情報通信 1992 ◎解説の角度〔1992 年版 情報化社会〕 ●ますます進む高度情報化社会への道。人々の暮らしはパソコン通信などオンラインネットワーク無しでは、考えられないと言ってもよい。 ●それとともに情報化によるマイナス面もクローズアップされてきた。代表的なのがコンピュータ・ウイルスだ。またダイヤルQ2に代表される情報化社会と 性風俗の問題など社会問題化しているものも多々ある。 ●こうした犯罪のウイルスにはワクチンソフト、性風俗には倫理委員会など、様々な防御策が取られているが、すでに法律では取り締まることすら不可能な犯 罪も出現しつつあり、より高度な情報化社会に向けた法体形の整備が急務となりつつある。 ■ダイヤルQ2(Dial Q2)〔1992 年版 情報化社会〕 NTTの新しい電話によるサービス「情報料自動課金サービス」の愛称名。アメリカの「900 番」サービスの日本版で、電話を使った様々な情報を利用する際 の情報料をNTTが情報提供者(IP‐Information Provider)に代わって、通話料と一緒に徴収するシステム。一九八九(平成一)年からサービスを開始。当 初は番組数も約一○○程度だったものが九一年には、八二○○に、契約回線も一二五○から五万二六○○に急増。それに伴いNTTの収入も、九○年度は二七 八億円で、対前年度約一三九倍と飛躍的な伸びを見せ「NTTの戦後最大のヒット商品」という声すらある。しかし番組の半数以上が女性の淫らな声を流した り、不特定多数との会話ができる「パーティーライン」で占められているため、社会問題化。また番組全体の半数以上が三分間三○○円という高額料金のため、 月の電話代が数十万円にもなる人が続出し、全国で「未成年の子供が親に内緒でかけた電話代を払う義務はない」とする訴訟が相次いでいる。さらに情報料の 九%をNTTが回収代行の手数料として徴収していることなども手伝って、NTTに対する圧力は日増しに強くなってきている。 このためNTTは希望者にはダイヤルQ2のサービスを受信できなくする装置を交換機に設置するとともに、それが不可能な旧式の交換機を使用している地域 のダイヤルQ2サービスを交換機の入れ替えまで停止。全国の四割を超える地区でダイヤルQ2のサービスが受けられなくなってしまった。これは逆にニュー スなど真面目な番組を提供しているIPから「営業を侵害するもの」と抗議が出る騒ぎとなっている。 一方、番組を提供する側からも内容を健全化しようという動きもある。ダイヤルQ2の番組も映画やビデオソフト、放送のように倫理コードいわゆる「テレ倫 コード」を作る動きが活発化し、すでに全日本テレホンサービス協会をはじめ業者団体の音声VAN振興協議会、日本電話倫理協議会の三者がコード作成に着 手。九一年五月には全日本テレホンサービス協会が露骨な性的表現の番組で、協会の再三の警告を無視して流し続けている数十件のIPとの契約を解除するよ うNTTに勧告した。 電話の先進国でもあるアメリカ社会の 900 番サービスも、開始当初は「ポルノ的な番組」が横行し、AT&Tも対策に苦慮したが、年とともに利用者からあき られ今ではニュースのほか福祉関係や地域情報の交換の場として市民生活に根付いている。とかく情報はタダという感覚が根強い日本人社会の中に、初めて登 場した料金課金システムのダイヤルQ2が今後どのような経路をたどって成長していくかは、そのまま日本の情報化社会の成熟度に結び付いているともいえそ うである。 ★1992年のキーワード〔1992 年版 情報化社会〕 ★成層圏無線中継(stratosphere‐stationary radio relay)〔1992 年版 情報化社会〕 成層圏に浮かべた飛行体を無線中継基地として活用する新しい電波利用システム。郵政省が「成層圏無線中継システム研究会」を組織し二一世紀初頭の実用化 を目指している。高度二○キロ程度の成層圏に大型グライダーや飛行船を上げてこれを無線中継基地として利用する。中継可能な範囲が大幅に広がりかつ衛星 中継に比べてコストが低いなどのメリットを持ち、離島間通信や航空機との交信などへの活用が考えられる。また飛行船などに代わって流れ星を使うシステム の研究も進んでいる。こちらは静岡大学の研究グループを中心に実験が進められているが、すでにアメリカでは農務省が全米五四○の端末から同方法で気象デ ータを実験的に集めている。 ★情報化白書(Informatization White Paper)〔1992 年版 情報化社会〕 通産省の外郭団体・財団法人・日本情報処理開発協会がまとめた白書。正式には「一九九一年版情報化白書」という。白書ではまず総論として「情報化の広が り産業として個人へ」をテーマに社会、地域、産業、そして個人の生活にまで多方面に広がる情報化と個人とのかかわり方を論じている。このほか情報化、環 境・基盤整備、国際などテーマ別に現状を報告するとともに各種統計などの基礎データをまとめたデータ編もある。具体的には情報化の進展は「ゆとりと豊か さのある生活を実現する有効な手段」とする半面でプライバシーの侵害など「陰の面」にも着目し一歩対応を誤れば「個人、社会にマイナスの影響を与える危 険性も」と指摘している。 ★迷惑電話おことわりサービス〔1992 年版 情報化社会〕 いたずら電話などを受信者に代わってNTTが文字どおり「おことわり」するサービス。NTTが全国三○○○人を対象に行ったアンケートによると五八%の 人が「過去一年間に迷惑電話を受けたことがある」と答えている。同サービスはこうした「声の暴力をシャットアウトする決め手に」と導入される。加入者が 迷惑電話を受けた場合、いったん電話を切り特別な数字をダイヤルすると、迷惑電話をかけてきた相手の電話番号が交換機に登録され、再びその電話番号から かかってくると交換機が受信者に代わって「この電話はおつなぎできません」というテープを流す。NTTは、毎月の利用料金をキャッチホンなみの月三○○ 円として郵政省に認可申請をしており、一九九一(平成三)年度中の実用化を目指している。 ★デジタルコードレス電話(Digital Cordless Telephone)〔1992 年版 情報化社会〕 現在、人気を集めているコードレス電話の次世代版。これまでのコードレスがアナログ方式なのに比べてデジタルは、盗聴防止機能に優れているのが特徴で、 社会問題化しているコードレス電話の盗聴を解決する切り札として期待される。また電波の届く範囲が広いためトランシーバーや携帯電話に近い形での使い方 も可能になる。郵政省は実用化を急ぐため、国内の電話機メーカーと共同で実用試験に取り組み始めており一九九三(平成五)年中の実用化を目指している。 実験では「音声の品質」「混信の有無」などをチェックし正式に規格を決定しこれを経て各メーカーは製品化に乗り出すとしている。 ★パーソナル・アクセス・ターミナル(Personal Access Terminal)〔1992 年版 情報化社会〕 家庭のパソコンを利用して馬券を購入できるシステム。日本中央競馬会(JRA)は一九九一(平成三)年春から実験を開始し、同年秋からは一般会員を公募 し、正式にスタートさせた。家庭のパソコンとJRAの大型コンピュータを電話回線で結び、馬券購入のほかパソコン画面には当日の天候、馬場状態、出馬表、 オッズ、払戻金なども表示することができる。端末としてはNECの「PC98」シリーズのほか、任天堂のファミリーコンピュータも活用できるほか、富士通 も在宅投票システムの専用端末を開発している。同システムはJRAが七六(昭和五一)年から始めた電話投票の加入者が二四万五○○○件にもなり事実上パ ンク状態になったことを受けて導入された。JRAとしては毎年五万人ずつ会員を増やし、最終的には電話投票に代わるシステムにしたいとしている。しかし 競馬法で禁止されている未成年の馬券購入や、いわゆるノミ行為につながる代理人による馬券購入の排除などの問題点を指摘する声も多い。 ◆海外テレカ(Overseas Telephone Card)〔1992 年版 情報化社会〕 海外から日本に電話する際に使うテレホンカード。一九九一(平成三)年から国際電信電話(KDD)が本格導入した。海外テレカは海外から東京のオペレー ターを日本語で呼び出す「ジャパンダイレクト」を利用する際に使える。大きさは国内のテレホンカードとほぼ同じだが、国内のものと異なりカードの裏に通 話度数などを記憶している磁気カードがついていない。代わりにぞれぞれのカードには固有のID番号がついており、電話をかけた際にオペレーターにその番 号をいえば、あらかじめカードに決められた時間だけ話ができる。料金の支払い方法は個人用は国内のものとおなじプリペイド方式だが、大口法人専用に後払 い方式も用意されいてる。 ▲情報社会の基礎概念〔1992 年版 情報化社会〕 いま、人類社会は二一世紀に向けより高度な情報化社会に変貌しようとしている。それは人々の生活をより豊かにする半面、プライバシーの保護、情報過多が 生む疎外感などマイナスの面もクローズアップされつつある。あふれる情報をいかに効率よく利用するか、がこれからの時代に最も問われる問題といえそうだ。 ◆情報(information)〔1992 年版 情報化社会〕 情報のもっとも簡単な定義は「報せ」であるが、より正確な定義は「生活主体と外部の客体との間の情況関係に関する報せ」である。情報の起源は生物の誕生 とともにはじまる。生物は、自己の生存を維持していくために、絶えず外部から彼をとりまく情況に関する報せを得て、これを識別し、評価し、外部環境に対 応した行動をとる。それが食物であれば捕らえ、外敵であれば逃避する。そこで情報には必ず生活主体↓客体↓報せ↓評価↓行動選択↓効用実現というサイク ルがある。これを情報サイクルとよぶ。そして情報の効用は、不確かさをなくし、最適な行動選択に役立つところにある。 生物の進化とともに情報の概念も複雑化し、高度化していき、人間になると言葉や文字のような高度な情報媒体が生産されるようになった。コンピュータ情報 の特徴は論理的・予知的・行動選択的なところにある。 コンピュータ用語では、データ(data)と情報があるが、データとは、「まだ特定の目的に対して評価されていない単なる諸事実」である。これを一定のプロ グラムに従ってコンピュータが処理・加工することにより、特定の目的を達成するのに役立つ情報が生産される。また、知識(knowledge)とは、このような 同種の情報が集積されて、 「ある特定の目的の達成に役立つように抽象化され一般化された情報」だといえる。また、知能(intelligence)とは、 「情報や知識を 活用して、理性的な行動がとれる知的行動能力」を指す。 ◆知識工学(knowledge engineering)〔1992 年版 情報化社会〕 人間の高度な知的活動を工学的に研究する学問。第五世代コンピュータが自己学習や連想記憶などの機能を備えたものになるため、こうした知識工学がにわか に脚光を浴びてきた。その中核的な技術は、知識表現(コンピュータが理解できるように知識を一定の形式にしたがって表現する方法)と知識利用(蓄積され た知識を利用して、コンピュータが入力されたプログラムや、データを解釈する方法)の二つである。今後、人間の脳の仕組みや機能の解明が進むにつれて、 飛躍的な発展が期待されるが、エキスパート・システムはその成果の一つである。 ◆ソフトウェア工学(software engineering)〔1992 年版 情報化社会〕 ソフトウェアの開発、保守、信頼性などを工学的に研究する学問。ソフトウェアの大型化、複雑化、さらにOAやHAの進展、ニューメディアの登場にともな い、いままでの個人差の大きい一品料理的なソフトウェア開発方式に問題が起こってきた。その研究分野は(1)プログラム開発の標準化、モジュール化、 (2) 間違ったプログラムの自動チェック、(3)秘密保持方式の開発など。 ◆情報社会(information society)〔1992 年版 情報化社会〕 情報がものやエネルギー以上に有力な資源となり、情報の価値の生産を中心として社会・経済が発展していく社会。 情報化社会ともいう。通産省産業構造審議会情報産業部会答申では情報社会を「人間の知的創造力の一般的開花をもたらす社会」と定義している。これと似た ような言葉に脱工業社会(post industrial society)という言葉もあるが、これはダニエル・ベル(米)のとなえる未来社会で、(1)保健・教育、レクリエー ション、芸術などのサービスと楽しみの充実、 (2)情報に基づいた知的技術の発達と人間相互間のゲーム、 (3)科学の政治化と専門・技術者の組織化、 (4) 未来志向とモデルやシミュレーションを駆使した将来予測がその主要な特徴。ドラッカー(米)は、知識社会 (knowledge society)という構想をうちだして おり、「財やサービスでなく、アイデアと情報を作りだし、流通させるのが知識産業である。 そして知識が技能にとってかわって経済発展の推進力になり、知識にたずさわるものが権力を握るような社会が知識社会である」という。またアルビン・トフ ラー(米)は現代は人類が歴史の第三の波に洗われる時代だとし、 (1)新しい家族形態としてエレクトロニック住宅、 (2)生産者と消費者を融合させたプロ シューマー(生産=消費者)の出現を予想している。 このような情報化社会の未来に対し、明暗二つの見方がある。一つは各人の自由意志に基づく契約で成立する自由契約社会、あるいは人間の知的創造が一般的 な開花をもたらす高度知的創造社会といった人間本位社会を想定するもので、これは、超技術社会ないし文明後社会といった構想につらなる未来思想である。 これに対し、もう一つは、管理社会あるいはオートメーション国家といった少数エリートのコンピュータによる大衆が支配、疎外、機械化され、システム化さ れた社会の出現を危惧する未来思想である。 ◆インフォメーション・デモクラシー(information democracy)〔1992 年版 情報化社会〕 インフォメーション・デモクラシー(情報民主主義)とは、情報に関する基本的人権で、将来の情報化社会で従来の産業民主主義にかわるものとされ、具体的 にはつぎの四つ。 第一が「プライバシーの権利」(right of privacy)であり、これは私事、私的生活に関する情報が他人に知られることから守る権利で、いわば受身の基本権。 第二が「知る権利」(right to know)で、国民が国家の機密情報を知ることのできる権利で、こうした政府に情報開示を義務づける情報公開法はすでに、アメ リカでは二五年の歴史をもち、連邦政府関係だけでも五○万件以上の情報が公開請求されている。日本でも三三都道府県、一五○市区町村が情報公開条例を持 っているが、国にはまだない。 第三が「情報使用権」 (right to utilize)で、これはあらゆる情報を自由に利用できる権利で、これを確保されることによって、国家や大企業による情報の独占 が解消される。 第四が「情報参加権」(right to participate)で、これは二つの側面を持つ。一つは重要な情報源(データ・バンクやインフォメーション・ユティリティなど) の管理への参加、もう一つは政府の重要な政策決定への参加である。これによってインフォメーション・ユティリティの民主的運営や直接参加民主主義が実現 するし、これが情報民主主義の最高段階である。 ◆コンピュータリゼーション(computerization)〔1992 年版 情報化社会〕 コンピュータ革命が高度に進展してコンピュータが、われわれの社会生活に不可欠になること。これはつぎのような四つの段階を経て発展する。第一段階は、 国防・宇宙中心の巨大科学ベース。第二段階が、政府や企業中心の経営ベース。第三段階が医療や教育中心の社会ベース。第四段階が個人や家庭中心の個人ベ ース。そして日本のコンピュータリゼーションは一九七○年代が経営ベースから社会ベースへの移行段階、八○年代はこれがさらに個人ベースの段階に移行し てきている。最近のTVゲームの流行はそのはしりであるし、家庭におけるパソコン通信の本格的な普及はその幕開きである。 ◆ME革命(マイクロエレクトロニクス革命)(micro electronics revolution)〔1992 年版 情報化社会〕 ICなど半導体技術の進歩によってもたらされた情報革命の第二段階を指す。コンピュータの発明とその利用・普及の段階が第一次情報革命とすれば、ME革 命は第二次情報革命である。その背景としては、 (1)半導体技術の驚異的進歩、 (2)コンピュータの小型化、 (3)情報処理、伝達技術の多様化があげられ、 その特徴は、(1)OAやFAの進展、(2)メカトロニクス産業など産業の情報化、(3)ニューメディアなどの新しい情報手段の登場があげられる。 ◆C&C(computer and communications)〔1992 年版 情報化社会〕 コン ピ ュ ー タ と 通信 の 二 つ の 情 報技術を統合化した総合的な情報 技術を指しており、これは同じ意味の合成語として info‐com(information and communication 情報通信)や compunication(computer communications コンピュニケーション)、CCコンプレックス(コンピュータ通信複合体)などが ある。 ◆コンピュータ・マインド(computer mind)〔1992 年版 情報化社会〕 情報マインドともいう。情報化社会に対応していくための思考様式。農業マインドや工業マインドと同列の言葉。一言でいえば、情報や知識をフルに活用しな がら知的創造を行い、未来に向かって積極的に新しい可能性を追求していくといった生き方である。 ◆データ・ベース(data base)〔1992 年版 情報化社会〕 百科事典のように各種のデータを磁気テープ、ハードディスクなどの形でコンピュータに大量に記憶させ必要なときに知りたい情報を取り出せるようにしたも の。一九五○年代にアメリカ国防総省が、全世界に配備した兵員、兵器、補給品を集中管理するためのデータの基地が、語源といわれている。情報インフラス トラクチュアを構成する重要な社会基盤の一つ。新聞、雑誌などの文献データ・ベースと、経済統計や企業財務データなどの非文献データ・ベースの二つに大 別される。OA用に光ディスク使用の小型、大容量でコンパクトになった電子ファイル装置が開発され、新聞一カ月分から必要項目がわずか○・四秒で検索さ れる。大量のデータを蓄積しておいて、利用者にサービスする機関がデータ・バンク(情報銀行 data bank)で、その代表的なものとして、日本科学技術情 報センターのJOIS、日本経済新聞社のNEEDS(Nikkei Economic Electronic Databank Service)などがある。 ◆データベース懇談会〔1992 年版 情報化社会〕 学者や各情報産業の役員クラスを集めた、通産省機械情報産業局長の私的懇談会。データベースの先進国、アメリカでは、また産業としてのデータベースも順 調な伸びを見せ、金融の経済情報などマーケット情報を中心に一九八八年には六四億ドルもの巨大市場を形成している。日本でも経済のソフト化、情報化で市 場は急成長しているが、アメリカの一○分の一程度にすぎない。また、日本国内のデータベースは言語の問題などから、欧米各国から「利用しずらい」との声 が多く、それがまた日本のデータベース市場の発展の妨げになっている。このためデータベース懇談会は、日本のデータベースの国際的な利用促進を図ろうと いう観点から討議を進め、すでに日本のどのデータベースにどういう情報が集まっているか、海外の利用者でも効率良く検索できるような「データベース統合 化ソフトウェア」の開発などを提言している。 ◆電子出版〔1992 年版 情報化社会〕 紙を使わず電子・エレクトロニクス的媒体を使う出版物のこと。その代表的なものとして CD‐ROM(コンパクトディスクを利用した読み出し専用メモリー) がある。これまでは専用のディスクドライブ装置が高価などの理由から普及はいま一歩だったが、ソニーが一九九○(平成二)年七月に五万円台の携帯用ディ スクドライブ(電子ブックプレーヤー)を発売してから、ソフト〔電子ブック(EB Electronic Book)〕の充実と低価格も手伝って、電子出版時代の到来を 実感できるようになった。また紙の大量消費が森林資源の浪費を招くなどの理由から、従来の出版物の行き詰まりを指摘する声もある。さらに辞書などデータ ベース的な出版物は項目の検索が CD‐ROM のほうがはるかに早く的確であることから、近い将来電子出版が主流になる可能性が強い。 ◆ネットワーク中断保険〔1992 年版 情報化社会〕 コンピュータのオンラインシステムなど情報通信網が事故で働かなくなったときの被害を補填する新種の保険。東京海上火災保険が一九九○(平成二)年春、 高度情報化社会の到来に先駆けて発売を開始した。これまでの保険は情報通信機器そのものの故障はカバーできたが、復旧作業にかかる人的経費などは補償で きなかった。今回の保険が対象となる情報ネットワークはコンピュータ・オンライン網のほか電話、ファクシミリからラジオ、テレビなどのネットなどの中断 も対象になる。 ◆瞬断〔1992 年版 情報化社会〕 電気が瞬きする程度の短い時間停電すること。一昔前なら電球が一瞬暗くなる程度ですんだが、OA化時代では深刻な問題になる。ほんのわずかな停電でもコ ンピュータはもちろん、パソコンやワープロでも記憶したデータが消えてしまうからだ。電力会社によると瞬断の最大の原因は落雷。電力会社ではレーダーで 常時、雷雲を観察し、送電線に落雷があった場合はほかの送電線に切り替えて電気を送り続ける。この切り替え時間が約二秒。文字どおり「瞬断」というわけ だ。しかしほんのわずかな停電もOA機器は影響を受ける。パソコンで○・○五秒、ワープロでも約○・一秒の瞬断でも、記憶データの破壊など被害が起きる 可能性がある。メーカーではOA機器の電気の入口に電圧を一定にする装置をつけたり、またワープロでも電池を内蔵させ文書が消えないように保護するなど、 瞬断に耐える機器づくりがメーカー同士の競争の一つにもなっている。 ◆バルネラビリティ(ぜい弱性)(vulnerability)〔1992 年版 情報化社会〕 コンピュータ化された社会が持つぜい弱性のこと。コンピュータリゼーションが進むと、社会・経済の情報化が推進される反面、万一コンピュータの機能が止 まったり、狂ったりすると大きな混乱が起こる。一九八四(昭和五九)年一一月、東京・世田谷で起こった地下通信ケーブルの火災で銀行の現金自動支払い業 務が全国的にストップしたなどがその典型的事例。これがバルネラビリティと呼ばれるもので、その対策として予備施設などリダンダンシー(冗長性 redandancy)が重視されるようになってきた。ここ数年来、OECDをはじめ欧米各国では、このバルネラビリティ対策に本格的にのり出した。とくに北欧 諸国では米ソの軍事対策の深化に伴って、国防的な面でのバルネラビリティ対策が重視されてきている。日本においてもこの問題はコンピュータ犯罪以上に重 大な問題でもある。 ◆セキュアド・ファシリティ(隔離施設)(secured facility)〔1992 年版 情報化社会〕 直訳すると「安全を確保した施設」。コンピュータの基本ソフトが無断で利用されないように厳重に監視する施設。富士通とIBMが、ソフトの著作権に関す る米国仲裁協会の紛争仲裁でその設置に合意した。基本ソフトをSF内に隔離し、「SF管理者」が立ち会い、入室者のチェックなど内部の動きを監視する。 ◆ビジネス暗号〔1992 年版 情報化社会〕 ビジネスの世界、主として金融機関がコンピュータ通信で巨額の金をやりとりしたりするようになり、情報の盗用やハッカーの侵入を防ぐために最近盛んに使 われている。アメリカがコンピュータ通信用の標準として採用しているデータ暗号規格(DES)やNTTが実用化した高速データ暗号化アルゴリズム(FE AL8)などがある。いずれも暗号を解くカギは二進法で十数ケタもあり、たとえばスーパーコンピュータを駆使して暗号文を解読しようとしても約二○万年 かかるという。この他、二つの「カギ」を用意し、一つは文書を送る人などに、あらかじめ教えておくが、もう一つのカギは受ける人しか知らないといった方 式もある。またファクシミリなどは文書の機密性が常に問題になるが、画像処理をデジタルに直して伝送するデジタルファクシミリの世界では、0と1すなわ ち二進法を巧みに利用した「ビジネス暗号」が登場している。 ◆コンピュータ犯罪/DP犯罪(computer crime/data processing crime)〔1992 年版 情報化社会〕 コンピュータに関連して発生する犯罪はコンピュータの普及とともに年々増えてきている。手口はプログラムを書き変えたり不正なデータを入れて、金銭の詐 取、また、パスワードを使って探り当て、国家機密データやプライバシー情報を盗み出すなど。日本では一九八一(昭和五六)年に三和銀行や平和相互銀行事 件やキャッシュカードの盗用など相次いで金融犯罪が続発しているが、さらに八二年には新潟鉄工所の元エリートによる自動設計(CAD/CAM)プログラ ムの盗用といったソフト犯罪が発生した。法務省はコンピュータ犯罪への刑法適用に踏み切り、 (1)電磁的記録の改ざん、破壊、 (2)銀行オンラインシステ ムの破壊、業務妨害、(3)銀行預金口座操作による詐取、に対して五∼一○年の懲役を科する法律を八七年六月に施行した。 ◆ハッカー(コンピュータ破り)(hacker)〔1992 年版 情報化社会〕 直訳すると、たたき切る人。コンピュータに蓄積されているプログラムやデータをパスワード(コンピュータ・システムを使うための合言葉)を使って盗み出 したり、改ざんしたりするコンピュータ破りのこと。アメリカではパソコンの趣味がこうじて、他人のパスワード解読に執念を燃やすマニアが続出。一九八四 年に少年ハッカーがNASA(アメリカ航空宇宙局)のコンピュータ情報を盗み出して、国防上の大問題となった。日本でも八六(昭和六一)年二月に、外資 系会社に外部からの無断使用による国際通信回線使用料五○万円がKDDから請求され、ハッカー事件が発覚。さらに八七年二月に文部省の高エネルギー物理 科学研究所のコンピュータが西ドイツのハッカー・グループによって侵入されていることが発見され、大騒ぎとなった。そのためハッカー封じの手段として、 明治乳業の子会社が安全装置を開発したり、NTTが独自のハッカー防止サービスを事業化するなどの動きが見えはじめた。なおハッカー防止のための法制化 はアメリカではすでに実施されているが、日本ではまだまだ検討の段階である。 ◆ワーム(worm)〔1992 年版 情報化社会〕 コンピュータからコンピュータへ虫のように動き回って悪さをすることからこの名がある。日本ですでに被害の出ているコンピュータ・ウイルスが既存のプロ グラムに組み込まれ、コピーなどで伝染するのに対し、ワームはコンピュータにいたずらする独立したプログラムで、コンピュータにとっては、いわば新顔の 病原体である。国内ではこれまでに国際的なコンピュータのネットワークを通じて侵入した例など、すでに二、三の例が発見されている。 ◆ファクス公害(facsimile pollution)〔1992 年版 情報化社会〕 広告を、ファクシミリを使って、オフィスや家庭に一方的に送りつけることによる公害。アメリカではこの種の新しい型の公害が起こっており、カリフォルニ ア州では州議会に、これを規制する法案が提出された。内容は軽犯罪法違反で最高懲役六カ月か一○○○ドルの罰金刑。 ◆パブリック・アクセプタンス(public acceptance)〔1992 年版 情報化社会〕 地域住民の理解と容認。産業活動の急激な拡大、生活環境整備の立ち遅れで、環境汚染、過密、ストレスの増大などが表面化して、それが国民一般の科学、技 術への不信を深めてきている。そこで政府や企業は地域住民のパブリック・アクセプタンスを十分得るように努力する必要がある。政府はその方法として環境 アセスメント法の立法化を考えている。日本でも情報公開法の制定が、論議されはじめた。 ▲産業と利用システム〔1992 年版 情報化社会〕 世の中がハードからソフトへ変革しはじめてすでに久しいが、コンピュータを中心とした社会は産業と人々の生活を確実に豊かにしつつある。VI&Pに代表 される新高度情報通信サービスは列島の距離を短縮し、一極集中問題の切り札とも期待されている。またエキスパートシステムや知能ロボットなどはより高度 な知識産業を形成し、さらにメロウ・ソサエティなど来るべき高齢化社会に向けた顕著な動きもある。 ◆エキスパート・システム(専門家システム)(expert system)〔1992 年版 情報化社会〕 それぞれの分野の専門家が持っている知識や判断のやり方をプログラム化して、これに基づいてコンピュータに推論させ、適切な解答を導き出させようとする もの。一九六五年にスタンフォード大学が開始したDENDRALプロジェクトが始まり。知識ベース(専門知識を何らかの知的表現形式で格納したデータベ ース)と推論エンジン(知識ベースの中の知識を行うメカニズム)から構成される。代表的なのが、医療診断のエキスパート・システムで、医師の専門的知識 をプログラム化して、病気の的確な診断や治療に役立たせるシステム。 ◆知識産業(knowledge industry)〔1992 年版 情報化社会〕 知識を生産し、サービスする産業。フリッツ・マハループ(米)は知識産業を、 (1)教育、 (2)研究開発、 (3)コミュニケーションのメディア、 (4)情報 機械、(5)情報サービスの五つに分類している。情報革命によって、知識産業が飛躍的に発展することは明らかで、知識産業を従来の第三次産業から独立さ せて第四次産業と名づける論者もある。知識産業の中で、今後とくに発展を予想されるのが情報産業と教育産業の二つである。情報産業とはコンピュータによ る情報の処理、サービス産業をさし、また教育産業も、ティーチング・マシンの発達や生涯教育の一般化により、将来は巨大な知識産業に成長するとみられて いる。 ◆メカトロニクス産業(機電産業)(mechatronics(mechanism+electronics の合成語)industry)〔1992 年版 情報化社会〕 LSIやマイクロ・コンピュータなどのエレクトロニクスの技術と機械を結びつけた機電一体の産業のことで、日本で造られた合成語。NC(数値制御)装置 をはじめ電卓、電子式ミシン、電子式レジスターなどがその代表格。今後も実質ペースで毎年二ケタ台の成長率が見込まれ、メカトロニクス産業はこれからの トリガー産業(主導産業)になるといわれている。 ◆シリコン・バレー(silicon valley)〔1992 年版 情報化社会〕 アメリカの西海岸にある渓谷地帯の別名。この地帯は良質のぶどう酒の生産地として知られていたが、シリコンを材料とする半導体を扱う有力メーカーが大挙 進出したためいつしか「シリコン・バレー」とよばれるようになった。西部一帯にはこのほかにシリコン・デザート(silicon desert コン・ランチ(silicon ranch 半導体の砂ばく)、シリ 半導体の牧場)とよばれる半導体基地がある。日本の九州地区にもIC(集積回路)を中心とする電子関係工場が集中し、世界 最大の基地となってきたので、シリコン・アイランドとよばれはじめた。 ◆システム・ハウス(system house)〔1992 年版 情報化社会〕 システム設計やソフトウェアの開発だけでなく、マイクロプロセッサなどを組み合わせユーザーの求めるシステムを開発したり、コンピュータの販売や周辺利 用機器などのハードウェアの開発や販売を合わせて行う企業。最近マイクロ・コンピュータが自動車、ゲームマシン、家電製品などに広く普及してきたために 現れた新しいタイプの情報関連企業。語源としてはソフトウェア・ハウス(soft ware house ソフトウェア専門企業)から発展してきたもの。 ◆情報インフラストラクチュア(information infrastructure)〔1992 年版 情報化社会〕 コンピュータと通信ネットワークが結合して形成される新しい型のインフラストラクチュア(社会・経済活動の維持・発展を支える基盤)のこと。これからの 情報社会では現在の水道や電気などの工業インフラストラクチュアに代わりこれが重要な社会・経済基盤になる。その中心になるのが通信衛星、通信回線、通 信センター、データバンクの四つである。なお、政府は、今後の新工業国家群への経済援助の一環として、情報インフラの建設に積極的に協力する方針を決め た。 ◆TLS計画(Trans Soviet Line)〔1992 年版 情報化社会〕 ソビエト大陸を横断して日本と欧州間約一万八○○○キロを光ファイバーでつなぐ事業。日本のKDDのほか欧米、韓国などの電気通信事業者が参加しており、 ソ連政府も施設を日本側に要請してきている。このアジア版ともいえるのがアジア・パシフィック・ケーブル(asia pacific cable)。こちらは日本と香港、シン ガポールを結ぶ海底光ケーブルの総称。日本から東シナ海の海中で分岐し全長は約六三○○キロ、回線数は通常の電話回線に換算すると香港、シンガポールに 向けてそれぞれ七五六○本になる。第二KDDや、韓国のケーブル会社など五カ国・地域の通信事業体が共同で計画し、早ければ一九九二年に着工され九三年 に稼働する計画である。光ケーブルによる通信は衛星経由の通信に比べ電波の遅れがないうえ、既存のアナログケーブルより格段に雑音が少ない。特にコンピ ュータ間の通信に向いており、音声、データの通信を統合した総合デジタル通信(ISDN)とも接続でき、世界政治の変革に伴う国際的情報化社会の中で、 本格的なデジタル通信の時代をもたらすものと期待されている。 ▲研究開発と手法・技術〔1992 年版 情報化社会〕 スーパーコンピュータなどに代表されるハードの開発はますます各メーカーの熾烈な争いが展開されている。こうした高度なハードは人々のコミュニケーショ ンの世界を大きく変えつつある。特に、デタントに代表される国際社会の変革は世界各国の相互理解を深める人的交流や活発なコミュニケーションが必要とな り、国際的な情報化社会に向けた様々な研究が今後より一層、脚光を浴びる時代が到来しそうだ。 ◆シンク・タンク(頭脳集団)(think tank)〔1992 年版 情報化社会〕 頭脳工場(think factory)ともいわれ、無形の頭脳を資本として商売をする企業や研究所のこと。従来からある研究所や調査機関との違いは、 (1)未来志向、 (2)ソフトウェア、 (3)インターディシプリナリー、 (4)システム分析的手法にある。そして単なるアイデアや新製品開発ではなく、ビッグ・サイエンス (宇宙開発や海洋開発など)や社会開発(公害防止や都市開発など)といった、もっと複合的な技術やシステムの開発を対象としているのが最大の特徴である。 シンク・タンクの原型はアメリカのランド・コーポレーションで、これは第二次大戦後、空軍の援助資金で設立され、人工衛星のシステムを開発した。 わが国でも、昭和四○年代に入ってから民間主導型のシンク・タンクがブーム的に設立され、一九七四(昭和四九)年三月には半官半民のシンクタンク総合研 究開発機構(NIRA)が設立され、わが国シンクタンクのセンター的役割を果たしている。NIRAは、現代社会の直面する諸問題を中立的な立場から総合 的に研究する目的で、政策志向、学際型のプロジェクトに取り組み、二一世紀プロジェクトやエネルギー問題などの研究成果を発表している。 ◆テクノエコノミスト(techno‐economist)〔1992 年版 情報化社会〕 技術者とエコノミストを兼ねた専門家。科学・技術の重要性が増してくると、科学・技術を経済と結びつけて考えることが重要であり、企業の未来事業部やシ ンク・タンクにはこの種の専門家が欠かせない存在になってきている。 ◆フィードフォワード原理(feed‐forward principle)〔1992 年版 情報化社会〕 将来に対する制御。フィードバックは一定の方法や手順を決めておいて、実際の結果がこれから逸脱した場合に外部環境条件の変化に対応して、方法や手順を 刻々に調整することをいうが、フィードフォワードという場合には、将来の達成すべき目的に対して、未来志向的に今までの方策や手順を弾力的に変えていく こと。このためにはコンピュータによるシミュレーションが有力な技法となる。 ◆インターディシプリナリー(interdisciplinary)〔1992 年版 情報化社会〕 異専門間協業、あるいは学際ともいう。複雑な問題のシステム分析を行う場合には、一つの学問領域または専門分野の知識や経験だけでは不十分で、多くの異 なった境界領域の学問や専門知識が必要になる。代表的なものが人工衛星の開発で、天文学者、地球物理学者、生理学者、病理学者、電子工学者、通信工学者、 機械工学者など多数の学問領域の学者や技術者が結集して、初めて成功した。 ▲政策と機関〔1992 年版 情報化社会〕 わが国はアメリカと並んで情報先進国といわれている。その中で最近とみにコンピュータ・システムの安全性、信頼性、採算性、などが問われる時代となりつ つある。この背景には多発するコンピュータ犯罪があることはいうまでもない。このため通産省がシステム監査制度に力をいれるなど、コンピュータ・ウイル スやプライバシー対策など新しい犯罪に向けた政策が本格化してきた。 ◆Σ(シグマ)計画(ソフトウェア生産工業化システム開発計画)〔1992 年版 情報化社会〕 通産省が推進しているソフトウェア開発の自動化、効率化をめざす国家的プロジェクト。一九八五(昭和六○)年度から五カ年計画で二五○億円を投入する。 一五○社を超えるソフト関連会社が参加している。すでにΣワークステーションやΣネットワーク、マイコン開発支援ソフトなどが開発され、地域における高 級ソフトウェア技術者の育成事業を行う地域ソフトウェアセンターが八九(平成一)年度から全国各地に三○カ所設置されている。 ◆メロウ・ソサエティ(mellow society)〔1992 年版 情報化社会〕 日本語に訳すと「情報化円熟社会」構想。通産省が一九九○(平成二)年度から本格的に推進活動を始めたもので、お年寄りの生活や仕事をパソコンなどの情 報機器でバックアップする新しいシステムを開発する構想。趣旨に賛同した自治体、学識経験者、民間企業一一三社の産官民がフォーラムを結成し、具体策を 協議してきた。その結果、一九九二(平成四)年度から患者の治療データを一元管理する健康センターの設置や、中高年の職場としての職住接近のサテライト・ オフィスの設置に乗り出すことになった。 ◆地域ソフト法〔1992 年版 情報化社会〕 将来予想されるソフトウェアの需要増大を見越して、需給のギャップを解消するため一九八九(平成一)年に制定された法律。ソフトウェア開発要員の育成会 社・団体が対象で、承認を受けると国が情報処理振興事業会を通じて出資するほか、雇用促進事業団からの事業費の助成が得られる。すでに第一号として熊本、 京都、名古屋の各ソフトウェア研修センター設立準備委員会が承認を受けており、通産、労働両省はさらに九一年に北海道、青森など全国六地域のソフトウェ ア供給力開発事業計画を承認している。 ◆JUNET(大学計算機科学者用コンピュータ・ネット)(Japan University Network)〔1992 年版 情報化社会〕 日本の大学のコンピュータ科学の研究者同士をつなぐコンピュータ・ネットで、この種のものとしては、アメリカのARPANETが世界的に有名。JUNE Tは一九八四(昭和五九)年に発足し、八五年末で一○○組織を突破、日本の主要な大学、国立研究所、民間企業の専門家が一つのネットワークで結ばれるよ うになった。研究者同士の情報交換や連絡のための電子メールと、不特定多数の人にあてる電子ニュースの二本立て。また海外ネットともつながっているので、 海外の研究者あてに電子メールを送れるほか、最近の技術関係のニュースなども手に入る。 ◆アジア・太平洋電気通信共同体(APT)〔1992 年版 情報化社会〕 アジア・太平洋地域の電気通信網の整備、拡充を目的とした国際機関。一九七六年七月に発足。本部はバンコク。現在加盟国二一カ国。郵政省は今後五年間で 倍増を公約した政府開発援助(ODA)の目玉として、APTを中心にアジア・太平洋地域の統合データ通信網づくりの構想を打ち出した。各国のデータベー ス網や金融・企業間オンライン網を整備、地域内のネットワークを構築しようとするもので、計画では八九(昭和六四)年度からシステム設計に入り、九一年 度中の稼動を目指す。完成すれば貿易、資本の自由化に大きく寄与する。 ◆システム監査(System Audit)〔1992 年版 情報化社会〕 独立した第三者の立場でコンピュータ・システムの安全性や信頼性、効率性などの観点からシステムを点検・評価しトップマネジメントに報告する施策。通産 省は一九八五(昭和六○)年に一般基準、実施基準、報告基準など一二七項目にわたるシステム監査基準を公表した。同時にシステム監査技術者の国家試験も 創設しすでに約一五○○人が合格、同合格者の一部が九一年に日本で初めてのシステム監査を専門とする会社を設立している。しかし財団法人日本情報処理開 発協会の調査によると、システム監査を実施している企業は全体の二○%と低い。これは監査を行える企業のPR不足なども遠因にあるため、通産省はシステ ム監査を具体的に紹介する「システム監査企業台帳」を作成。システム監査を実施しようとする企業などの目安として活用されている。海外ではシステム監査 がかなり進んでおり、日本の企業も今後は国際的にシステム監査の実施を迫られることになりそうだ。 ◆システム監査白書〔1992 年版 情報化社会〕 財団法人日本情報処理開発協会とシステム監査学会が一九九一(平成三)年六月に発行。日本のシステム監査の動向、実施状況などをまとめ、アメリカの情報 処理システムの安全対策などを日本と比較する型で紹介している。 ●最新キーワード〔1992 年版 情報化社会〕 ●道路交通情報通信システム(VICS)(Vehicle Information and Communication System)〔1992 年版 情報化社会〕 運転席の脇にテレビ画面を取り付け走行中にリアルタイムで交通情報を提供するシステム。これまで警察庁と建設省がそれぞれ別々に開発を進めてきたが、一 九九一(平成三)年四月に両者が一本化に向けて動きだし、郵政省と民間企業も含めた「道路交通情報通信システム推進協議会」が発足した。統合されるのは 八七年から警察庁と民間企業五九社が共同開発してきた「新自動車交通情報システム(AMTICS System)と建設省が音頭を取る「路車間情報システム(RACS Advance Mobile Traffic Information&Comunication Road Automobile Communication System)」の二つ。AMTICSが交通管制センターか らデジタル通信で渋滞などの道路情報を入手するのに対し、RACSは道路にビーコンと呼ばれる無線機を設置しそこから発信する位置信号と道路情報で車を 導く。すでにAMTICSが九○年の「花の万博」で大規模な実験を行い、RACSも東京などで走行実験を実施、双方とも技術的な問題をクリアしたため事 業化に向けて統合した。これを受け自動車メーカー側もVICS受信装置の開発にしのぎを削り、日産がいち早く搭載した乗用車を発売したのを皮切りに、他 のメーカーもこれに追随する動きを見せている。 ●MAC(Moving point Auto Chasing)〔1992 年版 情報化社会〕 利用者が持ち歩く小型発信機から出る電波を、全国数カ所にあるコントロールセンターのコンピュータが中継して移動中の人の居場所をピタリと当てるシステ ムで「究極のポケベル」とも呼ばれている。本来は緊急事態に対応システムとして北九州に本社を置く冠婚葬祭事業会社が異業種参入の形で開発した。縦一一 センチ、横五センチ、重さ五○グラムの小型発信機(MACガード)のスイッチを押すとFM放送とほぼ同じ周波数の電波が発信される。コントロールセンタ ーでは二つのアンテナで受信した電波を三角測量の要領で発信地点をブラウン管上の地図の上にその場所を表示する。この間に要する時間は六○秒ほどでただ ちに救急活動に移れるというわけだ。しかも同ガードはポケベルのように持ち歩く人を呼び出せるのはもちろん、センター側から出す電波によって特定の相手 の居場所を探しだす機能も持っている。どこかで油を売っていてもただちに居場所がわかる。これが「究極のポケベル」といわれる所以だ。したがって心臓病 の持ち主や、現金輸送に携わる係官など活用範囲は広く、郵政省も同システムに使う電波をすでに割り当てている。同社は一九九一(平成三)年末から実用化 し、将来はアメリカなどへの輸出も考えているという。 ●新聞博物館〔1992 年版 情報化社会〕 横浜市が商工奨励館跡地に建設する「情報文化センター」の中に建てられる。もともと日本新聞協会がNIE(教育に新聞を)計画の一環として設立を計画。 一九八八(昭和六三)年に日本の日刊紙の発祥の地・横浜市に、建設への協力要請があり、同市はメディア、映像文化など情報文化の振興と情報関連産業を育 成する拠点として「情報文化センター」を計画、その目玉のひとつとして新聞博物館の設置を決めた。これら博物館は熊本日日新聞社が八七年に独自にオープ ンさせたが、業界あげての開館は世界で初。計画では九三年までに着工し九五年度オープンの予定。博物館には輪転機など新聞製作の変遷を学べるコーナーの ほか電信・電送や写真に関する器材や資料なども展示。また同センターは、テレビの創成期からのNHKや民間の番組を収集・保存・公開する「放送ライブラ リー」やコンピュータグラフィックなどの各種情報関連企業をテナントとして誘致し、博物館的性格と情報産業育成拠点としての性格を併せもつ施設となる。 ●コンピュータ・ウイルス(computer virus)〔1992 年版 情報化社会〕 人の体を蝕むウイルスのようにコンピュータの記憶装置などに忍び込みデータを破壊したり、ソフトウェアを異常に作動させたりするプログラムのこと。自ら と同じプログラムを作る「自己増殖」機能を持ち、通信回線やフロッピーディスクなどを通じて次々と感染することからアメリカで名付けられた。この言葉が 初めて登場したのは一九七二年。ただし被害が深刻になったのは八○年代も後半のこと。 日本では八八(昭和六三)年にパソコン通信ネットワーク「PC‐VAN」に他人のパスワード(Password)を盗むためのウイルスが侵入したのが最初の被害と いわれている。それ以降、国内の被害は通産省の外郭団体、情報処理振興事業協会の調査によると八九年に三○件を記録するなど急増。九一年四月には国内大 手パソコン通信ネットワーク「ニフティサーブ」に「ウィナB型」と呼ばれるタイプのウイルスが侵入。同ウイルスが基本ソフト MS‐DOS で動くプログラム に寄生することから話題となった。 こうしたウイルスを退治するために、アメリカのソフトハウスが一八三種類のウイルスを撃退するソフトを開発。郵政省も九○年に大学教授やNTT、メーカ ーの技術者などで構成されるウイルスの調査研究会を発足させている。また、通産省は九一年からウイルスによる被害を防ぐための設備導入についてコンピュ ータサービス会社に対し初年度三○%の割り増し償却を認めるなど、初めて税制面からの支援措置を実施している。 ●新高度情報通信サービス(VI&P)(Visual Intelligent and Personal Communications Service)〔1992 年版 情報化社会〕 NTTが二一世紀に向けてより高度な通信システムとして開発を進めている通信網。広帯域サービス総合デジタル網 B‐ISDN(B‐Integrated Service Digital Network)を活用し映像とパーソナルな通信サービスを目指している。これが完成すれば従来の電話回線に比べて情報量は二五○○倍、またすでに光ケーブル を活用した現在のISDNに比較しても約一○○倍の情報を一度に送ることが可能となる。このネットワークの中核となるのがATM(非同期伝送モード)。 一種の交換器だが、従来の二五○○倍もの情報をいとも簡単に処理してしまう。同方式は映像や音声などの情報を、それぞれ同じ大きさの信号の固まり(セル) に区分けし、セルごとのあて先に高速で送る。情報量に格段の差がある音声と映像を同じ通信網で効率よくやりとりできるのが特徴である。 NTTは二○一五年までには列島にVI&P網を完成させたいとしている。このネットワークが完成すれば、これまで電話回線では送れなかったハイビジョン の映像も電話回線で送られてくるようになり、電話機は一人一台が常識になるなど、さらに高度な情報化社会が誕生する。その半面、個人のプライバシーの問 題やハッカーに代表される犯罪への悪用など、解決すべき問題も多い。 ●DTP(Desktop Publishing)〔1992 年版 情報化社会〕 従来は多くの専門家の手を経なければならなかった出版工程の、企画から製版までのいわば前工程をデスクトップ(卓上に乗る)パソコンで代行させるシステ ム。発案者はDTPソフトの生みの親でもあるポール・ブレナード・アルダス社長といわれている。このシステムの大きな特徴は編集者やデザイナーがパソコ ンのディスプレー上で編集・レイアウトが直接できることである。この結果「コストの削減」「時間の削減」「自分ですべてコントロールできる」「簡単に作れ る美しい文書はビジネスの戦略ツールになる」などのメリットを生む。最近ではこれまでのオフィス内のみの活用から出版業界にも進出しコンピュータ関連出 版で知られるアスキーが国内の雑誌編集では初めて月刊誌にDTPを導入したほか、各出版社もこの方法で本を制作するところが多くなってきている。またD TPの普及は五○○部、一○○○部といった少量出版も採算ベースにのせることが可能になりそうだ。 [株式会社自由国民社 現代用語の基礎知識 1991∼2000 年版] ▽執筆者〔1992 年版 コンピュータ〕 細貝 康夫(ほそがい・やすお) 東京計算サービス・システムコンサルタント 1934 年神奈川県生まれ。防衛大学校理工学研究科卒業。(株)三菱総合研究所主任研究員を経て、現在、(株)東京計算サービスシステムコンサルタント、 関東学院経済学部非常勤講師(情報産業論)。著書は『データ保護と暗号化の研究』 (日本経済新聞社) 『コンピュータウイルスの安全対策』 (ニッカン書房) 『カ ードビジネスのすべて』(日刊工業新聞社)など。 ◎解説の角度〔1992 年版 コンピュータ〕 ●ユーザーのダウンサイジング志向によりコンピュータの分散利用化傾向が進んでいる。その背景には金融・証券業における情報系システムの構築、製造業の CIM化、流通業、サービス業の情報ネットワーク等、エンドユーザーに直結したシステムの進展がある。 ●ハイパーテキスト/ハイパーメディアの出現によって文字、画像、音などを組み合わせた複数情報の多角的活用が飛躍的に向上している。 ●通商産業省は第6世代コンピュータの研究開発計画プロジェクトを開始する。このプロジェクトは人間の図形認識や直感を司る右脳の部分を担うコンピュー タの開発を目指す。 ■ハイパーテキスト/ハイパーメディア(hyper text/hyper media)〔1992 年版 コンピュータ〕 ハイパーテキストを字句どおりに訳すと「テキストを超越したもの」という意味になる。その基本となっている概念は、多くの情報項目ごとに分類し索引を付 けて関連づけ管理することである。情報は文字だけではなく、画像や音声など複数の情報を組み合わせたものがハイパーメディアと呼ばれている。 ハイパーテキストの実用化の始まりは、アップルコンピュータ社のビル・アトキンソンが中心になって開発したハイパーカードである。これは個人が情報の収 集、管理、検索できるように文字、音声、画像などを組み合わせたツールキットである。 このハイパーカードは、Macintosh 上でのデータ、ツールをオブジェクト(物)として、情報を構成する基本単位がカードと呼ばれ、その一枚の大きさが Mac の画面に相当し、一枚のカードに三万二○○○文字のテキストを収容することができる。これにマウス(ディスプレー画面を通じて対話的にプログラミングや テキスト編集を行える小型のポインティングデバイス)のイベントを扱うフィールドとペイントツール、スキャナによるグラフィックが配置できる。これらの カード間の関係設定をすることによって関連するカード間を自由にレイアウトするようになっている。 さて、ハイパーテキスト/ハイパーメディアの出現は、情報の活用という側面からみると画期的な意味がある。それは現在の我々の仕事や生活は、出版や放送 メディアなどを通じて提供される膨大な情報をいかに集め選択し活用するかが重要な関心事になっているからである。 情報を多角的に利用するためには、断片的情報の間の関連性や類似性に基づいて関連情報を相互に結びつけることが必要であるが、従来のデータベースや情報 検索システムは条件検索を基盤とした技術であるため、この機能は持っていなかった。ハイパーテキストは関連する情報を相互に結びつけ連想的な探索を支援 するシステムであり、テキスト情報のみでなく、コンピュータが扱えるメディアまで情報の概念を拡げたものがハイパーメディアである。 ハイパーメディアは次の八つの性格をもっている。 (1)インタフェイス構築ツール、 (2)複合文書作成ツール、 (3)連想に基づく情報管理ツール、 (4)共 同作業支援ツール、(5)マルチメディアツール、(6)情報構造化ツール、(7)統合環境構築ツール、(8)CAIツールなどである。 ★1992年のキーワード〔1992 年版 コンピュータ〕 ★第六世代コンピュータ(the sixth generation computer)〔1992 年版 コンピュータ〕 通商産業省は一九九二(平成四)年度から向こう一○年間で一○○○億円規模の第六世代コンピュータ研究開発計画プロジェクトを日・米・欧の政府、企業、 大学と共同でスタートさせたいとしている。第五世代コンピュータでは、人間の論理的な判断機能に相当する「左脳」型コンピュータをねらった。第六世代で は、人間の図形認識や直感をつかさどる「右脳」の部分をになうコンピュータを開発しようとしている。 「右脳」型コンピュータの開発には、人間の脳で行われる情報処理の仕組みをまねた「ニューロ(神経回路)コンピュータ」や大量の情報を手分けしながら処 理する「超並列超分散コンピュータ」などの技術を組み合わせることが重要である。 共同開発には、AT&T、シーメンスのほか、アメリカのIBMなど海外の有力企業が参加する方針であり、国内から日本電気、富士通、日立製作所など九社 が参加する。 ★仮想現実(virtual reality)〔1992 年版 コンピュータ〕 広義にはメディアに関する用語で、たとえば茶の間のテレビで湾岸戦争を見て現地にいるのと同じような臨場感覚になる状態をいい、狭義には実際にはないが、 コンピュータなどの作る現実さながらの虚構の世界を提供することをいう。 これは人工現実感(artificial reality)とも称されている。この人工現実感の研究は現在機械技術研究所のほか米航空宇宙局でも進められており、人間は機械が 作り出す仮想環境の中で動作し、そのときの感覚は現実世界での体験と同じように伝わるという。 現在、理論より実用化が先行しており、いくつかの例をあげると、宇宙飛行士の訓練用として人間の動作を画面の中でロボットの動作に変えたり、住宅展示場 で特殊なアイフォンというメガネに写る虚像と、データグローブによりキッチンルームの体験をするなど、急速に応用が広がっている。 ★ハイブリッド電算機〔1992 年版 コンピュータ〕 富士通研究所は、ジョセフソン素子と半導体素子を一体化したハイブリッド(複合)電算機の開発に成功した。それは四ビットごとに情報を処理するジョセフ ソン・プロセッサ(論理演算子)と、化合物半導体のガリウム砒素LSIを一つのボードに混載したものである。 この電算機の実現には、零下二六九度の極低温で作動する論理回路のジョセフソン素子と常温で作動する記憶回路の半導体素子を結んで作動させなければなら ないが、従来の方式では結線に一メートルのケーブルが必要であり、データの受け渡しに時間がかかった。 そこで、厚さ二・四センチメートルの冷却用真空容器の壁を貫通してジョセフソン素子と常温で作動する半導体素子LSIとを配線で結んだ。二つの素子の間 を信号が伝わる時間はわずか百億分の一・三秒となり、現在、最高水準の半導体素子と比べ約一○倍速い作動時間を実現した。 ★光ニューロコンピュータ(optical neuro computer)〔1992 年版 コンピュータ〕 ニューロコンピュータは生物の脳の情報処理機構をハード的に模倣したものである。ニューロコンピュータの特徴は「並列処理」と「学習」にあるが、この機 能を光演算器を利用し、レンズの組み合わせやホログラフィにより相関などの演算を行わせたものが光ニューロコンピュータである。 光ニューロコンピュータの特徴は、 (1)光には空間並列性という特徴があり、膨大な数のニューロン間配線が可能である、 (2)光波は互いにクロストークを 受けないで伝搬し、伝送容量が大である、(3)超高速演算ができるなどである。 まだ実用化されていないが、ベクトル・マトリックス積和演算に光技術を応用した光連想メモリーの研究や光アソシアトロンなどの学習機能をもつコンピュー タの研究に成果があり、またホログラムなどを非線形素子に使った全光方式や光ニューロチップも光ニューロコンピュータの重要な研究テーマとなっている。 ★超電導素子「磁束量子パラメトロン」〔1992 年版 コンピュータ〕 新技術事業団の「後藤磁束量子情報プロジェクト」は、超電導素子「磁束量子パラメトロン」がスーパーコンピュータの一○○倍近くの計算速度(八ギガヘル ツ)で高速動することを世界で初めて確認した。 磁束量子パラメトロンは、二つのジョセフソン接合を回路で結び、磁束(磁場の強さを決める因子)の最小単位である磁束量子を電流の代わりに使って出し入 れする新しい型の超高速論理素子である。 この超電導素子は、現在のシリコン素子に比べて消費電力が一○○万分の一以下である。また、この素子は「磁気信号」を使うためにチップ同士を重ね合わせ るだけで信号伝達ができることから、多数の素子を集積することが可能となる。 したがって、この素子の高速動作の実証によって、超高速、省エネルギー型の超電導スーパーコンピュータが実現する可能性が高まった。 ★ASICマイコン〔1992 年版 コンピュータ〕 ASIC(特定用途向けIC)マイコンとは、市販のマイコンとユーザーが要求する機能とを組み合わせて、一チップに集積したLSI(大規模集積回路)の こと。機器には八ビットや一六ビットのマイコンを核として使うことが多く、市販のマイコンでは対応できない用途に使用する。 このマイコンは、集積回路メーカーが特定ユーザー向けに開発し、通常は外部へ販売しない。 ASICマイコンを使えば、従来複数のLSIが必要だった機器を一チップで実現でき、消費電力も小さくてすむ。しかも、ユーザーが設計した回路やプログ ラムをLSIに組み込めるため、ノウハウの秘匿が可能である。 用途には、マイコンのもつ情報処理機能と携帯電話のもつ通信機能とを融合した電子機器、カメラ一体型VTR、ICメモリーカードを備えた携帯用コンピュ ータなどがある。 ★日本語 MS‐WINDOWS・Ver3・0〔1992 年版 コンピュータ〕 パソコン用基本ソフトウェア(OS)である日本語 MS‐WINDOWS・Ver3・0が空前の人気を集めている。ウインドウズ3・0は、米マイクロソフト社が 英語版の原型を開発したOSで三二ビット機など高級パソコンの機能、操作性を大幅に高めるため、次世代の主流OSの一つとみられている。 このWINDOWSは、パソコン用OSの MS‐DOS と組み合わせて使うソフトであり、その特徴として次の点があげられる。(1)応用ソフトを利用すると き、基本操作は、マウス(簡易入力装置)を使ったアイコン(絵文字)で操作するため学習が容易である。(2)複数の応用ソフトを同時に開かれた複数のウ インドウで実行できる。(3)MS‐WINDOWS 用に開発されたソフトの基本操作が統一されている。(4)MS‐WINDOWS 上で動いているソフト同士のデ ータ交換が容易である。 ★異機種コンピュータ接続統一仕様〔1992 年版 コンピュータ〕 日本電信電話(NTT)は、異機種コンピュータで構成するシステム間で情報処理するための接続仕様「マルチベンダー化に向けた共通アプリケーションアー キテクチャ(通称MIA)」を、NTTデータ通信、日本アイ・ビー・エム、日本ディジタル・イクイップメント、日本電気、日立製作所、富士通の五社と共 同開発した。 この統一仕様は、既存機種のコンピュータに追加的なプログラムをかぶせることにより、仕様の横並びを実現するものである。このMIAを使用すれば、ユー ザーはメーカーにこだわらず、自由に優れたコンピュータを選択できるし、ソフトウェアの移植が容易にできるため、ソフトウェアの開発・保守費用が消減で きるメリットがある。 NTTでは、統一使用に基づくコンピュータを一九九二(平成四)年秋から導入する予定である。 ★インストール(install)〔1992 年版 コンピュータ〕 ハードウェアを含めたコンピュータの環境を整え、コンピュータとそれに付随するソフトウェアを実際に使用可能な状態にするために行う作業のことをいう。 コンピュータの設置を行うときは、その目的に応じてコンピュータ本体以外にもディスプレイやプリンタなどさまざまな周辺機器が付加されるのが一般的であ る。 この周辺機器などを本体と接続して物理的に稼働可能状態にし、なおかつオペレーションシステムをふくむソフトウェア群を現在のハードウェアで動作するよ うに再構成をする。 ▲話題のコンピュータ〔1992 年版 コンピュータ〕 高集積化、超並列化・超高速化、低消費化電力性などデバイス技術の向上は限界知らずの勢いである。超大型汎用コンピュータでは最高演算速度が七○○MI PS、拡張データ空間がテラ(一兆)バイトからペタ(一○○○兆)バイトへと大幅に増大され、最大で七二ペタバイトの機種が出現している。 ◆スーパーコンピュータ(super computer)〔1992 年版 コンピュータ〕 同時代のコンピュータの中で最も超高速の演算能力をもつものを呼ぶ名称である。原子力、気象、宇宙などの膨大な計算が要求される分野で利用されている。 最初米クレイ社の CRAY‐1(クレイ・ワン)が市場に出荷し、この名が浮上した。同社は、世界最高速をうたう「Y‐MP16」を近く正式発表する。カタロ グに掲載されている理論上のピーク性能は一六ギガFLOPS(一ギガFLOPSは一秒間に一○億回の浮動少数点演算を実行)であるが、国産のNEC製の 「SX‐3」のカタログ性能二二ギガFLOPSに比べ劣っている。「Y‐MP16」の日本での出荷は九二年後半の予定である。 ◆超大型汎用コンピュータ(very large scale computer)〔1992 年版 コンピュータ〕 日本電気は、超大型汎用コンピュータ「ACOS3900」を発売した。演算速度は七○○MIPS(一秒間に七億回の演算処理能力)、拡張データ空間は最大で 新聞情報の三○○万年分に相当する四ペタバイト(ペタは一○○○兆)である。一方、日本ユニシスも超大型汎用コンピュータ「2200/900 シリーズ」を発売 した。 最上位機種は四台まで接続可能で、拡張データ空間は四台共同で七二ペタバイトまで情報処理ができる。これは日本電気が世界最大容量として発表したデータ 容量の一八倍に相当する。 ◆非ノイマン型コンピュータ(non‐von Neuman type computer)〔1992 年版 コンピュータ〕 現在普及しているプログラム内蔵、逐次制御型のデジタルコンピュータは、ノイマン型コンピュータといわれ、ノイマン博士の理論に基づいている。ノイマン 型はコンピュータの飛躍的な発展に寄与した一方で、宿命的ともいえるノイマンボトルネックと称する課題を負うことになった。これは人によって作られたプ ログラムで逐次的に処理することから必然的に生じる問題で今日のソフトウェア危機もそれによって起こされている。 これを解決する方策として、人間の思考を表現できるコンピュータ言語とそれを可能にする高度な論理構造をもつ非ノイマン型コンピュータの開発が期待され ている。 第五世代コンピュータ、AIなどはその具体化といえる。 ◆データフローマシン(data flow machine)〔1992 年版 コンピュータ〕 アメリカ、マサチューセッツ工科大学のJ・B・デニスが提案した非ノイマン型コンピュータの一種で、データ駆動コンピュータとも呼ばれる。 このコンピュータには命令の逐次実行系列を制御するプログラム・カウンターがない。 その代わり、各命令は命令の種類と命令の実行結果の行先情報をもっていて、プログラム自体はデータの依存関係を示すデータフローとして表現されている。 並列計算による高速性の実現可能性があり、非定型的高速処理を要求される科学技術計算用として期待されているが、通信のオーバヘッドが大きく、メモリー バンド幅が大きいなどの事情から実用レベルのものがなく、研究開発の途上にある。 ◆超並列処理型コンピュータ〔1992 年版 コンピュータ〕 現在のコンピュータは、決められた命令を一つ一つ順次に処理する逐次処理型である。人間の脳は一○○億ともいわれる神経細胞が同時平行処理を行う並列処 理型である。 筑波大学は超並列処理型コンピュータQCDPAXを開発した。この機種は四八○個のマイクロプロセッサを網の目のように配置し、それを同時に実行させた。 最高計算速度は一四ギガFLOPSを記録した。 国際電気通信基礎技術研究所が米シンキングマシーン社から購入したコネクションマシン CN‐2は、一二五○ギガFLOPSの能力があるという。また、N キューブ社の最新機種は、八一九二台のプロセッサを使い、二七ギガFLOPSの能力がある。 ◆OLTPマシン(Online Transaction Processor)〔1992 年版 コンピュータ〕 金融・証券業や流通業では、OLTPマシン(別名無停止型電算機)と呼ばれる専用コンピュータの導入が盛んである。従来の汎用機に比べてオンラインデー タの処理に適しているからだ。 導入効果として、(1)多数のオンライン取引処理が汎用機より優れ、コストも安い、(2)故障に強い、(3)システムを柔軟に拡張できるなどがある。 このマシンの特徴は、内部に複数の中央演算処理装置やメモリー、ディスクを装備しており、システムの一部が故障しても全体を停止することなく修復できる。 そのため、二四時間無停止の稼動が可能なことである。 ◆SIGMA1〔1992 年版 コンピュータ〕 工業技術院(つくば市)が開発したデータ駆動型の並列処理コンピュータである。SIGMA1は非ノイマン型で、一秒間に一億七○○○万回の加減乗除を行 う能力をもっている。演算処理装置は約七○○個の集積回路で構成され、これに記憶などを扱う処理装置を加えたものを四組まとめて基本ユニットとしている。 ネットワークを介して、三二ユニットの演算処理装置をホストコンピュータによって制御することに成功した。 SIGMA1は、従来よりも安価な素子を大規模に使っており、製作費用も安価なために、学術分野だけでなく、他の分野でも応用を期待されている。 ◆ジョセフソンコンピュータ〔1992 年版 コンピュータ〕 工業技術院電子技術総合研究所は、ジョセフソン素子を使ったコンピュータの開発に成功した。それはニオブ系素材を使った次の四つのLSIチップ、(1) レジスタ算術論理演算、(2)シーケンス制御、(3)命令メモリー、(4)データメモリーから構成される。 これらを約一○センチ角の基盤に装着し、零下二六九度の液体ヘリウムに浸して超電導状態とした。 実行に要した全チップの消費電力は六・二ミリワットと半導体の約一○○○分の一である。現在四つのチップをつなぐ配線部分に銅を使用しているため、一命 令に一○○○分の一秒かかるが、超電導体を使えば、一○億分の一秒以下で実行されるという。日立製作所でも、五ミリ角のチップを開発した。演算速度は、 二五○MIPS(一秒間に二億五○○○万回)であった。 ◆ファジーコンピュータ(fuzzy computer)〔1992 年版 コンピュータ〕 ファジーとは、柔らかでぼんやりしていて、あいまいなことをいう。現在主流を占めるデジタル型コンピュータは、すべての情報を二値で割り切って処理し、 全くあいまいさがないのが特徴である。つまり、高度に理詰めの論理にしたがって動作する正確無比のマシンである。 一方、人間は直感や経験に基づく融通自在(つまりファジー)な行動を行う。このような人間の行動や動作をコンピュータでやらせようとするのがファジーコ ンピュータである。人間の脳や働きは元来ファジーなので、脳の行う制御のやり方に近い制御を行うコンピュータの開発が各方面で試されており、コンピュー タの世界に新しい分野と方向を拓くものとして大いに注目されている。 ◆ファジー・ソフトウェア(fuzzy software)〔1992 年版 ファジーの語源は 羽毛 コンピュータ〕 のことで、羽毛で透かして見た景色のように ぼんやり あいまい という意味で使われている。一方、現在使われているノイマ ン型コンピュータは1か0か、正か負か、というように二値論理(デジタル論理)で割り切っている。これをクリスプ(crisp)な世界というが、クリスプでは 中間的な値がうまく取り扱えない。ファジー論理ではメンバーシップ関数という一種の確率変数で中間的なあいまいな状態を表現し、人間の言葉のあいまいな 意味内容を数理的に扱えるようにした。ファジー・ソフトウェアはコンピュータ言語でこれを実現させたもので、ファジーProlog、ファジーLISP、ファジ ープロダクションシステムなどが開発されている。 また、ハード的にもファジー・コンピュータの開発が一部実用レベルでもすすめられているが、ファジー・ソフトウェアと結びついた研究は遅れている。 ◆「朗読」コンピュータ〔1992 年版 コンピュータ〕 人間の脳の神経回路の仕組みをヒントに開発された朗読のできるコンピュータ。たくさんの文章例をこのコンピュータに覚え込ませれば、文章を容易に読める ようになる。コンピュータへの入力には、ローマ字に似た音韻記号の配列を使う。文章を一○○分の一秒程度ごとに句切り、それぞれに一つの音韻記号を割り 当てる。この音韻記号が入力されると、対応する呼気の強さ、音帯の振動、音道の広さなど声の特徴を表す一三項目が決められる。この項目にしたがって人工 音声を出す。一方、単語を読んで音韻記号列に直すシステムが試作されているので、「朗読」コンピュータを組み合わせれば、書かれた文章を朗読できるよう になる。 ◆機械翻訳(machine translation)〔1992 年版 コンピュータ〕 ある言語で書かれた文章(英文)を別の言語の文章(日本文)に訳すことを翻訳という。機械翻訳とは、これをコンピュータを用いて自動的に行わせることで ある。現在日本では、フレーム・メーカーやソフトウェア会社が開発している。翻訳システムによって、技術分野向け、経済分野向けなど専門分野に分かれる。 翻訳方式は、(1)単語の置き換えや語順変換等による直接変換方式、(2)源言語の中間表現を目的言語の中間言語に変換する過程を含むトランスファ方式、 (3)意味解析を徹底的に行い、入力文を言語に依存しない普遍的意味表現(ピボット言語)に変換するピボット方式の三つに大別される。 ◆日英双方向自動通訳システム〔1992 年版 コンピュータ〕 だれの声でも認識して、日本語と英語の間で通訳ができるシステムで、日本電気が開発した。 このシステムは高速ワークステーション、音声分析装置、音声合成装置などで構成される。文章中では約五○○単語、個々の単語だと五○○○語を認識できる。 通訳する速度は、ひとつのセンテンスを四∼五秒でコンピュータが翻訳し、スピーカーから人間の声に近い音声で訳文を出す。約二○語からなる英文の文章は、 五秒前後で通訳できる。 不特定多数の人間の声を解析するため、日本語の五○音をさらに細分化した「半音節」という音声単位で認識する方式を採用した。また、入力文章の翻訳は、 文章のデータをいったん「動詞」「その対象」などと単語間の意味関係を表現する形式に変換して行い、辞書データを少なくした。 ◆新ニューロ電算機〔1992 年版 コンピュータ〕 国際電気通信基礎技術研究所の傘下の研究所と米カーネギー・メロン大学の研究グループは共同で新ニューロ電算機を開発した。この電算機は高性能の並列処 理電算機とソフトウェアで構成し、プログラムの上に二つのニューロン塊を設けた。 その一つは人間の右脳に当たる経験機能部で、パターン認識に優れるニューロの特性を生かして経験に基づいた語句のイメージを蓄積しておく部分である。も う一つは人間の左脳に当たる認知機能部で単語や文法の規則を論理的に蓄積しておく部分である。 この新ニューロ電算機を言語理解に応用した結果、「右脳」に蓄積した経験をもとにニュアンスをこめた微妙な表現の言い換えに成功した。 ▲コンピュータ・ネットワーク〔1992 年版 コンピュータ〕 われわれは現在、高度情報化社会の真っ只中におり、そこでは他種業務との連動や他企業システムとの共同利用が必要となる。そしてその実現にはあらゆる情 報機器の相互運用が望まれる。また、それに伴い、資源の共用、共同処理、電子取引決済およびセキュリティ対策が重要な課題となっている。 ◆コンピュータ・ネットワーク(computer network)〔1992 年版 コンピュータ〕 独立した複数のコンピュータ・システムを通信回線により、互いに資源を共有することができるように結合させたシステムのこと。 コンピュータ・ネットワークの特徴として、(1)複数の処理装置を含むこと、(2)処理装置が独立または共同して動作できること、(3)処理装置間が有機 的に結びついていることがあげられる。 その効果には、 (1)通信回線の共用による通信コストの削減、 (2)分散による信頼性の向上、 (3)異業種間の結合による複合型業務処理の実現化、 (4)情 報流通の促進などがある。コンピュータ・ネットワークは、規模によりローカル・エリア・ネットワーク(LAN)とワイド・エリア・ネットワーク(WAN) に大別される。 ◆ホストコンピュータ(host computer)〔1992 年版 コンピュータ〕 複数のコンピュータを一緒に使用する場合、フロントエンドプロセッサに対して背後にいて、主役(ホスト役)となるコンピュータをホストコンピュータとい う。 たとえば、大型コンピュータをホストコンピュータとして、それにフロントエンドプロセッサのミニコンやパソコンを回線でつなぎ、非常に時間がかかり複雑 な処理をホスト側にやらせて、ミニコンやパソコンは端末としてデータの入出力を行ったり、パソコンがホストからの指示により各種の処理を分担して行った りする。 ◆フロントエンドプロセッサ(FEP)(Front End Processer)〔1992 年版 コンピュータ〕 主にホストコンピュータの負担を軽減し、コンピュータ処理全体のパフォーマンスを向上させる目的で使われる前処理プロセッサの総称である。 たとえば、コンピュータの処理の速度にくらべて著しく遅い入出力処理などをホストコンピュータから切り離しFEPで処理することにより、ホストコンピュ ータの余分な機能負担を減らし、本来の計算処理業務を効率よく実行させることができる。 コンピュータと通信回線との間に置かれて、データ送受信や伝送チェックなどを行う通信制御装置などは、ハードウェア面からみた実例である。また、ソフト ウェア面からみると、ユーザープログラムがオペレーションシステムにデータを受け渡す前に処理を行うものがあり、日本語入出力FEP、画面入出力制御、 帳票出力制御FEPなどがある。 ◆OSI(開放型システム間相互接続)(Open System Interconection)〔1992 年版 コンピュータ〕 OSIは、異機種のコンピュータ間の通信を実現するために定められたネットワーク・アーキテクチャの国際標準である。このアーキテクチャは、各種のコン ピュータや端末さらにはそこで動作するソフトウェアの機能と役割を明確にするとともに、コンピュータ間の通信のプロトコル(通信規約)を体系的に定めた ものである。現在、販売されているOSI対応製品は、七層まで規定するOSIのうち、下層から第七層共通部まで実現したものがほとんどである。残ってい るのは第七層の固有部であるが、すぐ使える製品としては現在のところファイル転送と電子メール程度であろう。導入事例としては、東京都庁が一二社のメー カーの機種をOSIで接続している。 ◆オープンシステム(open system)〔1992 年版 コンピュータ〕 一つのベンダーから提供された複数のマシン上で、また、一つのシステムから別のベンダーのシステムに対してアプリケーションを動かすことができるシステ ムのこと。 すべてのベンダー間で合意された標準を基にして、一貫性のあるインタフェースのもとにシステムを接続させる必要がある。 オープンシステムの代表例としては、現在最も標準的なOSといわれているUNIX、一六ビットパソコンの標準OSの MS‐DOS およびOSI参照モデルが ある。 ◆マルチベンダーマシン方式(multi‐vendor machine supply)〔1992 年版 コンピュータ〕 複数のベンダーから異機種のコンピュータの供給を受けること。今までコンピュータは同一メーカーの機種に統一されて利用されていたが、ユーザーはそれぞ れの業務に適した機種の異なるパソコンやワークステーションをネットワークを介して、使用するようになってきた。それをマルチベンダー環境という。これ はメーカーを互いに競争させてよりよい情報システムを構築しようとするユーザーの知恵といわれている。これからは他社のコンピュータもユーザーの要求に 応じて接続することを保証しないと、メーカーはビジネスとして成立しなくなってきている。 ◆グループウェア(group‐ware)〔1992 年版 コンピュータ〕 ネットワークを介して、チームやグループの共同作業を支援し、生産性を高めるためのソフトウェアのこと。 アメリカでは一九八○年代の後半から関心が高まり、オフィス内の電子メール、会議のスケジュール管理、文書の共同添削・推敲などのソフトウェア製品が登 場している。 日本でもパソコンLANが普及の兆しをみせているため、電算ソフト各社がソフトの商品化に相次いで乗り出した。 ◆FTAM(File Transfer Accessand Management)〔1992 年版 コンピュータ〕 FTAMは、OSIの応用層の規格が提供するファイル転送アクセス管理の規格である。OSIの応用層の規格の中では最も開発が進んでおり、一九八八年一 一月に情報処理相互運用技術協会(INTAP)によって、機能標準実装品の接続実験が成功し、製品化直前の段階にある。 FTAMは、 (1)遠隔のファイル全体の転送、 (2)ファイルの一部の読み取り、書き込み、書き換え、 (3)ファイルの生成、オープン、クローズ、 (4)フ ァイル属性情報の読み取り、変更を行う。 実際の多様なファイルを統一的に扱うため、FTAMは、論理的な仮想ファイル記憶を定義しており、木構造で表現できるファイルを対象としている。 ◆MHS/MOTIS(Message Handling System/Message Oriented Text Interchange System)〔1992 年版 コンピュータ〕 MHSは、CCITT(国際電信電話諮問委員会)で標準化作業が進めているメッセージ通信を行う処理システムの規格である。MHSではメッセージはエン ベロープ+本文の形で伝送される。エンベローブには宛先や配信時刻など配信に関する情報が、本文にはテキスト、画像、音声などの情報が含まれる。MHS が提供する機能にはメールボックス機能、同報機能および配信優先機能などがある。 MOTISは、OSIの応用層が提供するメッセージ通信に関する規格で、近年中に実装されることが期待されている。MOTISはMHSと互換性を保って 開発されている。 ◆MML(マイクロ・メインフレーム結合)(Micro Mainframe Link)〔1992 年版 コンピュータ〕 MMLは、メインフレーム(ホストコンピュータ)とパソコン通信回線で接続して両者が互いに協力し合って処理を進める方式である。 MMLでは、ホストコンピュータとパソコンの連携による機能分散とデータベースの共有が可能となり、利用者にとってマン・マシン・インタフェースのよい 環境が構築できる。 MMLには、 (1)端末エミュレータによりパソコンをホストコンピュータの端末とする段階、 (2)ホストコンピュータとパソコンの間でファイル転送を可能 とした段階、(3)パソコンとホストコンピュータが相互のデータベースを自由にアクセスしたり相互のアプリケーション同士でデータをやり取りできる段階 がある。 ◆パケット交換(packet switching)〔1992 年版 コンピュータ〕 情報をパケット(小包)と呼ばれる単位に細分化して伝送する方式のこと。回線交換と違って、データ伝送の際に回線を占有しなくてもよいため回線の有効利 用が図れる。 パケットとは、伝送データを決められた語長に細分化したものに宛先などを示すヘッダを付加したものである。伝送データは、発信側の交換機上にいったん蓄 えられてパケットに分解される。次にパケットは伝送路に送り出され、ヘッダの宛先に従い伝送され、受信側の交換機に蓄えられて元のデータに復元される。 この方式によるデータ通信サービスにはNTTの DDX‐P、KDDの VENUS‐P がある。特色として、通信コストの遠近格差が小さく、通信速度の異なる相 手との通信が可能なことが挙げられる。 ◆回線交換/アーラン(line swithing/erlangs)〔1992 年版 コンピュータ〕 回線交換とは、一般の電話と同様に通信のたびに相手を選択して回線を接続し、終了後に回線を切り離す通信方式である。回線交換方式の場合の通信量は呼量 (単位はアーラン)で表される。一アーランは、一回線を一時間間断なく占有したときの呼量で、呼量aは、一時間に発生する呼び数をλ、回線保留時間(通 信時間+回線接続時間)をTとすると、a=λTで表される。 ◆プロトコル変換(protocol conversion)〔1992 年版 コンピュータ〕 プロトコル変換とは、異機種のコンピュータのプロトコル(通信規約)を整合させる処理で、VAN(付加価値通信網 Value Added Network)サービスの一つ である。 異機種のコンピュータ間の通信を実現するためには、まず、プロトコルを整合させる必要がある。OSIなどで標準化の検討を進めているが、コンピュータメ ーカーが独自に定めている部分が多く、通信目的に応じてさまざまなプロトコルが使われているのが現状である。 また、通信相手が多くなれば、それごとにプロトコル変換を行うソフトウェアが必要となる。VANにより通信網自体がこの機能をもてば、コンピュータのネ ットワーク化と企業間のデータ通信に有効となるであろう。 ◆コンピュータ・セキュリティ(computer security)〔1992 年版 コンピュータ〕 自然災害(地震、火災、水害等)、システム構成要素(機器・ソフトウェア自体)の障害、不法行為(コンピュータ室への不法侵入、不当アクセス、操作ミス 等)などの脅威から、コンピュータ・システムを構成する入力・出力の機器、ネットワーク、コンピュータ本体、ソフトウェア、データなどの資源を保護する こと。 コンピュータ・セキュリティ対策は、(1)技術面における対策、(2)運用管理面における対策、(3)法制面における対策に大別される。 これらの対策により、保護される利益としては、 (1)個人の生命、身体、プライバシー、生活の利益、 (2)個人および企業の経済的利益、社会的信用、 (3) 社会、経済の安定的運用などがある。 ◆データ暗号規格(DES)(Data Encryption Standard)〔1992 年版 コンピュータ〕 DESは、アメリカ商務省標準局(NBS)が一九七七年に公布したアメリカ連邦政府機関の標準暗号方式である。NBSが七三年に公募した中からIBMが 開発・提案した方式を採用した。 DESは、送信者と受信者が同一の鍵を用いて通信文を暗号化・復号するという慣用暗号方式の一種である。その処理手順は、六四ビットに分けられた平文の 入力を五六ビットの鍵が制御しながら、一六段にわたる転置と換字処理を行って六四ビットの強力な暗号文を出力する。 復号は、これと逆の操作によって行われる。その特徴は、(1)取扱いが容易なこと、(2)暗号化・復号の処理効率がよいこと、(3)鍵の生成が容易なこと である。 ◆公開鍵暗号方式(public‐key crypto system)〔1992 年版 コンピュータ〕 スタンフォード大学のヘルマン、ディフィー、マークルらが共同で発案した新しい暗号方式である。この方式の原理は、受信者が一対の暗号化鍵(公開鍵)と 復号鍵(秘密鍵)を作成し、復号鍵を秘密に保持するとともに、暗号化鍵を公開して送信者に配送する。送信者は配送された暗号化鍵で平文(通信文)を暗号 化し、暗号化を受信者に送信する。受信者は受信した暗号文を復号鍵で復号し、平文を得る。この方式は、一九七七年マサチューセッツ大学のリベストらが素 因数分解の困難さを利用したエレガントなアルゴリズムを開発し、実現化した。彼らの頭文字をとってRSA方式という。 この方式の特徴は、暗号化鍵を公開しているため鍵管理が容易であり、また、デジタル署名が容易に実現できることである。 ◆デジタル署名(digital signature)〔1992 年版 コンピュータ〕 データ通信では、手紙のように本人確認のための直筆署名を付けられない。デジタル署名とは、デジタル通信情報に対し、送信者の身元の識別・確認と情報の 内容が偽造されていないことを識別・確認する手法である。 デジタル署名は安全性の面から、(1)署名文が第三者によって偽造されない、(2)署名文が受信者によって偽造できない、(3)署名文を送った事実をあと で送信者が否定できない、ことの三つの条件を満たす必要がある。 デジタル署名には、通信者間で署名生成に使用する情報を秘密にもつ一般署名と、送信者が調停者にメッセージと署名を認証してもらう調停署名がある。調停 署名は条件(3)を満たす。慣用暗号方式では、条件(1)だけを満たし、一方、RSA公開鍵暗号方式は条件(1)と(2)を満たす。それゆえ、重要なデ ータ通信では、RSA公開鍵暗号方式と調停署名を用いるのがよい。 ◆識別情報に基づく暗号方式(ID‐dased system)〔1992 年版 ID コンピュータ〕 entity(識別子:具体的には名前、住所のこと)を鍵の代わりに使うという発想による暗号方式である。つまり、送受信者間で公開鍵や秘密鍵を交換す る必要が全くなく、また、鍵のリストや第三者によるサービスも不要で、任意の利用者間で安全に通信ができ、かつお互いに署名が認証できる暗号方式である。 識別情報に基づく暗号方式と署名方式の基本概念は、一九八四年に開催された Crypto 84 において Shamir によってはじめて提案された。これらの方式 は、理想的な郵便システムによく似ており、実現化のあかつきにはグローバルな解放型情報システムに使用することができる。 ▲コンピュータの利用〔1992 年版 コンピュータ〕 SISやCIMが注目されているように、今日では高度に統合した情報システム化が期待されている。このためには、インターオペラビリティの確立とマンマ シン・インタフェースの向上が不可欠である。また、データベースの構築などデータ資源の確立も重要であり、システム開発技法も、処理中心技法からデータ 中心技法へ変わりつつある。 ◆システム・インテグレーション・サービス(system integration service)〔1992 年版 コンピュータ〕 ある情報システムの構築において、ユーザーの要求内容を把握し、電気通信、コンピュータ等のハードウェア、ソフトウェアおよびノウハウを統合的に組み合 わせ、コンサルテーション、システム設計、ハードウェアの選定・導入、システム開発、要員教育、保守にいたるまで一貫して請け負うサービスのこと。 このサービスの効果として、(1)ユーザーの技術力を補完することによる情報化投資の推進、(2)情報サービス産業の高度化、(3)システムの信頼性、安 全性の確保、(4)競争的ハードウェア市場の形成、(5)汎用プログラムの流通促進などが期待される。 ◆CIM(Computer Integrated Manufacturing)〔1992 年版 コンピュータ〕 CIMとは、これまで設計、製造、在庫管理など部分的に構築されていたシステムを共通のデータベースのもとで統合、受注から製品納入までの一連の企業活 動に関わる情報の流れを一元化したシステムのこと。CIMという言葉が生まれた背景には、生産管理、設計および販売管理などの各部門のシステム化がほぼ 完成し、市場ニーズの多様化に対応する部門間システムの統合化が求められたからである。 CIMのメリットは、 (1)製品企画から製品化までの時間の短縮、 (2)多品種少量受注と生産への対応、 (3)間接労務費の削減、 (4)製品になる前の仕掛 かり品の削減などがある。 ◆プログラミング環境〔1992 年版 コンピュータ〕 プログラム開発の各過程で必要な作業を支援するシステムをプログラミング環境といい、ソフトウェアの生産性との品質向上に大きな影響を与えている。CA SEもプログラミング環境を構成するツールの一つである。 プログラミング環境は、オペレーティング・システム(OS)やプログラミング言語によってまったく異なる。この環境による効果は、これらの特性に適合し た機能を使いやすい形で提供できた場合であり、エディタ、コンパイラ、インタプリタ、デバッガ、ライブラリアンなどのツール群が有機的に結合されている ことが必要不可欠である。 ◆構造化プログラミング(structured programming)〔1992 年版 コンピュータ〕 プログラミングの方法論の一つ。プログラミング制御構造を規定し、独立性と保守性の高いプログラムを作成することを主な目的とする。 構造化プログラミングは、段階的に細分化(トップダウン)しながら作成される。まず、最初に論理全体を口語で記述し、「何をするのか」を明らかにする。 次に、そのプログラムの章だて、段落わけを行い論理的に意味の完結したモジュール化をはかる。最後に、それぞれの処理をその処理系に適合するようさらに 詳しく記述する。 この記述に際しては、順次、選択、繰り返しの三つの制御構造を用い、基本的にGO TO文などの無条件飛び越し命令を使用しないことによって、結果的に 制御構造が明確で、他のモジュールから独立性の高いプログラムが作成される。 ◆構造化システム分析手法(SA)/データフロー・ダイヤグラム(DFD)/構造化設計(SA 〔1992 年版 Structured Analysis/Data Flow Diagrri/Structued Design) コンピュータ〕 構造化システム分析は、ソフトウェア開発の上流工程(初期工程)である要求分析と設計の工程において、データ構造の分析(静的分析)と処理手順の分析(動 的分析)を統合化して行う手法の一つである。 この手法では、まず、データの流れを出力から入力の順に分析する。この際に用いられるのが、データフロー・ダイヤグラムで、機能を表すプロセスとデータ を表すデータストアを矢印(データフロー)で結合して、機能情報の関連を図示したものである。 次に、データフロー・ダイヤグラムに記述された入力から出力までのデータの変換過程に着目して、処理機能の分析を行う。 この段階は、構造化設計とよばれ、トップダウンでモジュール分割した後にモジュール間の関係を明らかにするという手順で行われる。 ◆手続き型言語/非手続き型言語(procedural language/non‐procedural language)〔1992 年版 コンピュータ〕 手続き型言語は、変数の値を書き換えることを前提とし、計算の手順を直接的に記述するプログラミング言語で、ノイマン型コンピュータの機械語の動作の直 接的な表現に近いものである。現在、ソフトウェアの開発に使われている主要なプログラミング言語であるCOBOL、FORTRAN、PL/I、BASI C、C、PASCAL、Ada などはすべて手続き型である。 これに対して、ノイマン型の逐次的な手順型実行の概念によらずに記述するプログラミング言語を非手続き型言語という。 計算の過程を関数の合成で記述する関数型プログラミング言語(LISPなど)や、処理対象の間の関係を示す論理式で記述する論理型言語(Prolog など)が ある。これらは、処理するデータの間の関係や処理対象の間の因果関係を記述するため、処理の構造が分かりやすく、並列処理構造の表現がしやすいなどの特 徴があり、第五世代コンピュータや人工知能用言語として注目されている。 ◆オブジェクト指向プログラミング(object oriented programming)〔1992 年版 コンピュータ〕 データとそれに対する処理をひとまとめにしたオプジェクトという小さなモジュール(単位)ですべての処理を記述するものである。 すべての処理は、オブジェクトに対する要求の形で表現される。要求を受け取ったオブジェクトは自分自身に記述されている処理を実行する。また、要求を出 したオブジェクトは、相手のオブジェクトの中身について知る必要がないため、オブジェクト同士の独立性は非常に高い。 その結果、プログラムが単純化され、生産性と信頼性の高いシステムを構築できる。オブジェクト指向プログラム言語には、ゼロックス社の Smalltalk 80 が 有名で、このほか Lisp やC言語にオブジェクト指向の機能を追加した言語などがある。 ◆自動プログラミング(automatic programming)〔1992 年版 コンピュータ〕 従来のようにプログラムを労働集約的に開発していたのでは、需要の増大に対応しきれなくなり、いわゆるソフトウェア危機に直面することになる。そこで対 象となる業務の手続きと使用するデータの内容を箇条書きするだけで、プログラムをコンピュータにより自動生成する手法の開発が検討されている。 たとえば、会計システムの場合、どの項目をコンピュータで処理するかを決定し、その結果を集計表や一覧表の枠、および計算方法を決定すると、コンピュー タは自動的に必要なプログラムを生成するようになる。この方式が実現すると、プログラムなどのコンピュータ関連の専門家がほとんどいない企業であっても コンピュータを導入することができるようになる。 ◆第四世代言語(4GL)(4 th Generation Languages)〔1992 年版 コンピュータ〕 第四世代言語の明確な定義はない。通常は、データベースの扱いを前提としたオンライン事務処理用のアプリケーションを対話型で開発するための支援ツール のことをいう。習得とシステムの変更が容易で、COBOLやFORTRANなどより生産性が数倍以上向上するといわれている。ほとんどの事務処理業務に 適用できるが、それぞれ得意な適用分野をもっているために、各言語を使いわけることが望ましい。 現在、知られている第四世代言語には、IBMのCSP、ユニシスのMAPPER、インフォメーション・ビルダースのFOCUSなどがある。 ◆プロトタイピング(prototyping)〔1992 年版 コンピュータ〕 主に、ソフトウェア開発の初期の段階において、小規模なプログラムなどを使って、エンドユーザーの要求確認、プログラムの仕様確認を行う手法をいう。 プロトタイピングモデルを使って入出力仕様確認などを行うことによりエンドユーザーは、早期の段階でシステムに関するイメージを明確化でき適切な要求を だすことができる。一方、このことは開発者にとっても早期に問題点が指摘され、システムの方向付けが明確化されるという意味において非常に有効である。 ◆DBMS(データベース管理システム)(Database Management System)〔1992 年版 コンピュータ〕 データベースの維持と運用、すなわち、複数のユーザーが同時に更新や検索をしても効率よく処理しかつデータに矛盾が起こらないように管理するソフトウェ アをDBMSという。また、DBMSをハードウェア化して組み込んだコンピュータをデータベース・マシンという。 DBMSは汎用ソフトウェアとして多くの商用システムが開発されており、これらはデータ構造から、階層型、ネットワーク型、リレーショナル型に分類する ことができる。 ◆シソーラス(thesaurus)〔1992 年版 コンピュータ〕 データベースの検索を容易にするためにDBMS内あるいは机上に設けられた辞書で、同義語、関連語、上位概念語、下位概念語などを記述したものである。 データベースは、データを見つけるためのキーワードを入力して検索する。シソーラスによって検索が効率よく行えるようになる。たとえば、「DBMS」に 関する文献を検索する場合、「データベース管理システム」という同義語で検索したり、「データベース」という関連語で検索したりすることが可能となる。 ◆インターオペラビリティ(interoperability)〔1992 年版 コンピュータ〕 コンピュータシステムの相互運用性があること、つまり、汎用コンピュータ、ミニコン、パソコンなど異なるシステムで処理された情報を相互に交換して円滑 に利用できることをいう。 異機種接続ができないとか、ソフトウェアの互換性がないなどの問題が情報化の進展を阻害しており、インターオペラビリティの確保が重要視されてきている。 その確保の方法には、標準化と変換による方法がある。標準化は、技術革新が著しいことなど多くの問題があるが、国内規格や国際規格制定の検討が世界各国 で進められている。標準化のなされない部分は、データ変換、プログラム変換、プロトコル変換などにより対処している。 ◆コンピュータ・リテラシー(computer literacy)〔1992 年版 コンピュータ〕 リテラシーとは、もともと文字の読み書きができることを指す。コンピュータ・リテラシーは、アメリカで提唱された言葉で、コンピュータについての知識ま たはそれを使う能力をもっていること。具体的には、(1)コンピュータに関して基本的なことを知っていること、(2)コンピュータの基本的な操作ができ、 アプリケーションプログラムを利用できること、 (3)プログラムを読んだり作成できること、 (4)社会のなかでコンピュータがどのように利用され、どのよ うな影響を与えているか知っていること、(5)コンピュータを問題解決のために有効に利用できること、などの能力をもっていることをいう。 ◆コンピュータ・シミュレーション(computer simulation)〔1992 年版 コンピュータ〕 シミュレーションは、現実の場を使って実験することが困難な場合または不可能な場合に何らかの模型を作って実験を行うものである。コンピュータ・シミュ レーションは、数学的モデル(模擬表現)とコンピュータによってシミュレーションを行うもので、確率論的と決定論的シミュレーションに大別される。 その作成にはかなり複雑で高度な技術が必要なため、GPSSやDAINAMOに代表される汎用シミュレーション言語が各種開発されている。シミュレーシ ョンの結果に大きな影響を与えるのがモデルの作成(モデル化)とシミュレーション言語の選択である。 ▲よく使われるコンピュータの基礎用語〔1992 年版 コンピュータ〕 ここ数年、半導体等のコンピュータ関連基礎技術の著しい進歩により、ハードウェア・ソフトウェアをとりまく環境も大きく変化しつつある。 ここでは、最近の新聞、雑誌などに頻繁に現れる用語を取り上げ、コンピュータの基礎用語の正確な定義づけをする。 ◆アーキテクチャ(architecture)〔1992 年版 コンピュータ〕 ハードウェア・ソフトウェアを含めたコンピュータシステム全体の設計思想、つまり構成上の考え方や構成方法のことをアーキテクチャという。これによりコ ンピュータシステムの使い勝手、処理速度などの基本的な性格が決まる。具体的には、ハードウェアでは、処理単位である語長、記憶装置やレジスタのアドレ ス方式、バスの構成方法、入出力チャネルの構造、演算制御や割り込みの方法などがある。また、ソフトウェアでは、オペレーティング・システム(OS)の 機能と構成、使用言語、プログラム間のインタフェースなどである。 ◆オペレーティング・システム(OS)(Operating System)〔1992 年版 コンピュータ〕 OSは、狭義にはコンピュータの各種ハードウェアとユーザープログラムとの間に位置し、コンピュータに付属する各種資源(コンピュータ本体、ディスプレ イ、プリンタ、記憶装置など)の資源を効率的に管理し、ユーザープログラムからの要求に対して資源を割り当てたり、各プログラムの実行をスケジュールし、 監視する制御プログラムとしての役割を行う。 また、広義には、各種言語のコンパイル、アセンブル、リンケージ等の言語プロセッサとしての働き、各種ファイルユーティリティ(ダンプルーチン、プリン トルーチン、エディタなど)などサービスプログラムの提供を行う。 現在使用されている主なOSとしては、UNIX、MS‐DOS などがある。 ◆コンパイラ(compiler)〔1992 年版 コンピュータ〕 FORTRAN、C言語、COBOL、PL/1などの高級言語で書かれたプログラムを機械語プログラムに翻訳するプログラムまたは、そのプログラム言語 の総称。 一般にコンピュータ自身が唯一理解、実行できる言語を機械語と呼ぶ。 この機械語をプログラマーが直接理解し、使用することはむずかしい。そこでプログラムを人間が使用する口語に近い形で記述し、その言語の機械語への翻訳 を専用プログラム(コンパイラ)が行う方式がとられる。 また、機械語はコンピュータのハードウェアに密接に関連するため、各コンピュータがそれぞれのコンパイラを用意することによって、プログラムはハードウ ェアを意識せずに記述できるようになる。 ◆インタプリタ(interpreter)〔1992 年版 コンピュータ〕 高級言語で書かれたソースプログラムを処理の実行にそって一文ずつ読み込み機械が理解できる形に翻訳しながら実行するプログラムまたは、そのプログラム 言語の総称。 コンピュータの歴史からみると、インタプリタの存在の前に高級言語としてはコンパイラが存在した。 パソコン用のインタプリンタとして有名なBASICは、元来、汎用機のコンパイラ、FORTRANの入門用として発明された経緯がある。 インタプリタは、すべての処理の実行に先だって機械語への翻訳を一括して行うコンパイラに比べて処理速度の遅さなどの問題があるとはいえ、任意の文の実 行がその場ででき、結果の確認が容易であるためプログラムの入門、デバックに幅広く使用される。 ◆分散処理システム〔1992 年版 コンピュータ〕 一台のコンピュータで行っていた処理を処理レベルにあわせて、何台かのコンピュータを使用し、段階的または並列的に行うシステムの総称。 従来のコンピュータシステムでは、汎用機による集中処理がほとんどであったため端末からの入出力処理などは、非常に効率が悪かった。 しかし、コンピュータネットワークの発達により、異機種間のデータの受け渡しなどが比較的容易になった最近では、必要な処理を必要レベルのマシンで行う ことがシステム全体の効率やスピードを上げる有効な手段となったため分散処理が一般的になりつつある。 ◆マルチタスク(multitasking)〔1992 年版 コンピュータ〕 コンピュータ処理において、見かけ上、同時に複数の仕事(タスク)を処理できるようにした処理方式をいう。同種の用語にマルチジョブがある。また、同時 に一つの仕事しかできないものをシングルタスクという。 マルチタスクは一般に仮想記憶を前提としており、大型コンピュータやミニコンではCPU(中央処理装置)の能力が高く、マルチタスク方式が当然となって いるが、一九八七年頃からパソコンにおいてもマルチタスク方式が採用され始めた。 パソコン用のマルチタスク方式のオペレーティング・システム(OS)には、OS‐9、コンカレントCP/M、UNIXなどがある。現在、よく使われてい る MS‐DOS の4・0より低いバージョンのものはシングルタスク方式である。 ◆トランザクション処理(transaction processing)〔1992 年版 コンピュータ〕 遠隔地の端末から利用者がコンピュータに処理を要求する単位をトランザクションといい、トランザクションをリアルタイムで逐一処理していくコンピュータ の処理形態をトランザクション処理という。 航空機や鉄道の座席予約や預貯金システムなどが代表的なもので、リアルタイム性、障害時の復旧、排他制御、高い処理効率などが要求される処理である。 ◆アルゴリズム(algorithm)〔1992 年版 コンピュータ〕 アルゴリズムは、問題を解く一連の手順や具体的な手続きのことであり、有限回の実行でその問題が解決されることを保証するものである。 プログラミングは、アルゴリズムをプログラミング言語で記述する作業で、アルゴリズムが同じであればプログラミング言語が何であれ同じ解法で問題を解く プログラムが出来上がる。通常、一つの問題を解くアルゴリズムは複数存在する。 たとえばソート(大きさの順に並び替える)のアルゴリズムには、バブルソート、クイックソート、ヒープソートなどがある。解く問題の性質とコンピュータ システムの性能にあった最適なアルゴリズムを選択することが重要であり、その良し悪しは処理時間や使用する記憶領域の量などで評価される。 ◆アプリケーション・パッケージ(application package)〔1992 年版 コンピュータ〕 エンドユーザーに対する各種処理を行うために開発されたソフトウェアの総称。 たとえば、日本語ワードプロセッサ、汎用表計算プログラム、データベースマネージメントシステムなどの適用業務をプログラム化したものがこれにあたる。 このアプリケーションを利用することにより、プログラム作成やコンピュータのハードウェアの詳細な知識がなくとも、簡単なパラメーター(媒介変数)とデ ータの与え方を知ることのみで、その適用業務についての所望の結果を得ることができる。 ◆マンマシン・インタフェース(MMI)(Man‐Machine Interface)〔1992 年版 コンピュータ〕 全く勝手に動く二者間の情報のやり取りを行うための取り決めや媒体装置あるいは技術をインタフェースという。マンマシン・インタフェースとは、人間とコ ンピュータシステムとのインタフェースのことである。 MMIの向上のための研究とは、人間にとっての使いやすさの追求であり、自然さ、便利さ、安全性などの観点から各種の研究開発が行われている。これまで の変遷をたどってみると、 (1)カードによる一括処理、 (2)TSS端末による対話型処理、 (3)コマンドやメニューによる操作指示、 (4)マルチウィンド ウの画面に向かってマウスによる操作指示、などへ移行してきている。 ◆マルチウィンドウ(multi‐window)〔1992 年版 コンピュータ〕 マルチウィンドウは、コンピュータのディスプレイの画面をウィンドウ(窓)と呼ばれる複数の領域に分割して、同時に複数の処理の状況を見られるようにす るものである。 マンマシン・インタフェース向上の要求に伴い、一九八二年頃から一般のパソコンやワークステーション(WS)への適用が始まった。マルチウィンドウ・シ ステムには、マルチタスクをサポートしているか否か、それぞれのウィンドウで動いているタスク間でデータ交換ができるか否かなどの違いがある。 代表的なものとしては、MS‐DOS 用の MS‐WINDOWS、UNIX用の X‐WINDOWS、ゼロックス社のワークステーション ◆仮想記憶(virtual memory)〔1992 年版 J‐Star などがある。 コンピュータ〕 一般に現在のコンピュータは、主記憶と呼ばれる記憶装置に展開されたプログラムの実行しかできない。 しかし、この主記憶は、その容量が限られているためこの中に展開しきれない大規模なプログラムはこのままでは実行できなくなってしまう。また、主記憶を 構成する素子は、その速度要求等との関連から非常に高価なものが使用され一概にこの部分を大容量のものにするわけにもいかない。そこで考えだされたのが 比較的安価な補助記憶装置を利用する仮想記憶である。 つまり、プログラムの実行に先だってその処理を行うために必要な部分のみを主記憶に読み込み、不必要になった部分を主記憶から排除するという処理をくり かえすことで、あたかも補助記憶装置も主記憶の一部分であるかのように利用するのである。 ◆RISC(縮小命令型コンピュータ)(Reduced Instruction Set Computer)〔1992 年版 コンピュータ〕 RISCは、CPU(中央処理装置)内の命令語のアーキテクチャ(設計思想)に関する言葉である。 従来からのCISC(Complex Instruction Set Computer)は、複雑な命令語体系をもち、計算速度やコストが犠牲にされていた。 これに対してRISCは、単純で限定された数の命令語体系をとり、演算方式を単純化してスピードアップとコスト削減を図った。 RISCチップは高速処理が可能で、EWS(エンジニアリングワークステーション)などの高度情報機器には欠かせない部品である。 ◆MIPS(Million Instructions Per Second)〔1992 年版 コンピュータ〕 コンピュータが単位時間に実行できる命令の数を表す単位。一MIPS(ミップス)とは、一秒間に一○○万回の命令が実行できることをいう。 現在の超大型コンピュータは、およそ、一○から一○○MIPS程度の性能である。関連用語としては、浮動小数点演算の速度の単位を表すFLOPS(フロ ップス)、論理演算の単位を表すLIPS(リップス)などがある。 ●最新キーワード〔1992 年版 コンピュータ〕 ●Σ(SIGMA)プロジェクト(SIGMA Software Industrialized Generator and Maintenance Aids system)〔1992 年版 コンピュータ〕 Σ(シグマ)プロジェクトは、ソフトウェア・クライシスを解消させ、情報サービス産業の円滑な発展を実現するため、また、ソフトウェアの工業化を達成す るために、一九八五年一○月に約一九○社の民間企業が参加して、開発された。このプロジェクトの第一段階の開発・構築は、情報処理振興事業協会シグマシ ステム開発本部が担当し、五年間で総額二五○億円の開発資金を投入した。 Σプロジェクトの目的は、(1)ソフトウェアの品質・生産性の向上、(2)ソフトウェア重複開発の防止、(3)ソフトウェア開発設備の充実、ノウハウの蓄 積、技術の向上、(4)技術物教育の効率化の四項目があげられている。 第一段階が九○年三月に終了し、いよいよ第二段階の普及・運用の時期を迎え、これまでに構築されたシステムを一般ユーザーに提供するとともに、システム を強化・拡充するための中核的事業主体として株式会社シグマシステムが九○年四月に設立され、事業を開始した。 ●TRONプロジェクト(The Realtime Operating system Nucleus)〔1992 年版 コンピュータ〕 マイクロコンピュータの小型化、低コスト化により各種の機器にマイコンが組み込まれるようになった。その結果、数千、数万のコンピュータが接続され、さ まざまな相互関係をもちながらそれぞれの目的を同時並列的に遂行する超機能分散システムを実現させることが重要となる。 TRONプロジェクトは超機能分散システムの構築を掲げて一九八四年から開発された。また、八八年にプロジェクト推進の中核機関として(社)トロン協会 が設立された。TRON基礎プロジェクトとしてBTRON(ヒューマン・インタフェースをつかさどるOS)、ITRON(制御用リアルタイムOS)、CT RON(情報通信ネットワーク向きOSインタフェース)、MTRON(分散型マルチ・マイクロプロセッサ用OS)、TRONCHIP(三二ビットVLSI マイクロプロセッサ)がある。TRON応用プロジェクトとして電脳ビル、電脳住宅、電脳都市、電脳自動車網、TRONマルチメディア通信などがある。 現在、トロン協会には国内外約一四○社が加盟して研究開発と実現化を推進しており、実現化の第一号として、TRONパソコンを利用した航空券予約システ ムが登場した。 ●CASE(Computer Aided Software Engineering)〔1992 年版 コンピュータ〕 CASEは一九八六年頃から使われ始めた言葉で、コンピュータの支援ソフトウェア工学と呼ばれ、その目的はソフトウェアのライフサイクル全般にわたる自 動化である。 ソウトウェア工学は、ソフトウェアの品質と開発の生産性を向上させるための技術である。ソフトウェア工学から生み出された技法や理論には、プロトタイピ ング、開発の分業化、構造化プログラミング、開発の進歩管理および既存ソフトウェアの再利用などがある。 ソフトウェア開発において、要求分析・定義および基本設計などの上流工程を支援するツールをアッパーCASE、詳細設計およびソースコードやドキュメン トの自動作成などの下流工程を支援するものをロウアーCASEと呼ぶ。現在、CASEツールは欧米では一○○社を超えるベンダーが販売しており、日本語 対応のツールも出荷されている。また、国内メーカーでの既存ツールとの統合が活発化してきている。導入効果としては、設計品質の向上、ソフトウェアの再 利用化と開発期間の短縮化、生産性の向上、開発情報の一元管理化、開発方法論の普及などが挙げられる。 ●統合ソフトウェア・アーキテクチャ〔1992 年版 コンピュータ〕 コンピュータシステムは、汎用コンピュータ、ミニコン、パソコンなどの製品体系別に組まれており、同一メーカーのコンピュータであっても製品体系が異な るとアプリケーション・プログラムが作動しないのが現状である。 統合ソフトウェア・アーキテクチャは、この問題を解決するために、複数の製品体系に共通した開発環境と操作環境を提供して、製品体系あるいは基本ソフト ウェア(OS)が異なってもアプリケーション・プログラムを共有できるようにする新しいソフトウェア開発体系である。 代表的なものが一九八七年四月にIBMが発表したSAA(Systems Application Architecture)で、富士通のSIA、日立製作所のHAA、日本電気のDI NAなど各社が同様のアーキテクチャを発表している。IBMでは、SAA準拠の最初のアプリケーションとして、八九年五月にオフィス・ビジョン・ファミ リーを発表した。これは、文書作成、電子メール、ファイル検索、意思決定支援機能、データベース検索機能などを提供するものである。特徴としては、OS /2に準拠し同社のすべての機種でほぼ同一の操作環境を提供し、かつユーザー・アプリケーションとの連携が図れる点が挙げられる。 ●人工知能(AI)(Artificial Intelligence)〔1992 年版 コンピュータ〕 人工知能(AI)研究が正式に始まったのは、一九五六年に行われたダートマス会議である。人工知能とは何かについては、技術進歩と共にその内容が変化し、 また、立場によって諸説がある。 高度情報処理技術者育成指針(中央情報教育研究所編)によれば「人間が用いる知識や判断力を分析し、コンピュータプログラムに取り組み、知的な振る舞い をするコンピュータシステムを実現する技術である」としている。AIに期待されている効果は、この定義からも知られるように、情報を相互に独立な個々の モジュールを内部にもち、ユーザーの必要に応じて問題解決手順に組み立てる知的な働きである。 AIの研究の流れには次の二つのアプローチがあり、両者が相互補完し合って発展している。(1)科学的立場からのもので、シミュレーションによって知能 のメカニズムを解明することを目的に、コンピュータが使われている。この場合は一般的に認知科学といわれている。(2)工学的立場からのもので、知的能 力をコンピュータに与えることを目的とし、知識工学と呼ばれる分野に属している。応用面ではエキスパートシステムがある。 ●パターン認識(pattern recognition)〔1992 年版 コンピュータ〕 画像、音声、文字などの情報があらかじめ想定されたパターンのいずれに該当するかを判断する処理をパターン認識と呼ぶ。 パターン認識システムは、画像などのイメージ・データや音声などの波形データからそのデータに固有の特徴(パターン)を抽出した後、あらかじめ記憶して ある標準パターンとの比較(パターン・マッチング)をして最も似ている標準パターンを認識結果とするという手順で行われる。 パターンの認識の応用は、画像認識、音声認識、文字認識、物体認識といった分野に分類され、不特定の人の文や音声の認識、ロボットの目や品質管理などへ の応用が期待されている。最近では、人工知能、すなわちコンピュータが蓄えている知識や推論を使って画像、音声、文字を解釈する認識手法へと研究が進ん できている。 ●バイオサイバネティックス(biosybernetics)〔1992 年版 コンピュータ〕 一九四三年にW・S・マカロック、W・H・ピックは、神経細胞の動作原理を表現する数理モデルを発表した。四六年にはコンピュータが誕生している。これ 以後、人間の脳とコンピュータとが知的情報処理という視点で併せてとらえられる可能性を与え、やがて今日の人工知能研究へと発展することになった。 バイオサイバネティックスとはコンピュータを利用し、神経回路数理モデルによって情報処理という観点からの脳の動作メカニズムを解析する研究方法の総称 である。バイオサイバネティックスの数理モデルは多数発表されており、その主なものには、 (1)視覚神経系階層構造モデル、 (2)パターン認識における学 習モデル(代表的なモデルにパーセプトロン、コグニトロン、ネオコグニトロンなどがある)、 (3)フィードバック型パターン認識モデル(選択的注意機構モ デル、相関マトリックス型連想記憶モデルなど)がある。これらのモデルでは実際の脳の回路網全体を調べつくせないので、特定の部位、機能についての研究 が行われている。思考、記憶、意思決定などの高度なモデルは、まだ部分的にしか研究されていない。 ●AXパソコン〔1992 年版 コンピュータ〕 AXパソコンとは、アメリカIBM社のPC/ATをベースに日本語処理機能をもつパソコンのことであり、そのパソコンはAX仕様すなわち:(1)統一さ れた操作性、(2)システムの相互互換性、(3)ソフトウェアとデータの互換性、(4)システムの拡張性、(5)国際性を満たしている。 AXパソコンはアメリカIBM社のPC/ATと同じアーキテクチャをもつため、欧米でのベストセラーパソコン「IBM・PC/AT」の英語ソフトウェア 資産とハードウェア資産が利用できる。また、国内の独立系ソフトウェアベンダー/ハードウェアベンダーにより開発されたAX使用の製品が利用できる。 現在、AX協議会には三菱電機、三洋電機、シャープ、ソニー、キヤノン、カシオ計算機、沖電気、日立製作所などが加盟している。また、東芝はIBM・P C/ATも互換機を製造しているが、日本語対応はしていない。 [株式会社自由国民社 現代用語の基礎知識 1991∼2000 年版] ▽執筆者〔1992 年版 OA革命〕 山本 直三(やまもと・なおぞう) 東芝オーエーコンサルタント取締役 1929 年東京都生まれ。早稲田大学第一政治経済学部経済学科卒業。東芝OA機器事業部担当部長を経て、現在、株式会社東芝オーエーコンサルタント取締 役。著書は『実践オフィスオートメーション』 (青葉出版) 『日本語ワードプロセッサの活用法』 (ビジネスオーム) 『ワープロ文書生活』 (同) 『ワープロ市民講 座』(同)など。その他に日本事務機械工業会でワープロ部会長を6年間にわたり勤め、現在、同工業会JBMS推進小委員長、OAの利便性に関する調査研 究委員会副委員長。 ◎解説の角度〔1992 年版 OA革命〕 ●高度情報化社会への進行は急速で,企業から個人に至るまで,オフィスオートメーション(OA)が急速に進行しており,OA機器が普及し,また様々な問 題が生じている。 ●OAを進める目的は,広域的活動,国際化,企業提携や活動,ニュービジネスの展開などを目指し,情報とネットワークを主に取扱うOAシステムを駆使し て,効率的で創造的な企業組織を築き運営することである。 ●OAの本質は,オフィスの主役としての人間が生き生きと創造的かつ快適に活動することであるというのが定説になっている。なお,OAシステムを駆使す るために,OA操作を習熟することが重要となる。 ■OAの始まりとその本質〔1992 年版 OA革命〕 OAは、一九七○年代後半から急速に発展しはじめ、いまやOA革命の進行はごく常識的とされるようになった。ワープロ、パソコン、ファクシミリ、PPC などは日常の当たり前のことになった。OAによる企業システムの変化も急速である。 オフィスオートメーションという言葉からは、オフィスの自動化や機械化と単純に考えられるが、実はそれほど単純ではない。機械化は昔から盛んに行われて いて、その普通の機械化や自動化とOAが異なる点は、情報を取り扱い、生きた様々な考えを持った人間が協同して活動するオフィスという場に関するもので あり、これがコンピュータ、ネットワーク、OA機器などの発達によって、著しく改革されるということである。 確かにオフィスの作業労働のかなりは機械化されるだろう。だが、それとは別にこれまで機械化や自動化の対象とは考えられないような極めてアイマイで複雑 な人間活動までが、OAの対象として考えられる。最近はオフィスで働く人間が快適で創造的であることと、同時に情報を利用して、戦略的な企業活動の展開 が、指向されるようになった。 アメリカの経営コンサルタントのミカエル・D・ジスマンは、「OAは、従来のデータ処理技術では、扱いにくく、非常に大量で、構造が不明確な業務に対し て、コンピュータの技術、通信の技術、システム科学、さらに行動科学を適用することを意味する」と定義している。 これまでコンピュータ、OA機器、ネットワークの発達は著しいが、これらテクノロジーのいちだんの発達、AI技術など知的情報処理の発展が始まっており、 これらを取り入れて、OAはさらに加速されるだろう。 OAの発展に沿って、未来にふさわしい経営組織はどうあるべきか、オフィスはどうあるべきか、人間が行うオフィス活動はどうあるべきかなどが問い直され、 OA環境の下に情報による新しい価値の創造やニュービジネスの創造、統合的な組織の発展が盛んである。 OAによって、これまでのように効率や利益重視一方のオフィスではなく、一人ひとりが個性を発揮して活動できるような職場、働きやすく健康で楽しい環境 としてオフィス・アメニティーの追求、一般社会活動との調和、ペーパーレスなどの追求も盛んである。 ★1992年のキーワード〔1992 年版 ★無線LAN〔1992 年版 OA革命〕 OA革命〕 無線で統合通信網を作る方式であり、実現すれば配線が不要で、柔軟な機器の配置ができ、移動通信ができる。おそらくこれまでのLANとの併用となるだろ う。郵政省や大手電機通信メーカーが共同開発に乗りだして計画を進めている。 なお、アメリカでは、モトローラ社がアルディアというシステムを発売している。一八ギガヘルツという高い専用周波数で、イーサネット同軸ケーブルを無線 に置き換え、携帯電話の一○○○倍の伝送能力を持つという。 これが実現したオフィスはさしずめコードレス・オフィスということになる。 ★インテリジェント・レンタル・オフィス〔1992 年版 OA革命〕 サテライト・オフィスは、都会を離れた衛星都市などに設置したローカル・オフィスであるが、これは逆サテライト・オフィスともいうべきものである。都会 の一等地に、OA機器などのインテリジェント環境を備えたオフィスを設置し、そのスペースを一般に臨時に提供するニュービジネスである。セールスマンや 集中的に作業をするようなプロジェクト・チームが利用している。 ★ワープロ感熱紙〔1992 年版 OA革命〕 ワープロのプリンターでは高級なレーザープリンター、ワイヤードットプリンター、熱転写方式のプリンターがあるが、このうちポータブルでは圧倒的に熱転 写方式が多い。この方式では、熱転写リボンが要るが、高価なので、感熱紙を使う場合が多い。しかし、これは保存性がないという問題があった。ところが、 文字がまったく消えないという感熱紙が三菱鉛筆から発売された。 ▲OAの意味と各種の考え方〔1992 年版 OA革命〕 コンピュータ、ネットワーク、OA機器、データベースなど情報テクノロジーを駆使すれば、理想的に効率よく快適なオフィスを構築できる。国際化の進行と 激しい企業競争の中で生き抜いていくための戦略的な活動を目指して、OAは企業にとり必須のものとなりつつある。またOAは個人活動をもパワフルにする。 DTPを用いた著述では独力で書物を作れて、編集も著述のうちに入り、出版事情を変革する。 ◆オフィス・オートメーション(office automation)〔1992 年版 OA革命〕 略称OA。事務機械化のアプローチは以前からあるが、経営およびオフィス全体を対象とする合理化への指向は新しい。OAという用語が最初に公式の場で使 用されたのは、一九七八年アメリカのナショナル・コンピュータ・コンファレンス(NCC)であった。以来、年とともにOAショーが世界で開催され、OA の概念も定着した。高度情報社会に適応するためにOA推進は必然的なものである。OA機器はインテリジェント化され、コンパクトになって、個人ごとに保 有し、しかもネットワークで接続できる。LANやVANなどのネットワークが充実し、通信網はISDNによりデジタル化され、強力になり、OA環境は一 段と促進されつつある。 エレクトロニクスや新しい材料技術の発達にともないコンピュータをはじめ情報機器、通信機器、AI技術の発達がめざましく、これを活用するためのソフト ウェアも発達。この電子的環境の下で、従来とは情報の質・量と時間をまったく異にした、はるかに理想的な情報システムを構築することができる。新技術を 前提としたシステムの編成や企業間結合やニュービジネスの創造に関する動きをオフィス・オートメーションという。これからはOAを前提とせずに経営シス テムの構築は成り立たないであろう。 ◆オフィス生産性〔1992 年版 OA革命〕 OAは電子情報環境に適応するもので、簡単に生産性だけで評価するべきものではない。しかし企業などでは、当面の利益や投資効果を重視して、経費、スピ ード、原価、作業時間など、測定できる尺度に基づいて、生産性を測定することが多い。しかし、オフィスでは情報が主な取り扱い対象であり、人間関係やア イディアや創造性など計りきれない課題が多い。測定可能な効率だけでOAを評価することはまちがいであると考えられる。たとえば営業行為をとってみて、 どんなに効率よく商品を揃えてみても、ほとんど売れず、ただ一種類の商品のヒットによって、利益が出たというように効率性がすぐに最終的な利益や売上高 に結びつかないケースが多い。開発でも同様である。また、効率化によって生じた効果が数年後に現れるケースが普通である。そこで、生産性を測定するとき の尺度を、実際に測定できる勤務時間、事務労働時間、ファイル量、伝票の量、研究テーマ件数、事務処理スピードの測定量、研究時間、調査時間、経費など 具体的な数値の期間別の推移でとらえて評価する。オフィスは経営戦略の場であり、効率よりも、いかに戦略的に効果的な情報が提供されるかが重要なのであ る。この生産性の評価は困難である。 たとえば、OAの推進によって得られた人間的な余裕や蓄積された知識や、AI環境あるいはネットワークによる広域な活動能力などは、新しい経営資源であ り、これを活用する領域を成果活動領域と称する。 この活動領域において、要員の活性化、経営戦略、経営の方向づけの活動が重要になってくる。OA時代では、経営者の真の実力が問われる。 ◆ファクトリー・オートメーション(FA)(factory automation)〔1992 年版 OA革命〕 製造システムのオートメーションのこと。製造設備のオートメーションによって製造段階の自動制御による自動化と無人化が進む。この結果、要員の作業内容 は、設備の計画、整備保守、製品製造計画などオフィス・ワークが多くなるなど、ここでもOAとは密接な関連を持っている。CAD(computer aided design)、 CAM (computer aided manufacturing)、CAT (computer aided testing)、CAE(computer aided engineering)などコンピュータ援用による方式 はOAと境界を接する領域のシステムである。FAは工場にとどまらず建設作業、運送作業などにも適用が進んでいる。通産省は一九八八(昭和六三)年度か らFA標準化推進五カ年計画を進め、FAシステムおよび一般オフィスとの相互接続を推進するためにOSIと調整をはかりながら実装規約をまとめている。 FAはオフィスにおける機械的反復作業にも適用され、そのうちにロボットがオフィスで書類搬送サービスさえ務めてくれることもありうる。 ◆フレキシブル・オフィス・オートメーション(flexible office automation)〔1992 年版 OA革命〕 ファクトリー・オートメーション(FA)では、ロボットの進展で、生産ラインが従来の単一生産工程の方式ではなく同一の工程で複数品種を柔軟に生産する 方式に変化していく。これと同じようにオフィスでもOAによって、在来の分業形態から、個人または職場が担当範囲を拡大して、広範な責任と機能を果たし ていくようなフレキシブルなシステムの確立が可能であろう。これによって分業から全人的な仕事の形態に移行し、やり甲斐のあるオフィス・システムとなる とされている。 ◆ラボラトリ・オートメーション(LA)(laboratory automation)〔1992 年版 OA革命〕 研究所や開発部門の研究開発のオートメーションもOAの一種である。研究開発の発想、資料の管理、思考過程から研究開発プロジェクトの管理に至るまで、 研究情報資源、開発支援ソフトウェア、エンジニアリング・ワークステーションなどOAシステムを駆使してソフトウェアの支援のもとに研究開発を進める。 ◆ジョブステーション(Job station)〔1992 年版 OA革命〕 ワークステーションは主に端末機のことを指すが、これに対してジョブステーションという言葉が生まれた。これからのオフィスはOA機器を単に使うだけで なく、オフィスの働く現場を、スペース、OA機器、ネットワーク、ファイリング環境、事務机、働く楽しさなどすべての条件を総合的にみたジョブステーシ ョンという概念でとらえ、トータルで理想的な作業環境を考え出そうとする。具体的には、そのような単位オフィスの研究が行われている。 ◆フェイルソフト(failsoft)〔1992 年版 OA革命〕 OAシステムを構築するとき、システムの一部が故障したり、ファイルが破壊されても、その部分を切り離し縮退して、システムを維持、運用していく方法で ある。分散処理システムではフェイルソフトに組みやすい。これによりOAのバルネラビリティ(脆弱性)を補強することが可能である。 ◆OAインターフェース(Interface between human and OA System)〔1992 年版 OA革命〕 OAとは、システムが相互に接続して、統合的なシステムを形成する傾向が強い。また異なったシステムがネットワークを通じて情報を交換することが多い。 このためにシステム間の接続が問題となる。この相互接続を実現するための接点をインターフェースと称する。人間がOAシステムと接続する接点をマンマシ ン・インターフェースあるいはヒューマン・インターフェースと称する。OAリテラシィは人間サイドのインターフェースである。 ◆OAリテラシィ(OA Reteracy)〔1992 年版 OA革命〕 リテラシィとは「よみかきソロバン」をいう。これからはOA機器を介してコミュニケーションをとったり、電子的に蓄積された情報を検索、情報を要約して 登録したり、電子メールで手紙を送ったりする。ブラウン管を見てキータッチして事務をするなどは従来あまり馴染んでいなかった活動で、これをOAリテラ シィとする。キータッチもわが国では新しいリテラシィのひとつである。人間が在来のリテラシィで楽に操作できるようにOAインターフェースをフレンドリ ーなものにする研究も盛んである。音声入力、手書き入力、マウス、アイコンなどがそれである。インターフェースは、次第に人間の日常性にマッチするよう 開発が行われようが、人間サイドの習得は必要であり、ペンばかりに頼る意識から電子的なOAリテラシィも日常化するよう、考えを切り替える必要がある。 ◆WYSIWYG(What you see is what you get)〔1992 年版 OA革命〕 OA機器の画面が人に親しみやすいようにインターフェースを提供しようとする考え方。たとえば、ディスプレイ画面に映し出された画面が、印刷で得られる 出力と同じ表現にしようとする概念である。DTPではWYSIWYGに編集することを特徴としている。 ▲OAオフィス環境〔1992 年版 OA革命〕 OAが単に効率性の追求ばかでなく、人間を中心とするものであることから、働く環境の質を高めようという考えが盛んである。人が快適に創意を生かし効率 的に仕事ができ、協同活動の実を上げ、働きがいを感じるオフィスという、オフィスアメニティ追求の考えである。また、一方では戦略的オフィスとして情報 武装の整った機能的なインテリジェント・オフィスをという考えや、OAという極めて機能的な活動の中で、ストレスや健康の問題を生じないような環境をと いう考えもある。 ◆エレクトロ・オフィス(electronic office)〔1992 年版 OA革命〕 コンピュータはじめOA機器により高度に装備され、レス・ペーパー、レス・エネルギー、レス・スペースが進行したオフィス。ここでは、必要な情報やデー タはもちろん画像であれ文書であれ、直ちに手に入れることができ、通信を用いて外部の情報を活用でき、相互に情報を交換し、情報を高度に分析加工できる。 オフィスは創造的かつ人間的思考活動に向く快適な環境となる。 ◆パーソナル・オートメーション(Personal OA)〔1992 年版 OA革命〕 OAとは企業だけでなく、そこで働く個人活動に影響するし個人の生活にもおよぶ。OAは統合化とともに分散化の指向が強い。たとえばオフィスでは個人ご とにワークステーションを持つ。これをパーソナル化という。そうなると必然的に個人がOA機能を自分のものとして活用できるわけであるから、自然と生活 の場でもこれを活用することになり、私的な活動にもOAが浸透する。これを見通して、様々な個人活動用のソフトウェアやサービスも提供される。また、I SDNの進展により、個人的な広域活動も可能になる。これからは個人としてもOA武装が必要となる時代である。 ◆エレクトロ・コッテージ(electronic cottage)〔1992 年版 OA革命〕 OA機器を装備し、外部と常時デジタル通信ができる、個人生活の中でOA的なオフィス・ワークのできる住居。トフラーが『第三の波』でその普及を予測し た。経済のソフト化の進行で、コミュニケーションさえ十分にできれば在宅勤務で仕事ができるはずで、このような技術的環境を提供するのがこの電子住宅で ある。 ◆ローカル・オフィス(local office)〔1992 年版 OA革命〕 OA、INSの進展によって、密接な通信環境が確立すればオフィスは中央に集中する必要はなく、極端には在宅勤務でもよい。そうすれば通勤地獄も解消す る。だが、在宅勤務では人間的なコミュニケーションが図りにくい。その代わりに地域ごとに小規模のエレクトロ・オフィスを分散設置するという考えである。 これにより職住接近が図れる。 これをサテライト・オフィスとも称する。 ◆サテライト・オフィス(satellite office)〔1992 年版 OA革命〕 ローカル・オフィスともいう。本社あるいは本部オフィスと離れて、分散して存在し、あたかも太陽の周りを回る衛星のような小型のオフィスという意味であ る。これによって本社に集中しがちな要員を地方に分散し、都心のスペースコストの緩和、職住近接、交通地獄からの解放、空気のよい地域での健康的生活、 それを通じて地域社会との交わりなどを期待する。 このようなオフィス分散は、ISDNなどのネットワークや統合分散システムの充実などにより、情報技術的には可能であるが、仕事の進め方、労務管理、他 企業や地域社会との係わりなど様々な面からの研究も必要であり、埼玉県の志木・上尾・鎌倉・横浜など、あちこちで実験的な導入が行われている。東京一極 集中の是正の決め手になるかどうか、それには官庁の分散も重要とされる。 ◆アミューズメント・オフィス(Amusement Office)〔1992 年版 OA革命〕 OAによるオフィス目標概念は、最初は効率や生産性を主とするものだった。さらに効果やニュービジネスを生み出す創造的な場を目標とすることが考えられ ている。これをさらに発展させて、働いて楽しく、楽しくて創造的な場という概念が追求されるようになるとされる。日本事務機械工業会では「働く」という 言葉に「イ楽く」という新語を当てはめている。 ◆ビル・オートメーション(Building Automation)〔1992 年版 OA革命〕 建物の空調、防災、暖房、衛生、照明、エレベーター、ドアの開閉、郵便などの総合管理をコンピュータで行うシステムのことである。ビルの全体的な状況を 知り、全体をバランスよく、自動的に管理していく。また、出入者の遠隔テレビ管理などをしてセキュリティ管理を行う。 雑居ビルなどでは、それぞれのビル利用者に対して、通信機能やコンピュータ機能などインテリジェント環境を提供していく機能も付加されることがある。 ◆ニューオフィス推進計画〔1992 年版 OA革命〕 コンピュータの普及、OAの進展と対比して、これまでのオフィスの環境では、ストレスが高じたり、目を悪くしたり、健康を害したり、それがひいては効率 の悪い状態を起こすなど、高度情報化環境にそぐわない状態がみられる。通産省では、新時代にふさわしい、健康で明るく快適なオフィスづくりを目指そうと、 ニューオフィス推進協議会を一九八六(昭和六一)年度設置し、ニューオフィス化の指針を一九八九年に示している。これによると天井の高さ二・六メートル、 照明拡散パネルの装備、気分転換スペースの設置、人間工学的オフィス配置、配線のアンダーカーペット化などが提唱されている。この計画に基づき基準を達 成したオフィスを毎年表彰している。 ◆グループ・アドレス方式(group address method)〔1992 年版 OA革命〕 IBMがインテリジェント・ビルの机の配置について始めた柔軟な方式。営業部門など在席率の低い職場では、スペース効率がよくない。このため各人ごとへ の特定机を割り当てをせず、数名のグループごとに、そのつど空いているスペースを割り当てる。この割り当ては、コンピュータに登録され、本人固有の電話 番号や端末IDもそのスペースに割り当てられ、在席場所も表示されるのであたかも自分自身の専有スペースと同じように使える。 ◆EMC/電磁環境両立(electro‐magnetic compatibility)〔1992 年版 OA革命〕 電子的な機器が増加すると、それぞれから電磁波が発生し、相互に干渉し合って誤動作を起こしたり、電磁波が人体に悪影響を与えたりする恐れがある。この ため電磁波遮蔽ガラスなどが開発されている。郵政省では、電磁波に関する安全基準の制定を進めている。OA業界では電子部品や電子装置の電磁波の漏洩を 防止する機能をイミュニティ(immunity)と称し、VCCI(voluntary control council for interface)において対策を講じ、自主規制している。 ◆インテリジェント・ビル(intelligent building)〔1992 年版 OA革命〕 OAの展開に適した高度情報化ビル。高度情報通信、自動制御、ビルオートメーション、リフレッシュコーナーなど豊かなオフィスアメニティ環境、などのイ ンフラストラクチャーを備え、ビル入居者は容易にOAの展開ができるような環境をもつ。単独の企業がインテリジェント機能をもつビルを建設する場合が多 いが、インテリジェント機能が共有できるようなビルの建設も進んでいる。テナントは、オフィスに入居するだけで、電子メールやコンピュータ機能など共用 インテリジェントサービスを受けられ、専有スペースではLANなどのネットワーク回線の展開、OA機器の柔軟な設置などが可能となる。また、EMCなど 安全対策も立てやすいようになっている。 ▲OAによる社会の変化〔1992 年版 OA革命〕 OAの進展によって、かなりの社会の変化が生じ、それがまたOAの進展を促している。企業では、もはやOAやネットワーク化は常識となり、働く人にとっ て、ワープロの習得は、必要不可欠なものとなった。また、家庭にもOA機器が普及し、パソコン通信やワープロによる文書作成やコミュニケーションもごく 当たり前になったし、新しいサービスが始まった。このようなOA環境は、個人の情報活動能力を高め、男女の格差を埋める半面、世代間の格差を生み出して いる。また新しい文化も生まれつつある。 ◆VDT症候群〔1992 年版 OA革命〕 OAによって、パソコン、ワープロ、ワークステーションなどブラウン管が付いたビデオ・ディスプレイ・ターミナル(VDT video display terminal)を多 用するようになったので、これらを使うことによる人体への影響が問題として出てきた。つまり輝度、色、電磁波、紫外線、放射線、などの影響やキーボード を扱うことによる人体への影響などである。 特に目に対する影響が心配されているが、最近はディスプレイの改良も進み直接な影響はないとされる。むしろ作業姿勢や長時間の作業など、別の理由による 肩こり、眼精疲労、けんしょう炎などが問題とされている。職場環境などによる心因的理由による問題もあるので、いちがいに因果関係を特定することは困難 であるが、研究すべき重要な問題である。 ◆VDT労働省暫定基準〔1992 年版 OA革命〕 労働省では、一九八八(昭和六三)年基準を制定した。 (1)連続作業では、一時間の中で一○分ないし一五分の休憩をとる、 (2)健康診断を適切な間隔でと る、(3)視距離は四○セ以上離す、(4)画面が他の光源で光らない、(5)適度な室内照明、などとなっている。このような基準を守るには、管理者はもち ろん、使用者自身も注意する必要があろう。 ◆電子秘書〔1992 年版 OA革命〕 秘書の代わりに、ディクテーティング、スケジューリング、ファイリング、電子電話帳、交際リスト登録、情報の検索サービス、会計処理などを果たしてくれ る電子秘書システムが出現しつつある。したがって、次第にこの種の女性の役割は減少するかと心配されているが、人間関係は人間的接触が必要で、完全な秘 書交替は不可能であろう。ワークステーションなどで提供されるこの種のソフトを電子秘書と称することがある。 ◆ディクテーティング(dictating)〔1992 年版 OA革命〕 口述筆記のこと。ディクテーティング・マシンやワープロを用いると、能率的な文書化作業が可能となり、マネージャーやエンジニアなどの知的作業の効率が あがる。著述家で活用する人が多い。電話で要点を受けて、サービスする遠隔ディクテーティングもある。口述したあとの文章のケバ(まちがい)取りや文章 の添削など高度な技能が必要で、重点だけを記録しておいて、その要点から原文を再現(反訳)する。そこが速記とは異なる。 ◆ディクテーティング・マシン(dictating machine)〔1992 年版 OA革命〕 フット・コントロール(足踏みペダル)つきのテープレコーダー。ワープロで口述記録するときは、両手はキータッチに専念させ、イヤホーンで記録音声を聞 きキータッチする。そのとき音声の再生を足で止めたり戻したり、ゆっくりと回転させたりし、確実に聞き取ることができる。会議の後で会議録作成に使用さ れることが多い。 ◆在宅勤務〔1992 年版 OA革命〕 自宅にいながらオフィスワークをする勤務形態をいう。これまでの内職も在宅勤務のようだが、その内容が違う。そのような個別作業ばかりでなく、ワープロ、 パソコン、ファクシミリなどの端末を家庭に設置することにより、企業内や社外との連携を適時とりながら組織的な勤務活動が可能となる。トフラーの『第三 の波』にも指摘されており、このような勤務形態が社会的に広がると、地域コミュニティが活性化されるなど社会構造を変化させるという。しかし、これまで の感覚からすると、主婦などには好まれず、普及は遅い。なお、アメリカでは、在宅勤務者は一○○○万人に及ぶと推定されている。 ◆電子伝票〔1992 年版 OA革命〕 従来の経理システムでは、紙の伝票が常識だった。だが、OAではコンピュータ端末に表示された伝票のフォーム(スプレーテッド・シート)にデータを記録 し、電子的に伝票を発行する方法になる。内容の記載、決済、伝票の電子的な保存など、いっさいOAシステムで処理される。すでにかなりの数の企業で実施 している。EDI(電子データ交換)では異企業間の取引が電子伝票で果たされる。 ◆ハイテクカード〔1992 年版 OA革命〕 ICカードや光カードなどで、多目的な機能、高度な機能、セキュリティの機能を持たせたものをハイテクカードと呼び、流行しつつある。ICカードには、 大量のメモリーとCPU機能を搭載し、それに記録された個人情報を元にして、銀行取引、ショッピング、カルテとして診療所の受診などができ、しかも暗号 回路などを組み込み極めて安全である。なかには本人の音声に反応して信号を発し、部屋のカギを自動的に開く機能を持つものも出てきている。ハイテクカー ドは、一つのOAのセキュリティ要素技術として普及するであろう。 ◆ICカード〔1992 年版 OA革命〕 ICメモリーとマイクロプロセッサーを組み込んだメモリーカードである。メモリーばかりでなくインテリジェント機能を組み込むことにより、高度な処理機 能や機密性が増し、銀行の通帳などにまず使われだした。記憶容量は数万字に達する。銀行や商店が共同で運用し、カード保持者は、ICカードの中の残高数 値や多面的情報と利用者のキーワードなどにより信用が証明され、自動振込みで、買い物などをしたり、タクシーに乗車できる。ショッピング、証券売買、保 険支払いなどに利用される。医療ではカルテを入れて、診療のシステム化をすることが実験的に試みられている。全国銀行協会連合会(全銀協)とNTTデー タ通信が統一仕様の制定に踏みきった。 ◆多機能ICカード〔1992 年版 OA革命〕 これまでの磁気カードに対して一○○倍以上の記憶容量を持ち、データの書き込み、データ処理などをカードに組み込んだCPUで行うので、そのインテリジ ェント機能を利用することにより一枚で様々な用途に使える。多機能ICカードを前提としたOA機器やシステムが出現している。 ◆キーパッド(keypad)〔1992 年版 OA革命〕 端末がコンパクトで薄形になって、キーボードだけのノート状で、CATVなどに付属する入力装置。CATVなどでキーパッドを用いてショッピングをした り、アンケートに答えたりする。 ◆遠隔会議〔1992 年版 OA革命〕 ターミナルなど単なる通信では、やりとりのある会話はなかなか成立しない。どうしても遠隔地の人が集合して会議をするということが必要で、OAが進展す るほど人の移動の非効率やコストが問題となる。これを通信回線を使って、ディスプレイ上に動画と音声を入れた遠隔会議システムで解決しようとする。かな り臨場感のあるシステムの開発が進んでいる。ISO(国際標準化機構)でアナログ・デジタルの変換方式の標準化が進められ、近いうちに異機種間でも会議 ができるようになる見込みである。NTTやKDDはこのためにテレコンファレンスシステム・サービスを提供しており、メーカーからも電話会議システムが 販売されている。 ▲OAニュー・ビジネス〔1992 年版 OA革命〕 OAの進展によって、新しい企業組織への脱皮が行われている。最近の傾向では戦略的という言葉が盛んで、SIS(戦略的情報システム)が叫ばれている。 これは価値のある情報を把握して、経営やマーケッティングに生かそうとし、そういう企業組織を作るというものである。またSIN(戦略的情報ネットワー ク)というのは、ネットワークを利用して、異業種や複数の企業が広く結び付くという考えかた。OAによって情報を高度に活用して、新しいビジネスチャン スを作りだす動きが激しい。 ◆ノンストア・リテイリング(nonstore retailing)〔1992 年版 OA革命〕 ホームショッピングと対をなすもの。客が自宅にいて買物ができれば、店に品物を陳列する必要はない。客にカタログを配布するか、CATVでアトラクティ ブに画像で商品情報を提供し、コンピュータで集計し、最寄りの配送センターから配送する。あるいは客の望む品物を産地から仕入れて届ける。通信販売の発 展したもの。商品情報の提供、信用情報確保、発注処理、代金決済、品物の配送などについて、コンピュータ情報管理に基づくスピードを必要とする。デパー トも展示スペースが不要で、むしろ遊びの場に転換するかもしれない。アメリカやカナダで実用化されたCATVでは、ゲームやショーなどで引き付けたり、 商品の注文はCATVキーパッドでインプットさせる。わが国ではまだ一部のCATVサービス地域で行われているにすぎないが、将来ISDNが発達すれば、 次第に増加するであろう。 ◆エレクトロ・バンキング(EB)(electronic banking)〔1992 年版 OA革命〕 INSやVANの開放により銀行と企業との電子取引が可能となった。全国銀行データ通信システムが発足して一三年を経過し、全国二万店が加盟している。 また郵便貯金システムも全国ネットワークとなった。 為替決済は急速に増加し、書類の配送がなくなり、金融機関での事務手数は激減した。ユーザーからみると、どこの金融機関からでも即日送金が可能というこ とで、資金の運用も楽になる。親から子供への送金、公共料金の振込み、電話、電力料金自動引落しなどの事務が減少した。 以前の磁気テープ転送に対して実に楽になった。このシステムはさらに参加金融機関も増加し、信用情報の蓄積と照会が加わりつつある。 ◆カプセル店舗/カプセル・オフィス〔1992 年版 OA革命〕 OAシステムや自動化機器を活用して、コンパクトな店またはオフィスをつくり、地域展開をする考えである。標準化された単位店をカプセル店舗という。従 来マーケットが小さくて、店舗展開のできなかった地域でも事業が成り立つので、研究されている。こうなると古い店は圧迫を受ける。カプセル店舗(カプセ ル・オフィス)は、どこでも適用でき標準的な店に向くのであり、むしろ標準的であることがセールスポイントで、セブンイレブンの店舗はこの例である。 ◆EDI/電子データ交換(electronic data interchange)〔1992 年版 OA革命〕 国際的な通信環境の進展に伴い、企業間の商取引をコンピュータ同士の直接のデータ交換で行うもので、これにより伝票作成や郵送などの手間と時間とコスト を省き、広域かつ正確にリアルタイムに取引や精算が可能となり、また企業間の密接な連携活動が可能となった。国際的なEDIの進展に沿って、国際規格と して、ISO(国際標準化機構)ではビジネスプロトコルEDIFACTをすでに承認しており、わが国もこれに合わせて標準化を図っている。 ◆EL/電子図書館(Electric Library)〔1992 年版 OA革命〕 光ファイルなど電子画像ファイル装置の発展により、電子図書館サービスが、一九八八(昭和六三)年度から始まった。パソコン通信でELに接続し、メニュ ーから必要な情報を調べ、望む資料を要求すると、パソコンに接続された出力装置(ファクシミリなど)に直ちに画像の状態で送られてくる仕組みである。新 聞や雑誌などのコピーを検索し、そのままの状態で有料で得ることができる。 ◆レコード・マネージメント・コンサルタント(record management consultant)〔1992 年版 OA革命〕 OA時代にふさわしいファイリング・システムを中心としたレコード・マネージメント・システムの設計支援、データや情報の取り扱いの指導、管理の請負い をする事業である。電子ファイルの普及により、新しい型のレコード・マネージメント・サービスが出はじめている。 ◆パソコン翻訳サービス〔1992 年版 OA革命〕 電話回線によって家庭にあるパソコンから、大型コンピュータの翻訳システムを利用できるサービスが始まった。キーボードで日本語の原文をインプットする とセンターから自動翻訳された英文が返送されるというシステムである。 ◆テクノレディ(TL)(techno‐lady)〔1992 年版 OA革命〕 ワープロによる文書作成サービスやインストラクターなどOA関連の女性の新しい職場が増加している。オフィスで働く女性は一般にOLと称していたが、新 しいビジネスの中心となるビジネス・レディ(BL)、技術的な能力をもって働くテクノレディ(TL)、コンピュータレディ(CL)とでもいえる。ワープロ、 パソコンも女性に向く仕事である。文章を自分で立案する自主性を持ったBLが増加するだろう。男女雇用均等法の施行により女性が男性に肩を並べて活動す ることが望まれているが、OAは女性の地位を高めるツール(道具・手段)となる。 ◆マイコン・ソフト・ハウス(micro computer software house)〔1992 年版 OA革命〕 マイコン・ソフトウェアはきわめて専門的分野となりつつあり、マイクロ・プロセッサを応用した製品やソフトを開発したり、ユーザーやメーカーをスピンア ウトして会社を創建したりする者が増加している。また、企業の情報部門を独立させて設立する傾向もある。だが、参入する者が増加するにつれ系列化、グル ープ化、専門化も進んでいるが、ユニークなソフトを開発するような独立ソフトハウスも増加しており、一個の産業として発展しつつある。 ◆情報流通業〔1992 年版 OA革命〕 データ・バンク、文献情報サービスなど電子的情報図書館のような事業がいわゆる情報ユーティリティ産業である。分析や要約がともなうので、シンクタンク から発展するものもある。欧米では一九八一年においてデータバンクが六五四、文献バンクが七五五ある。これに対して、わが国では、八五年(昭和六○)年 にわずか六○○システムに過ぎず立ち遅れが目立ったが、以後三倍程度の急速な成長ぶりとなっている。しかし海外への提供が少ないことが依然として問題と されている。 ◆OAベンチャービジネス〔1992 年版 OA革命〕 この業界への参入の仕方に、電算部門独立型、電算部門処理能力転売型、ソフト転売型、OA機器販売型、データベース展開型、完全スピンアウト型、クリエ イティブ型などがある。いずれにせよ、ソフト要員の充実がポイントである。 ▲OAと通信〔1992 年版 OA革命〕 OAを推進する技術的基本要素として、通信つまりコミュニケーション・ネットワークはきわめて重要な要素である。これはコンピュータ技術や光技術によっ て、デジタル化され、通信容量は格段に増し、機能は強化され、正確になり、広域に結ぶことが可能となる。またISDNの展開により、さらに強化されるだ ろう。企業や個人が、このネットワークを自分のものとして駆使できることは、これまでとは比べようもないような世界と交わることを意味する。二一世紀は、 まさにネットワーク社会となる。 ◆開かれたOA/閉じられたOA〔1992 年版 OA革命〕 閉じられたOAというのは企業内のみでOA化を進める方式で、事業所間はNTTから特定通信回線を借りて企業独自で運用する方式。現在のOAはほとんど この方式で実施され、その進んだ通信方式がLANである。この方式では、コストもかかり関連企業の間の情報の交換は直接の連絡、郵便電話や磁気テープな どの限られた交換手段しかなかった。ところが通信回線が開放され、VANさらにはINSの進展によってその高度なサービスを利用して外部との広域情報流 通を取り入れ、異業種交流を図りながらのOA化が可能となった。これを開かれたOAまたは広域OAシステムという。 ◆電気通信事業登録制度〔1992 年版 OA革命〕 一九八五(昭和六○)年四月、電気通信事業法および関係政令が施行され、日本電信電話株式会社(NTT)が発足し、電気通信事業に競争原理が導入された。 電気通信回線を設置する事業者を第一種事業者とし、その設立は許可制となっており、現在は、長距離系として、第二電電(株)、日本テレコム(株)、日本高 速通信網(株)の三社、地域系および衛星系として、それぞれ数社がある。第一種事業者から通信回線を借りて通信事業を行う者を第二種事業者(VAN)と 称する。 第二種は特別第二種と一般がある。特別第二種は、一二○○ボー回線(一秒間一二○○ビットの伝送量)を単位回線として、五○○単位を超える業者をいい、 登録制である。これ以外は一般二種で届出制である。このほか無線による携帯電話サービスも急速に普及している。 ◆IP(information provider)〔1992 年版 OA革命〕 情報提供者である。キャプテンやCATVでは、放送側から必要かつ魅力的な情報を提供することが必要である。IPが充実していないと、ユーザーは利用し ない。CAPTAINやCATV、パソコン通信の普及によって、急速に増加の傾向にある。なおユーザー自体をIPとし、巻き込むことも行われている。 ◆LAN(local area network)〔1992 年版 OA革命〕 企業内統合通信網。従来の電話交換やコンピュータ・ネットワークを包含し、音声、文書、画像、データなど多面的な情報をひとつの通信網で処理する。LA Nを通じて電子メール、データ処理、電子ファイル、印刷処理、データバンクなどを効率的にサービスすることが可能。OAの多面的な情報通信路をになう。 パソコン・クラスの小規模なもの、電子交換機によるもの、分散処理コンピュータによるもの、大型コンピュータによるものの各種の方式がある。 通信伝送路としては、従来の金属ワイヤーでは、伝送容量が不足するので、同軸ケーブルが用いられ、主幹線では光ファイバーが使用されることが多い。 なお、小規模LANでは電灯線を用いる簡易な方式(電灯線LAN)もある。無線による方式の実験も始まった。 これらの回線のネットワーク手法で、回線が輪の状態になっているのをリング型、回線が棒になっているのをバス型、回線が星状になっているのをクラスタ型 と称する。また、これらの型を全部包含するものもある。各社各様のLANが提唱されているが、概念はほぼ同じである。 通常、LANを通じて文書ファイル、印刷、データ・バンクなど各種のサービスシステムが提供される。これをサーバーと称する。 ◆WAN(wide area network)〔1992 年版 OA革命〕 LANを広域に結合するものを、WANと称する。これも含めて、LANと称する場合が多い。これが発展していって全国に展開されたものが、INSである といえる。 ◆MAP/TOP(Manufacturing Automation Protocol/Technical and Office Protocol)〔1992 年版 OA革命〕 MAPはゼネラルモーターズ社で、TOPはボーイング社で提唱された標準プロトコル(通信規約)。FAとOAにまたがるOSIに準拠した制御機器、OA 機器などの標準プロトコルであり、国際的な標準化が進行中である。わが国ではOSI推進協議会が、この実装規約の標準化を推進している。このプロトコル に対応することにより、異なったメーカー製品間でも異なった企業間でも、相互に機器を接続することができ、マルチベンダー環境が実現する。 このような動きは、当面は工場の関係から始まったが、事務関係にも次第に影響を及ぼしていくと予想されており、OAのネットワークの標準化を促進する動 きとして注目されている。MAP/TOPに参加するユーザーは、世界的に増加の傾向を示している。MAPのOSIプロトコルはトークン・リング方式をと り、TOPはCSMA方式のプロトコルを採用している。 ◆特許電子出願〔1992 年版 OA革命〕 特許庁では、特許事務全体の電子化を図るため、ペーパーレス・システム計画を推進し、一九八九(平成一)年六月に公開し、九○年一○月から実施に入った。 特許情報がすべて電子ファイル化され、検索、審査、広報などの業務を効率化し、一般へのサービス業務を強化しようというもの。これによると特許、登録な どの出願は、オンライン端末あるいはワープロのフロッピーで提出してもよい。電子記録された特許出願書類の審査の多くが自動的に行われ、審査のスピード アップが図られる。このためにファイル構造はOSIおよびファイルに共通な交換仕様に沿い、それに特許仕様プロトコルを付加して規格が定められた。これ はOSIに準拠している。なお、特許用オンライン端末が発売されている。 ◆ODA(open document architecture)〔1992 年版 OA革命〕 OSIで国際的な標準化が検討されている。電子的な文書を相互に流通するときに、相互にこの標準文書構造を守るか、これとの相互変換を可能とすれば、異 機種相互の文書の交流ができる。JIS規格のファイル交換仕様はこれと密接な関係がある。 ◆ゲートウェイ(gateway)〔1992 年版 OA革命〕 LAN回線OA機器を接続する分岐装置をいう。NTT回線に分岐する場合もゲートウェイを通じて分岐する。 ◆音声メール/VMX(ボイスメールボックス)(voice mail)〔1992 年版 OA革命〕 電話を相手にかけるときに、相手がいなくても相手のメールボックスに、音声のデジタル情報を記録して伝達する。声の電子メールである。遠隔地との交信や、 勤務時間の異なる人と人のコミニュケーションなどができる。NTTで実用化をめざし実験中であるが、まだ実現していない。 ◆電子ファイル/電子ファイル・キャビネット(electronic filling cabinet)〔1992 年版 OA革命〕 オフィスは紙情報の氾濫である。情報を重複保存したり、必要な情報が取り出せなかったり情報が消滅したりする。紙めくり、書類運搬の時間も多くなる。フ ァイリング・キャビネットのスペースも大きい。この紙による制約を情報の電子的なファイリングと管理によって解決する。ファイリングの方法にはマイクロ フィルム、マイクロ・フィッシュなどが利用されているが、伝送困難で検索スピード、ランニングコストなどに問題がある。コンピュータの大量記録装置も利 用されているが、コストが高くつく。そのため大量に記録でき、伝送によって、遠隔場所からでも検索したりファイルできるものとして、光ディスク方式の電 子ファイル・システムが普及しはじめた。これによって、オフィスにおけるペーパーレスは急速に進行しそうである。だが、紙への親和性も捨てがたく、紙を 上手に管理するOAファイリングも重要である。 ◆光ディスク(OMD)(optical memory disc)〔1992 年版 OA革命〕 アクリルなどのレコード状円盤にテルルなどの気体金属や有機材料やアモルファス金属の被膜を張ってある。この円盤に、原情報を走査して得た画像情報を、 ごく微細な穴を明けたり変形させたりして、記録する方式である。レーザ光による画像の走査によって画像を極微細な点に分解し、点の集団をデジタル化して、 その数値を記録する。記録情報を読むときは、この数値を読み、画像に再生する。記録にあたり画像圧縮などの方法が取られ、コンパクトに記録できる。写真 と同様のイメージ記録であるが、二次情報の管理により、情報の検索、分類記録が容易である。再生専用(追記型)のものと書き換え可能(イレーザブル型) のものとがある。 一枚の光ディスクで、A4判文書、六万枚から一○万枚の記録が可能であり、検索は三秒から五秒程度である。記録されたイメージは、伝送が可能で、遠隔の 端末からも検索できる。目下五インチディスクの標準規格(ISOおよびJIS)が検討されている。 ◆光カード/レーザー・カード(laser card)〔1992 年版 OA革命〕 光記録方式によって、カード媒体にデータや文書を記録するもので、一枚のカードで、数十メガの大量の記録ができるので、ワープロやパソコンの大量記録媒 体として使用されるようになると期待されている。読み書きができるようになれば、フロッピーがこれに置き代わることも予想される。実験的に使われはじめ ている。 ◆画像処理/ビジネス・グラフィックス(business graphics)〔1992 年版 OA革命〕 OAでは、データばかりでなく、音声、文書、絵にいたるまでトータルなメディアの合理化が進む。経営データも表を見るのに絵による視覚化が進む。スケジ ュールなども同様。文書も絵とデータと文章を合成。このような画像を含むための画像処理のソフトウェアの開発と供給が始まっている。CAD(computer aided design)、CAM(computer aided manufactuering)などの技術がオフィスにも浸透しつつある。 ◆電子パッド(pad)〔1992 年版 OA革命〕 携帯端末や簡易ファクシミリで、外出先の電話機とオフィスを接続し、その場で仕事を処理する。営業マンは出先から受注のインプット、銀行員は預金者宅を 訪問して預金の受け払い、医者は患者の情報や血圧、体温、脈拍など直接にセンターに記録して、異常を検知する。もちろんこれで自宅でプログラムの作成や データの検索などもできる。銀行員端末などはすでに使われている。このように、出先でのオフィスワークをOA化することを「アウトドアOA」と称する。 携帯端末は、重さ一∼三キログラム程度。 ◆マウス(mouse)〔1992 年版 OA革命〕 ディスプレイの中の入力点(カーソルの位置)の位置決め手段である。同種のものにデジタイザ、ジョイスティックなどがある。ケーブルを鼠の尾、指示選択 ボタンを鼠の目、全体を鼠の形と見立てマウスと称している。机上のマウスの位置によって、画面での入力位置を決めたり、メニューを選択したりする。マウ ス・ボタンには一コ、二コ、三コのものがある。パソコンやエンジニアリング・ワークステーションでは画面の自在な操作を行うのに、重要な手法になってい る。 ◆アイコン(icon)〔1992 年版 OA革命〕 ディスプレイの画面の中に、目で見てそれと分かる絵を示し、それを指定することによりその絵に相当する処理をさせる方式。たとえば、時間を知りたいとき は、時計の形をした絵をマウスで指定する。通産省ではアイコンのJIS規格の制定を進めているが、続続と新しいアイコンが考察され、標準化は進んでいな い。 もっとも基本となるものとして、キャビネット、フォルダー、フロッピーディスク、ゴミ箱などのアイコンのほか、ジョブアイコン、ファイルアイコンなどの 種類だけは常識として憶えておきたい。ジョブアイコンは実に多様で、機種によって異なる。キャビネットはこの中にフォルダーを収容する。フォルダーには、 フォルダーやジョブやファイルを収容することができる。フォルダーは多重的に階層構造で収容できる。ゴミ箱は、ここにジョブやフォルダーやファイルを投 げ込むと、それらが廃棄される。 ◆エンド・ユーザー・ユーティリティ(end users utility)〔1992 年版 OA革命〕 OAの進展で、専門家を介在せず一般ユーザーがOAシステムの機能を十分に引き出せるようにしたソフト。メニュー方式による端末操作など各種のOA支援 機能が提供される。メニュー方式では、メニューを選択するだけで、目的のグラフやレポートをプログラミングせずに作成できる。漢字マルチプラン、ROT US123、EXCELなどがそれである。 ◆デシジョン・ルーム(decision room)〔1992 年版 OA革命〕 経営会議において、必要な情報が適時適切に提供され、会議参加者全員が視聴覚機器などを利用しながら効果的なプレゼンテーションができるシステム。テレ ビ会議で遠隔地からも参加できる。部屋としての物理的構造もあるが、これをサポートするデータベースを主としたOA情報システムの構築が肝心である。 ◆機密保護/セキュリティ(Security)〔1992 年版 OA革命〕 OAでは末端の利用者が直接端末を処理したり、相互に関連を持ったり、センターやそれぞれの情報バンクを操作したりするので、とくに機密保護が重要にな ってくる。端末の施錠管理、利用者IDカードなどによる権限チェック、モニタリング監視、データの各階層に対するカギかけ(ロック)、キーワードとID によるプロテクトなどが配慮される。その他、伝送途中や情報の処理中に情報が盗用されたり、破壊されたりするおそれがあり、情報を暗号に変換してから伝 送したり、折り返し検査をする方法も適用されている。 ◆スタンドアローン(stand‐alone)〔1992 年版 OA革命〕 独立型の機器をいう。現在のワープロはほとんどスタンドアローンである。これに対してワークステーションなどオンライン型がある。どんなにOAが進んで もPPC複写機のようにスタンドアローン機器は残る。 ▲OAキーテクノロジー〔1992 年版 OA革命〕 OAは人間的な要素が中心であるが、OAを支える技術的なテクノロジーとしては、中心となるのは、コンピュータである。コンピュータではダウンサイジン グ(小型かつパワフルへ)の傾向が盛んで、OAにとって好ましいことである。それにより、パワフルなワークステーションや機器やネットワークが普及する からである。またAI(人工知能)の進展も著しく、ファジーの理論の活用も盛んで、OAがより人間的なものに迫りつつある。電子ファイルやDTPも急速 に普及しつつあり、ペーパーレスも進行する。 ◆汎用ワークステーション/OAワークステーション(workstation)〔1992 年版 OA革命〕 端末が多用されるのがOAの特徴のひとつ。ひとつの端末でデータ処理、文書作成、電子メール、ファイリング、プログラム開発など多様な機能を持ち、統合 ワークステーションなどと称する。またこれに使用するソフトウェアを統合ソフトと称する。フラットパネルにより将来は机と一体となる傾向が予想される。 専用でオンラインでない装置(スタンドアローン)も使用される。これらも含めワークステーションとはターミナルだけでなく、作業をする場所を指すという 見方もある。キーボードではカナなどのキーボードのほかにワンタッチ・キーボードやマウスも有効に活用されよう。また入力の場合も統合ソフトで容易な入 力手段が提供される。OAパソコンも、ワークステーションとして用いられる。 ◆ノートブック型パソコン〔1992 年版 OA革命〕 携帯型ワークステーションでは、膝載せ型としてラップトップ(lap‐top)が流行しているが、それをさらに小型軽量にして、本のような形の携帯型が流行を みている。形はA4判、厚めの本(二センチ前後)の程度であり、重量は三キログラム以下で、充電式電池で、どこにでも持ち運び使用できる。データ処理は もちろんワープロ機能や表計算などの作業もでき、通信機能を用いて、ホストコンピュータとも接続でき、移動式OA活動が可能となる。オフィスではそれぞ れの机に備え、統合ワークステーションとしての標準的な機器となりつつある。 ラップトップの時代を過ぎて、主流はブック型になりつつあり、メーカーはしのぎを削っており、年間一○○万台に近づく勢いとなっている。 ◆日本語ワードプロセッサ(俗称ワープロ)〔1992 年版 OA革命〕 わが国では、漢字があるため英文タイプライターに相当するものはなかった。和文タイプライター〔一九一五(大正四)年〕では、スピードで満足できず、カ ナタイプライター(二三年)は、普及まで至らなかった。 ところがコンピュータさらにLSIの発展により、仮名漢字変換方式による日本語ワードプロセッサが、七八年秋に東芝の森健一工学博士以下によって開発さ れ、欧文タイプライターに匹敵するタッチメソッドによる漢字仮名交じり文の文書作成ならびに文書ファイル装置が出現し、以後急速に普及した。 仮名漢字自動変換では、平仮名のキータッチ文を仮名漢字変換ソフトならびに用語辞書の助けを借りて仮名漢字交じり文の文章に自動的に変換するものである。 最近は全文一括変換方式なども提供されるようになり、入力はますます容易になった。 またワープロは、単に文章の作成の機能ばかりでなく、文章のファイル、印刷、グラフの作成、イメージの入力と処理、通信、電子メール、DTP機能、自動 翻訳機能など、多面的な機能を持つようになった。仮名漢字変換では漢字指定方式、文節入力方式、全文変換方式などがある。 「じゆうは/しなず/」と切るのが文節方式であるが、全文一括変換方式ではまったく切らないで入力してよい。 ワープロは、これまで手書きが主だったオフィスをタイプライター化したが、このOAにおける意味は、文書事務の効率化だけでなく、電子メディアに対する 基本的な手段(OAリテラシィ)を提供することにある。年間三○○万台近い出荷であり、OAだけでなく、国民生活およびこれからの国語教育に及ぼす影響 が大きい。 ◆パソコンのワープロ機能〔1992 年版 OA革命〕 パソコンが持つワープロ機能のことであり、ソフトハウスによって開発されたソフトで、ほとんどのパソコンに適用可能である。ファイル方式は、主に MS‐ DOS ファイルであり、ファイルの互換性が相互にあり、ワープロ間の互換を取るのに、パソコン経由で行われていることも多い。パソコンの用途のうちの七 ○%がワープロ機能であるとされており、機能の向上が著しく、ワープロとの機能の差があまりなくなっている。 ◆EWS(engineering work‐station)〔1992 年版 OA革命〕 CADなど設計の自動化を行うためのコンピュータ・ワークステーションである。精密な図面を高速に描くための処理、精密ディスプレイなどを装備し、パソ コンや汎用コンピュータと別の独自の領域を形成している。EWSでは、命令を縮小してLSIに組み込み、高速演算を行うRISCアーキテクチャー方式の マイクロ・プロセッサーが主流になっている。EWSの普及により、設計部門のOAも急速に進展中であり、図面を手で引くことはほとんどなくなり、また図 面を検索したり、表示したりもできる。 ◆携帯電子ノート〔1992 年版 OA革命〕 一九八八(昭和六三)年から急に普及が始まった電卓形のワープロで、電卓機能などをもつものである。電子手帳、電子ノート、ノート・ワープロなどと称し て、電話帳、スケジュール、住所録、メモなどを記録し、これらをワープロに吸収したりできる。形を小さくするためにキーボードを簡易型にするか、手書き 認識方式にするものが出ている。この種のものをパームトップと称することがある。これらの普及を見て、日本事務機械工業会では片手入力キーボードの標準 化の調査研究を開始した。 ◆ワープロ・パソコン通信〔1992 年版 OA革命〕 ワープロには日本語テレテックス通信機能もあるが、公衆電話回線を用いた軽便なパソコン通信方式の利用もできる。これにより電子掲示板、電子会議、電子 メール、情報提供などがなされ、このほかチャットと称する利用者同士のおしゃべりサービスもできるが、これは電子掲示板の応用である。パソコン通信を利 用するには、ワープロにモデムを付属し、ネット局と契約することが必要である。パソコン通信のためにいま各地にホスト局ないしキー局の設置が進んでいる。 ◆ワープロ・ファクシミリ〔1992 年版 OA革命〕 ワープロを公衆通信回線に接続して、相手のファクシミリに出力をしたり、相手のワープロやファクシミリの出力も受けられるようなワープロである。 ◆アウトライン・フォント(outline font)〔1992 年版 OA革命〕 ベクトル・フォントと称することもある。ワープロなどの文字は、これまでは点の集合で文字を構成した。たとえば二四ドット文字では、五七六個の点で文字 を表現した。この方式では、ドットでなく文字の輪郭情報を持ち、印刷するときに輪郭情報で文字を構成する。拡大文字のときにも、滑らかな線で表現できる し、文字を変形することも容易であり、高品質文字の印刷が可能である。ファイルされた文書を、後でアウトライン・フォント方式で加工したり、編集したり するプロセスをポスト・スクリプト(postscript)と称し、DTP(デスク・トップ・パブリッシング)では、この方式がよく用いられる。 ◆ワープロ技能検定〔1992 年版 OA革命〕 日本商工会議所が、ソロバンや和文タイプの検定と並び、文書処理能力とワープロ操作能力の検定制度を一九八五(昭和六○)年五月から開始した。クラスは 一級から四級まである。検定の項目には、文書一般常識、国語読解力、ワープロ技能(技巧とスピード)があるが、スピードについては、一○分当たり、一級 九○○字、二級六○○字、三級四○○字、四級三○○字以上(いずれも誤字余字一○字以内)となっている。労働省職業訓練所もワープロ検定を定期的に実施 している。 ◆ワープロ標準化〔1992 年版 OA革命〕 日本事務機械工業会や電子工業振興協会を中心として検討されている。その要点は、ワープロで使用される用語の呼称と定義の統一、フロッピーディスクの互 換性の確保、標準化、キーボードの標準化などで、キーボードは標準化されたが、その普及が課題となっている。なお、キーボードの機能キーの標準化も現在 すすめられている。互換性をとるための、フロッピーの共通仕様、二四ドット漢字字形はJIS化された。フロッピーの互換性確保が課題となっている。が、 実現の目途は立っていない ◆新JISかなキーボード〔1992 年版 OA革命〕 パソコンとワープロでもっとも多く使用されているキーボードは、仮名が四段に配置されている規格JIS C 6233 である。ホームポジション(指を置く 基本の位置)から最上段の文字をタッチしたり二段目の濁点、半濁点をタッチするのにどうしても指の動作が大きくなる。6233 規格はブラインド・タッチメ ソッド(指先のキーの位置を見ないで打つ方法)に向かない配置である。これを抜本的に改善し、タッチメソッド(打鍵)が合理的になるように文字配置を考 えた新しいJIS規格(現在ではJIS C 6004)が、一九八六(昭和六一)年二月に制定された。この文字配置は、電子工業振興協会で研究され、五二万 字に及ぶ日本語文章をシミュレートして、その合理性が証明されている。文字は三段一○∼一一列に配置されており、6233 規格における小指の使用頻度が多 いという欠点は完全に改良された。新JISキーボードは、八八年度からぼつぼつ普及が始まったが、在来キーボードが一般化していて、普及の歩みは遅い。 ◆日本語文書ファイル交換仕様〔1992 年版 OA革命〕 ワープロの文書ファイルは、メーカーごとにまちまちで、メーカー間のフロッピーディスクの互換性がない。これを解決するために、ファイル交換標準仕様を JIS化し、各メーカーがそれに対する互換性プログラムを提供することによって、メーカー間の変換が容易となった。図形を含む標準仕様(ミックスモード) も検討が進み一九八八(昭和六三)年に一部JIS化され、今後さらに拡張される。特許電子出願システムは、この方式を採用している。なおこの交換仕様と は別にMS/DOSファイルによって交換する方法も不完全ではあるが実際に行われている。 ◆パターン情報認識〔1992 年版 OA革命〕 計算や論理的判断、推論などは、人間よりもコンピュータのほうがはるかにまさるが、知覚能力ではコンピュータは人間よりもはるかに劣る。コンピュータで 知覚処理を自動化するのが、パターン情報処理である。視覚、聴覚、触覚、味覚、臭覚などである。この中で視覚と触覚と聴覚の開発に力が入れられている。 ここで有力な手法としてAI(人工知能 artificial intelligence)の適用が始まっている。 ◆音声認識および手書き認識〔1992 年版 OA革命〕 OAシステムと人間とのインターフェースとして、在来から人間が慣れ親しんでいる方法をOAサイドで消化するように研究が進んでいる。シートやブック型 のハンディOA機器で、キーボードの代用として、手書き認識が活用され始めた。キーボードほどの迅速入力はできないものの、特定用途には十分に効果的に 使える。 ◆音声応答〔1992 年版 OA革命〕 金融機関で、残高や入金の照会は、機械的な定形的応答だというので、音声応答で自動化がされている。顧客へのメッセージを音声で出し顧客からの応答はプ ッシュボタンや簡単な応答、たとえば「ハイ、イイエ、ドウゾ」や数字などでする。この応答レパートリーも増加の傾向である。システムの回答もコンピュー タ・データを音声合成して自動的に応答する。NTTは、音声応答の機能をもつ「流通ANSER」をDRESSと連動させて一般に提供している。これによ って、会員コード、商品コードデータを声で入れて、与信チェックや商品チェックをし、受発注処理を自動的に行える。 ◆パーコール方式(PARCOR)(partial auto co‐relation)〔1992 年版 OA革命〕 音声の特徴要素を偏自己相関係数などを用いて、デジタル情報に変換して音素として蓄積し、出力時には、デジタル情報によって音素(音声パラメータ)を合 成して、発音させる方式。音素は、発音のよい人の文章を読む音声から抽出し、作成する。最近は、音素を記録してあるLSIも発売され、いろいろな機器に 応用されている。 ◆漢字OCR〔1992 年版 OA革命〕 手書きおよび印刷文字の英字カナ、数字を読むOCRは、すでに普及段階にある。OAで非常に期待されているのが漢字仮名OCRである。書籍や文献をキー タッチによらず、自動的に記録できる。すでに開発されている東芝の手書き活字漢字OCRでは、一秒間に手書き文書は五○字、活字は一二○字を読み、一分 間に活字では八○頁の本を読む。手書き文字パターンのJIS化も行われている。 ◆OAパソコン〔1992 年版 OA革命〕 八ビットパソコンはゲームが中心であるが、一六ビットおよび三二ビットパソコンでは、本来のビジネス用途のパソコンおよびソフトウェアが確実に伸びてい る。インテグレーテッド・ソフト、業務パッケージ、グラフィック・プログラム、通信機能、日本語ワープロ機能などを装備して、多様な展開があり、OAパ ソコンと称し広く普及している。 ◆UNIX〔1992 年版 OA革命〕 一九六九年にベル研究所で PD‐11 用に開発したオペレーティング・システム(OS)が源流となって発展してきたTSS用のOSで、パソコンでも使えるよ うになった。目下AT&T中心のUIIとIBM中心のOSFの二つの流れがある。UNIXでは、文書処理、技術計算、データ処理など多様な処理を互いに 非同期に多重的に使用できる。UNIX使用者にはC言語によるOSソースプログラムが提供され、これをベースとして自社で改造したり付加機能をつけたり することが可能となっている。わが国では日本語情報処理機能が付加されている。 ◆ハイパーメディア(Hyper‐media)〔1992 年版 OA革命〕 これまでのパソコンでは、データやテキストなどを文字の形式で表示してきたが、図形、画像、写真、音声など様々なメディアを多元的に折りまぜて表現する 方式へとコンピュータやワークステーションが発展しつつある。この方式のものをハイパーコンピュータと称することがある。また、コンパクトディスク(CD ‐ROM など)にハイパー情報を記録して、それを利用するソフトも普及が始まった。 ◆MS‐DOS〔1992 年版 OA革命〕 マイクロソフト社が開発した一六ビットパソコンと三二ビットパソコンのOSがある。フロッピーディスクを使用する環境で使用。パソコンでは最も普及して いる。 ◆OS2〔1992 年版 OA革命〕 三二ビットパソコンのための高性能のOSとして、IBMによって開発されたものである。LANサポート、データベース、一六メガのアドレス空間、マルチ タスキング(多重処理)、マルチウインドウなどのサービスが供給される。 ◆パームトップ(palm top)〔1992 年版 OA革命〕 片手で持って操作できる方式の機器をパームトップと称し、流行をみつつある。ハンドヘルド・パソコンや電子手帳のようなワープロなどもこの部類である。 片手で持ち、他の手で操作するとなると、キーボードは片手操作が可能なことが必要となり、手書き文字認識方式や片手操作キーボードなどが重要になってく る。片手キーボードの標準化の研究が始まっている。 ◆ハンドヘルド/ポケコン(handheld/pocketable computer)〔1992 年版 OA革命〕 パーソナル・コンピュータのコンパクト化によって、より機能が強化され、手に持って歩け、電池で作動するパソコンが出現し、今後発展の方向である。IC メモリー、磁気バブルメモリー、熱転写プリンタなどのコンパクト化技術が一段と進めば、いよいよ進展し、アウトドアOAの有力ツールとなる。この種のパ ソコンをパームトップと称することがある。 ◆コンポーネント・タイプ〔1992 年版 OA革命〕 パソコンなどの機器を構成する各装置が、ひとつひとつ単体になっていて、その単体をケーブルで接続してシステムを構成する周辺装置分離型をいう。 ◆オール・イン・ワン(all in one box)〔1992 年版 OA革命〕 機器を構成する各装置が、全部ひとつの箱体にまとまって構成されているタイプ。ポータブル・ワープロやポケッタブル・パソコンがそれ。またCRT型ワー プロでも、本体・キーボード・プリンター・フロッピーなどの一体になっている型が普及している。これに対し、プリンターなどを別にするタイプを、プリン ター分離型という。 ◆スクロール(scrolling)〔1992 年版 OA革命〕 VDTディスプレイ一画面で表現できる範囲は、せいぜいA4サイズ程度である。一頁の情報がこの画面よりも広いとき、VDT画面をウインドウとみなして、 ウインドウを上下左右に動かして、頁の必要なところを見る操作をスクロールと称する。 ◆ウインドウ操作(window operation)〔1992 年版 OA革命〕 パソコン、ワークステーション、ワープロ、DTPなどにおけるVDTのウインドウ画面の操作は、もはや常識である。マッキントッシュの例で説明すると、 画面の上段にメニューバーがあり、幾つかのメニューからマウスのポインター(矢印)を動かして、そのうちのオブジェクトを選ぶと、その下にプルダウンメ ニュー(詳細なメニュー)が出てきて、作業内容を細かく選択できる。ジョブ(作業項目)のアイコンの中から、特定のジョブを選ぶと、そのジョブに関する ウインドウ(そのジョブに限られた画面)が表示される。 ウインドウは、複数枚を重ね合わせたり、その順番を変えたり、横に並べたりでき、その中から特定のウインドウを選んで目的の仕事を実行する。それぞれ特 定のウインドウは主画面と枠があり、枠には、タイトルバー(メッセージやジョブのタイトルが表示される)やスクロールバーがあり、この中にはクローズド ボックスが必ずある。このボックスをマウスでクリックすると、そのウインドウに関するジョブが終了になる。画面にあるウインドウやアイコンの位置は、マ ウスでドラッグ(drag 引っぱる)して画面の中の自由な位置に移動できる。アイコンやファイルなどをドラッグして、ゴミ箱アイコンに重ねるとそのオブジェ クトは廃棄される。 ◆電子黒板〔1992 年版 OA革命〕 黒板ないし白板に書き込んだ文字や絵をデジタル的に認識し、その情報をファイルしたり、印刷したり、伝送したりする装置。画面を操作する分解能力が問題 であるが、画素が二ミ不程度のものまで出ている。会議を行うとき、この黒板に書いたメモがそのまま出力できるので、会議参加者はメモを取る必要がない。 [株式会社自由国民社 現代用語の基礎知識 1991∼2000 年版] ◆デジタルPPC複写機〔1992 年版 これまでのPPC(plain paper copy OA革命〕 普通の紙でコピーできる機械)がアナログ方式だったのに対し、デジタル式に画像をとらえて記録し印刷する。倍率を 自由に変えたり、部分的に切り出して複写したり、合成したり自在に操作できる。この処理をコンピュータで行うことから、これをインテリジェント複写機と も称する。LANにも接続でき、ワープロなどOA機器の出力装置としても利用できる。キヤノンが一九八四(昭和五九)年に先陣を切った。 ●最新キーワード〔1992 年版 OA革命〕 ●SIS/SIN〔1992 年版 OA革命〕 最近は、戦略的情報システム(SISstrategic information system)など戦略という言葉が盛んに使われ、大学などでも講じられたりする。 SISは戦略に役立つ情報を引き出して、情報資源を企業活動に役立てて、その方向に組織を指向させ、競争において、他社よりも優位に立とうという考え方 であり、OAのトップマネージメントへの適用の結果である。 これに対して、SINという言葉もだんだんと聞かれるようになった。これは strategic information network の略で戦略的情報ネットワークである。これで は相互に企業が結び付いて、互いに有利な関係を築き上げ、共存共栄を計ろうという概念である。OAでは、EDIのように、この結び付きが通信システムに より、かなり容易になっている。SISとSINでは、言葉は似ていても、概念が対称的である。SIS的な発想では、製品もできる限り他社に対して差別的 な戦略をとる傾向が強いが、SINでは、できる限り標準化して、相互の流通をよくして、パイを大きくとる傾向になる。 競争に打ち勝つには、SIS的な活動も大切だろうが、社会的な視点を取れば、SINの方向にOAを導くほうがはるかに長期的であり、価値がある。 ●ペーパーレス〔1992 年版 OA革命〕 オフィスでのペーパー洪水はまだまだなくならず、複写機の普及などで安易に複写したり、コンピュータ出力の増大によって、むしろペーパーが増加したとい う説もある。ペーパーは、一枚のコストは安く、手軽さ、便利さ、読みやすさ、親しみやすさなどの面で、これからも使われていくだろうが、森林資源の枯渇、 地球環境の破壊などの面から、これをできるだけ減少させることが課題となっている。OAでは、ペーパーの制約を超えて、より高度なオフィスシステムを作 り出し、ペーパーに頼らず、電子メディアを多用するペーパーレス・システムが目標となっている。電子伝票、ICカード、電子ファイルリング、ネットワー クシステム、データバンクなどすべてペーパーレスであるが、これを押し進めることは、環境面からも必要である。 なお、人々がキーボードなどに親しむこともペーパーレスの進展に役立つ。 ●システム・インテグレーター(System integrater)〔1992 年版 OA革命〕 経営システムの構築あるいはOAの推進に当たり、単にコンピュータによる情報処理システムだけではなく、OAの環境を考えた経営の仕組み、異なった機器、 異なったメーカーの機器、ネットワーク環境を接続したり、知識情報処理を取り入れたり、あるいはレイアウト環境などかなり広範にわたる配慮が必要とされ る。このシステムから環境にわたる広い範囲を統合して新しいシステムを設計し、開発していくことをシステム・インテグレーションと称し、このような広範 なサービスを果たすような企業をシステム・インテグレーターと称する。通産省は、情報処理産業を中心として、このような柔軟で広範なサービスをするよう な産業の育成を図るため、事業者認定登録制度、統合システム保守準備金制度、システム・インテグレーション税制など、各種の施策を講じている。 ●DTP(Desktop publishing)〔1992 年版 OA革命〕 デスク・トップ・パブリッシングとは、電子パブリッシングの簡易版である。電子出版はすでに出版社や新聞社などで大がかりに進んでいるが、それに近い電 子編集が、パソコンや電子写真プリンターにより可能となった。簡便な机上システムで電子出版ができるという意味である。DTPでは文書、画像、写真など をPDL(Post discription Language)言語で表現してファイルしたり伝送したりし、自在に枠組みを調整して、編集し、印刷することができる。また文字も 様々な形、大きさで精密に表現でき、本格印刷に近い質の高い編集と印刷ができる。DTPが普及すると、企業では印刷会社などに頼まないで、自分の手で出 版印刷をするようになるとされるので、それをインハウス・パブリッシング・システムとも称する。DTPを用いた著述では、編集行為まで創作活動の範囲に 入ってきて、著述と出版の関係に変化が生ずる。 ●オフィス・アメニティ(office amenity)〔1992 年版 OA革命〕 オフィスの快適性を追求する概念をオフィス・アメニティと称する。アメリカとわが国のオフィスでは、オフィス文化の違いがあるが、わが国のオフィスでは、 スペースの効率的な活用と要員の収容、業務効率中心のレイアウト、書類によるファイルなど、ビジネス効率を主とする伝統的な概念がある。こうした在来の オフィス概念も、電子メディア環境、ビル環境のインテリジェント化、照明技術などの新しい技術を駆使すれば、これまでとはがらりと異なるゆとりと機能性 のあるオフィスを創造できるはずである。この新しいオフィスを構想する概念の根底にあるのが、人間中心の考えであり、形式的なオフィス機能ばかりでなく、 人間の自律性、創造性、協調性を高めることに重きを置いて、トータルにオフィスを構想することが大切である。 ●コンピュータ・プラットフォーム(computer platform)〔1992 年版 OA革命〕 OAシステムにおいては、様々なコンピュータが混在することがありうるが、一般の使用者にとっては、目前のワークステーションやパソコンなどを用いて、 OAシステムを利用するときに、いちいち「どのコンピュータを」というような注意を払うことなく自由に使えればきわめて好都合である。 要するにコンピュータ同士が相互に連携して、使用者に対して、さも一つのコンピュータで動作しているような標準環境が確立されればよく、これをコンピュ ータ・プラットフォームと称する。OAシステムの中心としてのコンピュータ・システムの構築には、このような設計概念が重要となる。また、コンピュータ の開発思想の中にも、このような概念が組み込まれるようになりつつある。 [株式会社自由国民社 現代用語の基礎知識 1991∼2000 年版] ▽執筆者〔1992 年版 ニューメディア〕 前野 和久(まえの・かずひさ) テレコム社会科学賞受賞者 1939 年神奈川県生まれ。東京教育大学文学部卒業。「情報社会・これからこうなる」で、テレコム社会科学受賞者。著書は『INSのことのわかる本』『大 予測 10 年後の日本』『技術商社・メイテック』など。 ◎解説の角度〔1992 年版 ニューメディア〕 ●ニューメディアは、この1年間は 選別 の年になった。発展へのツボミとなったISDNと放送衛星。逆にシボミ出しているビデオテックス、文字多重放 送。峠に立っているCATVと、成功するメディア、失敗の見え出したものと、より分けが始まった。 ●民営化された電気通信事業のなかでも、成功した企業と危険な会社と分かれ出し、ニューメディアの意義が理解できる経営者と、そうでない人との差別がつ き出したようだ。 ●ニューメディアのなかでは、時代のニーズを先取りしたメディアが、生き残りをかけ出しており、なかでも移動体通信の発展が目ざましい。 ★1992年のキーワード〔1992 年版 ★地域系新電電〔1992 年版 ニューメディア〕 ニューメディア〕 NTTの市内電話網に相当するように、特定の地域をサービスエリアとして、家庭や企業まで自前の通信網を構築している通信事業者。東京通信ネットワーク (TTNet)や大阪メディアポート(OMP)などがある。日本テレコムなど長距離系が、東京‐大阪間などニーズの多い大幹線網を敷設しているのに対し、地 域系新電電は、関東地方など狭いエリアをきめ細かくサービスする。これまでNTT網に接続できなかったが、一九九一(平成三)年春から可能になった。 ★無線パソコン〔1992 年版 ニューメディア〕 屋外のどこからでも無線でデータをやり取りできるニューメディアで、一九九一(平成三)年三月に日本IBMが発売。まず、NTTの自動車電話とパソコン を結び、連絡できるようにする。九二年内には、公衆向け無線データ通信会社を経由して、自動車以外の屋外からも通信できるようにする。どこからでも、い つでもビジネスに必要なデータを送受信でき、セールスなどのビジネスマンには有力な武器となる。 アメリカでも無線パソコンは普及しておらず、日本が世界の先駆けとなった。 ★マルチメディア振興協会〔1992 年版 ニューメディア〕 映像や音、文字などの各情報を利用できるマルチメディアについてソフト面の研究開発、人材育成を目指して、設立されたグループ。メンバーには、理事会員 として東芝、松下電器、大日本印刷など情報産業の三五社、他に正会員一三社、情報会員二五社が加盟する。通産省の指導で、国際映像ソフトウェア推進協議 会とマルチメディア国際会議フォーラムを一つに統合させたもの。 ★オフトーク通信〔1992 年版 ニューメディア〕 電話回線が使われていない空き時間を使って、情報を提供するサービス。一九八八(昭和六三)年八月にNTTが始めた。 情報提供センターは全国に五○カ所あり、加入者に地域ニュース、防災情報、音楽などを有線放送のように送り、電話がかかると自動的に中断する。受信する には、既設の電話回線に受信装置とスピーカーを取り付ける。 設置費用は二万∼四万円。利用料は、NTTに月額五○○円を支払う。 ★動画像テレビ電話機〔1992 年版 ニューメディア〕 テレビ放送のようにカラーで、動く画像が映るテレビ電話のこと。現在あるテレビ電話は、一枚の写真のように動かない画像なのにたいして、情報としていち だんとリアリティが増した。 一九九一(平成三)年五月に日立製作所が発売したのは、従来の製品の五分の一ほど(幅二七・五、奥行二六・五、高さ三○各センチ)で世界最小という。動 画を送信するには大量の情報量を必要とするが、帯域圧縮技術で少なくしてあり、一秒間に最大一五コマ送信できるので、ほぼ実際と同じ動きになる。 ★ハイパーネット研〔1992 年版 ニューメディア〕 大分県は、富士通や日本電気などの民間企業と共同で、来年度にもパソコンによるマルチメディア通信の可能性を探る「ハイパーネットワーク社会研究所(仮 称)」を設立する。ハイパーネットワークとはパソコン通信による文字情報と、有線テレビ(CATV)などの映像情報を有機的に結びつけ、高度な情報利用 社会を実現しようという構想。設立準備のための調査委員会は、一九九○(平成二)年一一月に発足し、九二年夏にも大分市内に正式に設立される。 ▲インフラ系のニューメディア〔1992 年版 高度情報社会は バイオ(生物)社会 ニューメディア〕 である。コンピュータという頭脳と、電気通信網という神経が、社会基盤(インフラ)として構築されて、打てば響く ような生物的な反応が即座に起きる社会をつくることである。ISDNや移動体通信が、公共事業となってインフラづくりになる。 ◆光通信(Optical Communication)〔1992 年版 ニューメディア〕 情報(信号)を、光の点滅によって伝える通信。レーザー光を発したとき「1」、消したとき「0」というように決めておき、情報をこの数によって送信する のでデジタル(数値化)通信という。ふつう、レーザー光を髪の毛ほどの細さのガラス繊維(光ファイバーケーブル)のなかを通して送る。一秒間に四億回点 滅する光を使うので、一本の光ファイバーで、電話回線に換算するなら約六○○○本分の情報量を送受信することが可能である。NTTが一九八八(昭和六三) 年春始めたINS計画や、KDDが八九年四月から使用を開始した第三太平洋海底ケーブルでは、この光通信方式を利用。光通信は、レーザー光なので、近く に高圧電線などがあってもその磁界に左右されない、光ファイバーは軽い素材なので、架線する電柱間の距離を長くできるなどが特色。 ◆通信処理(Communication Processing)〔1992 年版 ニューメディア〕 電話のように、話したとおりに聞こえて出てくるものを、基本通信という。つまり入力と出力が同じ情報になるのをいう。また、コンピュータに1+2と入力 すると、3と計算されて出力するのを、情報処理という。これに対して通信処理は、この双方の中間にある。通信処理としては、通信手順を整えて他のコンピ ュータと情報を交換する「プロトコル変換」、同じ情報を同時に多くの相手に伝える「同報通信」、書式を統一して通信する「フォーマット交換」、一定の単位 に情報(信号)を区切り回線の空いているときに送信する「パケット交換」、音声を文字などに変える「メディア交換」、情報を一時的に蓄積し後でゆっくり読 む「メールボックス」などがある。コンピュータが交換機の働きと情報処理の機能をもっているのでこのような処理が可能となった。VANは、このコンピュ ータの通信処理の能力を利用して作った通信網である。 ◆VAN(Value Added Network)〔1992 年版 ニューメディア〕 付加価値通信網と訳される。NTTなど第一種電気通信事業者から、借りた回線を利用して、ホストコンピュータを交換機として使い、付加価値のついたより 高度な通信サービスを提供する業務で、第二種電気通信事業ともいう。付加価値通信としては、メディア交換やパケット通信、フォーマット交換などの通信処 理が行える。現在のコンピュータは、メーカーにより、また同一メーカーでも機種によりプロトコル(通信手順)が異なり、ネットワークを構築して通信する ことはできない。そこでホストコンピュータを入れて、これらのプロトコル変換を行って、通信網を構築できるようにするもの。コンピュータ間の仲人役。 ◆総合知的通信網(UICN)(universal intelligent communication network)〔1992 年版 ニューメディア〕 UICNは現在の総合デジタル通信網(ISDN)の次の世代の、知的処理と情報通信が高度に融合した通信網。一本の通信線で電話やデータ網(高速ISD N)、放送網(広帯域ISDN)に加え、自動翻訳電話、立体テレビが利用できるようになる。郵政省は、二一世紀にはUICNが本格化すると予測、すでに 民間への委託研究も進めている。NTTの「VI&P」に似た構想。 ◆ファクシミリ(網)(Facsimile)〔1992 年版 ニューメディア〕 文字や絵を小さな点(画素)に分解したものを、電気信号に変えて送信し、受け手は、再び元の文字や絵にして紙の上に戻すテレコム。文字は白黒の画素に、 写真は、中間色の画素に分解して送信する。前者を模写電送、後者を写真電送という。最近ではカラー・ファクシミリもある。オフィス間の文書の交換や新聞 社の写真電送など用途は広い。わが国は漢字を使うので、ファクシミリは便利なため、テレックスに頼っている欧米よりずっと発展し続けている。放送波を使 って行うファクシミリ放送も一九八九(平成一)年に免許受付けを開始した。 ◆高性能デジタルPBX(構内交換機)システム〔1992 年版 ニューメディア〕 PBX(Private Branch exchange)は、従来は、外部からかかってきた電話(音声)を構内の内線電話につなぐ働きをしていたが、高性能デジタルPBXシ ステムは、ファクシミリやテレビ電話、データ通信まで交換してしまう、構(企業)内通信の中核となるもの。中継線がデジタル網になっていることが不可欠 で、通信回線の近代化の象徴。スウェーデンのエリクソン社は、ソ連に同社の「MD110」を輸出することになったが、MD110 は世界四○カ国に計三○○万 回線が輸出されており、ソ連の通信網が近代化されていく方向が判明する。 ◆ビデオテックス(videotex)〔1992 年版 ニューメディア〕 電話回線を使って、情報センターにある大型コンピュータに記憶してある情報を引き出して、事務所などのテレビ受像機のブラウン管の上に、文字と図形によ って映し出すシステム。文字図形情報ネットワークという。各国でいろいろなシステムのビデオテックスが開発されている。口火を切ったのは、一九七九年か らのイギリスでプレステル、八四(昭和五九)年から実用化の日本のキャプテン、その他にカナダのテリドン、フランスのテルテルなどがあり、アメリカは余 り熱心ではない。 ◆ミニテル(Mini Tel)〔1992 年版 ニューメディア〕 フランスのビデオテックスであるテルテルのなかで、簡易型の端末をミニテルという。フランス政府が、一九八四年から、全国の家庭に四○○万台を無料で配 布し、普及をはかっているニューメディア。これを利用して、電話番号を検索したり、旅行や健康などの情報を引き出せる。キャプテンに似たところがあるが、 パソコン通信の一種で、チャッティング(雑談)やBBS(共同伝言板)などに使える、メッセージを書き込んで他の人と情報交換ができるなど、コンピュー タの通信機能をフルに利用し、世界で最も発展したビデオテックスとなった。しかし売春情報などの交換をする利用者が出現し、社会問題化している。 ◆キャプテン・システム〔1992 年版 ニューメディア〕 ビデオテックスの日本での呼称。Character And Pattern Telephone Access Information Network System を縮めたもので、漢字図形電話検索網という。前 もってつけられた情報の番号を、キーパッドのボタンを使って押すとブラウン管の上に、その情報が映し出される仕組みで、NTTが中心となり「キャプテン サービス会社」を東京に設立、一九八四(昭和五九)年一一月から実用化され、全国の市制都市で利用可能。加入料金が必要で、通信料は全国一律三分三○円、 情報によっては有料。 使い方には、会員のみが利用できるCUG(Closed Users Group Service)などもあり、CUGは経済や専門情報を、契約した特定の会員にだけ提供できる。 たとえば、ラジオで中学生が問題を聴き、キャプテンで回答したり、競馬のオッズを出すなど。この双方向性を使い視聴者に、アンケートに答えてもらうポー リング(調査)会社も札幌に登場、多様な使い方になりだした。 ◆MCA(Multi‐Channel Access System)〔1992 年版 ニューメディア〕 配達トラックなどの簡易無線やタクシーの業務無線が年ごとに増加、混信が激しくなっているのを解決する無線局として、一九八二(昭和五七)年一○月から スタートした。 MCAで使う電波は、全部で三九九チャンネル取れ、一六チャンネル分で、五○○局が利用できる。空きチャンネルを、自動的に探して交信ができ、一回当た りの送受信時間は一分間と制限してあるので多数の局(人)が利用可能。(財)移動無線センターが持つ中継局を利用し、車載の業務用無線局は将来、MCA に移ろう。 ◆移動(体)通信(Mobile Communication)〔1992 年版 ニューメディア〕 自動車や列車など動いている対象との無線通信をいう。移動中の人と連絡を取りたいというニーズは、社会の発展とともに増加しており、今後伸びる通信の分 野の一つ。すでに文字や音声を送って連絡するポケットベルに始まって、自動車、船舶、列車、航空機の各電話が実用化されている。移動体通信用の電波は足 りなくなっているので、宅配トラックなどの業務無線は、MCA方式を導入している。ポケットベルはわが国では、一九六八(昭和四三)年から電電公社(現 NTT)が運用を開始、需要は多く新規参入会社が続出。自動車電話も、七九年からサービスが始まり、電電民営化後は、新規参入が相次ぎ、発展性のある市 場である。この電話をNTTは、小型化した携帯電話として八七年から発売し、今や歩きながら電話のかけられる時代となった。 船舶電話は七八年から、国内用の航空機電話は八六年から実用化されている。国際線の航空機電話は、八七年秋からKDDなどが太平洋線で実験を開始、八八 年六月には首相専用機と交信でき、近年中にも実用化の予定。 ◆パーソナル通信(personal communication)〔1992 年版 ニューメディア〕 NTT(日本電信電話)が新たに開発した新電話サービス。現在の電話は、電話機一台一台に、付与した番号で通話しているのに対し、新方式では、利用者一 人ひとりに銀行の口座番号のように個別のID(認識)番号を割り当て、国民総背番号のように、個人がそれぞれの電話番号をもつ。利用者は外出先で、電話 機に腕時計大のID登録装置をセットし、NTTの通信網を制御するコンピュータ(電子交換機)に「居場所登録」すれば、自分にかかってくるすべての通話 を外出先の電話機に集めることができる(追いかけ電話)。ID登録は加入電話のほか、自動車、携帯電話からも可能。事業化には郵政省の認可が必要だが、 NTTでは一九九二(平成四)年をめどに実用化したい考え。 ◆移動体衛星通信〔1992 年版 ニューメディア〕 郵政省の通信総合研究所は、日本の技術試験衛星(ETS5号)を使い、航空機と地上局を結ぶ移動体通信に一九八九(平成一)年五月成功した。移動体通信 の中継器に衛星を利用するのを、移動体衛星通信という。航空機を対象にするのは、専用アンテナの開発など技術的に困難な点が多かったが、通総研はその開 発に成功、成田‐アンカレッジ間を飛ぶ日航機を使いこのテストに世界で初めて成功した。一方、NTTは九二年に打上げ予定のETS6号で行うマルチビー ム方式による移動体衛星通信に搭載するトランスポンダ(中継器)などの開発に八九年五月成功した。これは同衛星から一三本の電波のビームを出して日本列 島全域をカバー、このビームのなかに入った自動車や船舶などの移動体と電話などで交信できる。現在は、地上にアンテナを立て、そこから発射する電波がカ バーするエリア内の移動体と交信しているが、それが宇宙の衛星からカバーできるようにする。 ◆地域外接続/ローミング(Roaming)〔1992 年版 ニューメディア〕 Roam というのは、英語で広い地域をブラブラ歩き回ること。それから転じて、自動車電話などのシステムで、カバーするエリアが異なる同電話会社の自動車 が他のカバーエリアで通信をしても、接続ができて会話が交わせ、料金の決済も可能な技術をいう。 関西地方をカバーエリアにするモトローラ方式の関西セルラーの自動車電話がNTT方式の首都圏に来ても接続できるようにという要望が出て、実現に向かっ ている。 ◆携帯電話(portable telephone)〔1992 年版 ニューメディア〕 携帯電話は無線の「動く電話」である。電話機から電波を発受信、中継基地を通して相手先の電話ケーブルに送る仕組み。一九八七(昭和六二)年からNTT (日本電信電話)が重さ六四○グラム(電池の重さを含む)の機器を実用化。現在NTTが全国ネットで、また日本高速通信系のIDO(日本移動通信)が首 都圏と中部地方で、第二電電系の関西セルラーが関西、中国、九州でサービスしている。九○年四月現在、日本中で約一三万台ある。 どういう電話機を使うかで、日米通信摩擦問題にもなった。セルラー系はアメリカ・モトローラ社製品(重さ三一○グラムと三五○グラム)を採用。NTTは 九一年春、重さ二三○グラム程度の新製品「Mova(ムーバ)」を出した。使用料金は、NTTの場合、施設設置負担金七万二八○○円、保証金一○万円など。 さらに基本料金月一万九○○○円。通話料は平日の昼間で六・五秒話して一○円となっており、料金の割高は否めない。 ◆ICカード電話〔1992 年版 ニューメディア〕 ICカードと電話を組み合わせたもの。ICカードは、メモリーとマイクロプロセッサーを組み込んだカードなので、高度な情報処理が可能であり、銀行の通 帳などに使用できる。そこでこれを電話に組み込むと、自宅で買物をするホームショッピングなどのときに、その代金を、自動的に振り込めるホームバンキン グなどができる。話して聞くだけの電話から、日常生活の消費・決済機能を果たすメディアに数年内には発展しよう。 ◆マイクロセル〔1992 年版 ニューメディア〕 自動車や携帯電話など移動体通信の電波の伝達方式。これらの移動体通信では、 「セル(細胞)」と呼ぶゾーンをつくり、そのなかで電波の交信を行い、自動車 が次のセルに移動すると、そのセルにバトンタッチされて、送受信できるシステム。 加入者が急増し、同じセルのなかで使う電波が少なくなるので、そのセルを直径三○○∼六○○メートルに狭くして、離れたセルで同じ電波を繰り返して使う という考え方。多くの自動車電話を、一つのセルに加入させられるが東京都内でも万単位のセルが必要になるなどコストに問題がある。しかし加入増に応える ためには不可欠だろう。 ◆マイクロTAC〔1992 年版 ニューメディア〕 アメリカのモトローラ社が開発した携帯用の小型電話。重さは約三○○グラム、容量は二二○立方センチで、一部が折りたたみ式で、胸のYシャツのポケット にも入る小型の電話機。 同社は、これを開発、日本市場に売り込もうと、アメリカ政府と一体となってわが国に強力に働きかけ、日米電気通信摩擦を引き起こした。 ◆衛星利用ISDN(ISDN by Satellite)〔1992 年版 ニューメディア〕 ISDN(総合デジタル通信網)は、地上に光ファイバーケーブルを敷設するのが現行方式。だが、NTTは、通信衛星を中継してパラボラアンテナを利用、 電波によってデジタル伝送を行う同システムを開発、九一年度からサービスする。光ケーブルを敷設するよりコストは安く、利用者は衛星に向けて同アンテナ を建てるだけですむので、普及に拍車がかかろう。NTTでは、そのため、すでに打ち上げられている日本通信衛星会社の衛星「JCISAT」を使う。 ▲機器系のニューメディア〔1992 年版 ニューメディア〕 メディアというのは、情報を伝える媒体をいう。その点からいうと、人間が最大のメディアである。新聞やテレビがオールドメディアであるのに対して、ニュ ーメディアは、オールドがマスメディアであるのに比べて、コミュニティなどを対象とするミディアムメディアといえよう。CATVやインテリジェントハウ スのように、ネットワーク化すると発展が望める。 ◆PCM放送(Pulse Code Modulation)〔1992 年版 ニューメディア〕 パルス符号変調方式という。PCMデジタル音声放送と同じ。情報(信号)を、それぞれ特定の符号を表すパルスによって送る方式。雑音が少なく、美しい音 質の放送が可能。 ◆双方向CATV(Twoway CATV)〔1992 年版 ニューメディア〕 ふつうの空中波テレビが、番組を受け手に一方方向で送信しているのに対し、受け手が放送局からの問いかけに応答できる有線(CA)テレビをいう。CAT Vはケーブルで局と結ばれているので、視聴者が、問いかけに信号(情報)を送り返すことが可能で、教育番組に使えば、講師と視聴者の間で対話もできる。 この双方向性を使い医師が、CATVの画面で患者の診察を行う遠隔医療の計画もある。郵政省では、自主放送を行い、加入世帯一万戸以上で、双方向の機能 のあるCATVを都市型CATVと名付けている。 ◆パソコン放送(Personal Computer Broadcasting)〔1992 年版 ニューメディア〕 放送と通信がミックスする時代を象徴するようなメディアである。パソコンネットをもつ会社「アスキー」と民間の衛星通信会社の「日本通信衛星」が一九八 九(平成一)年春に打ち上げた通信衛星のトランスポンダ(電波中継器)一本を借りて、八九年秋から、世界で初めて行うデータ伝送。 アスキー社の屋上に設けた送受信局から、パソコンによる趣味や娯楽などの情報を、データで同時に特定多数の会員に向けて送信し、会員たちは、超小型受信 機でキャッチ、パソコンを使って、その情報を読むというシステム。パソコン通信は、これまでは電話回線を使って、ほぼ特定の者同士でデータの変換をして いたが、通信衛星を介して、同報形式で一対N(多数)の関係で、データを放送のように送るので、この名前がついた。通信料が安く、一斉に利用してもパン クしないなどが特色。 ◆テレックス(Teletypewriter Exchange)〔1992 年版 ニューメディア〕 加入電信の意味。相手のテレックス番号を呼び出し、テレタイプのキーをたたいて、アルファベットなどの文字や数字を送信するテレコムの一つ。文字多重放 送はテレテキスト、通信機能のあるワープロはテレテックスという。 ◆スケッチホン(scatchphon)〔1992 年版 ニューメディア〕 テレライティングとか描画通信ともいう。電話などの通信回線を使って、手書きの文字や図形などを送受信するもので、ボードの上を動くペンの位置を電気的 に探し出して送り、それをブラウン管の上に描き出す。NTTではスケッチホンという。INS計画の実現により可能となる。 ◆静止画テレビ電話機〔1992 年版 ニューメディア〕 情報の高度化ということは、音声より画像情報というように、より多くの情報(信号)を伝えることである。そこで話して聞く(音声)電話よりも、見て話し、 かつ聞くテレビ(画像)電話の出現が待たれていた。しかしテレビ(動画)のように動く情報だとより多くの信号を使うので、まずは静止画テレビ電話が、一 九八七(昭和六二)年秋から売り出されたが、信号の伝送方式がメーカーごとに異なるので、同じ社の電話でないと通話ができない不便さがあった。 そこでソニーなど国内五社はTTC(電信電話技術委員会)が定めた標準規格の同機を、八八年五月から発売した。価格は五万円前後。 内蔵した小型カメラで、話し手の顔を映して普通の電話回線で聞き手に送信すると、ディスプレイに映って、静止画だが、相手の表情を見ながら話しができる 便利さがある。 ◆次世代携帯電話(portable telephone for coming generation)〔1992 年版 ニューメディア〕 家庭内や事務所内の親電話を経由しなければ利用できない現在のコードレス電話を発展させたもので、親電話なしで屋内外や地上、地下を問わず基地局経由で 「いつでも、どこへでも、誰にでも」電話がかけられる新しい通信形態。 郵政省の報告によると、一九九一、九二(平成三、四)年をメドにコードレス電話の発展型「第二世代コードレス電話」を提供、さらに携帯電話の最終段階で ある「新世代マイクロセル型携帯電話」の導入を目標としている。「第二世代コードレス電話」は、個人用の携帯電話で、街角などに設置された基地局を通じ て一般電話と通話のできるシステム。「新世代マイクロセル型携帯電話」は、これをさらに進めた本格的な携帯電話で、端末機も小型バッテリーを利用し背広 の内ポケットにも入るほどの小型化を想定している。 移動通信は二○○○年には一五○○万∼三○○○万台の需要が見込まれている。 ◆デジタルTV電話国際規格に統一〔1992 年版 ニューメディア〕 デジタル・テレビ電話というのは、ISDN回線を使って、カラーの動画の映像を、送受信できる電話をいう。今のテレビ電話は、アナログ回線を使うので、 モノクロで静止画像しか送受信できない。したがって、これは次世代の電話機である。しかし各メーカーは、画像信号や情報圧縮方式などがばらばらなので、 大量生産ができず、価格は高価だった。だが、郵政省は、電信電話技術委員会(TTC)において、それらの技術を国際標準化にマッチさせるように指導、国 際電信電話諮問委員会(CCITT)にかけて、規格統一する方針であり、今後は一大飛躍が望まれる。 ◆テレメータリング(telemetering)〔1992 年版 ニューメディア〕 NTTでは、ノーソンキングサービスという。通信回線を介して、遠くや危険な所にあるメーターの数量を読み取る技術。電話回線を使って下水道のメーター の読取りをNTTは始めているが、検針員がメーターを見なくてもすむ。 気象庁は、全国各地に雨量計など気象観測機器を無人で設置しておき、電話回線を使ってそれらを結び、東京の本庁で集計して、天気予報のデータとして利用 している。 ◆ホーム・オートメーション(home automation)〔1992 年版 ニューメディア〕 パソコンを核とする、いろいろな情報機器を家庭内に取り込んで、快適な生活をしようという考え方で、オフィス・オートメーションの家庭版。インテリジェ ント・ハウスとも。 居間にあるテレビに、玄関先を映して訪問客を確認したり、キャプテンを使って、座席の予約をするホーム・リザベーション、買物を居ながらにして行うホー ム・ショッピング、窓などに電話回線を結んで安全を確認するホーム・セキュリティなどがある。 郵政省は、官舎の一棟を、このようなインテリジェント・ハウスに一九八七(昭和六三)年から改築して住み心地のテストを実施中。業界も「住宅情報化推進 協議会」を結成して規格の国際化をはかる。 ◆メディア・ウォーズ(Media Wars)〔1992 年版 ニューメディア〕 メディアというのは、情報を乗せる箱舟。つまり通信回線であり、その回線市場での戦いをいう。一九八五(昭和六○)年から通信事業が自由化されて、国内 市場には第二電電などが新規参入して、NTTと戦っているが、KDDが独占していた国際市場には、八九(平成一)年から、三菱商事や三井物産系の「日本 国際通信」と伊藤忠商事やイギリスのC&W系の「国際デジタル通信」が参入して 通信戦争 を展開している。 一方、自動車電話の市場では、アメリカのモトローラ社が首都圏エリアで営業させろと要求、また宇宙通信の分野では、八九年三月に「日本衛星通信」が、JC ‐SAT を、同六月に「宇宙通信」がSCC衛星を打ち上げて、全国のCATV網に画像を配信するなどの競争を激しく展開している。 ◆HIT(ホーム・インフォメーション・ターミナル)〔1992 年版 ニューメディア〕 NTTが計画している家庭で使う情報端末の略称。ファミコンなど家庭用テレビゲーム機は、とどまるところを知らないくらいに普及しだしているので、それ をネットワーク化しようという構想。別名、ファミコン通信。野村証券などは、ファミコンを使って家庭で株式の売買(ホームトレード)をすでに行い、銀行 はホームバンキングを、百貨店はホームショッピングを行う構想がある。しかし各業界、各企業で作ったネットワークは、その通信方式などが異なり、他の業 界や他の企業と通信ができない不便さがある。 そこでNTTが、これらの異なるファミコンネットワークを、お互いに通信が可能な通信網に作り、ネットワークを拡大しようという計画で、いわば ファミ コンVAN 。これができると一台のファミコンを自宅におき、株の売買も、航空機のチケットの予約も、馬券の購入もできよう。 ◆INS(高度情報通信システム)(Information Network System 和製英語)〔1992 年版 ニューメディア〕 NTTが行うISDN計画のことで、二○○○年を目途に、NTTの電気通信網を、現在のアナログ方式からデジタル方式に切り換えて、改善する遠大な計画。 一九八一(昭和五六)年八月に発表し、総事業費は三○兆円に達するという。北海道の旭川から九州の鹿児島まで、日本列島三四○○キロメートルに達する大 容量光ケーブルによる基幹網は八五年までに完成し、現在、この大幹線と県庁所在地級の都市からニーズのある市町村を結ぶ光ケーブルを敷設中であり、交換 機もデジタル交換機に変えている。INSが完成すると書いた文字を送信できるスケッチホンや相手の顔を見ながら話せるテレビ電話も利用でき、今の話して 聞くという電話が、書いて読んだり、見ることも可能な電話となる。つまり五感全部を使える電話になるもので、これは「日本列島電気通信網改造計画」とい えよう。 NTTは、八四年から東京の三鷹地区で、INSの技術実験を実施したが、期待が大きすぎて不評をかった。しかしニューメディア時代の基盤となる通信網だ けに、その実験結果から、同計画の価値をあなどるわけにはいかない。 NTTでは、八八年四月から「INSネット 64」という、このサービスを始め、利用料(月額)は五四○○円(企業用)で、通信料は現行。これで、ファック スと電話を同時に送信できる。またヤマハと共同で、離れた地点をこの回線で結び双方向同時演奏システムを開発。八九年七月からINSの本格的運用第二弾 として「INSネット 1500」がスタートした。これは「ネット 64」にくらべ二○倍以上の大容量の情報を伝送できるようになり動画像や超高速のデータ通信 が可能となった。 ◆CS4/マルチビーム衛星アンテナ(multi beam satellite antenna)〔1992 年版 ニューメディア〕 一九九五(平成七)年に打ち上げが予定される次期通信衛星CS4にのせるため、NTT(日本電信電話)が自社開発したのが「マルチビーム衛星アンテナ」。 これを利用し、自動車電話・携帯電話サービスを全国に広げようというもの。 地上のアンテナ設備を用いた現在の自動車・携帯電話サービスでは、設備投資に膨大な費用がかかるため、NTTなどは対象地域を需要の見込める都市部、主 要高速道路、国道沿いに限定している。 NTTは従来の三○倍の電波強度をもつ「マルチビーム衛星」を開発、これに高周波数帯を利用した世界で最初のSバンド(二○五ギガヘルツ‐二○六ギガヘ ルツ帯)用の電波中継器(トランスポンダー)、電波増幅器なども開発して搭載を計画している。これらの機器ののった衛星を使えば、山間僻地を含めた全国 のどこからでも移動体通信が可能となる。NTTは、この衛星との電波を送受信するための自動車や携帯電話機用アンテナなど端末関連機器を開発中。 ◆発信者ID(身元証明)システム〔1992 年版 ニューメディア〕 鳴った電話の受話器を取る前に、かけてきた相手の電話番号が表示される新装置。ニューヨーク市のナイネックス電話会社などが、一九九○年初から実用化の 計画。プライバシーを重んじるアメリカでは留守番電話をつけて、かかってくる電話の選別をしている人が多いだけに、そのニーズに応えて開発されたもの。 また警察などへの救急の電話では発信者を敏速に追跡できいやがらせ電話の防止にもなる。日本でもINS計画が実現すると可能になる。 ▲ニューメディアの利用面〔1992 年版 ニューメディア〕 ニューメディアは 地方の時代 を招く。郵政省通信政策局地域通信振興課では、ニューメディアを活用して、地域の振興をはかるために、財政投融資や償還 税制などの支援措置を実施する。テレコムは、公共事業の一環であると、やっと一九九一(平成三)年度から認知されて、予算がつくようになり、光ケーブル を引く特定電気通信基盤施設、テレポートに対して、各種の支援が実行される。 ◆地域の情報通信化〔1992 年版 ニューメディア〕 郵政省の最重要テーマ。同省は、通信政策局のなかに、一九八八(昭和六三)年六月に初めて、地域通信振興課を発足させた。地方自治体にも、情報通信担当 の部課の開設を求め地域の情報通信の発展実施のため窓口を同課においた。 具体的には、キャプテンなどのニューメディアを使って、地域の開発を行うテレトピア計画のほか、民活法の対象となるCATVセンターと通信の共同施設で あるテレコムプラザ、研究開発のための共同施設であるテレコムリサーチパーク、地域局などを建設して、テレコムにより都市開発を行うテレポート、さらに は、放送と通信が共同で使える電波塔ともいえるマルチメディアタワー、新たに造成した住宅地などに、光ケーブルを引く特定電気通信基盤施設などがある。 これらの多くはいずれも民活の対象施設であり、無利子で融資が受けられるほか、開銀などの政府の投融資枠から出資や融資が得られる、一般会計から建設の ための補助金が受けられる、さらには国税や地方税が施設の態様により一定の限度で減税される、など種々の恩典があり、さらに進展しよう。 ◆テレトピア計画(Teletopia Project)〔1992 年版 ニューメディア〕 郵政省が、一九八五(昭和六○)年から展開している「未来型コミュニケーションモデル都市」の通称で、キャプテンや双方向CATVなどニューメディアの 普及をはかり、地方都市の情報通信機能を高めて地域振興に役立てようという計画。仙台市など七○地域が、この計画の指定を受け「水道の遠隔自動検針シス テム」 (長野県諏訪地区)、 「総合医療情報システム」 (静岡市)などがある。また一方、通産省は「ニューメディア・コミュニティ構想」を打ち出し、地域の医 療や防災システムに、CATVを中心としてテレコムを利用した地域開発を行って対立している。 ◆テレコムタウン〔1992 年版 ニューメディア〕 郵政省はテレコムタウンのモデル都市として、仙台、厚木(神奈川県)、広島、福岡の四市を指定したが、そのなかで同構想を調査、研究していた「情報通信 基盤開発推進協議会」(会長・斎藤英四郎経団連会長)が、初めて厚木市の場合についての、最終報告書をまとめた。それによると、対象地域は東名高速道路 の厚木インター周辺約五○ヘクタールでここに大容量のデータや画像伝送ができる光ファイバー網を張りめぐらせ、中核施設として高層インテリジェントビル を建設する。共同利用型の大型コンピュータを設置、情報の受発信機能を高めることにしている。また、データベースや情報を管理するテレコムセンターの導 入を提言。さらに、通信センターや事務所・貸しビル群を配置、整備する。二○○○年までの事業完了を目指すが、事業主体、事業費などは未決定。 ◆高度映像都市(Hi‐vision City)〔1992 年版 ニューメディア〕 郵政省放送行政局が考えている、ハイビジョンを利用しての都市開発構想の一つ。同省のハイビジョン・シティ構想懇談会の計画によると、二一世紀に向けて、 都市の生活空間のなかに高度な映像メディアを先導的に採用し、余暇の充実や高度化社会へ対応しようという地域づくり。同省では一九八九(平成一)年三月、 名古屋市、広島市など全国で一四カ所をモデル都市として指定、八九年度は事業計画を作成、第三セクターによるハイビジョン推進法人を設立し九○年から事 業を始めた。指定都市には、無利子融資、税制上の優遇措置、債務保証制の導入などを行う。 ハイビジョン・シティの導入タイプとしては一○種類がある。屋外シアターなどにより、地域イベントの実況中継を行う「シンボリック型」、ミニシアターな どを使い、遠くにいる家庭とハイビジョンで話す「ウェルフェア型」、データベースなどで観光案内などを検索する「リゾート型」、テレビ会社などで研究所間 のネットワークを作る「アカデミック型」、CAD/CAMなどを使って先端映像産業を創出する「ハイテク型」、テレビ会議などによりカタログの表示などを 行い、地場産業の振興を図る「ビジネスサポート型」などがある。 ◆テレポート(Teleport)〔1992 年版 ニューメディア〕 電気通信という船の港のような役目を果たす出入り口という意味。電波障害の少ない港湾地区に、通信衛星と交信できるような地上局を建設、テレポートを含 む周辺には、大量の情報通信を利用するオフィスパークなどを造成して地域開発を行う計画。ニューヨーク市の南、スタッテン島に、通信衛星との送受信局を 一二局つくり、同市との間は光ファイバーで結び、同市内の通信機能を改善する計画。オランダやロンドンでも建設中。 わが国でも、東京都は「東京湾の 13 号埋立地」、横浜市は「みなとみらい 21 地区」、大阪市は大阪南港地区に、テレポートの建設計画を進めている。 「東京テレポート」は、構想検討委員会が一九八七(昭和六二)年三月に最終報告を作った。それによると東京湾 13 号埋立地にパラボラアンテナ八基の地上 局を建設し、電気通信中枢センターやオフィスパークで構成し、事業費約一三○○億円でマスタープランを完成し、一部の事業は八九年に着手の予定であった が、現在見直し中。 「みなとみらい 21 テレポート」は、横浜港の造船所跡地に作る造成地に、光ファイバーネットワークを構築し、データベース、映像情報、都市管理などがで きる情報都市を建設する。総工費五○億円、八七年度着工で八九年度から一部使用開始の計画。 「大阪テレポート」は、テクノポート大阪計画の中核プロジェクトで、都心部と地下鉄、高速道路ルートを経て光ケーブルで結び、総合デジタルネットワーク を構築する。パラボラ局四基をつくり、テクノポート大阪推進協議会で検討、八七年五月から大阪テレポート利用研究会をつくり、ユーザーサイドの研究も始 めており、八八年一月着工で八九年秋使用を開始、と最も進んでいる。 ◆公専接続〔1992 年版 ニューメディア〕 公衆回線と専用回線を結んで、電話などの通信回線に利用すること。公衆回線は、NTTなどが提供する、ふつうの回線で、公衆が自由に利用可能。一方、専 用回線は、全国規模の大企業が、本‐支社間などに専用的に設置した回線。大阪‐東京間に専用回線をもつ大企業では、八王子営業所が、公衆回線を通じて、 東京本社から大阪支社に電話をかけるシステムも、公専接続という。こうすると専用回線部分は、ほとんどタダ同様なので、八王子‐東京間の公衆回線料三分 二○円ですんでしまう。NTTなどには大損害だが、アメリカ(一九八○年)、イギリス(八九年)に続き、カナダも九○年から公専接続を認めており、郵政 省も検討を開始、九一(平成三)年度中には実施の見込み。 ●最新キーワード〔1992 年版 ニューメディア〕 ●ハイキャプテン〔1992 年版 ニューメディア〕 従来のキャプテンの文字・図形情報に加えて、カラー写真などの自然画に音声を加えた情報が、総合デジタル通信網(ISDN)の「INSネット 64」を利用 することで提供できるシステムのこと。NTTが開発したもので、企業の販売促進や集客のほか、情報更新の手軽さによる広告、宣伝などに利用されている。 例えば、三菱自動車工業では、中古車販売に、このシステムを使用、車を選ぶ決め手は、外観からだから、鮮明な画像を提供できるハイキャプテンシステムは 有効である。ホテルオーラク神戸は、これを導入したことで、レストランなどの案内には、パンフレットのようなかさばる物を、客室に置かずに済むようにな った。ハイキャプテンシステムは、デジタル伝送路を使用するので、従来のキャプテンに比べて、通信速度は格段に速い。そのため、これを利用した、花王の 消費者相談支援の「エコーシステム」は、年間四万件の相談に乗るが、ここから情報を引き出し、五分で回答できる。 ●広帯域ISDN(B‐ISDN)〔1992 年版 ニューメディア〕 テレビのように動く画像を、カラーで送受信できる総合サービスデジタル通信網(ISDN)をいう。。現在のISDNであるNTTのINS1500 ではカラー の静止画像までしか送信できないが、B‐ISDN は、二○○○倍から一万倍の大量の情報(信号)量を高速で送信できるので、カラービデオをテレビのように 映せる。さらに、高精細度テレビ(HDTV)も可能。人間の五感に近いメディアを可能とする最先端のネットワークだ。現行のISDNであるINSが毎秒 六四キロから一・五メガ・ビットの伝送速度なのに対し、B‐ISDNは、同一五六メガと六二○メガ・ビットと圧倒的に高速。そこで、ATM(非同期転送 モード)交換機を使って送受信する。この結果、カラーテレビ電話やCAD/CAM(コンピュター援用設計・製造)、テレビ会議など動画を有効に活用でき るようになる。 ●ネットワーク化指標〔1992 年版 ニューメディア〕 高度情報化社会を判定する基準の一つは、社会構造のなかに神経網ともいえる通信回線網、つまりネットワークが、どのくらい張り巡らされているかによる。 郵政省電気通信局の「ネットワーク化推進会議」は、産業界におけるネットワーク化の進展を定量的に分析してネットワーク指標という世界でもユニークなデ ータを提出している。 まず、従業員一人当たりのコンピュータなど情報機器の端末所有台数を「E端末装備率」としているが、一九九○(平成二)年度は前年より○・一%台減少し て○・二六台、次に一つの業務を行うに当たり接続している相手企業の数を「D対外接続度」としたが、それは一一・二一社増えて三四・六八社と接続してい た。一事業所が持つ電気通信回線の容量は「Cネットワーク情報量」と定めたが、これも一九・一キロビット/秒ふえて七五・九キロビット/秒、事業所の業 務のうち、ネットワークで処理されている業務割合を「B業務処理率」とすると、三・四ポイント減少し、全体の比率の一六・八六%が、ファクシミリなどネ ットワークパワーによって処理されているという。 最後に、全国の事業所のなかで、パソコン通信などネットワークを利用している事業所の割合を「Aネットワーク普及率」とすると、二・九八ポイント伸びて 一六・五五%に達しており、産業界のネットワーク化が徐々に進展していることがわかる。そして、その普及率を産業別にみると、商社・卸がトップで、二○・ 一六%、次いで金融・保険の一九・七九%で平均をオーバー。逆に運輸・倉庫の一二・一一%・建設・設備業の一二・八四%が低くなっている。 ●ISDN(Integrated Service Digital Network)〔1992 年版 ニューメディア〕 統合サービスデジタル網という。世界的にテレコム回線は電話、テレックス、ファクシミリ、コンピュータ(データ)通信など、メディア別にばらばらに敷設 されている。それではコストが高く不経済だという考えから、これらの回線を統合して一本化し、画像などより広帯域の情報(信号)を高速で送受信できる回 線網が求められるようになった。最近のハイテクがそれを可能にした。信号を数値化して送受信するデジタル伝送方式と、光ファイバーケーブルを使う光通信 技術の開発によって、このISDNができるようになった。ISDNの日本版が、NTTが実施しているINS計画。世界各国では、このISDNによる通信 網作りが進んでいる。ISDNの標準伝送容量は、六四+六四+一六の合計一四四キロビット/秒。これは、CCITT(国際電信電話諮問委員会)が定めた もので、NTTのINS計画もこの世界標準に準拠した。ISDN化は、イギリスでは一九八五年からロンドンで、アメリカではイリノイ・ベルが、フランス ではラニオン市などで、ドイツではシュツットガルト市などで八六年から実験を開始。NTTは、八八(昭和六三)年四月からINSを開始、いま需要のある 市町村への拡大敷設中だ。 ●VI&P計画(Visual, Intelligent and Personal Communications Service Plan)〔1992 年版 ニューメディア〕 NTTが、一五年後の二○○五年をメドに、実施しようとしている二一世紀のテレコムのサービスビジョンのこと。日本語では「新高度情報通信サービス」と いう。高速・広帯域化と知能化の進んだISDNを活用して「もっと豊かなテレコムサービスを、どこでも手軽に好みで選択」することができる「見える、賢 い、私の」通信サービスを実現しようという計画。 具体的なサービスとしては、カラーの動画によるテレビ電話で映像情報を交換できるようにし、また日本語で話しかけると、相手には英語で聞こえるようにす る翻訳電話などを開発して、ネットワークの知能化をはかり、そして個人一人ひとりが電話番号を所有し、相手がどこにいても、その人に通話が可能な「自動 指名電話」など個人化を行う。 このように電気通信を身近なシステムとして構築、社会のなかに通信網という神経網を創設する遠大なプランだ。 [株式会社自由国民社 現代用語の基礎知識 1991∼2000 年版] ▽執筆者〔1992 年版 放送・映像〕 志賀 信夫(しが・のぶお) 放送批評懇談会理事長 1929 年福島県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。早稲田大学文学部講師を経て、現在、放送批評懇談会理事長。著書は『テレビ媒体論』『放送』『いまニ ューメディアの時代』など。メディア・ワークショップ代表理事。 ◎解説の角度〔1992 年版 放送映像〕 ●この4月1日から本放送を始めた民間の日本衛星放送(JSB)は、放送衛星BS3Hの打ち上げ失敗で大ピンチに立たされるなど、地上放送から衛星放送 への移行はスムーズに進まなかった。そこで、衛星放送関係の用語をまとめて整理するのが時期尚早と判断せざるを得なかった。 ●放送・映像用語として、両者をまとめてから4年になるが、放送は通信との堺界をなくしつつあり、映像はCDに動く映像が出るように変わってきた。だが、 その CD‐1(インタラクティブ)は日本では年内に発売しなくなったので、ここでは取り上げないことにした。映像・ビデオの項目も次年度に書き変える。 ★1992年のキーワード〔1992 年版 ★電波利用料制度〔1992 年版 放送映像〕 放送映像〕 これまで無料で使われてきた電波を有料化する構想が、郵政省から提出され、一九九三(平成五)年度から利用料の徴収を実施したい考えである。 わが国の電波利用は飛躍的に拡大し、九○年末で六二五万局の無線局が、二○○一年には現在の加入電話数に匹敵する五○○○万局になると予想され、電波利 用関係産業は数十兆円の規模に達するため、電波行政の高率化・高度化(コンピュータ・システムの導入)、電波管理システムの整備充実の費用として、先進 諸外国の例にならい、「電波利用料制度」を創設する意向を固めた。 利用料は免許人から広く徴収し、その全額を電波行政費に充てる特定財源とする。徴収範囲は国や地方自治体も含め、免許を要するすべての無線局からとし、 その額は空中線電力、占有周波数帯幅など電波の利用程度に応じたものとする。総額は半年度ベースで一五○億∼二○○億円程度。なお、放送局の場合はテレ ビではキー局が一局が一億円、地方局で同一○○万∼三○○○万円、ラジオは東京でも一局一○○万円以上と推定される。また、一○○万局もあるといわれる 「不法無線局」の締め出し対策も行い、無免許の局あるいは周波数の乱用による混信や電波障害を防ぐ。 ★MICO(国際メディア・コーポレーション/マイコ)〔1992 年版 放送映像〕 NHKグループが音頭をとって一九九○(平成二)年七月、伊藤忠商事、西友、第一勧銀、住友銀行の四社が設立した国際番組商社。同年一一月の事業開始時 には、資本金六五億七○○○万円、出資企業四七社になった。四七社の内訳は銀行、証券、損保などの金融機関が二五社を占め、NHKおよび同関連会社は出 資を見合わせ、また民放、広告代理店、映画などからの出資はなかった。 事業内客は、(1)国際大型共同制作、(2)映像制作等への投資、(3)映像ソフトの購入・販売、(4)国際的なイベントの企画開発などである。 MICOが手掛けた事業は、ニューヨークに「ジャパン・ネットワーク・グループ」を設立して四月から全米六○都市で放送する「TVジャパン」などであり、 同社はNHK主体の番組を東京から国際衛星回線を使って同時または一時間程度の時差で届ける。 NHKが今世紀の代表的映像を集め、主に日米関係を綴る「二○世紀プロジェクト」、日米伊テレビシリーズ「外国特派員」 (イタリアで製作)を推進、米新興 映画会社マウント・フィルム・グループに投資、仮想現実(VR)装置の開発、製造会社テレプレゼンス・リサーチと共同開発・市場開拓で提携した。初年度 の事業収入見込みは一六○億円と発表した。 ★GNN(グローバル・ニュース・ネットワーク)構想〔1992 年版 放送映像〕 湾岸戦争報道で世界中をテレビの前に釘付けにしたアメリカの二四時間ニュース局CNNに対抗して、NHKの島桂次・前会長が打ち出した地球規模のニュー ス・ネット構想のこと。構想では、世界を欧、米、アジアの三つに分け、各地域が一日八時間、合わせて二四時間のニュース送信を目指すという壮大なもの。 アジアの情報をNHKが担当し、アメリカ、ヨーロッパの有力な放送局と組んでニュースを交換し放送しようという計画である。しかし民放との確執、会長の 交替などにより、計画の行方が不透明になってきた。 ▲放送事業〔1992 年版 放送映像〕 日本の放送事業は、公共放送のNHK、商業放送の民放、教育放送の放送大学の三つに分けられていたが、一九八九(平成一)年に放送法が改正されて、通信 衛星を使った放送が認められ、 放送 と 通信 の壁が破れた。この法改正で、ハードとソフトの分離が行われ、CS利用の放送ではPCM音楽放送業者一 二チャンネルの認定を行った。さらに九二年春以降五○%有料方式で放送開始することになった放送サービスは、CSテレビとCSテレビ多重放送がそれぞれ 六事業者六チャンネルと、CS‐PCM 音声放送業者六チャンネルの追加である。 ◆NHK(日本放送協会)(Nippon Hoso Kyokai)〔1992 年版 放送映像〕 東京都渋谷区神南に本部をおき、NHKの電波を直接各家庭に届けるため、全国に設置している無線局数は、一九九一(平成三)年三月末現在、テレビ総合が 三四八八局、テレビ教育が三四一一局、ラジオ第一が一九九局、同第二が一四○局、FMが五○九局、テレビ音声多重と文字放送は総合テレビと同数、衛星放 送(テレビ音声多重を含む)が四局、ほかに再送信局(テレビ音声多重を含む)が一二局になっている。全国に向けて放送する特殊法人であり、運営は受信料 (九一年度収入は四九八九億円で、全収入の九二%)でまかなわれている。国際放送は二二言語、一日四八時間行っている。放送法によって、(1)視聴者の 要望に応えて報道・教育・教養・娯楽の各分野にわたって放送すること、(2)放送サービスが全国のすみずみまでゆきわたるように放送局を建設し、あわせ て、地域社会に必要なローカルサービスをすること、 (3)放送の進歩発展に必要な研究や調査をすること、 (4)国際放送をすること、などが決められており、 事業計画・収支決算は国会の審議を経ることも定められている。 なお運営の基本計画は、全国から選ばれた一二名の学識経験者からなる経営委員会で決める。 ・経営状況 「NHKの長期展望に関する審議会」からの提言を受けて、「平成二∼六年度経営計画」をまとめ、NHKは二一世紀を目指す新体制に入った。 その事業経営の方針は、地上放送を充実・刷新し、公正で質の高い放送サービスにつとめることはもちろん、国際的な協調によるすぐれた番組ソフトの制作、 放送における先導的役割を果たすため、衛星放送の充実、ハイビションの開発・普及を積極的に推進しようとしている。九○年四月からカラーテレビ受信料を 月額三○○円値上げしたが、この計画によると、九四年度までに収支を均衡させることになるという。 九一年度の収支予算は、 ・事業収入 五四二七億円 ・事業支出 四八六九億円 テレビの地上放送契約数は、九一年六月末現在で三一○○万八六三○件、衛星放送契約数は同年同月現在で二六六万九九九二件となっている。 今年の目玉番組は、地球的視野で迫る NHKスペシャル 「いま世界が動く」を四月から随時放送するほか、地球環境や人口問題など人類共通の課題に取り 組む「二一世紀への提言・地球と人類シリーズ」、国際共同製作番組「モンゴル帝国」など多彩な特別番組を編成する。また、ドラマの国際共同を製作も積極 的に行い、 「冬の旅」 「ヤン・レツル物語」 「国際事件記者」などを放送するほか、水準の高い番組の開発やグローバルな番組交流をいっそう活発にするという。 教育テレビは史上初めてイメージを一新、従来の学校教育番組中心の編成から、生涯学習時代の現代にふさわしい編成に変革した。 衛星放送は「衛星映画劇場」「ワールドニュース」など、これまでの地上放送にないソフトの編成をし、さらに国際性豊かな独創的な番組作りをしようとして おり、衛星放送の一層の高度化と普及促進につとめている。 ◆民放(民間放送)〔1992 年版 放送映像〕 放送番組をスポンサー(広告主)が支払う電波料、広告料でまかなう商業放送。一九九一(平成三)年七月現在、テレビ・ラジオ兼営三六社、テレビ単営八○ 社(うち衛星系一社)、ラジオ単営四九社(うち衛星系一社)であり、音声放送八四社の内訳は、中波四七社、短波一社、FM三六社で、テレビ放送は一一三 社、文字放送二四社(テレビ一四社、第三者一○社)である。五一年九月一日、名古屋の中部日本放送と大阪の新日本放送がそれぞれラジオ放送を開始。テレ ビは五三年八月二八日、東京の日本テレビ放送網が放送を開始した。全民放各社の九○年度決算は、民放一五六社の営業総額が二兆一○六一億七五○○万円で、 前年度に比べ八・三%伸びた。 ◆民放連(NAB)(The National Association of Commercial Broadcasters in Japan)〔1992 年版 放送映像〕 日本民間放送連盟の略称。民放各社の共同の利益を守り親睦を図る目的で、民放誕生の年〔一九五一(昭和二六)年〕、初の免許を受けた一六社によって設立 され、九一年七月現在の会員数一六五社である。事務所の所在地は東京都千代田区の文芸春秋ビル。 ◆放送法〔1992 年版 放送映像〕 国民生活に大きな影響力を持つ放送が、健全な発達をとげることができるようにする目的で、放送番組、放送運営の全般を規律するもの。一九五○(昭和二五) 年春の国会で制定され、国民的基盤に立つ公共的な放送機関としてのNHKの設立、運営、財政、番組、監督について定め、また、電波法による放送局の免許 というかたちで、放送事業者としての地位を得た民放について、番組の編成、広告放送の実施などについて、規定している。 まだ民放テレビが生まれていなかった五○年に制定された放送法なので、何回か小幅な改正がなされてきたが、八九年の改正は通信衛星による放送を認めた点 で、注目に値する。この改正は同年一○月一日から実施されたが、つぎの四点が主なものである。 (1)日本放送協会(NHK)は、協会が定める基準に従って、業務等の一部を委託することができる。監事は、その職務を行うため必要があるときは、子会 社に対し、営業の報告を求めることができる。 (2)受託放送事業者は、委託放送事業者からその放送番組の放送の委託の申込みを受けたときは、正当な理由がなければ、これを拒んではならない。 (3)委託放送業務を行おうとする者は、郵政大臣の認定を受けなければならない。 (4)郵政大臣は、放送の健全な発達を図ることを目的として設立された公益法人であって、放送番組を収集し、保管し、及び公衆に視聴させること等の業務 を適正かつ確実に行うことができると認められるものを、全国に一を限って、放送番組センターとして指定することができる。 この(2)と(3)は、通信衛星による新しい放送事業および業務の規定であり、技術革新によって放送と通信の領域が重なりあってきたことを示す。 ◆ネットワーク(network)〔1992 年版 放送映像〕 回線網、また放送網、つまり相互に関係のある放送局がどの放送局も同じ番組を同時に放送できるようになっていること。ラジオの場合には、各放送局は一般 に有線でつながれるが、テレビの場合には、特殊同軸ケーブル、または、マイクロ波中継、衛星などによって各放送局をつなぐのが普通である。現在では、放 送網の意味を拡大して、録音テープや録画フィルムの配布を受けて、これによって同一番組を放送するような特別の関係にある放送局をも、ネットワークの局 としていう場合がある。 ◆国際放送(overseas broadcasting)〔1992 年版 放送映像〕 外国において受信されることを目的とする海外向け放送のこと。日本では定期的放送は一九三五(昭和一○)年六月に始めている。現在、国際放送は放送法に 基づいてNHKに交付金が支出され、これとNHK自体の経費で「ラジオ・ジャパン」の名で、一八放送地域、二二言語(九一年度に中東向けにペルシャ語放 送を新設した)、一日四八時間の放送を短波で行っている。一般に国際放送は、国際親善と自国の宣伝・ニュースの伝達という二面性をもつ。また、海外で日 本語放送を行っているのは、中国、韓国、朝鮮民主主義人民共和国、オーストラリアなどアジア、オセアニア、アフリカ、ソ連、イギリス、ドイツ、バチカン など十数カ国、約二○の放送機関である。 ◆国際テレビ中継〔1992 年版 放送映像〕 国際間のテレビ中継で、通信衛星を使って行われる大陸間国際テレビ中継と、陸続きの国々が地上のマイクロ回線を使って行う地域的な国際テレビ中継とに大 別される。通信衛星を利用した大陸間国際中継は一九六二年七月、通信衛星テルスター1号によってアメリカとヨーロッパの間のテレビ中継をしたのが最初。 現在はインテルサット(国際電気通信衛星機構)の衛星を使って行われている。なおソ連と東欧諸国によるインタースプートニクの中継もある。 地上のマイクロ回線を使って行う地域的国際中継の組織には、ヨーロッパ放送連合(EBU)の運営するユーロビジョン、東欧諸国の放送団体である国際放送 機構(OIRT)が設立したインタービジョン、北欧五カ国を結ぶノルトビジョン、北アフリカ三カ国によるマグレブビジョンの四つがある。 ◆インテルサット(International Telecommunication Satellite)〔1992 年版 放送映像〕 アメリカの主唱で設立された、国際的な衛星通信組織。一九六四年八月に暫定制度として設立され、七三年二月に恒久制度に移行した。テレビ中継のためにイ ンテルサットの衛星を使うのは、オリンピックなどの行事を除くと、ほとんどニュース素材の交換である。ヨーロッパと日本の間はインド洋上のインテルサッ ト(4)を使った中継「デーリー・サテライト・フィード」で行われ、起こったばかりの海外ニュースが毎朝定時に日本の茶の間に届くようになっている。そ のヨーロッパやアフリカ・東南アジアの諸国との中継は山口地上局‐インド洋衛星経由で、アメリカ・オーストラリア・韓国・フィリピンなどとの中継は茨城 地上局‐太平洋衛星経由でそれぞれ行っている。 ◆インタースプートニク(Inter Sputnik)〔1992 年版 放送映像〕 ソ連と東ヨーロッパ諸国がインテルサットに対抗するためにつくった国際的な衛星通信組織。一九七二年七月発効。参加国はソ連、ブルガリア、ハンガリー、 東ドイツ、チェコスロバキア、ポーランド、ルーマニア、モンゴル、キューバの九カ国。七五年三月、ソ連もインテルサットの衛星を利用することがきまり、 大西洋上の衛星を使って、アメリカ、カナダ、メキシコへの各種中継を行っている。 ◆コムサット(Communication Satellite Corporation)〔1992 年版 放送映像〕 故ケネディ米大統領の構想に基づいて一九六三年二月設立されたアメリカの通信衛星会社で、民間の手で運営されている。大統領、航空宇宙局(NASA)、 連邦通信委員会(FCC)の監督、指導のもとに置かれ、大統領、議会に定期報告を行うほか、株主総会にも独占を避けるため、一般株主の利益代表を選び、 これに大統領によって直接任命される三人を加えることになっている。 ◆衛星放送〔1992 年版 放送映像〕 赤道上空三万六○○○キロの静止軌道上に浮かぶ放送衛星および通信衛星から日本全国の家庭に直接電波を届ける新しい放送。 一九八四(昭和五九)年一月に放送衛星2号a、八六年二月に同2号bが打ち上げられたが、この放送衛星のテレビ中継器から電波を発射、この電波は上空か ら届くので途中さえぎるものがなく、ゴースト(多重像)のない、きれいな映像が得られる。またその音声は、PCM方式による高品質のデジタルサウンドの ため、低い音から高い音まで、弱い音から強い音まで、きれいに忠実に再現される。NHK放送衛星はテレビの難視聴解消を主目的として打ち上げられたが、 それを目的とした放送は一チャンネルに集められ、これまでの地上放送では実現が困難とされてきたハイビジョン放送やPCM放送などの新しい放送に対応す る番組、独自編成による「モア・サービス」に振り向けることとなった。 「衛星放送の普及」に沿って「二四時間放送」が八七年にスタートし、八九(平成一) 年六月には、八月から衛星放送の受信料をもらうため、二波による本格的な二四時間放送を開始した。なお、衛星放送を受信するには、衛星受信用のパラボラ アンテナ(お椀型や、平面型がある)とチューナーが必要である。 八九年六月から、第一チャンネルはワールドニュースとスポーツチャンネルを中心に一○○%独自放送、第二チャンネルは難視聴解消のための地上放送の編成 と同時に定時編成で衛星放送を四○%近く放送している。 ワールドニュースは世界主要国の主なニュースをリアルタイムでそのまま放送、世界の動きを二四時間生放送しており、週末には世界のニュース・ウィークリ ー・ドキュメントアジアや世界の人気テレビ番組を編成している。 第二チャンネルでは、「映画・ドラマ」「音楽」「スペシャル・イベント」を中心に、世界第一級の映像ソフトを集中的に編成しており、Bモード放送に象徴さ れるように、高音質・高画質の放送が特徴となっている。 若い世代向けの番組には世界で最も先進的な音楽・カルチャーやバラエティーに富んだ情報を、子供向け番組では内外のアニメーション、テレビドラマ、科学 ドキュメンタリーの秀作や話題作を厳選・定時編成している。 放送衛星 BS‐3は九○年打上げ、九一年から現行の二チャンネルが三チャンネルとなった。それは、民放初の日本衛星放送(JBS)が九一年四月、衛星放 送を開始したからである。JBSは昼は広告放送、夜は有料放送とし、本放送開始時には一四万人が加入した。放送衛星を利用した初のデジタル音声放送局、 衛星デジタル音楽放送(SDAB=愛称セント・ギガ)は、九一年三月三○日、本放送を開始した。 ◆通信衛星による放送〔1992 年版 放送映像〕 通信衛星を使った新しい放送事業者は、一九八九(平成一)年一○月から実施された新しい放送法・電波法によって、二種が分離された。衛星を使って番組を 送信するハードウエア専門の受託放送事業者と、そのための番組を制作するソフトウエア専門の委託放送事業者である。受託放送事業者は現在日本通信衛星(JC ‐SAT)と宇宙通信(SCC)の2社であり、九一年一○月末までに委託放送事業者として「認定」申請をし番組を供給する会社は、次の各社が予定されてい る。 映画関係では「ザ・ウィークエンド・シアター」、 (ヘラルド系)、 「スペースシアター」 (にっかつ映像コミュニケーションズ)。ニュース関係では「日経サテラ イトニュース」(日経インフォステーション)、「サテライトABC」(朝日放送系)。スポーツ関係では「ジャパン・スポーツ・チャンネル」(伊藤忠商事系)、 音楽関係では「スペース・シャワー」 (同)など。異色作としては「囲碁・将棋チャンネル」 (ニッケン・サテライトほか)。これらが JC‐SAT の衛星を利用し たものであり、SCC系の番組供給会社と目されているものは次のとおり。 「スター・チャンネル」 (東北新社系)、ニュースの「CNNニュース」 (日本ケーブ ルビジョン)など。 番組供給会社の予定月額料金はまちまちであり、「スペースシアター」の一○○○円、「囲碁・将棋」の八○○円、「ジャパン・スポーツ」の六○○円などが内 定している段階である。 ◆24 時間テレビ放送〔1992 年版 放送映像〕 24 時間ぶっ続けのテレビ放送。定時放送はNHKの衛星第一放送が最初で、「ワールドニュース」「衛星スペシャル」「スポーツミッドナイト」などが主な柱。 溶鉱炉と同じで、衛星は火を消さないほうが効率がいいからで、一九八七(昭和六二)年七月から放送開始した。また民放では、NTVが開局二五年記念番組 として、七八年八月二六日から二七日まで「24 時間テレビ」を放送、現在まで毎年続けている。フジテレビとTBSテレビは地上波としては世界初の本格的 24 時間放送を八七年一○月から実施した。NTVとテレビ朝日は、八八年一○月から開始した。NTV系のチャリティー番組「24 時間テレビ 愛は地球を救 う」は九一年で一四回目となった。 ◆テレビ音声多重放送〔1992 年版 放送映像〕 現在使っている電波のすき間を利用してステレオ、二カ国語放送、第二音声放送を出すこと。一九八一(昭和五六)年、郵政省はNHKと民放三八社に対し、 テレビ音声多重放送の補完的利用の拡大を許可した。これまでの音声多重放送は「ステレオ」か「二カ国語」放送の二つに限られていたが、利用方法の拡大が 認められ、今後の多重放送は、 (1)主番組に関連のある放送なら第二音声でどんな放送でも流すことができる。 (2)災害情報なら、主番組とは無関係に出せ ることになり、多重ニュースやプロ野球中継のやじうま放送、歌舞伎の解説放送などもできる。 ◆静止画放送(still picture broadcasting)〔1992 年版 放送映像〕 通常のテレビのような動画ではなく、一こま一こまの静止画像(文字、イラスト、スチール写真など)と音声によって構成される番組をテレビの電波で送る放 送。わが国で開発されているのは、テレビ電波一チャンネル分の専用波を使って、同時に約五○種類の音声つきカラー静止画番組を送ることができる方式。視 聴者はテレビ受像機にアダプターをつけることにより、希望する時間に必要な静止画番組を選んで見ることができるのが特徴で、生活情報や学習・教養番組、 趣味の番組など利用範囲は広い。なお、ハイビジョンの静止画は、岐阜美術館において、ハイビジョンギャラリーとして利用され、話題を呼んでいる。 ◆文字放送〔1992 年版 放送映像〕 テレビ画面の映像を構成する順次走査の下から上に戻る時間的すき間「垂直帰線消去期間」を利用し、現行の空中波で文字や図形を送信するシステム。現行テ レビのNTSC基準では五二五本の走査線があるが、「垂直帰線消去期間」は二一本あり、そのうち四本が使用可能となっている。利用者は、文字放送用アダ プターが必要。事業者は広告を主要財源とし、無料でニュース、天気予報、交通情報などを提供する。NHKや民放事業者によって文字放送サービスは、現在 大部分の都府県で実施されている。 ◆FM多重放送〔1992 年版 放送映像〕 FM放送周波数のすき間を活用し、本放送の補完利用や独立利用で、BGM、株式市況、地域気象、通信教育や文字多重放送など、情報の多様化に使われる多 重放送。アメリカでは、二○年前から、SCA(Subsidiary Communication Authorization 補助通信業務)の名称で実用化されているが、日本でも放送法改 正により商用化の独立利用が認可され、一九八八(六三)年八月から、エフエム東京がその本放送を開始した(今回は家庭内固定型)。九○年には移動受信用 が実用化される予定で、各種専門放送、文字多重放送などに幅広く利用されるものとみられている。 ◆ファクシミリ放送〔1992 年版 放送映像〕 放送と印刷メディアが合体したニューメディア。テレビの音声やFM放送などの電波のすき間に多重して、文字、図形、写真など画像情報をファクシミリ信号 で送り、家庭のテレビ受像機に接続されたファクシミリ受信機で必要な情報をコピー(A4判一ページに三五○○字記載可能)などにして利用する新サービス。 現行の放送にはなかった印刷・記録・保存といった機能が加えられる。実用化されれば、放送番組の補完あるいは独立利用の形で、天気図、株式市況、料理番 組の材料、音楽番組の歌詞・楽譜といったものから、教育・語学番組のテキスト、スポーツの結果等、多様な情報サービスが可能。その伝送については、いま 放送衛星のチャンネル利用が検討されており、全国的な画像情報サービスが出現するものと期待され、八九年秋にこの実験放送が行われた。CCF(コンピュ ータ・コミュニケーション・ファクシミリ)システムと呼ばれるコンピュータに蓄積された伝票などのコード情報を、直接遠距離のファクシミリに出力できる システムなど、ファクシミリ機能を生かした新しいシステムが開発されている。 ◆ナローキャスティング(narrowcasting)〔1992 年版 放送映像〕 文字どおりブロードキャスティング(broadcasting=放送)の対語で、地域的、階層的に、限定された視聴者を対象とするテレビを意味することばで、ケーブ ルテレビがもたらした新しい概念。 ケーブルテレビが、限られた地域を対象としていることや、非常に多くのチャンネルを収容するケーブルの特性を利用して、一つ一つのチャンネルのサービス 内容を細分化し、たとえばニュース、映画、スポーツなどの専門チャンネルとして使っていることなどからいわれ始めた言葉。 ◆CATV〔1992 年版 放送映像〕 CATVは大別すると都市型と農村型とに分けられ、農村型CATVの地域密着情報システムに対し、都市型CATVの最大の特徴は多チャンネル娯楽情報タ イプといえる。郵政省が一九九○(平成二)年五月現在で許可したのは六三事業者(六八施設)、このうちすでに開局しているのが四二事業者(四七施設)で あり、これらの中で八九年以降開局したのが二二を占め、最近の急増ぶりが目立っている。一九五五(昭和三○)年四月にテレビ難視聴対策施設として、群馬 県伊香保温泉で誕生したわが国のCATVは、九一年三月末現在で施設数五万を突破、自主放送施設だけでも三五一を数え、自主放送施設加入社数も、ついに 一○○万世帯に達した。 ◆CNN(ケーブル・ニュース・ネットワーク)(Cable News Network)〔1992 年版 放送映像〕 一九八○年、アメリカのアトランタ市に本拠を置く有線テレビ番組供給会社が衛星を中継して全米のCATV局にサービスを始め、レーガン大統領銃撃事件、 ローマ法王狙撃事件でいちはやく映像ニュースを流して評判をとった。日本では八四(昭和五九)年から日本ケーブルビジョンが衛星中継で一七時間分を受信、 有線テレビを通じて都内のホテル、外国人マンションに流したのが最初で、テレビ局では深夜にそのための番組枠を作ったり定時のニュースの枠内に入れると ころも出てきた。 ◆ペイテレビ(pay television)〔1992 年版 放送映像〕 特定の契約者に有料で特別の番組を提供するテレビシステム。その方法は主としてケーブルシステム(ペイケーブル)で行われている。ペイケーブルは、有料 テレビ用の番組提供会社が国内衛星を使って新しい劇映画やスポーツのビッグイベント、有名ステージショーなど魅力ある番組を、このCATVに分配するこ とで急速に伸びた。 ◆STV(Subscription Television)〔1992 年版 放送映像〕 空中波による有料テレビ。アメリカで実施されている。テレビの電波にスクランブル(かく乱)をかけて送信された特別の番組を、別料金を支払った加入者だ けが、デコーダー(解読機)でもとの信号に戻して視聴する仕組み。既存のテレビ局の電波を使って行われるので、CATVの有料テレビに比べて初期投資が 少なく、サービス範囲も広い。 ◆スーパー・ステーション(super‐station)〔1992 年版 放送映像〕 ローカルの独立テレビ局の番組やイベント中継を衛星を経由して各地のケーブル(有線)テレビ会社に送る方式。アメリカで始まったこのサービスは、国内通 信衛星とケーブルテレビを結ぶことで、加入者は遠く離れたテレビ局の番組を楽しむことができる。ケーブルテレビの経営を圧迫するのは経費のかかる自主番 組の制作だが、ネットワークテレビに対抗するには、CATV局は自主番組がどうしても欲しい。 これを克服するのがスーパーステーション化であり、衛星を利用して、ローカル独立局の自主番組や買取り番組を他のケーブルに送ることで経営改善をはかり うる。これまでネットワークテレビに握られてきたビッグイベントの独占中継権も、これによってケーブル各社が共同購入することができる。 ◆有線放送〔1992 年版 放送映像〕 ケーブルを通じて音楽や情報を放送する業種。これまでは夜の盛り場のバーや飲食店などに、演歌などのレコードを流していたが、最近は一般家庭向けに方向 を変えだしている。現在、家庭への普及を計っている業者は約一○社、加入者は一○万世帯を上回っているという。 業界の最大手の大阪有線放送社(大阪ゆうせん)は、日本最大の四四○チャンネルを有しており、従来の飲食店向けの営業方針を大きく転換、一般家庭への進 出をねらっている。業界第二位のキャンシステム株式会社も一九八八(昭和六三)年から家庭への売り込みに力をいれている。 なぜ、そうなったかというと、有線放送と衛星放送を導入した高級マンションが好評で、よく売れているからだ。音楽ばかりでなく、リスナー同士が有線放送 を通じて情報を交換したり、淋しいときに話相手を求めたり、ラジオの人生相談まがいの使い方まで出てきて、AMに今後影響を与えそうである。 ◆放送大学(University of Air)〔1992 年版 放送映像〕 テレビ・ラジオの放送で学ぶ大学として一九八三(昭和五八)年四月発足、八五年開校された。教養学部のみの単科大学で三コースと六専攻がある。九一年ビ デオ学習センターが全国で一○カ所となった。受講者は全科、専科、科目の各履修生と特修生にわかれる。全科履修生は四年以上在学し、一二四単位を取得す ると「教養学士」の称号が得られる。他は卒業を目的とせず、自分の学習したい科目を三○六の科目から選択し講義をうける受講者。九一年度の受講生数は三 万四九○九名。講義はリポート提出のほか、全国八つの学習センターでスクーリング(面接授業)も実施される。卒業生は九一年度まで千数百名。 ▲電波と放送技術〔1992 年版 放送映像〕 電波は、これまでの地上波に比べて、衛星からの電波の利用が目立って増えてきた。地上波とは地上から電波を発射しているものなので、高層建築物や高いタ ワーなどが建築され、電波障害が多くなってきた。通信衛星や放送衛星は三万六○○○キロメートル上空から電波が降っており、各家庭や事業所に直射される。 しかも地上波に比して、衛星からの通信・放送は数分の一と安い経費で済む。また、放送技術も衛星利用によって革新され、従来にみられなかった新技術が登 場したことになる。 ◆チャンネル(channel)〔1992 年版 放送映像〕 水泳のプールに一定の幅があり、またそのコース一本分にも幅があるように、ラジオやテレビジョンの放送電波にも幅があり、これを周波数帯という。また、 プールにつくれるコースの数は、何本と決まってしまうのと同じように、テレビに使う周波数帯にも、制限がある。現状は、六メガヘルツずつ区切って、第一、 第二と番号をつけており、これがチャンネル番号である。チャンネルとは溝とか通路(通信路)の意味で、周波数帯(ラジオは中心周波数の前後五キロヘルツ ずつ、つまり一○キロヘルツ、わが国やアメリカのテレビは映像と音声の双方を含めて六メガヘルツの幅をもつ)を指す。チャンネルの数は限られ、さらに外 国からくる電波の混信を受けて使いものにならないものもあるほか、同じところで、すぐ隣り合わせたチャンネルを使うと、相互の「混信」が起こってしまう。 チャンネルは、需要にくらべれば極度に数が少ない。どのような強さの電力で、どのような周波数を、どの場所で、どのような目的で、どのような事業者に使 わせるか、放送用の電波の使用には国の監理統制は不可欠のものである。 電波法では放送局を含む無線局を開設しようとする者は郵政大臣の「免許」を受けなければならない(第四条)としている。また個々のテレビジョン放送局や ラジオ放送局に対して使用チャンネルを振り当てることを、チャンネル割当という。 ◆AM(amplitude modulation)〔1992 年版 放送映像〕 振幅変調。電波の振幅が信号の強さで変化する変調方式。ラジオ放送の音声やテレビ放送の映像を送る場合に、日本では、この変調方式を使っている。AMス テレオ放送の開発のために、一九八九(平成一)年一○∼一一月に各方式の特性比較野外実験を行い、九○年三月を目標に標準方式の一本化を計る予定である。 ◆FM(frequency modulation)〔1992 年版 放送映像〕 AMに対比して使われる放送方式である。AMが、振幅変調方式であるのに対して、FMは、周波数変調方式と呼ばれ、音声の波形に対応させて周波数、すな わち振動数を変化させていく方式。FM電波は、一般にAM電波より広い占有周波数帯幅を必要とするから、これによる放送は超短波が適している。わが国の 使用可能周波数帯は現在七六∼九○メガヘルツである。 ◆ミニFM局〔1992 年版 放送映像〕 せいぜい数百メートルしか届かない微弱電波のFM局で、都市の若者を中心に広まっている。日本では、電波放送には電波法のきびしい規制があって、FMは 東京でも二局だけしかない。が、同法と同法施行規則では「発信地点から一○○メートルの地点で一五マイクロボルト以下の微弱な電波は規制を受けない」と 決めている。そこでこの範囲の大学内ミニFM局などが開局し独自の番組を作っている。マスメディアの特徴が遠心的な情報伝達機能とすればミニFM局は情 報をもとにその送り手と受け手、あるいは受け手同士を結ぶ広場づくりだという。 ◆中波ステレオ〔1992 年版 放送映像〕 中波ラジオによるステレオ。NHK第一、第二放送の二波によるステレオや、民放ではニッポン放送と文化放送の二波によるステレオ放送が行われてきたが、 これらは一つの送信機から出た放送ではなく、一つの受信機では一つの放送局しか聞くことのできないものだった。それが最近アメリカでは、中波一波でステ レオ放送を行うAMステレオの準備が進められ、日本でも実験が行われはじめた。その方法には多くの特許や提案があるが、大別すると、(1)ISB変調方 式=一つの電波の左右に別々の音を入れるもの、(2)AM‐FM 方式=一つの音は振幅変調(AM)を行い、他の音は角度変調(FM)するもの、(3)直角 変調方式=九○度の位相差をもつ電波にそれぞれ一つの音を振幅変調するもの、の三つである。 ◆SHF(Super High Frequency)〔1992 年版 放送映像〕 衛星通信、衛星放送、テレビ中継、マイクロ回線、レーダー等に利用されている周波数三∼三○ギガヘルツ、波長一○∼一センチメートルの電波。降雨や霧な どにより減衰を受けやすいが、直進性が強く、将来の各種ニューメディアの電波資源として注目されており、ハイビジョン等の新サービスに使用されることに なっている。 ◆EHF(Extremely High Frequency)〔1992 年版 放送映像〕 波長がミリ単位で「ミリ波」と呼ばれることが多い。周波数三○∼三○○ギガヘルツ、波長一センチメートル∼一ミリメートルの電波。降雨、降雪、雲などで 減衰をうけやすく、現在その利用は主としてレーダー等で通信分野では一部だが、広域電送が可能で大量の情報を伝達できることから、今後SHF同様、各種 ニューメディアにより多様に利用される可能性が強い。 ◆IDTV/画面改善型テレビ(Improved Definition Television)〔1992 年版 放送映像〕 現行のNTSC方式を変更せず、テレビ受像機を改善し画面の向上を計ったテレビ。 ◆デジタル・テレビ(digital television)〔1992 年版 放送映像〕 テレビ受像機の内部回路をデジタル化して、画質の改善や高度な自動調整を行い、多機能化を達成した受像機。テレビジョン信号をアナログからデジタルにす れば、高品質化が可能なことはわかっていたが、必要な周波数帯域が広がるので、実現するのが難しかった。デジタル化により従来のテレビ受像機よりも画質 を改善したり調整個所を減少させたり、静止画表示、多画面表示など、これまでにない機能の実現が期待できるようになった。 一九八五(昭和六○)年、シャープは九局の放送全部を同時に視聴できるデジタルテレビを発売、話題となった。これにはそのほか、映像を連続コマ送り再生 する九コマストロボ機能を持つばかりか、内部の記憶回路によって、VTRに近い能力まで持たせた。放送電波をいったんデジタル信号に変えてしまい、内部 でいわばコンピュータ処理してから、改めて目に見える画像として、再生するというデジタルテレビを用いているからである。 ◆大画面テレビ〔1992 年版 放送映像〕 二六インチ以上の大型サイズの画面化と音響効果の改善をした新型テレビ受像機。一九八五(昭和六○)年九月三菱電機が発表した三七インチの超大型カラー テレビが火付け役、当初七五万円強という価格から「誰が買うの」と冷やかされた。だが、AV志向の高まり、テレビにホームシアター感覚を求めだした消費 者の購買意欲を刺激、売れだした。八九(平成一)年四月から、大手家電メーカー各社は消費税が導入されて物品税が廃止されたので、大型テレビや大画面の プロジェクションテレビの価格が値下がりして、また売れだした。 ◆壁掛けテレビ(Flat TV)〔1992 年版 放送映像〕 フラットTV(Flat TV)ともいわれる。これは現在のブラウン管の代わりに、薄型になるディスプレイ素子(液晶、プラズマ・ディスプレイ、発光ダイオー ド)を画素表示に用いて、パネルのように壁に掛けられるテレビ受像機。すでに液晶を利用したポケット型テレビは市販されているが、一般家庭用のものは試 作品段階で、目下その大型画面の開発が関係メーカーにより鋭意すすめられており、近い将来新製品が発売される予定である。 ◆液晶テレビ〔1992 年版 放送映像〕 電卓、腕時計などの文字表示用に使われている液晶を画像表示に利用したテレビ。一般にはポケット・テレビや腕時計テレビなどに使用されているが、大型表 示の可能性もあり、薄型の壁掛けテレビにも用いられている。すでに一部のメーカーではメートル級の大型液晶テレビを試作しており、松下電器は科学万博 85 の液晶アストロビジョンの大型映像システムで縦三メートル 横一二メートルという巨大化に成功した。 液晶は低電圧、低消費電力であるのが特徴であり、そのため文字表示素子として広く利用されている。初期の液晶は応答速度が遅く、コントラスト比が低く、 画素の高集積化が困難だったことなどから、テレビ画像の表示に適していなかった。だが、しだいに改良を加え、テレビ画像表示に使われるようにし、白黒の 腕時計型やポケット型のテレビの実用化に成功した。液晶テレビは小型化ばかりでなく、薄型になるのが大きな魅力であり、現在は大型画面の薄型液晶テレビ の実現に研究を進めている。 ◆立体テレビ(stereoscopic television)〔1992 年版 放送映像〕 テレビ画像を三次元的に再現する方式。撮影するときに二眼で撮影する二眼式と多眼で撮影する多眼式との二つに大別され、それぞれにいくつか方式がある。 どの方式にもいまだに問題が多く、放送での実用化は難しい状態にあり、医学用、工業用、教育用などの専門分野の利用への開発を進めている。 日本では、 「オズの魔法使い」 〔日本テレビ一九七四(昭和四九)年・人形劇〕、 「家なき子」 (日本テレビ七七年・アニメーション)、 「ゴリラの復讐」 (テレビ東 京八三年・怪獣もの)などが立体テレビとして放送されたが、いずれも特殊な眼鏡をかけないと、立体的に見えなかった。こうした特別な眼鏡をつけなくても 立体的に見える立体テレビを松下電器が科学万博 85 に出展した。この試作品は、左の目と右の目に、それぞれ異なる方向から画像が入るように工夫、眼鏡な しの立体画像を可能にした。NHKは 89「技研公開」において、世界初のハイビジョン立体テレビを展示したが、これまた眼鏡を使用していた。なお、NH Kは 90「技研公開」で液晶投射型メガネなし立体テレビを一般公開、注目を集めた。また、イギリスのデルタ・グループは「ディープ・ビジョン」という受 像機に特殊スクリーンを装着する眼鏡不要の新方式立体テレビを開発した。さらにホログラフィー映像をコンピュータで次々につくり出す立体テレビ「ホロテ レビ」もアメリカのMITで開発された。 ◆プロジェクションテレビ(projection TV)〔1992 年版 放送映像〕 テレビの投写装置とスクリーンをセパレートしているものが「ビデオプロジェクター」といわれ、「プロジェクションテレビ」はキャビネット一体型で、バッ クから投写する方式のものをいう。従来のプロジェクションテレビは、画面が暗い、視野角がせまい、映像の鮮明さにやや欠けるなどの短所があって、ブラウ ン管タイプのテレビに劣っていた。ところが一九八八(昭和六三)年ごろから、そうした短所が改善され、家庭で室内をいくぶん暗くするだけで、十分高輝度 な映像を楽しめるように改善された。では、なぜ、このプロジェクションに人気が出たかというと、次の三つが要因である。第一は、視野角が左右はほとんど 気にならず、上下は少し狭いが、ブラウン管に負けない。第二は、ブラウン管型よりぐんと軽い。第三は大画面・迫力音なので、劇場で映画を見ているような スリリングな臨場感が楽しめる。 こうして家庭にいながらにして、映画館に行ったような迫力ある映像と音声を味わうことができる魅力が、消費者の心をとらえた。そのためホームシアター用 のPJ(プロジェクション)とVP(ビデオプロジェクター)の生産は大きく伸び、九一年は内需一○万台の見込み。 ▲放送番組関連〔1992 年版 放送映像〕 放送番組は使われ方がさまざまに変わり、新しい時代を迎えた。一般にコンピュータを活用して自動的に送り出され、一過性のものもあるが、録画して何回も リピートされるものもある。さらに、録画してカセットテープとして発売されており、ラジオはテープ、テレビはビデオテープ化され、書店やレコード店、ビ デオ専門店などで販売されている。また、放送番組の保存に関する関心は強くなり、放送番組センターは法的に有利な位置にたった。 ◆視聴率〔1992 年版 放送映像〕 ある番組が国民の何パーセントの人々に見られているかという比率。ラジオの場合は聴取率。現在、視聴率調査には個人面接法と調査機を用いる方法の二つが ある。個人面接法は、層化、無作為、多段階抽出法で選んだ数千の視聴者を、調査員が一人ひとり訪ねて、どの番組を見たかを答えてもらうもの。調査機によ る方法は、テレビ受像機にメーターをとりつけて、いつ、何時間、どのチャンネルを見ていたかを記録するもの。ビデオ・リサーチとニールセンの二つの調査 会社がこの方法によって、東京・大阪・名古屋などの地区で調査している。個人面接法と調査機を用いる方法では、前者が個人単位、後者が世帯単位であるが、 広告主は世界的な傾向からみても、個人視聴率に切り換えたほうがいいと主張している。家族がそろってテレビを見る家庭は少なく、各部屋で個人がそれぞれ 視聴しているからである。なお全国視聴率一%当たり推定視聴者人数は一一○万人である。視聴率を、放送開始から終了までの「全日」、午後七時から一○時 までの「ゴールデンタイム」、同七時から一一時の「プライムタイム」の三分類してそれぞれ出し、それらで比較。この三つともトップとなるのを視聴率三冠 王と俗称する。 ◆セッツ・イン・ユース(sets in use)〔1992 年版 放送映像〕 受像機の台数に対して、実際にスイッチを入れて視聴しているテレビの割合がどのくらいかを示すもの。視聴率調査のさい用いる。夜のゴールデン・アワーな らば、セッツ・イン・ユースは八○%前後、午前一一時台には二○%台、夕方の五時から六時には五○%∼六○%というように、時間帯によってセッツ・イン・ ユースは刻々変化する。視聴率をセッツ・イン・ユースで割ったものを番組占拠率といって、番組効果の測定に用いられる。 ◆NHK視聴率調査〔1992 年版 放送映像〕 全国の市町村を、地方、人口、産業構成などによってグループ別に分け、それらをランダム・サンプリング(無作為抽出)法で選び、面接員が直接相手に会っ てたずねる方法をとっている。最近の調査によると、日本人のテレビ視聴時間は、夏はざっと三時間、冬は三時間半といったところである。 ◆ニールセン調査(Nielsen research)〔1992 年版 放送映像〕 アメリカのニールセン視聴率調査会社の調査。調査の方法は日本では、東京、大阪などに一定のサンプル(標本)の家庭を選び、そこの受像機にオーディオ・ メーターをとりつけ、視聴状況を集積し、パーセンテージとして表す。 ◆ビデオ・リサーチ〔1992 年版 放送映像〕 民放二○社、東芝、電通、博報堂、大広の出資による日本最大手の総合調査会社。テレビ視聴率調査はミノル・メーターにより関東地区(標本数三○○世帯)、 関西地区(同二五○)。ビデオ・S・メーターにより名古屋地区(同二五○)、北部九州地区(同二○○)、札幌地区(同二○○)、仙台地区(同二○○)、広島 地区(同二○○)、静岡地区(同二○○)。日記式により長野地区(同四○○)の九地区について定期的に調査を実施している。 ◆視聴質〔1992 年版 放送映像〕 視聴者の番組に対する反応を示すデータが極端に少ないところから番組の質とそれを見る視聴者の構成(性別、年齢、収入、学歴など)および反応(好感度) を把握することが必要といわれ、それらを調査し表すものとして生まれた用語。しかし視聴質という用語は、 「視聴者の質」 (年齢や収入などの属性)だとする 人が最も多く、ついで「視聴反応の質」 (満足度、好感度)、 「番組の質」 (質の高さ)と解釈が異なり、また調査項目も多岐にわたるため、機械的に調査するシ ステムは確立されていない。視聴質の一端を示す番組に対する高感度を表すものとして、Qレーティングなどがある。 ▲映像とビデオ〔1992 年版 放送映像〕 放送に使われている映像は、映画のフィルム、ビデオのテープ、コンピュータ・グラフィックスの画像などが主であり、現在の主役の映像はビデオだ、といえ る。ビデオ映像は撮影して直ちに放送できるので、速報性に富み、編集も簡単なので、番組化しやすい。 撮る映像 といわれており、 創る映像 ◆映像文化〔1992 年版 に次いで出現してくるのは、 創る映像 の主役は、アニメーションにとってかわって、コンピュータ・グラフィックスになるだろうといわれている。 放送映像〕 映画、テレビなどの映像媒体の発達によって、映像は現代社会に氾濫するようになり、活字文化中心社会から映像文化を主体とする時代に移りつつある。すな わち、動く映像によって芸術や大衆文化が創造され、それが社会に大きな影響を与えるようになった。さらに、ニューメディア時代は 映像新時代 と呼ばれ ているように、多様な映像を使ったコミュニケーションが用いられるようになり、それがまた新しい文化を形成するだろうとみられている。電話はテレビ電話、 レコードはビデオディスク、有線放送は有線テレビへ、さらにビデオテックス、ハイビジョンなどの登場によって、映像を用いたコミュニケーション活動は一 段と活発化するに違いない。そうなると、映像が持っている単一・具象表現は、大きな社会問題となってくる。それは、人間の想像力を退化させることになり かねないからである。しかし同時に、映像そのものは外部撮影のものばかりでなく、CG(コンピュータ・グラフィックス)のように、人間や物体の内部に視 点を設定した映像を創ることが可能になり、映像文化の範囲や考え方を大きく変えるだろう。CGの発達は、人間の絵を描く手法を変革、映像の概念を根本的 に変えかねない。 ◆3D映像(立体映像)(3‐dimension scenography)〔1992 年版 放送映像〕 映像を三次元的に再現する方式。二台のカメラで撮影し、二台の映写機で写すステレオスペース方式によるもの、一台の撮影機、映写機ですべてまかなう 70 ミリ立体映画、コンピュータ・グラフィックスを使って画像をつくったものなど、さまざまな立体映像がある。立体的に見える原理は、画像を見る両目の視角 を変えることである。そこで、立体視するためには、右目で見た画像と左目で見た画像をスクリーンに投影、左右の目にそれぞれの画像だけを送りこまなくて はならない。そのために赤・青の色眼鏡で区別をするか、光の振動方式で区別する偏光フィルターの眼鏡が必要になる。二色焼付けした立体写真のアナグリフ 式はカラー画像はできない。しかし、観客にとって左右一八○度、前後には一二五度の範囲がすべて立体映像で占められるので、完全に画像の中に入りこんだ 感じになる。 ステレオスペース方式はポラロイド方式でカラー映像が可能。大型画面にするため、70 ミリフィルムを二本使うシステム。眼鏡なしで立体映像を体験できる日 も近い。 ◆CG/コンピュータ・グラフィック(Computer Graphics)〔1992 年版 放送映像〕 コンピュータを用いて、図形や画像をつくること。統計グラフの作成、自動車や飛行機の設計、建築や都市計画の設計、衣服のデザイン、CF(コマーシャル・ フィルム)やアニメーションの制作など、さまざまの分野で広く実用化されている。それらの図面はそのままハードコピーとして取り出せるのはもちろん、映 像ディスプレイも簡便で説得力がある。CGの基本的な技法は、図形を数値データに置き換えてコンピュータに記憶させ、そのデータの一部を変えることによ って、原図を自由に変形させ、望みの図形を描き出そうというものである。データ入力は、キーボード操作であったが、最近は、ライトペンを使っている。ま た、デジタイザーやスキャナーを手描きの絵にあてるだけで、コンピュータに読み込ませることもある。図形を出力させるとき、筆の太さや色彩の選択の幅も 広がっており、ぼかし、図形の拡大・縮小、上下・左右への移動などもいまは自由に行えるように発達している。このテクニックをアニメーションに応用した のが、コンピュータ・アニメーションである。パソコンを使ったCGが開発されており、一般の利用が急速に進みつつある。 ◆SFX(Special Effects)〔1992 年版 放送映像〕 特殊視覚効果のことをいう。「effects」と発音すると、「エフェックス(FX)」と聞こえるので、この表記となった。怪獣、空想科学、科学戦争、冒険劇、恐 怖劇(ホラー・ムービー、スプラッター・ムービー)などのジャンルに多用され、特撮という言葉にかわって、SFXという言葉が広く使われだした。それは、 特撮という言葉が似つかわしくないほど、新しいテクノロジーを駆使したものが多くなったからである。SFXとは、ニューサイエンス時代にふさわしいハイ テク感覚を持ったメタリックな特殊視覚効果を指すといえよう。 ◆ホログラフィー(holography)〔1992 年版 放送映像〕 レーザー光線を用いて立体画像を記録したフィルムや看板のことを、ホログラムと呼んでいる。ギリシャ語のホロス(完全な)とグラム(メッセージ)の合成 語である。ホログラフィーとは、ホログラムから立体像を再生する技術であり、記録密度がきわめて高く立体写真などへの応用が考えられている。一九八九(平 成一)年は写真が発明されて一五○周年、名古屋市科学館で「世界最新のホログラフィー時と空間のイメージ」展が開かれ、究極の立体写真ホログラフィが工 業分野では精密計測に、医学ではCTに応用されていることを見せていた。 ◆AV時代/オーディオビデオ時代(Audio Video)〔1992 年版 放送映像〕 音声(オーディオ)と映像(ビデオ)をいっしょに楽しもうという最近の傾向をいう。従来だったら、音だけしか聴こえなかった媒体に、ニューメディア時代 になって映像が付加され、音声と映像を同時に視聴できるようになったからである。レコードは音だけだったが、ビデオディスク(レーザーディスクという商 品名もある)のように映像付きのレコードが出現、音だけの電話に映像がついたテレビ電話などが登場、こうしたAV機器が数多く出現してきた背景は見逃せ ない。 AV時代の本格的到来は、一九八四(昭和五九年)の「全日本オーディオ・フェア」で、デジタル録音できる8ミリビデオが発表されてからであり、現在はC D(コンパクトディスク)やVD(ビデオディスク)によるAV商品が全盛を迎えている。CDで映像を楽しめるようにする新しい規格「CD‐V」が提案され たが、これはCDを使った光学式のVDシステムであり、その結果、日本ビクターや松下電器のVHD(溝なし静電容量)が光学式のソニー、パイオニアに押 され気味になった。 ◆ビデオ・シアター(video theater)〔1992 年版 放送映像〕 ビデオ映画館ともよばれ、一九八三(昭和五八)年四月船橋市に「コミュニティシアター」というビデオシステムによる映画館が誕生したのが最初である。そ の後、福島市、柏崎市、佐倉市、千葉市、八千代市、多摩市、相模原市などに四○館あまりできた。一○○席前後のミニシアターだが、将来は、衛星を使った ワールドワイドな番組供給、ハイビジョンによる鮮明な画像への期待がある。ビデオプロジェクターやVTRの性能が向上したとはいえ、まだ画面の性能は映 画スクリーンの比ではない。しかし、ランニングコストが低く、ミニシアターを、何軒か複合的に組み合わせたシネマコンプレックスにすれば、宣伝費も人件 費も合理化できる。 ◆ビデオクリップ(Video clip)〔1992 年版 放送映像〕 プロモーションビデオのこと。アメリカのMTV(音楽専門のCATV番組供給会社)では、「単なるレコード宣伝用ではなく、その域を超えた音楽と映像を 一体化させた 作品 」として使用しており、日本のレコード各社もビデオクリップ作りに熱を入れだした。日本ではテレビの歌番組で歌手を売り出していた が、三年前から地方UHFがこれだけを流す番組を始め、最近ではキー局も深夜帯に参入した。テレビ媒体の利用だけでなく、EPICソニーのように、四年 前から会員制(無料)のビデオクリップ・コンサート(BBE)を発足させ全国二七○カ所あまりのレコード店を積極的に回った結果、知名度の低かった渡辺 美里、大江千里といったアーチストの売り出しに成功した。 ◆レンタル・ビデオ(rental video)〔1992 年版 放送映像〕 賃貸料金をとって貸し出すビデオカセット。劇映画ソフトをビデオ化したものが圧倒的に多く、レンタル・レコードがかつて流行したように、レンタル・ビデ オ屋が街に進出しており、アメリカでは激しい商戦を展開している。映画は映画館に行って観るか、テレビの放映時間に合わせて観るしかなかったが、レンタ ル・ビデオを借りれば、いつでも観られるわけであり、自宅で自由に新作映画まで楽しめるようになり、映画の見方を大きく変えている。レンタル・ビデオの 大型店舗があちこちにでき、何千本ものソフトを備えているところがある。一九九一(平成三)年現在、全国のレンタル店は自動販売機店も含めて一万三四○ ○店といわれる。またチェーン化も進み、スーパー、駅前商店街、大型団地、コンビニエンス・ストア、オフィスビル、郊外店などに店舗が広がっている。無 店舗営業も行われ、DP屋などで、カタログをみて決めるとビデオテープが送られる方法もあり、レンタル・ビデオ業界は目下活況を呈している。同時に、著 作権を無視した海賊版ビデオも登場しており、その取り締まりに懸命である。料金は一泊二日三○○円前後と安くなり、一○○円の店もでてきている。 ◆ビデオ・ライブラリー(video library)〔1992 年版 放送映像〕 テレビ番組やビデオアートなどのビデオ作品を蒐集し、一般に公開する映像図書館。テレビ放送開始三○周年の記念番組を制作しようとして、草創期のビデオ 番組がほとんど残っていないのに気づき、一九八二(昭和五七)年九月「放送文化財保存問題研究会」が発足した。同研究会は八三年から「テレビ番組を開か れた文化財とする運動」(略称ビデオ・プール video‐pool)を展開し、八四年国会議員と懇談したり、シンポジウムを開いたりした。八五年には、放送文化 基金助成を得て「草創期テレビ保存番組リスト∼昭和四五年までの公的記録保存資料から∼」を作製した。 NHKは一九五六年に放送博物館を東京・愛宕山に創立、放送に関する歴史資料の収集、調査、保管を始め、八一年には放送済みの番組を組織的継続的に保存・ 公開する「放送番組ライブラリー」を設置した。民放関係では、大阪の毎日放送が七九年に「放送文化館」を、同年東京では、財団法人「日本映像カルチャー センター」ができ、八二年には「広島市映像文化ライブラリー」が開館した。総合的なビデオ映像のライブラリーを、出現させようと放送番組センターが横浜 に新設を急いでいる。文部省が教材としてビデオを認可してから、ビデオをライブラリー化していろいろなところで利用する傾向が高まり、東京・青山の「子 どもの城」でもビデオ図書館を開いた。 ◆ビデオ・ソフト(video soft)〔1992 年版 放送映像〕 ビデオカセットやビデオディスクなどに収録されているソフト(テレビ番組、映画、その他の映像情報)。ポニーが最新のビデオソフト一七作品を発表したの が一九七○(昭和四五)年七月。そのときはすべてオーブンリール型VTR用の三○分ソフト、価格は三万円だった。映画、テレビに続く第三の映像を目指し、 「ビデオソフト五○○○億円産業説」が唱えられたが、笛吹けど踊らず、昭和五○年代まで低迷、昭和六○年代に入って急激に成長して、ビデオ関連市場の総 売上高は映画興行収入を上回るようになった。それはビデオカセット・レンタルを主にホームビデオの需要が急上昇したからであり、国際映像ソフトウエア推 進協議会(AVA)の八九(平成一)年のホームビデオ全体の産業規模は四五一六億円となり、劇映画の一六六七億円の三倍近くになった。 ビデオゲームの伸びも著しく、ゲーム専用機、パソコンゲーム、アーケードゲームを合わせると、六六五○億円となってしまい、ホームビデオと業務用ビデオ を合計したビデオ全体の五四六三億円を上回った。 九一年に満二○年を迎えた日本ビデオ協会の調査によると、洋画・アニメなどが主であるセル(販売)ビデオソフトは九○年一年間で八六八億円四七○○万円、 洋画(五六・五%)・邦画(二八・九%)が大部分のカセット・レンタル市場が六四四億五七○○万円、計一五一三億四○○万円の市場に伸びた。また、ビデ オディスクはビデオカラオケが七二・四%とメインで、一三五六億五○○○万円である。同協会は倫理委員会を設置しており、また成人娯楽映画会社側でもビ デオ倫理委員会をおいているが、審査とメーカー間の親ぼくが一緒になされている体質に問題が残されている。 ◆ビデオ・アート(video art)〔1992 年版 放送映像〕 ビデオというメディアの特性を生かした芸術。音楽、出版、放送、ファッション、写真、コンピュータ・グラフィックスなどと結び付いて多様なひろがりをみ せており、最近では、パフォーマンスと一緒になったビデオアートも生まれている。一九八五(昭和六○)年三月、第一回東京国際ビデオビエンナーレが開か れ、日本のビデオアートも国際的な視点に立った活動を深めだした。海外では、ロバート・ウィルソン、ビル・ヴィオラらのアーチストが著名であり、日本で はコンピュータとビデオを結び付け、ビデオ独自の映像の世界を追求している松本俊夫、組織体として内外に活躍しているビデオギャラリーSCANなど、多 彩な動きをみせている。市販されたビデオアートでは、カメラマンの稲越功一の「マンハッタン」などが好評であり、現代芸術の新しいジャンルとして、ビデ オアートは美術館や画廊にも展示され、 動く電子絵画 ◆イメージ・ビデオ(image video)〔1992 年版 といわれ、静かなブームとなっている。 放送映像〕 イメージ(想像)の世界をビデオに撮影した作品。幻想的な世界を、映像的に工夫して表現、一人でみるビデオの独自の特性を生かし、大胆な作品を発表して いる。CBSソニーが一九八五(昭和六○)年初めに発売した郷ひろみのイメージビデオ「転生譚」は、同年三月から劇場公開された。このように映画館に逆 輸出する二次利用もあり、制作の段階から 35 ミリフィルムで撮影するケースも多くなった。 ◆ビデオ・ディスク(VD)(Video Disk)〔1992 年版 放送映像〕 テレビの画像と音声を、円盤(ディスク)に記録したもの。 絵の出るレコード の別名がある。それは、レコード同様大量生産ができ、VTRのように家庭 で録画することはできないが、音質、画質が良い。しかも、必要な個所を瞬時に探し出す検索機能、スチール再生、早送り、逆戻し再生などのトリックプレイ が可能である。現在はレーザー方式とVHD方式が主流である。レーザー方式はディスクに記録された微細な凹凸にレーザー光線を当て、その反射の有無を読 み取る光学方式であり、「レーザーディスク」の名で、一九八一(昭和五六)年にパイオニアが売り出した。非接触方式なので、ディスクの寿命は半永久的と いわれ、ソニー、日本楽器、日立製作所も自社生産している。一方、VHD方式はダイヤモンドの針がディスクをそっとなでて静電気の量を読み取る静電容量 変化方式であり、日本ビクター、松下電器、シャープ、三洋電機、東芝、三菱電機の六社が自社生産している。八三年から国内で販売され、通常の使用では、 一万回以上使える。 VD(ビデオディスク)全体としては、八五年は四一万台、八七年は四五万台、八八年は七○万台と伸びている。VTRの売れ行きがやや頭打ちになったため、 次の成長商品として注目されている。VDはテレビ映像だけでなく、コンピュータ用ソフトも記録することができるので、コンピュータと組み合わせてゲーム を楽しんだり、画像のファイリング装置としても使用できる。また、片面だけで五万四○○○画面を収録できる能力があり、それを生かせば、家庭および職場 の情報機器として、ライブラリー・システムを開発できる。 VDに、右側から見た映像と左側から見た映像とを同時録画し、再生時に特殊な眼鏡をかけて見るシステムが立体カラー映像であり、一般のテレビで見る場合 は数千円の高級眼鏡で、立体用新型テレビの場合は液晶シャッターを使った特殊眼鏡で見ることができる。この立体カラー映像は、一般家庭でもみられる画期 的な新製品である。 ◆VTR(ビデオ・テープ・レコーダー)(Video TapeRecorder)〔1992 年版 放送映像〕 音を録るには毎秒数センチメートルというゆっくりした速度でテープを走らせればよいが、四メガヘルツという広い周波数帯域のビデオ信号を録るには、速度 を早めなければならない。この放送用ビデオテープレコーダー(VTR)の原理は、一九五六年アメリカのアンペックス社が開発、以降放送局では統一規格で 使用した。 一九七五(昭和五○)年ソニーは家庭版ともいうホームVTRベータ方式を開発、翌七六年日本ビクターはVHS方式を発表した。現在ホームVTRはベータ とVHSの二方式のみであり、わが国の普及率は六○%以上とみられている。二台目の購入者の過半数はハイファイタイプかポータブルタイプを選んでおり、 日本では「一家二台」の時代に突入した。 8ミリビデオやカメラ一体型VTR(VTRとカメラを一体にしたビデオ・ムービー)などの小型VTRが普及し、8ミリ映画の市場に進出してきたのは、最 近の大きな動きといえる。録画撮りできない再生専用の「VTP」(ビデオテープ・プレーヤー)が韓国から輸入され、低価格で若者に人気がある。 ◆ハイファイ・ビデオ(HiFi video)〔1992 年版 放送映像〕 目は、耳の約三○○○倍もの情報収集能力を持っているので、ビデオは音が悪くても、そんなに気にならなかった。そこに目をつけ、音楽好きの若者や、オー ディオマニアのために製作したのが、音のすこぶるよいハイファイ・ビデオである。デジタルハイファイ方式など機能を高級化した新製品も登場した。 ●最新キーワード〔1992 年版 放送映像〕 ●サテライトジャパン〔1992 年版 放送映像〕 日商岩井と住友商事が主導する第三の衛星通信会社が「サテライトジャパン」。一九八五(昭和六○)年日商岩井、丸紅、ソニーを中心に設立、事業認可を申 請したが、供給過剰のおそれあり、と保留になった。九一年住友グループの企業を顧客に獲得する態勢を整え、同年四月郵政省が受理した。九五年度の事業開 始を目指す。宇宙通信の通信衛星スーパーバードAの故障により、国内で稼働中のトランスポンダ(電波中継機)が満杯状態にあるため、郵政省は予定より早 期に認可した。 伊藤忠商事や三井物産グループの日本通信衛星(JC‐SAT)と三菱グループの宇宙通信(SCC)の二社がすでに国内の通信衛星事業に参入しており、サテラ イトジャパンの新登場によって日商岩井、住友商事、丸紅の三社が加わり、大手六商社が宇宙ビジネスに揃い踏みすることになった。サテライトジャパンは二 基の衛星を打ち上げる予定で、総事業費七○○億円を見込んでいる。 ●ハイビジョン/HDTV/横長TV(High Difinition Television)〔1992 年版 次世代テレビ 放送映像〕 と期待されているハイビジョンは、実用化への第一歩として、横長TVを発表し、両者の共存共栄を試みた。一九七○(昭和四五)年初めか らNHKが中心になって開発されてきたハイビジョンは、現行TVに比べて走査線が約二倍の一一二五本、画面の横縦比が一六対九であり、情報量も約五倍、 しかもテレビ愛像機の価格はMUSEコンバーターを含めて見られるようにセットすると、四○○万円前後になる。 日本のハイビジョン方式は、九○年五月デュッセルドルフでの国際無線通信諮問委員会(CCIR)総会で国際規格として認められ、九一年一一月から放送衛 星 BS‐3bの使用による一日八時間放送に延長され、九二年のバルセロナオリンピックでは番組放送が拡大されても、あまりに高額 で一般家庭への普及が望 めない。 高品位で高精細な映像を持つハイビジョンは、放送以外の分野(美術館、博物館、映画、医療、教育など)には利用されだしたが、広範な産業応用への期待が もたれている。 そこで現行テレビの横縦比四対三に対し、ハイビジョンサイズの一六対九の横長TVを量産して、一○○万円台の価格で販売、自宅で劇場サイズのワイド画面 を楽しみながら、ハイビジョン本格化時代に中継ぎして移行しようという一部メーカーの動きが現れた。カメラ業界のパノラマ時代と同じトレンドといえよう。 ●クリアビジョン/EDTV/高画質化テレビ(Extended Definition Television)〔1992 年版 放送映像〕 日本民間放送連盟が、NHKの「ハイビジョン」に対抗して打ち出した高画質テレビ。ハイビジョンは衛星放送を使わないと見られないが、クリアビジョンは 現行の地上放送で見られるばかりか、現在使用している受像機をそのまま使うことができる。 クリアビジョンの最大の特色は高画質でゴーストがないこと。それは第一に、放送局と受像機の双方で高画質化する方法を採用したからである。すなわちこの 走査線技術を一段と高め、画質の向上を図っている。第二に、色妨害が起きないように改善していること、第三に、ゴーストキャンセラーがつくこと、第四に、 白黒からカラーテレビへ移行したときのように、アダプターを必要としないこと、などがクリアビジョンの特色を可能にした理由である。 しかし、このクリアビジョンは第一世代機で、八九年八月から本放送を開始したが、もっと性能のよい第二世代クリアビジョンの開発も進められている。それ は、ハイビジョンと同じく九 一六の横長の画面であり、九二年初め改善仕様を設定、九三年初め暫定方式を決定、九四年初めに審議会に答申、九五年には実 用化を目指すことになった。四年の期間を必要とするのは、外国の方式との整合性を考慮したからである。 ●スペース・ケーブルネット〔1992 年版 放送映像〕 通信衛星を利用して、全国のCATV局に番組を配給するシステムが、スペース・ケーブルネット。CATVの発展を一段とスピードアップするため、郵政省 はこのシステムを推進している。CATVを発展させる最大のポイントは、なんといっても番組の充実、地上系放送局に負けない番組を編成することだろう。 そのためには通信衛星によって良い画質や音質をもった番組を流していかなければならない。 アメリカでは一九七五年九月、大手番組供給会社HBOが国内通信衛星を利用してCATV局に有料サービスを開始、これによりアメリカのCATV加入者は 飛躍的に増加した。この成功でアトランタの地方局WTBSは、七六年スーパーステーションの名称で同様のサービスを行い、CNNを誕生させた。 このアメリカの先例を見習い、わが国では八九(平成一)年一○月からスペース・ケーブルネットのデモンストレーションを行い、多チャンネルCATVの普 及につとめている。また、ソフト面では、ペイサービスの展開、ハイビジョンの取込み、双方向サービスの実用化などの発展シナリオが描かれている。 ●衛星デジタル音楽放送〔1992 年版 放送映像〕 わが国初のPCM音楽放送として誕生したのが衛星デジタル音楽放送(セント・ギガ/St.GIGA)であり、従来なかった特色ある音声放送として注目され ている。同じ放送衛星(BS)を利用する衛星テレビと違い、 音の潮流 を一日を四つのゾーンに分けて放送する。本放送は一九九一(平成三)年三月末か らだが、有料放送は同年九月からで、月額六○○円。同一一月から法人契約ができる予定であり、そうなれば、オフィス、マンション、理美容院などのほかに、 法人リスナーを数多く獲得できるという。加入者は四万二○○○人とみている。 ●都市型CATV〔1992 年版 放送映像〕 都市型CATVの定義は、 (1)端子数(加入が可能な世帯数とほぼ同じ意味)一万以上、 (2)自主放送(民放やNHKの再送信ではない放送)が五チャンネ ル以上、(3)双方向機能があることなどである。 多チャンネルといっても現実には十数チャンネルから三十数チャンネルが日本の現状で、アメリカのように一二○チャンネルのものはない。三○チャンネル程 度の局では、再送信が一二チャンネル、番組供給業者からの提供番組が残りの大半、地域に根ざした自主制作は一チャンネルにすぎない状況である。 加入時の費用は、契約料五万円前後とケーブルを家庭に引き込む工事費などがかかる。利用料は基本が月額三○○○円前後、映画のチャンネルは別料金で二○ ○○円から二五○○円、アメリカのニュース専門番組のCNNは一○○○円程度の別建てにしている局もある。日本初の本格的ペイ・パー・ビュー(視聴ごと に料金を支払う)方式を、日本ヘラルド映画は通信衛星を使って、一九九○(平成二)年七月から自社配給洋画の配信を始めた。 このように民間通信衛星の利用が広がって、日本の都市型CATVは、やっと本格的な多チャンネル時代に入ろうとしており、番組供給業者は現在約四○社あ るが、衛星による番組送信はCATVやホテル、マンションまでで、各家庭の配信は放送事業と同様になると規制されている。一九九一(平成三)年三月末現 在、施設数一○二、加入者数四万一○五となった。放送内容も顕著に多様化し、加入のメリットも認識されるようになってきた。 [株式会社自由国民社 現代用語の基礎知識 1991∼2000 年版] ●二画面テレビ〔1992 年版 放送映像〕 親画面、子画面の二つを持つ二画面テレビが一九九一(平成三)年にメーカー各社からそろって登場した。テレビ画面の隅に子画面を設け、二つの画像を同時 に再生するのが二画面テレビであり、「Pip」(ピクチャー・イン・ピクチャー)テレビとも呼ばれている。これまでもしばしば各社が商品化しており、七○年 代半ばに市場に出たが、売れ行きが低調、主力製品となれなかった。 VTRが登場してから、裏録している画像を子画面で確認するなどの利点があったが、今回この二画面テレビが増えはじめたのは、BS(放送衛星)チューナ ーが内蔵されたことから、地上局用のU、VチューナーとBSチューナーの二チューナーにより、同時に地上波かBS波の画面を再生できることになったから である。 子画面の大きさがある程度必要なため、各社とも二九型や三三型の大型テレビが中心であり、子画面の位置を左右、上下の四隅にボタン一つで移動できる。ま た子画面のサイズを九分の一、一六分の一に二サイズに切り替える機能もある。二画面テレビの特徴は、 (1)異なるチャンネルが同時に見られる、 (2)録画 中のVTR画面のモニターができる、(3)静止画機能では料理番組などメモ代わりになる。 ●SNG(Satellite News Gathering)〔1992 年版 放送映像〕 サテライト・ニュース・ギャザリングは、通信衛星を利用しテレビ・ニュースの取材機能、機動性と配信力を高める送受信システム。現在の主なテレビ・ニュ ースは、ENG(Electric News Gathering)で取材しており、遠隔等で取材したものを局に送信する場合FPU(Field Pick‐up Unit)でマイクロ伝送して いるが、離島や遠隔の山間部からの送信にはやはり困難があった。それを改善すべくSNGシステムが開発された。アメリカでは早くから実用化され、コーナ スというSNG専門のテレビ・ニュース配信会社が設立された。加盟六八社にパラボラと車載局を配置、取材したニュースを一日四∼五回ネットしている。日 本では一九八九(平成一)年春から実施され、ニュース以外のスポーツ中継、ワイドショーなどの素材送りにも利用すべく、テレビ各社は競って準備を進め、 ほぼ態勢を固めた。 ●環境映像(environmental picture)〔1992 年版 放送映像〕 映像をインテリアの一部として室内の環境を創り出していくビデオやビデオディスク作品。バック・グラウンド・ミュージックでは音だけしか使えなかったが、 映像を画面に映し、さらに感興を高めるために使っている。映像作品にはさまざまな風景や海中、熱帯魚の動きなどを写したものが多く、飛行中のジェット機 からアメリカ西海岸やカナダの雲海、パリ市街の光景、世界の古跡や名所、光と影が鮮やかなアルプス、日本の庭園と桜などのソフトがある。時間の流れとと もに映像が美しくくりひろげられ、人気ロックバンドなどの演奏が響いている。イメージと音楽が室内環境を別世界のものとする。バック・グラウンド・ビデ オ(BGV Back Ground Video)、インテリア・ビデオ(interior video)などとも呼ばれているが、ビデオディスクのほうが今後は環境映像のジャンルにさ らに進出していきそうである。 ●PCM音声放送〔1992 年版 放送映像〕 PCMとは、Pulse Code Modulation の略。パルス符号変調と訳す。アナログ信号をデジタル信号に変えて送信し、受信側で再びアナログ信号にもどして聴取 するものであり、伝送時に信号の減衰や音のひずみがないのが特徴で、元の音質をそのまま再生できる。ちなみに、この方式を録音で活用したのがCD(コン パクトディスク)である。PCM放送は広帯域の周波数を必要とするため、地上系放送では実現が難しかったが、国内ではNHKが一九八六(昭和六一)年秋 から衛星放送で実施した。その後NHKの参加しない民間主導の放送事業になった。九二年前後に六社一八チャンネルが開局する予定で、ミュージックバード、 サテライトミュージック、ビーシーエム・ジパングコミュニケーションズ、ニッポンミュージックコングレス、ピーシーエムジャパン、日本PCM音楽である。 前四社は JC‐SAT、後二者はSCCを使用衛星としている。成功するか失敗するか予測が難しく、「衛星放送時代の実験台」といわれている。 ●オリジナルビデオ〔1992 年版 放送映像〕 「ビデオ専用映画」「Vシネマ」とも呼ばれている。レンタルビデオ店向けのオリジナル映画であり、邦画界で一九九一(平成三)年ブームとなった。ビデオ 専用映画が登場したのは八五年、初めはレコード系やゲームメーカー系の会社が中心だったが、旧作ストックが少なくなった東映が目をつけ、東映Vシネマと して初年度二二作を売り出し、約五○億円の収入をあげた。本業の映画制作・配給による収入が一二三億円なので、予想外の好成績だった。テレビの二時間ド ラマの直接製作費が約四○○○万円、Vシネマはその倍の約八○○○万円。劇場用映画の三∼五億円に比べられないが、一万五○○○本売ればまずまずなので、 少数精鋭、ロケ多用で量産されている。テレビコード(放送基準)とは無縁の世界のせいもあり、にっかつ、松竹、東宝、大映が参入し、早くも過当競争とな った。アメリカとの合作の「Vアメリカ」、青春物の「ヤングVシネマ」など多角化を図っているが粗製乱造の声もあがっている。 [株式会社自由国民社 現代用語の基礎知識 1991∼2000 年版] ▽執筆者〔1992 年版 ジャーナリズム〕 新井 直之(あらい・なおゆき) 創価大学教授 1929 年岩手県生まれ。東京大学文学部卒業。共同通信社科学部長、編集委員、調査部長を経て、現在、創価大学文学部教授。著書は『新聞戦後史』 『ジャー ナリズム』『メディアの昭和史』など。 ◎解説の角度〔1992 年版 ジャーナリズム〕 ●湾岸戦争の報道は、ジャーナリズムの歴史上画期的なことがいくつかあった。たとえば、イラクの首都バグダッドに、いわば敵国のテレビCNNのクルーが 居残って、放送し続けた。あるいはまた、テレビがリアル・タイムで爆撃の模様や記者会見の様子を全世界に伝えた。 ●だがそれは、反面、ジャーナリズムが戦争当事国にとって、欠かすことのできない宣伝手段、戦争の重要な手段の一つに組み込まれてしまったことでもある。 だからこそ、湾岸戦争の報道には、かつてない厳しい統制が敷かれた。 ●ジャーナリズムは、改めてその責務と役割を問われている。 ★1992年のキーワード〔1992 年版 ジャーナリズム〕 ★コンバット・プール(combat pool)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 戦争取材プール。プール取材とは、ある出来事の取材に大勢の報道陣が参加して、めいめいが記事や写真を送稿することが困難な場合、代表だけが取材し、残 りのメンバーはその素材を利用させてもらう方法。 湾岸戦争では、米国防総省が事前にこの戦争の取材はプールに限定することを明らかにし、プールの代表は腕立て伏せ、腹筋運動、一マイル半のランニングな どの体力テストに合格することを義務付けた。米国防総省は、 (1)取材要求が多すぎて、対応し切れないこと、 (2)戦闘訓練を受けていないものが、多人数 で戦場を行動する危険、をコンバット・プール制にする理由としてあげたが、ベトナム戦争のとき戦場取材を自由にした結果、戦争のすさまじい現実が報道さ れて、そのため国内にベトナム戦争反対の世論が高まったことへの反省が根本にある、と見られている。 米英の報道陣は、新聞社、通信社、テレビ局などメディアごとにコンバット・プールを組み、それぞれの代表を前線に送り出したが、他のヨーロッパ諸国が組 んだ「国際プール」、日本の報道陣が組織した「ジャパン・プール」からは、米軍はついに一度も代表を前線に送ることを認めなかった。取材は米英両国に限 るという米軍の報道管制が徹底して行われたわけである。 ★DoD 規制(DoD regulations)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 DoD とは米国防総省(Department of Defense)の略。湾岸戦争開始の直前、米国防総省が湾岸戦争の報道にあたって、公式発表以外に報道することを禁止し た一二項目の規制。 (1)部隊、航空機、兵器の数、 (2)中止となったものも含め、計画、作戦の詳細、 (3)戦闘の詳細、 (4)人的損害、撃墜・撃沈された 航空機・艦船について、などの報道が禁じられている。つまり湾岸戦争では、公式発表以外の一切が報道できなかった。これも前記の報道管制の方法の一つで あることはいうまでもない。 ★ブラック・アウト(black out)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 もともとは空襲に備えての灯火管制のこと。それから転じて、軍、警察などによる報道管制を指す。湾岸戦争で地上戦が始まった一九九一年二月二三日夜(米 東部時間)から二五日まで、米中東軍シュワルツコフ司令官は、「作戦成功と将兵の安全のために」情報の完成ブラック・アウトを命令した。このためアメリ カのマスコミは湾岸戦争について全く沈黙しなければならなかった。 ★戦争報道の 10 原則〔1992 年版 ジャーナリズム〕 湾岸戦争で米国防総省の報道規制があまりにも厳しすぎたため、 『ニューヨーク・タイムズ』 『ワシントン・ポスト』などの主要新聞、CNNを含む四大テレビ・ ネットワーク、AP通信社など、マスコミ一七社の代表は、一九九一年四月末、湾岸戦争での検閲や報道の自由に関する報告書を公表し、そのなかで戦争報道 についての一○原則を提唱し、国防長官に報道規制の再考を促す要望書を提出した。 この一○原則の中には、(1)独立報道が基本原則である、(2)プール取材は、作戦開始から二四ないし三六時間以内に限られるべきである。(3)軍の広報 は連絡役に徹し、取材に干渉しない、(4)すべての主力部隊への取材を認める、などの項目が含まれている。 ★テレプロマシー(teleplomacy)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 テレビジョン(television)と外交(diplomacy)とを組み合わせた、欧米で使われるようになった新造語。まわりくどい外交ルートを経由せずに、テレビを利 用することでより早く、直接的に、相手国に自国の主張や意向を伝えようとすること。 一九九○年八月から始まった湾岸危機で、イラク政府は米国のCNNテレビを徹底的に利用した。たとえば、フセイン大統領の演説の二、三時間前にバクダッ ド駐在のCNNクルーに予告し、翻訳その他の準備をさせた後に演説を始めるのを常とした。八月二二日と二八日にフセイン大統領は外国人人質と「会見」し、 軟禁中の身でも何も発言できない人質を相手に自分の正当性を長々と述べ、それを全世界に生中継させた。また逆に、ブッシュ米大統領は九月一二日、イラク の国民に向けたテレビ演説を行い、アラビア語字幕入りのビデオテープをイラク側に送った。このテープは無修正のまま五日以内に放送することが求められて いたが、イラク政府は結局無視して放送しなかった。 ★インフォテインメント(info‐tainment)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 情報(information)と娯楽(entertainment)とを組み合わせた造語。報道、とくにテレビ報道が、情報の重要さよりも娯楽性を重視するようになってきてい ることを表す。ニュースが娯楽番組的に視聴され、またそれを意識して制作されるようになっている状況である。 ★瞬間主義〔1992 年版 ジャーナリズム〕 一九八一年一一月から二年半、アメリカのCBSニュース社長を務めたヴァン・ゴードン・ソーターの主張。テレビ・ニュースは視聴者の心を打ったり感じた りする場面(それを彼は「瞬間」と呼んだ)を持っていなければならないとする。しかしこのような「瞬間主義」は、視聴者に考えさせる内容、政治や経済の 問題のように、重要だが抽象的な内容を報道することをやめ、ニュースへ娯楽色を導入する口実となった。ラジオ時代からニュース番組に定評と権威とを持っ てきたCBSの伝統を崩壊させ、視聴率も三大ネットワークの最下位に落とす結果となった。 九○年に邦訳・出版されたピーター・ボイヤー著、鈴木恭訳『ニュース帝国の苦悩‐CBSに何が起こったか』(TBSブリタニカ刊)で紹介され、インフォ テインメントの一例として注目を集めた。 ★成年コミック〔1992 年版 ジャーナリズム〕 少年少女向けのまんがに露骨な性描写をしたものがはんらんしているとして、一九九○年中に三一道県で一三一三冊が有害図書に指定され、回収された。また 警察庁では全国の警察本部に、青少年条例で有害図書として指定するよう各県知事部局に働きかけるとともに、指定された場合は条例違反による取締りを強化 するよう通達した。こうした状況を受けて、日本雑誌協会などで作る出版倫理協議会は、九一年三月から、未成年にふさわしくない性描写が載ったまんが本に は長円形の「成年コミック」マークをつけ、少年少女には販売しないよう配慮することを申し合わせた。 セックス・コミックが問題になったのは、一つには九○年八月、東京都生活文化局婦人計画課が発表した「性の商品化に関する研究」で、月刊誌や週刊誌のま んがとカラー写真に、どの程度性表現が盛り込まれているかを調査したことによる。もう一つは、これとは別にやはり九○年八月、和歌山県田辺市の主婦から セックス・コミック追放の運動が始まり、それが全国に広まったとされている。 しかし、あまりにも早い全国的広がり、各県警察がまんがの作者、発行者、印刷会社経営者、書店などを大量に書類送検したことなどから、背後に警察の動き があることを感じさせる。 ★『エルコン』〔1992 年版 ジャーナリズム〕 一九九○(平成二)年一一月二六日に蘭華社から女性対象に創刊された夕刊紙『TOKYO Lady Kong』の略称。首都圏のOLをターゲットに駅売りのタブ ロイド判で刊行されたが、湾岸戦争の時期なのに一般紙に比べてニュース性が希薄で、さらにこれといった売り物になる読み物もなく、ほとんど売れなかった。 そのうえ予定していた資金が得られず、三カ月もたずに九一年二月一五日で休刊した。 英国の大衆紙『デーリー・ミラー』も一九○三年、新聞王ノースクリッフ卿によって発刊されたときは世界初の女性向け新聞だったが、売れず多くの借金を抱 えたため、今日の大衆紙に転換した。女性向け新聞の経営は困難らしい。 ★CAJ〔1992 年版 ジャーナリズム〕 「コンピュータ支援報道」 (computer assisted journalism)の略。またCAR(computer assisted reporting)ともいう。米国の「情報自由法」に基づく情報 公開制度によって政府から入手した磁気テープの情報をコンピュータに入力し、そのデータを分析、加工して、調査報道を行う手法。 ★日本マス・コミュニケーション学会〔1992 年版 ジャーナリズム〕 一九五一(昭和二六)年設立の日本新聞学会が改名したもの。新聞学会はその設立趣意書に「新聞放送、雑誌等、普遍的精神交通を学的領域とする」とうたっ ていて、初めから新聞に限らず、広く「精神交通」つまりマス・コミュニケーション全体を対象としていた。しかし近年、放送を専門とする研究者たちから、 「新聞」学会というのは誤解を与えるとして改名を求める動きがあり、その結果九一年六月の総会で改名が提案され、会員の全員投票にかけて、正式に決定し た。 ★レイプ被害者の実名報道〔1992 年版 ジャーナリズム〕 一九九一年三月三○日、故ケネディ米大統領やケネディ上院議員のおいにある大学医学部学生が、フロリダ州の同家の別荘で二九歳の女性をレイプした。この 被害者の実名をまずイギリスの大衆紙『サンデー・ミラー』が報道、続いて地元のタブロイド新聞『ザ・グローブ』、三大ネットワークの一つNBC、そして 高級紙『ニューヨーク・タイムズ』までが実名と、被害者のプライバシーを暴露した。 これに対し、 『ワシントン・ポスト』、三大ネットワークの残りのABC、CBS、それにCNNなどは匿名を守ると発表して、実名報道をの是非が論議された。 女性団体は一斉に実名報道に反発、マスコミ研究者たちもほとんど実名報道を批判している。『ニューヨーク・タイムズ』はこのため異例の釈明記事と経過説 明とを大きく掲載し、「できる限り性犯罪の被害者の名前を控え、公式な情報を提供するという長年の方針を続ける」と述べた。 ★記事盗用〔1992 年版 ジャーナリズム〕 共同通信社が一九九○(平成二)年四月から九一年三月まで加盟社に配信してきた通年連載企画「からだの数字学」が読者からの通報で『朝日新聞』が七四年 から七五年までの連載し、七六年に同社から出版された「新解体新書」の内容と極めて酷似していることがわかった。共同のこの記事は、医学担当編集委員が 執筆し、二八社に掲載されていた。 共同はこの編集委員を解雇するとともに、社内に特別対策委員会を設置して、原因究明にあたった。同委員会は七月報告書を発表したが、同編集委員はこれ以 外にも記事を盗用していた疑いが強く、「過剰な意欲による過大な取材・執筆計画、モラルの欠如」を原因としてあげている。 ★国際女性ジャーナリスト会議〔1992 年版 国際女性メディア財団(IWNF ジャーナリズム〕 International Womens Media Foundation)主催で、一九九○年一一月に米国ワシントンで開かれた。世界五七カ国から約 一○○人の女性ジャーナリストが招待され、「九○年代のニュース」について討議した。 ▲ジャーナリズム一般〔1992 年版 ジャーナリズム〕 湾岸戦争の報道は、ジャーナリズムの任務とは何か、報道はいかにあるべきか、ジャーナリストはいかに生きるべきか、などを改めて根源から考えさせること になった。 たとえば、湾岸戦争の本質は何であったかを、ジャーナリストは的確に報道しただろうか。ニンテンドー・ウォーの映像を垂れ流しただけではなかったか。米 軍の厳しい検閲を受けた報道をそのまま伝えただけで良かったのだろうか。 それらのことを考えるために、まずジャーナリズムの本質にかかわる問題を正確に知っておきたい。 ◆ジャーナリズム(journalism)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 時事的な事実や問題の報道・論評の社会的伝達活動。もともとは、ラテン語の「ディウルナ」 (diurna)、つまり日刊の官報を意味し、そこから英語に転化して 「日々の記録」を意味するようになった。 これまでジャーナリズムとはニュースを収集し、選択し、解説し、そして継続的・定期的に伝達する行為、というのが一般的に承認されてきた定義であった。 ジャーナリズムは、無数に生起した出来事の中から、民衆の次の行動決定のために必要な事実をピック・アップして、できるだけ早く、できるだけ広く伝える ことが要求される。また、民衆が自らの置かれている状況を十分かつ的確に認識できる条件が、国民全員に与えられている必要がある。この点からジャーナリ ズムは権力の言動を常に厳しく監視することが第一の責務であり、その行使を行う者がジャーナリストと言い得る。 そこで言い換えるならば、ジャーナリズムとは民衆のために「いま伝えねばならないこと、いま言わねばならないことを、いま、一刻も早く広めること」とい うことができる。 ◆ジャーナリスト(journalist)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 主体的・積極的に現実を把握し、解釈し、表現することを任務としてジャーナリズム活動を行う者。一般的に、ジャーナリズム活動を、日々行い続けるものが、 職業(専門)的なジャーナリストといわれるが、それはペンを持つ人間だけを指すわけではなく、カメラを持っても、マイクを握っても、みなジャーナリスト たり得る。また職業的ジャーナリストが持っている権利(記者クラブなど、ニュース・ソースへの接近など)は、民衆一人ひとりが持っている権利(「知る権 利」など)と、まったく同等なのであって、それ以上でもなければ、それ以下でもない。 ジャーナリストは、多くの場合マス・メディア企業に所属し、組織化されている。その企業の要求と、あくまで自らの主体性を守り通そうとする矛盾対立にジ ャーナリストは直面せざるを得なくなる。その状況の中で、民衆に奉仕する責務を持つジャーナリストの強い意志が要求される。 ◆マス・コミュニケーション(mass communication)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 不特定多数の受け手を対象にマス・メディアを通じて、大量に情報を伝達するコミュニケーション過程のこと。マス・コミュニケーションの特徴としては、次 のようなことがあげられる。(1)送り手は通常大規模に組織された集団である、(2)機械的・技術的手段で情報を大量に複製する、(3)これを、分散した 不特定多数の受け手に伝達する、 (4)受け手が、送り手になれる機会は少なく、送り手と受け手の役割分化がはっきりしている、 (5)受け手から送り手への フィードバックがむずかしい。つまり、情報の流れは、送り手から受け手へ、一方的である。 マス・コミュニケーションが社会に対して行う活動は、次の諸点があげられる。(1)出来事についての情報を収拾し、伝達する活動(報道活動)、(2)その 出来事について評価し、解説し、論評して、受け手の行動を指示する活動(論評活動)、 (3)社会の価値を後世に伝達する活動(教育活動)、 (4)受け手に娯 楽を提供する活動(娯楽活動)。そのほか、(5)広告を伝達する活動(広告媒体としての活動)もある。 ◆マス・メディア(mass media)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 マス・コミュニケーションの過程で、送り手と受け手を結ぶ媒体。新聞、雑誌、書籍、テレビ、ラジオ、映画、ビデオやオーディオのテープなどが上げられる。 日本語の「マスコミ」とは、通常このマス・メディアを指すことが多い。 なお、メディアとは複数形であって、単数形ではミーディアム(medium)である。 ◆知る権利(right to know)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 (1)マス・コミュニケーションにおける送り手の活動の自由を要求するものであり、(2)民衆一人ひとりが国政に関する情報を請求する権利。 一九四五年一月、アメリカのAP通信社専務理事ケント・クーパーが「知る権利」を提唱する講演をしたことでこの言葉が生まれた。クーパーが合衆国憲法修 正第一条のプレスの自由にかわって、新しく「知る権利」を提唱したのは、第二次大戦中の政府によるニュース操作と公的宣伝のために民衆が真実から遠ざけ られ各国間に反目と憎悪を激化させた反省から、国家権力に対抗する新しい民衆の権利概念を対置させる必要を感じたからであった。 この考えは五五年頃までにはジャーナリストたちの間に定着し、六六年に「情報自由法」(Freedom of Information Act)が制定される運動にも発展した。 ◆新世界情報コミュニケーション秩序(a New World Information and Communication Order)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 これまでの先進国→第三世界ばかりでなく、第三世界→全世界という情報の流れを求め、情報やマス・メディアへの国家の介入を認めさせようという、第三世 界による先進国への対抗原理。 「新世界情報秩序」ともいう。一九七三年九月、アルジェで開かれた第四回非同盟首脳会議に集まった七五カ国は、 「帝国主義の 活動は単に政治的、経済的分野に限らず、文化的、社会的分野にまで及んでいる」という公式声明を発表し、「植民地時代の過去から受け継がれた」コミュニ ケーションの経路を再編成すること、「植民地時代の有害な遺産を除去」するために国家メディアを強化することで合意。さらに七六年、コロンボでの非同盟 首脳会議は「情報とマス・メディアの問題に関する新世界情報秩序は、新世界経済秩序と同じくらい重要である」という公式宣言を発表し、ここから「新世界 情報コミュニケーション秩序」のことばが生まれた。 ◆コミュニケートする権利(right to communicate)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 (1)単にいわゆるコミュニケーションばかりでなく、非常に広範な意味でコミュニケーションをとらえ、(2)個人の権利だけでなく、集団(社会)の権利 と認め、(3)従来とかく垂直的ないしは、上から下へのコミュニケーションの流れだったものを、水平的で相互作用的な交換の流れを特徴とする権利。民衆 自身がマス・コミュニケーションの手段(アメリカのシティズンズ・バンド・ラジオやフランスで一九七七年から七八年にかけての「自由ラジオ運動」など) を所有し利用することもその権利である。この概念を最初に提唱したのは、ジャン・ダルシー(六九年の提唱当時、国連広報局放送・視覚情報部長)だった。 その後、七七年一二月、ユネスコに設けられた「コミュニケーション問題研究国際委員会」(マクブライド委員会)が八○年八月に出した報告書『多くの声、 一つの世界』では、この権利の構成要素として、(イ)集会の権利、討論の権利、参加の権利、および関連する結社の諸権利、(ロ)調査する権利、知る権利、 知らせる権利、および関連する情報の諸権利、(ハ)文化に対する権利、選択する権利、プライバシーの権利、および関連する人間の発達の諸権利、を紹介し ている。 ◆コミュニケーション政策(communication policy)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 一般的な定義はない。狭い意味では、電気通信政策・電波政策を指すが、広い意味では、最近における次の二つの動きを含み、情報・コミュニケーションに対 する助成・規制の国家政策すべてを指す。二つの動きとは、(1)一九六○年代後半から北欧三国を中心に、新聞の経営が極度に悪化したとき、これを言論・ 情報の多元性崩壊の危機として、政府が各種の助成措置を講じ、これが各国に取り入れられたこと、(2)七○年代、第三世界から「新世界情報コミュニケー ション秩序」が提唱され、コミュニケーション経路の再編成や国家メディアの強化など、コミュニケーション過程に対する国家政策の必要が主張されたこと、 である。 このような国家によるコミュニケーション過程への助成・規制は、言論・報道への国家の介入に道を開くとして、先進資本主義国の間には批判的な意見が強い。 ◆情報公開制度〔1992 年版 ジャーナリズム〕 政府・行政機関が所有する公文書(文字・絵画的表現・読み・書きその他の技術的補助手段で理解できる記録)情報を民衆が請求した場合、すべての個人にた いして請求情報を公開しなければならないとする制度。 スウェーデンではすでに一七六六年「出版自由法」によって言論出版の自由と公文書公開原則ができ、アメリカでも「情報自由法」が制定されている。日本で 情報公開法の制定を求める声が高まってきたのは、七九(昭和五四)年からであって、同年七月、自由人権協会が「情報公開法要綱」を発表、議論を広める運 動を開始した。自治体では、八二年四月、山形県最上郡金山町が「公文書公開条例」を日本で初めて定めて実施したのをはじめ、全国約一六○の自治体で制度 化された。しかし、国の情報公開はほとんど考えられていないどころか国家秘密法案を計画するなど、むしろ逆行の傾向にある。 ◆国家秘密法案〔1992 年版 ジャーナリズム〕 自民党の議員立法として、自衛隊を他の一般政府機関と区別し、特に重い秘密保護を課そうとする法案。 一九八○(昭五五)年第一次案、八二年第二次案、八四年第三次案、そして八五年五月二八日、自民党総務会は第四次案「国家秘密に係るスパイ行為等の防止 に関する法案」(スパイ防止法案)を提出したが、一二月二○日廃案になった。しかし、自民党はこの法案を「防衛秘密を外国に通報する行為等の防止に関す る法律案」と名を変え、再び国会に提出しようとしている。 ジャーナリズム、言論・出版機関にとって問題となるのは第一三条第二項「出版又は報道の義務に従事する者が、専ら公益を図る目的で防衛秘密を公表し、又 はそのために正当な方法により業務上行った行為は、これを罰しない」条文である。これは(1) 「出版・報道」者の「特権」意識をくすぐり、 (2)法文のあ いまいさ、 (3) 「正当な方法」による取材活動の不明確さ、 (4) 「これを罰しない」によって裁判で処罰されなくても捜査権の介入が認められている、という 問題がある。 ◆検閲(censorship)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 言論・表現を事前に抑制し、情報の伝達を阻害すること。日本国憲法二一条二項は検閲を「絶対的」に禁止することを規定している。歴史的に、検閲の禁止が 言論の自由の基礎をなしてきた。一六九五年、イギリスは出版許可法(The Licensing Act)を廃止し、アメリカでも憲法修正第一条によって言論の自由を確立 する法理となった。日本国憲法の検閲禁止規定はそれ以上の意義を有している。 しかし、日本の裁判所は検閲の禁止に対する例外として、(1)公安条例などによる集会・示威行進の事前抑制、(2)教科書検定における内容の規制、(3) 税関検査による輸入表現物の取り締まり、 (4)受刑者への通信の規制、 (5)仮処分による表現の事前差し止め、を認めてきた。検閲の被害者は検閲によって その情報を受け取ることができない国民である。これらの例外規定は民主主義社会とジャーナリズムにおいて少なからぬ問題を有していることが指摘されてい る。 ◆編集権〔1992 年版 ジャーナリズム〕 一九四八(昭和二三)年三月、日本新聞協会が発表した「新聞編集権の確保に関する声明」に基づく、政治的概念。同声明によると、「編集権とは新聞編集に 必要な一切の管理を行う権能」であり「編集権を行使するものは経営管理者およびその委託を受けた編集管理者に限られる」「定められた編集方針に従わぬも のは何人といえども編集権を侵害したものとしてこれを排除する。編集内容を理由として印刷・配布を妨害する行為は編集権の侵害である」。この「編集権」 概念は新聞ばかりでなく出版にも持ち込まれ、放送でも「編成権」という言葉になって現に使われている。 「編集・編成権」は法に基づく概念ではなく、占領軍の権力を光背として戦後の日本で生み出されてきた独特の概念であり、諸外国にはない。今日なお新聞各 社の労働協約・就業規則のほとんどには「編集権」が経営者側にあることを明記している。このことは、「編集権」の名のもとに経営管理者のみが一切の権能 をもつとして行われている事前規制が「思想の表明の自由」 「事実の報道の自由」をそこなうものであり、 「国民の知る権利」を侵害するという問題も示してい る。マス・メディア企業が「自主規制」を行うとき、この「編集・編成権」を持ち出して、現場に強いることが多い。 ◆第4階級(the fourth estate)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 西欧封建制における三つの階級(僧侶、貴族、平民)との対比から生まれた言論界、記者をさす。一八三七年マコーレー卿が議会の記者席を指し、新聞本来の 使命は専制的な傾向をもつ政治へのひとつの脅威たるべき、とした言葉に由来するといわれる。現在ではマスコミを「第四権力」と呼んで、立法・司法・行政 の三権と並ぶ権力を持っているとする意味で使われる。しかし三権の権力は Power であるが、マスコミは Estate である。 ただ、マスコミの国家権力との迎合や癒着などから民衆にとってマスコミは Power にならないとも限らない。 ◆プライバシーの権利〔1992 年版 ジャーナリズム〕 (1)私生活をみだりに「知られない権利」としてだけでなく、(2)個人一人ひとりが公的機関および企業(生命保険、小売業、不動産業、金融機関など) が保有する自分のデータについて「知る権利」を持ち、(3)そのデータが誤っていれば訂正・修正させる権利を持つという積極的・能動的な権利。 日本では、プライバシーの権利はもっぱら私生活を他人に「知られたくない権利」(right to be let alone)としてのみ理解され、このことから「知る権利」と 対立する概念のようにとらえられている。しかしこれではプライバシーとは保護されるもの、侵害されてはならないものという守勢的・受動的な権利でしかな い。アメリカでは一九七四年プライバシー法(Privacy Act)が制定され、プライバシーの積極的・能動的権利を確立させた。 日本では国の行政機関がコンピュータに入れている個人情報を、本人が明らかにするように求め(開示請求権)、それが間違っていれば訂正を申し出ることな どを規定した「行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に係る法律」 (個人情報保護法)が、一九八八(昭和六三)年一二月公布施行された。 しかしこの法律では、手書きの情報が除かれていることや、開示を拒否できる規定が多いことなどから、学者たちの間には不備とする意見が強い。 ▲報道・編集〔1992 年版 ジャーナリズム〕 一口で言うと、 「情報の娯楽化」といった現象が一九七○年代後半から進行している。それは日本だけではなく、アメリカなどにも強く現れていることは、 「最 新語」の項で取り上げた「インフォテインメント」「瞬間主義」などという言葉からもうかがうことができる。 しかし「情報を面白くする」ことは、センセーショナルな報道に陥ったり、人権を侵害することになったりする。そしてそれは、読者・視聴者からジャーナリ ズムへの信頼を失わせていく結果になる。 ◆アクセス権(right of access to mass media)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 民衆の言論の自由を実現化するためにマス・メディアを開かれたものにし、人びとがそれに参入し利用する権利。アクセス権は、(1)批判・抗議・要求・苦 情、(2)意見広告、(3)反論、(4)紙面・番組参加、(5)運営参加に分類できる。 一九六七年、アメリカの法律学者ジェローム・バロンが提唱。その背景には、六○年代にアメリカで人種差別撤廃、公害反対、消費者権の確立、ベトナム戦争 反対などをめぐって広範な激しい市民運動が展開されたが、彼らの意見はマス・メディアから排斥されることが多かった。 この提唱は、一方には民衆の「アクセス権」を承認するべきであるという主張があるのに対し、もう一方には「アクセス権」はマス・メディア自身の「プレス の自由」を損なうという批判がある。 ◆新聞評議会(Press Council)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 (1)プレスの自由の擁護、(2)倫理綱領の遵守に対する監視、(3)読者からの取材・記事に対する苦情処理、(4)新聞間、新聞とニュース・ソース間の 問題の処理、を目的とする活動を行う評議会。 一九一六年スウェーデンで設けられ、次いで第二次大戦前にすでにフィンランド、ノルウェーにも置かれていたが、五三年イギリスで設置されてから急速に世 界各国で作られるようになった。 イギリスの新聞評議会は、一九四九年「新聞に関する王立委員会」(Royal Commission on the Press)の勧告によって発足し、(1)新聞の自由の維持、(2) 新聞界の水準の維持、(3)新聞に対する苦情の審理、(4)情報を制限するおそれのある事実の調査、(5)新聞界の集中・独占化の傾向の公表、などを目的 とする。六二年、第二次王立委員会の勧告は、新聞評議会の強化と、新聞界以外から評議会委員に参加を求めるべきことなどを含み、六四年から新定款に基づ く新聞評議会が活動を開始した。 日本には日本新聞協会があるが、読者からの苦情処理の活動を欠くことから、日本新聞協会は新聞界の自主規制機関とはいえても、各国なみの新聞評議会とは いえない。そのため、日本にも新聞評議会を設立すべきだという意見が、学者、弁護士、報道被害者などの間に強まってきている。 ◆新聞オンブズマン(Press ombudsman for the general public)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 オンブズマンとは一八○九年スウェーデンで創設され、多くの国々で採用されている一種の議会行政監察官のこと。 スウェーデンは、一九六九年新聞評議会制度改革の一つとして、このプレス・オンブズマンを設けた。新聞・雑誌に対する苦情はすべてプレス・オンブズマン に寄せられ、プレス・オンブズマンはその苦情に基づいて、あるいは自らの発意によって調査し、苦情が正当であると判断したときは、当の新聞・雑誌に自発 的な訂正か反論の掲載を求める。そのような自発的解決が得られなかった場合は、プレス・オンブズマンは自らの判断と編集者の弁明とを添えて新聞評議会に 回付する。新聞評議会による裁決は全文一字の削除もなく、遅滞なく、当の新聞、雑誌が掲載しなければならない。 このようなプレス・オンブズマン制度は、その後デンマークなど数カ国で実施されている。アメリカでは全国的レベルではなく、いくつかの新聞社が個別に、 独自に置いている。とくに『ワシントン・ポスト』社の制度は徹底していることでよく知られている。 ◆紙面審議会〔1992 年版 ジャーナリズム〕 朝日新聞社は、サンゴ虚報事件の反省から、同社の新聞や雑誌の紙面について意見を述べる社外有識者による「紙面審議会」(会長・寺田治郎前最高裁長官) を設けることとし、一九八九(平成一)年一○月二三日を第一回として、以後毎月一回程度開催し始めた。審議会での討論のもようは、そのつど本紙紙面で報 告されている。 このほか同社は、「読者広報室」を新設し、読者からの意見・苦情を受ける窓口的役割とすること、各本社に「紙面委員」を置いて、紙面の事前審査に当たら せることとした。新聞への信頼度回復のための自浄努力の試みとして、成果が注目されている。 ◆新聞信頼度調査〔1992 年版 ジャーナリズム〕 日本新聞協会研究所が一九七九(昭和五四)年いらい行っている読者に対する全国調査。新聞の「正確性」 「社会性」 「日常性」 「公平性」 「反映性」 「品位性」 「信 頼性」のほか、八三年から加えられた「人権への配慮」の計八項目が問われる。 八九年四月に実施された第八回調査では、「公平性」を除いて、各項目とも調査開始いらい最低の評価を記録し、新聞が読者から信頼されなくなっているとし て話題となった。 「人権への配慮」を除く七項目の平均では、新聞を肯定的に評価する人が五五%、否定的に評価する人は一七%で、 「どちらともいえない」と する人が二七%と増えていることが特徴である。 ◆自主規制〔1992 年版 ジャーナリズム〕 (1)法令に基づく言論規制としてではなく、 (2)マス・メディア企業またはその連合体の意志、またはマス・メディア労働者個人の心理によって、 (3)情 報が受け手に与えるであろう効果を予測し、その効果を消滅もしくは減殺させる目的で、(4)その情報を破棄したり改変する行為。自主規制には「明示され た規制」と「明示されない規制」との二種類が存在する。自主規制が問題になる場合、日本の現状では「明示された規制」(「倫理綱領」など)よりも、「明示 されない規制」(マス・メディア企業自身の事前規制)のほうがはるかに日常的であり、問題も大きく、多い。この明示されない自主規制は、マス・メディア の外からの権力・財力・暴力など、なんらかの「力」に屈したことによって起きる。 ◆新聞倫理綱領〔1992 年版 ジャーナリズム〕 一九四六(昭和二一)年七月二三日、全国日刊紙の代表が集まって採択した倫理綱領。日本新聞協会の発足のきっかけとなった。新聞協会定款第五条は会員資 格の第一として「本協会制定の新聞倫理綱領を恪守することを約束せる日刊新聞社」をあげている。つまり新聞協会とは、倫理綱領維持を目的の第一とする団 体にほかならない。新聞協会には、NHKをはじめ民間放送の多くも加盟しており、新聞倫理綱領は現在、新聞・放送を通じての自主規制コードとなっている。 また、四九年四月一四日に発足した映画倫理規定管理委員会(のち五六年一二月に映倫管理委員会と改名、組織変更)も、映画における同様の考えに基づいて いる。 ◆公正の原則(fairness doctrine)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 マス・メディアの伝える情報・思想など、争点に関して提起された対立見解に異論を持つ視聴者(読者)に、そのマス・メディアを利用して反論を述べる機会 を与えること。特に放送事業において適用される。日本では、放送法第三条の二に「政治的に公平であること」「意見が対立している問題についてはできるだ け多くの角度から論点を明らかにすること」と定められている。 アメリカでは早くから「放送番組は公正でなければならない」という考えがあり、一九五九年連邦通信法(Federal Communication Act)改正で明文化され、 重大な公の争点が存在する問題について一方の意見が放送された場合には、相反する意見のためにも適当な機会を提供することが放送局に義務づけられた。だ が放送各社は、この原則は言論の自由を保障した憲法に反すると廃止を要求し続けてきた。これに対してアメリカ議会は八七年六月、公平の原則を強化した「一 九八七年放送公平法」を成立させたが、レーガン大統領が憲法違反だとして拒否権を発動したため葬り去られた。連邦通信委員会(FCC)は同年八月公正原 則規定の廃止を決めた。廃止の理由として、FCCは(1)この原則は政府に検閲権を与え、また憲法に違反する、(2)多くのテレビ・ラジオ局が活動する 今日では不必要になった、をあげている。しかし市民運動団体や議会にはこの決定に反発する空気が強く、大統領が拒否権を発動できない法律の修正条項とし て再提案する動きがある。 ◆発表ジャーナリズム〔1992 年版 ジャーナリズム〕 官庁や民間企業などのニュース・ソース側が記者クラブなどを通じて積極的に発表・提供する情報を、そのまま右から左に報道するジャーナリズム。そのよう な情報を「玄関ダネ」といい、またそのような報道をアメリカでは「ステノグラフィック・リポーティング(stenographic reporting 速記報道)」という。広 報が活発になるにつれ、情報操作に利用される危険が強まったこと、ニュースの大部分がこの発表もので占められ、独自取材が少なくなったことなど、発表ジ ャーナリズムに対する批判はかねてからあった。だが、原寿雄・共同通信前編集主幹が、とりわけ日本では「客観報道主義」がそれを支えているとして「客観 報道を問い直す」 (『新聞研究』一九八六(昭和六一)年一○月号)ことを提唱してから、改めて活発に議論されるようになり、同誌が賛否の論文を連載し、日 本新聞学会も八七年五月の研究発表会シンポジウムで論議した。 ◆センセーショナリズム(sensationalism)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 大衆の原始的本能を刺激し、好奇心に訴え、興味本位の報道をすること。 特ダネ意識‐「特ダネを抜いて同僚をアッと言わせたい」 「特ダネで同業他社をアッと言わせたい」 「特ダネで世間をアッと言わせたい」‐‐のようなジャーナ リストの心理もセンセーショナリズムと結びついている。このセンセーショナリズムは、マス・メディアの商業主義から発している。資本主義社会のマス・メ ディアは、NHKのような数少ない例外を除けば、営利企業として成り立っており、できるだけ多くの読者・視聴者を獲得することを必須条件としている。セ ンセーショナリズムは、その大衆獲得のためのきわめて有効な手段である。センセーショナリズムに報道したほうが売れるし、視聴率が上がる。つまり販売競 争がセンセーショナリズムを生むといえる。一九八九(平成一)年夏に幼女連続誘拐殺人事件を、新聞・テレビ・週刊誌が執ように取り上げ続けたのも、この ことを示している。 ◆玄関ジャーナリズム〔1992 年版 ジャーナリズム〕 テレビのワイドショーや週刊誌のリポーターといわれる人たちが、タレントの玄関でインタホンを押して声を聞いたり、事件現場の家の門前や警察署の前など からリポートを放送することをからかって作られた言葉。突っ込んだ深い取材をせず表面的な報告だけに終わっていることを批判する意味がこめられている。 ◆パック・ジャーナリズム(pack journalism)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 一九八五(昭六○)年六月一九日、豊田商事会長刺殺事件がおきた。約五○人の報道人の目の前での殺人であった。九月一一日深夜、「ロス疑惑」の中心人物 である元輸入雑貨販売会社社長が殺人未遂容疑で逮捕された。その現場へ、各新聞やテレビ、週刊誌などの取材記者、カメラマンが詰めかけた。また、日航ジ ャンボ機墜落事故で奇蹟的に助かった少女をめぐって過熱した報道が行われた。 このような日本のジャーナリズム情況を『ニューヨーク・タイムズ』が「殺人を防ぐ努力をせず、同一歩調を取り、好奇心をあおる」「パック・ジャーナリズ ム」(寄合報道・報道軍団)と指摘した。 これらの過熱報道の背景には、視聴率・販売競争の過熱、写真週刊誌の流行とテレビのワイドショー番組における「報道の芸能化」などが指摘されている。 ◆セレブ・ジャーナリズム(celeb journalism)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 有名人や芸能人の話題で売るジャーナリズム。セレブリティ・ジャーナリズム(celebrity journalism)の略。アメリカのフェミニズムを語るうえで欠かすこと ができなかった雑誌『ミズ』 (MS)が一九八八年一一月、誌面を一新してセレブ・ジャーナリズムになり、 「私たちは昔の『ミズ』ではありません」と派手な キャンペーンを展開したことから改めて話題となった。日本では女性週刊誌や写真週刊誌などがこれにあたる。なおテレビ・セレブ(TV celeb)といえば、 テレビによく登場するタレントなどのことをいう。 ◆キーホール・ジャーナリズム(keyhole journalism)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 かぎ穴からのぞくように、しつこく内情をさぐり回るジャーナリズム。アメリカの有力紙『マイアミ・ヘラルド』一九八七年五月三日付は、民主党の有力大統 領候補ゲーリー・ハート上院議員が、夫人の留守中に、若い女性と自宅で過ごしていたことを大きく報じ、ハート氏を出馬辞退に追い込んだ。このとき、記者・ カメラマン五人が三○時間にわたって同氏の自宅を張り込んだことが、このキーホール・ジャーナリズムにあたるとして、ハート氏の品行とは別に、同紙の取 材態度も論争の的となった。 ◆イエロー・ジャーナリズム(yellow journalism)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 (1)大見出し主義、(2)センセーショナリズム、(3)感情に訴える(わいせつな表現など)、(3)ニュースを自分で作る(デッチあげ)、などの傾向をも つジャーナリズム。 一九世紀末、ジョセフ・ピューリッツァーの『ニューヨーク・ワールド』紙に連載中だった「イエロー・キッド」(続き漫画の主人公である中国人の子どもの 名前。黄色のインクで印刷されていた)の書き手をウィリアム・ランドルフ・ハーストの『ニューヨーク・モーニング・ジャーナル』紙が買収して新聞に載せ たことに始まる。イエロー・ペーパーともいう。 ◆書き得(どく)報道〔1992 年版 ジャーナリズム〕 「書き得」というのは、真相がはっきりしない事件で、しかもどのように書き立てようとも、どこからも文句を言われるおそれがなく、したがって面白くセン セーショナルに書いたほうが得、という場合をいうジャーナリズム内部の用語。たとえば、一九八八年大韓航空機事件の 犯人 「真由美」の教育係だったと いう日本人女性「恩恵」についてあれこれ書き立てた報道。 ◆新聞裁判(press trial)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 裁判以前に、ジャーナリズムが被疑者を悪者扱いに裁くこと。マスコミによる裁判。 「重要参考人」も、 「被疑者」も、 「犯人」ではない。法的には、有罪確定までは無罪と推定されるのであって、ハイジャック事件とか大阪での三菱銀行北畠支 店人質事件のように、衆人監視の中で明らかに犯人だとわかった特別な場合を除けば、 「犯人」扱いするのは誤りである。しかし日本のジャーナリズムは、 「被 疑者」となったところから「犯人」扱いをする傾向がある。そして被疑者の過去、私生活、性格などをあばき、読者・視聴者の憎しみをかき立てるような報道 のしかたをする。この点で、日本のジャーナリズムが人権の擁護という点において、配慮の不足があることを指摘されている。 ◆匿名報道の原則〔1992 年版 ジャーナリズム〕 共同通信記者・浅野健一がスウェーデンの犯罪報道における人権重視について報告した(『犯罪報道の犯罪』一九八四年)ことがきっかけで起こった犯罪報道 の匿名主義。犯罪報道において実名を出すことによる人権侵害を減らすため、書かれる側の不利益を意識し、プライバシーを侵害しないように被疑者・被告の 「実名主義」をやめ、匿名を原則とすること。 北欧諸国ではすでに先例がある。スウェーデンでは七四年報道倫理綱領に匿名報道主義の原則を定め、フィンランドでも「掲載するに値する公共の利益がない 場合には伝えてはならない」ことを定めている。また、アメリカでは近年、タブロイド紙などを除いて大・中新聞の多くは、ハイジャックを含む人質事件、連 続殺人事件などの特殊な犯罪は別として、日常的な犯罪は報道しなくなっており、犯罪報道そのものが減少しているという。日本の新聞・放送は「実名報道主 義」をとっている。しかしこれはいわば慣習によってそれが原則だとされてきただけであり、実名報道の理論的根拠は、ほとんど明確にされていない。 ◆少年犯罪の実名報道〔1992 年版 ジャーナリズム〕 少年法六一条は、満一九歳以下の「少年」の犯罪の報道にあたっては、「氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知 することができるような記事又は写真を掲載してはならない」と規定している。だが、これには罰則はない。埼玉県の女子高校生が、東京の少年グループに監 禁されたうえリンチを受けて死亡し、その死体を少年たちが、ドラム罐にコンクリート詰めにして放置した事件で、『週刊文春』一九八九(平成一)年四月二 ○日号は、逮捕された少年四人を実名で報道した。実名報道した理由を、同誌編集長は「野獣に人権はない」と述べた。その賛否をめぐって議論が起きた。 日本新聞協会は五八(昭和三三)年一二月、「(1)逃走中で、放火、殺人など凶悪な累犯が明白に予想される場合、(2)指名手配中の犯人捜査に協力する場 合など、少年保護よりも社会的利益の擁護が強く優先する特殊な場合」を除き、匿名報道にする「方針」を決めている。だが六○年浅沼社会党委員長が一七歳 の少年に刺殺されたとき、翌六一年嶋中中央公論社長邸に一七歳の少年が押し入り、家人二人を殺傷したとき、七二年いわゆる連合赤軍が浅間山荘に人質と閉 じこもったときなどは、この「社会的利益が優先する場合」だとして実名報道をした社と、匿名報道に徹した社とに、大きく割れた。だがこの女子高校生事件 では、少年たちを実名で報道した新聞社は一社もなかった。 ◆契約記者/契約カメラマン〔1992 年版 ジャーナリズム〕 ある媒体と契約して、取材・報道にあたっている、正規の社員ではない記者・カメラマンのこと。拘束料として月々一定の手当が支給されるもの、出来高払い として原稿料の形で支払われるもの、その複合型など、契約の内容は一定でない。週刊誌が多数発行され、テレビのワイドショーが盛んになるなどと共に、自 社の記者・カメラマンの不足を、安い人件費で補う方法として、この契約方式が採用されるようになった。だが、写真週刊誌の契約記者やテレビの契約リポー ター・契約カメラマンの取材方法のモラルの低さがしばしば指摘されるなど、正規の社員に比べて著しく劣悪な労働条件とともに、ジャーナリスト教育の不足 が問題にされている。 ◆誤報〔1992 年版 ジャーナリズム〕 報道の時点において真実であると信じて書いたものが結果として誤りであった新聞・放送における「報道の嘘」。このほか(1) 「虚報」、 (2)事実を歪めて報 道する「歪報」なども、総体的に「誤報」の範囲に含まれる。 誤報の生じる要因は、取材競争による特ダネ・速報主義、センセーショナリズム、不確認情報の採用などがある。 最近の有名な誤報には「三億円事件の容疑者誤認」、「三井物産マニラ支店長誘拐事件」の「無事救出」の誤報騷ぎがある。 誤報には(1)犯罪事件報道における人権の問題、 (2)一部の誤報をとらえて、全体をも虚報化してしまおうとする問題、 (3)権力が政治的意識的に情報を 操作し、統制する(例えば「日航ジャンボ機墜落事件」における政府の対応などの)問題、(4)事件・出来事を伝えない「無報・不報」の問題などがある。 ◆虚報〔1992 年版 ジャーナリズム〕 全くありもしない事実を、そういうことがあったかのように伝えること。 一九八九(平成一)年は三大全国紙が相次いで虚報し、取材のありかた、社内のチェック体制などがあらためて問題とされた。 『朝日新聞』八九年四月二○日付夕刊は、一面に、沖縄・西表島の海底のサンゴが、大きく「KY」と傷つけられたカラー写真を掲げ、「サンゴを汚したK・ Yってだれだ」という見出しの記事を載せた。だが地元ダイバー組合の調査で、サンゴにはもともと傷がなく、撮影したカメラマン二人が写真の効果をねらっ て自ら傷をつけたことがわかった。朝日は傷をつけたカメラマンを退社、もう一人のカメラマンを停職処分にしたほか、東京本社編集局長、写真部長の更迭な どの処分を行い、一柳社長も、この責任を負って辞任した。 『毎日新聞』六月一日付夕刊は、一面トップ「グリコ事件犯人取り調べ」という大見出しの記事を載せ、また社会面にも関連記事を掲載した。この記事は犯人 逮捕の完全スクープのように見えたが、警察庁は記者会見してそのような事実はないと否定、虚報であったことがわかった。 『読売新聞』八月一七日付夕刊は、幼女連続誘拐殺人事件に関連して、被疑者の青年のアジトの山小屋が発見され、警察は多くの物証を押収し、殺された幼女 一人の遺体放置場所と断定した、という記事を一面トップで報じた。警察は事実を否定、同紙も翌一八日付朝刊に「おわび」を出して訂正した。 これらの虚報は、他紙や自社の同僚たちとの激しい競争の中で、なんとかスクープをしたいという意識や、そのため断片的な情報だけをもとに、よく確認しな いまま報道しようとした不正確な取材から起きている。 ◆修正報道〔1992 年版 ジャーナリズム〕 はっきりと「訂正」と明示して誤報を正すのではなく、記事の中でそれとなく過去の報道を修正するやり方のこと。 ◆記者クラブ〔1992 年版 ジャーナリズム〕 各省庁、都道府県庁、市役所、警察署、団体など、主要なニュース・ソースの記者室に置かれている取材のための機関。記者クラブの第一号は、一八九○(明 治二三)年、第一回帝国議会の新聞記者取材禁止の方針に対して『時事新報』記者が、在京各社の議会担当に呼びかけ、「議会出入記者団」を結成し、当局に 取材許可を要求した。一○月には、これに全国の新聞社が合流し、名を「共同新聞記者倶楽部」と改めたことによる。戦前の記者クラブは記者たちの連帯の拠 点ともなったが、一九四一(昭和一六)年五月、新聞統制機関「日本新聞連盟」の発足に伴い、記者クラブの数が三分の一に減らされ、クラブ協定を結ぶこと が禁止されクラブの自治が禁じられた。戦後の四九年一○月二六日、日本新聞協会は「記者クラブに関する方針」を作成して、記者クラブを「各公共機関に配 属された記者の有志が相集まり親睦社交を目的として組織するものとし取材上の問題には一切関与せぬこと」と規定した。しかし実際上は親睦社交機関ではな く、取材のための機関である。記者側では発表や記者会見など取材の便宜が受けられ、ニュース・ソース側では公表したいことを公表でき、また一括して発表 できるという便利さがある。現在、記者クラブは(1)その閉鎖性・排他性、 (2)ニュース・ソース側の広報下請け機関化の傾向、の問題が提起されている。 ◆報道協定〔1992 年版 ジャーナリズム〕 「誘拐事件のうち、報道されることによって被害者の生命に危険が及ぶおそれがあるものについて」結ぶ協定。一九六○(昭和三五)年東京で起きた「雅樹ち ゃん事件」が引き金となり、同年六月、日本新聞協会編集委員会が「誘拐報道の取り扱い方針」を定めた。この方針はその後何回も改定され、七○年、「人命 に危険のおよぶおそれのある誘拐事件、またはこれに準ずる事件(恐喝、不法監禁等で、被害者の生命に危険が予想される事件)」と改められた。 報道協定は、取材の自由・報道の自由を、ジャーナリスト自身が一時放棄することである。また、報道協定は、警察の要請によって結ばれるものではあるが、 警察側と報道側との間で締結するものではなく、取材・報道を自粛する措置として、報道側内部で結ばれるものである。したがって解除するときも報道側で一 致すれば自主的に解除できる。八四年の「グリコ・森永事件」での報道協定は、犯人逮捕失敗後も協定解除が一カ月も続いたことで、報道機関が人命尊重より も捜査協力に性格を変えた、とする問題を浮かび上がらせた。 ◆Xデー/Yデー〔1992 年版 ジャーナリズム〕 天皇死去の日をXデー、皇后死去の日をYデーという。天皇、皇后の死去をあからさまに言うことがはばかられるために、もともとはジャーナリズム内部で隠 語的に使われてきたが、一般化してきた。 在京の民放テレビ・キー局五社は、天皇の病状が悪化した一九八八(昭和六三)年九月、急いで取り決めを改定して、Xデーの場合、死去の正式発表が午後七 時以前にあったときは翌日の放送終了時まで、午後七時以降にあったときは翌々日の放送終了時まで、つまり最大五九時間にわたってCMをいっさい入れない 「特別編成」とすることを申し合わせた。しかし、八九年一月七日午前七時五五分、天皇死去が正式に発表され、「特別編成」に入ると、視聴者から「いつま で続けるのか」 「ほかの番組も放送せよ」などと苦情が相次いだため、結局、最長四四時間一八分(フジテレビ)、最短四二時間一五分(テレビ東京)で打ち切 られた。NHKも当初予定していた「三日間程度の特別編成」を二日間に縮小した。新聞も七日付夕刊、八日付朝刊(八日は日曜で、夕刊はない)を、広告を 外し、天皇報道以外の記事を極力抑えた特別紙面にした。 Yデーの場合は、死去の正式発表が午前中にあるときはその日の放送終了時まで、午後にあるときは翌日の正午までを「特別編成」とすることが、八一年一○ 月に申し合わされている。そしてこの「特別編成」から通常の番組編成に戻っても、当分演芸、歌謡番組は避けることとしている。 ◆法廷内写真取材〔1992 年版 ジャーナリズム〕 最高裁大法廷が開廷前三分間に限って写真取材を認めているなど、ごく少数の例外を除いて、日本では法廷での写真取材を禁止してきた。それが一九八七(昭 和六二)年一二月一五日からスチール・カメラ、ビデオ・カメラ各一、開廷前二分間だけ、という条件つきながら、全国の裁判所で取材が認められることにな った。 敗戦直後は法廷での写真取材はかなり自由だった。ところが四九年一月、刑事訴訟規則が施行されて、「公判廷における写真の撮影、録音又は放送は、裁判所 の許可を得なければ、これをすることができない」と定められたこと、このころから公安・労働事件で 荒れる法廷 が続出したことなどから、撮影を認める 裁判所が急速に減少した。さらに最高裁は六八年六月、「裁判所の庁舎等の管理に関する規程」を制定し、公判廷はおろか、裁判所構内すら写真取材がむずか しくなった。 八一年一○月、富山地裁が行った連続誘拐殺人事件の現場検証のさい、法廷の外でありながら、テレビ・カメラの撮影が禁止されたことから、日本新聞協会は 再三にわたって法廷での写真取材を解禁するよう最高裁に要求してきた。ようやくそれが認められたわけである。 ◆ティップ・オフ(tip off)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 民衆にとって不利益な行為が行われようとしているとき、それを内部告発的に暴露することで民衆に警告を発する行動。ティップ・オフとは、自分の勤務先や 上司に対する忠誠よりも、民衆や社会に対する忠誠を上位と考えることから生まれる。民主主義が脅かされそうになったとき、民衆や社会が不当な影響を蒙ろ うとしているとき、勤務先や企業への忠誠を捨てて、民衆や社会に奉仕しようとする行為である。日本ではこのことがまだほとんど行われない。 ◆ニュー・ジャーナリズム(new journalism)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 事件や関係者などの取材対象(特定の人物)に密着取材し、文学的表現を用いて表現されるルポルタージュの一種。 この「ニュー・ジャーナリズム」ということばは、ウォルター・リップマンも使っていたが、現在の意味とは異なる。現在の意味で使われるようになったのは、 トルーマン・カポーティの『冷血』(一九六六年)以来、トム・ウルフらアメリカのジャーナリストが主張してからである。ゲイ・タリーズやノーマン・メイ ラーの作品にその影響も見られる。 日本では朝日新聞記者による『木村王国の崩壊』が、その手法を取り入れたものである。 ◆取材源の秘密〔1992 年版 ジャーナリズム〕 「ニュース源の秘匿」ともいう。情報やニュースの出所・提供者名を、本人の承諾なしに外部に漏らさないこと。ジャーナリストや報道機関が守るべき基本的 な倫理(モラル)の一つ。報道・論評の自由を果たすためには、自由にニュース・ソースに接近し、取材できなければならない。そしてそのためには、取材源 が安心して情報を提供できる必要がある。取材源が外部にすぐ漏れるようでは、取材源は、安心して情報を提供することはできない。ウォーターゲート事件を 追及した『ワシントン・ポスト』の二人の記者には、政権内部でティップ・オフしてくれた重要な情報源があったが、それは「ディープ・スロート」という匿 名のままで、未だに氏名は公表されていない。 日本では、取材源の秘匿は法的に規定されてはいないが、一九七九(昭和五四)年、札幌地裁、同高裁で、八○年に最高裁で、記者が取材源を明らかにしない 「証言拒否権」が、民事上、保護されるべき「職業上の秘密」として認知された。 しかし八七年五月、北京駐在の共同通信特派員は、中国の機密文書を入手して報道したことで、中国政府から入手経路を明らかにするように求められたのを拒 否し、中国から退去させられた。 ◆オフ・ザ・レコード(off the record)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 略して「オフレコ」ともいう。ニュース・ソース側がメモをとらないこと、状況の理解を深めてもらいたいために、しかし外部に公表されてはつごうが悪いの で、報道しないことを条件にして行う情報提供。記者会見やブリーフィングなどのときによく行われる。いったんオフレコの約束をした以上は、それを守るべ きだが、乱用されると、報道規制、あるいは逆に情報操作に使われるおそれがある。 ◆ブリーフィング(briefing)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 ニュース・ソース側がジャーナリストに対して行う状況説明。もともとはアメリカ軍の「戦況要約」のことで、それからアメリカ軍報道官が従軍記者にする戦 況説明のことになり、さらに一般化して使われるようになった。レクチャー(lecture)ともいう。一九八七年六月四日、トウ小平中国共産党中央顧問委主任が 厳しい日本批判をしたことに対し、同日、柳谷外務事務次官が記者団に「トウ氏は雲の上の人」と反発して発言し、日中間をさらに悪化させた。この結果、柳 谷次官は一八日辞意を表明した。これも「懇談」という名の一種のブリーフィングの席上行われたもので、ニュース・ソースを秘匿することが条件となってお り、そのため各社は「外務省首脳」「外務省高官」として報じ、氏名・職名を伏せた。 ◆プレス・リマークス(press remarks)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 記者団に対し、手短にコメントすること、またその文書。記者会見(press conference)と違って、通常は質問を許さない。 ◆パブリシティ(publicity)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 広い意味では広告を含めた宣伝のことをいうが、狭い意味では、広告としてではなく、企業が宣伝的な情報をジャーナリズムに提供し、一般的な記事の形で紙 面や番組に報道してもらうこと。広告が広告費と交換で載るのに対し、パブリシティは無料で載るところに違いがある。それだけに内容にニュース性が要求さ れることになる。 ◆インフォマーシャル(informercial)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 情報(information)とコマーシャル・メッセージ(CM 新聞、放送、雑誌に多く見られるようになってきている。 ◆スクープ(scoop)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 commercial message)とを合成した新語。企業の宣伝を含んだ情報。「生活情報」の名のもとに、 (1)ニュース・ソース側(大部分は、政治権力や資本など)が隠したり歪めたりしている「事実」の正確な貌をあばきだすこと。(2)ニュース・ソース側 が、いずれ発表しようとしている事柄を、何日か早く入手して出すこと。(3)公知の事実であって、みんなが重視していない事柄に新しい問題性を見つけ、 照明をあて直すことにより、その事実の持つ意味を新たに明らかにしてみせること。一般的には特ダネ・出し抜くこと、を意味する。 ◆キャンペーン(campaign, press campaign)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 ある特定の世論を喚起させるために新聞の紙面やマス・メディアを一定期間動員することによって、継続的集中的に行う言論・報道活動。 キャンペーンは、もともと「平原」を意味し、そこで繰り広げられる「戦闘」が転化し、「一定の場における行動、特別の目的をもった組織的活動」の意味を 有するようになった。 一八九○年代の『万朝報』 (黒岩涙香)が行った行動は、その典型であるが、一九○一(明治三四)年から『毎日新聞』 (島田三郎・現在の『毎日』とは異なる) が行った「足尾鉱毒反対キャンペーン」は現在の環境問題のキャンペーンの原点をなすものである。最近では東京放送のベビー・ホテルのひどさをあばいたキ ャンペーン〔一九八一(昭和五六)年度日本新聞協会賞〕、 『河北新報』のスパイクタイヤ追放キャンペーン〔八三(昭和五八)年度日本新聞協会賞受賞〕など が代表的。 ◆降版協定〔1992 年版 ジャーナリズム〕 新聞の紙型取りの時刻を定めそれ以降のニュースは翌日回しとする各新聞社間の協定。時刻は地域によって異なる。 ▲ジャーナリズムの類型〔1992 年版 ジャーナリズム〕 NHK放送文化研究所が五年おきに行っている「国民生活時間調査」の一九九○年調査によると、テレビを見ている人は九三・一%、見ている時間は三時間二 三分に達する。 しかし新聞を読んでいる人は四四・八%に過ぎず、半分以上の五五・二%は新聞を全く読まずに暮らしているのだ。日本の新聞の普及率は、世界トップ・クラ スだが、しかしこのことは、新聞は取られてはいるけれども、決して読まれてはいないことを示している。 またラジオは、一八・三%、二時間一八分と過去最低を記録し、また聞いている人の年齢が高齢化してきていることを示した。 このように「マスコミの時代」とはいっても、実際は「テレビの時代」といったほうがふさわしい。 ◆クオリティー・ペーパー(quality paper)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 高級紙。教養ある知的な読者、エリート階級を対象とする新聞。センセーショナリズムを排し、重要な事項についての詳細な記録、高度な論評を内容とする。 特にヨーロッパでは、高級紙と大衆紙(popular paper)とが、厳然と分かれている。イギリスの『ザ・タイムズ』、フランスの『ル・モンド』などが代表的。 日本では自称しているものはあるが、実質的に高級紙にあたるものはない。 ◆フリー・ペーパー(free paper)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 無料紙。広告収入だけで製作され、読者に無料で配布される新聞。日本では、一九六○年代の初め、団地向けに始まり、七○年代に入ってサンケイ新聞社が『サ ンケイリビング』を発行したのをきっかけに、各新聞社がきそって発行するようになった。配布地域を細分化して限定しているため、本紙には向かない地域の 小規模広告主を吸収でき、広告収入を上げられることが新聞社にとってはメリットであり、読者にとっては地域の広告を見ることができ、また付随して生活情 報が掲載されているのが役に立つというメリットがある。 ◆タブロイド判(tabloid paper)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 ふつうの新聞の大きさをブランケット判(blanket sheet)というが、その半分の大きさの新聞。特にサイズの規定があるわけではない。一九一九年、アメリカ のシカゴ・トリビューンが『イラストレイテッド・デイリー・ニュース』をタブロイド判で出したのが始まりといわれる。一般紙が扱う記事は要約し、代わり にセンセーショナルな記事・写真を満載しているのが特徴。日本では一九六九(昭和四四)年、サンケイ新聞社が『夕刊フジ』を創刊して以来、『日刊ゲンダ イ』など大都市圏の夕刊紙にこのタブロイド判で発行されるものが出てきた。 ◆国際衛星版〔1992 年版 ジャーナリズム〕 『読売新聞』は一九七七(昭和五二)年から東京本社の紙面の清刷りをニューヨークに空輸して、そこで印刷・発行し、在住日本人の家庭に戸別配達もしてき た。しかし空輸のため、どうしてもニュースが遅くなった。これに対し『朝日新聞』は八六年一月から東京本社で編集した紙面をインド洋衛星を経由してロン ドンへ送り、そこで印刷・発行を始め、欧州、中東、アフリカ各国に空輸して発売し始めた。さらに一○月からはこの紙面を大西洋衛星でニューヨークへも送 り、同様に印刷・発行し始めた。このため『読売』も対抗上一一月から衛星利用に切り替え、またロサンゼルスでも発行することにした。『朝日』の国際衛星 版は、八七年からニューヨーク印刷のものを中南米一三カ国に空輸、ロサンゼルスでも印刷・発行、八八年にはそのロサンゼルス印刷のものをハワイに空輸な ど、次々と範囲を拡大した。『日経』も八七年からロサンゼルスとニューヨークで、同じように国際衛星版の印刷・発行を始めた。海外で読まれている日本の 新聞の総数は、八五年現在五万部強にすぎず(日本新聞協会調べ)、国際衛星版を発行してもこれが大きく変わるとは考えられない。国際衛星版発行の流行は、 コストを度外視した大手全国紙のプレステージ維持のためと見られている。 ◆分散印刷〔1992 年版 ジャーナリズム〕 新聞社が本社で印刷・発行するだけでなく、各地で地元新聞社と提携し、あるいは自ら印刷工場を設置して印刷・発行すること。これまでも大手全国紙は青森、 福島などで現地印刷を行い、とくに日経は一九八三(昭和五八)年以来、地元紙ないし地元紙関連印刷会社に委託して、全国一九カ所で印刷・発行するように なっていた。 ところが朝日新聞が八七年三月二四日付朝刊から首都圏向けに二八ページ体制を取ることになり、それにつれてほかの全国紙も増ページに踏み切った。このた め印刷設備を増強する必要が生じ、各社とも神奈川・埼玉県下に一斉に印刷工場を新設した。それ以後、関西・中国・四国地区にも建設が進み、九○年は九州 地区が分散印刷工場設置の焦点となっている。つまり、こんどの印刷分散ブームは、広告収入を増やすための増ページと、カラー化のために新輪転機導入の必 要から始まった点に特徴がある。しかしこれが新聞社の過大な設備投資となり、経営不安を生むのではないか、と危ぶむ見方もある。 ◆新聞博物館〔1992 年版 ジャーナリズム〕 日本新聞協会のNIE(教育に新聞を)計画の一環として、設立が計画されている新聞専門の博物館。 CTS(コンピュータ利用の印刷)の進展にともなって、新聞社の印刷工場からは在来の活字を使った工程が姿を消しつつあり、そのため日本の新聞発生いら いの機材、重要紙面などを保存して総合的新聞博物館を作り、公開しようというもの。熊本日日新聞社は一九八七(昭和六二)年一一月、独自に新聞博物館を オープンしているが、業界あげて建設するのは、世界でも例がない。設立の場所としては、日本の日刊新聞発祥の地・横浜市が考えられているが、具体的な場 所、時期などは決まっていない。 ◆フォト・ジャーナリズム(Photo‐journalism)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 対象となる事実・時事的な問題を、写真技術を用いて表現し報道するもの。 写真技術の発達により、それまで新聞に描かれていた「絵」が写真に替わることで、よりリアリスティックに表現できるようになった。一九二○年代、ドイツ で『ミュンヒナー・イルストリールテ・プレッセ』『ベルリナー・イルストリールテ・ツァイトゥンク』のフォトジャーナリズム雑誌が創刊されたのをはじめ として、アメリカでは三六年『ライフ』が創刊され、その六週間後『ルック』が創刊された。日本では一九二三(大正一二)年『アサヒグラフ』が創刊された。 ◆写真週刊誌〔1992 年版 ジャーナリズム〕 一九八一(昭和五六)年一○月二三日に創刊された『フォーカス』(新潮社)をはじめとする、セックスや犯罪、プライバシーなどののぞき写真で構成される スキャンダリズム雑誌。はじめのころは有名なカメラマンの写真も多く載せたが、のぞき写真がほとんどになってしまった。その後、八四年一一月『フライデ ー』 (講談社)の創刊により「FF現象」という言葉が生まれ、さらに『エンマ』 (文芸春秋社)、 『タッチ』 (小学館)、 『フラッシュ』 (光文社)が創刊され、五 誌の頭文字をとって「三FET」といわれる時代を迎えた。 写真週刊誌をめぐる人権侵害の問題は増加しており、対外的には撮られる側の人権を無視した行為の問題、内部的にはカメラマンの撮影した写真に、カメラマ ンではない者が作為的にキャプション(解説文)をつける(写真の意味が変わってしまう)など興味本位のあり方に対する批判が高まっている。特に、八六年 に起きた「たけし事件」はその氷山の一角である。 この事件以後、写真週刊誌へ批判が高まって売行きが落ち、八七年五月には『エンマ』が、八九年三月には『タッチ』がそれぞれ廃刊し、「三F」時代になっ た。 ◆通信社(news agency)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 (1)ニュースまたはフィーチャーを収集し、 (2)それを顧客に配信する組織。通信社の活動には、 (1)外国の通信社から、ニュースを購入すること(incoming) と、(2)自社が収集したニュースを外国の通信社に売却すること(outgoing)との二つがある。 世界各国には数百におよぶ通信社がある。ユネスコは、通信社を、 (1)ニュース収集領域が全世界的規模に広がるものを世界的(ワールド)通信社、 (2)収 集領域が一国内に止まるものを国家的(ナショナル)通信社、 (3)ニュースの内容が特定の部門に限られるものを専門(スペシャライズド)通信社と分類し、 世界的通信社としてAP、UPI(以上アメリカ)、ロイター(イギリス)、AFP(フランス)、タス(ソ連)の五社をあげている。 日本では第二次大戦中の国策通信社である同盟通信社が敗戦によって一九四五(昭和二○)年一○月末自発的に解散し、社団法人・共同通信社と株式会社・時 事通信社とが誕生し、全国の新聞社・放送局、海外の新聞・通信社・放送局に配・送信している。このほか日本には、数多くの専門通信社がある。 ◆編集プロダクション〔1992 年版 ジャーナリズム〕 雑誌・書籍の編集作業を請け負うグループ。個人営業から、二、三○人の社員を抱える会社まで、規模はさまざま。正確な数も不明で、五○○社とも一○○○ 社ともいわれる。一九六○年代後半からの全集・百科事典ブームで生み出された。全集・事典の編集には多くの人手を要するが、発行を終えればその人数は不 要となる。そのため出版社は、編集を外部に発注するようになり、プロダクションが生まれた。現在は、出版社が立てた企画にのっとって編集作業をする場合 と、プロダクションが企画を立てて、出版社に持ち込む場合とがある。新刊書の三割から四割はプロダクションが作っていると言われる状況にある。 ◆国際標準図書番号(ISBN)(International Standard Book Number)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 図書・資料の流通・管理に適用される国際的に通じる固有番号。国籍、出版社などのコードを持ち、日本では分類コードと価格コードを加え、「日本図書コー ド」としている。 「日本図書コード」は一九八○(昭和五五)年二月に出版四団体(書協・雑協・取協・日書連)と日本図書館協会・国会図書館が管理委員会を発足させ推進し てきた。出版業界にとってこの「日本図書コード」は、出版流通の円滑化を目的としたものだが、国会図書館は出版情報の一元的管理を目的としてきた。この コード化の推進に対して(1)コンピュータ導入が難しい中小出版社や中小書店の利点はなく、 (2)読者・市民のためのものではないこと、 (3)出版四団体 に出版業界すべてを代表させている点、(4)非商業出版物(労組やサークルのパンフ・小冊子など)までコードをつけるということが出版業界・図書館界だ けの論議で推進されているなどの問題が提起された。 ●最新キーワード〔1992 年版 ジャーナリズム〕 ●報道素材の押収〔1992 年版 ジャーナリズム〕 警察、検察などの捜査当局あるいは裁判所などが、捜査または公判の証拠として、写真、フィルム、ビデオテープ、メモなどを差押令状によって押収すること。 TBS系テレビが一九九○(平成二)年三月二○日に放映した「ギミア・ぶれいく」で、暴力団が暴行を働いて借金返済を迫る場面があり、警視庁は五月一六 日、未放映の部分を含むビデオテープを押収した。TBSは同二一日、押収処分の取り消しを求める準抗告を申し立てた。が、最高裁第二小法廷は七月九日、 これを棄却する決定を下した。 六八年一月に起きた博多駅事件で、福岡地裁は福岡県警機動隊員らによる学生たちへの凌辱、職権乱用の証拠として、テレビ四社にテレビ・フィルムの提出を 求める命令を発した。これに対し四社は、「取材目的以外にフィルムが使われることは、報道・取材の自由を損ねる」として抗告を申し立てたが、最高裁は六 九年一一月、 「取材の自由」と「公正な裁判」とを比較衡量して、証拠として極めて重要な価値を持つ場合は、押収のほうが勝る、という決定を下した。以後、 これが判例となっている。 最近では、八八年、リクルート事件についての国会質問を和らげてもらおうと、リクルートコスモス社の社長室長が、野党の衆院議員に贈賄しようとした現場 を、日本テレビが隠し撮りしたビデオテープを東京地検が証拠として押収したことについて、最高裁は八九年一月、全く同様の決定を下した。 [株式会社自由国民社 現代用語の基礎知識 1991∼2000 年版] ●プレスの内部的自由(Innere Pressefreiheit 独)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 マス・メディアで働く労働者たちの、そのマス・メディアに対するアクセス権。ジャーナリストが雇用主に対して、妨げられることなく、良心に基づいて行動 し、書き、話す自由。ドイツでは一九六八年以来「プレス基本法」を設けて、その中にプレスの内部的自由を盛り込もうとしてきたが、経営者側の抵抗にあっ て成案を得られないでいる。しかし、七六年ハンブルクの『ハンブルガー・モルゲンポスト』紙とボンの『フォアヴェルツ』紙は労組と協約を締結し、編集長 や編集管理職の任命、記者・カメラマンの雇用・配転・解雇については、編集局員の間から選ばれた編集委員会と協議したうえで決定しなければならないこと とした。この編集委員会には全従業員の代表組織である経営協議会からも代表の参加が認められているので、ジャーナリスト以外の従業員も含めて、編集方針 にかかわる人事についての共同決定権を得た。また放送でも、ノルトライン・ウェストファーレン州が八五年「西ドイツ放送協会法」を定めて、編集者代表が 番組に関する問題を協会側と協議する権利を認めた。 日本では、七七(昭和五二)年に新会社となった『毎日新聞』の「編集綱領」に、外に対してばかりでなく、内に対しても「開かれた新聞」の方針をとったが、 この綱領が十分に生かされているとは言い難い。八八年九月に昭和天皇の容体が悪化して以後、新聞労連、民放労連、出版労連や、傘下の各労組は、経営者側 に過剰報道にならないこと、Xデーには「崩御」を使わないこと、アナウンサーやキャスターに喪服・喪章を強制しないことなどを申し入れた。しかし多くの 社でこの申し入れは認められなかった。このためプレスの内部的自由を確立する必要性があらためて認識されはじめている。 ●メディア選挙〔1992 年版 ジャーナリズム〕 マス・メディアに取り上げられるようなスローガンやキャンペーンを繰り広げることによって、間接的に有権者に働きかける選挙方法。候補者が直接有権者に 働きかけるのではなく、まずマス・メディアを対象とした選挙戦略であることに特色がある。アメリカでは、徹底した世論調査とコンピュータ・シミュレーシ ョンによって綿密な作戦計画を立て、それに基づいてメディアのプロを動員したメディア選挙が行われている。中心となるのは、 (1)テレビ討論、 (2)全国 党大会のテレビ中継、(3)テレビ・コマーシャルで、そのためテレビ選挙ともいわれる。 日本では一九九○(平成二)年二月の総選挙で、(1)五党党首討論会のテレビ中継、(2)各党のテレビ・コマーシャル、(3)テレビによる開票速報競争が 行われたため、メディア選挙元年といわれるが、まだアメリカほどには至っていない。 ●インベスティゲイティブ・レポーティング(Investigative Reporting)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 調査報道。警察にたよらず、ジャーナリズムが意識的主体的に、政治の腐敗、税金の浪費、組織化された犯罪を対象とし、また権力が国民に隠そうとする問題 を独自取材・調査し、あばくこと。このインベスティゲイティブ・レポーティングは、『ワシントン・ポスト』によるウォーターゲート事件が代表的だが、こ の調査の範囲を、われわれの日常生活に影響の大きい銀行、企業、工場などの内部の腐敗も対象にすべきだという批判もある。つまり本来、調査報道の対象と なるのは公的な問題であって、日本における「ロス疑惑」報道のようなものは「調査報道」とはいえない。しかし一九八八(昭和六三)年、神奈川県警が途中 で捜査を放棄した川崎市助役に対するリクルートコスモス社からの贈賄事件を、朝日新聞横浜・川崎両支局が独自に取材を続け、ついに政界・官界にわたる「リ クルート疑惑」をあばき出したことは、最近特筆すべき調査報道だった。 ●アナウンス効果(announcement effect)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 アナウンスメント効果ともいう。候補者や政党が現在置かれている状況についての情勢報道が、有権者の投票意図や投票行動に、なんらかの変化をもたらすこ と。たとえば、選挙の予測報道で、優勢と報じられた候補者にさらに票が集まる「勝ち馬効果」や、逆に苦戦と伝えられた候補者に判官びいきで票が集まる「負 け犬効果」などが考えられている。しかし、アナウンス効果は存在しないとする説もあり、学者の見解は必ずしも一致していない。 むしろ、一九九○(平成二)年二月の総選挙では、各報道機関の事前予測調査の結果を手に入れた政党が、弱いとされた候補者に強力なテコ入れを図るなど、 有権者に直接影響を与えるよりも、まず政党に影響を与え、その結果有権者の投票行動を変化させるという、間接的なアナウンス効果を作り出した、とする見 方がある。 ●被疑者の呼び捨て廃止〔1992 年版 ジャーナリズム〕 毎日新聞社は一九八九(平成一)年一一月一日付から同社の発行するすべての新聞・出版物で、犯罪報道のときそれまで呼び捨てにしてきた被疑者の氏名の後 ろに、 「容疑者」の呼称をつけることにした。 (1)逮捕された段階では呼び捨てなのに、起訴され、裁判の段階になると「被告」の呼称をつけてきたのには矛 盾がある、(2)法的には、有罪判決確定までは無罪と推定される、などの理由による。 続いてTBS系列が一一月二七日から「容疑者」呼称に移り、さらに一二月一日からは残りのほとんどすべての新聞社、通信社、放送局が同様の措置をとるこ とになった。なおNHK、フジテレビ系列は、すでに八四年四月からこの措置をとってきた。 被疑者の呼び捨て廃止は、書かれる立場の人権を守るうえでは一歩の前進かもしれないが、取材・報道による人権侵害に対する基本的な防護措置とはいえない。 ●言論に対する襲撃・暴力〔1992 年版 ジャーナリズム〕 一九八七(昭和六二)年五月三日夜八時一五分頃、兵庫県西宮市にある朝日新聞社阪神支局二階の編集室で何者かによって記者が撃たれた。うち一人は死亡、 一人は重傷を負った。九月には同名古屋本社社員寮を襲い(死傷ゼロ)、東京本社でも側壁から銃弾が発見された。八八年三月には、静岡支局の駐車場に時限 発火装置のついた爆弾が発見された。これらの事件直後にはいずれも「赤報隊」名の犯行声明が共同・時事両通信あてに送られてきており、 「反日分子を処刑」 「五○年前にもどれ」という内容である。また、市議会で「天皇に戦争責任はある」と発言した本島等・長崎市長が、九○年一月一八日、右翼にピストルで撃 たれて重傷、さらに政教分離の立場から、他のキリスト教系三大学長とともに大嘗祭を批判した弓削達・フェリス女学院大学長の自宅に、四月二二日銃弾が撃 ち込まれる事件も起きた。また九一年二月二八日夜から三月一日朝にかけて長崎新聞社と長崎地裁に短銃弾が撃ち込まれた。本島長崎市長狙撃事件の被告が所 属する右翼団体が長崎新聞社に広告掲載を求めた訴訟で、長崎地裁が二月二五日棄却の判決を言い渡したためと見られている。 ジャーナリズムないしジャーナリストへの偶発的でない襲撃は、一九一八(大正七)年「白虹貫日事件」で村山龍平・朝日新聞社長が右翼に暴行を受けたのが 始まりとされる。皇室を題材にした小説の掲載を理由に、六一年二月一日、嶋中鵬二・中央公論社長邸が右翼の少年に襲われ、家人二人が殺傷された。また六 ○年四月二日、『毎日新聞』が暴力団に対するキャンペーンで松葉会会員二三人によって東京本社を襲撃され、輪転機に砂をまかれた事件などがある。このよ うな言論に対する襲撃にジャーナリズムの対処として(1)侵害された側が、自由に対する侵害があった事実を、できるだけ素早く、多くの人に伝えること、 (2) 「言論の自由」の原則(言論に対して言論で応答するという原則)において屈しないこと、 (3)相手に隙を与えないこと、報道にいささかもキズを作ら ぬ細心の注意が求められよう。 ●死者の人格権〔1992 年版 ジャーナリズム〕 一九八七(昭和六二)年一月に死亡した女性エイズ患者の遺影を掲載して、「主に外国人船員相手の売春バーに勤めた」(『フォーカス』八七年一月三○日号、 新潮社発行)、 「不特定の男性相手に売春」 (『フラッシュ』八七年二月一○日号、光文社発行)と報じた両誌の取材記者と両社を相手に、女性の両親が損害賠償 を求めた裁判で、大阪地裁は八九年一二月二七日、両社がそれぞれ慰謝料を支払うことを命ずる判決を下した。 これまでの判例は、「人格権は、死亡により消滅する」というもの。この判決もその判例を踏襲したものの、記事の売春に触れた部分は「虚偽」と断定したう えで、「亡き娘に対する敬愛追慕の情という両親の人格権を著しく侵害した」として、遺族の人格権侵害という形で、間接的に死者の人格権の保護を認めた初 の判断を示した。 ●クーポン付き広告〔1992 年版 ジャーナリズム〕 広告の一部が切り取り切符(クーポン)になっており、これを切り取って、広告主へ持参したり送付したりすると、商品の価格が割引きされたり商品見本をも らえたりする広告。アメリカでは広く実施されている。 日本では『サンケイリビング』が先鞭をつけたが、公正取引委員会が、クーポン付き広告を新聞や雑誌の販売拡張に利用してはならないとしているところから、 一般紙はこれまで自粛してきた。しかし最近、新聞広告がテレビに押されたり、他の広告媒体が伸びてきたために、印刷媒体にしかできないクーポン広告を解 禁すべきだという声が高まった。新聞各社の販売局長クラスで構成する新聞公正取引協議委員会は一九九○(平成二)年一○月一日から新聞本紙上でのクーポ ン広告掲載解禁に踏みきった。 これによると、商品またはサービスを最高五○%まで割引きする「割引券」、三○○円程度の見本を請求できる「見本等請求券」、商品などの資料を請求できる 「資料請求券」の三種を認め、ただしこれが新聞の販売拡張に利用されるのを防ぐため、広告が掲載された新聞を必要以上に印刷・配布してはならず、違反し た場合は、違約金を支払うこと、としている。また九一年四月一日からは折り込み広告にもクーポン広告掲載を認めた。しかし、クーポン付き広告は、読者の クーポン利用の度合いによって、どの新聞が広告効果が大きいかが広告主にすぐわかるため、効果の大きい新聞に広告が集中する結果を招くのではないか、と いう懸念や、クーポン付き広告を利用しやすい業種はスーパーぐらいで、必ずしも広告収入の拡大にならないのではないか、という不安などが新聞業界内には ある。 ●NIE(newspaper in education)〔1992 年版 ジャーナリズム〕 「教育に新聞を」の略で、小学校から大学までの教育に新聞を教材として使うための、新聞社と学校との共同活動。半世紀前からアメリカで始まり、現在米国 新聞発行者協会加盟の日刊紙約一五○○社のうち約六○○社がNIE計画を実施、各社がそれぞれ数人のスタッフを置いて学校との打ち合わせ、カリキュラム の作成などにあたっている。学校での読み書き、社会科教育に使われる新聞は約三○○万部、定価の半額で提供される。日本でも、若い世代の活字離れに対応 するため、日本新聞協会が一九八七(昭和六二)年一○月、NIE担当理事を置き、NIE委員会を設置することを決め、ともに八八年二月スタートした。さ しあたって教師用手引き書やパイロットプランの作成にあたる。小中高校の現場教師たちも「NIE研究会」を作って、新聞を利用した授業例の研究などをし ている。
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