本文和訳(全頁)

 オーストラリア・ホームステイ日記 パトリック・ハフェンスタイン 著 の掲示が見える?」掲示には「オーストラリア留学ツアーへの
道セミナー」と書いてありました。
「ほんと、お母さん? ほん
となの?」ユウコの母親はユウコを見てほほ笑みました。 海外旅行はユウコの夢でした。毎年夏になると、彼女は海外
旅行をしていいか母親にたずねていました。でも母親はいつも
だめと言いました。それが今や彼女の夢がかなおうとしている
第 1 章 驚き! のです! 「あなたはよくやったから」とユウコの母親は言いました。
「よ
「お母さん、私をどこに連れていくの?」とユウコは聞きまし
く勉強していい大学に合格したからね。お母さんはすごく幸せ
た。 でうれしいのよ。いい成績をおさめたから、これはあなたへの
「いいからすぐに起きなさい。電車に遅れるわよ!」と母親
プレゼントよ」 は言いました。 「ありがとう、お母さん! ほんとにありがとう! お母さ
「まいったなあ」とユウコは思いました。
「高校を卒業して春
んは世界一のお母さんよ! お母さんのこと大好き!」とユウ
休みになってまだ最初の週なのよ。ゆっくりしたいな」 コはとてもはずんだ声で言いました。ユウコは母親に抱きつき
ユウコはクラスでいちばんできる生徒ではありませんでした
ました。母親の肩越しにマリが見えました。でも、親友のマリ
が、いつも一生懸命勉強しました。大学の受験勉強をするのは
はちっともうれしそうではありませんでした。緊張してこわが
とてもたいへんでした。でも彼女は懸命に勉強して、いい大学
っている様子でした。 に合格しました。しばらくすると大学が始まります。でも今は
「どうしたの、マリ?」とユウコはたずねました。 時間がありました。この先何週間か、彼女は遅くまで寝て何も
しないでいたいと思いました。ところが、母親は彼女をどこか
第2章 セミナー に連れていこうとしていました。
「お母さんはどうしていつもせ
かすのだろう」と彼女は思いました。 「オーストラリア? 3週間? でも、私、英語が話せないの
ユウコはしたくをして、母親といっしょに駅へ急ぎました。
よ! これっていいことじゃないわ、ユウコ」とマリは言いま
駅に着くと、親友のマリがホームで待っていました。マリも母
した。
「何を食べるの? どこに住むの? 迷子になったらどう
親といっしょでした。
「ここで何をしているの、マリ?」と彼女
するの? トイレに行きたくなったらどうすればいいの? 誰
は聞きました。 かに話しかけられたらどうなるの?」 「お母さんが私をどこかに連れていくって言うのだけれど、
「だいじょうぶよ、マリ」とマリの母親は言いました。
「その
どこだかわからないの」とマリは悲しそうな声で言いました。 ために今日はここに来たのよ。そういった質問の答えをここで
「となると、なおさら不思議だわ。うちのお母さんも私をど
聞けるのよ」 こかに連れていこうとしているけれど、私もどこだか知らない
「そうよ」とユウコは言いました。「きっと楽しいわよ!」 の」とユウコは言いました。 「ユウコは気軽にそう言うけれど」とマリは言いました。
「ユ
「お母さん」とマリは言いました。
「これってどういうことな
ウコはいつだってすぐに友達を作れるでしょ。友好的で自信が
の?」とユウコは聞きました。
「ねえ、お母さんたちは何をしよ
あるし。私はそうじゃないわ。引っ込み思案で、初対面の人に
うとしているの?」とマリは聞きました。 会うのは苦手なのよ」 「あら、電車が来たわ」とマリの母親は言いました。4人は
「わかったわ、マリ。でも、今すぐに決める必要はないのよ。
電車に乗りました。町へ向かう電車です。途中、ユウコとマリ
いっしょにオーストラリアのセミナーを聞きましょう。それか
は母親たちにどこへ行くのか何度も何度もたずねました。とこ
ら決めればいいのよ」とユウコは言いました。 ろが母親たちは何も言わず、ただにこにこしていました。 ユウコとマリは母親たちといっしょに中に入って席に着きま
20分で電車は町に着きました。みんなは電車を降り、女の
した。そしてセミナーが始まるのを待ちました。1人の女性が
子たちは母親について大きなオフィスビルに行きました。そこ
部屋の前に進み出ました。
「みなさん、こんにちは」と彼女は言
にはほかにもたくさんの高校生や大学生がいました。みんな親
いました。
「私はタカコといいます。私がオーストラリア留学に
といっしょでした。 ついていろいろお話しします。私が初めてオーストラリアへ行
急にユウコが大きな声で言いました。
「見て、マリ。ほら! あ
ったのは10年前でした。高校を卒業してすぐでした。それは
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人生で最高のできごとでした。それまでの私は引っ込み思案だ
第3章 到着 ったのですが、今では旅行して知らない人に会うのが最大の楽
しみです」 「わからないわ、ユウコ」とマリは言いました。 タカコは学生と親にオーストラリア留学ツアーに関するたく
「私たちが初めて水泳教室に行ったときのこと、覚えてい
さんの写真とビデオを見せました。そしてみんなのいろいろな
る?」とユウコは聞きました。 質問にすべて答えてくれました。 「もちろん! 忘れられるわけがないでしょ。ほんとにこわ
「安全ですか」とある男子が聞きました。 かったんだから」とマリは言いました。 「ええ、安全です」とタカコは言いました。
「ホストファミリ
「そう、こわがっていたわね」とユウコは言いました。
「でも、
ーはみんなブルーカードを持っていることを確認してあります。
今の自分を見てみなさいよ。高3でいちばん速く泳げたじゃな
これはその家庭が子供を受け入れるのにふさわしいという政府
い。それにディズニーランドに行ったときのこと、覚えている? のお墨付きです。また、ホームステイ先では友達といっしょに
あなた、絶叫マシンに乗る前は泣きそうだったわ。それが今で
いられます。つまり、1つの家庭に2人の日本人学生が入ると
はいつもいちばん前の席に乗るわよね」 いうことです。それに、学校では私が付き添いますし、ツアー
「わかった、わかった。行くわよ。でも、ユウコと同じホス
のときには私もごいっしょしてみなさんのお世話をします。た
トファミリーのところに行きたいわ」とマリは強い声で言いま
だ、それでも身の安全に気をつける必要はあります。注意をお
した。 こたらず、賢明にふるまってください。そうすればだいじょう
ユウコとマリと母親たちはセミナーを後にして、家へ向かう
ぶです」 電車に乗りました。途中で、女の子たちはオーストラリアの情
「僕は英語がへたなのですけれど」と別の男子が言いました。 報を読みました。2人はコアラやカンガルーといった、オース
「だいじょうぶです」とタカコは言いました。
「教員は初学者
トラリアで見たいおもしろい動物のことをいろいろ話しました。
に教える経験を積んでいます。それに、ホストファミリーは外
それに、ビーチや森など行きたい場所のこともいろいろ話しま
国人の面倒をみるのに慣れています。実際、英語圏の国に住む
した。また、やりたいこともいろいろ話しました。バーベキュ
ことは英語を学ぶのに最高で最速の方法です」 ーをしたり、ほかの国から来た生徒たちと友達になったり、サ
「私は18歳なのですが、ホームステイをしなければなりま
ーフィンをしたり買い物をしたりといったことです。 せんか? 学生用のアパートに滞在することはできますか?」
ユウコとマリが家に着くと、母親たちは2人にオーストラリ
とある女子が聞きました。 ア旅行について話しました。 「今回は短期の留学ツアーで、あなたはオーストラリアへ行
母親たちは次のようなことを言いました。 くのは初めてですから、ホームステイをするのがいいと思いま
す」とタカコは言いました。
「迷子になったらホストファミリー
・身の安全に気をつけること。 が探し出してくれますし、お医者さんにかかる必要があればホ
・一生懸命勉強すること。 ストファミリーが連れていってくれます。宿題がうまくいかな
・英語がうまく話せると将来役に立つこと。 ければホストファミリーが手伝ってくれます。料理とか支払い
・わからないことがあれば、先生かホストファミリーに聞く
といったことに気をつかう必要もありません。自分の勉強のこ
こと。 とと楽しむことだけに気をつかえばいいのですよ」 ・あまり夜ふかししないこと。 タカコの話のあと、ユウコはマリに話しかけました。
「それで
・いろいろな国の生徒たちと友達になること。 マリ、どう思う?」と彼女は言いました。
「タカコはとっても親
・2人で日本語で話してばかりいないこと。 切だし、いっしょに行ってくれるのよ。あなたの質問にも全部
・ホストファミリーに礼儀正しく接すること。 答えてくれたわよね。私たちは同じホストファミリーのところ
・家事を手伝うこと。 に泊まれるのよ。すごく楽しそう。あなた、行くべきよ。旅行
して世界を知るいい機会だわ。何か違ったことができるように
ユウコとマリの母親は長いこと話しました。まるでセミナー
なるわよ。いっしょに行きましょう! いい?」 の続きのようでした。でも2人はひとことひとことに耳を傾け
ました。オーストラリアに行けるのはほんとうに運がいいこと
でした。 数日後、母親たちはタカコからユウコとマリのホストファミ
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リーについてメールを受け取りました。 思う存分楽しみなさいね。見て、私たちの荷物が出てきたわ!」 女の子たちは自分の荷物を取り、税関を問題なく通過しまし
ユウコとマリへ た。いよいよホストファミリーとの対面です。 元気ですか。オーストラリアに行くので、2人ともとてもわく
第4章 ユウコとマリ、ホストファミリーに会う わくしていることと思います。それから、ホストファミリーに
ついてもっと知りたいことと思います。ホストファミリーの情
タカコは生徒たちを、ゲートのそばで待っている一群のホスト
報を用意しました。 ファミリーのところへ連れていきました。彼女は生徒たちをそ
れぞれのホストファミリーに紹介しました。 あなた方2人は同じ家族のところに滞在します。4人家族です。
「ジュンコとケイコ、こちらがホストペアレントのマットと
お父さんは役所に勤めていて、テニスが好きです。お母さんは
ダイアンよ」 幼稚園に勤めていて、歌うことが好きです。娘さんは高校3年
この最初の2人の女の子は、ホストペアレントのところへ歩
生で、ダンスが好きです。息子さんは高校1年生で、バスケッ
いていきました。彼らはにっこり笑って、あいさつを交わしま
トボールをするのが好きです。とってもすてきな家族だと思い
した。それからホストファーザーとホストマザーは女の子たち
ませんか? ホストファミリーに会ったら、日本のおみやげを
の荷物を持ち、2人を車のところへ向かわせました。 渡すようにしてください。 タカコは引き続き生徒たちにホストファミリーを紹介しまし
た。最後に彼女は言いました。
「ユウコとマリ、こちらがベンと
質問があればメールをください。 カースティーよ」 それではまた。 マリはとても不安でした。彼女は自分の足元を見ました。逃
げ出したいと思いました。英語を話すのがこわかったのです。 どうぞよろしく。 でも、マリがそのほかのことを考える間もなく、ベンは「調
タカコ 子はどう、マリ?」と聞きました。彼女はゆっくりと顔を上げ
ました。 1週間後の早朝、2人はゴールドコースト国際空港に到着しま
「元気です」と彼女は小さな声で言いました。ホストペアレ
した。機上から太平洋上にきれいな朝日が見えました。 ントがこれ以上質問してこないでほしいとマリは思いました。 「わあ。ほんとにオーストラリアに来たんだ」とマリは言い
ユウコはマリが不安がっているのを見て、ホストペアレント
ました。
「行くように勧めてくれてありがとう、ユウコ。とって
の質問に全部答えました。幸いなことに、質問は次のようなふ
もすてきな場所だわ」 つうのものでした。 ユウコはほほ笑んで言いました。
「あなたが来てくれてよかっ
たわ。この思いを分かち合える人がいるのはすばらしいことよ」 ・どの町の出身か。 ところが、じきにマリはまた心配になってきました。荷物が
・空の旅は快適だったか。 出てくるのを待っているとき、マリがまだ心配そうにしている
・機内では寝たか。 のにユウコは気がつきました。 ・お腹がすいているか。 「だいじょうぶ、マリ?」と彼女は聞きました。 ・家に着いたら休憩したいか。 「だいじょうぶじゃないわ」とマリは言いました。
「すごく緊
・ユウコとマリは友達か。 張していて不安なの。スーツケースが行方不明になったらどう
・2人は同じ学校に通っているのか。 しよう。ホストファミリーが迎えに来てくれなかったらどうし
・以前オーストラリアへ来たことはあるか。 よう。誰かに話しかけられたらどうしよう。私、英語がしゃべ
れないのよ。助けて!」 こういった質問の多くは、日本で参加したセミナーでもらっ
タカコは2人の話を聞いていました。「2人とも心配しない
た情報冊子にのっていたので、ユウコは質問の答えがわかりま
で」と彼女は言いました。
「私がついているし、荷物もちゃんと
した。 出てくるわよ。ホストファミリーも迎えに来てくれるから。さ
車で家へ向かう道中はすてきでした。ホストペアレントの車
あ、これから新しい冒険が始まるのよ。滞在期間は短いから、
はゴールドコーストハイウェイを走っていきました。道路の一
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方にはビーチが、もう一方には山が見えました。 たたちにタオルをあげるわ。自分のものをここに置いておいて
しばらくすると、車はパシフィックハイウェイからそれて、
ね。オーストラリアはとても乾燥した国なの。だから水を使い
今までより細い道を進みました。このあたりの家はどれも大き
すぎないように気をつけないといけないわ。今は十分な水があ
くてきれいで、緑あざやかな庭がありました。 るけれど、時には2分でシャワーを浴びるだけっていうことも
「私たち、大きな家に泊まるのだと思う、ユウコ?」とマリ
あるのよ」 はユウコに日本語で聞きました。 「洗濯機はここ。バスルームの隣ね。今日の午後、洗濯機の
「小さい家なんて1軒もないわ」とユウコは言いました。 使い方とどこに洗濯物を干すか教えるわね」 「じゃあ、私たちのホストファミリーの家もきっと大きいの
「ここはブロンの寝室とルークの寝室。さて、ここがあなた
ね」とマリは言いました。2人はまたわくわくしてきました。 たちの寝室よ。どっちの部屋を誰が使うか決めてね」 急にホストファーザーは大きな家の前に車を止めました。車
マリは小さいほうの部屋を選びたかったのですが、英語でど
庫のドアが開いて、彼は車を入れました。彼が車を止めると、
う言えばいいのかよくわかりませんでした。するとユウコがは
一行は車を降りました。 たから口を出しました。「私、小さいほうの部屋にしたいです」 女の子たちが車庫から出ると、庭にあるきれいな澄んだプー
「いいわよ」とカースティーは言いました。マリはちょっと
ルが目に入りました。
「高級ホテルみたい!」とマリは言いまし
あわてました。今度こういうことがあったら、もっとはっきり
た。なんて運がいいのか信じられないほどでした。 言うようにしないといけません。 2人の子供が犬を連れてドアのところで待っていました。ブ
「それじゃあ、スーツケースから荷物を出して、少し休憩す
ロンとルークです。犬の名前はボビーです。マリは初対面の人
るといいわ」とカースティーは言いました。
「昼ごはんは45分
に会うのをまだ不安に感じていました。 ぐらいでできるから、下に降りてきてね」 「家の中を案内して、決まり事を説明しましょう」とカース
ユウコとマリはオーストラリアと日本の違いについて日本語
ティーは言いました。 で話し始めました。
「この家、すごく広いわ。寝室が5つ、居間
が2つ、食堂、それに大きなプール。バスルームも2つ、じゃ
第5章 オーストラリアの家 なくてたぶん3つあるみたい」とユウコは言いました。
「それに、
バスルームのうちの1つには大きな浴槽があるわ。あれが使え
「まず、たいていのオーストラリアの家では靴は脱がなくてい
たらいいな。でも、水を使うのは2分とかなんとか言っていた
いのよ。日本とは違うわよね?」女の子たちはびくびくしてい
わよね。だからまず確認しないといけないわ」 ましたが、にっこり笑って靴をはいたまま家に入りました。 「それから、食べ物を見た?」とマリは聞きました。
「冷蔵庫
「ここが居間よ。このとおり、テレビがあってエックスボッ
にソフトドリンクがたくさんあって、チョコレートもたくさん
クスと Wii があって、ビリヤード台もあるわ。いつでも使って
あったわ。それにポテトチップと甘いお菓子もいっぱい。太ら
いいのよ。でも、宿題を終えてからね、いい?」 ないといいな。日本の彼氏にふられちゃうわ」 女の子たちは心配な様子でした。毎日宿題がたくさん出るの
「はは」とユウコは笑いました。
「あなたの彼氏はあなたのこ
でしょうか。 とをふったりしないわよ。それで、ブロンとルークはどう? お
カースティーは2人の表情を見ました。
「心配しないで」と彼
母さんが2人は高校3年と高校1年だって言っていたと思うけ
女は言いました。オーストラリアでは宿題はそんなに出ないの
ど。2人とも背が高くて、目がすごくきれいね。それはさてお
よ。遊ぶ時間がたくさんあるわ」 き、スーツケースから荷物を出して、昼ごはんに間に合うよう
宿題がそんなにはないと聞いて、2人は驚きました。彼女た
にしましょう。日本のおみやげはいつ渡せばいいかしら」 ちはホストマザーについて家の中を回りました。 「昼ごはんのあとに渡しましょう」とマリは言いました。 「ここが台所」と彼女は言いました。
「朝ごはんと昼ごはんと
「ホストファミリーは私たちのことをどう思っていると思
夕ごはんは作るわ。それでもお腹がすいたら、冷蔵庫や食料室
う?」とユウコは聞きました。 にある食べ物を自由に食べていいわ。食べたら後かたづけを忘
れないでね」 第6章 ユウコとマリのホストファミリーとの最初の食事 彼女たちはさらに家の中を回りました。 「ここが食堂よ。それでここが2つ目の居間。それから私の
カースティーはちょうど昼ごはんができたと大きな声で言うと
寝室があって、ここはあなたたちのバスルームよ。あとであな
ころでした。でも、振り向くと、ユウコとマリはもう食堂のテ
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ーブルに着いていました。 ベンは言いました。
「頼むよ。僕が食器を洗うから、マリと君
「私が日本の生徒のどこが好きかわかる?」とカースティー
は食器をふいてくれるかな。うちの子たちは片づけをするよ。
はにっこりして言いました。
「日本の生徒はいつも時間を守るし、
どこにしまうかわかっているから」 いつも礼儀正しいし、いつもとっても親切だわ」カースティー
食器をふいているとき、マリはユウコに日本語で言いました。
はマリを見ました。
「ちょっと引っ込み思案なところもあるけれ
「わあ、ベンが食器を洗っている。うちのお父さんは家事なん
どね。でも、日本の生徒が家にいるととても楽しいのよ。あな
て全然しないわ」 たたちが来てくれてすごくうれしいわ」 「おい、日本語禁止と言っただろ」とベンはすぐに言いまし
カースティーは残りの家族を昼ごはんに呼びました。 た。 1人1人に大きなサンドイッチが出ました。ユウコとマリは
「ごめんなさい、忘れていました。日本語禁止。わかりまし
そのサンドイッチの大きさを見てびっくりしました。サンドイ
た」とマリは言いました。 ッチにはハムとチーズとトマトとタマネギがはさんでありまし
「ブロン」とベンは言いました。
「このごみを外に出してくれ
た。日本のサンドイッチの2倍はありました。ユウコとマリは
るかな。ユウコとマリを連れていって、ごみ入れを見せてあげ
サンドイッチをおいしいと思いましたが、食べきれませんでし
て」 た。 ブロンは2人を外に連れていきました。彼女は言いました。
「お昼ごはんをありがとうございます」とユウコは言いまし
「これは生ごみ用。この黄色いふたのはリサイクル用。この薄
た。「とてもおいしかったです。おなかいっぱいです」 い緑のふたのは、草などの庭のごみ用よ」 「そう言ってくれてありがとう」とカースティーは言いまし
マリは「オーストラリアではごみ入れまで巨大だわ」と思い
た。ホストマザーに食事のお礼を必ず言うようにとタカコが言
ました。 っていたことを、ユウコは覚えていました。また、ホストファ
突然、ユウコは「あああ!」と叫び声をあげました。ユウコ
ミリーに食べたいものと食べたくないものを言うようにとタカ
はブロンのかげに隠れました。ユウコは泣きそうでした。
「あれ
コが言っていたことを、ユウコは覚えていました。 は何? ドアのわきのところ! あれは何なの? あああ!」 「それから、サンドイッチがとても大きいです。今度はたぶ
「あれのこと?」とブロンは言いました。「あれはヤモリよ。
ん半分で十分です。ごめんなさい」とユウコは言いました。 だいじょうぶ。危なくないわ。ヤモリは役に立つのよ。クモや
「わかったわ」とカースティーは言いました。
「だいじょうぶ
モジーを食べるの。ほんとに危なくないのよ」 よ。あなたはどう、マリ?」 ユウコとマリは走って安全な家の中に戻りました。 マリは何を言われたのかわかりませんでした。マリはユウコ
2人が家に駆けこむと、ベンは笑って言いました。
「モジーに
のほうを見て、カースティーが何と言ったのか日本語で聞きま
襲われたのかな?」 した。 「モジー?」とユウコはたずねました。 「規則の1番!」とベンが言いました。
「ホストファミリーと
「そう、蚊のことだよ」とベンは言いました。 いるときは日本語禁止。英語を学ぶためにここに来たのだから、
「私が見たいのはコアラやカンガルーで、モジーやヤモリで
いつも英語を話しなさい。あることばがわからない人の前でそ
はありません」とユウコは落ち込んだ顔つきで言いました。 のことばを使うのは、配慮に欠けるよ」 「おもしろいことを言うね」とベンは言いました。「じゃあ、
マリは赤くなり、気まずくなりました。
「ごめんなさい、ほん
僕についてきなさい。見せたいものがあるんだ」女の子たちは
とにごめんなさい」とマリは言いました。
「何て言われたかわか
ベンのあとについて、居間に入りました。 らなかったので、ユウコに聞いたんです。ごめんなさい」 「だいじょうぶだよ」とベンは言いました。
「英語を話すこと
第7章 オーストラリアのことば を忘れないように。まちがえてもかまわないから」 「サンドイッチは大きすぎる?」とカースティーはやさしく
「オーストラリア人は footy(フッティー)を見るのが大好きな
はっきりとゆっくりとたずねました。今度はマリにも理解でき、
んだ。日曜の arvo(アーボ)のフッティーの試合が始まるとこ
「はい、すごく大きいです」と答えました。みんなほほ笑みま
ろだよ」とベンは言いました。 した。それから後かたづけを始めました。 「アーボのフッティー?」とユウコは聞き、不思議そうな顔
家事を手伝うようにと母親が言っていたのを、ユウコは思い
をしました。 出しました。それで「手伝いましょうか」と聞きました。 「そう、日曜のアーボのフッティー」ベンはユウコを見て、
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彼女の表情に気がつきました。
「ああ、ごめん。Aussie(オージ
るよりもずっと効果がある。
(初学者は)まちがえるものだとい
ー)はことばを全部言わないことがよくあるんだ。おや、また
うことをみんなわかってくれているし」 やってしまった。
『オージー』は Australian(オーストラリア人)
「2人ともシャワーを浴びて今夜は早く寝たらいいんじゃな
のこと。
『フッティー』は football(この話の舞台となっている
い?」とカースティーは言いました。
「今日はたいへんな1日だ
クイーンズランド州では footy はふつう「ラグビー」を意味す
ったわね。あしたから学校が始まるから、じゅうぶんに休みな
る)のことで、『モジー』は mosquito(蚊)のことだよ。『アー
さい。あしたの朝は7時に出かけられるようにしてね。まずい
ボ』は何のことかわかるかい?」 っしょに Maccas(マッカス)に行って、それから学校までバス
ユウコはよくわかりませんでしたが、「after(…の後で)の
でどうやって行くか教えるわ」 ことかしら?」と言いました。ベンもユウコも笑いました。
「お
「マッカス? たぶんこれも省略語ね」とマリは思いました。
しい」とベンはいいました。「after ではないけれど、かなりい
でもくたくたに疲れていましたから、これ以上英語のなぞ解き
い線いっているよ。『アーボ』は afternoon(午後)のことなん
をするのは無理でした。ただただ眠りたかったのです。次の日
だ」 になれば「マッカス」の意味もわかるでしょうから。 「私はオージーの(オーストラリアの)モジー(蚊)がきらい!」
とユウコは笑みをたたえて言いました。 第8章 初登校 「すばらしい!」とベンは言って笑いました。
「覚えが早いし、
おもしろい子だね!」 「おはよう。よく眠れた?」とカースティーがたずねました。 カースティーが入ってきてこの会話を聞き、女の子たちにた
「おはようございます。よく眠れました」とユウコが言いま
ずねました。「cuppa(カッパ)はいるかしら?」 した。 ユウコとマリはしばらく考えていました。そしてユウコが
「はい、あなたたちのお弁当よ」とカースティーが言いまし
「car park(駐車場)?」とたずねました。 た。
「かばんに入れて、学校に着いたら学校の冷蔵庫に入れてね」 「ちがうわ」とカースティーは言いました。「『カッパ』も省
「わかりました」とユウコが言いました。 略語のひとつよ」 「マッカスに行く準備はできた? マッカスはバス停の真ん
急にマリは思いつき、「cup of tea(1杯のお茶)?」と言い
前にあるのよ。そこで急いで朝ごはんを食べましょう」 ました。カースティーはティーバッグが入った箱を持っていた
「マッカス?」とマリはまた考えました。カースティーは朝
のでした。 ごはんのことも口にしました。たぶんマクドナルドのことでし
「そう、よくできました、マリ! 2人ともとても覚えが早
ょう。カースティーと女の子たちは家を出て、500メートル
いわね!」マリは自分もすぐに返答できたので、うれしく思い
ほど歩きました。すると大きな金色の「M」の字がマリの目に入
ました。ユウコだけでなく私もできたのよ! 今度はユウコの
りました。マリは正しかったのです。再びマリは、英語圏にい
ように冗談を言ってみたいとマリは思いました。 ると新しい語を覚えるのがずっと容易になると思いました。状
女の子たちが『フッティー(ラグビー)』を見ながら『カッパ
況で意味がわかるようになるのです。 (1杯のお茶)』を飲んでいる間、ベンは2人に試合のルールを
朝ごはんのあと、カースティーは2人を学校へ行くバスに乗
説明しました。家族みんなでその試合を見て、テレビに向かっ
せました。彼女たちが乗ったのは150番のバスでした。バス
て声を上げました。みんなすごく興奮しました。 停はマクドナルドのそばにあると覚えておかなければなりませ
女の子たちは2人とも、長旅の疲れがどっと出てきました。
んでした。学校からの帰路、マクドナルドはここにしかないよ
初めての土地に来たのは楽しいことではありますが、英語に耳
うにと2人は思いました。 を傾け、初めてのことをするのは疲れるものでした。2人はま
7時45分でした。バスの後部には生徒がたくさん乗ってい
ぶたが重たくなってきました。 て、にぎやかでした。カースティーと2人はバスの前のほうに
「あなたたち、だいじょうぶ?」とカースティーは聞きまし
座りました。カースティーは「オーストラリアの男子高校生は
た。 ほんとに騒がしいわ。きたないことばをつかうこともあるし。
「眠いです」とマリは言いました。マリは疲れていましたが、
だから前に座りましょう!」と言いました。 でも英語を話すのが苦でなくなってきていると感じました。
「英
マリは「このバス、空いている席がたくさんありますね」と
語圏に来て日本語がわからない人の中にいると、英語を話すの
言いました。 が当然のように感じるわ」とマリは思いました。
「教室で勉強す
ユウコもそう思い、
「そうね、東京だと電車は満員だわ。東京
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の地下鉄ではめったに座れないもの」と言いました。 てほとんどありませんでした。ふだんはとても楽しそうにして
カースティーはにっこりして言いました。
「ここで混むバスと
いるのです。何かたいへんなことが起こったにちがいありませ
いえば、ラグビー場に行くバスだけよ」 ん。 みんな笑いました。ユウコとマリは乗車時間の大半を、乗り
ユウコはマリに携帯電話を見せました。画面にはユウコの日
合わせたオーストラリア人たちを見て過ごしました。とても興
本の彼氏からのメッセージがありました。それにはこう書いて
味深かったのです。15分ほどでバスは学校に着きました。 ありました。
「君は僕のことをもう気にかけていないんだね。オ
カースティーは女の子たちといっしょにキャンパスの中を歩
ーストラリアで楽しくやっているんだね。友達もたくさんでき
きました。日本人の友人が何人か、ひとかたまりになって待っ
たみたいだし。君がほかの男子といっしょに写っている写真を
ているのが見えました。 たくさんフェイスブックで見たよ。僕のことは忘れたのかい。
「これが国際棟よ。授業は全部ここで行われるのよ。すばら
日本をたってから僕には電話をくれないじゃないか。僕たちは
しい1日の始まりね。マクドナルドのところでバスを降りるよ
もう終わりかもね!」 う覚えておきなさい」とカースティーは言いました。 マリは言いました。
「心配しないで。彼はいじわるな気持ちに
「どうもありがとう、どうもありがとう」と2人は言いまし
なっているのよ。ほんと、こんなことを言うなんて優しくない
た。「じゃあ、また今夜!」 わね。あなたのことがほんとうに好きなら、喜んでくれていい
タカコが2人を迎えました。
「ホストファミリーと過ごした1
はずでしょう。怒るなんてまちがっているわ。あなたがちゃん
日目はどうだった、ユウコ、マリ?」 とした女の子だっていうことを、あの子は知るべきね。あなた
2人はタカコと日本人の友人に、ホストファミリーと過ごし
がここで新しい彼氏をさがしているわけじゃないことぐらい、
た1日目のことを話しました。2日は友人たちの経験したこと
わかっているはずなのに」 も聞きました。新しい家に滞在している生徒もいれば、木造の
それでもユウコはおろおろしていました。彼女は窓の外を見
古い家に滞在している生徒もいました。オーストラリア人の家
て泣きました。マリはさらにユウコに話しかけました。 庭にいる人もいれば、いろんな国籍の人がいる家庭にいる人も
「私、早く日本に帰ったほうがいいかも」とユウコは言いま
いました。シングルマザーのところにいる人も、お年寄りの夫
した。 婦のところにいる人もいました。学校まで歩いて5分で来られ
「なんですって、ユウコ?」とマリは言いました。
「それじゃ
る人も、バスで来る人もいました。女の子たちはオーストラリ
あ私の腹の虫がおさまらないわ。私があなたの代わりにメール
アの生活のことをたくさん学んでいました。日本に帰ったら話
を書いて、そんな子供っぽいこと言ってるんじゃないのって言
すことがたくさんあるでしょう。 ってやるわ!」 そのあと、女の子たちはいろいろな国から来た生徒と会いま
女の子たちは2人とも取り乱していました。1人は悲しんで
した。クラスには中国、韓国、ブラジル、コロンビア、台湾、
いて、もう1人はひどく腹を立てていました。2人はほかのこ
サウジアラビア、イタリア、スペイン、タイの生徒がいました。
とを考えていたので、道路に注意を向けるのを忘れていました。 女の子たちはオーストラリアのことをたくさん学ぶだけでなく、
「あら、いやだ」とマリは言いました。
「マクドナルドは過ぎ
ほかの国のこともたくさん学んでいるのでした。 ちゃったかしら?」すると、それまで悲しんでいたユウコは、
ユウコとマリは携帯電話で、自分たちや新しくできた友人た
今度はおびえ始めました。 ちの写真をたくさん撮りました。そしてその日のうちに、日本
「私は窓の外を見ていたけれど、ちゃんと注意していなかっ
にいる友人たちが見られるよう、その写真をラインやフェイス
たわ」とユウコは言いました。
「マクドナルドは道の反対側にあ
ブックに投稿しました。彼女たちは「いいね!」をたくさんも
るのじゃない? バスに乗ってどのくらいたつかしら。学校に
らい、
「よかったね!」とか「私も行きたいな」という書き込み
行くときは15分ぐらいだったのを覚えているわ」 がありました。 「マクドナルドが道のどちら側にあるか覚えていないわ」と
時間が過ぎ、2人は家に戻るバスに乗りました。ところが、
マリは言いました。
「それに、バスに乗ってからたぶん30分近
バスに乗り込むと同時に、ユウコは泣き出したのです。 くたっているわ!きっとあのバス停を通り過ぎちゃったのよ」 「降りましょうか? それとも先に運転手さんに聞いてみ
第9章 帰宅 る?」とユウコは聞きました。 「降りましょう」とマリは言いました。2人はバスから飛び
「どうしたの?」とマリは言いました。ユウコが泣くことなん
降りました。彼女たちは迷子になってしまいました。どうすれ
オーストラリア・ホームステイ日記 Homestay in Australia 7
ばいいのかわかりませんでした。 マリは誇らしく思いました。英語の冗談は言っていませんが、
「どっちのほうに行く?」とユウコは言いました。
「またバス
すてきなことばを英語で言えたのです! 困ったことが起きる
に乗ればいいのかしら? 誰かに聞いてみる?」 と、そのおかげで英語を早く覚えられることもあるのだと、マ
そのとき、マリはいい考えを思いつきました。
「携帯でグーグ
リは気づきました。マリは初めて英語を話して気持ちよく感じ
ルマップを見てみましょう!」と彼女は言いました。 ました。 「それがいいわ!」とユウコは言いました。でも、問題があ
夕食のあと、女の子たちはまっすぐに寝室へ行きました。マ
りました。ホストファミリーの家がある通りの名前を思い出せ
リは学校の第1日目が終わって疲れていて、すぐに寝てしまい
なかったのです。 ました。ところが、ユウコはそうではありませんでした。ユウ
「どうしましょう?」とマリは言いました。
「通りの名前がわ
コはひと晩じゅうほとんどずっと、彼氏とスカイプで話して(そ
からなかったら、さがしようがないわ。通りの名前がわからな
してけんかして)いたのです。 いなんて、大失敗をしてしまったわ! 書いておくべきだった
次の日の朝食のとき、ベンは少し怒っているようでした。 わね。家に戻ったら標識の写真を撮って、絶対に忘れないよう
にするわ!」 第10章 友達作り 暗くなってきて、2人はますます不安になりました。
「ベンか
カースティーの電話番号を教えてもらった?」とマリは聞きま
「ゆうべはひと晩じゅう彼氏と話していたね」とベンは言いま
した。 した。声が大きいから寝つけなかったよ。オーストラリア人は
「教えてもらっていないわ」とユウコは言いました。でも、
早寝早起きなんだ。早く寝たくなかったら、声を小さくしてく
その時突然、ユウコの目が輝きました。
「ちょっと待って。うち
れよ。いいかい?」 のお母さんがホストファミリーのことを教えてくれたとき、ホ
「落ち着いてよ、パパ!」とブロンは言いました。
「ユウコは
ストファミリーの電話番号を私の携帯に入れてくれていたんだ
彼氏とやっかいなことになっているのよ。どうして怒るの? ったわ。調べてみるわ…あった! あった、あった、あった! 優しくしてあげてよ」 あったわよ! カースティーの携帯番号があるわ。お母さんの
ブロンが父親にこんなふうに口答えしたので、ユウコはとて
おかげよ。よかった。ホストファミリーが助けに来てくれる!」 も驚きました。ブロンが味方してくれて、ユウコはとてもうれ
ユウコはカースティーに電話しました。そしてカースティー
しく思いました。それでも、みんなが寝られないようなことを
に今いる通りの名前を伝えました。20分後、カースティーが
してしまったのは、申し訳ないと思いました。彼女は彼氏のや
到着して、2人を車に乗せて帰宅しました。 っかい事をなんとかしなければなりませんでした。 車の中でカースティーは2人に安全について話しました。
「自
ブロンは朝ごはんの席でほかのことを話そうとしました。
「あ
分たちがとこにいるのか、いつも気をつけていなさい。オース
ら、マリ。あなたのつめ、すてきね」と彼女は言いました。
「自
トラリアは安全な場所だけれど、暗くなってから2人だけで外
分でやったの?」 を歩くのはいけません。オーストラリアはすごく広い国で、人
「そうよ」とマリは言いました。日本ではみんながマリに、
はそんなにいないのですよ。注意をおこたらないように。わか
つめを塗るのがとてもじょうずだと言っていました。
「写真を見
った? 今度こういうことがあったら、運転手さんは親切だか
せてあげるわ」 らどこで降りればいいか聞きなさい」 朝ごはんの間じゅうずっと、ブロンとマリはネイルペイント
女の子たちは申し訳なく思い、ごめんなさいを何度も繰り返
の話をしました。その日の夜、学校から帰ったらブロンのつめ
しました。 を塗ってあげるとマリは約束しました。マリはブロンと話すの
家に着くころには、もう真っ暗になっていました。車を降り
がとても楽しく思いました。
「自分が得意なことや好きなことの
ると、空にはきれいな星がたくさん見えました。 話をするのは楽だわ」と彼女は心の中で思いました。彼女は英
「オーストラリアでは星がすごく大きくてきれいに見えます
語がいやでなくなってきて、オーストラリアの生活が大好きに
ね」とユウコは言いました。カースティーはほほ笑みました。
なってきました。 するとマリは言いました。
「でも、今日はカースティーが私たち
「不思議ね!」とマリは思いました。
「ユウコはオーストラリ
の輝く星です。助けてくれてありがとう!」 アで楽しく過ごすだろうけど、私は悲しい思いをするとみんな
「あら、すてきね、マリ。ありがとう。優しい子ね」とカー
思っていたのに、逆になったわ!」 スティーは言い、ユウコとマリを抱きしめました。 マリはその後も学校で、ネイルアート(それに自分が好きな
オーストラリア・ホームステイ日記 Homestay in Australia 8
そのほかのこと)について、各国から来た友人たちと話しまし
女たちを迎えにやって来ました。 た。でも、ユウコはほとんどの時間、1人で座っていました。
「みんな、今日はどうだった? 何を買ったの?」とカース
誰とも話したくなかったのです。 ティーはたずねました。 その週はほとんど、こんな感じで過ぎました。マリには新し
「このイヤリングとジーンズ1本とこの帽子」とブロンが言
い友達がたくさんできましたが、ユウコは彼氏とスカイプでけ
いました。 んかばかりしていて、友達を作るどころではありませんでした。 「私は新しいワンピースを1着だけ」とジョアンナが言いま
ベンとカースティーは、ユウコが少し落ち込んでいるのに気
した。 づきました。彼らはユウコのことでマリとブロンと話し合いま
「ねえ、見て。私が買った靴はどうかしら?」とマーガレッ
した。
「ユウコを元気づけるにはどうすればいいだろう?」と彼
トが言いました。 らは聞きました。 オーストラリア人の女の子たちはとても早口でした。マリと
ユウコが会話に加われないとカースティーにはわかったので、
第11章 女の子たちの外出 彼女は3人を制止しました。 「それで、ユウコとマリはどうなの?」と彼女は聞きました。
マリとブロンは、女の子たちで外出すれば彼女を元気づけられ
「何か特別なものを買った?」 ると思いました。彼女たちはブロンの友達のジョアンナとマー
「おみやげをいくつか買いました」とユウコは言いました。 ガレットを家に招きました。マリはユウコのつめを塗ってあげ、
「私はサングラスを買いました」とマリは言いました。 ブロンはユウコの髪をとかしてあげました。ジョアンナはユウ
「あら、sunnies(サニーズ)を見せて、マリ」とカースティ
コが化粧するのを手伝い、マーガレットはその日ユウコが着る
ーは言いました。 服を選びました。 「はい、今日はいい天気です。よく晴れています!」とマリ
ユウコは友人たちがしてくれたことに感動しました。
「あなた
は言いました。 たちは私の姉妹よ」とユウコは言いました。
「このことはきっと
ジョアンナとマーガレットは笑いました。マリは赤くなりま
忘れないわ。いろいろしてくれてありがとう。もうだいぶ気持
した。カースティーは気の毒に思いました。
「ごめんなさい、マ
ちが晴れてきたわ!」 リ」と彼女は言いました。
「ジョアンナとマーガレットはあなた
「お楽しみはこれからよ」とブロンが言いました。 のことを笑うつもりはなかったのよ。でも、彼女たちはふだん
「みんな、出かける用意はできた?」とカースティーは聞き
ホームステイの生徒といっしょにいないから、あなたたちがこ
ました。 とばで苦労していることがわからないの」 「もちろん!」とブロンとジョアンナとマーガレットは大き
ユウコは言いました。
「カースティーはあなたのサングラスを
な声で言いました。 見たいのよ、マリ。
『サニーズ』というのは sunglasses(サング
カースティーは女の子たちをパシフィックフェアショッピン
ラス)を省略した言い方ですね、カースティー?」 グセンターへ車で送りました。楽しい買い物の始まりです! 「そうよ」とカースティーは言いました。 女の子たちは何軒も店を回り、いろいろなものを見ました。
女の子たちは家に戻り、買ったものをひとつひとつ身に着け
このショッピングセンターは広大でした。女の子たちは1日じ
てみました。彼女たちはファッションショーを開いて、お互い
ゅう歩き回りました。疲れましたが、それでも日本ほど人がい
の服を着てみて、おしゃべりして楽しく過ごしました。 ないので、ゆっくりできました。それに楽しくて楽しくて、足
ユウコは言いました。
「今日は最高の1日だったわ! みんな、
を止めている暇などありませんでした。1時間ごとに彼女たち
ありがとう!」 は休憩し、コーヒーを飲んだりドーナツやアイスクリームを食
「ほんと?」とブロンは聞きました。「どうして?」 べたりしました。
「オーストラリア人は甘いものが大好きね」と、
「だって、日本の彼氏のことを考えずにすんだのは、今日が
アイスクリームを食べながらマリはユウコに言いました。 初めてなんだから。けんかもしなかったし泣きもしなかったし、
「そうね」とユウコは言いました。
「家ではベンもカースティ
もめごともなかったし! みんなといたからよ。ありがとう!」 ーも、ティムタムみたいなチョコレートを食べてばかりいるね。
「みんなでハグしよう!」とマーガレットが大きな声で言い
私、ふだんはあんまり甘いお菓子は食べないけれど、今は食べ
ました。 るの。ここにいるのは短い間だけだから」 「もっと自由にさせてほしいと彼氏に言いなさい。そして楽
さらに何時間か買い物を続けたあと、カースティーが車で彼
しく過ごすのよ。そうでなきゃ、もう終わりよ!」とブロンは
オーストラリア・ホームステイ日記 Homestay in Australia 9
言いました。 です」とユウコは言いました。
「女の子たちと買い物をしたこと
「そのとおり!」とジョアンナは言いました。
「私の元カレが
がなつかしく思い出されると思います」 同じようなことを言ったとき、私は別の女の子をさがしに行き
みんなは座って食べ、話を続けました。
「オーストラリアに3
なさいって言ってやったのよ!」 週間いて、何を学んだかな?」とベンがたずねました。 オーストラリアの女の子がとても強いので、ユウコはびっく
「たくさん学びました」とユウコは言いました。
「もっと自立
りしました。たぶん彼女たちの言うことは正しいのでしょう。 しなければいけないと学びました。特に彼氏から自立すること
その日以来、ユウコは毎日もっと楽しく過ごし、彼氏のこと
です。それから世界中のどの国の人とも友達になれることを学
はあまり心配しないと約束しました。 びました。ブロンとマーガレットとジョアンナのことは絶対に
2週間が過ぎ去りました。ユウコもマリも、昼間は学校で友
忘れません。ずっと姉妹です!」 達と、夜は家でホストファミリーと、毎日楽しく過ごしました。 「そうね、それに、私は前よりずっと自信がつきました」と
マリは言いました。
「不安なことにも立ち向かわなければならな
第12章 オーストラリア式バーベキュー いことを学びました。それから、まちがえるのを恐れてはいけ
ない、と。それができれば、未来が開けます。そうそう、オー
学校の最後の日になりました。先生やほかの国から来た友達に
ストラリアのことばもたくさん覚えました。聞いてください。
さようならを言うのは悲しいことでした。 昨日のアーボ(午後)にマッカス(マクドナルド)で、私はサ
ユウコとマリの2人は家へ向かうバスに乗りました。2人は
ニーズ(サングラス)をしてカッパ(1杯のお茶)を飲みなが
泣いていました。友達にさようならを言うときには、2人は努
らフッティー(ラグビー)を見ていました。その時、大きなオ
めて笑顔でいるようにしました。バスは出発しました。 ージーの(オーストラリアの)モジー(蚊)に刺されました!」 ユウコはマリのほうを向いて言いました。
「このバスに最初に
みんな笑いました。いちばんよかったのは…これがマリが英
乗った日のこと、覚えている? 私、あの時も泣いていたわ…
語で言った最初の冗談だということでした。 それで乗り過ごしちゃったのよね!」 ホストファミリーとオーストラリア式バーベキューをするの
「はは、そうだったわね。ここでたくさんの思い出ができた
は、ユウコとマリのオーストリア滞在を締めくくるのに最高で
わ!」とマリは言いました。 した。彼女たちは決して忘れることのない楽しい思い出と経験
女の子たちが家に着くと、裏庭で人声がしていました。2人
をたくさんたずさえて、オーストラリアを後にしました。日本
は家の中にかばんを置きました。そして家の裏から聞こえる声
に戻って友達や家族にいろいろ話をするのが待ち遠しく思いま
のほうに行きました。 した。 「ユウコ! マリ!」とベンが大きな声で言いました。
「おか
彼女たちは日本に帰ると、これから通う大学でオーストラリ
えり。お別れパーティーにおいで。オーストラリア式バーベキ
アの大学との交換留学生制度についてたずねました。また彼女
ューだよ!」 たちは、1年間休学してオーストラリアにワーキングホリデー
ベンは大きなバーベキューグリルのわきに立っていました。
で行くことも考え始めました。やりたいことは山ほどあり、時
彼はソーセージとステーキとタマネギを料理していました。ブ
間は限られていました。 ロンとルークは台所でサラダを作っていました。カースティー
彼女たちのオーストラリア旅行は、今までで最高の旅行でし
が女の子たちを迎えに出てきました。 た! 「あなたたち、ちょっと悲しそうね」とカースティーは言い
ました。 「はい。先生や友達にさようならを言うとき、たくさん泣き
ました。みんな泣いていました。日本に帰りたくありません」
とマリは言いました。 「まあ、マリ、かわいいことを言って」とカースティーは言
いました。「何がいちばんの思い出かしら?」 「いろいろあるけれど、ビーチへ行ったのがとても楽しかっ
たです。イルカがとてもきれいでした」とマリは言いました。 「私がいちばん楽しかったのは、女の子だけで外出したこと
オーストラリア・ホームステイ日記 Homestay in Australia 10