高校クラブ活動 3 方向撮影による動物発生タイムラプス動画教材 の制作 富山第一高等学校 氷 見 栄 成 目 的 教材・教具の製作方法 発生学は、最先端の医学的応用研究の基盤となる重 要な科学領域である。また、生命の連続性や命の大切 さを認識させるうえでも、児童・生徒に学ばせるべき 分野である。 発生を教えるうえでは、さまざまな方向から胚を観 察させることに加えて、時間の経過とともにどのよう に胚の形態が変化するかを理解させることが重要であ る。しかし、生きた材料の入手や飼育は容易ではなく、 観察に適する時期に制約もあることから、授業で発生 過程を継続的に観察させることは難しい。現在、イン ターネット上には、さまざまな発生動画素材が提供さ れているものの、正常発生を立体的かつ時間軸に沿っ て理解させる内容のものは少ない。 そこで、自然科学部の活動として、アカハライモリ の胚を 3 方向(上・横・下)から撮影し、タイムラプ ス(微速度撮影)動画にする方法の開発を目指した。 Ⅰ.装置 * 1.カメラの仕様 インターバルタイマー撮影機能を有する一眼レフデ ジタルカメラにマクロレンズを装着して撮影を行う。 本校では、Nikon D- 5000 にマクロレンズ AF-S Micro NIKKOR 40 mm 1 : 2.8 G を組み合わせている。 2.装置全体 撮影したい胚を透明な容器に入れ、化学実験で使用 する試験管スタンドに固定する。安定した台の上にコ ピースタンドを置き、カメラを設置する(写真 1、2、 3) 。横方向の撮影には、三脚を使用することもできる。 概 要 本作品は、カメラの基本的な操作を習得するだけ で、生徒も実践できるようにしたものである。撮影に はカメラのインターバルタイマー機能を使うため、一 度設置しておけば、定期的にバッテリーと水を交換す るだけでよい。 マクロレンズと一眼レフカメラを組み合わせ、受精 卵から孵化までの発生過程を、上・横・下の 3 方向か ら一定間隔で連続撮影する。同じ間隔で水温のデータ ログを得ておけば、後に発生に対する温度の影響を細 胞周期の長さにまで踏み込んで考察できる。得られた 画像について、アプリケーションを活用してタイムラ プス動画にする。授業で活用できる映像教材とするな ら、BGM・解説字幕・ナレーションを組み合わせて ストーリーのある内容に仕上げる。 富山第一高等学校では、『イモリの発生』シリーズ の教材映像作品を発表しており、インターネットサイ ト(とやまデジタル映像ライブラリー)に公開してい る。Flash Video 形式の動画であり、インターネット に接続したパソコン上で再生できる。 * 写真 2 撮影装置(胚を上から撮影) ひみ ひでなり 富山第一高等学校 教諭 〒 930-0916 富山県富山市向新庄町 5-1-54 32 写真 1 撮影装置(胚を横から撮影) ☎(076)451-3396 E-mail himi tomiichi.ed.jp 写真 3 撮影装置(胚を下から撮影) 図 1 横方向からの撮影方法 上と下からの撮影を行うには、小型のシャーレを用 いる(写真 4) 。この場合、乾燥により水が失われや すいので、水を補う必要がある。 3.照明 照明には、蛍光灯あるいは LED を用いる。蛍光灯 は、わずかに赤外線を発するため水温が上昇しやす い。しかし、散乱光を出すため、胚に影がつきにくい。 LED は、赤外線をほとんど含まないため水温があま り上昇せずに撮影できる。ただし、製品によってはフ リッカー(ちらつき)を生じることもあり、その場合 は撮影画像ごとに明度が異なってしまう。 Ⅱ.撮影 横方向から撮影するには、シャーレあるいは管ビン を用いる(写真 5) 。観察対象の胚は、容器底部のカ メラ側に寄せておく(図 1)。シャーレを用いて撮影 を行う場合、上と横、下と横の同時撮影を行うことも できる。管ビンの場合は水温計のセンサー部分を深く 差し込むことができるため、インターバル水温測定も 可能となる。受精卵から孵化に至るまでを継続して撮 影するには、管ビンの水の半分程度を定期的に交換す る。 水草に産み付けられた受精卵には、卵を保護してい るゼリー層がある。撮影前に、胚を覆うゼリー層とそ れに付着する汚れを、ピンセットを用いて丁寧に取り 除いておく。 インターバルタイマー撮影は次の手順で行う。 ⑴ マニュアルフォーカスに設定後、ライブビュー モードにし、ピントの合う範囲で可能な限り胚に近 づける。 ⑵ 光源の位置を調節する。 ⑶ インターバルタイマー撮影機能を用いて、10 分 間隔で連続して撮影する。 ⑷ 長期間の撮影を行う場合は、水とバッテリーの交 換を定期的に行う。 なお、アカハライモリの胚を撮影する場合、背景と して青色のセロハンを置くと、画像が鮮明になる(写 真 6)。 写真 5 横からの撮影に用いる管ビン 写真 6 シャーレ上の青セロハン(下からの撮影) 写真 4 小型のシャーレ(胚を上から撮影) 33 Ⅲ.タイムラプス動画の作成 撮 影 画 像 の 不 要 な 部 分 の ト リ ミ ン グ 処 理 に は、 Microsoft Office Picture Manager を用いる。複数の 画像を選択し、一括して同範囲でのトリミング処理を 行うことができる(写真 7)。画像の処理枚数とパソ コンのスペックによっては、1 時間以上の処理が必要 と な る 場 合 も あ る。 タ イ ム ラ プ ス の 作 成 に は、 Windows ムービーメーカーや市販の動画編集アプリ ケーションの機能を用いる。 2.動画による発生過程の分析 卵割、原口の形成、神経板の変化を理解するには、 撮影方向を工夫するとよい。胚全体の変化には横方向 から、原口の動きには下方向からの撮影というよう に、観察対象に応じて撮影方向を変えるとよい。また 重要な部分の学習には、動画の再生速度を調節して視 聴することも有効である。 Ⅱ.教材映像制作 飼育、撮影、動画化、ナレーション吹き込み等の制 作に生徒が関わることにも教育的効果が期待できる。 興味や関心を深め、学習効果を高めることにつなが る。 Ⅲ.映像作品『イモリの発生』シリーズの活用 写真 7 Picture Manager によるトリミング処理 学習指導方法 Ⅰ.生徒の課題研究としての活用 生徒の課題研究として取り組みやすい方法であるた め、以下に紹介する。 1.卵割における温度と細胞周期の研究 卵割が始まる瞬間の画像に注目し、2 つの撮影時刻 の差をとれば、細胞周期の長さを求めることができ る。写真 8 の A と B は、それぞれ第 2 卵割と第 3 卵 割が始まった瞬間の画像である。撮影時刻の 17 : 10 と 18 : 40 の差をとれば、細胞周期の長さを 90 分と推 定できる。このとき水温データを得ておけば、卵割に おける温度と細胞周期の長さの関係を考察することも できる。水温と細胞周期の長さをグラフにまとめ回帰 分析を行うことで、統計処理および発生における温度 の影響を学ぶことができる。 映 像 作 品 は、 と や ま デ ジ タ ル 映 像 ラ イ ブ ラ リ ー (http://www4.tkc.pref.toyama.jp/video/) に お い て Flash Video 形式の動画として掲載されており、イン ターネットに接続できるパソコンであれば、誰でも自 由に視聴できる。キーワード検索の欄に「イモリ」と 入力すれば、シリーズの一覧が表示される。 作品ごとに特色があり、目的に応じてさまざまな活 用が可能である。一部の作品の概要と活用例を示す。 1.続・イモリの発生(写真 9) イモリ胚発生の各段階について、3 方向の撮影画像 とタイムラプス動画を組み合わせて解説する内容の映 像である。映像の後半では、尾芽胚期に心臓の拍動や 血流が始まり、やがて孵化する決定的瞬間を収録して いる。尾芽胚までは 3 方向の静止画像が中心であるた め、一種の図説として詳しい解説が必要な場所で一時 停止して活用することができる。 (再生時間 7 : 00) 写真 9 『続・イモリの発生』の映像(初期神経胚) 写真 8 第 2 卵割(A)と第 3 卵割(B)の始まりを 矢印で示す 34 2 . イモリの発生Ⅲ ~タイムラプスで追うイモリの 発生~(写真 10) タイムラプス動画中心の作品であり、発生の躍動感 を感じさせる内容になっている。3 方向から立体的に 見ることに加えて、時間軸に沿って理解することがで きる。また、温度の違いによる細胞周期の比較、正常 胚と異常胚の発生の違いについても学ぶことができ る。テンポの良い BGM とともに発生のタイムラプス が進行するため、最後まで飽きずに視聴できる。動き として発生を理解させることができる。(再生時間 11 : 24) を動きのあるイメージとして理解できるようになっ た」 、 「実際の胚と 3 方向の写真を見て、胚の形を立体 的に理解できるようになった」 、 「並べ替えの問題を暗 記していただけだったが、つながりを理解することが できた」などの感想が多い。 その他補遺事項 写真 10 『イモリの発生Ⅲ』の映像 (上と横のタイムラプス) 実践効果 本校では、発生の単元で生きたイモリ胚を双眼実体 顕微鏡で観察させるとともに、発生過程の連続性を意 識させる目的で動画を視聴させている。発生全体の流 れを理解できることで興味や関心が高まり、記憶の定 着率の向上や自発的な学習につながっている。授業で の活用の他に、自宅での視聴を課題としている場合も ある。映像を通して胚の段階、各部の名称、位置の変 化を理解することができるため、以前よりも学習効果 が高まっている。 生物基礎の細胞分裂の単元でも卵割について触れ、 映像作品を見せている。生徒の感想によると、「卵割 イモリの発生シリーズの第 1 作目は、 『イモリの発 生 富山第一高校生物室』である。作品は本校の金山 美和子講師によって制作され、平成 21 年度全国自作 視聴覚教材コンクール高等学校部門で文部科学大臣賞 を受賞している。第 2 作目となる『続・イモリの発生』 以降は自然科学部の活動として制作しているが、金山 氏に助言を頂きながら実験と映像制作を行っている。 懇切丁寧なご指導とご協力を賜っており、ここに深い 感謝の念を表すものである。 『続・イモリの発生』は、平成 26 年度全国自作視 聴覚教材コンクール高等学校部門で文部科学大臣賞を 受賞している。 『イモリの発生Ⅲ ~タイムラプスで追うイモリの 発生~』は、平成 27 年度全国自作視聴覚教材コンクー ル高等学校部門に入選するとともに、第 57 回科学技 術映像祭の部門優秀賞(研究開発・教育部門)を受賞 している。 『イモリの発生Ⅳ ~生命の神秘 発生~』は、平 成 28 年度全国自作視聴覚教材コンクール高等学校部 門に出品される。自然科学部と放送演劇部の共同制作 による作品である。 35
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