HIV曝露前予防の啓発

February 2016
株式会社メディコン
No.
97
・
HIV曝露前予防の啓発
・
医療機関では針刺しなどでHIVに曝露した場合、曝露後予防の薬剤として
「ツルバダ®(エムトリシタビ
ン
(FTC)+テノホビル(TDF)の合剤)
+アイセントレス®(ラルテグラビル(RAL))」の4週間の連日の内服
・
が推奨されている。
これはあくまでも
「曝露後」の内服であり、曝露する可能性があるからといった「曝露
・
前」の内服ではない。
現在、CDCはHIV未感染の男性および女性がHIV感染のハイリスクな行為を日常的に繰り返している
・
・
場合には、
「 曝露前」予防としてツルバダ ®を連日内服することを推奨している。むしろ、曝露前予防が
必要な人々に、
それらが処方されていないことをCDCは憂慮している。
・
HIVの曝露前予防が院内感染対策として用いられることはないが、医療従事者が知っておくべき
「ハイリスクな人々のためのHIV感染対策」
として紹介する。
はじめに※1
・
「曝露前予防(PrEP : Preexposure prophylaxis)」はHIVに感染するのを防ぐために毎日内服する薬剤であ
る。PrEPは性行為もしくは注射用薬物使用によってHIV感染する危険性が極めて高いHIV未感染者のためのもの
である。PrEPが提供されるべきハイリスクの人には、性的に活発なゲイおよびバイセクシャルの男性の約4人に1人、
薬物常用者の5人に1人、そして、性的に活発なヘテロセクシャルな成人の200人に1人が含まれる。
PrEPは毎日内服しても安全であり、かつHIV感染の予防に大変有効である。PrEPは
「コンドームを使用する」
「薬
物中毒を治療する」
「ウイルスを他人に伝播させる機会を減らすために、HIV感染している人を治療する」
といった、
新規HIV感染を防ぐための他の方法と同時に実施すれば、更に効果的である。
PrEPが有効であろう人々の多くが、それを服用していない。それ故、更に多くの医療従事者がPrEPについて知り、
PrEPを処方すれば、もっと多くのHIV感染を防ぐことができるかもしれない。
医療従事者の啓発※1
PrEPについて知っている医療従事者の数は十分ではない。2015年現在、プライマリケアーの医師と看護師の
34%がPrEPについて聞いたことがなかった。医療従事者は下記をすることが推奨されている
(図)。
・医療ケアの定期的な対応として患者にHIVの検査をする。そして、HIVの危険性およびコンドームの使用を含め
た予防法を継続することをすべての患者とディスカッションする。
・2014年のPrEP臨床実践ガイドライン※2に従って、PrEPが有効かもしれないHIV未感染の患者に推奨検査を実
施し、PrEPを処方する。
・ P r E P が 有 効 かもしれない患 者に、
毎日それをどのように服用するかを
啓発し、PrEPの支払いについて、保
険もしくは他のプログラムを申し込
むことを援助する。
・PrEPを使用している患者には3カ月
ごとのフォローアップのスケジュー
ルを予約する。それにはHIV検査お
よび処方補充が含まれる。
曝露前予防(PrEP)※2
処方できるすべての医療従事者が曝露前予防のケアを提供できる
HIV検査
急性期感染を
含む
HIV(-)ならば
性的および薬剤使
用の行動について聴取
する
HIV(+)ならば
健康を維持し、さ
らなるHIVの拡散を防ぐ
ために、患者にHIV治療
およびその他のサービス
を提供もしくは紹介する
検査が、患者には
まだ曝露前予防の
有益性があること
を示したら、ス
テップ3に行く
HIVのリスクが低いな
らば、予防策につい
て話し合う
HIVのリスクが高いな
らば、リスクのある行
為、曝露前予防、その
他の予防策について話
し合う
患者が曝露前予防
に興味があり、そ
れが有益と考えら
れるならば、推奨
検査を実施する
・テノホビル(TDF)300mgおよびエ
ムトリシタビン(FTC)200mgの併
曝露前予防の費用負担
について、患者が保険
用治療による毎日のPrEPが成人に
検査が曝露前予防
もしくはその他のプロ
を処方しない理由
グラムに申し込むこと
おける性的なHIV感染の危険性を
を示したなら(腎機
を援助する
能障害など)、他の
減らすことに安全かつ有効であるこ
予防策について話
とが示されている。
し合う
殆どの公的および
・PrEP はHIV感染の危険性がかな
私的保険プログラ
ムは曝露前予防を
り高い「性的に活発な成人のMSM
カバーしている。
そして、患者は共
曝露前予防を処方し、患
(men who have sex with men)」 同負担に助けられ
者に毎日1錠を内服する
フォローアップ
る
薬剤援助プログラム
ように指導する
「ヘテロセクシャルに活発な成人の
3ヶ月毎にフォローアップす
は曝露前予防の保険
るようにスケジュールの予
支払のない患者を助
男性と女性」
「 成人の薬物使用者」
定を入れる。これにはHIV検
けることができる
査および処方追加が含まれ
「パートナーがHIV感染しているへテ
る
現在、ツルバダ®*が曝
ロセクシャルに活発なHIV未感染の
露前予防としてFDAに
認可されている唯一の
男性と女性」のための1つの予防選
薬剤である
択肢として推奨される。
*テノホビル/エムトリシタビン
出典:2014 PrEP Clinical Practice Guidelines
・PrEPを開始するときには、急性HIV
感染および慢性HIV感染は除外しておくべきである。そして、PrEPの処方の直前にはHIV検査を実施する。
・性交時もしくは非継続的な使用のためのPrEPの処方は推奨されない。
・PrEPを服用している期間は、少なくとも3カ月毎にHIV感染について評価する。そうすれば、偶発的に感染してし
まった人がそれを継続内服することを避けることができる。HIV感染してしまった場合、TDF/FTCの2剤レジメで
は不十分だからである。そのような治療はこれらの薬剤への耐性を作り出すことになる。
・腎機能もベースラインの評価をし、PrEPを服用している期間は少なくとも6カ月毎にモニタリングをする。そうす
れば、腎不全が発生している人がこれを継続内服することを避けることができる。
HIV防御能が確保されるまでの時間※2
TDF/FTCの毎日の内服を開始してからHIV感染に対する防御が最大になるまでの時間は不明である。様々な体
組織におけるそれぞれの薬剤の防御的な細胞内濃度および防御的な貢献についての科学的なコンセンサスは得ら
れていない。TDFおよびFTCの薬物動態は組織によって異なっていることが示されている。
HIV未感染の男性および女性にて実施された薬物動態の研究では、血液(末梢単核球)、直腸、膣の組織でTDF
が安定レベルに到達するまでのリードタイム(開始から到達までの所要時間)についての予備データが示された。
これらのデータによると、最大細胞内濃度は連日の内服で、血液では約20日、直腸組織では約7日、子宮頚部組織
では約20日で到達した。陰茎組織での細胞内薬剤濃度(挿入側の男性パートナーをHIV感染から守るための情報
となる)
については得られていない。
[文献]
※1 ) CDC. Daily pill can prevent HIV
http://www.cdc.gov/vitalsigns/hivprep/index.html
※2 ) US Public Health Service, Preexposure prophylaxis for the prevention of HIV infection in the United States- 2014 A Clinical practice guideline
http://www.cdc.gov/hiv/pdf/PrEPguidelines2014.pdf