直島のアートを生かしたまちづくり

直島のアートを生かしたまちづくり
R07064
成行
指導教員 小坂
1.研究背景
香川県の直島では、アートを生かしたまちづくりが各
真基
宏
直島では、離島というハンデを負いながらも、現代アー
トを用いた島おこし・まちづくりを行っている。
種団体により近年進められている。2010 年 7 月 19 日か
直島の現代アートを用いたまちづくりは主に㈱ベネッ
ら 10 月 30 日までは、ベネッセコーポレーション社長や
セコーポレーションが、
「ベネッセアートサイトなおし
香川県等が主催となった瀬戸内国際芸術祭での舞台の一
ま」と称し手掛けてはいるが、住民による観光案内のボ
つとなるなど、
島全体で多くのイベントが行われており、
ランティア団体や、有名建築家による学校や役場などの
多くの観光客を迎えている。
建築物も有名であり、住民や行政も一丸となり島を活性
化させる動きとなっている。
表1 ベネッセコーポレーションの活動年表
図1 直島の施設分布
1-1.目的
本研究では、直島のアート活動による町おこしを基準
とし行政・事業者・住民の状態・活動内容を調査し、直
島のまちづくりに与えた影響と課題を検討する。
1-2.方法
(1) 歴史的背景やイベントなどの事業・直島町住宅
マスタープランを参考に、まちづくりの現状を
把握する。
(2) 現地観察調査と直島町役場ヘのヒアリング結果
をもとに詳しい現状を調査し、課題を抽出する。
年度
平成元年
(1989年)
平成2年
(1990年)
平成3年
(1991年)
平成4年
(1992年)
平成5年
(1993年)
平成6年
(1994年)
平成7年
(1995年)
平成8年
(1996年)
平成9年
(1997年)
平成10年
(1998年)
平成11年
(1999年)
平成12年
(2000年)
平成13年
(2001年)
平成14年
(2002年)
平成15年
(2003年)
平成16年
(2004年)
平成17年
(2005年)
平成18年
(2006年)
平成19年
(2007年)
平成20年
(2008年)
平成21年
(2009年)
ベネッセアートサイト
シーサイドパーク完成
観光客数(前年比)
人口(前年比)
世帯数(前年比)
43691 (97%)
4398
1585
46007 (105%)
4305 (97%)
1571 (99%)
49512 (107%)
4170 (96%)
1551 (98%)
46603 (94%)
4045 (97%)
1524 (98%)
47838 (102%)
3956 (97%)
1502 (98%)
44599 (93%)
3908 (98%)
1512 (100%)
43379 (97%)
3807 (97%)
1503 (99%)
43157 (99%)
3699 (97%)
1486 (98%)
46873 (108%)
3655 (98%)
1494 (100%)
59198 (126%)
3640 (99%)
1487 (99%)
106958 (180%)
3611 (99%)
1492 (100%)
169319 (158%)
3540 (98%)
1482 (99%)
3471 (98%)
1468 (99%)
3470 (99%)
1495 (101%)
3429 (98%)
1500 (100%)
3365 (98%)
1501 (100%)
11358
24088 (212%)
ベネッセハウス完成
36001 (149%)
44974 (124%)
ベネッセハウス別館完成
家プロジェクト「角屋」完成
家プロジェクト「南寺」完成
家プロジェクト「きんざ」完成
スタンダード展開催
家プロジェクト「護王神社」完成
地中美術館完成
ベネッセハウスパークオープン
190575 (112%)
直島スタンダード2展
アートと米の収穫祭
家プロジェクト「はいしゃ、石橋、碁会 285093 (149%)
場」オープン
犬島アートプロジェクト第1期完成
342591 (120%)
360087 (105%)
3.実地調査
3-1.直島町役場ヘのヒアリング結果
直島町のアート活動による現状を踏まえ、住民たちの
まちづくりに関する反応を調べるために直島町役場にイ
ンタビュー調査を実施した。
その結果を以下にまとめた。
(3) 地域活性化についての今後の課題を考察する。
メリット
2.直島町の現状
・民宿やカフェなどの飲食店が増えた。
本来、多くの離島ではインフラ整備の遅れなどの生活
・住民たちがガイドのボランティアや民宿の経営をし始
の不便さが原因で、現在、地方でも問題視されている高
めるなど、住民たちが積極的に観光客に対する行動を
齢化や過疎化がより顕著に表れている。しかし、現在の
起こすようになった。
デメリット
・島内の道が狭いにもかかわらず、観光客が多いので住
民たちが車で島を移動しにくくなってしまった。
・直島に宿泊する観光客も急増したため、住民たちが治
安に対しての不安を感じている。そのため以前よりも
防犯に気をかけなければいけなくなってしまった。
3-2.現地観察調査
図 4 タバコ屋の老舗
図 5 「直島のれんプロ
「上田たばこ店」
ジェクト」
本村地区では旧集落地の名残が
アート活動の島への影響を把握するために、宮ノ浦地
残った幅員の狭い道路が、町営
区・本村地区を中心に、アート活動を行ったことによっ
バスの巡回ルートとして利用さ
て「良くなった点」
、
「悪くなった点」を現地観察によっ
れている。しかし、長期休みの
て調査した。その結果を以下にまとめた。
期間は多くの観光客で混雑して
・宮ノ浦地区
いるため、バスや住民の乗用車
観光地化した影響の一つとし
図 6 本村地区の道路
の進行を妨害している。
て飲食店が数多くあることが見
この問題に対して、直島町の住民のボランティア団体
て取れる。それらの店舗は島の
による呼びかけや、イベント開催時には警備員の配置の
景観を損なわせないように、以
対策を行っていた。
前は生活していた家屋の一部を
4.考察
改装したもので、あまり目立た
図 2 2009 年に開店し
ない外観のものが多かった。
た飲食店「シナモン」
直島では離島独特の文化や景観を残しながら、現代美
術という新しい観点から開発が行われている。直島の開
一方でベネッセアートサイト
発は、ベネッセコーポレーションが主導になり行われた
なおしまのアート活動の一環と
ものが大きく、またその開発が住民に大きな影響を与え
して、宮ノ浦地区の旧集落地に
たといえる。
はそぐわない外観をした銭湯を
営業されている。この銭湯は地
域との共同で営業されているた
め、観光客だけでなく地域住民
観光客の推移からも、ベネッセコーポレーションの成
図 3 2009 年に開店し
た銭湯「I♥湯」
にも親しまれ利用されている。
果を見ることができるが、
・島外のアーティストも活動に参加し多くのメディアに
取り上げられていること。
2010 年に島内唯一のコン
・アート活動を住民が生活している地域で行えているこ
ビニ「サンクスなおしま店」が
と。
オープンしたが、アート作品と
・飲食店が増加していること。
いうわけでもないにもかかわら
・高齢化が進んでいるにもかかわらず住民たちもアート
ず観光客の人通りが多い場所に
活動を活発に行っていること。
立地しているため、観光客が期
図 4 2010 年に開店し
ということがわかり、住民の生活にも開発が浸透してい
待している宮之浦地区の景観を
たコンビニ
「サンクスな
るといえる。
乱している。
おしま店」
一方で、観光地化が進んだことによる問題も浮上して
いる。交通不便や犯罪への対策が必要になった。
・本村地区
この地区でも最近開店した飲食店や土産屋が多い。昔
直島が持つ独特の文化を自覚しそれを生かした対策と、
開発によっておこる問題を想定したうえで住民への連
から営業しているタバコ屋にも現代美術の土産が販売し
絡・補助が必要だと考えられる。
ていることや、
「直島のれんプロジェクト」という地域住
参考文献
民が主体してまちづくりの活動を行っていることから、
直島町役場「統計情報」
アート活動が以前から生活していた住民たちの生活に自
四国新聞「島人 20 世紀」
然に取り込まれていることがわかる。
ベネッセアートサイト直島 「歴史」