事情聴取における発問方法の効果(3)

事情聴取における発問方法の効果(3)
――発問方法と発話文字数の関連――
○山本渉太 1, 2・山元修一 3・渋谷友祐 4
(1 北海道大学大学院・2 北海道警察本部科学捜査研究所・3 宮崎県警察本部科学捜査研究所・4 鳥取県警察本部科学捜査研究所)
キーワード:事情聴取,発問方法,チャット
Effects of questioning styles on the forensic interview (3)
Shota YAMAMOTO1, 2, Shuichi YAMAMOTO3, Yusuke SHIBUYA4
(1Graduate School of Letters, Hokkaido Univ., 2Forensic Sci. Lab., Hokkaido Pref. Police H.Q.,
3Forensic Sci. Lab., Miyazaki Pref. Police H.Q., 4Forensic Sci. Lab., Tottori Pref. Police H.Q.)
Key Words: forensic interview, questioning styles, chat
目 的
捜査活動の中で被害者や目撃者から得られる情報は,事件
や事故の真相究明のために重要な役割を担っている。事情聴
取において被聴取者から正確な情報を多く得るためには,聴
取者の発問方法が大きな影響を与えることが,先行研究から
示されている(Orbach et al., 2000)
。日本において事情聴取
における発問方法の効果を検討した研究は数少ないが,仲
(2011)が被聴取者から得られる情報量について,発話文字
数を指標に詳細に検討している。その結果,応答に制約をか
けない発問が,被聴取者の発話文字数を多く引き出すことを
示した。しかしながら,仲(2011)では対面による発問方法
以外の要因が,被聴取者から得られる情報量に影響を与えて
いた可能性がある。そこで,本研究では発問方法の効果につ
いて,対面による変数の影響を排除して検討するために,チ
ャットのソフトウェアを用いた事情聴取場面を設定し,聴取
者の発問方法と被聴取者から得られる情報量の関連を検討し
た。本報告では,聴取者の発問方法と聴取者及び被聴取者の
発話文字数の関連を検討した結果を報告する。
方 法
【参加者】警察職員 66 名を聴取者,被聴取者に半数ずつ振
り分けた(男性 64 名,女性 2 名,23.2±3.2 歳)
。
【刺激】20 代の男女 6 名が登場する誕生日会の動画であった。
再生時間は 5 分 37 秒間で,CRT ディスプレイ上に呈示した。
【手続き】実験は個別に実施し,聴取者と被聴取者は全ての
手続きを対面することなく,別室で行った。被聴取者は刺激
を観察後,性格検査である NEO-FFI に回答し,その後に聴
取を受けた。聴取者は NEO-FFI に回答後,聴取を実施した。
聴取はパーソナルコンピュータでチャットのソフトウェアを
用いて行われ,聴取時間は 15 分以内にするように教示され
た。聴取後,両者はアンケートに回答した。なお,聴取者は
刺激の内容を知らされていなかった。
【コーディング】聴取者の発問を仲(2011)及び山本ら(2013)
に準拠して,誘いかけ(応答に制約をかけない発問)
,それか
ら質問(
「それから/他には」
等さらなる報告を求める発問),
手がかり質問(報告の詳細を掘り下げて問う発問),時間分割
(時間の分割を含む質問)
,WH 質問(八何を問う質問),YN
質問(被聴取者がすでに言及した内容について選択式やは
い・いいえでの回答を求める発問)
,暗示質問(被聴取者が言
及していない内容について選択式やはい・いいえでの回答を
求める発問)の 7 種類に分類した。なお,仲(2011)に倣い,
1 つの発話内に複数の発問が含まれる場合には,最後の発問
を分類の対象とした。刺激内容以外を問う発問は,分析から
除外した。また,聴取者の発問別の頻度と,聴取者と被聴取
者の発話の平均文字数を算出した。
結 果
聴取者の発問の頻度を表 1 に示す。時間分割は頻度が少な
かったため,以下の分析から除外した。発問別の聴取者と被
聴取者の発話の平均文字数を図 1 に示す。聴取者と被聴取者
の発話文字数の間に,線形の相関関係が認められた(r =.37)。
発問の種類を独立変数,聴取者の発話文字数を従属変数とし
て等分散を仮定しない一元配置分散分析を行ったところ,発
問 の 種 類 の 主 効 果 が 有 意 で あ っ た ( F (5, 38.04)= 6.99,
p <.01)。Games-Howell 法による多重比較を行ったところ,
YN 質問が,誘いかけ(p <.01, g =1.02)
,暗示質問(p <.01,
g =.99),WH 質問(p <.05, g =.72)よりも,手がかり質問
が,誘いかけ(p <.01, g =.85),暗示質問(p <.05, g =.72)
よりも聴取者の発話の文字数が多かった。被聴取者の発話文
字数を従属変数として同様の分析を行ったところ,発問の種
類の主効果が有意であり(F (5, 36.23)= 2.85, p <.05)
,手が
かり質問が暗示質問(p <.05, g =.83),誘いかけ(p <.05,
g =.72),WH 質問(p <.05, g =.85)よりも被聴取者から多
くの文字数を引き出していた。
表 1.聴取者の発問の頻度
発問
暗示
YN
WH
n
60
44
91
時間分割 手がかり それから 誘いかけ
2
39
5
25
図 1.発問別の聴取者と被聴取者の平均発話文字数
考 察
本研究では YN 質問や手がかり質問は聴取者の発話文字数
が多いこと,手がかり質問は聴取者の発話文字数だけでなく,
被聴取者からも多くの発話文字数を引き出すことが示された。
一方で,誘いかけは YN 質問よりも被聴取者から引き出す発
話文字数が少ない傾向があり(g =.31)
,仲(2011)と矛盾す
る結果が得られた。この差違は,チャットソフトウェアを用
いた聴取であったことに起因しているのかもしれない。また,
本報告では,時間分割は頻度が少なかったため分析から除外
したが,被聴取者から引き出された発話文字数(M=70.50)
が多く,標本サイズを大きくしてさらなる検討が必要である。