中国における都市−農村世帯人口分布面の推計と将来

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中国におけ る都市−農村世帯人口分布面の推計と将来予測
中 谷 友樹
立 命館 大学
A grid-surface projection of urban and rural population
in China
Tomoki NAKAYA
Ritsumeikan University
Abstract:
This study projects the geographical distributions of Chinese urban and rural population from
1990 to 2050. Firstly, a new areal interpolation method is developed to convert the Chinese county dataset
into a grid surface by using DMSP/OLS Stable Night Light Image. Secondly, to predict county-scale
populations, changes in the national and regional cohort sizes are estimated based on the national life table
and regional cohort change rates between 1990 and 1995. Third, a procedure to estimate urban populations is
developed to convert the ratio of agricultural to non-agricultural households into the urban - rural household
ratio at a county level. Finally, the county populations are converted into a grid-surface (LUGEC 20km grid).
As a result, population surfaces for urban and rural residents are obtained from 1990 to 2050.
Keywords: Areal interpolation, China, Cohort change, Population projection, DMSP/OLS
1 . はじ めに
食料問題の検討にあたって、人口分布は経済活動とそれに関連する土地利用の変化を説明する上で
重要な因子であると同時に、食料消費の面的な分布を最も強く規定する基礎的な情報である。ここで
は、食料消費面推計での利用を考慮した人口分布面の推計を行う。中国において食料の消費パターン
には、都市人口と農村人口の間で大きな違いがみられ、本研究では都市人口および農村人口を区別し
た食料消費面の現状の推計および将来予測をはかる。
推 計 す べ き 空 間 的 ス ケ ー ル は 、 LUGEC で 定 義 し て い る 20km メ ッ シ ュ ( 正 確 に は 経 度 15 分 ×緯 度
10 分 の 経 緯 度 メ ッ シ ュ )で あ る 。こ の よ う な グ リ ッ ド 面 と し て の 推 計 は 、議 論 の 空 間 的 精 度 を 対 象 地
域全体で統一でき、かつ生産と関連する土地利用や自然環境データとの整合性をはかる上でも便利で
ある。しかし、中国において利用可能な資料は整合性に欠け、また空間的精度も粗い。そのため、中
国 に お い て こ の よ う な 詳 細 な ス ケ ー ル に お け る 人 口 分 布 を 推 計・予 測 し た 事 例 は 乏 し い 。本 研 究 で は 、
この詳細な空間スケールでの推計作業のために、多様な情報を組み合わせた多段階の人口予測手法を
提 案 す る 。な お 、本 稿 は LUGEC Phase II で の 中 国 全 域 に わ た る 人 口 推 計 作 業 の 成 果 を 総 括 し て お り 、
以下のような構成となっている。まず、カウンティ(郡)スケールでの資料をリモートセンシングに
よって獲得できる情報を基にグリッド化する面補完手法
布の将来推計の方法
2)
1)
を、続いて、カウンティ単位での総人口分
を、最後に都市―農村人口分布面の推計法
3)
および予測法を説明する。この作
業 の 結 果 、 20km メ ッ シ ュ 別 の 都 市 − 農 村 人 口 の 2050 年 ま で の 推 計 値 が 利 用 可 能 と な る 。
2
2 . 人口 分布 面 の推 計技 法 −行 政単 位 デー タの 面 補間 問題
中国において現在利用できかつ最も信頼できる最小の人口報告単位は、カウンティ(郡)である。
1990 年 中 国( 中 華 人 民 共 和 国 )国 勢 調 査 に よ っ て 、2438 の 全 カ ウ ン テ ィ 別 に 人 口 統 計 が 整 備 さ れ て い
る 。本 研 究 で は 、島 嶼 部 を 除 い た 2420 を 利 用 し た 。カ ウ ン テ ィ の 面 積 は 、平 均 で 3876km 2 で あ る が 、
地域的に大きく異なり、人口希薄な内陸部では大きく、逆に都市部ではかなり小さい空間単位になる
傾 向 が あ る 。 こ の 統 計 情 報 は 、 Prof. G. W. Skinner (University of California-Davis)に よ っ て 作 成 さ れ た
GIS 用 の デ ー タ セ ッ ト で あ り 、 ア メ リ カ で 組 織 さ れ た CIESIN(the Consortium for International Earth
Science Information Network)の SEDAC(the Socioeconomic Data and Applications Center)に お け る 中 国 担
当 チ ー ム に よ っ て 、 Web 上 で 公 開 さ れ て い る 。
Fig.-1
中国周辺の夜間地上光画像
DMSP/OLS Stable Light Image (1994-1995)
ところで、行政単位の情報を、境界の一致しない別の空間単位体系へ移すには、一定の変換誤差を
避 け ら れ な い 。 し か し も し 、 変 換 に 利 用 す る 2 つ の 空 間 単 位 体 系 ( こ こ で は カ ウ ン テ ィ と 20km メ ッ
シュ)よりも十分に詳細な分布の推計が可能であれば、この変換−面補間−の信頼性は向上する。こ
の よ う な 空 間 単 位 内 分 布 に 関 す る 間 接 的 情 報 を 利 用 し た 補 間 を 、Intelligent interpolation と い う 。各 空
間単位内に人口分布の中心(各空間単位内で最も人口が集中する地点、ないし人口分布の重心地点)
を 示 す 情 報 が 示 さ れ て い る 場 合 に つ い て 、Martin 4) は 様 々 な 手 法 を 比 較 し て い る 。だ が 、こ の よ う な 情
報は、一般に先進国の小地域統計においてのみ利用可能である。近年では、リモートセンシング画像
か ら 居 住 域 と 非 居 住 域 を 判 別 し て 、空 間 単 位 内 の 分 布 を 推 定 す る ア プ ロ ー チ が 提 案 さ れ て い る( Fisher
and Langford 5 ))。
本研究でも、リモートセンシングを面補間に利用した推計をはかった。ここで利用した衛星画像は
ア メ リ カ 合 衆 国 国 防 省 の 軍 事 衛 星 で あ る DMSP( Defensive Meteorological Satellite Program)/OLS に よ
って得られた夜間地上光の分布画像である。この夜間の安定した光の存在は人間の経済活動の大きさ
を反映しており、人口分布域の推計にも有用であろうと考えられる。
こ の DMSP/OLS 画 像 は 近 年 、広 域 に わ た る 人 間 活 動 の 状 況 を 把 握 す る 手 段 と し て 、様 々 な 利 用 法 が
提 案 さ れ て お り 、都 市 域 の 検 出( Imhoff et al. 6 ),7 ))、国 家 単 位 で の GNP、人 口 の 推 定( Elvidge et al. 8 ),9 ))、
先 進 国 に お け る 小 地 域 人 口 推 計 ( Sutton et al. 1 0 ) と Nakayama 11 )) な ど の 事 例 が あ る 。 と こ ろ で 一 時 点
の画像は、一時的な光源の存在や雲による光の遮蔽などの影響を受けやすく、居住域と関係する恒常
的 な 光 を 映 し て い な い 。こ こ で 利 用 す る DMSP/OLS 画 像 は 、1994 年 か ら 1995 年 に か け て 観 測 さ れ た
夜 間 OLS 画 像 を 統 合 し た 合 成 画 像 で あ る 。各 ピ ク セ ル は 、雲 に 遮 ら れ て い な い 観 測 か ら 、光 が 観 測 さ
れ た 頻 度 を パ ー セ ン テ ー ジ (0-100)で 記 録 し て い る 。従 っ て 、こ の 画 像 に よ り 観 測 さ れ る 光 の 安 定 性 を
3
把 握 で き る 。 な お 、 光 観 測 頻 度 が 1〜 5%と い う 値 は 除 か れ て い る ( Elvidge et al. 1 2 ) は 10%を 閾 値 と し
て 不 安 定 な 光 を 除 い て い る )。 画 像 は 、 全 球 DEM で あ る USGS GTOPO30 と 同 じ 投 影 法 ( 等 角 図 法 )、
解 像 度( 30 秒 メ ッ シ ュ )で 作 成 さ れ て お り 、結 果 と し て 、画 像 は 日 本 付 近 で は お お よ そ 1km×1km の
ピ ク セ ル か ら 構 成 さ れ る 。な お 、原 画 像 の 精 度 は 2.7km×2.7km で あ る 。以 下 、こ の 観 測 頻 度 割 合 に よ
っ て 定 義 さ れ た 夜 間 地 上 光 分 布 の 画 像 を 、 Stable Light Image(SLI)と 呼 ぶ こ と に す る 。 Fig.-1 に 、 対 象
地 域 周 辺 の SLI 画 像 を 示 す 。
し か し 、 SLI 単 独 に よ る ロ ー カ ル な 人 口 分 布 推 定 に は 限 界 が あ る 。 そ れ は 、 SLI は 都 市 部 で は 上 限
100 に 飽 和 し 、 反 対 に 非 都 市 部 で は 無 光 の 居 住 域 が 広 が る た め で あ る 。 と く に 、 低 開 発 国 で は 、 光 の
分 布 領 域 と 居 住 域 は 必 ず し も 対 応 し な い 点 に 留 意 せ ね ば な ら な い 。 中 国 の 場 合 、 人 口 密 度 が 1,000 人
/ km 2 以 下 の 領 域 で は 、SLI と の 対 応 関 係 が と く に 希 薄 で あ る 。Elvidge et al. 12) の 国 際 比 較 に お い て も 、
中国は人口に比して光の領域が少ないことが示されている。光の分布領域と人口の関係は産業の発展
段階に応じて異なっており、低開発国では、夜間の光が観測されない領域でも数多くの居住者が存在
する。そこで、光が観測されなかった領域の人口分布を推定するために、人口分布は、光が存在して
いる領域との空間的近接性(アクセシビリティ)によって変動すると仮定した。
こ の 光 へ の ア ク セ シ ビ リ テ ィ は 、 い わ ゆ る 人 口 ポ テ ン シ ャ ル 概 念 と 類 似 し て お り 、 以 下 で は SLI ポ
テンシャルと呼ぶことにする。これを、以下のように定義した。
Pi = ∑ j SLI j exp( −δ d ij )
(1)
た だ し 、 P i は 30 秒 メ ッ シ ュ i の ポ テ ン シ ャ ル 、 SLI j は 30 秒 メ ッ シ ュ j の SLI 値 、 d i j は 30 秒 メ ッ シ
ュ ij 間 の 距 離 、 δ は パ ラ メ タ ー で あ る 。 こ れ を 基 に 以 下 の よ う な モ デ ル を 定 式 化 し た 。
Di = β 0 + β1SLI iβ 2 + β 3Pi β 4
(2)
D i は 30 秒 メ ッ シ ュ i の 人 口 推 計 値 、 β k は パ ラ メ タ ー で あ る 。 こ れ を 基 に 30 秒 メ ッ シ ュ 単 位 の 推 計
値をカウンティで集計し、カウンティ単位での推計人口密度の対数値と観測人口密度の対数値との差
を 誤 差 と し て 、 最 小 2 乗 基 準 を 適 用 し パ ラ メ タ ー を 推 計 し た 。 得 ら れ た 決 定 係 数 は 0.7 で あ り 、 人 口
密 度 が 1 万 人 / km 2 前 後 の カ ウ ン テ ィ で は や や 過 小 評 価 で あ る が 、 全 体 と し て 適 合 の 状 況 は 良 効 で あ
った。その他のモデルとの比較等、詳細は先の報告書を参照されたい
1)
。
以 上 の 結 果 を 受 け て 、SLI と SLI ポ テ ン シ ャ ル を 利 用 し た モ デ ル を 利 用 し 、そ の 30 秒 メ ッ シ ュ 単 位
の 推 計 値 を ウ ェ イ ト と し て 、カ ウ ン テ ィ の 人 口 を 30 秒 メ ッ シ ュ に 配 分 し た 。配 分 式 は 以 下 の 通 り で あ
る。
EPi k = CP k
∑
Di
j∈Sk
Dj
(3)
た だ し 、 EP i k は カ ウ ン テ ィ k に 属 す る 30 秒 メ ッ シ ュ i の 人 口 推 定 値 、 CP k は カ ウ ン テ ィ k の 国 勢 調
査 人 口 、Sk は カ ウ ン テ ィ k に 属 す る 30 秒 メ ッ シ ュ の 集 合 で あ る 。ウ ェ イ ト に よ る 配 分 に よ り 、Tobler 1 3)
の 連 続 的 体 積 保 存 補 間 smooth pycnophylactic interpolation 同 様 、 各 カ ウ ン テ ィ の 人 口 総 和 は , 変 換 後
も 維 持 さ れ る 。 ま た Deichmann 14) の 都 市 へ の ア ク セ シ ビ リ テ ィ に よ る 人 口 面 補 間 と 比 較 す る と 、 本 稿
の方法は、パラメターのキャリブレーションを行っており、カウンティ・レベルでの信頼性を確認し
て い る 点 で 優 れ て い る 。 ま た 、 LUGEC20km メ ッ シ ュ の 面 積 は 、 一 般 に カ ウ ン テ ィ の 平 均 的 面 積 よ り
小 さ い が 、 人 口 稠 密 な 東 部 で は 、 カ ウ ン テ ィ は LUGEC20km メ ッ シ ュ よ り も 小 さ く な る こ と も あ る 。
そのため、利用した人口推計モデルは、人口密度の高い地区で多少の過小推定の傾向があったが、
LUGEC20km メ ッ シ ュ へ の 変 換 で は 、あ ま り 問 題 と な ら な い で あ ろ う 。推 定 さ れ た 1990 年 の 中 国 人 口
( 密 度 ) 分 布 面 を Fig.-2 に 示 す 。
4
Fig.-2
1990 年 中 国 人 口 ( 密 度 ) 分 布 面
3 . カウ ンテ ィ 別将 来人 口 の推 計
3.1資
資料
本研究の人口推計では、3つのスケールでのコーホート変化を組み合わせる。各スケールの空間単
位は大きいものから順に、国家単位、都市・地区単位、カウンティ単位である。中国(中華人民共和
国 )の 1990 年( 第 4 回 )セ ン サ ス に よ り 比 較 的 信 頼 性 の 高 い カ ウ ン テ ィ 別 人 口 統 計 が 利 用 で き る( 前
節を参照のこと)が、コーホート変化を割り出す上で必要な、カウンティ単位で 5 歳階級の人口構造
が把握できる他年次のセンサスは入手できなかった。代わりに中国国家統計局が監修している「中国
富 力 99 年 版 」( 綜 研 ) の 1995 年 年 齢 階 級 別 人 口 統 計 を 利 用 す る こ と に し た 。「 富 力 」 の 都 市 ・ 地 区 別
統 計 で は 、カ ウ ン テ ィ を 集 計 し た 地 区 単 位 が 定 義 さ れ て い る 。こ こ で は 1990 年 の カ ウ ン テ ィ と の 整 合
性 を と り 、 364 の 都 市 ・ 地 区 単 位 を 設 定 し た 。 な お 、 こ の 統 計 で は 性 別 は 表 記 さ れ て い な い 。 国 家 単
位 で の コ ー ホ ー ト 変 化 は 、 1990 年 セ ン サ ス と 1995 年 の 富 力 デ ー タ ( 省 別 値 ) の 集 計 値 を 利 用 し て 求
め た 。富 力 デ ー タ の 信 頼 性 は 、出 典 が 明 記 さ れ て い な い た め 、十 分 に 確 認 で き て い な い 。1995 年 の 1%
抽 出 の 人 口 調 査 ( 10 年 ご と の セ ン サ ス の 間 に 行 わ れ る ) の 利 用 が 想 定 さ れ る が 、 中 国 人 口 年 鑑 1996
年 版 の 省 別 統 計 と 比 較 し た と こ ろ 、 数 パ ー セ ン ト の ず れ が あ る 。 Fig.-3 に 、 富 力 の 都 市 ・ 地 区 単 位 と
カウンティ単位を示しておく。
Fig.-3
人口統計単位(都市・地区単位、カウンティ単位)
5
3.2人
人 口 予 測 上の 仮定
人口予測にあたっては本来、死亡率の改善をとりこんだモデル生命表を作成すべきだが、ここでは
15)
単 純 に 、大 林
が 作 成 し た 1980 代 の 生 命 表 を 74 歳 ま で の 生 残 率 に 適 用 し 、1990 年 セ ン サ ス と 富 力 の
コ ー ホ ー ト 変 化 率 を 75 歳 以 降 の 生 残 率 に 利 用 し た 。死 亡 率 の 改 善 は 主 に 高 齢 者 階 級 で 進 む た め 、こ れ
に よ っ て 80 年 代 以 降 の 死 亡 率 改 善 は 若 干 反 映 さ れ る 。こ こ で 1980 年 代 の 生 残 率 は 、1990− 1995 の コ
ーホート変化の不自然な変動(年齢別死亡率が単調減少しない)を回避するために利用したものであ
る(詳細は昨年度の報告
2)
を 参 照 の こ と )。 ま た 、 都 市 ・ 地 区 毎 の コ ー ホ ー ト 変 化 に つ い て も 全 体 の
傾向からして極端な変化は一時的な変化と考えられ、そのまま用いれば予測の信頼性を下げるものと
考えられる。そこで、都市・地区の年齢階級別コーホート変化率からはずれ値を除くため、各年齢階
級 で 上 下 5 パ ー セ ン タ イ ル 外 の 値 を 除 き 、そ れ ぞ れ 95 パ ー セ ン タ イ ル 、5 パ ー セ ン タ イ ル の 値 で 置 き
換えた。
カ ウ ン テ ィ 単 位 で の 人 口 予 測 に あ た っ て は 、 3 つ の ス ケ ー ル の 情 報 、 (1)中 国 の 国 家 単 位 に お け る 人
口 の コ ー ホ ー ト 変 化 、(2)都 市・地 区 単 位 に お け る 人 口 の コ ー ホ ー ト 変 化 、(3)カ ウ ン テ ィ に お け る 人 口
のコーホート変化、を組み合わせる。
基本的な考えは、以下の 3 点に要約できる。
(A) 中 国 の 国 家 ス ケ ー ル で の 人 口 変 化 に は 、 コ ー ホ ー ト 要 因 法 お よ び 変 化 率 法 を 折 衷 し 、 比 較 的 概
念的な枠組みの安定した予測手法を適用する。
(B) 1990 年 か ら 1995 年 ま で の 都 市・地 区 単 位 の コ ー ホ ー ト 変 化 率 な ら び に 出 生 率 を 、地 域 的 な コ ー
ホート変化の地域差を考える基本的係数と考える。すなわち、都市・地区内のカウンティは全て同じ
コ ー ホ ー ト 変 化 率 に 従 う 。た だ し 、1990 年 時 点 で の 人 口 構 造 は カ ウ ン テ ィ 毎 に 異 な る こ と に 注 意 さ れ
たい。
(C) 各 年 次 に 実 際 に 摘 要 す る 都 市 ・ 地 区 単 位 の コ ー ホ ー ト 変 化 率 は 、 集 計 し た 際 に 中 国 の 国 家 ス ケ
ールでのコーホート変化率と一致させる。
それ以外の各種の仮定は以下の通りである。
1. 1990 年 の カ ウ ン テ ィ 別 人 口 構 造 を 予 測 の 基 準 と す る 。
2. 人 民 解 放 軍 の 年 齢 別 人 口 は 将 来 も 1990 年 セ ン サ ス に よ る も の と 変 わ ら な い 。
3. 国 際 人 口 移 動 は 無 視 す る 。
4. 死 亡 率 構 造 は 、1985 年 生 命 表 を 参 考 に 、1990-1995 年 の 変 化 に 対 応 し た も の が 長 期 的 に 持 続 す る
ものとする。
5. 国 家 全 体 で の 出 生 力 に つ い て は 、 1990-1995 の み TFR を 2.0 と し 、 そ れ 以 後 は 1.8 と す る 。
6. 年 齢 別 性 構 造 は 、 都 市 ・ 地 区 単 位 で 不 変 と す る 。
出 生 力 に つ い て は 、 1992 年 以 降 TFR(合 計 特 殊 出 生 率 )は 1.8 を 維 持 し つ づ け て い る と の 中 国 人 口 年
鑑 1996 年 版 の 記 載 に 基 づ い た 。
3.3中
中 国 総 人 口の コー ホー ト 人口 予測
中 国 全 体 で の 総 人 口 に つ い て 、 t時 ( 5年 間 隔 ) の 5歳 年 齢 階 級 kの 人 口 を
後の生残率を
ck と す る と 、 以 下 の よ う に 、 人 口 変 動 の 方 程 式 が 書 け る 。
pk +1,t +1 = ck pk ,t
p0 − 4,t +1 =
pk ,t 、 こ の 年 齢 階 級 kの 5年
for k = 0‑4 〜 80-85
(4-1)
40 − 45
∑
k =15 −19
p90 + ,t +1 = c90 +
c0 − 4 f k ,t sk pk ,t
(4-2)
90 +
∑
k =85 − 90
pk ,t
(4-3)
6
ただし、
f k ,t は 年 齢 階 級 k の 女 性 の 出 生 率 、 sk は 年 齢 階 級
k の女性割合である。また、
c0 − 4 は 、 出 産
後 の 当 該 年 齢 階 級 の 生 残 率 だ が 、 (1 − c0−4 ) は ほ ぼ 乳 児 死 亡 率 に 相 当 す る 。
結 果 は 、 Fig.-4 に 示 し た 。 2025-2030 年 の 14.2~14.3 億 人 が ピ ー ク で あ り 、 そ の 後 人 口 は 減 少 に 転 じ
る 。 再 生 産 人 口 の 中 心 で あ る 20-34 歳 の 人 口 も 、 ベ ビ ー ブ ー ム の 波 を う け て 緩 や か に 変 動 し な が ら 、
2020 年 以 後 、 減 少 を 続 け る 。 代 わ っ て 、 高 齢 化 が 急 速 に 進 み 、 65 歳 以 上 人 口 の 割 合 は 、 現 在 の 5.5%
Population (in millions)
か ら 、 2025 年 に は 11.8%、 2050 年 に は お よ そ 18%に 達 す る 。
1400
1200
1000
Total
20-34
65+
800
600
400
200
0
1990
2010
2030
2050
Year
Fig.-4
中 国 全 体 に お け る 人 口 の 将 来 推 計 1990~2050
年間のコーホート変化とその修正
この予想は、中国の国家的政策である「一人っ子政策」が今後とも都市部を中心に堅持され、合計
特 殊 出 生 率 が 1.8 に 抑 え ら れ る と の 仮 定 に 基 づ い て い る 。 こ の 政 策 へ の 反 発 は 農 村 部 と り わ け 少 数 民
族 で 根 強 く 、長 期 的 に は よ り 柔 軟 な 政 策 へ の 転 換 も 留 意 す べ き で あ る
1 6)
。死 亡 率 の 水 準 の 長 期 的 な 改
善を考慮していないことも併せて考えるならば、ここでの人口予測は低位予測に近いものと考えるべ
き で あ ろ う 。そ れ で も 、中 国 の 将 来 人 口 は か つ て の 16 億 と い っ た 推 計 値 よ り も か な り 低 い 水 準 で 推 移
すると見積もるのが合理的である。
3.4カ
カ ウ ン テ ィ別 コー ホー ト 人口 予測
都 市・地 区 単 位 i に お け る 1990 年 か ら 1995 年 に か け て の 年 齢 別 コ ー ホ ー ト 変 化 率 を
vi ,k と す る 。長
期的な人口構造の変動により、地域的なコーホート変化率も変動するので、地区 i における t 時の年
齢階級 k のコーホート変化率
∑ rc
i , k ,t
rci ,k ,t は 、 各 年 齢 階 級
k について次のような関係を満たさねばならない。
rpi ,k ,t = ck ,t pk ,t − apk +1
(5)
i
ただし、
rpi ,k ,t は 、 地 区 i 、 年 齢 階 級 k 、 時 期 t の 人 口 で あ り 、 apk +1 は 年 齢 階 級
の規模である。この関係式から、
k+1 の 人 民 解 放 軍 人
rci ,k ,t は vi ,k に 比 例 す る と の 仮 定 を も っ て 、 次 の よ う に rci ,k ,t を 定 義
する。
rci , k ,t = (ck ,t pk ,t − apk +1 )
vi ,k
∑v
i i,k
(6)
rpi ,k ,t
これによって、都市・地区別の年齢階級別人口変動の総計は、国家レベルでの人口変動と対応する
ことになる。
後の推計作業は、国家レベルと同様である。都市・地区 i に属するカウンティ
ー タ の 更 新 方 程 式 は 以 下 の よ う に な る 。cp j , k ,t は 、カ ウ ン テ ィ
および
j において、人口デ
j 年 齢 階 級 k 時 期 t の 人 口 で あ り 、rf i , k ,t
rsi ,k は そ れ ぞ れ 、 当 該 の カ ウ ン テ ィ を 含 む 都 市 ・ 地 区 i の 年 齢 別 出 生 率 、 女 性 割 合 で あ る 。
7
cp j , k +1,t +1 = rci , k ,t cp j , k ,t
cp j ,0− 4,t +1 =
(7-1)
40 − 45
∑
k =15 −19
cp j ,90 + ,t +1 = rci ,90+
rci ,0− 4,t rfi , k ,t rsi , k cp j , k ,t
(7-2)
90 +
∑
k =85 −90
cp j ,k ,t
(7-3)
地 区 別 の 年 齢 別 出 生 率 は 、 1990 年 か ら 1995 年 に お け る 年 齢 別 出 生 率 の 国 家 平 均 値 に 従 っ た 場 合 の
出生数と実際の出生数の比をまず(地区ごとに)求め、これを年齢別出生率の国家平均値に乗じて求
めている。すなわち、年齢別出生率の年齢別変化形状は全ての地区で同じと仮定している。
4 . 都市 −農 村 人口 の推 計
中 国 に お け る 都 市 − 農 村 人 口 の 定 義 は 、め ま ぐ る し く 変 わ っ て お り 一 貫 し た 把 握 は 難 し い
1 6)
。1990
年 の セ ン サ ス に あ る 城 鎮 の 定 義 に よ れ ば 都 市 人 口 割 合 は 50%を 越 え て お り 、こ れ は 明 ら か に 、都 市 を
過大に定義している。より現実的な都市人口の把握には、農業世帯−非農業世帯の区別に基づいた統
計 が 有 用 で あ ろ う 。鎮 の 定 義 が 変 わ る ま で 、非 農 業 世 帯 人 口 割 合 は ほ ぼ 都 市 人 口 割 合 と 対 応 し て い た 。
センサスの分析報告
17)
が 、実 質 的 な 都 市 人 口 を 省 別 に 推 計 し て お り 、こ こ で は 省 単 位 で の 非 農 業 世 帯
人口と都市人口の関係から、カウンティ単位の都市−農村人口を推計することにした。
25000
都市人口
20000
15000
10000
y = 1.1784x
2
R = 0.9689
5000
0
0
Fig.-5
5000
10000
15000
非農業世帯人口
20000
都市人口と非農業世帯人口の相関(省単位)
Fig.-5 は 、省 別 の 非 農 業 世 帯 人 口 と 都 市 人 口 の 相 関 関 係 を 示 し て い る 。極 め て 明 瞭 な 線 型 の 相 関 関
係 が 認 め ら れ る 。 切 片 を 0 と し た 回 帰 直 線 か ら 、 非 農 業 世 帯 人 口 一 人 当 た り 都 市 人 口 は 1.178 人 と 見
積もれる。回帰モデルの残差には空間的な自己相関も認められるが、適合度が高いために、誤差に空
間 的 自 己 相 関 を 考 慮 す る モ デ ル は 不 要 で あ ろ う 。代 わ り に 、省 別 に 残 差 を 補 正 す る 乗 数
口/予測都市人口)を求めた。したがって、カウンティ m の都市人口
hi ( 実 都 市 人
cpm ,u の 推 計 式 は 以 下 の よ う に
なる。
cpm ,u = 1.178cng m hi
(8)
ただし、 i はカウンティmが属する省番号であり、
cng m は カ ウ ン テ ィ m の 非 農 業 世 帯 人 口 で あ る 。
都 市 人 口 世 帯 が 求 ま れ ば 、カ ウ ン テ ィ m の 総 人 口 を tcpm と し て 、農 村 世 帯 人 口 cpm ,r が 以 下 の よ う に
求まる。
cpm , r = tcpm − cpm ,u
(9)
8
こ の モ デ ル で は 、平 均 し て 非 農 業 世 帯 人 口 割 合 が 0.85 を 超 え る と 都 市 人 口 割 合 は 1.0 を 超 え て し ま
う。回帰式を都市人口割合と非農業世帯に変更し上限をもつ適当な曲線推計式も検討してみたが、あ
ま り 適 合 度 が よ く な い た め 、 こ こ で は 単 純 に 非 農 業 世 帯 割 合 に 基 づ く 推 定 値 が 1.0 を 超 え る 場 合 、 都
市 人 口 割 合 を 1.0 と し た 。 各 カ ウ ン テ ィ で こ の 推 計 方 式 を 適 用 し 、 省 別 に 集 計 し た 値 が 実 際 の 都 市 人
口 と ず れ て い る 場 合 、 非 農 業 世 帯 割 合 を 比 例 定 数 と し て 、 こ の ず れ を 割 合 が 1.0 に 飽 和 し て い な い カ
ウ ン テ ィ に 配 分 し た 。 た だ し 、 再 配 分 時 に 都 市 人 口 割 合 が 1.0 に 飽 和 す る 場 合 も あ る た め 、 必 要 に 応
じて再配分の計算を繰り返して行った。
都 市 人 口 の 将 来 推 計 に つ い て は 、 省 別 農 業 世 帯 人 口 割 合 の 1982 年 か ら 1990 に か け て の 減 少 ト レ ン
ドを外挿して同様な推計作業を行った。トレンド式は以下のとおりである。
ppi , y =
κi
1 + λi ( y − 1982)
(10)
た だ し 、pp i,y は 省 i、年 度 y の 非 農 業 世 帯 人 口 割 合 で あ り 、κ と λ は パ ラ メ タ ー で あ る 。デ ー タ が 少 な
い こ と も あ り ト レ ン ド 曲 線 の 当 て は ま り は 極 め て 良 好 で あ る ( 決 定 係 数 の 省 平 均 は 0.84)。 外 挿 期 間
が長いため信頼性が問題となろうが、トレンド変化が比較的緩やかであるため、この推計式により
2050 年 ま で の 省 別 農 業 世 帯 人 口 割 合 を 予 測 し た 。 Fig.-6 に 省 を 7 つ の 地 方 別 に 集 計 し た 2050 年 ま で
のトレンド曲線を示す。さらに、これをもとに各年次での各省別都市世帯人口が求まる。そして上記
の 方 法 を 再 び 適 用 し 、1990 年 の カ ウ ン テ ィ 別 非 農 業 世 帯 人 口 を 基 に し た カ ウ ン テ ィ 別 都 市 人 口 の 省 別
原単位による推計および飽和した場合の再配分を行った。
農業世帯人口割合
1.0
Northeast
North
Northwest
East
Central
South
Southwest
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
1980
Fig.-6
2000
2020
年次
2040
中国地方別農業世帯人口割合の推移
5 . おわ りに
本 研 究 で は 3 つ の 空 間 的 ス ケ ー ル の 人 口 統 計 を 利 用 し て 、2050 年 ま で の カ ウ ン テ ィ 単 位 の 都 市 世 帯
−農村世帯別人口予測を行った。最後にこの予測結果に対して、第2節で説明した面補間技法を適用
し 20km メ ッ シ ュ に 基 づ く 分 布 面 を 推 計 し た 。な お 、こ の 面 補 間 技 法 は 1995 年 の 夜 間 光 画 像 に 基 づ い
てカウンティ内の人口分布を推計しており、将来においても、このカウンティ内の人口分布に大きな
変動がないと仮定している。この面補間技法の利点は人口が希薄で広大なカウンティ内での現実的な
人口分布面の推定にあり、そのような地域内での大きな人口分布域の変化が見込まれない限り、この
技 法 を 将 来 の 人 口 分 布 面 の 予 測 に 適 用 し て も 差 し 支 え な い で あ ろ う 。1990 年 と 人 口 が ほ ぼ 最 大 に な る
と 見 込 ま れ る 2025 年 の 人 口 分 布 面 を Fig.-7 に 示 し た 。こ れ に よ れ ば 、都 市 人 口 の 減 少 地 域 は ほ と ん ど
ないが、総人口の減少は成長の極となっているような大都市圏周辺に散在している。そのため、たと
え人口成長期であっても人口流出地域を伴いながら地域的な人口の再配分が進行することが分かる。
すなわち、現在のトレンドでは、都市の成長は比較的近隣の農村人口の吸引によって達成されている
のである。他方、これらの人口集中地域を若干離れた周辺部では農村人口による人口増加が進む。
9
50°
65°
75°
85°
95°
105°
115°
125°
135°
50°
65°
75°
85°
95°
105°
115°
125°
Urban Popul
Lugec 20km me
0 - 500
500 - 5,00
5,000 - 50
50,000 100,000 More tha
Population 1
Lugec 20km me
0 - 500
500 - 5,00
5,000 - 50
50,000 100,000 More tha
75°
50°
85°
65°
75°
95°
85°
105°
95°
105°
115°
115°
125°
125°
135°
75°
50°
85°
65°
75°
95°
85°
105°
95°
105°
115°
115°
125°
125°
Population 2
Lugec 20km me
0 - 500
500 - 5,00
5,000 - 50
50,000 100,000 More tha
75°
50°
85°
65°
75°
95°
85°
105°
95°
105°
115°
115°
125°
125°
135°
85°
95°
Fig.-7
105°
115°
125°
135°
Urban Popul
Lugec 20km me
0 - 500
500 - 5,00
5,000 - 50
50,000 100,000 More tha
75°
50°
85°
65°
75°
95°
85°
105°
95°
105°
115°
115°
125°
125°
Population
Change Rate
Lugec 20km me
< 50%
0 - 50%
0-50%
50-150%
150-250%
> 250%
75°
135°
135°
Urban Popul
Change Rate
Lugec 20km me
< 50%
0 - 50%
0-50%
50-150%
150-250%
> 250%
75°
85°
95°
105°
115°
125°
中 国 総 人 口 ( 左 列 ) お よ び 都 市 人 口 ( 右 列 ) の 分 布 面 ( LU/GEC 20km mesh)
1990 年 ( 上 段 )、 2025 年 ( 中 段 )、 両 年 次 間 の 変 化 量 ( 下 段 )
た だ し 、 こ こ で の 人 口 予 測 の 基 礎 は 、 1990 年 か ら 1995 年 の コ ー ホ ー ト 変 化 で あ り 、 経 済 活 動 や 土
地利用変化と人口分布との間に生じるフィードバック関係などは考慮していない。そのため、人口の
地域的集中化がどれだけ長期的なトレンドとして継続するかは、政策の問題などとも関連して不確定
期な部分も多い。また、中国の場合、農村から都市へ向かう若年時での労働力移動は、その大部分が
都市への定住に到らず、いずれ農村部へ戻り、送金とあいまって地域間での所得移転効果を発揮する
という
18)
。労 働 力 の 都 市 − 農 村 間 移 動 は 、1978 年 以 降 の 経 済 的 な 開 放 政 策 後 に 加 速 し て い る が 、長 期
的には農村部への帰郷が顕著になるならば、このような人口移動の還流効果を人口ならびに経済モデ
ル に 反 映 す べ き で あ ろ う 。ま た 、長 期 的 な 都 市 人 口 の 推 計 に あ た っ て は 、長 期 的 な 産 業 転 換
1 9)
に関わ
る 問 題 で あ り 、こ こ で は ト レ ン ド 外 挿 を 利 用 し た が 、複 数 の シ ナ リ オ を 想 定 す べ き 問 題 か も し れ な い 。
次 の 2000 年 セ ン サ ス が 得 ら れ れ ば 、カ ウ ン テ ィ 単 位 で の よ り 詳 細 な 分 析 と 近 年 の 新 た な 人 口 変 動 の 傾
向が把握でき、より信頼性の高い予測モデルも検討できるであろう。
10
参 考 文献
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2)
中 谷 友 樹 (2000): 中 国 人 口 分 布 の 将 来 推 計 .大 坪 国 順 編 「 LU/GEC プ ロ ジ ェ ク ト 報 告 書 VI」 国 立 環
境 研 究 所 , 56-63.
3)
中 谷 友 樹・清 水 庸 (2000): 中 国 に お け る 主 要 穀 物 の 消 費 分 布 . 大 坪 国 順 編「 LU/GEC プ ロ ジ ェ ク ト
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4)
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