02 撮影技術と性能評価の最新動向 マルチスライス CT に おける造影技術 SECTION はじめに マルチスライスCT(MSCT)の登場 により,短時間撮影で広範囲かつ高分 解能な画像が得られるようになり,肝 室賀浩二/八町 淳 長野赤十字病院中央放射線部 と64列MSCT「AquilionTM64」による造 が速いほど(単位時間あたりのヨー 影検査の経験を中心に,マルチスライス ド量[g/s]が多いほど) ,造影剤検 CTにおける造影技術について述べる。 出時間・最大 CT 値到達時間・持続 時間が短く,傾き・最大 CT 値が高 Time Density Curve(TDC) くなるが,平衡相 CT 値に違いを認 臓などの精密検査としての多時相撮影 CT 装置の性能に合わせて造影剤の や3D-CTAngiography(3D-CTA)への 使用方法と使用量を最適化するために めない(図 2)。 応用により,診断能の向上を図ること は,Time Density Curve(TDC)を ド量[g]が増加し注入速度[ml/s] ができるようになった。しかし,一口 理解することが重要である(図 1)。こ が速いほど(単位時間あたりのヨー にMSCTと言っても2列から64列まで れまで,TDCにおける解析については ド量[g/s]が多いほど),造影剤検 の装置が稼働しており, CT 装置の性 数多くの報告が行われてきた 1)〜 5)。し 出時間が短く,傾き・最大CT値・平 能差は大きい。そのため,最適な画像 かし,実際にその変化について考察す 衡相 CT 値が高く,持続時間が長く を得るためには,使用している CT 装 ることが重要と考え, 造影剤量( 総 なるが,最大 CT 値到達時間に違い ● 注入時間[s]が一定の場合,ヨー を認めない(図 3)。 置の性能や特性を十分理解した上で, ヨード量) [g],注入時間[s],注入 検査部位や検査目的に合わせて,性能 速度[ml/s]によるTDCの違いについ に応じた再現性の高い造影検査を行う てまとめた。なお,TDCは,根本杏林堂 ヨード量[ g] が増加し注入時間 必要がある。また,CT 装置の性能に 製TDC測定ファントムにより得られた [s]が長くなるほど(単位時間あた よっては,描出能を確保した上で造影 データである 6)。また,Enhancement りのヨード量[g/s]は一定) ,最大 剤使用量を低減することができる。 Unit[EU]とは,造影剤注入によるCT CT 値到達時間・持続時間が長く, ● 注入速度[ ml/s] が一定の場合, 値の上昇分を示すものである(図2〜5, 最大CT値・平衡相CT値が高くなる 影剤の有効な使用方法,および造影剤 。 8,10,11,14) が,造影剤検出時間および傾きに違 使用量の低減について,当院で使用し ● TM ている東芝社製4列MSCT「Asteion 」 Hounsfield Unit[HU] 300 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ④ ③ 200 ヨード量[g]が一定の場合,注入 造影剤検出時間 傾き 最大CT値到達時間 最大CT値 持続時間 平衡相CT値 HU:Hounsfield Unit EU:Enhancement Unit ⑤ 100 ① EU ② いを認めない(図 4)。 時間[ s] が短く注入速度[ ml/s] ⑥ Enhancement Unit[EU] 本稿では,CT装置の性能に応じた造 50s・2ml/s(0.70 g/s) 33s・3ml/s(1.05 g/s) 25s・4ml/s(1.40 g/s) 20s・5ml/s(1.75 g/s) 400 300 200 100 0 50 0 100 (s) 0 8 Time Density Curve(TDC)の変化点 INNERVISION(22・8)2007 別冊付録 40 60 Time[s] 造影剤量 350mgI/ml・100ml(35g) 注入時間 図1 20 図2 80 注入時間・注入速度の違いによるTDC(ヨード量一定) 100 速く注入時間を短く(単位時間あたり Enhancement Unit[EU] 400 58ml(17.5g)・2.3ml/s(0.70g/s) 88ml(26.3g)・3.5ml/s(1.05g/s) 117ml(35.0g)・4.7ml/s(1.40g/s) のヨード量[mg/s]を多く)すること により,造影剤使用量を増やさずに最 300 大 CT 値を高くでき,描出能を高める ことができる。しかし,注入速度5ml/s 200 以上では, 造影剤は心腔内に入らず, 下大静脈に突き抜ける。そのため,注 100 入速度 5ml/s 以上となる注入時間の短 縮は,描出能の向上には関与しない可 3) 能性があると考えられる 。また,注 0 20 40 60 80 100 Time[s] 注入時間 25s(300mgI/ml ) 図3 入時における造影剤の血管外漏出の恐 れや,シリンジ外筒の耐圧性を考慮す る必要がある。当施設では,22G サー ヨード量・注入速度の違いによる TDC(注入時間一定) フロ針・370mgI/ml・100ml(37℃で Enhancement Unit[EU] 加温)において,10kg/cm2 を限界圧力 として注入条件を決定している。 15.0g・17s 22.5g・25s 30.0g・33s 250 また,撮影時間の短縮により撮影開 始時間を早くして検査時間を短縮する 200 ことは,描出能に変化を与える恐れが ある。 そのため, 検査目的や部位に 150 よって,撮影開始時間を最適化するこ 100 とが必要である(図 7)13)。 ● 3D-CTA 50 3D-CTA においては,血管の描出能 0 20 40 60 80 100 Time[s] 撮影時間中持続するような造影剤の使 注入速度 3ml /s(0.9g/s) 図4 を確保するため,目標とする CT 値を 用量および注入方法が必要となる。ま た, CT 装置の性能により撮影時間に ヨード量・注入時間の違いによる TDC(注入速度一定) 差があるため,撮影時間に応じて造影 剤の使用量および注入方法を最適化し 造影剤使用量および注入方法 法に依存せず,造影剤使用量[g]に なければならない。 よって決定される。また,体重と平衡 そこで,造影剤の first pass の間に 3D-CTAの場合,造影剤のfirst pass 相 CT 値には負の相関関係が成り立つ 撮影される3D-CTAにおいて,撮影時 の間に撮影されるため,撮影時間によ ため,体重により造影剤使用量を決定 間を短縮することで造影剤使用量を低 り,造影剤使用量の低減が可能となる。 することで再現性を向上することがで 減する場合, 注入速度[ ml/s] 一定 また,多時相撮影では,TDCにおける き,造影剤使用量を適正化できる。そ (単位時間あたりのヨード量[g/s]一 平衡相 CT 値は造影剤注入方法には依 の上で, 適正化された造影剤使用量, 定)の状態で注入時間[s]を短くする 存せず,造影剤使用量により変化する 体重あたりのヨード量[mg/kg]を注 と,造影剤量[g]が減少するため最 ため,造影剤使用量を低減することは 入時間[s]一定,つまり単位時間・ 大 CT 値は低下する。そのため,注入 できない。しかし,動脈相においては, 体重あたりのヨード量[ mg/s ・ kg] 時間が短くなるほど注入速度が速くな 3D-CTAと同様に造影剤の first pass を一定にすることにより,TDCが一定 るよう補正(単位時間あたりのヨード の間に撮影されるため,造影剤使用量 は増加せず,造影剤の注入方法を工夫 3) 〜 5) ,7) 〜 10) になる(図 5,6) 。 Hypervascularな腫瘍や3D-CTAは, 量[g/s]を多く)することにより,最 大CT値を一定にすることができる。し することで描出能を高めることが可能 大動脈の CT 値が高いほど,描出能が かし,最大CT値をそろえるだけでは, となる。そこで,以下に多時相撮影と 高くなる 1), 11), 12)。 そのため,単位時 撮影中に目標とする CT 値を維持して 3D-CTAについて述べる。 間・体重あたりのヨード量[ mg/s ・ いるとは限らない。そのため,撮影時 ● 多時相撮影 kg]一定において,CT 装置の性能に 間に応じて目標以上の CT 値を持続で 応じて撮影時間が短縮し,注入速度を きる注入時間[ s] を決定しなければ 平衡相における造影効果は,注入方 INNERVISION(22・8)2007 別冊付録 9 02 マルチスライス CTにおける造影技術 ならない。したがって,CT 装置の性 より,最適な撮影タイミングをとらえ 14) 可変注入法が可能となった。そのため, ることは必要不可欠である 。 能による撮影時間に応じた注入時間に アルインジェクタによる生食後押しや おいて,目標とする CT 値を得るため 当施設における頭部3D-CTAは,中 デッドスペース(鎖骨下静脈,上大静 の造影剤使用量を体重あたりのヨード 大脳動脈における CT 値 300HU を目標 脈)に残った造影剤を生食後押しする 量[mg/kg]で決定し,単位時間・体 とし,4列MSCTでは撮影時間約20秒 ことにより,造影効果の持続時間を長 重あたりのヨード量[mg/s ・ kg]を で450mg/kgを45秒注入,64列MSCT くすることができ,造影剤を有効に使 一定にすることが必要である(図 8)。 では撮影時間約 8 秒で 315mg/kg を 用できる。また,鎖骨下静脈や上大静 25秒注入で行っている(図 9)。 脈に残った造影剤を生食で流すことで, また,撮影時間および注入時間が短 くなるほど造影剤使用量は低減可能で あるが,撮影タイミングを合わせるこ ることができる 3),15)。生食後押しの注 ─生食後押しと可変注入 とが難しくなるため,ボーラストラッキ 入条件としては,TDCに影響を与えな インジェクタの性能向上により,デュ ング法やテストインジェクション法に いためには,造影剤の注入速度と同じ 240mgI/ml・125ml(30gI) 300mgI/ml・100ml(30gI) 350mgI/ml・ 86ml(30gI) 250 Enhancement Unit [EU] 造影剤からのアーチファクトを軽減す 造影剤注入方法の応用 a 200 150 100 b 50 単純 0 20 40 60 80 100 30秒後 180秒後 a : Aquilion(64列) b : Asteion(4列) 120 Time[s] 35s・3.6ml/s(0.86g/s) 35s・2.9ml/s(0.86g/s) 35s・2.5ml/s(0.86g/s) 図5 図6 造影検査プロトコールにおける肝臓検査 当施設では,CT 装置間の再現性を図るため,多時相撮影におい ては4列MSCTと64列MSCTで同じ造影検査プロトコールを使用 している。 単位時間あたりのヨード量一定による TDC 単位時間あたりのヨード量を一定にすることにより,TDCは一定になる。 Enhancement Unit [EU] 250 200HU以上の持続時間 10s 15s 20s 200 150 100 50 2.8ml /s(0.67g/s) 3.0ml /s(0.72g/s) 3.4ml /s(0.82g/s) 撮影開始時間 0 単純 30秒 65秒 120秒 180秒 図7 20 40 Time[s] 60 80 240mgI/ml・85ml(20.4g)25s 240mgI/ml・105ml(25.2g)35s 240mgI/ml・126ml(30.2g)45s HCCにおける撮影開始時間による描出能の違い 図8 最大 CT 値を一定にした TDC 注入時間が短くなるほど,単位時間あたりのヨード量[g/s]を多くする ことで最大CT値をそろえることができる。また,持続時間は短縮する。 10 INNERVISION(22・8)2007 別冊付録 速度で注入する必要がある( 図 10)。 Aquilion(64列) Asteion(4列) デッドスペースに残る造影剤量は約 10 〜 20ml のため,20ml 以上の生食を 後押しする必要がある。 当施設では, 3D-CTA において生食後押しを行って いる。 また,可変注入法では,可変定数によ り注入速度を変化させることで,最大 CT値を高くすることやCT値を一定に 16) することが可能となった(図11) 。こ のことにより,造影剤使用量・注入時 上でき,検査部位や目的に応じて造影 剤を有効利用できる。当施設では,肝 臓などの多時相撮影において,最大CT 撮影時間 8秒 造影剤量350mgI/ml・40ml(14.0g) 撮影時間 20秒 造影剤量300mgI/ml・75ml(22.5g) 間を変化させることなく造影効果を向 図9 頭部 3D-CTA画像 CT 装置の性能に応じて撮影時間を最適化することで描出能を確保し,造影剤量を 適正化できる。 値を高くできる可変定数 0.3 を使用し, 脈の CT 値を一定にできる可変定数 0.5 による可変注入を行っている。 Real Prep.および インジェクタ同期システム 体重あたりのヨード量および注入時 間一定によりTDCを一定にすることが Enhancement Unit [EU] 4 列 MSCT では 3D-CTA において,動 生食後押し なし 生食後押し 28ml・2.8ml/s 生食後押し 56ml・5.6ml/s 200 150 100 50 できるため,撮影時間を固定すること は簡便である。しかし,造影剤到達時 0 間は造影剤の注入方法には依存せず, 20 40 60 80 Time[s] 被検者の循環動態によって変化し,被 240mgI/ml・98ml(23.5g)35s 2.8ml/s 検者間において20秒以上の差があると している 14)。そのため,より厳密に撮 図 10 生食後押しの 有無における TDC 造影剤注入速度と同じ速度で生食後押しすることにより,持続時間が長く なる。また,造影剤注入速度よりも速い注入速度で生食後押しを行うと, TDCに影響を与える。 影タイミングを合わせるためには, Real Prep.( ボーラストラッキング法) が必要不可欠である。しかし,造影剤 うため,被曝線量の増加や注入時にお ける造影剤の血管外漏出の監視が十分 にできないというデメリットもある。 そこで,当施設では適切な撮影タイミ ングをとらえることにより造影剤使用 量を低減可能な 3D-CTA においては, Real Prep.を使用している。 Enhancement Unit[EU] 注入開始10秒程度から低線量撮影を行 可変定数0.3(3.9-1.1ml /s) 200 可変定数0.5(3.4-1.7ml /s) 可変定数1.0(2.6ml /s) 150 100 50 CT装置とインジェクタを同期し,注 入開始時および撮影開始時の情報を交 0 20 40 換するインジェクタ同期システムを利 60 80 100 Time[s] 用することにより,インジェクタの注 240mgI/ml・90ml(21.6g)35s 入開始スイッチで造影剤の注入と撮影 が開始できるようになり,造影検査が 煩雑になることなく操作性が向上した。 図 11 可変注入法による TDC 造影剤使用量および注入時間一定において,可変定数により注入速度を 変化させることでTDCが変化する。 INNERVISION(22・8)2007 別冊付録 11 02 マルチスライス CTにおける造影技術 Asteion (4列) における頭部3D-CTAの概要 診療放射線技師 注入開始ボタンを押す 検査開始ボタンを押す 生食後押し インジェクタ 造影剤 生食 信号 同期 CT透視開始 CT装置 撮影終了15 秒前 TM 撮影開始 図 12 Asteion (4列)におけるReal Prep.とイン ジェクタ同期システム Real Prep. 休止時間10 秒 患者観察 撮影 Real Prep.による適切な撮影タイミングを把握し, インジェクタ同期システムによる適切な注入タイミ ングにおいて,造影剤注入停止や生食後押しを行う ことができる。 撮影終了 Aquilion(64列) における頭部3D-CTAの概要 診療放射線技師 注入開始ボタンを押す 検査開始ボタンを押す 生食後押し インジェクタ 造影剤 生食 検査開始時に造影剤から 生食に注入を切り替える 同期 信号 CT装置 休止時間10 秒 患者観察 CT透視開始 TM 図 13 Aquilion 64 におけるReal Prep.とインジェ クタ同期システム Real Prep. 撮影 撮影終了 Real Prep.による適切な撮影タイミングをとらえた 検査開始時から,インジェクタ同期システムにより 造影剤注入停止や生食後押しを行うことができる。 また,インジェクタ同期システムによ 剤から生食に注入が切り替わる。64列 圧においても実効エネルギーに違いを り,任意のタイミングで造影剤の注入 MSCT では撮影時間が短縮するため, 認めるため,ヨード量と CT 値の関係 停止や造影剤注入から生食後押しへの 最適なタイミングで生食後押しを行う にも違いを認める(図 14)17)。そのた 切り替えが可能となった。 そのため, ためには,撮影開始前に造影剤から生 め,造影効果や,造影剤使用量にも違 Real Prep.による適切な撮影タイミン 食に注入が切り替わる必要があった。 いを認めることを把握することが大切 グを把握し,インジェクタ同期システ TM しかし,Aquilion 64(V3.00)ではReal である。文献等に記載されている造影 ムによる適切な注入タイミングで造影 Prep.により,最適な撮影開始タイミン 剤使用量をそのまま適用すると,描出 剤注入停止や生食後押しを行うことが グをとらえた検査開始時に,造影剤注 能が低いなど,予想を反した結果にな でき,3D-CTA においては造影剤使用 入停止や生食への切り替えが可能なシ る恐れがある。したがって,使用 CT 量の低減および適正化を図ることがで ステムに改良された(図 13)。 装置に合わせて,施設ごとに造影剤使 きる(図12)。 従来のインジェクタ同期システムで は,撮影開始時から設定時間後に造影 12 撮影開始 INNERVISION(22・8)2007 別冊付録 CT装置による造影効果の違い CT 装置の性能によって, 同一管電 用量を補正する必要があると考える。 600 CT値[HU] 500 400 300 200 Aquilion64 (Toshiba) Sensation (Siemens) LightSpeedUltra16 (GE) Brilliance40 (Philips) 100 0 5 10 15 図 14 CT装置の違いによるヨード量と CT 値の関係 20 管電圧 120kV 一定の場合でも,CT 装置の性能により ヨード量とCT値の関係に違いを認める。 ヨード量[mgI/ml] 部 位 3D-CTA 胸部縦隔 部 頭 位 部 頸 部 CT装置 Aquilion64 [s] 撮影開始時間 造影剤使用量[mgI/kg]注入時間 [s] 【参考】当施設の造影検査プロトコール 3D-CTAと胸部縦隔検査においては,CT装置の性能に Real Prep. 300(生食後押し) 25 Asteion (4列) Aquilion64 Asteion (4列) 造影剤使用量[mgI/kg] 450 375 450 45(可変0.5) Real Prep. 165 30(可変0.5) 30 225 40(可変0.5) 30 注入時間 [s] 60 40s(90%)+70s後30s(10%) 撮影開始時間[s] 180 100 100 腹部1相 450 上腹部2相 450 全腹部2相 450 35(可変0.3) 30・120 肝臓3相 450 35(可変0.3) 30・65・180 膵臓3相 450 35(可変0.3) 40・70・180 腎臓2相 375 50 40・180 骨盤1相 525 骨盤2相 525 60 40s(90%)+70s後30s(10%) 40s(90%)+90s後30s(10%) 50 ●参考文献 1)Bae, K. 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