副作用発生時の対応素案 - 造影剤と画像診断情報サイト Bayer

造影剤の
適正使用推進ガイド
FAQ
副作用発生時の対応素案
第10回
◆早川克己
(京都市立病院放射線科)
◆林 宏光
(日本医科大学放射線科)
◆鳴海善文
(大阪医科大学放射線科)
◆桑鶴良平
(東京女子医科大学放射線科)
できない。したがって,こうした軽度の反応が生
1 はじめに
じた場合においても,すぐに対応を開始する準備
造影剤の血管内投与における最も重要なリスク
1)
マネージメントは副作用に対する対応である 。
が必要となる。
血圧低下を予知する最も注意すべき前駆症状と
造影剤による重篤な副作用を事前に予知すること
しては,便意,冷汗,生あくびなどがあり,息苦
は困難であり,かつ現実に一定の頻度で発生して
しさも呼吸困難,チアノーゼといった,非常に重
いる。また,副作用の発現に対しては,即座の対
篤な副作用に移行する可能性がある。このような
応が重要となる。そのため,造影剤を使用する場
症状が現れた場合は,厳重に患者状態の変化につ
合には,常に重篤な副作用が起こりうるものであ
いて観察を行うとともに,処置・対応の準備をす
ることを十分認識しておく必要がある。今回はこ
る必要がある。また,患者の訴えを早めにキャッ
の造影剤投与における副作用の対応のほか,副作
チすることで,致死的な状態に至らないようにす
用ではないものの即時の判断や対応が求められる
ることができると考えられる。
血管外漏出への対応について解説する。
副作用の重篤度は,最終的には担当医による判
定で決定されるが,参考として,厚生労働省によ
2 早急な対応が必要となる副作用とは
造影剤投与に伴う重篤な副作用発生の頻度は
0.004〜0.04%と報告
2,3)
る「医薬品等の副作用重篤度分類基準」4)の9つの
領域から「過敏症状」,「呼吸器系障害」,「循環器
障害」
の重篤度分類基準を示す
(表1)
。
されている。具体的には
どのような副作用があるのであろうか。造影剤に
よる副作用の症状や程度は多種多様であるが,重
3 副作用発現時の初期対応
篤になるか,軽症にとどまるかは,すぐには予測
造影CT検査を想定してみると,患者に副作用
できない場合が多い。したがって,すべての造影
の可能性がある通常の生理的でない反応がみられ
剤投与後の通常ではない反応に対しては,即時の
た場合には,まず造影剤の注入を中止する。全量
対応が必要となる。通常の反応としては,全身の
注入後であれば,そのまま,検査テーブルをガン
熱感や火照り,血管痛などがあるが,こうした反
トリーから出すことである。
応は生理的反応であることを前もって伝えておく
次に,声かけを行い患者の意識状態を確認した
ことが望ましい。重篤な副作用として,血圧低下,
後にいわゆるABC(A:airway,B:breath,C:
呼吸困難,意識低下や意識消失,広範なじんま疹,
circulation)
の確認を行う。
心停止などの治療や入院などが必要となる反応が
呼吸の有無と,血圧低下の有無,脈の速度と緊
含まれる。軽度な副作用としては,嘔吐・嘔気,
張の程度を,脈をみることによって即座に行う。
くしゃみ,
痒感や発疹などがあるが,こうし
必ずしも血圧計にて確認する必要はなく,触診か
た場合にそれが一過性であり治まるか,重篤な副
ら脈拍数や脈の緊張の程度のおおよその判断がで
作用に急速に進展していくかは,不明であり予測
きればよい。触診による血圧の目安を表2に示す。
1058(116)
0911-1069/08/¥400/論文/JCLS
脈の緊張低下があり,速脈であれば,アナフィ
が悪くない場合でも,またたくまに全身に広がっ
ラキシーの可能性大であり,エピネフリン0.3mg
てアナフィラキシーショックに進行する場合もあ
の筋注と酸素投与の開始,エマージェンシーコー
るので,全身に広がる発疹では,救急室へ移送し
ル,救急室への移動の手配,などを即座に行う。
てアナフィラキシーショックに準じた治療を行う
脈の緊張低下があり,徐脈であれば,迷走神経
必要がある。
反射の可能性が高いので,この場合には,硫酸ア
トロピンの静注が有効である。CT検査において
4 患者状態の把握
は頻度が低いが,心カテ,IVR,血管造影におい
ては,痛みに伴ってしばしば起こることがあり,
患者に声かけを行い,発語があれば,気道は閉
最初の局所麻酔においてさえこの反応が起きるこ
塞していない状態であることが判定可能であり,
とがあることを知っておく必要がある。詳細は後
意識状態の評価も可能となる。次に呼吸状態の評
に述べる。
価を行い喘鳴の有無なども併せて評価する。また,
このような血圧の変動や呼吸状態の急変がない
造影剤の重篤な副作用としてアナフィラキシー様
副作用の場合
(嘔吐・嘔気,くしゃみ, 痒感など)
,
反応が知られているため,皮膚症状の確認も必要
そのままCT室にて対応可能な場合が多いが,必要
である。視診では顔色
(蒼白や冷汗の有無)
,皮膚
に応じ酸素投与を考慮する。次に血管ルートから
色を評価する。触診では,脈拍の性状(強さ,速
の,リンゲルや生理食塩水
(生食水)
などの点滴開
さ,左右差の有無)と皮膚の性状(冷汗や湿潤)の
始を行う。血管ルートに造影剤が残っている場合
評価も行う。
には,造影剤を吸引してから,点滴を開始する。
状態が落ち着いたら,検査を再開するか,中止す
患者の状態が進行する場合には,躊躇すること
なく,処置・対応に移る必要がある。
るか判断を行う。造影剤投与ルートの抜針が行わ
造影剤による副作用は多彩であり,アナフィラ
れないことが大切である。ルートを取り直す場合
キシー様ショックの症状も,症状の程度や進展パ
には,可能な限り太い径でルートを確保しておく。
ターンが多彩であり,処置・対応を画一化するこ
とは困難であるといわれている 5)が,初期対応,
また,発疹の場合には当初にはあまり全身状態
表1
医薬品等の副作用重篤度分類基準
(一部抜粋)
q
【過敏症状】
グレード1
グレード2
局 所 性 の 発 疹( 局 所 性 の 紅
斑・丘疹など)
, 痒
広範囲に分布する発疹(全身
性の紅斑,紫斑,水疱など)
副作用のグレード
皮膚症状
(光線過敏症,固定疹,びらん・潰瘍,色素沈着)
全身症状
発熱
発熱
アレルギー
−
−
皮膚粘膜眼症候群
中毒性表皮壊死症
紅皮症(剥脱性皮膚炎)
Weber-Christian症候群
SLE様症状
強皮症
天疱瘡様病変
−
−
血管浮腫
(顔面浮腫,眼瞼浮腫など喉頭部以外)
血管炎
グレード3
ショック
アナフィラキシー様症状
血管浮腫
(喉頭浮腫)
過敏性血管炎
注1)
SLE様症状については,全身症状についても考慮すること。
注2)
発熱は,いわゆるdrug feverをいう。
注3)
グレード1か,グレード2かの判断は,担当医師などの判断によるものとする。
注4)
アナフィラキシー様症状とは,呼吸困難,全身潮紅,血管浮腫(顔面浮腫,喉頭浮腫など),じんま疹のうち複数の症状を併せ発現した全身的で
重篤な症状またはアレルギー性と考えられる急性で重篤な呼吸困難のうち,血圧低下を伴わない場合をいう。
注5)
グレード2か,グレード3かの判断は,担当医師などの判断によるものとする。
臨床画像 Vol.24, No.8, 2008
(117) 1059
表1
医薬品等の副作用重篤度分類基準
(一部抜粋)
w
【呼吸器】
グレード1
副作用のグレード
グレード2
グレード3
息切れ
HJ分類2度
労作時の呼吸困難
HJ分類3〜4度
安静時の呼吸困難
HJ分類5度
−
一過性過換気
臨床症状および低酸素血症を
伴わない睡眠時無呼吸
呼吸停止
(無呼吸)
呼吸抑制(低換気,炭酸ガス
ナルコーシス)
持続性過換気(呼吸促迫,過呼吸)
チェーンストークス呼吸
臨床症状または低酸素血症を
伴う睡眠時無呼吸
動脈血酸素分圧
PaO2(mmHg)
70未満〜60以上
60未満〜50以上
50未満
投与前に比して20以上の減少
動脈血二酸化炭素分圧
PaCO2(mmHg)
−
−
50以上
(低換気)
30以下
(過換気)
喘息発作
−
喘息
小発作
中発作,大発作
喘息重責状態
その他の症状など
しゃっくり
あくび
嗄声
くしゃみ
鼻閉・鼻腔内違和感
咳
喀痰増加・喀痰喀出困難
咽頭部不快感
咽頭部痛
気道刺激症状
胸部圧迫感
−
ARDS(成人呼吸促迫症候群)
間質性肺炎
PIE症候群
肺線維症
過敏性肺炎
肺水腫
肺塞栓
肺血管炎
舌根沈下
喉頭痙攣
声門浮腫
肺高血圧
呼吸状態
呼吸困難
呼吸リズ
ムの障害
胸痛,咽頭狭窄感
(咽頭喉頭異常感覚)
注1)
呼吸困難度のHJ分類
1度:同年輩の人と同様に歩いたり,坂や階段を昇ることができる。息切れ
(−)
2度:同年輩の人と同様に歩けるが,坂や階段は昇れない。
3度:同年輩の人と同様にはできないが,自分の速度で1,600m以上歩ける。
4度:休みなしでは,45mくらいも歩けない。
5度:衣類の着脱や会話で息切れし,息切れのため,外出できない。
注2)
睡眠時無呼吸とは,睡眠時に10秒以上の呼吸停止状態がおよそ1時間で5回程度認められるもの。この場合の臨床症状としては,頭痛,インポテ
ンツ,高血圧,心不全,昼間の過眠傾向などがあげられる。
【循環器】
グレード1
副作用のグレード
血圧の異常
低下
収縮期血圧
(mmHg)
症状
1060(118)
80未満
脈拍触知不能
血圧上昇
(血圧異常上昇,急激な血圧上昇)
,高血圧
−
−
−
ショック
チアノーゼ
末梢循環不全
頻脈
−
110以上〜130未満
130以上
徐脈
−
50未満〜40以上
40未満
顔面潮紅
(ほてり)
熱感
灼熱感
のぼせ
−
−
循環障害
その他の症状
90未満〜80以上
グレード3
立ちくらみ,起立性めまい,起立性低血圧
上昇
心拍数
(/分)
−
グレード2
表2
触診による血圧の目安
触知
血圧の目安
橈骨動脈が触診できる
90mmHg以上
橈骨動脈で脈を触れずに上腕動脈で触れる
70〜80mmHg程度
上腕動脈で触知できず頸動脈や大腿動脈で触知できる
50〜60mmHg程度
頸動脈でも触知不能
心停止と捉える
60mmHg以下では脳血流が低下し意識混濁をきたす。
表3
アナフィラキシー反応での典型的な症状
症状
頻度
皮膚症状
血管性浮腫,じんま疹,膨隆疹など
約90%の患者でみられる
呼吸器症状
呼吸困難,吸気性喘鳴,上気道閉塞,喉頭浮腫など
約50%の患者でみられる
ショック
血管拡張と血漿漏出による体液減少性ショックで,循環血液量の50%が血管
外に漏出することもある
約30%の患者でみられる
消化器症状
下痢,腹痛,嘔吐
約30%の患者でみられる
(文献6より)
呼吸管理,循環管理が重要となる。参考としてア
発現しないため,なおさら緊急対応のための院内
ナフィラキシーでよくみられる症状を表3に示す。
システムを構築しておくことが必要となる。
血圧のモニタのほか,簡便で有用なモニタとし
てパルスオキシメーターがある。血中酸素が測定
◆連絡体制と役割分担
できるため,気道閉塞に伴う低酸素血症を早期に
処置の必要があると判断された場合には,即座
発見することができる。急性低酸素症の場合PaO2
に人手を集めるための連絡を行うとともに,経過
が約55mmHgに低下すると短期記憶の障害や判断
についての記録が必要となるので,院内での応援
力の低下がみられるようになり,約30mmHgに低
連絡や種々の役割分担といった基本的な取り決め
下すると意識障害が起こるとされている。一般的
が最低限必要となる。
にPaO2が低下した場合,80mmHgをターゲットと
7)
して酸素投与の調節が行われる 。
エマージェンシーコールを行ったが連絡がとれ
ないといった事態にならないよう,複数の連絡体
フェイスマスクなどで酸素投与を行う際には,
制を整備し,連絡手順を確立するとともに,その
気道の確保が確認されていることが前提条件とな
実行性を確認しておく必要がある。基本的な役割
ることを忘れてはならない。アナフィラキシー様
分担としては,処置・対応に携わるスタッフのほ
反応で喉頭浮腫が進展した場合には,酸素投与を
かに,全体の統括医師,連絡係,記録係,器具・
行っても改善がみられないことがあり,用手的気
機材・薬剤などの準備係などが整備されているこ
道確保では対応がとれない事例もあると思われ
とが望ましい。
る。
京都市立病院では,症状が軽度な場合にはCT
室にて対処し,重篤な場合には救命処置を直ちに
行いつつ,救命救急室へ移動して対処している。
5 副作用の処置・対応
副作用に対する対処は放射線科医で対応できる
◆血管確保
ものと,より専門的な医師の応援を要するものと
患者に異常がみられアナフィラキシー様反応へ
に分けられるが,これらの役割分担は医療施設の
移行する可能性がある場合,前述した処置である
状況に応じて異なる。重篤な副作用はまれにしか
エピネフリン0.3mgの筋注と酸素投与の開始,エ
臨床画像 Vol.24, No.8, 2008
(119) 1061
マージェンシーコール,救急室への移動の手配を
行う必要がある。アドレナリンは末梢血管収縮作
行う。その後,あるいはそれと並行してするべき
用や強心作用のほか,気管支拡張作用,ヒスタミ
ことは,血管ルートの確保である。血圧低下が発
ン放出抑制作用を併せもつ薬剤であり,アナフィ
生した場合には静脈路の確保が難しくなることも
ラキシー様症状に対する救急処置の第一選択薬で
あるため,早い段階でのルート確保は重要となる。
ある。
治療を前提とした場合,できるだけ太いルートで
アドレナリンの投与経路としては静注,筋注,
2本以上の静脈路の確保が望ましい。造影検査で
皮下注,気管支内投与などがあるが,投与経路に
は造影剤投与のためのルートがあるので,そのル
より濃度の調整が必要となる。緊急性と簡便性を
ートを用いることもできるが,チューブ内にある
考慮すると筋注が勧められる。AAAAI
(American
造影剤は吸引・破棄し,生食水やリンゲル液に置
Academy of Allergy, Asthma and Immunology)
では,
き換える。続いて行うのは,体位変換で,血圧低
小児での筋注をgolden standardと位置づけてい
下があれば,下肢挙上,意識障害があれば回復体
る。欧米のposition paperでは軽症の場合は上腕三
位を基本としている。なお,体位変換時にはライ
角筋に,中等症以上では,より吸収の速い大腿外
ンの抜去事故に注意する必要がある。
側への筋注が勧められている9)。
本症状の発現はまれであるが,その対処は緊急
◆循環管理
性を要することを勘案すれば,キット製剤である
造影剤の副作用で急激な血圧低下を起こす原因
エピペン®の使用(大腿外側部への筋注)が最も適
としては,アナフィラキシー様ショックと血管迷
していると考えている。コスト面での問題がある
走神経反射によるものがある。両者の処置・対応
場合には,あらかじめ筋注用に調整したアドレナ
は大きく異なるため迅速な鑑別が必要となる。
リンをディスポシリンジに充填し,検査室に設置
●血管迷走神経反射
する方法もあるが,この場合には数日単位での薬
血管迷走神経反射は血圧低下,顔面蒼白,発汗,
失神などの症状を示すが,徐脈であることが特徴
8)
的で,基本的に皮膚症状や呼吸器症状を伴わない 。
血圧低下も中等度であることが多く,多くの場合
下肢の挙上により容易に回復する。
剤の管理が必要となる。低血圧の遷延する場合に
はドパミンやアドレナリンの持続投与が行われる
こともある。
循環管理では昇圧剤とともに重要な薬剤として
輸液がある。有効な循環血液量を確保するために,
体位変換で血圧の回復がみられなければ,アト
ときには2〜4Lの投与が必要になることもあると
ロピン1A
(0.5mg/mL)を静注し,モニタやパルス
いわれており,通常1,000mL以上の急速投与が必
のチェックを行い,効果がなければ5分ごとに反
要であり,昇圧が得られるまでは全開で投与する。
復する。
乳酸加リンゲル液は最も血漿に近い組成であると
●アナフィラキシー様ショック
されている。
アナフィラキシー様ショックの臨床症状は,急
造影剤に限らず,β遮断薬を服用している患者
速な血圧低下,気道狭窄,じんま疹など多彩であ
は種々のアナフィラキシー症状発現のハイリスク
るが,その処置・対応はアナフィラキシーと同様
群になるとともに,アナフィラキシー症状に対す
である。アナフィラキシー様ショックの鑑別疾患
る治療抵抗性が高く,重症化しやすいとの報告10)
としては,迷走神経反射も考える必要がある。迷
もあり留意が必要となる。アドレナリンが無効で
走神経反射の場合,基本的にじんま疹などの皮膚
ある場合,適応外使用ではあるが,グルカゴン投
症状や血管性浮腫,気管支痙攣をきたすことはな
与が有効であるとする報告11)もある。グルカゴン
く,鑑別の一助になる。
は短時間作用性であり,1mgを静注し,必要があ
アナフィラキシー様ショックが発現した場合に
れば1mg/時で持続投与する。近年,施行する機会
は,早急にアドレナリン
(エピネフリン)
の投与を
の増えている冠動脈CTでは,β遮断薬を投与し
1062(120)
て心拍数を落としてから冠動脈CTを撮影するこ
運動の異常や左右差などが捉えやすくなる。
ともあるため,特にこのような検査を実施してい
気道確保としては用手的気道確保(下顎挙上法
る施設では,グルカゴンをCT室に準備しておく
や頤部挙上法)が基本となる。多くの場合,用手
必要があるであろう。
的気道確保により気道が確保できるが,アナフィ
アナフィラキシー様症状は,いったん初期の救
ラキシー様反応では,喉頭浮腫など上気道閉塞症
命に成功した例でも,数時間後に遅発性に症状が
状がみられる場合があり,気管挿管のタイミング
再燃し,命にかかわる事態になる場合もあるとい
を逃した場合,喉頭浮腫が進み挿管が困難となる
われている。症状の再燃は最初の反応から最長で
事例もある。ただし,気管挿管には手技上の訓練
36時間後に発生することも報告されている。皮膚
も必要であり,経験のないものが実施すべきでは
症状だけの軽症例や寛解例でも4時間は経過観察
ないと考える。現在では,気管挿管困難例で使用
するべきであろう。
されるラリンジアルマスクなどの器具もあるの
不幸にして,心停止に至った場合にも積極的な
で,気管挿管にこだわらず,ほかの器具を用いた
容量負荷が必要とされる。ときには4Lを超えるよ
気道確保の訓練も検討する必要があると思われ
うな大量の輸液をできるだけ早く投与する。アナ
る。また,喘鳴を伴う場合には,β刺激薬の吸入
フィラキシー様反応を起こした患者は,しばしば
や抗ヒスタミン薬の投与を考慮する必要がある。
健康な心臓と心血管系をもつ場合もあり,血管拡
張と血管内容量低下に対する急速な補正に反応す
◆薬剤および救急機材(備えておくべき薬剤,備
る可能性があり,心停止であっても安易に蘇生を
えておくべき機材)
諦めてはいけない。
処置・対応が迅速に行われるためにも,緊急カ
ートなどに必要な薬剤を常備し,使用時の補填や
◆呼吸管理
定期的な点検を行うことを忘れてはならない。準
呼吸状態の異常が緊急の処置を要する状態であ
備する薬剤の例を表4に示す。常備すべき薬剤や
ることは少なからずある。呼吸状態を観察する場
機材は,その場で処置・対応を行う範囲などによ
合は注意深い視診が重要であることはいうまでも
って変わるので,応援医師などとの相談で決めて
なく,胸郭に両手を軽くあてて観察すると,呼吸
おくべきと考える。
表4
一次対応のために検査室に備えておくべき薬剤と機材
12)
ESURガイドラインから
1)
造影剤血管内投与のリスクマネジメントから
薬剤
アドレナリン
抗ヒスタミン剤
(H1拮抗薬,注射用)
アトロピン
β2作動薬
(吸入薬)
抗痙攣薬
(ジアゼパム)
補液
(生理食塩液,リンゲル液)
酸素
緊急薬
アドレナリン
(エピペン成人用)
輸液
(生理食塩液,リンゲル液)
準緊急薬
硫酸アトロピン,フェニレフリン,エフェドリン
ほかの準備薬
グルカゴン,ステロイド:メチルプレドニゾロン,
プレドニゾロン,ヒスタミン遮断薬:ジフェンヒド
ラミン,ラニチジン,β 2作動薬:定量噴霧吸入器
(インヘラー)
機材
血圧計
一方弁付バックバブルマスク
(アンビュバッグ)
パルスオキシメーター
血圧計,心電図,除細動器・AED,酸素・酸素吸入器,
定量噴霧吸入器
臨床画像 Vol.24, No.8, 2008
(121) 1063
◆医薬品副作用被害救済制度13)
造影剤の血管外漏出による重篤な症状として
医薬品副作用被害救済制度とは,医薬品の「適
は,直接的な細胞毒性ではなく,いわいるコンパ
正使用にもかかわらず」
生じた副作用による疾病,
ートメント症候群があげられる。コンパートメン
障害などの医薬費,医療手当,障害年金などの副
ト症候群は筋膜に囲まれた限られたスペースのな
作用救済給付を行い,健康被害者の迅速な救済を
かに造影剤が漏出し,筋膜内の内圧が急激に上昇
図ることを目的とした公的制度で,独立行政法人
した場合に,機械的圧迫により神経,血管,組織
医薬品医療機器総合機構
(医薬品機構)
が行ってい
に影響を及ぼし,虚血性の変化や,ひどい場合に
る。これには医師の診断書が必要となるが,請求
は組織の壊死や機能障害をきたす
(表5)
。
書などをもとに,健康被害が医薬品の副作用によ
血管外漏出が起こった場合には,漏出部位,漏
るものか,医薬品が正しく使用されたかどうか,
出量を確認した後,患部四肢の挙上を行い,浮腫
医学的,薬学的判断について,医薬品機構から厚
の軽減を図る。症状を確認するとともに,冷罨法
生労働大臣に判定の申し出を行い,厚生労働省の
(患部を濡らさずに冷やすことが望ましく,冷水
薬事・食品衛生審議会で審議され,厚生労働大臣
を絞ったタオルをビニール袋に入れて腫脹部にあ
の判定結果をもとに,医薬品機構において,副作
て冷やす)で炎症の軽減を図る。腫脹がある場合
用救済給付の支給の可否が決定される。重篤な副
や疼痛を訴える場合には,対症療法としてステロ
作用発現で入院が必要となった患者や,不幸にし
イドや消炎鎮痛剤を用いることがある15,16)。
て亡くなられるようなことがあった場合には,必
血管外漏出が起こった場合には,漏出部位と漏
要に応じて相談者
(救済の対象者やその家族)
に対
出量を把握することが重要である。症例の報告は
してこの制度があることを紹介することが望まし
非常に限られるが,重篤な症状を呈した症例では,
いと思われる。
漏出量は100mLを超えるもので筋膜切開などの対
処が行われた報告17)がある。ただし,手背静脈外
での漏出例では60mLの漏出でコンパートメント
6 血管外漏出への対応
症候群が発症した報告17)があり,漏出した部位に
造影剤投与における血管外漏出の頻度はCTで
14)
より漏出量の影響は相対的な関係にあると考えら
は0.3〜0.9%との報告 がある。血管外漏出は造
れる。100mLを超えるような大量の漏出が起こっ
影剤の副作用とは異なるものの,即座の判断と対
た場合には,皮膚科または形成外科にコンサルテ
処が求められる。化学療法剤の血管外漏出の場合
ーションし,減張切開など処置の判断を仰ぐ必要
には,皮下組織に対して直接的な細胞毒性を及ぼ
がある。
し,潰瘍や壊死を引き起こすことが知られている
が,造影剤の血管外漏出では,ほとんどの場合,
保存的な治療で対処が可能である。
7 おわりに
イオン性造影剤が血管内投与で使用されていた
ころは,造影剤による重篤な副作用発現の頻度が
高く,ある種日常的に副作用に対する対処が行わ
表5
5P
コンパートメント症候群にみられる5P,6P症状
6P
れていた。現在の造影剤は副作用発現の頻度が低
pain
疼痛
paralysis
麻痺
paraesthesia
異常感覚
pulselessness
無脈:脈が触れにくくなる
pallor
蒼白:皮膚が蒼白になる
対策を十分にとっておくことが,造影剤を使用す
poikilothermy
冷感
る場合には重要となる。施設としての救急対応体
下し,比較的安全に使用できるが,それでもとき
として重篤な副作用が発生する。
(文献18より)
1064(122)
まれにしか発生しないものの,処置・対応への
制が不十分であればあるほど,放射線科医の救急
処置の習得の重要性が高まる。
また,造影剤による副作用が生じた場合に,そ
の事実のカルテ記載を必ず行うことを忘れてはな
らない。この場合,起こった症状や造影剤の種類
や投与量,投与方法などの詳細と処置の詳細を記
入する必要がある。また,副作用の程度によって,
禁忌薬登録あるいは慎重投与薬登録を行うことが
非常に重要である。患者には,「患者保管型造影
19)
を記載して渡すことによって,
剤副作用カード」
異なる医療施設において造影検査を受ける場合の
手助けになり,より安全性が増す。このカードは
放射線専門医会・医会のホームページをみれば,
入手方法はすぐにわかるようになっているので,
ぜひ,常備して役立てていただきたい。
■文献
1)造影剤血管内投与のリスクマネジメント
(2006年3月)
http://www.radiology.jp/uploads/photos/233.pdf
2)Katayama H, et al:Adverse reactions to ionic and nonionic
contrast media:A report from the Japanese committee on
the safety of contrast media. Radiology, 175:621-628,
1990.
3)
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