vol.4 p.4

TEXT: TOSHIHIKO URAHISA
天羽 明惠 ソプラノ
オペラの 「
ドラマ」は、 舞台だけではなく、 楽譜のなかにあるのです。
新シリーズ 「エッセンティア ・オペラ」第一回で企画 ・構成にも挑戦!日本が誇る名ソプラノが語るオペラへの熱き想い
しらかわアーティスト訪問記
日本で多くの方が 「オペラ」 に対して抱くイメージは、 海外
の著名な歌劇場による大規模な引越公演で、 チケット料金も
数万円!庶民からは縁遠いゴージャスなイベントというものでは
ないでしょうか。 でも、 ヨーロッパを旅してみると、 ミラノやパリ
などの巨大な歌劇場はむしろ特殊な存在で、 地方には客席
数百の小規模な歌劇場が多数あることに気づきます。 カラヤ
ンをはじめ名指揮者たちの多くは、 このような地方の歌劇場で、
限られた予算を駆使していかにいい舞台を作り上げるかという
修業を重ねてきたのです。
歌手たちの息遣いが間近に感じられる小さな歌劇場でのオ
ペラには、 オペラグラスを通してでなければ出演者の表情も
見えない巨大なホールでのオペラとは全く違う意味での、 スリ
リングな緊張感にあふれています。 思えば、 ワーグナーの出
現や社会の変化によってオペラの巨大化が加速するのは20世
紀の足音が近づくころ。 それまでのオペラは、 市民が泣き ・
笑い ・ 楽しむための 「音楽芝居」 だったはずです。
もっと身近に楽しむためのオペラを!という願いを込めて今年
から新たにスタートする 「しらかわ音楽芝居計画」 には、 700
席のホールならではの舞台との距離感を活かして、 これまでに
ないオペラの楽しさ・奥深さに触れ、誰もが「オペラ好き」になっ
ていただくための仕掛けがふんだんに盛り込まれています。
第1回のテーマは、 これぞオペラ!ヴェルディの 「ラ・トラヴィ
アータ」。 歴史的傑作メロ・ドラマのエッセンスをたっぷり味わっ
て頂くわけですが、 この企画のいわばウリでもある 「オペラの
ウラ側」 (第1夜~ストーリー) に出演 ・ 企画 ・ 構成までご担
当いただくソプラノ歌手、 天羽明惠さんにご登場願いましょう。
――ずばり 「第1夜~ストーリー」 の見どころ、 聴きどころは?
「楽譜のなかに秘められたドラマを感じて頂くことですね。
楽譜には、 よろこび ・ 嫉妬 ・ 運命などありとあらゆるドラマ
が音符として描かれています。 作曲者が意図したドラマを楽
譜から読み取っていく作業はすごく面白くて、音の持つ 『意味』
がわかると、 オペラが数倍も楽しめると思います。」
――それを実際に歌いながらわかりやすく解説してくださるわけ
ですね。 まさしく歌手ならではの視点ですね。
「わたしたちオペラ歌手は、 役を演じると同時に楽譜を通し
て 『音楽を浮かび上がらせる』 のが仕事です。 どんなにい
い演技をしても楽譜から逸脱することは許されません。」
――いわゆる 「舞台女優」 と 「オペラ歌手」 の違いはどこに
あるのでしょうか。
「歌うという決定的な違いはありますが、 演じるという意味
では同じだと思います。 ただわたしの考えでは、 そこにない
『いわば楽譜を作りながら演じていく』 のが舞台女優だとすれ
ば、 『すでにある楽譜から離れていく』 のが、 オペラを演じ
る歌手ではないでしょうか。
――その 「離れていく」 というのは、 先程の 「楽譜から逸脱し
てはならない」 とは矛盾しない意味で、 ですね。
ⒸMarco Borggreve
写真左
: 幸田 浩子 右 : 林 美智子
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「もちろんです。 『離れる』 というのは逸脱するのではなく、 楽譜から自由にな
るという意味です。 楽譜をとことん読み込んで、 研究して、 役作りを続けてい
くうちに、 ふっと楽譜から解き放たれていくような感覚を味わうことがあります。
言葉にするのは難しいのですが、 『人物が立ってくる』 という感覚でしょうか。
楽譜という平面的なものが立体化していく過程ともいえるでしょう。 その感覚を
味わうためには、 もちろん不断の努力が必要ですが、 一度その感覚を味わっ
てしまえばもうやみつき! (笑い) オペラから二度と離れられませんね。」
――それはまさに歌手ならではの醍醐味ですね。 大変興味深いです。
「もうひとつ。 オペラならではというところは、 登場人物のセリフが二人以上同
時にかぶってくる部分です。 これは通常の演劇ではセリフの意味がわからなく
なってしまうのでまずありえませんが、 オペラには 『二重唱』 という手があり
ます。 音楽のハーモニーを利用して別の旋律で別のセリフを同時に歌うことが
できるのです。 これも誰が誰に向けて語っているのかを一度分解して、 それ
を再び組み合わせてみると、 作曲者の意図が明確にわかって、 なるほど!と
眼からウロコ状態 (笑い) になること請け合いです。」
――天羽さんにとってオペラとは?
「人生そのものですね。 オペラには人間の生きざまが凝縮されています。 愛
だの憎しみだの嫉妬だの喜びだの悲しみだの、 よくもまあ短い時間のなかにこ
れだけ詰め込まれているものだと (笑い)。 オペラのストーリーそのものは 『昼
メロ』 や 『韓ドラ』 と何ら変わるものではありません。 オペラのほとんどは 『愛』
がテーマです。 歌謡曲や演歌と同じなのです。 でも、 なぜかオペラには馴染
みにくいとか、 難しいとかいうイメージが付きまといます。 よく考えるのですが、
わたしたちはなぜこんなにオペラが好きなんだろう。 多くの人たちには、 なぜ
オペラは親しまれないんだろうって。 このシリーズは、 どうしたらオペラの魅
力をみなさまに共有していただけるか、 という真摯な問いからスタートしてい
て、 これまでに 『ありそうでない』 画期的な企画だと思います。」
しらかわ音楽芝居計画 東京二期会共同プロジェクト
――ぜひその成果をエッセンティア ・ シリーズの舞台でご披露ください。 今回の
特別協賛 : ブラザー
シリーズは、 2夜でひとつの公演として企画されています。 みなさまには、 ぜひ
2夜とも聴いていただきたいわけですが、 第1夜ご出演の天羽さんから 「2夜続
エッセンティアシリーズ 第1回
けて聴くと、こんなにいいことがありますよ (笑い)」 というアピールをお願いします。
エッセンティア・ラ・トラヴィアータ
「この春に開催された二期会のオペラ公演が 『ラ ・ トラヴィアータ』 でした。
第2夜は、 その出演者をずらりと揃えた豪華なハイライト ・ コンサートです。 と
しらかわメイト会員限定! 2夜セット券
にかく泣けます。 物語も登場人物の心の動きも、 歌も、 叫びも、 すべてが
会員特別価格¥5,000
泣けます。 ですから、 第2夜は 『ただ泣きに来てください』 (笑い) とだけ申
第
し上げたいですね。 でも、 心から思いっきり泣いていただくためには、 ぜひ第
1夜
7.10
1夜をご覧ください (笑い)。 どこが?どのように?なぜ?というこのメロ ・ ドラ
マのポイントが全てご理解いただけますから。 このオペラのなかでどういうこと
エッセンティア ストーリー~人物を歌う
【金】19:00開演(18:15開場)【全指定席】 メイト¥3,000 一般¥5,000 ほか
ナビゲーター:朝岡聡 企画・構成:天羽明惠
が行われているのかが、 よりはっきり ・ くっきりと見えてくるはずです。」
天羽明惠 【ヴィオレッタ】 上原正敏 【アルフレード】 太田直樹 【ジェルモン】
古藤田みゆき 【ピアノ】
――うまくまとめていただいてありがとうございます。 二期会を代表する豪華な出
演者とともに、 オペラ通としても有名な朝岡聡さんにも注目ですね。
第
2夜
研究熱心な姿勢にはいつも感心させられます。 このように画期的なオペラの
7.15 エッセンティア コンサート~エッセンスを歌う
企画が、 しらかわホールのような素晴らしいホールでスタートするのは、 歌手
朗読 : 朝岡聡
「ええ。 ものすごく!朝岡さんとはよく一緒にお仕事をさせて頂いていますが、
【水】19:00開演(18:15開場)【全指定席】 メイト¥3,000 一般¥5,000 ほか
としてだけでなく、 わたし自身ひとりのオペラ好きとして本当にうれしいですね。
澤畑恵美 【ヴィオレッタ】 樋口達哉 【アルフレード】 黒田博 【ジェルモン】
お客さまに満足していただけるよう、 わたしたち出演者も一体となってがんば
沖田淳也 【ピアノ】
ります。でも、もしかしてこのシリーズをわくわくして一番楽しみにしているのは、
実はわたしじゃないのかな?などと思っているところなんです (笑い)。」
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