FCPA および腐敗行為防止法に関する進展: 2012 年夏までの総括

November 2012
FCPA および腐敗行為防止法に関する進展:
2012 年夏までの総括
(参考訳) 原題: FCPA + Anti-Corruption Developments: 2012 End of Summer Round-Up
この夏は、気温が上昇した一方で、海外腐敗行為防止法
(instrumentality)」の意味に関する連邦地裁陪審に対する判示
(「FCPA」)の執行手続件数は、過去 5 年間で初めて抑制された
に異議を唱えている。被告人らは、当局は Haiti Teleco が、その
ようだ。しかしながら、件数が小休止したのは、FCPA の執行に
従業員に「外国公務員」の資格を与えるにふさわしい政府の機能
対する米国規制当局の関心が薄れたことを示すものではない。
を果たしていることについて一切立証していないと主張する。むし
むしろ、全ての状況を勘案すると、米国その他各国における腐敗
ろ、米国司法省(「DOJ」)は、National Bank of Haiti による Haiti
行為との闘いは、この先何カ月、何年と激化する一方だと思われ
Teleco 株式の保有およびハイチ政府の役員・取締役選任権を
る。
[3]
「外国公務員」の認定の根拠としたのである 。
その主要な点を以下いくつか紹介する。
被告人らは、自らの主張の裏付けとして、「Haiti Teleco は現在
個人への注目
国営企業ではなく、これまでも国営企業だったことはない」という
旨の当時のハイチ首相 Jean Max Bellerive の署名済み宣言書
2010 年 2 月、司法次官補 Lanny A.Breuer が、個人に対する訴
の存在を指摘。宣言書は、2011 年 7 月に署名されたのにもかか
追が規制当局の FCPA「執行ポリシー」の「基盤」となるであろうこ
わらず、被告人らの弁護人に提出されたのは、被告人らに有罪
[1]
とを発表した 。そして Breuer 氏は自らの発言通りに行動してい
[4]
判決が下された日の 6 日後、2011 年 8 月 10 日だった 。その
る。すなわち、個人に対する手続件数が急増しているのである。
後、当局の力添えにより Bellerive 氏が作成したこれに続く宣言
しかしながら、当局による個人に対する提訴は、失敗と成功の繰
書では、同氏は自らの最初の宣言書が米国の刑事裁判で使用さ
り返しで、歴史的な実刑判決を得られることもある一方で、裁判
れるとは認識していなかったこと、同宣言書が内部使用のみを目
官から痛烈な非難を受けることもある。
的に署名されたものであること、および Haiti Teleco はハイチの
政府機関である National Bank of Haiti が所有していたことが主
A. Haiti Teleco 事件で
Terra Telecommunications の幹部が控訴
張されている。しかしながら、被告人らによれば、Bellerive の 2
この夏、Terra Telecommunications Corp.のそれぞれ元社長、
institution)」とするようなハイチの法律は存在しないという事実が
元副社長の Joel Esquenazi と Carlos Rodriguez が、Haiti
番目の宣言書でも、Haiti Teleco を「公営企業(publicly owned
[5]
確認されたということである 。
Telecom の役員への贈賄スキームに関連する FCPA 違反等 7
また、被告人らは双方とも、(FCPA 上では定義されていない)
つの訴因による 2011 年の有罪判決を不服として控訴した。なお、
「政府機関」という用語の範囲について、連邦地裁が陪審に対し
Esquenazi は、FCPA 史上最長の懲役 15 年の判決を受け、
誤った説示を行ったとも主張する。被告人らは、FCPA で「政府機
[2]
Rodriguez には、懲役 7 年の判決が下されていた 。
関」が定義されていないという事実は「重要」であり、定義されてい
今年既になされた控訴で、Esquenazi と Rodriguez は、FCPA
上の「外国公務員(foreign officials)」の意味を問い、「政府機関
[1] 米国司法省刑事局司法次官補 Lanny A. Breuer、米国法曹協会ホワ
イトカラー犯罪会議(American Bar Association National Institute on
White Collar Crime)での演説の原稿(2010 年 2 月 25 日)(http://www.
justice.gov/criminal/pr/speeches-testimony/2010/02-25-10aagAmericanBarAssosiation.pdf )を参照。
[2] 詳細については、Paul Friedman および Ruti Smithline が執筆したク
ライアント・アラート「Another Successful FCPA Prosecution Against
Individuals—More Terra Telecom Execs Appear Headed for Prison
for Haiti Bribes」(2011 年 8 月 9 日)を参照。また、D. Anthony
Rodriguez が執筆したクライアント・アラート「Telecom Executive
Sentenced to 4 Years in Prison for Violations of the Foreign Corrupt
Practices Act」(2011 年 9 月 13 日)(日本語参考訳「通信企業幹部、海
外腐敗行為防止法(FCPA)違反で懲役 4 年」)も参照。
1
ないからこそ、この用語を、「政治的な機関以外の政府の機能を
果たす国有・国営企業・・・」という定義に結び付けるのではなく、
[6]
狭義に解釈すべきである 、と主張する。
一方、当局は、被告人らの「政府機関」という用語の狭義の解釈
は FCPA 上の用語および連邦議会の意図に矛盾すると反論す
る。当局は、被告人らは「司法長官に対し、自らの行為の合法性
[3] Corrected Brief of Appellant, United States v. Esquenazi, No. 1115331-C, 第 18 頁 (11th Cir. May 31, 2012)を参照。
[4] 前掲第 9-10 頁。
[5] 前掲第 11 頁。
[6] 前掲第 39 頁。
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について意見を求めることができたのにそうしなかったのであり、
でに本件で得られていた有罪の答弁を Leon 裁判官が退けたた
それにもかかわらず、その点は解釈に委ねられると訴え」ること
め、本件は完全に白紙に戻ることとなった
[10]
。
[7]
は許されないとも主張する 。
検察は、おとり捜査事件が最終的に失敗したことを認めながらも、
とりわけ、近年、「政府機関」という用語の範囲は、いくつかの連
Bistrong の刑の執行猶予を求めた。Leon 裁判官は、Bistrong
邦地裁が検討しており、各連邦地裁は、当局の解釈に同意して
が捜査に協力したことを認めながらも、「我々は、『思い切り窃盗
いるが、本件の裁判所は、この問題について検討する最初の控
をしろ、めいいっぱい法律違反をしろ、それでも捜査に十分協力
[8]
訴裁判所となるであろう 。控訴裁判所の判決を予想するのは困
すれば執行猶予が得られる』ということを事件の教訓とするような
難であるが、下級裁判所の判決が一貫していることを考えれば、
ことは一切望んでいない。」と述べた
控訴裁判所が画期的な判決を出す可能性は低いと思われる。
B. アフリカおとり捜査事件での失敗後、当局側の主要
情報提供者に懲役 18 カ月の判決
[11]
。
中南米における執行行為件数の増加:
メキシコに注目
当然のことながら、中南米諸国で多国籍企業への投資機会が増
2012 年 7 月、アフリカおとり捜査事件の当局側の主要情報提供
えるにつれ、規制当局の監視も厳しくなっている。その結果、近
者である Richard Bistrong は、懲役 18 カ月の判決を受けた。
年、中南米諸国が関与する FCPA 執行手続件数が増加してい
Bistrong は、かつて DOJ が FCPA に基づく訴追の歴史のター
る。例えば 2011 年、DOJ 事件の約 4 分の 1 は中南米に関する
ニングポイントと称したアフリカおとり捜査事件において唯一個人
ものであった。2012 年上半期において、DOJ による訴追 7 件の
として実刑判決を受けた。米国連邦地裁の Richard Leon 裁判
うち 3 件は、中南米諸国の役人に対して不適切な支払が行われ
官は、この判決言い渡しにあたり、執行猶予付とするようにとの
ているという申立てに係るものであった。
[9]
当局の求めを退けた 。
この夏、FCPA 執行手続に関する記事の多くは、新しいものも古
Bistrong は、自らの元雇用主 Armor Holdings のために外国数
いものも、特にメキシコで不適切な支払が行われたという申立て
カ国から契約を得るため公務員の収賄を共謀した罪に問われた
に関するものであった。このなかにはウォルマート事件もあった
後、FCPA 関連の捜査では初の捜査手法である大規模なおとり
が、例えば 6 月にも、FCPA 関連のニュースでは、メキシコの
捜査に協力した。捜査の結果、FCPA に基づき 22 人が起訴され
Comisión Federal de Electricidad(「CFE」)の公務員に贈賄が
た。2 件の無効審理の後、当局が告訴をすべて取下げ、それま
贈られたという申立てに係る Lindsey Manufacturing Co.の告訴
却下に対する第 9 巡回区控訴裁判所への控訴を取り下げた当
局の決定に注目が集まった。
[7] Brief for the United States, United States v. Esquenazi, No. 1115331-C, 第 20 頁 (11th Cir. Aug. 21, 2012)を参照。
[8] United States v. Carson, No. 8:09-cr-00077 (C.D. Cal. Feb. 21,
2011)の被告人が有罪を認めた。また、United States v. Noriega (「
Lindsey 事件」), No. 2:10-cr-01031 (C.D. Cal. 2010)の有罪判決は検
察の職権濫用の結果無効となった。さらに、United States v. O’Shea,
No. 4:09-cr-00629 (S.D. Tex. 2012)は、当局の主張を裏付ける十分な
証拠がないとの裁判官の判断により、却下された。詳細については以下
を参照。Paul Friedman、Ruti Smithline および Jarod Taylor が執筆し
たクライアント・アラート「FCPA Update: Another Challenge to DOJ’s
Expansive “Foreign Official” Definition Fails, But Clarifies DOJ’s
Burden 」(2011 年 6 月 2 日)(日本語参考訳「FCPA アップデート: 米国
司法省(DOJ)による「外国公務員」の拡大的な定義に対する新たな挑戦
も失敗、しかし DOJ の立証負担を明確化」); Paul Friedman が執筆した
「Prosecutorial Misconduct Thwarts First-Ever FCPA Jury Conviction
of Corporation」(Securities Litigation Report, Vol. 9, Issue 1, Dec.
2011/Jan. 2012)(http://www.mofo.com/files/Uploads/Images/
120102-Securities-Litigation-Report-Friedman-McKellar.pdf); Paul
Friedman および Demme Doufekias が執筆したクライアント・アラート「
Most Severe Setback To DOJ Thus Far In FCPA Prosecutions:
Judge Dismisses All Charges In Africa Sting Case」(2012 年 2 月 27
日)第 2-3 頁(日本語参考訳「現在までの FCPA に関する訴追において
米国司法省が経験する最も深刻な敗北:裁判官がアフリカおとり捜査事
件における公訴をすべて棄却」)
[9] C. M. Matthews「Cooperator Gets 18 Months in Complicated
Bribery Case」(Wall Street Journal)(2012 年 7 月 31 日)(http://blogs.
wsj.com/corruption-currents/2012/07/31/cooperator-gets-18-monthsin-complicated-bribery-case/)
2
Lindsey 事件について書かれたものは数多くあるが
[12]
、ウォルマ
ート事件の発覚および Lindsey 事件とメキシコとの関わりにより、
外国企業がメキシコで事業を行う場合に直面する重大なリスクが
浮き彫りになった。
世界第 14 位の経済国メキシコ
[13]
は、外国投資家にとって大きな
可能性を秘めている。しかしながら、Business Coordinating
[10] 詳細については、Paul Friedman および Demme Doufekias が執
筆したクライアント・アラート「Most Severe Setback To DOJ Thus Far
In FCPA Prosecutions: Judge Dismisses All Charges In Africa Sting
Case」(2012 年 2 月 27 日)(日本語参考訳「現在までの FCPA に関する
訴追において米国司法省が経験する最も深刻な敗北:裁判官がアフリカ
おとり捜査事件における公訴をすべて棄却」)を参照。
[11] 上記脚注 9 を参照。
[12] Lindsey 事件の詳細についてはこのテーマに関する当事務所のクラ
イアント・アラート「False Affidavits and Lies Doom First-Ever FCPA
Jury Conviction of Cooperation」(2011 年 12 月 2 日)(日本語参考訳「
虚偽の宣誓と証言が FCPA 裁判における法人に対する初の陪審評決を
くじく」)を参照。
[13] 「APEC Procurement Transparency Standards in Mexico」
(Transparency International (2011))(http://www.transparencyusa.org/documents/MEXICOCIPETIReportFINAL-June2011.pdf)
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Council の Private Sector Economic Studies Center による最
ゴリーレベルが上昇した国がなかった前年度に比べて状況が改
近の研究によれば、メキシコに蔓延する汚職の文化により、外国
善したことを示している
投資を呼び込もうとする政府の努力が妨げられているということ
[14]
である
。研究によれば、腐敗した政府の役人に対し、利益の
[15]
10%ほどが企業から支払われていることが判明した
。
[19]
。
TI は、各国の実施レベルの評価に、「良好」、「普通」、「ほとんど
実施されていない」、「実施されていない」という 4 つのカテゴリー
[20]
を用いている
。各国の評価は、贈収賄の捜査および事件(刑
文字通り「噛み切る」という意味の「mordidas」として知られる賄賂
事訴追、民事訴訟および司法捜査を含むものと定義される。)の
は、メキシコでビジネスを行うに当たって必要な一般経費となって
件数および重要性に基づき行われる
いる。メキシコでビジネスを行う多くの者にとって、汚職はいわば
[16]
「日常茶飯事」である
。トランスペアレンシー・インターナショナ
ル(Transparency International)の 2011 年腐敗認識指数
(Corruption Perception Index)(「TI Index」)によれば、メキシコ
のスコアは 10 のうち 3(腐敗の度合いが最も高い場合スコア 0、
最も低い場合スコア 10)である。全ての調査対象国のうち、メキ
シコは 182 カ国中 100 番目にランクされている。これは中国より
25 番下であるが、ロシアより 43 番上である。
[21]
。
報告書は、世界的な不況のなかで贈収賄を防止しようとすれば
困難に直面することを認める一方で、「政府指導者は、景気後退
期に海外受注を勝ち取るためには海外での贈収賄も容認される、
[22]
といった主張は拒否しなければならない。」と警告している
。特
に、報告書では、事件総数で群を抜く米国を含む 7 カ国が「良
[23]
好」に分類されている
。
ここ数カ月汚職に対しより強く対抗する立場を採ってきた国
メキシコにおける経済的チャンスをみれば、多国籍企業がこの地
域でビジネスを行うこと断念する可能性は低い。したがって、か
かる企業は、地域の事情に合わせた法令遵守プログラムに費用
を投じて、FCPA 執行のリスクの増大に取り組む用意をしなけれ
(OECD 贈賄防止条約の新メンバーであるロシアを含む。)の多
くが、(もし進歩するならば)どのように進歩していくのか見るのは
興味深い。
B. メキシコの新法の効果はあるのか
ばならない。
汚職関連の不祥事の増加(その大多数は FCPA 違反捜査を行
腐敗行為防止の闘いは世界規模へ
う米国規制当局により摘発)を受け、この夏メキシコ政府は、汚職
いくつかの国での新たな腐敗行為防止法の採用から、インドやフ
ランスのような国でのより厳しい執行まで、この夏は、腐敗行為と
の世界的な闘いが各地で行われた。
を撲滅する動きを強めた。昨年、フェリーペ・カルデロン(Felipe
Calderón)大統領は、新法「公的調達に関する連邦腐敗行為防
止法」(Ley Federal Anticorrupción en Contrataciones
Públicas、「LFACP」)を導入した。これは、連邦の物資調達手続
A. OECD 条約の実施に関する Transparency
International の進捗レポートから、緩やかな状況改善
が明らかに
2012 年 9 月 6 日、Transparency International(「TI」)は、
OECD 贈賄防止条約(「OECD Anti-Bribery Convention」)の実
[17]
施に関する第 8 回年間報告書を発表した
。報告書は、「全体
における汚職に取り組むものである。LFACP は、政府の物資調
達手続または国際的な商取引に参加するメキシコ人および外国
人の双方に適用される。LFACP は、立法手続が 1 年以上途中
で滞っていたが、遂に法案が成立し、2012 年 6 月 8 日にカルデ
ロン大統領が署名、6 月 12 日に施行された。
新法の下、違反者は、不正手段により得た契約額の最高 30%か
の実施レベルは依然として十分ではない。」と結論付けているが、
ら 35%という多額の罰金を支払わなければならない可能性があ
3 カ国(オーストリア、オーストラリアおよびカナダ)の実施レベル
る。さらに、最高 10 年間政府との契約に向けた参加資格を失い、
[18]
は「普通」のカテゴリーに上昇したと指摘している
。これは、カテ
または、参加停止処分を受ける。LFACP では、FCPA 同様、仲
介者が違反を行った場合、かかる第三者および恩恵を受けた個
[14] 「Mexico’s Corruption Makes Foreign Investors Wary」
(Washington Post (2012 年 5 月 5 日))
人もしくは企業も責任を問われる虞がある。LFACP では、米国
[15] 前掲。
[16] 前掲。
[17] 「Exporting Corruption? Country Enforcement of the OECD AntiBribery Convention Progress Report 2012」(Transparency
International)(http://issuu.com/transparencyinternational/docs/2012_
exportingcorruption_oecdprogress_en?mode=window&printButtonE
nabled=false&shareButtonEnabled=false&searchButtonEnabled=fal
se&backgroundColor=%23222222)
[18] 前掲第 4 頁。
3
[19] 前掲。
[20] 前掲第 5 頁。
[21] 前掲。
[22] 前掲第 7 頁。
[23] 前掲第 4 頁、第 9 頁。腐敗行為防止措置の実施状況「良好」に分類
されたのは、デンマーク、ドイツ、イタリア、ノルウェイ、スイス、英国および
米国の 7 カ国である。
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の FCPA 執行に倣い、自己申告や協力を行う者に対して刑罰の
(「規範」)に関する通知」を発表した(かかる規範は腐敗行為防止
緩和を認めている。
措置を含む。)
[30]
LFACP が、メキシコの汚職の撲滅に対し(もしあるとしても)どの
ような効果をもたらすかを語るのは時期尚早であるが、進展につ
いて見守り報告をしていく予定である。
Administration)の副司長(Deputy Director)によれば、この措置
は、「中国の医療関係者の業務規制強化、診療内容の改善およ
び医師・患者間の関係改善・・・に役立つ」ものだということである
[31]
C. 世界的な腐敗行為防止活動への参加国の増加
。MOH 医療行政司(Department of Medical
。
近年中国では医療分野での汚職が問題となっており、その中で
この夏、これまで世界的な腐敗行為防止活動の実施に比較的消
多国籍企業にとって法令遵守は頭の痛い問題となってきた。とい
極的であったインドとフランスという 2 カ国が執行に加わった。
うのも、給与の低い医師その他の医療専門家が、医療機器会社
や医薬品会社から賄賂を受け取ってきた、という経緯があるため
1. インドの Coalgate
である。MOH の新たな規範の腐敗行為防止に関する条項は、
9 月、インドの中央捜査局(Central Bureau of Investigation、
中華人民共和国本土で事業を行う医療関係会社や医薬品会社
「CBI」)は、夏の間インドを揺るがした所謂「Coalgate」スキャンダ
に影響を与える要件を課すことにより、かかる行為に対応しようと
[24]
ルに端を発する最初の訴訟を提起した
。2012 年 8 月、国の監
査人が伝えたところによると、政府は、2004 年から 2009 年の間、
競争入札なしで石炭鉱区を民間企業に密かに割り当てており、
政府が得られたであろう推定 340 億ドルもの利益を失っていたと
[25]
いうことである
。
するものである。
規範は、臨床医が医療関係会社にリベートもしくは手数料の支払
[32]
を求めることまたはかかる支払を受領することを禁じている
。
禁止される行為の対象には、医薬品や医療機器を無償で受け取
ることおよびかかる会社が企画または資金提供を行うレクリエー
CBI は 5 つの会社および 17 人の個人(会社幹部および政府の
[26]
役人を含む。)を提訴した
。捜査はまだ継続中である。
ション活動に参加することも含まれる。また、臨床医が医薬品・医
療機器の広告宣伝、保険詐欺または病院予約券の転売を行うこ
とも禁じられている。 なお、治療面においては、医師が病気の深
2. フランスにおいて Safran に罰金
刻さを誇張し、過剰治療を施すことのないようにするものである。
9 月 5 日、フランスの裁判所は、安全保障、防衛分野の一部国
[27]
有企業 Safran に対し 50 万ユーロの罰金を科した
。捜査を担
規範は、経営者、医師、看護師、技師、地方の医者およびインタ
ーン等全ての臨床医を適用の対象としている。臨床医が規範に
当した治安判事は、2000 年から 2003 年にかけてナイジェリア
違反した場合、医師資格等を喪失し、または、刑事責任を問われ
の公務員に賄賂が贈られた結果、同社は 1 億 7,000 万ユーロ
るなど、制裁を受ける可能性がある。中国の医療分野において
[28]
の契約を獲得していたとした
。裁判所はこれに先立ち、当該賄
賂に関連して罪を問われた 2 人の幹部について無罪判決を下し
[29]
ていた
蔓延していると思われる状況に対し、新規範がどの程度影響力
を有するかは、今後見守るべき点である。
。
D. 中国衛生部が医療機関職員の行為規範を発表
2012 年 7 月 18 日、中国衛生部(「MOH」)は、およそ 900 万人
にも及ぶ同国の臨床医に適用される「医療機関職員の行為規範
[24] 「Ruling Party MP Named as India ‘Coalgate’ Scandal Widens」
(Reuters(2012 年 9 月 4 日))(http://www.reuters.com/article/2012/09/
04/india-coal-raid-idUSL6E8K4E6520120904)
[25] 「Corruption in India: Digging Deeper into the Pit」(The
Economist (2012 年 8 月 22 日))(http://www.economist.com/blogs/
banyan/2012/08/corruption-india)
[26] Melanie Lansakara「First ‘Coalgate’ Defendants Charged 」(The
FCPA Blog (2012 年 9 月 7 日))(http://www.fcpablog.com/blog/2012/
9/7/first-coalgate-defendants-charged.html)
[27] 「French Court Fines Safran for Nigerian Bribes」(Reuters (2012
年 9 月 5 日))(http://www.reuters.com/article/2012/09/05/safran-finenigeria-idUSL6E8K5CGF20120905)
[28] 前掲。
[29] 前掲。
4
[30] 「医療機関職員の行為規範に関する通知 (Notice on Issuance of
Medical Institution Practitioners Code of Conduct)(中華人民共和国衛
生部 (2012 年 7 月 18 日))」(http://www.moh.gov.cn/publicfiles/
business/htmlfiles/mohjcg/s3577/201207/55445.htm (中国語))
[31] Shan Juan「Document Regulating Medical Workers Issued」
(China Daily (2012 年 7 月 19 日))(http://usa.chinadaily.com.cn/
china/2012-07/19/content_15598389.htm)
[32] 規範の特定の分野については、全体的な医療機関職員の行為規範
に関する通知(Notice on Issuance of Medical Institution Practitioners
Code of Conduct)(上記脚注 30)を参照。
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E. 英国 2010 年贈収賄法 — 最初の一年
今夏、英国 2010 年贈収賄法[33](以下「本法」という。)は 1 周年
[34]
を迎えた
。そして本法施行 1 周年に伴い、本法が以前広く期
待されたような効果があったのか検証され、将来どのように執行
されるかについて推測される機会が増えた。
1. 本法の重要条項の概要
本法は英国における既存のコモンローおよび制定法上の犯罪を
廃止し、次の4つの犯罪を新設した。
1. 贈賄の罪(第 1 条)
しかし、今日まで、本法に基づき法人または会社役員の訴追は
ない。本法の評論家らは、裁判所書記官の訴追は、本法が取り
締まりの対象として念頭においている国際的な企業腐敗とは言
いがたいことを指摘している。
今日まで本法に基づく法人および執行役の訴追がないことには
2 つの大きな理由がある。
まず第一の理由は、本法に遡及効がないことである。本法は、
2011 年 7 月 1 日以降に行われた犯罪についてのみ適用され、
同日前に行われた行為は旧制度に属する。汚職行為がしばらく
の間発覚せず、その発覚により当局は何年もかけて汚職行為の
容疑について適正に捜査するというのはよく見られるケースであ
2. 収賄の罪(第 2 条)
3. 外国公務員等に対する贈賄の罪(第 6 条)
る。第二に、注目を引く高額汚職事件の訴追に取り組むために
は長期にわたる綿密な捜査が必要とされる。成功裏に訴追を行
う費用は莫大で、現在の緊縮した財政状況でも、当局としても、
4. ある者が当該企業に代わって贈賄することを防止しなかっ
たことの法人の罪(第 7 条)
本法は域外効力を有し、当該組織が英国外で設立された場合で
あっても、英国においてその事業の一部を遂行する組織であれ
ば適用の対象となる。さらに、関連する作為・不作為が英国外で
かかる捜査が確実にこうした多額の財源投資に値することを望
むものである。
一例としては、2012 年、重大不正捜査局(「SFO」)は、アジアお
よび中東の政府高官が関与した贈収賄罪に関して米国系企業
の英国子会社の多数の上席執行役の有罪を首尾よく獲得した
あったか否かは重要ではない。
[36]
2. 本法による訴追
のは、2002 年 2 月から 2008 年 12 月(最初の犯罪の日から 10
。2012 年に有罪が確実となったものの、犯罪事件が発生した
年間)までの間であり、長期間で費用のかかる捜査の後、有罪判
本法は英国内外の贈収賄罪ならびに汚職罪が英国内で訴追で
決は旧法の下で行われた。
きる、より堅固な立法の枠組みとなった。しかしながら、本法施行
以来、本法に基づき訴追が行われたのはわずか 1 件にとどまっ
3. ではこの1年間で何が変わったか。
ている。2011 年 10 月、Redbridge 治安判事裁判所の書記官、
現在までで、本法の最も大きな効果は贈賄に対する厳格なアプ
Munir Yukab Patel が最初に摘発された被告人であり、今日まで
ローチを促進する企業風土を助成したことである。本法実施前、
本法に基づき有罪とされる現在のところ唯一の被告人である。
2009 年 2 月から 2011 年 8 月までの間に、Patel 氏は裁判所の
データベースに交通違反の詳細を入力しなかったことの見返りと
して一般人に少額の賄賂を要求していた。Patel 氏は、本法に基
づく犯罪および公職不法行為罪に対し有罪であることを認める答
弁を行い、贈収賄罪について 3 年、職権濫用罪について 6 年の
[35]
刑を宣告された
(控訴審では 4 年に減刑された。)。
Jack Straw 前法務大臣は以下の認識を示した。「汚職に立ち向
かう際には強力な法制度の設計が必要だが、それだけでは十分
ではない。我々の最終目標は企業自身の内部で[行動の]変化
をもたらし、いかなる形の腐敗行為をも許容しない企業風土を作
[37]
ることである
。」贈賄を回避できなかったという企業の犯罪を創
設することにより、贈収賄・腐敗行為防止政策は、企業の最重要
課題となった。本法が女王の裁可を得て以来、多数の法域に拠
点を置き、各種領域において事業を行う多数の企業体が腐敗行
為防止策の見直しと改善に多大な時間と投資を行ってきた。この
[33] 英国 2010 年贈収賄法の全文は、http//www.legislation.gov.uk/
ukpga/2010/23/contents に掲載。
[34] 本法の重要条項の詳細な考察については、このテーマに関する当
事務所クライアント・アラート「Ministry of Justice Publishes
Consultation Paper on the UK Bribery Act 2010 」(2010 年 9 月 30
日)(日本語参考訳「英国法務省が 2010 年贈収賄法に関する協議書を
発行」)を参照。「十分な手続き」に関する 2011 年 3 月 30 日付 DOJ ガイ
ダンスの考察については、クライアント・アラート「UK Bribery Act to
Come Into Force on 1 July 2011」(2011 年 3 月 31 日)(日本語参考訳
「2011 年 7 月 1 日施行予定の英国贈収賄法 - 英国法務省が英国贈
収賄法の適用に関する指針を発表 -」)を参照。
[35] R v. Patel, [2012] EWCA (Crim.) 1243。
5
周到なアプローチの目標は、こうした企業が、本法第 7 条の容疑
[36] SFO Press Release「Innospec Ltd.: Former CEO admits bribery
to falsify product tests」(2012 年 7 月 30 日)(http://www.sfo.gov.uk/
press-room/latest-press-releases/pressreleases-2012/innospec-ltd-former-ceo-admits-bribery-to-falsify-product-tests.aspx)
[37] この発言は、2009 年 6 月 23 日開催の第 5 回欧州腐敗行為防止フ
ォーラムにおける演説の中で Jack Straw(閣内大臣)が行ったものであ
る。
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がかけられた場合に「十分な手続き」が整備されていることを示
[38]
すことにある
SEC 内部告発者部門へ 1 日におよそ 8 件の情報(この頻度は、
。
この初の報奨金が実質的に周知されることによって増加するで
あろうと思われる)が持ち込まれ、今後数ヶ月間さらに報奨金の
将来的には本法に基づく注目すべき訴追があることが予想され
授与が続くだろう。報奨金の授与が多くなるにつれ、SEC が約束
る。2012 年 9 月、SFO 長官 David Green 勅選弁護士は、SFO
する報奨金から利益を得ようとして、情報提供者の数も、増加す
は「贈収賄法違反事件を何件か捜査中である」と述べ、今日まで
る可能性が非常に高い。
訴追がないことをよそに、悠長に構える余裕はないことを示した
[39]
B. SEC は資源採取会社からの情報を採掘: FCPA
の効果
。よって、この問題は企業の課題において高く位置付けられる
必要がある。本法の影響を受ける営利団体は自己の腐敗行為
防止に関する方針およびそれが本法に合致することに確実を期
2012 年 8 月 22 日、ドッド・フランク法が義務付けたとおり、SEC
すための手続きを継続的に見直し、あらゆる法域にわたり、かか
は資源採取に従事する発行会社に対して、米国連邦政府または
る方針の実施状況を慎重に監視すべきである。
外国政府に対して行われた支払を毎年開示するよう義務付ける
SEC の情報源の増加により執行手続が増加する虞
がある
[43]
新たな規則を採択した
対し、より厳格になった SEC による監視に服させ、その結果、資
源採取会社に対する執行手続数を短期間で増加させようという
A. SEC は「業務開始」、ドッド・フランク法に基づく初の
内部告発者報奨金として 50,000 ドルの支払い
ものである。したがって、この規則の影響を受ける会社は、自社
の FCPA 遵守プログラムを増強する機会として、来る開示期限
を利用すべきである。
ドッド・フランク金融制度改革・消費者保護法(「ドッド・フランク
法」)の内部告発者プログラムが施行されてからちょうど 1 年とな
SEC の新規則は、SEC へのアニュアル・レポートを提出する義
った 2012 年 8 月 21 日、SEC は最初の内部告発者報奨金を公
[40]
表した
。この規則は影響を受ける発行会社に
務があり、かつ石油、天然ガスまたは鉱物の商業的開発(すなわ
。50,000 ドルというのは、SEC の執行手続において回
ち、探査、採掘、加工および輸出、またはかかる行為のための許
収した金額のうち 30%で、同プログラムで認められる最高額であ
[44]
認可の取得)に従事する会社に適用される
る。
。開示される支払と
は、石油、天然ガスまたは鉱物の商業的開発を促進するために
SEC の公表によると、当該内部告発者(匿名希望)は 100 万ド
行われるものであって、かつ僅少ではないものとし(金銭、現物で
ル超となる裁判所の制裁命令となった文書および「その他の重
あるかを問わず、単一の支払または一連の関連する支払で
[41]
要な情報」を SEC に提供し、そのうち 15 万ドルが回収された
。
100,000 ドル以上)、税金、ロイヤルティ、手数料、産出権、優待、
内部告発者への報奨は追加の制裁金が回収されるに従い増加
配当金、インフラ整備等の特定された区分のいずれかに該当す
することになろう。SEC は罰金刑を受けた会社の名称、詐欺の
るものをいう
性質、内部告発者と当該会社との関係は開示しなかった。注意
社の支配下にある企業体が米国連邦政府または外国の中央政
すべきは、SEC は、同じ事案で報奨金を求めた第二の人物の情
府もしくは地方政府(部署、省庁その他の政府機関または外国政
報は執行手続に結びつかない、または大いに貢献するものでは
府が過半数を所有する会社等、幅広く定義される。)に対し行わ
なかったという理由で、当該人物の請求は退けたことである。そ
れる支払を開示しなければならない
[45]
。発行会社は、当該会社、子会社その他発行会
[46]
。
れでも SEC の内部告発者部門長の Sean McKessy は、「我々
がこの業務を開始し、時宜を得た有用な情報をもたらした人々に
[42]
報奨金を支払う用意がある
。」ことを明言した。
[38] 十分な手続きに関する法務省の指針の全文は、http://www.justice.
gov.uk/downloads/legislation/bribery-act-2010-guidance.pdf に掲載。
[39] デイリー・メール誌上での David Green(勅選弁護士)の発言。 Dan
Atkinson「SFO boss David Green Act to End Fears of Bribery
Charges over Hospitality」(Daily Mail (2012 年 9 月 1 日))(http://
www.dailymail.co.uk/money/news/article-2196824/SFOs-Greenacts-end-fears-bribery-charges-hospitality.html?ITO=1490)
[40] SEC Press Release「SEC Issues First Whistleblower Program
Award 」( 2012 年 8 月 21 日)(http://www.sec.gov/news/press/2012/
2012-162.htm)
[41] 前掲。
[42] 前掲。
6
[43] SEC Press Release「SEC Adopts Rules Requiring Payment
Disclosures by Resource Extraction Issuers」(2012 年 8 月 22 日)
(http://www.sec.gov/news/press/2012/2012-164.htm)
[44] 前掲。
[45] 前掲。また、SEC Final Rule Release「Disclosure of Payments by
Resource Extraction Issuers」(Release No. 34-67717 第 64-65 頁)
(http://www.sec.gov/rules/final/2012/34-67717.pdf)を参照。
[46] これまでの FCPA 執行手続では、外国国家による当該企業の所有
比率が半数に満たなくても、政府は当該外国政府所有企業の従業員は
「外国公務員」に分類した。 例えば、ナイジェリアのボニー島(Bonny
Island)に関する数件の手続(DOJ Press Release「Marubeni
Corporation Resolves Foreign Corrupt Practices Act Investigation
and Agrees to Pay a $54.6 Million Criminal Penalty」(2012 年 1 月 17
日)(http://www.justice.gov/opa/pr/2012/January/12-crm-060.html 政
府当局の Nigeria LNG Ltd.所有割合が 49%しかなかったことを指摘。)
および SEC v. Alcatel-Lucent, No. 1:10-cv-24620(訴状は http://www.
sec.gov/litigation/complaints/2010/comp21795.pdf に掲載。国家が
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新規則は影響を受ける発行会社に SEC に毎年、次の項目別に
にとっては、フォーム SD 初提出期限が迫り来ることは、適切な
各事項を具体的に記載した新様式のフォーム SD を提出するこ
FCPA 遵守プログラムを創出するきっかけとなるであろう。資源
とを義務付けている。
採取会社が、当該会社に応じた、確立された遵守プログラムを構

各「プロジェクト」(SEC は定義していない。)のために行わ
れた支払の種類および総額

各政府に対して行われた支払の種類および総額

区分毎の支払総額

支払に使用された通貨

支払が行われた会計期間

支払を行った資源採取会社の事業部門

支払を受けた政府および受領者が所在する国

支払が関連する資源採取会社のプロジェクト[47]
築していれば、この新たなフォーム SD に対する追加質問により
よく対処することができる。
予想される DOJ・SEC 指針に関する最新情報
DOJ の司法次官補 Lanny A. Breuer が、DOJ は(SEC と共同
して)、「[FCPA の]刑事・民事関連の法執行に関する条項に関
する詳細な新指針を 2012 年に発表する」予定である(Breuer 氏
自身、かかる指針が「有用で透明性のある補助」となることを期待
している)と述べてから 1 年近くが経過したが、夏が終わっても何
SEC に対する報告は上記のように、会社の外国事業の詳細なロ
ードマップを添付して行われる。開示書面の不明瞭な部分につい
ては、当局による補足的な問合せをうけ、これは FCPA に基づく
広範囲な執行捜査に発展する虞があり、SEC は積極的に潜在
の指針も発表されていなかった。しかし季節は秋となった今、か
かる指針の発表が目前に迫っていると言える状況となった。解説
者らの予測では、2012 年 10 月 10 日パリで開催予定の経済協
力開発機構(「OECD」)の贈収賄禁止作業部会会議に先立ち指
針が出されるのではないかということであったが、何の指針も発
表されないままその日が過ぎた。現時点(2012 年 10 月末)で、
DOJ の広報担当者が述べるとおり、年内に発表される可能性が
高くなっている。
的な違反行為を示す情報を求め、フォーム SD を徹底して調べる
有名な経済団体および法律家グループが、DOJ 指針について
可能性がある。自己管理および自己申告はこれまで、多くの
自分たちの期待(そして希望)の概要を述べている。多くは、この
FCPA 執行手続の端緒において、きっかけを与える役割を果たし
指針を、FCPA 執行に大いに求められている改革をもたらす機
てきたが、資源採取会社については、新フォーム SD により当局
会とみている。しかしながら、当該指針で取り組まれる可能性の
主導の捜査件数が増加することになるかもしれない。
ある具体的な問題についての詳細は公式にはほとんど公にされ
資源採取会社は、最初のフォーム SD 提出期限(2013 年 9 月
30 日後最初に到来する当該企業体の会計年度末から 150 日以
内)に先立ち、FCPA 遵守プログラムの充足性を十分に確保して
[48]
おく必要がある
。影響を受ける発行会社は、現行の遵守プロ
グラムを活用することで FCPA とフォーム SD という 2 つの目的
を果たすことができる可能性もある。多くの場面で、フォーム SD
上で潜在的に開示され得る支払を特定し追跡することを目的とし
て計画された管理態勢を作り実行していくことが、FCPA をより厳
格に遵守することにつながり、1 年ごとのフォーム SD 提出は発
ていない。Breuer 氏は、2012 年 4 月、米国商工会議所法改正
機関(US Chamber of Commerce’s Institute for Legal
Reform)の指針に関する希望リストについての法律家の円卓会
[49]
議
に出席する直前に、インタビューにおいて、FCPA 執行への
コミットメントがこれほど大きくなったことはなく、この傾向は今後
も続くと思われると述べた。同氏は、当該指針についても触れ、
DOJ や SEC の努力や各方面の懸念事項を考慮している点をオ
ブザーバーが評価してくれることを願っていると述べた。但し、詳
細には触れず、指針の発表日に言及もしなかった。
行会社が現行の FCPA 遵守プログラムをより規則的、厳格にし
米国法曹協会(American Bar Association)の刑事司法部門
ていくことにもつながるかもしれない。実際、資源採取会社数社
(Criminal Justice Section)後援の 2012 年 6 月 5 日の FCPA
プログラムにおいて、司法次官補代理 John Buretta は、DOJ と
Telekom Malaysia Berhad の 43% を所有していると主張。)を参照。
SEC の新規則は、「外国政府」を国家が過半数を所有する企業を含めて
定義しており、したがって、国家の所有割合が半数以下の企業の従業員
は「外国公務員」でないことを示唆している。この点について、DOJ は
FCPA と SEC の新たな資源採掘関連の開示規則との繋がりを否定して
きた。U.S. v. Esquenazi, No. 11-15331-C at 34 n.10 (11th Cir. Aug.
21, 2012)の米国側主張書面を参照。
[47] SEC Press Release「SEC Adopts Rules Requiring Payment
Disclosures by Resource Extraction Issuers」(2012 年 8 月 22 日)
(http://www.sec.gov/news/press/2012/2012-164.htm)
[48] 前掲。
7
SEC は、有望な助言となると Buretta 氏自身が望む指針を作成
中であるが、作業は「かなりはかどっている」と述べ、指針は作成
中であるというかすかな希望がもたらされた。同氏はさらに、当局
は、オブザーバーからのコメントを非常に重く受け止めていること、
また、指針では FCPA の多くの側面(法令遵守プログラムや外
[49] D. Anthony Rodriguez が執筆したクライアント・アラート「Top
Enforcement Officials Meet with U.S. Chamber of Commerce
Regarding FCPA Guidance 」(2012 年 4 月 13 日)を参照。
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国公務員および外国の補助機関の問題を含む。)が検討される
ことを付け加えた
[50]
。子会社の活動に関する親会社の責任範囲、
買収前後のデューディリジェンスの基準、通常は執行手続の引き
金とはならない贈答品や接待の費用に関する細かい基準、企業
の責任に関する基準および拒絶決定(declination decisions)に
関する情報の提供と同様、これらの問題は、商工会議所が具体
的に取り上げた問題の一部である
[51]
。
M&A のためのデューディリジェンスおよび譲受人の責任の問題
に関する指針について、DOJ は、過去数ヶ月間の和解に至った
ほんの一握りの事件においてその理論を進展させている。中でも
注目すべきは、クロージング後の精査の実施や結果報告に関す
る強硬な期限を定めた Halliburton Opinion Procedure
Release 08-02 の厳しい基準と比べれば、DOJ は、かかるデュ
ーディリジェンス実施のスケジュールを緩和していると思われる
[52]
点である
。例えば、Data Systems や Bizjet の訴追延期合意
は、M&A の可能性について「妥当なリスクを根拠とした」腐敗防
止のためのデューディリジェンスを実施し、「可及的速やかに」腐
敗防止の方針と手順を実施し、さらに、新たな買収・合併の対象
より柔軟に対応する方向であることを示している。これらの点が
来たる指針にどのように反映されるかは現時点ではまだ不明で
ある。
結論
2012 年夏の進展状況をみても、当局による積極的な FCPA 執
行は依然注視すべき事項であることが明らかである。腐敗行為
に対する世界的な取組みの重要性が増し、取組みの範囲が拡
大するなか、期待される DOJ 指針により FCPA 執行の輪郭が
幾分明確化される可能性はあるが、企業は、腐敗行為防止法令
の遵守を最優先するのが賢明である。
執筆者:ポール・T・フリードマン(Paul T. Friedman)、ケイリー・ブ
レア(Keily Blair)、デミ・ドゥフィキアス(Demme Doufekias)、マデ
リン・A・ヘンスラー(Madeleine A. Hensler)、ブライアン・ニール・
ホフマン(Brian Neil Hoffman)、ルティ・スミスライン(Ruti
Smithline)およびステイシー・M・スプリンケル(Stacey M.
Sprenkel)
企業について、FCPA 上の詳しい監査を「可及的速やかに」実行
[53]
することを会社に義務付けている
。同様に、Pfizer の訴追延期
合意は、「FCPA 上のリスク評価に基づき実行可能かつ妥当な場
合」、企業の買収を行うのは腐敗防止のデューディリジェンスの
実施後にすること、そして、かかる買収前デューディリジェンスが
妥当ではあるが実行不可能な場合、買収後にそれを行うことを
[54]
定めている
。Pfizer は、Bizjet や DS&S の和解合意同様、「可
及的速やかに」方針を実行することを義務付けられているが、
Bizjet や DS&S と異なり、「クロージング後 1 年以内」という期限
[55]
が定められている
。このような和解合意は、DOJ は、
Halliburton 手続に従った妥当なデューディリジェンス、監査およ
び方針の実施を強く求めてはいるが、その実施時期については
[50] 米司法省刑事局司法次官補代理 John Buretta のコメント「The
New Era of FCPA Enforcement and the Collapse of the Africa Sting
Cases: Time to Reevaluate?」(Dorsey & Whitney LLP および Pepper
Hamilton LLP の協力による米国法曹協会 (American Bar
Association(ABA)) 刑事司法部門 (Criminal Justice Section) および
ABA 弁護士継続研修センター後援プログラム) (2012 年 6 月 5 日)
[51] 上記脚注 49 を参照。
[52] DOJ Opinion Procedure Release 08-02 (2008 年 6 月 13 日)。
[53] United States v. BizJet Int’l Sales and Support Inc., No. 4:12CR-00061, (C-6) (N.D. Okla. Mar. 14, 2012)(http://www.justice.gov/
criminal/fraud/fcpa/cases/bizjet/2012-03-14-bizjet-deferredprosecution-agreement.pdf)、United States v. Data Systems &
Solutions LLC, No. 1:12-CR-00262, (C-6)(E.D. Va. June 18,
2012)(http://www.justice.gov/criminal/fraud/fcpa/cases/datasystems/2012-06-18-data-systems-dpa.pdf)。
[54] United States v. Pfizer H.C.P Corp., No. 1:12-CR-00169, (C.2-6.
C.2-7)(D.D.C. Aug. 7, 2012)(http://www.justice.gov/criminal/
fraud/fcpa/cases/pfizer/2012-08-07-pfizer-dpa.pdf)。
[55] 前掲。
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November 2012
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