塩素系漂白剤 - 日本中毒情報センター

公益財団法人 日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報
【塩素系漂白剤】Ver.1.01
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保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報
塩素系漂白剤
1.概要
塩素系漂白剤には次の四つのタイプがある。1)次亜塩素酸ナトリウム(0.75~6%含有)、
水酸化ナトリウム(0.1~1%)含有の強アルカリ溶液、2)次亜塩素酸カルシウム含有の白
色粉末(サラシ粉と呼ばれる)、3)塩素化イソシアヌール酸含有の白色結晶性粉末(プー
ル消毒に用いる)、4)亜塩素酸ナトリウム含有の白色結晶性粉末。 ここでは家庭において
衣類・食器類の除菌・漂白に最もよく用いられる、1)のタイプの家庭用塩素系漂白剤を取
り上げる。
使用中の誤飲事故や意図的摂取のほか、漂白剤蒸気や他の薬剤との混合で発生したガス
による事故が発生しており、特に、酸との反応による塩素ガス、アンモニアとの反応によ
るクロラミンガスが知られている。(塩素ガスの項参照)
2.毒性
家庭用塩素系漂白剤の主たる作用である皮膚・粘膜の刺激および腐食は、摂取量よ
りも濃度や粘度、pH、接触時間に大きく左右される。
ヒト経口
中毒量 原液 5 mL/kg 以上の大量摂取は腐食性傷害につながる可能性がある
数オンス(100 mL 程度)で食道狭窄をおこした小児の例がある
致死量 家庭用塩素系漂白剤(clorox)700 mL 摂取し、全身症状を呈して死亡
した例がある。ただし、この摂取量は Na の上昇から逆算したもので、
実際の摂取量はこれより多い可能性もある。
3.症状
経口
・希釈液の摂取あるいは原液の誤飲、特に小児の事故の場合
無症状もしくは軽微な消化管刺激による症状(咽頭から上腹部にかけての疼
痛、嘔気、嘔吐)がみられる程度である。
・自殺企図などによる原液の大量摂取(5 mL/kg 以上)の場合
口腔咽頭部、食道、胃の腐食性傷害を引き起こす可能性がある。
重篤化した場合には、消化管出血・穿孔などによるショック、高ナトリウム
血症・高クロル血症・代謝性アシドーシス、肺水腫等をおこし、死亡した例
や、後に消化管狭窄をきたしたという報告もある。しかしこのような重症例
は、統計的にまれである。
吸入
・蒸気、スプレー式容器使用時のミスト、他の薬剤との混合時に発生したガス(塩
素、クロラミン等)による吸入事故が起こりうる。粘膜や呼吸器系の刺激症状
が一般的であるが、重症の場合は、気管支痙攣、肺炎、上気道浮腫が起こりうる。
眼に入った場合
・飛沫やクロラミンガスへの曝露の場合、刺激・腐食作用により、眼の刺激感
熱傷、疼痛、流涙、眼瞼の腫脹などが一般的である。
4.処置
家庭での応急手当
経口:牛乳(120~240 mL、小児 15 mL/kg 以下)、卵白などを与える。
吸入:直ちにその場を離れ、きれいな空気を吸う。充分に換気を行う。
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眼 :こすらずに、直ちに水圧の低い流水で 10 分以上洗浄する。
経皮:直ちに流水で十分に洗浄する。
眼、皮膚とも、重要なことは、直ちに洗浄を開始して漂白剤との接触時間を短
縮し、かつ希釈することである。
7)
医療機関での処置
経口:希釈(牛乳、卵白等)の投与。
*自殺企図などによる原液の大量摂取(5 mL/kg 以上)の場合
・胃洗浄・吸引は、利点(接触時間の短縮)とリスク(胃洗浄操作による消
化管傷害や肺への逆流吸引)を鑑みて考慮すべきである。
・腐食性の傷害が疑われる場合は出血性のショックに備え、酸塩基平衡、電
解質(Na,Cl)をモニターし、全身管理を行う。また、内視鏡検査により傷
害の程度を評価して、必要な場合は外科的処置も考慮する。
吸入:新鮮な空気下に速やかに移送し、咳や呼吸困難のある患者には、必要に応
じて気道確保、酸素投与、人工呼吸等を行う。経口に準じて対症療法を行う。
5.確認事項
1)成分:容器に記載されている成分・性状などの確認(塩素系、まぜるな危険
という表示があれば、塩素系製品である)
2)濃度:原液か、希釈液か(希釈倍率)
3)摂取量・状況:誤飲か、意図的摂取か
4)患者の状態:口から塩素臭はしないか、口腔内や唇の炎症の有無
6.情報提供時の要点
1)原液の大量摂取の場合は重篤化することもあるため受診すべきである
2)希釈液の摂取あるいは原液の誤飲、特に小児の事故の場合は、牛乳を飲ませ
て経過観察し、症状があれば受診するようにすすめる
3)吸入による事故で症状がある場合は、必ず受診するようにすすめる
4)眼に入った場合は、洗浄後すぐに受診する
5)皮膚接触の場合、洗浄後も刺激感や痛みがあれば受診する
6)いずれの場合も、受診の際に容器を持参する
7.体内動態
次亜塩素酸ナトリウムの吸収:胃液などの酸性液中では、塩素と非イオン型の次亜
塩素酸として存在するため胃粘膜より吸収されやすい。ただし、次亜塩素酸やその
塩はタンパクやその他の組織成分により不活化されるため、吸収されて循環系に達
することはほとんどない。
8.中毒学的薬理作用
1)次亜塩素酸による皮膚、粘膜の刺激作用
2)水酸化ナトリウムによる皮膚、粘膜の刺激・腐食作用
3)大量摂取の場合、吸収された次亜塩素酸(HOCl)やナトリウムによる作用
4)次亜塩素酸が他の薬剤と反応することにより生成したガスによる作用
・塩素(Cl2):酸との混合や、火中で分解することにより発生
・モノクロラミン(NH2Cl)、ジクロラミン(NHCl2):アンモニアとの混合で発生
・クロロメタン(CH3Cl):次亜塩素酸と塩酸および糞尿の混合により発生
9.治療上の注意点
1)催吐は禁忌(腐食性物質が再び食道を通過することにより、傷害を重篤化するため。)
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2)酸や中和物質の投与は禁忌(発熱反応の結果、熱傷を引き起こす可能性がある。)
3)炭酸水素ナトリウム、炭酸飲料の投与は禁忌(胃内で炭酸ガスを発生させて、
胃の過膨張を起こし、破裂の危険性がある)
4)チオ硫酸ナトリウムは、かつて次亜塩素酸の不活化の目的で、投与したり胃洗
浄液として使用されたが、高ナトリウム血症に影響を与えたと考えられる症例
報告があり、勧められない。
5)胃洗浄:塩素系漂白剤では必要ないという意見が主流であるが、自殺企図など
による原液の大量摂取(5 mL/kg 以上)の場合に関しては、利点(接触時間の短
縮)とリスク(胃洗浄操作による消化管傷害や肺への逆流吸引)を鑑みて考慮
すべきである。
6)胃洗浄、内視鏡検査を行う場合は、消化管を傷害しないように注意する必要がある。
11.参考文献
1)Sodium Hypochlorite, Corrosives-ALKALINE, Poisindex vol.121, Micromedex
Inc.,2004.
2)Sodium Hypochlorite, IPCS-INTOX Poison Information Monograph(PIM) 495, 1998
3)R.C.Dart et al: Medical Toxicology 3rd Ed., Lippincott Williams&Wilkins, 2003.
4)L.M.Haddad et al: Clinical Management of Poisoning and Drug Overdose(3rd
ed.),W.B.Saunders, 1998.
5)M.D.FORD et al: Clinical Toxicology, W.B.Saunders, 2001
6)鵜飼 卓ら編:救急中毒ケースブック,医学書院,1986.
7)池内尚司、他:応急処置の表示内容に関するガイドライン作成に関する研究.平成 16
年度厚生労働科学研究費補助金化学物質リスク研究事業「家庭用品における製品表示と
理解度との関連及び誤使用・被害事故との関連の検証に関する研究」研究報告書(主任研
究者:吉岡敏治,課題番号:H14-食品・化学-032)2005:285-300.
12.作成日
20041109 Ver.1.00
20121101 Ver.1.01
ID M70034_0101_2
新規作成
部分改訂
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