講演録[PDF版 - 公益財団法人日本生産性本部

第12期
情報化推進懇談会
第1回例会 (平成13年10月30日)
「ブロードバンドが創る21世紀IT社会」
映像作家・クリエイティブ・ディレクター
高 城
剛 氏
財団法人 社会経済生産性本部
J:¥懇話会¥第 12 期懇話会¥要約¥第1回例会講演録.doc¥02/04/17
ブロードバンドが創る21世紀IT社会
―
プロフィール ―
映像作家/クリエイティブ・ディレクター
高 城
剛(たかしろ つよし)氏
1964年葛飾柴又生まれ。日本大学芸術学部卒業と同時に映像作家としてデビュー。
小泉今日子、ミスター・チルドレン、篠原ともえ、広瀬香美と数多くのビデオクリップを監督。
インターネット上の仮想都市「フランキー・オンライン」で米国インタラクティブ・チルドレン・
エクスポ・グランプリ、通産省MMCA会長賞など、多数受賞。
日本初のインターネット・ライブ「NTTパワーネット」総合プロデューサー。
日本初のテレビとインターネットが連動したテレビ番組「少年バッド」をテリー伊藤氏プロデュース。
自社のWEBサイトが、日経新聞が選ぶ日本の英文サイトでトップ 10 入り他、
三和銀行、京都市をはじめ、WEBプロデュース多数。
近作は、京都NTT電話交換所跡の「新風館」サイトを総合プロデュース。
日本デザイン会議(黒川紀彰議長)最年少会員に選出。
ソニーエンタテインメントロボット「AIBO」マーケティングディレクター。
第33回東京モーターショーでは、オペルのコンセプトカーをデザイン発表。
BigMagazine 東京特集が、NewYorkADC賞金賞受賞。
英国 Tomato らとともに、BS開局特番ハイビジョン・ドラマ「地球大爆破」製作。
映画「サムライ・フィクション」では、プロデューサー兼特撮監督として活躍。
CFでは、SONYメモリースティック携帯電話 SO502i のテレビCFなどのクリエイティブ・ディ
レクション。
著書「デジタル日本人」
(講談社刊)は、97年デジタルビジネス選書年間第二位に輝く。
通産省マルチメディア振興協会デジタル・コンテンツ・プラザ副議長。
建設省AHS(オートメーション・ハイウェイ・システム)委員会。
運輸省マルチメディア推進委員会。
郵政省電気通信審議会専門委員(文化・社会委員会)
。
郵政省次世代放送コンテンツの振興に関する調査研究会 委員。
自治省「地域文化デジタル化事業」の推進に関する構想委員会 委員。
農林水産省構造改善局「21 世紀における農村地域の将来像に関する懇談会」アドバイザーなど歴任。
現在、総務省情報通信審議会専門委員。インターネット利用高度化委員会。
東映アニメーション株式会社 取締役など。
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Ⅰ.はじめに
【高城氏】 私の仕事は『ものを考えて創る』、コンテンツの仕事をしております。と
ころがコンテンツは今まで皆さんご存じのように、テレビ、ラジオ、新聞であるとか
マスメディアを通して人々に届けていたのですが、どうもそのメディアそのものが変
わっております。最近ですと、もちろんご存じのようにインターネット、携帯電話、
いよいよブロードバンドの時代がやってくるということで、コンテンツのあり方と同
時にメディア、技術、コミュニケーション、もっと言うと生活そのものも大きく変わ
っています。私は、そのコンテンツを考え創ると同時に、メディアそのものをもう1
回考え直して、『情報を伝えたい相手にどのように伝わるか』ということを抜本的に考
えなければならなくなったというのが、実はここ3、4年の状況であります。
今日、主軸のメディアはテレビですが、『テレビが生んだものとは一体何なのか』、
これ実は大量生産であります。産業革命以降、機械によっていろいろな物を数多く同
時につくられるようになり、そして20世紀半ばにはユニバーサルデザイン、世界各
国で同じようなものを使って生活するというスタイルが主流になりました。この大量
生産した物を大量に人々に届ける情報のメディアとしてテレビというのは、今日も圧
倒的であります。ところがインターネット、ブロードバンド、携帯といわれている物
は大量生産ではなくて、よりカスタムされた物、限定品という物を大変好まれます。
時代というものを非常に鋭敏な感覚を常に持っている人達は、もう既に時代は大量生
産から離れ、より限定もの、そしてより個人に近いものをいかに届けるかという時代
にいよいよ変わってきました。これは即ちライフスタイルの変貌です。その間にある
のはメディアでありテクノロジーです。
今日、お話しするのは、いったいそのブロードバンドと呼ばれている新しい21世
紀型IT社会に『何が変わるのか』、『何が重要なのか』というお話を一から振り返り
ながらお話したいと思っております。
Ⅱ.高度化とは何か
私どもは、よく『IT社会が高度になるとどうなるか』とか、『ブロードバンドが高
度化になったらどうなるのか』とか、私も総務省のインターネット利用高度化委員会
をやっていますけれども、
『高度化とは一体何か』というときに、必ず議論の中心にな
るのが技術や速度の話がほとんどであります。そうではなくて、サービスだけ、常時
接続だとか、深夜が安いとかそういうのではなくて、
『利用機会の高度化というのは一
体何か』ということを真剣に考えなければいけません。これは当然の話でして、技術
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や速度の先にある何か新しい形ではなくて、
『人々がより暮らしやすい』、『便利で楽し
い』
、この利用機会の高度化ということを考え
高度化とは、なにか?
なければいけません。即ち技術から逆算して
技術や速度だけでなく、
価格やサービスだけではなく、
いかないということです。多くの場合、大抵
利用機会の高度化
技術が基本になりますが、そうではなくて、
(技術などから逆算をしない)
我々が目指すべき本当の『ITによってもた
らされる豊かな社会(便利ではありません)
とは何か』ということを真剣に考えなければいけない時期に来ているのではないかと
思います。
Ⅲ.クリエイターの立場から最も重要なコンテンツとは何か
私の本業はクリエーティブの仕事をしています。映画のプロデュースをし、テレビ
の番組、ドラマを考え、コマーシャルをつくり、最近では携帯電話のトップページを
つくるという、いろいろなクリエーティブの仕事をしていますが、実はこのような質
問がよくあります。今日はブロードバンドを例にとってお話しますが、
『ブロードバン
ド時代において最も重要なコンテンツは何で
しょうか』と聞かれるわけです。例えばテレ
ビですと、ここ1カ月ぐらいの最高視聴率は
タイタニックであるとか、テロとかいろいろ
ありますが、ブロードバンドになったときに
一体重要なコンテンツ、つまり『みんながお
金を払って課金をとれるようなコンテンツは
クリエイターの立場から、
もっとも重要なコンテンツとは、
なにか?
「タイタニック」「浜崎あゆみ」
より
「彼氏からのメール」
何か』という質問を毎日受けます。お客様は
いろいろいらっしゃるので、それこそ全くイ
ンターネットからは縁遠いと思われるような流通業者から、インターネットの先端の
通信業者まで、みんな同じ質問です。この場合に、『コンテンツ・クリエーターとして
是非ブロードバンドにお金を取れるようなコンテンツを考えて下さい』と言われるわ
けです。今の例でいうと「タイタニック」とか、音楽でいうと「浜崎あゆみ」という
女の子達の教祖がいますが、彼女達のような『大ヒット型のコンテンツをブロードバ
ンドで提供するのがいい』というのが主な意見ですが、そうではありません。これは
前近代的なメディアのコンテンツではなくて、映画の大ヒット「タイタニック」や大
ヒットしているミリオンセラーの「浜崎あゆみ」のCD音楽より、
「彼氏からのメール」
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の方が今重要なわけです。これはもう当然の話でして、パーソナルに近いコンテンツ
ほど、今はコンテンツ価値が高いわけです。
例えば、携帯電話やインターネットやブロードバンドで『映画や中田のワールドカ
ップの活躍を見るか』というとそうではなくて、
『彼氏からのメール、彼女からのメー
ルの方が一般的には高いコンテンツだ』ということに当然ながらこれはなっています。
これは間違いない事実で、今でも主流であるマスメディア型のメディアではなくて、
双方向といわれているメディアです。携帯電話やブロードバンドもそうですが、当然
ながらこのような新しい21世紀型ITと言われているメディアは、コンテンツの質
が全く違います。ですから、『コンテンツを提供するのではなく、コンテンツを受け取
れる、出せるような環境を提案する』ことになっていくわけです。これは今までのメ
ディアの考え方とは全く違うわけです。だからといってテレビがなくなるということ
ではありません。テレビというのは我々にとっては最も今も重要なメディアです。
コンテンツの二極化
これをもう少し整理して考えると、コンテンツというのは2つの方向に二極化して
います。一つの方向は今言いました「タイタ
ニック」、「浜崎あゆみ」、
「中田のワールドカ
ップの活躍」
、これは『メジャー』というもの
です。
『メジャー』というコンテンツはメディ
アとしては一方向です。テレビでわかるよう
に、テレビ局から皆様にダイレクトに投げる
一方通行です。それに対して「彼氏からのメ
ール、彼女からのメール」というのは、私に
コンテンツの二極化
「メジャー」VS「マイ・メジャー」
(一方向)VS(双方向)
(同時に多くの人が見る=放送)
(ブロードキャスト)
VS
(いつでもどこでも双方向=通信)
(ブロードバンド)
(高機能<高画質<大画面)
VS
(高画質<高機能<モバイル)
とって非常に重要な存在なので、私はこれを
『マイ・メジャー』と呼んでいます。
『マイ・
メジャー』は、基本的には双方向メディアが中心になっています。これは未来の話で
はなくて、現在のコンテンツの二極化の分析です。
『ブロードバンド』と『ブロードキャスト』をよく間違えている方いらっしゃいま
すが、ブロードキャストは、これは放送、テレビの仕事なので同時に多くの人が見る
ことができます。ですからより生のもので、日本シリーズであったり、ワールドカッ
プであったり、大災害であったり、このようなものがブロードキャストの仕事です。
ですから、ブロードバンドをよく間違えて世界に向けて個人のテレビ局ができるとい
っている考え方ありますが、これは全く嘘です。ブロードバンドは、何時でも何処で
も双方向であり、同時に多くの人が見るようなものには向いていません。これはCP
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U付加であり、アセットマネジメントであり、様々な見地から同時に多くの人が見る
メディアとしては向いていません。ですから、皆様の企業体として、例えば日本に5
0カ所営業所があって、そこに毎朝映像を届けたいということであれば、ブロードバ
ンドよりも特定帯域を持ったCS放送の方が安く、ランニングコストも安価です。こ
のようにブロードバンドとブロードキャストは根本的に違います。ブロードバンドは
同時に多くが見る、ブロードキャストは何時でも何処でも見られますが、より個人な
ものです。
ブロードキャスト、即ちテレビは高機能、即ち双方向や様々な蓄積型より高画質が
更に好まれ、もっというとただの大画面が好まれます。ですからインタラクティブな
テレビよりハイビジョンのほうが好まれ、ハイビジョンよりただのプロジェクシェン
型の大きい画面の方が好まれます。それに対して通信のブロードバンドは、高画質、
より高機能、即ち非常にきれいな映像を送るということよりも高機能、双方向であり
1日何通もやりとりできて軽いデータであること、更にモバイルというものがブロー
ドバンドには向いています。ですからブロードキャスト、即ちテレビ放送という概念
とブロードバンド、即ち通信という概念は全く違います。放送と通信が融合するとい
う考え方は全く間違いで、もっというとお茶の間のテレビでメールを見ることがなか
なかできません。メールというのは非常にパーソナルなメディアです。例えば、皆さ
んもそうでしょうし、皆さんのお嬢さんが家庭のテレビでみんなが見るかもしれない
環境でメールを見ることは大変難しいと思います。ですから、放送と通信というもの
は根本的に違います。放送というのは、よりパブリックで大衆的で大人数で楽しむも
のであり、通信というのはより個人で楽しむということが必然とわかっていただけた
と思います。ですから、放送と通信というのは全く融合しないというのが、実はもう
既に明らかになっているといっていいと思います。
Ⅳ.インターネットにおける著作物の基本的な考え方
インターネットにおいて確実に言えることは、『自分の著作物を自分から発信する』
ということが大前提になっています。例え
ばメールを書きました。その著作権は誰に
あるか。これは基本的には自分にあります。
インターネットにおける
著作物の基本的考え方
自分で書いた文章ですから、自分の著作物
自分の著作物を自分から発進。
を自分から発信するということで、メール
音楽配信、映像配信よりも
ビデオメール、ビデオWEBが、まず先。
大映像の時代へ!
というものが爆発的にインターネットのル
ールに合って普及しました。例えば、ミュ
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著作権の永遠な課題
ハリウッド(エージェント)
現在の王者は、新しいものを望んでいない!
ージシャンが自分の楽曲を世界に向けて発
信する。これも正しいです。自分の著作物を自分から発信します。レコード会社がレ
コード会社の著作物、音楽だと原盤権というのがあって、原盤権にお金を出している
レコード会社が自ら発信する。これも当然あります。いろいろな音楽を考えた場合に、
ブロードバンドになると必ず言われるのですが、音楽配信、映像配信よりもブロード
バンド自体に重要なコンテンツというのは、メールに映像がつくビデオメールやビデ
オWEBがまず先に爆発的にヒットするだろうと考えています。これは、当然ながら
その音楽配信で今うまくいっているところは、ほとんど世界的に見てもありません。
ところがメールはもう切り離せないメディアになっています。ですからブロードバン
ドという時代において、何がキラーコンテンツ、ヒットするコンテンツが核となるか
という場合に、今の皆さんがやっているメールに写真や映像がつき、皆さんの会社の
ホームページが、より動画や音楽がついて動くということがまず何よりも先にいえま
す。これはメディアの進化の歴史を見ても火を見るより明らかです。新聞というテキ
ストの物からラジオという音と声がつくものがあって、テレビというものがついて動
画が始まりました。ホームページは写真が主流の時代になって、最近では音がつきま
す。このあとにいよいよ動画、絵が動き始めるという、これはメディアの歴史を見て
も明らかです。ですから今メールが字だけの時代が、写真が貼付されるようになって、
動画が添付されるようになる。最近携帯電話でも写メールというのがずいぶん普及し
ておりますが、どんどん映像がつくという時代にまずなります。
今から7、8年ぐらい前の日経新聞のインタビューで『インターネットというのは
どうなりますか』というときに、私は『インターネットを使ってビジネスが云々とい
うよりも、大文通の時代が来るのではないか』ということを答えました。案の定、皆
さんメールを毎日ものすごく使って大文通の時代が来ています。今年いろいろなイン
タビューで私が答えているのは、
『これからは大映像の時代が来る』ということを行っ
ています。これは個人のメールもそうなのですが、
『各企業体がホームページを動画化
し、より映像を見せるということに注力するだろう』ということをインタビューでず
いぶん答えています。そのときに、ではあくまでもどんな映像を流すのかというとき
に、自分の著作物を自分から発信します。ですから自分でカメラをもって撮って、そ
れをいろんなところに流すということがずいぶん大きくなるだろうということになっ
ています。
大映像の時代だといいましたが、私はその著作権で永遠な課題は、現在のコンテン
ツ産業の王者であるハリウッドですが、ハリウッドは新しいものを望んでいません。
ですから、ブロードバンドなんか来なければいいと彼らは思っているわけです。なぜ
かというと、そんなもの来なくても今十分儲かっているからです。ですからテレビ局
も同じように、ブロードバンドなんか来なければ当然ながらこれは儲かっていますか
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らいいということで、より否定的な態度は示しませんが、いわゆる一般的に言われて
いるコンテンと言われているものは肯定的な態度を示していません。テレビ番組の再
送信や映画をインターネットに流すとかということに対しては非常に後ろ向きとは言
いませんが、革新的な前向きでないことは確かです。ただし、こういうものが遅いと
いうことは当然ながら、ビデオメールやビデオ WEB というものがブロードバンドに
おいて、ますます脚光浴びてこれから伸びていくだろうと考えられます。
PtoP とか CtoC とかありますが、その場合メールとかというと、非常に個人的なや
りとりだけで終わってしまったら商売になら
なのではないかとよく言われますが、そうで
はなくて、やはり BtoB や BtoC、CtoB、DtoD
(Device to Device)とか PtoD とかいろいろ
あります。映像時代になり、ブロードバンド
P-Pは、C-Cだけではなく、
B-Bも、B-Cも、C-Bもある。
時代になって大きい映像がやりとりされるの
(Morpheusなどのファイル交換システムの登場)
は、企業間であり、企業からコンシューマー
に対してでもあり、政府からであり、全て同
じであります。例えば携帯電話を考えたとき
に、それは確実に PtoP とか CtoC だとかいっていません。当然ビジネスで使っている
人もいるし、企業と個人で使っている方もいっぱいいます。ですからこれは PtoP と
か BtoC とかという概念そのものがもう古くて、通信そのものが大映像時代になると
いうことが正しく、こういうジャンル分けすることそのものがもう既に過去の遺物と
なりつつあります。
携帯電話も最近は第3世代の FOMA と言われているものが始まりましたが、今まで
と違うのはカメラが付いているということです。『カメラがついていてこれがどうな
るのか』というと、結局我々は常に何処に居るかということを自分から説明しなけれ
ばいけません。3年ぐらい前から『携帯電話時代になってきたときに、どういう社会
的影響になるのか』ということをずいぶん話しました。我々は携帯電話を持ったおか
げで、何時でも何処でも話せる時代なりましたが、当然ながらこれに対して功罪はず
いぶんあります。そのときに我々は『今何処に居ます』とか、見えてないのをいいこ
とにいろいろな工夫をするわけです。メールもそうです。遊びの時間と仕事の時間が
非常に解け合っています。これが映像時代になると、ますます時間というものに対し
て我々は説明責任を強いられるわけですから、大映像になると証拠を出さなければい
けません。そのときに一体どうするかということは、これは映像時代なると確実に大
きな課題となってくるので、そういうこともここ3年ぐらいずっと分析していろんな
見地からお話しました。
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ここで重要なことは、『モバイルという社会がどういうライフスタイルの変貌を与
えたのか』ということです。先日アメリカのあるリサーチ機関に呼ばれて、日本のモ
バイルの事情についてお話をしました。私がたった一つ『日本がなぜモバイル先進国
であり得たか』ということの結論は、
『日本は狭いのでプライバシーの空間が非常にな
い』ということです。例えば日本でエグゼクティブといわれている人達でも、自分の
満足いく個室は家にも会社にもなく、非常に大きいところでみんな仕事しています。
ですから、個人的に大切な人から会社に電話がかかってきたときに、携帯電話でこそ
こそ話すと、みんな聞いています。例えば、皆さんのお嬢さんに彼氏から電話がかか
ってきたときに、非常に話しづらい日本の住環境であります。仕事先でもそうです。
その場合に、携帯電話だとちょっと離れたところで、自分のプライバシーの空間を持
つことが可能になります。日本は狭いからこそプライバシーを確保するために、携帯
電話というのは大変流行ったといえます。アメリカは日本と違って、アメリカのエグ
ゼクティブと呼ばれている人達は、満足いく書斎と満足いく仕事部屋を9割近くの人
が持っています。日本のような狭い空間の中で携帯電話というものは、
『大変我々のプ
ライバシーを与え、非常に便利なものである』ということが3日間かかってアメリカ
人に話した結論の一つです。
同じようにアメリカほど双方というものは日本では普及しなのではないかというこ
とを話しました。日本で双方の空間を持てる場所がないので、双方というものが今の
『日本の家庭の中に入るのはないのではないか』ということをアメリカ人に半日かけ
て説明しました。今一つ分かってもらえなかったのですが、同時に何人か行った日本
のシニアリサーチャー達は大変共感を持ってくれて、それを統計的に分析したいとい
うことで、今仕事をやっていただいています。
私はマスメディアを完全否定しているのではなくて、マスメディアとも多くの仕事
をしています。お客様でフジテレビという会社がありますが、フジテレビはBS放送
を始めました。フジテレビのBS放送はBSフジとそのままの名前なんですが、この
フジテレビというのは、冷静に考えると、首都圏しか放送していない地域メディアで
す。ところがBS放送というのは、東経124度に衛星が飛んでいて、それが日本全
国に対して打っているわけですから、BS放送は基本的には全国メディアです。この
BSに対しての考え方が各局違っていて、ある局では『全国放送なので今まで以上に
お客様に大量に番組流せるので非常に儲かる』と思っていらっしゃる方もいらっしゃ
います。これある意味正しいです。ある放送局は、
『いやいやあまり儲からないのでは
ないだろうか、BS放送なんて普及しなのではないだろうか』と思っていらっしゃる
方もいます。NHKが持っているBSが1,500万メディアですから、これが2,00
0万メディアまで超えるのはもう間違いないことで、間違いなくBS放送というのは
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時間はかかりますがマスメディアにはなっていきます。
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我々はフューチャーパイレーツ(Future Pirates)という小さい会社がありますが、
こことフジテレビと100メガの専用線で結
んでいて、ハイビジョンの番組を放送局に納
品するという仕事をしています。企業がいろ
送信データレート →
68Mbps
← 受信データレート
68Mbps
インサーネット
いろなところに物を流すという BtoB のブロ
NTT東日本の広帯域
ネットワーク(A
TM)
ードバンドの先駆的な例です。これに参加し
ているのはフジテレビと我々のほかにNTT
送信データレート →
68Mbps
← 受信データレート
68Mbps
インサーネット
東日本、ソニーなどが一緒にこの実験をやっ
ています。これは100メガの専用線を我々
表参道の会社とお台場とを結んで、フジテレ
ゴールドフィンガー
HD - Inferno
HD - CAM
HD - D5
Flame
D-1
D-2
Smoke
D-βcam
β camSP
1G イーサネット
ビの番組を編集して完パケ(完全パッケージ
の略で、プロダクション完成品を指す)して直接送り届けて、そこから衛星にアップ
リンクして全国に送っています。ですからこれは、ブロードバンドと衛星を使って全
国に流すという今まで世界にもない例で、世界中からお客様が見学にいらっしゃって
います。我々はこれとは別に、100メガの帯域保証の専用線を会社に2本引いてい
て、ブロードバンドのポスティングの実験などもいろんな企業とやっていますが、ず
いぶんわかることもあります。ですから、ブロードバンドというのは BtoB のジャン
ルとしても大変友好的なメディアであります。
Ⅴ.放送と通信の融合は本当に必要か
何度も先程からお話していますように、ブロードバンドとブロードキャストとは違
います。基本的に、こんなものは必要ないの
ではないかということを言いました。しかし、
融合ではなくて複合メディアの利用機会とい
うものはあると思います。大切なのは技術で
はなくて、
『利用機会がどう変わるか』という
ことです。本当に携帯電話が我々の生活に重
要だったのは、実は技術や値段ではなくて利
放送と通信の融合は、本当に必要か?
融合 では なく、 複合 メディ アの利 用機 会の提 案
モニ ターの レゾリ ューシ ョンの 問題
WEBをや りなが ら、テ レビを 見る人 は、 米国で 49%
HDTVの解 像度で も、メ ールを 見なが らサ ッカー は見れ ない。
融合 ではな く、二 画面が 必要。
大画 面でセ リエAを見 ながら 、チャ ット。
HEROを観 ながら 、携帯 電話で 話す。
ブロ ードバ ンドと ブロー ドキャ スト を、一 緒に考 えない 。
ブロ ードバ ンド は、 ナロー キャス ティン グから 開始
用機会です。このような利用機会の提案が、
ひょっとしたら放送と通信という物では融合
ではなくてあるのではないかということです。
まず『なぜ融合しないか』という一つの課題に、モニターのレゾリューション
(Resolution:解像度を表す)の問題があります。ハイビジョン放送というのは、テ
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レビを見るには高画質ですが、パソコンのように字を使ったりインターネットを見る
ものとしては大変小さい画面なのです。ですから、テレビの放送の上に字を載せよう
という解像度の根本的な問題があるので、非常に融合しづらくなります。しかし、今
アメリカではインターネットをやりながらメールを書いたり、Webサーフィンしな
がら同時にテレビを見ている人が、今年のデータで49%もいます。語弊のないよう
にお話しますが、家の環境でテレビを見ながらインターネットではなくて、インター
ネットをやりながらテレビをつけている人がこんなにいます。ということは、アメリ
カのようにテレビを見ながらWebを見るということで2台いるということです。つ
まり、ハイビジョンの解像度でも、メールを見ながらサッカーを同じテレビで見られ
ないということです。これはどうなっているかというと、今日本では、融合ではなく
て、2画面が必要ということです。テレビというのはどんどん大画面化しています。
大画面でスカイパーフェクトTVでセリエAの試合を見ながら、同時にチャットをや
っている人がものすごく増えています。インターネットでチャットをしながら大画面
で見ていたりすると、その複雑な情報メディアの入り方で、ものの見方というのが変
わってきています。ですから、放送と通信の融合というのは、ブロードバンドによっ
てテレビが再放送されることでも、テレビにIPv6がのって双方向になることでも
ありません。ものの見方やライフスタイルの考え方、さっき言ったように中田の試合
を見ながらチャットをする、これが放送と通信の融合であります。このように放送と
通信の融合というのは、利用機会が変わった、ライフスタイルが変わったことだけで
あって、別に技術は何にも変わっていません。ブロードバンドととにかくブロードキ
ャストを一緒に考えてはいけないということです。これは非常に重要なことなので是
非考えていただきたいと思っています。何度も言うようにブロードバンドというのは、
個人的な情報を発信するメディアなので、ブロードキャストではなくて私はこれをナ
ローキャスティングといっているのですが、メールに映像がついて誰かに送る、これ
は特定の個人だったりCCメールをすれば何人かに送れますから、これはブロードキ
ャストではないくて、ナローキャスティングすることからきっと始まっていくだろう
ということがいえます。
デジタル BS チューナー
BSチューナーは去年の12月からBS放送が始まって、一時盛り上がったのです
が、最近は『BSチューナーやBSチューナーつきテレビを説明すればするほど買わ
ない』という現象があります。これはヨドバシカメラを始め、各量販店で明らかにな
っているデータで、NHKでこの間発表して結構大問題になったり、電気通信審議会
の専門委員会の中間答申でも、これを書いてかなり反応があってずいぶん驚いていま
す。BSチューナーは、ハイビジョン放送が奇麗に見えるのですが、そのあとに『双
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方向でクイズができる』とか、
『天気予報やニュースが見られます』と店頭で説明すれ
ば説明するほど買わないのです。『とに
かく奇麗です』ということだけで押し切
EX)
ると割と買うのですが、『テレビがこん
デ ジ タ ル BSチ ュ ー ナ ー
な高機能になりました』とかいうと、ほ
「説 明 す れ ば す る ほ ど 、 買 わ な い 」
とんどの人達が『そんな難しいものは買
高機能より、高画質を評価する市場
高機能と高画質の二極化
手の中にあるインターネットと、(モバイルだけではない)
大 画 面 や AC‑3。
HTPC市 場 の 急 速 な 拡 大 、 非 ネ ッ ト ワ ー ク 。
えない』といって買わなくなります。つ
まり、市場は高機能より高画質を評価し
ています。2002年にはCS110度
デジタル放送が始まります。これは高画
質より高機能、双方向をメインにしているのですが、双方向をメインにしてはいけな
いということをもっと考えるべきだと思います。多分今週ぐらいから僕がプロデュー
スしたコマーシャル流れると思うのですけれども、一切『双方向だ』ということは言
わずに、とにかく『奇麗だ、高機能だ』ということを宣伝しています。ですからテレ
ビは、とにかく高機能だということは忘れ、高画質で奇麗だということが次世代のテ
レビの唯一の鍵です。即ちテレビで双方向ということをあきらめなければいけません。
双方向はどうするのかというと、携帯やインターネット、ブロードバンドにこれから
は一極集中するべきだと思います。
Ⅵ.求められるべき次世代メディア研究とは
本会議でもそうなのですが、求められる次世代メディアがどうあるべきかというこ
とを検討していると思います。1つ目は、
『徹
底的な市場動向調査と分析』で、現状どうな
っているかということを分析するのは価値が
ありますが、未来がどうなっているのかとい
うことを分析するのは余り意味がありません。
ですから、徹底的な現在の市場動向の調査と
いうのは必要ではないかと考えます。
求められるべき
次世代メディア研究とは?
①徹底的な市場動向調査と分析
②技術だけでなく、
利用機会までも含んだテストベット
③コンテンツ、サービスより、
利用機会の提言、普及活動
④ITのキチンとした認識向上
多くの社員の意識革命
2つ目は、
『技術だけではなくて、利用機会
までも含んだテストベット』で、大抵ここで
多くの人達は事例や技術の話をすると思いますが、そうではなくて実際に皆様方がこ
んなものをつくってみたという具体例をつくることが、研究会として意味があります。
話し合ったり人の話を聞くということだけではなくて、お金をかけなくてもかまわな
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いので、実際にテストを自分達でやってみると、ブロードバンドのホームページをつ
くるだけでもいいです、やってみるということが非常に重要です。
3つ目は、
『コンテンツやサービスより、利用機会をどう考えたり、それをどう普及
するか』ということを考えることが重要です。ですからコンテンツというのは、彼氏
からのメールが一番偉いので、そうではなくて、利用機会がどう変わっているかとい
うことを提言したり、それを普及することは重要です。
4つ目は、
『ITのきちんとした認識の向上』で、ITによって何が変わるのかとい
うことをもっと真剣に考えなければいけないわけです。e‐Japan 戦略とIT戦略会
議とかいっぱい出ていますけれど、
『IT革命って何が起こるのだ』ということをいわ
れたときに、必ず私は『例えば時間というものの概念が変わる。より便利になり回線
が高速になっているのだから、デジカメで工事現場から写真が送れることよって時間
が短縮になるのだったら週休3日にしたらどうだ』ということをよく言います。これ
は極端な例ですけれど、利用機会が変わり、ITによって時間革命が起きるのだった
ら週休3日を目指したいぐらいなことを本当は答申でいうべきだと本当に思っていま
す。それによって余暇ではなく、主暇、主だった暇というものが生まれます。そうす
ると、例えば首都圏に集中して住むのではなくて、週休3日だったらちょっと離れた
ところに住んでもいいのではないかということを考える人がずいぶん増えます。それ
によって様々な緩和がなされ、まだまだ続く土地という日本の狭いという価値観を変
えていくことが起きるのではないかということが、ひょっとしたらIT革命の一つの
ゴールになってもいいのではないかということをいっています。ところが、まだまだ
通信速度を早くするとか、そのようなことまでしかいっていません。皆様でしたら多
くの社員ですとか、多くの会員の皆様の明快な会のITによるゴールは何かというこ
とを初めに考えるべきだと思います。我々の会の目的はここに行こう、合理的に行く
というのだったらそれによってもたらされる豊かなものは、我々はこう考えるという
ことをきちんと持つべきだと思います。
Ⅶ.情報化時代に一番重要なことは何か
『情報化時代に一番重要なことはなにか?』
、これは本当に腰をすえて考えなくては
いけないと思っています。IT革命のネット社会になると一体何が大切なのだろうか
ということを真剣に考える必要があります。今日はあえて誤解を招くかもしれません
が、「ブランド」、つまり「アイデンティティーの刷新」ということを是非皆様にご提
言したいと思ってお話します。これは実は私の意見ではありません。これはイギリス
の戦略です。イギリスは国家というものをブランドとして捉え直しました。今日イギ
13
リスは、世界的に見ても非常に景気がいいのですが、90年代半ばブレア政権になっ
てから国家としてブランド戦略を立て始め
ました。これはマーク・レナードトいう若
者がいて、イギリスは「Britain」、この右
イギリスの国家ブランディング①
肩にTM、トレードマークです。
『登録商標
• 90年代半ばから、
国家としてブランド戦略を立てる。
• 顔の見えないネットワーク社会において、
もっとも重要なのは、ブランドであると位置
づける。
• 「英国」ブランドの徹底的調査
英国』という本を出しています。結局IT
社会になる、ネットワーク社会になる、ブ
ロードバンド社会になると、顔の見えない
ネットワークで取り引きをしなくてはいけ
ないわけです。ですから、その相手の信用
力とか、こちらのブランド力みたいなもの
が最も重要だと位置付けたわけです。ということで、まず英国は英国ブランド、
『英国
という国は一体世界中にどう思われているのか』ということをまず徹底調査しました。
ブレア政権の基本方針となる『BritainTM』これがトレードマークです。登録商標英
国をマーク・レナードというある研究機関の
若者が出版しました。これが基本的にブレア
政権の基本方針となりました。この登録商標
イギリスの国家ブランディング②
英国という本は、新しい国旗のデザインなど
• ブレアー政権の基本方針となる「Britain™」(登録商標
英国)を、マーク・レナードが出版
• 新しい国旗のデザインなどを提案
• 国家のアイデンティティを大切に守るべき財産と考える
• すべてをCool Britaniaという発想でこれからの国家のア
イデンティティを再構築しようと試みる。
• 元テレビ・プロデューサーだった無任所大臣ピーター・マ
ンデルソンが、大胆なブランド政策
• その中には、「ミレニアム・ドーム」、「ゲイ誘致政策」など
も含まれ賛否両論を呼びながらも、成功を収める。
を提案しながら、国家のアイデンティティー
というものを、これは最高の財産だと考え直
しています。即ちネット社会において英国と
取り引きするときに、英国で会社をやるとい
うことや、英国人ということや、英国にサイ
トがあるということや、英国のブランドとい
うことが非常に重要であり、それらのアンブレラの上にあるのがイギリスという国家
のブランドだということです。この基本的なコンセプトを「Cool Britania」
、
「かっこ
いい英国」という意味です。「Cool Britania」という発想で、これからのアイデンテ
ィティーを再構築しようと試みました。ですからかっこいいイギリス、Cool Britania
キャンペーン、昔ニューヨークでも I Love New York というのがありましたが、あれ
以上に大戦略的に成功しました。これは元テレビプロデューサーだった無任所大臣ピ
ーター・マンデルソンという人達が大胆なブランド政策を立てたわけです。実は僕も
96年にイギリスに呼ばれて、いろいろなイギリスの国家戦略づくりのお手伝いを1
週間ほどしたことがあります。このピーター・マンデルソンがつくったいろんなブラ
ンド戦略というのはものすごくて、
『そんなことできるわけないだろ』と皆さんに思わ
マーク・レナード、
26歳。彼の名を知る人は日本にまだ少ないかも知れないが、イギリスの外交政策立案を担う、ブレア首相の片腕である。彼はケ
ンブリッジ大学卒業後、エコノミスト誌記者を経て、労働党系シンクタンクDEMOSの研究員となった。そこでまとめたレポートで、
従来のものとは全く違う創造的で現実的といったイギリスの新たなイメージを提案。これがブレア首相の目にとまり、労働党系シ
ンクタンク外交政策センターの代表に抜擢されたのだ。これからのイギリスを変革させていく新たな力となる人物である。ポール
スミス やリチャードブランソンを巻き込んだ クリエーティブタスクフォースを実現 させ、現在シンクタンクF.P.C.代表 として、
英国で「ブランドイメージの刷新」 に取り組む.
14
15
れているということをやったのです。その中には「ミレニアムドーム」、2000年記
念大ドームをつくって、この中に巨大な神様の像みたいなのがいるのですけれどそれ
をつくったり、「ゲイを英国に誘致させると税金安くする」みたいなことを国家がつく
りました。そんなことできるわけないだろうと皆さん考えていらっしゃると思うので
すけれど、当然イギリスでもそうでした。そこでは当然賛否両論を呼びながらも、実
は大成功を収めました。
ここでポイントは、イギリスの国家ブランド戦略をつくる上で非常に重要だったの
は、イギリスのシンクタンクではなくてベルギ
ーのシンクタンク「ダモス」が基本方針をつく
りました。即ち自分のところのものは、自分の
イギリスの国家ブランディング③
ところの中では見えないということです。これ
• ベルギーのシンクタンク「ダモス」基本方針
を作成
• 各国大使館に、ブランド担当マネージャー
を配置。
• ファッション・デザイナー、ポール・スミス、
リチャード・ブランソンなどからなるクリエイ
ティブ・タスクフォース=21世紀イギリス・
コンテンツ委員会を設置。
は非常に重要でして、イギリスの国家のブラン
ディングを立てるのに、ベルギーのシンクタン
クに立てさせたという非常に面白い現象をまず
初めにしました。ちなみにマーク・レナードは、
当時ダモスの研究員でした。同時にイギリスの
各国大使館に、ブランド担当マネジャーを配置
しました。こんなことはルイヴィトンやグッチとかはブランド担当マネジャーがいま
すけれど、大使館に置いたの初めてです。僕も日本の英国大使館のブランドマネジャ
ーに実際お会いしてお話をしました。国家の内面的なメンバーは、ファッションデザ
イナーのポール・スミスとか、バージンという有名なレコード会社とか、鉄道とか飛
行機会社とかいろいろやっているリチャード・ブランソンからなる『クリエイティブ・
タスクフォース』
、これは『21世紀イギリス・コンテンツ委員会』というものを設置
しました。これはどういうことかというと、日本的にいうと目利きです。昔京都に目
利きというのがいっぱいいて、日本中のいい物、呉服だったり海苔だったりを目利き
して集めて、海苔は京都でつくっていないですけれど京海苔と書いて、今でもそうで
すけれど茶器に「京ブランド」を貼って売ることで大成功したわけです。全く同じ戦
略です。目利きを集めて、その国のいい物を寄せ集めて、ブランドをつけて、世界中
に高くブランド価値にしてを売るということです。当然そうですね。鞄にしてみても
普通のいい鞄より、そこにルイヴィトンというマークが書いてあるだけで、ブランド
価値があり値段も上がるということでこれは非常に大成功を収めました。
16
Ⅷ.国家(地域)や組織をプロデュースする
今、
「国家や組織をプロデュースする」ということが非常に重要です。それは皆様の
会社であったり、何かの会であったり、国家
であったり、地域であったりということを、
今リプロデュース、プロデュースし直すとい
うことが非常に重要なわけです。これは音楽
業界を見てもご存じのように、今は歌手より
プロデューサーの方が重要です。音楽業界の
歴史を見ると、小室哲哉以前以後という話が
国家(地域)や組織を、
プロデュースする。
国際的情報化による
「よい地域や組織」と「悪い地域や組織」
が、
明確に分かれる時代に突入。
あって、小室哲哉より以前はプロデューサー
なんてどうでもよかったわけです。どうでも
いいというと少し語弊があるのですけれども。ところが小室哲哉以降は、
「誰がプロデ
ュースする」とか「誰々プロデュース」とかが非常に重要です。これは今はようやく
TVドラマや、音楽業界では当たり前になりましたが、国家や地域や会社みたいなも
のでは、その会社をどうのようにもう1回イメージを刷新するかということを、プロ
デュースする人がほとんどいません。ですから販売担当重役みたいな人がいても、マ
ーケティング重役みたいな人はほとんどいないのが現状でして、ところがアメリカは、
ここ3、4年で急速にそれらを持っています。ですから、その担当役員になる場合に、
営業担当兼本部長兼務みたいにいっぱい肩書きがついている人がいますが、それらは
当然重要ですけれども、新しいイメージを刷新するような役職の人達が今後は非常に
重要になってくると思われます。典型的な成功例の会社でいうと、アップルコンピュ
ーターという会社です。
今後は国際的情報化による『よい地域やよい組織』と『悪い地域や悪い組織』が明
快に分かれる時代になりました。ですから売上げがどうかということよりも、最近で
すと ROE(Return on Equity:株主資本利益率)とか、自分達の資産価値をどう判断す
るかという金銭価値が非常に注目を集めていますが、そうではなくて、情報資産価値、
情報担当役員が考える情報資産価値というものが明快に分析されて、今後では非常に
重要になります。なぜか。これからは顔の見えない相手達とどんどん仕事をするから
です。
よくある問題
これは日本の国の問題でもあります。「目的意識を見失い、悲観的になっている地
域」
、国の問題です。会社でもいいかもしれません。
「変化を拒み、新勢力を恐れます。
17
問題が生じても目を背けるようになります。
しかし、こうした姿勢では当然トラブルに対
よくあ る問 題
処できません」。まだまだ新しい世紀になって
も問題あります。「なぜならこのグローバル
化する社会で、変化と無縁でいることはでき
ないから」です。では「一体どうするか」と
目的意識を見失い、
悲 観 的 に な ってい る地 域 は 、
変 化 を 拒 み 、新 勢 力 を 恐 れ る。
問 題 が 生 じても目 を そ む ける 。
し か し、こうした 姿 勢 では トラ ブル に 対 処 で きな い 。
な ぜ ならこ の グ ロー バ ル 化 す る 社 会 で、
変 化 と無 縁 でい るこ とは で き ない か らだ 。
で は 、ど うす る か ?
いうことです。
これは当然ながら時代背景があります。
「組織や地域が自信を持って、ほかの組織と
地域と渡り合っていくために、どのように取
り組み、そこにどのようなアイデンティティ
が関わってくるのか」ということが前提とし
てあります。
時代背景と前提
組織や地域が自信を持って、
他の組織や地域と渡り合っていくために、
どのように取り組み、
そこに、どうアイデインティテイが、
関わってくるのか。
これが僕が考える最終的なゴールです。皆さんの「会社や組織や日本という国が、
新しいアイデンティティをきちんと見つけ出
して、我々はこうあるべきだと悲観的で古め
かしいその組織や地域のイメージを変えて、
明るく進歩的なものに変えます」
。これは別に
ITのことをいっているわけではありません。
「その地域や組織の人達にいかに自信を取り
戻し、我々のブランド力を上げるか」という
ゴール!
組織や地域としてのアイデンティテイを
新たに見つけだし、
悲観的で古めかしい
その組織や地域のイメージを
明るく進歩的なものに変え、
その組織や地域の人々に
自信を取り戻す。
のが最大の問題です。国家ですらe-Japan と
いう戦略をやっています。いろいろ僕も言っ
ていますが、IT革命という大きなゴールを持っています。ですから皆様の組織も、
この『ゴールをどうするか』、そして『スローガンをどうするか』、そして、情報戦略
の担当は今会社で最も重要で、
『組織で最も重要な人達は誰か』ということを明快に決
めなければいけません。これが非常に重要です。これをやっていないところがほとん
どでして、これらを是非やっていただきたいと思っております。
18
Ⅸ.ブランド形成のステップ
どうやったらそのブランドを形成していけるのか。もっというと我々が持っている
ブランド、皆様の会社の『ブランド価値という
ものはどれぐらいあるのか』ということです。
まず1つ目は『評価』。これ実態調査します。い
ったい我々は『どんなイメージを持たれている
のか』ということを徹底的に調査することから
始めます。2つ目、
『約束』をします。例えば、
ルイヴィトンの商品を買うとルイヴィトンとい
うマークがついてくる約束があります。遠山の
ブランド形成のステップ
• ①評価
• ②約束
• ③伝える
• ④育成
• ⑤優位性
金さんを見ると最後に桜吹雪が出るという約束
と同じです。これは非常に重要で、何かお客様に対して約束をします。その約束を裏
切りません。その約束をどう伝えるか。テレビや新聞を使ってマスマーケティング、
携帯やインターネット、ブロードバンドを使って個別にマーケティングをすることを
非常に重要にします。その次に、伝えたものを『育成』します。その地域、その個人
の中でより大きく育成します。例えば、皆さん気付いていないかもしれませんが、コ
ンピューターソフトというのはこういうことをしています。まずきちんとマーケティ
ングデータ、問題を洗い出して、それに対してバグフィックスや新しいバージョンと
いうのを作って、
『こうなりました』ということを個別に伝えて、その人々が自分のコ
ンピューターで自分でバージョンアップして、他社よりも『優位的な何か』を確実に
与えます。価格の場合もあれば機能の場合もあるし、本当にイメージだけの場合もあ
ります。このように5つのステップをもってブランドというものを確立します。
「ビジョングループ」の設立
もうちょっとわかりやすくいうと、例えば銀座みたいなものはブランドなわけです。
何とか銀座とか、日本中にいっぱいあるわけ
です。そういう地域もブランドです。それを
国家として日本が世界中に持って行くような
もの、ひょっとしたら皆様の会社としての
様々なブランド、個人のブランドというもの
も当然ながらあります。ということで、まず
いろいろな会社や組織を、まずは『きちんと
した評価のできるビジョングループをつく
る』ことです。ステップ1『評価する』です。
19
まずは、きちんとした評価
「ビジョングループ」の設立
目利きやプロデューサーの育成。
地域内の人だけにとらわれない。
これは目利きやプロデューサーを社外的に育成するということもいえます。エイベッ
クスという会社は急成長しましたが、これは今まで内にいたプロデューサーという人
達を、小室哲哉という外部プロデューサーの起用によって成功しました。先程のシン
クタンクのダモスもそうです。外のプロデューサーを使うことによって、地域や内の
人達だけにとらわれずに、新しいビジョングループをつくるということが非常に重要
です。どうも日本は内輪だけでやっていって、きちんとした評価ができないというも
のが大きな組織の問題のような気もします。
イギリスはどう約束し伝えたか
最後にイギリスはどういう『約束』をしたのかということですが、イギリスという
のは「ハブUK」
、もともと東インド会社とい
約束
われますけれど、アジアやヨーロッパやアメ
リカをつなぐハブ中心の存在となって、その
•
1.ハブ UK…
イギリスはEU、US、アジアを取り持つハブとなり、そのネットワークで重要な
役割を演じることができる
ネットワークで重要な役割を演じてきたり、
•
2.ハイブリッド UK…
アメリカのようなるつぼではなく、多様性の中で繁栄を目指す。イギリスはEU、
US、元植民地から様々な要素を取り入れることができる。
「ハイブリットUK」、アメリカのような人種
•
3.創造的 UK…
イギリスは芸術、学問において他に染まらないものを生み出すことができる。
のるつぼではなくて多様性の中から反映を目
•
4.ビジネスに開かれた UK…
ナポレオンに「小売りの国」と評されたように、イギリスは小売業において優秀
である。百貨店など、新しい形態の小売業も生み出した。
指したりとか、「創造的UK」、イギリスは芸
•
5.革命的 UK…
イギリスは現実に対応した、新しい組織を作ることができる。産業革命、民主
化、民営化も世に先駆けて行った産業革命、民主化、民営化も世に先駆けて
行った。
•
6.フェアプレー…
イギリスは世に誇る医療制度などの公平な社会制度を持っている。
術学問において他には染まらない新しいもの
を生み出すことができると。実際タワーレコ
ードで学割10%とかいろんな細かいことをやっているのです。「ビジネスに開かれ
たUK」、小売りの国といわれたように非常に優秀なので、新しい形態の小売業も考え
られ、「革命的UK」、産業革命、民主化、民営化といろいろやってきていますので、
これらは素晴らしい。「フェアプレーUK」、イギリスは世界に誇る医療制度を持って
いるとかいろいろ『約束』があります。
『伝える』ということに関しても、いかにイメージを世に広げていくかということ
で大使館、観光協会、イギリス文化振興会と
いうのを使ったり、外交官や専門家のイメー
伝える
ジ戦略に年間約10億ポンドを費やしていま
す。しかし残念ながら、伝えられるのは伝統
•
①いかにイメージを世に広めていく役割を担うのは大使館や、イギリ
ス観光協会であり、イギリス文化振興会である。
•
②外交官や専門家がイメージ戦略に年間約10億ポンドを費やして
いる。(しかし残念ながら伝えられるのは伝統的なイギリス像である
場合が多かった。)
•
③そこで現在イギリスの新しい姿を伝えるためになされているのが、
大々的なイベントに頼る方法ではなく、例えば外国人観光客の集ま
る空港や鉄道の駅を改装して、一人一人のイギリスの印象を良くす
る方法。
•
④さらに、専門家ではなく全国民6千万人一人一人の対応で、新た
なイギリスのイメージを広める方法だ。政府ではなく、国民が与える
イギリスのイメージは、何よりも人に訴えかける力を持つ。
的なイギリスのイメージ像という場合が多か
ったので、これを『このお金を使ってイギリ
スの新しい姿を伝えるためにどうするか』と
いうことが重要なので、大々的なイベントに
頼るのではなくて、外国人観光客の集まる空
20
港や鉄道の駅を改装して、一人一人イギリスの印象を良くする方法を実はとりました。
そんなことやっているのです。ですからマスマーケティングを実は否定してきていま
す。これは別にお金をかけるこということではなくて、皆さんが年間使っているマー
ケティングコスト100万円であれば、その金額100万円をどう使うかという使い
方を考えるということです。更に専門家ではなくて、全国民6,000万人一人一人の
対応で、新たなイギリスのイメージを広める方法をとるということです。政府だけで
はなくて国民が与えるイギリスのイメージは何よりも人に訴えかける力を持つ。当然
ですね。これがポイントです。
個人パワーが変える新しい組織の中の個人
先程言いましたように、
『匿名性の集合体であったり、あるリーダーを中心とした団
体ではなくて、あくまでもこの新しいといわ
れているIT革命の維新は、個人中心である
べき』です。先程言いましたように、テレビ
とは違います。ブロードバンド、インターネ
ット、携帯電話というのは、よりマスではな
くパーソナルなナローキャスティングなメデ
ィアです。ですから皆様の組織の中の個人個
個人パワーの集合が変える
新しい組織のなかの個人
匿名性の集合体や、
リーダーを中心にした団体ではなく、
IT時代の新しい維新は、
個人中心である。
人がいかに自信を持って、かつ組織に属して
いるということに誇りを持てるようなことに
するかということが非常に重要です。今はどこかで組織というものが優先しながら個
人が出す。個人は個人で切り離されている。そうではなくて、組織の中における個人
の力というものを、どう吸い上げるかということが実は一番重要な課題であり、それ
こそがIT革命といわれているものの本質であって、まさにこれから大きくして変え
なければいけないところだと思っております。
21
【質 疑 応 答】
【質 問】最後のところで個人パワーの集合が変える新しい組織の中の個人だとか、ある
いは個人中心、IT時代の新しいシーンというのは非常に啓発的なのですけれども、匿名
性の集合体という表現は、まさに日本の今の沈滞を表現しているように僕はつくづく思う
のです。それがいわゆる双方向のブロードバンド社会によって、方向性としてはこういう
のを目指していかなくてはいけないという表明だと思うのですが、今後の方向性というこ
とでは、
「イギリスが要するに非常に見習うべきサンプルなんだよ」と、
「ベストイグザン
プルなんだよ」というようなことが例えば言えるのか。ちょっと具体的なイメージとして
のベストプラクティスというのを何処に求めるかというのを、例え話でそういうことをお
っしゃっていただければありがたいと思います。
【高城氏】 僕が考えているのはこれは日本だけの姿だと思います。いろいろな今日例に
出した方案であるとか様々な政策というのは、イギリスを始めいろいろ見習うべきところ
は数多くあります。ただ、我々が考えなければいけないのは、日本型社会の先にある延長
線上のものですから、決してどこがいいということではなくて、やはり日本独自の形を目
指すべきだと僕は思っています。
【質 問】ブロードバンドが実現すれば、テレビも通信も結局ブロードバンドの中で流れ
てくるというイメージを持っていて、たまたまそれはブロードキャストになるかもしれま
せんが、いろんなコンテンツをいろんな機会で見るというイメージをとると、基本的には
やはりブロードバンドの中で、今でいうテレビとかインターネットとかそういったものが
全て流れるという認識の方が、先ほどの話で例えば映画とかはきれいな絵を見ると、これ
やっぱりちょっと違うメディアを使わないと多分だめだと思いますけれども、通常絵が見
られればいい、音が聞こえればいい、字が見られればいいというのは、何時でも何処でも
というようなところにはかなわないのではないかと思っています。固定型のメディアとい
うのが先ほどいっていました映画館の変わりになるというのは少し別ですけれども、そう
でないものは基本的に携帯なり無線といいますか、マイパソコンなのかマイテレビなのか
わかりませんが、そんなようにいくのではないかと思っているのですけれど、どんな感じ
でしょうか。
【高城氏】
僕は絶対にそう思いません。絶対にブロードバンドがビジネスモデル的にも
技術的にも利用機会的にも、テレビの今の持っている5割以上のものがそっちに置き換え
るというのはどう考えても考えづらいです。例えば家に100メガがきていても、実際に
は技術的にまず難しいと思います。100メガがきていると、スループットできっとベス
トエフォートだったら4メガちょっとしか出ないです。ベストエフォートでなくて帯域保
22
証のQOS(Quality of Service)だとしても、おそらく15メガくらいまでしか出ないと
思います。その場合に、そのテレビを MPEG2で圧縮して最小送信すると、画像が事実上
VHS以下になってしまいます。これは非常に汚いですよね。それとブラックバースト
(Black Burst)が0%とれませんから、7.5%よりもっと浮いて見えますからテレビが
白っぽく見えてしまいます。アメリカ型のセットアップに変えれば十分でしょうけれど、
多分日本人はそれに慣れないと思うのです。ただ緊急な場合、例えばテロがあってその瞬
間であるとか、中田のゴールの瞬間であるとか、ニュースの一部はそういうダウンロード
型のものやストリーミングのものも出ると思いますけど、今のテレビが持っているもの、
テレビを見れば明らかです。99%がどうでもいいものです。それをインターネットで見
るとは、とても考えづらいです。テレビが6割ニュース番組だったら別だと思うのです。
ただ、あれがテレビを支えているし、あれにスポンサーが付いているのです。テレビを評
価する方法としては、当然ながら視聴率のレーティングの合計と同時にその売り上げとい
うのありますけれども、フジテレビはレーティングが悪くても売り上げがいいということ
は、いわゆるF1(マーケティング用語で「20 歳〜34 歳までの女性の母集のこと」
)とい
われている可処分所得の高いお客様をつかんでいるからです。日テレが視聴率が非常にい
いのに売り上げが悪いということは、子供とおばあさんのお客しか持っていないというこ
とです。子供とおばあさんはおそらくインターネットでテレビを見ないし、可処分所得の
高いフジテレビがやっているような番組はインターネット的ではないとも言えます。いろ
んな角度から考えて、テレビがブロードバンドで5割以上流れるとはちょっと考えづらい
と思います。
−以 上−
23
参考資料1
Brand-new Kyoto 二之湯武史/松下政経塾第 21 期生
出典:松下政経塾 月例レポート 01 年 5 月抜粋
http://www.mskj.or.jp/getsurei/ninoyu0105.html
平成 13 年 5 月 25 日、
京都市内某所、
一つのユニットが産声を上げた。
その名も
「Brand-new
Kyoto Unit」である。行政府ではとても実現できないようなその多彩な顔ぶれは、座長に
武邑光裕氏(東京大学新領域創生科学研究科助教授)
、私を含めた若い世代のメンバー、写
真家や伝統産業従事者など文化人、京都新聞などマスコミ人、京都でも活動的な若手経済
人、などである。ここで展開される議論は既存の研究会がこれまで行ってきたいわゆる「京
都を活性化する議論」のように、ともすれば「京都おたく」と呼ばれても仕方がない議論
ではなく、ビジョンをしっかりと確立しコア・コンピタンスを踏まえた京都再生のための
方策を提言するためのものである。
その 2 回目会合が行われた 6 月 8 日にトップ・バッターとして私がプレゼンを行った。
今月の月例報告ではその内容を報告するとともに、具体的な今後の方向性を示したい。
報告の前に今回のプレゼンの趣旨を述べておくこととする。京都において「今の京都経
済は不振極まりない」
、
「京都は革新と伝統が融合する街である。
」
といったありきたりのこ
とを言う人は多い。しかし、私はこれらの議論がその人のイメージにのみ由来し、きちん
としたデータや科学的根拠を踏まえていないことに不満を感じてきた。こうした独断によ
る議論は、いたずらに不安のみをあおることになりかねないからだ。また、
「ああしたらい
い」
「こうしたらいい」とその場その場の思いつきでアイデアを披露する人も多いが、果た
して長期的な展望や京都のコアを認識した上で発言する人間がどれだけいるのだろうか、
という疑問もあった。そうしたジャスト・アイデアは往々にして議論を掻き乱す。
これら 2 つの注意点を念頭に置きながら、なるべく客観的なデータや長期的なビジョン
を提示しつつプレゼンを行った。
1.「Brand‑new」とは?(イギリスにおけるアイデンティティー刷新運動)
今回の多彩なメンバーにおける共通点は 2 つある。一つはもちろん「京都を刷新したい」
という思いを持っていること。もう一つは「Brand-new Britain」に興味を持っているこ
と、である。そこで冒頭において、イギリスにおける「クール・ブリタニア」運動を紹介
し、それを踏まえて京都の現状の認識に迫ることとした。
a)「登録商標
ブリテン」
1997 年、イギリス・ロンドンのシンクタンク「DEMOS」の研究者マーク・レナードは
ある一冊の報告書を発表した。
「登録商標
ブリテン」
。膨大なデータやアンケート調査を
もとに「イギリス・ブランド」を客観的に分析したその報告書の反響は非常に大きく、当
時政権奪取後間もなかったブレア首相までが注目することとなった。
24
b)報告書の目的
レナードは、イギリスの対外的なイメージ(衰退しつつある国家、大英帝国の遺産で生
き延びている国家、非常に退屈で人々も傲慢な国家)とイギリス内部で新たに巻き起こっ
ている現象(クリエイティブ産業の急成長、多様な民族の共存、世界金融のハブ機能)と
のギャップが大きいために、直接投資・観光産業・工業製品の輸出などの分野で打撃を受
けていると考えた。この報告書の目的は「イギリスのアイデンティティーの刷新」であっ
たが、最大の目的は「アイデンティティの刷新によるイギリス経済への効果」であった。
c)手段
上記の目的を遂行するために2つの機関が設置された。それらが、
「Creative Task Force」
と「Panel 2000」であった。前者はブレア首相をはじめ、ポール・スミス(ファッション・
デザイナー)
、リチャード・ブランソン(バージン・グループ会長)
、ピーター・マンデル
ソン(元 BBC プロデューサー)らが参画し、イギリスの新たなコア・コンピタンスであ
るクリエイティブ産業の振興について議論する委員会であった。また後者は、西暦 2000
年を目前に控え、新たなイギリスを国内外にアピールする象徴的なプロジェクトとして「ミ
レニアム・プロジェクト」を構想し、その方向性を議論することとした。各界の著名人を
メンバーに迎えたこれらの委員会は、その存在自体が非常に柔軟でシンボリックであった。
d)結果
現在のイギリスは政治・経済・文化のどの方面を切り取っても非常に先進的で面白い国
である。政治に関しては別の機会に譲るとして、ここでは経済・文化面を取り上げる。
イギリスにおけるクリエイティブ産業の市場規模は約 600 億ポンド(11 兆円)で、世界
市場の 16%を占めている。また年間 80 億ポンド(1.4 兆円)を輸出しており重要な外貨
獲得源になっている。また、文化戦略についても非常に活発化した、と言える。世界 100
カ国以上に支部を持つイギリスの文化機関「ブリティッシュ・カウンシル」は、現在各国
の若者にターゲットを絞り英語・デザイン・アートの分野で交換留学・イベント開催・教
育など非常に戦略的な取り組みをしている。
2.京都の現状分析
a)経済的動向
先行事例としてイギリスを簡単に取り上げたが、この運動の背景・目的・実施手段と対
比させながら、
「Brand-new Kyoto Unit」が目指していくべきものについて概観してみる
こととする。京都市の経済について、最近の報告書や新聞の報道において象徴的な数字を
拾ってみた。市内総生産は2年連続してマイナス成長!(97 年
?4.0%、98 年
?2.3%) 、
月間倒産負債総額は 13 ヶ月連続して 100 億円を超える。 廃業率(3.4%)が開業率(2.3%)
を上回る。 工場や大学の市外流出が加速している。
(150 箇所の工場と 4 万人の大学生)
。
25
これらの数字だけでも京都市経済が非常に厳しい局面にあることがうかがえる。その他、
失業率、倒産件数、事業所数など凋落振りが著しい。
b)行政施策
京都市は 2025 年を目標とした都市計画の基本構想(グランド・ビジョン)を発表し、
それに伴う具体的計画として京都市基本計画を策定している。行政の計画であるため内容
が特色のないものになるのはある程度仕方がないが、その中でも観光・文化に力点を置い
た部分を垣間見ることはできる。今後の具体的事業を注視する必要がある。また平成 12
年には、2010 年の観光客 5000 万人計画として「おこしやすプラン 21」を策定しており、
京都市の基幹産業として観光産業を位置付けようとしているのは評価できるであろう。ち
なみに観光産業は、2010 年には世界の GDP に占める割合がもっとも大きな産業(約 6 兆
5000 億ドル)となり、世界各国は早々と観光に注力している中わが国は出遅れている現状
がある。
c)構造的特徴
京都市経済の特徴として一番にあげられるのが、製造業の占める割合の大きさであろう。
市内総生産の 20%を占める製造業はサービス業を抑えて堂々のトップである。逆を返せば、
現代のソフト産業主導の世の中において、サービス業の立ち遅れが京都市経済の構造的な
不況の原因となっていることは否定できない。また製造業において、いわゆる「伝統産業」
は年々その生産額(約 2000 億円)
・シェアを落としており、京セラやロームのようなハイ
テク産業が経済を牽引している現状がある。
「京都ブランド」というブランド・エクイティ
ーを経済的価値に転換することが出来ていない現象を見ることができる。また、年間 4000
万人が訪れるとされる京都は、やはり観光産業の占める割合が非常に大きいといえる。前
述の「おこしやすプラン 21」では、現在の京都市経済に占めるシェア 13%を 30%にまで
引き上げる方針である。いわゆる京都らしいデータでは、一人当たりの大学・短期大学数、
宗教法人数、博物館数、国宝・重要文化財数は日本でトップである。
このように京都市は他の大都市と比較しても異なる経済構造が見られる都市と言えるだ
ろう。このユニットでは、こうした特徴を踏まえたうえで提言を行っていく必要があると
考える。
3.コア・コンピタンス
以上簡単に京都の現状を分析したが、これを踏まえた京都市のコア・コンピタンスにつ
いて考えてみたい。
a)国際文化観光都市
まず最初にあげられるのが「国際文化観光都市」としての京都市であろう。昭和 29 年
に策定された「京都市市民憲章」にも同じ名称を使った表現がある。これに関しては市民
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のコンセンサスも形成されている。前述の観光産業の展望を含めて考えると、自立的な地
域経済システムを構築する上で不可欠の視点であるし、大きなフロンティアが目の前に広
がっているとさえ言えるだろう。
b)学術都市
現在京都市内には 38 の大学・短期大学が存在し、12 万 5 千人の大学生が住んでいる。
この事実をどう生かすか?これと並んでよく言われるのが、京都はベンチャー・ビジネス
が盛んな街だということである。しかし、前述のとおり、京都の開業率は廃業率を下回っ
ている。京セラ・ロームなどは決して京都で必然的に生まれてきた企業ではない。ここを
単純に結びつけて議論するのはおかしいであろう。ベンチャーと都市を必然的に結びつけ
る資産とは何かといえば、それは大学である。
「京都はベンチャー都市だ」と断言するには、
保有している資産を利用した構造的な必然性がなければならない。この利点を最大限生か
した政策が求められる。
c)環境先進都市
京都は山紫水明の自然に囲まれた街だとよく言われるが、22 年間京都で暮らしていてそ
んな実感をもったことはほとんどない。市内は雑然とした雰囲気で決して豊かな自然には
恵まれていない。しかし、1997 年京都である国際会議が開かれた。いわゆる「地球環境会
議」である。21 世紀における環境回復に向けての非常にシンボリックな会議であったにも
かかわらず、京都市はそれをただ単にひとつの国際会議と捉えて、その後の市の政策に反
映できていない。
「一発もの」のイベントで終わっているのである。
なぜこの象徴的な開催実績を生かした、先進的な環境への取り組みを行わないのかはは
なはだ疑問である。京都・自然・環境・文化、こうしたキーワードをつなげるためにも環
境先進都市としての自覚と政策をぜひ内外に明らかにし京都の新たなアイデンティティー
とするべきである。
4.「Brand‑new」の目的
a)サスティナブルな経済システムの構築
「都市は生き物」である。生き物は生きるために食べていかなければならない。つまり
自立した地域経済モデルを確立しなくてはならないのである。「Brand-new Kyoto Unit」
では、京都にありがちな文化・伝統という言葉の上に、ただ過去を保存さえすればいいと
いう錯覚に陥らないように、この目的を掲げることにしたい。私が上にあげたコア・コン
ピタンスは「文化・伝統と経済との接点」を意識したものである。言い換えれば、
「京都」
というソフトのブランドをいかにして経済的価値に転換していくか、という命題を含んで
いる。今までの行政の政策や委員会における議論はこの点においてまったく機能しなかっ
た。しかし、アイデアはあるところにはある。今回のユニットでは、市場経済と文化の両
方の観点を入れながら、こうした命題をクリアしていくつもりである。
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b)文化首都としてのアイデンティティー構築
もう 1 つ、私が強調したいのは 21 世紀の文明的大転換期に通用するフィロソフィーを
発信する都市である。ライフスタイル、大衆文化、から政治制度に至るまで、常に新しい
哲学を内外に向けて発信し続ける都市を目指すのである。上記の環境は最もわかりやすい
例であろう。地球環境の破壊が進む中、人々の意識の間では、環境は大切、という共通認
識は持ちながらもライフスタイルや政治制度でそれを実践している都市はなかなかないで
あろう。1997 年の国際会議を原点として京都は環境先進都市に生まれ変わったとなれば、
世界中が注目する都市になろう。それはひいては観光という市場価値をも生むのである。
具体策については次回以降発表する。
<参考文献>
・ 京都市基本構想(平成 9 年)
・ 京都市基本計画(平成 12 年)
・ 京都市市民経済計算(平成 9 年度、平成 10 年度)
・ おこしやすプラン 21(京都市
平成 12 年)
・ 自治体チャンネル(2001 年 5 月号)
・ 「登録商標
ブリテン」
マーク・レナード(DEMOS 1997 年)
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