはしなかった。
部屋に戻ると薬箱から塗り薬を出し、全身の鞭跡に軟膏を擦り込んだ。背中も鏡を見な
がら塗り込んでいった。鏡に写った背中にも鞭でできた幾筋もの蚯蚓腫れが走っている。
明日エリザベーラが来てくれるまで、僕の心身はもつのだろうか。行き詰まった不安が
全身を包む。それでも僕は、疲労しきった身体を床に横たえた。
「イラソ首長国連邦正規軍が、反乱を画策する自治国に対し武力制圧を行う模様です。今
後の展開が危ぶまれます」
ニュースキャスターの金髪の女性が解説していた。僕には、その意味するところすら解
らなかった。緊迫を伴った甘い声を聞きながら眠りに落ちていく。
=女王陛下の専属奴隷=
身体を小突かれている。薄目を開けるとラーネが僕を見下ろしていた。どのくらい眠っ
ていただろうか。
「良く寝ていたね。調教部屋に行くよ」
ラーネの手から、長い鎖が垂れていた。その鎖を僕のパニスから垂れる短い鎖に繋いだ。
「お前はまだ“奴隷の挨拶”の仕方も知らないのね。今日はたっぷりと“奴隷の挨拶”の
調教をするからね」
悪戯っぽくラーネが言う。
「はい!」
何とか声が出た。
昨日の惨めな思いは消え、不思議に活力も戻っていた。僕はラーネの鎖に曳かれ、四つ
ん這いで後に続いた。羞恥心はまだ残っている。
朝の光が大理石に包まれた白亜の長い廊下を輝かせていた。誰もいない静かな空間だ。
ラーネのアバヤはカラフルな色合いで、若い女性らしくお洒落な柄に変わっていた。シェ
イラで顔を隠していないぶん、美しく妖艶に見える。朝の光の中、白い大理石の長い廊下
を美しい美女に曳かれ、僕はトボトボトと這
いずりながら付いていった。
昨日と同じ調教部屋に入ると、アリーネさん以下4人の女官が待っていた。いずれも昨
日の黒一色の正装とは違い、ラーネ同様の、それでいて一人ひとり違った個性的なアバヤ
を身体に巻き付けている。とても華やかで明るい雰囲気だ。僕はすっかり昨日のことを忘
れ、にこやかに彼女達へ微笑みかけた。
「すっかり元気になったようね」
「……でも、鞭の痕は消えなかったようね」
心配そうにアリーネさんが言ってくれた。
僕はアリーネさんの脚元へ這っていき、その前に正座して彼女を見上げた。僕は自分が
奴隷だという屈辱的な立場にいることに慣れるしかないと思った。
「おはようございます、学院長様。大丈夫です、これくらいの傷は!」
僕は元気に答えた。不安を与えてはいけない。早くここでの調教を終え、エリザベーラ
の役に立たなければならないのだ。そんな切羽詰った思いだった。
ところが、いきなり顔面を殴打された。重い痛みが顔面を圧迫する。僕は気持ちが怯ん
でしまった。
「仕方ないわね。奴隷は問いかけられない限り、自分から喋ってはいけない。ペナルティ
だね」
「今日は奴隷にとって最も重要な“奴隷の挨拶”の仕方、
“奴隷の礼”のやり方を調教する。
ラーネ、説明しなさい」
アリーネさんが淡々と言った。
顔面を殴打された痛みは、すぐには消えなかった。朝から惨めな気持ちだ。
「はい、学院長」
ラーネが僕のほうを向きながら、アリーネさんに応える。
「奴隷は、女王様の御側で仕えるときには、常に“奴隷の礼”の姿勢で控えていなければ
ならない。
“奴隷の礼”の姿勢は女王様のお側にいるときだけでなく、他のワンダ様のお側
に行ったときにも同じように“奴隷の礼”の姿勢でいなければならない。それが奴隷の基
本の躾だ。絶対に忘れてはならない」
ラーネが少し甲高い声で説明する。
「ワンダ様とは女性の総称だ。忘れないように覚えておきなさい」
アリーネさんが補足説明をしてくれた。
「はい、解りました」
僕はつられて返事をすると、今度は鞭が僕の背中を打った。
「嗚呼……」
思わず声を漏らしてしまった。癒えていない傷口を打たれると痛みは倍加する。顔が歪
み、溜息も出てしまった。
「馬鹿犬め。奴隷は命じられるまで声を出してはいけないと言っているだろう」
僕は恨めしく、きつい口調で言い放ったアリーネさんを見上げた。
「その、正座した姿勢のまま、手を長く前に出す。指も綺麗に揃える」
ラーネが構わず続けた。僕はラーネの言葉どおりに指を揃え、手を前に出した。軽く鞭
が背中に飛ぶ。
「もっと、思いっきり前に手を伸ばす。額を床につける」
厳しいラーネの声が飛ぶ。僕は思いっきり手を前に伸ばした。顔は自然と床にペットリ
とついた。
「両膝をピッタリとつける。尻の間から金玉が見えているぞ」
女官の誰かが言うと同時に、飛び出した僕の尻を鞭の柄が擦っていた。恥かしさと擽っ
たさで尻を廻すように動かすと、すかさず鞭が尻を打たれた。
「尻は静止させる! 動かさない」
さらに女官の声が飛ぶ。僕は硬直してジッと身を固くした。
「よし。その姿勢が“奴隷の礼”の基本だ。何回も反復すること。まず、学院長様に」
ラーネの持つ騎乗鞭の先がアリーネさんの立つほうの床を叩く。
僕は四つん這いの姿勢になると、アリーネさんのところまで這って近づき、アリーネさ
んの足元で両手を前に伸ばした。そのまま額を床にピッタリとつけ“奴隷の礼”をした。
屈辱と恥ずかしさで惨めな気持ちになってしまった。
「次! ルーラ様、ハーネ様、ポーラ様にもご挨拶する!」
ラーネが厳しく命じた。僕はラーネの鞭の示すほうに這っていき、他の4人の教官へ“奴
隷の礼”をして回った。屈辱感で顔を上げることができなかった。
「ご挨拶の言葉がない」
ラーネの鞭が背中に響く。
「ウゥ!」
激痛にまた声が出てしまった。
「申し訳、御座いません」
屈辱の中そう言うしかなかった。
「おはようございます。ポーラ様、今日の御調教を、よろしくお願い致します」
僕は泣き声の混ざったような声を出した。
「聞こえない」
一番若いポーラだ。僕はさらに大きな声を出した。
「おはようございます。ポーラ様、今日の御調教を、よろしくお願い致します」
「そんな泣き声じゃ、何を言っているのか解らないでしょ。ちゃんと言いなさい」
ポーラの高い声が頭の上から降ってきた。同時に尻を鞭で打たれる。昨日打たれた鞭痕
は癒えていないのだ。さらなる痛みが尻に堪えた。
「うぅ……」
僕は声を漏らした。
「早くご挨拶しなさい」
ラーネの声が追い討ちを掛け、当然のように鞭が尻を打つ。わざと同じ場所を打ってき
ているようだ。苦痛が倍増する。
「あぅ……」
また呻き声を漏らしてしまう。他の女官まで近づいてきて勝手気ままに鞭で打ちはじめ
る。
「嗚呼! あぅ、おぉ∼……!!!」
僕は叫び続けた。痛みは急速に増し、僕は“奴隷の礼”の形を維持できなくなっていた。
もう、四つん這いになって逃げ出すしかなかった。だが、すぐに尻や横腹を蹴られ、僕は
あえなく床に転がされた。仰向けにされ、無抵抗に裸の身体全体を晒すことになってしま
った。若い女官達の笑顔が僕を囲んで見下ろしている。誰かの足が僕の股間を踏みにじっ
ている。僕の顔の上にサンダルが乗っかる。胸の上にも脚が乗っかってきた。
「うぅぅぅ……」
僕は呻くしかなかった。
「調教に戻りなさい」
アリーネさんの声が響き、女官達が一斉に僕の上から離れた。ラーネは僕の股間から伸
びる鎖の手綱を引っ張っていた。僕は四つん這いの形に戻り、ラーネに引っ張られるまま
元の位置に戻されると、目の前にポーラが立っていた。
僕は再び両手を前に思いっきり伸ばして床に額をつけた。床の冷たさを感じながら“奴
隷の礼”の形を作った。
こんな小娘の前で泣いてなどいられない。
「おはようございます。ポーラ様、今日の御調教を、よろしくお願い致します」
やけっぱちな気持ちで、大声で言った。
「やればできるんだ」
ポーラが皮肉っぽく言った。悔しさで胸が重くなる。
続いてハーネの前へ這っていき、
“奴隷の礼”をした。
「ハーネ様、おはようございます。今日の御調教を、よろしくお願い致します」
声がうわずっていた。そしてルーラの前へ這って行き、ルーラの足元で“奴隷の礼”と
挨拶を繰り返した。最後にアリーネさんの足元に平伏して、ご挨拶を終えた。屈辱と悔し
さで目から涙が流れていた。
アリーネさんが掌を僕の顎の下に入れ、僕の顔を持ち上げた。
「その涙はどうしたの?」
意地悪くアリーネさんが訊ねてきた。
「嬉し涙でございます」
それだけ言うのが、やっとだった。
「そうでしょうとも。この“奴隷の礼”ができなければ、エリザベーラにも逢うことはで
きないのです。そんなに嬉しいか。でも涙なんて流すんじゃないよ」
アリーネさんがニッコリと笑った。突然、顔面を強烈な平手が襲った。僕の目からさら
に涙がこぼれた。悔し涙だ。
「奴隷の礼は、とても辛いものです。精神的に少しの人間性でも残っていては耐えられな
いでしょう。己の自我を捨て、ご主人様とワンダ様に誠心誠意服従する心構えができてい
ないと、奴隷の礼は耐え難いものになるでしょう。さらにその奴隷の礼を長時間続け、肉
体的にも耐えなければなりません。体力も忍
耐も必要です。身も心もズタズタになるでしょう。でも耐えなければならないのです。そ
れが奴隷というものなのですから」
”奴隷の礼”をする僕に、ラーネが講義するように語っていた。
「ラーネ、準備をして」
アリーネさんが命じる。ラーネが近寄り、
“奴隷の礼”をしている僕のパニスの短い鎖を
床のフックに繋いだ。それだけで僕は尻も動かせなくなくなってしまった。さらに手足に
革の拘束ベルトを付けられ、それも床のフックに繋がれた。僕は“奴隷の礼”の姿勢のま
ま、もう微動だにできなくなってしまった。
「このままの姿勢で耐えなさい。これが今日の調教です」
上からアリーネさんの声が降ってきた。それだけを言うとアリーネさん以下4人の女官
は調教部屋を出て行ってしまった。
それから長い長い時間が経過した。あまりの長さに時間の感覚もなくなっていった。や
がて身体中が痛み出し、軋み、筋肉が震えて痙攣を起こした。苦痛が身体中を駆け巡って
いた。だが、それを過ぎると痛みも感じなくなる。汗が床に滴っている。床を圧迫する額
は鬱血し、冷たい。そして、そんな感覚すらなくなっていった。屈辱感だけが、それに反
して増幅していった。
やっと人の気配を感じた。誰かが僕の頭の前に近付いて立っているようだ。
「辛いでしょう。今、良い物をあげるわ」
ラーネの声だった。僕は少しホッとした。ゆっくりと顎を上げ、顔を持ち上げた。上目
使いでラーネの顔を見た。目の前に美しいラーネのエキゾチックな顔があった。
「そのまま、顔を上げていなさい」
ラーネの言葉が優しく聞こえた。今なら、ラーネの言うがまま何でも従いたかった。ラ
ーネはカラフルなアバヤをたくし上げ、両手をアバヤの裾から布の中に入れた。そして、
黒いパンティーを脱いで僕の目の前に晒すと甘く性的な香ばしい匂いが感じられた。その
黒いパンティーを両掌で丸めると、僕に口を
開けさせ、その香しいパンティーを僕の口の奥へ押し込んできた。さらにピンポン玉大の
大きさのボールを僕の口の中に押し込んできた。ボールの両側からは紐が出ていて、その
紐を僕の頭の後ろで結んで固定した。僕は声を出すことすらできなくなってしまった。
「可哀想。もう声も出せないわね」
優しい声でラーネが言った。ラーネが僕の後ろへ回った。お尻が擽ったかった。鞭の先
で僕のお尻を撫でまわしているのだろう。
「股を開きなさい」
ラーネが言う。僕は言われるまま股を開くしかなかった。今度は睾丸を鞭先で弄ばれる。
パニスも同じように鞭先で甚振ってくる。僕のパニスは性的な刺激に反応し膨らみ出した。
パニスを抓られているような鋭い痛みに見舞われた。僕は喉の奥から出ない声を搾り出し
て呻いた。竿が金属管から伸びる鎖で、床と固定され、逃げる術もなかった。パニスに加
えられる拷問を、ただじっと耐えるしかなかった。
突然、お腹から頭に抜ける鋭く重い痛みが走った。金玉を鞭で打たれたのだろう。大き
く開かれた口をさらに大きく開いて僕は呻いた。また一発、鋭い痛みが股間からもたらさ
れた。続けざまにもう一発、何とも言えない痛みがたて続けに襲ってきた。耐えきれなく
なり、僕は股を硬く閉じた。
「誰が、股を閉じて良いと言った!? 命令に逆らうのかっ」
ラーネの厳しい声が叱責する。しかし痛みの恐怖に、再度股を開くことができなかった。
パニスは萎えているのだろう。パニスに加えられていた性的な激痛は治まっていた。
ラーネの掌が、僕のお尻を愛撫しているのが分かった。しかも恥かしいことに、晒し者
になっている肛門に、指が突っ込まれていたのだ。今までに味わったことのない異様な感
覚がお尻の穴から伝わってきていた。
「アナルは全く未開発のようだな」
ラーネが呟いていた。僕は一生懸命、お尻を振り、肛門に力を込めてすぼめようとした。
「絞まりは良いようだが、何とも恥かしい尻の動きだ」
ラーネが笑いながら言った。何と恥かしいことをされているのだろうか。僕は顔が真っ
赤になった。こんな辱めを、何故受けなければならないのだろうか。
ラーネが笑いながら出て出て行く。それから、また長い時間が過ぎる。
ラーネのパンティーに滲み込んでいる甘い香りが、頭の奥の性的快感を再び呼び起こし、
パニスが徐々に勃起してきた。だが、膨らんだパニスは金属管の中の鋭い突起物に苦痛を
与えられることとなる。さらに、口の中の全ての水分をラーネのパンティーが吸い取り、
咽喉の奥までもカラカラに乾燥してきた。
そんな苦しさの中で、後悔が増してきていた。やはり僕にはエリザベーラの専属奴隷に
なるなんて無理な話だったのだ。もう諦めるしかない。こんな屈辱と、肉体的な苦痛に耐
えられるはずがない。無理だ、無理だ。やはり諦めよう。僕は、そう決心するしかなかっ
た。
やがて、大勢の人の足音が聞こえ、それが近づいて来る気配がした。
=女王陛下の戴冠式(エリザベーラ)=
隼人さんに口付けをして私は座席を立ち、コックピットに近いオフィスに入った。ディ
スプレイの置かれた机、黒いレザーの椅子。開かれたままになっている壁面の小さな衣装
棚にはカラフルな幾つもの衣装が下がる。その中に女王しか身に着ける事が許されない真
っ赤なアバヤも掛かっていた。
私は椅子に腰を下ろした。ディスプレイの電源がONになる。兄のヤーコブがディスプ
レイの中から私を見つめていた。
「ヤーコブお兄さま、隼人さんも同行しました。これで良かったのかしら。隼人さんに、
私のサーバンになってほしいとは言えません」
私はディスプレイの中の兄に訴えた。
“昨日も言ったとおり、外国人政治顧問に納まるのも一つの手だとは思う。勿論、エリザ
ベーラのサーバンとして仕えるほうがベストだろう。長老達はそちらのほうなら王宮内で
一緒に暮す事にも問題はないと言っている。選択するのは隼人さんだ”
真面目な顔で兄は言った。いつもながら、兄の優しさが感じられる。
「アリーネには、隼人さんを外国人政治顧問に推すように頼んでいます。アリーネはその
ように図ってくれるでしょう。でも、どうして隼人さんが必要なの、ヤーコブお兄さま?」
私は疑問を、ディスプレイの中の兄に問い掛けた。
“エリザベーラ。予言の書からメッセージが届いたんだ。間違いなくエリザベーラの結婚
相手の男性をワンダ女建国に伴うように、と”
予言の書。それはマリアマグダラ法典と対を成す、ワンダ女建国を支える絶対の聖典で
あった。マリアマグダラ法典には、崇高な人類救済のためにワンダ女建国が果たさなけれ
ばならない目的と、それを成し遂げるための厳しい戒律が書かれている。予言の書には、
歴史の分岐点とも言える重要な事態に対し、ワンダ女建国が進むべき方向性が記されてい
るという。でも実際に予言の書を見ることができるのは大法院の教皇様だけで、それ以外
の誰にも開示された事はない。それでも、予言の書の正しさはワンダ女建国が建国された
事で実証済みであり、誰もその存在を疑った者はいなかった。予言の書に間違った事が書
かれていた例はなかった。
「予言の書には、私が結婚する事も、私が女王になる事も書かれているというわけなのね。
それでは隼人さんが外国人政治顧問になるか、私のサーバンになるかも書かれているので
しょうね……」
私は諦めたように兄に向かって言った。
“デスクの上に紙があるだろう。それにエリザベーラのサインをしておいて欲しい”
ディスプレイの前に1枚の紙が置かれていた。
【サーバン契約書】と書かれていた。
「こんなものを用意しても無駄よ。隼人さんには外国人政治顧問になって貰うのよ、お兄
さま」
私は息巻いて言った。
“それも、予言の書の指示なんだ”
「今度ばかりは予言の書も誤りね。ヤバー魂を持つ隼人さんが、屈辱のサーバントになれ
るはずがないわ、お兄さま」
私はやり切れなくなって言った。
“僕も、そう思うのだけど。サインして用意だけはしておこう”
兄も懐疑的だった。
そうよ、予言の書に書いてあったからと言って、ちゃんと目的の事に使われるとは限ら
ない。隼人さんが私のサーバンになるなんて有り得ない話でしょう。そうよ、きっと。そ
の契約書を破るためのシチュエーションに、小道具として必要なのよ。
“エリザベーラ。明日朝一番で女王陛下の戴冠式を行う。まだ少女のセルベリーナには荷
が重過ぎた。もう限界だろう。まだ、16 歳だというのに、よくやってくれた”
「何が大変だったの、お兄さま?」
“何もかもだ。別宮にミサイルが打ち込まれたのは偶然ではない。翌日にはイラソ連邦政
府軍が、我が女権国の両脇に接するF国とH自治国の軍隊と共同で、我が女権国に侵攻す
る手筈になっていたのだ。急がなければならなかった。それで数時間でセルベリーナを女
王陛下に戴冠させ、我が女権国軍を国境に展開させたのだ。
軍の中には裏切り者も多数送り込まれていただろう。それらの者を有無も言わせず服従
させるには、女王陛下は絶対に必要だった。まだ 16 歳のセルベリーナに、それをやって貰
わなければならなかった。16 歳のセルベリーナにとっては、それは大変な重荷だったろう。
少女の顔が 30 代のオバサン顔になってしまったのだから、可哀想な事をした。精神的にも
う1日として持たないだろう。エリザベーラにすぐにでも交代して貰わないと潰れてしま
う。エリザベーラだけが頼りなのだ”
兄が額を手で拭った。兄自身も相当に疲れきっている様子だった。
可愛いかったセルベリーナ。私の御人形のような存在だったのに。もう何年も会ってい
ない。ちゃんと成長しているようだけれど、まだハイスクールの1年生よ。可哀想に……。
なんて重荷を背負わされてしまったの。私が行くまでの辛抱よ。
「お兄さま。どうしてミサイルが打ち込まれた時に、二人は別宮にいなかったの?」
私は一番の疑問を投げ掛けた。
“それは、セルベリーナに会った時に、ゆっくりと聞いておくれ。さあ、サインして”
兄が急かした。私は、決まりきった文面の並ぶ一番下の甲欄にサインをした。隼人さん
は戸惑うだろう。マリアマグダラ法典の内容は一切話した事もなかった。その内容は、男
性である隼人さんにとっては過酷なものだ。でも、サーバンにならない限り、その法典に
影響される事はない。だから外国人政治顧問としての役職に付く限り影響を受けることは
ないのだから、無理に知る必要はないのだ。
“今日は到着後、すぐに教皇様に会って貰う。それから引継ぎやら、打ち合わせだ。隼人
さんに次に会えるようになるのは明日の戴冠式が終った後だ。それまで隼人さんに会えな
くなるので覚悟しておいてほしい”
兄が申し訳なさそうに言った。それは仕方のない事ね。隼人さんも納得してくれるでし
ょう。
「到着したら、大法院へ向かえば良いのね」
“あぁ。そのように手配してあるよ、エリザベーラ”
兄が微笑んだ。兄の、この微笑が私は大好きだった。
私はディスプレイを切り替えた。懐かしいアリーネの顔が映った。
「アリーネ。今どこにいるの」
私はディスプレイの中のアリーネに向かって大きな声で呼び掛けた。
“突然過ぎるわよ、エリザベーラ。今はね、空港に向かう高速道路の車の中よ。
全くぅ。貴女が女王陛下になるなんて思ってもみなかったわ。解っていたら、もう少し
付き合い方を変えていたのにね”
ディスプレイの中のアリーネが嬉しそうに微笑んだ。グリーンの瞳と金髪のコントラス
トがいつもながらとても素敵に映えていた。彼女のような美人こそが女王陛下には相応し
いと思える。私には何の取り得もない。あるのは女王家と言う家柄だけ。私に順番が回っ
てきたから女王になる。それだけなのだ。
「私なんて当事者よ。貴女なんかと比べものにならないくらい驚いているのよ。それに結
婚したばかりだと言うのに、愛する夫をサーバンにしなければならないかもしれないのよ。
アリーネにそこのところは頼むしかないわね。
サーバン契約書は用意してあるけれど、それを隼人さんに破いて貰えるように仕向けて
ね。外国人政治顧問のポストで、お願いよ!」
“でも、エリザベーラのサーバンになりたいって言ったらどうするの”
アリーネが揶揄するように言った。
「有り得ない事ね」
私はキッパリと否定してやった。
“でも、隼人さんがもし、そう言ってくれたら嬉しいでしょ、エリザベーラ”
アリーネがディスプレイの中で微笑む。
「考えられない。隼人さんがサーバンになんてなったら幻滅よ。そんなマゾ男は廃棄して
しまうかもしれないし……。でも、ヤバー民族は誇りが高いので、それは有り得ない事よ、
アリーネ。残念ね」
私は正直に答えたつもりだ。そんな愛する夫を屈辱のサーバンに落とすなんて、ハレン
チな行為が許される筈もないと私はヤバーで生活した、この4年の間に学んだ。
“そうよね。サーバンを愛する事なんてできる筈もないし。でも、エリザベーラの事だか
ら、もしかしてサーバン候補と結婚したのかと勘繰っただけ。他意はないの。でもね、も
しサーバン契約書にサインしたら、私が十分に調教してあげるから心配しないでね、エリ
ザベーラ”
そんな事がある筈もない。私はアリーネの言葉にカチンときた。でも、冷静に対処しな
ければ、また何を言われるか解ったものではない。
「その時は、よ・ろ・し・く」
そう言ってディスプレイを切った。
隼人さんをサーバンにするなんて有り得ない事だし考えた事もなかった。
椅子から立ち上がり、衣装棚に用意されていた真っ赤なアバヤを手に取った。女王陛下
となる資格を私は得たのだろうか。私は下着まで脱ぎ、裸になり真っ赤なアバヤを直接、
肌身に着けた。身の引き締まる思いがした。そのままオフィスを出て、隼人さんのところ
に戻った。
隼人さんが不安気な面持ちで私の動きを追っていた。私は笑顔を作り、隼人さんの心を
和ませようとした。隼人さんの隣に座り、隼人さんの両手を握って話しかけた。
「大丈夫です、隼人さん。長老達は2つの提案をしてくれました。1つは私のサーバンと
して仕える事。もう1つは、外国人政治顧問として王宮の外から私に助言を与えてくれる
役職に就く事です。サーバンとは、私の世話係のようなもので、常に私と一緒にいる事が
できます。外国人政治顧問は、首都にオフィスを持って年に数回、国外情勢について王宮
に来てレクチャーする役職です。常に一緒にいられるのはサーバンなのですが、これは私
の従者という事で、隼人さんの自尊心を傷付ける事になってしまいます。詳しい内容は到
着してから担当の役人が説明してくれますから、王宮に着くまでに決めて下されば良いの
です」
私は隼人さんの不安を少しでも取り除いてあげれるように言ったつもりだ。
「今、ちょうど我が国の実情を話していたところです」
ファミーレが横から口出しした。
まぁ、なんてタイミングが良いの。女性以外に人権は認められていない事。男性は女性
に虐げられるだけの存在でしかないなんて、どうやって隼人さんに説明したら良いものか
思案していたところだったのに、ファミーレはさすが、書記官だけの事はある。
「良かったわ。では。多少の事情は解って貰えているのね。詳しい事は、後で役人が説明
してくれますから、それで判断して下さい、隼人さん」
私は重荷から開放されたので、嬉しそうに言ってしまった。
隼人さんを見ると、褐色の窓の外に見入っていた。
“当機は、ワンダ女建国、サディスチン空港に、まもなく到着いたします。到着するまで
安全ベルトの着用をお願いします”
インフォメーションが告げていた。隼人さんと私とファミーレは幅広のシートベルトを
身体に固定して着陸を待った。シートベルトなんて面倒なものを、いつまで着けなければ
ならないのかしら。航空機事故が少なくなったとは言え、ゼロになることはないので仕方
ないのでしょうね。
専用機のスピードが落ちていた。着陸態勢に入ったのだろう。何の抵抗もなく、専用機
は空港に舞い降りた。
通路の奥の扉が開くと懐かしいアラブの楽曲が専用機の中にまで聞こえて来た。ここか
ら私の一人舞台が始まるのね。上手く演じられるかしら。隼人さんの手が伸びて来て私の
頭を隼人さんの顔の方に引き寄せられた。隼人さんが私の唇に唇を重ねた。隼人さんの不
安が伝わってきた。誰一人知る人もいない地で隼人さんは暮す事になるのだ。隼人さんが
頼れるのは私しかいない。
「私が先に降ります。少し待っていて、隼人さん。すぐに迎えの者が来ますから」
私は隼人さんに不安を与えないように優しく言った。
「うん、解ったよ、女王陛下」
隼人さんが、私を安心させるようにふざけて言った。
「僕の奥様が女王陛下になるなんて思っても見なかったよ」
隼人さんが、私を安心させるように作り笑いをして言ってくれる。ここまで来てしまっ
たら仕方がないのでしょう。私は、それ以上に付け加える言葉もなかったので立ち上がり
通路に向かった。
扉を潜り外のタラップに立つと、凄い熱気が全身に襲ってきた。私とファミーレの2人
を乗せてタラップは、ゆっくりと降下して行った。タラップの下に黒いアバヤで正装した
役人達数人が立っていた。2∼30 人の楽団が女王家のテーマを演奏している。
一番近くにいた真っ黒なアバヤを纏った役人が近づいて来る。
「エリザベーラ、お疲れさま」
親友のアリーネの声だった。
「この度の御不幸を、お痛みします」
アリーネが決まり文句を言った。アリーネの手が私の身体を引き寄せて抱きしめてくれ
た。私は微かに震え、自分が緊張している事に気が付いた。
「エリザベーラ、これから大変な事が待っているけれど、私はいつでも貴女の近くにいる
から安心して。大丈夫よ」
アリーネが私を安心させるように耳元で囁いてくれた。
「ありがとう、アリーネ」
私は胸がいっぱいになってしまった。隼人さんの事も心配だ。
「アリーネ、私の隼人さんを迎えに行ってあげて。貴女が昔言っていた愛を、やっと理解
できたわ。だから、隼人さんの事は、アリーネにお願いするのが一番ね。頼むわ、アリー
ネ」
「大丈夫よエリザベーラ。私が隼人さんの面倒をちゃんと見てあげるから。たとえ、サー
バン・エリート・アカデミーに入る事になったとしても、私が学院長だから、任せておき
なさい」
アリーネが微笑を私に見せて明るく言った。
「それはないでしょうけれど。一応、オフィスの机の上に、サインしたサーバント契約書
があるので、それは隼人さん自身が破り捨てるように持って行って。いずれ、外国人政治
顧問の部屋を王宮内に作ってあげれば良いでしょ。今はアリーネにお任せね」
私はアリーネから身体を離して、彼女のグリーンの目を見つめて言った。
「ええ、解った。大丈夫よ、エリザベーラ」
アリーネの目が微笑んで言った。私と入れ違いにタラップに乗ると、アリーネは上昇し
て行った。私は黒塗りの車の方に歩いた。人の黒いアバヤの女官が私に近づく。
「エリザベーラ、この日を待っていました」
その女官が声を掛けてきた。そうだ、その声には聞き覚えがあった。私の警護主任を勤
めていたファルーラだった。私より何歳も歳を取っているのに、私の我侭に良く付き合っ
てくれていた。懐かしかった。
「ファルーラ、元気だった」
私は嬉しくなって彼女を抱き締めて聞いた。
「えぇ、あの頃に比べればさらに歳も取り、落ち着いてしまってるでしょうか。もう、あ
の時のようなバカはできませんね」
ファルーラが嬉しそうに答えてくれた。
「そうね。酷い事も二人でよくやったわ。思い出すだけで赤面してしまうね、ファルーラ」
若い頃の熱い思い出が湧き上がってきて感傷的に言った。
「明日からは、エリザベーラの新鋭隊長ですよ」
そうだ、私が女王陛下になることで、色々な事も変わって行くのだ。
車のドアが開くと、ファルーラがドアの横に立って招き入れてくれた。私は車の中に入
り座った。ドアが閉まると反対側のドアが開き、ファミーレが入って来た。続いてファル
ーラも入りドアが閉まった。
車内は向かい合わせに椅子が設えてあり、低いテーブルが間に置かれ応接間の雰囲気に
なっている。運転席とは透明な隔壁で仕切られているので、前方もよく見渡せた。目の下
のテーブルの一部がディスプレイになっていて、後ろの車両を映し出していた。
ちょうど一緒に写し込まれた専用機のタラップが降りて来て、アリーネと隼人さんが後
ろの車に向かって歩き出したところが写っていた。
ああ、愛する隼人さんに明日まで逢うことができないのだ。
「外に出ます。ドアを開けて」
私は言った。直ぐにドアが開き、私は外に飛び出た。後ろの車に向かって隼人さんが歩
いている。私は走って隼人さんに近付き顔を見つめた。
隼人さんの正面に立つと愛おしさが増してきた。小柄な隼人さんを両手で抱き締め、隼
人さんの唇に私の唇を重ねて吸い付いた。長い時間、私は隼人さんを抱き締め唇を重ねて
いた。私は隼人さんの舌先を強く強く吸い続けた。しかし、いくら隼人さんの唇を強く吸
っても、隼人さんの身体を強く抱きしめても満足は得られなかったが、いつまでもこうし
ている訳にはいかない。私は唇を離し、隼人さんを抱き締める力を緩めた。そして隼人さ
んの愛らしい顔を見つめた。
「隼人さん、明日には逢えます。それまで我慢して下さい」
私は切ない思いで言った。
「大丈夫だよエリザベーラ。僕はヤバー男児だ、明日までちゃんと待っているから心配し
ないで君の職務に専念するんだ」
隼人さんが私の両肩に手を置いて、安心させてくれるように言った。でも、隼人さんが
私と対等な立場で会話を交わしたのは、これが最後となってしまった。
「そうね、私の見込んだ隼人さんですもの、大丈夫に決まっているわね。でも、無理はし
ないで、隼人さん」
私は心配気に言ってしまった。隼人さんが微笑んでくれた。私は少しだけ安心した。
「行くんだ、エリザベーラ」
隼人さんが強い口調で言った。そして、私の両肩を突き放してくれた。私はトボトボと
前の車に向かって歩いた。最後に振り返って隼人さんを見た。私は笑顔を作り片手を上げ
た。隼人さんも笑顔を返してくれた。私は安心して黒い車に入った。
明日には、隼人さんに逢えるのだ。それまでちょっと忙しないかもしれない。ヤバー魂
を持った隼人さんだ。大丈夫に決まっている。それに、アリーネにも頼んである事だし、
アリーネなら上手くやってくれる。
何時の間にか車は褐色の世界を走り出していた。王宮へ向かう隼人さんの車とは別れて
しまった。
私は、急に尿意を催してきた。飛行機から降りる前にトイレに行っておけば良かった。
私の座った座席とファミーレの座る席の間が 30cm ほど空いていた。私は横を向いてファ
ミーレに話しかけた。
「ファミーレ、どこかトイレのあるところに寄れるかしら」
少し恥ずかしかったが言ってしまった。
「エリザベーラ、ここはワンダ女建国ですよ。それも女王陛下の専用車です」
ファミーレが意図も無く答えた。
「そうか、では」
私は、少し安心した。
「トイレ、小」
少し大きな声で言って、股を大開きにして待った。突然、ファミーレとの椅子の隙間に
真っ白な尻が現れた。続いて胴体が出てきて、最後に金髪の青年が四つん這いで裸の姿を
晒した。顔を見ると若い可愛い青年だった。私の足元に蹲ると真っ赤なアバヤの裾を持ち
上げて、金髪の頭をアバヤの中に突っ込んできた。私のアバヤは白人青年の頭の部分だけ
モッコリと盛り上がり、すぐに私の女陰に若者の開かれた口が添えられるのを感じた。勿
論、アバヤは正装なので私はパンティーは穿いていなかった。
私は膣の緊張を緩めて排尿した。ああ、気持ちがいい。久しぶりの人間便器だ。わざわ
ざトイレに出向いて用を足さなければならない普通の社会とは、なんとも不便で仕方がな
かった。やっぱり故郷の国が良い。
でも、この人間便器の青年が、もし隼人さんだったらどうしよう。私はいけない事を考
えてしまい、急に恥かしさで身体が熱くなってきた。そんな事を考えてはいけない。隼人
さんは私の愛する人なのだ。人間便器になどできるはずがない。それでも、どうして、そ
んないけない事を考えると身体が熱くなるの
だろうか。もし、人間便器にまで堕ちてしまった隼人さんを、私は愛する事ができるだろ
うか。そんな事、考えてはいけない。こんな不謹慎な事を考えてしまう私自身は何なのだ
ろう。
私は排尿を終えた。人間便器の舌が女陰を丹念に舐めていた。私の女陰は尿だけで濡れ
ている訳ではない。人間便器は気付いている筈だ。でも、便器に対して恥かしい思いをす
る必要はない。所詮、便器でしかないのだから。そう、もし隼人さんが人間便器になって
しまったとしたら、愛する対象ではなくなってしまうのだろうか。だから、ありえない想
像をして身体を熱くする必要はないのだ。そう割り切って考えても女陰が濡れてくるのは
何故だろう。そんな不謹慎な事は考えないようにしよう。
人間便器がアバヤから身体を出した。真っ赤かなアバヤから頭が出た瞬間、金髪の青年
の可愛い顔が見えた。私の中に何か反応が起こった。
「床に寝なさい」
青年と目線が合った瞬間に言ってしまった。人間便器の青年は私の顔を見つめて、素直
に足元の床に仰向けに寝て次の指示を待っていた。私の目の下に勃起した青年のパニスが
天を突いて卑猥に揺れていた。私は靴を脱ぎ足先で真っ白なパニスを突付いてみた。勃起
したパニスがさらに大きく揺れた。
私はたまらなく嬉しかった。ワンダ女建国の素晴らしさは、この事に尽きる。女性の快
楽のためには、すべてが許される。男は女性の快楽のためにのみ存在しているのだ。女性
のあらゆる要望を満たすために、男どもは一生懸命尽くしてくれる。そんな国がワンダ女
建国の素晴らしさなのだ。結婚制度など存在する筈もない。隼人さんの事は愛しているけ
れど、国の根幹を変更する訳にはいかない。でも、隼人さんには頼れるパートナーとして
私の側に一緒にいてほしい。私は矛盾した事を願っているのだろうか。
飛び跳ねる青年のパニスを上から踏み潰してみた。コリコリとした固さが足の裏に感じ
られた。この感触がたまらない。青年の可愛い顔が快楽に歪んでいる。なんて惨めで可愛
い顔をしているの。今度は腫ってきた睾丸を踏み付けてやった。青年が顔を顰めて耐えて
いた。そうだ、声を聞いてみたい。私は足を
持ち上げ、睾丸を叩いて潰した。
「あぁっ」
青年が可愛い声で呻いた。なんて楽しいの!
今度は両足を使って青年の股間を甚振っ
てやった。一度声を漏らしてしまうと、たて続けに可愛い声で呻き続ける。なんて気持ち
の良い声なの!
私の全身に快楽が痺れたように走っていく。青年の哀れな声も一緒に盛
り上がっていった。惨めに表情を歪め耐えて
いた。
「ああ∼っ!」
青年が叫んだ。とうとうパニスの先から真っ白い精液が噴出した。精液がベットリと私
の足先を汚した。青年は惨めな顔つきで、精液をドックドックと放出し続けていた。こん
な惨めで醜い顔を晒さなければならない男の哀れさが、私の性感帯を刺激する。
この、人間便器が隼人さんだったら、と私はまた考えてしまった。またまたいけない思
いが私の意識に入り込んで来ていた。
私は精液で汚れた足を、青年の口の上に持っていった。青年は赤い舌を出して私の爪先
をペロペロと舐め始めた。足を舐めさせるのも気持ちが良い。やはり快楽が足先から股間
へと伝わってくる。青年は惨めに自分の精液を一生懸命に舐め取っている。可哀想にとし
か言いようがない。そう、男を惨めな思いに
陥れる事、それもたまらない快楽なのだ。
あぁ、ワンダ女建国に帰ってきたのだ。やっぱり故国は素晴らしい。ヤバーで暮す事な
んてできはしない。でも、隼人さんが一緒でなかったら、この素晴らしいワンダ女建国の
生活も、きっと腑抜けたつまらないものになるだろう。愛するという事は、一つになって
いたいという事なのだ。私を満たしてくれる
のは足元の素敵な奴隷ではなく、隼人さんなのだ。
もし足元の青年が隼人さんだったら、私は満たされるだろうか。あぁ、そんな事を考え
てはいけない。隼人さんを甚振る事なんて、私にできる筈がない。
人間便器の白人青年が嬉しそうに私の足の指の一本一本まで舐めていた。足を引いて、
今度は足の裏で青年の顔を強く踏み躙ってやった。そして最後に青年の口の奥に足先を突
っ込んでやった。人間便器の青年は苦しげに目を剥いていた。さらに足先を思いっきり、
青年の口の奥へ突き刺した。青年は声も出せずに哀れに身体全体を震わせてもがいていた。
こんな事は、隼人さんにできる筈がない。でも、もし、この青年が隼人さんだったら。や
っぱり有り得ない話だった。
「うぅ……」
人間便器が口に私の脚を咥えたまま苦痛に呻いていた。
「もどれ」
私は言って足を上げた。人間便器はすぐに身体を起こすと、私とファミーレの座席の間
の隙間に消えた。
「エリザベーラ、どうしたの。もっと甚振っても良かったのに」
ファミーレが言った。
「隼人さんが一緒でないとつまらない」
「でも、隼人さんを虐める事はできませんよ。隼人さんは奴隷ではないのですから」
「当然でしょ。隼人さんは私が愛する人なのよ。誰にも虐めさせはしないは。明日からは
私と一緒に暮すのよ。誰にも邪魔させない」
私は息巻いてファミーレに訴えた。
「はいはい。我侭な女王陛下になりそうですね。エリザベーラは」
ファミーレが茶々を入れた。
「アリーネに頼んでしまったけれど、大丈夫かしら」
アリーネの性格を知っているだけに、私は心配になった。
「アリーネ様は、奴隷調教の第一人者ですよ、ご存じなかったのですか」
ファミーレの向うに座っていた、ファルーラが言葉を挟んできた。
「えぇ、そうなの」
私は聞き返した。
「アリーネ様は大学在学中に、男性をマゾ化させる手法について論文を書かれ博士号を取
得しています。その能力を買われて卒業と同時に、男性マゾ化施設長に就任していました」
ファルーラが教えてくれた。私は驚いた。そして少し心配になってきた。アリーネには
親友と言いながら、随分と意地悪もしてきた。親友だからと言って安心して虐めていたと
ころもあった。
「隼人さんは大丈夫かしら」
口に出して私は言ってしまった。
「大丈夫ですよ。アリーネ様なら、そこのところはわきまえているでしょう」
ファミーレの一言で私は安心した。そう、大丈夫よね。アリーネには、隼人さんとの事
は逐一メールでも話していたから、理解してくれている筈よ。
大法院は首都サディスチンの街から 10 数キロ離れたところにある。幼い頃は母の女王に
連れられてよく訪れていた。実家に帰る、そんな雰囲気のあるところだったように覚えて
いる。ここには女王家のルーツが在った。ワンダ女権部族と呼ばれる一族が、この辺り一
帯を領土として支配していたのは、21 世紀に入った 30 年代後半だった。21 世紀初頭から
始まった中東地域の大混乱の中で、ワンダ女権部族は台頭してきた。その裏には密かに諸
外国の思惑があったり、世界の大富豪と呼ばれる援助者も多数有ったと聞いている。ワン
ダ女建国を建国できたのは、2051 年7月の事だった。
車は 20 世紀末まで、土の家に住んでいたと言う集落の跡を通り抜け、その先に建つ、金
色に輝く先の尖った大きな丸屋根を聳えたつ大法院と幾つかの付属施設の立ち並ぶ敷地の
中へと入って行った。
黄金が建物全体を覆う大法院の横にある、やはり黄金で覆われた小さな施設の前に車は
止まった。車の外に出ると熱気が身体を包み込んで来た。見上げる青空には、雲一つない。
私は1人で大法院の横にある、その黄金の小さな建物の中へ入って行った。
中には小さな金箔で覆われた祭壇があり、祭壇の前に1人の巫女が立っていた。私の近
づく気配に巫女が振り返った。
法皇様だった。懐かしい顔だ。私と同じ色の金髪の髪、青い瞳。幼い時の憧れのお姉さ
んだった。でも、その顔は、私のほうが老けているようにすら思える若さだった。
「エリザベーラ・ジュニア、大きくなったわね。そう、もうジュニアではないのね。貴女
が成長するのを待っていたわ」
法皇様が私をじっと見つめて仰っしゃった。
「私に、この国を治めることができるのでしょうか。法皇様」
一番の不安が口から突いて出てしまった。法皇様が微笑まれていた。なんて心の休まる
表情をされるのだろうか。彼女の前に立つと、誰でも心が落ち着き安らぐ。
「貴女は偉大な女王になるでしょう。隼人さんを頼りにしなさい。きっと2人でうまくや
って行けるでしょう。大丈夫ですよ、エリザベーラ」
法皇様が私の両肩に手を置かれた。若く美しい顔立ちだった。
「法皇様は、テロ攻撃の事を知っていらしたのですか」
今度は一番の疑問をぶつけてみた。
「貴女が女王として登場するためには必要な犠牲だったのです。犠牲になったのは、みん
な私の家族だったのです。とても悲しいことでした。
だから、貴女は偉大な女王にならなければならないのです。
頑張りなさい。隼人さんと一緒なら難局も乗り切れるでしょう、エリザベーラ」
法皇様の青い瞳が私を見据えていた。その深い瞳に見つめられると、とても安心するこ
とができた。
「はい。隼人さんと一緒なら頑張れます」
私は力を込めて言った。法皇様が微笑まれ、私から身体を離した。
「行きなさい、エリザベーラ。今からが一番大変な時です。でも、しっかりと乗り越える
事ができます。貴女と隼人さん2人なら」
法皇様が微笑んだ。私は出口に身体を向けた。祭壇の陰に法皇様の専属奴隷が“奴隷の
礼”をして控えていた。幼い時、あの奴隷を馬にして遊んだ事もあった。とても楽しかっ
たのを覚えている。懐かしさが胸を熱くした。たしか、
“イスカリスの……何とか”と言う
名前だった。幼い時のことなので忘れてし
まった。
「エリザベーラ」
法皇様が後ろから声を掛けられた。
「私は明日、旅に出ます。間に合って良かった。次に貴方達の前に姿を現すのは、貴女の
娘の子が 17 歳になっている時です。明日の戴冠式が終ったら、私の事は気遣わないで良い
から、隼人さんのところに飛んで行きなさい、エリザベーラ」
私は驚いて振り返った。法皇様が微笑まれて私を見つめていた。昔から法皇様は、時々
姿を消されていると聞いていた。長い時で 20∼30 年も姿を消されている事もあったと聞い
ている。でも、いつも昔と、まったく変わらない若々しいお姿で戻られるので、誰もがす
ぐに法皇様だと気付かれるという話たった。神のような不思議なお方だけれど、母のよう
な優しさと安心感を与えてくれる存在だった。でも、その事よりも私に娘ができると言う
予言のほうに心が揺さぶられた。それに、その娘の子のことま予言された。
「ここに鍵を置いて行きます。すべての事が終ったら、取りに来なさい」
法皇様は、祭壇に小さな鍵を置かれた。何の鍵なのだろう。法皇様は専属奴隷のほうに
歩いて行き、そのまま祭壇の後ろに隠れてしまった。
外に出ると、夕日が空を真っ赤に染めあげていた。黒い車は砂漠を走り、煌びやかな光
に満ちた夜の首都サディスチンの街中に入って行った。
今日中に女王となっている妹のセルベリーナと兄のヤーコブに会わなければならない。
妹はまだ 16 歳だ。数日だけの女王だとしても、重責をよく担ってくれた。兄のヤーコブも
感心していた。姉として妹を労ってやらなければならない。
車は首相官邸に横付けされた。妹の女王は王宮で悠長に対応している訳にも行かず、首
相官邸に常駐して緊急事態に対処していた。不満分子や裏切り者までいる軍隊を動かすこ
とができるのは女王しかいないのだ。
私は首相の部屋に飛び込んだ。ソファーに1人で座っている金髪の首相が、驚いて顔を
上げた。
「エリザベーラ様」
私の赤いアバヤを見て、首相は私をセルベリーナだと思ったのだろう。私の知らない顔
の小母さんだった。
「女王陛下はどこにいるの?」
私は、驚いてあたふたしている首相に問い質した。
「指揮所に入ったきりです」
「指揮所は、どこなの」
私は首相の目の前のデスクまで近づいて詰問した。
「奥です」
首相が椅子から立ち上がり、大きな首相のデスクの後ろにあるドアへ導いてくれた。入
口のセンサーに首相が手を翳すと、ドアが開き中に壁いっぱいの大型ディスプレイが配置
されているのが目に入った。首相に続いて私も部屋に入った。
黒いアバヤ姿の数人のスタッフと真っ赤なアバヤのセルベリーナ、そして裸で膝を付い
て立っている、兄のヤーコブが私達に背中を向けてディスプレイに見入っていた。
「セルベリーナ」
私は妹の背中に声を掛けた。妹が振り向いた。可愛い顔立ちに疲労が浮き出ていたが、
私を認めると可愛く微笑んでくれた。
「エリザベーラお姉さま」
私は両手を妹に伸ばし、抱き締めて上げた。汗臭さが感じられた。兄のヤーコブが、私
の方を向いて奴隷の礼をして控えていた。
「状況はどうなの、セルベリーナ」
まず気掛かりな事を訊ねた。
「ちょうど衛星画像で隣国の軍事行動の状況分析をしていたところです。我が軍の国境へ
の展開が早かったので、隣国や連邦政府軍の動きはないようです。傍受した通信に、作戦
待機の暗号が一度だけキャッチされています」
セルベリーナが的確に教えてくれた。大丈夫だ、妹ならうまく女王の務めを果たしてく
れる。私は再び妹をしっかりと抱き締めてあげた。
「お姉さまが来てくれて嬉しい。私では無理よ、女王なんて。すぐ変わって、
お姉さま」
妹が耳元で弱音を吐いた。相変わらず可愛い妹だ。
「エリザベーラ、もう大丈夫だ」
後ろから兄のヤーコブが膝立ちしたまま、声を掛けてきた。剃毛され、ツルツルになっ
た股間にパニスが萎えて垂れていた。
「お腹は空いていないの? 3人で食事しましょう」
私は提案した。セルベリーナと兄が微笑んだ。
「もう、指揮所を離れても大丈夫だろう。エリザベーラはいつも元気を運んできてくれる
ね」
兄のヤーコブが膝立ちしたまま楽しげに言ってくれた。妹と私の目の前に下半身を晒し
者にして恥ずかしくないのだろうか、と思ってしまう。ワンダ女建国だから仕方がないの
は解っている。ヤバーでの4年間で、私の感覚はこの国の風習と乖離してしまっていた。
「首相。個室を用意して。それで食事を運ばせて」
妹が首相を小間使いのように使っている。しっかりと女王陛下を演じているのが頼もし
い。
用意された個室には、金髪の人間椅子が1人用意されていた。兄のヤーコブが四つん這
いで付いて来るとテーブルの前で四つん這いのまま妹の椅子になった。セルベリーナが兄
の背中に腰を下ろした。私も人間椅子に腰を落とした。でも、私はすぐに立ち上がった。
「椅子は退室」
四つん這いでいる私の人間椅子に命じた。人間椅子は無言のまま這って部屋を出て行っ
た。部屋に椅子はなくなってしまった。私は床にお尻を下ろし体育座りをした。妹も私に
倣って兄の人間椅子から立ち上がり、私の横に同じように座った。兄も、私達2人の正面
で正座した。無毛のパニスが気になった。
「セルベリーナに剃り毛されたの?」
兄の萎えたパニスに目を落とし、私は当然の事をわざと聞いた。
「勿論よ、お姉さま。ヤーコブお兄さまったら恥ずかしげもなく、パニスをパンパンに膨
らませてしまうのよ」
妹が楽しげに言った。これで良い。緊張も解れる。
「お兄さま。正座なんてしなくって良いのよ。私達と同じで」
妹が言う。兄も足を崩した。兄のパニスを見つめると、膨らんできていた。少し元気に
なってきたようで嬉しかった。
「こうしていると、昔に戻ったようだな」
低い声で楽しそうに兄が言った。
「えぇ、ブリティンに留学していた時のことを思い出すわ」
セルベリーナも弾んだ声を発した。
「あの頃が一番楽しかったわね」
私も声に出した。楽しさが戻ってきた。
やがて食事が運ばれ、床の上に料理を並べ3人で昔話に興じてしまった。ベッドルーム
に移ると私とセルベリーナも裸になり、3人で昔のようにバスに浸かった。天使のような
子供時代が戻ってきたようだった。そして、そのまま大きなベッドに3人で横たわってし
まった。
疲れきった私たちの楽しいお喋りもすぐに止まり、眠りに落ちてしまった。
気が付くと、朝の優しい光に裸の3人が包まれていた。兄にキスして、妹にキスした。
身体を起こすと、裸のまま3人で抱き合った。
「今日の軍事行動はあり得ない。だがそれは、一時的なものに過ぎない。戴冠式が終わり、
各国の要人が、ここを去った後には必ず軍事行動に移る筈だ。ここまで周到に計画された
作戦を今さら中止するとは思えない。
エリザベーラ、ここからが正念場だ。女王陛下の役目は重い。重要な局面では隼人君の
助言を得る事だ。予言の書からは、そのように伝えられている」
3人で裸のまま顔を突き合わせて肩を抱き合い兄ヤーコブの言葉を聞いた。ヤーコブは
昔のまま、常に正しい。兄の言うとおりにして間違えた事は一度としてなかった。私もセ
ルベリーナも、兄に絶対の信頼をおいていた。彼ほど尊敬できる人物は男性の中にはいな
かった。
「隼人さんは、外国人政治顧問として私の側に常においておきます。大丈夫です、ヤーコ
ブお兄さま」
私は、その意味を理解して言った。
「女王の座を降りたとしても、元女王としてお姉さまを一生懸命支えます」
セルベリーナが頼もしく言ってくれた。
「ありがとう、可愛いセルベリーナ」
「よし、兄妹3人でこの難局を乗り切ろう。異国に暮らす男兄弟達も動いてくれている。
世界中の支援者がバックに居る。きっと乗り切れるさ」
兄の言葉に、3人で固く抱き締め合った。そうでもしなければ、この不安に押し潰され
てしまうだろう。明るい希望など皆無なのだ。
食事を終え、車で大法院へ向かった。大法院に着くと、私とセルベリーナの向かいに座
っていた新鋭隊長が右側のドアから降り、エリザベーラの護衛官ファルーラが左のドアか
ら出て行った。続いて私が左のドアから出た。セルベリーナも右のドアを開けて出て行く。
黒塗りのリムジンの左右から、真っ赤なアバヤの私達が揃って降りて来たので、取り囲
んでいた報道陣や群衆の間から驚きや呻きの声が上がっていた。大法院の前は、沢山の人
で埋まっていた。まだ午前中なので空気は爽やかだったが、群集の熱気で暑く感じられた。
明るい陽射しが私と妹の真っ赤なアバヤを輝かせていた。
涼しい大法院の中に入ると私達は別々の部屋に待機した。私の部屋には人間椅子が3人、
あとは小さなテーブルがあるだけの殺風景な部屋だった。書記官のファミーレと、護衛官
のファルーラと3人で人間椅子に座って待つしかなかった。
やがて案内の白いアバヤの僧侶が来て、私を戴冠式の行われる祭壇に案内してくれた。
入り口から祭壇まで赤いカーペットが伸びていた。祭壇は2mほどの高みにある。すで
に赤いアバヤのセルベリーナが高みの祭壇に立っていた。小さく見えるセルベリーナのと
ころへ私は足を進めた。
真っ赤な絨毯の両脇には各国の要人が沢山参列していた。厳かな楽曲が場内に流れてい
る。私はセルベリーナにだんだんと近づいていった。セルベリーナの緊張した可愛い顔が
私を待っていた。
まだ 16 歳だというのに、すっかり老け込んでしまったセルベリーナ。女王の座を降りた
ら、また無邪気な少女に戻れるのだろうか。戻ってくれなければ可哀想だ。でも女王の証
である可愛いティアラは、彼女の金髪にあまりによく似合っていた。どう見ても王冠とは
思えない可愛いティアラだが、2000 年も前から伝えられているものだという。以前、母の
女王がしている時にはお世辞にも似合っているとは思えなかったが、セルベリーナにはお
似合いだ。はたして私に似合うだろうか。
私とセルベリーナは祭壇に向かって並んで立った。昨日お話をした法皇様が紫のアバヤ
に身を包み祭壇の中から現れ、優しく私達に微笑みかけた。
「キリスト、マリアマグダラの名の下に、女王の座をセルベリーナからエリザベーラへ引
き継ぎます」
法皇様が宣言された。法皇様の身長は、私とセルベリーナよりも少し高かった。私とセ
ルベリーナは少し腰を屈めた。セルベリーナのティアラに法皇様が手を伸ばして外される
と、そのまま私の頭に嵌めてくれた。
ふと、小さな疑問が頭を過ぎった。どうして女王が常に身に付けているティアラがここ
にあるのだろうか。テロのミサイル攻撃で、何一つ残っていなかったと聞いているのに。
「ここに、女王エリザベーラが誕生しました」
法皇様が宣言された。
参列者の拍手がホールに響き渡った。私は振り返り、場内を見渡した。沢山の正装をし
た男女が私を見つめていた。急に私は女王としての責任の重さを痛感し、意識がたじろぎ、
目の前が真っ白になった。身体が震えている。
セルベリーナが私の手を取った。妹に促されるまま2人で並んで祭壇を降りた。拍手は
止む事がなかった。10mほど歩いたところでファミーレが小型ディスプレイを目の前に差
し出してきた。それを受け取り、画面を見ると女王戴冠のメッセージが書かれていた。そ
の文字を私は読み上げた。意味など解る筈もなかった。なんとか読み終えると、さらに大
きな拍手が湧き起こった。
助けてほしかった。私に女王など務まる筈がない。隼人さんに逢いたい。隼人さんを慕
う想いが急速に膨れ上がってきた。隼人さんが待っていてくれる。その思いで心が少し落
ち着いてきた。ホールを埋める人々の様子が、やっと落ち着いて見られるようになった。
横を向くと、くしゃくしゃになった妹の顔が目に入った。私は両手を伸ばし、可愛いセ
ルベリーナを抱き締めた。今度は私が妹をエスコートして、外の陽射しの中に出て行った。
熱さが充満している筈なのに、それを感じる事が全くできない。
少し高くなった玄関先に国民が押し寄せている。カラフルなアバヤの色が、足元から見
渡す限り遠くまで続いていた。怒涛の叫び、拍手、打ち鳴らされる楽器の喧騒が満ち満ち
ていた。
国民達は難局を理解していた。男性を排除して作られた唯一の国。それが危機の縁に立
たされている。みんな私に期待している。明日をも知れないこの国の未来を、新女王であ
る私に託しているのだ。
セルベリーナの肩に掛けた手を解き、私は両手を高々と掲げると、張り裂けんばかりの
歓声が爆発した。その衝撃が身体中を振るわせる。私は立ち尽くしていた。妹が私の腰に
手を回し、片手だけを掲げた。感動に胸が詰まった。涙が溢れ、全身を鳥肌が覆う。
玄関先にリムジンが待機していた。私は1人、車に向かった。裸の格好で銃を持った兵
士達が車までの道を確保していた。リムジンに乗り、窓を開けさせた。私は窓から頭を乗
り出して片手を上げた。
熱狂する国民。青い空の下、寺院の丸い大きな屋根の影が砂色の大地に焼き付いていた。
沿道を埋め尽くした大勢の国民が私に手を振り、私の名前を連呼している。私は皆に手を
振りながら、リムジンを走らせた。
急に隼人さんの事が気懸かりになった。隼人さんに助けてほしかった。私を支えてほし
かった。でも、今は女王としての責務は果たさなければならない。走るリムジンの窓から、
私は大勢の熱狂した国民に手を振リ続けた。
頭を車内に引き戻し、大きな声で命じた。
「宮廷に、早く!」
私を乗せたリムジンは白い砂塵を巻き上げて、私の思いほどに速くはなかったが宮廷に
向かって疾走した。ああ、隼人さんに逢える。
隼人さんは王宮のどこで待っているの。
「アリーネに繋いで」
私は命じた。
目の下のディスプレイの嵌め込まれたテーブルに、アリーネの顔が映し出される。
「アリーネ、隼人さんは、どこで待っていてくれているの?」
単刀直入に問いかけた。アリーネの表情が一瞬変わった。
「サーバン・エリート・アカデミーです」
その言葉を俄かには信じられなかった。あそこは宮廷付きの女官に仕える専属奴隷を調
教する施設だ。その調教内容は凄まじいものがあると聞いていた。何故、隼人さんが、そ
んなところで待つているの。
「アリーネ、どうして隼人さんが、そんなところで待っているの?」
何かの間違いがあったのだ。たまたま居場所がなくて、そこで待っているだけなのだ。
そうに違いない。
「隼人さんが、サーバント契約書にサインされたのです」
アリーネが恐ろしい事を言った。何故……、隼人さんがサインしたの?
「どうして? ……いいわ。すぐ到着するから、待っていて!」
私はアリーネとの交信を絶った。もう王宮が目の前に見えている。高い尖塔や大きな丸
屋根の重なる宮廷にリムジンは入り、中庭に抜ける切戸の前で止まった。3名の近衛兵が
突然の女王陛下を載せたリムジンの出現に驚いて銃を捧げ持った。近衛兵は下半身に赤い
褌だけを着け、赤いラインの襷を斜めに掛け
ているだけだった。
私は勢い良くリムジンのドアを開け放した。慌てたようにリムジンの他のドアも開き、
女官達が追いかけて飛び出してきた。
「戸を開けなさい」
私は近衛兵に命じた。銃を捧げ持ち抱えたまま、慌てた近衛兵が切戸を開けた。私は開
かれた切戸に身体を潜らせた。後ろで女官達が蠢いていた。
「誰も来ないで!」
後ろを振り返り、怒鳴った。皆、立尽くし、切戸から戻って出て行った。中庭は広かっ
たが、この切戸から一番近いところにサーバン・エリート・アカデミーがある。私はアカ
デミーの重いドアも勢いよく開けさせた。
「アリーネ!」
大きな声で呼んだ。大理石の広い廊下に私の声が反響していた。
艶やかなアバヤに身を包んだ女官達が廊下の向こうのほうから走ってくる。その中にア
リーネもいた。
「女王陛下、お早いお着きで。突然に、どうされましたか?」
アリーネが息を切らせながら聞いてきた。
「隼人さんは?」
私は廊下の先を見通しながら大きな声で訊ねた。
「只今、陛下をお待ちしております。こちらへ、どうぞ」
アリーネが丁寧に答えた。女王になった途端、アリーネの私に対する態度が変わってし
まった。それは仕方のない事だ。
アリーネが私の前を歩き出した。私はアリーネの後ろに続いた。
「アリーネ!」
私は前を行くアリーネに呼び掛けた。アリーネが振り返った。
「はい、陛下」
立ち止まって、私の方に顔を向けてアリーネが返事した。アリーネに近付いて耳元に口
を寄せた。
「隼人さんは、契約書を破いてくれたの?」
私は心配だった。この雰囲気は、何かが違っている。
「陛下と一緒にいるためなら、サーバントになると仰って、隼人さんはサインしました」
アリーネは感情もなく、事務的に答えた。
「私は、外国人政治顧問の職を薦めるように、貴女にお願いしておいた筈よ!」
少し大きな声で言ってしまった。
「その事も説明しましたが、陛下と離れて生活する事など考えられないようでした。それ
で、サーバント契約書にサインしたのです。でも、そこから今までの短時間の間での隼人
さんの努力には目を見張るものがありました。奴隷としての最低限の躾を身に付けようと
一生懸命に自分を殺して努力していました。
それはもう、ヤバー魂という他ありません。その頑張りには教官はじめ、私まで感動して
しまうほどでした。やはり、陛下の選ばれたヤバー男児です。凄いと思いました」
えぇっ!?
私は驚いてしまった。隼人さんが私の奴隷のなるなんて考えもしなかった。そ
の隼人さんを、アリーネが褒めている。このマゾ調教の第一人者である彼女が。喜ばしい
事なのか、私には解らない。なんて言ったら良いの?
「摘み食いはしていないでしょうね?」
自分の口から出た言葉に我ながら唖然とした。でも、アリーネの反応を見ようと顔を覗
き込んだ。
「そのようなことは……」
アリーネが慌てて答える。摘み食いされたかもしれない。
「この部屋です」
アリーネがドアの前で立ち止まった。女官がドアを開ける。部屋を覗くと私のほうを向
いて黄色人種の奴隷が手を前に延ばし頭を床に付け、尻を持ち上げた恥ずかしい格好で“奴
隷の礼”をしていた。幾つもの鞭の痕が背中を這っていた。ああ!
隼人さん、なんて惨
い事に!
「隼人さんの決意は固まっています。すべて準備を整えております陛下。専属奴隷の儀を
行ってください」
アリーネが長い儀式用の鞭を私に差し出しながら言った。
「隼人さんは契約書にサインしたの?」
長い鋼でできたような弾力のある鞭を受け取りながら訊ねた。女官の1人がサーバント
契約書を私に向かって見えるよう捧げていた。サーバント契約書の私のサインの下に、H
ayato Saginomiyaと達筆な文字が並んでいた。
「喜んで頑張ります、と隼人さんは言っていました」
アリーネが口添えした。隼人さんが、本当に、そんな事を言ったのかしら。無理やりサ
インさせられたのではないでしょうね。
手にした儀式用の鞭は細く重い。一発で深い傷ができるだろう。これを隼人さんの背中
に打ち降ろさなければならない。その事が、隼人さんにとって幸せな事なのだろうか。私
は迷った。でも、隼人さんの背中の鞭の跡はここまで私のために耐えてきた印、それに私
が応えてあげなければ。
私は隼人さんの後ろに回り込み、隼人さんのお尻を見つめた。隼人さんのお尻は持ち上
がり双球の真ん中で菊門が硬く閉じていた。緊張しているのだわ。隼人さんが可愛く思え
た。鞭を隼人さんの背中に置いた。隼人さんの身体の震えが鞭を通して伝わってくる。少
し強く打ち下ろさなければならない。軽くても駄目だ、強過ぎてもいけない。
「隼人さん、奴隷の誓いの鞭を打ちます。耐えてください」
私は隼人さんに聞こえるように、少し大きな声で呼び掛けた。
「ううぅぅ……」
隼人さんが何か訴えていた。言葉にならない呻きだった。私は構わずに鞭を振り下ろし
た。空気を裂く音が耳に届く。続いて隼人さんの背中で、重く鈍い肉を裂く音が調教室に
響き渡った。耐えきれずに出た、隼人さんの呻き声が私の耳に届く。
御免なさい隼人さん。私も、とても辛かった。見る見る間に隼人さんの背中に赤い蚯蚓
腫れが新たに斜めに走っていた。
「もう一発です、陛下」
アリーネの声が悪魔の囁きのように聞こえてくる。隼人さんの背中が小刻みに震えてい
る。ああ、可哀そう。でも、そんな隼人さんの惨めな姿を見ていると、私の内に悪戯心が
芽生えてくる。ピンと延びた鞭の先で、私は隼人さんのお尻を擽っていた。菊門にも刺激
を与えてしまった。菊門がさらに緊張したように硬く萎む。次の一打で隼人さんは私の専
属奴隷になる。私の身体は上気してきた。
鞭先を、ピッタリと閉ざされた太腿の間に割り込ませようと突付いたが、入らなかった。
アリーネが隼人さんに近づく。掌で隼人さんのお尻を叩いた。
「股を開いて、陛下にお見せしなさい!」
アリーネが強制的に命じた。おずおずと従順に隼人さんの両方の股が開かれてきく。縮
んだ睾丸、ダラリとだらしなく垂れたパニス。パニスには何かキラリと銀色に光る管が付
けられていた。何だろう。
こんな恥ずかしい姿を、私だけでなくアリーネや女官達にまで見られてしまった。御免
なさい隼人さん。私は私の不行き届きを恥じた。そして隼人さんに心の中で謝っていた。
でも、私は長い鞭先で隼人さんの金玉を突付き、情けなく萎えたパニスを弄んでしまって
いる。隼人さんが擽ったそうに、お尻を可愛く振っていた。可哀想だけれど、可愛い隼人
さんだった。
「陛下!」
アリーネが私を促す声に我に帰る。そうだ、遊んでいる場合ではなのだ。私は再度、隼
人さんの背中に鞭を置き、ゆっくり振り上げる。そして、少し力を込めて鞭を振り下ろし
た。空気を裂く音。鞭は隼人さんの背中を包むように絡まっていった。肉を裂く音が、ま
た室内に響いた。
隼人さんの背中に、前の鞭の跡と交差するように×印に蚯蚓腫れが走った。隼人さんが
大きな声で呻いている。よほど痛かったのだろう。可哀想な隼人さん。私の緊張も頂点に
達していた。私のあそこも少し濡れているようだった。儀式は終わった。
「隼人さんの拘束を解いて。連れて帰ります」
毅然として私は言った。
「それは無理です。陛下」
アリーネがすぐに答えた。
「この奴隷は、只今、陛下の専属奴隷としての地位を得たところです。これから3ヶ月に
渡る調教を施します。その後、陛下にお引き渡しいたします」
事務的な口調でアリーネが主張した。3ヶ月――私の頭の中は真っ白になってしまった。
そんな長い期間、隼人さんなしで私はやって行けない。私はすぐに考えを巡らせた。
「3週間です。それ以上は待てません。それで何とかしなさい!」
私は女王の命令としてアリーネに言った。
「畏まりました陛下。ただし最低限度の調教しかできない事をご理解下さい」
恭しくアリーネが言った。
「それで結構です。隼人さんの拘束を解いて。皆この部屋から出なさい!」
皆に向かって私は命じた。
「それはできません陛下。まだ調教も始まっていない奴隷と陛下を誰もいない所に置いて
おくことなど、でき兼ねます」
アリーネが強い口調で反論した。
「解りました。ではこのままで結構です。皆、出て行きなさい!」
私も大きな声で強く命じた。
女王陛下の怒りに触れたら大変、と女官達はそそくさと出て行った。急いで扉も閉めら
れた。
私は跪いて隼人さんの裸の身体を抱きしめた。
「隼人さん、御免なさい。私の我儘のために、こんな酷い目に遭わせてしまって。私は隼
人さんを愛しています。だから、だから……」
私は感情が高ぶって、どう言ったら良いのか解らなかった。目からは自然に涙が零れ出
てくる。その涙が隼人さんの背中を濡らしていた。隼人さんが呻いている。声が出ないよ
うだ。やっと猿轡に口を塞がれている事に気が付いた。隼人さんの頭の後ろの皮ひもを解
いてやった。猿轡を外すと口の中から黒いパンティーが出てきた。
私の心に怒りが膨れ上がってきた。
「こんな辱めは、私が許しません!」
私は怒りのあまり声に出して言った。猿轡を外しても、隼人さんは呻くだけで声を出せ
ないでいた。
「声が出せないのね、ちょっと待って」
私は隼人さんの顎を持って持ち上げた。私は口の中に唾液を溜めた。床に顔が付くほど
屈み込み、隼人さんの唇に私の唇を重ねる。口移しに私の唾液を隼人さんの口の中に送る。
ゆっくりと私の唾液が隼人さんの咽喉を潤していった。
「エ、エリザベーラ……」
隼人さんの咽喉から、やっと一言だけ言葉が漏れた。私は跪いたまま、隼人さんの顔を
膝の上に置いた。そして隼人さんのお尻に手を回して撫でていた。
「御免なさい隼人さん、こんな屈辱的なことは、もう辞めましょう。何とか考えます。2
人で暮らせる方法を」
私は、隼人さんの耳元で囁いた。外国人政治顧問を隼人さんは断ったのだ。他にどんな
方法があると言うのでしょう。私の頭の中には、それ以外の何の考えもなかった。
「エリザベーラ、大丈夫だよ。3週間なら頑張れるよ」
擦れた声で隼人さんが言った。なんて哀れな隼人さんなの。
「まだまだ、もっと辛い調教が待っているのよ。隼人さんに耐えられる筈がないわ」
そう言ってあげるしかなかった。でも、耐えてほしかった。
「エリザベーラと一緒にいられるためなら、僕は頑張れるよ」
弱々しい声だ。私は辛かった。
「本当に大丈夫? でも、嬉しい! 愛してるわ、隼人さんっ」
私は嬉しさに隼人さんを抱き締めた。そして、お尻の間から手を回し、パニスを握った。
金属管が冷たかった。睾丸を弄った。パニスがむくむくと大きくなってきた。
「痛い! パニスが抓られたように痛い。エリザベーラ……」
隼人さんの顔が歪んでいた。
「この金属管に圧迫されているのね、可哀そうに」
私は金属管を引っ張った。
「駄目だ。中に鋲が付いていて刺すんだ。引っ張らないでくれ、エリザベーラ」
辛そうな惨めな声で隼人さんが訴えた。痛そうに隼人さんの顔が、ますます歪む。でも、
その惨めな表情が、とても可愛い。
「こんな可哀そうな事をするなんて!」
私の内に怒りが湧いてきた。
「契約書に書いてあったんだ。避妊のためだとアリーネさんが言っていた。僕にはもう性
欲を満足させることもできなくなってしまったんだ」
涙声で隼人さんは訴えた。哀れな隼人さん。
「私が何とかします。またすぐに来ます。それまで頑張って下さい。隼人さん」
励ますように私は力を込めて言った。最後に隼人さんの全身を愛撫した。私は立ち上が
り、ドアを開けた。女官達が鈴なりになって外で待っていた。一番前にアリーネが立って
いた。
「学院長! あのペニスの金属管は、何なの!」
アリーネを私は詰問した。あんなものを付けるなんて許せない。
「陛下、教会からの指示です。陛下の避妊に配慮したものです。2つの南京錠が付いてい
ますが、ここに1つ鍵があります、これは陛下がお持ち下さい。もう1つの鍵は法皇様が
保管しています」
俯いたままアリーネが話した。あれが、隼人さんのパニスに付けられた金属管を開ける
鍵なのね。法王様の言っていた意味を、私はようやく理解した。
「鍵を」
アリーネのほうに手を延ばした。アリーネが鍵を私に渡した。
これで今の難局を乗り切る事ができれば、いつでも隼人さんのパニスを戒める金属管を
外すことができる。少し安心した。でも、まだ問題は残っていた。
「これは何!」
私は黒いパンティーをアリーネの目の前に突き付けて言った。
「陛下、申し訳ございません。この者を処分いたします」
アリーネが深々と礼をして慇懃に言った。
「こんな悪戯で処分者は出せません。こんな悪さをする女官には屈辱を与えなさい」
私は言い切った。
「それから、隼人さんに無用な鞭は与えないように」
それだけは言っておかないと、隼人さんが惨め過ぎる。
「またすぐに来ます」
最後に、怒りを込めてアリーネの目を見つめた。
「はい。奴隷の調教には、ご主人様の協力が不可欠です。お待ち申しております」
アリーネが微笑みを湛えて言った。私はサーバン・エリート・アカデミーを後にした。
外で待っていた2人の親衛隊員が私の両脇に付いた。正装である黒のアバヤにシェイラで
顔を隠し、腰には大型の拳銃を装着していた。
また、すぐに来てあげなげれば……。私の胸の内に隼人さんへの熱い想いが増していた。
=ワンダ女建国の歴史=
僕は、勇気を奮い起こして固く決意した。エリザベーラのために耐えようと。女王の立
場も絶対のものではなく、規則や廻りからのプレッシャーに規制され全ての権力を自由に
執行できるわけではないことが解った。ならば僕がエリザベーラの専属奴隷となって彼女
を支えてあげなければならない。それには、ここでの3週間の調教に耐えるしかない。耐
えてエリザベーラの専属奴隷となり、愛する彼女を守るのだ。僕の内に明確な目標が提示
された。部屋の外から聞こえてきたエリザベーラとアリーネさんのやり取りを聞きながら、
今の心境を深く噛み締めた。
エリザベーラは直ぐにまた来てくれると言っていた。アリーネさんによる奴隷の調教に
は、ご主人様の協力が必要だと言っていた。3週間、エリザベーラに会えないわけではな
いのだ。
頑張れるさ、きっと。
エリザベーラが去るとアリーネさん達が調教部屋に戻ってきた。アリーネさんが一人、
ブツブツと何か言っていた。他の者は皆、無言だった。どうも女王の怒りに鎮痛している
様子だった。僕は奴隷の礼をとったまま、じっと動かないで様子を窺うしかなかった。
「このパンティーは誰の物なの」
アリーネさんが尋ねた。沈黙が支配し誰も答えなかった。
「ラーネが見えないわね。どこに行ったのかしら」
アリーネさんが、ウロウロと動き回っているのが感じられた。
「さっきまで居ましたが」
僕の頭の上で若い女官のポーラの声が答えていた。
「ラーネのパンティーです。ラーネは黒のパンティーしか履きません」
「あの小娘は、何を考えているの。陛下が言われたように屈辱を与えてあげなければなら
ないわね。明日から、この奴隷の世話係をさせなさい」
アリーネさんが呟いた。
「エーッ!?
それって、スードラのする仕事ですよ。……可哀想」
誰かが揶揄するように言った。
「仕方ないでしょ、陛下の御命令なのですから。ラーネに会ったら伝えておきなさい」
アリーネさんが言い切る。そして僕の真前に立った。
「お前に対する女王の思い入れは想像以上のものだったよ。これから3週間、たっぷりと
調教してあげるから根を上げるんじゃないよ!」
アリーネさんが僕の真上に移動してきて言っている。
「よろしくお願いします」
アリーネさんが声を掛けてくれたので僕は嬉しくなって擦れた声で心から言った。
突然、背中に強烈な鞭が振り下ろされた。エリザベーラから受けた鞭の痕がまだ癒えて
いない上に鞭を貰い、強烈な痛みが背中を走る。僕は呻いた。
「命令がないのに、勝手に話さない」
アリーネさんが強く言う。僕は沈黙するしかなかった。
「ポーラ、奴隷を戻してきなさい」
アリーネさんが命じた。
僕は拘束を解かれ、一番若いポーラに鎖の手綱を曳かれ、調教部屋を出た。
「これからの調教は並外れた過酷なものになるよ。お前は学院長を本気にさせてしまった
からね。ラーネの気持ちが解らないでもないけどね。マゾでもないお前に、そんな過酷な
調教が堪えられるとは誰も思っていないよ。学院長だってそうさ。
お前の性能検査をしたときに、みんなエクスタシーを感じてしまった。お前の肉棒の硬
さといい、舌業の妙技といい、こんな楽しい性能検査は今までになかったよ。皆すっかり
お前に魅了されてしまったのさ。だから、お前には奴隷になってほしくないと私達は思っ
ている。特にラーネがそう強く感じているの
だろうね。
お前は意外と可愛いところがある。その小さな身体で良く頑張っている。その真面目な
頑張りが、とっても滑稽に思えて、とても虐め甲斐のある奴だと思えてきた。女王陛下の
寵愛を一身に受けているとなれば、陛下の親友である学院長のライバル心は燃え上がるだ
ろう。可哀想に、お前は本当にマゾに落とされるだろう。マゾは人間じゃないんだよ。そ
うなってしまったら、お前は確実に陛下に捨てられるだろうね。まぁ、そうなってしまっ
たら我々の誰かが拾ってあげるから心配はないよ」
ポーラが笑いながら言った。
マゾに落とされるとは、どう言う意味なのだろうか。マゾは人間ではないと言った。奴
隷だって人間の筈だ。人間の尊厳は守られなければならない。では、マゾとはどういう状
態の事を言うのだろうか。マゾになってしまってしまったら人間ではなくなってしまうか
ら捨てられる。マゾだって人間ではないのか。
でも、マゾに落とされるとはどんなことなのだろう。ポーラの言葉が引っ掛かっていた。
部屋に戻された僕は、干からびるほどに喉が渇いていた。大量の水分が失われ、それを
身体が求めていた。まず瓶の中の水を飲み干した。疲れきっていたが頭は冴え渡っていた
のでポーラの話していたことが気になって仕方なかった。僕は頭の中で繰り返し考え、や
っぱりエリザベーラの専属奴隷になるなんて望みは無理なのだろうか。それなら、早く諦
めた方が良いのだろうか。
思い悩んだまま排便と身づくろいのため地下へ降りて行った。ガランとした空間に、チ
ョロチョロと流れる水音だけが静寂の中で聞こえていた。薄暗い照明ではあるが、地下は
清潔に保たれている。
水路の水の流れの中に立ち、身づくろいしていると何かの影が動くのを認めた。そちら
を見ると、白いパンツを履いただけでモップを持ったスードラが立っていた。そのスード
ラも僕を見ていた。彼と目が合った。
「お前が女王陛下の専属奴隷か」
スードラがモップにもたれ掛りながら無愛想に聞いて来た。
「そうだ。君は、ここで何をしている」
僕は興味が湧いてきて、そのスードラに話し掛けた。
「この地下の掃除さ。俺は下層労働者のスードラさ。地下の掃除が俺の仕事さ。一番汚い
仕事、誰もやりたがらない仕事をするのがスードラの役目さ。お前は専属奴隷で良いよな」
そのスードラが羨まし気に言った。
奴隷が羨ましい? そんなわけがある筈もない。おかしなことを言うスードラだ。
「僕は奴隷だぞ。裸で何の権利もない。女王とは夫婦なのに、ここでは婚姻制度もなく、
あるのは男奴隷制度だけだ。仕方なく妻の奴隷になるしか一緒に暮らす方法はないんだ」
やるせない僕の気持ちを男にぶつけた。
「でも奴隷だ。俺達スードラの憧れさ」
「何故、奴隷に憧れる?
鞭を喰らい、蔑まれ、弄ばれ……。自己主張は一切許されない
んだ。僕は、せめて下半身だけでも隠せるパンツを履けるスードラの方が、よっぽどマシ
だと思う!」
この屈辱的な奴隷の身分よりスードラの方が、どれほどマシなことか、とスードラが羨
ましかったので僕は言い放った。彼が何で奴隷の方が良いと言うのか想像もできなかった。
「スードラの方が良いと言う奴もいるさ。それは生まれが、この国の住人か罪人くらいな
ものさ。俺達外国人は奴隷に憧れて、この国に入国したのさ。でも入国したからと言って
すぐに奴隷にはして貰えないのさ。スードラとして下働きに耐えて、誰かワンダ様の一人
に認めて貰えてから初めて奴隷の身分に落と
して貰えるのさ。お前のように初めっから奴隷の身分で、この国に入国できた奴など滅多
にいないのさ」
男は薄笑いを浮かべたまま、媚びたような話し方で続けた。
奴隷になることに憧れる。それを羨ましく思う。そんな精神状態が信じられなかった。
「何故、奴隷が良いんだ? 人間としての尊厳など認められなくなるんだぞ」
実に不可思議な話だった。そんな事が有り得ようとは思えなかった。人は差別される事
なくお互いの人権を認め合って暮らすことが大切なのだと教わってきた。人を差別しては
いけない、人は尊いものだ、尊厳を持って接しなければいけない。僕は今までそう思って
生きてきた。
確かに自分でも気付かないところで人を傷つけ差別しているところがあったかもしれな
いが、でも、そんな事にならないように気を使って生きてきたつもりだ。ところが彼は、
そうされたいと言う。逆ならまだ解る。人間なら虐められるより虐める立場の方がまだマ
シだ。
「俺達はマゾヒストなのさ。お前の言ったような鞭を喰らい、蔑まれ、弄ばれ、自己主張
が一切許されない理不尽な行為に快楽を感じる性癖を持ってしまった身体なのさ。だから、
お前を羨ましく思っているのさ」
男は僕の排便で飛び散った黄色い便の染みをモップで擦りながら言った。
僕には彼の言葉が理解できなかった。ここには、そんな奴が他にもいるのだろうか。こ
の国の制度はどうなっているのだろう。僕の内に大きな疑問が湧いてきた。
「そんな外国人が沢山いるのか」
そのスードラに問い質してみたくなった。そんなバカな話は聞いた事もない。
「ああ、スードラだけじゃなくて下級兵士としても沢山、入国しているさ」
だが、男は平然と事実として認めた。それは僕にとって知らない中東世界に存在するワ
ンダ女建国の情報だった。
僕は中東アラブ世界の政治をかなり深く勉強していたつもりだった。
ここワンダ女建国は女性が政治を司る小さな部族だったが、2030 年代、中東の混乱時期
に外国からの多数の援助を得て勢力の拡大に成功した他の多くの部族とともに、イラソ首
長国連邦を形作ったものだった。ワンダ女建国はその中で少し変わった政治体制をとって
いるだけの自治国家だと思っていた。
「2000 年代初頭のオイルを巡るエネルギーの獲得競争を経てから、世界は急速な脱石油技
術の開発が進められた。その結果、中東世界に対する世界の関心は一挙に失われたのさ。
そして巨大国家勢力が中東から撤退した後の 2030 年代から始まるアラブ世界の内部抗争へ
と突き進んだのさ。今までの巨大勢力による
代理戦争とは違い、近しい身内同士の抗争は悲惨を極めたさ。そんな時代が 10 年も続き、
中東各国は疲弊を極め、ようやく国連が内部干渉するようになり、アラブ世界の内乱は収
束に向かったのさ。そして新たな国作りが始まったのさ。
ちょうどそのとき、世界中では女性の自由と権利拡大を主張する活動が席捲していたの
さ。その運動の結実として、せめて一つの国家だけでも女性だけの権力で支配したいと言
う願望が、女性達に力と時代背景を与える事となったさ。そこで全世界の女性活動家が目
を付けたのが、このアラブの女権部族だったってわけさ。莫大な資金援助が行われ、強力
な外人部隊も送り込まれて 40 年代後半には一国家を確立するまでになっていたさ。ただ、
賢い彼女達は女建国家を世界にアピールするのではなく、逆に目立たず存在させる道をと
ったのさ。今さら奴隷制度が世界に認められる筈もないさ。ましてや、男だけを奴隷にす
るような破廉恥な国家体制なんて、すぐに男社会の世界の中で潰されてしまうのが落ちだ
っただろうさ。それでも彼女達は熱望していたのさ、そんな国家を実現させたいとさ。
中東の東側に集まった国々は、既に石油利権では食えなくなっていたのさ。そこでアラ
ブ諸国は連邦制をとらざるを得なくなったのさ。各部族間で不可侵条約が結ばれ、イラソ
首長国連邦が誕生したのさ。まったく食えない部族同士は合併して、中央政府を形成し何
とか国家を維持できる部族は自治区内で自治国家体制を作る形に落ち着いたのさ。ワンダ
女建国は、そこにうまく隠れて建国された、というわけさ」
男は長々と 2000 年以降に起こった中東の歴史の裏側を説明してくれた。そんな裏の実情
まで僕は知らなかったし、初めて聞いた。教科書で教わってきた中東の歴史とはまるで違
う内容だ。
確かに、ワンダ女建国は国家として存続できる条件を満たしていない政治体制だ。王族・
貴族・管理者のワンダと呼ばれる女性しか政治に関与できる地位に就けない。婚姻制度が
ないので、生まれた子供は女性ならそれぞれ王族か貴族かワンダとなれるが、男の子の将
来はスードラか一兵卒になるしかない。親
なら自分が生んだ子供をサーバントと呼ばれる奴隷や、最前線に立つ一兵卒などにしよう
とは思わないだろう。こんな差別的な国家が 21 世紀という、民主主義が世界中に行き渡っ
ている時代に存在できるとは思えない。
だが、その存在を許したのが世界中のSM愛好者達だった。特にサディスト女性とマゾ
ヒスト男性と呼ばれる変態性倒錯者達だった。
サディストである女性達は特に飛び抜けた能力を持ち、地位と財力を持っていた。また、
マゾヒストである男達も高いIQを有していたので組織の中で高い地位を確保し、権力を
持つ立場に就いている場合が多い。そんな世界中の相当に知的な個人達が、その個人的に
持てる利権でワンダ女建国に援助していた。そのお陰で目立つことなく確実に女権国家は
成長していったのだ。
建国にあたり多くのマゾヒスト男性の移民を受け入れ、女性の権利拡大を主張する女性
活動家と、性癖としてのサディスト女性による完全支配の国家体制が整えられていった。
「俺も小金を溜めて、やっと移民として受け入れて貰えたのさ。妻はSMに理解がなく、
逆に毛嫌いされていた。それで俺は妻と離婚して希望の大地ワンダ女建国へ逃げ出したさ。
まぁ、変態だから仕方はないのさ。俺は財産を全て寄付して、この国に生涯を奉げる事に
したのさ。それでも寄付した財産が多かっ
たので宮廷のスードラになれたのは運が良かったさ。財産もなく、この国に移住しようと
したら一兵卒になるしかない。そこから奴隷に落として貰えるまで生き抜くのは至難の業
だろうよ。うまく王宮の下働きに取り立てて貰えたのだ。早く女官の誰かに認めて貰って
奴隷に落として貰えるよう一生懸命やるさ」
どうにも理解のしようがなかったが、その話をしているスードラの目が輝いているよう
に見えたのは、僕の気のせいだろうか。
「お前はスードラ達の憧れだ、頑張れよ」
そのスードラが僕の肩を叩いた。僕は彼の生き生きとした晴れやかな顔に見入ってしま
った。
「では君にとって、今の境遇は幸せだと言えるのか?」
彼に尋ねてみたかった。
「幸せは奴隷になってからの、お楽しみさ」
男の微笑みは輝いていた。
「名前を教えてくれ」
奴隷になってしまったら名前などなくなってしまう。今のうちに、その男の名前を聞い
ておきたかった。
「ハンドルネームだが、
“マゾッホ”さ」
男の笑顔が眩しかった。
=人間椅子調教=
朝の光が眩しい。
身体中が火照って疼いていた。鞭痕は、完全には癒えていないようだ。
テレビのスイッチが入り、BBCニュースが映し出された。相変らずアラブ情勢は混沌
を極めている。国内での覇権争いが激化するかもしれない。イラソ首長国連邦中央政府、
つまり石油利権に恵まれず、その寄せ集めの食えない部族達の集まりに不満が噴出してい
た。早く利権を確保できないと中央政府自体がもたないだろう。責める矛先は決っている
ワンダ女建国が餌食になるのも時間の問題だ。
石の回廊の方から誰かが近づいてくる足音が響いてきた。僕はテレビのスイッチを切っ
て、昨日習ったばかりの奴隷の礼の形を作り女官をお待ちする。指の先を揃えて思いっき
り腕を前に伸ばし、額を床につけ身体も前に伸ばす。尻を持ち上げ、一応太腿は閉じて膝
を床に固定する。額を床につけているので見
える範囲は後方のみで前の方は全く見えない。女官の誰かが頭の前に立つ。僕は声の発せ
られるのを待った。
「お前のお蔭で、私は恥を被ったよ」
ラーネの怒ったような声だった。
ラーネが僕の横に回り込む。カラフルなサンダルを履いたラーネの足先が視界に入った。
その足先が後ろに引かれ、僕の横腹を蹴り上げた。その打撃で僕は横にひっくり返り、そ
のまま仰向けで寝転がった。素早くラーネが仰向けの僕の胸の上に乗る。ずっしりとした
重みが胸板を圧迫する。息もできないほどだ。
ラーネの足先が動き、僕のパニスを踏み躙り始めた。僕は胸の苦しさと金玉に加えられ
る圧迫に耐えかねて呻いた。
「馬鹿なお前が、早くこんな調教を諦められるように私のパンティーを口の奥に突っ込ん
で苦痛を増すのに協力してやったのに、何故お前は諦めなかった?
そのお蔭で私はスードラの様に、お前の面倒を見るよう学院長に命じられてしまったで
はないか!
お前が頑張っても専属奴隷になどなれるわけもないだろうに。こんな無駄な
専属奴隷の調教などさっさと諦めろ!
か私には解らない!!」
それがお前のためだ!
学院長は何を考えている
ラーネが怒りを投げ捨てるように言い放ち、足先で僕のパニスをさらに甚振っていた。
僕は呻き声を漏らして堪えるしかなかった。
アリーネ学院長が僕をどうしたいのだって。ラーネとどんな関係があるというのだろう。
僕には想像すらできなかった。
「こんな奴隷調教に、プライドの高いヤバーの男が耐えられる筈はないって学院長が言っ
ていたよ。だから私が協力して、早くお前が諦められるように、パンティーをお前の喉の
奥に押し込んで苦しめてあげたのに。口中の水分をパンティーに吸い取られ、お前は随分
と辛い思いをした筈だ。それなのに何故お前
は頑張って耐えようとする!」
怒りに任せてラーネが叫んでいた。僕のパニスはラーネの足先に踏み躙られ続けて性的
に反応しかかっていた。
「ラーネ様……」
胸の圧迫を何とか跳ね除けようと胸板に力を込めて堪えながら、やっと声を出したが、
小さな声しか出せなかった。
「何か言ったか?
奴隷は求められていないのに喋ってはならないのだ。奴隷としての身
分をわきまえろ」
ラーネが落ち着いたように声のトーンを落とした。
「僕は辞めようと思っていました。でも、喉がカラカラで声が出なかったのです。その後、
エリザベーラが泣いて僕を励ましてくれました。たったの3週間です。それなら、エリザ
ベーラのために僕は耐えようと思ったのです、ラーネ様」
身体の上にラーネを乗せたまま声を出すのは本当に辛かった。
「馬鹿だ!
お前は。これから行われる厳しい調教を3週間も堪え続けられるわけがない
だろう。普通の、それもプライドだけが高いヤバー人種のお前に、たったの3週間とは言
え堪えられる筈もない。途中でお前の身体はズタズタに壊されてしまうだろう。いや、精
神も崩壊するかもしれない。そうなったら廃
人だ。専属奴隷になるどころか、外国人政治顧問にもなれずに廃棄処分になるだろう。そ
んな解りきった事に、お前は挑戦しようとしているのだ。普通の男のお前には不可能だよ」
ラーネが何故か僕のことを心配するように言っていた。
本当にそうなのだろうか。今は堪えられたとしても過激な辛い調教にすぐに音を上げる
しまうのだろうか。
「どうしても無理なのでしょうか」
諦めきれずに僕は聞き返した。
「それに耐えられる方法は、たった一つしかない」
小さな声でラーネが呟いた。
僕は顔を上げてラーネを見た。ラーネの顔が天井から僕を見下ろしていた。
「それは何でしょう? ラーネ様」
声を発するのも辛かった。でも聞かなければならない。もし、そんな方法があるのなら、
それにすがりたい。
「それは専属奴隷になるなんて辞めること。または……」
ラーネが、そこで言葉を切って意味深に笑みを作っている。
「他に何か方法があるのでしょうか教えて下さい」
僕も必死だった。もう藁をも掴む思いだった。
「それは、マゾになることね」
ラーネが僕を見下ろしたまま、ポツリと言い放った。
「マゾになる」
オウム返しに僕は口に出して言った。
「もし、そうなってしまったら、エリザベーラ陛下は、お前を捨てるだろうね。マゾ奴隷
なんて人間じゃない。人間の尊厳をなくした奴隷なんて家畜以下の虫けら同然だ。そんな
お前を陛下が側に置いておく筈もないだろう。そうなってしまったら、お前は捨てられて
終わる。だから、お前に選べる道は専属奴隷になるなんて諦めることしか残されていない」
ラーネは吐き捨てるように言った。
僕はマゾッホの言葉を思い出した。
“俺達はマゾヒストなのさ。お前の言ったような、鞭を喰らい、蔑まれ、弄ばれ、自己主
張が一切許されない理不尽な行為に快楽を感じる性癖を持ってしまった身体なのさ。だか
ら、お前を羨ましく思っているのさ”
マゾッホの言葉がハッキリと蘇ってきた。確かに、そんな身体になってしまったら人間
として対等にエリザベーラと話することも接することも叶わなくなるだろう。そうなって
しまったらエリザベーラに軽蔑されるだろう。もう人間としての尊厳は一かけらもなくな
ってしまうのだ。そんな恥知らずな人間が地
球上に存在するなど考えたこともなかった。
では、やはり諦めるしか方法はないのだろうか。でも、エリザベーラなしでは生きて行
けない。愛するエリザベーラの側にいられるのなら、僕はマゾになっても良いじゃないか。
そうだ、マゾになってしまった事をエリザベーラに悟られなければ良いのだ。それしかエ
リザベーラと一緒にいる方法がないのなら仕方ない、僕はマゾッホの言ったようなマゾに
なって、この調教を堪えよう。
「ラーネ様、どうぞ僕をマゾにしてください」
胸を圧迫するラーネの重みを跳ね返して、やっと声を出した。
僕の目から涙が流れた。人間でいる事を諦めても、僕はエリザベーラと一緒にいたい。
エリザベーラから離されたまま生きてゆくことなど考えられなかった。
「そんなに陛下を愛しているのか。愛など私には経験もないから解らない。お前が陛下を
慕う心は忠誠心とは違うものだろうとは感じている。でも私にできる事は、頑張ってお前
を痛めつけてやるだけだ。マゾにはなりたくてなれるものではない。耐えられない苦痛と、
逃げ場のなくなった精神状態に追い込まれたら、人間の精神は崩壊して廃人になってしま
う。ところが人間の身体は良くしたもので、そんな状態に追い込まれると、脳内にβ-エン
ドルフィンという脳内麻薬が分泌される。それによって性的快楽を呼び覚まされる。そん
な事が何度となく繰り返されると人はマゾ化していくんだと学院長の論文に書いてあった。
お前がこの調教に堪えられなくなって諦めるか、それともマゾになって女王陛下に捨てら
れるか、それはお前次第だ。でも、お前がマゾになると決意したのなら、一生懸命お前を
虐めてやろう。もし、マゾになったことがばれて女王陛下に捨てられることになったなら、
そのときは私が拾ってやろう」
ラーネ様が僕の胸から降りた。
何だか僕を見下ろすラーネ様の目が悲しそうにも見えた。僕はラーネ様の優しさを熱く
感じていた。
「調教部屋に行くぞ」
ラーネ様が僕のパニスから垂れた短い鎖に、ラーネ様の長い鎖を繋いだ。朝日の射す長
い大理石の回廊を四つん這いになり曳かれて行った。
白亜の調教部屋に入ると、カラフルなアバヤを纏った女官達が集まっていた。僕はアリ
ーネさんの足元まで引っ張られて行った。彼女の足元で、僕は奴隷の礼をして控えた。
「今日から奴隷の人間椅子調教を始めます」
アリーネさんが僕の真上から声を掛けてきた。
「この王宮に椅子というものはありません。奴隷の一番重要な役目は王宮内におけるワン
ダ様の椅子になることです。専属奴隷は女王陛下の専属椅子になることが最も重要な役目
です。
特に女王陛下の椅子として仕えることは、他の奴隷椅子と比べ特に体力と持久性を求め
られます。長時間にわたる会議も度々あるでしょう。それに耐えられる体力、筋力が必要
になりますが、何よりも耐え抜く精神力がなければ長時間にわたり椅子を継続する事はで
きません。そして座り心地も問題です。背中
は水平に保ち続け、座り心地を良くするために多少、背中に脂肪を付ける必要もあります。
今日から人間椅子調教に入りますが最初の今日は 30 分間、椅子になりきって耐えること
の調教を行います。明日から 10 分ずつ時間を延ばしていきます。最大2時間以上、人間椅
子として耐えられるよう調教を行います。会議に出席する他のメンバー達の人間椅子には
交代がありますが、専属奴隷には交代はいません。だから頑張りなさい」
頭の前でアリーネさんが動き回りながら話していた。
僕に2時間にも及ぶ長い時間、人間椅子として耐えることができるのだろうか。大きな
不安が僕の胸を重く圧迫した。
「ラーネ!」
アリーネさんが、大きな声でラーネ様を呼んだ。
「はい、学院長」
「調教を始めなさい、その後で人間便器調教に入ります」
アリーネさんがラーネ様に指示していた。
「畏まりました、学院長」
人間便器調教? 何なんだ? さらなる不安が増した。人間便器というのは何なのだ?
僕はパニスから伸びる鎖をラーネ様に牽かれた。調教部屋の中央に、四つん這いで曳か
れていった。女官達がニヤニヤと僕を見つめている。
「さあ、両手をしっかりと床面に固定。四つん這いの姿勢を保つ」
ラーネ様の御命令が頭上から降ってきた。
僕は両手をまっすぐに伸ばし、しっかりと両肩を固定し顔を前に向けて上げた。美しい
女官たちの姿が目の前に揃っていた。僕は妖艶な彼女達に見入ってしまった。
「頭は下げたまま!」
ラーネ様の強い口調と同時に鞭が背を叩いた。
響く鞭音で緊張感が調教部屋に張り詰めた。
美女達の顔を拝んでいられないのが残念だったが、僕はすぐに頭を下げた。
「背筋は真っすぐに伸ばす!」
僕は背筋を意識的に真っすぐ伸ばした。
「ハーネ、来て」
ラーネ様が一番大柄な女官を呼ぶ。
「人間椅子調教は、やっぱりハーネよね。奴隷の背中に座って」
ハーネの近づく気配がして、僕の背中にずっしりと重みが加わった。僕の両腕はその重
みに耐える。かなりの重さだ。堪えられるだろうか。両腕がハーネの重さに悲鳴を上げた。
薄地のアバヤを通して、ハーネのお尻の冷たさが背中に感じられる。このまま 15 分も耐
えられるのだろうか。これは思った以上に体力を消耗する過酷な調教になりそうだ。
少し経過すると額から汗が沸いてきた。そして、10 分もすると全身から汗が噴出してく
る。その内に汗が床に垂れだした。両手、太股にも汗が流れた。両腕は痺れ、感覚がなく
なってくる。頭もボーッとし意識を保つのにも気力が必要だった。意識をなくしたら潰れ
てしまうだろう。こんな体たらくでは、エリザベーラの人間椅子としての役目を果たすこ
とは難しくなる。まして、会議の内容を分析して、エリザベーラに助言を与えるなんてで
きる話ではない。何としても頑張らなければならない。僕は気力を奮い立たせて、なんと
かこの調教に耐える努力をした。
30 分という時間はどれほどのものなのだろうか。与えられる苦痛によって時間は延長さ
れ、身体の全ての感覚が麻痺していく。無限の時間を僕は耐えているような感覚だった。
両腕が震えだした。
「動かないっ」
ハーネの声が飛ぶ。
鞭が尻を打つ。その鋭い刺激に僕は目覚める。
耐えるんだ、耐えるんだ。僕は自分を励ますしか耐える術がなかった。
突然、重さが消えた。僕は宙に浮き上がってしまうような錯覚に囚われた。一瞬、状況
が解らなくなった。
「あ∼あ、座っているのも疲れますわ」
ハーネの声で意識が現実に戻された。僕は 30 分間を耐え抜いたのだ。自分自身に感激し
た。
「ハーネ、アバヤのお尻のところがくっついて透けて見えるわよ」
アリーネさんが可笑しそうに指摘した。
「えぇ。お尻のところが熱かったので、多分汚い汗が付いていると思っていました。奴隷
に鞭打ちしてもよろしいでしょうか、学院長?」
ハーネが憎々しげに言った。
その言葉で汗まみれになっている僕自身の姿に恥入ってしまった。
「陛下には、無用な鞭打ちは禁じられていますが、これは調教のためですから仕方ないで
しょうね。跡が残らないよう手加減して鞭を与えなさい」
アリーネさんの言葉は、僕をわざと甚振るように言っているとしか思えなかった。こん
な精神的な責めが僕には一番耐えられないものだった。
鞭が僕の尻を殴打する。僕の口から自然に呻き声が漏れていた。僕は悔しさと理不尽さ
に涙するしかなかった。
「奴隷、顔を上げなさい!」
アリーネさんの強い命令が飛び、僕は反射的に顔を上げた。
「その涙はどうしたの。辛いのかい。恥かしいのかい。それとも悔しいのかな。
お前の目から流れたものは涙かい。
たった 30 分の人間椅子調教で涙を流しているようでは、
陛下に対しても恥かしいでしょう。しっかりしなさい。明日からは水分を控えめにするこ
とです。奴隷は他のところでも水分を摂れるのですからね」
アリーネさんは僕の顔の前に顔を寄せて、僕の醜い顔を見つめて言われた。妖艶な緑色
の瞳に見つめられ、僕のパニスは熱を帯びてくるのが感じられた。
アリーネさんが立ち上がった。
「ラーネ、連れて行きなさい」
「はい、学院長」
僕は四つん這いでラーネ様に牽かれて部屋の外へ連れ出された。パニスは半勃起状態だ
った。そんな恥ずかしいパニスを誰にも気づかれていないことを願った。
=人間便器調教=
僕はラーネ様に連れられ大理石の回廊を四つん這いで牽かれていた。僕の横にポーラが
ついていた。小さな薄暗い部屋の前を通りかかった。
「ラーネ様、すみません。ちょっと、ト・イ・レ」
ポーラは 18 歳。教官の中では一番若かった。
「ちょうどいいわ、奴隷も一緒に行きましょう」
ラーネ様が僕の鎖を小部屋の方に牽いた。ポーラに続きラーネ様と僕も、その小部屋に
踏み込んだ。少しだけ廊下より照明の落とされた小部屋には3人の奴隷が並んで膝を折っ
た姿勢で立っていた。この奴隷たちは、奴隷のくせに“奴隷の礼”をしてワンダ様を迎え
ようとしなかった。女官達が入って行くと
奴隷たちは顔を上に向けて大きく口を開いていた。
ポーラは真ん中の奴隷の前に立ち、アバヤをたくし上げ、さらに一歩、奴隷に近づくと、
奴隷の頭の上からスッポリとたくし上げたアバヤを被せてしまった。真ん中の奴隷はポー
ラの股間に吸い付いたまま、ポーラのアバヤの中に取り込まれた状態だった。
3分ほど身動きもせず、立ったままの状態でいただろうか。ポーラはすっきりしたよう
な顔付きになって、またアバヤをたくし上げ奴隷を外に出した。
「御聖水をありがとうございました、ポーラ様」
その奴隷が丁寧にお礼を述べた。
「お待たせ、ラーネ様」
ポーラがラーネ様のところに近寄ってくる。
「奴隷、察しが付くでしょ。これが人間便器です。宮殿には便器はありません。ワンダ様
達は排泄は人間便器を使っています。もちろん、女王陛下も人間便器を使います。専属奴
隷に不可欠な役割には、女王陛下の人間便器の役も当然担わなければなりません。人間椅
子と同様、人間便器も専属奴隷の不可欠な役目です。人間便器になれなければ専属奴隷は
勤まりません。
お前にできますか?
前に言った辛い調教とはこれも含まれています。でも契約書に記
されたとおり、お前が無理だと思うのなら、いつでも辞めることはできます」
ラーネ様が僕の表情を確かめるように見下ろしていた。
僕は思った。自分の奥さんの便器になるなんて、どうして、そんな破廉恥で屈辱的なこ
とができるだろうか。きっと小便を飲むだけでは済まないはずだ。僕がエリザベーラの大
便まで食べさせられる事になるのだろう。そんな卑しく屈辱的なことを、僕のプライドが
許すだろうか。そんな事まで強要されたら、僕は本当に壊れてしまうかもしれない。
「どうしたの?
やっぱり無理でしょ。お前のように育ちの高貴な奴に、そんな汚物まみ
れの屈辱に耐えられるはずもない。男としてのプライドだけでなく、人としての尊厳すら
なくしてしまうのだ。だから遅くはない。諦めて外国人政治顧問に就く方が良い。それで
も誰もお前を責めはしない。ヤパーの男だからと言っても所詮そんなものだろうと思われ
るだけだ。それにしたって当たり前の話だ。みんなすぐに忘れてしまうさ。陛下は少しは
ガッカリされるかもしれないが、それも陛下の御希望なのだから許してくれるだろう。
ああ、私も小便がしたくなってきた。今日は、どの人間便器を使おうかしら」
ラーネ様の目が僕から離れ、並んで立っている人間便器奴隷たちの方を向いた。
僕のペニスが熱くなってきていた。どうしたことだろう。僕にはプライドなんて、もう
欠片もなくなってしまったのだろうか。それどころか、この悲しい状況の中でパニスが反
応して持ち上がってきている。嗚呼、僕はどうしてしまったのだろう。
「ラーネ様、この奴隷をお使い下さいませ」
僕の口から、とんでもない言葉が発せられた。
「えぇ? 何だって? よく聞こえないんだけれど」
ラーネ様が聞き直した。
「ラーネ様、この奴隷をお使い下さいませ」
僕は声を大きくして言った。
自分の恥知らずさに身体中が熱くなってきた。
「お前……大丈夫なのかい? 訓練もなしで、いきなり飲むのは無茶だ。とても飲める代
物じゃないよ」
ラーネ様が心配そうに仰られる。
「面白そう!」
ポーラが横から、茶々を入れる。
僕は他の人間便器達と同じように膝を折り、顔を上に向けて大きく口を開けた。
「その覚悟があるのなら」
ラーネ様が僕の前に近寄ってきた。
僕の目の前でラーネ様がアバヤをたくし上げる。白い足先から太股まで、僕の目の前で
露になってゆく。僕の心臓はドキドキと早鐘のように鳴っていた。パニスが持ち上がって
くるのが意識できた。今日のラーネ様は青いパンティを履かれていた。あの日以来、黒の
パンティを履かれなくなっている。青いパンティを太股のところまで下げると、黒いふさ
ふさとした陰毛の繁みが目の前に迫ってきた。
パニスが鋲の拷問に悲鳴を上げ出した。アバヤが僕の頭の上から被せられ、僕はラーネ
様の体内に導かれたように、甘いラーネ様の香りに包まれていた。外の光が薄いカラフル
なアバヤの色彩を通して、幻想的なラーネ様の体内に取り込まれたような錯覚に捕われ、
性的な魅惑の中に没していた。
ラーネ様の手が僕の後頭部を押された。ラーネ様の女陰に僕の大きく開かれた口が、ぴ
ったりと密着する。興奮したパニスには、抓られるような苦痛が下半身を苛んでいた。
「出すよ……」
ラーネ様が静かに仰った。
僕は緊張しながら、さらにぴったりとラーネ様の女陰に密着させた口を大きく開いた。
鼻にあたる陰毛がくすぐったい。
熱くアンモニア臭の強い、嘔吐したくなるような液体が僕の口の中に注がれた。吐き出
すことなど意地でもできない。それが僕の、せめてものプライドだった。
口の中に小便が一杯になると一旦、ラーネ様が小便を止められた。僕は喉を大きく鳴ら
して一生懸命、小便を飲み込んだ。すると直ぐに次の尿が注がれる。口から溢れそうにな
ると小便は止められ、僕はその間に、また尿を飲み干すのだった。異質な飲み物に吐き気
が込み上げてきていた。その気持ち悪さを僕は腹の底で耐えた。物理的に感情を捨て、次々
に尿を飲み干していった。
どのくらいの時間飲み続けたのだろうか。小便が止まったとき、僕は放心状態になって
いた。
「舌と唇を使って、綺麗に吸い取りなさい」
ラーネ様の声が薄いアバヤ越しに聞こえた。
僕は舌の平、全体で陰毛を舐め回す。それから舌先を先を尖らせて女陰の襞の間を綺麗
に舐め取った。最後に再度、陰毛の中に舌を這わせて綺麗に舐め回した。屈辱的な怒りの
気持ちが僕の心を一杯にしていた。だが、それなのに、僕のパニスは大きくなったまま鋲
の拷問に呻いていた。
僕はどうしてしまったのだろうか。ただ、これはとても恥知らずな事だと自覚していた。
パニスを大きく膨らませていることなど誰にも悟られてはならない。その思いだけでパニ
スに加えられている地獄の苦痛に耐えていた。
ラーネ様のアバヤがたくし上げられた。僕はとっさに片手を伸ばして勃起しているパニ
スを太股の間に挟み隠した。一歩下がり、奴隷の礼をとって床に頭を擦り付ける。膝立ち
のままでは、股間を見つめられてしまったら、ばれてしまって勃起した恥ずかしいパニス
をみられてしまうだろう。奴隷の礼でうまく
ごまかせた。
「零してはいないね?」
ラーネ様が僕の頭の上で言われる。
「はい、粗相はしておりません」
僕は床に向かって大きな声で答えた。とても恥かしかった。
「お礼の言葉は!」
ラーネ様がきつく言われた。鞭が背中を打った。
「ラーネ様、御聖水を賜り、ありがとうございました」
僕の胸の中は理不尽な悲しい思いで一杯になっていた。
「だい」
ラーネ様が突然言われた。
僕には言葉の意味するところが解らず、動けなかった。鞭が背中を打った。
「グズグズしないで、すぐに膝立ちする」
ポーラの声だった。
あわてて膝立ちした。パニスはしっかり股の間に挟み込んである。大丈夫だ。
「顔を上に向ける」
ポーラが続けて言う。
僕は顔を上に向けた。ラーネ様が真ん前に近づいてきた。僕を見下ろす美しい顔に意地
悪な微笑が浮かんでいる。僕のキョトンとした表情を確かめると、ラーネ様は僕に背を向
けた。アバヤに包まれたお尻が目の前にきていた。ラーネ様がカラフルなアバヤをたくし
上げる。僕の目の前にラーネ様の青いパンテ
ィに包まれた、小ぶりの双球が現れた。
「奴隷、ラーネ様のパンティを膝まで下ろしなさい」
ポーラの声が背中の方で指図していた。
言われるまま、ラーネ様の青いパンティに両手を伸ばし、パンティの上部の生地を摘ん
だ。そのまま太股から膝までパンティをゆっくりと降ろした。女の妖艶で香しい匂いが僕
の鼻先をついた。それよりもピンクの美しい双球が目の前で僕を圧倒していた。
「ラーネ様の、お尻の割れ目に顔を入れなさい」
ポーラの声が急き立てる。
もったいないような美しさのラーネ様のお尻の膨らみに、両手を添えて押し開き、菊門
が露になった割れ目に僕は顔を押し付けた。
「口を大きく開けて、ラーネ様の肛門に吸い付く」
ポーラの声は有無を言わせなかった。
僕は双球の柔らかい肉の間にさらに顔を割り込ませた。そして菊座に口を持って行った。
舌先で菊座を舐めた。少しピリッとした刺激的な味が感じられた。
ラーネ様に頭を小突かれた。
「舌を引っ込めなさい」
ラーネ様の怒ったような強い声だった。
僕は舌を口の中に引っ込めた。
「便が顔を出したら、吸いはじめなさい」
ラーネ様が指示した。
「出すわよ」
ラーネ様も緊張しているようだった。
僕は先ほどよりも緊張して待った。熱く苦い塊を唇が感じとった。僕は一生懸命、その
塊を吸い出した。ピンポン玉大の塊が、僕の口の中にスッポリとちょうど納まった。ラー
ネ様のお尻が僕の顔から離れた。ポーラの手が僕の顔に近づき、僕の口を粘着テープで塞
いだ。僕は口の中の異物をどうすることもできずに留めておくしかなかった。異物感と嫌
悪感で胸がむかついてきた。嘔吐感が込み上げてくる。胃の奥の苦い内容物が逆流して口
の中一杯に戻ってきた。しかし、口は閉じられている。逃げ場を求めて胃液と便が混じっ
た異様な液体が鼻から漏れ出した。さらに涙となって溢れ出る。僕の顔は惨めにも、目鼻
から苦い胃液と便を垂れ流していた。
ラーネ様とポーラの大きな笑い声が響く。
「惨めな汚い顔ね∼」
ポーラが僕の顔に顔を寄せて言う。
「うぅ、臭い。良いかい全部、お腹に納めるのよ」
ラーネ様が言われた。
二人は薄暗い小部屋から出て行ってしまった。
目に回り込んだ便で風景までが黄ばんで見えていた。落ち込んだ気持ちで、一生懸命そ
の汚物をお腹に送ろうと、喉の奥の方へ飲み込もうとしたが汚物は意地でも喉を通ろうと
はしなかった。僕は目を剥くしかなかった。
「初めてでは辛かろう」
突然に背後から男の声がした。
僕は、どうにもならない思いで、救いを求めて後ろを振り向いた。人間便器奴隷3人が
並んで膝立していた。目の中にも黄色い汚物が入り込み、目が沁みるとともに人間便器奴
隷達も黄色くかすんで見えていた。汚物まみれとは、まさにこのことだろう。
「慣れれば、黄金は至福の食べ物になるさ。最初は辛かろう。なに、マゾなら大丈夫さ。
最初だけさ、辛いのは。すぐに珠玉の食べ物に取って代わる」
僕の一番近くにいる人間便器が言った。
「今が一番辛い時だろう。エリザベーラ女王様の専属奴隷なら大丈夫だ。すぐに乗り越え
られる。頑張ることだ」
真ん中の人間便器が言った。
「我々はトイレ専用の人間便器だから、動くこともできないが、お前なら女王様と一緒に
動き回れる。これから色々な楽しみもあるだろう。大丈夫、うまくやれるさ」
一番左の人間便器が言う。
僕は初めて気が付いた。人間便器達には太股から下がなかった。その太股は少し高くな
った台に固定されている。完全な便器に造り替えられているのだ。専用人間便器の意味が、
いま初めて解った。マゾ化するとこんな辛いことにも耐えられるようになるのだろうか。
僕は驚くと同時に、マゾの悲しみも痛感し
た。
それで満足なのか。人としての尊厳を踏みにじられても、耐えて生きて行けるものなの
か。人として生きる意味とはなんなのか。マゾとして生きて行く意味はなんなのか、をど
うしても聞いてみたかった。マゾに堕ちかかっている自分が不安でならなかった。本当に
マゾになってしまったら……。そう思うと恐ろしくて不安で心が一杯になっていた。
ようやく口の中の汚物は喉を通り、ゆっくりと流れて胃に納まっていった。僕は、その
まま待つだけだった。
「ポーラ様は昨日、ビールをたっぷりと飲まれたようだ」
「それは美味しかったろう。俺もポーラ様に選ばれたかったさ」
「久し振りのビールの味だった。ビール味の御聖水が儂は一番好きじゃ」
「じゃ、ルーラ様もハーネ様も期待できるな」
「昨日は戴冠式のパーティーだったのだ」
「今日は美味しい黄金を頂けそうだな」
「パーティーでは、どんな話題で盛り上がったのだろう。きっと、ここでトイレをされる
ときに聞けるだろうな」
「今度のエリザベーラ女王様には、大いに期待しておるのじゃ」
「そうだ。この国が戦争で負けてしまったりしたら、大変なことになる」
「我々人間便器なんか、この姿のまま世間に晒されてしまうだろうさ」
「USEの国には、妻も子供も残しているんだ。こんな恥ずかしい姿で行方不明になって
いた父親が現れたら、子供はビックリするだろう。それどころかとんでもない迷惑をかけ
てしまう」
「妻も子も、この恥知らずな父に、さらに幻滅するじゃろうな。儂らももうどこでも生き
ていけなくなる」
「そういえば、この間ここで重要人物殺害の陰謀の話をしていたワンダ様がいらした。誰
か要人を殺害するために、スナイパーを2人雇ったと言っていたな」
「ほう。誰を殺害する陰謀なのだ」
「それは解らないが、最高指導者の殺害だと言っていた」
「それは大変なことじゃ」
「誰かにこの事をお話しなければ」
「我々便器の話など誰が聞いてくれるというのじゃ」
「便器がそんな告げ口をしては、便器の役目を全うできない」
「では、どうしたら良いんだ。女建国の崩壊するのを便を食べながら見守るしかないのか、
糞っ!」
「そうだ、女王陛下の奴隷君。今は口を閉じられていて喋れないだろうから、聞くだけで
良い。ワンダ女建国は今、崩壊するかどうかの瀬戸際にある。この国を疎ましく思い、抹
殺しようとする勢力は、女王家一族を壊滅的なまでに殺戮してきた。残された継承者は、
エリザベーラ女王様と、セルベリーナ様、そ
れに法皇様だけなのだ。この3人のうちの誰が殺されたとしても、この国の存亡は危うく
なる。それを見越して、次の暗殺計画が進行しているのだろう。このトイレでは、色々な
秘密をワンダ様方が立ち話されている。我々は便器でしかないから、安心して相談事や情
報交換もしているのだよ。我々が聞いた情報をどこかに提供するということはない。だか
ら、ワンダ様たちも安心してここで会話しているのだ。今は君にしかこの重要な情報を託
すしかない。今話した次の殺害計画を女王様に伝えて、暗殺計画を阻止して貰いたい」
「そうだ。君になら託せる。ワンダ女建国が崩壊してしまったら、我々の理想も消えてし
まう。それだけはさせてはならない。隼人さん、君だけが頼りだ」
「予言の書に、君の出現が書いてあったという。きっと君が、この国の救世主となるに違
いない」
「頼む、隼人さん。この情報の真偽を探って、この国のさらなる危機から救ってほしい!」
「隼人さんは、我々の仲間だ」
「頼むよ、隼人さん」
僕はエリザベーラの役に立てる道が示されたようで希望が持てた。それに奴隷仲間に受
け入れて貰えたことが嬉しくて、何度も頷いた。同じ奴隷仲間として受け入れてもらえた
ことが一番嬉しかった。
その後も喋れない僕は、人間便器奴隷たちのお喋りを聞いていた。ワンダ様たちの家柄、
性格や素行まで聞く事ができた。でも、人間便器奴隷たちの口から、ワンダ様たちを揶揄
したり中傷するような言葉は一つも聞かれなかった。ワンダ様たちを一生懸命敬い、ワン
ダ様たちのお役に立てることに誇りすら感
じている様子がうかがわれた。ワンダ様に仕える事が彼らの最大の喜びなのだ。
エリザベーラのためになら僕は尽くせるだろう。でもすべての女性、ここではワンダ様
に対しての忠誠が誓えるかどうかは解らなかった。ラーネ様やアリーネさんになら誓える
かもしれない。
暗殺の情報も、それ以上聞けなかった。また、ここの人間便器たちもそれ以上は知らな
いようだった。
あれから2時間も放置されていただろうか。回廊に足音が聞こえてきた。人間便器奴隷
たちはお喋りをやめ、上を向いて一斉に大口を開けて待機した。僕も奴隷の礼をして待っ
た。
頭を下げると鼻の奥に残っている便が降りてきて、また苦く酢っぱさを感じていた。
「顔を上げなさい」
ラーネ様の声だった。
僕は顔を上げラーネ様を見上げた。
「汚い顔ね、どろどろじゃない。途中で吐かれたりしたら大変だから絆創膏は地下に降り
てから剥がしなさい。
さあ、帰るよ、奴隷」
ラーネ様は長い鎖を僕のパニスから垂れる短い鎖に繋いだ。
「頑張れよ」
人間便器の誰かが一言、僕の背中に声を掛けてくれた。
僕は嬉しかった。
=炎天下の肉便器調教=
地下には誰もいなかった。僕は汚い顔、体を地下水路で洗い、ホールに戻った。テレビ
でニュースを見ながら食事を取った。
イラソ首長国連邦内は、内紛に揺れていた。ワンダ女建国は強力な軍隊を国境に展開し
て、どの部族国家をも寄せ付けない構えだった。それどころか他の部族国家に進行する構
えすら見せ非常に危険な兆候だった。どうすれば良いのだろうか、僕は考えていた。やが
て疲れには勝てずに眠ってしまった。
翌日は同じ調教の繰り返しだった。僕は人間椅子調教に 40 分耐えていた。誰かが調教部
屋に入ってきた。
「陛下、いらっしゃいませ」
アリーネさんが言った。嗚呼、エリザベーラが来てくれた。僕はほっとしたが、僕の背
にはポーラの巨体が乗ったままだった。
「ポーラ、立ちなさい」
アリーネさんが命じる。
「陛下、どうぞ奴隷の座り心地を、お試し下さい」
アリーネさんがエリザベーラに進めている。 僕は四つん這いのままドキドキしていた。
妻に、エリザベーラに人間椅子として扱われてしまう。そんな状況で何故か股間に熱いも
のが走っていた。
「そうね、じゃあちょっとだけ」
エリザベーラが何気なく言った。
嗚呼、僕は妻の椅子になるために調教を受けているのだ。その妻に、今人間椅子として
初めて座って頂ける。何故かペニスが大きくなり始めた。パニスが痛い!
エリザベーラが僕に近づく。エリザベーラのお尻が僕の背に触れる。重みが少しづつ背
を圧する。僕は両腕に力を入れた。エリザベーラが強く重みを掛ける。1度、2度。僕は
頑張って耐えた。
「しっかりしていて、気持ち良いわ」
エリザベーラが褒めてくれた。エリザベーラの手が僕のパニスを掴む。金属管の中でパ
ニスは悶えていた。痛みが僕を苦しめる。更に、エリザベーラがパニスを摩った。抓られ
るような鋭い激痛がパニスから伝わってきた。嗚呼、口を固く閉じ僕は痛みに耐えるしか
なかった。
「どうして勃起しているの、隼人さん」
小さな声でエリザベーラが僕に囁く。
「痛いんだ」僕も小さな声で答えた。
「フフ、可愛そう隼人さん」
エリザベーラの声が弾んでいるようだった。エリザベーラが立ち上がった。背中の重み
が嘘のように軽くなる。
「陛下、肉便器調教も行っています。ぜひ、陛下のご聖水を奴隷にお与え下さい」
アリーネさんが追い討ちを掛けるように言った。
僕は頭の中が白くなる。妻の小水を飲まされる。妻の肉便器となる。そんな理不尽な事
が、今の僕に耐えられるだろうか。
「今は出そうにないので、また後にするわ」 エリザベーラがさり気なく言った。
僕の緊張は最高潮に達していた。その言葉で身体から力が抜けてゆく。
「では、後ほど陛下には、ご協力下さい」
アリーネさんが残念そうに言う。
「何時でも協力します」
エリザベーラが約束していた。
「承知いたしました、その時はお願い致します、陛下」
アリーネさんが恭しく言う。
僕は顔が赤くなるのを感じていた。僕の羞恥心を二人の女性によって弄ばれている様だ
った。
エリザベーラが静かに出て行った。
「奴隷おいで」
ラーネ様が呼んでいたので、そちらに四つん這いで移動した。ラーネ様の側に寄り、僕
はラーネ様の鎖に引かれ回廊に出た。調教部屋を出るとホールと反対方向に曳かれていっ
た。中庭が見えてきた。強烈な日差しが瞼を重くする。直射日光に晒された中庭は如何に
も暑そうだった。
「40 度を超えているわね。直射日光は 60 度近いよ」
ラーネ様が掌を目の上に翳して僕に言われた。
中庭を横切る廊下があった。しかし天井は無い。ラーネ様に曳かれて、僕は炎天下の廊
下を四つん這いで歩いていた。向こうの建物まで 100 メートルはありそうだった。30 メー
トルも歩くと、周りの緑は無くなり、白い砂が中庭の真ん中を占めていた。廊下の丁度、
真ん中あたりの横に外れたところに大きな砂の穴が掘られていた。まだ掘ったばかりのよ
うだ。砂の底は、黒い砂地だった。穴の大きさは、丁度、僕一人分入れるほどの大きさだ
った。
「奴隷、その穴に入って上向きに寝なさい」 ラーネ様が僕にご命令された。
想像したとおりに事が運んでいた。僕は砂地に降り、掘られた穴の底に身体を仰向けに
横たえた。頭の方が高かったので頭を上にして寝ている感じだった。すると、どこからか
スードラ達数人が表れ、僕の身体の上に砂を被せて行った。その、スードラの中にマゾッ
ホもそこにいた。
短時間で僕は首から上だけを残し全身を砂の中に埋められてしまった。埋められた身体
を包む砂は熱かった。身体から汗が湧き出てゆく。両肩の上に大きな直方体の石が置れた。
僕の目線よりも高かった。頭を砂に着けると顎は漸く石の上にまで出る。
しかし、こんなに汗が大量に出ると僕は直にミイラと化してしまうだろう。そんな恐怖
心が沸いてきて、僕はパニックに堕ちそうになっていた。
「可愛そうに、早く水分を補給しないと、ミイラになっちゃうね」
僕の惨めな姿を見下ろされてラーネ様が可笑しそうに笑った。マゾッホが 1 枚の立て札
を、僕から 1 メートルほど離れたところに立てていた。
〔公衆便所〕と書かれていた。
「今日の肉便器調教は、ここで王宮のワンダ様たちのご聖水と黄金を頂く事になる。熱い
砂の中にいるので、直ぐに脱水症状になるだろう。お前は一生懸命、ここから叫び、ご聖
水を頂ける様にワンダ様方に一生懸命に訴え掛けなければならない。そうしないと、お前
は死ぬ」
ラーネ様の恐ろしい説明が続いた。
「誠意を持って、お願いしないと、誰もご聖水も黄金も奴隷には与えようとしないだろう。
さあ、お願いしてご覧」
ラーネ様が、両肩に置かれた石の上に両足を開かれて、僕の真上に立たれていた。今日
のラーネ様のパンティーの色はピンクだった。でも、そんなところで楽しんでいる余裕は
無かった。汗が急激に体内から失われて行っていた。僕の恐怖心が増していた。
「ラーネ様、どうぞご聖水をお与え下さい」 僕は惨めにも大きな声でラーネ様に訴えた。
「そんな誠意の無い言葉では、聖水は与えられません」
ラーネ様がきつく言った。
「お願いでございます、ラーネ様、この哀れな奴隷に、ご聖水を御恵み下さいませ」
僕は涙ながらに、ラーネ様に訴えた。
「よし、口を開けろ」
ラーネ様の優しい声が頭の上から聞こえてくる。僕は大きく口を開け、上を向いた。ラ
ーネ様がピンクのパンティーを下げ、しゃがまれた。黒い柔らかな陰毛が僕の鼻の上に迫
った。でも 20 センチ以上も口からは離れている。ラーネ様の指先が黒い陰毛を分け女陰を
開く。さわやかな水飛沫となって、ご聖水が突然に僕の顔面を襲う。大きく開いた口を、
ご聖水の本流に持ってゆく。僕は喉を鳴らして飲んでいた。40 度の大気温の中でラーネ様
のご聖水は、なんと爽やかなのだろうか。それに、アバヤの下は、とても涼しかった。ア
バヤの繊維は灼熱の砂漠仕様の新素材なのだろう。
(エリザベーラ)
書記官のファミーレが、地図を指差し熱弁している。
「わが軍は、いつでも進行できる体制にあります。将軍たちも進行を望んでいます。陛下
のご決断を皆が待ち望んでいます」
「待ちなさい、今は防衛に重点を置きなさい。執り合えず半月ほどは動いてはいけません」
ファミーレに私は指示した。
「わかりました。陛下も我慢強くなりました。少女時代のままでしたら、強行軍も辞さな
かったと思います」
フェミーレが感慨深げに私を見た。
「後半月すれば、隼人さんがサーバン・エリート・アカデミーを出てきます。そしたら良
い判断を私に授けてくれます」
フェミーレの方を向いて私は言った。
「あの、日本で結婚した専属奴隷ですか」
フェミーレが言う。奴隷の隼人さんを軽蔑しているような言い方だった。
突然にアリーネが入って来た。
「陛下、お邪魔してよろしいでしょうか」
アリーネが聞いてきた。
「学院長、何なの」
私は高飛車にアリーネに言った。
「専属奴隷の件で」
上目遣いにアリーネが私を見る。
「隼人さんの?なに?学院長」
私は語気を弱くした。
「ちょっと、よろしいでしょうか」
アリーネが、私の視線を確認すると後ろを向き歩きだした。私はアリーネについて続い
た。長い回廊を中庭の方にアリーネが辿って行く。
どこかから、くぐもったような低い声が私の耳に聞こえてくる。隼人さんの声かしら?
私は中庭を見渡した。一枚の看板が目に入る。
〔公衆便所〕の文字が読み取れた。
「誰が、こんなところに公衆便所を作ったのです」
私は遠方の小さなポールの看板を指差した。
「おねが・・ござ・ま・ひから・て・ま・ます・・ごせ・・・・」
良く聞こえないが隼人さんは何を訴えていた。それも大声で、で、
どこにいるの?私は中庭に目を凝らした。
「アリーネ、隼人さんはどこにいるの?」
堪り兼ねて、アリーネに向かって私は強く問い正した。
アリーネは公衆便所と書かれた看板を指差す。
その指先を私が見る。隼人さんが心配だった。中庭へ出て私は走り出した。芝の上を走
りぬけ、足元を取られる砂地を必死で走った。看板の下に大きな石が 2 個、平行に並べて
置いてあった。隼人さんはどこにいるの?
「お願いでございます。奴隷にご聖水を、お恵み下さいませ。このままでは干からびて死
んでしまいます。ご聖水を、哀れな奴隷にお与え下さいませ」
隼人さんの声が必死に訴えていた。
「隼人さん、いるの?」
私も大きな声で呼び掛けた。
「嗚呼、エリザベーラ女王様、どちらにいらっしゃるのでしょうか?」
石の影で隼人さんが見えない。私は石の上に立った。石と石の間に隼人さんの首がポツ
リと生えていた。
「隼人さん、どうしたの?」
私には理解が出来なかった。
隼人さんが上を仰ぎ見ている。可愛そうに虚ろな目をしていた。
「アリーネ、これは何なの?!」
私は強くアリーネに向かって言った。
「陛下、肉便器調教の一貫です。この調教を通して、排便物に対しての嫌悪感が取り除か
れます。また、ワンダ様に対する敬慕心も育つことになります」
アリーネが恭しく私に説法するかのように言う。
「嗚呼、エリザベーラ女王様、この哀れな奴隷に、ご聖水を賜りますようにお願いいたし
ます」
隼人さんが悲しそうに言っていた。
なんて可哀相な隼人さんなの、妻の私に謙って、小水を、おねだりするなんて。早く隼
人さんをアリーネの管理下から引き取らなければ。
「エリザベーラ女王様、ご聖水をお願いいたします。奴隷は干からびてミイラになってし
まいます。どうぞ早く、ご聖水を」
隼人さんの目は必死だった。
隼人さんが、私の小便を飲む?そんなことをして良いのかしら?
「陛下、奴隷に命の水を、お与え下さい。早くしないと脱水症状で気絶してしまいます」
アリーネが急かせるように私に言っていた。
私は両方の石の上に足を広げて置き、隼人さんの首を跨いだ。パンティーを下ろし、屈
み込んで女陰が隼人さんの口の近くに来るまで寄せた。少し下半身を力ませて小水を隼人
さんの口へ注いだ。隼人さんが喉を鳴らして飲んでいた。
私の身体に熱い性的な高まりが起きてきた。小水が一生懸命に私の小水を飲んでいた。
小水を出し終わったところで、隼人さんの頭を股の間に押し付けた。
「綺麗にして」
私は隼人さんに言ってしまった。
隼人さんの舌が、私の女陰を舐めている。ぺろぺろと。
「もっと舐めて」
私は何時も奴隷に後始末をさせるように、隼人さんにも言った。
隼人さんの舌先が気持ち良かった。数日前まで毎日のように隼人さんに舐めてもらって
いた女陰だ。でも、小水の後始末に舐めさせた事は無かった。隼人さんに対して申し訳な
さが募っていた。でも、そんな意識とは裏腹に私は上り詰めて逝った。
「嗚呼、隼人さん・・」
私の口から溜息も漏れていた。
「陛下!」
アリーネの声が上からした。
私は振り仰いだ。アリーネの私が顔を見下ろしている。私は慌てて立ち上がった。
「エリザベーラ女王様、命のご聖水をありがとうございました。
」
隼人さんが悲しげに私を見上げていた。
「学院長、奴隷のために、貴女も小水を上げなさい」
私は、そんなことはして欲しくなかったが、アリーネに頼んだ。
「畏まりました」
アリーネが微笑んで答えた。
私は石の上から廊下に移り、アリーネに場所を譲った。アリーネが石の上に立ち隼人さ
んの顔の上に屈んだ。少しして、アリーネが立ち上がる。
「アリーネ様、命のご聖水をありがとうございました」
隼人さんがお礼を述べている。なんて卑屈なことを。
「学院長、これでは公衆便所っぽくありません。奴隷の上に目立つように大きな傘を立て
なさい」
私はアリーネに指示した。
私は興奮しているようだ。その事をアリーネに悟られてはならない。踵を返して、この
場を立ち去った。これで、隼人さんは日焼けしないだろう。日焼けした隼人さんなんて、
醜いわ。
執務室に戻るとフェミーレが、待っていた。
「陛下、どうなされましたか」
フェミーレが聞いてきた。
「フェミーレ、王宮の女官たちに伝えなさい。中庭の公衆便所で奴隷の調教が行われてい
ます。協力するよう」
私は高まる気持ちを抑えて、極力、事務的に言った。
複雑な気持ちだった。私の独占欲に反するものだった。
「フェミーレ、飲み水を多めに用意して。それから、貴女も公衆便所調教に協力しなさい」
私はフェミーレを追い立てた。フェミーレが慌てて執務室を出て行った。
私のディスプレイに、決裁文書の一覧が映し出されていた。混乱した思考を抑えるため
に、それを目で追った。
“今月の石油利権にかかる納入金額表”
“死刑執行を免除する嘆願書、その内訳”そのファ
イルを開いた。
“肉便器への減刑(両手足パニス切断)テロリスト 3 名。同(両手足のみ切
断)5 名。実験動物への減刑 5 名。リンチ奴隷への減刑 10 名。
”
その下の理由のファイルを開く。
”消耗による供給”
私はサインの印しに指を触れた。
“入国希望サーバントリストと入国許可”
中身を見ないでサインに触れる。
“国外養育許可”ファイルを開いた。
“サーラ・アグラフ・ワンダ出産、生後3ヶ月雄。シ
ーラ・フォメニ・ワンダ出産、生後2ヶ月雄。メーク・サラエボ・ワンダ出産2歳雄” そ
の後 10 人ほどの名前が綴られていた。それもサインした。死刑執行を免除する嘆願書が気
になった。理由のファイルを開き、供給の文字に指を触れる。
“マゾ化処置施設にて、3 ヶ月の調教後、専門奴隷への改造処置等を行い供給される”
マゾ化処置施設のファイルを開く。
“専用奴隷への改造処置を行う前段階として、マゾへ導く調教を行う施設。
”
“2061年設立・現在第7代施設長以下 20 名のスタッフにて運営”
施設長のファイルを開く。初代施設長から6代目施設長の名前が並ぶ。最後の6代目の
名前を読んだ。
”アリーネ・マホメッド・ワンダ(2083―2085)
“
私は驚いて、アリーネのファイルを開いた。
“現女王陛下御学友、2082 年、人間のマゾ化
に関する研究でドクター取得。2083 年からマゾ化処置施設長就任、2085 年、王室サーバン・
エリート・アカデミー学院長就任”
マゾ化に関する研究のファイルを開く。
“人間をマゾに導くための手法を研究したもので、その特徴は、今までマゾ化に要した期
間を大幅に短縮し、3 ヶ月の集約的調教により、完全なマゾ化への処置が完成する。それに
より、マゾ化された人間の積極的な意志のもと専用奴隷への肉体改造が可能となる。それ
により、非常に質の高い専用奴隷を供給することが出来るようになる”
私は心のどこかでホッとしていた。隼人さんの調教を3週間に値切ったのは正解だった
と。そして、そのファイルを閉じた。
そう言えば、思い出した。母の前女王は、時々悪戯していた。決裁の内容を幾つか変更
する。理由なんか無い、女王の権限だと言っ
ていた。それによって女王の威厳と絶対性が示されるのだと。
今日はいい、そんな余裕は無い。私は水を一気に500cc飲み干した。隼人さんのと
ころに早く行って上げなければ。
私は、決裁ファイルの閲覧に戻った。100 件以上ものファイルを一つ一つ見て、決裁する。
時間がわからなくなった。女官の高い笑い声で顔を上げた。近くで、若い女官が笑ってい
た。
「どうしたの?」私は聞いた。
「公衆便所で奴隷が・」そこまで言うと、その女官は笑い、次の言葉が出せないらしい。
「陛下、ご覧になれば解ります」若い女官が踵を返すと、執務室を出て行った。
私は仕方なく、その女官の後を追った。
中庭の眩しい光の中に、カラフルなパラソルが立ててある。その下に「公衆便所」と書
かれた看板を刺したポール。パラソルの下に,幾人かの女官がざわめいていた。それは笑
い声だった。
たった 50 メートルが、もどかしい。やっと女官たちの後ろに辿り着いた。糞尿の異臭が、
物凄かった。
「どいて」私は言った。
近くの女官が私を見る。
「陛下!」黒のアバヤを着た高官が驚いた声を出した。
カラフルな色合いのアバヤを身につけた女官たちも振り返った。
「陛下、奴隷が、余りにも可笑しな事になっているので、皆で笑っていたのです。ご覧下
さい陛下」高官が言い、身体を退けた。
そこには、余りにも惨めな隼人さんの頭があった。黄色い便が額に乗っかっている。そ
こから垂れた黄色い便の雫が目から鼻、口へ
と流れてゆく。余りの可笑しさに、私まで少し声を出して笑ってしまった。隼人さんが薄
目で、こちらを見ている。私は慌てた。
「誰か、何とかしてあげて」私は言った。どうすれば良いのだろう?
若い女官が石の上に立った。そしてしゃがむ。隼人さんの頭が、カラフルな色のアバヤ
の中に消える。小水が隼人さんの顔や頭に撥ね返っている音がする。少しして、その女官
が立ち上がる。額の上に載った大きな便は、だいぶ縮小していた。
「では、次は私が」黒いアバヤの高官が隼人さんの頭の上に立つ。
ゆっくりとしゃがむと、小水の噴出す音が聞こえる。隼人さんは、どんなにか苦しいだ
ろう。そう私は思ってしまう。高官が立ち上がり、石の上からどいた。かなり便は落ちて
いた。でもまだ黄色い部分が残っている。私が石に移ろうとした。
「陛下、お楽しみ頂けたでしょうか?」
振り返ると、アリーネだった。
「本日の調教は、これで終わります」優しげなアリーネの声だった。
「ええ、笑えたわ」私は答えた。こんな答えしか言えない。
「ワンダの皆様のご協力で、奴隷も脱水症状にならずに済みました。陛下のお陰です。奴
隷にはよく言っておきます、陛下への忠誠を誓うように」アリーネが言った。
「マゾ化には 3 ヶ月かかるんですって、隼人さんはどうかしら?」
私はアリーネに問いかけた。
「あの論文は 3 年も前に書いたものです、現実的には 3 日もあればマゾ化の兆候は現れま
す」アリーネが空を仰ぐ。
すでに日は低いところにあった。夕焼けが始まっていた。
「隼人さんはどうかしら?」私は心配で尋ねた。何が心配なのかは解らない。
「まだ、3 日目です。この奴隷は根性があります。さすが日本男児です、調教のし甲斐があ
ります。マゾ化は難しいと思います」アリーネが優しい声で言う。
「そう、
」私は安心したのだろうか?
赤い帳が中庭にも落ちてきた。スードラ達が、隼人さんを掘り起こす砂を掻く音が聞こ
えて来た。
「少女時代を思い出しませんか陛下」アリーネの目が遠くを見ている。
「エエ、ジェームズ先生と遊んだときね。思い出したわ」
私も少女時代に戻っていた。
「また、陛下と遊べる日が来るのでしょうか?」
アリーネ。
「エエ、また遊びましょう、アリーネ、あのときのように」
私は、本心そう思った。
「はい光栄です。でも、あれから少ししてジェームズ先生が消えてしまいました。きっと
逃げてしまったのでしょう。私は彼の母国に
も問い合わせてみたのですが、消息は知れませんでした」
アリーネが寂し気に言った。
「アリーネは、ジェームズ先生に恋していたものね」
アリーネの甘い思い出を突きたかった。
「そんなことはありません陛下」
普通にアリーネが言う。だが心は動揺しているはずだ。
「私は、執務室に帰ります。隼人さんをお願いね、アリーネ」
私はアリーネと別れ、執務室に入った。
隼人さんに小水を上げれなかったので、尿意を感じていた。執務室の、大きな柱の影に
行った。そこには布を被せた 1 メートルほど
の高さの突き出た物が置いてある。私は、その被せられた布を剥いだ。白人の肉便器が驚
いた顔をしていた。
「ジェームズ先生、まだ生きていたの!」
私も驚いた。4 年前まで私の専用肉便器として使っていたが、日本に留学して、その後どう
なってしまったのか調査させていた。
「ウゥ」
ジェームズ先生が呻く。声帯を潰してあるので喋れないのだ。
「私が戻ってきて、嬉しいか」
私はジェームズ先生の金髪の髪を撫でた。
「小」
と私は言った。
アバヤを引き上げ、そのまま私の股の下に引き寄せ、アバヤの中に入れた。大きく開け
たジェームズ先生の口の中へ、少しずつ小水
を放尿した。ジェームズ先生が舌を這わせ後片付けをする。アバヤからジェームズ先生を
出し、ジェームズ先生の股間部分の低い台に乗せられ晒されているペニスを素足で踏んだ
私の小水を飲み反応して大きくなったペニスを踏みつける感触がなんとも言えない快感だ
った。ジェームズが先生が呻いている。白人にしては勃起したときの硬さは東洋人並だ。
なんとも言えない踏み心地だわ。
「先生に、嬉しい話しがあるわ。もう少しすると私の専属奴隷が来るの。先生は、もう要
らなくなるから、アリーネに廻して上げるわ」
何気なく私は伝えた。
肉便器のジェームズ先生が首を横に振り、呻く。
「いやだと言うの?先生とアリーネは恋人同士じゃなかった?もと恋人の肉便器になれる
なんて素敵じゃない」
私は冷たく言い、怒涛したペニスを強く踏み躙った。
ジェームズ先生は呻き、首を横に振り,目から涙を流し始めた。
「このペニスは何なの!喜んでいるじゃない!」
私は更に強く踏みつける。ペニスの鈴口から白獨した精液が噴出し私の脹脛を汚した。ジ
ェームズ先生の喉から耐えていた思いが呻きとなって発しられていた。
「先生、何て、はしたない事を!でも、両腕を切断され、この 4 年間、オナニーも出来ず
に、苦しかったのね。どうやって処理していたの?ペニスも切断しておいた方が良かった
かしら?」
更に、汚いペニスを踏み続けた。ペニスは直ぐに大きくなって、肉厚な感覚が戻ってきた。
「先生って、本当にマゾになってしまったのね!きっと,アリーネが喜ぶわ!」
「うぅうぅ・・」
ジェームズ先生が,何か訴えていた。私は肉便器に布カバーをかけた。首の部分が、それで
も嫌々をしていた。
肉便器ジェームズ先生は、どうしてもアリーネに返して上げなければならない。私のし
た意地悪の罪滅ぼしに。私は堅く誓った。
=犬遊び=
大理石の床に汗が滴り落ちる。もう1時間近くもポーラの巨体を載せて堪えていた。2
時間以上もの長い時間を人間椅子として堪えられるようになるのはいつのことだろうか。
もう限界だ。ポーラの巨体の下に潰されてしまう。そう思った瞬間、急に背の上から重さ
が消えた。
「トイレ、小」
ポーラが僕を見下ろして命じた。
僕はすぐに膝立ちし、ポーラの前側に回る。ポーラのアバヤの裾を持ち上げ、僕は首を
アバヤの中に突っ込んでポーラの陰毛を湛えた股間へ顔を持っていく。そして顔を、ふさ
ふさの黒い陰毛の中に突っ込む。若い女性特有の強烈な酸臭が顔全体を覆い、逃げ出した
くなる。それでも我慢してポーラの女陰に口を付け、放尿を待しかない。
暖かい大量の聖水が放出された。直接、飲尿できるので、アンモニアの腐臭はそれほど
感じない。しかしいつまで経っても好きにはなれない飲み物である。それでも僕は零さな
いように、口いっぱいに小便を溜める。そこで放尿が止まる。僕はすぐに飲み下す。そし
てまた放尿が始まる。口の中に小便をいっぱいに溜める。放尿が止まる。僕は飲み干す。
それの繰り返しが何度となく続いた。ポーラの大きな手が僕の頭を優しく叩いた。強く叩
かれることはない。放尿後の排泄の快感に満たされているからだろう。
最後にポーラの女陰の襞の間を綺麗に舐める。若いポーラの場合、分泌物が多いからだ
ろう、ネットリとした分泌物が、ゼリーのような老廃物と化して溜まっている。特に前日
の夜遊びで寝坊をして、アカデミーに遅刻しないよう飛び込んでくるようなときには、ト
イレを済ませていないことも多く、女陰の襞
の間に老廃物がタップリと溜まっている。それを舐め取る行為には、相当の抵抗感と屈辱
感が加わる。たが、その嫌悪感もやがて諦めに変わってきていた。奴隷の身分でポーラに
説教できるわけでもない。若いのだから仕方のないことでしかなかった。奴隷は与えられ
た仕事を従順にこなすしかないのだ。
マゾッホも言っていた。理不尽な行為にも快楽を感じる身体になってしまった、と。き
っと、マゾになってしまえば、こんな屈辱的な行為にも快楽を感じられるようになるのか
も知れないが、マゾな、マゾッホの言葉だとは言え、信じ難くもあった。
ポーラのねっとりとした分泌物も飲み込むしかなく、最後にサービスとしてクリトリス
の上を舌先でバイブする。
エリザベーラが言ったとおり、これはとても喜んで貰えた。ポーラも満足したように溜
息を一つ漏らした。僕はポーラのアバヤから出た。
「まったく……。時間のあるときに、ゆっくりと、お前の舌奉仕を堪能したいものだ。と
ころで昨日の夕食はどうだった?」
ポーラが唐突に話題を変えて質問してきた。そう言えば、と昨日の食事のことを思い出
そうと記憶を辿った。確か量がいつもの倍もあった。味はいつものとおり美味しくもなか
ったが量だけは満足できたのだ。
「量が、とても多くて、満足しました」
僕は、そのとおりに答えた。
「砂に埋められて体力を消耗していたからな、量を多くしておいたんだ」
「はい、お心遣い、ありがとうございます」
そうだったのか、ポーラは僕のことを気遣ってくれているのだ。僕は素直にお礼を述べ
た。
「では、今日は楽しく遊びましょう」
ポーラが特別に楽しげに明るい声で言った。
パニスから伸びた鎖を牽かれ、廊下に出て奥の部屋に連れて行かれた。小ぢんまりとし
た木のドアを開ける。小ざっぱりとした明るい部屋だった。床は樹皮製の真緑で、まった
く親水性がなく柔らかで弾力があった。膝をついて這い回っても痛くなさそうだった。
「今から、お前は犬よ。犬がどうするか考えなさい」
部屋の全体を確認させられるように 10 メートル四方の床の上をポーラの鎖の手綱に牽か
れて這い回り、一巡した。
「角に来たら、片足を上げてオシッコをするのよ」
「はいっ!」
僕は元気に答えた。
同時に背を鋭く鞭が襲う。鞭の音が部屋中に反響する。
「犬が、はい。と言うかっ!」
ポーラにきつい声で叱責された。
「ワン!」
少し自棄糞気味になって吠えた。
「そのなげやりな吠え方が良いよ」
こんな小娘のポーラにまで、心根が読まれてしまっている。何故かとても惨めな気持ち
にさせられる。
ポーラの鎖に牽かれ部屋の隅まで這って来た。片足を上げたまま時間が過ぎる。
「ほら、オシッコは!?」
ポーラが急き立てるが、どうしても出ない。
「どうした?」
ポーラの鞭先が片足を上げて惨めに垂れ下るパニスを突いて来る。パニスだけに留まら
ず、ついでに玉袋から尻、菊門まで擽ってきた。僕は恥かしさと性的刺激で、ますます小
水を出す気持ちになれなくなる。
「ダメか?!」
ポーラの口調が強くなり、鞭が尻を強く打ち始めた。
「両手をついて尻を高く上げる。頭を床につける!」
強い口調でポーラが命じる。
僕は尻を高く上げ、頭を床につけた。ポーラの鞭先が僕の菊門を擽っている。僕は恥ず
かしさに太股をピッタリと閉じていた。突然、尻を強く叩かれた。
「陛下の鞭を頂くときにも、学院長に尻を叩かれていたわね。股を開くのよ、そして情け
ないパニスを見せなさい」
鞭先で尻を擦りながらポーラが楽しげに言う。
僕は脚を開かなかった。ポーラが楽しげに僕の尻の菊門を鞭先で撫でていた。
「これも調教なのよ!
早く陛下のもとに行きたかったら、言うとおりにするのね。暴力
で股を開かせるなんて簡単なことだけれど、そうしたくないの。さっさと股を開きなさい」
ポーラが優しく言う。仕方なく僕は素直に股を開くしかなかった。ポーラの手が開かれ
た太腿の間から差し込まれ、パニスと袋を鷲掴みにした。そして、縮み上がったパニスと
袋を優しく弄ぶ。
「オシッコが出ないのなら、精液を出そうか」
意地悪くポーラが言う。
「いえ、精液も出ません」
僕は答えた。
強く尻を掌で叩かれた。
「犬はワン!でしょ」
「ワン!」
悔しさが胸を重くする。
「やってみなければ解らないわ!」
ポーラはさらに意地悪く言い、柔らかく僕の股間は愛撫されていく。パニスがムクムク
と反応してきた。3センチ長の金属の管の中で膨れ上がったパニスが、管の中の硬い鋲の
先に刺され拷問を受けている。僕は喘いだ。
「ううぅぅ、ワン!」
僕は、この苦痛を犬として訴えなければならなかった。
「嬉しいか、そうか」
わざと逆に解釈して言葉で楽しんでいる。しかし、僕はもう、のたうちまわりたくなる
ほどの苦痛に耐えるしかなかった。
「パニスがパンパンに膨れて、そんなに嬉しいのか」
パニスだけでなく、玉袋の裏から尻へと性感帯を撫で上げられる。僕は痛みに耐え、心
臓が大きく喘ぎ、やがて玉のような汗が、ぼたぼたとグリーンの床に垂れ始めた。汗が親
水性のない床に水溜りを作っていた。それにもかかわらず、パニスは膨張を続けていた。
ポーラの手がパニスの竿の金属管を握り、扱き始めた。あまりの苦痛に僕は失神してしま
った。
横腹に強い衝撃を受けた。仰向けの身体が横向きになった。真顔でポーラの顔が僕を見
下ろしていた。
「パニスが萎えたと思ったら、失神しているとは……しょうもない奴ね」
ニコリと微笑んでポーラが言った。小悪魔のようだ。
「いつまでも寝ていない。四つん這いになる」
ポーラが鎖を牽いた。僕のパニスが引っ張られる。また四つん這いの姿勢に戻った。
「さぁ、今度はボール遊びよ」
ポーラの手に黄色いボールが握られていた。
「取っておいで!」
ポーラがボールを僕の頭越しに尻の方に投げた。僕は振り返り、ボールの軌跡を目で追
った。黄色いボールは5メートルほど飛んで緑の床に落ちて跳ねながら部屋の隅まで転が
って行く。僕は四つん這いのまま走った。部屋の隅まで走り緑の床に転がる黄色いボール
を口で咥えた。踵を返し、ポーラのもとへ戻
った。ポーラの顔を見上げボールを咥えたままポーラの目を見つめた。ポーラの手が伸び
ボールを僕の口から受け取った。ポーラの掌が僕の頭を撫でた。なんだか本物の犬になっ
たように感じた。
「ワン!」
僕は犬になりきって、嬉しそうに吠えた。
ポーラはまた別の方向にボールを投げた。僕は、またボールの後を追って這って走った。
ボールを咥え、ポーラのもとへ帰る。ボールを受け取るとポーラの手が僕の頭に伸びてき
て撫でてくれる。
「よしよし、お利口ね」
ポーラの掌が僕の頭の髪を撫でながら言う。
「もう一度よ」
黄色いボールが緑の床で跳ねている。それを目で追い、何度も這ったまま走り続けた。
部屋の角に停まるボールを口で咥える。ポーラのもとへ、ボールを咥えたまま戻る。また
ポーラから頭を撫でて貰う。それが何度も繰り返され、僕はすっかり疲れきってしまった。
でも、この遊びはとても気に入った。ポー
ラとの信頼関係が出来てくるのが自分でも自覚された。
「楽しそうね」
アリーネさんの声が聞こえた。僕は声のした方向に顔を廻した。アリーネさんは正装で
ある黒のアバヤを纏っていた。
「私も仲間に入れて」
アリーネさんが楽しげに言った。
「学院長、どうぞ!」
ポーラは学院長を見て大きな声で答えた。
アリーネさんが僕の前に回り込み僕の頭を軽く撫でてくれた。ポーラがボールをアリー
ネさんに渡す。
「はい、ありがとう。ポーラ」
アリーネさんがボールを受け取る。
「犬は反対側を向く!」
命令口調でアリーネさんが言った。すぐに僕はアリーネさんに尻を向け、反対側に向き
直り、ボールの行き先を見極めようと顔を上げて待った。アリーネさんは僕の尻のところ
に立っている。尻の肛門に何か冷たい感触のものが差し込まれた。そして冷たい液体が腸
に挿入されて行く感覚が解った。すぐに異物
は抜かれたが、僕は自然に肛門を強く閉じた。黄色いボールが空を飛び床に落ちて跳ねた。
僕はボールに向かって四つん這いのまま走った。
ボールを咥え、アリーネさんの足元に戻る。
「早いのね! お利口だわ」
アリーネさんが褒めてくれて僕の頭を撫でた。僕は嬉しくなってしまった。
「もう一度!」
アリーネさんがボールを投げる。踵を返して僕はボールを追う。とても楽しげな気分に
なってきた。僕はここの女官達を好きになりかけていた。皆、本当は心優しい美女たちな
のだ。
なんだかお尻がむず痒くなってきた。……おかしい。ちょっと尻の穴の力を緩めてみた。
ウッ! 水のようなものが肛門から漏れた。
やばい! 僕は肛門を固く閉じた。
アリーネさんの足元で首を上げ、咥えたボールを取って貰う。アリーネさんが僕の頭を
撫でてくれる。
「本当に、お前はお利口さんね! これも取ってきなさい」
アリーネさんが優しく言う。
ボールを追って、僕は走った。お尻全体がむず痒く、便意で肛門が緩む。不意に水が零
れるように少し漏らしてしまう。一生懸命に尻の穴に力を入れて窄める。部屋の隅まで走
り、ボールを咥える。アリーネさんのもとに駆けて帰る。また頭を撫でられ、アリーネさ
んに誉めて貰う。
そして、また黄色いボールが転がる。僕は走った。お腹が痛くなってきた。便意が急速
に高まってくる。お尻の穴を硬く硬く閉ざした。やっとボールに辿り着き、咥えてアリー
ネさんのところに走って戻った。
もう限界だった。脂汗が肌に浮き出てきた。黄色いボールをアリーネさんが僕の口から
受け取る。頭を撫で撫でしてくれた。僕は一生懸命、下半身に全神経を集中する。顔が熱
かった。
「さぁ、これも取ってきなさい」
ボールを目の前に差し出すアリーネさん。僕はもう、どうすることも出来なかった。こ
のままでは大変な事になる。
「アリーネ学院長様、僕を……」
僕は我慢できず言葉を発したが、最後まで言い終わらないうちにアリーネさんの平手が
僕の顔を襲った。僕は横様に引っ繰り返された。今度は水ではなく便がお尻の穴から漏れ
た。便の異臭が臭ってきた。一生懸命に尻の穴を硬く閉めた。
「犬が話していいと思うの!」
怖い声で、アリーネさんが叱責した。
「さぁ、取っておいで!」
アリーネさんがきつく言うと、ボールを投げた。仕方なくゆっくりと転がるボールの方
に向き、そちらに向かって這い出した。
「鈍い! 走れ!!」
アリーネさんの大きな声が背後から襲ってきた。僕は急かされて堪らず走った。尻の穴
に力が入らない。便が飛び出し、肛門から噴き出す。下半身が痺れ、全身を排便の快感が
襲う。一瞬にして部屋中を糞の異臭が覆いつくした。堪らなく臭い。脱糞の快感を感じつ
つ便を漏らしてしまった羞恥に、惨めな気持になってしまう。
「早く取ってくる!!」
そんな僕の悲惨な状況を目のあたりにしながらも無視したように、アリーネさんの強い
叱責が僕を駆り立てる。便が吹き出ることなど、どうでも良かった。僕はアリーネさんに
忠誠を尽くすべく、必死でボールを取りに這っていった。だらだらと尻の穴から便が垂れ
ている感覚が不快に感じられた。部屋中を異様な便の悪臭が覆っていた。しかし下半身だ
けは脱糞の排便の快感に痺れていた。
「臭い! キッタナイ!」
ポーラの驚いた声が遠くから聞こえていた。僕はやっと黄色いボールに辿り
着き、それを咥え、トボトボとアリーネさの足元へ引き返して行った。出切れない便を垂
らしながらも排出欲が肛門を引っ繰り返し、肛門が外側へ裏返って引き出されていた。僕
は内臓までも晒している恥かしさに堪えていた。
「遅い! もっと走る!」
アリーネさんの叱責は、僕の状況など無視して続く。僕は強迫観念に囚われて走るしか
なかった。肛門は引っ繰り返ったまま元に戻ろうともせず、便も止まらないまま尻の穴か
ら垂れ流れていた。自分の便を踏みつけて手のひらも膝も便でぬるぬるになり黄色く染ま
っていた。ぬるぬるした掌と膝をついたままで這い回るのは、どうにも気持ちが悪かった。
アリーネさんの前に咥えたボールを突き出した。黄色いボールは綺麗だったが、便と同じ
色の黄色だった。
「汚いなー、奴隷。恥かしくないのか、便を垂れ流したまま走って。こんな姿を陛下がご
覧になられたら、どう思うだろうね」
アリーネさんがチクチクと棘のある言葉で僕を虐めていた。
「いいかぃ、この便は、お前の、その口で全部舐め取って綺麗にするんだぞ!
アリーネさんが僕の真上から強く命じた。
「ワン」
悲しく僕は小さな声で返事した。
「ポーラ!」
ポーラが僕の横に近づいてきた。アリーネさんが股間から伸びる鎖の手綱をポーラに渡
した。手綱を受け取ったポーラは僕が最初に便を噴出させた場所に僕を牽いて行った。緑
の床が黄色いシミで斑になっていた。
「さぁ! 綺麗にしなさい」
ポーラが無下に言う。
僕は躊躇いながらも床の上で異臭を放つ便に顔を近づけ、舌を出し自分の便を舐めた。
いくら自分の便とは言え、なんとも味も素っ気もなく、ただ時間の経過が便の腐敗を異常
に早め、とても食べられる代物ではなくなっていた。全身が便を食べることを拒否してい
た。むかむかと胸のむかつきが込み上げてきて僕は嘔吐した。
「あ∼あ、やっちゃったよ。無理しなくても良いんだよ。こんな過酷な調教に、最初から
耐えられる筈はないんだから。もう辞めようか。お前の調教は、何時だって中断がきくん
だ。無理して奴隷になんかなる必要はないんだよ」
ポーラの言葉に僕の不甲斐なさを強く感じた。耐えられないほどの便の苦味と屈辱的な
惨めな思いで僕は押し潰されそうになっていた。
そのとき不思議に股間が熱くなり、パニスが膨らみ始めてきた。一度吐いたので胸のむ
かつきも取れていた。勇気を奮い起こして舌を出すしかなかった。ここまで来て奴隷調教
を諦めるなんて出来ない。僕はペロペロと僕は自分の便を舐めた。嫌悪感も屈辱感も捨て
るのだ。僕は強く、そのことを意識した。
「可哀想にね∼、我慢できなかったお前が悪いのよ。全部舐め終わるまで私が付き合って
あげるから大丈夫だよ」
ポーラが優しいことを言ってくれた。僕の目から涙が落ちてきた。とても屈辱的な中、
股間だけが大きく膨らみ始めていた。
「泣いちゃ、駄目」
ポーラが言った。ポーラは本当に優しい。
それにしても部屋が膨大な面積に思えた。次々に僕は便を舐めて喉に飲み込み床を綺麗
にして這いずり回って歩いた。横にはポーラがしっかりと手綱を携えて着いていてくれた。
僕は頑張って自分の便を次々と舐め取った。全部舐め終わるまでに、どれだけの時間がか
かったのだろう。漸く部屋は綺麗になった。
「頑張ったじゃないか。ほら、最後の仕事だよ、私のサンダルも黄色くなってしまってい
るでしょ。ちゃんと舐めて綺麗にするんだよ」
ポーラ様が僕の屈辱感に追い討ちを懸けるように言った。でも、それはポーラ様の優し
さだと気が付いた。
最後に僕は、ポーラ様の黄色く染まってしまったサンダルに舌を這わせた。一番若いポ
ーラ様のサンダルまで舐めなければならない屈辱的な行為だったが、それが嬉しかった。
ポーラ様のためになら尽くせると思った。
パニスは膨れ上がり僕は苦痛の中で堪えていた。
そんな僕の頭を、ポーラ様が優しく撫でてくれた。苦痛に耐えつつ僕は幸せな気持ちに
なっていた。
私は、エリザベーラの専属奴隷となった隼人が惨めにも自分の便を舐め取ってゆく、そ
の様を感慨を持って眺めていた。隼人の横にはカラフルなアバヤを纏ったポーラが鎖の手
綱を牽いて歩いていた。その姿が昔の私に、ダブってしまった。同じように、ジェームズ
先生に私が付き合って排泄物の掃除を手伝ってあげたことがあった。
私は17歳のときの、あのことを思い起こさずにはいられなかった。
(アリーネ 17 歳)
「エリザベーラ居るの」
私は、エリザベーラの勉強部屋のドアを開ける。エリザベーラの部屋の中に明るい陽射
しが緑の中庭から射し込んでいて眩しかった。その光を遮るように大きな人影が近づいて
きた。
「いらっしゃいませ、アリーネ様。エリザベーラが、お待ちです」
背の高い金髪の白人青年が、私の目の前に立ちはだかっていた。とっても端正な顔立ち
で私好みだったので、ドキドキしてしまった。恥ずかしさで自分の顔が赤くなって行くの
が解った。
「アリーネ、どうしたの」
エリザベーラが部屋の奥から呼んでいた。
目の前の素敵な青年に、何か言わなければ
と私は焦っていた。
「こんにちは!私はアリーネです」
やっと挨拶だけ言葉に出来た。
「エリザベーラから聞いています。とても素敵な方だと言っていましたが、僕の想像より
も、ずっと可愛くて美しい。僕は旧英国領の南アから来ました、ジェームズと言います、
よろしく」
大人ぶった、その青年が私の手を取ってくれた。
急に心臓が、ドキドキしてしまい私は、すっかり上気してしまった。
「アリーネ、こっちよ」
エリザベーラが焦れた様に言っていた。
「エリザベーラが、呼ばれています。どうぞお入り下さい」
ジェームズ先生の笑顔がとても素敵だった。
「失礼します」
私は恥ずかしくなって小さな声で答えた。
それが、ジェームズ先生との初めての出逢いだった。
翌日、エリザベーラからメールが入っていた。
“面白い遊びをしているからに直ぐに来て”
また、ジェームズ先生に逢えるかも知れないと思うと、気持ちが高ぶってきて、エリザ
ベーラの住む小宮へ急いで走った。高い椰子の梢の上の青空が眩しく光っていた。
緑に覆われた小宮の庭に駆け込み、昨日と同じように小宮の玄関から入り込み、エリザ
ベーラの名前を呼びながら、エリザベーラの部屋のドアを開けた。明るい部屋の中は、が
らんとしていて誰もいなかった。それに今までに人の居た気配も感じられなかった。でも、
どこかから犬の吠え声が聞こえてきた。エリザベーラが犬を飼っているとは聞いていない。
私は不思議に思い廊下に戻ると犬の鳴き声のする方へ捜しにでた。その吠え声は長く白い
廊下の奥の部屋から聞こえてくるようだった。でも、この小宮に犬は居ない筈だ。
廊下を走り奥の部屋に走って行き、花の飾り模様の浮き出た白いドアを開けた。そこに
は赤いアバヤを着て立ったままの、エリザベーラが居た。足元に白人の白い裸体が四つん
這いになったまま私の方を向いていた。そして首には犬の首輪が嵌められて、そこから伸
びた鎖の手綱が、エリザベーラの手の中に納まっていた。その白人はジェームズ先生だっ
た。
私がドアを開けた音で、二人は揃って私の方を見た。ジェームズ先生が慌てた様に、エ
リザベーラの影に隠れた。
「アリーネ、見て。面白い遊びをしていたのよ。先生がね、ゲームで負けたから犬にして
あげたの、楽しいのよ!」
エリザベーラが無邪気に言った。
エリザベーラの赤いアバヤの後ろに、ジェームズ先生が一生懸命に恥かしそうに身体を
隠していた。真っ裸で何て恥ずかしい格好をしているのでしょう。ジェームズ先生のこと
が可哀想に思えてきた。
「エリザベーラ、可哀想よ、あんなに恥かしがっているのに」
私は本心から思って、エリザベーラに抗議した。
「ゲームよ、ゲーム」
エリザベーラが楽しげに言った。
「いい、先生!」
エリザベーラが言うと赤いボールを遠くに投げる。赤いボールは、ゆっくりと宙を飛び
何も無い部屋の真ん中で跳ね、そのまま隅まで転がって行った。
「先生、いけ!」
エリザベーラの声が弾けている。
ジェームズ先生は動かない。身を小さくして私の視線から逃れようと、エリザベーラの
身体の影に回り込んで縮こまっていた。そんな惨めな、ジェームズ先生が、とても可哀想
だった。
エリザベーラの左手には乗馬用の鞭が握られていた。左手を高く上げ、ジェームズ先生
の白い尻に鞭を振り降ろした。肌を打つ高い音が部屋に響き渡った。
「ゲームに負けたのは先生なんだから、私の言うことを聞く!」
エリザベーラが強い口調で言った。
「わん!」
ジェームズ先生が惨めに吠えた。先生は四つん這いのまま、ボールを取りに這って行っ
た。一人、男の裸の白い肉体が這って行くのは異様な感じだった。ジェームズ先生は部屋
の隅にまで転がったボールに追いつくと、それを口に咥え、エリザベーラの足元まで這っ
て帰ってきた。
「どう、面白いでしょ。ちょっと用事を思い出したわ。アリーネ、代わりに遊んでいて」
エリザベーラがボールと鞭を私の手に握らせた。そして、二人を残して、そのまま部屋
を出て行ってしまった。
私は全裸の、ジェームズ先生と二人っきりにされ、どうしてよいものか唖然としてしま
っていた。私の足元に所在無げな、ジェームズ先生が四つん這いの姿で、やっぱり、どう
して良いものか解らない顔をして鎮座していた。そのジェームズ先生の背中には幾筋もの
鞭の痕が赤く残されていた。
「先生、可哀想に、ごめんなさい。エリザベーラは、本当に子供なんだから」
私はエリザベーラのやっている悪戯を申し訳なく思い謝った。
「いいえ、これも彼女に勉強に集中して貰うための方策です。ストレスを発散させること
で次の勉強に身が入ります。家庭教師ですから仕方ありません」
ジェームズ先生が、この豚でもない行為を正当化しようとしていた。
「疲れるでしょうから、どうぞ僕の背中を椅子にして下さい」
ジェームズ先生が、私の目を見詰て言った。
「私の方こそ、ごめんなさい。この国には椅子がなくて、人間椅子が近くに居ないと先生
に気を使わせてしまいますわね。私のことなら大丈夫です。お気遣いなさらないで下さい」
私は恐縮してしまった。こんな素敵な先生を椅子にするなんて思いもよらなかった。
「お優しいのですね、この国では男性は奴隷か下層労働者しか居ませんので、女性の皆様
は男性を下等なものとしてしか見ていません。男性に優しい言葉を掛けてくれる女性に出
会えたのは始めてです」
四つん這いのままジェームズ先生は首を上げて私を見詰て言った。
「でも先生は知的で、エリザベーラの家庭教師をやっていらっしゃるし、私は尊敬してい
ます」
言ったとたん、私は顔の赤くなるのが意識された。
ドアが再び開かれ、エリザベーラが入ってきた。右手に何かガラスの長いものを持って
いるようだ。ジェームズ先生の尻の方に、エリザベーラは回り込んだ。
「ワンコ、四つん這いになって尻を上げなさい」
エリザベーラが命じた。
ジェームズ先生は、私に微笑んで見せて、エリザベーラの言うとおりに四つん這いにな
って尻を高く持ち上げた。
エリザベーラは右手に持ったガラス管を、ジェームズ先生の、お尻の穴に突っ込んだ。
「うぅ!」
ジェームズ先生が小さく呻き声を漏らした。
「アリーネ、ボールを投げて」
弾んだ声でエリザベーラが指示した。
私は乗り気ではなかったが、エリザベーラに言われるまま、ボールを部屋の真ん中に向
かって投げた。ジェームズ先生は私が投げたボールの方向に四つん這いのまま走り出した。
両脚の太股の間から長いペニスが垂れているのが見えた。私は先生の恥かしいものを見て
目を逸らせた。ジェームズ先生がボールを咥えて戻ってきた。エリザベーラは、ジェーム
ズ先生の金髪の髪の毛を撫でて、真っ赤なボールを受け取った。続けて、エリザベーラは、
またボールを投げた。ジェームズ先生は、ボールを追って這いずっていった。ジェームズ
先生が、ボールを咥えて戻ってくる度に、エリザベーラは犬にするように、ジャームズ先
生の頭を、よしよしと撫でていた。それが幾度か繰り返されたが4度目になると、ジェー
ムズ先生の動きが急に鈍くなってきた。部屋の真ん中で赤いボールを咥えたまま立ち尽し
てしまった。
「先生、早く!」
エリザベーラが大きいな声で急かせた。それでも急ぐことなくノロノロとジェームズ先
生は四つん這いのまま戻ってきた。エリザベーラの鞭がジェームズ先生の背を打った。
「私の命令を絶対に聞く、と言うのがルールでしょ!」
エリザベーラは怒り、また鞭をジェームズ先生の背に打ち下ろした。
「アリーネ!」
エリザベーラが私に声を掛けてきた。その手から赤いボールが私のところへ投げられた。
私はそのボールをキャッチした。
「遠くへ投げて」
エリザベーラが私に指示した。言われるまま部屋の隅に向かって赤いボールを投げた。
幾つかの白い机しかない10 メートル四方の明るく白い部屋の中を赤いボールが弧を描い
て飛んでいった。
「先生、走る!」
エリザベーラの声が部屋の中に木霊した。ジェームズ先生の白く広い背中に玉の汗が浮
き出ていた。
「エリザベー・・・」
呻くように、ジェームズ先生が言葉を呟いた。
エリザベーラの脚がジェームズ先生の横腹を蹴った。
「犬は喋らないんでしょ!」
横様に転げたジェームズ先生の尻から水が漏れた。
「先生!走る!!」
エリザベーラの叱責が激しく追い立てた。
起き上がったジェームズ先生が、ゆっくりとではあるが四つん這いのまま走り出した。
見ていると尻の菊門が開き、大量の黄土色の便が激しく噴出した。一瞬にして白い床が、
さわやかだった空気が黄土色に沁みていった。強烈な便の匂いが部屋中に充満した。それ
でも、ジェームズ先生は赤いボールを咥え黄色い便をお尻の穴から噴出させながら広い床
の上を這って、エリザベーラの足元へ戻って
きた。ジェームズ先生の菊門は裏返り止め処なく便を更に垂れ流していた。
エリザベーラはジェームズ先生の金髪の頭を抱き寄せて撫でている。
「先生、本当に偉いね、よしよし」
エリザエーラは、ジェームズ先生を優しく愛撫した。
ジェームズ先生の目から涙が流れていた。恥かしさと排便後の快感に下半身が痺れてい
るのでしょう。
「でも先生、これは酷いよ。ちゃんと綺麗にしてね。先生の舌で」
エリザベーラが悪戯っぽい目をして惨めな状態の、ジェームズ先生に言い渡していた。
「アリーネ、先生が全部、口と舌で床を綺麗にするの見張っていて!私は別な用があるの。
お願いね!」
それだけ言うと、エリザベーラは部屋から出て行ってしまった。
私は唖然としてジェームズ先生を見詰めた。そんな酷い事を先生にさせる訳には行かな
いのに。エリザベーラの理不尽さには頭にきていた。でも、
「どうします、先生」
私には、そう声を掛けるしか言葉が思いつかなかった。
「エリザベーラは気性が強過ぎて困る時があるんです。王位継承権は8番目なんですけれ
ど、きっとエリザベーラが女王になるだろうと私は思っています。本当に策略家ですから。
でも、これは酷いわ。スードラを呼んで始末させますから大丈夫です」
私は惨めな、ジェームズ先生の身体を見下ろして言った。
「ゲームですから、やります。大丈夫です、アリーネ様」
ジェームズ先生が力を込めて言った。
そして、トボトボと四つん這いのまま大量に便のかたまっているところへ向かった。私
も手綱を持ったまま後ろに着いて行った。
ジェームズ先生が便の溜りに顔を着けた。時間の経った便は腐敗を進めていて強烈な臭
みが部屋中を包み込んでいた。ジェームズ先生の金髪の頭を上から見下ろしているだけだ
ったけれど、その端正な顔は便の苦味に歪んでいた。直ぐに先生の口が開き白い嘔吐物が
便の上に撒き散らされた。
「先生、無理しないで下さい」
私は、ジェームズ先生が可哀想に思え、こんな、ゲームに興じる、エリザベーラを憎く
思った。ジェームズ先生は無言のまま舌を出して、便を舐めていた。
「先生、そんなことしないで下さい」
私は泣き声で訴えた。ジェームズ先生は、黙々と便を食べ始めていた。私は手伝う事も
できずに先生の横で泣いていた。
2時間も掛かって、先生は自分の便で汚れた床を綺麗に舐め取った。私は無力感を抱え
たまま、ジェームズ先生の横から離れられなかった。
先生が、ニッコリと笑顔で私を見上げた。その顔は便にまみれて黄土色一色だった。
「先生」
私が涸れた声で呟いた。
「こんな汚い事に付き合わせてしまって、ゴメンね。僕はもう完全な人間便器かな」
自嘲的にジェームズ先生が言った。
「そんな事無いです。先生が人間便器になるなんて事ありません」
私は感極まり跪いて、ジェームズ先生の顔を抱きしめた。そして、そのままジェームズ
先生の唇に私の唇を重ねた。
大便の異様な苦味が、ジェームズ先生の唇を通して私を包んだ。でも構わなかった。ジ
ェームズ先生の両手が私を抱き寄せていた。私も、ジェームズ先生の身体に両手を回して
抱きしめた。こんなに他人を愛おしく思ったことはなかった。時間が止まっていた。どれ
だけの時間抱き合ったままでいたのでしょう。漸く二人で身体を離した。
「あーぁ、アリーネ様。お顔が、僕のウンチで黄色くなってますよ」
唇を離した、ジェームズ先生の顔は、ニッコリと笑っていた。
「ジェームズ先生の便ですもの、汚くありません」
私も笑顔で返した。
「僕のことは、ジェームズと呼んでください」
ジェームズ先生の顔を私は胸の中に抱き締めた。
「私のことも、アリーネと呼んで下さい」
私も笑顔で答えた。胸の内が張り裂けるほどに熱かった。
これが私と、ジェームズ先生の何んとも汚い恋の始まりだった。それ以降、何度となく、
エリザベーラには内緒で二人で逢っていた。ある月明かりが砂漠に降り注ぐ深夜に私と、
ジェームズは抱き合っていた。
「私、ジェームズの国に行きます」
私は、ジェームズの胸の中に抱かかえられたまま言った。
「そうだね、この国では結婚できない。僕の国に行こう。僕がアリーネを守るから」
私達二人は約束の口付けを交わし裸の身体で抱き締めあった。
「明日の午前1時に、国境近くのオアシスで待っていてください。砂漠を越えて、二人で
逃げましょう」
ジェームズが言ってくれた。
「待っています。先生が来るまで何時までも」
私の心は、ジェームズの、その言葉に満たされていた。幸せだった。
翌朝、目覚めてからの私は空中に浮かび上がっているような状態だった。ハイスクール
の授業も友達との会話も、みんな上の空だった。エリザベーラだけには勘ぐられたくなか
ったので、エリザベーラに近寄ることはしなかった。それでも、目敏く私を見つけた、エ
リザベーラが近寄ってきた。
「アリーネ、今日の夕方からパーティーをするんだけど、来るでしょ」
エリザベーラが有無を言わさず聞いてきた。
「今日は駄目よ、忙しいんだから」
私はぶっきら棒に答えた。
「エッ、何があるの」
興味深げに、エリザベーラが聞いてきた。
「あれよ・・」
私は答えた。何でも良かった。
「あぁ、あれなの・・」
エリザベーラが勝手に理解してくれた。
「薬飲めば大丈夫よ」
エリザベーラの、お節介が畳み掛けてくる。
「私は薬を飲むのが嫌いなの」
何時ものとおりに私は答えた。不自然はない筈だ。
「だったら、チョッとだけで良いから顔を出して、エリザベーラ」
何とか私を説得しようと、甘い声で、エリザベーラが言ってきた。
「今日は気分が優れないから駄目よ、エリザベーラ」
ここは、きつく言うしかなかった。
「そう、じゃあ今日の、パーティーは中止ね。残念だわ。また今度にする」
拗ねたように、エリザベーラは言った。漸く諦めてくれた。
「大丈夫、今日一日だけだから」
離れて行く、エリザベーラの背中に向かって私は声を掛けた。
明日は、もう会えない。ジェームズの国に向かっているわ。そう、エリザベーラの背中
に向かっていってあげたかった。
ところが家に帰ってからが手持ち無沙汰だった。深夜までには時間があり過ぎた。ベッ
トで横になって眠ってしまっても困る。ディスプレイで小説を読み始めたが、ストーリー
が入って来ない。仕方なく余りやらない、ゲームで時間を潰した。こんな秘密を抱えてし
まうと、ネットの中の友達にも話せなかった。
漸く12時を回った。少し早いが出掛けることにした。家族にばれないように、ガレー
ジへ向かい私の車の後部座席に潜り込んだ。
携帯から、オアシスの位置の衛星測位データを車に転送して車を発進させた。
ガレージの扉が少し五月蝿い音を立てて引き上げられていった。私はシートに俯せになっ
て外から姿が見られないように気を遣った。
車は美しい月明かりの砂漠を気持ち良く走っていった。私の心も月明かりのように澄ん
で希望に満ちていた。ジェームズと一緒に砂漠を越えて、明日には隣国の、パキシタンの
空港から南アに飛んでいるだろう。ジェームズの家族には何て紹介されるのだろうか。そ
んな不安も楽しかった。
40分ほどで、椰子の木に囲まれたオアシスに着いた。月は天空で冴え冴えと輝いてい
た。こんなに美しい夜は初めてだった。
これからは、ジェームズと二人で生きて行くんだ。何て幸せなことなの。このワンダ女
建国で生きてゆくとなると、恋をすることもなく適当な奴隷と交尾して子供を生んで子孫
を残すだけ。私なら行政庁の長官まで登り詰めて一生を終える。そんな決まった人生を歩
くだけだろう。でも、ジェームズと知り合い、私の人生は花のように素晴らしいものにな
った。愛する、ジェームズの子供を生んで、ジェームズと共に人生を歩んでゆくのだ。先
の見える詰まらない人生なんかじゃない。愛する人と歩む素敵な人生が私を待っている。
小さなオアシスの小さなベンチに腰掛けて美しい夜のBGMに包まれて私は妄想していた。
時間を見ると疾うに1時を回っていた。ジェームズは、エリザベーラの小宮を抜け出す
のが難しいのね。直ぐに来る筈よ。
ジェームズと、どんなところで暮らすのでしょう。ジェームズのお母さんて、どんな方
なのだろう。兄弟姉妹はいるのかしら。朝、一緒にベットで目覚めて、それからどうする
の。沢山の空想が頭を一杯にして時間の経過が解らなくなってしまった。時間を見ると3
時を回っていた。少し心配になった。ジェームズは、どうしてしまったのだろう。
もっと早く携帯で連絡を取ればよかった。私は、ジェームズの携帯に発信した。繋がら
ない。ジェームズの位置情報を取得しようとした。ジェームズの位置も特定できなかった。
きっと追跡を警戒して、シールドを掛けているのだろう。
少し不安になったが楽しい空想が、それを埋めてくれた。でも空が白んできてしまった。
6時まで待って私は落胆して家路についた。白々しく砂漠の砂山が連なる中を車は力なく
走って行った。7時チョッと前、母が目覚める少し前に家に辿り着いた。
母と対面して食事したが、大きな欠伸をしてしまう。
「アリーネさん、どうしたの、眠れなかったの」
母が心配そうに聞いてきた。
ジェームズの姿が見えなくなってしまった。ジェームズが消えてしまったのだ。私は、
エリザベーラの住む小宮に何度と無く脚を運んだが、ジェームズの影すら見ることが出来
なかった。幾日か後、エリザベーラが、ジェームズの手紙を持ってやってきた。そこには、
唯一言、
“国に帰ります”とだけ記されていた。
「アリーネ、先生から聞いたわ。アリーネが付きまとって、とうとう結婚まで言い出した
ので国に帰るしかないって」
エリザベーラは、それしか言わなかった。私は深い絶望と憎しみを胸の内に秘めた。そ
れが男、全てへの強い憎しみとなった。私の将来を決定付けた出来事だった。
私の目の前で隼人さんが自分の便を舐め取っている姿を、ジェームズに重ねて見ていた。
ジェームズは、今どこに居るのだろう?あの時の、ジェームズへの憎しみよりも今は、あ
の時の熱い想いが私の胸を熱く締めつけている。
私は居たたまれずに部屋を後にした。
僕はあれから、どの位の時間、自分の俳便を食べ尽していた事だろう。ただ、常にポー
ラ様が僕の横で励ましてくれていた。こんな惨めな行為の中で僕のパニスは金属管の中で
膨れ上がり耐え切れない程の苦痛をパニスに与え続けられていた。その苦痛が更に僕を惨
めな気持ちにさせた。その惨めな気持ちが、また僕のパニスを更に大きく膨らませる。
「あら」
ポーラ様の手が僕のパニスを握る。僕は痛みに呻いた。
「可哀想に、とうとう、マゾになってしまったのね」
更に強く僕のパニスを、ポーラ様が握りつぶした。
「うぅ・・」
僕は声に出して呻いた。
「陛下に知られたらどうしましょう」
ポーラ様が皮肉たっぷりに言われた。
「きっと、マゾ奴隷なんて毛嫌いして捨てられるでしょうね」
ポーラ様が屈まれ僕の顔の前に美しいポーラ様の顔を持ってきた。青い瞳が僕を見詰め
ていた。恥ずかしさに僕は顔を背けた。ポーラ様の両の掌がそれを許さなかった。
「大丈夫よ、陛下には黙っていてアゲルわ」
ポーラ様の優しさに僕は頬に涙を垂らした。
「泣かないの!、黙っていたって何ればれてしまう事なんだから」
ポーラ様が微笑まれる。
「これって、とっても残酷かも。私も、そのとき、その場に立ち会いたいわ」
僕はとても哀しい気持ちになった。エリザベーラに僕が、マゾに堕ちてしまったことが、
ばれたら僕はどうなってしまうのだろうか。僕は、とても大きな不安を抱え込んでしまっ
た。
ポーラ様が立ち上がり部屋を見回す。
「綺麗になったわね。この遊びは陛下が少女時代に思いつかれたものだって学院長が言っ
てたわ。凄いアイディアね。陛下って天性のサディストなのでしょうね」
僕の知らない、エリザベーラが過去にいる。僕の不安は益々大きくなって行く。そこに
足音が近づいてきた。アリーネ学院長だった。
「どうかしたの。ポーラ」
アリーネさんが聞いてきた。
「はい、女王陛下の専属奴隷が、マゾ化してしまいました」
ポーラ様が淡々と言われた。
「えぇ。マゾ化してしまったの。困ったわね。陛下は、マゾ化を望まれていなかったわ」
アリーネさんの言葉は意外だった。
「陛下には黙っているしかないと思いますが」
ポーラ様が口添えする。
「でも何れ、バレますしね。誤魔化せないかも知れません。困りましたね」
アリーネさんが悩んだように技と言っている。
僕を貶めようとして言っているとしか思えなかった。その証拠に僕のパニスは更に僕を
苦しめていた。マゾの辛さを僕は充分に身体で覚えさせられていた。
「ポーラ、貴女も黄色くなってますね、早く連れてって綺麗にして来なさい!」
アリーネさんが言った。
「はい!」
ポーラ様が和やかに微笑まれて、弾んだ声で答えた。
僕は一挙に不安のどん底に落とされた。
「隼人さん! 女官達が私を羨ましがっていたわ。炎天下の公衆便所調教のとき、隼人さ
んに舐められた女陰がとっても感じたんですって!」
エリザベーラが僕を突き放した。
「あれは、仕方なかったんだ」
僕は慌てて弁明しようとした。
「奴隷が、許可もなく喋って良いと思っているの!」
エリザベーラが強い語気で言う。
「四つん這いになりなさい!」
もう、命令口調になっていた。
僕は鞭を貰うべく、尻をエリザベーラのほうに向け、四つん這いになった。エリザベー
ラが予想に反して僕の横に移動した。そして突然、横腹を蹴った。僕は横様に転がってし
まった。そしてそのまま仰向けとなったところに、エリザベーラが僕の顔を跨ぎ、顔面騎
乗で座り込んできた。蒸れて酸っぱく異臭を
放つ女陰が僕の口を塞いだ。
「どれくらい気持ち良いのか、私のも舐めなさい!」
エリザベーラの女陰は、すでに濡れていた。僕は舌を固くして伸ばし、エリザベーラの
女陰の襞の中へ弄っていった。エリザベーラは両の手を後ろ手にして僕の胸の上で支え、
反るようにしていた。僕はエリザベーラの金髪の陰毛を透して、エリザベーラの顔を見つ
めていた。
いつの間に、アバヤを脱ぎ捨てて裸になったのだろう。白い美しいお腹のラインから豊
満な乳房までを見上げた。後ろ手で身体を支えるエリザベーラの指先が、僕の乳首を捜し
当て甚振り始めた。久し振りの、エリザベーラの女陰への奉仕と、エリザベーラからの乳
首への甘美な甚振りによる快感で、僕のパニ
スは急激に膨張してきた。パニスは金属管の中の鋲によって苦痛を与えられ、悲鳴を上げ
ていた。可哀想なパニスは、エリザベーラによって痛めつけられつつも、辛い辛い性的な
快感を味わうこととなった。パニスに加えられる苦痛に僕は口からも呻き声を漏らす。そ
の声がエリザベーラの女陰をさらに刺激する。
濡れて熱い女陰に押し潰された僕は、甘美な苦痛の中で気が遠のいていった。
「隼人さん、時間を過ぎているわ」
エリザベーラの声がする。
一瞬、僕は落ちていたようだ。慌てて四つん這いになり、エリザベーラの後を追った。
途中のトイレに、エリザベーラが僕を牽き入れた。
「エリザベーラ、僕なら大丈夫だよ」
許可もなく僕は、エリザベーラに言った。
「違うの。ここで待っていて。すぐに終わるから」
それだけを言い残し、エリザベーラは参謀作戦会議室に行ってしまった。少し薄暗いト
イレには5体の人間便器が並んでいた。
「お前は、女王陛下の専属奴隷だな」
一番近くに設置されていた白人の人間便器が声を掛けてきた。
「はい」
僕は返事を返した。
「今日は初めて女王様を拝見できた、君のお陰だよ」
その人間便器が嬉しそうに言った。
「君の事は全て知っている。我々人間便器は口以外に自由に動かせるところがない。しか
し我々は宮廷の人間便器としての誇りもある。パニスもある。その点は恵まれてはいる。
だが、退屈さは街中の公衆人間便器の比ではない。世界が限定され過ぎているのだ。人間
便器として、ここに設置されていると世界は噂話でしか聞くことができない。それが世界
の全てだ。
女王様が生まれたときからの全て、君の生い立ち、そして二人の馴れ初め、君が奴隷に
なった経緯、全ての情報をワンダ様たちの立ち話で聞いて知っている。勿論、王宮内のい
ざこざから、対立、反目、ゴシップまで隠し事の全てを知っている」
人間便器が、初めて会った僕に語り始めた。
「そんな全てを知られてしまったら、女官たちも困るんじゃないですか?」
僕は思ったことを口にした。
「それは大丈夫だ、人間便器と会話しようとするワンダ様などいない。我々は単なる便器
なのだ」
自嘲的でもあったが誇りにも感じられた。
「ここは、ワンダ様たちが秘め事を大っぴらに話せる唯一の場所なのさ」
その横に設置された人間便器が言う。彼は黄色人種だった。一番手前が白人、次に黄色
人、真ん中が黒人、そして対に黄色人、白人と5人の人間便器が並んでいる。この色の配
列もインテリアデザイナーが考えたのだろう。
「しかし、エリザベーラ女王様が、このトイレに入って来られるとは思ってもいなかった。
専用人間便器があるはずだ。君を連れているなら、君を人間便器として使うはずだから、
なおさら、ここに立ち寄る機会はない。それなのに、ここに君を置くためだけに入って来
られた。いや、偶然とは言え、君に感謝し
なければならない。エリザベーラ女王様を現実に拝見できるなどとは思ってもみなかった。
君のお陰だよ」
嬉しそうに真ん中の黒人人間便器が言った。
「貴方がたは人間便器にされて不満はないのですか?」
僕は前々から思っていた疑問を質問して見た。
「君は人間便器に憧れているのか?エリザベーラ女王様の専属奴隷という、素晴らしい役
目がありながら、まだ、その下の、エリザベーラ女王様の専用人間便器に憧れるのか。少
し欲深くはないかな」
真ん中の黒人人間便器が続けて言った。
「そういう事ではなくて、人間便器に誇りを持てているのですか、ということです」
僕は自分の言いたいことがよく解らなくなってきた。
「僕は、日に3回は女官たちの脚で弄ばれて射精させられてしまう。その度に馬鹿にされ、
罵られている。こんな幸せな日々があるだろうか。ここに至るまでの僕の苦労など、誰に
も解りはしないさ」
一番奥の白人人間便器が涙声で言った。
「解るよ、君が若くしてUSAの財務長官にまで上り詰め、苦労の末にここに辿り着いた
ことを。ノーマルな家庭、ノーマルな奥さん、エリートとしての典型的な家庭人を演じつ
つ、この最低の地位を得るために努力してきた日々は辛いものだったろう。解るさ、ステ
ィアート君」
一番手前の白人人間便器が同調する。
「隼人さんは、アリーネ学院長様のマゾ化研究の論文は読んでいないので解らないと思い
ますが、マゾ化の条件としては、最低IQ120 以上が必要だと論じています。ただIQだけ
が絶対的条件ではないとも論じていますが」
黄色人の人間便器が言った。
アリーネさんには、そんな専門性があったのだ。僕は感心した。
「アリーネ学院長様の生い立ちを御存じですか?」
僕は、丁寧に聞いた。
「ああ。儂は昔、アリーネ嬢様の家で仕えていたことがある」
真ん中の黒人肉便器が言った。
「とっても可愛いお嬢様で、小さな頃から王宮へ、エリザベーラ女王様の遊び相手として
通っていた」
黒人人間便器が懐かしそうに微笑んで話し始めた。
「お嬢様の家柄は高位の貴族。代々、行政庁のトップを歴任されている家柄で、当時の女
王様からも厚い信頼を寄せられていた」
黒人の目が遠い過去を見つめていた。
「アリーネ学院長様は、どんな方だったのです?」
僕は興味が湧いてきたので続けて聞いた。
「お嬢様は3人姉妹の長女で、将来は家を継ぐことになっていた。そのため、ちゃんとし
た女性としての嗜みも教育されていた。儂はそんなお嬢様の教育の練習台としても使われ
ていたのだよ。お嬢様は鞭打ちもとても巧くて、色々なバリエーションで鞭を巧みに使い
こなしていた」
黒人人間便器のパニスがムクムクと膨らみ始めていた。
「あぁ、お嬢様は 15 歳の時には、もう完璧に女性としての身だしなみをマスターされて、
儂はアリーネ嬢様の色香に弄ばされ、いつもはしたなく射精させられていたものじゃ。ま
だ 15 歳でありながら、アリーネ嬢様には本当に辱められ惨めな思いを味合わされていたも
のじゃ」
黒人人間便器のパニスは、はち切れんばかりに膨らんでいた。彼の思いは過去の甘美だ
った時点にまで飛んでいた。
=大殺戮への道=
朝食を摂りながら、ボーっとテレビの画面を観ていた。BBCニュースは、イラソ首長
国連邦政府軍の不穏な動きを伝えていた。連邦自治区内の1自治国が反乱を企て武装蜂起
したと。その鎮圧のため政府軍と隣国からの自治国軍が反乱を起こした自治国の鎮圧のた
めに集結しつつあった。反乱自治国とはワンダ女権国のことだ。鎮圧軍の連邦政府軍と呼
応したのは、ワンダ女建国の両脇を挟む自治国のF自治国とH自治国の自治軍がG自治国
との国境に軍隊を展開していた。
アラビア海に面した国境線 100 キロメートルに渡り、政府軍とF・H自治国の連合軍が
軍勢を配備していた。アラビア海の海岸線まで僅か 20 キロメートルの内陸に各自治国家が
並んで押し込められていた。その中の一つ、G自治区がワンダ女建自治国だった。
アラビア海の海岸線まで高だか 20 キロメートルではあるが、そこまで海の香りは届かな
い。何と言う国境線の設定なのだ。石油資源に見放されたイラソ首長国連邦政府は、ワン
ダ女建国のオイル利権を狙っていた。所詮、女の国、軽く見られていた。一挙に大部隊で
ワンダ女建国を踏み潰し、政府軍と両近隣国で利権を漁ろうと言う腹なのだ。
回廊からポーラ様の足音が聞こえてきた。でも何時もと違っていた。他に幾つもの足音
が重なって聞こえてきた。僕は朝食を諦め床に額を着け、手を頭の前に伸ばし奴隷の礼の
形をとってお待ちした。
ドアが開かれ幾人かが部屋に入ってきた。
「隼人さん、顔を上げて」
驚いたことに書記官のファミーレさんだった。顔だけ上げると、ファミーレさんの両脇
に、ファミーレさんと同様の黒のアバヤを纏い腰に大型拳銃を装着した女王の新鋭隊員も
立っていた。
「お久し振り、すっかり奴隷の礼の形が板に付いてきましたね」
ファミーレさんの言葉が褒め言葉なのかどうか僕には解らなかった。
「ありがとうございます」
取り敢えず、お礼を述べるしかなかった。
「奴隷は答えなくて良いのよ隼人さん、命令があるまでは」
咎める様な言い方ではなかった。
「ヤバーでの陛下との結婚式は豪華で素晴らしいものでしたね。ヤバーの結婚式は素敵で
華やかでした。私も誰か良い男性に恵まれたら、ヤバーで結婚式を上げたくなりました」
ファミーレさんが、ついこの間、行なわれた、エリザベーラとの結婚式を懐かしむよう
に言った。
そう僕と、エリザベーラの結婚式はマスコミを賑わすほどの豪華さだった。でも、ワン
ダ女建国からの来客は、ファミーレさんが唯一人だった。この国にあっては彼女だけが僕
達の理解者なのだった。
「調教は順調に捗っているようですね。覚えていないかも知れませんが、炎天下の公衆便
所調教では、私も小水を提供したのですよ。きっと気にされると思って黙って飲ませてし
まったのですが、陛下が協力するように言われましたので。でも舌の使い方がとっても上
手で女官たち皆が陛下の奴隷を羨ましがっていましたよ」
ファミーレさんの言葉に僕は顔を赤くしてしまった。それにファミーレさんが気付いて
しまった。
「ごめんなさい、こんなことを言うために来たんじゃあないんですよ。ニュースで、ご存
知だと思いますが、今、ワンダ女建国に重大な危機が迫っています。どうか陛下の、お力
になってあげて下さい。今から陛下のところへお連れします。だから、お願いします、隼
人さん」
えぇ?僕に何ができるというのだろう。そんな重大な局面で素人の僕が、どう協力でき
るというのだろう。エリザベーラの助けになれると言うのは嬉しいけれど、それよりも不
安の方が僕を躊躇わせた。
そんな僕の不安な気持も知らずに、ポーラ様が僕のパニスから伸びた短い鎖に長い鎖を
結び付けて、その先をファミーレさんに渡した。
「では、着いて来てください隼人さん」
ファミーレさんが僕の股間から伸びる鎖の手綱を牽いた。嗚呼、パニスが引っ張られた。
僕はファミーレさんに手綱を牽かれて廊下に出る。四つん這いのまま中庭から宮廷へと這
っていった。
「サーバンが奴隷だなんて思わなかったでしょ隼人さん。でも凄い頑張りですね。私なん
て、きっと次の日まで持たないと思っていましたもの」
ファミーレさんが陽気に僕に話し掛けてきた。僕は黙って聞いているしかなかった。答
えを求められない限り奴隷は喋れない。
「何度か私がヤバーを訪れたとき隼人さんにとても親切にして頂きました。あの時は、と
っても楽しかったです。でも今はこんな奴隷の格好で私に牽かれて歩くなんて、本当に、
ごめんなさいね。それに今は本当にワンダ女建国最大の危機で隼人さんの力が、どうして
も必要なのです。予言の書には、この危機の事が書かれていて、その時には陛下の専属奴
隷が、この危機を救ってくれるだろうって書いてあるらしいのです。私が直接に読んだ訳
ではないのですが、そう伝え聞いています。予言の書にかかれた専属奴隷は、隼人さんを
於いて他にはあり得ません。ですので隼人さんのお力で陛下をお助けてあげて下さい」
長い回廊を這って連れられて行った。一番奥の突き当たりの大きな扉の前に来た。数名
の近衛兵が銃を捧げ持って警護している。ここが参謀作戦会議室だった。観音扉が外側に
開かれる。中は明るく照明されている。そして一番奥に、エリザベーラが、僕の方を向い
て立ち尽くしていた。今日も赤いアバヤが映えている。それに厳しい顔付が、また美しか
った。ファミーレさんに牽かれて僕も部屋に這って入って行った。
床には、10 メートル四方に今現在の立体衛星画像が映し出されていた。その3D画像に、
地図記号、軍の配置図、兵力分析までも表示されていた。床にはアラビア海に面した、イ
ラソ首長国連邦の地形が浮き上がって表示されていたので、エリザベーラの足元は北側の
山間部の中に埋もれていた。その衛星画像の周りを砂色の軍服に身を包んだ女性将軍達、
数名が立ったまま取り囲んでいる。ファミーレさんが、エリザベーラに近づき、僕の股間
から伸びた手綱を渡した。僕はエリザベーラの脚の横に着いた。
「椅子!」
エリザベーラが命令した。
僕は、エリザベーラの後ろに回りこみ、何時でも座って貰えるように座り易い態勢をと
った。
「隼人さん、顔を画像の方に向けて」
エリザベーラが言った。
僕は、衛星画像が見えるように正面に向き直った。エリザベーラが僕の背を跨いで座る。
久し振りに、エリザベーラの重見を背中と両腕に感じ感激してしまった。両手に掛かる、
エリザベーラの重みは程よく心地良かった。
「カレーリナ将軍、情勢をもう一度説明して下さい」
エリザベーラが正面に立つ将軍に言った。
青いアラビア海側に立った大柄で少し黒っぽい金髪を湛えた、ゲンマン系の鉤鼻の如何
にも厳しい顔つきの将軍が、レーザの指し棒を手にして衛星画像を見るために下を向いた。
きりりと締まった顔立ちが、何とも恐ろしかった。
「F自治国とH自治国に挟まれた我が国のアラビア海側に面した連邦政府との国境線に、
此処ですが」
レーザの指揮棒の光がF自治国と記された部分を指した。
「この国境ラインから、10 キロメートルに迫るところまで連邦政府軍5万の軍勢が集結し
つつあります」
将軍が緊迫感を持って真剣な顔付きで説明する。
アラビア海からペルシャ湾にかけて内陸へ 20 キロメートル入ったところに海岸線と平行
して直線ラインの国境線が引かれ、そこに自治区のA自治国からH自治国までの首長国が
並んでいた。その自治区を囲むように連邦政府が存在した。つまり、G自治国こと、ワン
ダ女建国は連邦と 100 キロメートルの国境を接している。僕の側から見ると海が南側にな
る。左のインド寄りパキシタン側の海岸に、イラソ首長国連邦の首都ミラーズがあった。
インド・アジア地域の経済発展の恩恵を期待して、首都テヘランをアラビア海に面した新
首都ミラーズを建設した。地球的な異常気象の影響で、この時期、海流は海岸線を洗うよ
うに、インド方向に向かって流れている。その首都ミラーズから沢山の機甲部隊が、ワン
ダ女建国の国境線へ移動している様子を衛星画像を拡大して床に映し出していた。玩具の
ような装甲車や戦車群が僕の目の前を砂埃を上げて疾走していた。昔、良く遊んだ戦略ゲ
ームそのままで懐かしさすら覚えた。
「2・3日の内に連邦政府軍の集結も完了し、中央から我、ワンダ女建国首都サディスチ
ンに向けて進行してくるものと推測します。F自治国とH自治国も呼応し両側より同時進
行してくるでしょう。F自治国とH自治国側に各5千の我が国、機甲部隊を配備し中央に
2万の本隊を配備していますが、敵の数の多さから、その進行を食い止めるのは不可能か
と思われます。ならば我軍も、ここ中央部に全軍を結集し連邦政府軍へ総攻撃を賭けるこ
とが肝要だと思います。装備においては負けるところではございません、陛下」
自信に満ちて、カレーリラ将軍が進言した。
「F自治国とH自治国に対し一億ドルの追加援助を申し出ていますが、その反応はありま
せんか」
エリザベーラが、僕に跨ったまま上目使いで精悍なカレーリラ将軍を見上げて聞いた。
「彼奴らは、年間、数百億ドルもの援助を我が国より巻き上げておきながら、連邦政府軍
に呼応し、我が国の最後の屍までも喰らい付こうとしている。今こそ、隣国に対し我が軍
の最強さを見せ付けてやるべきだ。F自治国とH自治国を当てにはでない。陛下」
息巻いて、カレーリナ将軍が毒づいた。
「ありがとう、カレーリラ将軍。では、少し休みましょう。10 時に再開します」
エリザベーラが立ち上がる。背中からスッと重さが消えた。エリザベーラに牽かれ広く
長い白亜の大理石の回廊を這って僕は付いて行った。女王の居室に入る。エリザベーラが
後ろに手を回しドアをロックする。エリザベーラが僕の前に跪いて顔を近づける。エリザ
ベーラの美しい顔が3センチと離れていないところにあった。
「隼人さん、逢いたかった!」
エリザベーラの嬉しそうな満面の笑顔が、そこにあった。彼女の剥き出しの白い腕が僕
の顔を包み脹よかな胸のうちに抱かれる。エリザベーラの張詰めた緊張感が心臓の鼓動を
通して感じられる。
「大変な事になっているね」
許可も無く僕は喋ってしまった。エリザベーラの反応が恐かった。
「でも、将軍たちに任せておけば大丈夫よ」
エリザベーラが弱気に言う。
そんな安易な問題ではない。エリザベーラの言葉に疑問を感じた。
「将軍たちは一生懸命に考えてくれているわ、それを否定できないわ」
僕の心の疑問が更に膨れ上がり、むらむらと怒りが込みあがってきた。エリザベーラは
危機の重大性を理解していない。この国に期待を寄せる人々の夢が、今潰えようとしてい
るのが解っていない。弱小の軍勢が、大群に対して真正面から、どうどうと戦う作戦など
あり得ない。古代の戦ではないのだ。
「いや、あの作戦は良くない!」
僕は語気を強めて言ってしまった。
「駄目なの?どうすれば良いのかしら?教えて隼人さん」
エリザベーラの掌が僕の裸の身体を弄る。エリザベーラは保守的な、か弱い女になって
しまっていた。僕が今まで、エリザベーラに教えてきたことは何だったのか。エリザベー
ラは何一つ理解できていなかったのか。これではいけないのだ、もう一度、情勢を再検討
しなければならない。
「さっきの戦略図を、ここに呼び出せるかい?」
僕は、エリザベーラに指示する。僕の内に男としての血が沸き立っていた。
「えぇ」
エリザベーラが手を上げると天井の一部からスクリーンが降りて来た。その 100 インチ
の大型の画面に、アラビア海に面したイラソ首長国連邦の衛星画像が映し出されていた。
上部の海側が南だ。イラソ首長国連邦は中央を自治区が占め、それを囲むように連邦政府
が存在した。左側のパキシタン寄りの海岸にイラソ首長国連邦政府首都ミラーズがあり、
アラビア海から内陸に 20 キロ入ったところに、自治区の8ヶ国が並んでいる。どの国も海
岸からも隣国からも隔てられていて、直接、陸路からも海路からも輸出入を連邦政府の道
路を経由しなければ外側の国との交易も、ままならなかった。陸運も船舶による貿易も連
邦政府が独占している。しかし、オイル資源や鉱物資源、農業資源の全てを自治区内の国
家がが握っていて、僅かの農業資源しか持たない連邦政府は、自治国家からの交易通行料
収入しか収益がなく食うだけで手一杯の状態だった。それ故に常に自治区内の、どこかの
国が崩壊し、そこに埋もれた資源が転がり込んでくることを狙っていた。
21世紀初頭から始まった地球規模の異常気象は21世紀中頃には農業に与える影響が
深刻化し、僅かな農耕面積に頼っている連邦政府の経済は更に疲弊し、更なる砂漠化の進
行に打つ手立てもなく悲観しきっていた。追い討ちを掛けるように旧中東諸国との軍事競
争も激化し連邦政府は経済的に破綻する直前にまで追い詰められていた。それは連邦政府
を支える自治区内の各国家も同様だった。
そんな中で、ワンダ女建国だけが潤っていた。ノーマル世界の経済だけなら、他の自治
区内の国々と変わるところは無い。しかし、アブノーマルの世界は、ノーマル世界の経済
を圧倒するぐらいの市場に育っていた。人間は欲望の動物である。それを神、道徳の名の
基に押さえつけ規制し、モラルの名の下に生産性を加速させ消費経済体制の世界を築いて
きた世界構造そのものが崩壊しかかっていた。人類の発展は、その絶対的な消費世界の維
持と発展のみによって発展を遂げてきた。
だが、多くの人類は知ってしまった。神の存在もモラルも権力者の道具でしかなかった
ことを。神の存在に疑問を持ち、道徳の薄っぺらさに絶望した人々の行き着く先は、アブ
ノーマルな欲望の世界だった。そんな人間の欲望に支えられて存在したのが、ワンダ女建
国だった。
隣国も連邦政府も薄々は感付いて感じていることだった。そんなアブノーマルを輸出し
ている破廉恥な国が地球上に存在してはならないことは誰にでも解っていた。
その国たるや、女だけが政治を牛耳っているのだ。男は殆んど奴隷状態に置かれている。
隣国や連邦政府が何やかやと難癖をつけて潰しに掛かってくるのは当たり前の話だった。
逆にワンダ女建国にとってはオイル利権など、どうでも良いものだった。許せないのは、
女建国がノーマルな世界から蔑視され軽視されていることで、そのために侵略され、潰さ
れ、抹殺されようとしていることだった。
プライドの高い彼女達が、そのことを許せる筈も無かった。しかし情勢は絶対的に不利
である。全面対決は、この女建国を地球上から抹殺させかねない。それに全面対決は余り
にも世界に対し目立ち過ぎる。ノーマルな世界は、このような破廉恥な国を潰す口実を常
に捜しているのだ。ここまで軍事行動が激化してしまっては連邦政府内の内乱として静か
に収めることは既に難しくなっている。それでも彼女たちが負けてはならない戦争なのだ
そのためにも早急な解決策が必要だった。
僕は立ち上がりスクリーンの前に寄った。指をG自治国、ワンダ女建国の 100 キロメー
トルに及ぶ国境線の真ん中を示した。
「此処に政府軍が終結している」
僕は、エリザベーラを見詰めた。エリザベーラの青い目が輝きだした。
「ワンダ女権国軍が、この中心部で全面戦闘になると、双方にどれだけの被害が出るかわ
からない。ワンダ女権軍の装備が優れているからと言って全面対決では数において圧倒さ
れているワンダ女権軍が負けることも想定される。例え軍備が優秀で勝利できたとしても、
双方に夥しい死者が出るだろう。死者数が数万人に及ぶことも想定できる。それがもたら
す影響は決してワンダ女建国には有利に働かないだろう」
僕は、エリザベーラに世の中の常識を教えるように話すことにした。まるで大学時代の
部長と部員だった頃のようだ。
「世界中が、この女建国を潰す口実を捜している。だから派手な戦闘は絶対に避けなけれ
ばならない」
僕は、エリザベーラを諭すように語った。
「では、どうしたら良いの、隼人さん?」
エリザベーラの目は輝きを増していた。ワクワクとしている気持ちが伝わってきていた。
「F自治国とH自治国の国境線付近に展開している各々、5000の機甲部隊を同時に海
へ向けて侵攻させる。此処は隣国の自治国軍が抑えているだけだ。この両国とも、ワンダ
女建国を潰そうと言う意思は無いだろう。女建国からタップリと援助を受け利益を得てい
るし、今後も、その方が両国にとっても益がある筈だ。そして女建国の軍事力の凄さも知
っている。女権国軍が進行すればF自治国軍とH自治国軍は自ら引くだろう。だから簡単
に中央の連邦政府軍に迫る事ができる。そうなった時、連邦政府軍の中央の主力部隊から、
これを防御すべく両側へ向けて防御軍を送ることになる。その時に女権国軍の主力を中央
から前面進行させ連邦政府軍を真ん中から分断する。中央を分断し両側から女権国軍が迫
れば連邦政府軍は袋の鼠になり、海岸へ逃げ出すしかなくなる。
海岸での戦闘を行ってはならない。逃げるに任せることだ。そこで休戦を図る。ワンダ
女建国が生残れるかも知れない、たった一つの作戦だ。もし勝利できたら、この占領地を
含めて交渉に入る。そのときも多くを望んでは駄目だ。それについては勝利できたら考え
よう」
僕は一気に語った。
「解ったわ!」
エリザベーラの顔が晴れやかに輝いた。
「素敵だわ、隼人さん!どうして、そんな作戦が思い浮かぶの」
エリザベーラが僕に抱きついてきた。僕もエリザベーラの身体を強く抱きしめた。
「子供のときに、戦略ゲームが好きで、そればかりやっていた性かも知れない。
そうだ、唯一つ、どうしてもエリザベーラが演技しなければならないことがある。
中央突破の際には連邦政府軍の強い抵抗に遭うだろう。それを打ち破るためには、エリ
ザベーラも戦闘の中央で、目立った格好で指揮する必要がある。女王陛下の勇姿を我が軍
の兵士達に見れば女建国軍は奮い立つだろう。その勢いで連邦政府軍を撃破する。
この戦闘において、エリザベーラの存在が一番大きな鍵となるだろう」
僕は間近に迫った、エリザベーラの青い瞳を見つめて言った。
「解りました隼人さん。私やります!この戦闘に掛けます。だから隼人さんも、私を支え
て」
エリザベーラの毅然とした美しい顔が僕の目の前にあった。
そうだ、最高指導者の暗殺計画の話もしなければならないが、それは、もう少し後にし
よう。今、ワンダ女建国が崩壊する瀬戸際で指を咥えて観ている訳には行かない。攻撃こ
そ最大の防御なのだ。たとえ負けると解っていようと、どこかに勝機は転がっている筈だ。
その勝機こそ、エリザベーラが当然に握っている筈だ。そこに賭けずして何とする。
エリザベーラの気持ちを高揚させるために、現状から読み取れる最善の策を、エリザベ
ーラに示しただけだ。現実が思い通りに動かないのは百も承知だ。しかし、これで負けた
としても悔いは残らないだろう。エリザベーラは十分に女王としての役目を果たしたこと
になる。戦などと言うものは気持ちで負けていては駄目なものだ。特に最高指揮官たる女
王陛下の気持ちの中に勝機がないようでは、悲惨な負け方となるだろう。
そうなっては連邦政府が目論む、ワンダ女建国の完全消滅にも繋がり兼ねない。例え道
徳的に間違っていようとも、この国の理想と、それに命を賭けている者達への裏切りとな
ってはならない。負ける戦いは避けるべだとしたら、勝つ戦いをしなければならない。そ
の上で負けたとしても被害は最小限のものとなるだろう。そこから、ワンダ女建国の存続
も見えてくる。
こんな破廉恥な国家体制が地球上に存在して良いとは、僕自身思っていない。しかし、
この国の存続に命をかけている、アブノーマルな人たちが現に存在し、この国が滅亡する
ことに心砕いて心配している多くの人たちが存在する。僕自身も短期間であれ、ここの住
人達と接し、辛い中にも思い入れができてしまっている。僕は、エリザベーラのために情
勢を分析して作戦を授けただけだ。後は、エリザベーラ自身が最終的な行動に移すだけな
のだ。せめて、エリザベーラの気持ちが前向きに変われて良かった。
僕たちは抱擁し熱い口付を交わした。そしてゆっくりと身体を離した。ところが、エリ
ザベーラと目と目が絡み合って、なかなか離れ難くなってしまった。エリザベーラの青い
瞳の奥に悪戯っぽい炎が走ったように見えた。
「隼人さん!女官達が、私を羨ましがっていたわ。炎天下の公衆便所調教のとき、隼人さ
んに舐められた女陰がとっても感じたんですって!」
エリザベーラが僕を突き放した。
「あれは、仕方なかったんだ」
僕は慌てて弁明しようとした。
「奴隷が、許可も無く喋って良いと思っているの!」
エリザベーラが強い語気で言う。
「四つん這いになりなさい!」
もう、命令口調になっていた。
僕は鞭を貰うべく、尻をエリザベーラの方に向け四つん這いになった。エリザベーラが、
予想に反して僕の横腹に移動した。そして突然、横腹を蹴った。僕は横様に転がってしま
った。そしてそのまま仰向けとなったところを、エリザベーラが僕の顔を跨ぎ、顔面騎乗
で座り込んできた。エリザベーラの蒸れた酸っぱく異臭を放つ女陰が僕の口を塞いだ。
「どれくらい気持ち良いのか、私のも舐めなさい!」
エリザベーラの女陰は、既に濡れていた。僕は舌を固くして伸ばし、エリザベーラの女
陰の襞の中へ弄っていった。エリザベーラは両の手を後ろ手にして僕の胸の上で支え反る
ようにしていた。僕は、エリザベーラの金髪の陰毛を透して、エリザベーラの顔を見詰め
ていた。
何時の間に、アバヤを脱ぎ捨てて裸になったのだろう。白い美しいお腹のラインから豊
満な乳房までを見上げた。後ろ手で身体を支えるエリザベーラの指先が僕の乳首を捜し当
て甚振り始めた。久し振りの、エリザベーラの女陰への奉仕と、エリザベーラからの乳首
への甘美な甚振りによる快感で、僕のパニスは急激に膨張してきた。パニスは金属管の中
の鋲によって苦痛を与えられ悲鳴をあげていた。可哀想なパニスは、エリザベーラによっ
て痛めつけられつつも辛い辛い性的な快感を味わうこととなった。パニスに加えられる苦
痛に僕は口からも呻き声を漏す。その声がエリザベーラの女陰を刺激する。濡れて熱い女
陰に押し唾され、僕は甘美な苦痛の中で気が遠のいていった。
「隼人さん、時間を過ぎているわ」
エリザベーラの声がする。
一瞬、僕は落ちていたようだ。慌てて僕は四つん這いになり、エリザベーラの後を追っ
た。
途中にトイレがあり、エリザベーラが、そのトイレに僕を牽き入れた。
「エリザベーラ、僕なら大丈夫だよ」
許可も無く僕は、エリザベーラに言った。
「違うの、ここで待っていて。直ぐに終るから」
それだけ言い、エリザベーラは参謀作戦会議室に行ってしまった。少し薄暗いトイレに
は5体の人間便器が並んでいた。
「お前は、女王陛下の専属奴隷だな」
一番近くに設置されていた白人の人間便器が声を掛けてきた。
「はい」
僕は返事を返した。
「今日は初めて女王様を拝見できた、君のお陰だよ」
その人間便器が嬉しそうに言った。
「君の事は全て知っている。我々人間便器は口以外に自由に動かせるところがない。しか
し我々は宮廷の人間便器としての誇りもある、パニスもある、その点は恵まれてはいる。
だが退屈さは街中の公衆人間便器の比ではない。世界が限定され過ぎている。人間便器と
して、ここに設置されていると世界は噂話でしか聞くことができない。それが世界の全て
だ。
女王様が生まれたときからの全て、君の生い立ち、そして二人の馴れ初め、君が奴隷に
なった経緯、全ての情報をワンダ様たちの立ち話で聞いて知っている。勿論、王宮内の、
いざこざから対立、反目、ゴシップまで隠し事の全てを知っている」
人間便器が、初めて会った僕に語り始めた。
「そんな全てを知られてしまったら、女官たちも困るんじゃあないですか」
僕は思ったことを口にした。
「それは大丈夫だ、人間便器と会話しようとするワンダ様などいない。我々は単なる便器
なのだ」
自嘲的でもあったが誇りにも感じられた。
「ここは、ワンダ様たちが秘め事を大っぴらに話せる唯一の場所なのさ」
その横に設置された人間便器が言う。彼は黄色人種だった。一番手前が白人、次に黄色
人、真ん中が黒人、そして対に黄色人、白人と5人の人間便器が並んでいる。この色の配
列もインテリアデザイナーが考えたのだろう。
「しかし、エリザベーラ女王様が、このトイレに入って来られるとは思ってもいなかった。
専用人間便器があるはずだ。君を連れているなら、君を人間便器として使う筈だから尚更
に此処に立ち寄る機会はない。それなのに、ここに君を置くためだけに入ってこられた。
いや、偶然とはいえ君に感謝しなければならない。エリザベーラ女王様を現実に拝見でき
るなどとは思ってもみなかった。君のお陰だ」
嬉しそうに真ん中の黒人人間便器が言った。
「貴方がたは人間便器にされて不満は無いのですか?」
僕は前々から思っていた疑問を質問して見た。
「君は人間便器に憧れているのか?エリザベーラ女王様の専属奴隷と言う素晴らしい役目
がありながら、まだ、その下の、エリザベーラ女王様の専用人間便器に憧れるのか。少し
欲深くはないかな」
真ん中の黒人肉便器が続けて言った。
「そう言う事ではなくて、人間便器に誇りを持てているのですか、と言うことです」
僕は、自分の言いたいことが良く解らなくなってきた。
「僕は、日に3回は女官たちの脚で弄ばれて射精させられてしまう。その度に馬鹿にされ
罵られている。こんな幸せな日々があるだろうか。此処に至るまでの僕の苦労など、誰に
も解りはしないさ」
一番奥の白人人間便器が涙声で言った。
「解るよ、君が若くしてUSAの財務長官にまで上り詰め、苦労の末に此処に辿り着いた
ことを。ノーマルな家庭、ノーマルな奥さん、エリートとしての典型的な家庭人を演じつ
つ、この最低の地位を得るために努力してきた日々は辛いものだったろう。解るさ、ステ
ィアート君」
一番手前の白人人間便器が同調する。
「隼人さんは、アリーネ学院長様のマゾ化研究の論文は読んでいないので解らないと思い
ますが、マゾ化の条件としては、最低IQ120 以上が必要だと論じています。ただIQだけ
が絶対的条件ではないとも論じていますが」
黄色人の人間便器が言った。
アリーネさんには、そんな専門性があったのだ。僕は感心した。
「アリーネ学院長様の生い立ちを御存じですか」
僕は、丁寧に聞いた。
「ああ、儂が昔、アリーネ嬢様の家で仕えていたことがある」
真ん中の黒人肉便器が言った。
「とっても可愛い、お嬢様で、小さな頃から王宮へ、エリザベーラ女王様の遊び相手とし
て通っていた」
黒人人間便器が懐かしそうに微笑んで話し始めた。
「お嬢様の家柄は高位の貴族で、代々、行政庁のトップを歴任されている家柄で、当時の
女王様からも厚い信頼を寄せられていた」
黒人の目が遠い過去を見詰めていた。
「アリーネ学院長様は、どんな方だったのです?」
僕は興味が湧いてきたので続けて聞いた。
「お嬢様は3人姉妹の長女で、将来は家を継ぐことになっていた。そのため、ちゃんとし
た女性としての嗜みも教育されていた。儂は、そんな、お嬢様の教育の練習台としても使
われていたよ。お嬢様は、とても鞭打ちも巧くて、色々なバリエーションで鞭を巧みに使
いこなしていた」
黒人人間便器のパニスがムクムクと膨らみ始めていた。
「あぁ、お嬢様は 15 歳の時には、もう完璧に女性としての身嗜みをマスターされて、儂は
アリーネ嬢様の色香に弄ばされ、何時も、はしたなく射精させられていたものじゃ。まだ
15 歳でありながら、アリーネ嬢様には本当に辱められ惨めな思いを味合わされていたもの
じゃ」
黒人人間便器のパニスは鉢切れんばかりに膨らんでいた。彼の思いは過去の甘味だった
時点にまで飛んでいた。
「エリザベーラ嬢様の家庭教師のジェームズが拉致されてから、アリーネ嬢様の性格が一
変され、儂は、そのストレスの捌け口として徹底的に虐め抜かれてしまった。儂は手足と
肋骨も3本折られてしもぅた。それで、もう普通の奴隷として生きてゆくことは不可能に
なってしまった。
当主の当時、空軍のジェネラルだったアリーエ様が、儂のことを気の毒に思われ、儂を
肉便器に改造されて王宮に持ち込んでくださったのじゃ。アリーネ嬢様は気付かれなかっ
たが、ジェームズを拉致したのはエリザベーラ嬢様だった」
淡々と黒人人間便器は話した。
「えぇ?!」
僕は驚いて、声に出してしまった。
「エリザベーラ嬢様は昔から独占欲が強く、嫉妬深かった。ジェームズを得意の色香で落
としてしまった。その後、マゾに変えてしまい、人間便器になるように唆したんだ。ジェ
ームズは喜んでエリザベーラ嬢様の専用人間便器になってしまった。確か2,3日前に、
またエリザベーラ嬢様の基へ返されている筈じゃ」
突然、黒人人間便器は口を閉じた。
トイレの外から、華やかな若い女性たちの声が響いてきた。人間便器達は背を伸ばして
キチンと正面を向き口を大きく開けて、ワンダ様を待ち受けた。僕もトイレの床に額を付
け奴隷の礼をとって待ち受けた。
「たーいへん!陛下が、カレーリナ将軍の作戦を覆してしまったわ」
「カレーリナ将軍の面子、丸潰れよね」
「陛下は、前線に出向くそうよ」
カラフルなアバヤの娘たちが僕の前を通り過ぎる。
「あー!この黒人人間便器、凄く勃起してる」
「どれ?ホーンとー!脚で扱いてやるわ!」
「うぅうぅ・・」
黒人人間便器の呻き声がしていた。
「でたー!」
華やかな若い女官の喚起が響く。
「なんて、はしたない人間便器なの!」
「えい!」
黒人人間便器の倒れる音がした。
「あー跨っちゃうの!」
「舌を出して舐めろ!ほら、乳首が立っているよ」
「うぅ・・・」
若い女官達の粗暴な声に重なり黒人人間便器の呻く声が耳に響いていた。黒人人間便器
が更に苦しそうに呻いていた。
「みて!ピンピンに立っている!」
ぴしゃぴしゃと、パニスを扱く音が聞こえてきた。
「わー!また出たー!」
少女のような女官たちの甲高い艶やかな声がトイレに響き捲くっている。それと同時に
肉を蹴る低く鈍い音も響いていた。そして人間便器達が次々に倒れる鈍い音が続いた。そ
して娘たちは縦横無尽に走り回っていた。
「わー!なに?これ?」
新たな声が加わった。
「跨いで乗って、競争しましょ!」
人間便器達の苦しげな呻き声が重なって聞こえいた。パニスを扱かれるピチャピチャと
言う湿った響きがトイレ内に木霊している。直に人間便器達の喘ぐ声が口から漏れてきた。
「出たー!、私が一番よ!」
「二番!」
「ほら、どうした?!」
「三番!」
「四番!」
「さっき出したばかりだからってサボるな、ほら!頑張れ黒人便器」
「凄い、出たー!」
「年寄りなのに凄いね」
僕の視野に、ピンクのサンダルと白い華奢な足首が飛び込んできた。そのまま僕の頭に
つまずき僕の背中に尻餅をついて乗っかった。柔らかな温もりと心地よい重量感を背中に
感じた。
「あぁービックリした!こんなところに奴隷が居たわ!」
僕の背中に座り込んだまま若い女官が言った。
サンダルの床を擦る音が僕の方に集まってくる。僕は女官たちに囲まれてしまった。女
官たちの視線を熱く背中に感じた。
「なんで、こんなところに奴隷が居るの?!パーラ立ちなさいよ!」
僕の背中から重さが無くなった。僕の横腹を力強く押す女官が居る。僕は仰向けに転が
されてしまった。僕のパニスは金属管の中で膨らみ始めていた。
「ああ、この奴隷、もしかすると」
「そぅよ、陛下の専属奴隷よ!」
「噂の、舌使いの巧い?」
「そうよ!私は舐めさせたわ」
「わたしも!」
「どうだったの?」
「とっても素敵!陛下が羨ましくなったわ」
仰向けにされた僕の目の上に数名の艶やかなアバヤを纏った、エキゾチックな若い美女
たちが目に眩しく見えていた。恥ずかしさに膝を立て両手でペニスを隠した。
「この奴隷、まだ躾ができていないよ!パニスに勝手に手を持ってったよ」
足元の方にいる女官のアバヤから白く長い脚が伸びてサンダルが僕の手を蹴った。
「奴隷わね、命令無くペニスに触ってはいけないのよ。覚えておきなさい」
僕は手を蹴られたまま元に戻せなくなってしまった。若い女官たちの視線がパニスに集
中しているようで落ち着かない。それ以上に性的快感を感じ始めている自分を意識してい
た。
「やっぱり、パニスが大きくなっている」
「私も舐めさせたい!」
「今なら大丈夫よ、知らなかったことにしておけばいいのよ」
一人の若い女官が僕の顔を跨いだ。黄色いアバヤに僕は包まれた。黄色のパンティーが
キュートなお尻に張り付いている。
「セルベリーナ様、次、変わって頂けます?」
「いいわよ、パーラ。でも、お姉さまの陛下には内緒にしてネ」
僕の顔の真上で会話がされている。僕の真上に立っている女官はエリザベーラの妹なの
か。若い、ぽっちゃりとした手がパンティーにかかり引き下げられる。黄金の陰毛は女陰
のクレパスを隠すことが出来ないまま、僕の眼前に迫ってきた。ツンと酸っぱい臭いを感
じた。
「どうしたの!」
突然、エリザベーラの大きな声が響いた。
エリザベーラの妹がスーッと立ち上がった。目の前から若い女陰が遠ざかって行った。
「セルベリーナ、どうしたの?私の奴隷の上から退きなさい!」
妹のセルベリーナが、僕の上から去ったので僕は起き上がり奴隷の礼を、エリザベーラに
向かって行った。人間便器たちが転がされ白獨した精液があちこちに散乱していた。
「この散らかし様は、何なの!」
エリザベーラの怒りの声が頭の上を飛んでいた。
「陛下、申し訳ございません」
「お姉さま、ごめんなさい。ちょっと、はしゃぎ過ぎました」
「セルベリーナ、オシッコは終ったの?」
「まだです。お借りしても宜しいでしょうか、お姉さま?」
「私の奴隷は使わないで!それよりもスードラを呼んで片付けさせなさい」
エリザベーラの声は怖そうだった。
「はい、お姉さま、その通りにします」
エリザベーラが僕のパニスから垂れた鎖を床から拾って牽いた。股間が引っ張られた。
「行きましょ!」
僕はエリザベーラに牽かれ白い回廊に出た。
「セルベリーナも、すっかり、おしゃまな少女に戻れたようね。良かったわ。でも、危うく
隼人さんを人間便器に使われてしまうところだったわ。少女の、おしっこが飲めなくって
残念だった、隼人さん」
僕は答えられなかった。確かに一瞬期待してしまっている自分はいた。
「隼人さん、これから戦場よ、一緒に行ってね」
エリザベーラが突然に言った。
僕は驚いた。
= 戦
場(エリザベーラ)=
右腕に隼人さんの股間から延びる赤い手綱の輪を通し、左手で戦車の後部に据え付けら
れた梯子の横棒をしっかりと握った。左手に力を込め身体を引き寄せ、梯子の一番下の段
に足を掛けてよじ登った。目の前には砂色の戦車の装甲しか見えず、上を向くと砂漠の青
空が光って見える。この梯子はどこまで続くのだろうか。たった数メートルのはずなのに、
なかなか上に辿り着かない。漸く車体の上に登り着いた。さらにその上には、砲塔の小山
が聳えて見える。長い砲身が、前方にいるであろう見えない連邦政府軍の方を向いている。
砲塔まで登る梯子が目に入った。そこまで数歩。そして最後の梯子をよじ登る。
急に視界が開けた。地平線は砂漠と同じ色をした戦車群によって隠されていた。二列横
隊に地平線を埋める一千台の車列が見て取れた。その戦車の車列の合間に、やはり砂色の
軍服に身を包み、銃を手にしたスードラの徒の兵士達が群れていた。
さあ、私の出番だ。自分に気合を入れた。
足元には砂色の奴隷スーツに身を包み膝立ちした隼人さんが、砂漠の様子に見入るよう
に控えていた。
「椅子!」
隼人さんを見下ろして命じた。
すぐに隼人さんが四つん這いで近づき、私を見上げてから横向きになった。
私は両手で両耳を覆うヘッドホン・システムを整え、左目の前にアイ・スクリーンを下
ろした。これで色々な情報を観ることができる。
サンダルを脱ぐ。このほうが隼人さんの背中の上で安定して立っていられるからだ。ア
バヤの内側のホルターに差した鞭を取り出し、左手に持った。隼人さんの背中に右足を上
げ、一気に身体を持ち上げる。それでも隼人さんの背中は微動だにせず、しっかりとして
いて頼りがいがあった。
視界が数十センチ高くなっただけで、さらに遠くまで見渡せる。全ての兵士達の目が私
に集中していることがヒシヒシと感じられた。
さあ、彼らに語り掛けなければ。
大きく息を吸い込み、左手を掲げ鞭を青空に向って振り上げた。紅い鞭が気持ち良く青
空の中に、蛇のようにゆっくりと延びてゆく。延び切った瞬間、鞭の音が乾いた空気の中
に響く。2万の兵士の口から、どよめきが起こった。砂漠に吹く風とともにどよめきの熱
い振動が身体を包む。真っ赤なアバヤに身を
包む私自身の映像を、アイ・スクリーンで確認できる。感動と緊張で身体が震える。
そうだ、言葉を投げて兵士達に勇気を与えなければ。舌先で唇を塗らした。
「兵士諸君! ワンダ女権国の栄光のための作戦はすでに始まっています!」
話し掛けはじめたが、何を語ったら良いのだろう。口をついて出る言葉に任せるしかな
い。
「両隣国側、50 キロメートルのところに位置する国境では、すでに連邦政府軍に対して交
戦が開始されています。前面に大挙する連邦政府軍は、すぐにも動き出す気配を見せるで
しょう。その時がワンダ女権国の運命を決するときです。
私の命に従い、正面の連邦政府軍に対し、最大の気概を持って戦うことを命じます。勝
利は私の手の内にあります。全兵士の力を結集し、積年の恨みをここに晴らしましょう!」
最後に鞭をもう一度、青空に向けて振った。パチンと一鳴りした鞭が帰ってきた。鞭先
が少しずれて隼人さんの股間を襲ってしまったようだ。隼人さんは小さく呻いただけで、
ビクともしなかった。
調教の成果が出ているようだわ。私への忠誠心が増してくれば、どんな苦難にも耐えら
れるようになるでしょう。隼人さんには、信頼できる私の可愛い奴隷になってほしい。
あとは、前面に展開する連邦政府軍に動きが出れば、この作戦は成功する。今はただ待
つだけだ。
隼人さんとは不思議な出会いだった。お母様が決めたUSAへの留学に反発して断ると、
法皇様が、ならばヤバーの大学はどう、と進めてくださった。なんとなく私は、東洋の奇
跡と言われた伝説のヤバーに興味を持っていた。お母様も、ヤバーならと許してくださっ
た。法皇様には、私の未来の全てが見えて
いるようだった。隼人さんとの出会いも一瞬の偶然だったように感じられたけれど、それ
も定められた運命だったのかもしれない。あのとき、ホームに入ってくる電車が一本違っ
ていたら隼人さんとは出逢えなかったのだから。
“陛下、中央指揮所です”
思いは中断され、突然にヘッドホンの中に言葉が進入してきた。
そうだ、戦場に集中しなければ。でも、敵に動きは生じていない。
“かねてより調査していました、敵兵士の携帯のユビキタスID、1万個分が入手できま
した。すでに、歩兵部隊の銃弾に敵兵士の携帯ユビキタスIDのデータを送信し終ってい
ます”
それは凄い! この戦闘は確実にワンダ女権国軍の勝利へと導かれるだろう。
「隼人さん、この戦いは我が軍の全面勝利となるわ!」
嬉しさのあまり、隼人さんに話しかけてしまった。
「先ほど、連邦政府軍の 20%の兵士達の携帯端末の通話番号を手に入れました。本当は認
識票のユビキタスIDを手に入れたかったのですが、それは極秘事項なので入手も困難だ
ったの。でも携帯端末の通話番号なら簡単に手に入れることができます。その携帯番号か
らユビキタスIDを割り出すのは簡単な作業です。隼人さん、ユビキタスを知っています
か?」
戦闘が始まるまでに、まだ時間がかかりそうだ。少し隼人さんを困らせて遊んでやろう。
「たしか……全ての生産物に埋め込まれた情報タグで、工業製品や動植物、人間にも出産
時に埋め込まれ、自動識別情報と併せて、その物の仕様を表示し、ネットワークからの情
報を得て機能をバージョンアップさせることや、外部からの指示で動作させる事もできる。
そして、衛星測位による現在位置情報を併せ持っている。
2000 年頃から開発が進み、2010 年代に世界標準が定められた。ナノ・コンピューターの
普及と併せて全生産物に埋め込まれるようになり、その識別個別IDをユビキタスIDと
言う」
完璧だ。流石に隼人さんだ。
「さすが隼人さんだわ。明解な回答ね。それで認識票のユビキタスIDの代わりに、敵の
所属隊長の持っている携帯端末に目を付けたのです。携帯端末を持っていない人はいませ
ん。隊長は常に部下と連絡を取るために、配下の兵士達の通話番号を把握しています」
私は、この緊張感の高まりから逃れるために話し続けた。
「・・・・・・・敵兵士の携帯端末の個々のユビキタスIDを弾丸に入力したので、個別
に敵兵士の携帯端末の位置情報が利用できるようになったの。我が軍兵士の発射した弾丸
は、敵兵士の持つ、それぞれの携帯端末のある位置へ向かって秒速 300 メートルのスピー
ドで向かうでしょう。そして、そのまま貫通するのです。
・・・・・・・・・。
仕掛けはそれだけではありません。さらに別の 20%の敵兵達のイスラム教義に外れた恥
ずかしい行為や、法に触れる不正、知られたくない破廉恥行為等の個人情報も、以前から
ネットワーク上で収集していたの。そういった後ろめたさを持った兵士達には、
『その情報
を暴露されたくなかったら、戦闘が開始されると同時に逃げ出す』ように脅しを掛けてあ
ります。
『もし逃げずに戦闘をするようなら、その秘密をインターネットで公開する』とも
脅しているの・・
・・・・・・だから隼人さんは安心して見ていてくださいね」
一気に隼人さんに喋ってしまった。
「でも隼人さんの助言のとおり、連邦政府軍を海岸へ追い詰めたら、そこで戦闘を中止さ
せて和平交渉に入るわ。心配しないでね」
敵の陣容を捉えた衛星画像に変化が見えた。敵の機甲師団が両側から外側に向けて移動
し始めている。敵は両側から攻め上がってくる、ワンダ女権国軍の機甲部隊に気が付いて、
防御軍を送ろうと決断したのだ。既定の作戦はキャンセルされた。今がチャンスだ。
私は鞭を高くかざし、空に向って振り上げた。鞭の音が響く。
「進行!」
一言、大声で命じた。
敵側に面した最前列の1千台の戦車砲が、轟音を発して砲撃した。空気を振動させる轟
音とともに、身体も震わせる。
1・2・3・4・5
頭の中で秒数を数えた。
手前側に展開する1千台の戦車群の砲塔が砲撃に移った。光が、轟音が、振動が、次々
と身体に襲い掛かってくる。
1・2・3・4・5
再度、秒数を数える。奥側の戦車の車列が再び砲撃する。
1・2・3・4・5
私は、また数を数えてしまう。
手前側の戦車列が砲撃する。眩しい光の列が目を襲い轟音に身体が震える。
1・2・3・4・5
頭の中で勝手に数が数えられている。
砲撃だ!!
次々に繰り返される砲撃の光と轟音と振動に酔ってしまった。砲撃は延べ 12 回繰り返さ
れた。その間、敵側からは1発の砲弾も返されてこなかった。
次の手段に移る頃合だった。
「かかれー!!!」
次の命令を、大声で発した。
我が戦車群が一斉にキャタピラの音をガチャガチャと響かせて前進した。徒のスードラ
の歩兵達が大声を発し、戦車の車列と一緒に押し出されていった。濛々と砂埃が青空を埋
めるように立ち上っていく。
少し遅れて、敵陣地からの砲弾が数発飛んできて着弾した。すでに主力部隊は前進して
いる。着弾地点にはほとんど兵士は残ってなかった。それでも最後尾を進む歩兵の中に着
弾したので、砲弾の炸裂で数名の兵士が吹き飛ばされていた。着弾地点から 300 メートル
と離れていなかったので爆風が私のところにまで届き、アバヤが引き剥がされそうになび
いた。それでも隼人さんの背中の上で足を踏ん張り、爆風に向って身体を倒して堪えた。
落ちてなどいられない。
“陛下、指揮所です。敵の中央部では大混乱が起きています。大部分の敵兵が海に向かっ
て遁走しています。銃も捨てています。直撃弾を受けた敵の装甲車両はコントロールを失
い暴走し、徒の兵士達を踏み潰しています。あと 10 分ほどで我が軍の機甲部隊と接触する
でしょう。我が軍の歩兵は遅れています。機甲部隊から 10 分ほど遅れてしまいました。し
かし、我が軍の大勝利には間違いありません。陛下”
「機甲部隊のスピードを落とさせなさい。歩兵を急がせて。15 分後に、敵最前線に同時に
投入させなさい」
私は命じた。すぐに命令の反復があった。
“機甲車両のスピ−ドを落とさせます。スードラを急がせて装甲車両に追い付かせます。
15 分後に揃って敵陣に投入させることにします、陛下”
私はワクワクしていた。我が軍が敵陣に接する前から、敵は背走に入ってしまった。隼
人さんの思惑がピッタリと当たっている。人間は想定していない事態に直面したとき思考
が停止してしまう。一時的にしろ、そこに付け入るチャンスが生まれる。敵にとって、両
側から攻撃に晒される事態になろうとは思ってもいなかっただろう。
両国境側では、F自治国軍、H自治国軍と連邦政府軍を含む2万にも及ぶ軍勢が、ワン
ダ女権国軍の僅か5千ずつの兵力に対して睨みを利かせていた。その4倍の兵力を蹴散ら
し、まさか5万の本隊に向かって迫ってこようなどとは想定もしていなかっただろう。
その、想定していなかった事態に対処するために、30 分近い時間を要して、漸く作戦変
更に踏み切ったのだ。それ以上の時間が掛かったとしても不思議ではない。もっとも躊躇
していたら1時間を待たずして両側から我が軍の攻撃に晒されてしまう事態になる。緊急
に両脇の1万ずつの機甲部隊の再編にあたったのだろう。よく 30 分で移動体制に漕ぎ付け
たものだと感心する。
新たな防御布陣が決まって動き始めたところに、前面からの我が軍の砲撃だ。プログラ
ムの再再修正は不可能だ。敵ながら可哀想に思えてくる。それでも3分後に射撃を返して
くる敵兵がいたとは感心させられる。外人部隊の本物の軍隊屋もいたのだろう。当然に雇
われ外人部隊も編成の一部に入っている。
外人部隊とは、確実に勝利する方に集まってくる。戦勝に託けて金品を略奪するのが第
一目的の、ハイエナのような連中だ。我が女建国に忠誠を誓うスードラ達とはまるで違う
人種なのだ。
“陛下、指揮所です。敵最前線と接触しました。すでに敵兵の全ては海岸に向って敗走中
です。歩兵と機甲部隊が前線を囲みつつ、海岸へ追い詰めています。敵中央部隊に対し、
分散した1万ずつの敵機甲部隊からも砲撃を浴びせられています。
どうも敗走する自国軍を我が軍と勘違いしているようです。その両側から迫る我が機甲
部隊の砲撃に追い立てられる形で、分散した敵機甲部隊も同じく海岸へ向け後退していま
す。敵は完全に袋の鼠です、陛下”
嬉しい情報だった。そう、ここからが肝心なところだ。
「海岸にまで追い詰めたところで、戦闘を中止させます。そのタイミングを連絡して。そ
こで私が中止命令を発します」
私は言い切った。さあ、これで新たな展開が始まる。心が晴れやかに高揚していた。
待つこと 15 分。
“陛下、指揮所です。敵全軍を海岸線に追い詰めました。我が軍は掃討戦を展開中です。
陛下”
指揮所の参謀も高揚しているようだ。
「ありがとう。作戦を終了する」
最後に指揮所に伝えた。
「全軍、作戦中止!! 射撃止め!!!」
私は大声で命じた。
アイ・スクリーンに映し出された戦車群が動きを止めた。しかし、徒の歩兵達は構わず
に車列の前面を越えて突き進んで行った。銃を前方に構え、射撃を続けている。敵の戦車
群は波打ち際の手前で、全て動きを止めていた。徒の敵兵だけが、その戦車の陰から辛う
じて発砲していたが、我が軍の歩兵に左右か
ら囲まれ、戦車の影から逃げ出すしかなくなり砂浜に打ち寄せる波間に駆け込んで逃げて
行く。その背中を我が軍の銃弾が襲う。数発の光の弾道を一身に受けて、敵兵の身体は完
全に分解されたように飛び散る。硝煙と水蒸気に覆われた戦場は光を失い、灰色と黒だけ
が支配する世界に変わっていた。
「撃ち方、止め!!」
私は再度命令した。誰も聞いていないのか。
「やめなさい!」
呟くように怒鳴るしかなかった。
「やめろ!!」
大声で命令した。
虚しかった。無数の銃弾が、海の中の黒い敵兵の群れる人山に向って光の道筋を作って
いた。銃撃され倒れてゆく敵兵で黒い人山がだんだんと低くなっていく。
ここに立っていても仕方ない。砲撃の音は、まだ聞こえてきていた。最前線は狂気に支
配されている。
隼人さんの背から降りた。戦車の梯子を降りて、砂の上に設えたテントに向かった。中
には十数台の大型ディスプレイが置かれ、数人のジェネラルと上級士官達が立ち尽くして、
ディスプレイに見入っていた。私が入っていっても、誰も気付かない。私もディスプレイ
の前で立ち止まり魅入ってしまった。
くすんだ灰色だけが支配する戦場が広がっていた。時々白く輝く光は、弾道か爆発だっ
た。くぐもった破裂音とともに身体全身を震わす響きがスピーカーからでなく伝わってく
る。テントの部厚い布も一緒に震えていた。
黒いシルエットとなった兵士達が灰色の悪魔の世界を徘徊していた。ゴロゴロと転がる
死体は手足首もなく、胴体もまともに整ってはいなかった。恐ろしい地獄の光景とは、ま
さに目の前に広がるこの事だった。
なんという惨さなの! これが戦場なの?
目はモニターに釘付けになり、辛うじて幾つものモニターの間を瞳だけが動き回る。
何時しか散発となった爆発音以外は何も聞こえてこない静かな戦場風景になっていた。
時々、何か動くものがあると無数の弾丸が光の航跡を描いて、そこに集中する。敵の兵士
であれば、その肉体は無残にもバラバラに粉砕され、肉片が飛び散る。
スパイ衛星から、ステルス航空機から、戦車・装甲車に備え付けられたカメラの望遠レ
ンズから、それぞれ送られてくる映像が幾つものモニターに多角的に映し出されていた。
さらに、その無慈悲な光景を拡大までして見せてくれる。
血の色彩すら光の乏しい戦場では、真っ黒に染まっている。紅蓮の炎すら色を奪われて
白く輝くだけだった。空を覆う不気味な黒焦げの金属塊が、のた打ち回っていた。コント
ロールを失った敵の戦車だ。そんなものにまで戦車弾が集中し、沈黙させてしまう。
砂漠の砂は人間の肉片で覆い尽くされ、その血と肉の黒い海を銃を持った兵士たちが這
いつくばり、泳いでいるようにも見える。暴走している戦車のキャタピラは、その肉片を
さらに細かく踏みにじって蠢いている。その戦車にも集中砲火が浴びせられ、凄まじい閃
光の後には黒い沈黙だけが待っていた。
次第に動くものすら見当たらなくなり、銃弾も砲弾も白く輝く火炎も控えめになってい
った。モニターに写し出される映像も黒一色に巣食われていく。
幾つものモニターが、いつまでもその無残な光景を多角的に捕え、拡大して見せ続けて
いた。
遠く海岸の波打ち際を捉えた映像が送られてきた。暗黒の海水が山の壁のように聳えて
いた。ゆったりとした海水の蠢きの下に、白い波頭が遠くから打ち寄せてくる。その波頭
だけが無数に白く輝いていた。遠浅の海岸の海の奥に数千人に及ぶ人間の群れが、山とな
って沖合いに押し出されていく。無数の光の
航跡が、その黒く蠢く人の山に向って集中砲火を浴びせていた。
「戦闘、中止!」
私は再度叫んだが、無音の戦場には、まったく届いていないようだった。
「撃ち方、止めーっ!! 」
大声で命令を発しているが、誰も聞いていないのだろうか。
どんどん盛り上がってゆく黒い海面上の人山は、銃弾の光る無数の航跡の集
中砲火を浴び、みるみる高さを減らしていく。
味方のスードラの分隊長のヘルメットに装着されたカメラからは、水平線の際だけは青
い空と海の色が観て撮れた。そこに迫撃砲の弾丸が無数に降り注ぎ、水の柱を幾つも幾つ
も作っていた。
ジリジリとした時間経過の中、戦況は終結へと向かっていたが、私にはまるで一瞬の出
来事だったようにも感じられる。
私は戦闘の中止を命じたのだろうか。確かに命じたはずだ。その命令は前線の兵士達に
無視されただけだ。血に飢えた男どもを、命令どおり動かすことなどできはしない。ワン
ダ女権国軍の下級兵士は全員、男どものスードラで構成されている。男の闘争本能に火を
点けてしまったら、燃え尽きるまで治まることはないのだ。女の上官が冷静であったとし
ても、闘争を快楽と感じる男の性を沈静化させることなどできない。前線の殺戮の渦中で、
私の命令など無視されてしまうのが当り前なのだ。歴史上、欲望に勝てた人間など存在し
ない。
無残な戦場の惨劇がモニターを通して目の前に広がっている。テントの布を震わせてい
た音も、遠くから遅れて聞こえてくる爆発音も収まってきた。血と砂と硝煙の臭いがテン
ト内にも充満していたが、嗅覚はすでに麻痺してしまっている。しかし、私の全身の皮膚
だけは、すぐそこの戦場の風景の全てを感じ
取っていた。
そこは死に行く敵兵達の魂の叫びが満ち満ちていた。恐ろしかった。五感から受ける全
ての恐怖に身体は萎縮し、ガチガチに固まっていた。
誰かが腕を引いた。振り返るとカレーリナ将軍だった。
「陛下、大丈夫でしょうか」
カレーリナ将軍が耳元で聞いてきた。私は答えられなかった。
「戦場とはこんなものです。テントを出ましょう、陛下」
カレーリナ将軍に促されるままテントを出た。外はテントの中以上にムッとした。
「陛下、宮殿に戻られ、気分を変えられては如何でしょうか」
「そうしましょう」
カレーリナ将軍の声に少し意識が戻り、やっと声が出せた。
「では、鞭打ちの用意をしておきます」
厳ついが、真面目なカレーリナ将軍の顔が目の前にあった。頼りがいのある将軍だ。
「おねがい」
やっと一言、私は頼んだ。
「では、廃棄奴隷を用意しておきます。鞭打ちで殺されてもかまいませんので、思う存分
鞭を振るってご気分を変えてください。
このような残虐な行為は戦場では当たり前です。陛下には冷静さを保っておいて頂かな
ければなりません。では手配しておきます」
恭しく言葉を繋ぎ、カレーリナ将軍が装甲車のほうを指差した。
そう、こんな時はストレスを発散させなければならない。次の指令も出さなければなら
ないのだ。落ち込んでいる暇はない。こんな時に気分を変えるには鞭打ちが一番よ。廃棄
奴隷を一匹殺してやれば、気分も晴れやかになれるわ。
カレーリナ将軍の提案で次に進めそうな気がしてきた。用意された装甲車の巨体が目の
前に移動して来た。扉が上に跳ね上がって開いた。装甲車に乗り込み、シートに座ると私
は目を瞑った。
一斉射撃で眩しく光る戦車砲の砲列から始まった戦闘だった。その後、キャタピラを響
かせ戦車隊は前進して行った。すぐ近くに敵からの砲弾が着弾し、爆風が私の身体を包ん
だ。あとは、ただ左目の前を覆うアイ・スクリーンを見ていただけだ。私は一言の命令も
発していない。いや、
『掛かれ!』と一言、言った。私はワクワクとした気持ちで、全軍が
出ていくのを観ていた。どこから、あの悲惨な光景に替わったのだろうか。
グルグルと戦場の醜い光景が脳裏をよぎっていた。とても眠れないだろうなと思った。
でも何かが足りないという思いもしていた。来る時にはとても幸せな気持ちだったのに、
何を忘れてきたのだろうか。何か大切なものを戦場に忘れている。
疲れが一挙に押し寄せてきた。私はまどろみ、すぐに眠りに落ちていった。
気が付くと装甲車は王宮に着いていた。ファミーレが私を見下ろしていた。夢遊病者の
ような私は、ファミーレに手を牽かれ居室まで導かれた。
「……さんは、どうされましたか? 陛下」
ファミーレが尋ねていた。何を言っているのだろうか、言葉が捕らえられない。身体は
緊張感に支配され、ぎこちなくしか動かせなかった。寝室のベッドの上に漸く腰掛けると、
ファミーレがお茶を持ってきてくれた。熱いお茶を啜って身体を暖めた。
親衛隊長が寝室のドアをノックして入ってきた。
「陛下、鞭打ちの御用意が整いました」
なんとか一人で立ち上がり、続き部屋になっている仕置部屋へ入った。照度の落とされ
た薄暗い部屋の中央に両手を天井から吊るされた奴隷が爪先立ちしている。何のためだろ
うか目をゴーグルで覆われ、股間は金属性のサポーターが覆っている。
奴隷が蠢き、何か呻いた。恐怖に怖気づいているのだろう。恐怖に支配された奴隷は良
い状態といえる。
アバヤの中に戻しておいた最前線で振るった長い一本鞭を引き出し、前に突き出して構
えた。腕を大きく後ろに引く。最初から思い切って鞭を振り下ろしてやった。思いどおり
に勢い良く、鞭先が奴隷めがけて走っていく。空気を切り裂く高い音を響かせ、鞭先が廃
棄奴隷に向かって延びていく。奴隷の胸で、肉を打つ音が重く響く。奴隷は思った以上の
反応を示して叫び身体を捩る。よほど痛かったのか、演技派の奴隷なのか。性的快楽を感
じさせる奴隷だ。
次も思い切って腕を後ろに引き、手首のグリップを利かせ、そのまま力任せに前に振り
下ろす。鞭先は再度、気持ちよく奴隷に向かって伸びていく。奴隷の胸を打ち据えた感触
が、握る鞭の柄に還ってくる。奴隷も胸を大きく反らせ、さらに大きな声で呻いた。つま
先で床を蹴り、身体が回転していた。なんと面白い奴隷なのだ。こんなに反応の良い廃棄
奴隷は初めてだ。殺しがいがありそうだ。
2発の鞭打ちでずいぶん気分が良くなった。続けて3打、4打と打ち据えた。奴隷の呻
き声が私の性感を刺激する。私は夢中で鞭を繰り出した。滅入っていた気分は徐々に昂揚
して晴れ上がっていく。なんて気持ちが良いのでしょう! 廃棄奴隷は気絶してしまった
のか、呻き声は止んでいた。最後に股間に向け
て鞭を走らせ、最後に顔面を鞭でぐるぐる巻きにしてやった。
せっかく気絶した奴隷は、股間への一撃で目覚めてしまい激しく悶えた。鞭が頭部をぐ
るぐる巻きにしたので呼吸もできないだろう。鞭はすぐに解け、手元に戻ってきた。
きっとマゾ奴隷に違いない。股間を大きく膨らませていることだろう。それを甚振って
やろう。
私は奴隷に近づき、股間を覆う金属のサポーターを蹴り上げてやった。廃棄奴隷は元気
良く大声で叫んだが、厳重に咥えさせられたボールギャグのせいで、呻き声にしかならな
い。
楽しい反応を示す廃棄奴隷だ。回し蹴りを胸板に入れてやる。足先には、心地よい肉の
感触が響く。2発、3発、4発、気持ちよく脚が上がる。筋肉は解れたようだ。廃棄奴隷
は、いちいち反応して痛がっている。正拳で胸を思い切り突いた。肋骨の折れる鈍い音が
響いた。拳に心地よい痛みと、骨の弾力が砕ける振動が伝わってきた。
充分に満足したので滑車を廻し奴隷を床に仰向けに倒した。廃棄奴隷は力なく膝から崩
れ、床に寝そべった。
鞭打ちで殺したのでは、つまらない。股の間で締め付けて、濡れた女陰の中で溺れさせ、
悶絶死させてやろう。
廃棄奴隷の口に銜えたボールギャグを外し、パンティーを履いていない私の股間で奴隷
の顔を跨ぎ、しゃがみ込んで奴隷の顔の上に覆い被さった。
奴隷の舌が、私の女陰の襞を弄る。この舌さばきは、どこか懐かしさを感じさせるもの
だ。そうだ、隼人さんと同じだ。こんなに隼人さんと似た舌使いをする廃棄奴隷がいるな
んて、思ってもみなかった。私は安心感に浸って完全に昂り詰め、絶頂を迎えていた。
廃棄奴隷の顔面をさらに強く圧迫して呼吸を妨げて舌を使わせ続けた。
なんとタフな奴隷なの。このまま私の女陰の下で窒息させて、溺死させてあげましょう。
何度も昂り詰めながら思った。
嗚呼、隼人さんを、こんな風に甚振れたら嬉しいのに。頭の片隅に、そんな思いを感じ
させる舌使いだった。それほどに舌使いは隼人さんそっくりだった。
私の女陰の愛液の中で溺れて殺されれば、この廃棄奴隷にとっては本望だろう。意地悪
く私は女陰で完全に奴隷の鼻と口を塞いでやった。
廃棄奴隷は悶えながらも、舌だけは元気良く、一点だけを刺激してくる。なんと忠実な
舌なのかしら。普通は空気を求めて暴れ出すはずなのに、どうして?
私は苦しさに暴れまくる廃棄奴隷の顔の上で、暴れ馬を乗り潰すように押さえ込むのが
好きなのに。それなのに、隼人さんそっくりな舐め方をしている。も・し・か・し・て…
…。
え? 隼人さん……?
これは廃棄奴隷ではない。やっと、それに気が付いた。この廃棄奴隷は隼人さんなのだ!
私はすぐに立ち上がった。隼人さんの胸が大きく上下に波打ち、開かれた大きな口は、
深呼吸を繰り返している。目を覆うゴーグルを剥ぎ取った。意識を失った隼人さんの白目
を向いた可哀想な顔が現れた。次に股間を覆うサポーターを剥ぎ取った。勃起し膨れ上が
ったペニスが金属管の中で張り裂けそうに圧迫されていた。
仕置部屋の照度を上げた。血だらけで全身、蚯蚓腫れの隼人さんの、ぼろぼろになった
身体が長々と横たわっていた。膝の上に隼人さんの頭を乗せた。
意識の戻った隼人さんが微笑んだ。
「やっと、僕だと解ってもらえたね」
隼人さんが擦れた声を一言発した。
私は隼人さんの頭を強く抱きしめた。
大きな疑問が私を突き動かしていた。
許せない! カレーリナ将軍!
= 女王陛下暗殺 =
Bbcニュースで連日のように報道されていた、アラブ情勢を伝えるニュースが突然途
絶えた。それに代わり、ケンタウルス座アルファ星への初の有人恒星間飛行の話題がニュ
ースを覆い尽くした。
新たな恒星間航行の理論が実証され、短期間で目的の恒星系に到達できる航法が試され
ようとしていた。その最初の遠征が行われることをニュースは繰り返し報じている。船団
は、ニーニャ号、ピンタ号、そしてサンタ・マリア号の三隻に、クリストファーを隊長と
する 90 名の乗組員が分乗し出航していった。
ついにホモサピエンスは太陽系を脱し、無限の宇宙へと進出する手立てを手に入れようと
していた。まずは一番手前のプロキシマまで、4.22 光年の道程に挑戦する。その後、三重
連星のプロキシマ、リギルを訪れ、太陽系へ戻ってくるという計画だ。人類の大宇宙航海
時代の幕開けに人々が酔う気持ちは解るが、アラブの砂漠の中で行われていた悲惨な戦闘
行為は、今や取るに足りないニュースとなってしまったのだろうか。
しかし、後に聞いた話によると、世界中の国家が意識的にこの事件に関わることを拒絶
した、とのことだった。もちろん、世界中に散らばる、ワンダ女建国の信奉者である多く
のマゾ男、サディスト女性達の支援の裏工作が功を奏したところはあるだろう。それ以上
に、女が支配する女権国家との戦闘行為によ
って、まともな国の正規軍が壊滅させられてしまったことについて、そんな男
の軍隊が女どもの軍隊に負けてしまった事実を良識ある国家なら、公に報道するはずもな
かった。
マゾッホさんから後に聞いた話では、戦闘行為のあまりの悲惨さに報道のしようがなか
った、という。これが真実なのかもしれない。
悲惨な戦闘行為が行われた翌日の朝。東側、インド寄りの海岸に位置するイラソ首長国
連邦政府首都ミラーズの美しい海岸に、5万名にも及ぶ連邦政府軍兵士の無残な屍骸が流
れ着き、打ち上げられていた。
夜明けとともに首都は騒然とした。ミラーズの住民の全てと、観光に訪れていた沢山の
リゾート客が海岸に駆け付けた。その人の波が、道路にひしめいて無残な肉片で真っ赤に
染まった砂浜を眺めていたという。
海岸の波打ち際に打ち上げられた遺骸の肉片は、ミンチのように細かく裁断され、連邦
政府の住民にはお馴染みの砂色の戦闘服が無数に波間を埋めて漂っていた。軍勢において、
あれほど弱小と思われていたワンダ女権国軍の兵士の物は、なに一つ確認できなかった。
それよりも、味方の兵士達の身元を確認で
きる手段が何もないほどに人体は切り刻まれていた。その肉片は、DNA鑑定でしか個人
を特定する手段はなかっただろう。
椰子の並木が続く美しいはずの首都。そのリゾート海岸の砂浜は、真っ赤な地獄に変わ
ってしまっていたという話だった。
しかし、全世界のマスメディアは沈黙してしまっていたが、海水浴客の事故を監視する
ウェブ・カメラの映像だけが、真っ赤な肉片と切れ切れの肉体の一部、頭部、腕、脚、胴
体を映し出し、拡大すれば指、耳、舌、眼球、歯茎、内臓、パニスまでも正確に確認する
ことができた。その映像は、インターネットを通じて世界中の人々が見られるようになっ
ていた。
昨日まで連日報道されていたアラブ世界の危機に、誰もが感心を持っていた。それが突
然沈黙してしまったのだ。恒星系への旅行という新たなニュースで掻き消されてしまうほ
どの小さいニュースではないことを世界中の人々は感じ取っていた。その報道の仕方に疑
問を抱かない人はいなかった。
中東の一地域で何が起こっていたのか、どこの報道機関も沈黙していたが、インターネ
ット社会において隠し事は不可能だった。
誰もが知ることとなったのは、恐怖の女王陛下、エリザベーラの雄雄しい姿だった。
黄色い砂埃を背景に赤いアバヤの袂を風にはためかせ、長く赤い一本鞭を振るう、金髪
で青い瞳のエリザベーラの美しい姿は、いつまでもインターネットの裏サイトで繰り返し
見ることができた。もちろん、楽しんで見ていたのは全世界のマゾ男達だったが。
(王宮内診療所の一隅)
何も見えない、何も感じない、明るくもなく暗くもない、ほんのりと温もりを感じては
いた。静かだった。僕はどうなってしまったのだろうか? エリザベーラに殺されそうに
なったが、なんとか僕だと解ってもらえた。しかし、その後、意識がなくなってしまった。
あの時、僕はエリザベーラに殺されそうになりながらもパニスを勃起させていた。あの
まま殺されていたとしても僕は幸せだったろう。僕は完全にマゾになってしまった。エリ
ザベーラにも解ってしまったかもしれない。これから僕はどうなっていくのだろうか?
先の見えない不安に、僕は落ち着かないでいた。何よりも本当にエリザベーラの奴隷とな
ってしまうことを、どう考えたら良いものか納得できないままでいた。
幾つかの足音が聞こえてきた。近づいてきて、僕の脇で止まった。
「ミイラの棺みたいね」
「これは最新型の療養用ポットよ」
「奴隷にそんな高価な医療器具を使っても良いの?」
「陛下のご命令ですもの、仕方ないでしょ」
「それで、診療室の物置なの」
「それは仕方ないでしょ! 奴隷なんだから」
「でも、診療所のベッドを使わせれば陛下に対しての点数も上がるわよ」
「そんなこと、できないわ。王宮内の風紀が乱れます。これが限界よ」
「そうよね、奴隷なんですものね」
「3日後には出ていってもらいます」
人の気配が去っていく。ここは王宮の診療所の物置だったのか。ドアが閉められたよう
だった。
僕も眠りに落ちた。
夢を見た。
僕は、黒のタキシードに身を包んでいた。赤いアバヤのエリザベーラと並んでいる。エ
リザベーラが僕に微笑みかける。
「違うでしょ、隼人さん。裸になりなさい」
エリザベーラが命令口調で言う。
僕はタキシードを脱ぎ、下着もすべて脱いで全裸になって跪く。
「違うでしょ、隼人さん。奴隷の礼をしなさい」
エリザベーラは僕を蔑むように見下ろしている。
頭を床に付け、両手を頭の前に長く伸ばし、奴隷の礼をした。エリザベーラの長い脚が
伸びてきて素足で僕の頭を踏む。
「仰向けに寝なさい」
エリザベーラの声が頭の上から降ってくる。
僕は仰向けになり両腕を伸ばしたまま長く横たわった。勃起したパニスは天井に向かっ
て立ち上がっていた。
「なんなの、このパニスは!」
エリザベーラの怒った声とともに、真っ赤なハイヒールが棒状になったパニスを踏み潰
す。
「とうとうマゾになってしまったのね。こんな隼人さんは要らないわ」
悲しそうに、エリザベーラが言葉を吐き捨てる。
エリザベーラが僕に背を向けて去っていく。エリザベーラの背中が、だんだん小さくな
っていく。
「エリザベーラ!」
僕は叫んだ。
目が覚めた。
何の気配もしない。長い時間、僕は同じことばかり考えていた。僕はマゾになってしま
った。僕はエリザベーラの本当の奴隷となってしまうのだろうか。エリザベーラは僕をど
うするのだろうか。僕は間違いなくマゾ奴隷になってしまったのだ。
そして、また眠りに落ちる。
再度夢を見る。
一本鞭が襲ってくる。エリザベーラの手元から急速に、僕を目がけて鞭の鋭い先が迫っ
てくる。僕の胸で鞭先が跳ねる。快感が股間を熱くする。
僕の両の手は天井からの滑車に繋がれている。パニスが痛い。勃起したパニスが銀色の
金属管の中で、はち切れんばかりに膨れ上がり苦痛を与えられている。エリザベーラが近
寄り、脚を上げた。素足の先で僕のパニスを刺激する。
「隼人さん。どうしたの? これは」
エリザベーラの爪先が、勃起した僕のパニスを蹴り付ける。左右に振られたパニスはす
ぐに元に戻り、120 度の角度で聳え立っていた。隠しようもないマゾの証しだ。
「隼人さんはマゾ奴隷になってしまったのね。そんなマゾ奴隷なんて要らないわ、さよう
なら」
エリザベーラの手の中のスイッチが滑車を巻き上げ、僕は天井に向かって引き上げられ
ていく。エリザベーラが下方に小さくなって見える。僕はどこまでも登っていく。雲を突
き抜け、エリザベーラの姿も見えなくなってしまった。
僕は涙していた。
目が覚めた。
人の気配がした。
「この物置は汚いわね。ちゃんと掃除しているの?」
エリザベーラだ。
僕は声を出そうとした。しかし喉の奥にまで何かチューブが突っ込まれていて声が出せ
なかった。
「あと1日で全快いたします、陛下」
「明日の戦勝報告会には使いたいから、完全に治しておいて」
「畏まりました、陛下」
エリザベーラたちの気配が離れていき、ドアが閉められた。また僕は一人ぼっちにされ
てしまった。
何度目かの睡魔に襲われた。
また夢を見た。
エリザベーラの白い肌に唇を這わせている。豊かな胸の突起にあるピンクの甘い葡萄の
ような果実を口に含む。エリザベーラの柔らかな太股の先の膝頭が僕の股間を刺激してい
る。
突然、エリザベーラが僕を突き放す。
「隼人さん、どうして勃起しないのっ?」
僕のパニスはだらしなく下向きに垂れ下がっていた。
「跪きなさい」
エリザベーラが命令する。
僕はベッドの上に跪く。
エリザベーラが立ち上がった。僕の顔はエリザベーラの窪んだ臍のあたりにあった。エ
リザベーラの平手が僕の頬で炸裂する。何度もエリザベーラに頬を殴打される。すると、
僕のパニスはムクムクと立ち上がってきた。
「やっぱりマゾになってしまったのね。可哀想だけど廃棄します、隼人さん」
警備兵が二人、ベッドルームに入ってきて僕の両腕を取り、裸のまま部屋から引きずり
出されてしまった。
「さよなら、隼人さん」
背中にエリザベーラの声が聞こえた。
「嗚呼、エリザベーラ! 僕を捨てないでおくれ……」
僕は呻いた。
一人静かに泣いていた。涙が止めどなく溢れてくる。胸に大きな空虚感が詰まって、張
り裂けそうに膨らんでいた。
「隼人さん」
エリザベーラの声だ。
「もう大丈夫よ」
優しげな声だった。
僕は警備兵の手を振り払い、エリザベーラの基に走った。
目を開いた。
エリザベーラが微笑んで僕を見つめていた。彫りの深い顔立ち、青い瞳が美しかった。
僕は身体を起こし周りを見渡した。狭い物置の隅に置かれたベッドの上に、僕は裸で寝
かされていた。赤いアバヤに一本鞭を持ったエリザベーラが僕を見下ろしていた。
「立って。行くわよ、隼人さん!」
エリザベーラがパニスから伸びた鎖を引く。僕は慌ててベッドから降り、四つん這いで
エリザベーラの後についた。狭い物置を出て、診療所を後にした。
(王宮付き黒人人間便器)
儂は頭が痛かった。割れるような頭痛が時々襲ってくる。やんちゃな若いワンダ様に倒
されて、後頭部を殴打して以来、おかしくなってしまったようじゃ。こんなことは誰にも
話せん。そんなことが解ってしまったら、すぐに廃棄されてしまう。儂は最後まで頑張る
しかないのだ。今は痛みもなく落ち着いている。たぶん1時間は頭痛は襲ってこないだろ
う。
人の近づいてくる気配がした。儂ら5人は口を大きく開けて、ワンダ様の訪れを待った。
正面の入り口から、カレーリナ将軍様と警備隊長のリリーレ様がやっていらした。カレー
リナ将軍様が儂の右側の黄色人種の人間便器を跨ぎ、リリーレ様は、儂の左側にいるもう
一人の黄色人種の人間便器を跨いだ。儂はお二人の間に挟まれてしまった。リリーレ様の
御身脚の先が伸びて、儂のパニスを弄ぶ。嗚呼、幸せだ。
「では、いよいよ決行ですね、閣下」
リリーレ様が浮かれたように甲高い声で言われた。
「女王陛下暗殺計画の詳細を確認したい」
カレーリナ将軍は声を落とされて言われた。
リリーレ様の御身脚の先が、儂のパニスをぐりぐりとさすられる。儂は声を出さないよ
うに耐えていた。パニスがはち切れんばかりに膨らんでしまった。リリーレ様の御身脚が
引かれた。次にカレーリナ将軍様の御身脚が伸びてきて、代わって儂のパニスを踏み躙っ
た。御二人に挟まれた儂は幸せ者じゃ。
「尖塔にスナイパーを2人、配置させています。祝砲の3発目に合わせて狙撃させます。
陛下が倒れられましたら、閣下が一番に陛下を助けに駆け寄ってください。陛下を抱き上
げて“大丈夫だ”というふうにジェスチャーして、他のものを近づけさせないでください。
警備にはその旨伝えてありますので、ベランダには誰も出ることはできません。その間に
陛下は出血多量で死ぬこととなりますが。
まだ陛下の演説の前ですので、閣下が陛下を床に横たえて後を引き継いで演説してくだ
されば、統治権は自ずと閣下が掌握されることになります」
カレーリナ将軍様は少し考えられていた。儂のパニスはすでに限界に達し、白濁した精
液が噴出した。
嗚呼、何と幸せなことじゃ。
「3発目の祝砲ね、解ったわ」
お二人は去られた。
射精後の虚脱感の中で、今の会話が頭から離れなかった。これは重要なことだ。エリザ
ベーラ女王様の暗殺計画の確認を2人でされていたのだ。
エリザベーラ女王様が暗殺されてしまったら、あの残虐なカレーリナ将軍様が女建国を
乗っ取ってしまわれ、やがて連邦政府へ吸収されてしまのだろう。そんなことになったら、
ワンダ女建国はすぐに崩壊の一途を辿ってしまう。カレーリナ将軍様に女建国を維持して
いく才覚はない。人間便器の身とはいえ、儂らはこの女建国を愛しているのじゃ。そんな
崩壊の道筋を辿らせてはならない。しかし、人間便器の身では……。なんともできないの
ものじゃろうか。
カレーリナ将軍と入れ違いに、女王様と隼人さんが入ってきた。儂らは緊張して背を伸
ばし顔を上げて大きく口を開いて待ち構えた。
「隼人さん、またここで待っていて。すぐに戻ります」
そう言われて、隼人さんをトイレに置かれたままエリザベーラ女王様はすぐに出て行か
れた。
「隼人さん聞きましたよ、羨ましい限りです。女王様に殺されそうになったんですってね。
その噂を聞いただけで僕なんか勃起してしまいましたよ」
儂の一つ向こうの入り口に近いところに立った白人人間便器が、隼人さんに声を掛けた。
「舌使いの巧さで女王様に気付いていただけたとは……。尊敬してしまいます」
「やっぱり、舌人形が一番だなぁ∼。もちろん人間便器も最高ですけれど」
儂の隣の黄色人の人間便器が呟いた。
「舌人形といいますと?」
隼人さんが、それに反応して聞き返してきた。
「儂ら人間便器と似たようなものじゃが、舌が特に長くて膣の奥にまでご奉仕できるよう
になっている人間性具じゃよ」
「そう、ワンダ様を直接悦ばせることができる性具なので、家具奴隷の中では一番羨望さ
れている。隼人さんの舌使いは定評がありますから、将来はきっと舌人形に改造して頂け
るかもしれませんよ」
儂から一番離れたところに立つ、右端の白人人間便器のスチュワート君が説明した。
儂はさっきのカレーリナ将軍様とリリーレ警備隊長様の会話を思い出した。そうだ、隼
人さんに頼むしかない。
「隼人さん、大変だ。エリザベーラ女王様の暗殺計画が進行している」
儂は隼人さんに向って言った。
(舌人形)
黒人人間便器の話は驚くべきものだった。
このすぐ後に行われる戦勝報告会でエリザベーラを暗殺する計画を、カレーリナ将軍と
リリーレ警備隊長が話していたというのだ。それも、2人のスナイパーを配置して確実に
暗殺しようという周到な計画だと言う。すぐにでも何とかしなければ、大変な事態となる。
まずこの情報を、エリザベーラに伝えなければ。それもすぐに、だ。急がなければ手遅
れになってしまう。僕の心は気が気ではなくなっていた。早く、エリザベーラに戻ってき
てほしかった。
この謀略をエリザベーラに伝えれば、まもなくカレーリナ将軍とリリーレ警備隊長は逮
捕されるだろう。
心配することはない。エリザベーラはすぐ戻ってくる。大丈夫さ、僕の、エリザベーラ
を簡単に殺させはしない。
足音が近づいてくる。エリザベーラが戻ってきたのだ。その足音を聞いた僕はホッとし
た。僕は笑顔になっていた。これで、エリザベーラは助かる。トイレの床で奴隷の礼の形
をとり、エリザベーラを待った。
ひんやりとする床に額を付け、長く手を伸ばした先にエリザベーラが立った。でも雰囲
気が違っていた。いつもの金木犀の香りではなかった。その女官が僕の横に回り込んだ。
トイレに入ってきたのは黒のアバヤだと解った。エリザベーラの正装は赤のアバヤだ。黒
のアバヤをエリザベーラが着ることはない。僕は奴隷の礼をとったまま硬直した。
これは、誰なんだ?
黒いアバヤのワンダ様が僕の横腹に近づいてきた。そのワンダ様は、僕のパニスから伸
びる鎖を手に取った。
「奴隷、付いて来い」
ワンダ様が言った。
その声は紛れもなくリリーレ警備隊長の声だった。僕は身体を起こし、膝立ちした。や
っぱりリリーレ様だった。僕はドキッとした。今の話を聞かれていたかもしれない。
「女王様を待っているのです、動けません!」
僕は慌てて強い口調で拒否した。
腰に大きな拳銃を装着した警備隊長のリリーレ様が、僕に一歩近づいた。横を向かれた
と思った瞬間、リリーレ様の肘鉄が僕の顔面を直撃した。きな臭い匂いが鼻の奥をツンと
刺激する。リリーレ様の肘鉄の直撃を受けた僕は、そのまま後ろにひっくり返ってしまっ
た。鼻が潰れてしまっているかもしれないほ
どの痛みだった。倒れた時に後頭部も床に打つけた。頭蓋骨が割れそうなほどに響いた。
それよりも、鼻のほうが痛かったので手を鼻に持っていった。顔中が痺れている。鼻から
出た真っ赤な血が掌を熱く染める。
「何か勘違いしているな! 奴隷。陛下の専属奴隷だと思って、奴隷の立場を忘れている
な。女王陛下の専属奴隷だと思って奢っているのではないか?
奴隷は奴隷、他の奴隷と
一緒で虫けら以下なんだぞ。お前を殺したところで、陛下の心証を害するぐらいで罰せら
れることはない。俺に対して分を外すことがあるようなら、すぐにも殺してやる。覚えて
おけ!」
そう言いながら、リリーレ様は僕の顔の上に跨ってきた。そのままリリーレ様のアバヤ
の中に僕の顔が入ってしまった。リリーレ様が黒いレースのパンティーに手を掛けられて
引き降ろした。黒のパンティーを片脚だけ脱ぐと、ふさふさとした陰毛が僕の顔の上に近
づいてきた。あっという間に僕の鼻と口は、少し強張ったリリーレ様の陰毛に埋もれてし
まった。
「舌を出して舐めろ! ちゃんと舐めないと殺す!」
上からリリーレ様の強張った命令の声が聞こえた。
仕方なく、リリーレ様の女陰を舌先で捜し襞の間に舌を這わせて舐めた。ここで殺され
てしまっては、エリザベーラを守ることができなくなる。
リリーレ様の乾いた女陰は、チーズの強烈な匂いと、それに勝る強烈な渋い味がした。
「そう。そうやって、ちゃんと舐めるんだ」
リリーレ様が嬉しそうに言っている。
僕は女陰の襞の隙間に舌先を這わせて舐めていった。襞の間を綺麗に舐め上げ、クリト
リスを舌先で突付く。そして舐め上げる。乾いた砂漠に潤いの蜜が溢れ出てくる。口の中
に止めておけない程の大量の蜜が湧き出てきて、僕はその蜜を一生懸命に啜るしかなかっ
た。リリーレ様の喘ぎ声が上から響いていた。たちまちの内にリリーレ様は絶頂を迎え、
僕の顔の上で身体を硬直させていた。
「嗚呼―っ!」
大きな声でリリーレ様が叫ぶ。
僕は溢れ出す大量の愛液に溺れてしまいそうになっていた。リリーレ様の女陰が、完全
に僕の顔と口を隙間なく塞いでいた。両股が万力のように顔を圧迫してくる。僕の顔は完
全に柔らかな太股の中に押し込められ、固定されてしまった。完全な闇、密閉された隙間
もない空間、無音の世界。まるで子宮の中に突っ込まれたように、肉の内に押込められて
しまった。そのとき突然、乳首を摘まれた。性的刺激に僕のパニスが反応して膨らんだ。
僕はパニスに加えられる金属の鋲の痛さに呻いた。息苦しかったが性的刺激が全身を痺れ
させ、パニスに加えられる地獄の苦痛から逃れる術はなかった。舌の先を硬くし、リリー
レ様の女陰をさらに突いた。
やっと、リリーレ様が腰を上げた。女陰からは愛液が滴っていた。僕は息苦しさに激し
く胸を上下させて深呼吸を繰り返す。生きた心地がしなかった。だが、乳首への刺激は止
まなかった。パニスは膨れ上がり、金属管の中で苦痛に苛まれるしかなかった。
リリーレ様が立ち上がられた。僕は、やっと解放されてホッとした。苦痛に喘いでいた
パニスは直ぐに萎えた。
「噂以上の舌使いの上手さだ。トイレの中で感じてしまうとは、思ってもみなかったぞ。
明日には私の奴隷にしてやろう。そして舌人形に改造してやる。楽しみに待っているが良
い」
リリーレ様が独り言のように呟いた。僕には、その意味するところが理解できた。エリ
ザベーラが殺された後、僕は、こんな傲慢な女の舌人形にされてしまうのだろうか。ワン
ダ女建国が連邦政府に吸収されてしまったら、人間便器たちの運命も、この国に第二の人
生をかけて移住してきたマゾッホたちの運命も、夢を断たれて変わってしまうことだろう。
人間が欲望や本能を抑えることなく自由に、自己の欲求を発散できる世界が、ここワン
ダ女建国なのだ。欲望の捌け口に男を奴隷化して弄ぶ支配者としての女性達、弄ばれるこ
とを是非として、そこに快楽を見出した男達、そんな両者が作り上げた、地獄のようなパ
ラダイスが今、存亡の危機を迎えている。エリザベーラこそが最後の砦となっている。そ
んな、エリザベーラを、なんとしても殺させてはならない。絶対に守るのだ。僕は固く決
心した。
リリーレ様が、僕のパニスから伸びる鎖を牽かれた。僕は明るい回廊に出た。その回廊
の床に人型に拡げられた砂色のドライスーツが置かれていた。
「さっさと着て、付いて来い!」
リリーレ様が言われた。
もしかしたら、このスーツを着用することで、エリザベーラの暗殺を食い止
めるチャンスが広がるかもしれない。そう直感し、僕は慌ててドライスーツに脚を通して
装着した。
最後に全頭マスクを被った瞬間、世界がまるで違って見えた。警備隊長としてのリリー
レ様のアバヤの下の引き締まった筋肉質の裸体が神々しく見えた。裸に見えるリリーレ様
の後を、砂色のドライスーツを着て四つん這いで付いて行った。
エレベーターで3階に上がると、回廊からベランダに出られる大きな扉があり、警備兵
が4名立っている。大きな扉を外側に開けると凄い数の人息が感じられた。ベランダの下
には数万人、いや数十万人の人波が眼下を埋め尽くすほどに溢れかえっていた。
エリザベーラの演説が、このベランダから行われるのだ。
ベランダの扉が外側に開いたことで、眼下を埋め尽くした群集からざわめきの声が上が
り、その声が津波のように襲ってきて体を震わせた。
テレビカメラ、衛星写真、監視カメラ、個人のビデオ、携帯のカメラ等、あらゆる画像
が僕の目を覆っているアイ・スクリーンに表示され、溢れかえっていた。
群集は、リリーレ警備隊長と僕の姿が女王陛下でないと解り、ざわめきが小波のように
退いていった。
「ここで、陛下のお出ましまで奴隷の礼をして待て。陛下がお出ましになられたら膝立ち
して横に添っていること。本来は演台として陛下が奴隷の背中に登られるのだが、病床明
けなので無理だろうと陛下の特別な計らいがあった。演台が専属奴隷でなくても他の奴隷
で充分に用は足せるはずなのに、陛下も酔狂
なことだ。良いか、ちゃんとお側に付いているだけで勝手に身動きして粗相をしないよう
に弁えるんだぞ」
リリーレ様が僕の頭を小突かれて言った。
僕は手を頭の前に伸ばし、鼻頭をベランダの床に付け奴隷の礼の形をとった。
さて、スナイパーはどこに潜んでいるのだろうか。早く捜し出さなければならない。僕
は焦っていた。目を使え。僕はあらゆる映像を見て回った。尖塔にスナイパーを配してい
ると言っていた。どの塔だろう?
ここから見える範囲内でも十数本もの尖塔が確認できる。ほとんどが丸い突き出た塔だ
が、先の尖った鋭利な塔も幾つか見える。王宮内に、これほどの数の尖塔があるとは思っ
てもみなかった。ワンダ女建国の財力が覗われる。昔のようにオイルダラーが見込めなく
なってしまったイラソ首長国連邦内の各自治国から羨ましがられても、これなら仕方がな
いだろう。特に、疲弊している連邦政府からは羨望の眼差しで見られていることだろう。
このベランダの正面は砂漠に向かって開かれいて、城内を囲む内壁の一部をなしている。
幾十万の群集は王宮の外側に広がる建物群から、城壁もない砂漠に至るまでを埋め尽くし
ていた。2人のスナイパーは、その王宮外の正面、左右の尖塔から狙撃してくるのだろう。
ベランダから見える尖塔の数は十数本もある。それを一つひとつ拡大して見ていった。し
かし、何の変化も見られない。どうしたら良いのだろうか?
砂漠側に密集する数十万人の群集がざわめき始めた。僕は報道カメラにアクセスした。
赤いアバヤに赤い一本鞭を持った、エリザベーラがベランダに姿を現した。同時にベラン
ダの真下の王宮内から、砂色の軍服を着て銃を携えた兵士が数百名、走り出てきた。ベラ
ンダの真下、100 メートルほどを兵士が警護
のために散開して群衆を排除した。ベランダの真下には誰もいない空間が確保された。
エリザベーラが僕の横に立ち両手を挙げた。左手に持つ赤い鞭の握り手が天を突き、長
い鞭先が床にまで垂れている。熱狂した群集の雄叫びが凄い響きとなって全身を包む。国
民の熱い熱気を肌に直接感じられる。
僕は膝立ちして、エリザベーラの右横に添って並んだ。
時間が迫っている。どうやって2人のスナイパーの位置を確認したら良いのだろう……。
そうだ、位置を知る方法ならある。ユビキタスの持つ位置情報を利用すればいいのだ。
銃にもユビキタスIDが付けられている。ならば、銃のユビキタスIDにアクセスして、
ワンダ女建国に入り込んでいる銃の位置情報を検索できる。さらに絞り込んで、王宮内に
入り込んでいる銃の位置情報を取得して衛星
画像の王宮の建物写真に重ねて表示させれば良いのだ。
僕はすぐに、商品コードの銃のユビキタスIDにアクセスし、データを取得した。次に、
王宮を衛星から撮影している画像を呼び出した。王宮の建物を写す画像に、銃の所在を示
す赤い点が無数に表示され、真っ赤に染まってしまった。建物写真を拡大してみるが、王
宮内だけでも数万丁の銃の所在が明らかになる。これでは自分のいる位置も把握できない。
儀仗兵が警護兵によって空けられた前庭の空間に、軍楽隊の奏でる行進曲とともに走り
出てきた。建物の配置画面の上にも儀仗兵の持つ銃の軌跡が移動していく様が確認できた。
そして、目の下に移動して横一列に並ぶ様が写真上でも確認することができた。眼下の儀
仗兵の位置と、王宮の敷地内にある建物の配置関係が、これで意識の中で結ばれた。さら
に画像を拡大し、建物群を絞った。尖塔のある位置に2箇所、赤い点を発見。
スナイパーはこれだ! 僕は確信した。
正面から右側 80 度の位置に見える尖塔に一つ。300 メートルと非常に近い位置にある。
もう一方は、正面から 15 度左の、ほぼ正面に位置する尖塔だ。ここからは 500 メートル離
れた位置になる。銃弾の速度は秒速 1000m/秒。エリザベーラに着弾するまで、0.3 秒し
かない。近いほうの尖塔から、0.3 秒、遠いほうの尖塔からは、0.5 秒だ。2発の銃弾の着
弾には 0.2 秒の差しかない。どうやって回避すれば良いのだ!?
どうする!?
実際、不可能だ。
考えるんだ!!
儀仗兵が銃を前方の空に向けて捧げた。右横の丸い尖塔の窓が開かれ、銃が覗く。ほぼ
正面に位置する尖塔の小窓からも銃が突き出された。ドライスーツに備え付けのカメラか
らの映像を最大に拡大したが、尖塔の小窓からは銃の筒先しか見えない。スナイパーの身
体は窓の内側に隠れて見えない。
空に向け、儀仗兵の銃が一斉に轟音を発する。スナイパーの構える銃の先が、その音に
反応して微かに動いた。しかし、微妙に揃っていない。そうか、儀仗兵の発する一斉射撃
の空砲音の伝導に時間差があるのだ。
冷静に考えろ、そこに回答が隠れている。近いほうのスナイパーまで。300 メートルの距
離がある。一斉射撃の音が届くまで1秒かかる。それから銃弾が発射されるので瞬時に反
応したとしても、エリザベーラに着弾するまでに最低 1.3 秒かかる。500 メートル離れた尖
塔に儀仗兵の射撃音が伝わるには、1.7 秒かかる。それに反応して射撃したとしても、エリ
ザベーラに着弾するにはプラス 0.5 秒かかる。合計で 2.2 秒になる。その差は、0.9 秒に広
がる。
儀仗兵が3弾目を発射したとき、1秒以内にエリザベーラの右側を遮るように立ち上が
れば良い。もし、背中に銃弾を受けたら、0.9 秒以内に正面に背中を回すように動くのだ。
都合の良いことに、このドライスーツの背中には椅子としての座り心地を良くするため、
厚めのレザーが設えてある。エリザベーラ
の盾になるには、僕の背中が一番好都合だ。問題は背中を銃弾が貫通した場合に正面から
のスナイパーの銃弾に対処できるかどうか、だ。いや、そのまま彼女を抱えて倒れ込めば
良いことではないか。2弾目は、エリザベーラには当たらない。
そして2弾目の轟音が響き渡る。1発目の発射と、2発目の発射の時間間隔は3秒だっ
た。
慎重に行動しろ! 自分に言い聞かせた。
“1”
時間が止まったようだ。
“2”
決して早く動きすぎてもいけない。スナイパーに音が届くには1秒遅れる。
それから銃弾が発射される。僕が音を聞いてから着弾するまでに 1.3 秒の間ができる。大丈
夫だ、意思をしっかり持てば銃弾の痛みにも耐えられるさ。しかし、銃弾に背中が貫通さ
れた場合は、エリザベーラも一緒に串刺しにされるのと一緒だ。それは、やってみないと
解らないことだが、背中のレザー張りなら
大丈夫だろう。
エリザベーラは手を左右にゆっくりと振っている。時間の流れが突然ゆっくりと流れ始
めたように感じる。風が、戦場にいたときと同じように赤いアバヤをはためかせていたが、
スローモーション画像を見ているように、真っ赤なアバヤの布の動きが詳細に捉えられる。
人間は緊張すると、時間の経過がとても
長く感じられるようになるものだ。
武術の試合の時にも、よく味わった感覚だった。試合相手と対峙した時に、相手の動き
の細部が手に取るように見えるようになる。だから僕は、武術の試合では、ほとんど負け
たことがない。僕には相手の動きがスローモーションにしか見えなかったから、対戦相手
の懐に素早く入り込むことができたのだ。僕
は、そのときと同じ感覚に陥っていた。
“3”
僕は数えた。
儀仗兵の発する3発目の射撃の轟音が聞こえた。僕はゆっくりと立ち上がり、エリザベ
ーラの右半身に密着する。それに気付いたように、エリザベーラの緊張した美しい顔が瞬
間、僕のほうにゆっくりと回り始める。
背中に強烈な衝撃を感じる。でも、緊張しているからだろう、痛みは感じない。次の行
動をすぐに起こさなければ。エリザベーラを抱えたまま倒れこむんだ。0.9 秒の余裕しかな
い、でも充分間に合うさ。
背中を銃弾に押されて、エリザベーラに接触していた。彼女の身体を両手で抱き寄せて、
そのまま倒れこむ。でも、彼女の身体を床に叩きつけることになってはならない。僕は身
体を回転させて、自分の身体が下に来るように必死に身体を回した。
背中側を次のスナイパーの銃弾が掠めていくのが解った。
エリザベーラの身体を抱えたまま、肩から床に着地した。エリザベーラの全体重が僕の
胸を圧迫した。嗚呼、エリザベーラは無事だ。
そのとき、ベランダ奥の建物の中から鋭い叫び声が上がった。二人目のスナイパーの放
った銃弾が、建物内の警備兵の誰かに命中したのだろう。
エリザベーラが無事だったので僕は安心していた。だが、急に全身を痛みが駆け巡った。
脊髄が損傷したかもしれない。エリザベーラの身体を抱いたまま、僕は苦痛に顔を歪めた
が、全頭マスクに覆われた僕の、そんな表情は、エリザベーラには伝わらない。
大丈夫、エリザベーラは無事なのだ。
僕は、まだ意識があった。僕の胸の上で、エリザベーラが驚いたような表情をしていた。
エリザベーラが起き上がり膝立ちして両手で僕の全頭マスクを外してくれた。全身を襲う
苦痛に僕は息も絶え絶えになっている。エリザベーラの白い顔と鉤鼻と赤い唇が目の前に
迫り、クリッとした黒目がちの深い青色の瞳が僕を心配そうに見詰めていた。
「隼人さん、どうしたの?」
異常な事態を感じてエリザベーラが顔色を変えた。時間の流れが元に戻っていた。
「スナイパーの銃弾を背中に受けただけさ。カレーリナ将軍と、リリーレ警備隊長の暗殺
計画を阻止してやったのさ。君は大丈夫だね。すぐに2人を逮捕しないと……」
そこまで言うのが、やっとだった。苦痛に歪みながらも笑顔を作ったが、エリザベーラ
にはどちらに解釈されたことだろう。
「隼人さん!! 」
エリザベーラの心配そうな声が耳に纏わり付いて聞こえた。
僕は死ぬことはなかった。椅子用仕様によるドライスーツの厚いレザーが入った背中を、
銃弾が貫通することはできなかった。
僕は治ったばかりの肋骨に加え、脊髄も損傷させられて、また王宮内診療所に戻されて
しまった。ただ、今度は物置ではなく、ちゃんとした診療所のベッドの上だった。当然、
ナースたちは良い顔をしてくれなかったが。
僕が気絶した後、エリザベーラにはピンと来るところがあった。廃棄奴隷として僕を殺
させようとしたことも、エリザベーラの前線での陣頭指揮にも断固反対していたのは、カ
レーリナ将軍ただ一人だったこと。そして、この戦勝報告会の準備をカレーリナ将軍が率
先して準備してくれたことも、すべて意味があったことなのだ。そこまで推測できれば、
カレーリナ将軍が連邦政府と繋がって、ワンダ女建国を陥れようとしていることは想像に
難くなかった。
正面のスナイパーが放った弾は、ベランダを警護するワンダ警備将校の1人に当たり、
胸を貫通されて死に至らせた。開戦以来、初のワンダ将校の戦死者を出してしまった。
エリザベーラの指示は早かった。女王の親衛隊がすぐにリリーレ警備隊長はじめ、警備
に付いていた兵士を逮捕した。リリーレ警備隊長は、陰謀に関与したワンダ将校達の名前
をすぐに自白し、同調者一同は次々と逮捕されていった。しかし、カレーリナ将軍は一瞬
早く逃れていた。それでも最初に逮捕されるべき人物だったので、逃げ延びるには時間が
なかったはずである。遠くへは逃げていないだろう。捜索が継続されている。発見される
のも時間の問題だろう。
ドライスーツを脱がされ、換わって医療ポットに入れられた僕は、母の子宮の中にいる
ような快適さだった。エリザベーラを救えたという満足感もあったのだろう。以前のよう
に悪夢にうなされることもなく快適に眠ることができた。
どのくらいの時間、眠りに落ちていたのだろう。時間感覚のない中で突然に遠くから聞
こえてくる物音に意識が戻った。部屋に誰かが入ってきたようだ。
「ドクター、いつまで奴隷をここに寝かせておくのでしょう。陛下の専属奴隷だからと言
って、特別扱いして良いものでしょうか。奴隷は壊れたら廃棄するものです。それが我が
国の常識です。いくら陛下の専属奴隷だからと言っても、このように常識も弁えていない
ような陛下の我侭は、毅然として諭さなければなりません。ワンダ女建国は、この危機的
状況を完全に脱したわけではありません。ドクターの言うことなら、陛下も聞いてくれる
でしょう」
若い女官の訴えるような声だった。
「陛下の命を身を賭して守った奴隷なのだ。それに、ヤバーでは陛下と結婚も
していたそうだ。陛下と言えども簡単に、そんな奴隷を廃棄するわけにも行かないのだろ
う。こう言うのを愛奴と言うらしい」
「それって、陛下が奴隷と対等な立場でセックスをしていたということですか。
汚らしいですわ」
「君はセックスをしたことはないのか」
「そりゃ、奴隷のパニスを勃起させて、膣に入れたりしたことはありますよ。
それとは違うんですか、ドクター」
「そうか、この国にいたら男とセックスすることなど、有り得ないか」
「セックスって、男のパニスを膣の中に出し入れして楽しむ行為だけではないのですか、
ドクター」
「それだけではない。互いの肉体全体を絡ませて愛撫し合い、最後に膣にパニスを入れて
射精させるまで行う一連の性愛行為だ。ただ男と交わるだけの単純な行為ではない。しか
し、私は嫌いだ。ドイツランドに留学していた時に、同級の男に迫られて、やったことが
あったが、私が満足する前に男が勝手に射精して終わってしまった。私は怒って、その男
を殴り付けてやった。実に無礼な奴だった。それ一回きりしか経験はないが、二度とセッ
クスなどしたいと思わない。あんな最低なことはご免だ」
「そんな奴隷以下の男がいるんですか」
「若い男なんて、そんなものだと思ったよ。それに比べたら我が国の奴隷は優秀だ。でも、
所詮、奴隷だがね」
「そうでしょ、ドクター。陛下にとって、ここに寝ている奴隷のどこが良いというのでし
ょうね」
「知らないのか。舌技が素晴らしいんだぞ」
「あの噂は本当なんですか」
「そうさ。私は王宮の中庭に、この奴隷が公衆便所として埋められたときに試してみたん
だ。ちょっとの間だったが、あの舌業は忘れられない程に素敵だった。ご褒美に、頭の上
に、うんこを乗っけてやったのさ」
「頭の上に、うんこを乗っけていたという話は聞きました。あれをやったのはドクターだ
ったのですね」
ワンダ様、2人の笑い声が響く。そこへ更に誰かが入ってきた気配を感じた。
「あっ、陛下」
「ずいぶん楽しそうに笑っていますね。外の廊下にまで響いていましたよ。何の話で盛り
上がっていたのですか」
「いえ、ちょっと面白い奴隷がいたという話です」
「そう、私も聞きたいわ」
「はい。ですが、今は、ちょっと急患が入っていまして、すぐに行かなければならないの
で、またの機会にお話させていただきます」
「そうですか。ドクターは優秀ですし、引っ張り凧ですものね。そうそう、こんな私物の
廃棄奴隷の面倒まで見させてしまって申し訳ないわね。この絶妙な舌技を持った奴隷は他
では手に入らないから捨てられないのよ。で、容態はどうかしら?」
「3日も眠り続けていましたので、ほぼ順調に回復しています。それに驚異的な治癒力を
もつ奴隷です」
「そう、よかったわ」
「何でしたら、舌人形への改造も、私にお任せ下さい、陛下」
「細々と身の回りの世話をしてくれる奴隷も必要なので、それは今はいいわ、何れお願い
するときがあるでしょう。その時はお願いね」
エリザベーラの声が聞けて僕は安心した。無事で良かった。でも、何時か舌人形に落と
されてしまうのだろうか?奴隷として憧れの舌人形とは、どんなものなのだろうか?
また、眠気が訪れた。
更に3日、医療ポットの中で治療が継続された。その後、僕はサーバン・エリート・ア
カデミーに戻された。約束の訓練期間は、ほとんど残されていなかった。それでも、アリ
ーネ学院長様を始め、教官たちは僕の回復を喜んでくれた。
1週間近くも寝込んでいたので筋肉は、すっかり鈍ってしまっていた。残された僅かな
期間を、ウエィト・トレーニングとランニング中心のメニューで筋力の強化と持久力の増
進に費やされた。
数日間はヘトヘトになるまで激しく調教された。鞭を構えた美しい教官たちに囲まれ、
ランニング・マシーンの上を嫌と言う程走らされ、少しでも怠けると、どこからともなく
1本鞭が伸びてきて身体中のあちこちを殴打たれた。それは急造の筋肉強化策だったけれ
ど、β・エンドルフィンが脳内を巡り、僕のパニスは勃起しっぱなしだった。しかし細い
鋲付きの金属管をパニスの竿に取り付けられた僕は性の快楽に痛めつけられ、苦痛に悲鳴
を上げ続け自分自身のマゾ性に辟易してしまっていた。美しい教官たちには隠しようもな
い事実として、僕は羞恥に晒されていた。パニスを勃起させたままランニングしている姿
は、どうにも可笑しく見えたことだろう。教官たちの失笑と鞭の洗礼がパニスに集中して
いたのは、その証しだった。そうやって漸く卒院式の日を迎えた。
僕は奴隷の礼の形で慣れ親しんだ、いや辱められ痛めつけられ情けなさと悔しさに涙し
嗚咽し叫び、のた打ち回った、思い入れタップリの調教部室の床に平伏して、エリザベー
ラのお出ましを待っていた。僕を囲むように、黒のアバヤに正装した、アリーネ学院長様
が、ラーネ様が、ルーラ様が、ハーネ様が、ポーラ様が、立たれていた。
「奴隷、良く頑張った。おまけに陛下が暗殺されそうになったところを、お助けし、クー
デターも未然に防ぐことができた。そのお陰で怪我はするわ寝込むわで調教期間はまった
く足りなくなった。それも仕方がない。奴隷の躾についての知識は睡眠時に脳に直接記憶
させてある。後は陛下がそれを引き出してくれることだろう。陛下を神と崇めお慕いし、
お仕えするのだ。
では、陛下のお見えになる前に、調教の終了式を始める。ポーラ、準備を」
一番若いポーラ様の御身脚のサンダルが視界に入った。長い黒のアバヤの裾の先から出
た赤の光沢のある可愛いサンダルだった。
「身体を起こして、両手を上げなさい。掌を合わせて」
ポーラ様が可愛い御声で命令された。
ポーラ様のご命令に従い、膝立ちし掌を合わせて上に伸ばした。ゴツゴツした硬い革の
手枷を手首に装着され天井の滑車から伸びた鎖で引き上げられたが、膝立ちのままの低い
姿勢で固定された。すると僕の目の前で5人の美女教官たちがアバヤを脱ぎ始めた。顔を
隠すシェイラは初めからしていなかったので、妖艶で魅力的な顔立ちだけでも、見詰めら
れていると思うと恥かしさで身体中が赤くなると言うのに、黒いアバヤの下にはカラフル
な色のブラしか着けていなかった。アバヤの下にはパンティーを履かないのが正装ではあ
るが、残されたブラジャーまで外してしまうと、たわわな乳房が僕の目線の上を覆ってし
まった。下半身の繁みも当然に気になった。
彼女達は全裸になると僕を囲むように集まった。5人の裸体の美女に囲まれると、丁度、
僕の顔は彼女たちの乳房の下に埋もれてしまった。彼女たちの豊満な乳房に圧倒され、あ
っという間に僕のペニスは膨張の限界を越え金属管の中で激しい苦痛に喘ぐこととなる。
僕はペニスの痛みに呻き声を漏らす。
「可哀想に、嬉しい修了式なのに楽しんでいられないみたいですわ」
ポーラ様が意地悪気く言われた。
僕の顔は5人の美女の乳房の下に埋もれて彼女たちの妖艶な顔すら美しい乳房の下から
では見ることができなかった。彼女たちの汗の匂いだけが強烈に鼻を刺激した。それは、
ジャングルの中の艶やかな巨大な花達の真ん中に埋もれてしまっているようだった。
5人の美女たちが僕から少し離れて空間を作った。次ぎに美女たちの10本の腕が伸び、
その指先が僕の体の乳首を摘み、わき腹を腰骨を膝頭を、股の内側を睾丸も、全ての性感
帯を刺激してきた。全身の性感帯を刺激され僕は快楽の坩堝に放り込まれたようだった。
それに比例してパニスの痛みも限界に達していた。僕の口からは訳の解らない嗚咽が長々
と発しられ、もう失神する一歩手前にまでパニスは責め上げられていた。僕の口からは嗚
咽とともに泡まで吹いてしまっていた。
漸く5人の美女は僕から離れた。しかし、その手には一人一人が一本鞭を握り締め毅然
として美しい裸体を晒して立たれていた。勃起させられた恐怖以上の鞭の恐ろしさを思う
とペニスは急速に縮み上がった。ポーラ様が近寄ってこられた。僕は革の全頭マスクを被
せられ視界を奪われ暗い闇の中に放り出されてしまった。
「目に鞭先が入ったら困るからね」
ルーラ様が、その意味を教えてくれた。
「奴隷、これが最後の儀式です。耐えるのですよ」
アリーネ女学院長様の御声を闇の中で聞いた。
「ラーネ、始めなさい!」
アリーネ学院長様の凛とした強い声が響いた。続いて風を切る鞭の音が耳元に届いた。
僕は身体を硬くして緊張して待った。身体に強い衝撃を感じた。激痛が全身を駆け抜け抜
けた。次にまた空気を切る恐ろしい鞭音が迫ってくる。次の衝撃が尻を襲う。一本一本、
間を置いて空気を裂く鞭音と身体への衝撃が波のように繰り返し訪れた。僕の口から自然
に叫び声と呻き声が漏れていた。
数十弾目の衝撃の後は、痛みも感じなくなり、只、衝撃だけで鞭打ちされていると解る
程になっていた。困ったことにパニスだけは更に膨らみ、そちらの方が恥かしさを露にし
ていた。嗚呼、僕は本当にマゾになってしまったんだと悲しい思いに打ちひしがれた。も
う、エリザベーラとは対等の関係になることはできないだろう、と思えた。何故なら、エ
リザベーラを神として受け入れ、従順に従う一生を選ぶしかないのだろう。僕には、まだ
そこまでの決意がなかった。
鞭打ちが止んだ。
「奴隷、終了式は終った。これで、正式に奴隷として認められたことになる。後は、引渡
し式があるだけだ。それで、正式に陛下の専属奴隷となれる。きっと将来は舌人形にも改
造していただけるかも知れない。奴隷にとって、そこまで落とされることが最高に栄誉と
なるだろう。精進して励むことだ。
もう陛下が見えられる頃だろう。ポーラ、仕度を」
アリーネ学院長様がおっしゃられた。
天井から吊り下げられた鎖が下ろされたが、僕は、膝立ちで身体を支えることができな
いで前のめりに俯せに倒れて行った。その背中にポーラ様がスーッとする揮発性の薬を塗
ってくれた。次に仰向けにされ、お腹の方にも薬を塗られた。パニスにもタップリと塗ら
れ、その刺激で、萎えたパニスが直ぐに復活して膨らみ始めた。その様が面白いと、また
女官たちの失笑を貰うこととなった。全身の皮膚感覚は冷たいすっきりとした感じから熱
く燃えるような発熱に変わっていた。
「数分で鞭の痕は消えるわ、奴隷の礼を執ったまま女王陛下の御出座しを待ちなさい」
ポーラ様が耳元で言われた。
僕は身体を俯せに戻し緊張して姿勢を整え、奴隷の礼の形を保った。5人の美女たちは
黒のアバヤを身に着け、シェイラで顔を覆って畏まって整列していた。僕は 10 分ほども奴
隷の礼の形のまま待ち構えていた。
(エリザベーラ)
カレーリナ将軍は、地下空洞のスードラの中に紛れ込んでいた。髪を短く切り、化粧を
薄黒く施し、スードラを監督するワンダに見せ掛けて1週間も潜んでいたが、スードラの
密告により逮捕された。
惨めな薄汚い格好で私の前に引き出された時には、脅えた目付きで私を見上げていたが、
ギラギラとした眼差しは闘争心を剥きだしにしていた。私も負けては要られないわ。カレ
ーリナの顔面に蹴りを入れてやったわ。惨めに、カレーリナは後ろ向けに転がったわ。
カレーリナ将軍はマゾッホというスードラの密告で逮捕されたと報告があった。当然に、
そのスードラは奴隷養成施設送りとなった。きっと良い奴隷になることだろう。
暗殺が失敗した直後、親衛隊に色々な指示を出すのに追われ、晴れの戦勝報告会の演説
は 30 分も遅れてしまった。それに診療所に送られた隼人さんの身が心配で、上の空のまま
の演説だったが、劇的な暗殺が聴衆の目の前で阻止されたことで、更に熱狂的にならざる
を得なかった。演説が終った後の反応は大地を揺るがす響めきに包まれた。私は動揺もあ
り何を話したのかすら覚えていなかった。熱に浮かされた様に口から言葉が出ていただけ
だ。
その後も私の身体は火照りっぱなしで納め様も無かった。隼人さんが復帰するまでの1
週間が待ち遠しかった。
隼人さんは、サーバン・エリート・アカデミーに戻されたけれど、約束の3週間までに
数日を残すばかりとなっていた。訓練期間の延長をアリーネが言ってくるのではないかと
気が気ではなかったが、前日に、アカデミーの卒院式の案内を貰ったときには本当に嬉し
かった。アリーネに逢ったら抱きしめてあげよう。
今日で、サーバン・エリート・アカデミーの訓練を終了する。今日からは 24 時間、隼人
さんと一緒に居る事が出来る。やっと二人は幸せになれるのね。今日は私の最高の日にな
るわ!
通い慣れた、サーバン・エリート・アカデミーへの回廊を、始めて楽しい気持ちで歩く
ことができた。今日は二人で楽しく戻ってこれるのだ。
「陛下、陛下専用の人間便器はどうしましょうか?」
横を歩いていたファミーレが聞いてきた。
「もう少し待って、まだ使うかも知れないから」
隼人さんを人間便器として使うのは可哀想過ぎるし、その時は、ジェームズをそのまま
人間便器として使うことにしましょう。私はそう思っていた。
「畏まりました、陛下」
ファミーレが静かに言った。ファミーレの後ろから私の親衛隊員が3人付いてきていた。
今日の私のアバヤは、ピンクなのよ。隼人さんを悩殺してあげる。黒のアバヤの真ん中
に、ピンクの私がいるなんて素敵だと思いません!
調教部屋の前に、裸同然の近衛兵が3人立っていた。私の姿を見ると銃を捧げ持った。
扉が開かれた。部屋に入ると、アリーネを初めとする教官たちが黒のアバヤの正装で並ん
でいる。やっぱり葬式のようだったわ。
その床の下に小さく隼人さんが奴隷の礼をして這い蹲っていた。なんて可哀想なの、私
の隼人さん。
「陛下、お待ちしておりました」
アリーネが近づいてきて言った。私は親愛の情を込めて、アリーネを両腕に抱きしめた。
「ありがとう、アリーネ。隼人さんも、もう完璧な奴隷に仕上がったようね」
短期間しか調教時間が無かったのだ、そんな筈も無いのに、技と、アリーネに聞いた。
「大丈夫です。全て完璧な筈です」
少し声を落としてアリーネが耳元で囁いた。
「筈って?完璧じゃあないの?」
私は、揚げ足を取るように聞いた。
「奴隷の全ての能力を引き出せるのは陛下のお力です。満足していただける奴隷振りには
仕上げてあります」
アリーネの言葉に偽りは無い。つまり、隼人さんは完全な奴隷に仕上がっているという
ことなの?私はそんな事は望んでいない。奴隷の振りを完璧に演じられる隼人さんであれ
ば充分なのに。もし、本物に奴隷化してしまっているのなら、私はどうすればいいの?
「どんな手品を使ったの?」
不安にかられ、アリーネに聞いた。
「限られた時間しかありませんでしたので、催眠術を施しました。奴隷以外の行動を望む
と不愉快になるよう暗示を埋め込みました。そのほかにも・・」
アリーネが秘密めかして言った。
「その他って?」
私は興味を惹かれて聞いた。
「何れ解ります」
アバヤの下のアリーネの顔が笑っていた。何だろう?私も興味が湧いてきた。それは、
後の楽しみなのだろう。
「終了式の手順はアリーネ」
床で這い蹲る惨めな隼人さんの姿を見下ろしながら聞いた。
「最初に、奴隷にとっての聖水を飲ませて下さい。続いて最初に、ここで執り行った儀式
と同じ鞭の誓約です。その後、陛下の望まれる事を奴隷にされて下さい。それで終ります」
アリーネが楽しげに言った。
「どうしても、オシッコを飲ませなければ駄目?」
隼人さんには、卑しい人間便器にまでなって欲しくはなかった。
「儀式です。専属奴隷を持つには絶対欠かせないことです、陛下」
強い語調でアリーネが促した。
困ったわ。執務室を出るときに、ジェームズにタップリと飲ませてきてしまったわ。も
う、出はしないわ。
でも、仕方ない。私は隼人さんに近づいた。
「小」
一言だけ命令した。
隼人さんが床の上から身を起こし、顔を私の方に向けた。隼人さんと目が合った。隼人
さんの嬉しそうな目の光を感じた。でも同時に脅えた眼差しもしている。
直ぐに隼人さんは目線を外し、私のアバヤの前に這い依ると、ピンクのアバヤの裾を持
ち上げ素早く下半身に潜り込んできた。当然に私はパンティーを履いていない。膝立ちし
た隼人さんの唇が私の女陰に触れるのが解った。
嗚呼、私は緊張と同時に性的快感も味わっていた。隼人さんの大きく開かれた口が、女
陰を覆っている。私は下半身の力を緩めたが小水は出そうもない。それよりも愛蜜が出し
てしまっているかも知れない。
少し待って。
嗚呼やっぱり小水はでないわ。
「アリーネ、出ないわ」
仕方なく私は言った。
「奴隷!陛下の聖杯に熱く口付けしなさい」
アリーネが私のアバヤの中に潜り込んだ隼人さんに聞こえるように大きな声で命じた。
隼人さんの唇が私の女陰を捉えた。吸い付いている。それよりも、愛液を啜っている。
隼人さんの舌先が伸びて女陰の中に差し込まれている。
嗚呼、堪らない。小水ではなく愛液が溢れ出ている。隼人さんが、更にそれを啜ってい
る。近いうちに隼人さんは私の人間便器にもなるのだろう。それでも隼人さんは幸せなの
かしら?
隼人さんの喉が上下しているのを感じる。私の小水の替わりに愛液を飲んでいるのだ。
そして啜り終わり女陰を綺麗に舐めている。女陰の襞の間まで舐め上げられた。私は溜息
を漏らしてしまった。
ピンクのアバヤの下から、隼人さん出てきて、奴隷の礼に戻る。顔を床につけたまま私
と目線を合さないようにしている。卑屈な隼人さんが可哀想だった。後少しよ隼人さん。
心の中で隼人さんを励ました。
アリーネが私に近づき、儀式用の長く重い鋼の鞭を手渡してくれた。私は隼人さんの高
く持ち上げられた尻の方へ回り込んだ。綺麗な褐色気味の白い双球の尻部が聳えて見える。
背中にも鞭跡はなく綺麗だった。
綺麗な肌で、私の鞭打ちを待っている。長い鞭先を、隼人さんの閉じられた太股の間に
差し込もうとしてのばした。ピッチリと閉じられた太股の間に鞭先は入らなかった。
アリーネが隼人さんに近づき、隼人さんの尻を力強く叩いた。調教部屋に乾いた打撃音
が響く。
「股を開きなさい」
アリーネが強く命じた。
怖ず怖ずと、隼人さんが股膝を開く。ダラリと垂れたパニスが見える筈なのに、パニス
が見えなかった。私は隼人さんに近づき、屈み込んで隼人さんの開かれた股の間から、お
腹側を覗いて観た。勃起したパニスが腹に
付くほどになっていた。
まさか、隼人さんがマゾになってしまったの?私はとても不安になった。私は隼人さん
を人間以下のマゾ奴隷にするつもりは無かった。今だけ奴隷になる振りをして貰いたかっ
ただけなのに、どうすればいいの?
でも、その反面、何処かに嬉しい気持ちも沸いていた。
気を取り直し、長い鞭を隼人さんの背中に置いた。最初の時のように隼人さんは震えて
はいなかった。鞭を振り上げ力強く振り下ろした。背中に一発、肉を叩く響きが調教部屋
に響いた。隼人さんの口から痛みに耐える呻き声が漏れた。ピンクの綺麗な背に斜めに赤
く蚯蚓腫れが浮き出てくる。
隼人さん、もう一発よ。心の中で隼人さんに告げた。
一歩右横に動いた。鞭を再度振り上げ、狙いを付けて振り下ろす。鈍い肉を打つ響きが
部屋に木霊する。隼人さんの白い背中に×印の赤い蚯蚓腫れが浮かびでた。
あと少しよ。心の中で隼人さんを励ました。
隼人さんの横に立ち、脚で隼人さんの横腹を蹴った。隼人さんが横様に転がり仰向けに
なる。威きり立ったペニスが目に入った。私は思わずペニスも蹴りつけた。
「あぅ!」
隼人さんが呻く。その惨めな声を聴いて、私の心も変わった。隼人さんを無性に苛めた
くなった。隼人さんの顔の真上に立ち尻を落とし、隼人さんの顔を女陰の下に押し潰した。
「舐めて」
私は、マゾ奴隷の隼人さんに命じた。素直に隼人さんの舌が、私の女陰に伸びる。くす
ぐったい様な感覚が直ぐに甘い性感に変わってゆく。尻をもっと落とし、隼人さんの顔を
完全に女陰の中に押し込めた。舌だけがしっかりと蠢いていた。
あの時と同じだ、廃棄奴隷だと思い込み殺そうとした、あの時と。でも、今は隼人さん
だと解っている、嬉しかった、苛めたかった、隼人さんの、やり切れない惨めな思いを想
像すると、更に昂ってきた。隼人さんの全ては私次第なのだ。喜びに私は直ぐに絶頂に達
した。
「ああぁぁ・・」
私は声を出してしまっていた。
自分の声に気が付き、正気に戻った。私は立ち上がった。もっと官能して居たかったが、
これは儀式なのだ、隼人さんが私の専属奴隷となれば何時だって官能できる。それ
に、
・・・・・。
私は、その思いを早く口にしたかった。隼人さんから離れ、仰向けに長々と横たわる隼
人さんを見下ろして、その顔を見詰めた。
大きく喘ぐ隼人さんの胸が上下していた。下半身のパニスは、お腹に着きそうなほどに
聳り立ち、隼人さんの顔は苦しそうに、痛みに堪えているようだった。きっとパニスが痛
いのだろう、可哀想な隼人さん。でも、でも、そんな隼人さんが可愛くて愛しかった。私
は屈み込み、隼人さんの乳首を刺激した。
「隼人さん、とっても良かったわ。私の専属奴隷となって、何時の日にか舌人形に改造し
てあげるわ。舌人形に改造されたら、毎日、私の尻の下で舌奉仕するのよ、きっと隼人さ
んも喜んでくれるわね」
乳首を刺激しながら私は隼人さんに言った。
「ああぁあ」
隼人さんが苦しみ始めた。構わずに更に刺激した。パニスが鉢切れんばかりに膨らんで
いた。
可哀想な隼人さん。
「隼人さん、どうしてパニスを膨らませているの」
意地悪に言ってみた。答えられる訳がない。
「いいなさい」私は強く言った。
「感じてしまったんだ」
隼人さんが哀れに声を出した。
「鞭打ちで?」
私は追及した。
「そうなんだ」
隼人さんの声が小さかった。
「聞こえないわ、何に感じたの?!」
私は意地悪く聞く。
「エリザベーラの鞭に感じてしまったんだ」 恥かし気に、小さな声で隼人さんが言う。
「どうして痛い鞭に感じるの?」
また意地悪く追い立てる。
「解らない?」
小さな声で隼人さんが言う。
「解っているでしょ!言いなさい」
私は追い詰めた。
「・・・」
答えが返ってこない。
隼人さんのパニスが、更に威きり立ってきた。可哀想に痛さを一生懸命に耐えている。
「言いなさい、皆の前で言いなさい」
どこまでも追い詰めてあげようと思った。
「言えない」
少し大きな声で、隼人さんが答える。
まだ完全に服従はしていなかった。私は嬉しかった。私は隼人さんから離れた。
「舌人形には、何時か改造しますからね」
私は最後に追い込むように言った。
「終了式を終ります」
私は宣言した。
=フェラ人形=
「修了式を終ります」
エリザベーラが、黒いアバヤの正装姿の教官たちに向って宣言した。僕はすぐに身体を
起こし、奴隷の礼に戻った。
苦痛に苛まれていたパニスは急速に萎え、やっと痛みから解放されたが、あれほどまで
のエリザベーラの追求に、自分がマゾであることを告白できなかったうえ、無視を決め込
んでしまったのだ。奴隷としてはあるまじき行為なのは承知している。でも、自分がマゾ
であることを告白してしまった後のことを考えると、エリザベーラが僕を蔑み、やがては
そんな僕に嫌気が差して捨てられてしまうのではないのかと心配になってしまったからだ。
ただ、奴隷のそんな抵抗に対しては、この後どんなお仕置が待っているものか気掛かりだ
った。
最後にエリザベーラが、いつか僕を舌人形へ改造すると宣言したのは、僕自身には何の
選択権も与えられていないということを思い知らせるためなのだろう。エリザベーラに対
して、絶対服従する以外の選択肢は僕にはありえないのだということを思い知らせるため
の言葉だった。
エリザベーラの専属奴隷になるということは、エリザベーラの要求全てを受け入れなけ
ればならないということなのだ。
嗚呼、エリザベーラの専属奴隷になる選択は間違っていなかったのだろうか。彼女との
対等な関係は、もう望むべくもないことなのだろうか。
確かに言えることは、ワンダ女権国内において、そんな状況が普通だということなのだ。
問題は、エリザベーラと二人きりになったときに、エリザベーラが僕をどう扱うのか、今
はそのことが一番の気掛かりだ。
エリザベーラが長い鎖を、僕のパニスから垂れた短い鎖に結び付けて引っ張った。
「学院長をはじめとする教官の皆さんに、私個人として感謝します。とても素晴らしい仕
上がりであることを確認しました。きっと、他の奴隷に秀でて私の役に立ってくれるもの
と思います。皆さんの素晴らしい調教の技術は、我が女建国にとって必要不可欠なもので
す。
アカデミーのこの最高の技術を、他のサーバン養成施設に広め、より上質なサーバント
の生産に役立つよう伝えていってください。
ありがとう。私の専属奴隷の調教に感謝します」
畏まる教官たちに向って、エリザベーラが礼を述べている。
そうだ、僕は完全な奴隷に仕上げられたのだ。サーバンの意味すら知らなかった僕は、
エリザベーラの完全な奴隷として一生を過すことになってしまったのだ。彼女のために尽
くしたいと思う僕の気持ちに嘘偽りはないが、こんな形でそれが実現しようとは、思って
もみなかった。
「陛下。過分なお言葉に感謝いたします」
アリーネ学院長様が答えられた。
エリザベーラに牽かれ、教官達を残したまま調教部屋を後にした。もうここには二度と
戻ることはない。数々の苦痛と屈辱の中から芽生えたマゾとしての快楽。彼女達への憎悪
から、信頼へと変わる過程を経験し、僕は見事にマゾに改造されていた。これが喜ばしい
ことなのか、その答えはこれからのエリザベ
ーラとの生活に託されている。大きな不安に、僕の心は潰されそうだった。
回廊に出ると、後ろからファミーレさんと親衛隊員3人がエリザベーラの前後に着いて
歩いた。後ろから近づいて来る足音に振り返ると、アリーネ学院長様が調教部屋から走り
出てきて、列の一番後ろに着いて一緒に歩き出していた。
僕は前に向き直り、エリザベーラに牽かれるままトボトボと四つん這いで着いていく。
「ファミーレ、時間は、まだあるの?」
エリザベーラがファミーレさんに尋ねた。
「陛下が隼人さんの顔の上で長い時間、喘がれ
ていましたので、予定時間を随分オーバーしてしまいました。あと 30 分ほどもありません」
エリザベーラの横に添って歩くファミーレさんが、嫌味を込めて答えた。
「その言い方は嫌味ではないわね、ファミーレ? それだけあれば十分よ。打ち合わせし
ましょう」
並んで歩くファミーレさんのほうに、エリザベーラが顔を向けて言っていた。そんな和
やかな様子が少し遅れて着いていく僕に感じられた。
王宮内を 10 分ほど這ったまま牽かれて行くと、黒のビキニパンツ1枚だけを履き、銃を
捧げ持った警備兵4人の立つ厳めしい造りの扉の前まで来た。女王陛下の姿を認めて、そ
の裸同然の警備兵達が銃を高く捧げ持った。観音扉が外側に開かれ、僕は四つん這いで牽
かれるままにその部屋に入った。
そこは法廷だった。一番後ろの傍聴席から入ったので、椅子の並ぶ傍聴席の横を通り抜
け、奥の小部屋に牽かれていった。
奴隷椅子に腰掛け、砂色の軍服を着用した3人の将軍が慌てて立ち上がった。テーブル
の上には裁判官用の黒く高い帽子が置かれている。
エリザベーラ、アリーネ学院長様、親衛隊長の3人だけが控えの間に入った。奴隷椅子
が2脚、這い出てきて、アリーネ学院長様と親衛隊長のお尻側で椅子の体勢を取った。
「さぁ、最初のお仕事よ、隼人さん」
エリザベーラが僕を見下ろして言った。
「私の奴隷椅子になって」
そのことは当然僕も理解していた。サーバン・アカデミーで充分調教されていたことだ。
僕はエリザベーラのお尻側に廻り込み四つん這いになって、両腕、両足を固定した。エリ
ザベーラが僕の背中に尻を落す。心地良い重量感が背中と四肢に伝わってくる。お尻の冷
たさも伝わってきた。
「カレーリナ閣下の処分の件ですが、判決文の通り銃殺刑ということでよろしいでしょう
か、陛下」
将軍の一人が、エリザベーラに聞いてきた。
「判決書の主文を見せて」
エリザベーラが答える。
テーブルに嵌め込まれたディスプレイを見ながらの議論が始まったようだ。エリザベー
ラを背に乗せたまま僕は聞き入った。
「最後の銃殺刑に処す、というところは甘過ぎるわ。これでは国民を満足させ
ることができないわ。フェラ人形改造しましょう。アリーネには何か他にも良いアイディ
アがあるんじゃない?」
エリザベーラの声が彼女の尾てい骨を通して、僕の背中に響く。気持ちが良かった。
「まず、カレーリナ閣下の快楽と自尊心、そして可虐心を最高に高めてやりましょう。最
高に高慢で、自惚れた状態まで高まったところで一挙に奈落に突き落してやってはいかが
でしょうか、陛下」
アリーネ学院長様の声が聞こえる。
「どうやるの? アリーネ」
エリザベーラが興味を持ったようだ。
「歓宮に招き、最高の歓待をするのです。性奴を何人も付け、廃棄奴隷も日替わりに毎日
付けて、歓待の意を最大に示してやるのです。快楽と可虐心、そして自尊心も最高に高め
ておいて、それが頂点に達した時点で、突然フェラ人形に改造してしまうのです。そして、
彼女の家の奴隷達や、歓宮で蔑んで使って
いた奴隷たちのパニスにフェラチオを強要させるのです。それも、陛下の御前と国民の目
の前で」
アリーネ学院長様の澄んだ声が、淡々と説明を続ける。
「きっとカレーリナ閣下は、屈辱感と我が身の惨めさに泣き叫び、発狂してしまうかもし
れません。そして最後には、王宮の地下空洞でフェラ人形としてスードラたちの性処理の
道具とする刑罰を課しましょう。もちろん無期刑として」
なんて恐ろしいことを考え付くのだろうか。その発想の源泉は、アリーネ学院長様の辛
い生い立ちを反映したものなのだろうか。
「リリーレ警備隊長はどうしましょうか?」 親衛隊長のファルーラさんの声だった。
「一緒よ!」
エリザベーラが一言、声に出した。
ドアに靴音が近づいてきた。
「陛下、用意が整いました」
エリザベーラが立ち上がる。僕も鎖を牽かれて法廷に入った。裁判官席への入り口は高
見にあり、被告席、傍聴席を見下ろしながら裁判官席に着くようになっていた。そのため、
四つん這いで牽かれた僕にも被告席と傍聴席で直立する軍人達を見下ろすことができた。
法廷の傍聴席は、すでに砂色の軍服を着た将軍や将校達でいっぱいに埋まっている。僕
は、豪華で重厚な裁判長席のテーブルの真ん中で、四つん這いの椅子になって待機した。
エリザベーラが僕の背に着席すると、被告席、傍聴席の全員も起立の姿勢から人間椅子
に着席していく気配を感じた。柔らかい人間椅子なので、物音は静かだった。
「これより、軍事法廷を開廷する。
軍事法廷における最高刑は銃殺刑である。
しかし、そのような不届き者が出ないこと
を、キリスト・マリアマグダラに祈る」
エリザベーラの横に座る将軍が宣言した。山高帽を被っただけの軍服姿で、戦時法廷を
演じている。
四つん這いになった僕の目の前には、その将軍が座る人間椅子の顔があった。僕は彼に、
どう挨拶して良いものか迷った。家具としての椅子である以上、無言を通さなければなら
ない。しかし、目の先 20cm と離れていないところに、金髪をした白人の人間椅子が顔を突
き出しているのだ。その息遣いまで感じられる。こんな状況で挨拶も交わさないのは人と
して失礼に当たる。でも、お互い会話は許されない家具の身だ。様子を見て、作り笑いを
浮かべておくしかなかったが、人間椅子に徹していている彼は全くの無表情で、僕の存在
など無視した態度だった。
「カレーリナ閣下。女王陛下暗殺、及び国家転覆の罪で訴状されているが、判決の前に何
か弁明があれば述べなさい」
法廷に入った時、カレーリナ将軍が被告席で正面を向いたまま、憮然とした顔付きでこ
ちらを向いていた。その横で首を項垂れたリリーレ警備隊長が並行して立っていた。さら
にその後ろには、今回のクーデターに加わったとされる将校たち数十人が、数列にわたっ
てひしめき立っているのを法廷に入ったときに目にしていた。
「儂は……」
擦れた低い声で、ぼつりとカレーリナ将軍が声を出した。
「……傍若無人な陛下によって国民が翻弄され、無謀な戦闘行為により、我がワンダ女建
国が滅亡の危機に陥ることを黙って見ていられなかっただけなのだ。そのような不幸な道
を辿るより、陛下を暗殺し、儂がワンダ女建国の女王として君臨することで、この国が存
続できることを連邦政府より確約されていた。
儂は、無能な陛下を排除することこそが、国を守り国民のために最善であると判断し、
正義を行ったのだ。このような危機的状況に陥らせた責任は全て、エリザベーラ陛下一人
の無能にある。儂は、国民とワンダ女建国のために、ただ正義を行っただけであり、
罰せられるのは陛下に他ならない!」
最後の一言にカレーリナ将軍は力を込めた。
「連邦政府のスパイめ!」
「恥知らず!」
「詭弁を弄するな!!」
「私たちの女王陛下を侮辱しないで!!」
怒涛のように、カレーリナ将軍を罵る言葉が法廷内に溢れかえった。響めきの中に一つ
ひとつの言葉も捉えられないほどの怒号が満ち満ちた。
エリザベーラが強く小槌を打つ。蜂の巣を突いたような傍聴席の騒ぎがやっと静まった。
「キリスト、マリアマグダラの血を受けし正当な系統者である女王家の、多数の暗殺を実
行させたのもカレーリナ将軍であると判明している。間違いないか」
エリザベーラの隣で将軍が、カレーリナ将軍に問うた。
「いや、儂こそが正統な女王となるべきワンダなのだ。悪魔のマリアマグダラの血を受け
継ぐ、今の女王家を絶やさなければ、真の女建国を維持することはできない。
罪は女王家にこそあり、正義を行った儂を罰するなど言語道断である。儂はワンダ女建
国の存続と国民の安泰を願って、連邦政府に追従する道を選んだだけである。
無謀な戦闘行為を強行し、ワンダ女建国を滅亡の淵に追いやった、エリザベーラ女王こ
そ罰せられるべき人間である。
儂の過去には一点の汚点もない。それが証拠だ」
堂々と声高々にカレーリナ将軍が喚く。無謀な理論の展開だった。
「カレーリナ将軍に従った将校諸君も、同じように考えているのか」
エリザベーラが尋ねたが、法廷は沈黙したままだった。
「カレーリナ将軍。全員が首を横に振っている。リリーレ警備隊長だけは、俯いたまま動
かなかったが、将軍に従った将校たちはそのようには考えていないようだが?」
エリザベーラが語りかけた。
「陛下の恐ろしさに沈黙しているだけだ。儂が女王となることで、ワンダ将校たちは滅亡
の危機から開放される。そのために儂をけしかけて祭り上げたのだ。儂には何の責任もな
い。儂が罰せられる以上に此奴等が罰を受けるべきである」
屁理屈による典型的な罪の転嫁だった。
「陛下、判決を」
横に座る将軍が呆れ返ったように促した。
「たしかに、これまでのカレーリナ将軍による、
女建国に対する貢献、功績は多大である。銃殺刑に値する罪であるとは言え、最高刑を課
すには余りに忍びない。しかし女王家を抹殺し、自らが女王に君臨しようとした罪は重い。
よって、厳罰をもって対処せざるを得ない。判決文を読み上げなさい」
エリザベーラが毅然として言い放った。
横に座る将軍が、判決文を読み始めた。
「国防部戦犯裁判軍事法廷の戦犯、カレーリナに対する判決書
マリアマグダラ暦30年3月10日 国防部戦犯裁判軍事法廷判決西暦20
80年度審字第一号
公訴人 本法廷検察官 被告 カレーリナ ワンダ 36歳、ワンダ国人、
住所 イラソ首長国連邦G自治区ワンダ女建国サディスチン市建国通り53号
ワンダ女建国陸軍大将師団長
指定弁護人
バイソウホー弁護士
チョーニントフー弁
護士
右被告の戦犯事件につき、本法廷検察官の起訴を受け、本法廷は次の如く判決を下す。
主文
カレーリナは在職期間中、イラソ連邦政府と共謀し、女王陛下を含む多数の王族の暗殺
を実行し、国の転覆を図ろうとした罪により終身刑に処す。
事実
カレーリナはワンダ女建国軍閥のなかの剽悍善戦の軍事指導者であり、遙か遡る女建国
建国戦争においても、多大な功績のあった前カレーリナ一世の直系であり、早くから軍籍
に身をおき戦績をあげてきた。
マリアマグダラ暦20年、連邦政府との第一次紛争が勃発したとき第6師団長に任じら
れ、同年8月部隊を率いて国境防衛戦線に転任した。
同年11月末、連邦政府軍は大部隊をワンダ女建国国境に進行させたことにより、陣地
を連邦政府内に移してワンダ女建国の防衛を固めた。
幾多の交戦を全て勝利し、ワンダ女建国の防衛に貢献し、21年3月第3師団長に任命
され、第二次及び第三次紛争においてもイラソ連邦政府軍の進行を止めた功績により27
年4月には第一師団長の命を受け、ワンダ女建国陸軍大将に任ぜられた。
しかし、その在任中、イラソ首長国連邦軍の諜報機関と結び付き、ワンダ女建国乗っ取
りを画策し始めていた。その最初の行動が29年12月の前女王陛下生誕記念日における
別宮へのミサイルテロである。そして最終の仕上げとして本戦闘作戦中における女王陛下
暗殺未遂事件である。さらに数々のワンダ女
権国を裏切る謀略行為は枚挙に暇がないほどである。
陛下暗殺が未遂となった後、姿をくらましたカレーリナ大将は1週間後、王宮内地下空
洞で逮捕、直後、軍事憲兵による聴取が行われ、本法廷検察官の取調べにより起訴された」
エリザベーラの横で起立して判決文を読んでいた裁判官の将軍が、一呼吸おいた。
僕の目の前では、白人の人間椅子がニヤついていて気色が悪かった。裁判官がその背中
から不在になったおかげで、楽をしていた。
「理由
調査によれば本事件被告カレーリナは2年前の建国27年から、イラソ連邦政府軍諜報
局と連絡を密にし、ワンダ女建国乗っ取りを画策し始めていた……」
長々と、こと細かな理由が述べられている。それでも1時間ほどで最後の部分まで読み
進められた。
初めて女王様の椅子という大役を仰せつかったが、訓練中は毎日、巨体のハーネ様の椅
子となって2時間程度を耐えていたので、今回全く苦痛は感じなかったが、この長々と語
られる朗読を聞かされ、閉口してしまった。
「…ワンダ女建国にとって、重大な汚点となっただけでなく、その内心の陰険さ、手段の
悪辣さ、被害の惨烈さを鑑みて、哀れむことはできない。極刑を与え、明らかな戒めを示
すべきである。
このような理由をもって結論を下せば、マリアマグダラ法典第・・章前段、ラーグ陸戦
法規第・条第二項、第・・条第・款及び第・款、第・・条、第・・条、第・・条、戦時規
律第・条、第・条、戦争犯罪裁判条例第・条、第・条、第・・条によって、判決は主文の
とおり。
本件は本法廷検察官、エリザベーラ女王陛下の出廷の基、職務を執行した。
マリアマグダラ暦30年3月10日
陛下 裁判官 エリーレス将軍
国防部軍事裁判法廷
裁判官
裁判長
サナートス将軍 裁判官
エリザベーラ女王
ラーベル将軍
裁判
官、アリーネ・サーバン・エリート・アカデミー学院長 裁判官、ファルーラ親衛隊長」
ここで判決文の朗読が止み、エリザベーラが続けて発言した。
「最後に補足する。刑期については終身刑としたが、追って刑罰を指示する。刑罰が確定
するまでの間、カレーリナ将軍のこれまでの功績に報いる意味からも、歓宮で静養しても
らう。よろしいか、カレーリナ将軍?」
エリザベーラの発言に対して、少し間があった。きっと覚悟していた銃殺刑を免れ、歓
宮に幽閉されるという思ってもみなかった歓待の態度に驚いてしまって声も出せないでい
るのだろう。
「陛下の寛大なる処置に、感謝いたします」
ホッとしたようにカレーリナ将軍の上ずっ
た声が聞こえた。
「リリーレ警備隊長も同様とする。なお、この反逆に加担した将校たちには、
鞭打ち 200 回の罰を与える」
エリザベーラが言い切る。
「閉廷!」
横で、漸く座れた将軍が小槌を打った。
これから巡ってくる過酷な運命を、カレーリナ将軍と、リリーレ警備隊長は何も知らず
に、女王陛下の寛容さに嗚咽して、鼻を啜る音が聞こえてきた。
エリザベーラが立ち上がった。僕の背中から重さが消えた。法廷はエリザベーラの寛大
な処置に感動していた。
これで、エリザベーラの人気がまた上がることだろう。カレーリナ将軍への罰が施行さ
れた時、国民はどんな反応を示すのだろうか?
エリザベーラは大きな不安材料を背負い
込んでしまったのではないだろうか。
エリザベーラは退廷するために立ち上がり、奥の控えの間に戻った。僕も四つん這いで
続く。法廷からは拍手が聞こえていた。
エリザベーラは控えの間に入ると、奥にある別のドアから出て、居室に向かった。警護
のため、ファルーラ親衛隊長だけが慌てて後ろを着いてきたが、女王の居住区の前までだ
った。エリザベーラは直接、寝室に僕を引き入れた。
寝室のドアが閉められ、エリザベーラが後ろ手で鍵をロックした。エリザベーラは、僕
の四つん這いの格好でいる前に立っていた。僕のほうを向いて跪き、そのまま僕の頭を抱
き締める。膨よかな胸の暖かな弾力と、金木犀の香りに包まれた。
「隼人さん、やっと貴方を取り戻せたわ」
エリザベーラの嬉しさが、肌の温もりを通して伝わってくる。もちろん僕のほうがよっ
ぽど嬉しかった。僕はエリザベーラの奴隷ではなく、愛を共有できる人間なんだと実感で
きて、とても嬉しかった。
「僕も嬉しいよ、エリザベーラ」
僕もエリザベーラの身体に両手を廻し、強く抱き締めた。そのままエリザベーラが僕の
上に圧し掛かってきた。僕はエリザベーラを抱いたまま、柔らかなカーペットの床の上に
寝そべるように倒れた。お互いの唇が重なり、自然に口が開かれ、エリザベーラの舌先が
口の中に入ってくる。僕はエリザベーラの舌先を強く吸い込んだ。甘味な思いが性の快楽
となって全身を包む。性の高まりにパニスが真っ先に反応する。金属管の中の鋲がパニス
に食い込んでいく。抓られるような痛みに苛まれ、辛くなってくる。しかし、漸く辿り着
いたこの幸せのために、今はその苦痛に耐えなければならない。
エリザベーラの舌で、僕は首筋から顎の下、乳首へと舐められていく。興奮状態のパニ
スに加えられる苦痛に耐えるのも、もう限界だった。僕の顔は歪み汗が全身から噴出する。
エリザベーラの両太股は容赦なく、そんな惨めな状態のパニスを挟んで圧迫する。
「嗚呼ぁ∼!」
耐えられない苦痛に、顔を歪め甲高い呻き声を漏らす。
「苦しいの? 隼人さん、可哀想に……」
エリザベーラが僕の惨めなパニスを掌に乗せ、哀れそうに見つめる。はち切れそうなパ
ニスをエリザベーラが両手に包む。そして僕の表情を確かめるように、見つめる。
「可哀想な隼人さん。でも、その苦痛に歪んだ顔も素敵よ。私のために、もう少しその顔
を見せて」
エリザベーラが無慈悲に言いながら、パニスを口に含み舌先で愛撫してくる。
僕はパニスに加えられる苦痛に、さらに呻き声を漏らして反応するしかなかった。
「嗚呼ぁ∼! 辛いよ、エリザベーラ……」
エリザベーラがパニスから口を外して顔を
上げる。
「隼人さんの呻き声も素敵よ。でも可哀想だからここまでね」
エリザベーラが優しく言ってくれた。幸せだったが、二人で性の快楽を享受できないこ
とに惨めな気持を感じていた。
「隼人さん。カレーリナをフェラ人形に改造して、地下空洞でスードラの性処理用に置い
ておくけれど、隼人さんは、スードラとか他のサーバンと一緒になって、使っちゃダメよ」
エリザベーラが僕を抱き寄せて言う。
「でも、そのパニスじゃあフェラ人形は使えないわね」
いかにも可笑しそうに笑う。漸くパニスの痛みから解放され、僕はホッとして、やっと
落ち着けた。そして初めて、エリザベーラの寝室を見渡すことができた。
床は深い厚みのあるペルシャ織りの絨毯が敷き詰められ、高い天井は、全面が淡いピン
ク色に光っている。部屋の真ん中には天蓋付きの5メートル四方ほどあるベッドが置かれ
ていた。このベッドルーム全体で、100 平米はありそうだった。
エリザベーラは大きなベッドに上がっていた。
「隼人さんも来て!」
エリザベーラが優しく呼んでいる。僕は四つん這いになってベッドに近づいた。
「隼人さん、ここでは立って歩いて良いのよ。四つん這いはやめて」
エリザベーラの声は優しかった。その言葉を頼りに僕は立ち上がった。
この王宮に入ってから、立って歩ける場所は地下空洞だけだった。その他はどこにいる
時でも四つん這いか、奴隷の礼の格好を強要されていた。そのせいか、二本足で立ち上が
れた爽快感を味わうどころか、とても罪悪感に満ちた気持ちが湧き起こってきた。すっか
り四つん這いの生活に慣れてしまっていて、
立って歩くことが罪を犯しているような気持ちになってしまうのだ。でも、そんなことは
エリザベーラには言えない。僕は普通を装い、エリザベーラの側まで歩いた。ここに来て
から、女性の前で二足歩行でこんなに歩いたのは初めてだった。なんとも気分が悪い。
エリザベーラがベッドの中央を叩く。僕はベッドに上がり、エリザベーラが叩いたとこ
ろに座った。目の前には、麗しの、僕のエリザベーラが真っ赤なアバヤを脱ぎ捨て、全裸
で待っていた。僕にはそれだけで充分に満足だった。
「今日からここで一緒に寝ましょう、隼人さん」
エリザベーラが言葉を漏らす。その一言で、僕の胸の内に熱いものが込み上げてきて、
涙が溢れ出てきた。僕はエリザベーラの奴隷になったわけではなかった。エリザベーラの
深い愛に、僕は呻き声を出して泣いた。
エリザベーラの手が伸びてきて僕の裸の身体を包み込んだ。僕は号泣した。
「御免なさい隼人さん、私が悪かったわ」
エリザベーラが謝る。
「違うんだ、エリザベーラ。嬉しいんだ。エリザベーラが僕のところに帰ってきてくれて」
僕は言葉を探したが、この喜びを表す言葉なんて見つかるわけがなかった。僕らは抱き
合って、そのままベッドの上に倒れ込んだ。
だが、何かがおかしかった。僕はとても罪深いことをしているように感じていた。こん
な、大それたことをしてはいけない。お前は女王様に対し、なんと不届きなことをしてい
るのだ、と心の奥から問いかけてくる。悪いことをしている時のように、罪の意識に胸が
重くなる。さっきまでの晴れやかだった気分は、もうどこにも残っていなかった。それよ
りも胸が締め付けられるように苦しくなっていた。
僕はエリザベーラの手を振り解いた。ベッドの上から飛び降り、エリザベーラを見上げ
て見つめると、エリザベーラはなんと神々しく見えるのだろうか。
僕は畏れ多いことをしているんだ。そう思うと、自然に僕は奴隷の礼をしていた。気分は
落ち着いて安堵感が戻ってきた。
「隼人さん、どうしたの?」
驚いたように、上擦ったエリザベーラの声が、頭の上から降ってきた。
「駄目なんだ。僕には、エリザベーラを女王様として敬い、傅くことしかできなくなって
しまったんだ。こうして奴隷の礼をすると、とても気分が落ち着く。僕はどうしてしまっ
たんだろうか。
……解らない。でもエリザベーラの足元に畏まると、気分が楽になる。だから御免、一
緒のベッドでは眠れそうにない」
首だけをエリザベーラのほうにもたげ、美しく尊い女
王様を見つめて言った。自分の口から、こんな情けない言葉が出るなどとは思ってもみな
かった。
「解ったわ。アリーネの呪縛よ。私が、少しずつ解いていってあげるから大丈夫。心配し
ないで、隼人さん」
優しい口調で言ってくれた。僕は顔を上げたまま、エリザベーラを見つめた。
優しさと神々しさ、そして威厳が窺えた。
「隼人さん。私のことを女王様と呼んで御覧なさい」
エリザベーラは、強くも優しい口調で突然言った。一瞬、何を言っているのか、その意
味が理解できなかった。
「さぁ! 言うのよ、女王様って」
エリザベーラが促した。しかし、僕は躊躇っていた。エリザベーラは僕の妻で、僕はエ
リザベーラの夫で、決して奴隷ではない。それなのに、エリザベーラを“女王様”と呼ぶ
ことは、僕がエリザベーラの本当の奴隷になってしまうということを認めることなのだ。
そんな奴隷言葉を軽々しく言えるものではな
い。それでも言わなければいけないという脅迫観念が胸の内から湧き上がってきていた。
エリザベーラの目を見つめた。エリザベーラがさらに神々しく、美しく輝いて見える。
僕の心のうちに、エリザベーラを神と慕う心が芽生えていた。
嗚呼!
「女王様」
とうとう、言葉を発してしまった。
気恥ずかしかった。顔が真っ赤に染まっていくようだ。それだけに留まらず身体中が熱
くなっていくのが感じられた。でも、それとは裏腹に、満足感という快感が、全身を伝わ
っていく。
「もっと大きな声で言うのよ」
やっと言えたのに、さらに大きな声で言わなければならないのだろうか。僕の自尊心は
どうなってしまうのだろう。エリザベーラの命令なのだから、従うことしか僕には許され
ていないのか。こうなればヤケだ。
「女王様!!」
本当に大きな声で言い放った。
これでは自分が、本当にエリザベーラの奴隷たることを認めてしまう行為だ。なんとい
う浅ましさだ。
ところが、僕の心は逆に晴れやかに澄み切っていった。僕は、今度こそ本当に心の底か
ら嬉しさが溢れてきた。そして完全な満足感を感じていた。
僕は頭を絨毯に深く埋めた。その行為は僕の女王様に心から従属し、献身できる満足感
と喜びを与えてくれた。
後頭部が圧迫された。奴隷の礼をしている顔が、絨毯に深く埋もれる。エリザベーラが
僕の頭の後頭部に足を載せて踏んでいた。
「隼人さん、嬉しいわ」
嬉しそうな女王様の、お声だった。
僕も心底、嬉しかった。
= 奴隷を愛すること =
愛しい隼人さんを、やっと両腕に抱くことができて私は喜びの絶頂にあった。
ところが突然、隼人さんは私の手を振り解いてベッドの上から飛び降り、絨毯の上で身体
をうつ伏せにして奴隷の礼の格好になった。そして、首だけを私のほうにもたげて上目遣
いで見上げている。
突然、どうしてしまったの? 私は驚いて隼人さんを見つめるしかなかった。
「隼人さん、どうしたの?」
「駄目なんだ。僕には、エリザベーラを女王様として敬い、傅くことしかできなくなって
しまったんだ。こうして奴隷の礼をすると、とても気分が落ち着く。僕はどうしてしまっ
たんだろうか。
……解らない。でもエリザベーラの足元に畏まると、気分が楽になる。だから御免、一
緒のベッドでは眠れそうにない」
隼人さん、なんて卑屈なことを言うの? それは、アリーネの掛けた催眠術のせいよ。
そんなのは、一時的なことよ。
「解ったわ、アリーネの呪縛よ。私が少しずつ解いていってあげるから大丈夫。心配しな
いで、隼人さん」
でも、それだけかしら? もし本当に隼人さんがマゾ化してしまっているのなら、それ
を試さない手はないし、催眠効果だけなら今のうちに楽しんでおかなければ、勿体無いわ。
「隼人さん、私のことを女王様と呼んで御覧なさい」
私の中に遊び心が湧いてきて、少し強い口調で言ってみた。
隼人さんには言葉の意味が捉えられないようで、キョトンとした表情をしている。なん
て間抜けな顔。その顔だけを持ち上げて私を見つていめる姿が、何とも間抜けで可笑しい
わ。笑いをこらえるのが大変。これは楽しいことになるかもしれない。
「さぁ! 言うのよ、女王様って」
さぁ、プレイの始まりよ、隼人さん。きっと言わせてみせるわ。そう、私の目を見つめ
て、私の中の偉大さに敬意を表して言うのよ“女王様”って。それが、奴隷の隼人さんに
与えられた私を呼ぶための唯一の言葉なのよ。
黙ったまま、いつまで私を見つめているの? さぁ、言いなさい。
「女王様」
恥かしそうに、小さな声で隼人さんが言葉を発した。見る見るうちに隼人さんが赤面し
ていく。顔だけでなく全身も紅く染まっていく様が面白かった。
「もっと大きな声で言うのよ」
最初が肝心。私の真の奴隷になる調教は、今から始まるのよ。そんな恥じ入ったような
小さな声で言われても、ちっとも私は嬉しくないわ。
黒い目だけを不安そうにクリクリとさせている。心の中で葛藤しているのね。でも、私
の本当の奴隷になるためにはその葛藤を乗り越えなければならないのよ。
さあ、言いなさい、隼人さん。大きな声で。
「女王様!!」
ついに言わせたわ。私の隼人さん。私の愛する隼人さん。これで私の完全な奴隷となる
ことができるのよ。
私も隼人さんの女王様として振る舞わなければ。それを隼人さんは望んでいるはずだわ。
隼人さんは、顔を絨毯の中に埋めて奴隷の礼をしている。私はベッドから降りて、隼人
さんの前に立った。そして素足を上げ、隼人さんの後頭部に乗せて圧迫した。晴れ晴れと
した、とても良い気分。同時に、隼人さんの頭から痺れるような電撃が私の脳髄にまで伝
わってきた。とても嬉しい気持ちになれた。
「隼人さん、嬉しいわ」
嬉しさを素直に隼人さんに告げた。
それはなんとも不思議な気持ちだった。愛する隼人さんがマゾとなって、私の奴隷にな
ることを認めた。
アリーネの言っていた催眠術の効果だけだとは思えなかった。それに、催眠術でマゾに
なれるとは思えない。たった3週間の調教で、私の愛する旦那様はアリーネの手腕によっ
てマゾに落されてしまったというの?
私と一緒に暮らしたいという思いだけで、隼人さ
んはそこまで犠牲を払ってくれたの?
隼人さんには過酷な3週間だったに違いないわ。
アリーネは、どうして、そこのところを解ってくれなかったの。
私の隼人さんはチビだけど、威厳があって賢くて、私が一番頼りにできる男性で、これ
からワンダ女建国を統治していくためには欠かせないパートナーとなるはずの伴侶なのに。
それを人間とは言えないマゾに落としてしまって、アリーネったら。それでも私は彼を愛
していけるのだろうか。
隼人さんと出会ってからの5年間、私は彼に色々なことを教えてもらった。大学で学ぶ
知識は、実際の社会において通用するものではない。隼人さんは、その学問を、社会で活
用する術を私に教えてくれた。まさか私が一国の女王になることを予感していたわけでは
ないだろう。
隼人さんの洞察力には、人知を超えたものがあった。そんな並外れた能力を持つ隼人さ
んに魅せられて、私は結婚を承諾したのだ。
確かに私の性的趣向で、隼人さんをマゾにしようとSMチックに扱ったこともあったけ
れど、それはセックスの前戯のようなもので、決して隼人さんを私の奴隷にしようと思っ
ていたぶったわけではない。
でも、ここに、絨毯の上で、私に全てを捧げようとしている隼人さんがいる。こんなど
うしようもない、人間とすら思えないマゾの仲間入りをしてしまった隼人さんを、これか
らも私は愛していけるのか、自信はない。
でも、隼人さんは、どうしようもないマゾ奴隷ではないはずだわ。私にとっては、どう
しても必要な愛する人なのよ。いえ、今は惨めなマゾ奴隷に落ちてしまっているけれど、
私が愛する隼人さんに違いはないはずよ。たった3週間の間だったけれど、隼人さんにど
れだけ私の強い力になってもらえたことか。彼がいなかったなら、女建国は連邦政府に乗
っ取られ、私自身も暗殺されていたはずよ。
私のために自分の身を挺して尽くしてくれているわ。それがマゾになったせいとは、そ
ても思えないわ。
でも事実、隼人さんはマゾになってしまったのだから、愛する隼人さんを思う存分苛め
て、苦痛を与えて泣かせてあげられる。
心の隅で、いつも想像していた卑猥なことが現実になったのよ。なんて心浮き立つこと
なの。それに隼人さんも、そうなることを望んでいるのよ。私が隼人さんを愛するという
ことは、そういうことなんだわ。
それでも隼人さんは、私にとって特別な人。私の我侭だけでいたぶるんじゃないの。隼
人さんに喜んでもらえるなら、私は隼人さんを苛め抜くわ。それが私の快感、エクスタシ
ーになる。隼人さんは素敵な私のパートナーに育ったわ。アリーネに感謝しなければ。本
当にアリーネの仕事は完璧だわ。だから私はマゾ奴隷となった隼人さんを愛することがで
きるのよ。
隼人さんの頭を踏み付けている間、痺れるような快楽が身体中に走っていたわ。しばら
くその快楽を味わってから、足を隼人さんの頭の上から外して、奴隷の礼をして這いつく
ばる惨めな隼人さんを足元に見下したわ。
「隼人さん、顔を上げて」
奴隷の礼から顔だけを上に向けて私を見つめる隼人さん。眩しそうな様子で見つめてい
るわ。
「今はアリーネの催眠効果で、そんなことを言っているだけなのよ。だから私が少しずつ、
その呪縛を解いていってあげるわ」
私は心底そう思った。
「そうかもしれない。でも僕は、自分のマゾ性を自覚してしまった。僕はもう女王様と同
じ人間ではいられない。だったら女王様の奴隷となる事が、僕の一番の幸せなんです。こ
んな僕を女王様は嫌いに思われるかもしれませんが、どうぞ女王様の奴隷として、お側で
仕えさせて下さい」
羞恥と畏れを含んだ声で隼人さんが言った。こんな恥かしい言葉を私に対して言わなけ
ればならない隼人さんの心境を思うと、私もそれに応えてあげなければならない。そう思
えてくるわ。
「解ったわ、隼人さん。マゾ奴隷になったからと言って、私は隼人さんを絶対に見捨てた
りしません。だから、そのことで不安を感じることはありません」
私は極力優しく、隼人さんの不安を和らげるように言った。
私は膝を折り、私を見上げる隼人さんに近づいた。隼人さんの身体に手を添えて起こし
て抱きしめた。
「私は隼人さんを愛しています。隼人さんは私の専属奴隷になってしまったけれど、それ
でも、とっても愛する私の夫です。だから、今日から私も隼人さんと並んで床で寝ます」
私はさらに強く隼人さんを抱きしめた。隼人さんの手も私の身体に回され、強く抱きし
めてくれた。そのまま、床のふかふかした絨毯の上に、二人で横たわった。
隼人さんの胸に顔を埋め、私は目を閉じた。色々なことがあった一日だった。疲れが一
挙に全身を支配した。隼人さんの胸の中で安らぎを覚え、そのまま意識が遠退いていった。
何気なく目を開いた。私はベッドの上で寝ている。隼人さんが、いない?
薄明かりの中、大きく目を開いて反対側に寝返りを打つと、そこには隼人さんの笑顔が
見えた。私の顔をじっと見つめてくれている。安心して、また眠りについた。
とても気持ちが良かった。全身が快楽に包まれている。いつもと同じ目覚め、なにも心
配することはない。女陰に感じる隼人さんの舌使いの感触がたまらなく気持ち良い。安心
しきって、私は微睡みの中に身を置いた。
意識が遠退いていく。
気が付くと股間に何も感じなくなり、私は目を開けた。隼人さんはいなかった。反対側
を向いても隼人さんの存在を確認できなかった。
部屋は常夜灯の薄明かりしかなく、外光はカーテンによって完全に遮断されている。す
っかり眠気が飛んでいたので、カーテンを開けるよう意識した。
私の意識にセンサーが反応して、自動でゆっくりとカーテンが開かれてゆく。眩しい朝
の光が、徐々に寝室を満たしていった。
入り口のドアは開け放されていて、そこからワゴンが入ってくるのが見えた。ワゴンを
押しているのは、真っ裸の隼人さんだ。
「隼人さん、おはよう!」
私はいつもと同じように、ヤバー語で挨拶した。でも、もういつもと同じではない。昨
日、隼人さんは正式に私の専属奴隷となったのだ。隼人さんの舌奉仕で目覚めさせてもら
うことがいつもと一緒なだけだ。
新婚旅行中は、いつもそうして目覚めさせてもらっていた。あの楽しかった新婚旅行は、
もう3週間以上も前に終わってしまっている。たった3週間前だというのに、あれからな
んと沢山の出来事があったことだろう。新婚旅行は、もう遙かな過去の出来事のように感
じられる。
ワゴンを押した隼人さんがベッドの側に近づいた。
「女王様、おはようございます」
隼人さんもヤバー語で答えた。二人の間の会話はいつもヤバー語だ。これなら誰にも解
らない。これからも二人の会話はヤバー語にしよう。
でも隼人さんは自然な感じで、
“女王様”と口にした。私も違和感なく彼の言葉を受け止
めた。これで良いのだ……。
隼人さんが、冷たく潤ったタオルを私の顔の上に優しく置いてくれる。ひんやりとした
冷たさが気持ち良かった。乾ききった私の肌が、水分を見る見る吸収していく。タオルが
外されると冷たい水の入ったグラスが口元に運ばれる。グラスの縁に唇を付け、冷たい水
を啜る。歯の間に冷たい水を回す。隼人さん
は私の目の下で大きく口を開いて、私が汚れた水を吐き出すのを待っている。
私は下を向き、大きく開いた隼人さんの口の中へ、歯間を漱ぎ汚れた水を吐き出した。
吐き出された汚い水を隼人さんは口で受け止め、すぐに飲み干した。そしてすぐに身体を
起こすと、またグラスを私の口元に運んできてくれる。再度私は水を啜り、上を向いて声
を出して嗽した。その汚い水も隼人さんの口の中に吐き出す。いがらっぽかった喉もスッ
キリとした。
私の吐き出した汚い水を隼人さんは喉を鳴らして飲み込んでいた。ちゃんとした奴隷教
育が身についている。
「水を」
私は水が飲みたかったので、隼人さんに要求した。
その区別を隼人さんは察して、別の水の入ったグラスを私の口元に運んでくれる。グラ
スの縁に口を付け、喉の奥へ冷たい水を流し込む。爽やかな冷水は体中に行き渡った。
目覚めの朝食はメロンから始まり、何種類もの果物が、隼人さんの手から私の口へと運
ばれる。なんの違和感もなく、専属奴隷となった隼人さんを私は受け入れていた。
要求するときは、一言発するだけで良い。機械なら、意識するだけでセンサーが感じ取
ってやってくれるが、人間の奴隷となると言葉に出さなければ伝わらない部分がどうして
もある。それを不便と思うか、楽しいと思うかは、人それぞれかもしれない。楽しいと感
じなければ、奴隷を使う意味もない。
「メロン」
私の口元に、フォークに刺したメロンの果肉を運んでくれる。私はメロンを口先で咥え
てから両手を隼人さんの方に伸ばし、両耳を捕まえると、私の顔の前に引き寄せた。隼人
さんと唇を合わせ、そのメロンを隼人さんに食べさせる。そのまま両手で隼人さんの顔を
押さえ付け、胸の中に抱え込んで逃げ出せないようにした。
私は幸せだった。やっと、隼人さんを私の手の中に取り戻せたのだ。隼人さんの頭を抱
えたまま、じっと動かないで幸せな気持ちに浸っていた。
両腕を開き、隼人さんを解放してあげると、隼人さんの黒い目が笑っていた。その笑っ
た目に涙が溢れ出し、頬に一筋流れた。
私も胸が詰まり、隼人さんの顔を再度、胸に抱き寄せた。
嬉しかった。熱い想いが胸を昂らせた。
隼人さんは私のために一生懸命尽くしている。それが隼人さんの愛。マゾの愛かもしれ
ないけれど、隼人さんはそれを喜んでいる。だから、これが良い。私は隼人さんを大事に
扱う。それは隼人さんを苛める事になるかもしれないけれど、それが私の隼人さんへのサ
ディスティックな愛。本当の愛情なのだ。
私は隼人さんの顔を胸から離した。隼人さんは私を見つめたまま、私の身体全体を見渡
している。私は股を開いて黄金の茂みを見せ付ける。隼人さんが私の女陰に引き付けられ、
顔を寄せてくる。金髪の茂みに隼人さんの顔が埋まる。言葉にしなくても通じるものがあ
る。
柔らかなベッドの上で、私と隼人さんは白い雲の上の住人のように、重力を感じなくな
っていた。
隼人さんの舌先が私の女陰全体を舐め回し、やがて一点に収束すると、舌先がクリトリ
スの上側を刺激してくる。そのくすぐったいような愛情に満ちた感覚は、どんな機械でも
再現することはできないだろう。
痺れる感覚に私は声を出してよがっていた。本当に気持ち良かった。天国に昇るとは、
まさにこういうことだろう。私の腰は揺れ、自然に両足が上がっていく。
嗚呼、愛しの隼人さん。私の両股が隼人さんの頭を包む。エクスタシーの緊迫で、股間
に挟み込んだ隼人さんの顔が締め上げられ、私と一体化する。もどかしいけれど、こうし
て二人は一つになれた。隼人さんの舌技によって快感の波が何度となく押し寄せた。私は
どこまで上りつめて行くのだろうか。
そうだ、まだ朝になったばかりなのだ。今日も色々大変なことが待ち受けている。この
続きは夜にしよう。私は無理矢理、現実に意識を戻そうと股間から隼人さんを解放した。
完全に呼吸を塞がれていた隼人さんは、大きく喘ぐように空気を吸う。本当に苦しかっ
たのね。それでも抵抗することなく私のために舌を動かし続けていてくれた。なんて忠実
な性具に成長したの。
私の中に、隼人さんに対する感謝の念が溢れてきた。いくら専属奴隷になったからとい
って、ここまで苦痛に耐えて私に奉仕してくれるなんて、素晴らしすぎるわ。
「ありがとう、隼人さん。素敵だったわ! とっても気持ち良かった。お陰で頭がスッキ
リしました。続きは夜にしましょう」
心から感謝の気持ちを隼人さんに伝えた。
そうだ、朝のニュースをチェックしておかなければ。その意識がセンサーに伝わり、天
井からスクリーンがゆっくりと足元のほうに降りてくる。
「ニュースの時間です」
男性アナウンサーの声だった。
スクリーンに戦車の砲列が、青空の下、砂漠を背景に映し出されていた。
「イラソ首長国連邦G自治区こと、ワンダ女建国の戦車部隊3千輌の砲列は、イラソ首長
国連邦政府首都、ミラーズに照準を合わせています。
悲惨な戦闘から、すでに 10 日を過ぎようとしていますが、その砲身からは、1発の弾丸
も発射されていません。ミラーズ市民は不安のうちに、ワンダ女建国軍の侵攻に脅える日々
を過しています。軍備による防衛策を考えていますが、首都を守るはずの連邦国軍はすで
に壊滅し、残された道は全面降伏以外にはないという諦めの雰囲気が、首都全体を覆いつ
くしています。
不気味なワンダ女権国軍の沈黙は、世界のマスメディアをも沈黙させています。連邦政
府が頼りとするインドゥー政府も、パキシタン政府も一切の援助を拒否しています。この
ままイラソ首長国連邦は、ワンダ女建国の全面支配下に統一されてしまうのでしょうか?」
映像が首都ミラーズの街並みを映し出した。朝の陽射しに輝く、美しい高層ビル群が建
ち並び、路地のところどころに丸屋根のモスクが点在している。しかし、道路を走る車は
まばらで、黒いアバヤを纏った女性の姿が多く見受けられた。映像がシェイラで顔を覆っ
た一人の女性に近づく。
「ワンダ女建国軍の進行に、どう対抗しますか?」
女性アナウンサーの姿は写さず、黒いアバヤ姿の女性にインタビュアーが寄って行く。
「主人はあの戦闘で亡くなりました。子供と老人は私が銃を持って守ります!」
インタビュアーは次の女性を捕らえる。
「貴女はどうします?」
「主人は隠します。私があんな女建国に主人を取られないように、戦って守ってあげます」
いつもは活気があるはずの市場に映像が切り替わる。また別の女性をカメラが捕らえる。
「もし、ワンダ女建国の支配下に落ちてしまったら、どうしますか?」
予想される事態の質問に移っていた。
「主人を、あんな女建国の奴隷に取られる前に、隣国に逃げます」
さらに次の女性にカメラが移る。
「良いんじゃないの? もう男なんて、奴隷以外に使い道ないしぃ、私は大歓迎よ」
シェイラで顔が隠されて年齢は解らなかったが、極端に若い女性だった。
カメラが砂漠色のシャツを纏った女性報道記者の顔をアップにして映し出す。
「どうして世界は、この悲惨な戦闘に無関心なのでしょうか? 地球上、唯一の女建国が、
イラソ首長国連邦の主権を牛耳るのでしょうか。全世界が沈黙したまま成り行きを見守っ
ています。
Bbc カレンでした」
映像が石油の市場価格を映し出す。戦争の影響もなく、また取引相場は下がっている。
石油が化石燃料として使われなくなり、その重要性が低くなるにつれ、相場も停滞してい
った。21 世紀初頭の数百ドル台にまで高騰したオイル相場に嫌気が差し、世界は脱化石燃
料の政策を推し進めた。電力は太陽光発電を中心に、風力・波力・そして原子力にシフト
していった。なによりも深部へのボーリング技術が進展し、地熱・マグマが利用可能とな
り、電力に対する不安はなくなった。さらに交通機関も電池の開発で、大容量の電気を蓄
電できるようになり、バイク・車から、船舶、航空機にまで新たなモーターや推進エンジ
ンの開発がなされ、化石燃料の必要性が失われてしまったのだ。当然、原材料以外に使い
道のなくなった化石燃料の相場は下落することとなった。それでも鉱物資源としての価値
は残っていた。
隼人さんの姿が見えないので周りを捜してみると、私から離れて床で奴隷の礼をとって
いる。心から私に仕えようとしている隼人さんを見て、とても満足な気持ちになっていた。
少し尿意を感じ始めた私は、ベッドから降りた。
「ここで待っていて」
隼人さんに告げると、薄く軽い真っ赤な夜具を纏いドアに向かった。寝室と繋がる隣の
執務室は、黒に近い焦げ茶色の木製の家具で埋まり、いつも重厚な雰囲気に満ちている。
太い大理石の円筒柱の影に、青い布を被せた人間便器のジェームズ先生が置かれている。
私はその青い布に近づき、手で剥がした。端正な白い顔、金髪の頭、青い瞳が喜びを讃え
て私を迎えてくれる。私は夜具の前をたくし上げ、ジェームズ先生の頭を、その中に納め
た。そして、ジェームズ先生の顔に女陰を
押し当てる。
「小」
私は小な声で言った。
ジェームズ先生の口が開き私の女陰に吸い付いてくる。私の女陰は、愛液と隼人さんの
唾液でベトベトになっているはずだ。敏感な人間便器のジェームズ先生になら、それが感
じ取れるだろう。ジェームズ先生がどれほどの嫉妬心を抱いているか楽しみだ。そんな可
虐的なことを想像しながら放尿した。
ジェームズ先生が尿を飲み込み、喉を鳴らして動かしているのを感じた。可哀想なジェ
ームズ先生。
私が踏みつけたジェームズ先生のパニスが、パニス台の上でムクムクと大きく膨らんで
いくのを足の裏に感じていた。嫉妬心と屈辱感で、ジェームズ先生のパニスはいつもより
さらにしっかりと硬くなっていた。素足の足裏で、その卑猥な丸太となったパニスを扱い
てやる。私の尿を全て飲み終わると同時に、勃起力は最高になり、尿道管の中を精液が勢
いよく排出されていくのを足裏に感じた。ジェームズ先生が射精していた。
ジェームズ先生は、排尿後の後始末を忘れて舌先を引っ込めてしまった。私はジェーム
ズ先生の金髪を夜具の薄い布の上から鷲掴みすると、その顔を私の陰毛に擦り付けた。隼
人さんの唾で濡れた金髪の陰毛も、ジェームズ先生の顔で拭き取ってやった。そんな屈辱
的な行為にジェームズ先生のパニスは、また
大きく膨れ上がってきた。マゾは屈辱感でパニスを萎えさせるということができないのだ
ろうか。普通の人間的な反応を示せないマゾなど、人間で有りえるわけもなかった。私は
再度、丹念にジェームズ先生の勃起したパニスを足の裏で扱いた。2回目なので、なかな
か射精に至らない。ジェームズ先生の両方の
乳首を摘み、思いきり捩じってやった。口から溜息を吐き、ジェームズ先生は2度目の射
精に達していた。
「陛下!」
突然、ファミーレの声が背中の方から聞こえた。
私は夜具からジェームズ先生を出し、振り返ると、ファミーレも薄い夜具を纏っただけ
の姿だった。ファミーレは、いつでも執務が可能なように、王宮の執務室の隣に部屋をも
らっている。
「いよいよ、最終段階の決断を下される時です。私達ワンダ女建国を認めてくれる勢力は、
世界に満ち満ちています。陛下のご英断に、国民は期待しています。隼人さんとよく相談
して、戦後処理を進めて下さい、陛下」
「貴方が、隼人さんを高く買ってくれていて嬉しいわ、ファミーレ」
ファミーレだけは、私と隼人さんの味方だ。
「陛下と隼人さんのコンビネーションが最高なのです。隼人さんのアドバイスに陛下は触
発されます。そして、より高次な結論を陛下自身が導き出します。隼人さんなくしては、
今の難局を抜け出すことはできませんでした。陛下と隼人さんに期待する理由は、そこで
す」
ファミーレも美しい肌をしている、とても 40 歳近くには見えない。
「ありがとう、ファミーレ。で、元老院最高会議は何時からかしら?」
私は尋ねた。
「昼からです。まだ充分に時間はあります」
ファミーレが答えてくれた。
「昼に、逢いましょう」
私は隼人さんの待つ寝室に戻った。隼人さんがテレビを見ているが、すぐにベッドの脇
から離れ、奴隷の礼で私を迎えてくれた。本当に隼人さんは可愛いわ。私は隼人さんの頭
の前に立った。そして長く伸ばされた両の手の甲を素足で踏んだ。隼人さんの掌が絨毯に
埋まる。
「動けないでしょう」
意地悪く私は言った。
「はい」
呟くように隼人さんが答える。
隼人さんが屈辱感に苛まれていることがよく解る。そんな隼人さんを見下しているので、
私も動くことができない。隼人さんも奴隷の礼の形を崩すことができない。ただ、じっと
私に見つめられているだけだ。
「苦しい? 恥かしい?」
私は隼人さんに屈辱感を与えたかった。
「いいえ、大丈夫です」
隼人さんが絨毯に埋もれた口から声を出している。
「嘘、おっしゃい! 仰向けになって」
私は隼人さんの手の甲から足を退けた。
隼人さんは動かない。微動だにしない。
「もう、手の上には乗っていないのよ」
私は冷ややかに言った。
「聞こえなくなったの?」
私は腹立たしげに追い立てた。
「も、もう少しお待ち下さい」
隼人さんが、くぐもった声で答えた。
私は素早く隼人さんの横に移動して、横腹を蹴った。隼人さんは絨毯の上で簡単に転が
って仰向けになった。思っていたとおり、勃起したパニスが天を向いていた。素足で隼人
さんの膨らんだ股間を踏み潰した。そして屈み込んで、私の手で膨らんだパニスを扱いて
やった。
見る見るうちに隼人さんの顔が苦痛に歪んでいく。金属管の鋲によって、勃起したパニ
スが痛みつけられているんだわ。その苦痛に隼人さんは、のた打ち回っている。なんて可
哀想な隼人さんなの。我慢も限界を越えているのね。呻
き声まで漏らして喘いいるわ。
「嗚呼、許してくださいませ、女王様」
もう音を上げるの、隼人さん?
昼まで、たっぷりと時間があるのよ。隼人さんを思う
存分、虐めてあげられるわ。
私は仰向けになった隼人さんの顔の真上に立った。薄い夜具を通して、私の金髪の陰毛
が隼人さんの眼の真上に見えているはずだわ。私は隼人さんの顔の上に、ゆっくりと腰を
下ろしていった。隼人さんの目の上 20cm ほどまで近づいたところで、腰を降ろすのを止め
た。
私の女陰が金髪を透して隼人さんに見られている。私も興奮してきているけれど、隼人
さんはもっと興奮している。可哀想に、パニスはさらに大きく膨らんでしまっているわ。
哀れな隼人さんはパニスの痛みに苛まれて、途切れることなく呻き続けているわ。
私を感じさせてくれる、なんて素敵な声なの、もっと、もっと感じさせて。だから、も
っともっと呻かせてあげるわ。
私の女陰は、隼人さんの甘美な呻き声で濡れてしまっている。尻をさらに落とし、陰毛
が隼人さんの鼻先を擽るぐらいのところで再度止めたわ。溢れる愛蜜が隼人さんの顔に滴
り垂れてしまっているでしょうね。もう我慢できないわ。
隼人さんの熱い息遣いが直接、女陰に感じられる。いよいよ隼人さんの顔の上まで、尻
を近づけた。
隼人さんの舌が伸びてくる。私の女陰を下から舐め上げる。衝撃的な甘美な快楽が全身
に走る。すぐに私は絶頂を迎えたわ。
女陰は完全に隼人さんの息を止め、舌先だけが喘ぐように蠢いている。隼人さんの両方
の手が伸びてきて、私の乳房を掴んでいる。
「嗚呼∼っ!!」
そのままエクスタシーに身を任せた。全身が硬直して快楽の坩堝に投げ出される。2度、
3度、4度と、エクスタシーが全身を貫いていく。その後、何度もエクスタシーが波のよ
うに私の身体を突き抜けていくよう。
ようやく一呼吸ついて、隼人さんの顔の上に立ちあがると、はち切れんばかりに揺れて
いる隼人さんのパニスを掴んだ。
長さ3cm ほどの銀色の筒管に、小さな南京錠が2つ付いている。その小さな直径の金属
管の中で膨らんだパニスが、その部分だけ圧迫され、締め上げられていた。きっと、その
金属管の内側に配された金属の鋭い鋲が、パニスの竿に食い込んで耐えきれない苦痛を与
えているのだろう。
そんな可哀想なパニスを摘み上げて、私の女陰に導き入れた。女陰は濡れているので、
なんの抵抗もなく隼人さんのパニスを咥え込んだ。
私の膣の中で威きり立つパニスの動きが直接感じられた。それ以上に、苦痛に翻弄され
た隼人さん自身の蠢きのほうが厄介だった。
「動かないっ!」
私は大きな声で、きつく命令した。
隼人さんが暴れるのを止めた。
それで良い。隼人さんは、完全に私の専属奴隷としての役目を心得ていた。耐えられな
い苦痛に見舞われているとしても、主様の命令を実行するためには耐えるということを学
んでいる。全身全霊を賭して、主様のために尽くすのが真の奴隷なのだ。
腰を動かないように固定した隼人さんは、パニス玩具と化した。私は女陰で隼人さんの
パニスを咥えたまま、腰をゆっくりと動かし始める。熱く燃える私の身体の隅々にまで、
再度エクスタシーが駆け巡ってゆく。
嗚呼、たまらない。この快楽をどう表現したらいいのだろう。
「ワオ∼!!!」
私は吠えた。
一度では収まらない。
「ゥアオ∼!!!」
「ウオ∼!!!」
「オオ∼!!!」
何度となく、快楽に突き上げられるまま吠えていたわ。
「ゥ、ゥオ∼!!
オゥオ∼!!!」
=女建国の勝利=
女王様が僕の顔の上から立ちあがられ、はち切れんばかりのパニスを掴む。
小さな南京錠の付いたパニスを女王様が女陰に導き入れようとしている。興奮で濡れた女
陰が、僕の金属管付きのパニスを飲み込んでゆく。苦痛に満ちたパニスは、温かな女王様
の膣の中で狂ったように喜んでいた。パニスに加えられる強烈な苦痛に僕は耐えられず腰
を動かして逃げまくっていた。
「動かない!」
女王様がきつく、ご命令された。
ご命令には従わなければならない。苦痛を我慢して僕は腰の動きを止め、腰を持ち上げ
て硬直させた。僕のパニスの上で、女王様が歓喜したように腰を上下に動かし続けている。
騎上位とはまさに馬を駆る事なのだ。
「ウォー!!」
女王様が吠えられた。続けて2度、3度と吠えらる。女王様から漂う金木犀の甘い体臭
が、獣臭い匂いに変わっていた。声はライオンそのもので気高かった。そんな恐ろしい獣
の声を上げ、幾度となく吠え続けていた。百獣の王のライオンの雄叫びのような恐ろしさ
に、僕の全身から鳥肌が立ってくるのが意識される。僕は強靭な百獣の女王様のか弱い奴
隷なのだ。女王様に、本当の怖さを感じていた。
突然、女王様は横向きに倒れられ、絨毯の上に転がられた。僕はビックリして身体を起
こした。女王様が優しいお顔で微笑まれて僕を見つめている。手が僕のほうに差し伸べら
れる。僕は、その手の中に身体を預けた。女王様の両手が僕の身体を包み込んでくれた。
僕達は幸せの絶頂にあった。もう二度と、二人が離れ離れになることはないのだ。幸せな
気持ちが全身を駆け巡っていた。
ところが突然、女王様は僕を突き放し、ペルシャ絨毯の上に体育座りされ、僕の目を覗
き込んできた。
「隼人さん、教えて。これからワンダ女建国は、どう行動したら良いの?」
唐突に、女王様が質問された。突然そう言われても答えようがない。僕の中に、そんな
ワンダ女建国の未来を展望するような政策まで考えたことはなかった。
確かに一番の危機は去って、戦況はワンダ女建国に有利に働いている。ここでしっかり
と基礎を築かないと、また元の木阿弥に戻って、過去の悲惨な血で血を洗う泥沼のような
歴史を繰り返すことになるだろう。どう考えれば良いのだろうか。
「では、女王様は、これからどう行動すれば良いと思っているのでしょう?」
当たり障りのない言葉を選んでしまった。
「私がどう行動したいかですって。そうね∼。
連邦政府軍は壊滅してしまっているから、我が女権国軍の武力を背景にすれば、どんな要
求も通るわね。当然、連邦政府を女建国に併合して、男どもはスードラとして女建国のた
めに働かせてやるわ。相当優秀なスードラは、サーバンに取り立ててやっても良いわ。長
年続いていた女建国の奴隷不足も解消するわね」
「それから、どうされるのですか、女王様」
女王様のお言葉に、僕は少し呆れてしまっ
た。
「もちろん、強力な武力を背景に、他の自治国家にも働きかけてイラソ首長国連邦を統一
するのよ。マリアマグダラ法典にも書いてあるとおり、世界救済の第一歩を歩みだすのよ」
遠くを見つめる眼差しで女王様が話された。そんな幼稚な筋書きで、マリアマグダラ法
典の指し示す世界救済が成し遂げられるとは思えなかった。
「それは素晴らしいお考えです。では、軍事力を失った連邦政府を併合することができた
としても、他の自治国家はどう対応するでしょうか」
「それは、ワンダ女建国軍の軍事力の凄さを目の当たりにしているでしょうから、素直に
併合されるでしょ」
嗚呼、駄目だ。あまりにも短絡的過ぎる。
「ところでスードラに落された連邦政府の男達
は、黙ってそんな境遇に甘んじるでしょうか」
「それは、抵抗はあると思うわ。でも、ワンダ女建国軍の軍備はイラソ連邦政府内では最
高よ。無理やりでも従わせてみせるわ」
女王様は本当に強い性格を持っていらっしゃる。
「自治国家の政治を支配しているのは全て男達です。連邦政府の軍事力が壊滅したからと
いって、政治体制の中核はなんら変わっていません。やっぱり政治を動かしているのは男
達なのです。連邦政府を併合したからといって、他の自治国家が素直にワンダ女建国に併
合されるとは思えません。男達がスードラの身分に落されることを良しとはしないでしょ
う。男達の凄まじい抵抗運動が起こるでしょう。
予言の書には、2090 年頃に全世界の国が集まる話し合いの場で、マリアマグダラの子孫
が、女性が地球上で唯一の人間であることを認める宣言を発表し、世界各国にその批准の
署名を求めてるだろう、と書かれています。それまであと 10 年しかありません。予言の書
に記されていることが、これまで全て正しかったとしても女王様の言われるような武力を
背景とした恐怖により、支配体制を推し進めようとすれば、国内の全自治国家が反発する
でしょう。その挙句、どろどろの内戦を勝ち抜いてイラソ首長国連邦を統一しなければな
らなくなります。今の状況から 10 年後に、女王様が国連総会において“女性人間宣言条約”
の提案を行える環境に辿り着けるとは、とても思えません。今は、その状況に辿り着かせ
るための最善の策を考えなければならない時です。女王様」
僕は、真剣に女王様の目を見つめて諭した。
「隼人さんには、何かアイディアがあるの?」
少しだけ弱気になったのか、女王様が聞き返された。
「イラソ首長国連邦政府の政治体制では、連邦政府全体に係る政策は、連邦議会で投票に
よって採択されることになっています。そのシステムに注目するとA∼Jまでの 10 の自治
国家が1票ずつの議決権を持っています。ところが中央連邦政府だけが10票の議決権を
持っているのです。もし、10 対 10 に票が割れた場合には、議長が決定する仕組みです。議
長は中央連邦政府が握っていますので、実質 11 票の議決権を持っているのと一緒です。実
に不公平な議会運営だと思いませんか。ならば、どうしたらいいのでしょうか?」
僕は正座して女王様に対面して話している。体育座りで、お尻を絨毯につけ
ている、女王様よりも目線は僕のほうが上だった。こうして女王様を見下げて話するなん
て、大学での研究会以来かもしれない。何だか気恥ずかしかった。
「それから昨年、市場調査として性風俗環境の統計を世界中から取っていますが、こんな
統計を見つけました。男性人口に占めるマゾの割合がありました。漸く 10 パーセントを越
えたところでした。同様に女性のサディストの割合は 10 パーセントに届いていません。同
性愛者・性障害者は 10 パーセント近くに増えています。マリアマグダラの提唱する女性が
新人類として世界を支配していくには、男性のマゾ化率はあまりにも低すぎます。女性の
サド化率はさらに低いでしょう。
ですから、機はまったく熟しているとは言えません。女権国家としての実力を世界に公
にするには、まだまだ時期尚早すぎます。今は表面的には譲歩すべきでしょう。だから、
次に繋がる大きな布石を今は打っておきましょう。
国境線は今のままとして、国内外に安心感を与えておきます。そして、石油利権の一部
も無償譲渡しましょう。これで女建国が無慈悲な国家ではないことを内外に知らしめるこ
とができるでしょう。その代わり、政治を有利に進めるために、中央連邦政府の議決権の
一部を要求しましょう。今はそれだけで充分です。穏やかな政策で世界を安心させておく
のです。その間にワンダ女建国の実力を蓄積する行動を隠密裏に執ればいいのです」
僕は、女王様を諭すように言った。
「海も返すの?」
少女のように、女王様が呟く。
「国境線は現状のままとして、軍隊を海岸線にそのまま駐屯さておけば良いでしょう。誰
も文句は言わないでしょう」
僕は、女王様の物欲しそうな呟きに答えて付け加えた。
「あそこにリゾートビーチを作るの。プールではなくて海で泳ぎたいわ!
隼人さんと一
緒に行った湘南の海みたいに」
女王様の思いは唐突に、日本で過ごされた学生時代に戻っているようだった。
「あの時、顔だけ出して隼人さんを砂に埋めて、その顔の上に私、跨って座ってしまった
わ。私が舐めてって言ったら、隼人さん、私のあそこを舐めてくれたわ。あの頃からマゾ
の素質があったのね?」
女王様が突然声を上げて笑われた。
「あの時は恥かしかったけれど、周りに誰もいなかったから、水着の上から舐めてみただ
けなのです」
突然の話題に僕は動揺してしまった。
「舐めた感じはどうだったの?」
女王様が聞かれる。僕の動揺はすぐに女王様に悟られてしまった。女王様が僕を弄んで
いる。
「ざらざらとして、塩っぱかったです、女王様」
僕は、小さく呟くような声になって言った。
「それで、感じていたの?」
女王様が虐めモードに変わっていく。
「あの時は屈辱だけでした。大の男の顔を女性の股間で潰されたのですから、男なら誰で
も怒りますよ」
僕は正直に答えた。
「でも、隼人さんは怒らなかったわ、どうして?」
女王様の青い瞳の奥が魅惑的に光っていた。
「あの時は遊びだと解っていましたし、エリザベーラを愛し始めた頃だったので、エリザ
ベーラに喜んでもらえるならと思って舐めたのです」
エリザベーラに戻った女王様に、僕の恥かしい内面が全て暴露されてしまう。
「今も愛してくれているの?」
甘い声でエリザベーラが囁いた。
「あの時の、100 倍も愛しています」
目の前に迫る、エリザベーラの顔に圧倒されながら、僕は強く言った。嗚呼、エリザベ
ーラはサディスティック・モードになってしまった。
「私の排泄物も、全て食べられるの?」
確認するようにエリザベーラが聞いてくる。
「もちろんです。エリザベーラの聖水も黄金も、エリザベーラのものは全て受け入れます」
僕は心からそう思って、さらに強く言った。
「隼人さん、そんなに力まなくても良いのよ。無理をしないで、私は隼人さんがマゾ奴隷
になってしまったからといって、隼人さんを愛さないことはないわ。本当に私の専属奴隷
になってくれて嬉しいわ。マゾ化した隼人さんが喜ぶように、一生懸命虐めてあげるから
覚悟しておきなさい」
甘い声ながら、マゾ心を擽るように女王様が言われた。
「ありがとうございます、女王様」
正座から身体を低く伏せて奴隷の礼をとった。
「でも隼人さんが、マリアマグダラ法典の内容をこんなに詳しく知ってるなんて思わなか
ったわ。それに予言の書に書かれていることまで把握しているなんて、驚きよ。いつ勉強
したの?」
「いえ、僕には読んだ記憶もないし勉強した覚えもないのです。どうしてなのでしょう?」
自分でも不思議で仕方なかった。
「アリーネね。きっと催眠学習で植え付けられたのよ。あの子は、あのやり方が昔から得
意だったわ。ハイスクールでの成績はいつもトップだったのよ。勉強の仕方を聞いたら、
催眠学習で直接脳にインプットさせるって言っていたわ。本当に、そんな方法があったの
ね」
女王様は一人で納得されていた。
「さあ、楽しい時間の始まりよ。隼人さん仰向けに寝なさい!」
女王様が突然に命令された。
僕は起き上がり、足を伸ばして仰向けに寝た。女王様が僕の上に聳え立っていた。とて
も美しかった。女王様が夜具の薄く赤いアバヤをたくし上げ、僕の顔を跨ぐ。薄い生地の
アバヤの中に入り込んだので、光は赤いアバヤを通す。女王様の女陰の黄金の茂みが真っ
赤に輝いていた。その赤く輝く黄金の茂みが僕の顔に迫ってきた。すぐに僕の顔は女王様
の陰毛の中に埋まってしまった。穏やかな金木犀の香りに包まれた。僕は舌先を伸ばし、
女王様の女陰を舐めさせていただいた。舌先を硬くして伸ばし、女陰の奥に挿入していく。
舌先を動かしていくと、女王様の両の股が僕の顔を包み込んでくる。息もできなくなり、
両耳も完全に密閉され無音の女王様の体内に僕は取り込まれてしまったようだ。僕は一生
懸命に女王様に喜んで頂く事だけを思い、舌先を動かし続けた。嵐の海で船が翻弄されて
いるように、女王様の身体が僕の顔の上で激しく蠢いていた。
突然、女王様が立ち上がられた。僕は喘ぐように空気を求めた。女王様が僕の顔の上か
ら退かれた。書記官のファミーレさんが僕の頭の上に立ち、僕を見下ろしていた。
「あら、隼人さん、もう昼ですよ、起きなければ」
黒のアバヤに黒のシェイラで顔を覆ったファミーレさんの目だけが笑ってい
た。僕は慌てて起き上がり、奴隷の礼をとった。
「いいんですよ、隼人さん。陛下の居室では気を使わないで下さい。ここだけ
は、陛下と隼人さんの愛の巣ですから」
黒のシェイラの下のファミーレさんの笑顔が想像できた。
「陛下、そろそろ元老院最高会議へ出掛ける時間です」
ファミーレさんが言った。
「そうね」
女王様が応え、赤い手綱を僕のパニスの短い鎖に繋ぐ。いつもの金属の鎖ではなく、真
っ赤な長い手綱に替わっていた。僕専用の手綱なのだ。女王様の心遣いに、胸に熱い思い
が湧いてきた。
「いらっしゃい、隼人さん」
女王様が赤い手綱を牽かれ、パニスが強く引っ張られた。嗚呼、僕は間違いなく女王様
の奴隷なのだと意識させられた。
リムジンに乗り込むと、奴隷の席は座席と座席の間の狭い隙間に用意されている。僕は
専属奴隷として静かにその座席の隙間に身体を納め、空気のように女王様の気配を横に感
じていた。向かいの席にはファミーレさんが座った。砂漠の中を走る高速道路は、時々砂
溜りもあり、その上を通過すると白い砂塵が舞い上がる。前後に護衛車と先導のオートバ
イが数台付いて走っている。だから女王様一行の車列は、結構な砂塵を舞い上げて走って
いるのだろう。僕にはそれを想像することしか許されていなかった。床に近い僕の位置か
らは、辛うじて前方の空の高みしか見ることができなかった。
やがて前方に、高層ビルディング群が見えてきた。ワンダ女建国首都サディスティンに
入ったのだろう。高層ビルディング群の下を抜けると、丸屋根のモスクの並ぶ行政府庁街
があり、その中心にひときわ大きな国会議場の丸屋根が聳えて見えていた。リムジンはそ
この玄関先で停止したのだろう。
僕は女王様に赤い手綱を捕られ、赤絨毯の上を四つん這いで付いて行った。王宮と違い、
奴隷はあまり見かけなかった。その分、僕は羞恥心を感じていた。だが、誰も奴隷には見
向きもしない。奴隷は生活の中でペット以下の存在でしかなかった。新聞記者たちが女王
様を囲み写真に納めていたが、僕も一緒に写し込まれてしまい、明日の朝刊では公に晒さ
れてしまうのではないかと心配した。しかし、掲載写真では奴隷の姿は消去されるルール
になっていた。
元老院最高会議は、国民議会より上の女王陛下直属の最高議決機関だった。
部屋には 100 人が囲める楕円をしたドーナツ状の円卓が一つだけ設えてあった。すでに各
行政府庁の長官、自治体の長、そして長老と呼ばれる識者・教会の教皇、大僧正が奴隷椅
子に着席して待機していた。女王様が部屋に入られると、全員が奴隷椅子から立ち上がり、
軽く頭を下げた。女王様は片方の椅子の連なりの後ろを通られて中央の席に歩いていった。
辿り着いた上席の椅子の位置で僕は四つん這いになった。女王様が僕の背に座られる。女
王様のお尻の柔らかさと背に、重さを両腕と両脚に感じた。周りでも着席する気配が感じ
られた。
隣の席の女官が立ち上がった。
「只今より元老院最高会議を開催いたします。女王陛下より御言葉を頂きます」
その女官が座ると、女王様が立ち上がられた。僕の背中からスッと重さが消える。
「この度の聖戦において大勝利を挙げることができたのは、全ての国民が一致団結し、こ
の難局に立ち向かえたからに他なりません。ワンダ女建国の全ての国民に感謝します。
犠牲者も多数出ましたが、幸いワンダには一人の戦死者が出ただけでした。しかし、苦
しく不安な戦闘行為は今も継続されています。苦しみを耐え、勇気を振り絞り、一丸とな
ったことで中央政府軍を壊滅し、国を守ることができました。
この戦闘の中では軍を統率するワンダ将校たちの力量が問われました。彼女たちの勇気
と、後方に残された女建国国民、全ての女性たちの気概により、この勝利がもたらされま
した。改めて全国民に御礼を申し上げます。
本日の元老院最高会議においては、明日に
迫ったイラソ首長国連邦会議において話される戦後処理について、我が国からの提案を議
決する運びとなっています。この勝利をどのように今後のワンダ女建国の発展に結び付け
ていくかの重要な位置付けとなっています。元老院最高会議において、皆の忌憚のない意
見と総意により、この難問を解決していく方針を決定することとします」
女王様が開会の挨拶を発言された。ワンダ女建国においては、多数の男のスードラの兵
士たちの戦死など、どうでも良いことであった。
戦後処理とは言うが、戦争という行為自体が愚かしいことなのだ。回避する方策は幾ら
でもある。しかし、それがなされなかったから戦争になる。戦争の本質は権力闘争でしか
ない。それも、追い詰める加害者と、逃げ場のなくなった被害者の劇的なアピール合戦な
のだ。もし戦争に正当性があるとすれば、それは過剰に増え過ぎた人類の淘汰でしかなく、
いわゆるレミングの集団自殺の人間版に他ならない。
女王様は、今後の戦争回避を決意された。これ以上、イラソ首長国連邦政府を窮地に貶
める事なく、弱体化させ、いずれ権力の全てを剥ぎ取る手立てを考えられている。
戦争とは、劇的なショーのようなアピール行為だ。その行為は一度だけで充分だった。
敗戦した中央政府から少しずつ権力を削ぎ取り、やがて奴隷のように従わせればいいだけ
なのだ、今は。
「イラソ首長国連邦政府に、採掘権の一部を譲渡します」
女王様が発言された。
「そこまで、譲歩する必要はない。我々は勝利しているのだ」
元老院議員の誰かが発言している。案の定、ブーイングが起こった。
女王様の言われるとおりで良いのだ。それで良い。もう石油の時代は終わっている。い
まさら石油の採掘権に固執しても益はない。
「今、勝利を明確にする事は、次に隣国及び世
界と対峙する事になるでしょう。
今は耐える時です。この勝利を世界の目から隠さなければいけません。その代わり、実質
的な勝利を手にしましょう。我が経典に則った世界を作るための第一歩とするために」
力を込めて女王様が発言された。パラパラと同意を表す拍手が幾つかあった。
それからも色々な意見が述べられていた。やはり強硬な意見が多数を占めている。女王
様はそれらに対して、一つ一つ諭すように強攻策を退けられている。
女王様の椅子となって机の下の潜っている限り、奴隷椅子には完全に発言者の声を聞き
取ることはできなかった。それに、今のように余裕のできた現状からは、緊迫した意見は
出てこない。強引な戦勝を求めないとなると、ハイエナのように残り物を漁るように、そ
の他の利権を確保できないかを探って、議論の方向性が変わって行った。
2時間ほどして漸く休憩に入った。女王様が立ち上がられると、あれほど圧迫され、重
圧に耐えていた背中から嘘のように重さが消えてしまう。あの苦痛は何だったのだろうか
と、呆気に取られてしまうほど楽になった。
それでも長時間に及ぶ人間椅子として、初
めての大役を経験して、緊張感でやや疲れてしまった。一生懸命に発言者の声に耳をそば
だてて聞こうとする行為は神経も磨り減らすことが解った。
女王様は、疲れきって僕の赤い手綱を牽かれ、控の間に入る。ファミーレさんと親衛隊
長のファルーラ様がすでに部屋で待機されていた。女王様が控の間に入られると、お二人
はすぐに奴隷椅子から立ち上がられた。
「陛下、お疲れ様でした」
ファミーレさんが、女王様を労わるように言われた。
「そうね、こんなに疲れるとは思わなかったわ。奥のベッドで少し横になります。時間が
来たら教えて」
女王様は赤い手綱をファミーレさんに渡し、奥のベッドルームに消えた。後に残された
二人は奴隷椅子に座った。僕は二人に向かって奴隷の礼をとった。
「隼人さん、良いんですよ、ここでは。貴方も初めての大舞台での人間椅子の大役で、さ
ぞかし疲れたでしょうね。ゆったりとしなさい。陛下がここにいたら、貴方はまだ奴隷椅
子を続けなければならないでしょ。だから陛下はベッドルームに消えたのです。
ここにいる親衛隊長のファルーラは、陛下が幼かったころより仕えていた護衛だったの
で、貴方と陛下の関係については逐一情報が入っていました。陛下のプライベートなこと
の全てを知っているんです。だから、陛下と隼人さんの深い関係も理解しています。親衛
隊長という役割は重責ですが、陛下にとっては家族同様、身内のようなものです。だから、
陛下のプライベート空間においては奴隷の振る舞いをしなくても大丈夫です。そこのとこ
ろは良く解っていますから、遠慮しないで寛いでください」
ファミーレさんが優しく言ってくださった。
僕は身体を起こして、その親衛隊長のファルーラ様を見つめた。インド・アーリア系の
彫りの深い顔立ちに、短い金髪だった。親衛隊長らしく強靭で固い顔つきだったが、僕を
見つめて微笑んでくれていた。僕はその強面の笑顔に安心できた。そのまま身体を起こし
正座した。
「足を崩しても構いませんよ。正座では疲れも取れないでしょう。短い休息時
間です。足も伸ばしなさい、隼人さん」
ファミーレさんの言葉には温かさがあった。こんな奴隷に優しい言葉を掛けてくだされ
て嬉しかった。ファミーレさんやファルーラ様、それに女王様の優しさに心も身体も癒さ
れた。
=女建国の勝利(エリザベーラ)=
会議が再開され私は再度、人間椅子にした隼人さんの背中に座った。私の尻に隼人さん
の背中の熱が感じられる。隼人さんの温もりを直接に感じて私は勇気付られる。
大丈夫、私には隼人さんが付いている……。
黒いシェイラで顔を隠し、
敵意の感じられる目だけを出している 99 人、
私を見つめる 198
個の目を見返してやったわ。皆、私の発する言葉に注目しているんだわ。
私は元老院議員達に向かって発言を続ける。
「ワンダ女建国が世界に認められるようになるまでには、まだ一時代は掛かるでしょう。
その機が熟するまでの間にイラソ首長国連邦内での実績を積み上げる時が訪れているので
す。
この悲惨な戦争行為と、皆さんの英知により、それが漸く可能となりました。あと 10 年
の間、ワンダ女建国に力を蓄えましょう。そして 2190 年に、予言の書に記されたとおり、
世界に対して女性こそが、地球を支配する唯一の人間であることの宣言をしましょう」
私は皆の目を覗き込んだ。黒いシェイラの奥で、どの目も燃えているのが感じられた。
それはそうだ、予言の書の正しさが、また一つ証明されたのだ。経典に示された理想の世
界が本当に形づくられようとしてゆくのだ。その歴史を自分達が作りだしてゆくのだ。こ
んなに意義深いことがあるだろうか。
「ここでは、和平のため、軍を引きます。
ただし、中央連邦政府の議決権の半分を要求します。そのことにより、実質的にイラソ
首長国連邦内でのワンダ女建国の発言力が増すことになります。連邦政府による政治体制
は継承しますが、その間、世界に対しては政界・経済界への女性進出を図る手立てを積極
的に講じます。勿論、イラソ首長国連邦内の中央政府の政治体制は、全てワンダ女建国の
人間が占めることとなるでしょう。
そして 10 年後、国連総会において女性こそが、地球上で唯一の人間であることの宣言“女
性人間宣言条約”への署名と批准を各国に求めます。その期限は、マリアマグダラの予言
の書に記されたとおり、マリアマグダラ暦 50 年、2100 年とします」
ひと呼吸置きながら、私を注視する目を覗きながら全員を見回した。
「もう悲惨な戦争は必要ありません。20 年後に迎える 22 世紀には地球上で唯一の人間であ
る女性によって世界は支配されるでしょう。男は、女性の快楽のための道具としてのみ、
その存在を許されることになるでしょう。
そのためには……」
私は、また間を置いた。みんな、私の言葉にもっと集中しなさい!
「イラソ首長国連邦に採掘権の一部を譲渡します」
「そこまで譲歩する必要はない。我々は勝利しているのだ」
元老院議員の誰かが発言した。それに呼応するように幾つものブーイングが耳に飛び込
んできた。
さっきと同じことを言っている。老人は頑迷だ。虐げられ踏み躙られてきた歴史を反芻
して、この機に敵をとろうという気持ちも解らないではない。私が口を酸っぱくして言っ
てきたことなど聞いては居ないのか。誰に向かって異議を唱えているの。私は女王よ。私
の決断が全て最終決定なのよ。
でも私はまだ若い。この老齢な元老議員たちを説得しなければならない。そう、謙虚に、
ね。
私は繋げる言葉を捜した。
「今、勝利を明確にする事は、次に隣国及び世界と対峙する事になるでしょう。今は耐え
る時です。この勝利を世界の目から隠さなければなりません。その代わり実質的な勝利を
手にしましょう。我が経典に則った世界を作るための第一歩とするために」
パラパラと同意を表す拍手があった。いよいよ最後の言葉に繋ごう。
「これで、イラソ首長国連邦内におけるワンダ女権国の発言力は増すでしょう。今から流
れが変わるのです。我等がキリスト・マリアマグダラが定めし、正しき教えが世界に認め
られ日まで、あと少しの辛抱です。
2200年前に遡る、キリスト・マリアマグダラの唱えし理想郷が、漸く実現性を帯び
てきたのです。あと 20 年の我慢ができないはずはありません。以って人類の救済に貢献で
きる日まで、辛抱の時です。元老院最高会議に御出席の皆様方の英知に感謝いたします」
皆の目を見つめながら、私は言葉を置いた。
沈黙が議場を支配していた。満足の行く演説だった。
私は静かに隼人さんの背中から立ち上がった。
突然、万来の拍手が議場を埋めた。皆が解ってくれた。私の顔に笑みが浮かび上がって
くるのが感じられる。片手を上げた。
皆、力いっぱい拍手をしている。私も興奮してきていた。鳴り止まない拍手の中、隼人
さんの手綱を持ち、私は入ってきたときとは逆周りに円卓の後ろを歩き、ゆっくりと元老
院最高会議場の出口へ向かった。
私は国民に目標を与えることができた。この目標の達成のために、ワンダ女建国の国民
が力を一つにして尽くすことだろう。世界中のS女性、マゾ男たちも協力するだろう。イ
ラソ首長国連邦内での実権を握るまで、あと少し私が女王でいて、あとはセルベリーナに
引き渡せば良い。20 年後の私と隼人さんは、火星でのんびりと暮すのだ。あと 20 年だわ。
隼人さんを牽いて、赤い絨毯の長い回廊を女王の控室まで歩いて行った。ファルーラが先
導している。後ろにも親衛隊員2名が着いている。親衛隊3人を部屋の前で止めて、私と
隼人さんは、そこに入った。すぐに後ろ手で鍵のセンサーに触れて施錠した。
心の高ぶりが抑えられない。四つん這いのままの隼人さんを振り返る。
「やったわ、隼人さん」
私は両膝を曲げて隼人さんの前に屈み込む。裸の隼人さんの身体を包むように抱き寄せ
た。隼人さんが顔を上げ、私を見つめている。両掌で隼人さんの両頬を掴み、口付けした。
それから隼人さんの顔を少し離して見つめ直す。
「愛しているわ、隼人さん」
私は幸せだった。
「僕も愛しています、女王様」
目の前の隼人さんが答える。隼人さんの両腕が私を抱えて抱きしめてくれる。
「僕の奥様は女王陛下だ!」
隼人さんが嬉しそうに微笑んで言ってくれた。
緊張が解れ、安心したせいか、急に便意を催してきた。嗚呼、駄目だ。お腹が急速に圧
迫されてくる。便が漏れてしまう、緊急事態だ。菊門に力を入れ、硬く閉じた。
隼人さんと幸せに浸っている場合ではない。私は立ち上がった。
そうだ、ジェームズ先生を持ってくるのを忘れていた。ここには人間便器は置いてない
のだろうか。部屋の隅々に目を走らせた。
無いわ。どうしよう……。
「トイレでしょ? 大丈夫だから、ちゃんと言って」
隼人さんが跪いたまま私を見上げて言った。
えぇ?!
隼人さんを人間便器として使っても良いの?
のかしら?
そんな無体なことをしても良い
でも、専属奴隷なのだから仕方ないわね。いつかは私の人間便器にもなって
もらわなければならない時が来ることだろうし……。それでなければ私の専属奴隷は務ま
らないわ。それに、もう漏れてしまいそうで、他の人間便器を呼ぶ暇なんてなさそうだわ。
「ごめんなさい、隼人さん。
トイレ大!」
目の下で跪く隼人さんの黒い瞳を覗き込み、私は言ってしまった。隼人さんへの申し訳
なさで心が痛む。隼人さんを人間便器にしたくて結婚したわけでも、ましてや奴隷にした
わけでもない。
素早く隼人さんが赤い一枚布のアバヤの裾を持ち上げて頭から被り、中に潜り込んでき
た。そして、私の尻の双球に顔を埋め、肛門にぴったりと口で吸い付いてきた。隼人さん
の両腕が後ろから回されて股間の辺りで手を結び、抱き抱えられた。私の陰毛に隼人さん
の手が掛かっている。
私は緊張している。初めて愛する隼人さんに便を食べさせるのだ。でも、何故か安心感
があった。それで気楽に菊門を緩めることができた。すぐに便が出てくる。
嗚呼、たまらない。排便の気持ち良さを感じつつ、柔らかな便をゆっくりと出すように
意識した。一度に大量の便を出して食べきれず失敗しないようにしてあげなければ。失敗
させたら、私にとっても惨めな結果になるし、隼人さんへのお仕置きも過酷になってしま
う。
嗚呼、隼人さんが私の便を吸い取っていく。その様子が尻の穴に感じられるわ。股間に
回された掌が陰毛に触れて、女陰を刺激しているわ。
隼人さんも性的快楽を感じているのね。パニスが勃起して私の腿に触れてきたわ。可哀
想な隼人さんは、勃起したパニスに加えられる苦痛で呻き始めているわ。でも、仕方ない
わね、その可哀想なパニスをなるべく早く開放してあげなければ、折角の快楽を苦痛とし
てしか受け取れないなんて残酷すぎるわ。
この騒動が一段落したら、絶対に教皇様からパニスを戒めている金属管の鍵を受け取っ
てあげるわ。それまでの辛抱よ隼人さん。
嗚呼、でも、排便ってなんて気持ちが良いの。それも、愛する隼人さんに食べさせてい
るなんて、こんな幸せで良いのかしら。
隼人さんも、きっと幸せを感じているはずだわ!
ヤパーへ留学して、隼人さんと出逢
っていなければ、ワンダ女建国の今はないんだわ。みんな隼人さんのお蔭!
隼人さんの舌先がペロペロと菊門を舐めている。とっても気持ちが良いわ。
私は本当に幸せ。
「僕の奥様は女王陛下」第一章『完』
作:浜造堕
(Ha! Mazoda)
第二章
=2090 年『女性人間宣言条約』=
『女性人間宣言条約』は、イラソ首長国連邦、エリザベーラ女王陛下が国際連
合総会において、各国にその批准を求めたものであり、ここには、その前文の
要約と女王陛下の国連総会での演説の一部を掲載した。
『女性人間宣言条約』
---------------------------------------------------------------------西暦 2090 年9月9日
条 約 第 9 号
女性が地球上における唯一の人間であることを、ここに宣言し、条約を公布
する。
『女性人間宣言条約』
この条約の締約国は、地球の気候の変動及びその悪影響が人類の共通の関心
事であることを確認し、22 世紀までに地球上における人間は女性のみであるこ
とを宣言し条約批准各国は隣接する国境を廃し、国を自治区に置換え、一つの
地球政府樹立に向け努力するものである。
喫緊の課題である地球環境の改善のためには、最も地球環境に悪影響を及ぼ
す戦争と経済開発を廃し、巨大エネルギー消費を必要とする生産活動を極限に
まで抑制する必要がある。それを達成するためには、地球上で最も悪害をもた
らす元凶となっている男性を地球上から排除する策を早急に講じなければなら
ない。
今、地球上の自然環境にとって最悪となっている軍事行動及び経済活動を停
止させる為には、軍事部門をはじめとする全ての政治体制、経済活動の中枢か
ら男性を排除するだけに留まらず、危険因子となる男性の存在を否定し、地球
上から駆逐する必要がある。
その方策を推し進めるためには、全ての男性を宇宙開拓に向かわせるととも
に、女性の新たなる精神活動を促進させる手段として、地球上に残された男性
には、女性の快楽のために奉仕する役割として、人間としてではなく奴隷に落
とす策を講じるものである。
本条約に署名した国々には以下の義務が課せられる。
1.宇宙開拓移住用宇宙船の建造
2.宇宙開拓訓練施設の設置
3.奴隷養成施設の設置
全ての男性と宇宙開拓に同行する女性は、2.の施設において訓練を受け、
1.の宇宙開拓移住用宇宙船の建造に伴い、順次、宇宙開拓への派遣を推し進
めるものとする。
女性の精神的向上を図るための快楽の道具として地球上に残ることを決意し
た奴隷に対しては、3.の施設における奴隷調教を義務付ける。
(以下、条約各条項略)
次に、エリザベーラ女王陛下がニューヨークの国連総会ビルにおいて条約締
結を訴えた演説内容の一部を掲載する。
イラソ首長国連邦女王、エリザベーラです。この人類を変革する条約を、本
日ここに提案させていただけることに喜びを持って感謝いたします。
(略)
地球上の一哺乳類に過ぎなかった現在の人類が、6万年前にアフリカの地を
後にし、全世界へ拡散して行きました。その旅のとき以来、人間への進化を急
速に促す戦争行為によって人は切磋琢磨し、より高い文明と精神の向上をもた
らしました。
しかし、その戦争行為と相まって推し進められてきた経済活動により、初期
には未熟だった文明は、すぐに環境問題に行き詰ることとなりました。たくさ
んの文明が生まれましたが、ことごとく自滅の道を辿る結果となりました。漸
く5千年以前に始まった現文明に繋がる幾つかの文明が接点を持ち、それらが
競合することで、広範な社会が地球上全体に広がりを持ち、危機的環境問題を
無視し発展を遂げることができるようになりました。
時代を経て 20 世紀に至り、巨大経済活動と、そのバックボーンとなる軍事力
の発展は地球規模の環境破壊問題を発生させることとなりました。それまで、
人類発展に寄与してきた男性中心社会は行き詰りを示したのです。そして、そ
の愚かな行為を推し進めてきた男性中心社会は今、地球上から排除される運命
を突きつけられています。
そのことは、宇宙生命体である地球が、地球上を支配する次の後継者として
指名しているのは、現人類の中で虐げられつつも、保守性を保ってきた女性な
のでした。
(略)
その地球の意思に基づき、私、エリザベーラが『女性人間宣言条約』を、こ
こに提唱するものです。
地球がいつから自意識を持ち始めたかについては議論の分かれるところでは
ありますが、地球の表面が冷え、地球全体が大気で覆われ、その下に生命を宿
し、海に陸に植物を蔓延らせるに至り、地球は自意識を持つようになったもの
と思われます。
意識が目覚めているときの地球は地表の温度が高まり、眠ると氷河期が訪れ
ます。未成熟だった地球はよく眠りました。その度に長い氷河期が訪れ、地球
にとって不要となった生物を淘汰してきました。
やがて、地球は宇宙の中に自分が一人ぽっちであることに気が付きました。
それで、なんとか仲間を探すための手段を欲するようになりました。それがち
ょうど、数億年前の恐竜時代に遡ります。
恐竜に知能を持たせ、宇宙への旅立ちを図らせようともしました。しかし、
巨大化し過ぎた恐竜に知能を持たせたとしても、宇宙に旅立たせるには余りに
も体重があり過ぎました。さらに悪いことに増えすぎた恐竜によって、地表の
植物は食い尽くされ、適温を保持できずに地表気温は上昇し始めました。
自意識を持った地球は悩んだでしょう。せっかく慈しみ育ててきた恐竜が、
自分にとって害をもたらす存在に変化してしまったのです。悩んだ末、近くを
通りかかった巨大隕石を自ら引き寄せ、自分の身体に落下させたのでした。
その衝撃に大地は爆発し、噴煙は地表を覆い、さらに衝撃により地軸は動き
地球自身も気を失って地球上は氷河期へと突入しました。漸く地球が意識を取
り戻したとき、恐竜は全て絶滅し次の後継者となる哺乳類が育ち始めていまし
た。その哺乳類の中で最も目立たない人類を、地球は恐竜に変わる知的生物に
育て上げようとしました。それが、今から 200 万年前の話です。
しかし、哺乳類から進化した人類を急速に育てるには、それなりの手段が必
要でした。地球の意思は人類の中の一人の女性を指名し、彼女に試練を与える
旅に出すことにしました。それが現存人類の始まりとなる6万年前のアフリカ
でした。
地球各地に広がっていった人類に課せられた宿命、それが経済活動と戦争行
為だったのです。その活動により未開の地球上に幾つもの文明が起こり、消え
ていくこととなりました。消えた原因の全ては文明の発展に伴う環境の悪化で
した。その環境問題を人類は、いつまでも乗り越えることができませんでした。
漸く、幾つかの巨大文明が接点を持ち、現代に繋がる文明を発展させる素地
が作られたのが、今から6千年前でした。20 世紀に入って、科学文明を急速に
発展させた世界戦争へと繋がっていくのでした。
拡大する火力による破壊力は急速に増大し、地球表面を一挙に火傷させる由
々しき行為だけでなく、巨大化した経済活動による急激な環境破壊も顕著さを
露わにしてきました。それにより、地球上における環境破壊の度合いは激しさ
を増し、人類は地球を蝕む癌細胞のような存在に変容してしまいました。
当然、地球自身はこれを排除しようとする動きを顕著に現し始めました。安
定していた気候は、人類を吹き飛ばすように異常気象となって暴れ始めたので
す。しかし、人類に代わる新たな生物が用意されていたわけではありません。
そのような生物の存在は、まだ見当りません。仕方なく地球意思は人類の内に、
その次を担う生物を見出す以外ありませんでした。
それに白羽の矢を立てられたのが、女性の存在でした。もともと保守的な役
割を与えられていた女性が、この異常に発展を遂げた人類文明を沈静化させる
にはちょうど良い存在に育っていました。人類の、華々しくも急進的な歴史を
作ってきたのが男性達の闘争心でしたが、それを支えてきたのは保守的な役割
を求められてきた女性でした。男性に代わって、次を担う新人類として地球を守れるのは
女性だけなのです。
21 世紀初頭に入って、欲望に満ち満ちた男性達は乱開発と局地戦を拡大して
いました。地球温暖化という目前に迫った危機にすら、利害の絡んだ経済活動
を止めようとせず、最も悪辣な戦争行為を以って環境破壊を促進していました。
それにより地球上は、急速に砂漠化と温暖化を進行させてしまいました。
人類は駆逐される運命に突き進んでしまったのです。
なんとか 20 世紀末を乗り越えられたのは、その体制の中に女性が入り込んで
きていたからに他なりません。政治に、経済に、女性が進出し始めて、漸く世
界が変わり始めたのです。
21 世紀も中頃を過ぎ、この豊かさを享受できるであろう究極の科学文明を手
中にして初めて地球環境が守られるものと地球自身も確信したことでしょう。
その証拠に異常気象は収まりつつあります。しかし、世界には、まだまだ飢餓
と貧困に喘ぐ人達がたくさん残されています。
この危機を今すぐ解決する手段として講じなければならないことは、全ての
政治体制と経済活動を、女性が男性に取って代わることなのです。恒久なる平
和と地球環境の破壊を阻止する手段は、それしか残されていません。そのこと
は人類としての男性の役割の終局を意味しています。
たしかに、社会発展の原動力となった異才、鬼才、天才は男性に多く発生し、
時代を動かし、歴史を作ってきました。ですが、これから作られる時代には、
それを必要としない社会に作り変えなければなりません。
すでに、地球にとって男性は癌と化した細胞と同じ存在になってしまいまし
た。癌化した男性細胞の一片を残すことは、過去の歴史が示すように、破壊と
混乱を繰り返す歴史を再び辿ることになります。癌化してしまった男性は全て
切除するしかありません。10 年後、男性は地球上から抹殺されるでしょう。そ
して、女性が地球上の唯一の支配者としての地位を築くのです。
ただ、排除される男性の働き場所は、まだまだ残されています。無限の宇宙
開拓は、まさに男性の仕事場にピッタリです。全ての男性は、人間として、こ
の宇宙開拓に全力を注ぐ事ができるでしょう。22 世紀は雅に宇宙開拓の世紀と
なるでしょう。
10 年前、クリストファー・コロンバスによる初の星間宇宙船団による太陽系
外への航行が成功裏に為されました。この事実が示すとおり、男性の出番は無
限に広がっています。
数百年前、迫害されたキリスト教の新教徒は新天地を求めて、アメリカ大陸
に旅立ちました。そして、今度は地球上での役割を終えた男性達が新天地を求
めて宇宙へ乗り出す時がやって来たのです。そこに、新たなる地球を作ること
が地球意思の望みなのです。男性は何も心配する必要はありません。そこに夢
を架ける場所が無限に広がっているのですから。
地球にとって必要とされなくなった男性は、宇宙意思に望まれています。そ
うです、地球上には一人の男性も必要としなくなっただけなのです。こんなち
っぽけな地球を飛び出し、無限の宇宙を駆け回ることこそ、男性の王道です。
決して地球から排除されたわけではなく、必然として宇宙へ進出して行けるの
です。
(略)
因ってここに、地球上に存在する人間は女性のみであることを宣言します。
地球に残りたい男性は、女性の快楽のために貢献する役割が与えられます。そ
の地位は、人間としての男性ではなく、動物以下の物、道具とし、呼び名を
“奴隷”とします。
2100 年には、女性を唯一の人間とする生態系を実現させましょう。そのため
の準備が今日から始まります。22 世紀には、新人類女性が地球上の唯一の支配
者となります。今からそのための 10 年としましょう。
(略)
2100 年までに各国が、この『女性人間宣言条約』に署名して批准することで、
22 世紀を人類の悲願であった、戦争のない、環境破壊のない、貧困のない女性
のみによる単一の地球政府として生まれ変わらせましょう。
ここに、
『女性人間宣言条約』の採択を求めるとともに、全世界各国への署
名を呼び掛けます。
イラソ首長国連邦女王、エリザベーラ。
2090 年9月9日 国連総会にて条約上程
2009年3月16日