Ⅰ.クルージングレジャーの現状と課題の整理

Ⅰ.クルージングレジャーの現状と課題の整理
1.わが国におけるクルージングレジャーの現状と問題点
(1)現状の明確化
周りを海に囲まれたわが国は、古来より移動手段の主役とも云える地位を船が占めてき
た。そしてその船に対して、わが国の先人達は、人や荷物の輸送や漁業のためという経済
活動を支える実質面の活用だけでなく、
舟遊び
の言葉に込められた舟を使って豊かな
自然を楽しむという文化をも育んできた。
ところが、船に代わる輸送手段が発達し、経済優先の社会となった現代における海の世
界は、一部の愛好者を除いて大半の人々には、異常気象時の高潮・津波等の脅威や海難事
故といった危険なイメージが優先してしまった事と、個人がプレジャーボートを利用して
海に遊ぶという概念に対しては
沢な遊び
どうすればいいのか分からない
一部のお金持ちの贅
と戸惑いを感じてしまう人々が大半を占める結果となっていた。
そうした背景が海という魅力あるレジャーゾーンから大半の人々を遠ざけ、海洋レジャ
ーが一般大衆に根付かず大きな発展に至らなかった結果を招いてしまっていた。
しかし近年、国民生活の多様化に伴いゆとりある国民生活の実現が求められている中、プ
レジャーボートを利用したクルージングレジャーに対する国民の関心が急速に高まりつつ
ある。これを裏付けるように、プレジャーボート保有隻数についても、毎年増加し平成1
2年度末には全国で約 47 万隻に達しており、小型船舶操縦士の免許取得者数も、毎年着実
に増加している。また、レンタルボート等の新たなプレジャーボートの利用形態が出現し
ており、今後もクルージングレジャー熱は一層高まっていくものと思われる。
図表Ⅰ ―1 −1 プレジャーボート保有隻数
単位:千隻
500
450
400
350
300
ヨット
モーターボート
水上オートバイ
332
291 309 30
20
11
386
397
354
48
371
59
68
77
417
427
85
91
445
451
471
455
96
100
103
106
250
200
150
234
248
253
262
271
276
290
298
314
319
323
338
225
55
55
54
53
50
47
44
42
38
35
32
29
27
63
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
100
50
0
年度末
資料:日本小型船舶検査機構資料に基づき作成
1
(2)クルージングレジャーを巡る問題
わが国では、プレジャーボートを利用したクルージングレジャーの歴史が浅いこともあ
って、欧米諸国等と比べ、プレジャーボートを利用するために必要な施設、制度、教育、情
報などの体制・条件といった基盤が十分整備されていないという状況である。
そのような背景から、現在クルージングレジャーを巡る様々な問題が発生している。
1)プレジャーボートの係留・停泊可能港の不足
わが国のプレジャーボート保有隻数は、図Ⅰ―1−1で示すとおり、平成12年度現
在、約47万隻であるが、マリーナ等の保有能力は約7万隻程度(九州北部小型安全協会
調べ)に過ぎず、係留・停泊施設の不足から港湾区域等に無断係留が横行し、大きな社会
問題になっている。
2)プレジャーボートの海難事故の急増
プレジャーボートの急速な増加に伴い海難事故の発生件数も急増しており、平成12
年度のプレジャーボートでの海難事故による死傷者が約700人に上っていることから、
その対策が急務な課題になっている。
3)
どこで何ができるのか分からない
プレジャーボートの急増
等絶対的な情報不足
ということは、つまり今までクルージングレジャーをした
ことがないビジターの方々が急増していることである。
今までのわが国のクルージングレジャーは、オーナを中心とした「一部の愛好者の遊び」
という感が否めず「情報不足」という問題があまりクローズアップされなかったが、ビ
ジターの方々が急増している現在の状況では、その問題が表面化してきている。
わが国のクルージングレジャー事情は、1)〜3)のような問題点を抱えているが、そ
れを解決し、プレジャーボートの利用環境の改善を図ることは、プレジャーボートに対す
る国民の理解及び共感を深めるとともに、関連産業や地域振興の活性化にも寄与できる。
つまり、この問題を解決できない限り、「真のクルージングレジャーの振興」は実現でき
ないということである。したがって、次ページ以降、その問題についてより詳細な分析を
行っていく。
2
2.問題点の分析
(1)プレジャーボート係留・停泊可能な港の不足
日本全国には漁港、港湾等、船を係留・停泊可能な港が多数存在しているにも関らず、
なぜ「プレジャーボート係留・停泊可能な港が不足しているのか?」この疑問を分析する
ため、瀬戸内海全域(広島県、岡山県、山口県、兵庫県、大阪府、香川県、愛媛県)のプレ
ジャーボートの受け入れが可能と思われる施設(漁協、漁港、港湾、海上レジャー施設、
マリーナ)に対し、「プレジャーボートの受け入れ意志があるか」及び「受け入れ施設があ
るか」についてアンケートを実施した。その結果が図表Ⅰ ―2−1の通りであり、施設計
463箇所に対して、有効回答数が242件、回答率は52パーセントであった。なお、
施設の内訳としては、漁協102件、港湾28件、漁港50件、海洋レジャー施設11件、
マリーナ51件である。
1)アンケート結果
図表Ⅰ ―2 −1 アンケート結果
3%
8%
21%
3%
全体
漁協
5%
合計 242
合計 102
2%
86%
72%
受入可能
施設があるが受入意志がない
受入可能
施設があるが受入意志がない
受入意志はあるが施設がない
受入意志も施設もない
受入意志はあるが施設がない
受入意志も施設もない
12%
11%
4%
漁港
港湾
合計 50
合計 28
85%
88%
受入可能
施設があるが受入意志がない
受入意志はあるが施設がない
受入意志も施設もない
受入可能
施設があるが受入意志がない
受入意志はあるが施設がない
受入意志も施設もない
9%
18%
35%
レジャー施設
マリーナ
合計 11
合計 51
61%
2%
73%
2%
受入可能
施設があるが受入意志がない
受入意志はあるが施設がない
受入意志も施設もない
受入可能
施設があるが受入意志がない
3
受入意志はあるが施設がない
受入意志も施設もない
2)アンケート結果の考察
①全体
アンケート結果の全体像について考察すると、全施設242の内、実に74%にあたる
179の施設がプレジャーボート受け入れに反対であり、受け入れ可能と答えた施設は、
全体の29%にあたる51件に過ぎなかった。
②傾向分析
施設ごとのアンケート結果をみると、それぞれの施設の特徴(漁業関係者の施設等)に応
じて、回答結果に傾向が見受けられる。そこで以下に示すカテゴリーごとにアンケートの
再集計を行う。
漁業関係者(漁協+漁港)
港湾
一般施設(レジャー施設+マリーナ)
図表Ⅰ ―2 −2 アンケート再集計結果
6%
11%
5%
4%
2%
漁業関係者
港湾
合計 152
合計 28
85%
87%
受入可能
施設があるが受入意志がない
受入可能
施設があるが受入意志がない
受入意志はあるが施設がない
受入意志も施設もない
受入意志はあるが施設がない
受入意志も施設もない
31%
一般施設
合計 62
2%
62%
5%
受入可能
施設があるが受入意志がない
受入意志はあるが施設がない
受入意志も施設もない
上記のアンケート集計結果を元に、次頁以降にそのカテゴリーごとに分析を行っていく。
4
3)アンケート結果の分析
①プレジャーボートと漁業関係者
図表Ⅰ ―2 −2のアンケート結果によると漁業関係者の内、実に89%がプレジャーボ
ート受け入れに反対であり、「受け入れ可能」もしくは、「受け入れの意志はあるが現状施
設がない」と答えた施設は、わずか11%にとどまっている。
なぜ、漁業関係者はプレジャーボートを受け入れないのか?
これは、瀬戸内海だけでなく、全国でも問題になっているクルージングレジャーと漁業
関係者との間で発生している様々なトラブルが起因していると考えられる。
元々、クルージングレジャーと漁業は、利用海域や利用資源が重複しており、海域を巡
って様々なトラブルが発生しやすい環境になっている。
最近の個人で乗る釣り用プレジャーボートの進化は目覚しく、魚群探知機、GPS等を
備え、漁業従事者と同じように誰でも大量に魚が捕れる環境になっている。また、人工漁
場に入り込んで魚を捕ってしまう人、漁場を水上バイク等で荒らす人、仕掛け網にイタズ
ラする等迷惑極まりない人もいる。もともと釣れる場所が同じであるから当然漁業従事者
と釣り客との間で衝突が起きてしまう。そして漁業従事者からは「我々には漁業権があり、
生活がかかっているのだ。」と主張し、一方、プレジャーボート利用者は「海は公共のもの」
と主張し両者の意識は平行線をたどっている。
どうしたら、プレジャーボートと漁師が共存できるのか?
1980年代以降漁業の衰退に歯止めがかからず、地域産業の衰退に直面している漁村
地域に対し、クルージングレジャー産業育成を通じ、地域住民の就業機会の増加や人的交流
機会の増加などによる地域活性化という効果をもたらし、漁業者もレジャー産業に加わる
ことにより漁家経営の安定化を図る。また鹿児島県笠妙町野間池地区で見られる、漁業と
レジャー海域を調整する「海のツーリズム」を視野にいれた海域利用調整の事例について
も検討する必要がある。
どのようにして、クルージングレジャー産業を育成するのか?
クルージングレジャー産業育成の鍵は、クルージングレジャーの楽しさ、良さを十分ア
ピールし、万人に良さを理解してもらうことである。方法としてはインターネットに代表
される先進のIT技術を使った情報提供が考えられる。その情報提供を通じて「クルージ
ングレジャーを楽しむにはこんないいところがあるよ」等のアピールを行うことにより、
新たなクルージングレジャー人口の創造を図る。そして、クルージングレジャー育成のも
う1つの大きな鍵が利用海域調整を進めることである。それを実現することによりクルー
5
ジングレジャーを自由に楽しめる海域を設け、「ここに来て良かった。また来よう。」と
いう印象を与え、リピータの促進を促すことが可能になると考えられる。
情報提供を通じた地域活性化に寄与するクルージングレジャー育成
漁業関係者とクルージングレジャー海域利用のルール化
プレジャーボートと漁業関係者と共存
6
②クルージングレジャーと公共港湾
図表Ⅰ ―2 −2のアンケート結果によると港湾の内、実に85%がプレジャーボート受け
入れに反対であり、「受け入れ可能」もしくは、「受け入れの意志はあるが現状施設がな
い」と答えた施設は、わずか15%にとどまっている。この数字は、漁業関係者とほとん
ど同じであり、港湾もプレジャーボート受け入れに対し否定的であることが見受けられる。
なぜ、港湾はプレジャーボートを受け入れないのか?
図表Ⅰ ―2−3 係留・保管状況
わが国のプレジャーボートの保有隻数は、図表
Ⅰ ―1−1で示すとおり、平成12年度末で約4
7万隻であるが、マリーナ等の保有能力は約7万
隻程度に過ぎず、施設の不足から港湾等に無断係
留されている不法係留船舶は約15万隻と言われ
ている。
ここで実際の数値を紹介すると、図表Ⅰ ―2 −
3は、プレジャーボートの普及率が全国第3位で
ある香川県の係留・保管状況である。この図表に
よると確認艇数6,814隻に対し、3,634隻
が放置艇である。その率は、実に53%に達して
おり半分以上が放置艇になっている。これらの船
舶が他船の停泊及び航行の支障となり、また都市
景観の悪化を招いている。
そのような背景に加え多くの港湾管理者は公共
施設はビジター利用不可としており、多数の港湾
がプレジャーボート受け入れに対して反対してい
る。
なぜ、プレジャーボートの放置が横行するのか?
その原因として以下に示す3点が考えられる。
・ 無断係留に対する規制が不十分である。
・ 係留施設の情報が不十分である。
・ プレジャーボートの係留・停泊施設が絶対的に不足している。
以上の問題点を解決し、今後の方向性を検討する必要がある。
7
③一般施設
海洋レジャー施設及びマリーナ等の一般民間施設については、68%が「受け入れ可能」
もしくは「受け入れの意志はあるが現在施設がない」であり、「受け入れ意志がない」につい
ては、32%に止まった結果が出ており、漁業関係者や港湾と比較するとプレジャーボー
ト受け入れに対する抵抗が少ないことが読み取れる。
しかし、32%の施設がプレジャーボート受け入れに否定的である。この理由として会
員制をとっている、あるいは保有責任等によるものが考えられるが、マリンレジャーを推
進するうえでは積極的な開放が必要であろう。
3)まとめ(課題の整理)
「プレジャーボート係留・停泊可能な港の不足」に関して解決すべき課題
■
■
■
■
■
情報提供を通じた地域活性化に寄与するクルージングレジャー育成
漁業関係者とプレジャーボート利用者間の海域利用に関するルール化
無断係留に対する規制の最適化
係留・停泊可能な施設の案内
新たな係留・停泊施設の整備
8
(2)海難事故の急増
1)海難事故の現状
図Ⅰ ―2−4で示すとおり、平成12年度の小型船舶の海難・事故件数は2,345件
であり、その内約53%をプレジャーボートが占めている。
また、プレジャーボートの事故は、5年間(平成7年〜平成12年)で約1.6倍(7
50件→1,233件)に増加し、今後もプレジャーボートの普及に相まって、増加の一
途を辿ることが想定されるため、プレジャーボートの海難事故対策が急務な課題になって
いる。
図Ⅰ ―2−4 小型船舶の海難・事故件数
(件)
2500
2000
2,345
プレジャーボート
漁船
その他
1,708
1,966
1,810
1,787
1,688
1233
1500
750
971
818
907
836
1000
500
750
822
685
725
804
891
208
170
107
155
191
221
平成7年
8年
9年
10年
11年
12年
0
(年度)
資料:海上保安庁・警察庁調べ
9
2)事故原因の分析
図Ⅰ−2−5に示すとおり過去の5年間に発生した台風及び異常気象下のものを除く要
救助船舶は8,815隻である。このうちプレジャーボートの海難は、漁船3,650隻
(40.9%)に次いで多く2,870隻(32.6%)であり、約3割を占めている。漁船の船
舶数とプレジャーボートの船舶数との相対比較で考えると、プレジャーボートの事故発生
率が非常に高いことが伺える。なお、その発生原因としては、見張不十分、操船不適切及
び船位不確認等人為的な要因が上位を占める中、気象・海象情報の収集不足に伴う
海象不注意
気象・
が2位に位置している。
図Ⅰ ―2−5
図表Ⅰ ―2 −5
プレジャーボート海難原因別発生状況
プレジャーボート海難原因別発生状況
資料:財団法人 日本海洋レジャー安全・振興協会
図表Ⅰ ―2 −5の統計結果を分析すると、事故の要因として以下に示す2項目に大別で
きると考えられる。
* 見張り不足・操縦ミス等の人為的な要因
* 気象・海象の急変等の情報収集不足に伴う要因
ただ、人為的なミス等については、利用者本人の技量等に左右される面があり、直ぐに
対応策を講じることは難しいが、情報収集不足の面については、海難対策を支援できる情
報提供の仕組みづくりを行うことにより、海難事故防止に寄与できると考えられる。
3)まとめ(課題の整理)
「海難事故の急増」に関して解決すべき課題
■
情報提供を通じた海難事故防止支援
10
(3)絶対的な情報不足
なぜ
どこに行ったら何が出来るのか分からない
等の問題点が発生するのか?それに
ついての分析を行うため瀬戸内海周辺のアンケート回収施設における、ホームページ等を
通じた情報発信の有無について集約をした。
その結果が図表Ⅰ ―2 ―6の通りであり、実に全体の96%にあたる232件の施設に
ついて情報発信が全くなされていない現状が浮き彫りになった。また、約4%の情報発信
を行っている施設についても、その提供内容を見ると、単に施設の概要等をホームページ
を通じて提供しているのみであり、クルージングレジャー全体を意識した情報提供を行っ
ているものは1件もなかった。また、情報の提供方法についても、各施設が個別にホーム
ページを作成し情報発信を行っているため、非常に煩雑な状態になっており、例えば「瀬
戸内海でクルージングレジャーをしたい」という漠然な思いで情報収集すると、欲しい情
報が全く収集できない現状である。
もともと、クルージングレジャーの歴史が浅い日本では欧米で見られるようなクラブラ
イフへの交わり、親から子への情報伝達等が殆どないため、このような「情報の不足」と
いう問題が発生しやすい環境になっている。つまり、現在の日本のクルージングレジャー
事情を考えると、レジャー全体を見据えて、海域を意識した情報発信基盤の構築が重要な
課題になっている。
図表Ⅰ−2−6
情報発信の現状
10件
4%
情報発信を行っている
全体 242件
情報発信を行っていない
232件
96%
「情報不足」に関して解決すべき課題
■
情報提供を通じて、「人から人への情報継承不足」を補う。
11
3.世界のクルージングレジャー先進地域の現状と分析
(1)クルージングレジャー先進国欧米と日本の違い
クルージングレジャー先進国である欧米と日本の船舶の保有隻数及び保有密度(1隻当
たり何人で保有しているか)を比較したものが図表Ⅰ−3−1である。
欧米では、クラブライフへの交わり、あるいは親から子へとルール、マナー、様々な情
報が伝承及び継承されることを通じ、自己責任を基本としたクルージングレジャーを楽し
む文化が発展している。その顕著の例が船舶の保有密度に現れている。日本の保有密度3
70人/隻に対し、欧米では平均6〜7人程度であり、生活に溶け込んだクルージングレ
ジャー状況が推察される。
また、米国やオーストラリア等においては、幼年期から海洋での自然体験・環境教育に
関する学習プログラムが実施され教育面からの取り組みも実施されている。
図表Ⅰ−3−1
国名
日本
オーストラリア
デンマーク
フィンランド
フランス
ドイツ
イタリア
オランダ
ノルウェー
スウェーデン
スイス
英国
米国
船舶製造会社数
世界の船舶保有件数と保有密度
40
220
80
船舶製造従事者数
2,000
3,360
750
41
120
390
350
850
120
50
20
350
3,300
船舶保有数
367
25
15
5,500
5,300
5,000
7,700
1,750
800
686,500
895,000
424,860
800,000
244,000
620,000
1,315,000
7
66
150
71
10
6
7
160
10,000
70,000
103,044
2,060,000
16,126,100
68
35
16
資料:ICOMIA
12
保有密度(人/隻)
341,000
75,000
344,700
98 統計データによって作成
(2)問題点の解決に向けて
現在、日本ではクルージングレジャーに対する様々の問題が発生しているが、先進国で
ある欧米では同様な問題が発生していないのであろうか?
結論からいうと
殆ど発生していない
のである。しかしなぜ発生していないのか?
1) 漁業関係者とのトラブル
前項で述べたように、欧米ではクルージングレジャーが生活に溶け込んでおり、沢山の
人があたりまえのように楽しむ習慣がある。当然漁業関係者も楽しむため、クルージング
レジャーに対する嫌悪感が全くないのである。また、マナー及びルールが長い年月を通じ
て培われているため、全ての人が当然のこととして守る習慣がある。
そして、制度面でみるとプレジャーボートは基本的に特定の水域で集中的に利用され、
また、漁業関係者と同一ないし近接した水域で利用されるため、様々な問題が発生しやす
い特性をもっているが、欧米では水域ごとに適当なルール(航行禁止区域の明確化、徐行
運転等)等様々な制度を整え、トラブルの防止に努めている。
2) 不法係留問題
不法係留問題についても上記と同様に、プレジャーボート利用者のマナー及びルール意
識の希薄さに起因するところが大きい。
このようなプレジャーボート利用のマナー及びルール意識については、欧米では「親から
子へ子から孫へ」という形で継承され幼い頃から養われている。
また、制度的には、車に違法駐車の取り締まり罰則があるように、船舶に同様の罰則規
定を設け、「マナー及びルールの徹底」、「罰則規定」の両輪で不法係留の撲滅を図って
いる。
3) 情報不足問題
欧米でクルージングレジャーを楽しもうとすれば「親に聞けばわかる」、「近所の人に
聞けばわかる」という情報提供基盤があるが、クルージングレジャーが未成熟であり、身
近な情報基盤のない日本では、最新のIT技術を使った情報提供を通じて、ルール、マナー
及び様々な情報を提供し、利用者を導き、誘導することが重要であり、また大きな課題でも
ある。
13
(3)クルージングレジャー先進国から見た日本の課題
現在日本のクルージングレジャーには、様々な問題が発生しているがクルージングレ
ジャー先進国から見た、その問題解決を行うための課題を以下に取りまとめる。
「クルージングレジャー先進地」から見た日本の課題
■ プレジャーボートを利用するために必要な教育及び体制づくり
■ 漁業関係者、プレジャーボート利用者間の海域利用に関するルール化
■ 情報提供を通じ、ルール、マナー、様々な情報を伝承する
14
4.わが国のクルージングレジャーの課題
(1)課題の整理
今まで分析してきた問題点、課題等を「制度及びルール面」、「情報提供面」、「施設
面」の3つの視点で分類及び整理を行った結果を図表Ⅰ―4−1に示す。
図表Ⅰ ―4 −1
問題点等
港の不足
制度・ルール面
・海域利用のルール化
・無断係留に対する規制の最適化
海難事故の
急増
課題の整理
情報提供面
施設面
・地域活性化に寄与するクルー
・係留、停泊
ジングレジャーの育成
施設の整備
・係留・停泊可能な港の案内
・海難事故防止の支援
情報不足
・人から人への継承不足を補う
先進地から ・必要な教育及び体制づくり
・海域利用のルール化
の課題
・ルール、マナー等の伝承
(2)制度・ルール面に関する課題の分析
(1)で整理を行った課題の中で制度・ルール面の部分については、様々な関係機関で
検討を行っているため、本提言で扱うべき課題であるか十分に分析する必要ある。
1) 漁業関係者とプレジャーボート利用者間の海域利用に関するルール化
この課題は、様々な都道府県等で議論・研究が進められているが、まだ結論に至って
いないのが現状であり、今後の推移を見守る必要がある。したがって、本提言では、課
題として扱わないこととする。
2) 無断係留に対する法律上のルール化
無断係留問題に対しては、現在に至るまで旧「運輸省」、旧「建設省」、旧「水産
庁」が三位一体になって取り組んでおり、今後の方向性として、適正な規制の実施と係
留・保管能力の向上を両輪とする対策を推進することが必要であるとの方針を出してお
り、今後の対策効果を見守る必要がある。したがって、本提言では、この課題について
は取り扱わないこととする。
3) プレジャーボートを利用するために必要な教育及び体制づくり
クルージングレジャーの先進地である米国やオーストラリア等では、幼年期から海洋
での自然体験・環境教育等に関する学習プログラムを通じて、マナー、ルール等の教育
を行っており、日本でも同様の検討を行う必要があるが、本課題は今回の提言主旨から
逸脱した課題であるため、本提言では取り扱わないこととする。
15
(3)課題の明確化
わが国におけるクルージングレジャーの課題を以下に示す。
1)先進のIT技術を駆使した情報提供を通じ以下の項目を実現
◆ 地域振興に寄与するクルージングレジャーの育成
◆ ビジターでも気楽に使える施設紹介
◆ 海難事故防止支援
◆ マナー、ルールを初めとする様々な情報の伝達
2)地域振興に寄与するビジターでも気楽に使える係留、停泊施設の整備
16