阿刀田 高 著「私のギリシャ神話」(集英社文庫)

読書会感想文
阿刀田 高 著「私のギリシャ神話」(集英社文庫)
担当
辻村英一 (29 法)
今回は本の選び方がこれまでとは全然違った選び方をしたので、そのことか
ら書き始めたい。
杉並三田会の読書会は 2 か月に一度 (年 6 回) のペースで開かれ、予め世話人
からの要請でその回に割り当てられた担当者が、本を指定して発表しておき、
当日は出席者全員がその本を読んだ上で集まって、感想を述べたり議論したり、
あるいはそこから話題が広まって楽しい雑談となったり・・という会である。
嬉しいことに最近は読書会に入会される方が増え、毎回「新会員の紹介」が
あるという状態で、今回も出席者 24 名で補助椅子が出る盛況ぶりであった。
そんな中で、私としては新しい会員の方たちがどんな本を紹介してくれるのか、
大へん興味があるのだが、これだけ人数が増えると仮に全員に万遍なく担当を
割り振ったとしたら 3 ~ 4 年に一度しか廻ってこないことになる。(もちろん
パスさせてもらう自由はあるにしても) そこで私は自分の年齢を考え、担当は
これが最後と決めて担当をさせて頂いた。そして選ぶ本もこれまではせいぜい
半年位遡って「読んでみて良かった本」を選んでいたが、今回は 10 年以上遡っ
て「今なお強い印象が残っている素晴らしい本」を選ぶことにした。何冊かの
本が候補になったが、刊行後年数を経た本の場合は、その本は現在簡単に手に
入るのか、価格は? 等が問題になる。そんな条件の中で、この「私のギリシャ
神話」という本はその後文庫化されていて価格も手頃であり、しかもこの本の
魅力の一つであるカラーによる美しい名画の数々が、サイズは小さくなったも
のの、そっくりそのまま収載されていることが分かったので、この本に決めた
という次第である。
この本は、小説家で「ギリシャ神話が大好き」だという阿刀田高氏が 1999 年
に NHK 教育テレビの人間講座「私のギリシャ神話」全 12 回シリーズに出演し
たときのテキストを元として書かれたもので、全 18 章中の第 12 章までがそれ
であり、第13章以下の 6 章はこの本のために書き加えられたものである。
ところでわれわれ日本人はギリシャ神話というものをどの位知っているだろ
うか。神の名前にしても、ジュピター (ギリシャ名はゼウス) とかネプチューン
(ギリシャ名はポセイドン) とか女神ビーナス (ギリシャ名はアプロディテ)とか
位は口に出てくるのだが、ではその神はどんな神でどういう繋がりがあるのか
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と問われると答えることが出来ない。それもそのはず聖書とは違い、ギリシャ
神話というのは一貫性のある明解な物語ではなく、古い古い時代からギリシャ
民族が住む各地に伝承されてきた上に、更にまた様々な伝承が加えられてきた
膨大なスケールの「物語群」なのである。
ナマで接すると消化不良を起こしかねないこのやっかいな代物を、小説家の
阿刀田氏は持ち前の作家的才能を発揮して、整理・再編し、見事な読み物に仕
立てあげてくれている。全 18 章どこをとっても楽しく面白く読むことが出来、
この本を読むことによって、今までギリシャ神話に何となくモヤモヤした感じ
を抱いていた人も、これでスッキリされるのではないだろうか。
2020 年のオリンピックが東京に決まるとともに、6 月のサッカーW 杯も日本
は一次リーグでギリシャとの対戦が決まった。日本人のギリシャという国への
関心は日を追って深まって来ると思われる。ギリシャを知るための一助として、
この本「私のギリシャ神話」を、特に読書会会員以外の方にお勧め致します。
以
上
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