2013 分田ゼミ 前期レポート

2013.10.15 分田ゼミ 前期レポート
比較文化学科 3 年 加藤芳郎
学籍番号 15211027
笑顔を忘れた若者
〜キベラの真実〜
□はじめに〜
今回、私はケニアの首都ナイロビに位置するキベラスラムの実態(以下「キベラ」と省
略する。)、とりわけ「スラム内の若者と犯罪」ついて調査を行った。キベラについて調
査するきっかけを与えてくれたのは、前期のゼミで紹介したアーティスト「 JR」の存在だ。
なぜなら彼の活動の中でキベラが紹介されていたからだ。高校時代から特にアフリカの貧
困や飢餓について興味のあった私にとって、彼が表現する世界最大級のスラム=キベラは
とてもインパクトの強いテーマであったのだ。そうして、キベラの概要を調べていく中で 、
私はキベラの「若者たち」について、特に「若者と犯罪の関わり」にフォーカスしていこ
うと決めた。幼くして世界の中でもトップクラスの貧困と戦わなくてはならないキベラの
若者たちの心理はどうなっているのか?そして、なぜ犯罪に手を染めてしまうのか?その
経緯について調査していく。さらに夏休みを利用し、実態調査行うべくケニアのキベラに
向かった。実態調査、参考文献を基に今回のテーマを熟考してみたい。
上記で述べたことを調査するにあたり、1つの大きなテーマと3つセクションの疑問に
絞り、実態調査と関連させて思考を凝らしたい。
☆テーマ 「キベラの無邪気で笑顔溢れる子どもたちが青年になった時に、アルコール中毒・ド
ラッグ中毒・精神疾患・強盗略奪に走ってしまうのは何故なのか?」
☆セクション
一、 いつからキベラスラムは実在するのか?
〜キベラスラムを形成していった歴史・過程の概要〜
二、 実際にどのような生活をしているのか?
〜キベラに住む人々について〜
三、 キベラで起きる非行行為の真実は?
〜非行に走るまでの経緯〜
まず初めに「植民地的主体論形成のために」から、キベラスラムが形成されるまでの経
緯について簡単に歴史を学ぶ必要がある。(今回の研究テーマの中心ではないので簡略化
する。)その中で特に「どのようにして」キベラが形成されたかを導きだす。キベラの根
幹について学ぶことで現在のキベラの全容を捉えることができるからだ。
次に、実際にキベラの住人の生活について詳しく知る必要がある。ここに関しては、前
回のレポートで発表した国際基督教大学の資料と私自身が行った調査を比較検討する。そ
の中で、キベラにはどのような問題があるのかを理解する。
最後に、キベラで頻発する非行について洗い出し、若者たちの心理とリンクさせる。
(※三が最後の感想・意見も兼ねる)
□一、いつからキベラは実在するのか?
キベラの成り立ちを追うには、1895年に英国が東アフリカ保護領を確立した時期ま
で遡らなくてはいけない。そう、ケニアにおける英国植民地の始まりである。当時のケニ
アの主要都市は沿岸部に属するモンバサであったが、気温・マラリア・黄熱病などが原因
で入植者の英国人が定住にするには厳しい環境下にあった。そこで、英国人が目をつけた
のが高地で肥沃で、さらに冷涼なナイロビだ。しかし、ナイロビは遊牧民族マサイの広大
な土地(マサイランド)の一部にすぎず、都市としての発達は未熟であった。そこで英国
人はマサイランドを奪い、モンバサ−ナイロビ間に鉄道を敷き、物流の流れを確保させナ
イロビの発展に力を注いだ。その鉄道工事のためにナイロビへ労働力として、英国人に強
制連行されたのが、エジプト軍の奴隷であったスーダン出身のヌビア人である。彼らは鉄
道工事現場近くの川沿いに、住居も与えられることなく生活させられた。英国人からは何
の支援もない中、自力で小屋を立てて生き延びていった彼らが「キベラスラムの起源」で
ある。それから、たくさんの出稼ぎ労働者がキベラに住み着くようになる。なぜなら、英
国人が所有するナイロビ近郊の肥沃な土地を利用したプランテーションには多大な労働力
を必要とし、そのために多くの低賃金労働者を集める必要があった。そこで英国人は、小
屋税・人頭税と呼ばれる税制度を制定し、現金獲得のチャンスのない地方の住人が村から
でて出稼ぎをしなくてはいけない状況を作り出したのだ。その他にも闇のブローカーなる
者によって、必要な労働力が地方から強制的にかき集められた。また、年間60日にも及
ぶ賦役を課して、ナイロビを中心としたインフラ整備に着手していった。
このようにして、キベラは英国人の勝手な支配体制を支える労働力を起源として、発展
していった。
□二、実際にどのような生活をしているのか?
前回レポートの「分田ゼミ 世界最大のスラム『キベラ』に住む人々」より紹介した国
際基督教大学の資料「多くのスラムが抱える問題」と私自身がキベラで調査してきた事実
を5つの分野に分けて検討しながら、キベラに住む人々の生活について理解を深めていき
たい。
※以降、国際基督教大学の資料を「国際」とし、私が独自で行った現地住人との聞き取り調査、早川
さんへのインタビュー調査の結果を「調査結果」とする。また、わかりやすくするため、国際の資料の
中でポイントとなる点にアンダーラインをマークする。
1, キベラスラムは「不法占拠」から成り立っているのか?違法なのか?
国際から引用より
「スラムは、都市部の最も立地条件悪いところにつくれる。湿地帯や海や河川ぎわ、都市
周辺部の不便な丘陵地帯などに位置することが多々ある。また、都心の公共・私有を問わ
ず空き地を貧しい人々が不法占拠し、そこがスラム化することもあり、その場合は大きな
ビルの裏とか、通りから横丁を入ったところなど。」
調査結果より・・・答えは○
キベラの立地条件は劣悪。河川ぎわに併設される形で存在する。土地は肥沃とはいいが
たく、地面はボコボコ。不法占拠として、他の地域から人々が集まっている。また驚いた
ことに、キベラには立派な「土地所有者」が存在する。そのため、キベラの住人は土地使
用料を大家に支払わなければならない。しかし、国の法令には違反しているので不法占拠
と呼ぶことができる。また、ここでの重要なポイントしとして、ケニア人の「法」に対す
る考え方があげられる。そもそも、法は西洋が持ち込んだ制度にすぎず、ケニア人には古
来から口承文化による秩序形成が重んじられてきた。その一例として「土地は人が所有で
きるものではなく、共存共有しなくてはならない」とう文化がある。この文化やキベラの
成り立ちを考えていくと、「不法占拠」という言い方に疑問を抱かずにはいられない。
2, どのような環境なの?上下水道は完備されているのか?ゴミの処理は?
国際から引用より
「スラムは、どうしても非衛生的にならざるをえないような環境。立地条件が劣悪なう
えに、上下水道の設備がほとんどない。水は、スラム外の公共の蛇口を使ったり、だれか
が掘った井戸の汚染された水をポリバケツなどで買ってきて、炊事・洗濯・水浴びに使用
したりする。市はこのような地域のゴミは下水道処理に関して何の処置もとらないので、
ゴミはそのまま投げ出され、汚水は垂れ流しにされる。地盤の低いところでは、そうした
汚物や汚水が長いあいだ停滞し、悪臭のみでなく、蚊やハエ、その他の害虫が発生する。
さらに、雨季となれば湿地帯では洪水になり汚水が床上浸水する。」
調査結果より
確かに公的な上下水道は存在しなかった。違法行為・犯罪の根源でもあるキベラなので
ケニア政府からは何の援助もない。しかし、上水道に関してはキベラ内の富豪が引いてい
て、水の販売を行っている。水は汚染されているものの、煮沸すれば充分に飲める。下水
道の処理に関して基本的に垂れ流しになる場合が多いものの、公衆トイレなるものが点在
している。公衆トイレは有料・無料なものがあり地域によって異なる。
ゴミや汚水はあちこちの歩道に適当に出される。それによって、大変強烈な悪臭を発す
る。害虫は大量発生している。特にハエの多さは圧巻。乾季であっても、汚水等の垂れ流
しで歩道が浸水している。とても人が住むには厳しい環境であると断言できる。
3,どのような人々がスラムで生活しているのだろうか?
国際から引用より
「地方から都会に移住する家族は、どちらかといえば若い 夫婦が多いということのほか、
宗教的な理由や、家計を助ける未来の労働力として 子どもが望まれることなどから子だく
さんとなる。この結果、当然のこととして、狭い限られたスペースに高密度で住み、一部
屋に数家族が生活することも稀ではない。農村で生計を立てられなくなったり、高賃金の
仕事に就くことを夢見たりして都市部に来た人々が結局仕事に就けずに、スラムに住み着
くようになる。スラムには、様々な地方からでてきた人々が集まっているため、それぞれ
の習慣が異なる。しかし、スラムに住むうちに同じ経済的条件の中で習慣は同種のものに
なっていく傾向がある。」
調査結果より
若くしてナイロビに出稼ぎにくる人は多い。夫婦とは決して限らない。キベラでは労働
力の確保のため多くの子どもが望まれる。実際にキベラの人口(およそ100万人)の半
分が子ども、8割が若者層(〜30歳)である。多くが30〜40代で亡くなる。
長屋の一部屋に3〜4家族が共に暮らすことは多々ある。上記したように、キベラで暮
らすには家賃が必要であり、部屋をシェアすることで家賃の値段を下げている。そうなる
と当然のことながら、一部屋で家族全員が眠ることができず、多くの人々が寝るときは外
にでることになる。また、キベラ内にも富豪は存在していて、低賃金を理由に「あえて」
キベラに住む人もいる。よって、キベラの住人=貧しいとは決してならない。
ケニアは、完全なコネ社会・学歴社会なため職を得ることは非常に難しい。よって、日
雇い労働や超低賃金労働に従事することが精一杯となる。(アスカリやハウスキーパー、
プラスチック集めなど) キベラには、多方面から様々な理由で人々が集まる。また、各々の部族や文化を大事に
する傾向があり、習慣がまったく同種なものになっていくことはない。キベラ内でも、同
じ部族どうしで身を寄せあうことが多く、文化・習慣・宗教など、その結束力はとても強
固なものになっている。 [調査結果+フィールドワークとリアリティより]
4, 健康面ではどのような問題を抱えているのだろうか?
国際から引用より
「下水道設備や汚物処理場がないスラム内では、生活用水、特に飲料水は不十分なだけ
でなく、汚染されているために種々の病気の感染率が高い。ただでさえ慢性的な栄養失調
の住民たちは、抵抗力がなく皮膚病や下痢をはじめ、さまざまな伝染病に簡単にかかって
しまうため、生命の危険に絶え間なくさらされる。こうした理由により、スラムにおける
下痢や結核による死亡率は非常に高い。中でも最も犠牲になりやすいのが乳幼児であり、
3人に1人が、 5歳以前に死亡するとされている。」
調査結果より
キベラに住む人々は水を煮沸して飲む習慣はもちろんなく、免疫の弱い幼児にとっては
とても危険だと言える。さらに劣悪な生活環境から様々な感染症、赤痢、下痢、コレラ、
腸チフスなどの病気にかかる場合が多い。また、ケニアでは医療は無料化している。しか
しながら、これは表向きの話で実際には薬代を請求されることが当たり前。理由としては、
後述するつもりだが、「汚職」が大きな原因になっている。
そして、現在ケニアでは8人に1人が、5歳以前に死亡するとされている。原因として、
病気の他にも「親が子どもの育て方に関して無知」であることがあげられる。
[調査結果+Save the children Japan より]
5, 子どもたちへの教育はどのようになっているのか?
国際から引用より
「スラム住民の就学率はきわめて低い。初等教育が義務であり月謝が無料であっても、通
学に際して必要となる制服代、本代、交通費、弁当代などをスラムの家庭の経済が許さな
いため。したがって、多くの子供は家庭の仕事を手伝うか路頭にさまようことになってし
まう。」
調査結果より
ケニアでは公立初等教育機関は義務教育であり無料だ。また、キベラではボランティア
活動をされている方によって設立された学校が多数存在している。その成果もあって、キ
ベラでは約40%の子どもが小学校に通うことができている。しかし、ケニアの子ども全
体の小学校就学率85%比べるとキベラの就学率の低さが分かる。また問題となっている
点として、公立などの学校と経済的に余裕のある私立の学校の圧倒的な教育レベルの差。
公立などの学校は経済的に厳しいものがあり、教育レベルが充分ではないことが顕著に
なっている。 [調査結果+JETRO より]
□三、なぜ子どもたちが非行に走るのか?
キベラでは、その貧しさ故にたくさんの非行、犯罪が横行する。それはなぜなのか?
「貧しいから」と一言で言えば、それで済むかもしれない。しかし、その理由を細部にい
たるまで検討する必要があると私は考える。また特に「若者」と関連させて考えていく。
まず、キベラでは四つの種類の犯罪に分けることができる。一つ目は主に強盗など、生
きるために物を人から奪うことに関する犯罪。二つ目はレイプ・暴力等の性に関する犯罪。
三つ目はドラッグやシンナーといった薬物関係の犯罪。四つ目は、呪術に関する犯罪だ。
この四つ目に関しては簡単に説明をする。キベラだけではなく、ケニアやアフリカ全体の
話になるのだが、昔からアフリカでは呪術が重んじられてきた。そして呪術のお告げによ
り残虐な殺人が行われてきた。その文化が未だにアフリカには存在しているのだ。した
がってこの四つ目の犯罪については言及をさけようと思う。
また、キベラのみならずナイロビ、ケニアでは強盗・殺人・暴行事件が後をたたないの
だが、具体的な件数は?と疑問にもつかもしれない。はっきり言って、その数字を出すの
は不可能だと私は思う。なぜなら、ケニアは日本のように法令に遵守した「警察官や国の
職員」はいない。ほぼ「いない」と断言していいだろう。ケニアという国は完全に汚職で
塗れている。要は「金」ですべてが決まるのだ。よって、警察官が犯罪を見つけたところ
で逮捕もしないし、例え犯人が捕まったとしても賄賂で罪はどうにでもなる。ナイロビ・
ケニアはそれほど、犯罪と汚職が蔓延してしまっている地域なのだ。その中で特に非行・
犯罪の根源となっているのはキベラである。しかし、ここで言っておきたいことは、キベ
ラはとても広いスラムであり、地域によっては比較的安全な地域もあるということだ。地
域によっては酔っぱらいが、チンピラが、娼婦が、裕福な人が多かったりと様々である。
また、キベラ内において犯罪行為にまでいたる人はとても少ない。(1割程度だと言われ
ている。)さらに、キベラ外の人間で犯罪行為をした犯人がキベラで身を隠したりしてい
る現実もある。ただでさえ、人の往来の激しいキベラでは犯人が身を隠すにはうってつけ
の場となるのだ。
さて、一つ目・二つ目・三つ目の犯罪について、今回私がテーマにした若者との関連に
ついて熟考してみる。大多数ではないのかもしれないが、幼いときにキラキラと目を輝か
せていた子どもたちが青年、若者となった時に、なぜ非行に走るようになるのか?上記で
調査したようにキベラは過酷な歴史を持ち、人として生活環境は劣悪なものであることは
間違いない。確かに幼いころは分けも分からず、無邪気に遊んでいられるだろう。しかし、
物心ついたときに「自分の将来がないことに気づいてしまう。」ただでさえ、ケニアはコ
ネ社会・学歴社会である。貧困街に生まれた人間にはお先真っ暗な世界しかない。また、
ケニアでは貧しい人間ほど理不尽な扱いを受けることが多い。何かの事件に巻き込まれて
無実の少年が犯罪者として牢に縛られることもある。学校にも行けず、やることもなく、
生きることが大変でシンナーを吸って空腹をごまかす。「ムシャクシャ」する。こういっ
た少年たちの弱みにつけ込み利用する悪い大人もいる。早川さんとのインタビューや、現
地の人々との会話を通じて思うことは、子どものころいかに「愛情」を受けて育ったか?
これからの将来に「光」を見いだすことができるのか?この二つが、キベラの「若者と犯
罪」に大きく関わっていると私は思う。しかしながら、これだけ厳しい環境なのにも関わ
らず、キベラにはたくさんの人々が一生懸命、生きようとしている。私は、その姿に感嘆
の気持ちを隠せない。
追記
今回の調査を通して、キベラの歴史や生活・現実をより詳しく学ぶことができた。実際
に肌でキベラを体感し、20年以上キベラに携わっている方から話を聞くことができ、と
ても充実していた。しかしながら、ポイントとなる非行や、犯罪へと結びつく若者と「悪
しき大人」との経路については詳しく学ぶことができなかった。それほどに、キベラ調査
はとても難しく複雑な世界だと痛感した。私自身、アフリカで何度か襲われたり、携帯を
盗まれたが、盗んだ犯人を決して恨んではいけないと思った。私は犯人を恨むのではなく、
犯罪をさせてしまっている政府を、この格差を生んだ歴史を社会を恨むべきだと。ボラン
ティア活動等で地域や特定の貧困社を支援し続けても、ケニアは変わらないと強く感じた 。
腐りきった汚職まみれの国に変革をもたらすことができなければ、ケニアは変われない。
キベラには未来はない。今回の調査という名の旅を通して思ったこと「世界は平等に不平
等」なんだと。
全[7884字] 引用「1054字」 ☆参考文献
○植民地的主体形成論のために
−植民地支配確率期における西ケニア社会の歴史民族誌−
京都社会学年報 第9号(2001) 松田素二
○ケニア大使館
http://www.kenyarep-jp.com/kenya/history_j.html(2013.10.10アクセス)
○フィールドワークとリアリティ−東アフリカ都市調査の経験から−
京都社会学年報 第12号(2004) 松田素二
○実態調査(現地に住人への質問など)
早川千晶さん・・・ナイロビに定住し、20年以上に渡りキベラスラムの支援をしている。プロ
フィール詳細 http://keepmusic.exblog.jp/i4(2013.10.10アクセス)
○Save the children Japan
http://www.savechildren.or.jp/scjcms/everyone.php?d=473(2013.10.10アクセス)
○JETRO ケニア BOP 層実態調査レポート
http://www.jetro.go.jp/theme/bop/precedents/pdf/lifestyle_education_ke.pdf
(2013.10.10アクセス)
○国際基督教大学、学生研究
https://sites.google.com/site/grouppaulineprojectkenya/home (2013.10.10アクセス)
○Nairobi Half Life ケニア映画