魚に起因するヒスタミン中毒

公益財団法人 日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報
【魚に起因するヒスタミン中毒(サバ科類似魚類による中毒)】Ver.1.00
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魚に起因するヒスタミン中毒(サバ科類似魚類による中毒)
1.概要
サバ科類似魚類による中毒(Scombroid Fish Poisoning)とは、サバ科(マグ
ロ、カツオ、サバなど)類似の魚類の筋組織に存在する遊離ヒスチジンの腐敗発
酵により産生される「ヒスタミン」に起因する中毒である。ヒスタミンは熱に安
定で、一度生成されると生魚、冷凍、調理した魚のみならず、缶詰、干物、燻製
でも中毒を起こし得る。
鮮度の低下したヒスタミンを含む魚を摂食した場合、通常 10~30 分以内に、紅
斑、掻痒感などの症状が発現する。比較的軽症の症例が多いが、まれにアナフィ
ラキシーショックをきたすような重症例も報告されている。 (1)
2.毒性
ヒスタミン:ヒト経口致死量:致死量は明らかではない
ヒト経口中毒量:
摂食した食品中のヒスタミンの総量と重症度の関係
8~40mg:軽症
40mg 以上:中等症
100mg 以上:重症 (1)
マウス経口 LD50:220mg/kg (3)
参考:新鮮な魚のヒスタミン濃度は通常 0.1mg/100g(ヒスタミン量/魚肉)
以下である食材の変性が示唆されるヒスタミン濃度は 20mg/100g
(ヒスタミン量/魚肉)以上といわれる (1)
3.症状
摂食後 10~30 分以内に発症することが多いが、1~3 時間遅れることもある
症状の消失は 3~36 時間(平均 14 時間)である
中毒症状は、ほとんどの場合軽症で 12 時間以内に回復するといわれている
一般的な症状は、紅斑性発疹(顔、首)、口喉の灼熱感、掻痒、悪心、嘔吐、腹
部痛と痙攣、下痢、頭痛、動悸、めまい、結膜の充血である
まれな症状として、発熱感、頻脈、呼吸困難、発汗、蕁麻疹などがある
そのほか、気管支痙攣、血圧低下、血管性水腫、視力喪失(一時的)、アナフィ
ラキシーなどが報告されている (1)(2)
4.処置
家庭での処置
催吐:摂取後 1 時間以内で可能であれば催吐。ただし、症状は通常摂取後
ただちに発現するので効果は疑わしい (1)
医療機関での処置
拮抗剤:抗ヒスタミン剤
本邦では、ヒスタミン中毒に対する適応、用量に関しての記載はない (4)
しかし、海外では、ジフェンヒドラミンなどの H1 受容体拮抗剤を筋注または
静注し、必要に応じて繰り返し投与することが推奨されている (1)(2)
必要に応じて抗ヒスタミン剤(静注、筋注、経口)を投与し(通常、症状は急
速に改善する)、嘔吐、下痢が激しい患者は、補液・電解質の補正を行う。そ
の他、対症療法をおこなう (1)
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基本処置
催吐:1 時間以内であれば有効であるとされているが、症状が早期に発現
するため効果に疑問はある (1)
胃洗浄:重症の場合には行うという報告がある (1)
対症療法
体液・電解質:嘔吐、下痢が激しい患者は、補液・電解質の補正を行う 1)
呼吸・循環管理
血圧低下対策
気管支痙攣対策
アナフィラキシー対策
ステロイド療法:ステロイドに関しては確立されていない
メチルプレドニゾロン 40mg をジフェンヒドラミンとともに
筋注し急速に症状が改善した 1 例が報告されている (1)
5.確認事項
1)摂食した魚の種類と部位:サバ科(マグロ、カツオ、サバなど)類似の魚類ま
たは、赤身の魚を食べていないか
2)摂食量:どのくらい食べたか
3)摂食場所:食堂等で摂食した魚が原因になる場合は集団発生の可能性がある
4)患者の状態:症状の有無。呼吸困難、血圧低下、アナフィラキシーはないか
5)摂食後の経過時間:何時間経過しているか
6.情報提供時の要点
1)何らかの症状がでている場合には受診を指示する
2)集団発生の場合は、相談受付時に無症状でも、症状が発現するおそれがあるの
で受診を指示する
3)確定診断には摂食した魚のヒスタミン濃度の測定が必要となる。
飲食店での食材、または家庭での調理品、吐物などは検査に役立つので持参で
きればよいだろう
7.体内動態
吸収:吸収は速い
潜伏期は数分から数時間である(症状発現は通常摂食後 10~30 分以内)
分布:ヒスタミンは生体内にも存在する(内因性)ので、区別は困難である 1)
代謝:経口摂取または、消化管細菌によって生成されたヒスタミンは、速やか
に代謝される。ヒスタミンは、N-メチルヒスタミンを経てモノアミンオ
キシダーゼ(MAO)により N-メチルイミダゾール酢酸になる。また、
ジアミンオキシダーゼ(DAO)によりイミダゾール酢酸となる経路もある。
代謝物はほとんどまたは全く活性がない (5)
排泄:ヒスタミンおよび代謝物は速やかに尿中に排泄される (5)
(参考)症状の消失は 3~36 時間(平均 14 時間)
8.中毒学的薬理作用
サバ科などの魚類の筋組織に存在する遊離ヒスチジンの腐敗発酵により産生
するヒスタミンを含有した魚を摂食することにより起こる (1)
ヒスタミンの中毒学的薬理作用 (5):
毛細血管を拡張する
毛細血管透過性を亢進する
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胃酸分泌を亢進する
中枢神経系に作用する
9.治療上の注意点
1)生命徴候の悪化(血圧低下、呼吸困難、アナフィラキシーショックなど)、治
療効果が不良な場合、診断に疑問が残る場合は入院させる (1)(2)
2)症状は魚介類や食物アレルギー、サルモネラ菌食中毒、シガテラ中毒と混同さ
れやすく、確定診断には食材中のヒスタミン濃度測定が欠かせない (1)
3)血清と尿のヒスタミン濃度は上昇するが、内因性と外因性のヒスタミンを容易
に区別することができないため、臨床的には有用ではない (1)
4)食品、添加物、器具若しくは容器包装に起因して中毒した患者若しくはその疑
いのある者を診断し、またはその死体を検案した医師は、直ちに最寄りの保健
所長にその旨を届け出なければならない(食品衛生法第 27 条)
10.その他
1)イソニアジド内服患者では、モノアミンオキシダーゼ(MAO)およびジアミン
オキシダーゼ(DAO)が阻害されるため、ヒスタミン中毒をおこしやすい (6)
2)ヒスタミンを含有する魚は辛いピリッとする刺激味または金属味がするとい
う報告がある (1)
11.原因種
サバ科:マグロ、サバ、カツオ、キハダ、グルクマ、クロマグロ、タイセイ
ヨウサバ、ニジョウサバ、ヒラソウダ、ビンナガ、マサバ、メバチ、
ヨコシマサワラなど
アジ科:ブリ、マアジ、ムロアジ、ロウニンアジ
カタクチイワシ科:カタクチイワシ
クロタチカマス科:アブラソコムツ
サケ科:サケ
サンマ科:サンマ
シイラ科:シイラ、マヒマヒ
ニシン科:サッパ、ニシン、マイワシ、ミズン
マカジキ科:マカジキ、バショウカジキ
ミズテング科:ミズテング
ムツ科:ムツ、アミキリ
メカジキ科:メカジキ
12.参考文献
(1)poisoning.POISINDEX(R)(2005)
(2)化学物質毒性ハンドブック.臨床編第Ⅱ巻 (1993)
(3)RTECS(2005)
(4)医療用日本医薬品集(2005)
(5)グッドマン・ギルマン薬理書 (1999)
(6)中毒百科(2001)
13.作成日
20050920 Ver.1.00
ID M70351_0100_2
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