14 6.行列の基本変形 問題 6.1(つるかめ算) 1時間につるだけなら50羽,かめだけなら40匹折り紙で 折る人がいるとする.その人が8時間かけてつるとかめの折り紙を合わせて350個折っ たとする.つるを折るために使った時間とかめを折るために使った時間はそれぞれ何時間 ずつになるか. 解答1. いま8時間すべての時間をつるを折るために使ったとすると,すべてで 50× 8=400個 の折り紙ができるはずである.このとき,50個余分になっているが,かめ の個数が1時間あたり 50−40=10個 余分に数えられているはずだから 50 × 8 − 350 =5 50 − 40 がかめを折るために要した時間である. この解答がいわゆる‘ つるかめ算 ’である. 解答2. もう1つの方法は連立方程式をたててそれを解く方法である.つるを折るため に使った時間を x 時間,かめを折るために使った時間を y 時間とする.このとき, ( x+y =8 ···○ 1 50x + 40y = 350 ···○ 2 この方程式は簡単に解けるだろうが,つぎのようなやり方でやってみよう. ○ 2+○ 1 × (−50) ( x+y =8 ···○ 3 0x − 10y = −50 ···○ 4 µ ¶ 1 ○ 4× − 10 ( ○ 5+○ 6 × (−1) すなわち, x+y =8 ···○ 5 0x + y =5 ···○ 6 x + 0y =3 ···○ 7 0x + y =5 ···○ 8 ( ( x =3 y =5 15 である. この解法はつねに2式を並列して書いていくという方法ですが,注意して見ると式の変 形が結局, x, y の係数と定数の部分だけの変形であることが分かります.したがって,連 立方程式 ( ax + by = p cx + dy =q を書くとき, x, y および +, = の記号を省略して .. a b . p . c d .. q と書いてしまっても上の変形による計算は可能です.第1列は x の係数,第2列は y の係 数で第3列は右辺の定数と定めておけば,いつでも元の方程式の形に戻すこともできます. そして,ここで使われている変形は, (I) 1つの式の両辺に0ではない定数をかける. (II) 1つの式に定数をかけた他の式を加える. の2種類だけです.この2種類の変形と (III) 2つの式を入れ換える. という変形だけを用いて問題 6.1 の解答2のように連立方程式を解いていく方法をガウ スの消去法あるいは掃き出し法と呼びます. 例 6.2 連立方程式 x + y + z 2x + 3y + 5z 5x − 4y + 6z をガウスの消去法で解いてみる. =0 = −1 =1 .. 1 1 1 . 0 2 3 5 ... −1 .. 5 −4 6 . 1 2行+1行×(−2) ↓ ↑ 2行+1行×2 .. 1 1 1 . 0 0 1 3 ... −1 .. 5 −4 6 . 1 3行+1行×(−5) ↓ ↑ 3行+1行×5 . 1 1 1 .. 0 0 1 3 ... −1 .. 0 −9 1 . 1 16 3行+2行×9 ↓ ↑ 3行+2行×(−9) . 1 1 1 .. 0 0 1 3 ... −1 .. 0 0 28 . −8 ↓↑ 1行+2行×(−1) 1 0 −2 0 1 3 1行+2行 .. . 1 .. . −1 .. 0 0 28 . −8 3行 × 1 28 ↓↑ 3行×28 .. 1 0 −2 . 1 0 1 3 ... −1 .. 0 0 1 . − 27 1行+3行×2,2行+3行×(−3)↓ ↑ 1 0 0 0 1 0 1行+3行×(−2),2行+3行×3 .. 3 . 7 .. . − 17 .. 2 0 0 1 . −7 最後の行列の形をもとの式の形に戻すと, x = y z 3 7 = − 71 = − 27 となり,方程式が解けいていることになる. 一般に行列の変形としての (I), (II) : (I) 1つの行(ベクトル)に0ではない定数をかける. (II) 1つの行(ベクトル)に定数をかけた他の行(ベクトル)を加える. これに, (III) 2つの行(ベクトル)を入れ換える1 . を加えた3つの変形を行列の(行)基本変形と呼びます. 1 この変形は実は (I),(II) の変形を何回か組み合わせると実現できます. 17 x, y, z を未知数とする連立方程式 a11 x + a12 y + a13 z (∗) に対して,3行3列の行列 a21 x + a22 y + a23 z a x + a y + a z 31 32 33 = b1 = b2 = b3 a11 a12 a13 A = a21 a22 a23 a31 a32 a33 を上の連立方程式 (∗) の係数行列といい,これに右辺の定数の列 b1 B = b 2 b3 を加えた3行4列の行列 . a11 a12 a13 .. b1 . .. (A .. B) = a a a . b 2 21 22 23 . a31 a32 a33 .. b3 を拡大係数行列といいます.さらに,未知数をベクトル x X = y z の形に書くと,連立方程式 (∗) が, AX = B と行列の積の形で表現されます.ガウスの消去法は拡大係数行列の係数行列の部分を行列 の基本変形で単位行列に変形していく操作です. a11 a12 a13 .. (A . B) = a21 a22 a23 a31 a32 a33 .. .. . b1 基本変形 1 0 0 . p1 .. .. .. . b2 −→ 0 1 0 . p2 = (E . P ) . .. ←− 0 0 1 .. p3 . b3 係数行列 A を,(I),(II) および (III) の基本変形により単位行列 E に変形していくとき に,同時に B も同様の変形を行うと,結果として出てきた P がその方程式の解になると いうことです.その際, E を作る手順が列ごとに行われていることに注意してください. 18 問 6.3 次の連立1次方程式を基本変形により解きなさい. ( (1) 100x + 101y = 102 (5) (2) 103x + 104y = 105 2x − y + 2z (3) 3x − y + 2z x−y+z x + 2y − z −2x + 5y − 3z 5x − 2y + z x + 6y =2 (4) = −2 4x + y − 4z 3x − 2y + 5z =7 −2x + y − 2z − u 3x − y + 3z + 2u x + y + z =3 = −7 (6) 5x + 3y + 2z + 3u = −10 −4x + y + z + u =4 = 14 2x + 3y + z x + 4y + az = −2 =8 = 20 =5 = −20 =2 =5 =a+7 問 6.4 I1 + I2 − I3 R1 I1 + R3 I3 R I + R I 2 2 3 3 =0 = −E1 = −E2 のとき,I1 , I2 , I3 を R1 , R2 , R3 および E1 , E2 により表しなさい.ただし, R1 , R2 , R3 は 正数とする. 例 6.5 連立方程式 x + 3y + 3z y − 3z −x − 4y + az を解いてみる. =2 =b =0 .. . 2 .. 0 1 −3 . b .. −1 −4 a . 0 1 3 3 ↓↑ 19 .. 1 3 3 . 2 . 0 1 −3 .. b .. 0 −1 a + 3 . 2 ↓↑ . 1 0 12 .. 2 − 3b 0 1 −3 ... b .. 0 0 a . b+2 ···○ 1 つぎに3行3列の a を1にするわけですが,それは a の値によって場合に分かれます. (i) a 6= 0 の場合,3行を a で割ることができるから, ↓↑ .. 1 0 12 . 2 − 3b 0 1 −3 ... b .. b+2 0 0 1 . a 1行3列の12と,2行3列の−3をそれぞれ3行3列の1を使って0にすると, ↓↑ .. 12(b+2) 1 0 0 . 2 − 3b − a 0 1 0 ... b + 3(b+2) a .. b+2 0 0 1 . a したがって,このとき, x = 2 − 3b − y z の1組の解をもつ. =b+ = b+2 a 3(b+2) a 12(b+2) a 20 (ii) a = 0, b = −2 のとき,○ 1 の行列は 1 0 12 0 1 −3 0 0 0 .. . 8 .. . −2 .. . 0 となり,これ以上の変形は意味をなしません.そこで方程式の形に戻しますと, x + 12z = 8 y − 3z 0 = −2 =0 上の2つの式はそれぞれ x = −12z + 8, y = 3z − 2 のように x, y が z で表せることを意 味しますが,z そのものにはそのような拘束がありません(本来 z を拘束する式が 0 = 0 と 無意味な式になっているからです).したがって, t を任意の数として,上の答は x = −12t + 8 y z = 3t − 2 =t と表せ,これは t を媒介変数とする3次元の空間内の直線の方程式になり,その直線上 の点の座標がこの方程式の解になり,それは無数にあるということになります. (iii) a = 0, b 6= −2 のときは,○ 1 の第3行が 0 = b + 2 6= 0 という矛盾を含む式になり,この場合は解があるとするとこの矛盾が必ず出ることになり, したがって解がありません. 2 21 7.行列の階数 3行3列の正方行列 A に行基本変形(場合によっては列の入れ換えを含みます)を何回 か施していくと,零行列を除いて,つぎの3通りのどれかに変形されます. 1 0 0 0 1 0 , 0 0 1 1 0| ∗ 0 1| ∗ , 0 0 0 1| ∗ ∗ 0 0 0 0 0 0 3次の単位行列に変形できるとき,その行列の階数 rank は3であるといい,2次の単位 行列のときは階数2,1次の単位行列のときは階数が1であるといいます. 行列 1 3 3 1 −3 0 −1 −4 a は, a 6= 0 とき階数は3,a = 0 のときは2となることが上の例 6.5 の計算から分かります. 行列の階数 正方行列にかぎらず基本変形により(必要なら列の入れ替えをして)そ の行列の内部に得られる最大の単位行列の次数の値をその行列の階数といい, A の階数 を rank(A) で表します.また,零行列の階数はつねに0とします. x1 , x2 , . . . , xn を未知数とする連立方程式 a11 x1 + a12 x2 + · · · + a1n xn a x + a x + · · · + a x 21 1 22 2 2n n (∗∗) ··· a x + a x + · · · + a x m1 1 m2 2 mn n = b1 = b2 = bm に対して,その係数行列と右辺の定数の列ベクトルを a11 a21 A= . .. a12 a22 .. . ... ... ... am1 am2 . . . a1n a2n .. . amn b1 b2 B= . .. bm . をとし, m 行 n 列の拡大係数行列を (A .. B) で表します.このとき, 22 定理 7.1 . rank(A .. B)=rank(A). (i) 連立1次方程式 (∗∗) が解をもつ. ⇐⇒ (ii) (∗∗) が解をもつとき, 解が1組だけである ⇐⇒ rank(A) = n. 注意.係数行列の階数は余分な式を除いた連立方程式の本質的な式の個数であり,それは 未知数の個数をこえない数になります. 8.同次の連立1次方程式 (∗ ∗ ∗) a11 x1 + a12 x2 + · · · + a1n xn a x + a x + · · · + a x 21 1 22 2 2n n ··· a x + a x + · · · + a x m1 1 m2 2 mn n =0 =0 =0 の形の連立方程式をを同次連立1次方程式といいます.これは係数行列にかかわらず x1 0 x2 0 .. = .. . . xn 0 を解の1つとします.この解のことをこの方程式の零解,あるいは自明な解といいます. 同次の連立方程式の場合には零解以外に解があるかが問題になります. 定理 8.1 同次の連立方程式 (∗ ∗ ∗) の係数行列を A とする.このとき, (i) (∗ ∗ ∗) 解が零解だけである. ⇐⇒ rank(A) = n. (ii) (∗ ∗ ∗) が零解以外にも解をもつ. ⇐⇒ rank(A) < n. 問 8.1 つぎの同次の連立方程式が零解以外の解をもつように a の値を定めて,そのと きの解を求めようではないか. x + y + z = 0 =0 x + y − az (1) 2x + ay + z 4x + 5y + az =0 =0 (2) ax − y + az 3x + ay − 4z =0 =0 23 同次の連立方程式 (∗ ∗ ∗) の係数行列 A の n 個の列ベクトルを a1j a2j Aj = . .. (j = 1, 2, . . . , n) amj とすると, (∗ ∗ ∗) は x1 A1 + x2 A2 + · · · + xn An = 0 と書けます.いくつかのベクトルの組 A1 , A2 , . . . , An が与えらたとき, λ1 , λ2 , . . . , λn を 任意のスカラーとして, λ1 A1 + λ2 A2 + · · · + λn An をベクトルの組 {A1 , A2 , . . . , An } の1次結合といいます. ベクトルの1次独立と1次従属 λ1 A1 + λ2 A2 + · · · + λn An = 0 とおいたとき, λ1 = λ2 = · · · = λn = 0 のスカラーの組以外にこの等式をみたすスカラー の組がないとき,ベクトルの組 {A1 , A2 , . . . , An } は1次独立 linearly independent で あるといい, λ1 , λ2 , . . . , λn がすべては0でない場合にこの等式が成り立つときがあると き, {A1 , A2 , . . . , An } は1次従属 linearly dependent であるという. 定理 8.2 {A1 , A2 , . . . , An } を n 個の1次独立であるベクトルの組とする. このとき, {A1 , A2 , . . . , An } の1次結合により,互いに直交する n 個のベクトルの組 {B1 , B2 , . . . , Bn } を構成することができる. 定理 8.3 { A1 , A2 , . . . , An } を n 個の m 次元たてベクトルとする.A = (A1 A2 . . . An ) とおいた とき, (i) { A1 , A2 , . . . , An } が1次独立である ⇐⇒ rank(A) = n. (ii) { A1 , A2 , . . . , An } が1次従属である ⇐⇒ rank(A) < n.
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