トンネル照明省エネルギー化に関する検討

第1編
調査研究報告
トンネル照明省エネルギー化に関する検討
Study of energy saving for tunnel lighting
青 木
靖
要 旨
トンネル照明の省エネルギーを目的として、車両の通行にあわせた照明の調光方法につい
て検討した。現在、最も多くのトンネルで使われている低圧ナトリウムランプの調光、車両
を検知するセンサーについての実験を行った他、調光した場合に削減可能な電力量、経済性
について考察を行ったので報告する。
キーワード:トンネル照明、低圧ナトリウムランプ、省エネルギー、調光、車両センサー
2.トンネルの照明設備
1.はじめに
トンネル照明の制御においては、従来から運転者の
トンネルの照明設備は図1に示すように大きく分け
視認性を確保することを目的として、外部の明るさに
て基本照明・入口照明・坑外照明から構成される。基
応じてトンネル出入口付近の点灯する灯具数を変更さ
本照明は、運転者の視認性を確保するためトンネルの
せる方法が一般に行われているが、晴天時の日中で全
全長にわたって等間隔に設置され、外部の明るさにか
数点灯、夜間でも約2
5%が連続点灯となっている。こ
かわらず24時間連続点灯される。入口照明は明るい外
れは山間部などの交通量の少ないトンネルでも同様で、
部に順応した運転者が暗いトンネルに入る時安全に視
車両の通行がない時間帯においても照明は連続点灯さ
認できることを目的とし、外部の明るさに応じて制御
れており、電気エネルギーの無駄な消費が余儀なくさ
され、多くの場合全消灯・曇天照明点灯・曇天照明お
れている。福井土木管内においてトンネル設備の電気
よび晴天照明点灯の3段階としている。坑外照明は、
料金として年間約1,
80
0万円を支出しており、各方面
夜間運転者がトンネル入口付近の状況を視認できるよ
での省エネルギーが進められている中、トンネル照明
う設けられるもので、周囲が暗くなった場合自動的に
等においても省エネ対策が必要と思われる。
点灯させている。
そこで、本研究ではトンネルの省エネルギー化を図
一方、トンネル設備に使用されるランプの種類は主
る方法として、トンネル手前に車両検知器を設置して
に表−1に示すものが用いられており、次のような特
トンネル内を車が通行していない時間においてはトン
徴を持っている。
ネル照明を減光し、車両の通行を検知した場合には全
(1)低圧ナトリウムランプ
現在トンネル照明としては最も多く用いられている
点灯とする方法について検討を行う。
ランプである。効率が良く、橙色の単色光のため煙や
霧の中での透過性が良いのが特徴である。また、低出
力のランプもあり、内蔵バッテリーによる点灯が可能
図−1 トンネル照明配置および路面輝度分布
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0−
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05.
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表−1 トンネル用ランプの種類と特徴[1]
なことから、基本照明として適しているが調光は不可
3.低圧ランプの調光
現在、トンネル照明として最も広く利用されている
能である。
低圧ナトリウムランプは調光可能なものは開発されて
(2)高圧ナトリウムランプ
低出力のものがなく、内蔵バッテリーによる停電補
いない。しかし、県が管理しているトンネル照明のほ
償ができないため、基本照明としてはあまり用いられ
とんどがこの低圧ナトリウムランプであり、トンネル
ないが、高出力であることから入口照明として用いら
照明の省エネルギーを経済的に実現するには、照明器
れる場合がある。低圧ナトリウムランプに比べると演
具を取り替えず既設の器具を利用して調光を行うこと
色性がよい。専用安定器を用いることにより調光が可
が望ましい。既設の器具をそのまま利用して調光を行
能である。
うには、照明器具への電源電圧を変化させる方法、電
(3)Hf蛍光ランプ
源周波数を変化させる方法が考えられる。
従来、トンネル照明としてはあまり使用されていな
電源電圧を変化させる装置としては高圧ナトリウム
かったが、近年効率が改善されてきたこともあり、基
ランプ用として市販されているものがあるが、低圧ナ
本照明として用いられるようになってきた。平成1
3年
トリウムランプ安定器は定電力特性を有しており、電
より建設電気技術協会「道路・トンネル照明機材仕様
圧を変化させても電力の変化量はわずかである。電圧
書」でもトンネル照明器具として採用され、日本道路
を15%変化させた場合、高圧ナトリウムランプは電力
公団では低圧ナトリウムランプをHf蛍光ランプに替
が28%減少するのに対し、低圧ナトリウムランプは
えていく傾向にある。専用安定器を用いることにより
10%の減少にとどまることが実験で確かめられている
調光が可能である。
[2]。
電源周波数を変化させる方法としては最近のパワー
(4)無電極ランプ
近年開発されたランプで、従来のランプのような電
エレクトロニクス技術の進歩により低価格化が進んで
極がなく、磁場の発生により金属蒸気を励起させ発光
いるインバーターの利用が考えられる。低圧ナトリウ
を行うものであるため、非常に長寿命である。ランプ
ムランプ安定器はランプへの電流を制限するためにコ
が非常に高価であるので、メンテナンスが困難な箇所
イルを用いるが、このコイルは周波数を上昇させると
への設置に適している。
電流が流れにくくなる特性を有している。この特性を
利用して周波数制御による調光の実験を行った。図−
2は周波数を変化させたときの電力の変化を示したも
のである。
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1−
第1編
調査研究報告
3台で150Wとなるが、図に示すとおり、180Hzで入
力電力70Wと半分以下に制御されている。ただし、ラ
ンプを暗い方から明るい方へ変化させた場合、明るさ
が増加し安定するまでに30秒近くの時間が必要であっ
た。また、65〜110Hzの間ではは安定器回路の直列共
振のため非常に大きな電流が流れると考えられ、器具
を破損する恐れがあるので十分な注意が必要である。
実際の導入にはこれらの問題の他、インバーターを使
用することによる高調波の影響、高い周波数によるコ
ンデンサーへの過電流および過熱の問題、ランプの寿
図−2
低圧ナトリウムランプの周波数特性
命への影響などを検討しなければならない。
4.センサーの検討
トンネル照明を制御するためには、トンネルの手前
で車両等の通行を検知する必要がある。このセンサー
に要求される条件としては、
1)車両をトンネルの十分手前で検知できること
2)雨・雪・霧等の気象条件に影響されないこと
3)自動車の他バイク・自転車等も検知できること
などがあげられる。さらに、歩行者も検知できること
が望ましく、通行する車両等のスピードが分かればそ
の車両等がトンネルを通過するのに必要な時間だけ照
図−3
実験機器
明を明るくしておくことで、より効果的な省エネルギ
ーが可能となる。上記の条件を満たすセンサーとして
ドップラー効果を利用したマイクロ波速度センサーが
最も適していると思われる。マイクロ波を利用したセ
ンサーが照明器具と組み合わせて機能することを実験
で確認した。
図―4
実験に用いた低圧ナトリウムランプ
実験の様子を図―3、図―4に示す。モーター制御
用として一般に市販されているPWM方式3相インバ
ータを使用し、出力電圧は周波数にかかわらず一定と
なるよう設定している。負荷は3
5Wナトリウムランプ
3台のΔ結線とし、インバーターへの入力電力を測定
した。このナトリウムランプ安定器は定格入力5
0Wで、
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図―5 センサーの動作実験装置
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を入力することで瞬時にほぼ1
00%点灯状態とするこ
とができる。トンネルに車両等が近づいてきた場合、
マイクロ波速度センサーで検知し、その速度を制御用
パソコンに伝送する。制御用パソコンは送られてきた
速度をもとにトンネルを通過するのに必要な時間を計
算し、車両等がトンネルを通過していると考えられる
時間だけ安定器に信号を出力することによりランプを
100%点灯させる。マイクロ波速度センサーの仕様は
表−2のとおりであるが、実験の結果では車両をセン
サーの約65!手前で検知することができた。バイクや
自転車の速度も検知可能であり、さらに、センサーの
図―6 センサーの設置状況
位置を適正に選ぶことにより時速3"程度の歩行者も
検知することが可能であった。ランプと組み合わせた
試験においても、瞬時に調光可能な高圧ナトリウムラ
ンプであれば良好な結果が得られることが分かった。
5.電力削減可能量
トンネルの調光を行った場合の電力削減量を一般県
道本郷福井線の西郷トンネルをモデルに検討する。平
表―2 センサーの仕様
成17年4月5日から25日にかけて30分ごとの交通量の
西郷トンネル(延長6
20!)に設置した実験装置の
調査を行い、その結果をもとに車両がトンネル内を通
概要を図−5、図−6に示す。
行している時間を計算した(図−7)。調査の結果こ
現在のところ瞬時に調光可能な低圧ナトリウムランプ
のトンネルは1日当たりの平均通行台数は上り7
0
0台、
が無いので、実験には高圧ナトリウムランプを使用し
下り660台であった。図から9時から1
7時で約3割、
た。この高圧ナトリウムランプ用安定器は調光が可能
0時から7時で約9割の時間が車両の通行がなく減光
なタイプであり、通常は約5
0%の点灯状態とし、信号
可能であることが分かる。車両通過時1
00%点灯、無
図―7
車両通過台数と点灯時間
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3−
第1編
調査研究報告
通過時5
0%減光とした場合の年間削減可能電力量を表
168万円となる。センサーの設置工事費がトンネルの
−3に示す。正確には各照明の点灯時間を年間通して
両側で60万円程度であることから、照明の調光にかか
調べる必要があるが、ここでは3週間の観測をもとに
る工事を1
00万円程度までに押さえることができれば
年間の日射データ等を考慮しておおよその値を見積も
経済的に見合う可能性があると考えられる。
っ た。そ の 結 果、調 光 し な い 場 合 の 年 間 電 力 量 は
今後は、低圧ナトリウムの調光方法についてさらに
2
5,
1
37kWhで あ る の に 対 し 調 光 し た 場 合 は
検討するとともに、高圧ナトリウムランプやHf蛍光
19,
1
5
1kWhと 試 算 さ れ、5,
9
8
6kWh、2
3.
8%の 電 力
ランプ等を利用したトンネル照明の省エネルギー化の
量削減となる。1kWh当たり14.
04円(北陸電力公衆
可能性についても検討していく。
街路灯電力量料金)とすると削減電力料金は8
4,
000円、
二酸化炭素排出量に換算して2.
3tとなる。
参考文献
[1]:景観道路照明カタログ(2
004),岩崎電気株
式会社.
[2]:
低圧ナトリウムランプの調光特性 ,株式
会社トリックス技術資料,(2004).
表―3
削減可能電力量
6.まとめ
現在、多くのトンネルで使用されている低圧ナトリ
ウム灯の省エネルギー化について検討を行った。現在
の照明器具をそのまま利用する方法として、電源の周
波数を調整することで調光は可能であるが、明るさが
変化するのに時間がかかる、現在の安定器は商用周波
数での利用を前提としており十分に安全性を確認する
必要がある等の問題があることが分かった。これらの
問題解決には照明器具メーカーの協力が必要であるが、
低圧ナトリウムランプ自体はすべて海外からの輸入で、
その特性を把握できない部分があり、さらに、将来的
に低圧ナトリウムランプは他の照明器具に代わってい
くことが予想されることから、研究や商品開発はほと
んど行われていないのが現状である。
車両等の接近を検出するセンサーとしてはマイクロ
波速度センサーが適していることが確認できた。しか
し、トンネル手前約6
5!地点の車両を検知する場合、
車両の速度を時速6
0"として約4秒でトンネルに進入
することを考慮すると、ほぼ瞬時的に明るさが変化で
きるランプや安定器と組み合わせる必要がある。
経済性の点からは、西郷トンネルの例で年間の削減
可能な電力料金は8
4,
00
0円と試算された。仮に機器の
耐用年数を2
0年とした場合、その間の削減電力料金は
−4
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