平成 27 年度派遣留学生 留学成果報告書 シュトゥットガルト造形美術大学(ドイツ) 芸術学部美術学科 13AA038 野中 隆之介 『シュトゥットガルト造形美術大学の留学を終えて』 私はこの度、九州産業大学とシュトゥットガルト造形美術大学の交換留学プログラ ムを通じ、2015 年 9 月 28 日から 2016 年 2 月 28 日までの約 5 ヶ月間(授業期間は 10 月 12 日から 2 月 13 日)に及ぶドイツ・シュトゥットガルトでの留学を終了しました。 この留学を一つの言葉で表現するのは難しいことですが、そのすべてが素晴らしい 体験であったこと、そしてその経験が今後の指針となっていくことは間違いありませ ん。 1. 学業において シュトゥットガルト造形美術大学(以下、アカデミー)の授業形態は、学生の主体的 な制作活動を基盤に成り立っています。クラスミーティングは週に 1 度だけ行われ、 特別な設備を必要とする作品は例外として、基本的に「制作をするための授業」はな く、すべてが学生の裁量に任せられている点が特徴です。学生には各教授の担当クラ スごとのアトリエが与えられ、アカデミーの開館時間内であれば、そこで制作活動を 自由に行うことができます。 作品がある程度の形まで仕上がると、クラスミーティング内でプレゼンテーション をする機会を与えられます。アカデミーの学生はそこで盛んに意見交換を行い、長い 場合には約 2 時間ほど議論が続くこともあります。こういった様子に、作品の裏にひ そむコンテキストを重視するヨーロッパの現代美術のスタンスというものを垣間見 ることができます。学内には絵画専門のクラスも存在するようですが、私が在籍した ウド・コッホ教授のクラスでは、多種多様な作品たちが発表されており、その表現手 法は写真作品からインスタレーション、極端な例ではヴィジュアルに頼らない音のみ で構成された作品もありました。その多くは解説なしでは意図をつかめないもので、 ドイツ語の説明を十分に理解できずに悔しい思いをすることもありましたが、その千 差万別の作品群から美術の大きな可能性を再確認できたように思います。 反面、作品に注がれるテクニックそのものは、そう多くは要求されない印象も受け ました。クラス内で発表される作品の中には技術的には拙いものも散見され、結果と して日本国内の学生の技術水準の高さというものも認識させられる形となりました。 これらは優劣ではなく、あくまで「違い」として理解をしていますが、技術の意義の 喪失とも言える現象は一作家の個人的な思いとして、やや疑問を残したことも事実で す。この事柄については、今後の制作活動でより深く研究を重ねていきたいテーマで す。 総括としては、現地で美術の多様性を体感できたことは、今後の展開を考えていく 上で大きな意義があったと感じています。海外の美術作品と直に触れ合い、その作家 たちと生活を共にできた日々は、決して忘れることのない大切な記憶です。 最後に、制作に関する余談ではありますが、日本と比較すると、ドイツでは有害な 有機溶剤の匂いを極端に嫌う生徒も多いようです。日本の美術大学では広く利用され ている溶剤ですが、アカデミーでは油絵具の溶き油の匂いをめぐって小さなトラブル に発展した、という話も耳にしました。その反面、アトリエの制作道具の清掃場所が 食器洗いの流しも兼ねていたりと、ひとつの文化圏における許容と拒絶の境界線とい うのは、恣意的なものであることを痛感させられました。もはや理論では説明しきれ ... だいご ないいびつさも、異文化に触れる醍醐味ではないかと思います。 2.生活において 大きな問題に直面することもなく、最後まで心身ともに健康に過ごし、周囲の人々 とも良好な関係を築くことができました。ドイツでは、誕生日会や送別会は本人が計 画することが常なようで、その慣習に倣い退寮前夜に私の呼びかけで送別会を開催で きた際には、とても大きな喜びを感じました。今回の留学以前には、一人暮らしの経 験さえありませんでしたが、現地のルールに従いながら、初期の段階で生活に適応す ることができたと思います。チップをはじめ生活文化に微差はあるものの、実際には カルチャーショックと呼べるほどの衝撃はありませんでした。やはり、日本とドイツ は共に先進国ですから、生活の本質は同じであるというのが半年間の感想です。 その中で、社会の構造にはいくつかの違いもあるようで、とりわけ外国人に対する ドイツの考え方は、大変興味深いトピックでした。ドイツでは人口の約 20%が国外か らの移民(2 世や 3 世の世代も含む)と言われており、ドイツは移民の労働力を歯車の 一つとして組み込んだ社会構造をしているようです。 たとえば、ファストフード店の店員の仕事は、その大半を移民による労働力で賄っ ており、それに類似するケースは多いといいます。また、移民と難民を同列に扱うこ とはできませんが、ドイツはシリアからの難民受け入れにも積極的で、やはりそこに は海外からの労働力による経済効果を期待する考えが根幹にあるそうです。文化面に おいても、あるドイツ人とお話した際の「移民によって我々の文化が変化したとは思 わない」という言葉がとても印象的でした。日本の場合、人口のほとんどが日本人で 構成され、移民の受け入れによって巻き起こる変化は想像し難いものです。こうした ドイツの事例は、今後の日本にとっても良い参考になるのではないでしょうか。ドイ ツの移民政策も決して完全無欠ではなく、今後シリアの難民問題でドイツ国内での論 調も変わっていく可能性はありますが、ドイツの移民に対する考え方は大変興味深い ものでした。 このように海外では、自国とは異なる考え方に触れる機会は多々あります。それだ けに自身の語学力の未熟さには、やや悔いも残る留学となりました。この思いは、今 後の語学学習の原動力へと変えていきたいところです。 以上 謝辞 本留学のご支援を賜りました国際交流センターをはじめとする九州産業大学の皆 様、シュトゥットガルト造形美術大学の皆様、ご協力いただいたすべての支援者の皆 様に、心より御礼申し上げたく、謝辞とかえさせていただきます。 I wish to express my heartfelt gratitude to the Staatliche Akademie der Bildenden Künste Stuttgart and Kyushu Sangyo University for tremendous support in this student exchange program, as well as to everyone who have supported my stay in Germany.
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