損害保険金で建物を建て替えた場合

くらしと経営の相談室
<税務編>
損害保険金で建物を建て替えた場合
パートナーズプロジェクト税 理 士 法 人
税理士 藤井英雄
Q
当 社 は 、 倉 庫 ( 帳 簿 価 額 3,000万 円 ) を 全 焼
してしまいました。
火災保険に入っていたため、保険会社から
保 険 金 5,000万 円 を 受 け 取 り ま し た 。
今 期 中 に 代 わ り の 新 倉 庫 を 5,000万 円 で 建 築
したいと考えています。
税務上の取り扱いを教えて下さい。
A
法人が建物火災により受け取る損害保険金
等の税務上の取り扱いについて原則的な取り扱
いと、特例にわけて述べることとします。
(1)原則は保険の差益が課税となる
原則は、受け取った損害保険金は全額が収入
になり、焼失した建物の帳簿価額や後かたづけ
費用は経費になります。
その差額の利益が課税所得になります。
収入(益金)損害保険金
5,000 万 円
経 費 ( 損 金 ) 倉 庫 帳 簿 価 額 3,000 万 円
保険差益
差引
2,000 万 円
ご 質 問 の ケ ー ス で は 、 2,000 万 円 の 課 税 所 得
が発生し法人税が課税されることになります。
火災にあって倉庫を建て直しただけで課税さ
れたのではかわいそうな感じがします。
そこで、保険金の差益への課税を繰り延べて
いく特例が設けられています。
但し、あくまで代わりの資産が対象になるの
で、保険金で欲しかった機械を購入した場合な
どは対象にはなりません。
(2)特例として保険差益を繰り延べ可能
●圧縮記帳とは
圧縮記帳とは、代わりに取得した資産につい
て一定金額まで帳簿価額を圧縮する方法です。
その圧縮した金額は圧縮損として経費になるた
め 、一 時 的 に 課 税 所 得 が 生 じ な い よ う な り ま す 。
圧縮後の代替資産の取得価額は、圧縮された
分減少しまので、その結果、毎期の減価償却費
が少なく計上されることにより、利益が多くで
ることになります。
よってこの制度は免税制度ではなく、課税の
繰り延べ制度であると言えます。
●圧縮を行う限度金額
圧縮記帳可能な金額は圧縮限度額と言って次
の算式により計算できます。
① 保険差益金の額
(保 険 金 等 の 額 − 滅 失 等 に よ る 支 出 経 費 の 額 )
−被害資産の被害部分の帳簿価額
② 圧縮限度額
代替資産の取得等に充てた保険金等
①×
保険金等の額−滅失等の支出経費額
(3)ご質問のケース
●圧縮できる金額
ま ず 、 保 険 の 差 益 金 は ( 1 ) の 通 り 2,000 万
円です。保険金は全額代わりの資産の購入にあ
てているので以下のような計算になります。
圧 縮 限 度 額 = 2,000×5,000÷5,000= 2,000 万 円
●経理処理例
① 建物の滅失及び保険入金時
現 金 預 金 5,000 万 円 / 建
物 3,000 万 円
/ 保 険 差 益 2,000 万 円
② 建物(代替資産)の取得時
建
物
5,000 万 円 / 現 金 預 金 5,000 万 円
建 物 圧 縮 損 2,000 万 円 / 建
物 2,000 万 円
結 果 と し て 、 2,000 万 円 の 保 険 差 益 に 対 し て 、
2,000 万 円 の 建 物 圧 縮 損 が 発 生 す る た め 、 課 税
所得は発生しません。
(中小企業の会計指針では圧縮記帳は他の処理
方法が原則ですが、実状にあわせて直接減額方
式で説明しています)
●その他
もし、今期中に新しい倉庫の建築が間に合わ
ないようなケースでは、翌期首から2年以内に
代替資産を取得する見込みである場合は、特別
勘定を設定して、圧縮記帳の適用を受けること
ができます。