卸薬業H23.9月号

第 337 回
Q
No.1514
Q
耳式体温計は管理医療機器販売業の届出がなく
No.1515
喘息患者への鎮痛剤の投与について知りたい
ても販売できますか
(2010/07/30、歯科医より)
Answer
Answer
平成 17 年4月1日の薬事法改正により、「高度
調査方法によりデータが異なるが成人喘息患者
管理医療機器」及び「特定保守管理医療機器」は、
の約4~28%にNSAIDsにより誘発されるアスピ
許可がないと販売・賃貸できなくなりました。
リン喘息患者が見られる。明らかにアスピリン
また、「管理医療機器」を販売・賃貸する場合は
喘息と違うと判断できる患者に対しては鎮痛剤
届出が必要となりました。ただし、「管理医療機
(NSAIDs)の投与は可能であるが、アスピリン喘
器」のうち、電子体温計(赤外線方式は除く)・女
息であった場合NSAIDs投与直後から1時間ぐら
性向け避妊用コンドーム・男性向け避妊用コンドー
いの間に発作が起こり、時に意識障害を伴うほど
ムについては、届出の必要はありません。(平成 17
の大発作となり死亡例もあることから、不明の場
年3月 18 日付 厚生労働省告示第 82 号)
合は鎮痛剤の投与は慎重に行うべきである。
耳式体温計は赤外線方式ですので対象外とな
貼付剤、塗布剤、点眼剤でも発作は生じるが一
り、管理医療機器販売業の届出が必要です。卸・
般的に症状は軽く、発現も遅い。小児喘息患者の
薬局はみなし規定で届け出の必要はありません。
場合アスピリン喘息は稀であり発症は思春期以降
■主な耳式体温計
に見られ、多くは 30~40 代に発症するが、やはり
慎重を期すべきである。
メーカー
商品名・型番他
テルモ
ミミッピヒカリ EM-30CPL( ブルー、イ
エロー、ピンク)
阻害薬(セレコキシブ等)や塩基性消炎鎮痛剤な
オムロン
けんおんくんミミ MC-510
ど使用するほうが安全である。アセトアミノフェ
ピジョン
耳チビオン
シチズン
耳式体温計 CT820
原沢他
アスピリン喘息が疑われる場合は選択的COX-2
ンは一部安全との報告はあるが 1000mg以上の高用
量になると過敏反応を誘発する。オピオイド鎮痛
剤、鎮痙剤等は安全である。
ファミドック
(平成23年6月現在)
【参考資料】
〈解説〉
アスピリン喘息には特徴があり下記症状のある
患者はアスピリン喘息の可能性が高い。
・告示第 298 号(平成 16 年7月 20 日)
(http://www.
①成人になってから喘息を発症
hapi.or.jp/documentation/yakuji/pdf/620.pdf)
②女性(男女比4:6程度でやや女性が多い)
・管理医療機器一覧 別表第2(改正:平成 20 年
③通年性の鼻炎症状(鼻水、鼻づまり)がある
7 月 11 日 )
(163 耳 赤 外 線 体 温 計 )
(http://www.
est.hi-ho.ne.jp/matsuna/02_kanri_kikilist.html)
・告示第82号(平成17年3月18日付)
(http://www.
japal.org/contents/20050318_0318_82.pdf)
〈執筆協力会社〉東邦薬品㈱小山営業所
④慢 性副鼻腔炎(蓄膿症)や鼻ポリープを合併し
ている、又はその手術を受けたことがある
⑤嗅 覚異常、無嗅覚症(においを感じない)の合
併症がある
⑥アレルギー検査の結果が陰性(非アトピーである)
Vol.35 NO.9 (2011)
35 (575)
⑦季節に関係なく喘息発作が起こる
Ⅱ 早期対応
⑧著 明な末梢血好酸球増多(一部の血球の増加)
①基 本的には通常急性喘息発作に対する対応と同
が見られる場合
じであるがエピネフリンの筋注・皮下注が有効
上記の複数の特徴があれば、アスピリン喘息と
であることと、ステロイド剤の急速静注は危険
して取り扱う事。以前安全にNSAIDsを服用でき
た事が確認できても、鼻症状や喘息発症発現以前
の場合もありNSAIDsの安全性を保障するもので
はない。
である事を十分理解しておく
( 月 刊 卸 薬 業 2010.4、Vol34No 4 DI実 例 集Q
No.1463 参照)
②NSAIDs使用後数時間は急速に症状が悪化しや
以 上 の よ う に ア ス ピ リ ン 喘 息 の 場 合 は 鼻・
副 鼻 腔 炎 の 合 併 頻 度 が 著 し く 高 い 特 徴 が あ り、
すいことから、迅速対応が必要
③ま ずSpo 2をモニターし、十分な酸素投与、次
NSAIDsによる過敏症の既往の確認と臨床像から
い で エ ピ ネ フ リ ン 筋 注(0.1~0.3mL) を 行 う。
アスピリン喘息の可能性を考える事が予防にとっ
エピネフリンは皮下注より、筋注のほうが即効
て極めて重要である。
性がある
○ア スピリン喘息の早期発見と早期対応、予防の
ポイント
④その後末梢静脈を確保
⑤重症発作の場合は、救命救急施設に搬送
1.喘息患者にNSAIDsを投与する際の注意と問題点
①NSAIDsによる発作の誘発歴がある場合
⑥エ ピネフリンは、喘息症状、鼻、消化器、皮膚
など全てのNSAIDs過敏症状に奏功するため積
負荷試験などで確定しない限りアスピリン喘息
極的に使用すること。禁忌でなければ2~3回
として取り扱うべきである。
繰り返し用いても良い
②NSAIDs服用歴が無い場合
上述の臨床像を参考にする。耳鼻科的診断(X-
⑦ス テロイド+アミノフィリンは通常喘息発作と
同様点滴で用いる
線写真を含む)により副鼻腔炎が否定でき、そ
特にステロイド併用時は急速静注しない
の他のアスピリン喘息の特徴が無い場合はアス
⑧鼻 閉、顔面紅潮、皮疹を認める症例は、抗ヒス
ピリン喘息を否定しても良いと思われる。
③喘 息発症前にNSAIDsを副作用無しに服用でき
た場合
タミン剤の併用も考慮(症状発生にはヒスタミ
ンも関与)
⑨内 服可能であれば、直ちに抗ロイコトリエン薬
喘息発症前の状況は参考にならず②に準じて処
理すること。
④喘 息発症後にNSAIDsを副作用無しに服用でき
を内服する
⑩最 初の数時間を乗り越えれば、原因NSAIDsも
薬理学的効果消失と共に発作も改善
3.患者側のリスク因子
た場合
アスピリン喘息を否定しても良い。
2.NSAIDsによる過敏症状の早期診断と早期対応
のポイント
患者側の喘息コントロールが不十分な例や、喘息
発作を繰り返している重症例にアスピリン喘息が誘
発されれば非常に重篤な発作につながりやすい。
Ⅰ 早期診断
4.原因薬に関連したリスク因子
①NSAIDs投与後急激な喘息発作と鼻症状の悪化
①坐薬、注射薬は急激な発作につながる
(鼻汁鼻閉等)は本症を強く疑う
②下記の様な場合は過敏症状でない可能性が高い
a)誘発症状出現のタイミングが合致しない場合
b)発作が軽い
c)鼻症状を伴わなく喘息発作だけである
*症 状は、注射薬>坐薬>内服薬>貼付薬・塗
布薬の順で早く且つ強く起こる。
又、NSAIDsを含む点眼薬でも発症する。
②解 熱鎮痛効果の強い薬剤やCOX-1 阻害作用の強
いNSAIDs(インドメタシン、アスピリン)は
重症発作を誘発しやすい
③長 時間効果のあるNSAIDsは、誘発症状が遷延
化する
5.副作用(発作)の概要
①自 覚症状:原因となるNSAIDs服用から通常は
1時間以内に、鼻閉、鼻汁に続き、咳、息苦し
さ、時に嘔気、腹痛、下痢など腹部症状出現
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②他覚所見:NSAIDs使用後、1時間以内に鼻閉、
(2)鼻症状(鼻閉、鼻汁)悪化を伴う
強い喘息発作、咳嗽を認める
↓Yes
誘発症状が強い例では、頚部から顔面紅潮、消
(3)喘息発作が中等度以上
化器症状を認め易いが皮疹は少ない。過敏症状
↓Yes
は軽症例では、約半日、重症例では 4 時間以上
(4)貼付用、塗布用を除きNSAIDs投与から1~
続くが、症状のピークは原因となるNSAIDsの
2時間以内に発作が始まっている
効果発現時間である。但し血管浮腫などの皮疹
例は発現が遅れ持続も長い
↓Yes
NSAIDs過敏症(喘息)と確定
③臨 床検査成績:急性期は、検査より喘息発作の
②NSAIDsによる負荷試験:アスピリン喘息は疑
治療が優先され、症状が重症のため動脈血の炭
陽性・偽陰性が少なくなく病歴は不確実である
酸ガス分圧上昇に注意。過敏症状に関するメ
為確定診断にはNSAIDsでの負荷試験が必要。
ディエーターはcysLTsであるのでその代謝産物
日本ではスルピリンやトルメチンを用いる吸入
の尿中LTE4 の著増を認める
負荷試験が多い。短時間で行える事と全身性の
④NSAIDs過敏性獲得:不明。家族内発生はまれ
過敏反応を起こす事が少ないという利点がある
⑤NSAIDs過敏反応機序:PG合成酵素のCOX-1 阻
が、気道以外の症状が誘発されにくく、特異的
害により過敏症状誘発。COX-1 阻害により内因
な気道刺激による反応が出易いのが欠点。
性PGE2 が減少、何らかの機序によりマスト細
内服負荷試験はNSAIDsの通常の投与ルートに
胞が活性化され、cysLTsを過剰生産し、過敏症
沿った負荷方法で実施に数日を要し、全身症状
状が発現すると考えられている。したがって、
が惹起される危険性がある。何れも過敏症状を
COX-1 阻害作用の強いNSAIDsほど過敏症状を
誘発する事になるため、有益性が危険性を上回
誘発し易く、誘発症状は強力である
ると判断される場合に最大限の注意を払い実施
⑥原因薬剤の過敏症状の差
(1)解熱鎮痛効果の強力な薬剤。すなわちCOX-1
阻害作用の強いNSAIDs程激烈な副作用を生じ
易い
すべきである。
7.鑑 別が必要な疾患(アスピリン喘息でないと
思われるもの)
①た またまNSAIDs使用中に発生した喘息発作:
(2)吸収が早い薬剤程急激な過敏症状を呈す
(3)NSAIDsの共通の薬理作用(COX-1 阻害作用)
によるため化学構造上の共通点は無い
⑦副 作用の発現頻度:例外なくNSAIDsにより過
敏症状を呈す
常に鑑別が問題となるが通常前述①の(2)
(3)
(4)を満たさない事が多い。
②NSAIDsアレルギー:特定のNSAIDsに対しての
みアレルギー症状を発現する場合をさす。過去
に原因となるNSAIDsの使用歴があり、感作さ
⑧アスピリン喘息の頻度:成人喘息の約 10%とされ
れた結果生じるアレルギー反応。誘発症状はア
るが、喘息が重症になるほど頻度が高い。対象母
ナフィラキシー症状や皮疹が主体となるが、も
集団により頻度は異なり、下記のようになる
ともと気道過敏性を有する例では、喘息発作も
(1)小児喘息:まれ
(2)思春期発症の喘息患者:少ない
誘発されるため、鑑別は困難。
③皮 疹型NSAIDs不耐症:アスピリン喘息と同じ
(3)成人発症の喘息患者:約 10%
く、COX-1 阻害作用の強いNSAIDsで蕁麻疹/血
(4)重症成人喘息患者:30%以上
管浮腫を生じるが、気道症状は少ない。
(5)鼻茸及び副鼻腔炎を有する喘息患者:50%
以上
8.治療方法
①急性期(NSAIDs誘発時):通常急性喘息発作と
6.アスピリン喘息の診断手順
同様処理。急激な悪化のため、下記治療を迅速
①アスピリン喘息と思われる判別(鑑別):以下の
に行う。まず、Ⅰ、Ⅱの処置を行った後救急施
4点を満たせばアスピリン喘息と確定
(1)COX-1阻害作用のあるNSAIDs投与後の発作
↓Yes
設(可能ならば喘息専門救急)に搬送
Ⅰ 十分な酸素化を行う
Ⅱ エ ピネフリン早期及び繰り返しの投与(筋
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肉内注射)
Ⅲ ア ミノフィリンと副腎皮質ステロイド(リ
ン酸エステル型)の点滴(急速静注は禁忌)
Ⅳ 抗ヒスタミン剤の点滴投与
ⅴ 可能ならば抗ロイコトリエン剤を内服
②慢性期(長期管理)
Ⅰ 通 常の慢性喘息と同様処理で吸入ステロイ
ド剤が基本となる
Ⅱ 抗 ロイコトリエン剤、クロモリン等が有効
性が高い
Ⅲ 鼻 茸、副鼻腔炎の治療(内視鏡下手術、点
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鼻ステロイド)は喘息症状の安定化になる
Ⅳ 不 注意や誤りによるNSAIDs投与防止のた
め、病状説明書や患者カードの携帯を勧める
【参考資料】
1.
「重篤副作用疾患別対応マニュアル」―非ステ
ロイド性抗炎症薬による喘息発作―:厚生労
働省
2.
「喘息予防・管理ガイドライン 2009」社団法人
日本アレルギー学会 喘息ガイドライン専門
部会 監修
〈執筆協力会社〉中澤氏家薬業㈱高知本社DI室