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重油ボイラにおけるDME燃焼技術の開発(PDF:633 KB)

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重油ボイラにおける DME 燃焼技術の開発
小林 雅律
要旨
DME はクリーンで扱いが容易な次世代燃料として期待されており、製造・流
通・利用の各方面で技術開発が行われている。出光エンジニアリング(株)では、
2002 年から産業用重油ボイラを DME 焚きに転換する技術開発を進めており、
燃
焼炉による基礎試験を経て、今年度からは実際のボイラによる実証試験を実施し
ている。これまでの試験から、既存の重油ボイラには DME の液燃焼が適してお
り、適切な条件で運転すれば、ボイラをほとんど改造せずに燃料転換が可能であ
ることが明らかになった。燃料転換のメリットおよび留意点、対策などについて
概説した。
1
DMEとは
DME(ジメチルエーテル)は、従来よりスプレ
液化する。運搬や貯蔵もLPGのインフラをほぼ
ー用噴射剤などに利用されてきた化学製品だが、近
そのまま活用でき、LNGのような極低温設備は不
年、これを燃料として利用する試みが盛んに行われ
要である。
ている。
③用途が広い
燃料としてのDMEの特性をまとめると、以下の
従来のガス体燃料と同様、ボイラや加熱炉、ガス
ようになる。またDMEと他燃料の物性比較を表1
タービンの燃料として利用できるほか、セタン価が
に示す。
高いため、ディーゼル機関への適用も可能である。
①多様な原料から製造できる
また、改質が容易であることから、燃料電池用の水
現時点では、経済性の観点から天然ガスを原料と
素キャリアとしても注目されている。
した方式が先行しているが、原理的には石炭、バイ
④低公害
オマスなど様々な原料からの合成が可能である。
燃料中に硫黄分を含まないため、燃やしても硫黄
②ハンドリングが容易
酸化物を生じない。またスモークレスであることか
DMEの飽和蒸気圧はブタンとプロパンの中間程
ら、ディーゼル機関の排気改善にも非常に有効であ
度で、常温下で6気圧程度の圧力を加えると容易に
る。
表1 DMEの主な物性
DME
プロパン
n-ブタン
メタン
メタノール
CH3OCH3
C3 H 8
C4H10
CH4
CH3OH
-
-25.1
-42.0
-0.5
-161.5
64.6
180-370
液密度(g/cm3,20℃)
0.67
0.49
0. 57
-
0.79
0.84
ガス比重[対空気比]
1.59
1.52
2.00
0.55
-
-
蒸発潜熱(kcal/kg)
111.7
101.8
92.1
121.9
262.0
6.1
9.3
2.4
246
-
爆発限界(%)
3.4-17.0
2.1-9.4
低位発熱量 (kcal/kg)
6,900
11,100
55~60
5
項 目
化学式
沸点(℃)
飽和蒸気圧
セタン価
(atm,
25℃)
1.9-8.4
10,930
10
軽油
60.0
-
5.0-15.0
5.5-36.0
0.6-6.5
12,000
4,800
10,000
0
5
40-55
以上のように、DMEは燃料として多くの長所を
有しており、出光グループでも普及に向けて製造・
流通・利用の各分野で様々な取り組みを行っている。
そのなかで、出光エンジニアリング(株)進めてい
ができれば、改造コストが抑制され、LNGなど他
燃料に対するアドバンテージとなりうる。
液燃焼採用に当たっての検討ポイントは以下の通
りである。
る産業用重油ボイラへのDME利用技術の開発につ
①重油バーナでの安定液燃焼が可能か
いて紹介する。
②ベーパロック現象の防止にはどの程度の圧力が
必要か
2
ボイラ利用に向けての課題
③負荷調整幅(ターンダウン割合)は確保できる
2.1ボイラを取り巻く状況
か
現在、日本国内には約 5 万基の産業用ボイラが設
置されており、その 8 割は重油が燃料である。一方、
近年の環境意識の高まりや都市部を中心とした排ガ
④ボイラ性能への影響はないか
以上を検証するため、専用の燃焼設備による試験
を実施した。
ス規制の強化を受けて、よりクリーンな燃料への転
換ニーズが高まっており、近年は重油を天然ガスに
3
切り替える事例が目立つ。
3.1供試設備
その中にはLNGをバルク輸送し、事業所内に極
燃焼試験結果
図1に試験燃焼炉の外観およびバーナ構造を示す。
低温タンクを設置して利用する動きも見られるが、
燃焼炉はブロック毎に分割された炉内径 800mm の
特に中小規模のボイラでは設備コストの高さが問題
水冷ジャケット構造となっており、冷却水温度から
となる。一方、DMEであればLPG並の貯蔵・供
各ブロックの集熱量が測定できる。定格燃焼量は
給設備で済み、より少ない設備投資で導入できるた
1050MJ/h である。燃料のDMEは貯槽を窒素で加
め、転換燃料として有望である。
圧することにより、最高 3.0MPa まで昇圧し、バー
2.2検討すべき課題
ナに供給する。
重油ボイラでのDME利用を促進するためには、
バーナは重油ボイラで広く用いられ、高圧での噴
燃料転換に伴う投資の抑制が重要である。しかし、
霧が可能な中間混合型を採用した。燃料を微粒化す
DMEをガスで利用しようとすれば、ベーパライザ
るアトマイズ媒体には低圧蒸気を用いることが多い
の新設のほか、燃料配管の大径化、バーナ廻りの大
が、DMEの場合、スチームからの入熱でバーナ内
幅改造など多くの改修が必要になり、転換コストの
の燃料が気化し、燃焼が不安定になる現象が見られ
増加を招く。
たため、圧縮空気を用いた。燃焼空気は一次・二次
この対策としては、
DMEの液燃焼が有効である。
DMEを液化したまま重油バーナで燃焼させること
に分けて供給し、一次空気はバーナ端のスワラーで
旋回をかけて火炎を安定させた。
バーナガン
スワラ
圧縮空気
DME
図1 燃焼試験炉およびバーナ
3.2試験結果
3
3.2.1重油バーナでの燃焼安定性
を維持する限り、安定した燃焼が可能であった。
逆に圧力が飽和蒸気圧を下回り、配管やバーナ内
で気泡が生じる状況では、ベーパロック現象により
流量比
試験では、DMEの圧力を一定以上に保ち、液相
2
1
燃料供給が不安定になり、失火も観察された。
DMEは噴射と同時に減圧沸騰して微粒化するた
0
め、アトマイズ媒体は不要であった。また、火炎形
1.0
2.0
3.0
噴射圧力(MPa)
状は重油に類似するが、条件によってはバーナ近傍
図2 噴射圧力と流量の関係
の循環流領域における燃焼面が消失し、火炎の安定
性がやや低下する現象が見られた。これば、噴霧圧
力が重油より高い分、噴霧の速度も速くなり、循環
燃料圧力 1.0MPa 時のDME流量を 1 とした場合の、
流領域での燃料の巻き込みが十分行われなくなるた
供試バーナにおける噴射圧力-流量特性である。図
めと考えられる。
からわかるように圧力と流量は比例せず、2 倍の噴
3.2.2必要供給圧力
射量を得るためには 2 倍以上の圧力が必要である。
DMEの常温での蒸気圧は 0.5MPa 程度であるが、
これは、バーナの噴射孔がオリフィスに近い構造で
夏場は燃料温度が高くなること、また燃焼炉付近で
あるためと考えられる。この特性から計算すると、
の入熱による温度上昇もあることから、ベーパロッ
当該バーナでミニマム量の4倍の流量を得るための
クの確実な回避には 1.0MPa 以上の供給圧が必要で
圧力は約 6MPa となる。すなわち重油並のターンダ
あった。
ウン割合を確保するためには非常に高圧のポンプが
DMEは単位体積当たりの発熱量が重油より低い
ため、噴霧量を増やして等価の発熱量を得ることに
必要である。
より低い噴射圧力で大きなターンダウン割合を確
なる。但し、燃料圧力はDMEの方が高いことから、
保する手段としては、噴霧孔の面積・数が調整でき
噴霧孔の総面積はむしろ重油燃焼時より小さくする
るニードル式や多段式のバーナを使用する方法が考
必要がある。本試験では、噴霧孔面積を重油用の 40
えられる。
~60%に絞り、等価の燃焼量を得た。通常の重油バ
3.2.4ボイラ性能への影響
ーナは先端のチップを交換することで噴霧孔の寸法
DMEを既存の重油ボイラに適用する場合、火炎
を変えられるため、修正は容易である。
3.2.3負荷調整幅の確保
通常ボイラの負荷調整は、それぞれのバーナの燃
輝度の低下による輻射熱の減少には留意が必要であ
る。
DMEは含酸素燃料であることから、火炎中にす
焼量とバーナ点火本数の増減で行われる。バーナ本
すを生じにくく、
広い燃焼条件下で青炎を維持する。
数の多い大型ボイラを除いてはバーナ燃焼量の調整
従来燃料では燃焼空気の一次/二次配分を変えたり、
によるのが一般的であり、
炉内の温度バランス上も、
燃料を粗粒化することで積極的にすすを生じさせ、
こちらを優先するのが望ましい。
火炎輝度を上げることが可能だが、DMEの場合、
重油ボイラの場合、全負荷に対するミニマム負荷
時の燃焼割合(ターンダウン割合)は 20~30%程度が
一般的である。
図3に示すように、
ほぼ一貫して青炎が維持される。
図4に、燃料種による火炎からの熱流束の違いを
示す。燃焼量はDME、重油とも 1.5×106kJ/h で同
DMEの場合、低負荷時においても前述の通り
一だが、
DMEの熱流束は重油の 75~80%に低下し
1.0MPa 程度の圧力が求められるため、そこから流
ている。これは、火炎輝度の低下による輻射伝熱量
量を増やすには更に高い圧力が必要となる。図 2 は
の減少が原因と考えられる。
排ガス酸素濃度:4%一定
100%
75%
50%
一次空気割合
多い
25%
少ない
15%
一次空気不足
図3 一次空気割合の調整による火炎変化
産業用ボイラの中でも比較的大型の重油専焼ボイ
炎となった。添加剤により各ブロックとも熱流束値
ラは輻射伝熱による集熱を前提にしている。これを
が上昇しており、全体平均で約 10%の向上がみられ
DMEに転換すると、輻射伝熱量の減少とともに対
た。ただし、燃焼時は輝度向上剤によるダストが発
流伝熱の割合が増し、重油と同じ運転条件でもスー
生し、炉内にも微粒子の付着が観察された。高濃度
パーヒータが設計温度を超過する可能性がある。そ
で添加を続けると汚れによる煤塵濃度の上昇を招く
の結果、ボイラ本体の改造を考えないケースでは、
可能性もあることから、
適用には注意が必要である。
スーパーヒータの過熱を避けるために負荷を下げざ
3.2.5マルチ燃料対応
るを得ない場合も生じうる。従って、燃料転換に際
DMEより蒸気圧の低いブタンであれば、設計上
しては、事前に既存ボイラの設計確認と転換後の性
は貯槽や供給設備をDMEと共用できる。さらに同
能予測を行うことが重要である。
一のバーナが使えれば、ブタンを「つなぎ」の燃料
輻射伝熱量を回復させる一手段として、市販の火
として利用することも可能である。ブタンをDME
炎輝度向上剤の効果を検証した。使用した製品は鉄
と同様に飽和蒸気圧以上に加圧して、液燃焼させた
系化合物に界面活性剤等を加えたもので、燃料に少
際の火炎を図6に示す。試験の結果、重油バーナで
量添加して使用する。メーカーによる推奨濃度は
安定した燃焼が可能であることが確認された。火炎
2000vol.ppm だが、効果を確認しやすくするため、
は基本的に青炎だが、DMEと異なり、一次/二次
5000vol.ppm 添加した。DME燃焼量は添加剤注入
空気比の調整等によって、ある程度の輝炎化するこ
前後とも同一に維持した。
とができる。また、図7に示すとおり、排気中のN
添加前後の熱流束変化を図5に示す。DMEへの
分散性は良好であり、火炎はバーナ元から均一な輝
熱流束 ( kW/m2 )
40
30
A重油
20
DME
10
0
0.5
1.0
1.5
バーナからの距離/炉内径
図4 熱流束の変化
2.0
Ox濃度はブタン・DMEの順で低く、重油時に比
べて大幅に低減されることがわかった。
ン(株)所有の蒸発量 5t/h ボイラで、専用の燃料供
給設備を設置してDMEに転換した。燃料は(有)D
ME開発から供給を受け、充填量 700kg のボンベで
搬送している。
5
終わりに
既述のように、DMEの特徴の一つは用途の広さ
にあり、
特にディーゼル機関や燃料電池に対しては、
従来燃料にない適性を持つ。これら熱効率の高い機
器が、DMEを燃料に広く用いられれば、局所的な
環境改善のみならず、温暖化ガス削減への効果も期
待できる。
ただし、これらの機器は単体での燃料消費量に限
りがあり、DMEのマーケットを広げるためには多
数の普及を待つ必要がある。
一方、産業用ボイラは一台当たりの燃料消費量が
比較的大きいことから、
これをDME焚きにすれば、
短期にまとまった需要を創出することができる。な
図6 各燃料の燃焼状況
(上段より DME、ブタン、A重油)
かでも、最も普及している重油ボイラをDMEに転
換することは、ボイラ自体のクリーン化と同時に燃
料市場を確立する意味からも大きな意味を持つ。
本開発がDME普及の一助になるとともに、事業
対重油比 (%)
100
を通じて、その優れた特性を多くの人に実感しても
80
らえれば幸いである。
60
最後に,本事業は経済産業省資源エネルギー庁の
補助を受け、釧路コールマイン(株)
、(独)産業技術
40
総合研究所、(有)DME開発などの協力の下に実施
20
されているものであり,この場を借りて関係の方々
に謝意を表したい。
0
A重油
ブタン
DME
図7 排気中の NOx 濃度
4
今後の予定
これまでの試験結果から、DMEを適切な条件で
供給すれば、液化したまま従来の重油バーナで燃焼
させられること、また排気性状を大幅に改善できる
ことなどが明らかになった。
得られた知見をもとに、今年度からは業務用ボイ
ラによる実証試験を開始しており、長期運転を通じ
て、ボイラのハンドリングや設備の耐久性を総合的
に検証する計画である。供試設備は釧路コールマイ
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