私たちがすすめる本 2006 - 三重大学 総合情報処理センター

私たちがすすめる本 2006
三重大学教育学部「総合演習(岡野・山本担当)」受講生編
私たちがすすめる本 2006
2006 年 8 月 25 日発行,発行代表:岡野 昇
〒514-8507 津市栗真町屋町 1577 三重大学教育学部
URL:http://www.cc.mie-u.ac.jp/~ln20104/index.htm
―目 次―
12 イチローはなぜ成功したか
02 心でゆっくりと味わう本
スポーツ健康科学コース 3 年 岸本馨一郎
国語教育コース 4 年 井本麻美
13 大好きなもの
03 まっすぐに今を生きる強さ
スポーツ健康科学コース 3 年 齊藤 萌
情報処理コース 4 年 高橋佳那
14 強く生きる
04 大切なこと
スポーツ健康科学コース 3 年 清水康太
情報処理コース 4 年 斉藤恵詞
15 戦争と少年たち
05 共に成長しながら成長を見届ける
スポーツ健康科学コース 3 年 菅沼泰行
情報処理コース 4 年 山田訓史
16 夢をかたちに
06 私だけの世界
スポーツ健康科学コース 3 年 鈴木規志
保健体育コース 3 年 植野このみ
17 動きの革命
07 自分の道を突き進む
スポーツ健康科学コース 3 年 滝藤充宏
保健体育コース 3 年 加納岳拓
18 前向きに生きる
08 虐待
スポーツ健康科学コース 3 年 田中 僚
保健体育コース 3 年 中西 礼
19 魅力的な職業
09 Have a good die
スポーツ健康科学コース 3 年 中出健碁
学校教育コース 3 年 水谷有希
20 日常生活からの脱獄
10 さぁ 走ろう
スポーツ健康科学コース 3 年 丹羽政裕
スポーツ健康科学コース 3 年 安藤邦男
21 心の受信機を持つ
11 世界の見え方が変われば
スポーツ健康科学コース 3 年 坂野伸弥
スポーツ健康科学コース 3 年 奥村洋介
1
私たちがすすめる本 2006
心でゆっくりと味わう本
自分を傷つけてもいいんです。それは心の叫び
だから。でも隠さずに,あなたの信頼できる人の
国語教育コース 4 年 井本麻美
前で傷つけてください。その傷を必死に見せてく
ださい。きっとあなたを抱きしめてくれる人が現
れます。その出来事があなたの人生を変えてくれ
ます。
」
初めて読んだ時は思わずドキっとしました。な
ぜなら私はそれまで「辛い・悲しいと訴えること」
を「みっともなく,恥かしいこと」だと思い,自
分の中で抱え込んでいたからです。そして「相手
に心配かけたくないな」とか,
「こんなの自分らし
くないな」など色々な理由を付け,訴えることか
ら逃げていました。
しかしこの本を読み,
「夜回り先生の生徒」にな
ることで,心がすっきりしました。弱い自分もま
た本当の自分だと思えるようになりました。
「違
う」なんて弱い自分を拒絶しないで受け止めるこ
との大切さ,また辛いときは他人へ訴えることの
大切さを知りました。弱い自分を認め,それをさ
らけ出すことこそ本当の強さなのだということ
も・・・。
この本は短い言葉でつづられています。ただ読
「夜回り先生」
。皆さんもこの言葉を一度は耳に
むだけであったら 15 分程で読み終わってしまう,
したことがあるのではないでしょうか。
「夜回り先
そんな本です。
しかし短い言葉のひとつひとつに,
生」こと水谷修先生は深夜パトロール(夜回り)
「夜回り先生」の優しさや強さが沢山詰まってい
を行いながら,不登校,非行,リストカット,薬
ます。ぜひ,この優しい言葉たちに心を傾けて下
物乱用・・・様々な悩みを抱える子供たちに対し,
さい。そしてゆっくりと心で味わって下さい。き
常に体当たりで向き合ってきました。そんな夜回
っとアナタの胸に優しさと勇気を与えてくれるは
り先生がいつも子供たちに語りかけている言葉を
ずです。
今,この文章を読んでいるアナタはどうでしょ
集めたのがこの本。
『こどもたちへ(水谷修 著/
うか。
サンクチュアリ出版)2005 年』です。
「辛い・悲しいと訴える事」を「みっともなく,
本の中で水谷先生はこう言っています。
「ひとりで苦しまないでください。友だちに迷惑
恥かしい事」だと思い,自分の中で全てを抱え込
をかけたくない,親に心配をかけたくないと思う
んでいませんか?
気持ちはわかります。でもこれは間違った優しさ
一度「夜回り先生の生徒」になってみるのも良
で,結果的に友だちや親を傷つけてしまいます。
いかと思います。本を開けば,ほら。そこにはい
誰も信頼していないという証拠だからです。
つでも「夜回り先生」がいるのですから・・・。
2
私たちがすすめる本 2006
まっすぐに今を生きる強さ
良のような印象を受けました。時間をひょいと飛
びこしてしまった彼女は大学時のノートや読んで
情報処理コース 4 年 高橋佳那
いた本,夫や他の先生たちから聞いた授業のエピ
ソードなどは登場するものの,結局自分自身の事
として思い出したりすることも無かったので,た
だ今の自分と 17 歳の時の自分に折り合いをつけ
るお話だと感じたのです。
けれど 2,3 度読み返してみてそれは考え方が浅
いと思いました。そんなことは重要でなかったの
です。真理子は最初から最後まで,多少迷いはし
たものの 17 歳の自分に帰るということを望みま
せんでした。モットーであるという《嫌だからや
ろう》の精神を貫いて,自分が自分であることは
やめず, 今 を生きていくことを断固として実行
したのです。
無意識下でいい,そんな強さを持って私は生き
ているだろうか。私にだって今は今しかない。精
一杯生きているって言えるだろうか。そう思って
しまいました。そんな強さを知っていますか?
この本を読んでいてもうひとつ気が付いたこと
があります。真理子はつい昨日まで自分が受けて
いたような高校の授業を同い年(に思える)の生
『スキップ(北村 薫著,新潮文庫)』
徒たちの前ですることになります。彼女自体は付
この小説は 17 歳の主人公一之瀬真理子がある
け焼刃の授業だと言っているのですが,持ち前の
日,目覚めると 17 歳の娘を持つ 42 歳の高校の国
感性で生徒たちも共感してしまう授業をしていく
語教師である桜木真理子まで時を スキップ し
のです。若いということは実は大きな武器にもな
てしまっていたという物語です。
りえるのだと,若いからこそ生きる強さや挑戦し
続ける力が強いのだと,その素晴らしさが読んで
はじめは戸惑うばかりだった真理子はこの 時
いてすんなりと分かります。
のいたずら にもめげずに必死で自分を生きよう
とします。自分は 17 歳だったことに強い憧れを
そして読んでいて自分が教壇に立っているよう
抱きながらもそれでも諦めることはせずに現実に
な錯覚も受けてしまいました。普段の授業だけで
―家族に,教師という仕事に,そして変わらない
なく,テスト,球技大会,学園祭。教育実習に行
自分自身に―立ち向かっていくのです。
く前に読んでいたら―私ははじめガチガチになっ
私はこの話を初めて読んだとき,
「え,結局時は
てしまっていたので―良いイメージトレーニング
戻らないの?スキップの間の記憶が戻垣間見える
になったかもしれません。そのような意味でも読
事もないの?」と,まるで真理子と一緒において
んでみると面白いと思います。
けぼりをくらってしまったようで,すこし消化不
3
私たちがすすめる本 2006
大切なこと
回復力)を挙げ,何故それらが重要なのかを自身
の小学校教師としての体験から纏められた内容と
情報処理コース 4 年 斉藤恵詞
なっています。
クラーク氏は,若干 33 歳という若さながらも
大変有名な教師で,教育困難校と評された小学校
から優良児を輩出し,史上最年少でディズニー主
催の最優秀教師賞を受賞しており,アメリカでは
大変評価の高い人物です。この本以外にも,世界
で 25 ヶ国語に翻訳されベストセラーとなった「あ
たりまえだけど,とても大切なこと(邦題)」とい
う本もあり,こちらは最低限のルールとして教室
で教えるルールを纏めた内容となっています。
私が何故,この本を紹介したいと思ったのか?
それは,クラーク氏の人柄と情熱をもっと多くの
人達,特に私と同じ,これから子供を教育してい
く立場となる人たちに伝えたいと,強く,強く,
思ったからです。この本から,子供を教育してい
くことの素晴しさと楽しさ,重要さを是非読み取
っていただきたい。また,クラーク氏の子供の為
には何ができるか,自分が子供達を導く役として
どれだけ貢献できるのか。そんな,子供に対する
温かい人柄を知ってほしいのです。
最後に,私が最も感動した言葉を紹介したいと
想像して下さい。
あなたが子供を教育する立場,
具体的には保護者や教師という立場に立ったとき, 思います。それは「すべての子どもの未来を明る
どのような気持ちを抱くでしょうか?きっと,大
く照らし出そうとする時,そこには高すぎる理想
きな希望,そして,それに負けないくらいの不安
も,大きすぎる夢も,手の届かない目標も存在し
があるでしょう。人を育てると言う事は,それだ
ない。それが教師であることの力であり,親であ
け大きな仕事だと思います。そんな不安を少しで
ることの素晴しさなのだ」という,後書きの一番
も和らげ,そして,大きな指針として役に立って
最後に書かれていた言葉です。この言葉に,クラ
くれる本として,「親と教師にとって,すごく大切
ーク氏の人柄,そして,信念の全てこもっている
なこと」を紹介しましょう。
と言っても過言では無いでしょう。子どもを育て
ると言う事は,それだけの夢を秘めているのだと
この本は,アメリカの小学校教師,ロン・クラ
ーク(Ron Clark)氏が著され,日本では 2005 年 3
思います。
月 3 日に第 1 版が出版されました。簡単に説明す
ると,クラーク氏は子供を導く大人に必要な資質
として,11 の項目(熱意・冒険・創意・反省・バ
ランス・思いやり・自信・ユーモア・常識・感謝・
4
私たちがすすめる本 2006
共に成長しながら成長を見届ける
かれます。しかし物語が進むにつれ「誰にも認め
られない」という絶望を背景に否定的であった堺
情報処理コース 4 年 山田訓史
田少年は長谷川少年に認められた事を機に今まで
否定してきたもの達をもう一度見つめ直す事で,
いかに自分が恵まれているか,自分の存在がいか
に小さいものであるか,自分がどれだけの者に支
えられてきたかを知っていき,穏やかで強い意志
を伴った青年へと成長していきます。逆に長谷川
少年は物語の進行と共に内に秘めていた歪みが一
層深刻なものとなり,表向きには成功を収めます
がその実は虚無感と絶望に囚われた人間へと成長
していきます。
この物語を通して物語の根底に主人公達と様々
な人々との絆が描かれていますが,ここで注目し
たいのはこの日本橋ヨヲコという作家についてで
す。この作家がある雑誌のインタビューに対して
答えた内容によると,作者は人一倍『冷めた人間』
であったらしく,
『漫画家なんて大それたものにな
ろう等とは思っていなかった』と述べています。
凄くヒネくれていて後ろ向きだった,そう語る作
者は歴史的震災である阪神大震災に巻き込まれた
『G 戦場ヘヴンズドア(日本橋ヨヲコ著,
日を境に思想が一変したと言います。
『表現は恐ろ
IKKICOMIX 小学館/全 3 巻完結)』
しい。必ず人を傷つける。だから漫画家なんて大
それたものになろう等とは思えなかった。
』
震災の
私がこの本と作家に出会ったのは,ある小説家
恐怖から PTSD にまで陥った末,漫画家へと辿り
の先輩に奨められた事がきっかけでした。ビッグ
着いた作者の心象世界は一体どのようなものであ
コミックスピリッツ増刊の IKKI という月刊誌で
るか。それは彼女の作品を読む事で自然と伝わっ
の連載であったため一般の人には殆ど馴染みのな
てくる事でもあります。
い漫画かと思われます。とにかく凄い漫画だと紹
作中の言葉一つ一つが,いちいち読み手へ影響
介され,今では私の一番のお気に入りの本です。
を与えようとしてくる。情報が雑多な現代におい
まず内容について簡単に紹介すると,この漫画
て,至ってシンプルに生きる事とはどういう事な
は漫画家を目指す思春期の少年達とそれに関わる
のか訴え掛けてくる,熱い作品です。また,伏線
人々を描いたものです。主人公の堺田町蔵と長谷
の張り方,話の構成も素晴らしく,漫画という非
川鉄男という対照的な二人の少年を中心として構
常に受け入れ易い媒体によって表現されている所
成され,物語の序盤では長谷川少年は友人に囲ま
も私は評価したいと思います。作中には若干の性
れており社会的に「陽」の存在,対して堺田少年
的描写が含まれますが,深く抵抗に感じずに読ん
は孤独で否定的立場にあり「陰」の存在として描
で頂けたら良いなと思います。
5
私たちがすすめる本 2006
私だけの世界
出てくると唱えたくなってしまう。頭の中では私
が創りあげたハリー・ポッターの世界が繰り広げ
保健体育コース 3 年 植野このみ
られていた。たくさんシリーズがある中でもこの
「ハリー・ポッター∼炎のゴブレット∼」では,
様々な世界を広げられる。魔法の世界の家庭,ほ
うきにのるスポーツ,闇の世界,人魚やドラゴン
もでてくる。私は場面が変わるたびに,頭の中の
世界も創り変えていた。そのようにいろいろな世
界が出てくるのがこの巻である。私の中では,私
が創り上げる世界がある。別の人が同じ文章を読
んでいても,その人の中では私とは異なった世界
が繰り広げられる。絵を描かせれば,全員が全く
異なった世界を描くのではないか。このように,
ハリー・ポッターの世界は,
読んだ人の数だけ世界
をもっている。そして各自が創り上げた世界をさ
らに自分の中でさらに広げることができる。その
ように,読んだ人にいろいろな世界を創らせると
いうのがこの本の魅力である。
また,今では映画も大ヒットしているが,どち
らも見たことがない人は,ぜひ本を先に読んで欲
しい。私は本を見てから映画を見たので,自分の
この本は私に夢を与えてくれる。本を読むこと
想像とはまた違う世界を見ることができた。しか
が苦手だった私はこの本に吸い込まれていった。
し,映画を先に見てしまうと,
「私の世界」が映画
昔から,魔法だとか,妖精だとかが「あればい
そのものになってしまう。それではこの本の面白
さが半減してしまう。
いなぁ。いればいいなぁ」と思っていた。しかし,
今の時代では,そのようなことは「ありえない世
私はこの本を読むことで,
「私独自の世界」を
界」として否定される。確かに私自身も「ありえ
広げ,現実的,科学的な今のひとたちの考えに,
ない」とは思うが,どこかに希望を持っていたか
少しでも安堵感を与えるものになればいいと思っ
った。そのような中,外国で有名なファンタジー
ている。
小説が映画化されると聞いた。その時は本を読ん
でみたいというより,映画を見てみたいと思って
いた。しかし,本を開いてみると文字も大きく読
みやすそうだったので,興味本位で映画を見る前
に読んでみた。
読んでいくと,すぐに私は本の中の世界に入っ
ていた。
本の中で起こること全てにわくわくして,
自分を本の中で重ねながら読んでしまう。呪文が
6
私たちがすすめる本 2006
自分の道を突き進む
日と差別する人間は程度の低い人間として,何も
相手にしなかった杉本であるが,桜井にはなぜか
保健体育コース 3 年 加納岳拓
自分が韓国籍であることを告げることができない。
やはり,今まで多くの差別をされてきた経験もあ
り,もし彼女に嫌われたらという心配だからだ。
しかし,このままではいけないと思い,ある日決
心をして自分が日本国籍でないことを伝えるので
ある。結果は杉本の悪い心配が的中し,
「韓国,中
国の人の血は汚いと父から言われている」と避け
られるようになってしまう。それから何ヶ月たっ
たクリスマスに桜井からいきなりの電話があり,
国籍など関係ないと思い直した桜井に受け入れて
もらい,2 人は再び付き合うことになる,という
話である。
友達や恋人など心から大切に思う人というの
はそんな人種などは何も気にならず,その人自身
を好きになっていくものである。しかし,この話
では人種や外国人に対して,1 人の人間として見
る前に,
「在日」というくくりで人を見て,差別を
する日本人が大きく書かれている。その中で考え
させられたことは,どこからが外国人であるかと
『GO(金城一紀著,株式会社構談社)』
いうことである。今,日本人といわれている人も
『GO』は在日朝鮮人の中高生時代の恋愛を描
元をたどれば,大陸から渡ってきた移民である。
いたものであるが,恋愛だけではなく,日本人の
しかも,国籍などというものも簡単に取得できる
在日に対する考え方・接し方,さらに 1 人の人間
ものになっている。それなのにどこかで別の人と
が色々な人から影響を受けながらも,いつも自分
いう見方をしてしまうのはなぜなんだろうか?理
というものを大切にし,真っ直ぐに生きていく姿
解しがたいところである。
逆に杉本は,この差別に屈することなく,いつ
が書かれている。
主人公である杉本(日本名)は,朝鮮学校に通
も自分の信念を持ち,何かの枠にとらわれること
う中学生であった。そこに通う学生は大抵高校も
なく生きていく。それだけではなく,父を尊敬し
朝鮮学校に進学する。そんな中,杉本は「広い世
たり,いつも友達を大切に思う姿は日本人ではな
界を見る」と言い,先生に反対され,
「裏切り者」
いが,どの日本人よりも「日本男児」のようだ。
とまで言われても,日本の高校に進学を決める。
少し横暴なところもあるが,いつも正面から何事
進学した高校で,杉本は在日ということで,日本
にもぶつかっていく杉本の姿から勇気をもらうし,
人学生から喧嘩を売られたり,事件に巻き込まれ
憧れる部分も多々ある。
みなさんもこの本を読んで,日ごろの生活,考
たりする。喧嘩を繰り返す生活を行っていたが,
ある日 1 人の女性(桜井)と出会う。今まで,在
え方を見直してみてはどうですか?
7
私たちがすすめる本 2006
この本は幼年期・少年期・完結編の 3 部作の第一
虐待
部で著者デイブ・ペルサーの過去に受けた虐待を
保健体育コース 3 年 中西 礼
赤裸々に語ったものです。主人公デイブは無条件
の愛情を受けるはずの母親から酷い虐待を受けま
す。母親から名前も呼んでもらえず,
「それ」とも
の扱いされ,存在さえ否定されます。食事もろく
に与えられず,奴隷のように働かされます。ナイ
フでお腹を刺され,コンロで腕を焼かれ,異物を
食べさせられます。頼みの綱であった,父親にも
結局見捨てられ,身も心もずたずたに傷つけなが
らも,少年は生き抜こうとし,そして,ついに自
由を勝ち取るという内容です。
これはアメリカでの出来事ではありますが,日
本でも 2001 年には 2 万 5 千件以上の被害報告が
され現在増加しつづけているのです。この数値は
あくまでも報告されたものであり,家庭という閉
ざされた環境の中で,今現在虐待に怯えながら過
ごしている子も少なくないかもしれません。虐待
を知りながらも,関係が崩れるのを恐れ口にでき
ない親類,叫び声を聞きながらもどうしようもな
い近所の人,そういった人が多いのも現状です。
『 IT と呼ばれた子(デイブ・ペルザ―著,
また,虐待の怖いところは何かの拍子に,子ど
田栗美奈子訳,ソニー・マガジン出版)』
ものころに身についた行動をとってしまいがちで,
今度は配偶者・自分の子どもが不満のはけ口にさ
れ,知らず知らずのうちにかつての状況が再現さ
「虐待」
あなたはこの現実を知っていますか。
れ,果てしない怒りの循環が出来上がってしまう
「虐待」という文字が新聞やテレビ上に増加す
ことです。
虐待はドミノ効果をもっているのです。
る中,私は虐待を現実として受け止めていません
あなたは虐待を止めることができますか。自分
でした。虐待のニュースを見てかわいそうだと思
が虐待を受けていなくても,もしかすると近所に
うことはあっても,他人事のように受け止めてい
虐待に怯える子がいるかもしれません。また,教
たからかもしれません。
師になったとき子どもたちの中に虐待に悩む子に
そんな私がこの本に出会ったのは 4 年前,友達
出会うかもしれません。子どもたちを虐待から守
から「一度読んでほしい。
」と本をわたされ,興味
り,虐待をとめることができるのは,周りの大人
本位で読み始めたのがきっかけです。読み終えた
たちなのです。虐待の現実を知ってもらい,悲し
後なんとも言いようのない感情になり,胸が苦し
い過去を背負う子どもを増やさないためにも一度
くなりました。こんなことが現実に起こっている
この本を読み虐待について知ってもらいたいと思
のか,と…。
ったので,私はこの本を紹介します。
8
私たちがすすめる本 2006
Have a good die.
いつ死ぬのか分かりません。もしかしたらまだま
だ先のことかもしれませんが,もしかしたら明日
学校教育コース 3 年 水谷有希
何か事件が起こり亡くなってしまうかもしれませ
ん。あなたは死ななくても,あなたの周りの大事
な人が中村先生のようになってしまうかもしれま
せん。そんなとき,周りの人はその人にどう接し
てあげたらいいのでしょうか。中村先生のように
余命を宣告された人ははどう感じるのでしょうか。
この主人公中村先生は,
余命 1 年の宣告を受け,
一時は自暴自棄に陥ります。でも,そこで 1 冊の
ずっと読んでいなかった本を見つけて考え方が変
わります。その本は読みたいと思って買った本で
した。
「この本を,今度読もうと思いつつ,すでに
1 年が経ちました。
」という部分で「あと 1 年しか
ないと思って何もしない人は,5 年あっても 10
年あっても何もしないと思います。
」
というところ
は,本当にそうだなぁと私も思いました。
では余命 1 年ではなく,余命 1 日の宣告を受け
たらどう思うだろうか,と考えてみました。もし
「明日死ねない」と思った人は,その明日死ねな
い理由が,今やるべきことややりたいことなので
はないかと私は思いました。
余命 1 年。
私は優柔不断で,何かを決める時に「どうしよ
もし今あなたに突然,余命 1 年の宣告が下った
う・・・。
」と迷うことがよくあります。そんな時,
らあなたはどうしますか?
この本を読むと,
「今やらずに後悔するよりやって
この話は,以前ドラマで放送されていたので知っ
みよう!」と強く思うことができます。すると,
ている人も多いと思います。草彅剛と矢田亜希子
すごく前向きな決断ができます。
この本は,
「今を生きること」を教えてくれま
が共演していた『僕の生きる道(橋部敦子 角川
す。
書店)
』という本です。
あなたは今やるべきことや,やりたいことにな
草彅君の演じた主人公中村先生は,無難に安定
した将来を望んで 28 年間生きてきました。けれ
かなか踏み出せずにいませんか。
ど,突然余命 1 年の宣告を受けてしまいます。そ
この本はきっとあなたの生きる道を後押しし
てくれるでしょう。
こで,子どもの頃に思い描いていた人生を生きて
こなかったことを後悔し,残りの人生をどう生き
ていったかが描かれています。
私たちは,死ぬなんてまだまだ先のこと,と思
ってしまいます。けれどよく考えると,私たちは
9
私たちがすすめる本 2006
さぁ 走ろう
中身はどうなっているかというと,実践的なも
のでした。二軸歩行や常足など東洋のものが多く
スポーツ健康科学コース 3 年 安藤邦男
古武術の動きを取り入れたものが多く説明されて
います。しかし,重要なのは東洋一本なわけでな
く西洋的視点からも見ているところです。あらゆ
る視点からどうしたら速くなるかを見ます。
また,
どうしたらその動きに近づけるのか説明がされて
います。そして,この本に関する有名なアスリー
トを取り上げ,その人の体験談が述べられて,よ
りこの本の現実味を得ることができます。陸上だ
けでなく野球,サッカー,バスケ等色々なスポー
ツに当てはまる本です。
文体は専門化同士の会話形式となっており読
みやすいです。また,専門家といっても難しい言
葉の羅列ではなく,子供でも分かるような文章の
中身です。本嫌いの人も,科学嫌いの人も関係な
く,楽しめる本だと思います。読みやすさをさら
に強調しているのが,動きを写真で載せている点
です。スポーツの本は言葉だけで動きの説明をし
ようとしている本も多くあると思います。
「百聞は
一見にしかず」この本はその場で実践できます。
言葉で説明すると難しくても写真で一目!!この本
私は陸上競技をはじめて 7 年目になります。7
のもっともよいところです。
年も経つとガムシャラに走るだけではなく,色々
最後にこの本はすべてのスポーツにおいて,な
と考えて走るようになります。ウェイトの行い方
かなか伸びなくて悩んでいる人に読んでほしい本
や練習方法など様々です。しかし,今世に回って
です。この本を読んだから絶対すぐに足が速くな
いる多くのスポーツの本は西洋的視点で見たもの
る。そんなことはまずないと思います。しかし,
が多くなっています。科学的根拠もというのが重
何かのきっかけになるのではないかと思います。
要みたいです。
そんな時出会ったのが「突然足が速
そのきっかけを掴むも掴まないも自分次第,より
くなる本」でした。表紙には「足が速くなる」「二軸
多くの人にそのきっかけを掴んで頂き。笑顔が見
走法」「火の呼吸」など書いてあり。
「ちょっと違う
られるようになるといいなと思います。そして自
な」
「東洋か…面白そうだな」と思いました。つま
分自身も早く笑顔を取り戻したいと思います。み
り僕はこの本を選ぶにあたってテーマに負けてし
んなに突然足が速くなる革命が起こることを願っ
まった訳です。この本と私が出会ったのは陸上に
ています。
苦戦している僕と魅力的なテーマのこの本との運
命の出会いだったのかもしれません。僕は迷うこ
となくすぐその場でこの本を買ってしまいました。
10
私たちがすすめる本 2006
世界の見え方が変われば
科学的だからと,盲目的に信じるのではなく,
自分で考えることが世界の見方を変えるきっかけ
スポーツ健康科学コース 3 年 奥村洋介
になるのではないでしょうか。これは科学の世界
だけの話ではありません。人と人との関係につい
てもいえることです。
自分の相手に対する印象だけで判断し,相手の
ことを知ろうともしないで外見だけであいつは乱
暴者だとか,不良みたいだから怖いとか,他人の
性格を決め付けることもあるのではないでしょう
か。そんなときに自分の考え方はたくさんある見
方の 1 つであることを思い出してみてください。
よく話し合ってみればそれは思い違いであったり
することがよくあります。大切なのは自分の頭の
中は自分の考え(=仮説)だらけ,相手の頭の中
も仮説だらけ,この 2 点を理解することこそが第
1 歩なのです。さまざまな意見を相対的に比べら
れることが 頭の柔らかさ なのです。
頭の柔らかい 人は常識と呼ばれるものがた
だの仮説であることを知っています。逆に,頭の
固い人は固定観念や先入観に縛られてしまってい
ます。まずは常識を疑ってみてください。自分で
考えることで固定観念や先入観を取り除くきっか
けになるはずです。
僕が紹介する本は『99.9%は仮説 思い込みで
判断しないための考え方』
(著 竹内薫,光文社新
これはこうするべきだ,こうなるはずだと自分
書)です。本屋でこの本を見かけたときになんと
の仮説を信じることが悪いことだとは言いません。
なく面白そうだと感じ,その場で購入,一日で読
しかし自分の考えと異なる考えも認めるようにし
み終えてしまった本です。
てみてください。自分だけでは気づかなかったこ
ところでみなさん,麻酔は知っていますか?虫
とに気づかせてくれるかもしれません。自分の考
歯治療で使われる局部麻酔ではなく,手術などで
えよりもうまくいくかもしれません。自分と異な
使われる全身麻酔のほうです。実は局部麻酔につ
る考えもみとめるようにしてみてください。そう
いてはある程度メカニズムがわかっているのです
することで世界の見え方がまた違ってくるのでは
が,全身麻酔についてはほとんど何もわかってい
ないでしょうか。
ないのが現状です。私たちは「科学的にこうなる」
学生の間も社会に出てからも人との関わりは
と言われると無条件で信じてしまいがちです。し
たくさんあります。自分の考えの幅を広げるため
かし科学はものごとの絶対的な基準ではありませ
にもこの本を読んでみてはどうでしょう。
ん。たくさんあるものの見方の中の 1 つの見方に
過ぎないのです。
11
私たちがすすめる本 2006
イチローはなぜ成功したか
インタビューをして気づいたことや感じたことを
まとめているものです。
スポーツ健康科学コース 3 年 岸本馨一郎
筆者は,いくら世界のイチローといえども,1
年間を通して『順調』
『絶好調』だった年は無く,
そのような失敗,不調,スランプ,プレッシャー
をどうとらえ,対処し乗り越えていくのか,さら
にそこから何を学び,次の課題に挑戦していくの
か?なぜ,イチロー選手はメジャーリーグで成功
したのか?をテーマに質問し 10 個のキーワード
を発見しています。それは,
『意味のないことはし
ない。やっていることすべての意味を考えて行動
する』
『準備を大切にする』
『毎日の仕事の再点検
を怠らない』
『道具を知り,使いこなす』
『すべて
は小さな積み重ねから』
『事あるごとに基本を見直
す』
『他人の評価より自分の評価』
『失敗から多く
を学ぶ』
『目標を高く掲げ,結果を出す』
『完璧を
目指して,最善を尽くす』というものです。私は,
この 10 項目を見て,
仕事をしていく上でのごく普
通で当たり前のことだと感じました。イチロー選
手はこの当たり前のことにどれだけ高い意識を持
ってできるかが大きな差を生むと言っています。
『イチローに学ぶ失敗と挑戦(山本益博著,講談社発行)』
イチロー選手がどれだけ高い意識を持って取り組
日本の野球で華々しい活躍をして海を渡り,今
んでいるかは,本を読んでからのお楽しみです。
や世界最高のバッターになったイチロー選手。も
この本を読めば野球の新しい見方や,イチロー
うその名前を知らない人はいないだろう。イチロ
選手のすごさがわかることはもちろんのこと,こ
ー選手は愛知県出身で,1992 年愛工大名電高校か
れから社会に出て様々な職に就く私たちに,イチ
ら当時のオリックスブルーウェーブ(現:オリッ
ロー選手がたくさんのことを教えてくれます。ま
クスバッファローズ)にドラフト 4 位で入団し,
た,あれほど天賦の才能を持ちながらも,常に高
日本ではシーズン最多安打記録(210 本)
,3 年連
い目標を持って精進を重ねる姿は,私たちの生き
続でMVP,7 年連続で首位打者,ベストナイン,
る手本であると思います。将来,仕事でつまずい
ゴールデングラブ賞を獲得,メジャーリーグでも
たときに勇気や希望を与えてくれる本だと思うの
5 年連続 200 本安打,そして 2004 年の年間最多安
で,皆さんも 1 度読んでみてはいかがですか?
打記録の更新(262 本)し,様々な安打記録を塗
り替えています。そして,記憶にも新しい 2006
年 3 月に行われたWBC(ワールド・ベースボー
ル・クラシック)でも,日本を世界一に導く活躍
をしました。この本は筆者がそのイチロー選手に
12
私たちがすすめる本 2006
大好きなもの
それだけではなく登場してくる花道の友達やバス
ケ部の先輩たちなどから仲間というものの存在の
スポーツ健康科学コース 3 年 齊藤 萌
大きさや大切さというものを感じさせてくれます。
またこの本は登場人物のセリフや行動などから,
自分が忘れていたことや気持ちを思い出させてく
れる何かがあります。高校時代に没頭した部活や
学校などさまざまな事を思い出させてくれます。
何かに夢中になるということはとても素晴らしい
ことであると思います。
「こんなに何かをしたいと
思ったり」
,
「夢中になったりできるもの」という
ものをみなさんは今持っていますか?
僕はこの本を読み,こういう気持ちというもの
を一生もち続けてきたいと僕は思いました。そし
て常にその夢中になれるものというものを近くに
おいておきたいなと思いました。
最後になりましたが,なぜこの本を僕が読んで
みようと思ったかというのを少し話してみたいと
思います。もちろん一番は面白そうだったからと
いうのもあるのですが,それだけでなく,1 巻の
最初に書いてあった著者の井上さんの言葉になん
か共感したからなのです。その言葉というのは,
「高校のころはバスケ部でした。すげー弱い学校
だったけど,バスケットはおもしろくて,おもし
ジャンプコミックス『SLAmDunk(井上雄彦著,集英社)』
ろくてしかたなかった。何かを好きというときに
僕が勧めたいこの『SLAmDunk』という本は
は,なんつーか,一種の照れみたいなものがあっ
高校のバスケット部の話です。主人公の不良であ
て,うまくいえなかったり,ごまかしたり,嫌い
る桜木花道はあるきっかけからやったこともない
だといっちまったりすることも,あるんだけど,
バスケット部に入部することになります。始めは
バスケットだけは照れずに好きといえるのであ
おもうようにできないことからいらいらしたり,
った。
」
めちゃくちゃなことばかりやっていた花道でした
好きなものがあるということはとても素晴ら
が,日を重ねやっていくうちにだんだんとバスケ
しいことです。みなさんも大好きなものを探しま
ットが好きで好きでたまらなくなり,バスケなし
しょう。
読んでみて後悔はしないと思います。ぜひみな
の生活というのが考えられなくなります。そんな
青春の 1 ページを描いた本です。
さんも一度,読んでみてください。
僕がこの本を読んでもらいたいと思ったのは,
まずこの本が熱い本であるということです。
当然,
スポーツに関する熱さというものはあるのですが,
13
私たちがすすめる本 2006
強く生きる
で「脊髄小脳変性症」という病気です。この病気
は小脳の細胞が徐々に変化し,消えていってしま
スポーツ健康科学コース 3 年 清水康太
う病気です。症状は発症から死に至るまで十数年
の年月をかけ徐々に進行していきます。小脳は体
のバランスや神経を司る部位ですので,だんだん
と歩けなくなったり,文字が書けなくなったり,
舌を使うことができなくなっていきます。亜也さ
んは青春真っ直中,14 歳(中学 3 年生)のときに
この脊髄小脳変性症になってしまうのです。
亜也さんは歩くのも困難になりかけていなが
らも,
大学進学を目指し普通科高校に進学します。
体は病症に冒されながらも,
「将来は人の役に立つ
仕事がしたい!」という想いを抱き,必死になっ
て勉学に励みます。しかし,病気は非情にもどん
どん進行していき,養護学校へ転校しなければな
らないようになります。それでも亜也さんは「人
の役に立ちたい」という想いを持ち続け,睡眠時
間を削ってでも一人で大学へ行くために勉強を続
けます。驚くべきは,この努力が「自分は将来,
歩くことも話すこともできなくなる・・・」この
僕が紹介したい本は『1 リットルの涙(著者/木
ことを亜也さんは知ったうえでのことなのです。
藤亜也,編集/木藤潮香,出版社/幻冬舎文庫)
』
もし,自分が脊髄小脳変性症にかかってしまった
です。
『1 リットルの涙』といえば映画やドラマで
らと,一度考えてみてください。皆さんはどうな
有名ですね。おそらく観た人は分かると思います
ってしまうでしょう?自暴自棄になったり,人を
が,僕はこの映画を涙無しには観ることができま
恨めしく思ったりはしませんか?そんなマイナス
せんでした。僕は 1 リットルの涙の映画を観て感
な思考では亜也さんのような強い生き方はできま
動したことがきっかけでこの本を読もうと思った
せん。ですが,もちろん亜也さんが最初から強か
のです。
ったわけではないのです。強くなるのに「1 リッ
『1 リットルの涙』はこの本の主人公である木
トルの涙」を要しました。辛いとき・悲しいとき
藤亜也さんが自身の闘病生活を書きつづった 46
は泣いてもいい,むしろズルズルと落ち込んだ状
冊にも及ぶ日記を,亜也さんのお母さんがまとめ
態を引きずるなら思いっきり涙を流して,それか
た形になっています。ですので,この本の内容か
ら切り替えればいいと思います。
ら亜也さんの気持ちや病気の状況がとてもリアル
皆さんは今の自分に・今の自分の環境に不満を
に伝わってきます。本の方が映画やドラマよりも
持ったり,今という時間を持て余してはいません
現実味を帯びているので人生について考えるきっ
か?もしそんな状態だったら,ぜひ「1 リットル
かけになります。
の涙」を読んでみてください。きっと前向きに生
きられるようになるでしょう。
亜也さんの病気・・・それはとても残酷な病気
14
私たちがすすめる本 2006
手から逃れるために神父以下 3 人の住んでいる村
戦争と少年たち
へと疎開していくところから話が始まる。疎開後
スポーツ健康科学コース 3 年 菅沼泰行
は違う環境に戸惑いながらも懸命に生活していく。
そしていつかは両親が迎えに来てくれると信じて
待ち続ける・・・。そんなロメックをトロ,ヴラデッ
ク,マリアという疎開してできた友達に支えられ
ながら,
美しいポーランドの田舎の夏を過ごすが,
疎開先の村でもナチスの軍靴が迫り,村は緊迫し
ていた。しかし子供たちだけで過ごす時間は輝い
ていた。だが戦争とは非情なものでその子供たち
にもナチスの手が伸びてきて平和な暮らしが危険
と隣り合わせの生活へと変貌していく。物語終盤
になるとトロというひとりの少年が身近な人の死
などによって不可解な行動をとるようになる。キ
リストの真似をして十字架につるされてみた
り・・・。他の子供たちも身近な人の死によって「神
さま」を信じなくなったりしてくる。そんな中,
村の近くのをいつも通る列車のことを気にかけ始
める。そうそれはユダヤ人を強制連行する列車で
『ぼくの神さま(ユレク・ボガエヴィッチ,酒井紀子編訳,竹書房文庫)』
あった。それを受けて,もう両親は迎えになんか
この本に出会ったのは本当に偶然であった。普
来れないのではないのか,いやもうナチスに捕ま
段はまったく本を読まない人間であるので本屋と
ってしまったのではないのかと思うようになった。
かに足を運ぶこともめったにない。ではどのよう
そんな絶望の中,ロメックとヴラデックが列車の
にして出会ったのか。それは恥ずかしながらも自
近くを巡回していたドイツ軍に連行されてしまう。
分の妹に紹介されてだ。しかし偶然とはまさにこ
なんとかその場をしのいで戻ろうとすると,なん
のことをいうのではないかと思う。
とトロの姿が連行されるユダヤ人の列の中にある
この本,正確には映画で上映されてから本にな
ではないか。必死で呼び戻そうとするが,そこで
ったのだが,ここでは「この本」という表現を使
振り向けばロメックとヴラデックも自分と同じよ
用していくことにする。
うに連行されてしまうのではないかと悟ったのか,
トロは振り向きもせずに列車にと乗り込んでいく。
この本の内容は反ユダヤ主義を標榜したナチ
それ以降トロの姿は村にはなかった・・・。
スドイツによるホロコーストである。ユダヤ人が
迫害されているのを時代背景として,子供たちの
この本を読んで改めて戦争というものの非情
さまざまに絡み合う友情や戦争に対する怒りなど
さと,力あるものが正義となってしまう今のこの
を主にして話が進んでいく。この本の登場人物は
世の中に疑問を覚えるようになった。そして神と
主人公のロメック,神父,トロ,ヴラデック,マ
いうキリスト教の絶対である存在すら疑問に覚え
リアという 5 人が主である。そしてこのロメック
る戦争は嫌なものである。なにも信じれるものが
はユダヤ人である。都会に住んでいたがナチスの
ない。だから「ぼくの神さま」なのだろう。
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私たちがすすめる本 2006
夢をかたちに
があるが,それはプレーヤーか監督についての本
だった。審判員の本を見たことがなかった。これ
スポーツ健康科学コース 3 年 鈴木規志
は是非読まなければという思いで,この本を迷う
ことなく購入した。
この本を読み,大きく 2 つのことが僕の頭の中
に残った。1 つ目はサッカー審判員の大変さとい
うことである。サッカーの試合時間は 90 分であ
る。審判の仕事は主にこの 90 分間である。この
90 分の間にルールを適用し,ゲームを運営する。
しかし,審判員はこの 90 分間のために相当の準
備をしてきている。それには週 3 回以上ものトレ
ーニング,試合前のウォーミングアップなどの肉
体的なものはもちろんだが,それ以外にも双方の
チームの戦術的特徴などを下調べしたり,試合前
に集中力を高めたりといった精神的な準備がとて
も必要である。しかし,どれだけ準備をしても 90
分間を評価されるだけである。いや,評価されれ
ばまだいいだろう。審判員はある一定の人物にし
か評価されることはないだろう。どれだけ努力し
ても審判員は主役にはなれない。2 つ目は,1 つ
目とは逆に審判員に対する強い気持ちが根付いた
ことである。この本を読むまでは,ワールドカッ
『ゲームのルール(ピエルルイジ・コッリーナ著,NHK出版社)』
プに出たいという軽い気持ちだったが,この本を
読み,絶対にワールドカップに出るという強い気
僕はサッカー審判員としてワールドカップに
持ちに変わった。そのためにやらなければいけな
出るという夢がある。
ピエルルイジ・コッリーナ。みなさんはこの方
いこと,やるべきことがはっきりとした。僕はま
を知っているだろうか。僕が思う,世界で最も有
だまだ審判員として新米である。これからどんど
名なサッカー審判員である。1960 年,イタリアに
ん経験を積み,
努力をしていかなければいけない。
生まれ,1977 年よりサッカー審判員をはじめ,
そしていつの日にかワールドカップのフィールド
2002 年ワールドカップでは,
アルゼンチン対イン
で笛を吹く日を…。
グランド,日本対トルコ,ドイツ対ブラジル(決
ピエルルイジ・コッリーナ。みなさんはこの方
勝戦)の主審を務めた。1998 年より,5 年連続で
を知っているだろうか。僕が世界で一番尊敬する
世界最優秀審判員に選ばれてもいる。この本『ゲ
人物である。
ームのルール』はこのコッリーナさんがサッカー
と人生について書いた本である。大学に入り,い
ろいろな試合の主審をしているときに,この本に
出会った。今まで数々のサッカーの本を見たこと
16
私たちがすすめる本 2006
動きの革命
と思い,番組内で紹介されていたこの本を注文し
ました。
スポーツ健康科学コース 3 年 滝藤充宏
タイトルの「うごくこつ」
,これは動くコツは骨
にあるということをわかりやすく表したタイトル
で,
本の内容は骨を動かすトレーニングである
「骨
トレ」の紹介と実践。骨トレとは人本来の動きで
ある各部の骨をリンクさせる動きをとり戻すため
のトレーニングで,それを行うことで最も効率的
な動きを獲得できるというもの。細かいところは
読んでみて,さらに実践していかないと分からな
いような内容です。ただ,スポーツをしている人
ならとても面白い内容なのですぐに読み進められ
ると思います。とくに,高いレベルでスポーツを
している人,自分の動きに疑問を感じている人に
は,その「答え」にもなりうる本ではないだろう
かと僕は思っています。
僕はこの本を読んだことで,これからもっと深
くこういう分野に関わっていきたいと思うように
なりました。こういった分野に関連している本は
まだまだたくさんあり,深く追求していけばもっ
ともっと面白いところだと思っています。そうい
った意味で,この本は運動・スポーツ好きの自分
『動く骨(コツ),(栢野忠夫著,スキージャーナル)』
の,
「スポーツ人生」を変えた本だと思います。
動くコツはどこにあり,どのようなものである
と思いますか?僕は昔から「動き」というものに
興味はあり,
どうやったら速く,
鋭く動けるのか?
ということを常に考えていました。そのためのト
レーニングとして,筋トレを知りトレーニングを
していったものの,どこかで,何か求めているも
のと違う…という気持ちはありました。そんなこ
とを考えていたときに,たまたまテレビで「動き
の改善」という番組を見,その中でこの本の存在
を知りました。この番組では,この本の著者・栢
野忠夫さんは「動く」ということを新しい視点・
考え方でとらえ,その理論と実践を話していまし
た。
(学問的には昔からある分野だったけれど,僕
にとって新しかった。
)それを見て,
「これだ!!」
17
私たちがすすめる本 2006
前向きに生きる
これにまつわるエピソードも文章中にあったので
紹介します。
スポーツ健康科学コース 3 年 田中 僚
河合さんが勤めている学校では,文化祭でのメ
インイベントに合唱コンクールがありました。そ
れのパート別に練習しているときに男子がふざけ
てクラスにまとまりがない状態が続きました。そ
の時に河合さんは,ここでクラスがバラバラにな
るかまとまるかはピンチの乗り越え方次第だと判
断し,あえて生徒たちを冷たく突き放す方法をと
ります。
「もう合唱コンクールは辞退する。こんな
状態で,コンクールに出ても意味がない。
」と。生
徒たちが自ら招いたピンチを彼はチャンスとして
受け止め,クラスを一つにまとめるには教師の自
分が乗り出すのではなく,生徒自身に解決させる
ことを選んだのでした。さて,その結果はどうな
ったのでしょうか…。
その他にも様々な困難な問題にぶつかります。
例えば,視力がないことで生徒の名前を覚えるの
僕が紹介する本は『夢 追いかけて 全盲の普
にも顔と名前を一致させるのではなく,声と名前
通中学校教師河合純一の教壇日記』[河合純一著,
で一致させなければなりません。また,授業中に
2003 年,
ひくまの出版,
本体 1400 円(税別)]です。
寝ている子がいたとしてもわかりません。万が一
教師を目指す自分に母が「一度読んでみたら?」
津波や地震が来た時はどう対処したらいいのでし
と言ったのがきっかけで読みました。著者の河合
ょうか?自分の中に入ってくる様々な情報のなか
純一さんは,先天性ブドウ膜欠損症という目の病
で,目から入る情報は約 8 割というぐらいですか
気で生まれつき左目の視力がなく,中学校三年で
ら,不便なことはたくさんあって当然でしょう。
右目の視力もなくなりました。目が見えないとい
しかし彼はハンディがオリジナリティを生む条件
うハンディを背負いながらも早稲田大学教育学部
になりえるというポジティブな考え方をし,どん
へ進学し,後に中学校の教師となります。この本
な不利な状況も受け入れて前向きに生きていく運
では,日本でただ一人の全盲教師の彼が,どのよ
命に挑戦するのだ,このチャレンジ精神こそ,人
うに教師生活を過ごしてきたかがありのままに綴
生にとってもっとも大切なのであると語っていま
られています。
す。彼のこういったプラス思考に僕は大変惹かれ
僕はこの本の中で,共感し印象深く残っている
ました。いつでも,どんな状況下においても前を
言葉があります。それは「ピンチこそ絶好のチャ
向くという姿勢に,非常に強い意志を感じます。
ンス」です。彼は卒業生が受けとる卒業アルバム
その姿を,本を通して見ることで,自分もがんば
にこれを書きました。この言葉は彼自身の今まで
ろうと元気を与えてもらいました。なので,教師
の経験から生まれた言葉で,
「だめだ」と思うとき
を目指す人はもちろんですが,そうでない人にも
こそ人は変われるという思いが込められています。 ぜひ読んでもらいたい一冊です。
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私たちがすすめる本 2006
魅力的な職業
こは,ごふくやのとこで まちます。そして,か
スポーツ健康科学コース 3 年 中出健碁
えってくるときは ばんにかえったきます。ばん
になって かえってきたら ごはんたべます。そ
して,ごはんを たべ おわったら しんぶんを
よみます。
『かえるの学級』は,このような生活綴方を使
った教育実践を行っていた野名龍二先生が教師生
活 8 年目に執筆したもので,小学校 2 年生の 1 年
間の教育実践を記したものです。この教育実践が
行われたのは 1955 年と古いですが,これを読ん
でいると子ども達の成長していく姿や野名先生と
子ども達のほほえましい姿が浮かんできてとても
おもしろく,幸せな気分になります。また,小学
校の教員を目指している人にとっては野名先生の
子ども達を思いやる姿勢,考え方,1 つ 1 つの取
り組み全てが参考になると思います。そこで,野
『教育実践記録選集 第四巻 かえるの学級(宮原
名先生が新学期の始めに書き並べた意気込みを一
誠一・国分一太郎監修,野名龍二著,新評論)』
部紹介します。
○ なかのよい,たのしい教室にすること。ちっぽけな
生活綴方(せいかつつづりかた)というものを知
ことでも,みんなで相談していこう。1 人の子どものし
っていますか?
たことでも,することでも,みんなで話し合うことにしよ
私がこの本と出会ったきっかけは,
「生活指導
う。1 人の子どもの生活が学級の中で認められている
論」という授業で先生が参考文献として紹介して
ようにしよう。
くれたことです。その授業は,主に生活綴方に焦
○ キヨエ,ミユキ,ハチ子,政雄,潤,章和,学,修二,
点を当てて子どもの生活指導について考えるとい
豊茂,圭一たちには,読めるような文字がきちんと書
うものです。生活綴方とは,子ども達に普段の生
けるようにすることと,この子らは,算数も国語も,おく
活,例えば家庭での生活や学校での生活について
れているから,これを取り戻すこと。
あったこと,思ったこと等どんな些細なことでも
○ 生一,邦和,保,学,健治,修二,豊茂,章和,政雄
書きたいと思ったことを書いてもらう日記のよう
が,勉強中しずかに勉強するようにしよう。
なものです。この本に取り上げられているもので
紹介したものだけでも野名先生の 1 人 1 人を大
は次のようなものがあります。
切にする姿勢,どんな小さなことでも汲み取って
おとうちゃんのこと
あげようとする姿勢が感じとれると思います。
おとうちゃんは まいにち かいしゃに つと
私は,将来教師になろうと考えたことはなかっ
めています。いつでも ひゃくえんばかし もて
たのですが,この本を読んだ後には小学校の教員
いきます。そして,じてんしゃでいくときは の
も魅力的だなと考えるようになりました。
のいの ほうからいきます。ばすでいくときは
人生を変えるかもしれないこの一冊,読んでみ
うえのはらの ほうから いきます。ばすまつと
ませんか?
19
私たちがすすめる本 2006
日常生活からの脱獄
写が丁寧に描かれている本である。
この本に出てくる多くの人とのふれあいから
スポーツ健康科学コース 3 年 丹羽政裕
いろいろな言葉が出てくる。世界はCとTの 2 つ
の世界に分けることができると言ったおじさん。
旅から故郷に帰るバスを指して「From Youth to
Death.
(青春発墓場行)
」と言った若者。私はこ
の多くの言葉の中で「Breeze is nice.
」という言葉
が印象に残っている。簡単な言葉であるが,とて
も味のある言葉ではないだろうか。
「風が気持ちい
い」こんな言葉を口に出していったことがありま
すか。風を涼しいと感じて言ってしまうのではな
く,
風というものを体で感じて口を突いてしまう,
そんな気持ちの良い風を感じたことがありますか。
沢木さん自身もこれが日常生活の中での体験
の言葉であったら何も感じていなかったかもしれ
ない。しかし,これらの言葉が旅という日常生活
とは違う中から生まれてきた言葉だからこそ本の
中に書いているのだと思う。
不思議に思っている人もいるかもしれないが,
なぜ乗り合いバスで行く旅を描いているのに小説
の題名が「深夜特急」なのかと。それにはしっか
りとした理由がある。
「深夜特急」というのはトル
私とこの本との出会いは本当に簡単なものだ
コの刑務所内での外国人受刑者の脱獄を意味する
った。通学の電車の中で読んでいた本が読み終わ
「ミッドボナイト・エクスプレスに乗る」という
ってしまい新しく読みたいと思う本がなく,バイ
隠語から来ている。沢木さん自身が旅に出るとい
ト先の人に薦めてもらったのがこの本との出会い
うことを生活からの脱獄,自由になることを意味
でした。出会いは簡単ではあったがこの本を読む
しているのではないだろうか。
ことでここまで多くのやりたいことが増えるとは
先に言ったこの本を読んで増えたやりたいこ
思わなかった。まだ紹介していなかったが,私が
とと言うのは,いろいろな場所に行ってみたいと
紹介する本は沢木耕太郎さんが書いたノンフィク
いうことがまず 1 番にある。この本を読んで初め
ション小説「深夜特急」
(全 6 巻 新潮文庫)で
て世界の広さというものを感じた。自分が知って
ある。26 歳の沢木さんは,机の引き出しに転がっ
いる世界というものがまさに井の中の蛙であった
ている一円硬貨までをかき集めて 1900 ドルを作
ということを痛感したからだ。私もまさに今,日
り,仕事の全てを投げ出して旅に出た。
「デリーか
常生活からの脱獄をしようとしているのかもしれ
らロンドンまで乗り合いバスで行くことができる
ない。日常というありふれた生活から抜け出し,
か。
」そんな酔狂な旅である。旅先でのいろいろな
旅という非日常生活に身を置きたいと思っている
国の人たちとのふれあい,多くの美しい景色の描
のかもしれない。
20
私たちがすすめる本 2006
心の受信機を持つ
た。
この本の中で白石さんは,
「これはひょっとする
スポーツ健康科学コース 3 年 坂野伸弥
と 私のことに注目してほしい
私の存在を認め
てほしい というメッセージではないだろうか。
私も含めて多くの大人は,そうしたメッセージが
送られてきたとき,日常の忙しさの中で見過ごし
たり,現状にある彼・彼女を見て,ある先入観で
接してきているのではないだろうかという反省の
思いを抱くのである。 しっかり受け止めてくれ
た ことに対する喜びが,支持や共鳴を生んでい
るのではないかと思う」といっている。
私たちが人と接するときも同じではないだろう
か。相手が何気なく言ったことを何気なく流して
いないだろうか。私たちが何気なく聞いたことで
も,相手からのメッセージが隠れているのではな
いか。私は将来教員になりたいと思っているが,
子どもというのは,特に自分を認めてほしい,評
価されたい,相手より上に立ちたい,褒められた
い,かまってもらいたいという感情が強い。私も
教師になる以上,白石さんのような柔軟に対応で
きる受信機をもちたいと思う。そして受信するだ
けでなく,いい送信機も持ちたい。いい送受信機
をもつことはたやすいことではない。これは日ご
『生協の白石さん(白石昌則著,講談社)』
ろからいろんな人とコミュニケーションをとるこ
私はあまり本を読むことが得意ではない。そん
とが大切になってくると思う。いろんな人と会話
な私は母に「何かすぐ読めて,面白い本ない?」
をしていく中で,
「この人はどんな考えをしている
と聞いたら,母はこの本を紹介してくれた。それ
のだろう」
「この人は今何を求めているのだろう」
が私とこの本との出会いだった。
など,さまざまなことに関心を持つことにより,
『生協の白石さん』は,東京農工大学生協工学
いい送受信機というものが形成されるのだと思う。
部店に勤めている白石昌則という実在する人物が,
みなさんもこの本を読んで,白石さんの粋な返
その店でやっている「ひとことカード」の投稿と
答を参考に,日ごろの会話で粋な返答をしてみた
その返答を本にしたもの。
「○○を入荷してほし
らどうだろうか?きっと友達の輪も広がり,もっ
い」
「食堂にこんなメニューがほしい」といった要
とコミュニケーションをとりたくなることだろう。
望が多かったが,白石さんが担当になってから,
生協とは直接関係のない質問がたくさん寄せられ
るようになった。これはどんな質問を投げかけて
も,白石さんは必ず粋な答えをくれるからであっ
21