F9−01 教育相談 定期教育相談を効果的に行うための学級担任への支援の在り方に関する一考察 倉敷市立大高小学校 教諭 千 賀 敦 司 研究の概要 本研究では,教師も児童も定期教育相談日を楽しみにし,有意義に過ごすことができるようにするために,主 に学年会を活用して学級担任を支援してきた。その結果,学級担任は,心にゆとりと自信を持って相談日に臨む ことができ,以前よりも温かい態度や気持ちで児童に接することができていると自覚できるようになった。児童 も,今までの相談日より話がしやすいと感じるようになってきた。 キーワード 定期教育相談,相談日,教師支援,学年会 Ⅰ はじめに その結果,教師も児童も,相談日は効果があると 本校では,原則として毎月第2週を「定期教育相談 とらえていることが分かった。しかし,教師にも児 日(以下「相談日」という 。) 」として,一週間を充 童にも不満や不安があるということも分かった。児 てている。しかし,自分自身の取り組みを振り返って 童の側には,図1のグラフに見られるように, みると,児童の思いを十分受け止められず,自分では 「『悩みがあれば何でも言いなさい』と言われても 納得できない相談の方が多かったが,そのことを職員 特に話すことがなくて困った 」 「放課後残るのは面 会議や学年会などの場で打ち明けることはなく,一人 倒くさかった」という意見が多いことが分かった。 で抱え込んでいた。しかし,日ごろ親しくしている同 また,教師の場合 , 「相談日をどのように進めて 僚とは情報交換をすることがあり,お互いに同じ悩み いくか困っている 」「児童の悩みをうまく聞くこと を持っていることが分かった。また,相談日の進め方 ができていない 」「忙しい時間の中で余裕を持って などについてアドバイスしてもらい,そのことを参考 接していない」という意見が多数を占めていること にしながら相談を実施してうまくいくこともあった。 が分かった。 そこで,学級担任一人で悩んでいるよりは,同僚教 図2の「支援の流れ」の中の目指す相談場面に示 師に支援してもらうことにより,相談日の見通しが持 すように,児童が「話を聞いてほしい 」「聞いても ちやすくなり,ゆとりができ,結果的にそのことが相 らってよかった 」「楽しかった」と感じるような, 談を効果的に実施することにつながると考えて,学年 有意義な相談日にするためには,調査結果から浮か 会の活用を中心とした同僚教師への支援の在り方を探 び上がってきた教師側の相談日に対する悩みや不安 ることにした。 を取り除き,ゆとりと自信を持って臨むことが必要 であると感じた。また,教師がゆとりと自信を持っ Ⅱ 研究の目的 て相談に臨めるようになることが,同時に児童の不 学級担任や児童にとって有意義な相談日になるよう に,支援者として学年会を活用した支援の在り方を探 る。 満や不安を解決することにもなると考えた。 (人 ) 140 120 100 Ⅲ 1 研究の内容 80 アンケート結果と研究の基本的な考え方 60 40 (1) アンケート結果から 20 本研究を進めるに当たって,まず,教師や児童た ちが定期教育相談日をどのようにとらえているのか 0 特に話すこ とがなかっ た けっこう よかった と て も 楽 し 面倒くさ かった かった もう少し話 を聞いてほ しかった その他 無回答 実態調査を行った。調査対象は,本校の教師34名と, 5,6年生児童355名とした。 図1 - 105 - 相談日に対する児童の意識(4月) (2) 研究の基本的な考え方 ことにより,相談日に取り組む内容について見通し そこで,本研究では,学級担任が心にゆとりと自 を持つことができることを目指す。 信を持って相談日に臨めるように,次のような考え 方に立って支援を行う。 そのために,次の点に留意して進める。 ① 事前の学年会 まず,相談日の持ち方や進め方について見通しを その月の相談日の計画について情報交換し,その 持つ必要があると考えた。そのために,今回支援対 計画を見直したり確認したりする。また,情報交換 象となるA教諭とB教諭が所属する5年団の学年会 の際に出てきた悩みや問題点は,学年団全員が自分 を活用して,相談日の計画を立てたり,反省をした のこととしてとらえ,一緒に考えたりアドバイスを りする。それは,学年会を構成するメンバーの相談 したりできるように,協力者であるA教諭,B教諭 日に対する思いや様々な体験や経験を,学年会の場 を中心にしたロールプレイングや事例検討会を行う。 で数多く引き出し,A,B両教諭の参考になるよう ② 事後の学年会 にまとめることができれば,相談日に対してゆとり その月の相談日の反省会をする。A教諭,B教諭 や自信を持つことができると考えるからである。 を中心に,困ったことなどの具体的な事例を出して 次に,相談日に人間関係づくりを促進する活動に もらい,全員で話し合う。それをもとに,次回の相 取り組むことを考えた。教師と児童の人間関係がよ 談日の大まかな計画を立てる。 り深いものになれば,児童も話がしやすくなると考 時間を有効に使うために,学年会では,支援者が えるからである。また , 「相談日には児童の悩みを 聞き出さないといけない」という思いから , 「相談 司会進行の役を受け持つことにする。 (2) 相談日における人間関係づくりを促進するための 日がいつか話してくれるきっかけになればよい。そ 支援について のために,関係づくりをする時間であってもよい」 人間関係づくりの促進のための支援として,学級 というように考えられるようになると,楽な気持ち 内の人間関係を深めるために,体を動かしたり友達 で取り組めると考えるからである。 と力を合わせて活動したりするような,構成的グル それらの支援を行う場合,支援される相手の立場 ープエンカウンターのエクササイズを紹介する。 その際,楽しく過ごすだけのゲームとして終わる 方を参考にして進めていくことが有効であると考え のではなく,自己や他者の理解や信頼体験の促進の る。本研究ではその中で特に次の3点に留意しなが ために必ずシェアリング(振り返り)をするように ら学級担任を支援していく。 支援していく。さらに,A,B両教諭に体験しても ① や専門性を尊重する「コンサルテーション」の考え 学級担任が相談日に関して現在悩んでいる問題に らえるように,学年会でプレ実践をする計画を立て 焦点を当てる。 ② 目指す相談場面 学級担任が持っている力量や経験,思い,また, 本来の持ち味を尊重する。 温かい人間関係 「ぬ くもり」 教 師 ③ 学級担任が置かれている状況や立場を尊重する。 ○ 話が聞けてよか った 。 2 支援の方針と具体例 ○この子のことが よく分かってよか った。 ○今月の相談日は うまくいったなあ。 図2の支援の流れに示すように,定期教育相談の 実施の事前と事後に学年会を開き,相談日の持ち方 たりして,協議内容を相談日に生かせるようにする。 具体的には次のようなことを行う。 次回の相談日 の計画 繰 り 返 し ことに耳を傾けたり,参考になったかどうか確認し 安心感 学 年 会 ・反省,感想 ・ ・事例検討会 ・ロールプレイング 事後アンケート 定期教育相談の実施 事前アンケート 学 年 会 学 年 会 (1) 主に学年会を活用した支援について 信頼感 心にゆとり・自 信 また,学年会の後,学級担任と話し合う場を設け, 学年会では言えなかったことや,納得できていない 何でも言える雰囲気 見通し ・ 悩みの共有 ・悩みの共有 ・内容や進展状 ・内容や進捗状 況の情報交換 況の情報交換 ・ロールプレイ ・ロールプレイング 人間関係づくり ○話を聞いてほし いなあ。 ○話を聞いてもら っ て よ か っ た 。 ○楽 し か っ た 。 支 援 者 と し て の 態 度 ・心 構 え や進め方について協議する。 カウンセリングマインド 児 童 学年会では,相談日の持ち方や進め方について, 計画を立てたり,反省をしたりすることを繰り返す - 106 - 図2 支援の流れ ○笑顔で受容・共感的 に接し,肯定的に受 け止める ○学級担任の願いや 思いに気付き, 認 める。 ○分かりやすい話し 合いにする。 ○学級担任の気持ち や立場を尊重する。 る。また,担任や児童の思いや実態に即したものを 紹介し,負担にならないように配慮する。 (3) 支援者としての態度・心構えについて 二人の学級担任や学年団の先生方と,明るく穏や かに話し合いができるように,以下のことを心掛け て実践を進めていく。 ① 先生方が話しやすいように,笑顔で接し,先生方 の話を肯定的に受け止める。 ② 会話の中に含まれている先生方の願いや思いに気 付き,認める。 ③ 話がなるべく具体的で分かりやすいものになるよ うに,聞き返したり確認したりしながら話し合いを 進める。 ④ 先生方が置かれている状況や思いを大切にし,決 して支援者の考えを押し付けない。 B1 私のクラスのL子ちゃんは,みなさんが知ってのとおりほとんどしゃべらない 子で,相談日に1対1での面接をしても何も話してくれないだろうし,本人もそ の5分か10分かがつらいんじゃないかと思って,小グループでの相談をしたん だけどやっぱり一人だけうつむいたままだったのよ。どうしてあげたらいいかな あ。 C1 仲のいいお友達はいないの? B2 いることはいるんだけどね。 D1 お家ではどうなんだろう。 E1 お母さんやお父さんはどういうふうに思っておられるのかなあ。 S1 みんな同じようなことを知りたいと思っているようだから,その辺のことをまとめ て話をしてみてくれる。 中略 E2 私が経験したことなんだけどね,・・・・・・結局,学校ではしゃべらなかったけ どねえ。 S2 今のお話の中にあったように,無理に話をさそうというのはしない方がいいよ うなんだけど。 A1 ぼくもそう思うよ。それと,L子ちゃんとすれちがうときはな,必ず声をかけるよ うにしてるんよ。時々肩をもんでみたり,くすぐってみたりして,あなたのこと忘 れてないよって。 S3 うーん,なるほど。そのことでB先生に聞いたことがあるんだけど,もう一度言 ってくれます。 B3 そんな改まって言うほどのことでもないんだけど,せっかく学校に来ているん だから,みんなで温かく見守ってあげて,少しでも来てよかったと思ってもらえ るような学級づくりをしたいなって。 A2 そのことは,L子ちゃんだけでなく,うちのクラスのP男君にも当てはまるし,ど の子にも当てはまるよなあ。B先生,さすがよなあ。 S4 そういうA先生もさすがよな。みなさん,よく子どものことを見てやってるんです ね。いい勉強になったわ。 同時に,これらの支援者としての態度や心構えが, 図3 事例検討会の逐語記録の一部 学級担任が実際に児童と相談する際の一つのモデル になるようにと考える。 3 のようにできるだけB教諭の事例に戻るように努め 支援の実際 た。これらのことにより,話が広がり過ぎず,B教 (1) 学年会における支援①(第1回事後学年会) 諭の報告に全員が集中することになった。 A,B両教諭が,相談日や普段の接し方で悩んで 次に,B教諭のことを認めているA2の発言につい いる事例を提出してもらい,今までの実践や今後の ては,S4のように認め,参加者全員に広めるように 対応について学年団の教師全員で一緒に考えた。こ 紹介した。 の時は,第1回ということもあり,児童全員との相 (2) 学年会における支援②(第4回事前学年会) 談ができていない学級の方が多かったが,今までの 経験を生かした活発な意見交換ができた。 8月に,A,B両教諭と2学期の相談日の計画に ついて協議していた時,二人の教諭の話から「まだ 写真1は,5月の相談日後の学年会の様子であり, 担任に遠慮して,話ができていない子がいるような 図3はその会での会話の一部を逐語に表したもので ので,今からでも話しやすい雰囲気づくりに取り組 ある。以後,支援者をS,支援する教諭をA,B, みたい」という思いがあることが分かった。そこで, 学年団の他の教諭をC,D,Eとする。 人間関係の促進という点を考慮して,小グループに B1の言葉に対して,C1,D1,E1のように次々と質 問が出てきた。そこで,支援者は司会進行の役を引 よる「集団絵画」を提案した。 この集団絵画は, き受けていたので,S1のようにB教諭にまとめて話 ・準備物は身近な物なので,簡単にそろう をしてもらうように方向付けをした。また,E2の発 ・言葉で表現しにくい児童もクレヨンを使って自分 言の後,各自の体験談に広がりそうだったので,S3 写真1 学年会での事例検討会の様子 の思いを何らかの形で表現できる 写真2 - 107 - 学年会でのプレ実践の様子 ・児童たちは,絵をかきながらいろいろな心の動き ようと支援者として心掛けた発言が,図4の中のS5, を体験することができる S6,S7,S9である 。「仲間の絵にかき足す喜び」や ・教師が,児童の行動や表情などを把握しやすいの 「自分の絵にかき足してもらう喜び」を味わうこと で,その場ですぐにかかわることができるととも により,友達のよさや,親しさについて再確認でき, に,事後のシェアリングを深めやすい 楽しく温かい雰囲気づくりにつながると考えたから などの利点がある。A,B両教諭の「実践してみよ である。 うか」という意向に沿い,まずプレ実践を9月の相 A教諭は,このプレ実践での活動を通して,A1の 談日の事前の学年会で行った。児童の気持ちになっ ようにかく喜びを味わうとともに,A2のように相手 て体験してもらうことにより,集団絵画の長所や実 のうれしかったという気持ちを聞くことも体験でき 践する際の留意点について気付きやすいと考えたか たようである。 らである。 (3) 学級担任への支援(9月の相談日後) 模造紙を1枚と,クレヨンを1人に1セット用意 A教諭とB教諭は,9月の相談日に実際にそれぞ して,楽な気持ちで臨んでもらった。今回は,学級 れ学級で集団絵画を実施した。学年会では,模造紙 の人間関係づくりという点を考慮してテーマは自由 だと大き過ぎるのでは,という反省もあったが,児 とし,活動を前半・後半に分けた。前半は個人で自 童に思い切り伸び伸びと取り組ませたいという両教 由に絵をかき,後半は,仲間の絵に付け足しをして 諭の思いから,プレ実践どおり模造紙を使うことに いくことにした。 した。 学年会では,絵をかく活動を体験した後で,感想 学年団によるプレ実践を行ったときの反省を生か や実践する上での留意点について話し合った。その して,図5のような「集団絵画」実践の流れを作成 際,この会での話し合いがA教諭とB教諭が実際に し,それに沿って実施した。 取り組む際に役立つように考慮した。そこで,なる べく「仲間とのかかわり」という視点から話を進め S1 少しかくのがストップしてきたようですが,それじゃあ,やめてもいいです か。では,このまましばらく無言でいてください。今,絵をかきましたが,自分 がかいたのを見て,人がかいたのを見て,全体的に見てちょっと付け加え たいな,と思うことがあれば,さっき言ったように人を傷付けたり,かいたもの をぐちゃぐちゃにしたりとか,どう考えても悲しむなあとかいうこと以外は自由 です。絵の上手下手も,色使いも関係なく,付け足してみたいことがあれば 付け足してください。もし,自分の絵に付け足しがしたいなあと思えば自分 の絵にかいてもいいし,人の所にかいてもいいです。 中略 S2 今度は口を使います。一言でもいいですので,全員今の感想を言ってみ てください。 E1 私は最初は不安だったんよ。でも,自分がかいた絵に人がかいてくれた から,まあ,自分の絵を認めてくれたんだなあと思って。それから,人のにか くのに勇気がいったんだけど,文句もいわれなかったし,安心した。 S3 うーん。ただかきっぱなしというよりは,後で付け足しをしたことがよかった ということ? E 2 そ うかな。何かね,自分の絵が認められてうれしかったという気がしてるし, 楽しかったよ。 S4 ああ,なるほどねえ。ではA先生はどうですか。 A1みんなの様子がにこにこして,そして絵に付け足しをしてくれたりしてよか った。で,全体的に見ても,きれいに仕上がってる。ぼくは,イルカに乗りた くなったんよ。 C1 本当に乗っている。 ( 一同大笑い) S5 イルカに人を乗せられた方のD先生はどうでした? D1 あら,乗ってくれたのねって感じでした。 S6 乗ってくれたという感じなんですね。「 何をするの」じゃあないんですね。 D2 乗ってくれて楽しくなった感じでしたよ。 S7 ああ,それはよかったですねえ。A先生は,E先生の絵にも「スタート」「ゴ ール」ってかいたけど,どうでしたか。 E3 最初は模様か何かのつもりだったんよ。意味もなくかいたんだけど,ああ, 意味を見付けてくれたなあと思ったよ。 S8 最初,不安だったって言われてたけど。 E4 うん。だけど,人とかもいっぱいかいてくれてうれしい気持ちになったんよ。 S9 そうですか。それを聞いてA先生はどうですか。 A 2 勝手にかいただけなんだけど,喜んでくれてこちらもいい気持ちになるな あ。 図4 プレ実践での振り返りの一部 相談終了後,次の2点をねらいとしてA教諭,B 教諭と個別に反省会をした。 ・実施しただけで終わるのではなく,感じたことを ○準備物 模造紙(各グループ1枚ずつ ),クレヨン・パス,新聞紙 ○活動の展開 学 習 活 動 留 意 点 1今日の相談日の流れについ○いつものペースで実施できるよう,諸注意を伝え て教師の説明を聞く。 る。 ○定期教育相談日の一環として行うので,楽しみながらも真剣に取り組みまし ょう。 ○絵をかいてもらいますが,上手,下手は全く関係ないので伸び伸びとかきま しょう。 ○途中,無言で活動したり話をしたりする場面があるので,指示をちゃんと聞 いて楽しく有意義に活動しましょう。 ○自分の気持ちを大切にしながらも,友達のことも少しでいいから考えられる といいですね。 2 絵をかく。 ○今かきたいと思う絵を一つ決めて,合図でかき始 ①自由に絵をかく。 めるよう伝える。 ○何でもいいから ,今自分がかきたいと思う絵をかきましょう 。場所 ,大きさ, 色,形などは自由です。本物と少し違っていてもいいです。ただし,無言 でかきます。言いたいことは後で聞きますから,口を閉じてかきましょう。 何か質問はありませんか。10分位で「やめ」の合図を出す予定ですが,み んなの様子を見ながら決めましょう。では始めましょう。 ○「まんがでもいいか」 「想像したものでもいいか」 などが質問として予想される。なるべく分かりや すく,しかしあまり言い過ぎないようにする。 ○調子に乗って始めから友達の邪魔をする児童や , , 何もかけなくて困っている児童には,近くに行っ て,気分をほぐしたり話をしたりして,かきやす い雰囲気にする。 ○かきにくいと予想される児童には,事前に用紙を 渡して,何かかかせておく。 ②全体を見ながらかく。 ○よく聞いてください。自分のも友達のもよく見て,全体が楽しい絵になる ように,かき加えたいと思うことがあれば,どう考えても友達が悲しくな るようなこと以外なら,何をどこにかいてもいいから自由にかいてみまし ょう。今度も無言でかきます。時間は10分にします。質問はありませんか。 では始めましょう。 ○①の活動よりもかきにくいと感じる児童が増える と予想される様子をよく観察して適宜声を掛け 。 , 励ますようにする。 ○後のシェアリングでは,友達とのかかわりについ て特に取り上げたいので,よく観察しておく。 3 感想を話し合う。(シェア○まず,一人ずつ今の感想を言ってもらう。言いづ リング) らい児童には ,「楽しかった?」と尋ね,うなず くだけでも認めてほめる。 ○その後,感想や観察したことをもとに,特に友達 とかかわっている場面について,もう少し深く話 し合いを進める。 図5 - 108 - 「集団絵画」実践の流れ S1 前の方にいたGさんとかHさんたちの班も最初はみんなかけんか ったなあ。 B1 うん。そう。何してるんていう感じだったわな。 S2 それで,先生があの時 ,「こんな大きな自由帳もらったら私だっ たら喜んでかくけどなあ」って言われたらすぐにみんなでさっとか き始めたから,あの一言はよかったんじゃないかなあ。 B2 ああそう。どうもありがとう。 S3 それでな,HさんがJ君の絵の横に同じような人間をかいた時, J君もHさんもにこにこしとったからあのときの感じを聞いてみた かったんよ。先生がJ君に聞いてくれたでしょ。あれを聞いて,H さんもにこにこしとったから,あの質問であの子らは余計に楽しか った思いがふくらむというか深まったと思うよ。 B3 私も見ていて,聞いてみたいと思っていたからなあ。 中略 S4 それで,今日,自分の絵にかき加えられた時の気持ちを何人かに 聞いてくれたが 。「うれしかった 」 「余計に絵が楽しくなった」って 言っとったけど,それを聞いてかいた方もよかったって答えとった でしょ。絵をかくだけじゃなくてああいう話し合いは有意義に思え たんだけど。 B4 確かにびっくりするほどの新しい発見はなかったけど,楽しかっ たし,クラスの人間関係や性格がよく分かったよ。 S5 シェアリングで,先生が友達とのかかわりのところに焦点を当て て特に発言させていたのはよかった思うよ。気持ちよさ,楽しさは, 友達とのかかわりからきてるいうのも押さえることができてたし。 B5 そりゃあ,月曜日に先生に教えてもらったばかりだし,学年会で 教えてもらったことも役に立ったしなあ。 図6 S1 えっと,11月の相談日も終わり,今までのぼくのかかわり方に ついて反省をしたいんで,何か気付いたことがあったら教えてほ しいんですけど。 A1 ぼくはな,こちらが何を言っても,にこにこして聞いてくれた ので,楽な気持ちで相談日に関する勉強ができたんよ。日ごろの 生活に追われ,忙しくしていたけれど,優しく穏やかに応対して くれたので,ほっとでき,それがいい意味で子どもたちにも伝わ っていってほのぼのとした雰囲気が漂っていたと思うよ。 B1 私もそう思う。話をしっかり聞いてくれるから,安心して話が できたわ。 C1 何を言っても許してもらえる雰囲気を作ってくれて,上手に進 行してくれたから,みんなが安心して学年会で話ができたんと違 うかな。 D1 うん。楽しかったよ。 A2 それにあの絵はなあ,子どもたちには楽しくって仕方ないみた いでな,またするかいうことになっとるんよ。 S2 学年会で先生たちにしてもらったことが役に立ったんだと思う んだけど。 A3 学年会で実際にやったけど,おもしろかったで。 E1 クレヨンで絵をかくなんて最近ないもんね。 B2 学年会でいろいろ意見が聞けたし,いい人ばかりだったから見 守ってもらえたという感じ。 A4 学年会で話し合ったことはよかったな。 中略 A5 ああいう絵をかくというような活動は,絶対いいことだし,必 要だと思うな。忙しいんだけど,だからこそああいう時間が大切 なんよな。 B3 ああいう絵をかくなんていうことは教えてもらわないとしてな いし,話を聞こうとするだけでないんだって教えてもらって自分 にもずいぶん余裕が出たというか,一緒に楽しんだもん。 A6 最近な,相談日でもないのに「先生,話を聞いて」と言って来 る子が結構出てきたんで。 S3 それって,成果が出てきたんかなあ。 B4 あのね,ほとんど話をしないL子さんがね,交流学級のおいも パーティーに招待されたときにね , 「これください」って声をか けてあげることがU君の勉強になるんだからねって励ましたら, 「ください」って言えたんよ。先生に教えてもらって絵をかいた ときにも「楽しかった 。 」という感想が書けたけど,今まで通り だったら書けなかったと思うよ。あれから少しずつ変わってきた ような感じなのよ。 A7 L子さんな,うつむいたままときどき笑うようになったんで。 E2 私も見たよ。 S4 うれしい話だなあ。 B5 私もね,涙が出てきてね。その日のうちにお母さんに電話した ら,電話口でお母さんも泣かれてて,一緒に泣いたのよ。集団絵 画に取り組んだ成果だと思うよ。 C2 ぼくもね,S先生のおかげで,仲間に入れてもらって,今年は 本気で教育相談してきたなあ。 S5 お忙しいのに協力いただいてありがとうございました。 A8 忙しいからこそよかったんよ。結局無駄な時間を過ごさずにす んだような気がするもんなあ。 集団絵画実施後のB教諭との振り返りの一部 話し合うことにより,よかった点をA教諭やB教 諭がより強く実感できるようにする。 ・今後の相談の実施への意欲付けになるようにする。 図6は,その時のB教諭との振り返りの一部であ る。S2は,B教諭の児童への声掛けについて,S3や S4は,絵をかいた後のシェアリングの進め方や発問 について,よかった点を明確にして返した発言であ る。 Ⅳ 考察 主に学年会を活用して二人の学級担任への支援をし 図7 学年会での相談日の振り返りの逐語記録の一部 てきたが,支援の三つの柱について,A教諭,B教諭 にとってはどうだったのか,学年団の教師はどのよう 一人で取り組むよりも,相談日に対して心にゆとり に感じたのか,また,児童はどのように変容したのか と自信を持つことにつながっているように思う。 を反省会での逐語記録やアンケート結果から考察する。 2 1 主に学年会を活用した支援について 相談日における人間関係づくりを促進するための 支援について 今回の研究では,学年会を活用して学級担任を支 図7のA5,B3の発言から,相談日に対して「話を 援してきたが,A教諭からは図7の中のA3,A4のよ 聞こうとするだけでなく,人間関係の促進の場であ うに , 「学年会はよかった」という感想を得た。B ってもいい」と考え方が変容したことが分かる。A6 教諭からもB2のように「いろいろ意見を聞くことが からは,相談日ではなくても,担任に話をしようと できた」という感想を得ることができた。 する児童が現れてきたことが分かる。これは,A5, また,支援者が学年会に対してねらいをはっきり B3のように,担任自身が自分にゆとりが出てきたと させて支援すれば,A8のように学年会に対して「効 感じたことが,児童にも反映されてきているのでは 率的に取り組むことができた」と感じることも分か ないかと考えられる。したがって,相談日だからと った。 いって,児童の悩みを何とか聞き出そうとするので C2の発言からは,学年団の他の教諭も学年会を肯 定的にとらえていることが分かる。 はなく,教師も児童も楽しみながら人間関係を深め る時間だと考えて取り組めるような活動内容を提案 以上のことから,支援者が学年会にかかわりなが し,実践してもらうことは,児童が相談日に話をし ら計画を立てたり,反省をしたりすることは,自分 たいと思うきっかけをつくることになると考える。 - 109 - 3 支援者としての態度・心構えについて 以上の点から,支援者としての態度・心構えは, 図3の中のS4は,B教諭のことを認めて賞賛して 明るく穏やかな雰囲気をつくり,学年会やA,B両 いるA教諭の発言を肯定的に受け止め,学年会の参 教諭との話し合いを深めるのに効果があったと考え 加者全員に広めたものである。図6の支援者の発言 られる。 は,どれもB教諭の話し合いの進め方や児童とのか 4 かわり方を肯定的に受け止めたことをB教諭に言葉 児童の意識調査から 支援の結果,児童の相談日に対する意識はどのよ で伝えたものである。 うに変化してきたのかを,アンケートの結果から考 また,図3では,以前にB教諭との話し合いの中 察する。 でL子のことを聞いていたので,S3のように学年会 図8は,11月に5年生児童に実施したアンケート で紹介し,B教諭から報告してもらった。このよう の ,「定期教育相談日はどうだったか」という問い に,普段の会話の中から支援者が感じ取った担任教 に対する回答結果をグラフにまとめたものである。 師の思いを,できるだけ学年会の中で発言してもら 支援者としてかかわった学級の方が,かかわってい えるように心掛けてきた。 ない学級よりも相談日は楽しかったと答える児童が 図4の中のS3やS8は,話し手の気持ちや話の内容 多い(79.1%)という結果になった。さらに,かかわ を明確にしようという発言である。逐語記録を見る った学級では,ほとんどの児童がアンケートの自由 と,この後の話し合いがより深まることになったよ 記述の欄に「相談日がとても楽しくなった 。 」など , うに思う。 何かを記入しており,相談日に対して関心が高まっ 以上のような実践の結果,11月の相談日後の学年 たことをうかがうことができた。 会での逐語記録である図7を見ると,A教諭からは, これらの児童の様子や,図7の中のB4,A7,E2, 「支援者の応対がよく,楽な気持ちで取り組めた 」, B5のような心温まる逸話は,学級担任が心にゆとり B教諭からは , 「安心できた」という支援者の態度 と自信を持って相談に取り組んだ結果が児童にも反 や心構えがよかったという感想を得ることができた。 映して生まれたものではないかと考える。 C1,D1のように学年団の他の教諭からも,同様な感 Ⅴ 想を得ることができた。また,A,B両教諭からは, おわりに 「支援者のように,にこにこしながらゆっくりと話 今回の研究では,相談日を効果的に実施するための を聞くと,児童も話しやすいということが分かった 学級担任への支援の在り方を探ってきた。明るく穏や からまねをしようと思う」という発言もあり,相談 かな雰囲気づくりを心掛け,学年会で同僚とともに見 場面での一つのモデルにもなったようである。 通しを持ったり反省をしたりすることが,担任教師が 相談日に対してゆとりと自信を持って取り組むことに ①とても楽しくてよかった 支援した 学級 ②話ができてけっこう楽し かった ③もう少し話を聞いてほし かった ④話すことなど特になかっ た 支援してい ない学級 ⑤面倒くさくていやだった 0 20 40 60 80 100 (%) その他 つながり,相談日を効果的に過ごすのに有効であるこ とが分かった。 今回は,長期研修員という校内で分掌を持たない立 場で支援してきたが,今後は,聴き方・応答の練習や 構成的グループエンカウンターなどの研修を更に積ん ①,②,・・・⑤をそれぞれ5点,4点・・・1点として,支援してきた組と支援し ていない組のアンケート結果を検定にかけたところ,統計的に有為であるとい う検定結果を得た。 で,校内の教育相談部の活動の一環として,同じ学校 図8 きたい。 相談日に対する児童の意識(11月) の同僚という立場から支援をすることに取り組んでい ○参考文献 1) 徳田良仁,村井靖児:アートセラピー,日本文化科学社,1997 2) 滋賀県総合教育センター:研究紀要第40集,学校教育相談に関する研究調査Ⅰ,1998 3) 森俊夫:学校教育相談に役立つコンサルテーションの話,月刊学校教育相談1999.4月号∼2000.3月号,ほん の森出版 4) 岡山県教育センター:研究集録第217集,学校教育相談の校内研修に関する研究,2000 - 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