真鍮電気部品

亜鉛鉱石
1. 亜鉛鉱の
亜鉛鉱の種類
亜鉛鉱の主要な鉱石は次ぎのものである。[1]
(a) 閃亜鉛鉱(blende 又は sphalerite, ZnS)(硫化亜鉛)
(塩基性けい酸亜鉛)
(b) 異極鉱(hemimorphite 又は calamine, Zn4Si2O7(OH)2・H2O)
(c) 菱亜鉛鉱(smithsonite, ZnCO3)(炭酸亜鉛)
(d) 紅亜鉛鉱(zincite, ZnO)(酸化亜鉛)
亜鉛の最も重要な鉱石は閃亜鉛鉱である。天然に産する閃亜鉛鉱は、不純物とし
て鉄が含まれているため、濃赤~黒色不透明な鉱石である。鉄含有量の多いものは
鉄閃亜鉛鉱と呼ばれている。また副成分として鉄、マンガンの他に少量のガリウム、
カドミウム、インジウム、ゲルマニウム、銀などを含み、産地によってはニッケル、
コバルトを含む事もある。ガリウム、インジウム、カドミウム、ゲルマニウムは、
これらを主成分とする鉱石が無いか、あっても経済的・量的に需要を満たすことが
出来ないため、これらは副産物として閃亜鉛鉱を精製して抽出される。日本では北
海道の豊羽鉱山は世界一のインジウム鉱山であったが 2006 年に鉱量枯渇のため閉
山した。
2. 亜鉛 (Zn:
(Zn:zinc)
Zn:zinc)の
zinc)の特性値と
特性値と概要
・陽子数:30
・融
・価電子数:-
点:419.53℃
・存在度(地球):80ppm
・沸
点:907℃
・原子量:65.409
・密
度:7.134
[2]
亜鉛は生体内では鉄に次いで多い必須元素であり、酵素の活性に関与し、体内の
有害物質を無害化したり、有害金属を排出するなど、重要な働きを担っている。亜
鉛は鉄のメッキに使用したり、ボタン電池、ブラウン管の蛍光剤などに利用されて
いる。
3. 産地
亜鉛鉱石は世界のほとんどの地域で産出する。亜鉛の原料としては、閃亜鉛鉱が
ほとんどである。閃亜鉛鉱は方鉛鉱、黄鉄鉱、黄銅鉱を伴う場合が多い。
亜鉛鉱石の世界の埋蔵量は約 1 億 8 千万トン(純分)と推定され、国別では
中国(18%)、アメリカ(7.8%)、オーストラリア(23%)、カザフスタン(7.8%)、
カナダ(2.8%)、メキシコ(3.9%)、ペルー(10%)である。世界の亜鉛鉱石の生産量
は 2007 年においては約 1,050 万トン(純分)
で、主な生産国は中国:280 万トン(27%)、
オーストラリア:140 万トン(13%)、ペルー:150 万トン(14%)、カナダ:68 万ト
ン(6.5%)、アメリカ:74 万トン(7.0%)、カザフスタン:40 万トン(4%)、メキ
シコ:48 万トン(4.6%)である。[3]
日本において亜鉛鉱が本格的に採掘されるようになったのは、明治 36 年(福井県
中竜鉱山)以降である。その後、神岡鉱山、豊羽鉱山、北神岡鉱山、小坂鉱山、花
岡鉱山、細倉鉱山などの多くの亜鉛鉱山で採掘され、昭和 47 年には 28.5 万トンを
採掘していた。しかし、その後には円高不況のため、相次いで鉛・亜鉛鉱山は閉山
し、2001 年 6 月には神岡鉱山が閉山し、2006 年3月に豊羽鉱山は採掘可能な鉱石
の鉱量枯渇のため閉山し、現在では亜鉛を採掘する鉱山なく、亜鉛鉱石(精鉱)及
び中間品である亜鉛地金、再生地金の一部は輸入している。[4]
亜鉛地金の世界の生産量は 2004 年においては約 1,013 万トンであり、主な生産
国は中国 251 万 9 千トン(24.9.0%)、カナダ 80 万 5 千トン(7.9%)、韓国 66 万 9
千トン(6.6%)、日本 63 万 4 千トン(6.3%)、スペイン 53 万 2 千トン(5.2%)、ド
イツ 39 万 1 千トン(3.9%)、メキシコ 36 万 6 千トン(3.6%)である。[5]
4.輸入先国
亜鉛鉱石は国内では産出しないため、亜鉛の原料である、亜鉛鉱(精鉱を含む)
の全量及び亜鉛地金、再生亜鉛地金の一部を輸入している。亜鉛鉱(精鉱を含む)
の国別輸入量を表-1 に、亜鉛地金の国別輸入量を表-2 に示す。
亜鉛鉱石の輸入量は 2005 年においては約 104 万 3 千トンであった。国別の主な
輸入先はオーストラリア(36%)、ペルー(16%)、アメリカ(15%)、ボルビア(11%)、メ
キシコ(7%)、カナダ(6%)である。
亜鉛地金の輸入量は 2005 年におい約 4 万 8 千トンであった。国別の主な輸入先
はペルー(38%)、中国(27%)、ナミビア(21%)、カナダ(6%)であった。[6]
表 1 亜鉛鉱(精鉱を含む)国別輸入量
2005.1~12 輸入実績
品目名
亜鉛鉱(精鉱を含む。
)
単位
合計
輸入国
トン
1,043,525 オーストラリア
輸入量
比率
373,664
35.8
ペルー
171,144
16.4
アメリカ合衆国
152,507
14.6
ボリビア
113,976
10.9
メキシコ
74,305
7.1
カナダ
64,033
6.1
ロシア
42,273
4.1
チリ
41,193
3.9
トルコ
5,401
0.5
スイス
4,989
0.5
40
0.0
中華人民共和国
表-2 亜鉛の中間生産物国別輸入量
2005.1~12 輸入実績
品目名
単位
トン
合計
輸入国
48,547 ペルー
輸入量
比率
18,580
38.3
中華人民共和国
13,177
27.1
ナミビア
10,181
21.0
その他
6,610
13.6
377 ペルー
298
79.1
中華人民共和国
51
13.4
ナミビア
28
7.4
0
0.0
5,791 中華人民共和国
3,729
64.4
亜鉛のダスト、粉及びフレー
大韓民国
1,326
22.9
ク
マレーシア
280
4.8
その他
456
7.9
190
41.4
大韓民国
184
40.3
フランス
42
9.1
その他
42
9.1
186
35.5
亜鉛の塊
トン
亜鉛の屑
その他
トン
トン
亜鉛の棒、形材及び線
トン
458 中華人民共和国
524 フランス
亜鉛の板、シート、ストリッ
ドイツ
122
23.3
プ及び箔
ペルー
61
11.6
その他
155
29.6
5. 亜鉛鉱の
亜鉛鉱の精製法及び
精製法及び誘導品の
誘導品の製造法
亜鉛の生産業者としては、主に亜鉛精鉱から生産する製錬(一次)業者と再生(二
次)業者がある。一次製錬業者は亜鉛精鉱を流動焙焼炉等で酸化焙焼して酸化亜鉛
(ZnO)とした後、湿式法または乾式法(ISP)により生産する。二次製錬業者はメッ
キ工場から発生するドロス、滓類や亜鉛屑等から溶融分離にて再生地金を生産して
いる。図-1 に亜鉛精錬プルセスを示す。[7]
亜鉛製造プロセス
亜 鉛 精 鉱
鉛 精 鉱
流動焙焼炉
流動焙焼炉
酸化亜鉛
酸化鉛
湿式法工程
硫 酸
亜鉛・鉛熔鉱炉
1300℃以上
蒸 発 亜 鉛
鉄分離
2.鉄分離工程
溶融鉛
酸 化
3.Ca,Ni,Co 分離工程
Cd,Ni,Co分離
1.亜鉛還元工程
還元(コークス)
硫酸浸出
1.硫酸浸出工程
乾式法工程
乾式法(ISP法)
湿 式 法
Fe
粗 鉛
2.亜鉛・鉛分離 工程
電解製錬
3.亜鉛冷却工程
コンデンサー
電気鉛
亜鉛末
硫酸亜鉛溶液
Cd,Ni,Co
亜 鉛
溶融鉛
回収
電解製錬
4.電解製錬工程
4.電解製錬工程
電解製錬
電気亜鉛
電気亜鉛
図-1 亜鉛鉱石製錬工程
a.湿式法製錬プロセス
① 硫酸浸出工程:亜鉛精鉱から生産した酸化亜鉛 (ZnO)を硫酸溶液で浸出する。
② 鉄分離工程:浸出液中の Fe2+を Fe3+に酸化して鉄を沈澱分離する。
③ Cd、Ni、Co 分離工程:鉄分を分離した溶液に亜鉛末を加えて Cd、Ni、Co などを
置換除去する。
④ 電解製錬工程:硫酸亜鉛溶液を鉛-銀(1%)合金を陽極とし、アルミを陰極にし
た電解槽に装入して電解する。アルミ極板に析出した金属亜鉛(純度は約
99.99%)をはぎ取る
b.乾式法製錬プロセス
① 亜鉛還元工程:亜鉛鉱石(ZnS)と鉛鉱石(PbS)を同時に熔鉱炉に装入し、コ
ークスで還元する。
② 亜鉛分離工程:熔鉱炉の温度を亜鉛の蒸発温度(907℃)以上かつ、鉛の蒸発温度
(1740℃)以下の約 1300℃で還元する。亜鉛は蒸発し、熔鉱炉の上部から取り出
す。
③ 亜鉛冷却工程:蒸発亜鉛を液体鉛のシャワーを使用し、亜鉛を鉛に溶かし込み
回収した後、亜鉛の融点(420℃)以下かつ、鉛の融点(327℃)以上の温度まで下
げていくと、亜鉛が析出し、溶融鉛と分離ができる。
④ 電解製錬工程:析出した亜鉛は鉛を含んでいるため、その後電解精錬を行う。
6. 亜鉛鉱の
亜鉛鉱の最終用途
日本における亜鉛の消費量は 2004 年においては 56 万 8 千トン(中国、アメリカ
合衆国に次いで世界で第3位)であった。2004 年の実績では亜鉛めっき鋼板として
の用途は 23 万 4 千トンで、全体の 41%でもっとも多い。亜鉛めっき鋼板の国内消
費(2004 年)は、自動車用と建材用が各々約 24%、家電用が約 12%である。溶融亜
鉛めっきの国内消費は、建材(鋼管、仮設機材、建築物等)が約 50%、土木(カー
ドレール、グレーチング等)が約 20%、鉄塔等構造物用鋼材や鉄道・通信等が約 20%
の消費比率である。
伸銅品としての用途は 8 万 1 千トンで、全体の 14%で、その大半が真鍮用であり、
電子機器の板材やプラント用管材、各種部品に使用される。
ダイカストとしての用途は 5 万 1 千トンで、全体の 9%で、そのうち自動車部品
が 50%を占め、その他模型やおもちゃ等に使用される。
化成品としての用途は 4 万 8 千トンで、全体の 8%で、酸化亜鉛が主体で、ゴム
製品(タイヤの加硫剤)が 50%を占める。その他では電子部品用フェライトバリス
ター(ソフトフェライトコア原料)、塗料(塗膜強化剤)、陶磁器(上薬)等に使用
される。[7]
表-3 に亜鉛の主な最終製品及び応用製品をしめす。[8]
表-3 亜鉛の主な応用製品
主要製品
亜鉛メッキ鋼板
JOGMEC:ホームページより抜粋
主要な応用製品(用途)
自動車部材(ドア、ボンネット、ルーフ等)
建材(屋根・壁、雨戸、シャッター、間仕切り、看板等)
家電(冷蔵庫、洗濯機、暖房機、エアコン、蛍光灯反射板等)
溶融亜鉛メッキ
建材(鋼管、仮設機材、建築物等)
土木(ガードレール、グレーチング等)
伸銅品
黄銅板、金管楽器、棒製品、電子部品、管等
無機薬品
亜鉛華など(ゴム、塗料)
ダイカスト
自動車部品、機械部品、モーター、おもちゃ、ヘリコプター等
その他
積層乾電池
7. 参考資料
[1] 財務省貿易統計
関税率表解説
[2] Newton 別冊:完全図解
周期表,株式会社ニュートンプレス
[3] U.S.Geological Survey, Mineral Commodity Summaries 2008
[4] 中島信久:日本の亜鉛需給状況の歴史と変遷,金属資源レポート
2006.5,JOGMEC
[5] 独立行政法人
石油天然ガス・金属鉱物資源機構:
世界の非鉄金属需給
[6] 財務省:貿易統計,2005
[7] 独立行政法人
石油天然ガス・金属鉱物資源機構:
鉱物資源マテリアル・フロー2005
[8] 独立行政法人
石油天然ガス・金属鉱物資源機構
http://www.jogmec.go.jp 2010 年 2 月