上顎洞底挙上術に関する 多施設臨床評価 -クレスタルとラテラルアプローチの比較○小田師巳1)2),荒川 光1),木村 彩1),三野卓哉1), 瀧内博也1), 黒崎陽子1),佐伯真未子1),葭矢啓介2), 小室 寧2),小室 甲2),窪木拓男1) 1) 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 インプラント再生補綴学分野 2) 関西支部 (社)日本補綴歯科学会第121回学術大会 2012.5.27 背景 ・ラテラルアプローチによる上顎洞底 挙上後のインプラント体の生存は,既 存骨への埋入と比較して差はない. ラテラルアプローチ Adell R et al., Int J Oral Maxillofac Implants 1990. Raghoebar GM et al., J Oral Surg 1997. Nkenke E et al., Clin Oral Implant Res 2009. ・クレスタルアプローチによる上顎洞 底挙上後のインプラント体の生存率 は,92.8%〜100%である. クレスタルアプローチ Tan WC et al., J Clin Periodontol 2008. Chao Y-L et al., J Clin Periodontol 2010. Checchi L et al., Eur J Oral Implantol 2010. 図はインプラントジャーナル2003年から引用 目的 上顎洞底挙上術式の違い(ラテラルア プローチとクレスタルアプローチ)に よって,オッセオインテグレーションの 獲得と維持に差があるかを明らかに する. 岡山大学大学院疫学研究倫理審査委員会 承認番号#416 対象 包含基準 平成16年4月から平成22年3月の間に,おだデンタルク リニック,岡山大学病院補綴科(クラウンブリッジ),小 室歯科の3施設にて,上顎臼歯部にインプラント体を埋 入し,上部構造を装着した全患者 除外基準 ・オッセオインテグレーション獲得を確認する前に来院 が途絶えた患者 ・インプラント体埋入部位が診療録とレントゲン画像で 一致しない患者 対象患者の基礎データ 総患者数(名) 453 性別(男/女) 148/305 平均年齢(歳) 57.0±12.2 平均機能期間(年) 3.0±1.5 インプラント体総埋入本数(本) 1032 上顎洞底挙上術式別本数 (ラテラル群/クレスタル群/参照群) 施設別本数(おだ/岡大病院/小室) インプラント体表面性状別本数(本) (チタン/HA) 151/257/624 94/375/563 364/668 インプラント体生存の評価基準 以下の項目に該当する記載が診療録に認められた場合 <獲得失敗> ・インプラント体の自然脱落 ・インプラント体に回転,動揺を認めたため除去 ・患者が疼痛,違和感を訴えたため除去 <維持喪失> ・インプラント体に回転,動揺を認めたため除去 ・患者が疼痛,違和感を訴えたため除去 ・インプラント体が破折したため除去 ・デンタルエックス線写真からインプラント体周囲に明 らかな透過像を認めたため除去 上顎洞底挙上術式別 オッセオインテグレーション獲得率 (%) 100 100% 98.1% 99.0% 80 獲 得 60 率 40 20 0 χ2検定:0.199 ラテラル群 (0/151) クレスタル群 (5/257) 参照群 (6/624) ( ):獲得失敗インプラント本数/総本数 オッセオインテグレーションの維持率 -生命保険数理法機能 期間 (年) n l d c n l d c n l d 0〜1 151 0 5 100 252 0 20 100 618 1 50 99.8 1〜2 146 0 0 100 230 0 18 100 562 1 22 99.6 2〜3 111 0 0 100 171 0 5 100 438 0 24 99.6 3〜4 68 0 0 100 125 0 1 100 291 0 8 99.6 4〜5 42 0 0 100 50 0 0 100 165 0 0 99.6 5〜6 24 0 0 100 23 0 0 100 69 0 0 99.6 6〜7 6 0 0 100 1 0 0 100 19 0 0 99.6 7〜8 - - - - - - - - 8 0 0 99.6 0 5 0 44 2 104 計 ラテラル群 n:インプラント体本数 l:除去インプラント体本数 クレスタル群 参照群 d:追跡不能インプラント体本数 c:累積オッセオインテグレーション維持率(%) c 上顎洞底挙上術式と インプラント体表面性状の関係 ラテラル群 クレスタル群 151本 257本 11本 69本 82本 246本 HAインプラント:Spline Implant チタンインプラント:Brånemark Implant 2群のベースラインデータの比較 ラテラル群 151本 クレスタル群 257本 P値 インプラント体表面性状(HA/チタン:本) 69/82 246/11 <0.001* 埋入部位の既存骨量(<5mm/≧5mm:本) 82/69 70/187 <0.001* 埋入のタイミング(同時埋入/待時埋入:本) 87/64 257/0 <0.001* 性別(男/女:本) 49/102 71/186 0.302* 平均年齢(歳) 57.3±11.9 59.0±11.0 0.191† インプラント体の長さ(<10m/≧10mm:本) 12/139 7/250 0.016* インプラント体の幅径(NP/RP:本) 4/147 1/256 0.065* 即時負荷(有/無:本) 10/141 4/253 0.007* 14.0±6.7 9.4±6.0 <0.001† 全身疾患(有/無:本) 55/96 86/171 0.544* 喫煙歴(有/無:本)‡ 23/124 21/224 0.032* ベースラインデータ 術者の平均経験年数(年) ‡: 不明16本 *:χ2検定,†: t検定 目的 2 ラテラル群とクレスタル群において,以下の2つ について多変量解析を用いて検討する. 1.ベースラインデータと上顎洞底挙上術式 選択との関連 2.オッセオインテグレーション獲得失敗に 与えるベースラインデータの影響 クレスタルアプローチの選択と ベースラインデータとの関連性 -ロジスティック回帰分析p値 回帰係数 95%信頼区間 オッズ比 インプラント体表面性状:HA <0.001 3.78 18.76-102.53 43.86 埋入部位の既存骨量:≧5mm <0.001 1.69 3.02-9.64 5.40 埋入のタイミング:待時埋入 0.999 -21.66 - - インプラント体の長さ:≧10mm 0.017 -1.69 0.05-0.74 0.19 即時負荷:なし 0.001 2.35 2.76-39.48 10.44 喫煙歴:なし 0.086 0.74 - 2.09 - : データなし ステップワイズ(変数増加法) NagelkerkeのR2:0.528 オッセオインテグレーション獲得失敗 のリスク要因の同定 -ロジスティック回帰分析p-value 回帰係数 95%信頼区間 オッズ比 上顎洞底挙上術式 :クレスタルアプローチ 0.995 18.339 - 9.217×10-7 インプラント体表面性状 :HA 0.122 -1.800 - 0.165 - : データなし ステップワイズ(変数増加法) NagelkerkeのR2:0.125 まとめ 1.ラテラル群,クレスタル群において,オッセオ インテグレーション獲得率に差を認めず,参照 群と同等であった. 2.平均機能期間3年の本研究では,ラテラル群, クレスタル群のオッセオインテグレーション維持 喪失のイベントは発生しなかった.
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