公益財団法人 日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報 【インク消し】Ver.1.00 公益財団法人 日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報 インク消し 1.概要 従来のインク消しは 2 液にわかれており、まず第 1 液で色素を脱色し、これを乾燥 し、次に第 2 液で染料を酸化脱色することによってインクを消す。修正液とは異な る。 主成分は、第 1 液はシュウ酸やクエン酸溶液(約 5%含有)であり、第 2 液は 次亜塩素酸ナトリウム液(4~8%含有)である。 最近、油性ボールペン専用のインク消しで第1液に次亜塩素酸ナトリウム液、 第 2 液にケトン類が使用されているものが販売されている。 2.毒性 シュウ酸:成人経口致死量 15~30g 次亜塩素酸ナトリウム:幼児経口致死量 5%液で 15~30mL(2) 0.5%以下の溶液の服用では生命の危険性は少ない(4) (皮膚・粘膜の腐食作用は、嚥下した絶対量よりも むしろ溶液の濃度に依るところが大) クエン酸:ラット経口 LD50 3,000mg/kg(6) 3.症状 シュウ酸(1)(2)中毒(致死量摂取では、急速に悪化し数時間以内に死亡) 消化器:口腔・咽頭・食道・胃の灼熱感、嘔吐、吐血、下血、下痢 神経:腱反射増加、うとうと状態、昏迷、昏睡、低カルシウム血症によ る筋線維束攣縮・テタニー・痙攣 腎 :服用後約 2 日でシュウ酸カルシウム尿、乏尿、無尿、血尿などが発現 眼 :熱傷・・・はねた程度なら、普通は、回復可能な上皮の障害を生じる 経皮:腐食作用があり、皮膚炎を生ずるかもしれない。症状は上皮の ひび割れなどからはじまり、手指ではチアノーゼとなる 次亜塩素酸ナトリウム(1)(2)中毒 消化器:口腔・咽頭、食道・胃の疼痛と炎症、嘔気、嘔吐、化学熱傷、 食道狭窄 呼吸器:気道内吸引による声門浮腫、肺水腫、呼吸困難 循環器:ショック、心停止 眼 :角膜の腫脹、角膜上皮のびらん クエン酸中毒(4):大量の場合、代謝性アシドーシス、低カルシウム血症、 不整脈など ケトン類中毒:嘔気、嘔吐、中枢神経抑制、代謝性アシドーシス 4.処置 家庭で可能な処置(共通) 経口:牛乳か卵白を飲ませて希釈(タンパクによる不活化を図る) 眼 :流水で 15 分以上洗浄 経皮:付着部分を水で 2 回以上洗浄 医療機関での処置 シュウ酸(1)(2)中毒に対する処置 希釈(牛乳、卵白等) グルコン酸カルシウムまたは乳酸カルシウムの経口投与(150mg/kg、 1/3 copyright © 2009 公益財団法人 日本中毒情報センター All Rights Reserved. 公益財団法人 日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報 【インク消し】Ver.1.00 必要なら反復投与) 電解質輸液(シュウ酸カルシウム結晶の腎尿路における析出を予防) 胃洗浄(消化管穿孔に注意、できれば乳酸カルシウムを用いる) 吸着剤、下剤(硫酸マグネシウム)の投与 粘膜保護剤(マーロックス(R)、アルロイド G(R)など)の投与 グルコン酸カルシウムまたは塩化カルシウム 10mL をゆっくり静注、 反復投与 対症療法 次亜塩素酸ナトリウム中毒に対する処置 希釈(牛乳、卵白など) 胃洗浄(消化管穿孔に注意) 粘膜保護剤の投与 対症療法 5.確認事項 1)商品名、成分の確認:2 液のうちどちらを飲んだのか、油性ボールペン 専用か、インク用か容器をみて成分の確認 2)摂取量:なめた程度か、容器から飲んだのか 3)患者の状態:口内や唇に炎症はないか、その他変化の有無 6.情報提供時の要点 なめた程度なら様子を観察する。従来のインク消しを体重 1kg あたり 0.5mL 以上飲み込んでいる場合は受診を指示(3) 7.体内動態 シュウ酸(1) 吸収:正常な成人で服用した量の約 2~5%が吸収 排泄:腎排泄は服用後約 4 時間がピークで、高濃度のものは 14 時間で終了 次亜塩素酸ナトリウム(4) 胃液などの酸性液中では塩素と非イオン型の次亜塩素酸として存在するため、 胃粘膜より吸収されやすい。ただし、次亜塩素酸やその塩はタンパクや その他の組織成分により不活化されるため、吸収されて循環系に達する ことはほとんどない 8.中毒学的薬理作用 シュウ酸:粘膜腐食作用、低カルシウム血症、循環系障害、腎障害 次亜塩素酸ナトリウム:粘膜腐食作用 ケトン類:粘膜刺激作用、中枢神経抑制作用 9.治療上の注意点 1)催吐は禁忌(腐食性物質が再び食道を通過することにより炎症を重篤化 するため) 2)シュウ酸中毒の場合、炭酸水素ナトリウムによる胃洗浄、下剤としての 硫酸ナトリウムの投与はいずれもシュウ酸ナトリウムを形成し、吸収 を増加するため使用しない(5)。 硫酸マグネシウムは MgC2O4↓とし て吸収の抑制も期待でき、下剤として使用可 カルシウム塩の経口投与は、不活性なシュウ酸カルシウム結晶をつくるため、 また、後のカルシウム塩静注は低カルシウム性テタニー予防のため有効(4) 2/3 copyright © 2009 公益財団法人 日本中毒情報センター All Rights Reserved. 公益財団法人 日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報 【インク消し】Ver.1.00 3)次亜塩素酸ナトリウム中毒の場合、中和は禁忌(酢やジュースの中和は、 発生する熱により熱傷を起こす)。また、重曹、炭酸飲料の経口投与 は禁忌(胃内で炭酸ガスを発生させ、ときに胃破裂の危険あり) 4)ケトン類(50%近くが未変化体で呼気中排泄される)が含有されてい る場合、強制過換気が有効 炭化水素として治療されるべきとの記載があることからカテコールアミ ンの投与は要注意・・・不整脈誘発のおそれあり 11.参考文献 (1)Poisindex(1988) (2)救急中毒マニュアル(1984) (3)新・絵で見る中毒 110 番(1992) (4)Clinical Toxicology of Commercial Products (1984) (5)家庭用化学薬品の知識(1986) (6)RTECS(1997) 12.作成日 19900215 Ver.1.00 ID M70020_0100_2 3/3 copyright © 2009 公益財団法人 日本中毒情報センター All Rights Reserved.
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