Page 1 Page 2 (慢性 G咀D の定義) 〝性 G吼D は、 移植後後期に特秀

博 士 ( 医 学 ) 鈴 木 大 介
学位論文題名
Severe phimoslSaSanotable
Sequela
Ofa110geneiCStemCe11tranSplantationinboyS
(同種造血幹細胞移植後に合併した真性包茎の検討)
学位論文内容の要旨
【 背 景 】 造 血 幹 細 胞 移 植 は 難 治 性 の 血 液 腫 瘍 性 疾 患 に対 す る 標 準的 な 治 療 とな っ て き て
い る。 支 持 療 法の 発 達 に 伴っ て 長 期 生存 例 が 増 加す る に 従 い晩 期 合 併 症が 問 題 と なっ てき
た 。し か し な がら 内 分 泌 、呼 吸 器 、 肝、 性 腺 な どの 報 告 は 数多 く 見 ら れる 反 面 、 泌尿 器合
併 症は 比 較 的 少な い 。 成 人女 性 に お いて は 移 植 後の 泌 尿 生 殖器 系 の 合 併症 が 、 移 植片 対宿
主 病(GVHD)に 関 連 する こ と が 示さ れ て 韜 り問 題 と な って き て い る。 我 々 は 造血 幹 細 胞移植
後 に真 性 包 茎 を発 症 し た 男児 が 続 発 する 尿 路 系 の合 併 症 を 引き 起 こ し 手術 を 要 し た症 例を
複 数例 経 験 し 、後 方 視 的 検討 に て そ のり ス ク フ ァク タ ー を 示し た 。 小 児、 特 に 年 少児 に見
ら れる 包 茎 は 大部 分 が 生 理的 で 自 然 治癒 傾 向 が 強く 最 終 的 に手 術 を 要 する 例 は 少 ない とき
れ てい る が 造 血幹 細 胞 移 植後 に 真 性 包茎 を き た した 報 告 は これ ま で に 成人 の ー 例 のみ で、
多数 例での発 症を検 討した 報告は なぃ。
【 対 象 と 方 法 】 1991年 2月 か ら 2005年 11月 ま で に 北 海 道 大 学 病 院 小 児 科 で 87人 の 男
児 が同 種 造 血 幹細 胞 移 植 を受 け た 。 日本 で は 割 礼の 風 習 は ない こ と か ら彼 ら は 全 員新 生児
期 の 割 礼 は 受 け て い な か っ た。 検 討 時 、28人 が 死亡 し て お り、 2人 は 他 院 に転 院 、 11人 が
フ オ ロ ー 不 能 で あ っ た 。 こ の た め 追 跡 可 能 で あ っ た 45例 ( 年 齢O−15歳 、 中央 値 6歳 ) を
対 象と し た 。 疾患 の 内 訳 は急 性 リ ン パ性 自 血 病 (16例) 、 急 性 骨髄 性 白 血 病( 6例 ) 、再生
不良 性貧血( 4例)、 Wiskott−Aldrich症候群 (4例) 、骨髄 異形成 症候群 (3例)、K
ostm
ann
症 候群 ( 3例 ) 、 X連 鎖 性重 症 複 合 免疫不 全症( 2例)、 非ホジ キンリン パ腫( 1例)、 慢性骨
髄性 白血病( 1例)、 若年性 骨髄単 球J陸白 血病(1例 )、横 紋筋肉 腫(1例 )、神経芽細胞腫(1
例 )、 X連鎖 高 IgM症 候群 ( 1例 ) 、 Hunter症 候 群 ( 1例 )、 Hurler― Scheie症候 群(1例 )で
あ っ た 。 こ れ ら の 患 児 の う ち32人 が 骨髄 移 植 、 14人 が 臍帯 血 移 植 を受 け た 。 ドナ ー は HLA
一 致 同 胞 (18例 ) 、 HLA1抗原 不 一 致 同胞 ( 1例 ) 、 HLA一 致 ま た は不 一 致 の 親( 4例) 、 HLA
一 致非 血 縁 ド ナー (16例 ) 、 HLA1抗原 不 一 致 非血 縁 ド ナ ー( 7例) で あ っ た。 さ ら に移 植前
処 置 の レ ジ メ ン は busulfan (BU; 18例 ) 、 total body irradiation (TBI; 26例 ) 、
melphalan(L一PA
M;7例)、cycl
ophos
phami
de(C
Y;34例)、etop
oside(VP1
6;23例)、抗胸腺
グ ロブ リ ン (ATG; 10例 ) で あ った 。 GVHD予 防 は、 cyclosporin十short−termmethotrexate
(CsA+sMTX; 20例 )、 cyclosporin+ methylprednisolone(CsA+mPSL;12例) 、tacrolimus+
short−termmethotrexate(Fk506十sMTX;11例 )、methotreXate単独 (MTX;3例)であった。
観察 期間の中 央値は 1,815日 (296―5665日 )であ った。
(包 茎の定義 )
対 象と な っ た 患児 に つ い て視 診 お よ ぴ触 診 に て 亀頭 と 包 皮 の状 態 を 観 察し た 。 包 皮内 板と
亀 頭が 癒 合 し 用手 的 に 亀 頭先 端 を 露 出で き な ぃ もの を 真 性 包茎 と 定 義 した 。 こ の うち 包皮
口 の狭 小 に よ る排 尿 障 害 や逆 行 性 尿 路感 染 症 に より 手 術 適 応と な っ た 群を 重 症 群 、そ れ以
外を 非重症群 とした 。
ー278―
(慢性GV
H
D
の定義)
慢性 G
VH
Dは、移植後後期に特徴的な皮膚病変とされる苔癬様(
li
c
h
en
o
id
)
もしくは強皮症
様(
s
cl
e
r
od
e
rm
a
t
ou
s
)の皮膚病変を認めた場合や皮膚生検にて確定診断に至った場合、また
は他の鑑別診断が除外された肝機能障害を呈した場合とした。亀頭包皮の標本は得られな
かった。
(統計的解析)
統計 的解析にはt検定またはカイ二乗検定を用い、移植時の年齢、移植幹細胞源、ドナー
(血縁と非血縁、HL
A
一致と不一致、H
L
A一致同胞と代替ドナー)、疾患の種類(腫瘍性と
非腫 瘍性)、 前処置や G
VH
D予防に 用いた薬剤、急性G
VH
D
および慢性G
VH
D
の有無にっき検
討した。
【結果】移植後に真性包茎を合併したのは1
5例(32
.6
%)、うち手術適応となったのは6
例(1
3
.O
%)であった。6
人のうち手術時の主な症状は、排尿時痛、尿線狭小、包皮口の狭
小による排尿障害、反復性亀頭包皮炎、逆行’陸尿路感染症であった。移植時の年齢中央値
は4
.2
歳(
1
イ歳)、手術時の年齢中央値は6
.3
歳(2
−7
歳)、移植から手術までの日数の中
央値 は8
80
日 であった 。これ らの症例ではA
T
G
投与群および慢性G
V
HD
を発症した群で重症
包茎の発症が増加する傾向が見られた。多変量解析では慢性G
V
H
Dの発症が唯一、重症包茎
の発症に有意差を認めた。
【考 察】今回 の解析に より慢 性G
VH
D
は重症の真性包茎発症のりスク因子となる可能性が
示され、慢性G
V
HD
による亀頭包皮の炎症およぴ癒着がその原因と推察された。移植前処置
に用いた放射線照射に続発した放射線皮膚炎も包茎発症の機序として考えられたが統計学
的には有意差は得られなかった。
皮膚 慢性G
VH
D
には大きく2
種類の病型、すなわちli
c
he
n
o
idty
p
e
とs
cl
e
ro
d
e
rm
a
to
u
st
y
pe
が存在する。前者は主に眼球周囲や耳介、手掌、足底のほか外陰部にも発症し、女性では
特に膣狭窄を来す場合もある。それに対し、後者は皮膚深層に病変を来すため潰瘍を呈す
る 場 合 も あ り 、 成 人 例 の 過 去 の 報 告 で は 移 植 後 に真 性 包 茎を 呈 した 症 例 は
s
cl
e
r
od
e
r
ma
t
ou
sty
p
eであった。
胎生期には亀頭部と包皮は癒合しており、新生児期にも亀頭を露出できるのは4
%といわ
れる。成長とともに徐々に亀頭と包皮の癒合が解除されてゆくことから乳幼児期の包茎は
p
hy
s
i
ca
lph
i
mo
s
i
sと呼ばれることもあるが6
−7
歳でも63
%
が部分的な癒合が残存すると言
われている。これらの部分的な癒合が移植後の重症包茎の発症に寄与している可能性があ
る。泌尿器科領域では包茎の初期治療としてステロイド軟膏の塗布が標準的治療として行
なわ れている。実際に我カの症例でも2例にステロイドの局所塗布が行われたにもかかわ
らず効果は得られなかった。しかし予防という観点からするとステロイドの局所塗布は移
植後における包茎の重症化予防に有効である可能性がある。重症包茎は放置すると排尿障
害などの生活の質の低下のみナょらず、尿路感染症、亀頭包皮炎のような有害事象をきたす
可能性があり移植後合併症として留意すべきである。
― 279―
学位論文審査の要旨
主査 教授 野々村克也
副査 教 授 今村雅寛
副査 教 授 有賀 正
学位論文題名
Severephimo
slSaSanotableSequela
Ofa110geneiCStemCe11tranSplantationinboyS
(同種造血幹細胞移植後に合併した真性包茎の検討)
造 血 幹 細胞 移 植 は 難治 性 の 血 液腫 瘍 性 疾 患に 対 す る 標準 的 な 治 療と な っ て きて い る 。 支
持 療 法 の 発 達に 伴 っ て 長期 生 存 例 が増 加 す る に従 い 晩 期 合併 症 が 問 題と な っ て きた 。 し か
し な が ら 泌 尿器 合 併 症 は比 較 的 少 ない 。 造 血 幹細 胞 移 植 後に 真 性 包 茎を き た し た報 告 は こ
れ ま で に 成 人 の ー 例 の み で 、 多 数 例 で の 発 症 を 検 討 した 報 告は な い。
1991年 2月 か ら 2005年 11月 ま で に 北 海 道 大 学 病 院 小 児 科 で 87人 の 男 児 が 同 種 造 血 幹 細
胞 移 植 を 受 け た 。 追 跡 可 能 で あ っ た 46例 ( 年 齢 0− 15歳 、 中 央 値 6歳 )を 対 象 と した 。 疾
患 の 内 訳 は 急性 リ ン パ 性白 血 病 ( 16例 ) 、 急性 骨 髄 性 自血 病 ( 6例 ) 、再 生 不 良 性貧 血 ( 4
例) 、WiskottーAldrich症候群 (4例) 、骨髄 異形成 症候群 (3例) 、Kost
mann症候群(3例)、
X連 鎖 性 重 症 複 合免 疫 不 全 症( 2例) 、 非 ホ ジキ ン リ ン パ腫 ( 1例 ) 、 慢性 骨 髄 性 白血 病 ( 1
例 ) 、若 年 性 骨 髄単 球 性 自 血病 ( 1例 ) 、 横紋 筋 肉腫 (1例) 、神経 芽細胞 腫(1例 )、X連 鎖
高 IgM症候 群 ( 1例 ) 、Hunter症 候 群 (1例) 、 Hurler−Scheie症 候群( 1例)で あった 。これ
ら の 患 児 の う ち 32人 が 骨 髄 移 植 、 14人 が 臍 帯 血移 植 を 受 けた 。 ド ナ ーは HLA一 致 同胞 ( 18
例 ) 、HLA1抗 原 不 一 致同 胞 ( 1例 ) 、 HLA一 致 ま たは 不一致 の親( 4例)、 HLA一致非 血縁ド ナ
ー (16例) 、 HLA1抗 原 不一 致非 血縁ド ナー( 7例)で あった 。さら に移植前 処置は はbusulfan
(18例) 、totalbodyirradiation(26例) 、melphalan( 7例)、 cyclop
hosph
amide(34例)、
etoposide (23例) 、 抗 胸 腺グ ロ ブ リ ン(ATG; 10例) で あ っ た。 GVHD予 防 は、 cyclosporin+
methotrexate (20 例)、
cyclosporin+methyl
pred
nisol
one (12 例)、 tacro
limus
+
methotrexate(11例)、 methotrexate単独 (3例) であっ た。
包 皮 内 板と 亀 頭 が 癒合 し 用 手 的に 亀 頭 先 端を 露 出 で きな ぃ も の を真 性 包 茎 と定 義 し 、 こ
の う ち 包 皮 口の 狭 小 に よる 排 尿 障 害や 逆 行 性 尿路 感 染 症 によ り 手 術 適応 と な っ た群 を 重 症
群、 それ以 外を非重 症群と した。
移植 後に真 性包茎 を合併 したのは 15例( 32.6%) 、うち 手術適 応となったのは6例(13
.OYo
)
で あ った 。 6人 の う ち手 術 時 の 主な 症 状 は 、排 尿 時 痛 、尿 線 狭 小 、包 皮 口 の狭小 による 排尿
― 280 -
障害、反復性亀頭包皮炎、逆行性尿路感染症であった。移植時の年齢中央値は4
.2
歳(l
一7
歳)、手術時の年齢中央値は6
.3
歳(2
ー7
歳)、移植から手術までの日数の中央値は8
8
0
日で
あ った。 これらの症例ではA
TG
投与群および慢性GV
H
Dを発症した群で重症包茎の発症が増
加する傾向が見られた。多変量解析では慢性GV
H
Dの発症が唯一、重症包茎の発症に有意差
を認めた。
公 開発表 に際し、 副査の 今村雅寛 教授から、慢性G
VH
D
の―症状としての重症包茎の位
置 づけ、 A
TG
が単変量解析で有意差を示した理由、重症包茎発症時の各種サイトカインの
ふるまいに関しての質問があった。次いで副査の有賀正教授から移植前後における泌尿器
科的合併症の今後の評価方法、ステロイド以外の局所外用剤の有用性に関して質問があっ
た。また主査の野々村克也教授から、移植後の陰茎包皮の病理像をどのように推測するか、
また成人例を含めこれまで欧米からの報告がない理由、割礼の風習は移植後包茎の発症に
関与するか否か、陰茎包皮の持っ特有の性質が重症包茎発症に与える影響に関する質問が
あったが、いずれの質問に対しても申請者は妥当な回答をした。
本 研究は 造血幹細 胞移植 後の重症 の包茎が慢性G
VH
D
に関連する可能性と、同種造血幹
細胞移植後の泌尿器科的合併症の重要性を示した点で高く評価され、今後前方視的に病理
所 見やサ イ卜カイ ンを合 わせて検 討することにより慢性G
V
HD
の発症進展の機序の解明に
っながる可能性がある。
審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位なども
併 せ 申請 者が博 士(医学 )の学 位を受け るのに 充分な資 格を有す るもの と判定し た。
ー 281ー