2011 年 7 月吉日 医療関係者各位 ProGRP 研究会 ProGRP の基準値及びカットオフ値に関する情報提供 ProGRP (ガストリン放出ペプチド前駆体) は、日本生まれの有用な小細胞肺癌マーカーとして臨床現場におい て、小細胞肺癌患者の早期発見、治療および再発モニタリング等に広く利用されており、EU 諸国や中国でも臨床応 用が承認されました。今回、診療前検査の導入や各種採血管の導入など、臨床現場を取り巻く環境が変化している こともあり、ProGRP 測定における検体やその取り扱い、およびそれに伴う基準値やカットオフ値の再確認・評価を 目的として国内の医療機関 10 施設(静岡県立静岡がんセンター、栃木県立がんセンター、がん研究会有明病院、静 岡県立総合病院、JA 静岡厚生連遠州病院、浜松医療センター、近畿大学医学部附属病院、大阪市立総合医療セ ンター、近畿中央胸部疾患センター、兵庫県立がんセンター)及び体外診断用医薬品メーカー4 社(アボットジャパン 株式会社、三洋化成工業株式会社、シスメックス株式会社、富士レビオ株式会社)と共に ProGRP 研究会を組織し、 臨床研究を実施しました。 その成果をもとに、この度、本研究会として、以下の基準値並びにカットオフ値を学会等で報告することに致しまし たので、報告させていただきます。 1.血漿検体を使用し、以下の条件で測定する場合 81 pg/mL ・採血後、90 分以内に遠心分離し、測定までの保存条件が室温にて 6 時間以内の場合 ・採血後、90 分以内に遠心分離し、測定までの保存条件が冷蔵にて 24 時間以内の場合 ・採血後、6 時間以内に遠心分離し、直ちに測定する場合 2.血清検体を使用し、以下の条件で測定する場合 72 pg/mL ・採血後、90 分以内に遠心分離し、測定までの保存条件が室温にて 60 分以内の場合 3.血清検体において、これまでに行われてきた条件で測定をする場合 46 pg/mL ・採血後、2 の条件以外で 10 時間以内に遠心分離し、測定までの保存条件が冷蔵にて 48 時間以内の場合 ただし、採血後、上記の時間内に遠心分離して得られた血漿及び血清検体を直ちに-20 ℃以下で凍結保管 した場合には、融解後、上記の保存条件を守っている限り、同じ基準値、カットオフ値を適用することが可 能です。 以上の詳細な評価結果につきましては、第 49 回日本癌治療学会学術集会(2011 年 10 月 27 日(木)~29 日(土) 名古屋国際会議場)、第 52 回日本肺癌学会総会(2011 年 11 月 3 日(木)~4 日(金) 大阪国際会議場)及び第 43 回日本臨床検査自動化学会大会(2011 年 10 月 6 日(木)~8 日(土) パシフィコ横浜)にて発表予定です。 【基準値及びカットオフ値の評価結果に関する概要】 本臨床研究には、国内の医療機関 10 施設において同意の得られた小細胞肺癌 149 例、非小細胞肺癌 271 例、 良性肺疾患 217 例、健常者 734 例を含む 1371 例を用いました。各施設で採血から 90 分以内に遠心分離して凍結 保存された血清及び血漿検体は、静岡がんセンター研究所に集められ、体外診断用医薬品メーカー4 社の研究員 により、各社の体外診断薬(表 1 参照)で測定されました。 表 1. 本臨床研究で使用した体外診断薬一覧 体外診断薬名 製造販売業者 アーキテクト®・ProGRP アボットジャパン株式会社 スフィアライト ProGRPⅡ 三洋化成工業株式会社 イムチェック・FS-ProGRP シスメックス株式会社 セラムラボ ProGRP 富士レビオ株式会社 ルミパルスプレスト ProGRP 富士レビオ株式会社 測定の結果、各体外診断薬の ProGRP 測定値は概ね一致しており、全ての体外診断薬に統一した血清および 血漿の基準値及びカットオフ値が設定可能と考えられました。基準値は、健常者測定値の対数変換後平均値±2SD から求め、カットオフ値については、ROC 解析をもとに 1 pg/mL ずつの整数値を用いて検証を行い、血清および血漿 とも健常者測定値の対数変換後平均値+3SD より求めた値を四捨五入した整数値が、診断的感度・診断的特異度か ら適していると判断しました。結果を以下に示します。 1.血漿検体の結果 平均値(対数変換後平均値) : 33 pg/mL 基準値(対数変換後平均値±2SD) : 19~61 pg/mL カットオフ値(対数変換後平均値+3SD) : 81 pg/mL 本カットオフ値の場合、検討した 4 つの体外診断薬の診断的感度は 76~79%、診断的特異度は 97~99%で あり、十分な性能を有していると考えられました。 2.血清検体の結果 平均値(対数変換後平均値) : 29 pg/mL 基準値(対数変換後平均値±2SD) : 16~53 pg/mL カットオフ値(対数変換後平均値+3SD) : 72 pg/mL 本カットオフ値の場合、検討した全ての体外診断薬の診断的感度は 75~78%、診断的特異度は 96~99%で あり、十分な性能を有していると考えられました。 以上の結果から、全ての体外診断薬に統一したカットオフ値を使用することが可能であると考えられました。 なお本検討では、一部の非小細胞肺癌あるいは肺良性疾患において ProGRP 値がやや高値を示す症例が見られ ました。しかし、それら検体の ProGRP 値は概ね 200 pg/mL 未満であることから、ProGRP 測定値が上記のカットオ フ値から 200 pg/mL 未満の場合は、非小細胞肺癌や肺良性疾患の存在も考慮すべきと考えられます。 また、ProGRP 測定値がカットオフ値未満の場合には小細胞肺癌の可能性が低いと考えられ、更に 200 pg/mL 以 上を示した場合には小細胞肺癌が強く疑われると考えられます。ただし、ProGRP がカットオフ値未満であっても小細 胞肺癌の存在を否定するものではなく、カットオフ値以上であっても小細胞肺癌を確定するものでないため、他の関 連する検査結果や臨床症状等に基づいて総合的に判断してください。 【ゲルろ過法による ProGRP 体外診断薬の検出分子フォーム解析結果の概要】 今回検討した 5 種類の体外診断薬は固相用抗体に同一のモノクローナル抗体を使用していますが、標識に用いる 抗体は体外診断薬毎で異なっており、次の 2 パターンがあります。 1.標識抗体に抗 ProGRP ポリクローナル抗体を使用する体外診断薬 スフィアライト ProGRPⅡ、イムチェック・FS−ProGRP、セラムラボ ProGRP 2.標識抗体に抗 ProGRP モノクローナル抗体を使用する体外診断薬 アーキテクト®・ProGRP、ルミパルスプレスト ProGRP 以上の違いが検体中の ProGRP 反応性に影響を及ぼしているかどうかを確認するために、小細胞肺癌患者血清 をゲルろ過クロマトグラフィーで分画したサンプルを測定し、各社の体外診断薬が検出している ProGRP の 分子フォ ームを解析しました。その結果、ProGRP の免疫活性は測定した全ての体外診断薬で組換え ProGRP(31-98)より やや高分子量の部分をピークとする同等のパターンを示し、検討した全ての小細胞肺癌患者サンプルで大きな違い は見られませんでした。したがって、今回検討した体外診断薬は検体中の同等の抗原を認識しているものと考えら れます。 【検体の採取及び取扱いに関する検討結果の概要】 血液検体の採取法、保存条件、使用する採血管等が測定値に及ぼす影響、および体外診断薬間差について検 討しました。 1.血清検体採取に使用する採血管について プラスチック管 1) を用いて得られた測定値を、ガラス採血管 2) 及びトロンビン凝固促進管 3) での測定値と比較 したところ、後の 2 つの採血管で測定値が約 12%低下しました。ガラス採血管あるいはトロンビン凝固促進管を使 用する際には、測定値の低下に注意する必要があります。 1) テルモ株式会社製 ベノジェクトⅡ 真空採血管、型番 VP-AS109K, VP-AS073K 2) 日本ベクトン・ディッキンソン株式会社製 BD バキュテイナ採血管、型番 ヘモガード 3) 極東製薬工業株式会社製 インセパックⅡ-D、型番 SIM-K0704SQ-カバ 2.血漿検体採取に使用する採血管について EDTA 血漿 4) とヘパリン血漿 5) での測定値を比較したところ、両者で同等の測定値が得られました。 4) テルモ株式会社製 ベノジェクトⅡ 真空採血管、型番 VP-NA050K 5) テルモ株式会社製 ベノジェクトⅡ 真空採血管、型番 VP-AL076K, VP-H052K 3.保存条件について 血清検体では、全血にて遠心分離まで室温で 1 時間保存した場合と比較すると、3 時間保存で約 7%、6 時間保 存では約 14%低下しました。血清分離後の保存条件による影響は、血清分離直後と比較して冷蔵 6 時間保存で約 5%、冷蔵 24 時間保存で約 14%、また室温 6 時間保存で約 20%低下となりました。 一方、血漿検体は遠心分離までの保存、分離後の冷蔵、室温保存の影響が 5%以内でほとんど低下は認めら れなく、体外診断薬間差も見られませんでした。 以上の結果より、血清検体使用の際には検体取扱い条件に見合ったカットオフ値を選択する必要があります。 【検査センターにおける測定値に関する検討結果の概要】 実際の臨床現場では検査センターへの外注にて ProGRP 値を得ている施設があります。先の通り、検体取扱いの 条件が測定値へ及ぼす影響は小さく無い事から、院内測定を想定した場合と検査センターへの外注の場合とで測 定値に差が生じるかを複数の検査センター (株式会社エスアールエル (SRL)、株式会社ビー・エム・エル (BML)、 三菱化学メディエンス株式会社 (MCM)) に協力を頂き、以下の組み合わせで比較検討しました。 1)SRL でセラムラボ ProGRP により血清検体を測定 2)BML でイムチェック・FS-ProGRP により血清検体を測定 3)MCM でイムチェック・FS-ProGRP により血清検体を測定 4)BML でアーキテクト®・ProGRP により血漿検体を測定 血清検体においては、「SRL がセラムラボ ProGRP で測定した場合」、「BML がイムチェック・FS-ProGRP で測定し た場合」、「MCM がイムチェック・FS-ProGRP で測定した場合」で、本研究会の測定結果と比較してほぼ一様に測定 値の低下が見られ、その低下度は最大で約 30%でした。また、「SRL がセラムラボ ProGRP で測定した場合」に、SRL の測定結果は健常者 200 例中 7 例にてカットオフ値以上である 50.6~513.0 pg/ml を示し、本研究会の測定結果と 比較して異常高値となる例が認められました。 血漿検体においては、「BML がアーキテクト®・ProGRP で測定した場合」で、測定値の低下は認められませんでし た。しかしながら、健常者 197 例中 11 例にてカットオフ値以上である 85.0~240.2 pg/ml を示し、本研究会の測定結 果と比較して異常高値となる例が認められました。 これらの異常高値は臨床医による誤診につながる可能性があるため、現在、血清検体における測定値の一様な 低下、及び血清検体と血漿検体における異常高値の原因について、検証を行っております。 以 上 ProGRP 研究会 事務局 財団法人しずおか産業創造機構 ファルマバレーセンター 担当者: 石井 めぐみ 〒 411-8777 静岡県駿東郡長泉町下長窪 1007 TEL: 055-980-6322、FAX: 055-980-6363 アボットジャパン株式会社 担当者: 絹川 秀樹 〒 270-2214 千葉県松戸市松飛台 278 TEL: 047-386-4685、FAX: 047-386-4257 三洋化成工業株式会社 担当者: 譽田 大仁 〒 605-0995 京都市東山区一橋野本町11-1 TEL: 075-541-6317、FAX: 075-541-4791 シスメックス株式会社 担当者: 角田 浩一 〒 651-2241 神戸市西区室谷 1-3-2 TEL:078-991-1996、FAX: 078-992-5842 富士レビオ株式会社 担当者: 樋口 知子 〒 192-0031 東京都八王子市小宮町 51 番地 TEL: 042-645-4751、FAX: 042-646-8325 ProGRP 研究会組織 静岡県立静岡がんセンター 副院長、呼吸器内科 部長 山本 信之 栃木県立がんセンター 呼吸器内科 部長 森 清志 がん研究会有明病院 呼吸器内科 副部長 西尾 誠人 静岡県立総合病院 呼吸器内科 センター長 江藤 尚 JA 静岡厚生連遠州病院 健康管理センター 柏原 貴之 浜松医療センター 検診センター 平井 律子 近畿大学医学部附属病院 腫瘍内科 部長 中川 和彦 近畿大学医学部附属病院 臨床検査医学 教授 上硲 俊法 大阪市立総合医療センター 臨床腫瘍科 部長 武田 晃司 近畿中央胸部疾患センター 呼吸器系腫瘍内科グループ 安宅 信二 肺がん研究部長 兵庫県立がんセンター 呼吸器内科 部長 里内 美弥子 アボットジャパン株式会社 総合研究所 吉村 徹 三洋化成工業株式会社 医療産業分社 天野 善之 シスメックス株式会社 学術部 森川 隆 富士レビオ株式会社 商品第一設計部 青柳 克己 総長 山口 建 ProGRP 研究会アドバイザー 静岡県立静岡がんセンター
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