11. 居住用家屋の譲渡税3,000万控除の特例

11.
「居住用家屋の譲渡税3,000万控除の特例」
(自宅と老後資金と相続対策)
(1)「居住用家屋譲渡3,000万控除の特例」
(1)自宅の売買には大きな軽減税率がある。
自宅とその為に所有した土地の売買については、売却した利益から¥3,000万控
除できる税法の特例があり、売却した年の1月1日現在で計算して、①
年数が5年未満の「短期譲渡所得」、②
居住した
5年以上の「長期譲渡所得」と、③
「1
0年超の長期譲渡所得」の三種類の¥3,000万控除の特例があります。
①
5年未満の短期所有した自宅とその為に所有した土地については、純益から¥3,00
0万控除した残りの「短期譲渡所得」に対して、30%の譲渡税(国税)と9%の地
方譲渡住民税、合計39%が課税されます。
・ 「短期譲渡税」=[(売買額-販売経費)-{(購入代金+購入経費-建物の償却額)
-3,000万}×(30%+9%)]
② 5年以上10年以内の期間自宅とその為に所有した土地の売却益については、純益か
ら¥3,000万控除した残りの「長期譲渡所得」については、純益の15%の譲渡税と5%
の地方譲渡住民税が課税されます。
・ 「長期譲渡税」=[(売買額-販売経費)-{(購入代金+購入経費-建物の償却額)
-3,000万}×(15%+5%)]
③ 10年超居住した自宅とその為に所有した土地の売却益については、純益から¥3,00
0万控除した残りの6,000万までの利益については10%の譲渡税(国税)と4%の地方
住民譲渡税(合計14%)が課され、更にそれを超える利益については20%(国税15
%+住民税5%)の譲渡税が課税されます。
・ 「10年超の長期譲渡税」=[(売買額-販売経費)-{(購入代金+購入経費-建物
の償却額)-3,000万}×(10%+4%)]
・ 自分が住んでいる住宅を売った場合に、これほど税金の軽減が行われるのは、自宅
は、家族の幸せの為に所有するものであり、利益目的で売るわけではなく、且つ、
自宅は売ったら買い換えるものだから、売った利益から大きな税金を課すべきでな
いとする考え方からこの特例が設けられたものです。
日本の税法の中で、一番国
民の為になる有り難い税法ですので、有効活用することが大事です。
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自宅
賃借人
所有者
「居住用家屋3,000万控除の特例」の要件
(2)
①
所有者が、売却した自宅に居住していたこと。
②
所有者が、その住居を「生活の本拠として居住」していたこと。
・
転勤でご主人だけが地方赴任しても、家族がそこに居住していれば、適用できます。
③
居住した期間については、特に決まった定めはありません。
通常、住宅の本拠と
して、本当に住んでいたことを証明するに必要な最低2・3ヶ月以上の期間が必要
です。
例えば、水道・ガス・電気の領収書が出る2ヶ月以上や、確かに住んでい
たことを隣近所の人が証明してくれることが必要です。
住民票は一つの証明にはなりますが、必ずしも条件ではありません。
住民票が
あるかないかよりも、本当に住んでいたことが条件です。
④
居住しなくなってから3年目の12月末日までに、売買契約ができれば、この制度を
利用できます。
・
例えば、マンションから一戸建に買い換えて転居したので、2年間だけ人に賃貸で
貸していた元の自宅を売る場合、あるいは空き家にしていた自宅を売る場合には、
住まなくなってから3年目の12月末日までに売買契約していれば、この特例を受け
られます。
但し、契約書は、日付だけ遡って書くこともできるので、買主から売
主に対して、お金が動いた事実を証明する為に、手付金が支払われた事実が証明さ
れる必要があるのです。
⑤
転勤等で一時的に5年間居住していなかった場合(賃貸にしていた場合)には、ま
た自宅に戻って居住した後に売却した場合でないと、適用できない。
⑥
家屋を取り壊した時には、取壊した日から1年以内に土地を売却する契約をすれば、
この特例を適用できる。
住んでいた自宅を取壊して駐車場にした時など、この特例を使いたい時には、取
壊した時から1年以内に売らなければ、この有利な特例が利用できなくなりますので
注意が必要です。
自宅を空家のまま置いていた時には、3年目の12月末日までに売
れば利用できる場合とは違いが出ます。
※
但し、東日本大震災で被害にあった人は、自宅を取り壊した時(自宅が滅失した時)
から7年以内に売却した時はこの特例を利用できるという特例が出ています。
⑦
居住した年数は、売却した年の1月1日までに何年居住したかで計算する。
居住を始めてから、売却した年の1月1日までに、5年未満であれば「短期譲渡所
得」、5年以上10年以下の場合は「長期譲渡所得」、10年超であれば「10年超の長
期譲渡所得」になります。
※
注意!
居住用3,000万控除の特例の居住した年数は、「売却した年の1月1日で丸5年以上
経過したかどうか」で計算するので、例えば、2000年3月1日から住み始めた自宅
を2005年3月10日に売却した場合、住んだ期間は丸5年以上経過しているが、05年
1月1日現在で計算した場合には4年10ヶ月強しか経過していないことになり、こ
の税法特例は利用できない。
あくまで、「売った年の1月1日を基準として5年
以上経過しているかどうか」であり、「買った時から売った時までの経過年数で丸
5年以上ではない!」ので、注意が必要です。
⑧
この制度は、3年に1度だけ利用できます。
⑨
この「居住用住居¥3,000万控除の特例」を利用した場合、そのお金を買い換えに
使っても、使わなくても、何に使っても自由です。
⑩
¥3,000万控除は、所有者一人につき3,000万控除できる。
自宅を2人で所有していた時には、2人×3,000万=6,000万まで控除できる。
⑪
自宅の建物を所有している人は、その自宅の為に利用している土地についても利用
できます。
例えば、奥様は、建物の持分1/10を持っていて、土地の持分を持たな
い場合には、同居していれば、奥様は利用できますが、土地の持分を1/2持ってい
ますが建物の持分を持っていない場合には利用できません。
そこに住んでいない
お爺さんが、所有権の持ち分を持っていても、利用できません。
⑫
この特例を利用した場合は、「住宅ローン減税」との併用はできません。
どちらの減税制度が有利かを考えて、選択することになります。
⑬
この制度は、親子や同居の親族間での売買には、利用できません。
∵
親族間では、この特例を受ける形で売買偽装工作をして、実質上は親から子供への
生前贈与を行い、贈与税の支払いを逃れることが多くなることを防ぐ為です。
(2)「居住用家屋3,000万控除の特例」の相続対策としての活用例
(1)老齢となり、介護施設に入居した後の自宅をどうするかの場合
80歳を超えたご夫婦ですが、老人施設に入られて1年が経過しました。
ご主人が
病気がちになり、「病院と施設を行ったり来たりしているので、もう自宅に帰るこ
ともないだろうから、自宅一戸建ては取壊して駐車場にしたい」と、お子さんのお
一人からご相談を受けました。
①
さてどうしたものでしょうか?
まず、駐車場の計画を立ててみました。
建物取り壊し費用
=
35坪×5万=¥1,750,000円
駐車場設置工事費用
=
53坪×2万=¥1,060,000円
建物抹消登記費用
=
¥10,000円
・
合計の出費
¥2,820,000円
・
駐車場の収入予定=7台×12,000円×12月=¥1,008,000円
∴
投下資本回収するのに2.8年必要なことが判りました。
※
しかし更に問題が出てきました。
固定資産税が¥8万だったのが、自宅を取り壊
自宅の建物が建った土地の固定資
産税は、固定資産評価価格の1/6に減価されますが、更地に戻ったので、固定資
産税は固定資産評価価格×0.0014(1.4%)の原則に戻るからです。
したら、¥58万に上がることでした。
それは、
これでは、年間¥412,000円の利益しか残らず、投下資本を回収するだけで6.8年も
かかってしまいます。
「では、どうしたらよいか?」を検討・提案
そこで、
②
することになりました。
自宅を売却して、現金に換えておく方が、ご両親の今後の生活費、介護費用、病院
費用等々に使えるので安心である。
③
相続対策の面から考えると、3人のお子様で遺産分割協議する時に、自宅1戸を誰
が貰うかで揉める可能性があり、現金の方が分けやすいので、今まで通りに兄弟が
仲良く付き合いを続けることができる。
④
尚、老齢で自宅を利用できなくなって、自宅を賃貸に出している場合、売却する時
は、住まなくなってから3年目の12月31日までに契約できなければ、この特例を使
えなくなります。
⑤
駐車場にする為に自宅を取壊すと、1年以内にその敷地を売らなければ、「居住用
家屋譲渡3,000万控除の特例」が使えなくなり、それ以降に売ると20%の譲渡税¥8
00万程がかかるようになる。
∴
以上①②③④⑤の検討の結果、自宅の取り壊しを止めて(¥282万の節約)、建物
付きで売却し、「居住用家屋譲渡3,000万控除の特例」を適用して、売却金¥6,300
万円を現金で残すことをご提案いたしました。
ご両親とお子様全員で協議して頂
き、自宅をすぐに売却することになりました。
ご両親は自宅の持ち分を1/2づつお持ちでしたので譲渡税は0でした。
「居住用家屋譲渡3,000万控除の特例」を活用できた一例です。
(2)夫の定年を迎えて、今後自宅をどうするかの場合
①
自宅マンションを貸して、賃料として月15万)を老後の生活費に充てる。
②
自宅を売って、小さなマンションに買い換えて、もう一つ賃貸用のマンションを買
って貸し、老後の資金とする。
この場合、「居住用家屋譲渡3,000万控除の特例」を使うことが有効です。
・
この場合、ご夫婦の持分があれば、それぞれが最高で¥3,000万までの控除ができ
るので、合計で最高¥6,000万迄の控除ができるようにしておくことが大事です。
③
「20年以上連れ添った配偶者への2,000万円までの贈与非課税」を使って、配偶者
に自宅の土地の持ち分を贈与すること。
この時の贈与の評価額は、土地は「路線価」、建物は「固定資産評価価格」で計算
されますので、地価よりかはかなり低い評価で贈与でききます。
ンターネットで見ることができます。
「路線価」はイ
自分の前の道路の1㎡の値段が千円単位で
出ていますので、それに自宅の敷地の㎡数をかければ、ほぼ自宅の価格が出ます。
※
尚、簡単に自宅の相続税評価を知る方法としては、市区役所の固定資産税課で「固
定資産税評価価格」を取れば、建物はそのままの価格+土地は固定資産税評価価格
×100/80で概算ですが知ることができます。
この金額で計算した額で¥2,000万までは「20年以上連れ添った配偶者」へ非課税
制度で贈与(おしどり贈与)して持ち分を持たせておけば、介護や老人施設に入院
する時の費用を出す為に、自宅を売却する時に「居住用家屋譲渡3,000万控除の特
例」を利用して夫婦で合計6,000万円までの控除が使えますので、ほとんど税金を
払わずに大きなお金を手にすることができます。
これで、「自宅」は「最後で最高の老後資金」になります。
2009年12月9日
記