数学付録:行列1

 『公共経済学講義:理論から政策へ』
1
数学付録:行列
須賀晃一[編]
c
⃝Koichi
Suga, 2014
発行所:有斐閣
2014 年 6 月 25 日 初版第 1 刷発行
ISBN 978-4-641-16445-1
1
須賀晃一(編)『公共経済学講義:理論から政策へ』(有斐閣,2014 年)の【数学付録】を項目別に公
開しています。本書を読み進めて頂くに際してのご参考に,ぜひご利用下さい。
1
行列
1
行列の定義
mn 個の実数を次のように並べたものを行列 (matrix) といい,



a11 a12 · · ·
a11 a12 · · · a1n



 a21 a22 · · ·
 a21 a22 · · · a2n 
あるいは A = 
A=
..
..
.. 
 ..

 ..
.
.
. 
 .
 .
am1 am2 · · ·
am1 am2 · · · amn
a1n
a2n
..
.






amn
で表す.正確には,(m, n) 型行列あるいは m × n 行列といい,(aij ) とも表す.行列 A は
n 個の m 次元列ベクトル a1 , a2 , · · · , an を並べたものと考えることができる.
A = (a1 , a2 , · · · , an )


a1j


 a2j 

aj =  . 

 .. 
amj
また,m 個の n 次元ベクトル b1 , b2 , · · · , bm でも表すことができる.


b1


 b2 

A= . 

 .. 
bm
b1 = (a11 , a12 , . . . , a1n )
·········
bm = (am1 , am2 , . . . , amn )
行と列の数が同じ行列を正方行列という.(n, n) 型正方行列を n 次正方行列という.
n 正方行列 A において aii (i = 1, · · · , n) を対角成分という.対角成分の和
a11 + a22 + · · · + ann
をトレースといい,tr(A) で表す.対角成分以外の成分がすべて 0 である行列を対角行列
という.対角成分がすべて 1 で,他はすべて 0 である対角行列を単位行列といい,I ある
いは In で表す.すなわち


1 0 ··· 0

. 
 0 1 · · · .. 


I= .

..
.
 .
.
1 0 
0 ···
2
0
1
単位行列の第 j 列を基本単位ベクトル ej で表すと,
In = [e1 , e2 , · · · , en ]
となる.クロネッカーのデルタを用いて単位行列の要素を表すことができる.それは δij で
表される記号で,i と j が等しいときは 1,i と j が異なるときは 0 の値をとるものである.
{
1 (i = j )
δij =
0 (i ̸= j )
この場合,単位行列は,

δ11 δ12 · · · δ1n
δ

 21 δ22 · · · δ2n 
In = [δij ] = 

. . . . . . . . . . . . . . . . . .
δn1 δn2 · · · δnn

n 次正方行列 A において,aji = aij ,あるいは A′ = A となるような行列を対称行列と
いう.この行列では,対角線に関して対称の位置にある要素はすべて等しくなる.


4 1 2


例 1. A = 1 5 3 は対称行列である.
2 3 6
A の行と列を入れかえることを,A を転置するといい,転置記号 ′ (プライム) をつけて
表す.一般に,A′ ̸= A だが,A′ = A が成り立つ場合,A を対称行列という.
また,すべての成分が 0 であるような (m, n) 型行列をゼロ行列といい,0mn ,あるいは
単に 0 と書く.
2
行列の演算
行列と行列の間や行列とスカラーの間には,和,スカラー積,積などの演算が定義され
る.まず,行列の相当についいて定義し,以下順にこれらの演算を定義していこう.
[行列の相等] (m, n) 型の行列 A = [aij ] と (p, q) 型の行列 B = [bij ] は,それらの型が
同じで,しかも対応する要素がすべて等しいとき,即ち,
{
m = p, n = q
aij = bij (i = 1, 2, · · · , m, j = 1, 2, · · · , n)
が成立するとき,かつそのときに限り等しいといい,A = B で表す.
[行列の和] A = [aij ], B = [bij ] を同じ (m, n) 型行列とするとき,A と B の (i, j) 要素
aij と bij の和,aij + bij を (i, j) 要素とする (m, n) 型行列を A と B の和といって,A + B
3
で表わす.


a11 + b11
a12 + b12 · · · a1n + b1n
 a +b
a22 + b22 · · · a2n + b2n 
 21

21
A + B = [aij ] = [bij ] = 

. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
am1 + bm1 am2 + bm2 · · · amn + bmn
異なる型の行列の間の和は定義されないことに注意せよ.
[スカラー積] A = [aij ] を (m, n) 型行列,λ を任意のスカラーとするとき,λaij を
(m, n) 型行列 A の λ 倍といい,λA で表わす.

λa11 λa12 · · · λa1n

 λa
 21 λa22 · · · λa2n 
λA = [λaij ] = 

. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
λam1 λam2 · · · λamn
[
]
[
]
1 2 4
−1 2 1
例 2. A =
, B=
, λ = 2 とするとき,
−3 1 4
0 3 −4
[
] [
]
1 + (−1) 2 + 2
4+1
0 4 5
A+B =
=
−3 + 0 1 + 3 4 + (−4)
−3 4 0
[
] [
]
2×1
2×2 2×4
2 4 8
λA =
=
2 × (−3) 2 × 1 2 × 4
−6 2 8

行列の和とスカラー積の定義から,ただちに次の性質が得られる.
(i) (A + B) + C = A + (B + C)
(ii) A + B = B + A
(iii) A + Om,n = Om.n + A = A
(iv) A − A = Om,n
(v) λ(A + B) = λA + λB
(vi) (λ + µ)A = λA + µA
(vii) (λµ)A = λ(µA)
(viii) 1A = A
ここで,A, B, C はすべて (m, n) 型の行列,λ, µ はスカラー,−A = (−1)A である.
[行列の積] A = [aij ] を (m, n) 型の行列,B = [bij ] を (n, p) 型の行列とするとき,
Cij = ai1 b1j + ai2 b2j + · · · + ain bnj =
n
∑
aik bkj
(i = 1, · · · , m; j = 1, · · · , p)
k=1
を (i, j) 要素とする (m, p) 型の行列を A と B の積といい,AB で表わす.
4


c11 c12 · · ·

 c21 c22 · · ·
 .

AB =  ..
 .
 .
 .
cm1 cm2 · · ·
n
∑
n
∑
n
∑
k=1
k=1
k=1


a1k bk1 ,
a1k bk2 , · · ·
a1k bkp 

c1p

 k=1
k=1
k=1

  n
n
n
c2p   ∑

∑
∑


a2k bk1 ,
a2k bk2 , · · ·
a2k bkp 
..  

.  =  k=1

k=1
k=1


.. 
 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
.  

n
n
n
∑

∑
∑


cmp
amk bk1 ,
amk bk2 , · · ·
amk bkp
A と B の積 AB が定義できるのは,A の列の個数と B の行の個数が等しいときに限る
のであり,AB が定義できても,BA が定義できるとは限らない.また,AB と BA が定
義できても AB = BA は一般に成立しない.




1 −1 3
1 −3




例 3. A = 2 1 2 , B = 2 1  とするとき,A は (3, 3) 型,B は (3, 2) 型である
1 2 1
から AB が作れて,
5
4

 

1 × 1 + (−1) × 2 + 3 × 5, 1 × (−3) + (−1) × 1 + 3 × 4
14 8

 

AB =  2 × 1 + 1 × 2 + 2 × 5,
2 × (−3) + 1 × 1 + 2 × 4  = 14 3
1 × 1 + 2 × 2 + 1 × 5,
1 × (−3) + 2 × 1 + 1 × 4
10 3
[
]
[
]
1 −2
3 1
例 4. A =
,B=
とすると,AB ,BA がともに定義され,
2 1
4 2
[
] [
]
1 × 3 + (−2) × 4 1 × 1 + (−2) × 2
−5 −3
AB =
=
2×3+1×4
2×1+1×2
10 4
[
] [
]
3 × 1 + 1 × 2 3 × (−2) + 1 × 1
5 −5
BA =
=
4 × 1 + 2 × 2 4 × (−2) + 2 × 1
8 −6
となる.AB ,BA ともに (2, 2) 型であるが,AB ̸= BA.
A が正方行列のとき,AA を A2 ,A2 A を A3 ,一般に An−1 A = An (n = 2, 3, . . .) と
書き,A の累乗という.A が m 次正方行列ならば,A の累乗も m 次正方行列である.
行列の積に関して,次の性質が得られる.
(i) A,B,C をそれぞれ (m, n) 型,(n, p) 型, (p, q) 型の行列とすると,
(AB)C = A(BC)
(ii) A を (m, n) 型,B, C を (n, p) 型の行列とすると,
A(B + C) = AB + AC
5
(iii) A,B を (m, n) 型, C を (n, p) 型の行列とすると,
(A + B)C = AC + BC
(iv) A を (m, n) 型の行列とすると,
Im A = AIn = A
ところで,行列の場合,積の逆演算としての商は一般的には定義できない.つまり,行
列 A と B に対して,AX = B(あるいは,Y A = B) をみたすような行列 X(あるいは Y )
が一意的に存在するかというと,A ̸= 0 であっても一般には存在しないし,また存在した
としてもそれは一意的であるとは限らない.A が (m, n) 型の場合,AX = B なる X が存
在するためには,まず,X が (n, p) 型でなければならないが,次の例で示されるとおり,
それだけでは十分でないのである.


 
1 0
2


 
例 5. A = 0 1 , B = 1 とする.AX = B なる X が存在するとすれば,それは (2, 1)
1 1
4


[ ]
x
x


型であるから,X =
とおくと,AX =  y  となるから,AX = B とはなり得な
y
x+y
い.つまり,AX = B なる X は存在しない.


[
]
[
]
4 0
2 1 3
9 4


例 6. A =
,B =
とする. C = 1 1 とすると,AC = B とな
−1 3 2
−1 5
0 1
るが, 

3 2


D = 0 3  としても,AD = B となるから,AX = B をみたす X は存在するが,
1 −1
一意的でない.
行列の和,スカラー積,行列の積と転置行列の間では,次の性質が得られる.
(i) A,B が (m, n) 型行列ならば,
(A + B)′ = A′ + B ′
(ii) 任意の行列 A と任意のスカラー λ に対し,
(λA)′ = λA′
(iii) A と B の積を定義できるとき,B ′ と A′ の積 B ′ A′ が定義でき,
(AB)′ = B ′ A′
6
(iv) 任意の行列 A に対して,
(A′ )′ = A
対称行列と (n, 1) 型行列 (Rn のベクトル) との積について,次の性質が得られる.A を
(n, n) 型の対称行列,x, y を Rn のベクトルとすれば,
(Ax, y) = (Ay, x)
ここで,(Ax, y) は Ax と y の内積である.
3
行列の分割
行列 A をいくつかの縦線および横線によって区切る.区切られた一つの部分は A の要
素が矩形に配置されているから一つの行列とみることができる.この行列を A の小行列と
いい,一般に Aij と表す.


.
1 2 3 .. 4


..




例 7. A =  1 1 1 . 1  を点線で示したように区分すれば,次の 4 つの小行列がで
 ............. 


..
5 6 7 . 8
きる.
A11
[
]
[ ]
[
]
[
]
[ ]
1 2 3
4
A11 A12
=
A12 =
A21 = 5 6 7 A22 = 8 このとき,A =
1 1 1
1
A21 A22
で表される.
行列 A を小行列 Aij を使って,


A11 A12 · · · A1q
A

 21 A22 · · · A2q 
A=

. . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
Ap1 Ap2 · · · Apq
と表したとき,同じ行に並んだ小行列 Ai1 , Ai2 , · · · Aiq の行の数はすべて等しく,同じ列
に並んだ小行列 A1j , A2j , · · · Apj の列の数はすべて等しくなければならないことに注意
しなければならない.
行列をこのように分割すると,演算が簡単になることが多い.いま,2つの (m, n) 型行
列 A, B が同じように分割されているとしよう.
]
A11 A12
,
A=
A21 A22
[
[
B11 B12
B=
B21 B22
]
(1)
ここで,A11 ,B11 は (m1 , n1 ) 型行列,A12 ,B12 は (m1 , n2 ) 型行列,A21 ,B21 は (m2 , n1 )
型行列,A22 , B22 は (m2 , n2 ) 型行列で,m1 + m2 = m, n1 + n2 = n である.このとき2
つの行列の和は,
7
[
A11 + B11 A12 + B12
A+B =
A21 + B21 A22 + B22
]
のように分割される.
2つの行列の積について考える.A を (m, n) 型行列,B を (n, p) 型行列とし,それぞ
れ,(1) のように分割されているものとする.ここで,B11 は (n1 , p1 ) 型,B12 は (n1 , p2 )
型,B21 は (n2 , p1 ) 型,B22 は (n2 , p2 ) 型行列で,n1 + n2 = n,p1 + p2 = p である.この
とき,
[
][
] [
]
A11 A12 B11 B12
A11 B11 + A12 B21 A11 B12 + A12 B22
=
A21 A22 B21 B22
A21 B11 + A22 B21 A21 B12 + A22 B22
である.




例 8. A = 



..
2 . 2
.


1 2 .. 0 1
..




1 . 0 
..



2 0 . 1 0 , B = 
....... 


 のとき,
............. 


.

 3 .. 1 
..


1 1 . 2 1
..
1 . 2
 [


AB = 
 [

1 2
2 0
][
1, 1


5 4


=  7 5 
10 6
4


]
[
2
1
2
1
]
[
+
]
0 1
1 0
[
+
][
]
2, 1
[
3
1
3
1
]
[
,
]
1 2
2 0
[
,
][
]
1, 1
[
2
0
2
0
]
[
+
]
0 1
1 0
[
+
][
]
2, 1
[
1
2
] 


] 
1 

2
逆行列と直交行列
行列の積の演算のところで,逆演算としての商が一般的に定義できないことを示した.
そこでは,AX = B をみたす X は,一般的に存在しないし,たとえ,存在したとしても,
一意的であるとは限らない.
ここでは,A を n 次正方行列,B を n 次の単位行列 In に限定してみよう.このとき,
XA = AX = In
(2)
をみたす n 次正方行列 X を A の逆行列といい,A−1 で表す.この場合でも,任意の A に
対して,このような逆行列が,いつも存在するとは限らない.たとえば,A をゼロ行列と
すると,どんな行列を左あるいは右からかけても,ゼロ行列となってしまい,式 (2) をみ
たす行列 (逆行列) は存在しないのである.
もちろん,A を適当にとれば,A の逆行列が存在するかもしれない.
8
例 9.
[
]
1 −2
A=
2 0
とするとき,A の逆行列は存在し,
[
A−1
0
=
− 12
1
2
1
4
]
である.
[
0
∵
− 12
1
2
1
4
][
][
] [
0
1 −2
1 −2
=
2 0
2 0
− 12
1
2
1
4
]
[
1 0
=
0 1
]
この例のように,A の逆行列が存在するとき,あるいは同じことであるが,A が逆行列
をもつとき,A は正則であるという(A が正則であるための必要十分条件は定理 4 で与え
られる).
A が正則であれば,A の逆行列はただ一つであるということが言える(逆行列の一意
性).なぜなら,X, Y を A の逆行列とすると,(2) より,XAY = (XA)Y = In Y = Y ,
XAY = X(AY ) = XIn = X となり,X = Y が得られるからである.
逆行列の定義から,次の性質が成り立つ.
(i) (A−1 )−1 = A
(ii) (AB)−1 = B −1 A−1
(iii) (A′ )−1 = (A−1 )′
A を n 次正方行列としよう.そして,A の各列を a1 · · · · · · an で表すと,
A = [a1 · · · · · · an ]
となる.このとき,各 ai に関して,(ai , ai ) = 1 (i = 1, 2, · · · , n), (ai , aj ) = 0 (i ̸=
j, i, j = 1, 2, · · · , n) が成立するとき,即ち,Rn のベクトル a1 · · · an が正規直交系である
とき,この A を直交行列という.


 1 
 1 
 
− √12 √12 0
√
0
− √2
2

 1






1
1
1
1
√  のとき,a1 =  − , a2 = − , a3 =  √1  とお
例 10. A = 
2
 −2 −2
2
2
2
1
2
1
2
√1
2
1
2
1
2
√1
2
くと,
(ai , ai ) = 1 (i = 1, 2, 3), (ai , aj ) = 0 (i ̸= j, i, j = 1, 2, 3) である.したがって,この
A は直交行列である.
直交行列に関して,次の性質が成り立つ.
(i) A′ = A−1
(ii) (Ax, Ay) = (x, y)
(iii) ∥ Ax ∥ = ∥ x ∥
9
5
行列の階数
(m, n) 型行列を,n 個の列ベクトル (Rm のベクトル) で表そう.
A = [a1 , a2 , · · · an ]
この n 個の列ベクトルのうち,1 次独立なものの最大個数を行列 A の階数(ランク)とい
い,r(A) で表す.定義よりただちに,階数の範囲が,
0 ≤ r(A) ≤ m
(3)
であることを得る.
例 11. n 次の単位行列 In の階数は r(In ) = n である.なぜなら,In = [e1 , · · · en ], ei ∈ Rn
(i = 1, 2, · · · , n) となり,n 個の Rn の基本単位ベクトル e1 , · · · en は,1次独立であるから.
任意の n 次の正方行列の階数を見出すため,次の列や行に対する基本変形と呼ばれるも
のを定義しておこう.
行列 A に対して,次の 3 つを列に関する基本変形という.
(i) A の任意の 2 つの列を入れかえる.
(ii) A の 1 つの列に 0 でない数をかける.
(iii) A の 1 つの列を何倍かして他の列に加える.
同様に,次の 3 つを行に関する基本変形という.
(i′ ) A の任意の 2 つの行を入れかえる.
(ii′ ) A の 1 つの行に 0 でない数をかける.
(iii′ ) A の 1 つの行を何倍かして他の列に加える.
いま,n 次の単位行列 In の第 i 列と第 j 列を入れかえた行列を In;i,j λ で表わす.
第i列
..
.
..
.
0

In;i,j






= 





1
..
.
In;i,j λ
1
..
.
第i列
..
.
..
.
1
..
.
..
.
..
.
..
.













.
1
..
.
..
.







= 





..
第j列
..
.
..
.
1
0
..
.
..
.
..
..
.
1
第j列
..
.
..
.
λ













.
1
..
.
..
.
..
.
1
10

In;iλ



= 



1
..
.
第i列
..
.
..
.
λ
0

..







.
1
列に関する (i) の操作は,n 次正方行列 A と In;i,j λ の積を作ることであり,(ii) は,A と
In;i,j λ との積を作ることであり,(iii) は,A と In;i,j λ との積を作ることと同じである.同
様に,行に関する基本形 (i′),(ii′),(iii′) は,それぞれ In;i,j A, A,In;iλ A, A と In;i,j λ A の
形の積を作ることと同じである.
定理 1. 行列 A, B をそれぞれ,n 次の正方行列とし,B は正則であるとする.このとき,
r(AB) = r(A)
が成立する.
ところで,行列 In;i,j ,In;iλ , In;i,j λ は,すべて正則である.というのは,X1 , X2 ,X3 を



..
..
..
..
1
.
.
.
.


1


..
.
..
 . . ..


.
.
. . ..
1
.
..



.
. .





..

 ..



1
−λ
.


.
0
1








.. . .
1


.
 , X2 = 
..
.
X1 = 
.
, X3 = 





λ



.


.. . .
..



1
0
1

. 
.





..
.. . .



.
..
..
..


. 
.
.
.
.
1



..
..
..
..
.
.
1
.
.
とすると,X1 In;i,j = In;i,j X1 = In , X2 In;iλ = In;iλ X2 = In , X3 = In となるからであ
る.したがって次の系を得る.
系 1. 列に関する基本変形によって,階数はかわらない.
定理 1 と同様にして,r(CA) = r(A) が得られる.したがって,行に関する基本変形に
よっても,階数はかわらない.
列および行に関する基本変形によって得られる行列が,もし,単位行列やゼロ行列の形
で得られるならば,当該の行列の階数は直ちに知られるであろう.
定理 2. n 次の正方行列 A に,列と行に関する基本変形を繰り返し行うことによって,A
を
[
Ir
On−r,r
Or,n−r
On−r,n−r
]
(4)
の形の n 次正方行列に変形することができる.ここで,Ir , Or,n−r , On−r,r , On−r,n−r は小
行列で,それぞれ,r 次の単位行列,(r, n − r) 型,(n − r, r) 型,(n − r, n − r) 型のゼロ
行列である.




0 −3 4
−3 0 4




例 12. A =  7
2 2 とする.(i) 第 1 行列と第 2 行列を入れかえると, 2
7 2,
11
1
6


1
11 6
1 11 6

7 2 ,(iii) 第 1 列を −11 倍,−6 倍して,そ
2
−3 0 4

(i′ ) 第 1 行と第 3 行を入れかえると
11

..















.
1


1
0
0


れぞれ,第 2 列, 第 3 列に加えると 2 −15 −10 ,(iii′ ) 第 1 行を −2 倍,3 倍して,そ
0 33
22


1
0
0


1
れぞれ,第 2 行,第 3 行に加えると, 0 −15 −10 , (ii′ ) 第 2 行に − 51 , 第 3 行に 11
−3 33
22




1 0 0
1 0 0




をかけると 0 3 2 , (iii′ ) 第 2 行を −1 倍し,第 3 行に加えると,0 3 2 ,(ii) 第
0 3 2
0 0 0


1 0 0


1
1
2 列に 3 , 第 3 列に 2 をかけると,0 1 1, (iii) 第 2 列を (−1) 倍し,第 3 列に加える
0 0 0


[
]
1 0 0
I2 O


と,0 1 0 =
となる.したがって,行列 A の階数は 2 である.
O 0
0 0 0
(4) 式の形をとくに,行列の標準形という.この行列において,1 次独立な列ベクトル
の最大個数と,1 次独立な行ベクトルの最大個数が一致することが,直ちにわかる.した
がって,次の定理を得る.
定理 3. n 次正方行列 A において
r(A) = r(A′ )
標準形は,先に示したように A の左及び右に In;i,j , In;iλ , In;i,j λ を繰り返しかけること
によって得られる.いま,行に関する基本変形に対応する正則行列,列に関する基本変形
に対応する正則行列をそれぞれ,X, Y としよう.このとき,標準形は,
[
XAY =
Ir
On−r,r
Or,n−r
On−r,n−r
]
(5)
で表すことができる.A が正則であれば,XAY は正則であり,(1) の右辺の 1 つの行 (列)
がすべて 0 となることはないから,右辺は n 次の単位行列となる.
定理 4. n 次正方行列 A が正則であるための必要十分条件は,r(A) = n となることである.
例
例 9 の行列を使って,A が正則ならば,r(A) = 2 となることを確かめよう.
A=
[ 13. ]
[
]
1 −2
1 0
において,第 1 列を 2 倍し第 2 列に加えると,
, 第 1 列を-2 倍し第 2
2 0
2 4
[
]
[
]
1 0
1
0
行に加えると,
, 第 2 列に 41 をかけると,
. したがって,標準形は I2 で
0 4
0 1
r(A) = r(I2 ) = 2.
練習問題
12
1. 次の行列の転置行列を求めよ.また,それらの転置行列のうちで正方行列であるも
ののトレースを求めよ.






[
]
1 3 1 2
1 2 3
1 2 4
1 2 3






(1)
(2) 4 5 6 (3) 2 1 3 (4) 0 1 1 3
4 5 6
0 0 0 2
4 3 1
7 8 9
2. 次の行列 A の転置行列を求め,A′ = A であることを確かめよ.


1 2 3 4
2 0 2 1


A=

3 2 0 3
4 1 3 1
]
[
]
[
]
]
[
[
3 4 1
1 2 5
1 2
2 −2
, D=
とするとき,次
, C=
3. A =
, B=
4 3
2 −4 7
6 −2 5
3 1
の計算をせよ.
(1) A + B (2) 2A − 3B (3) C + 2D (4) AB (5) BA (6) (BC)D′




[
]
[ ]
3 2
1 1
−1
2
0
1




4. A = 1 0, B = 6 −3, C =
,x=
とするとき,次の計算を
5 1 4
2
2 1
0 2
せよ.
(1) AC (2) 3A − 2B (3) BC (4) (AC)′ (5) Ax (6) A′ B
[
] [
]
( )
( )
2 3
1 2
1
2
5. A =
,
, a=
, b=
とするとき,次の行列を小行列を使
−1 1
3 1
3
7
わずに書け.
[
]
[
]
(1) a, Ab
(2) a, b, A
[
A I2
(3)
I2 O
]
[
A a
(4) ′
b O
]
6. 行列の積に関する性質 (ii), (iii) を証明せよ.
7. 逆行列の性質 (i), (ii) を証明せよ.
8. 例 10 で与えた行列の逆行列を求めよ.
9. 次の行列の階数を基本変形を行うことによって,求めよ.


[
]
1 2 3
1 2


(1)
(2) 4 5 6
3 4
7 8 9


1 2 1


10. A = 2 1 2  について次の問いに答えよ.
1 3 x
(1) A の階数が 3 であるための x の条件を求めよ.
13
(2) A の階数が 1 になることはあるか.
11. A, AB がともに正則ならば,B も正則で
B −1 = (AB)−1 A
となることを示せ.
12. 正方行列 A, B に対して,AB が正則ならば,A も B もともに正則になることを
示せ.
14