生活保護費等不適正事務の総括

生活保護費等不適正事務の総括
平成22年9月
鈴鹿市社会福祉事務所
目
1
はじめに
2
事務取扱上の問題点
次
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
・・・・・・・・・・・・・・・・・3
・スキルアップの欠如
・コンプライアンス意識の欠如
・組織的対応の欠如
3
4
第三者委員会からの指摘事項
・・・・・・・・・・・・・4
ア
法令遵守の相互確認
イ
決裁の徹底
ウ
現金取扱いの見直し
エ
ケースワーカーの増員と質の向上
オ
不正事案に対する組織的対応
すでに取り組んだ福祉事務所の再発防止の改善策
・・・・5
○法令遵守の相互確認
○決裁の徹底
○現金取扱いの見直し
○ケースワーカーの増員と質の向上
○不正事案に対する組織的対応及び組織風土の改革
5
不適正に支出されたと認定された国庫負担金等への対応
6
関係職員の処分等について
・6
・・・・・・・・・・・・・・7
○介護タクシー不正請求に対する事案
○生活保護費等の不適正な事案
7
おわりに
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
-1-
生活保護費等不適正事務の総括
1 はじめに
このたびの生活保護費不正受給事件は,元生活保護受給者Aが中心となり親族,知人
等を生活保護を受給せしめ,自らの通院移送費とこれらの者の通院移送費について,タ
クシー運転手Bと組み通院移送費代を鈴鹿市から詐欺を図った事件を発端に発覚した
事案である。
Aが関係した者は,被保護者30数人に上る。また期間も平成15年から平成19年
の長きに亘るとともに,移送会社も一般タクシーから数社の介護タクシーに関連し,複
雑な様相を呈した。具体的には,一般タクシーの不正として通院においてタクシー利用
が認められた者は,タクシー料金を支払いその領収書と通院証明書を市に提出し,いわ
ゆる立て替え分の現金を受給するという方法をとっていた。
平成15年度から平成17年度にかけて,Aはタクシー会社のアルバイト運転手であ
ったBと組み,Bの勤務していたタクシー会社の手書きの領収書を使い,A本人が通院
したように装い,偽造の領収書を提出し,市から移送費を搾取していた。
さらに,いわゆるAグループ数人の名前を使い架空の移送費や水増しした移送費の領
収書をもって,Bが窓口に来てその金銭を直接受けとり,市から移送費をだまし取って
いた。
その間平成16年4月に介護タクシー制度が整備をされ,平成17年度に許可を取得
する事業所が市内でも現れるが,平成18年度から事業所の増加とともに一部の事業所
にAグループの利用者が集中するようになる。
それとともに通院移送の中心であったBが働いていた一般タクシー会社の利用はほ
とんど無くなった。これは,Bが介護タクシー業者に移るとともに,Aの介護タクシー
業者への働きかけがあったことが推測される。
また,平成19年11月にそれまで通院において,タクシー等利用を認めていた者が
使っていた介護タクシー3社の請求に本来請求できない違法な待機料が含まれ,それを
支払ってきたことが問題となった。この待機料の請求については,根拠法令がなく違法
であるとし,3事業所にそれぞれ過去に遡り平成20年1月に返還を求め,事業者も違
法性を認め全額返還に応じた。
こうしたなか平成20年10月に厚生労働省の特別監査,11月に一般監査を受け,
一般タクシー及び介護タクシーにおける通院移送費,またそれ以外の治療材料費等の他
の一時扶助についても不適正な請求を指摘された。また,平成21年3月25日に第三
者委員会「鈴鹿市生活保護調査委員会」から専門的・法的視点や市民目線での客観的か
つ公正な検証と再発防止の提言をいただいた。この案件が長期にわたる内部統制の問題
であり,「杜撰で無責任」な事務であったという非常に厳しい報告を受けた。詐欺を働
く人間がいたとはいえ,付け込まれる隙を与え,事件を最小限にとどめることができな
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かったことを深く反省している。
なお,このうち立件可能な平成17年7月20日から平成18年2月20までの間の
通院移送費についてA・Bを告訴した。(平成21年4月10日,A・Bに対し損害賠
償請求を提訴し,同年6月2日勝訴した。
)
このたび,国・県との協議の結果,不適正な支給とされた額が確定したこと,また,
関係職員への処分がなされたこと,返還対象額の市への寄付等の準備が整ったことから
改めて事案の総括をするものである。
2 事務取扱上の問題点
(1)法令・通知に示された手続きを踏むことなく,通院移送費を支給していた。
(2)必要な決裁を仰ぐことなく,担当者の判断で支給していた。
(3)生活保護費を本人以外の者に支払うなど,現金の取り扱いに問題があった。
(4)担当者による個別援助(ケースワーク)が不十分であった。
(5)通院移送費が高額に上っても,担当者任せで組織的対応を取らなかった。
こういった背景及び原因については,通院移送費に関しては,保護変更申請書,医師
の要否意見書,医師の証明印,嘱託医協議の欠落,また一時扶助等についても医師の要
否意見書,見積書等の必要書類の不備があった。また事務処理において課長決裁を受け
ずに担当ケースワーカーが独自で支給可否の判断を行って事務が進められており,追認
決裁が長年に亘って行われていた。
また,今回の事案は個人のスキルもさることながら,組織的な対応が十分でなかった
事が招いた結果である。
具体的には下記事項について検証を行った。
・スキルアップの欠如
生活保護受給者の自立支援に向けた個別援助をしていこうとする意識と技術力が十
分に備わっていたとは言えない。このようなことから,さまざまな社会保障制度の知識
が求められ,各種研修に積極的に参加をするなど自己研鑽を積むことにより専門性の向
上を図ることが必要である。また,問題ケースについては必要に応じてケース診断会議
に諮り適正な手続きを踏むことが必要である。
・コンプライアンス意識の欠如
法令を遵守することは当然のことであるが,その当然のことが出来ていなかった。
そのことから,生活保護法・鈴鹿市予算の編成及び執行に関する規則等法令・規則に示
された手続きを踏むことなく,また,必要な決裁を仰ぐことなく保護費を支給していた。
職員一人ひとりが生活保護法に基づく遵守意識をしっかり持ち,法令を順守しながら
業務を行っているか,公金支出に対する事前チェックも所定の手続きを踏んでいるか確
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認が必要である。
・組織的対応の欠如
厚生労働省並びに調査委員会の指摘にもあるように,「前例踏襲・ことなかれ主義」
で現状を改善することなく組織全体で黙認しあい,組織的対応を取っていなかった。担
当者は,査察指導員とともに上司の指示を仰ぎ,管理職も積極的に関与し組織的対応を
すべきであった。
事務引継ぎを含め,組織として問題への取り組みが不十分であり,福祉事務所の組織
強化や処遇困難ケース,危機管理としての対応が必要であった。
ケースワーカーは決裁権者である課長までの決裁を仰ぐことなく,支給の要否と毎回
の支給を個人で判断を求められていた。このことについては良くない事と認識しつつも
以前から行われてきた事務処理であり,改善に向けた取り組みができていなかった。
査察指導員・グループリーダー・生活支援課長は,良くない事と認識しつつも,ケー
スワーカーも多忙だから仕方ないと黙認し,事後的に印を押すだけであった。
なぜ,具体的行動に結びつかなかったのか。それは査察指導員・グループリーダー・
生活支援課長の担当者任せの姿勢にあったのではないか。このことは,組織としての体
をなしていなかったことと言える。
生活支援課長等は,問題をブロック・遮断していたため社会福祉事務所長や保健福祉
部長には情報が上がっていなかった。相談が上がってこないのであれば,上司のほうか
らアプローチをしなければならない。そして,上司が先頭に立って,自ら考え,行動し
てこそ組織の連帯感が熟成されるものである。
今回の問題については,社会福祉事務所長への委任事務であるが,市長,副市長は組
織的対応のなかで管理・監督責任があった。
3 第三者委員会からの指摘事項
ア 法令遵守の相互確認
職員一人ひとりが法令意識をしっかり持つことがもちろん基本であるが,職員一人
ひとりが法令を遵守しながら業務を遂行しているか,組織で確認し合うことが必要で
ある。
イ 決裁の徹底
生活保護の開始・廃止を含め,調査・決定・措置・指導は,すべて保健福祉部生活
支援課長までの決裁を仰げば良いとされている。これを生活保護の開始・廃止や,通
院移送費の支給の要否判定といった重要事項は,社会福祉事務所長までの決裁に改め
る。
ウ 現金取扱いの見直し
生活保護費の支払いに際し,本人以外の者に支払う場合は,代理権の確認など行う
こと。
エ ケースワーカーの増員と質の向上
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福祉の専門資格を持った者をあらかじめ一定数採用する「福祉職採用」を検討すべ
きである。
オ 不正事案に対する組織的対応
今回問題となった通院移送費については,現在,その支給事務は適正化されている
ものの,不正の温床になりがちなタクシー事業者による「現物給付」を抜本的に改め,
生活保護受給者が一旦立て替え,生活保護受給者に後で支払う「現金給付」とすべき
である。
4 すでに取り組んだ福祉事務所の再発防止の改善策
福祉事務所の再発防止策
このたびの生活保護費不正受給事件については,市民の皆様に大きな不信を引き起
こし,生活保護行政に対する信頼を大きく損なうことになった。
このような事件の再発防止に向けた改善策として,鈴鹿市社会福祉事務所として平
成19年12月10日に移送支援費の多額支給が発覚してから,次のような改善を行
ってきた。
○ 法令遵守の相互確認
・保護の実施決定に係る判断基準取扱指針及び実施要領の策定を行い,そのなかでの
実施基準により事務を進める。
・問題事例・困難事例については,ケース診断会議を開催し,組織として案件の検討
を行う。ケース診断会議には,社会福祉事務所長,生活支援課長も参加。
・査察指導員2名を配置し,ケースワーカー同士の横のつながりの強化を図った。
○ 決裁の徹底
・保護の開始・廃止・停止・却下の決定を課長決裁から福祉事務所長決裁とした。
・生活保護電算システムの改修を行い,業務の適正化,後追い決裁の未然防止のため
電算システムにバーコードリーダーで決裁済を入力するよう改修を図った。
○ 現金取扱いの見直し
・委任状の確認,代理人による受領の証拠を残すなどの対応を徹底する。
・金銭管理能力がないため金銭管理を第三者に委ねざるを得ない場合は,成年後見制
度や日常自立支援事業といった正規の制度・事業の活用を促し,安易に第三者へ支払
わない。
○ ケースワーカーの増員と質の向上
平成21年 4月 ケースワーカー2名,就労指導員1名の増員
平成21年10月 ケースワーカー2名
面接相談員2名(社会福祉士)
嘱託職員1名の増員
平成22年 4月 ケースワーカー3名
増員(うち社会福祉士2名)
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○ 不正事案に対する組織的対応及び組織風土の改革
・今回問題となった通院移送費については,タクシー事業者による「現物給付」から,
生活保護受給者が一旦立て替え,ケースに応じて生活保護受給者に後で支払う「現金
給付」へ見直しを図る。
・移送要否意見書については,嘱託医承認のほか,タクシー利用の場合は,特に他の
医療機関での検診命令をかけ,セカンドオピニオンを得ることをルール化する。
・チームで仕事をするということが欠けていた。そのことから,何かあれば皆が自分
の問題としてとらえ,話し合い,解決していかなければならない。職員が,規律を重
んじながら,仕事を通じて市民全体に奉仕するという公僕としての誇りと使命感を持
って明るく楽しく和気藹々と業務に取り組む職場をめざす。
5 不適正に支出されたと認定された国庫負担金等への対応
国庫負担金等の返還は,一般的には個別法に定められているもの以外は補助金適正化
法に基づき,一般的には会計検査院等の指摘により,監督官庁が当該交付決定の処分を
行い,通常は公金にて返還される。
本件は,平成20年10月,11月に厚生労働省の監査を受け,そのなかで通院移送
費一時扶助等についての事務処理において保護費の支出が不適正と判断され,事業実績
報告書の訂正ということによる精算にて国庫負担金の返還を求められた。
不適正とされた金額 58,498,321円
国:43,873,739円
市:14,624,582円
以上の返還金のうち,国庫分(3/4)は平成21年度3月市議会定例会で補正予算
にて計上し議決され,国からの通知に基づき平成22年4月14日に支払いの手続きを
行った。
不適正とされた金額については,この案件が長期間にわたる内部統制の問題であった
こともあり,行政への信頼回復のため市民には迷惑をかけない方法で対処することにな
った。
そのことから,「生活保護移送費等に係る寄付を募る会」という任意団体を平成22
年4月20日有志で設立し,関係管理職員,関係一般職員並びに一般管理職に対して寄
付を募り,また併せて鈴鹿市職員共済組合にも協力をお願いした。
このたび不適正とされた金額の対応について,「生活保護移送費等に係る寄付を募る
会」が,関係職員,一般管理職等並びに鈴鹿市職員共済組合から寄付を受ける額と生活
保護費国庫負担金の返還に係る一連の事件の経過を踏まえた市長の給与減額措置の控
除分(10%相当額・1年間)とを合わせ,市への寄付の準備が整った。
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6 関係職員の処分等について
○ 介護タクシー不正請求に対する事案(平成20年5月13日)
文書訓告 4名,口頭注意 6名
《事案の経緯等》
介護タクシー制度は,運行サービスの規制緩和と福祉輸送サービスの拡大を狙い,平
成16年度より実施された。鈴鹿市では生活保護受給者の通院に関して,平成18年4
月から移送費の請求が始まり,同年9月から待機料が加わった。
ところが,介護タクシー業者からの請求額が高額になってきたため,不審に思い,県
へ問い合わせたところ,「市町の判断による」という回答であった。しかし,待機料を
請求できない業者もあることが分かり,関係機関に問い合わせたところ,待機料を支払
うことができない業者であることが判明した。そこで過去に遡り,介護事業者の請求書
を洗い出した結果,3事業者に対し返還請求を行った。また送迎ルートの不自然な点に
ついても修正をさせ,運賃分についても返還納付に至った。
しかし,料金体系の確認など初歩的な事務処理を欠いたことなどが新聞報道され,市
民の信頼を損ねる結果となった。
○ 生活保護費等の不適正な事案(平成22年3月29日)
戒告
2名,文書訓告 6名,口頭注意 9名
《事案の経緯等》
平成20年10月に厚生労働省の通院移送費についての特別監査や平成20年11
月に厚生労働省の一時扶助等についての一般監査を受け,通院移送費に関しては,保護
変更申請書,医師の要否意見書,医師の証明印,嘱託医協議の欠落,また一時扶助等に
ついても医師の要否意見書,見積書等の必要書類の不備を指摘された。
また,事務処理において課長決裁を受けずに担当ケースワーカーが独自で支給可否の
判断を行って事務が進められており,追認決裁が長年に亘って行われていたことが指摘
され,その結果として国庫負担金の返還を求められることになった。
7 おわりに
このたびの生活保護費等不適正事務で,市民の皆様に多大のご迷惑をお掛けし,行政
への信頼を大きく揺るがせたことにつきまして,改めて深くお詫びいたします。
また,現在の厳しい社会情勢のなか,本市においても雇用問題や新規保護件数激増な
ど様々な課題はございますが,新たな決意の下に再発の防止及び信頼の回復を進め,今
後への貴重な教訓としてコンプライアンスの熟成に向けて,信頼される市役所を早く取
り戻すため全力で取り組んでまいりますので,皆様のご理解とご協力をお願い申し上げ
ます。
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