膵臓がんの 症状と治療 2010 年4月26日作成 医療法人財団 神戸海星病院 目 次 ① 膵臓の解剖 ・・・・1 ② 特徴 ・・・・2 ③ 診断方法 ・・・・2 ④ 進行度 ・・・・3 ⑤ 当院での治療法 ・・・・4 Ⅰ.手術治療 ・・・・4 Ⅱ.内視鏡的ステント留置術 ・・・・9 Ⅲ.化学療法 ・・・・10 手 術 実 績 膵臓悪性腫瘍手術 1 H19 年度 11 例 H20 年度 16 例 H21 年度 9例 膵臓の解剖 膵臓は、食物の消化を助ける膵液を作る働き(外分泌)と、インスリンやグルカゴンなど血糖値 の調整に必要なホルモンを産出する働き(内分泌)の二つの役割をする臓器で、十二指腸側から 順に膵頭部、膵体部、膵尾部の3つに大別されます。成人で長さ約 15cm 前後の洋ナシを横に したような形をしています。 1 2 特 徴 膵臓がんは、早い段階では特徴的な症状はありません。膵臓はおなかの深いところにあり、胃や十 二指腸、小腸、大腸、肝臓、胆嚢、脾臓などの後ろに隠れています。膵臓を意識して検査をしなけ れば発見しにくいがんです。進行が早く転移しやすい点、進行がんになると手術が難しい点などから、 やっかいながんの一つとされています。 最もがんができやすい部位は膵頭部で大半を占めています。 原 因 糖尿病、慢性膵炎、遺伝性膵炎、タバコが膵臓がんのリスクファクターといわれています。 特にタバコ、糖尿病は影響が大きいとされています。 自覚症状 ・膵頭部がん・・・主な初発症状のうち、疼痛(心窩部痛)が 7 割程度を占め、頻度が最も高いです。 黄疸(皮膚や白目が黄色くなる症状)、白色便、皮膚掻痒、発熱などがみられます。 ・膵体尾部がん・・持続性の心窩部痛や背部痛がみられます。黄疸はみられにくく、体重減少や多飲・ 多尿がみられます。 3 診 断 方 法 一般的には、腹部エコーやCTを行い、質的・部位診断を行います。膵臓がんの広がりなどを調べ るために、下記の検査を必要に応じて行います。 ・EUS(超音波内視鏡) ・・・ 深達度診断を見るために使用します。 ・ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)・・・ 深達度診断を見るために使用します。 ・CT ・・・ リンパ節転移・他臓器浸潤の有無を確認します。 ・MRI ・・・他臓器浸潤の有無を確認します。造影剤を使う場合、アレルギーが 起こることがあります。 ・MRCP(磁気共鳴胆管膵管撮影)・・・ 深達度診断を見るために使用します。 内視鏡や造影剤を使用しないため、負担が少ない検査です。 ・PET・・・ 再発・治療効果判定のために使用します。 (※他院での検査となります) 2 進 行 度 4 ● ス テ ー ジ ● 膵臓がんの治療法を決めたり、また治療によりどの程度治る可能性があるかを推定したりする場合、 病気の進行の程度をあらわす分類法で、「ステージ」とも呼ばれます。 I 期:がんの大きさが 2cm以下で膵臓の内部にとどまっており、リンパ節、他の臓器、 胸膜、腹膜(体腔の内面をおおう膜)にがんが認められないものです。 いわゆる早期がん、初期がんと呼ばれているがんです。 Ⅱ期:がんの大きさが 2cm以下で膵臓の内部にとどまっているが、第 1 群のリンパ節に がんの転移があるものです。 もしくは、がんの大きさが 2cm以上で膵臓の内部にとどまっており、リンパ節、 他の臓器、胸膜、腹膜(体腔の内面をおおう膜)にがんが認められないものです。 Ⅲ期:がんの大きさが 2cm以下で膵臓の内部にとどまっているが、第 2 群のリンパ節に がんの転移があるものです。 もしくは、がんの大きさが 2cm以上で膵臓の内部にとどまっており、第 1 群の リンパ節に転移があるものです。 または、膵臓の外へ少し出ており、リンパ節転移はないか、第 1 群までのリンパ節に 限られているものです。 Ⅳa 期:がんが膵臓の外へ少しでており、第 2 群のリンパ節に転移があるものです。 または、がんが膵臓周囲の血管におよんでいるが、リンパ節転移はないか、第 1 群 までのリンパ節に限られているものです。 Ⅳb 期:がんが膵臓周囲の血管におよんでおり、第 2 群のリンパ節に転移があるものです。 または、第 3 群のリンパ節転移があるか、離れた臓器に転移があるものです。 3 5 当院での治療法 日本膵臓学会「膵癌診療ガイドラン」に基づき治療方針を決定しております。 日本膵臓学会「科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン 2006 年版」 (金原出版)より一部改変 I 手術治療 膵臓がんでは、手術治療が最も一般的な治療方法になっています。手術は、がんを含めて膵臓と 周囲のリンパ節、臓器などを切除します。 手術対象となるのは、 1)肝臓や肺などにがんが転移していない場合 2)腹膜播種(お腹の中にがんが種をまいたように飛び散っていない)がない場合 3)重要な臓器に栄養を運ぶ大きな血管(上腸間膜動脈、腹腔動脈、肝動脈)にがんが広が っていない場合 になります。 当院での手術時間は約10時間です。通常出血量は、800mlと多く輸血を行うケースが多いで すが、出血量は平均 380mlで、輸血を一切行っておりません。(H21 年度実績より) また、臓器を吻合する際、器械をなるべく使用せず、手縫いをおこなっており、合併症として起こ りうる縫合不全が極めて少ないです。 次に、当院で可能な膵臓がんの代表的な 5 つの手術について御案内します。 4 1. 幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(PPPD) 膵頭部を中心にがんがある場合に行われます。十二指腸、総胆管、胆嚢を含めて膵頭部を切除 します。切除後には、膵臓、胆管、消化管の再建が必要になります。 2.の膵頭十二指腸切除術(PD)との大きな違いは、幽門輪を残し、胃を大きく切除しない術式にな ります。この術式は、現在、膵臓癌の標準術式となっています。 また、胃を少しだけ切除する亜全胃温存膵頭十二指腸切除術(SSPPD)も行われています。 ・メリット・・・・・胃が残るため、術後、食事摂取が可能です。また体重減少もあまり見られません。 ・デメリット・・・・胃酸が多く出るところを残すため、吻合部(小腸)潰瘍ができやすくなります。その ため、術後より胃酸を抑える薬を飲んでいただくようになります。また、リンパ節転移が ある広範囲な症例には適応となりません。 切 除 切 除 切 範 囲 幽門輪 切除線 再 建 方 法 膵臓、胆管、胃の順に吻合します。 5 2.膵頭十二指腸切除術(PD) 膵頭部を中心にがんがある場合に行われます。胃(広範囲又は幽門洞)、十二指腸、総胆管、 胆嚢を含めて膵頭部を切除します。切除後には、膵臓、胆管、消化管の再建が必要になります。 切 除 範 囲 切除線 再 建 胆管 方 法 胆管 胆管 膵臓 膵臓 膵臓 胃 胃 胃 小腸 小腸 小腸 ・Child法(チャイルド法)・・・・・・膵臓、胆管、胃の順に吻合します。当院でよく行われている再建 方法です。 ・Whipple法(ウイップル法)・・・胆管、膵臓、胃の順に吻合します。 ・Cattel法(キャトル法)・・・・胃、膵臓、胆管の順に吻合します。 一般的によく行われているのも、Child 法です。Child 法の場合、膵臓と小腸の吻合部分で、万一、 縫合不全が起きた際にも食事摂取が可能です。 6 3. 膵全摘術 がんが膵臓全体に広がっている場合に行われます。 多くの場合は、十二指腸、胆管、胆嚢、脾臓も切除します。切除後は、胆管と空腸、胃または十二 指腸と空腸を吻合します。 この手術を行うと、膵液を分泌する機能やインスリンを分泌する機能が無くなってしまうので、イン スリン注射、消化酵素剤の内服が必要になります。 切 除 範 囲 切除線 再 建 方 法 7 4. 膵体尾部切除術 膵体尾部にがんがある場合に行われます。膵臓の体部と尾部を切除します。通常は脾臓も摘出 を行います。切除後の消化管再建は必要ありません。 切 除 範 囲 切除線 5. バイパス手術(胃空腸吻合・胆管空腸吻合) 切除不能の進行がんに対して行いますが、最近では、非手術的治療として II にあります内視鏡に よるステント留置術が当院でも行われています。 a:胃空腸吻合:がんによって十二指腸が閉塞している場合に行われ、食事が通るように道 (バイパス)を作る手術です。 b:胆管空腸吻合:膵頭部のがんによって胆管閉塞、狭窄のため黄疸が出る場合に行われ、 胆汁が流れるように道(バイパス)を作る手術です。 a b 胆管 胃 胃 胆嚢 十二指腸 8 空腸 空腸 Ⅱ 内視鏡的ステント留置術 主として黄疸のある切除不能の膵臓がんが対象となります。がんによって、胆管閉塞がおこると胆 汁の流れが悪くなり黄疸(閉塞性黄疸)がでます。閉塞性黄疸や胆管炎(胆管の感染)が起こると、 大きな手術や抗がん剤治療などができなくなる場合があります。 内視鏡ステント留置術は、内視鏡を用いてステントと呼ばれる細い網目状の金属の管を、閉塞し ている部分に入れ、胆管の幅を広げることにより胆汁の流れを改善させる目的で行われます。 胆 汁の流れが改善され、黄疸がなくなってくると手術や抗がん剤治療を行うことができます。 9 Ⅲ 化学療法 1.抗がん剤治療 当院では、外来通院で行っております。(初回のみ入院が必要なケースもあります) 治療は、がん細胞を殺す薬を注射します。抗がん剤は血液の流れに乗って手術では切り取れない ところや、放射線を当てられないところにも全身に行き渡ります。多くは他の臓器にがんが転移してい るときに行われる治療ですが、単独で行われる場合と、放射線療法や外科療法との併用で行われ る場合とがあります。 ○抗がん剤の副作用について 抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常な細胞にも影響を及ぼします。 特に髪の毛、口や消化管などの粘膜、骨髄など新陳代謝の盛んな細胞が影響を受けやすく、脱毛、口内炎、 下痢が起こったり、白血球や血小板の数が少なくなることがあります。 その他、だるさ、吐き気、手足のしびれや感覚の低下、心臓への影響として動悸や不整脈が、また肝臓や 腎臓に障害がでることもあります。 現在では、抗がん剤の副作用による苦痛を軽くする方法が進んでいますし、副作用が著しい場合には治療 薬の変更や治療の休止、中断などを検討することもあります。 「国立がんセンター がん情報サービス」より引用 2.化学放射線療法 化学療法と放射線療法を同時併用し、手術のできない患者様や手術を希望されない患者様に対 して、治療効果を高めます。 当院では、放射線治療設備は備えておりませんので、近隣の提携医 療機関を受診していただくことになります。 ○放射線治療の副作用について 主として放射線が照射されている(された)部位に起こります。 症状は部位や照射量によって異なります。一般的な副作用としては、吐き気・嘔吐、食欲不振、血液中の 白血球の減少などです。まれに胃や腸の粘膜が荒れて出血し、黒色便が出たり下血することもあります。 最近はコンピュータによって照射部位を限定して放射線をかけられる技術が進歩しており、腸などの消化管 への副作用を減らすことができるようになりました。 「国立がんセンター がん情報サービス」より引用 10
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