医薬品と食品の安全性 -国立医薬品食品衛生研究所の役割-

お茶の水学術サロン
<お茶の水学術サロン
第10回
医薬品と食品の安全性
第10回
2006年1月18日>
-国立医薬品食品衛生研究所の役割-
国立医薬品食品衛生研究所 所長
長尾
拓
はじめに
22年間田辺製薬株式会社生物研究所にいました。
自己紹介
その間にアメリカに2年半ほど行ったりしておりま
◈ 20年間
20年間 [企業] 創薬
して、FDA(Food and Drug Administration:アメ
ジルチアゼムの開発
日本初の世界的評価を得た薬
リカ食品医薬品局)の承認を取るための仕事に取り組
◈
12年間
12年間 [東大] 医薬品の薬効・安全性学
んでおりました。そこで、いわゆるブロックバスター
◈
2001年~
2001年~ [国立医薬品食品衛生研究所]
トキシコゲノミクス
プロジェクト リーダー
図2
図1
(売上高の大きな医薬品に対する製薬業界の慣用的
呼称)としては日本で最初の合成医薬品で、「カルシ
ウム拮抗薬」の1種である「ジルチアゼム」という薬
を開発しました。江橋(節郎)教授が、カルシウムに
よる筋収縮という非常に世界的な仕事をされていま
した時、私が学位を取るための研究がカルシウム拮抗
薬の開発につながりましたので、日本での学問が非常
に生かされたというふうに思っています。
それから、その後、東京大学の方で「戻ってこい」
ということでありました。所属先は当初「毒性薬理学
室」という名称でしたが、途中で「薬効安全性学室」
という名称に変更になりました。やはり「毒」という
字が、いろいろ難しくて、こういう名称に変わりまし
た。そこに、12年間居て、2001 年に国立衛研(国
立医薬品食品衛生研究所)に移りました。ですから、
I.
国立医薬品食品衛生研究所紹介
産・学・官をやらせていただいています。現在、トキ
II.
医薬品の安全性
トキシコゲノミクス
ファーマコゲノミクス
シコゲノミクスプロジェクトのリーダーと、それから、
III. 食品の安全性
ポジティブリスト制
バイオテクノロジー応用食品
遺伝子組換え食品の安全性についても、主任研究者を
やらせていただいております(図1)
。
それで、本日お話しする内容は、この国立衛研の紹
介と、医薬品の安全性に絡んで「トキシコゲノミクス」
図3
図2
1
お茶の水学術サロン
第10回
ということと「ファーマコゲノミクス」ということ、
それから、食品の安全性については、ポジティブリス
ト制とバイオテクノロジー応用食品のお話をします
(図2)。すみません、全部カタカナであります。で
も、カタカナだと、あまり厳格に定義しなくてよくて
勝手にできるというメリットがあると言う人もいま
す。
Ⅰ.国立医薬品食品衛生研究所の紹介
(1)国立医薬品食品衛生研究所の歴史と任務
国立衛研は 1874 年にできた日本で一番古い研究所
であります。昨年が創立 130 年で、このお茶の水女子
大学とほとんど同じだそうでありまして、なかなか光
国立医薬品食品衛生研究所
NIHS
栄なことでございます。それで、歴代の所長を見ると、
Since 1874
薬学の人は柴田承桂という人はよく知っているので
?
1874年 「東京司薬場」として設立
日本で最も古い国立試験研究機関
?
歴代所長
?
すけれど、皆さんご存じの後藤新平という方も所長心
得ということで、この後、台湾に行って上下水道を確
柴田承桂(2
柴田承桂(2代)、後藤新平(5
代)、後藤新平(5代)、長井長義(6
代)、長井長義(6代)
石館守三(16
代)、内山充(21
21代)、
代)、
石館守三(16代)、内山充(
寺尾允男(22
代)、首藤紘一(23
23代)
代) ほか
寺尾允男(22代)、首藤紘一(
保した、日本よりずっと進んだシステムを作られた方
です。長井長義さんというのは、薬学では一番重要な
方ですけれど、エフェドリンの構造を決めた方です。
図5
図3
そういうことで、私は24代目ということであります
(図3)
。
取り組んでいることですが、試験研究所ということ
で、医薬品と食品と生活環境中の化学物質の品質、有
国立医薬品食品衛生研究所の任務
NIHS
I.
効性、安全性の評価に関連する研究を行っています。
基本的には、評価法の開発というのは、一番問題のな
Since 1874
試験研究業務
医薬品、食品、生活関連化学物質の
品質、有効性、安全性の評価に関連
試験・研究・・・評価法の開発
⇒国民生活に還元
II. レギュラトリーサイエンス
科学技術の進歩によって生み出されたものを
真に国民の利益にかなうように調整する役割
=科学技術と人間との調和
“Sound scientific basis”
basis” FDA
図6
図4
い言い方で、国民生活に還元するような生活に密着し
たようなところを担当しています。それで、いつもこ
こは、品質というのが一番のキーワードとなっていま
す。それから「レギュラトリーサイエンス」の役割は、
科学技術の進歩によって生み出されたものを真に国
民の利益にかなうように調整することです(図4)。
(2)試験研究業務について
試験研究分野を幾つか紹介します。医薬品医療機器、
これは工学系の人がメインですけれども、違法ドラッ
グ、東京都は脱法ドラッグと言っていますが、現在、
2
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第10回
問題になっている領域があります。それと生薬(天然
物由来の薬)にも取り組んでいます。それから食品で
は、化学関係のこととバイオ、両方をやっています。
また、生活関連では、飲料水、水道ですね。水道のパ
イプの方は工学系なのですけれど、中身の飲み水の方
は、我々のところの責任になっております。それに、
試験研究分野
室内空気、それと化粧品も対象にしています。それか
?
医薬品・医療機器
違法ドラッグ、生薬
?
食品
化学、バイオ
?
生活関連
飲料水、室内空気、化粧品
?
生物系
毒性
?
情報関連
食品、化学物質、医薬品
ら、生物系といいますか、毒性試験などをするところ
がありまして、そこは、ほとんど国では唯一に近い場
所であります。情報関連では特に食品には力を入れて
いまして、食品安全委員会などでも我々の仕事を大変
信用してくれています。情報関連で、あと対象となる
のは化学物質と医薬品の安全性ということです(図
図7
図5
5)
。
それで、これはややビジーなのですけれど、我々衛
研がありまして、これは厚生労働省の直轄ですが、も
う一つ、食品安全委員会の方からも直接指示が来るよ
うになっています。それから、地方衛生研究所とか検
疫所と密接な関係がございます。測定法などは、我々
が開発して、地方衛生研究所で使っているという関係
です。それから、大阪の基盤研(独立行政法人 医薬
基盤研究所)というのができましたけれど、ここは独
立する前は我々に属していました。それから、総合機
構(独立行政法人医薬品総合機構)で薬の審査をやっ
ていますけれど、それも我々の審査センターが独立し
たものです。ですから、全体としては少しスリム化し
ていますが、国立衛研は国際的なネットワークの一つ
の中心であります。取り扱うものは医薬品から食品、
国民の健康と生活環境維持向上
他省庁
検疫所
保健所
地方衛研
厚 生 労 働 省
地方衛研
厚生科学課、医薬食品局、食品安全部、健康局、医政局
食品安全委員会
行政報告、試験法、
検査法等の研究報告
専門調査会参加
特別行政試験依頼
各種審議会参画
医薬品総合機構
技術指導、交流
医薬品の治験相談、
承認審査、市販後調査、
局方改正作業
大学、研究機関
厚生労働科学研究事業等
の 分 野 で す 。 図 6 の 生 物 系 分 野 の 所 に JaCVAM
官民共同研究
医薬基盤研
研究交流、共同研究
国 立
衛 研
国際活動
外国政府機関
国際機関
海外研究機関
JICA等
国際学会
生活関連、それから先程言いました、情報とか生物系
(旧: 大阪支所)
H17 . 4設立
開発型研究業務
試験研究業務
(Japan Center for the Validation of Alternative
Methods)とありますが、これは後で出てくると思い
ますけれど、いわゆる代替法、動物をなるべく使わな
医薬品、医療
機器分野
情報関連分野
食品分野
生活関連分野
生物系分野
JaCVAM
いで毒性、安全性試験を研究する部門が最近できまし
た。
図8
図6
3
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Ⅱ.医薬品の安全性
「レギュラトリーサイエンス」の対象
安全性について社会的関心が高い領域
(1)レギュラトリーサイエンスとは
それから「レギュラトリーサイエンス」の対象は、
環境
薬
「安全でない」
原子力
食品
「安全であるべき」
環境、原子力、薬、それに食品です。薬は安全ではな
いということが前提ですが、食品は安全であるべきと
いうのが前提であります(図7)
。
我々のマークで、図8の 3 本の線は、順番は分かり
図9
図7
ませんけれど、品質と安全性と有効性を示しています。
この3つがレギュラトリーサイエンスの視点です。
レギュラトリーサイエンスの視点
有効性
安全性
品 質
世 界 的 に い っ て 「 NIH 」 (National Institute of
Health:米国立衛生医療研究所)というのはアメリカ
グレーゾーンのどこに線を引くか
科学的根拠
Since1874、これは 1874 年からというマークです。
整合性
ですけれど、
「NIHS」というと日本の、我々のところ
患者(・消費者・住民)を意識した時から始まる
を指すというふうになっております。有効性、安全性、
品質を決める時、白黒をはっきりとつけることは難し
NIHS
Since 1874
図10
図8
く、通常、グレーゾーンのどこかに線を引きます。そ
の科学的根拠と行政による規制との整合性、さらに世
界的な基準との整合性を非常に重視しております。薬
について言えば、患者さんを意識した時から、こうい
うレギュラトリーサイエンスが始まります。
次に、レギュラトリートキシコロジスト
• Regulatory Toxicologist
(regulatory toxicologist)(図9)はどういうことを
• Regulatory Scientist
するかという説明をします。例えば白いペンキがあり
まして、それには昔は鉛が入っていまして、おもちゃ
にそれが塗ってあると、赤ちゃんがしゃぶって、ある
いはかじって脳障害を起こすという問題があって、そ
図11
図9
れならその白いペンキに鉛を入れるのをやめようと
いう決定を行政がして、そういう問題が解決したとい
トランスレーショナルリサーチ
う、歴史的なことがあります。そのように、レギュラ
トリートキシコロジストが行政の立場でそれなりの
判断をすると、その問題が解決していくということが
トランスレーショナル
リサーチ
幾つかございます。その伝統が今でもあるということ
です。
①創薬標的であることを早く知りたい
②安全性・品質のガイドが必要
③後でデータが開発に生かせる
④自分の患者さんの安全を確保 (ヘルシンキ宣言)
図12
図10
それから品質に関しては、「トランスレーショナル
リサーチ」(展開研究:基礎研究の結果を臨床応用す
ること)
(図10)において重要です。例えば医師が
4
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「ベンチ(実験台)
・ツー・ベッドサイド(病床)
」と
いうことで、研究した薬を患者さんに応用したいとい
う時に、その薬の品質がきちんとしていないと、デー
タの再現性がなく、以後の開発に結び付かないという
ことがあり、医師もこういう点に非常に注意をするよ
うになりました。
このように品質というのは非常に大事でして、有効
性と安全性を確保する基本になっています(図11)
。
継続して同じ品質のものが供給されないといけない
し、ある品質のもとで有効性が調べられる、あるいは
安全性が調べられるということですので、これは一定
でないといけない。例えば、抗体医薬では、抗体を産
図13
図11
生する細胞にマスターセルバンク(MCB)というの
がありまして、そこで一定の品質の細胞を保存してお
いて、生産のときにそれを必要に応じて出してくるの
です。それによって、長期間、同じ有効性・安全性の
医薬品が作られることになっています。科学の進歩に
伴い、品質を管理する方法はしっかり改良していかな
日本薬学会
レギュラトリーサイエンス部会の活動
① 食品安全フォーラム
食品安全に向けたレギュラトリーサイエンス
② 医薬品品質フォーラム(独立)
医薬品の変更管理に関するシンポジウムなど
③ バイオロジクスフォーラム(独立)
④ 医療機器フォーラム(独立)
⑤ フォーラムシンポジウム
生薬関連・臨床試験関連
図14
図12
ければなりません。
日本薬学会レギュラトリーサイエンス部会ではこ
ういうフォーラムをいろいろ行います(図12)。産・
官・学、先程私の経歴からもそうですけれど、要する
に厚生労働省だけでは駄目で、企業、それから学会も
一緒になって、いろいろと品質、あるいはレギュレー
ションのことをディスカッションしていく場をつく
ろうということで実践しています。これはホームペー
ジに出ていますけれど、新しい、いろいろな生物系の
医薬品ですと、バイオロジクスフォーラムというのを
行っていますし、医療機器は工学系の人と行っていま
東京大学・大学院公開講座
『医薬品評価科学』
医薬品評価科学』
?
?
Intensive Course
「臨床薬理に基づく医薬品開発戦略」
2005年
2005年7月8-9日
Regular Course
2005年
月(計22
22回)
回)
2005年6月~12
月~12月(計
す。医師も入っています。あとは医薬品品質フォーラ
ムとかですね。これは化学系です。それから安全性に
ついても最近は活発に取り組んでおります。そのほか
に、生薬関係とか、臨床試験の関係とか、いろいろ広
く活動をしております。
主催:(財)薬学振興会
主催:(財)薬学振興会
協賛:21
世紀COE
COEプログラム「戦略的基礎創薬科学」、日本薬学会レギュラト
プログラム「戦略的基礎創薬科学」、日本薬学会レギュラト
協賛:21世紀
リーサイエンス部会・薬学研究ビジョン部会、日本臨床薬理学会、日本薬物動
態学会、日本薬剤疫学会、日本製薬医薬医師連合会
詳しくは http://www.f.uhttp://www.f.u-tokyo.ac.jp/~regsci/ic.htm
http://www.f.uhttp://www.f.u-tokyo.ac.jp/~regsci/rc.htm
図15
図13
この活動の一つの成果としては、東京大学の薬学系
の研究科ですが、「医薬品評価科学」という教室がで
きました(図13)。やはり産・官・学で「学」が弱
体なので、そこを何とかしたいというふうに思ってい
5
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たのですけれど、やっとそういうのができまして、今
は活発に活動をしております。
(2)毒と薬の関係
I.
国立医薬品食品衛生研究所紹介
II.
医薬品の安全性
トキシコゲノミクス
ファーマコゲノミクス
III. 食品の安全性
以上が今日の話の一点目ですけれど、次は医薬品関
係で、「トキシコゲノミクス」と「ファーマコゲノミ
クス」の話をします(図14)。その前に、「(薬の)
いろは」ですけれど、毒と薬の関係になりますが、1500
年頃にパラケルスス(Paracelsus)という有名な方が
いますけれど、彼は、物質はすべて毒であると述べて
図16
図14
います。毒性がないものはなくて、大事なことは「量
が毒か薬を区別する」という、量の概念を入れました
(図15)。ですから、絶対安全な物とか絶対危ない
物ということではなくて、どの物質も、量の概念が入
毒と薬の関係
「物質にはすべて毒性がある。
毒性のないものはない。
量が毒か薬かを区別する」
っているということです。これが非常に大事なことで
す。したがってリスクはゼロというのも、そう簡単に
はいかないということになります。
それで、これは薬理学では図16のような絵をかく
Paracelsus (1493ー1541)
のですが、横軸が血中濃度で、縦軸は主作用ですけれ
=化学物質は「危険なもの」と「安全なもの」に二分されるものではない
=どんな化学物質でもそのリスクを「ゼロ」にできない
図17
図15
ど、Dose response curve(用量作用曲線)になって、
濃度が増えていくに従って作用が強くなる、また有効
性が増していって、それで、副作用というものと毒性
というのも同じように増加していくということにな
薬の用量薬の用量-作用の関係
(例)
もう一部に副作用が出てくる。そういうところで、薬
60
40
副作用・毒性
20
1
0
10
10
0
10
00
10
00
10 0
00
10 00
00
00
0
作用(%)
主作用
0.
01
0.
1
が離れていれば、主作用と副作用の間は十分あるとい
うことになります。例えばこの位効かせようとすると、
100
80
ります。ですから、ここ(主作用の線と副作用の線)
血中濃度(相対値)
図18
図16
をどう使うかというのが、薬学では研究されるのです
けれど、薬理学という学問は、このところを非常に精
密に研究します。それからもう一つ、古い概念ですが、
「選択毒性」ということが言われていまして、これは
例えば、人間には大丈夫だけれど、いわゆる害虫です
ね、それから菌とか、そういったものはやっつけてく
れるということですが、そういうことが薬のいろはだ
ということです。あるいは殺虫剤なども大事になりま
す。ここ(昆虫に対する毒性曲線とヒトに対する毒性
曲線)がずっと空いていれば、人には非常に安全で、
6
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害虫その他をやっつけてくれるということになりま
すが、一番の問題は、がんの薬です。がん細胞はもと
もと人の細胞なので、これが十分広がらない。百倍、
千倍というわけにはいかないのです。2倍、3倍には
選択毒性
―ヒトには毒作用を及ぼさない―
・・・農薬(昆虫)・抗生物質/抗菌物質(菌)
毒性(%)
(例)
100
いきますけれど、なかなか広がらないので、いい薬が
従来なくて、効く薬はありますけれど、まだ選択性が
十分ではないということであります。農薬とか抗生物
昆虫・菌ほか
80
60
質では、これが非常に大事な概念になっていると思い
40
20
ヒト
00
0
00
00
00
00
0
10
血中濃度(相対値)
10
0
00
10
10
1
10
10
0.
1
0.0
1
0
ガンは自己の細胞に由来する
=抗ガン剤で選択毒性を出すことは難しい
図19
図17
ますが、最近は環境のことも考え、ミジンコ、メダカ
の類に対しても影響を見なくてはいけないので、前ほ
どそう単純に「これをしなければいい」ということで
もなくなってきました。それから、抗生物質のあるも
のは、例えばペニシリンなどは、細菌の細胞壁に作用
するので、ヒトの細胞とは違うところをアタックする
ということですから、非常に安全であるということで
あります(図17)
。もっとも別のこともありまして、
「ペニシリンショック」というのもありますので、副
作用にはいろいろなケースがあります。
化学物質のよいことは、改良が容易だということで
医薬品の安全性
薬の用量薬の用量-作用の関係
選択毒性
化学(合成)=改良が容易
化学(合成)=改良が容易
図20
図18
あります。例えば、3倍とか5倍安全なものを作るの
は、いまや非常に簡単です。安全性が問題の場合は、
より安全性の高い、あるいは毒性の弱いものを作るこ
とができて、どんどん改良されていくということです。
それは皆さんもよくご存じだと思いますが。ですから、
自然のものは安全だ、化学合成物質だから危ないとい
うより、むしろ、化学合成されたものだからより安全
なものに切り替えられる、それが容易にできるという
ふうに考えます(図18)
。
I.
国立医薬品食品衛生研究所紹介
II.
医薬品の安全性
トキシコゲノミクス (種差)
ファーマコゲノミクス (個人差)
III. 食品の安全性
(3)トキシコゲノミクス-遺伝子レベルで毒性
を調べる
次にもう少し別の方から「トキシコゲノミクス」の
話と「ファーマコゲノミクス」の話をします(図19)
が、医薬品の安全性の検査は、いきなり人間で行うわ
けにはいかなくて、動物で、あるいは細胞でしっかり
安全性を見て、それから人間に行くわけですけれど、
図21
図19
別の問題は種差があることですし、それから最近は、
7
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第10回
個人差が非常に大きいということです。個人差も 10
人に 1 人位に副作用が出れば、勿論問題になりますが、
最近は千人に 1 人とか、1万人に 1 人のところまで
我々が考えて、薬を安全に使っていかないといけない
という非常に難しい時代になってきました。この段階
になると、動物試験はほとんど役に立ちません。です
が、ここを何とか埋めたいということで、トキシコゲ
ノミクスの場合は、ゲノム科学の進歩を入れて、メカ
ニズムに基づいたトキシコロジーを行おう、経験的と
いうか、動物においてどうなるというのではなくて、
もう少し遺伝子の個人差に基づいて見ていこうとし
ています。このような取り組みは、まだ始まったばか
りですけど、着実に進んでいくというふうに思ってい
ます。
それからもう一つ、動物福祉の観点から、法律が改
正されます。それは、従来は動物を使った場合、普通
は、「なるべく苦痛を避けて実験をしなさい」という
法律だったのですけれど、やはり「使用する動物の数
を減らしなさい」、それからこれは方法の置換、リプ
メカニズムベース
のトキシコロジー
トキシコゲノミクス
動物福祉
“3R”
「動物の愛護及び管理に
関する法律」
(動物愛護管理法)
平成17年6月公布
Replacement (方法の置換)
Reduction (数の削減)
Refinement (苦痛の削減)
代替法
(JaCVAM*, ECVAM, ICCVAM)
*
図22
図20
国立衛研に2005年11月発足
レースメントといいますが、別の方法を考えなさいと
いうことで、「3R(代替法、動物数の削減、苦痛の
軽減)
」-といいますけれど、これが入った法律になり
ます。これは、大学では昔から教えていたのですが、
法律でもやはり、来年からは施行されます。そういう
こともあって、動物を使わない安全性の研究法、細胞
を使うとかいろいろありまして、ヨーロッパには、
ECVAM(European Center for the Validation of
Alternative Methods)というのがあるし、アメリカ
は ICCVAM(Interagency Coordinating Committee
on the Validation of Alternative Methods)というの
がありますが、日本では、JaCVAM(Japan Center for
the Validation of Alternative Methods)というのを
つくりまして、代替法の研究室を我々の研究所で最近、
立ち上げております。要するに、ゲノム科学の進歩を
新しい薬をつくることに使うということです(図20)。
それともう一つ、新聞には、もっぱらこちらの方が
出ていますが、このゲノムサイエンスを毒性とか安全
8
お茶の水学術サロン
第10回
性に利用しようというのが、トキシコゲノミクスであ
TGP
ります。動物における安全性、あるいは予測精度を上
げるとか、動物の数を減らすとか、そういうことにつ
標的の同定 ・妥当性
いて研究します。それで、ゲノムのままでは大変難し
トキシコゲノミクス
ゲノム科学
動物における安全性
いので、バイオマーカー(疾患や特定の生理現象が起
安全性の予測と評価
(実験動物の削減)
実験動物の削減)
こった際に、それを判定するための指標となる生物学
的な物質、現象、測定数値等を言う)というものを探
バイオマーカー
して、これを一つのよりどころにして実用化していこ
図23
図21
うという研究が行われています(図21)
。
ご存じの通り、医薬品の開発というのは、非常に時
間もかかるしお金もかかるのですけれど、いろいろな
医薬品開発の流れ
Target
探索
Target
評価
レベルがあって、可能性を追求していって、ある化合
主な選抜基準:
薬理作用(benefit)/有害事象(risk)
主な選抜基準:薬理活性
リード リード
探索 至適化
> 2年
前臨床
試験
3~5年
臨床
試験
2~7年
市販
承認審査:2~3年
有害事象発現による開発の障害
創薬後期~市販後において有害事象が顕在化することで,膨大
な開発費と時間が失われ,創薬コストの増大につながっている
物がよさそうだということでいきます。けれどもヒト
に投与する段階で毒性が出ると、即ち有害事象(治験
薬が投与された際に起こる、あらゆる好ましくないあ
るいは意図しない徴候、臨床検査値の異常、症状また
は病気)といいますけれど、それが開発の問題になっ
て、特に売れ出してから問題が出ると、非常にダメー
図24
図22
ジが大きくて、欧米の巨大企業でもかなりガタガタす
る、リストラが始まるということになります。それか
ら小さい企業では、もうつぶれることがあります(図
市場から撤退した医薬品 :肝毒性
医薬品名
薬
年
効
Trovafloxacin
Benoxaprofen
キノロン系抗菌剤
1999
非ステロイド性解熱鎮痛剤
1982
Bromfenac
非ステロイド性解熱鎮痛剤
1998
Nialamide
抗うつ剤
1974
Zimeldine
抗うつ剤
1983
Chlormezanone
抗不安剤
1996
Perhexilene
狭心症
1985
Moxisylyte
Ticrynafen
αブロッカー
1993
利尿剤
1979
Troglitazone
糖尿病
2000
22)。だから、なるべく早め、早めに毒性の出る薬
物をセレクトしていくということが求められていま
す。それで、トキシコゲノミクスということをやりだ
していますが、まだまだ始まったばかりです。
例えば、一番標準的に出るというのは肝毒性ですけ
れど、肝毒性のため市場から撤退したものというのは、
たくさんあります(図23)。肝臓というのは解毒す
図25
図23
るところですので、毒性がある意味では最も出やすい
ところでもあります。ですから肝毒性が一つの問題と
いうことであります。
従来型毒性試験の限界
従来の毒性試験は、ネズミ、主にラットで行います。
毒性学的エンドポイントの評価:経験則による面も大きい
ヒト
ラット
ラット
共通
ヒト
外挿
必ずしも分子メカニズムの理解を伴わないため
実験動物データの人への外挿精度は低い
図26
図24
ラットで毒性が発現した場合、人間には投与しないよ
うにしていました。とにかくラットに効いているとい
うだけで、実際に何が起こっているかというのは実は
よく分からない。ということで、あまり経験が役に立
たないというか、あるいは外挿(既知の data との相関
関係に基づいて、未測定の値を予測すること)をして
9
お茶の水学術サロン
第10回
も精度が悪いということであります(図24)
。
ゲノミクス研究への期待
それで、ゲノム科学の進歩が続くと、約3万種類の
ゲノミクス解析による毒性メカニズムの理解
Rat gene
expression profile
種特異的 / 共通メカニズムの把握 Human gene
expression profile
遺伝子発現の変化が分かりますので、もう少し科学的
に実験動物のデータをヒトに外挿しようということ
ラット
共通
ヒト
外挿
です。人間の方が先にきれいに全遺伝子が読まれてい
ますけれど、ラットもかなりデータがしっかりしてい
実験動物データの人への外挿精度の向上
より安全性の高い医薬品開発の実現
図27
図25
るので、どういう遺伝子の発現が変化したかというこ
とを見て予想していこうということです(図25)。
いきなりすぐにはいきませんが、今始まったばかりで、
多分だんだん精度がよくなっていくだろうと思いま
す。その紹介をします。
大規模データベースの必要性
(4)トキシコゲノミクスデータベースの必要性
とその利用法
・毒性学上のモデル化合物に関するデータを大規模に
収集し、既知毒性メカニズムと遺伝子発現プロファイ
ルを関連づける必要がある
・動物試験および遺伝子発現解析には多大な時間と費
用を要するため、単独の製薬企業では大規模データ
ベースの作成が困難
遺伝子の情報は、後で「チップ」の話が出てきます
けれど、非常に大規模なデータベースになりますので、
1 社で、細々と行うというのは効率が悪いので、皆で
集まって行おうということになりました。日本では国
産官共同の研究体制の必要性
と企業が集まって非常に巨大なプロジェクトのもと
で、産官共同の研究体制をつくって取り組んでいます
図28
図26
(図26)
。
それで、このトキシコゲノミクスプロジェクト
(TGP)は、2002 年から 2006 年ですが、私たち国立医
薬品食品衛生研究所、ここから分離したのが医薬基盤
トキシコゲノミクスプロジェクト(TGP)
研(医薬基盤研究所)、それに参加している企業は、
期間:平成14年度(2002)~平成18年度(2006)
はじめ17社で国と折半で出資して研究します(図2
産官共同プロジェクト
7)。世界的にはこういうプロジェクトはありません。
国立医薬品食品衛生研究所
やっぱり利害が異なるコンペティター(competitor:
製薬企業
競争相手)同士が、一緒にお金を出してこういうこと
社
を行うというのはなくて、細々と各社が持っているデ
15
ータを持ち寄るというのはありますけれど、システマ
図29
図27
チック(systematic:組織的)なものは、これが世界
で唯一であります。やや細かい話ですが、「ジーンチ
ップ(Gene Chip)」というものを使って、30,000 個
位の遺伝子発現の変化を見るということです。定量性
を非常によくするために工夫がしてあります。それか
ら、調べている化合物はわずか 150 種類ですが、肝毒
10
お茶の水学術サロン
第10回
性が中心で、だいたいよく知られているものは全部入
るということで、ある種の教科書をつくるということ
TGPの特徴
1)定量性に優れたAffymetrix社のGeneChipアレイを採用。DNA
量に基づいたSpike RNAを添加して細胞1個あたりのmRNA量
を評価する手法も採用
2) 全被検化合物150は標準的医薬品が中心であり、臨床で副作
用が明らかとなり開発・市販中止となった薬物や、企業提供の
独自化合物を多く含む
3) QCチェックによりデータベースの品質を維持
4) 十分な用量・時間設定のもとに得られた各種毒性学的データ
のフルセットを、遺伝子発現データとリンクさせ、かつ関連情報
と有機的に結びつけ、大規模データベースとして構築する
5) 種差のブリッジングを考慮している
になります。そのほか、各企業で、開発については中
止になったものというものも持ち寄ろうということ
になります。これの特徴は、QC チェック(品質管理)
によりデータベースの品質が非常によいということ
であります。試験プロトコール(手順)は用量とか時間
設定が非常によくて、従来の毒性学的ないろいろな研
図30
図28
究成果も一緒になって、非常によいデータベースにな
りつつあります。種差のことも、かなり考えています
TGP:試験プロトコール
けれど、これはそう簡単にはいきません(図28)。
試験の用量を 4 点とか、時点を 3 時間から 24 時間、
In vivo ラット
投与試験
5匹/群
用
量
単回投与
0、低、中、高
4時点 (3, 6, 9, 24 h)
反復投与
4時点 (3, 7, 14, 28 d)
臓器採取
肝臓、腎臓
あるいは最高 28 日までとるという、これは、これだ
け整ったデータベースは世界にありません。インビト
ロ(試験管内の実験)の場合もなるべくこのように濃
In vitro ラット・ヒト肝細胞
濃
度
0、低、中、高
時
点
3時点 (2, 8, 24 h)
度を4点、時点も2時間から 24 時間をとるというこ
とをしています(図29)
。
図31
図29
図30はジーンチップの例ですけど、30,000 個以
TGP:遺伝子発現解析
上の遺伝子のmRNA(伝令 RNA、核内の DNA の遺伝
情報をタンパク質に翻訳するために細胞質中のリボ
ソームに運ぶ)発現レベルを網羅的に測定することが
できます。
それから、トキシコゲノミクスプロジェクトの最初
Affymetrix社のGeneChip® Array
オリゴヌクレオチドプローブを高密度に配置
30,000以上の遺伝子のmRNAレベルを網羅的に測定可能
図32
図30
の目的は、疾病薬に対するデータベースをつくること
ということで、それができたら予測システムを運用す
るということなのです(図31)。このチップのバージ
ョンアップがありましたが、この時、開発したメーカ
ーからテストが回ってきたのですけれど、そのテスト
の結果では、我々のプロジェクトが最もチップの開発
初期の提案
『良質で役に立つデータベースの構築』
企業に近いデータを出しています。
現在の成果目標
『2007年までに医薬品開発の初期段階で利用
するトキシコゲノミクスデータベース(ラットの肝
臓の遺伝子発現データ等)を完成し、肝毒性
等を予測するシステムの運用を開始する。』
図33
図31
11
お茶の水学術サロン
第10回
図32のように、ある化合物を実験動物に投与した
場合の、体重変化・臓器重量データ、血液学・血液化
TGP:大規模データベース
学データ、病理組織学データ、それと遺伝子発現デー
タを統合するデータベースを構築しています。
膨大な数の化合物と多数の測定時点での遺伝子発
現レベルの変動を捉えることができます。図33は、
複数の化合物と複数の測定時点の組み合わせで、150
点程度ありますが、ある化合物のある時点でのみ、発
現が増加する遺伝子も見つかります。
図34
図32
TGP大規模データベースの利点
TNFRSF16 associated protein 1
遺
伝
子
発
現
レ
ベ
ル
1600
1400
Thioacetamide
1200
1000
800
Methapyrilene
600
400
200
0
1
3
5
7
9 11 13
15 17 19
21 23 25
27 29 31
33 35 37
化合物ID
29DC
15DC
8DC
4DC
24HC
9HC
6HC
3HC
時
点
限られた時間(用量)に特異的な
遺伝子発現変動を捉えることが可能
図35
図33
バイオインフォマティクス技術の活用
トキシコロジストの発想に基づいたバイオインフォ
マティクス技術(多変量解析等)活用することにより,
膨大な数値データから毒性学的に意味のある情報
を抽出する
(5)バイオインフォマティクス技術の活用
バイオインフォマティクス(bio-informatics:生物
情報科学)の技術を活用して、多変量解析、クラスタ
ー解析とか、主成分分析とか、判別分析とかを行うと、
・クラスター解析:
k-means法,階層的クラスタリング法,自己組織化マップ法
ある程度のことはだんだん分かってきます(図34)。
・主成分分析
・判別分析:
例えばクラスター解析は、要するに分類をするので
Prediction analysis of microarray (PAM),
support vector machine (SVM)など
す。遺伝子発現のプロファイルの類似したデータをク
図36
図34
ラスター化することにより、類似化合物の分類ができ
る一つの例であります(図35)
。
1.クラスター解析(階層的)
発現量低
図36はあるバイオマーカーを利用し、代表的な肝
発現量高
臓障害物質のアセトアミノフェンと似たものに、どう
いうものがあるのかを調べることができる例です。
CFB Hi
WY Mid
WY Hi
BBr Mid
BBr Hi
CFB Mid
ASA Hi
GFZ Mid
GFZ Hi
図37は発がんに関係あるようなマーカーは、薬を
化合物に注目
遺伝子発現プロファイルの類似した
データをクラスター化することにより,
毒性類似化合物の分類(予測)
反復投与することでリスクが増加する、長期間投与し
た方が非常に感受性というか、感度がよくなるという
ようなことを示しています。
図37
図35
12
お茶の水学術サロン
それで、図38のように FDA の方で、こういうデ
例:薬剤起因性肝臓グルタチオン枯渇マーカーを
2.主成分分析
利用し、Acetaminophen型肝障害リスク評価
10
第10回
ータを受け入れるということをガイダンスとして出
Control
Acetaminophen
Bromobenzene
Acetaminophen
5
Clofibrate
Bromobenzene
Coumarin
Control
Methapyrilene
0
ラットとヒトの間は、非常に大きなギャップがある
Glibenclamide
Methapyrilene
Phenylbutazone
-5
わけですけれど、ここを何とか橋渡しして、外挿精度
Aspirin
Carbon tetrachloride
-10
しておられます。
Chlorpromazine
グルタチオン枯渇リスク増大
Coumarin
Hexachlorobenzene
-30
-20
-10
0
Perhexiline maleate
10
化合物の毒性学的エンドポイントを評価(予測)
Thioacetamide
図38
図36
例:がん原性評価マーカーの利用
Carcinogenic potential
反復投与による
リスク増大
リスク高
TAA(H)
MP(H)
MP(H)
います(図39)。
TAA(H)
TAA(H)
BBZ
MP(H)
MP(H)
ET
TAA(H)
TAA(H)
CMA
10
MP(H)
TAA(M)
5
CMA
OPZ
CMA
ET
TAA(M)
ET
MP(H)
TAA(M)
0
- ethionine
CMA
TAA(H)
TAA(H)
TAA
- thioacetamide
MP
- methapyrilene
20
-5
がありますが、これも意外と難しいのです。ヒトの細
胞を得ることは難しいので、一生懸命いろいろな技術
PAM Prediction Score = Log 10 [class probability (positive)/class probability (negative)]
15
デアとしては、細胞レベルで比較していこうというの
を使って、安全性評価の精度を上げていく努力をして
3.判別分析
25
を向上していこうということを行なっています。アイ
- coumarin
TAA(M)
ET
ET
ET
WY
リスク小
3h
6h
9h
24 h
8 D 15 D 29 D
4D
Single dosing
Time point
Repeated dosing
構築した判別器により化合物の毒性学的エンドポイントを評価(予測)
図39
図37
2005年3月FDAより公示
ゲノミクスデータの提出に関するガイダンス
図40
図38
ラット
ヒト
外挿精度の向上
科学レベル向上と
種差の克服
10
W Y-2 9D
1A1
1A2
1B1
2A1
2A1
2B15
2B21
2C2 3
2C3 7
2C4 0
2C7
2C7 0
2C1 3
2D1 3
2D2 2
2D2 2
2D2 6
2D9
2E1
2F2
2J4
2J9
2S1
3A1 1
3A1 3
4A1 0
4A1 2
4A1 2
4A1 4
4A1 4
4B1
4F2
4F4
4F5
4F6
2A1
2G1
3A3
2A3
2C
2B3
P-450PCN
Knowledge base
WY-08 D
30
WY-15D
5
Bromobenzene
BBr- 15D
WY-0 4D
BBr-29D
20
G FZ- 15D
0
BBr-04 D
CFB-15D
Database
WY- 24H
G FZ- 29D
CFB-04D
CFB-29D
GFZ- 08D
WY- 06H
BBr-24 H
G FZ-2 4HASA-29D
BBr-0 9H
Control
Coumarin
BBr-0 8D
CFB-0 8D
CFB-2 4H
WY-09 H
10
GFZ-04D
AM-15D
AM-29 D
MP- 15D
TAA- 29D
MP-29 D
0
SS-29 D
PhB-2 9D
OPZ-08 D
DZP-15D CBZ- 29D
PB- 15D
Acetaminophen
TAA- 15D
Methapyrilene
PB-29 D
-30
HCB-15D
BBZ-15 D
PTU-1 5D
OPZ- 29D
PTU-2 9D
OPZ- 15D
-20
-10
0
10
MP- 08D
SS-15D
-10
016-RD 01-24.. . 044-RD 01 -24H . . 063-R D01-24H... 038- RD 01-24H ... 036-RD 01-24H... 03 2-R D0 1-24H . . 030-RD 01-24 H... 031 -R D01-24H... 029-RD 01- 24H ... 0 13-R D01-24H... 028-R D 01-2 4...
4
3
2
1
0
-15
-24
3
2
1
0
-1
-2
Rat
300 μM
>
Human
0. 3
3 00 μM
A
B
C D eE F
Gene
Gene GeneGeneGen Gene
Rat
Rat
DDIT4L
HSPA 1A/1B
3000 μM
DDIT 4L
YRDC
YRDC
1 25 μM
NQO1
≒
Number of Genes
0.25
Human
Human
GSR
GCLC
125 μM
HSPA1A/1B
349
348
348
347
346
343
337
327
312
288
253
221
191
166
138
112
92
79
65
51
38
27
21
17
12
8
8
5
2
0
5
4
3
2
1
0
-1
5
-2
Erro r Rate
Fol d Indu ct ion
Fol d In duction
Acetaminophen
F old I nduction
PCA 1
Coumarin
Nitrofurantoin
動物数の削減
NQO1
Cross-val idati on
0. 2
Training
0.15
0. 1
Threshold=4.00114
0.05
GSR
GCLC
0
5000 μM
0
1
2
3
4
5
6
7
8
Threshold
PAM Prediction Score = Log 10 [class probability (positive)/class probability (negative)]
TAA( H)
25
Positive
MP(H)
MP( H)
TAA(H)
BBZ
MP( H)
15
2500
TAA(H )
10
ET: ethionine
TAA( H)
MP(H)
TAA(M)
TAA(H)
150 0
TAA( H)
5
OPZ
1000
CMA
middle
low
2
c ont
CMA
TAA( M)
ET
ET
MP(H )
0
500
ヒト組織の活用
MP( H)
TAA(H)
CMA
2000
24
8
high
TAA:
thioacetamide
MP:
methapyrilene
20
2 000
1800
16 00
14 00
1200
1 000
800
600
400
200
0
TAA(M)
TAA(M)
ET
ET
CMA:
coumarin
ET
WY
24
8
0
high
middle
l ow
2
-5
Negative
cont
Time cord
分子メカニズムの理解
ラット肝細胞
医薬品のヒトにおける
安全性評価精度向上
ヒト肝細胞
図41
図39
13
お茶の水学術サロン
第10回
(6)ファーマコゲノミクス-遺伝子の個人差に
基づく治療
次にファーマコゲノミクスの話をします(図40)
。
I.
国立医薬品食品衛生研究所紹介
II.
医薬品の安全性
トキシコゲノミクス (種差)
ファーマコゲノミクス (個人差)
1 月 9 日の日経に、日本人の患者さんの場合は 10%
で「イリノテカン(irinotecan)の副作用の懸念があ
る」という記事がありました(図41)。
「国立医薬品
食品衛生研究所など」と書いてありますけれど、これ
III. 食品の安全性
は国立科学センターと共同研究で、どのような患者さ
んに副作用が出るかということを解析しました。後で
見せますが、
「*(スター)6」とか「*28」とかいう
図42
図40
遺伝子のタイプを持つ人に出やすいということが判
り、オーダーメード医療、
「Personalized Medicine」、
つまり特に効く人にだけ使うことができるようにな
ります。
平成18年
1月9日
朝刊
*
図42が実際のデータで、イリノテカン CPT-11 は
代謝されて、SN-38 という活性体になり、それが「グ
ルクロン酸転移酵素(UGT1A1)」によりさらに代謝
(* 国立がんセンターとの共同研究)
を受け、最終的には排泄されていくわけですが、この
「グルクロン酸転移酵素(UGT1A1)」の遺伝子には、
図43
図41
「*28」と「*6」という変異遺伝子の存在が判って
イリノテカンの副作用に関する遺伝子多型
います。はじめに判ったのは「*28」ですが、欧米人
グルクロン酸転移酵素(UGT1A1)
遺伝子の
の*28と
グルクロン酸転移酵素(UGT1A1)遺伝子
28と*6型
Irinotecan (CPT-11)
(prodrug)
ではこの変異を持つ人が多いので、これを調べるだけ
CES2
*1
SN-38
(active)
*1
* *60
きます。アフリカ系の人も「*28」が多いのですが、
*60
*28
*
*6
UGT1A1
wild-type
でかなり感度良く副作用のリスクを減らすことがで
*1
*28 [(TA)7TAA]
*6 (Gly71Arg)
*60
*28
*28
日本人
欧米人
日本人はどうもこれだけでは不足で、もう一つ、今回
アフリカ人
の研究で「*6」という変異をも加えて、この 2 つを
副作用に関係する遺伝子型: *6, *28
日本人には、*6が多い
SN-38G
(inactive)
*28/*28, *28/*6, *6/*6の組み合わせの遺伝子型を持
つ患者さん (約10%)
→ 重篤な副作用; 下痢、 白血球数減少
組み合わせると、10%の患者さんで、重篤な副作用、
下痢とか吐き気という現象が出る可能性が高いこと
図44
図42
が判ります。他のデータを見ても、日本人・中国人・
ゲムシタビンの副作用に関する
遺伝子多型
ゲムシタビンの副作用に関する遺伝子多型
シチジンデアミナーゼ(CDA)
遺伝子の*
*3型
シチジンデアミナーゼ(CDA)遺伝子の
Gemcitabine
ゲムシタビン血漿濃度 (µg/ml)
50
CDA
不活性化
40
30
重篤な副作用
dFdU
韓国人では非常に多い遺伝子型であります。ですから、
人種差というのはある程度存在するということがは
っきりしています。
それから、別の薬についてですけれど、これも、シ
Ala70Thr (*3)
*3/*3
20
チジンデアミナーゼ(CDA)の遺伝子の、これは「*
*1/*1
10
副作用なし
CDA Gene
0
0
1
2
Time (h)
3
4
5
*3/*3
日本人で、約700人に1人
欧米人には、なし
アフリカ人で、約65人に1人
図45
図43
3」というものですが、この場合は血中濃度が非常に
上がりやすい。つまり効き過ぎてしまうということか
ら、副作用が出てくる人の遺伝子型が「*3」のタイ
14
お茶の水学術サロン
第10回
プということが分かってきました。これは事前に知る
ことができるので、この人は用量を減らすべきである
ということが分かってきたのです。ただし、日本人で
この遺伝子型を持っている人は 700 人に1人位なの
です。欧米人にはありません。それからアフリカ人だ
と、この 10 分の 1、65 人に 1 人ということでして、
副作用が非常に低い確率のところまで追える時代に
なってきたということであります(図43)。
Ⅲ.食品の安全性
I.
国立医薬品食品衛生研究所紹介
II.
医薬品の安全性
(1)食品安全を守るネットワーク
次に、食品の方の話に入ります。ポジティブリスト
制とバイオテクノロジー応用を中心にお話しします
III. 食品の安全性
ポジティブリスト制
バイオテクノロジー応用食品
が(図44)、まず、図45は食品安全委員会が調べ
た「食の安全性に関する意識調査」という、2 年位前
のものですけれど、皆どういうものに関心があるかと
いうと、農薬ですね。それから添加物や遺伝子組換え
図46
図44
食品です。特に添加物とか農薬に対しては非常にナー
食物の安全性の観点からより不安を感じているもの
0.0%
10.0%
20.0%
30.0%
40.0%
50.0%
60.0%
農薬
添加物
汚染物質
80.0%
49.0%
48.6%
46.8%
遺伝子組換え食品
いわゆる健康食品
微生物
器具・容器包装
ウィルス
放射線照射
新開発食品
動物用医薬品
肥料
異物混入
その他
すね。プリオン(prion:感染性蛋白粒子の略語)も
それほど強い懸念を持っていないですね。実際、事故
35.4%
34.3%
34.3%
29.7%
27.3%
26.4%
23.5%
23.3%
カビ毒・自然毒
バスになっています。それで、組換え食品は今一つで
問題ですが、意外とウイルスとかカビ毒・自然毒には
45.1%
42.6%
飼料
プリオン
無回答
70.0%
67.7%
66.4%
64.4%
60.7%
輸入食品
が多いのは、このウイルスとかカビ毒ですが。皆さん、
やはり食にはいろいろ懸念があるということです。
12.3%
図46は、国立衛研の仕事の中で食品安全のネット
0.4%
食品安全モニター・アンケート調査「食の安全性に関する意識調査」(食品安全委員会:平成15年9月)より抜粋
ワークにおける国立衛研の役割だけを書いたもので
図47
図45
すけれど、最初の図(図6)と基本的にはそう変わりま
食品安全のネットワークにおける国立医薬品食品衛生研究所の役割
農林水産省
食品安全
委員会
国民の健康と生活環境維持向上
検疫所
厚生労働省
保健所
厚生科学課・医薬食品局・食品安全部
地方衛生研
行政報告
試験法・検査法
等の研究報告
専門調査会参加
大学・研究機関
研究交流・
共同研究
コーデックス委員会
(FAO/WHO合同
食品規格委員会)
OECD
国際学会 等
特別行政試験依頼
各種審議会参画
厚生労働科学
研究事業等
国立医薬品食品
衛生研究所
国際活動
食品分野
技術指導・交流
図48
図46
保健所が主ですね。それから大学・研究機関があって、
あと国際機関があります。国立衛研の方は、食品分野
と、生物系の試験をするところと、情報関連分野があ
官民共同研究
試験研究
業務
生物系分野
(安全性生物試
験センター等)
せん。厚生労働省と食品安全委員会、それと検疫所、
ります。それで、必要に応じて農林水産省の食総研(食
品総合研究所)などと共同研究を行っています。
情報関連分野
それで、食品分野は汚染物質実験室や食品部などい
ろいろありますけれど、汚染物質、残留農薬とかダイ
オキシンとか重金属とかいろいろなことを扱ってい
15
お茶の水学術サロン
国立衛研・食品部門 (1)
理化学分野(分析・検知法の開発)
食品部
汚染物質 : 残留農薬、残留動物薬、ダイオキシン、重金属
食品成分 : 遺伝子組換え食品、アレルギー物質
健康食品、アクリルアミド、自然毒、照射食品
食品添加物部
合成添加物、天然添加物、器具・容器包装
安全性生物試験センター(毒性部、病理部、薬理部)
安全情報部
図49
図47
国立衛研・食品部門 (2)
第10回
ます。それから食品成分に関するところは、遺伝子組
換え食品、アレルギー物質などを扱っています。例え
ば、アクリルアミドという発ガン物質が、数年前に問
題になりましたが、ポテトチップスを作るときにでき
てしまうのです。このように台所で料理を作る時にも、
発ガン物質ができることがあります。ただ、どういう
条件だとアクリルアミドができるかということが分
かっていますので、多分各企業はいろいろ工夫されて
いると思います。添加物も、今かなり大きな問題です
が、その毒性試験を行う部門と、安全情報を扱う部門
などがあります(図47)
。
微生物分野
また、微生物分野として、病原微生物のリスク評価
食品衛生管理部
病原微生物のリスク評価、魚介毒
総合工程管理製造過程(HACCP)
衛生微生物部
細菌性食中毒、カビ毒
図50
図48
や総合工程管理製造過程(HACCP)を扱う食品衛生
管理部と細菌性食中毒やカビ毒を扱う衛生微生物部
があります(図48)
。
(2)ポジティブリスト制-農薬の例
それで、最近の話題はポジティブリスト制という、
食品中に残留する農薬等*へのポジティブリスト制の導入
(2006年5月施行予定)
*農薬、飼料添加物、動物薬
ポジティブリスト:原則規制(禁止)。
使用を認めるものについてリスト化
⇔ 従来は規制するものについてリスト化
これは、食品中に残っている農薬、それから飼料添加
物や動物用医薬品などに適用されます。ポジティブリ
スト制というのは聞き慣れない言葉だと思いますけ
れど、要するに、使用を認めるものについてリスト化
するということです。医薬品と同じように、使うもの
・食料輸入大国日本
・世界使用されている農薬:700~1000種類
⇒地方衛生研究所全国協議会・理化学部、全国衛生化学技術協議会と連携
については予め登録をして許可を取っていくという
ことになったわけです。いろいろな背景がありますけ
図51
図49
れど、日本はとにかく世界からいろいろ輸入しており
ますので、これでポジティブ法を確立したりすること
で、地方の衛生研究所と一緒に、我々は、かなりこの
【これまでの規制】
3 年間忙しく働いてまいりました(図49)
。
農薬、動物用医薬品及び飼料添加物
食品の成分に係る規格(残留
基準)が定められているもの
食品の成分に係る規格(残留
基準)が定められていないもの
250農薬、33動物用医薬品等に
残留基準を設定
従来の規制で問題になっていたのは、農薬など規格
がないものについては、残留していても流通を規制す
ることができないことでした。ある人たちが測ると残
留しているとわかるのに、例えば中国から輸入した食
残留基準を超えて農薬等が残留
する食品の流通を禁止
農薬等が残留していても
基本的に流通の規制なし
品などに農薬が残留しているにもかかわらず流通し
てしまうのです。それで、これは困るという意見があ
図52
図50
りまして、逆にしようということになりました(図5
0)
。
16
お茶の水学術サロン
第10回
このように使っていい物だけのリストに切り替え
ようということが、この 3 年で行われました。非常に
【ボジティブリスト制への移行後】
農薬、動物用医薬品及び飼料添加物
食品の成分に係る規格(残留
基準)が定められているもの
799農薬等
食品の成分に係る規格
(残留基準)が定められ
ていないもの
ボジティブリスト制の施行まで
に、現行法第7条第1項に基づ
き、農薬取締法に基づく基準、
国際基準、欧米の基準等を踏
まえた暫定的な基準を設定
厚生労働大臣が
指定する物質
大変な作業で、まだ続いておりますが、とても全部終
わるまで待てないので、一気にやってしまおうという
人の健康を損なう
おそれのないことが
明らかであるもの
(特定農薬等65物質)
人の健康を損なう
おそれのない量と
して厚生労働大臣
が一定量を告示
(一律基準:0.01ppm)
登録と同時の残留基準設定
など、残留基準の設定の促進
ことで、かなりの数を猛烈な勢いで決めました。それ
でもまだ間に合わないので、規格が定められたものは
いいのですけれど、そうではないものは、欧米の基準、
残留基準を超えて農薬等が
残留する食品の流通を禁止
ポジティブリスト制の
対象外
一定量を超えて農薬等が
残留する食品の流通を禁止
国際基準をどんどん入れて、取りあえず暫定基準をつ
くりました。それから、新しいものでデータがないの
図53
図51
はどうするかということですけれど、それは、ある一
定量で切ってしまおう、
「0.01ppm まで、それを超え
てはいけない」ということにしました。そういう、か
(ポジティブリスト制施行後)
農
残留基準値
1 7 4 項 目
米
薬
等
7
9
農薬A
農薬B
農薬C
農薬D
0.5ppm
5.0ppm
1.0ppm
3.0ppm
1.5ppm
2.5ppm
9
農薬E
小麦
1.0ppm
ばれいしょ
1.0ppm
5.0ppm
2.0ppm
はくさい
0.5ppm
2.0ppm
0.5ppm
3.0ppm
みかん
0.5ppm
1.0ppm
3.0ppm
りんご
0.5ppm
2.0ppm
2.0ppm
ぶどう
1.0ppm
0.5ppm
2.0ppm
3.0ppm
1.0ppm
:現行基準
:暫定基準を設定するもの
すべての農薬/食品に基準
:一律基準が適用されるもの
農薬F
なりドラスチック(drastic:強烈、徹底的)な決断を
いたしました(図51)
。
ポジティブリスト制の問題は、例えば農薬一つにつ
いても、米とか白菜とかミカンとか、ホウレンソウと
か、全部で 174 位ありますけれど、全部について決め
なくてはいけないということで、とんでもない作業で
す。それで、例えば図52のように米についてはデー
図54
図52
タがあるけど、白菜についてはないとか、ミカンにつ
いて、こういうのをどうするかというのは、穴がポツ
ポツ空いているので、取りあえずデータがあるものに
ついては暫定基準をどんどん決めることにしました。
データがないものは、もう一律基準ということで、一
気に決めました。これも実はいろいろ問題があります
が、厳しい方に設定した方がいいだろうということで、
だいたいヨーロッパ並みにしています。アメリカの方
が少し緩いというふうに言われます。
食品添加物の用途別分類
1
2
3
4
5
6
7
8
9
甘味料
着色料
保存料
増粘安定剤
酸化防止剤
発色剤
漂白剤
防かび剤又は防ばい剤
乳化剤
10
11
12
13
14
15
16
17
18
膨脹剤
調味料
酸味料
苦味料
光沢剤
ガムベース
栄養強化剤
製造用剤等
香料
(3)食品添加物では
そういうわけですけれど、食品添加物については、
皆さん、いろいろ心配される方が多いと思いますが、
添加物というのは用途が多くあります。香りとか、光
沢とかですね。それと、色を付ける、甘みを付ける、
保存料にしたりですね。それに、カビが生えないよう
にするとか(図53)。それから、要するに工程の途
図55
図53
中で役に立つようなものを入れるのですが、多種多様
17
お茶の水学術サロン
第10回
でして、これはもうない方がいいという人もいますけ
れど、これを上手に使うと、非常に安全でおいしいも
のができるということになりますので、そう怖がらな
いで、きちんとルールをつくって使いたいということ
であります。
食品添加物の分類
天然添加物
合成添加物
指定添加物
(357品目)
↓
指定要件により、
化学的・生物学的
に安全性が確認
されている
天然香料
既存添加物
(450品目)
平成7年、食経験を基に
指定制度の例外として
安全性確認と品質規格
設定なしで認めたもの
↓
その後、安全性確認
生物学的:ほぼ確認済み
化学的:約30%規格設定
一般飲食物
添加物
一般に食品として
飲食に供される
物であって
添加物として
使用されるもの
合成添加物というのは、これは後で言いますが、薬
並みの安全性が確認されているわけです。その添加物
の中には、天然物がありまして、安全性はほぼ大丈夫
だろうと判断しています。我々の生物試験センターの
センター長の井上(井上 達)先生、トキシコロジス
トですけれど、彼などが一生懸命研究しておりまして、
だいたい安全性は大丈夫だということを発言してい
図56
図54
ます。ただ化学的な規格に関しては、天然のものです
食品添加物の安全性の確保
し、混ざりものでもあるから、そう簡単には決まらな
いのですけれど、安全性に関してはかなり保証してい
生物学的安全性
28日間反復投与毒性試験
90日間反復投与毒性試験
1年間反復投与毒性試験
繁殖試験
催奇形性試験
発がん性試験
抗原性試験
遺伝毒性試験
一般薬理試験
体内動態
化学的安全性
有効成分、不純物、有害物質等を化学的に規定
することにより、一定の品質を保証
ました(図54)。
それで、どの位添加物について安全性試験をしてい
るかということですけれど、これは、我々が普通に作
った、時代に要求されている薬の安全性試験とほとん
ど同じです。ですから、少なくとも動物試験に関して
は医薬品並みのことが要求される、それから、品質に
図57
図55
ついても、きちんとした規定ができているということ
であります(図55)
。
今度は、どこまでの量を認めるかということなので
一日摂取許容量(ADI*)の設定
( *人が生涯にわたって毎日摂取し続けても、健康に影響をおよぼさない量)
無毒性量(No-Observed Adverse Effect Level, NOAEL):
動物実験で有害な作用を示さない量
一日摂取許容量(Acceptable Daily Intake, ADI)
= 動物実験から得られた無毒性量(NOAEL) ÷ 安全係数(通常は100 )
安全係数100 = 動物とヒトとの違い(種差)10 × ヒトにおける個人的な差(個体差)10
無毒性量
毒性の強さ
無毒性量
試験物質の投与量
図58
図56
すけれど、動物実験では有害な作用を示さない量とい
うものを「無毒性量」といいます。図 58 の用量作用
曲線では、この毒性が出ない投与量を無毒性量と呼ん
でいます。それに、種差と個人差がありますので、そ
れぞれ、10 倍ずつ安全係数を見て、100 という数字を
一日摂取許容量
掛けて、100 分の 1 量のところに線を引くということ
使用基準量 (使用量上限)
です。別の言い方をすると、無毒性量の中の、それの
100 分の 1 に相当する量を、1 日摂取量とします。生
涯にわたって毎日食べても大丈夫という量が一日摂
取許容量(ADI:Acceptable Daily Intake)というこ
とです。使用基準は、さらにこれの何分の 1 かという
ことですので、薬と違って、それ自体について副作用
の出ない量を設定しております(図56)
。
18
お茶の水学術サロン
第10回
(4)トータルダイエット調査
それからもう一つ、我々のところで、地味な仕事で
食品汚染物の一日摂取量調査(トータルダイエット調査)
すけど、トータルダイエット調査を行っています。こ
・国立衛研と地方衛研の共同調査(2004年度は計9機関)
れは、国立衛研と、地方衛研の 9 機関が一緒になって
・1977年からGlobal Environmental Monitoring System(GEMS)
の一環として継続的に実施
行っていまして、どういうことを行っているかという
・農薬等15化合物と重金属7種を対象
(HCH類4種、DDT類4種、有機リン系農薬3種、有機塩素系
農薬3種、PCB、Pb、Cd、総Hg、総As、Cu、Mn、Zn)
と、1977 年から毎年、ほぼ同じ物について、例えば
・マーケットバスケット方式
鉛とか、カドミウムのようないろいろな重金属、それ
・98食品を地域別摂取量(国民栄養調査)に従い13食品群に
混合及び飲料水(計14群)
から DDT とか有機リン系などいろいろな農薬を対象
・要調理食品は調理後に混合
に、調査しています。測定した後のサンプルを凍結保
存していますので、何か問題が起これば、調べ直すこ
図59
図57
とができるようになっています。サンプルの食品はス
ーパーマーケットで購入しますが、何を買って来るか
カドミウム摂取量年次推移
は、それぞれの機関によって決めています。それを毎
摂取量 (μg/人/日)
100
年行っているということで、地味な仕事ですけれど、
80
PTWI = 7μg/kg/週
= 50μg/人/日
非常に大事であります(図57)
。
60
40
例えばカドミウムというのは、1978 年ごろから継
20
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
1988
1986
1984
1982
1980
1977-78
0
続して測定されています。それほど極端に増えている
ことはありません。要は無害ということです(図58)
。
年
ではカドミウムが、どこから入ってくるかというと、
図60
図58
米が多く、野菜海草も多いです(図59)。もっとも
この量も国際基準からは問題がないという量であり
カドミウム群別摂取割合
ます。それから、カドミウム自体の毒性は、例えば腎
毒性についていえば、亜鉛と拮抗する、亜鉛の作用を
Ⅹ 魚介
Ⅹ 魚介
抑えるというのが原因だというふうに毒性学で言わ
Ⅷ 野菜・海草
Ⅷ 野菜・海草
Ⅰ 米
Ⅰ 米
Ⅶ 有色野菜
Ⅴ 豆・豆加工
品
Ⅶ 有色野菜
Ⅴ 豆・豆加工
品
れています。
Ⅱ 雑穀・芋
(5)バイオテクノロジー応用食品のメリット
Ⅱ 雑穀・芋
1983年
2003年
図61
図59
バイオテクノロジー応用食品
1.遺伝子組換え(Genetically modified, GM)(組換えDNA)食品
---品種改良を目的としたバイオテクノロジー
現在、組換え体そのものを食する生産物では、
組換え体が種子植物の場合に安全性審査が適用される。
2.クローン技術を応用した食品
受精卵クローン牛--特別な取り扱いは義務付けられていない。
体細胞クローン牛—食品としての安全性が損なわれることは考えにくい
と報告されている。
⇒ 生産者のメリット
減農薬・環境負荷の軽減
図62
図60
次はバイオテクノロジー応用食品ですが、これは
少々いろいろな問題がある可能性が強い。種子植物の
場合、安全性審査をして OK をもらうということであ
りますが、現在のところ、生産者側のメリットは非常
にはっきりしています。例えば農薬量を減らすことが
でき、環境にも負荷をかけないというメリットがあり
ます。それから賞味期間が長くなる作物から始まって、
最近いろいろなものが出ていますが、除草剤に対して
耐性を示すもの、それと害虫に抵抗性を示すものの 2
つが主であります(図60)。
19
お茶の水学術サロン
第10回
日本で使用されている遺伝子組換え(GM)食品で
国内で使用されているGM食品の種類
すが、実際は飼料としてかなり使われています。次は
食用油で、大豆油、菜種油、綿実油としては、ある程
度使われています。また味噌、醤油などの食品用に随
図64
図61
分使われているとは思います(図61)。
除草剤耐性大豆
図62で示す大豆ですが、見かけでは従来のものと
区別はつきません。従来の大豆では、農薬を 4 回散布
しますが、遺伝子組換え大豆は 2 回で済みます(図6
GM大豆の確認法 --- 導入タンパク質;ELISA法、導入DNA:PCR法
3)
。
図65
図62
遺伝子組換え技術によって作物に導入されている
従来大豆
の品種
蛋白質の種類は非常に限られていまして、例えば害虫
毒素で、これは、従来は外から作物に散布していたの
遺伝子組換え
大豆品種
ですけれど、これを遺伝子組換えで作物自身に作らせ
図66
図63
遺伝子組換え技術により作物に導入されている主な蛋白質
導入蛋白質
てしまうのです。次に、除草剤耐性というのは、除草
遺伝子組換え作物
バチルス菌害虫毒素 (Cry3A)
じゃがいも
バチルス菌害虫毒素(Cry1Ab)
バチルス菌害虫毒素(Cry1Ab)
とうもろこし
バチルス菌害虫毒素(Cry1Ac)
バチルス菌害虫毒素(Cry1Ac)
わた
除草剤グリホサート耐性(CP4
除草剤グリホサート耐性(CP4--EPSPS)
大豆、わた、
とうもろこし、なたね
除草剤グルコシネート耐性(PAT)
除草剤グルコシネート耐性(PAT)
とうもろこし、なたね、てんさい
除草剤ブロモキシル耐性(BXN)
除草剤ブロモキシル耐性(BXN)
わた
剤に対して一種の解毒作用を持っていて、自分はその
除草剤では枯れなくすることです(図64)。
例えば、アワメイガという害虫は、トウモロコシの
図67
図64
中に入りこんで生きているので、外から殺虫剤を散布
害虫抵抗性
トウモロコシ
特長:
・アワノメイガ防除のための
薬剤散布がほぼ不要
・増収(平均約7%)
左:組換えトウモロコシ
右:非組換えトウモロコシ
図68
図65
してもなかなか死にません。しかし、遺伝子組換えし
たトウモロコシでは、アワメイガが食べると死ぬ毒素
をトウモロコシ自身が作り出すので、アワメイガの駆
除に効果があります(図65)
。
20
お茶の水学術サロン
第10回
それで、これは先程の選択毒性に戻りますが、バチ
Bt(バチルス菌)タンパク質の
安全性
Bt(バチルス菌)タンパク質の安全性
ルス菌タンパク質の安全性を説明します。人間の胃で
酸が出ますので、バチルスタンパクは分解され、影響
を受けないのですけれど、この害虫の方は、腸管の中
がアルカリ性のため、その毒素がむしろ活性化して害
食品科学広報センター提供
図69
図66
虫の腸管が障害され、死んでしまいます(図66)。こ
のバチルス菌は日本人が蚕で発見しましたが、ドイツ
GM表示の対象となりうる加工食品
1. 豆腐
2. 凍豆腐、湯葉、それに準ずる豆腐
加工品
3. 納豆
4. 豆乳
5. みそ
6. 大豆水煮
7. 大豆缶詰(瓶詰め)
8. 黄粉
9. 煎り大豆
10. 1~9を原料とする加工品
11. 大豆(調理用)を原料とする加工
品
12. 大豆粉末を原料とする加工品
13. 大豆タンパク質を原料とする加工
品
14. 枝豆を原料とする加工品
15. 大豆もやしを原料とする加工品
16. コーンスナック
18. ポップコーン
19. 冷凍トウモロコシ
20. トウモロコシ缶詰(瓶詰め)
21. コーンフラワーを原料とする加工品
22. コーングリッツを原料とする加工品
23. トウモロコシ(調理用)を原料とする
加工品
24. 16~20を原料とする加工品
25. 冷凍ジャガイモ
26. 乾燥ジャガイモ
27. ジャガイモデンプン
28. ポテトスナック
29. 25~28を原料とする加工品
30. ジャガイモ(調理用)を原料とする加
工品
31.アルファルファを原料とする加工品
図70
図67
人が後で名前を付けてきたので、残念ながらこの名前
になるのです。
GM 表示の対象になりうる加工食品は色々ありま
すが、実際に使われているのはあまりありません。あ
る種の納豆は、これが GM だということで売っている
商品もあります。ですが、あと実際は表面きって出て
遺伝子組換え作物等の研究・開発状況
いるのは、あまりありません(図67)。
<遺伝子組換え作物>
・耐病性・耐虫性、多収性 – 第一世代GM
作物
一世代GM作物
コメ、小麦(除草剤耐性)、かぼちゃ、キュウリ(ウィルス耐性)
とうもろこし(耐虫性、
スタック品種*)
とうもろこし(耐虫性、スタック品種
第一世代の GM 作物は、
「除草剤耐性」と「虫に対
[*複数の遺伝子の導入=
複数の遺伝子の導入=検査法が課題]
・食味、加工特性
トマト(日持ち向上)、イチゴ(甘み増強)
・機能性成分(栄養成分) – 第二世代
GM作物
作物
第二世代GM
大豆(高オレイン酸)、コメ(ビタミンA)、なたね(高ラウリル酸)
大豆(高オレイン酸)、コメ(ビタミンA)、なたね(高ラウリル酸)
・環境ストレス耐性(耐乾性、耐塩性)
・医薬品の製造
ワクチンを作る植物
する強さ」と両方の遺伝子を入れるというようなこと
が行われていて、その検査法が問題になっています。
<その他>
・遺伝子組換え微生物、遺伝子組換え魚
図71
図68
お米にビタミン A を入れようとかの、第二世代の GM
作物がありますが、あまりまだ実用化されていません
(図68)
。
21
お茶の水学術サロン
第10回
(6)GM作物の安全性
それで、この安全性の評価はどうするかということ
組換え食品の安全性評価
ですけど、食品として成分があまり変わってないとい
・植物としての特徴
元の植物との比較
元の植物との比較
(生殖特性(交雑性、雑草性)、
形態・栽培特性)
う、実質的同等性ということが一番大事です。そのほ
・食品としての成分比較
既存食品との比較
既存食品との比較
実質的同等性
(主要成分、微量成分、
機能成分、有害成分)
・導入遺伝子の情報
かに、本当の植物と比較するとか、遺伝子の情報をし
使用遺伝子の情報
(由来生物、塩基配列)
っかり取る。それともう一つ大事なのは、アレルゲン
・導入遺伝子産物(タンパク質)の評価
既知アレルゲン、毒性
タンパク質との類似性
(機能、アレルギー性、
有害性の評価)
性があるかどうかということを非常に重視して調べ
ます。特に我々のところでは、組換え蛋白質が既知の
図72
図69
アレルゲンとの類似性が非常に強いと、アレルゲン性
組換え食品のリスクで忘れてはいけないこと
が強いというふうに考えています(図69)。ポイン
・完全に安全な食品は存在しない。
・タンパク質は消化される: 「消化されやすさ」に注意
(例外:アレルゲン、毒性タンパク質)
・タンパク質に蓄積性はない
・タンパク質に蓄積性はない
(例外:プリオン(?)
)
(例外:プリオン(?))
トは消化されやすいかどうかですね。消化されてしま
うとアミノ酸になりますので、問題はありませんが、
・食品の慢性毒性試験の意味?
・食品の慢性毒性試験の意味?
中途半端だとアレルゲンになる可能性があります。そ
・アレルゲン
・スタック品種の問題
スタック品種の問題
こが一つの安全性評価のポイントです(図70)。
・これまで被害は出ていない
それから、組換えられた成分を見分ける方法は、結
図73
図70
構技術的な問題があります。タンパク質で見るやり方
検査法の開発
• 検査法
定性検査
安全性未審査のものを検査
定量検査
表示が適切か検査
(平成13
年4月からの表示義務化に対応)
(平成13年
(ELISA:Enzyme-Linked Immuno-sorbent Assay)
と 遺 伝 子 で 見 る や り 方 ( PCR:Polymerase Chain
Reaction)があって、組換えられた成分が入っている
許容混入率:5%
かどうか、あるいは、日本で許可していないものが入
技術: 主にPCR
とELISA
主にPCRと
(課題:スタック品種=複数遺伝子の問題)
• 国立医薬品食品衛生研究所を中心開発
(定量検査は、食品総合研究所等と共同開発)
図74
図71
ってこないかどうかを定性的に見る検査、それから、
どの位混ざっているかを調べる定量検査の 2 つの検
査法があります。定量的な検査法については、食総研
スタック品種の検知に関する研究
と我々が中心となってやっております(図71)。
従来のGM
トウモロコシ
図72のように、2つの遺伝子が導入されている
+
PCR法により内在性対照遺伝
子とGMトウモロコシ特異的遺
伝子のコピー数を定量し、GM
作物の混入率を算出。
1粒中に含まれる遺伝的形質は1つ
Stack GM
トウモロコシ
許容されるGMの混入率: 5%
[複数遺伝子の導入]
stack GM トウモロコシと、導入された遺伝子が1つ
の従来の GM トウモロコシが混入されている場合、今、
1粒中に含まれる遺伝的形質は「2つ以上」
Stackトウモロコシが含まれていた場合、粉末資料を用いて算出
される見かけ上の混入率は、真の混入率に比べ高めの値を示す。
1粒ずつのトウモロコシのGM検知法(PCR法)の開発(2品種終了)。
図75
図72
1 粒について、その遺伝子が 1 種類なのか 2 種類入っ
ているのかというのを検査する方法を我々は開発し
ております。幾つかは成功しております。
22
お茶の水学術サロン
第10回
それで、アレルゲン性に関する研究ですが、まず消
アレルギー性に関する研究
化性をインビトロで検討します。本当に消化されてし
(1) in vitro での消化性の検討
まえばアレルゲン性がなくなります。それから動物感
(2) 動物感作モデルに関する研究
作モデルを使う研究。それからアレルゲンのデータベ
(3)アレルゲンデータベースの構築
(3)アレルゲンデータベースの構築
ースを構築するとかということを行っています(図7
3)
。
図76
図73
例えば、ペプシンという胃の消化酵素で、組換え遺
伝子が作った蛋白質がきれいに消化されてしまえば、
問題はありません(図74)。
それから図75は我々のところで構築しているデ
ータベース(ADFS)ですが、世界的に見ても最も進
(PAT)
んだ良いデータベースで、時々バージョンアップして、
もうじきまたバージョンアップをする予定でありま
す。
図77
図74
新規タンパク質のアレルギー性予測法の検討
―アレルゲンデータベース(ADFS
)の構築―
アレルゲンデータベース(ADFS)の構築
(7)結局、個別の問題
検索条件
アレルゲン名
アミノ酸配列
そもそも開発するとき、一般的に安全性の認識があ
キーワード etc.
るものは検討しませんので、結局、安全性の問題とい
Allergen Database for
Food Safety(ADFS)
相同性比較
再検索
・ 相同性
・ エピトープ
・ 立体構造
etc.
結果出力
既存のデータベース
(GenBank等)
うのは個別の問題です。最近気に入っているのは、ト
ルストイのこの言葉ですね。「幸福な家庭は、すべて
互いに似通ったものであるが、不幸な家庭はどこもそ
図79
図75
の不幸の趣が異なっているものである」という言葉
(図76)が非常にいい、意味深長だなというふうに
「幸福な家庭はすべて互いに似かよったも
のであり、不幸な家庭はどこもその不幸の
おもむきが異なっているものである。」
―トルストイ―
「アンナ・カレーニナ」
(木村浩訳・新潮文庫)
最近は感じております。毒性や安全性に関しては、や
はりどうしても個別の問題が多いということになり
ます。以上で、今日のお話は終わります。
図80
図76
23
お茶の水学術サロン
第10回
質疑応答
質問者1: 動物を用いた医薬品の安全性評価についてお伺いしたいと思います。評価をする対
象物が、化学物質である場合とタンパク質である場合とでは、動物を用いた評価方
法が変わってくるのでしょうか。
長尾:
化学物質や薬の安全性の評価法は確立されています。どの位の量をどうするかとい
うのは一概にはいえません。タンパク質の場合、それは全然違ってきます。タンパ
ク質自体が化学的には遺伝子に影響しないはずなので、それは検査しても意味があ
りません。タンパク質それ自体で毒性が出るかといっても、結局経口投与したら消
化管内で分解され、アミノ酸になりますので、タンパク質自体の毒性を見るという
のは、あまり意味がありません。それから、注射の場合は、アレルギーの問題があ
り、かなり違います。それは、今、抗体医薬と言って、抗体つまりタンパク質を注
射しますので安全性の試験は、いわゆる普通の化学物質の薬とは違います。
質問者2: 殺菌と滅菌についてお伺いしたいと思います。例えば、薬品あるいは食品の包装紙
に対して、UV(紫外線)あるいは放射線を当てる方法が考えられるようですけれ
ども、我々のところでは今、パルスプラズマで滅菌とかを有効にできないかと一応
考えているのです。実際、例えば具体的に粉ミルクとか何かに問題が起きているの
かどうか、日本、あるいは国際的に問題になっていることがあり、世界的な動きが
あれば、具体的な例を教えていただければと思います。
長尾:
私自身は、それを聞いてないですけれど、私たちのところに専門家がいますので、
それは紹介できます。あとは、その人に直接聞いてもらった方がいいので、それは
ご紹介します。
質問者2: ありがとうございます。世界的にやはり問題になっているということはある、と思
ってよろしいでしょうか。
長尾:
それは分かりません。個別にはいろいろな動きがあると思いますが、専門の人にお
聞きしないと分かりません。その方が正確だと思います。紹介できますから、是非。
質問者3: 大変面白いお話をありがとうございます。私は、扱っているのが農薬だったもので
すから、ポジティブリスト制に関心がございますけれども、不勉強なので(笑)。
未承認の農薬が入ってくるというのは、いろいろ問題があって、いろいろな国でも、
インポートトレランス(輸入物残留基準)の問題とかいう形で、いろいろ問題が多
いところなのですけれども。ポジティブリスト制にすることのメリットと行政判断
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お茶の水学術サロン
第10回
としての実効性など、もし教えていただければ、有り難いです。
長尾:
基本的には、こういうルールと言われているものは、国際的に整合性があることに
しようということです。そして、ポジティブリスト制の方が整合性がいいだろうと
思います。検出方法が非常に進歩したので、ごく微量の農薬でも検出できます。グ
ラム単位で基準を決めると、もう「0」がたくさん付いてイライラします。このよ
うにマイクログラム単位だとか何だとか、どんどん単位が細かくなります。先進国
はポジティブリスト制にしていると思いますので、なるべく、アメリカとかヨーロ
ッパに合わせて、整合性を保つようにしています。
質問者3: 実効性というか、要するに使用を認めていない農薬が残留している作物が輸入され
て流通する可能性があるのか、お分かりになりますか。
長尾:
それは個別問題でいいと思うのですけれど、それは基準があるから、「超えていた
ら駄目」ということが言えるわけです。それで、基準がないと、輸入されてしまう
わけで、実効上は、多分コントロールしやすいわけです。ネガティブリスト制の一
番大きな問題は、基準が定められてないものが入ってきます。それに対して手の打
ちようがありません。だから、やはりポジティブリスト制だと、農薬が残留してい
ても、それは「この量以下だからいいです」だとか言えます。これまでの制度では、
非常に少ない量だけど残留しているのに野放しでいいのかという不安が出てきま
すが、それを規制することができないのです。
質問者4: 今のポジティブリストの場合ですが、0.01ppm はかなり厳しい数字のように思いま
すがこれは海外から入る農産物以外に、国産のものについても、それは結構引っ掛
かるだろうという予測というのはあるのですか。それはほとんど問題ないのでしょ
うか。
長尾:
実質的には一番の問題は、どういう状態でも、0.01 でも、正確に測れるかというの
が実は多少問題です。その値そのものは、いいとは思うのですけれど、やや厳しい
には厳しいのですが、ヨーロッパと同じにしたのですよ。アメリカは、もう少し高
めにしてあって、多少フレキシブル(柔軟)なのですけれど。フレキシブルという
のは、良いような悪いような(笑)
。日本はヨーロッパ並みにしたということです。
質問者5: PCB について 2 点ほど伺いたいのですが、
トキシコゲノミクスのプロジェクトで、
データベースが構築されてきているそうなのですが、そのデータベースが一般の研
究者もアクセスできるような環境になっていくのでしょうか。
長尾:
はい。5 年のプロジェクトがあって、その 3 年後に開示することになっています。
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お茶の水学術サロン
第10回
税金も使っていますので、そういうことになっています。それで、外国の企業など
は非常に興味を示していまして、多分世界で、今、現存している一番いいデータベ
ースです。ただ、どういう形で公開するかというのは、参加企業と相談しながら行
わないといけないのですけれど、非常に価値があるというふうに思います。我々と
しては、できるだけもう少し改良を続けて、今言われたように一般の研究者がアク
セスしても使えるような形に加工して公開した方がいいと思います。
質問者5: あともう 1 点が、そのデータ量に関してなんですが、今回全被検化合物が 150 とい
うことでお話しされたと思うのですが、今後、被検物質を増やす……データを充実
させていくというような動きはありますか。
長尾:
それは予算などの兼ね合いもあるのですけれど、だいたい 150 あれば、基本的なと
ころは OK です。必要なものは自分で足せばいいわけで、DNA チップそのものは
どんどん安くなるし、被検物質を増やすことはできるとは思います。ただ教科書的
なものについては一通り網羅したということで、これができれば、だいたい今まで
で実用的には問題ないと思っています。代表的な化合物のデータは出ると思ってい
ますので、非常に有用だと思っています。
質問者6: あまり科学的に十分な根拠なく、輸入規制をつくると、自由貿易に反するとして、
諸外国からいろいろ厳しく言われます。今も BSE 問題など、よく問題にされるこ
とがあるだろうと思いますが、先生の一般的なご意見で結構なんですが、日本の基
準というのは、先生がお話しになったような基準というのは、かなり世界的に厳し
いものになってしまうというのか、それとも十分科学的な根拠のある……という失
礼な聞き方ですが、自信を持って世界中に通用するようなものなのか、その辺の感
触を教えていただければと考えています。
長尾:
基本的には、ヨーロッパ系とアメリカで少し違ったりしますけれど、その範囲内で
整合性があります。コーデックス(CODEX:国際的な食品規格委員会)のような
委員会にも日本から代表が出ていますし、それから GM に関するコーデックスの委
員長は日本の吉倉先生なので、世界と対立しているということは全くありません。
質問者7: 複数の化学物質ですね、農薬とか添加物、こういうものが複数介在した場合のその
安全性、そういうのは、どれ位に考えておられるのでしょうか。
長尾:
作用点が共通の場合は、作用は足し算になると思いますけれど、普通は、目的が違
うものであれば、作用点も違いますので、個別になりますから、あまり関係ないと
思います。いろいろなものが少しずつ入っていても、完全に作用が増強することは
なくて、逆に打ち消しあうこともありますから、個別に、あの位厳しく決めておけ
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お茶の水学術サロン
第10回
ば、普通は全然問題ありません。要するに、100 倍と安全係数を非常に高くとって
いるので、薬のレベルからいくと全然問題はないというふうに思います。要するに
生体には、解毒作用がありますから、一生食べても、毎日食べてもいい量に決めて
います。薬の場合から考えると桁違いです。問題ないです。ただ最近の分析技術が
高度に発達していますので、極微量でも検出されます。ですから、安全性の懸念は、
感覚的な問題があると思います。
講師紹介
1965 年
東京大学薬学部 卒業
1967 年
東京大学大学院薬学系研究科修士課程 修了
1967 年
田辺製薬株式会社生物研究所
1989 年
東京大学薬学部教授(毒性薬理学講座)
1997 年
東京大学大学院薬学系研究科教授(薬効安全性学)
2001 年
国立医薬品食品衛生研究所副所長
2002 年
国立医薬品食品衛生研究所所長
東京大学名誉教授
〔受賞〕
日本薬学会技術賞(共同)「塩酸ジルチアゼム」
以上
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