オープンソース(Knoppix)をベースとした情報 教育 とプログラミング教育 野村 松信, 秋田公立美術工芸短期大学 ● Education of the information literacy and computer programming based on Open Source system (Knoppix system) 図1 学内情報システム概要 We were utilizing Open Source system( the Knoppix system ) for the education of computer, 2. 背景 2005-2008. And we are now utilizing the new 2005年度の教 育用情報システム更新時において , Knoppix system, using NetBoot system, 2009- 新入生の自宅でのパソコンの普及状 況(図 2)及び 2013. In this paper, I introduce the education 高等学 校における普通教 科「情報」の導入に伴う新 system of the information literacy and the 入生の情報関 連知識の向上を考慮し,一般情報教 育 computer programming for the students of junior システム環境を整備することとした.また,現在の college of arts 教 育用パソコンの基本ソフト(OS) が,特定のメ ー カー に依存していることによる弊害の問題解決の 一つとして”オー プンソー スウェア”の利用がある. 国 国 のいくつかの教 育機関 等でも導入されているオ 1. はじめに ー プンソー スのKnoppixを導入し , 美術系短大の情 本学 は,工芸美術学 科と産業デザイン学 科の二学 科 報教 育・ プログラミング教 育に必要なアプリケー シ で構成され , 全学 生数 が約340名の小規模の芸術系 ョンソフトを整備しながら,本学 の学 生にとって使 短期大学 である.[1] いやすい教 育システムに改良した.さらに,今年度 本学 の情報システムは , 4年又は5年のリー ス物件 ( 2009年度 ) のシステム更新では , これまでの調 であり , 基幹ネットワー クシステムをベー スに教 育 査研 究から判明した課題・ 改善点を反映し, 教 育情 研 究支援,学 務,図 書,一般情報教 育,デザイン専 報システムをさらに使いやすいものに改善すること 門教 育の各システムから構成されている(図 1). を目的とした . [2] 本研 究は, 芸術系短期大学 において,2005年度か 100% ら一般情報教 育用に導入した情報教 育システム ( Knoppix ) を用いた情報教 育およびプログラミ 80% ング教 育の事例紹介である. 60% 40% Mac Win Knoppix 20% Win Win Mac 0% 一般情報 シ ステム 図書 シ ステム 学務 シ ステム 教育 研究支援 デザ イ ン専 門教育 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 ??? 図2 自宅PCの所有率の変化 3. システム概要 3-1. LinuxとKnoppix(クノーピクス) Linuxは , 1991年に当 時フィンランドの大学 生だっ 基幹情報ネットワークシステム たLinus Torvalds氏が開発 したOSのカー ネルであ る . そのソー スを無償で公開し , 「 無償利用が可 Mac.: Macintosh / Win.: Windows 能」,「再配布が可能」,「自由に改変が可能」で 野村 松信 | オ"ープンソ"ー(Knoppix)をベ"ースとした情報教育とプログラミング教育 107 あり,誰でも自由に扱えるが特徴である. 3-2. デュアルブー トシステム Linuxは , カー ネル部分のみであり , パソコンの起 2005年から2008年のシステムでは , Knoppixのみ 動機能やユー ザとのインター フェイスについては別 を採用した . しかし , これまでの4年間のアンケー 途プログラムが必要である . Linuxカー ネルとそれ ト結果 , 学生の要望が大きいWindowsシステムの 以外に必要なプログラムを用意し , ユー ザがLinux 導入について検討し,今年度の更新では,学生にと を簡単に利用できようにパッケー ジしたものが って , すでに入学以前に経験のある Windowsシス 「 Linuxディストリビュー ション 」 である . 現在 , テムも導入しながら , Linux(Knoppix)をメインOS 主なディストリビ としたデュアルブー トシステムを導入した.学生は, ュー ションとして下記のような種類がある(表1). パソコンに電源投入直後に , 希望するOSを自由に 選択可能である. 表1 今回導入した新Knoppixは , ネットブー ト方式を採 主なLinuxディストリビュー ショの種類 名称 関連URL Knoppix www.knoppix.net/ Berry Linux yui.mine.nu/linux/berry.html Ubuntu www.ubuntu.com/ OS名 起動方式 Red Hat Enterprise www.jp.rehat.com Knoppix 5.3.1 ネットブー ト方式 主 Windows Vista HDDブー ト方式 副 用し , Windowsは , HDDブー ト方式を採用した (表2). 表2 各システムの起動方式 Linux 主/副 Fedore Core Fedora.redhat.com ネットブー ト方式は , イメー ジキャッシュによりネ Debian GNU/Linux www.debian.org/ ットワー ク障害時でも安定運用を可能とし,また, SUSE www.novell.co.jp/ マルチキャスト配信により複数パソコンの同時起動 時における起動時間を短縮した. Linux,openSUSE Turbolinux www.turbolinux.co.jp 従来のKnoppixは , CD-ROMイメー ジをHDDに常 Miracle Linux www.miraclelinux.com 駐させ , 個人設定ファイルは , 個人管理のUSBメ Gentoo Linux www.gentoo.org/ モリに保存し,携帯する方法を採用していた.しか Mandriva Linux www.mandriva.com/ja/ し , USBメモリを忘れる学生数も少なく無く , 授 Vine Linux Vinelinux.org/ 業に支障をきたすケー スもあり,システム上必要な Slackware Linux www.slackware.com 個人設定ファイルは , 学内サー バー 上に保存するよ うに変更した . また , 全学生へのCD-ROM配布は 廃止した. ドイツのKnopper氏がDebian GNU/Linuxパッケー Windowsシステム(Windows Vista Business)は, ジを元に開発したCD-ROM1枚のみで起動可能な HDDに常駐する方式であるが , ウイルス対策や管 システムで,初期設定ファイルが破壊される心配が 理上の利便性を考慮し , 起動時にPC上のデー タは , 無く,管理者のメンテナンスが不要なシステムであ すべて初期化する方式とした . 個人のデー タは , る.また,ハー ドウェアの検出能力に優れており, USBメモリ,またはファイルサー バ上に保存するこ 自動的にネットワー ク設定が行われ , 多くのフリー ウェアのアプリケー ションソフトが利用可能である . ととした(図3). [3] 커뮤니케이션디자인학 연구 제 29 호 (2009.02) 108 フト(AutoCAD/Rhinocerosシリー ズ ) は,有償ソ フトを5セットのみの導入した. 学生画面監視用ソフトは , 授業で利用するOSが Knoppixであること , および予算上の都合から Linux向けのソフトウェアLycaonを導入した. Lycaonは , 教員のパソコンから全学生のパソコン を閲覧・ 操作が可能であり,各学生の作業の進捗状 況の管理可能となるソフトウェアである. 図3 新システムの概要 今回導入した主なアプリケー ションの一覧を表4に 示す. 3-3. ハー ドウェア 表4 導入アプリケー ション一覧 教員用(2台)と学生用(80台)のパソコンは,安 概 要 ソフト名 定運用することを目的に主メモリを4GBに増設した. オフィスソフト 周辺機器として,学生個人ごとの利用状況を管理で きる白黒レー ザプリンター (4台),パソコン2台あ Knoppix Windows OpenOffice.org ○ ○ Webブラウザ Firefox ○ ○ PDF表示 Adobe Reader ○ ○ ○ ○ たり1台のセンター モニター ,イメー ジスキャナ(2 Adobe Flash Flashプラグイン 台),プロジェクター 装置(2台),マイクアンプ Player 装置(1セット)を配置した.なお,学生用パソコ 統合開発環境 Eclipse ○ ○ ンの主な仕様は,表3のとおりである. Java Sun-java6 ○ ○ Gimp ○ ○ 表3 ハー ドウェア仕様(学生用PC) フォトレタッチソフ 機種名 FMV-D5270 ト メー カ名 富士通 ドロー 系描画 ソフト Inkscape ○ ○ CPU Intel Core 2 Duo E8400 3GHz ドロー 系描画 ソフト Xara Xtreame ○ - メモリ 4GB FTPソフト gFtp ○ - HDD 80GB FTPソフト FFFTP - ○ プログラミング環境 Squeak ○ ○ 学生画面監視 Lycaon ○ - ○ - - ○5台 - ○5台 - ○5台 3-4. 主な導入アプリケー ションソフト 一般情報教育および自主学習で利用するアプリケー Sophos Anti- ションソフトウェアとして,Knoppix版,Windows アンチウィルス 版ともに主にオー プンソー スのアプリケー ションソ Virus for Linux フトを中心に導入した.情報教育用としてオフィス MS- 系ソフトにはOpenOfficeを , プログラミング教育 オフィスソフト る総合開発環境のEclipseを導入した . 画像処理 3DCG/CAD Office2007 用としてSqueakおよび一般でも良く利用されてい AutoCAD 2009 Rhinoceros/ ( フォトレタッチ系 ) ソフトとして , Gimpを導入 3DCG/CAD した. Flamingo/ Penguin/Bongo ただし , 専門教育で必要となった3DCG/CAD系ソ 野村 松信 | オ"ープンソ"ー(Knoppix)をベ"ースとした情報教育とプログラミング教育 109 3-5. コンピュー タ教室 一般教育用コンピュー タ室が2教室あり ( 写真1 ) , る. ①「生活と情報」:情報化社会を生活者から立場か 今年度からは,コンピュー タ室1を講義専用教室と ら理解し,「くらし」におけるコミュニケー ション し,コンピュー タ室2を演習・ 自習教 室とした. の意味,また,メディアが私たちの生活に与える影 また,講義専用のコンピュー タ室1には,マイクシ 響を学ぶ.成果物としてプレゼンテー ションを実施 ステムを導入し,授業改善を図った. する. ② 「 情報数学入門 」 : 情報処理技術・ CGソフト等 の基礎 的な原理となっている論理数学,線形代数(ベクト ル・ 行列)を学ぶ. ③「情報デザイン入門」:様々なものを一度情報と して捕らえ,視覚化することを学び,様々な情報を コミュニケー ションの道具にする際に必要となるデ ザイン手法を習得する. 写真1 コンピュー タ教室 4-3. 情報教育システムの評価結果 4. 情報教育 過去4年間,新入生を対象に高等学校までの情報教 4-1. 必修科目「情報リテラシー 」 育等に関するアンケー トを実施している.本学の新 本学の学内情報システムを利用し,学生生活を送る 入生が , 入学前までに経験しているOSは , 80%以 上で必要な基本的な情報スキルを身に付ける.さら 上がWindowsである(図4).ほとんどの学生は, に,クリエー タとして,情報収集・ 情報発 信に必要 入学後に初めてKnoppixを操作する. な技術を身に付ける目的で,必修科目「情報リテラ 200 シー 」を開講している.主な内容は,下記のとおり 154 である.(< >内の数字は,コマ数を示す.) 150 ①学内情報システムに関するガイダンス <2> ? 137 97 100 ②オフィスソフトの基本操作<3> 80 50 ③著作権・ 情報倫理・ 情報セキュリティの基礎 32 28 8 12 <3> 2 1 2 0 0 Windows ④情報・ ネットワー ク・ 情報機器の基礎<4> 2006?? 푸푸類 Mac 2007?? 2008?? 2009?? ⑤情報検索の基礎<1> 図4 入学以前に経験済みOS ⑥画像ファイル・ 画 像処 理の基礎<1> 入学以前まで , 操作したことが無いOSを情報教育 ⑦筆記試験<1> に使用することは,特に,工学系でない芸術系学生 にとって敷居が高く,課題となるのでは考えた. 4-2. その他の関連科目 そこで , 入学直後のKnoppixを使用した印象と約3 “情報”,“情報システム”および“情報のデザ ヶ月経過後の印象について調査した ( 図5 , 図6 ) . イン”の理解を深める目的で,1年後期・ 2年前期 において,選択科目として下記の科目を開講してい 커뮤니케이션디자인학 연구 제 29 호 (2009.02) 110 表現)」として利用する場合の二通りと考える(図 7). :2006年 :2007年 :2008年 現在の芸術系学生のコンピュー タ教育は,コンピュ _ ー タ操作を中心した「ツー ル(道具)」利用のため 100 の教育が中心となっている.しかし,私は,コンピ 75 約41% 70 68 ュー タを新しい素材として捉えるための教育として , 65 プログラミング教育が必要と考えた. 54 50 41 44 コンピュー タ 25 25 18 17 15 13 14 2 5 7 0 1 2 3 困難← 4 5 ふつう →簡単 ツー ル 新しい素材 (道具) (新しい造形表 現) 図5 Knoppixの第一印象 図7 コンピュー タの利用目的 その結果 , 入学直後は , 約41%は難しいと感じた が,3ヶ月後には,約19%に減少することがわかっ 「ツー ル(道具)」としての利用は,従来,手作業 た.これによりKnoppixによる情報教育は,芸術系 で可能な作業(表現)をより正確に,かつ効率良く 学生にとっても大きな弊害とならないと判断した. 実行する為である.一方,「新しい素材(新しい造 形表現)」としての利用は,これまで手作業では表 _ 現できなかった造形表現を可能とする試みである. 100 例えば,作品(作 84 74 76 75 者)と鑑賞者間のインタラクティブな表現方法であ 約19% 50 る. 44 25 25 33 29 コンピュー タを「新しい造形表現」の素材として扱 25 20 9 6 4 3 うためには,コンピュー タ(情報)に対する正しい 13 12 理解と知識・ 技術が必要であり,その一つが,「プ 0 1 困難← 2 3 4 ふつう 5 ログラミング」技術である.本学では,現在,教育 用のプログラミング言語として →簡単 , Java言語と Squeak Toys(タイル・ プログラミング)を採用し 図6 Knoppixの3ヶ月利用後の印象 ている. 5. プログラミング教育 5-2. 本学のプログラミング教育 5-1. 芸術系学生にとってのコンピュー タ 本学では,1年後期・ 2年前期に,専門科目「プロ 芸術系学生(クリエー タ)にとって,コンピュー タ グラミング入門」,「プログラミング演習」および ( パソコン ) を利用する目的は , 「 ツー ル ( 道 「 CGプログラミング 」 を選択科目として開講して 具)」として利用する,「新しい素材(新しい造形 いる. 野村 松信 | オ"ープンソ"ー(Knoppix)をベ"ースとした情報教育とプログラミング教育 111 「プログラミング入門」,「プログラミング演習」 では,Java言語の基本文法およびオプジェクト指向 プログラミングの基礎知識を学び,数多くの小規模 の例題(サンプルプログラム)を実行しながら,プ ログラミング技術を習得する. 内容は,リテラル/変数/演算子/分岐処理/繰返 し処理/配列/クラスの基本/メソッド/オブジェ クト/等である . また , Webブラウザで動くアプ レットについても紹介し,グラフィカルなプログラ ム,インタラクティブなプログラムの作成方法を習 図9 学生作品2 得する. 「 CGプログラミング 」 では , SqueakToys環境を 利用し,タイル・ プログラミングの手法を用い,自 図10の作品は , イベント処理を理解する目的の課 由な発想によるインタラクティブな作品の制作手法 題の作品である.ユー ザのマウスの動作,マウスポ を習得する.なお,SqueakToysに関する詳細は, インタの座標値の違いにより,描写する図形の位置 参考文献等[4]に示すとおりである. と色が変化する作品である.ポインタ座標と描画色 情報の関連性により,表現が変化する作品である. 5-3. 学生作品の紹介 (ソー スリストは,添付資料として掲載した.) 「プログラミング入門」,「プログラミング演習」 で作成したJavaを用いた学生作品を紹介する. 図8 学生作品1 図10 学生作品3 図8と図9の作品は , 繰り返し処理と図形オブジェ クトを利用した作品である . 図形の描画は 6. まとめ , JavaAppletクラスを利用した.(ソー スリストは, 本研究では,一般教育用情報システムとして導入事 添付資料として掲載した.) 例の少ないLinuxディストリビュー ションの一つで あるKnoppixシステムの導入事例について紹介した . 工学系の専門教育での実績が多いオー プンソー ス 커뮤니케이션디자인학 연구 제 29 호 (2009.02) 112 (Linux )システムを芸術系短期大学の学生が利用 8.参考文献等 することの課題等を確認しながら,将来,初等・ 中 [1]http://www.amcac.ac.jp/ 等教 育においてもオー プンソー ス(Linux )システ [2]野村松信 : 芸術系短大におけるKnoppixを用い ムの利用が可能性が確認できた . オー プンソー スの た情報教育 , 第24回ファジィシステムシンポジ 特徴を生かし,教育過程のレベルに合わせ,使いや ウム講演論文集,pp.248-250,2008 すいメニュー 構成とし,また情報教育教室の環境整 [3]http://www.rcis.aist.go.jp/project/knoppix/ 備することで,使いやすい教育システムを構築でき [4]http://squeakland.jp/ ることがわかった. [5]http://art-science.org/ 本学の新入生が , 入学前までに経験しているOSは , 80%以上がWindowsである . ほとんどの学生は , 入学後に初めてKnoppixに触れるが, 調査の結果, OSの違いによる教育上の問題が無いことがわかり , 今後もシステム更新時にも , 継続してオー プンソー ス(Linux )システムを採用する方針とした. また,現在の過渡的な状況を考慮し,今年度のシス テム更新においては,学生の要望も反映しながら, Windowシステムとのデュアルブー トシステムを導 入し,より利用しやすい情報教育環境を構築した. 7.課題と今後の計画 近年,芸術と科学の融合領域を対象とする芸術科学 の分野の研究活動も活発になっており,新しいメデ ィアによる表現方法の芸術作品が発表されている. [5] しかし,現在,本学においては,プログラミング教 育とデザイン専門教育との連携については,まだ不 十分であると考える.また,今後の高等学校におけ る情報教育の充実や社会の情報基盤の進展も考慮し, 次期教育情報システムの導入について下記のような 課題の検討を進めていく計画である. ①高等学校における情報教育の進展に併せて,今 後も芸術系学生に必要な情報教育・ プログラミング 教育のカリキュラムの整備をする. ②運用管理コストの安価な教育用情報システムを 安全かつ安定した使いやすい教育用システムとして 構築のための調査研究を進める. 野村 松信 | オ"ープンソ"ー(Knoppix)をベ"ースとした情報教育とプログラミング教育 113
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