2011/11/9 第 12 講 企業行動の理論 (5) 要素需要 貿易や技術

「初級ミクロ経済学 3」(宮澤和俊)
第 12 講
2011/11/9
企業行動の理論 (5) 要素需要
貿易や技術進歩により生産要素としてのモノの価格が低下する.生産要素
としてのヒトの価格-賃金率-は相対的に上昇する.ヒトへの需要が減る.
貿易や技術進歩は雇用に悪影響を及ぼす.
以上のストーリーは本当なのだろうか.今回は,生産要素としてのモノと
ヒトとの代替の関係を分析する.
(前回の復習)企業の費用最小化問題
min
z1 , z2
c = w1 z 1 + w2 z 2
subject to q = F (z1 , z2 )
(1)
最適化の条件は,
M RS21 =
w1
w2
q = F (z1 , z2 )
である.これを解くことにより,要素需要
z1∗ = z1 (w1 , w2 , q)
z2∗ = z2 (w1 , w2 , q)
が得られる.
1. 要素需要の一般的性質
要素価格がすべて t 倍になったとする(t > 0).このとき,要素需要は不
変である1 .
(証明)要素価格がすべて t 倍になったときの企業の費用最小化問題は,
min
z1 , z2
c = tw1 z1 + tw2 z2 = t(w1 z1 + w2 z2 )
subject to
q = F (z1 , z2 )
と定式化される.これは (1) の問題と同値.解も同じ.Q.E.D.
2. 価格効果
生産要素 1 の価格 w1 が一定のまま,生産要素 2 の価格 w2 が低下したとす
る(図 3.13).等費用線の傾きの絶対値 w1 /w2 が大きくなる.主体的均衡が
点 P から点 P 0 に移動する.z1∗ が減り,z2∗ が増える.要素代替が生じる.ヨ
コ軸の切片 c∗ /w1 が小さくなるので,費用が減少することが分かる.
1第
4 講資料の「実は企業もそう」のこと.
1
3. 要素代替の弾力性
生産要素 1 の相対価格 p = w1 /w2 が上昇すると,要素間の代替が生じ,要
素需要比 x∗ = z1∗ /z2∗ が低下する.相対価格の 1 %上昇により要素需要比が ε
%低下するとき,ε > 0 を要素代替の弾力性という.
dx∗
x∗
dp
p
ε=−
例題
=−
p dx∗
x∗ dp
(2)
次の生産関数のときの要素代替の弾力性を求めよ.
(1) コブ=ダグラス型 q = z11−a z2a
1
(2) CES 型 q = [(1 − a)z1b + az2b ] b
略解
(1) 費用最小化の条件 (M RS21 = w1 /w2 ) より,すべての q について,
w1
1 − a z2∗
=
a z1∗
w2
が成り立つ.z1∗ /z2∗ = x∗ , w1 /w2 = p とおくと,
x∗ =
1−a1
a p
であり,(2) 式より,
p dx∗
=1
x∗ dp
を得る.コブ=ダグラス型生産関数の要素代替の弾力性は 1 である.
ε=−
(2) 費用最小化条件より,すべての q について,
µ ¶1−b
w1
1 − a z2∗
=
∗
a
z1
w2
が成り立つ.z1∗ /z2∗ = x∗ , w1 /w2 = p とおくと,
¶ 1
µ
1 − a 1 1−b
∗
x =
a p
であり,(2) 式より,
p dx∗
1
=
(3)
∗
x dp
1−b
を得る.CES 型生産関数の要素代替の弾力性は 1/(1 − b) で一定である.
ε=−
4. 雇用への影響
(3) 式より,
1
ε
である.要素代替が起こりやすい産業ほど (ε の値が大きいほど),b の値が大
きい2 .貿易や技術進歩がどの程度雇用に影響するのかを調べるには,その産
業の技術パラメータ b を推計すればよい.
b=1−
講義資料
2ε
る.
http://www1.doshisha.ac.jp/˜kmiyazaw/
→ 0 のとき(b → −∞ のとき),CES 型関数はレオンチェフ型になることが知られてい
2