〔原 著〕 背髄くも膜下麻酔と脊髄くも膜下 膜外併用麻酔 どちらが帝王切開の術後経過に有用か?웬 林 泉웬웬 :帝王切開,術後疼痛,区域麻酔 Ke ywo r ds 要 王切開の麻酔は6割が産科医,残り4割を麻酔 旨 科医が担当し,9割以上で区域麻酔を主体に行 目的:現在,ほとんどの帝王切開は脊髄くも膜 われている웋 。麻酔科医が担当する場合,約7割 웗 下麻酔また は 脊 髄 く も 膜 下 で術後疼痛対策を 膜外併用麻酔 (combi neds pi nal e pi dur alane s t he s i a:CSEA) 用いた脊髄くも膜下 慮して 膜外カテーテルを 膜外併用麻酔で行われて で行われているが,術後経過に対する2つの方 いる。帝王切開後の疼痛対策は,早期離床,深 法の優劣に関しては議論の余地がある。 部静脈血栓症予防の他に,授乳や母児関係の構 方法:我々は脊髄くも膜下麻酔(S群:n=4 3 ) 築など産科に特有な課題にも影響する。今回, と CSEA (CSEA 群:n=4 7 )の2群間で,入院 麻酔方法の違いで帝王切開の術後経過に差があ 期間,授乳開始時間,歩行開始時間,術後鎮痛 るかどうかを調査した。 に関して調査した。術後鎮痛方法は,CSEA 群 でデスポーザブル 研 究 目 的 膜外注入器を用いた以外は 同様とした。 脊髄くも膜下麻酔(以下 脊麻:S群)と脊髄 結果:CSEA 群は S群よりも術後鎮痛の程度, くも膜下 鎮痛薬 群)の2種類の麻酔方法で,帝王切開後の経過 用回数の面で優れていた。しかし,入 院期間,授乳開始時間,歩行開始時間に両群で 対 象 と 方 法 結論:CSEA は脊髄くも膜下麻酔よりも術後 で両群間に差はなかった。その理由は,現在の 術後管理が,いわゆるクリニカルパスの下で行 われているためと えられた。 背 景 麻:CSEA に差があるかどうか検討した。 差はなかった。 鎮痛では非常に有用であったが,他の調査項目 膜外併麻酔(以下 脊 調査期間:麻酔科医が赴任した 200 8年4月か ら2 0 09年 1 0月までの 1 8ヶ月間。 対象:麻酔科で管理した緊急手術を含む連続し た 帝 王 切 開 90例(S群 4 3例,CSEA 群 47 例) 。 調査方法:入院カルテの後ろ向き調査。 現在,日本の出産件数は年間約 1 00万人,そ 調査項目:入院期間,授乳開始時間,離床まで のうち 20万人が帝王切開術で生まれている。 帝 の時間,翌朝術後回診時の安静時痛(0:痛 웬 Spi nalanes t he s i aorCombi ne ds pi nal epi dur alane s t he s i a. Whi c hi sbe t t e rf ort hepos t ope r at i ve e ct i on? cour s eaf t erc es ar e ans :勤医協札幌病院 麻酔科 웬 웬Hayas hi ,I . .36 1 5 Vol 北勤医誌第 36巻 201 4年 12月 両群間で入院期間,離床までの時間に差はな み無し,1:軽度,2:中程度,3:強度) , 鎮痛薬 かった。授 乳 開 始 時 間 は,有 意 差 は 無 い が 用回数,副作用。 麻酔方法:脊麻の手技は両群で同一とし,L2 / 3 CSEA 群で短い傾向にあった。翌朝の安静時痛 ま た は L3/ 4か ら 25ゲージ 7c m Qui ncke と鎮痛薬 針を用いて,正中法または傍正中法で行い, 2) 。 用回数は S群で有意に多かった(表 0 . 5 %高比重マーカイン2ml +フェンタニル グラフで見ると,翌朝の安静時痛は S群の 0 . 2mlをくも膜下腔に投与した。CSEA 群で 75 %で中程度∼強度なのに対し,CSEA 群は は原則として脊麻施行前に,T 1 1 /1 2あるい 75 %で無∼軽度であった (図1)。鎮痛薬別に見 は T 12 / L1から傍正中法で た 膜外カテーテ ルを3∼5c m 頭側に向けて挿入後,局麻で のテストは行わずに上記方法で脊麻を施行し た。緊急手術では術後に 麻外カテーテルを 挿入した。CSEA 群では,術後疼痛対策とし てデスポーザブル 用回数はいずれも CSEA 群で有意に少な かった(図2) 。 CSEA 群 で の 翌 朝 ま で の シュ回数は平 1 . 6±1 .6回(0∼5回) ,CSEA 群での副作用として 1 1例(2 3 %)に下肢の痺れ 膜外注入器(2日用 DI B表 1 患者背景 / ,ロッ PCA:定常流4ml h+間歇投与3ml クアウトタイム1時間)に2μg/mlフェンタ ニル入り 0.2 %ロピバカイン計 200mlを充 塡し手術終了前から装着した。術後鎮痛対策 は, 膜 外 ワ ン プッ 膜外間歇投与( 膜外ワンプッシュ) , 身長(cm) 体重(Kg) 回数(回) S群 (n=43) CSEA 群 (n=47) 1 56 .9±7. 4 1 58 .5±6. 7 有意差 N. S. 6 5 .8±13 .3 6 5 .1±12 .0 N. S. 1.1±1. 2 0 .9±1. 0 N. S. ペンタゾシン 1 5mg静注,ジクロフェナック (平 値±標準偏差) 5 0mg坐薬,フルルビプロフェン 5 0mg点滴 表 2 各種調査項目 静注のいずれかを助産師の判断で施行した。 S群 (n=43) 統計処理:対応の無い T 検定,MannWhi t ney の U 検定,Fi s he rの直接確率検定を用い, .0 5を有意差ありとした。 P<0 結 果 回数に差は無かっ 5.9±2 . 0 6 .1±1 .3 N. S. 授乳開始(時間) 1.5±4 .7 0 .9±1 .0 N. S. 離床開始(時間) 22 .9±2 .9 22 .1±4 .0 N. S. 鎮痛薬 用回数 た(表1)。 2 .0±0 .7 1 .0±0 .9 P<0.0 01 3 .7±1 .5 0 .4±0 .6 P<0.0 01 (平 図 1 安静時痛(翌朝回診時) .36 16 Vol 有意差 入院期間(日) 安静時痛 両群間で身長,体重, CSEA 群 (n=47) 値±標準偏差) 背髄くも膜下麻酔と脊髄くも膜下 膜外併用麻酔どちらが帝王切開の術後経過に有用か? 図 2 鎮痛薬別の 用回数 が見られ,3例(6 . 4%)で 膜外が中止されて 所である。調査の結果,入院期間,授乳開始時 いた。 間,離床までの時間は両群で差はみられなかっ た。この理由として,帝王切開の術後管理が, 察 安全性,簡 他の手術と同様に現在はクリニカルパス下で行 性,速効性,信頼性から,帝王 われているためと えられた。当院では,産後 切開術の麻酔は約9割以上が区域麻酔で行われ は母児同室を原則とし母乳栄養を推奨してい て い る워 。世 界 的 に も 同 様 の 傾 向 に あ り, 웗 る。有意差は無かったが授乳開始時間は CSEA は米国における妊婦の合併症調 DAnge l oら웍 웗 群で帰室後1∼2時間以内と短い傾向にあり, 膜外や 膜外鎮痛により痛みが軽く授乳に専念できた が施行され,帝王切開率は 可能性がある。翌朝の安静時痛は CSEA 群で有 査 報 告 の 中 で,経 腟 CSEA での無痛 の7 6 %で 3 1%,その内 91 %が区域麻酔 (脊麻 3 7 . 8%, 意に軽く,鎮痛薬 膜外 33 . 7%,CSEA 28 . 2%)と報告している。 師からは管理面で手間がかからないと好評で, 用回数も少なかった。助産 脊麻が普及した理由の1つに,脊麻針として 以前に脊麻のみで帝王切開術を受けた妊婦から nonc ut t i ng針が採用され 膜穿刺後頭痛(pos t は CSEA で非常に楽でしたという意見も多く dur alpunc t ur ehe adac h:PDPH)が減少した웎 웗 聞かれた。CSEA 群の欠点として,下肢の痺れ 事も影響している。当院では麻酔科医が常勤す が2 3%に見られた。これは,CSEA を始めた当 る以前から,通常の帝王切開は産科医による脊 初, 膜外カテーテルを腰部から挿入した症例 麻で行われていた。麻酔科医が常勤化した 2 0 0 8 も含まれていた事や, 年4月以後も, しばらくは脊麻で行っていたが, 題が 2 00 9年から術後鎮痛にも配慮した CSEA (2ヶ 胸椎での CSEA よりも局所麻酔薬による下肢 所穿刺法)に変 のしびれが多いと言われ,現在,CSEA は全例 した。脊麻針は依然として c ut - 用する局麻薬濃度の問 えられる。一般に腰部での CSEA は下部 t i ng針 の 25ゲージ Qui nc ke針 を 用 い て い る で下部胸椎から行っている。また,一時期,ロ が,PDPH の発生率は過去8年間で約 0 .4 % ピバカイン濃度を 0 . 2 %から 0 .1 5 %に薄めてみ (3例/6 7 2例)と nonc ut t i ng針での報告よりも たが,痛みが増強する症例もあり,現在は 0 . 2 % ロピバカインに統一している。助産師が CSEA 低率である。 麻酔方法の変 が妊婦の術後経過にどのよう な影響を及ぼしたかは麻酔医として興味のある での術後管理に慣れた事もあり,現在は下肢の 痺れが原因で 膜外を中止する症例は激減し .36 1 7 Vol 北勤医誌第 36巻 201 4年 12月 た。症例によっては患者の希望により 痛を術後3∼4日まで 膜外鎮 参 長する場合もある。 以上,今回の調査研究では,帝王切開の麻酔 1)照井克生,上山博 で時間は両群で差は見られなかった。 結 全国の 合研究事業) 担 取扱い施設における麻酔 診療実態調査 ,P43 3−68,20 11 2)照井克生:これだけは知っておきたい엊 産科麻 酔 Q&A,P2 02 −2 03,麻酔法選択の基準,麻酔 科学レクチャーVol 2 0 .,No2,201 論 帝王切開の麻酔は,脊髄くも膜下麻酔より脊 髄くも膜下 研究報告書 献 ,他:平成 21年度厚生労働科 学研究費補助金(こども家 法は脊麻より CSEA の方が術後鎮痛効果に優 れていたが,入院期間,授乳開始時間,離床ま 文 3)DAngel oR,Smi l eyRM,e tal :Ser i ousCompl i i a:The cat i onsRel at ed t o Obs t et r i cAne s t hes 膜外併用麻酔の方が術後疼痛軽減 Ser i ousCompl i cat i onRe pos i t or yPr oj ectoft he に優れていたが,他の要因に差は見られなかっ Soc i e t y f or Obs t et r i c Ane s t he s i a and Per - た。 ogy120 :1 50−12 ,20 14 i nat ol ogy.Ane s t he s i ol 4)Val l e j oMC,Mandel lGL,etal :Pos t dur alpunc- 本論文の要旨は第 5 7回日本麻酔科学会 会 (福岡:201 0年6月)で報告した。 t ur e he adache :A r andomi z ed compar i s on of dl esi nobs t et r i cpat i ent s .Anes t h f i ves pi nalne e −920 Anal g91:916 ,20 00 本論文に関して利益相反なし。 Abs t r ac t OBJECTI VE:Todaymos tc e s ar e ans ec t i onhavebe endonebys pi nalane s t he s i aorc ombi ne d i a( CSEA) ,butt hedi f f e r e nc e soft womet hodsont hepos t ope r at i vec our s e s pi nal e pi dur alane s t he s r e mai ncont r ove r s i al . pi t als t ay,t i met obr eas t f ee di ng,t i met owal kand METHODS:Wecompar e dt hel engt hofhos gr oupC:n=4 7) . pos t oper at i veanal ges i abe t we e ns pi nalane s t he s i a( gr oupS:n=4 3)andCSEA ( The ki ndsofpos t ope r at i ve pai nki l l e r swe r et he s ame exc eptt he di s pos abl e PCEA ( pat i e nt c ont r ol l e depi dur alanal ge s i a)pumpi nGr oupC. RESULTS:Gr oupC wass upe r i ori npos t ope r at i veanal ge s i at hangr oupS. Butt he r ewe r eno di f f e r e nce si not he rf ac t or s . CONCLUSI ONS:CSEA wasver y us e f ulf orces ar e an s e c t i on i nt he s ens e ofpos t ope r at i ve i a,butwecoul dnotr ec ogni z edi f f e r e nc esi not herf ac t or s . Thatr e as onmaybeduet o anal ge s hes oc al l e dc l i ni calpat hway. t hepos t ope r at i vecar enow doi ngunde rt .36 18 Vol
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