空港工学 - 日本道路建設業協会

新刊図書のご案内
空港工学
AIRPORT
ENGINEERING
寸法/頁数:A4版/約500頁
発行日:平成22年10月20日 初版
編集・発行:財団法人港湾空港建設技術サービスセンター (SCOPE)
定価:本体20,000円(税込み)
ISBN:978-4-9905422-0-7 C3051
内容
わが国の空港建設の永い歴史のなかでその時々の技術者たちが空港技術の体系化を試みてきた経緯はあるが、残念な
がら今日までそれが実現されることはなかった。これは、空港の整備が多様な施設と多岐にわたる技術からなるもので
あり、それゆえ、技術者の結集が難しかったことによるものと考えられる。
本書は、こうした経緯を踏まえ、現在、空港の計画・設計・建設や維持管理に携わっている技術者、また、過去に空
港整備に関わった技術者有志が当センターに設置した編集委員会に結集し、「空港工学」への永年の想いを込めてとり
まとめたものである。
空港は、土木施設、建築施設、電気・機械施設、無線施設など、多様な施設によって構成され、それぞれが機能する
ことによって、全体機能を発揮する。これらの施設には、おのおのに満たすべき基準があり、技術者はこのために数多
くの資料や基準を参考にしながら、空港の計画・設計・建設に対応してきた。基準の中には、国際的なルールとして決
められたものもあれば、わが国独自の調査研究やこれまでの経験をもとに設定されているものも存在する。
こうした状況のもと、本書の編集にあたっては、可能な限り空港を構成する諸施設の概要と関連技術を紹介し、これ
ら各施設の計画・設計・建設段階での考慮すべき事項とその後の空港の維持管理や運用上の重要な事項についてもらさ
ずとりまとめることを心がけた。また、利用者の参考のため、できる限り直近の航空行政の動きについても紹介するこ
ととした。
本書においては、国際標準であるICAOのAnnex 14とわが国の標準の取り扱いとの違い、空港内の標示や標識などに
ついての最新の基準、ターミナルビルの計画・設計上の配慮事項の詳細、空港舗装の性能定化など、空港技術者にとっ
て貴重と思われる最新の情報についても記載している。
目次
第 I 部 空港技術総論
第 1 章 空港の概要
総合交通体系と航空/わが国の航空輸送の現状/航空機の変遷/
わが国の空港の現状
第 2 章 航空技術と空港技術
航空技術/空港技術/空港技術の特色
第 3 章 航空および空港に関する規程・制度
航空および空港に関する規程類/空港整備の仕組み/空港整備のプロセス.
第 4 章 空港土木に関する技術基準
国際基準/国内基準
第 II 部 空港の計画
第 5 章 空港整備の構想
空港整備の必要性の検討/航空需要の予測/空港の立地条件/空港の空域/空港適地の選定
第 6 章 空港施設の計画
マスタープラン/基本施設/空港ターミナル地域/空港アクセス交通/小型機用施設・ヘリポート
第 7 章 環境に配慮した空港整備
空港整備における環境アセスメント/エコエアポート/航空機騒音対策
第 III 部 空港の建設
第 8 章 空港建設のための調査
空港建設のための調査の全体像/空港建設における課題と調査/空港建設のための地盤調査
第 9 章 建設マネジメント
建設マネジメントの基本/空港建設工事のマネジメント/工事の調達/関西国際空港第2期工事での
建設マネジメントの事例
第 10 章 用地造成
切盛土地盤/埋立地盤・護岸/液状化対策
第 11 章 空港基本施設の舗装
空港土木施設の性能と照査/空港の舗装区域と舗装の種類/空港舗装の性能規定による設計/
空港舗装の仕様規定型構造設計/舗装の施工
第 12 章 付帯施設
付帯施設の要求性能と性能規定/設計の基本/排水施設/道路・駐車場/共同溝/消防水利施設/場周柵/
ブラストフェンス
第 13 章 建築構造物
旅客ターミナルビル/貨物ターミナル/管制塔
第 14 章 航空保安施設
航空管制施設/航空保安無線施設/航空灯火/飛行場標識/機械施設
第 IV 部 空港の運用と管理
第 15 章空港の運用
空港運用の基本ルール(AIP、NOTAM)/空港のセキュリティ/航空機運航の安全管理/航空機事故への
対応/空港消防/空港と防災
第 16 章 空港の維持・管理
空港土木施設の点検ならびに維持・補修/基本施設(舗装)の点検ならびに維持・補修/基本施設以外の
施設の維持・管理/空港除雪作業
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17
空港の概要
1
第 1 章 空港の概要
2
本章では、わが国の総合交通体系における「航空の輸送の役割」
と「航空輸送の現状」、
「航空機の変遷」、
「空港
の現状」などの基礎知識について記述する。
3
も、高速道路、新幹線、空港等の交通インフラ整備が
1.1 総合交通体系と航空
一気に進み、高速交通ネットワークの充実が図られて
主要四島からなるわが国の国土は、南北に細長く伸
ストの低減や所要時間の短縮を図るなど、 より一層
び、地域が海によって分断されている特性をもつ。ま
ネットワーク効果の発現に努める必要がある。
た、平地部が少なく、山地・山脈が多く存在している
現在、わが国は社会経済情勢の大きい変化の中にあ
ため、交通ネットワークを構築する上では大きなハン
る。総人口は 2004 年の 1 億 2,780 万人をピークに減少
ディを背負っているといえる。
に転じ、今後、本格的な人口減少と高齢化社会を迎え
しかし、国の発展のためには交通ネットワークの充
る。一方外側に目を向けるとグローバル経済の進展と
実は不可欠であり、明治維新以後、鉄道と港湾の整備
東アジアの経済成長にともない、東アジア規模での生
が精力的に進められた。戦後は、道路、空港による交通
産ネットワークの構築や経済連携の動きが活発化し、
網が整えられ、現在では、各地域において、道路・鉄道
さらにはブラジル、ロシア、インド、中国の、いわゆ
網がほぼくまなく行き届き、地形的に分断されていた
る BRICs(ブリックス)と称される 4 カ国の経済発展も
国土も陸、海、空のネットワークによる複数交通機関で
予想されている。また、観光の分野ではアジア地域か
一体化し圏域間の交流・連携が盛んになっている。
らの訪日が増加、2008 年の訪日外国人数は 835 万人と
特に、東京オリンピックの開催を契機とした高速交
過去最高を記録した。今後は、これらの地域との交通
通時代の幕開けが、地域間の交流・連携を深めること
ネットワークが重要性を増すと考えられており、加え
となった。1963 年、日本初の高速道路である名神高速
て地球温暖化問題に代表される環境問題、資源・エネ
道路が栗東∼尼崎間で開通、翌 1964 年には東京∼大阪
ルギー問題などが交通体系を考える上で大きな要素と
間に東海道新幹線が走り、1961 年には東京∼札幌間の
なってきている。
きたが、今後もそれぞれの地域特性を活かし、移動コ
国内航空路線に初めてジェット機が就航した。その後
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
1970年
(昭和45年)
15
2000年
(平成12年)
16
青函トンネル
1988年開通
関門トンネル
1958年開通
関門橋
1973年開通
総延長・個所
1970
2000
683.5km 6,799.3km
高速道路
̶̶
新幹線
……
515km
1,953km
ジェット空港
▲
7 個所
60 個所
長距離フェリー寄港港湾
●
9 個所
32 個所
関越自動車道
1985年開通
(東京―新潟
10時間→3時間30分
6時間30分短縮)
本四架橋
児島―坂出ルー
ト 1988年全通(倉敷―坂出間 120分 → 40分 80分短縮)
神戸―鳴門ルー
ト 1998年全通(神戸―徳島間 270分 → 100分 170分短縮)
尾道―今治ルー
ト 1999年全通(尾道―今治間 160分 → 80分 80分短縮)
(長距離フェリー寄港港湾は
「運輸白書
(昭和 45 年)
「港湾要覧
」
(1990 年)
「数字で見る港湾 2000」
」
をもとに作成.国土交通省 HP より)
図 ‒1.1.1 わが国の交通ネットワークの変遷
18
1
日本人海外旅行者数
訪日外国人旅行者数
空港の概要
18,000
韓国渡航の
自由化(1989)
16,000
旅行者数(千人)
14,000
2
3
プラザ合意
つくば博(1986)
10,000
8,000
4,000
812
0
1975
1985
1990
中部国際空港開港
愛・地球博(2006)
6,138
4,757 4,772
2
3,236 3,345
2,327
7
湾岸戦争(1991)
1,317
1980
15,087
イラク戦争
SARS発生(2003)
日韓サッカー
羽田−金浦
ワールドカップ 空港間就航(2003)
開催(2002)
アジア通貨
危機(1997)
3,909
3,9
2,466
17,404 17,535 17,295
13,296
,
米国同時多発
テロ事件(2001)
急激な円高
4,948
8 進行(1993)
新東京国際空港
東京国際空港
開港(1978)
16,831
16,523
16,216
15,298
10,997
10 99
台湾発の渡航
の渡航
自由化(1979)
2,000
4
17,819
初の1ドル−120円台
ソウル五輪(1988)
12,000
6,000
関西国際空港
(1994)
5,239
8,349
8,351
7,334
6,728
5,212
ビジット・ジャパン・
キャンペーン開始(2003)
1995
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008(年)
(法務省資料に基づき国土交通省作成資料.国土交通省 HP より)
5
図 ‒1.1.2 訪日外国人旅行者数および日本人海外旅行者数の表示
6
7
8
9
10
11
12
戦後の航空輸送は 1951 年、日本航空がノースウエス
1.2 わが国の航空輸送の現状
ト航空に委託して東京∼大阪∼福岡の路線を運航した
1.2.1
年、わが国初の国際定期便となるサンフランシスコ線
のに始まる。翌 1952 年には自主運行が開始され、1954
国内航空旅客輸送の推移
わが国における航空輸送の歴史は 1922 年、日本航空
が開設された。初期は一部の高額所得者層が利用する
輸送研究所が大阪∼徳島・高松間に水上飛行機による
だけであったが、所得の上昇とそれにともなう時間価
定期便を就航させたのが始まりといわれる。また、陸上
値の増大に比例して航空の利用も増加傾向を示しはじ
飛行機による定期便は 1923 年の東京∼大阪間が最初と
める。さらにジェット機の登場によってその高速性と
される。1927 年には日本航空輸送
(株)
が設立され、その
快適性が増し座席数が増大すると、一人あたりの運航
2年後に東京∼大阪∼福岡∼プサン∼大連の運航が開始
費も低減され、価格競争力も強化された。その結果、
された。その後、新潟などの地方路線や東京∼台北∼広
旅客数は飛躍的に増加した。一時的に停滞した時期も
東∼ハノイ∼バンコクといった国際線も開設されたが、
あったが、わが国の経済社会の進展にともない、旅客
第 2 次世界大戦により、路線開発はいったん終幕した。
数はほぼ一貫して増え続けてきた(図 –1.2.1)。
13
1995‒2000年の需要予測に
対する実績値100%
予測:9200万人
実績:9198万人
航空とJRの旅客シェア(例)
14
12,000
15
10,000
国内航空旅客数(万人)
16
8,000
福岡⇔東京
距離1,175km
広島⇔東京
距離894km
大阪⇔東京
距離553km
平成17年度
平成3年度
93%
79%
55%
需要予測値
10,855万人
10,315万人
9,697万人
55%
長距離移動においては、
➡
航空の優位性が強い。
65%
需要予測値
平成18年度
旅客数合計
その他1,472万人(15.2%)
84%
中部または名古屋利用者674万人(7.0%)
航空■ JR□
関空または伊丹便利用者(羽田便を除く)
1,335万人(13.8%)
羽田‒大阪(伊丹・関空)便利用者
790万人(8.1%)
*割合は旅客地域流動調査、距離はJTB時刻表より。
6,000
4,000
羽田便利用者
5,426万人(56.0%)
2,000
羽田便利用者合計
6,216万人(64.1%)
↓
国内旅客の6割は羽田便利用者
0
50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 1
S
H
2
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 13 14 15 16 17 18
24
29
(年度)
(航空輸送統計年報より航空局作成)
図 1.2.1 国内航空旅客数の推移