物理学概論 (`14年版)

物理学概論 (’14 年版)
(到達目標)
物理学という科学的方法を用いた自然の理解の全体像を学ぶ。物体の
運動を記述する力学的記述、波の現象と熱現象、電磁気現象、等を概観
する。実験を通じて、楽しみながら実際の現象に親しむ。
(スケジュール)
1. 微分・積分の簡単な復習
2. 速度と加速度(直線運動)
3. 等速円運動と単振動
4. 力と加速度
5. 慣性力と万有引力
6. 運動量保存則
7. エネルギー保存則
8. 正弦波、波の基本式、横波と縦波
9. 回折、重ね合わせの原理と干渉、うなり
10. ドップラー効果と衝撃波
11. 静電気
12. 磁気 14. 電流と磁気 (参考書等)
・
「物理入門」浦尾亮一著 裳華房
・
「物理学の基礎」加藤正昭著 サイエンス社
・
「新・基礎 物理学」 永田一清・佐野元昭著 サイエンス社
・
「基礎課程 物理学」眞田順平・高野文彦著 培風館
・
「物理学講義」加藤潔著 培風館
・
「大学の物理」木下紀正著 裳華房
・
「新・物理入門」山本義隆著 駿台文庫
そのほか必要に応じて紹介します。
(成績評価方法)
2
平常点 (授業・実験への出席・参加状況) とレポートにより総合的に評価
する。
(ホームページ)
講義ノート、期末レポート問題等は、林の個人 HP の「講義内容」
http://lab.twcu.ac.jp/lim/sub4.html の所に、また休講等の急なアナウンスは個人 HP の「トップページ」
http://lab.twcu.ac.jp/lim/index.html
に掲示するので活用して下さい。 3
5
第1章
微分・積分の簡単な復習
1.1
微分
1.1.1
微分の定義
x の関数 (function) f (x) を微分した関数(導関数)f 0 (x),
f 0 (x)(=
df
dx
は
df
∆f
f (x + ∆x) − f (x)
) = lim
= lim
∆x→0 ∆x
∆x→0
dx
∆x
(1.1)
が定義。y = f (x) のグラフを考えると、f 0 (x) は点 (x, f (x)) におけるグ
ラフの接線の傾きに他ならない(図を参照)。
簡単な例では、f (x) = xn (n : 自然数) の時は
(x + ∆x)n − xn
f (x) = lim
∆x→0
∆x
n−1
nxn−1 ∆x
∆x +n C2 xn−2 ∆x2 + . . .
n C1 x
= lim
= lim
∆x→0
∆x→0
∆x
∆x
0
第1章
6
微分・積分の簡単な復習
= nxn−1 .
(1.2)
この公式は実は n が自然数でない実数の時でも使える。ここで、∆x がゼ
ロに近くなると ∆x の 2 乗、3 乗と言った高次の項 (“高次の微小量”) は
∆x の項に比べて相対的に無視できる事、つまり
(x + ∆x)n − xn ' nxn−1 ∆x
(1.3)
という事を用いた。ここで ' は近似的に等しい(nearly equal)事を示す
記号である。ここで nxn−1 = f 0 (x) に注意すると (1.3)は
f (x + ∆x) − f (x) ' f 0 (x)∆x → f (x + ∆x) ' f (x) + f 0 (x)∆x (1.4)
のように書けるが、これは f (x) = xn の場合に限らない一般的な性質で
ある。実際、(1.1) より
f 0 (x) '
∆f
∆x
→ ∆f ' f 0 (x)∆x
(1.5)
としても得られる。
(1.4) で x → 0, ∆x → x と置き換えると、x が十分に小さい時には
f (x) ' f (0) + f 0 (0)x
(1.6)
の関係が得られる。グラフで言えば、これは点 (0, f (0)) の付近ではグラ
フが接線で近似できることを言っている。高校でも時々用いられた関係式
(1 + x)n ' 1 + nx (for |x| ¿ 1)
(1.7)
も f (x) = (1 + x)n として (1.6) を用いれば簡単に得られる。
1.1.2
テーラー展開
(1.6)は関数を x の一次式で近似している事になるが、より高次の項
も含め、近似ではなく正確に表す様に一般化する事が出来る。即ち f (x) = f (0) + f 0 (0)x +
f 00 (0) 2 f 000 (0) 3
x +
x + ...
2!
3!
(1.8)
の様に、どの様な関数でも(元々多項式ではない関数でも)一般的に無
限次の多項式の形に書くことが出来る。この重要な公式は
1.1. 微分
7
“テーラー展開(Taylor expansion)”
と呼ばれるものである。(テーラー・マクローリン展開とも言う。)
例として多項式 f (x) = x2 + x + 1 を採り上げよう。この時 f 0 (x) =
2x + 1, f 00 (x) = 2, f 000 (x) = 0 より f (0) = 1, f 0 (0) = 1, f 00 (0) = 2 なの
で、(1.8) の右辺は 1 + x + x2 となり、この場合は(当然ながら)無限次
の多項式とは成らず元の関数 f (x) = x2 + x + 1 と一致することが分かる。
しかし、重要なのは、(1.8) の展開が多項式以外の関数についても可能
1
の場合に (1.8) の関係式を書
である、という事である。実際、f (x) = 1−x
き下すと
1
= 1 + x + x2 + x3 + . . .
(1.9)
1−x
の様になる。これは、実は高校の時に見たことのある式である。即ち、公
比が x の無限の等比数列の和についての公式に他ならない。ここで注意
するのは、(1.9) の右辺の等比数列は |x| > 1 の場合には発散して収束し
ない、という事である。一方、(1.9) の左辺は |x| > 1 でも発散しない有
限の数であり矛盾が生じる。これから学ぶことは、テーラー展開は x が
小さい時に有効で、一般に適用出来る |x| の範囲に上限が在るという事で
ある。
1.1.3
指数関数、三角関数の微分
もう一つの例として f (x) = ex を採り上げよう。この場合は何回微分
しても関数は変わらず、f 0 (x) = f 00 (x) = · · · = ex なので、(1.8)より
(e0 = 1 なので)
1
1
ex = 1 + x + x2 + x3 + . . .
(1.10)
2!
3!
の様に無限次の多項式で表される。尚、この場合には右辺は全ての x に
ついて収束し、この関係が正確に成り立つことが知られている。
次に三角関数の微分を考える。例として f (x) = sin x とすると、(1.1)
に従って求めると sin(x + ∆x) − sin x
∆x→0
∆x
sin x cos ∆x + cos x sin ∆x − sin x
= lim
∆x→0
∆x
cos x sin ∆x
(cos x)∆x
= lim
= lim
= cos x
∆x→0
∆x→0
∆x
∆x
(sin x)0 = lim
(1.11)
第1章
微分・積分の簡単な復習
(cos x)0 = − sin x.
(1.12)
8
が得られる。同様に
1.1.4
合成関数の微分
次に、合成関数の微分について復習する。f (g(x)) という合成関数を考
えよう。u = g(x) と書くと、合成関数は f (u) と書ける。∆x の微小な変
化で u が ∆u だけ、それに伴って f (u) が ∆f だけ変化したとすると、
∆f
∆f ∆u
∆f
∆u
= lim (
) = ( lim
) · ( lim
)
∆x→0 ∆x
∆x→0 ∆u ∆x
∆u→0 ∆u
∆x→0 ∆x
= f 0 (u) · g 0 (x)
(1.13)
(f (g(x)))0 =
lim
が得られる。u = g(x) に戻すと、結局 (f (g(x)))0 = f 0 (g(x))g 0 (x)
(1.14)
という、合成関数の微分の公式が得られる。例えば cos x = sin(x + π2 )、
つまり g(x) = x + π2 として微分すると
(sin(x +
π 0
π
)) = cos(x + ) · 1 = − sin x
2
2
(1.15)
となり、当然の事ながら (1.12) と一致する。
1.1.5
積の微分
もう一つ重要な公式として二つの関数 f (x), g(x) の積 f (x)g(x) の微分
を考える。ここで (1.4) を用いて計算すると
f (x + ∆x)g(x + ∆x) − f (x)g(x)
∆x→0
∆x
(f (x) + f 0 (x)∆x)(g(x) + g 0 (x)∆x) − f (x)g(x)
= lim
∆x→0
∆x
0
0
= f (x)g(x) + f (x)g (x)
(1.16)
(f (x)g(x))0 = lim
という “積の微分”の公式が得られる。計算の途中で (∆x)2 の項(高次の
微小量)を無視した事に注意しよう。
1.2. 積分
1.2
9
積分
1.2.1
不定積分
引き算が足し算の逆演算であるように、積分は微分の逆演算である。微
分して f (x) となる様な関数 F (x) を f (x) の不定積分と呼ぶ:
Z
dF (x)
= f (x) → F (x) = f (x)dx.
dx
(1.17)
注意するのは、f (x) が与えられた時に F (x) は一意的ではないという事で
ある。実際、ある関数に定数を加えても、関数のグラフの接線の傾きは
変わらない。こうした事から F (x) を「不定積分」(あるいは f (x) の “原
始関数”)と呼ぶ。
1.2.2
定積分と区分求積法
次に「定積分」と、図形の面積の関係を議論する。例えば関数 y = f (x)
は常に正であるとし(f (x) > 0)、このグラフと x 軸、および y 軸と
x = a (a > 0) の直線で囲まれる領域の面積 S(a) を考える。この面積は、
0 < x < a の領域を微小な幅 ∆x を持った N 個の(ほぼ)長方形の微小
領域に分けて、それぞれの微小長方形の面積の和を求め、最後に ∆x → 0
の極限をとると正確に得られると考えられる (“区分求積”法。図を参照)。
即ち、
S(a) = lim
∆x→0
N
X
i=1
f (xi )∆x
(1.18)
10
右辺の極限を
Z
第1章
微分・積分の簡単な復習
f (x)dx
(1.19)
a
S(a) =
0
と書く。これを、関数 f (x) の(0 から a までの)定積分という。注意す
るのは
Z
X
→ , ∆x → dx
(1.20)
と置き換えれば自動的に定積分の表式が得られるという事である(これ
は、ライプニッツの記法の優れている所である)。
1.2.3
不定積分と定積分の関係
ここまでの議論では、不定積分と定積分は独立なもので関係無さそう
であるが、実は大いに関係する。
これを見るために、S(a) の a を x に置き換え S(x) という x の関数(“
面積関数”)を考え、その微分を考えてみると
S(x + ∆x) − S(x)
f (x)∆x
dS(x)
= lim
= lim
= f (x)
∆x→0
∆x→0
dx
∆x
∆x
(1.21)
という重要な関係が得られる。ここで、S(x + ∆x) − S(x) は x 座標が 0
から x + ∆x までの領域の面積から x 座標が 0 から x までの領域の面積を
引いたもの、即ち x 座標が x から x + ∆x までの微小領域の面積なので
f (x)∆x と近似できることを用いた。即ち S(x) は f (x) の不定積分(の 1
つ)である事が分かる。S(0) = 0 という条件も考慮すると、S(x) は任意
の不定積分 F (x) を用いて
F (x) − F (0)
(1.22)
と書ける事が分かる。こうして有名な公式
Z
x
0
f (x)dx = F (x) − F (0) = [F (x)]x0
(1.23)
が得られる。
なお、(1.21) は (1.19) より
d Zx
f (x)dx = f (x)
dx 0
(1.24)
という高校で勉強した公式の形にも書ける(積分して微分すると元に戻
るという事)。
1.2. 積分
1.2.4
11
積分の公式を少し
積分についての公式を少し復習すると
Z
xn dx =
xn+1
+ c (c : 未定定数).
n+1
(1.25)
これは、この式の右辺を (1.2) の公式を用いて微分すると xn となる事か
ら容易に理解できる。c という任意の未定定数が付くことに注意しよう。
また、定積分については、例えば
Z
1
0
(x + 1)3 dx = [
(x + 1)4 1 15
]0 = .
4
4
(1.26)
ここで、(x + 1)3 の不定積分(原始関数)を求める際には、合成関数の微
4
分の公式 (1.14) より、容易に (x+1)
が原始関数であることが分かるという
4
3
事に注意しよう((x + 1) を展開し、それぞれの項を積分するより簡単)。
(演習 1) 微分に関する以下の小問に答えなさい。 (1) 3 月まで消費税込みで 200 円であった運賃は、4 月からいくらになる
か、5% と 8% を 1 に比べ小さな数として近似計算で求めなさい。
(2) sin x をテーラー展開しなさい。 (3) 関数 x log x を微分しなさい。
13
第2章
速度と加速度(直線運動)
古典的な物理学の二つの大きな柱は「力学」と「電磁気学」である。そ
こで、まず力学について学ぶことにしよう。力学とは一言で言えば、物
体に力が働いた時に、それによって物体がどの様に運動するかを決める
法則を与えるものであり、物理学の基本とも言える。
所で、この授業では「質点」の運動のみを扱う。現実的な物体は大き
さを持ち、その運動は複雑で扱いにくい。例えば野球のボールは、球の
中心 (重心) の運動に加えて、その中心の周りで回転したりする。そこで、
質量を持つが、大きさが無視できる
「質点」
という理想化された物体を考えるのである。以下特に断らない限り、
「物
体」と言った場合にはこうした質点を想定していると思って頂きたい。力
学の目的は、質点の位置が時間(正確には時刻)t に依存してどの様に変
化するかを求める事、即ち運動を求める事である。
2.1
直線運動
まずは、最も簡単な場合として一つの直線上を運動する 「直線運動」
について考えてみよう。直線に沿って x 軸を導入すると、質点の位置は
“x 座標” で表される。運動によって x 座標は t に依存して変化するので
x(t)(つまり t の関数)と書こう。
まず、運動の様子を表す基本的な(物理)量である、質点の速度につい
て考えよう。時刻 t1 から t2 (t1 < t2 )の間を考えよう。この間に質点の
位置は x(t1 ) から x(t2 ) に変化するので、この間の質点の(平均的な)速
度は
x(t2 ) − x(t1 )
v̄ =
(2.1)
t2 − t1
第2章
14
速度と加速度(直線運動)
と考えることが出来る。x(t1 ) < x(t2 ) だとすると v̄ は正(プラス)であ
るが、逆に x(t1 ) > x(t2 ) の場合には v̄ は負(マイナス)となる。この様
に速度は正負いずれもとることが出来、負の場合には x 軸の方向と逆の
方向に運動していることを表している。これに対し “速さ”という概念は、
運動方向に依らず
「速さ = 速度の絶対値 |v|」 である。
物理量は長さ、時間といったものなので、単位をどうとるか(メート
ルかフィートか)により数値は異なる。こうした量を “次元を持った量”
という。この講義では、以下のような MKS 単位系を用いる: 長さ: m (メートル) 質量: kg (キログラム) 時間: s (秒)
所で時刻 t1 から t2 の間で速度が一定、すなわち
「等速度運動」
の場合には、(2.1) がその速度を与え問題ないが、この間、速度が刻々と
変わる場合には、(2.1) はこの間の「平均速度」を与えているだけで、あ
る時刻における瞬間的な速度を表してはいない。
2.2
瞬間的速度と微分
それでは、ある時刻 t における瞬間的な速度をどの様に求めたら良い
だろうか?等速運動の場合には、x(t) を t の関数としてグラフ(横軸に
t、縦軸に x(t) をとる)に書くと直線になる。すると、速度はこの直線の
傾きに他ならない。速度が時間的に変化する場合にはグラフは直線には
ならない。しかし、短い時間間隔で考えれば、ほぼ等速で運動している
と考えられ、従ってグラフはほぼ直線で近似できるはずである。時間間
隔をゼロに近づけるとこの直線は限りなく、いま考えている時刻におけ
るグラフの接線に近づくであろう。この接線の傾きが、その時刻におけ
る(瞬間的な)速度 v(t) (v : velocity) に他ならない。即ち、時刻 t にお
ける瞬間的な速度は関数 x(t) の t に関する微分に他ならない。即ち v(t) =
dx(t)
.
dt
(2.2)
2.3. 加速度と 2 階微分
15
そもそも、Newton は瞬間的な速度を求める目的で微分の概念を発見した
のであった。速度の単位は (m/s) である。
例えば x(t) = t3 + 2t2 で与えられる運動があったとすろと、この場合
の速度は
dx
v(t) =
= 3t2 + 4t
(2.3)
dt
となる。v(t) は正負いずれにもなり得るが、速さ |v(t)| は当然常に正で
ある。
2.3
加速度と 2 階微分
車でアクセルを踏むと速度が大きくなる。つまり物体に力を与えると
加速する。力学ではこの関係(Newton の第 2 法則、運動方程式)が最も
重要であると言える。そこで、今度は加速度について考えよう。加速度
は、単位時間当たりの速度の増加であると言えるが、速度の時と同様に、
ある時刻での(瞬間的な)加速度 a(t) (a : acceleration) は、速度の微分
で与えられる: dv
d2 x
a(t) =
= 2
(2.4)
dt
dt
ここで (2.2) を用いた。位置座標 x(t) の2階微分が加速度であることに注
意しよう。加速度の単位は (m/s2 ) である。例えば x(t) = t3 + 2t2 の場合
には
d2 x
(2.5)
a(t) = 2 = 6t + 4
dt
となり、この場合、加速度は時間と共に増加する。
第2章
16
2.4
速度と加速度(直線運動)
等加速度運動
例えば、地上で自由落下する物体(落体)の速度のグラフを書くと直
線に成る。つまり、自由落下は等加速度運動の例である。その一定の加
速度の大きさは 9.8 (m/s2 ) であり、これを重力加速度 g と呼ぶ: g = 9.8 (m/s2 )
(2.6)
一般的に一定の加速度 a (a : 定数) の等加速度運動を考えると、速度は
一定の割合 a で増加するので、t = 0 での速度を v0 (“初速度”) とすると
v(t) = at + v0
となる。見方を変えると加速度は速度の微分で a =
(不定)積分で与えられる。よって
(2.7)
dv
dt
なので、v は a の
Z
v(t) =
a dt = at + c (c : 積分定数)
(2.8)
となる。t = 0 とすると v(0) = c なので c = v0 であることが分かる。こ
うして(2.7)と同じ結果になる。x(t) は v = dx
なので (2.7)をもう一度
dt
(不定)積分して得られ
1
x(t) = at2 + v0 t + x0
2
(2.9)
ここで積分定数 x0 は x(0) = x0 より t = 0 での物体の位置(“初期位置”)
に他ならない。この様に、等加速度運動の場合には、初速度、初期位置
という二つの
「初期条件」
を与えると、x(t)、つまり運動が完全に決定されることになる。
例として落体の運動を、鉛直上向きに y 軸をとって y(t) を用いて表す
と、加速度は a = −g なので、(2.9) より
1
y(t) = − gt2 + v0 t
2
(2.10)
となる(ただし、y0 = 0 とした)。v0 = 0 だと自由落下、v0 > 0 だと “投
げ上げ”の場合になるが、この様に考えると一つの式 (2.10) 一つで一般的
に表され、個々に公式を覚える必要はないのである。
17
第3章
等速円運動と単振動
実際の物体の運動は直線上に限定されず、3次元空間(点の位置座標
が (x, y, z) で表される)の中を運動する。ここでは、良く目にする運動と
して平面上(位置座標 (x, y))の(2 次元的な)運動に限定して考えてみ
よう。直線運動で速度 v(t) の符号に依って運動方向が逆転する様に、平
面上の運動では、運動の方向は色々な方向を向き得る。つまり、速度は
方向をもったベクトル、即ち速度ベクトル ~v (t) で表される。速さは直線
運動の時と同様に、~v の絶対値でただの数(ベクトルに対してスカラーと
呼ばれる)になり v と表す:
v(t) = |~v (t)|
(3.1)
平面運動では、物体の位置は、原点から物体の位置に向かう「位置ベク
トル」~r で表され、その成分は物体の位置座標 (x, y) に他ならない:~r(t) =
(x(t), y(t))。直線運動の時と同様に、時刻 t における瞬間的な速度は位置
ベクトル ~r(t) の t による微分で与えられる。ベクトルの微分も、通常の
関数の微分同様に計算出来て ~v =
d~r
∆~r
~r(t + ∆t) − ~r(t)
= lim
= lim
dt ∆t→0 ∆t ∆t→0
∆t
(3.2)
で与えられる。~r(t) = (x(t), y(t)) を (3.2) の右辺に代入すると分かるよう
に、位置ベクトルの微分は、x, y 座標のそれぞれを t で微分したものに
等しい:
x(t + ∆t) − x(t) y(t + ∆t) − y(t)
,
)
∆t→0
∆t
∆t
dx dy
= ( , ).
dt dt
~v =
lim (
(3.3)
同様に、加速度は速度の時間微分で与えられるが、速度がベクトルな
ので、加速度もベクトル(加速度ベクトル)である:
~a(t) =
~v (t + ∆t) − ~v (t)
d~v
d2~r
=
= 2
∆t→0
∆t
dt
dt
lim
第 3 章 等速円運動と単振動
18
= (
dvx dvy
d2 x d2 y
,
) = ( 2 , 2 ).
dt dt
dt dt
(3.4)
さて、直線運動だと速さ一定の等速直線運動では加速度はゼロである
が、平面上の運動においては、等速運動でも加速度ゼロとは限らない。そ
れは、速さが一定でも運動方向が変われば速度ベクトルは変化するから
である。この例として代表的なのが
「等速円運動」
である。
平面上で原点を中心とし半径 r の円周上を一定の速さ v で物体が運動
する、という等速円運動を考える。微小な時間間隔 ∆t で物体は円の接線
方向にわずかに動くので、∆~r もほぼ接線方向を向き、従って速度ベクト
ルは接線方向に一致する。また、加速度については、図を書くと分かる
ように、∆t の間の速度ベクトルの変化 ∆~v = ~v (t + ∆t) − ~v (t) は、ほぼ円
の中心方向に向く。よって加速度ベクトルは中心方向を向くことに成る。
これを、具体的計算で確認しよう。円運動の場合は、物体の位置を表
すのに (x, y) という “直交”座標より (r, θ(t)) という “極座標”を用いると
便利である。ここで r は中心からの距離で円の半径に等しい。また θ (セ
ータ) は x 軸から測った偏角である。因みに、直交座標との関係は x(t) = r cos θ(t)
y(t) = r sin θ(t)
(3.5)
である。
位置ベクトル ~r(t) = (x(t), y(t)) = (r cos θ(t), r sin θ(t)) を t に関して微
分すると、速度ベクトルは
~v =
d~r
dx dy
d cos θ d sin θ
= ( , ) = r(
,
) = rω(− sin θ, cos θ)
dt
dt dt
dt
dt
(3.6)
となる。ここで
dθ
(3.7)
dt
で、ω は単位時間当たりの角度の進み方を表し、“角速度”と呼ばれる。内
積 ~v · ~r = 0 なので、速度ベクトルは予想通り接線方向を向くことが分か
り、また円運動の速さは ω=
v = |~v | = rω|(− sin θ, cos θ)| = rω
(3.8)
3.1. 単振動
19
で与えられることも分かる。v が定数(等速)なので ω も定数である。単
位時間に ω ラジアンだけ角度が進むと円周上では rω の距離だけ進むの
は当然ではある。
同様に、加速度ベクトルは
d~v
= −rω 2 (cos θ, sin θ)
dt
= −ω 2~r
~a =
(3.9)
となり、加速度の方向は中心方向で、またその大きさは
a = |~a| = ω 2 |~r| = rω 2
(3.10)
であることも分かる。まとめると、等速円運動の場合の加速度については
a = |~a(t)| = rω 2
~a(t) の方向: 円の中心方向
(3.11)
となる。後で述べる様に、力学における Newton の第2法則より物体に
働く力は加速度に比例するので、これは、等速円運動の場合には物体に
は中心に向く力(向心力と呼ばれる)が働くことを意味する。
3.1
単振動
等速円運動と関係の深い運動に
「単振動」
がある。原点を中心とする半径 A の円上の等速円運動を考え(角速度 ω )
この運動を x 軸上に “射影”して見よう。すると、射影された影は x 軸上
を運動し、円運動が t = 0 で y 軸上の負の部分から出発し反時計回りに
回るとすると、時刻 t の時の影の x 座標は x = A sin(ωt)
(3.12)
となる。この影の運動の事を「単振動」と言う。ここで、A は振動の振
れ幅を表すので “振幅”と呼ばれる。単振動は、バネの先に取り付けられ
た質点の運動が代表的な例である。単振動する質点を
第 3 章 等速円運動と単振動
20
「調和振動子(harmonic oscillator)」
とも言う。
次に単振動の加速度を考えよう。円運動の加速度は前節でみたように
円の中心を向くので、この加速度ベクトルを x 軸上に射影し、即ちベク
トルの x 成分を考えると、加速度ベクトルの大きさは Aω 2 なので a = −Aω 2 sin(ωt) (3.13)
となる。つまり単振動の加速度については、(3.12)、(3.13) より a = −ω 2 x
(3.14)
が成立するが、これは円運動の場合の ~a = −ω 2~r と全く同様の関係であ
る。これは偶然ではなく、単振動はいわば円運動の x 成分のみを見てい
るので、当然の結果であると言える。
単振動の速度と加速度は、(3.12) を t で順次微分すれば (合成関数の微
分)、機械的に計算する事も可能である:
v=
dx
= Aω cos(ωt),
dt
(3.15)
dv
= −Aω 2 sin(ωt).
(3.16)
dt
単振動の往復の時間を周期 T と言う。これは円運動で言えば円を一周
する時間と等しいので 2π
T =
(3.17)
ω
の関係が得られる。 a=
(演習 2) 速度と加速度に関する以下の小問に答えなさい。
(1) 加速度が a(t) = 6t − 2 で与えられる x 軸上の運動を考える。この時、
速度 v(t) および座標 x(t) を求めなさい。ただし、v(0) = 0, x(0) = 0 と
する。
(2) (1) の運動で時刻 t = 0 から t = 1 までに物体の移動した距離を求め
なさい。
(3) x = A sin(ωt) (A, ω:定数) で表される単振動において、速さの最大
値と、その時の “変位”(x 座標)x を求めなさい。
21
第4章
力と加速度
いよいよ、力学の主題と言える、力が働いた時に物体がどの様な運動
をするか、という事について考えてみよう。古典的な力学を完成させた
のはニュートン (I. Newton) である。この章では、この 「ニュートン力学」
について学ぶ。 4.1
三つの運動法則
理想化された、摩擦のない “滑々の”台の上で物体をある初速度で運動
させると、初速度を保ったまま運動し続けると考えられる。即ち、
「物体に力が働かなければ、物体は等速直線運動をする」 と言える。これは元々ガリレオが主張した事で、
「慣性の法則」
と呼ばれている。
「慣性」とはそれまでの運動状態を保持しようとする性
質の事である。例えば、ひもに結ばれた物体が円運動している時にひも
が切れたり、あるいはくるくると傘を回した時に水滴が傘から離れる時
には、円の接線方向に物体や雨滴が飛ぶ出すが、これは慣性のために、そ
れまでの速度を維持しようとするからである。
では、物体に力が働くとどうなるであろうか?例えば、ひもに結ばれ
た物体が等速円運動している場合を考えると、物体は、ひもから中心に
向かう力(“向心力”)を受けるが、一方、前章で学んだように、この時
の物体の加速度も中心方向を向く。つまり、力の働いた方向に速度が変
化し、加速度が生じる、と言えそうである。また、仮に同じ力で物体を
押したとしても、質量の大きな(重い)物体ほど、その速度はあまり変
らず加速度は小さくなるはずである。つまり、加速度は力に比例し、物
第4章
22
力と加速度
体の質量には反比例しそうである。これを法則の形でまとめると
~a =
F~
m
→ F~ = m~a.
(4.1)
~ は物体に働く力 (force)、また m は物体の質量 (mass) である。
ここで、F
この法則は力学で最も重要な関係式であると言え、
「ニュートンの運動方程式」
~|
F
F
と呼ばれる。(4.1)より a = |~a| = |m
=m
なので、質量が大きいとあま
り加速しないことが分かる。
~ という力を及ぼすと
また、力の性質としては、物体 A が物体 B に F
~ の力を及ぼ
き、逆に、物体 B は物体 A に、大きさが同じで逆向きの −F
すことが知られている。また、これらの力は同一の作用線上にある。この
様に、力は、一方的にではなく相互に働くので、
「相互作用 (interaction)」
とも呼ばれる。この “お互い様”の法則を
「作用・反作用の法則」 と呼ぶ。 ニュートン力学は上記の様な「3 つの運動法則」、即ち
1. 慣性の法則 2. 運動方程式 3. 作用・反作用の法則 に基づいて構築されたものである。特に 2 番目の運動方程式により、物
体の運動の様子から物体に働く力を求めたり、逆に物体が受けている力
の情報から、物体の運動を決めたりすることが出来るのである。
4.2
具体例
物体の運動の様子から働く力を求める例として、前章で議論した「単
振動」を考えよう。単振動は 1 次元的(1方向の)運動なので、(4.1) の
x 成分について考えると、力は (3.14) より F = ma = −mω 2 x = −mAω 2 sin(ωt)
(4.2)
と求まる。ここで F, a は力、加速度ベクトルの x 成分を表すものとする。
ところで、この様な F と x の関係は、バネによる力(弾性力)の場合
に成り立つものである。実際、
「フックの法則」によると、バネを自然長
4.2. 具体例
23
から x 伸ばすと、元に戻る方向に kx (k : バネ定数) の大きさの “復元力”
が働く。力の成分で書くと F = −kx
(4.3)
が成り立つ。これと (4.2) を比べると、バネの先に結ばれた物体の運動は
単振動になり、その時の角速度は s
mω 2 = k
→
ω=
k
m
(4.4)
で与えられることが分かる。また、単振動の周期は、(3.17)、(4.4) より
r
m
T = 2π
(4.5)
k
となる。この関係は k が大きいとバネが “強い”ので振動が速くなり、従っ
て周期が短くなる、という風に直感的にも理解可能である。
次に、物体に働く力が分かった時に、物体の運動を求める場合の例と
して、振り子の運動を考えよう。長さ l の糸の先に質量 m の振り子が付
いている場合を考えよう。まず、質量 m の物体に働く重力の大きさは、
重力加速度 g を生じさせる力なので、運動方程式 F = ma (F, a は力、加
速度の大きさ) で a = g と置いて
mg
(4.6)
で表される。糸が鉛直下方から測って角 θ の位置にあるとする。この時、
重力の円周の接線方向の成分は
−mg sin θ
(4.7)
となる(図参照)。振り子の振れが小さい (|θ| が小さい)“微小振動”の場
合には、この力が復元力になって単振動が起きることが分かる。実際、最
下点から円周に沿って測った座標を x 座標と考えると、運動方程式は −mg sin θ ' −mgθ = ma → a = −gθ
(4.8)
が得られる。ここで sin θ ' θ (|θ| ¿ 1) を用いた。一方、振り子の x 座
標は x = lθ なので、(4.8) と合わせると a = −g
x
g
=− x
l
l
(4.9)
第4章
24
力と加速度
となる。これから、振り子の周期 T は s
T = 2π
l
g
(4.10)
で与えられることが分かる(以下の演習を参照)。
(演習 3) 振り子の運動に関しては、加速度と x 座標(振り子の運動する
円周に沿った座標)の間に
g
a=− x
l
の関係がある。これから、単振動の場合と比較して、振り子の周期 T を
求めなさい。
ブランコの時を考えると、ブランコの長さが長いほど、振動の周期は
大きくなるが、これはちょうど (4.10) で l が大きいほど T が大きくなる
事に対応している。ただし、振り子の周期は、振り子の質量(重さ)に
依らず一定である事に注意しよう(振り子の “等時性”)。 25
第5章
慣性力と万有引力
所で、3 つの運動法則は、どの様な観測者に対しても言えるであろう
か?答えは No である。例えば「慣性の法則」を考えよう。地面に静止し
ている観測者 A から静止している自動車を見ると、力が働かない限り自
動車は静止しているので、
「慣性の法則」は明らかに成立する。この様に、
慣性の法則が成立する様な観測者を 「慣性系」
という。A から見ると、自動車に働く力はゼロで、また自動車の加速度
~ = m~a は成立している。
もゼロ(静止している)なので、運動方程式 F
しかしながら、別の観測者 B がある方向に 3 (m/s2 ) の大きさの加速度
で運動しているとすると、B から見ると静止しているはずの自動車は B
とは逆方向に 3 (m/s2 ) の加速度で運動している様に見えるはずである。
B の様に加速度を持った観測者を
「加速度系」
と呼ぼう。すると、一般に ~a の加速度で運動する加速度系 から見ると、
静止しているはずの物体(質量 m とする)は −~a の加速度で運動してい
~ = ~0 なのに加
る様に見える。という事は、この加速度系から見ると、F
速度はゼロでないので、運動方程式は成り立っていない。無理やり運動
方程式を成立させようとすると、物体には
m(−~a) = −m~a
(5.1)
の力が働いていると考えざるを得ない。この力は実際には働いていない
ので “見せかけの力”であり
「慣性力」
と呼ばれる。
さて、一般に自由落下する物体 (質量 m) には、“鉛直”下向きに mg の
大きさの重力が働く。今仮に、エレベーターをつっているロープが切れ
てエレベーターが自由落下を始めたとすると、エレベーター内にいる観
第5章
26
慣性力と万有引力
測者 A は加速度 g で自由落下を始め、従って加速度系になる。すると、
A から見ると、エレベーター内にボール (質量 m) があるとすると、ボー
ルには A の加速度と逆向き、つまり鉛直上向きに mg の大きさの慣性力
が働くはずである。一方、ボールには本来 “真の力”として mg の大きさ
の重力が鉛直下向きに働いている。よって、これらの力は打ち消し合い、
A から見るとボールは 「無重力状態」
にある様に思える(図参照)。実際、例えば A がボールを鉛直上方に投げ
上げボールが最高点で瞬間的に静止した時にロープが切れると、その後、
A から見るとボールは空中に静止しているはずである。
しかし、見方を変えて、地上の静止した観測者(慣性系)B からこの
現象を見ると、エレベーター内の観測者 A もボールも、ロープが切れて
から単に同じように自由落下をしていて、同じ距離だけ落下するので、A
から見てボールが止まって見えるのは不思議な事ではない。 (N.B.) (スペースシャトルの中) 同様に、スペースシャトルの中が無
重力状態になるのは、スペースシャトルが地球からの重力のために、言
わば絶えず “地球に向かって落下している”からである。実際、地球から
の引力(重力)が無いとシャトルは本来の円運動の接線方向に行ってし
まうが、円運動できるのは、地球からの引力のために円運動の軌道上に
“落下”するからである。
良く経験する慣性力の例として、電車の中のつり革の傾きについて
考えよう。電車が加速を始めると、つり革は進行方向と逆向きに傾くこ
とは良く知られている。では、つり革が鉛直下向きから θ の角だけ傾く
場合の電車の加速度の大きさ a を求めてみよう。つり革には電車の進行
方向と逆向きに水平に ma (m : つり革の質量) の慣性力が働く。すると、
図を描くと分かるように、力のつり合いの関係から
tan θ =
a
g
→ a = g tan θ
(5.2)
の様に a が求まる。
5.1
万有引力
夜空を眺めると、星座を成す様な、常に同じ位置に現れる “恒星”の他
に、例えば火星の様に、“さまよう”様に天空を動く
5.1. 万有引力
27
「惑星 (planet)」
がある。昔の人々にとって複雑な惑星の運動の原因は謎であったが、ケプ
ラーは、膨大な観測結果から、惑星の運動に関して以下の 3 つの法則(「ケ
プラーの法則」と呼ばれる)にまとめられることを発見した(図参照)
:
(1) 惑星は楕円軌道上を運動し、その楕円の一つの焦点に太陽が位置する。
(2) 太陽と惑星を結ぶ線分が一定時間に描く面積は一定である(面積速度
一定の法則)
(3) 惑星の運動の周期の 2 乗と楕円の長半径の 3 乗の比は、惑星に依らず
一定である。
地球から見て火星などの惑星運動が複雑に見える(“行ったり来たり”)の
は、こうした楕円運動の結果であったのである。
ケプラーの法則は経験則であったが、これをニュートンは、ニュート
ン力学と「万有引力の法則」という基本的な法則を用いて見事に説明し
た。ニュートンに依れば、質量 M, m の二つの物体 A, B が、距離 r 離れ
ている時に両者の間には
Mm
F =G 2
(5.3)
r
の大きさの引力が働く。これは全ての質量を持つ物体間に普遍的に働く
力で
「万有引力」
と呼ばれる。地上の物体に働く重力は、物体と地球との間の万有引力に
他ならない。ここで
G = 6.67 × 10−11 (m3 /(kg · s2 ))
(5.4)
は「重力定数」あるいは「万有引力定数」と呼ばれる。作用・反作用の法
則により、A, B の受ける引力は A, B を結ぶ直線上で働き、二つの力は
逆向きである。
万有引力の法則を用いて、ケプラーの法則、特に第 3 法則を説明して
みよう。簡単のため、まず惑星の運動を円運動だとしよう。すると、ケプ
ラーの第 2 法則より、円運動の速さは一定となり、惑星は等速円運動をす
ることになる。すると、円運動の速さを v 、円の半径、つまり太陽と惑星
との距離を r とすると、F = ma (m : 惑星の質量) と、等速円運動の加
速度が a = rω 2 であることから
G
GMS
MS m
= mrω 2 → ω 2 =
2
r
r3
(5.5)
第5章
28
慣性力と万有引力
の関係が得られる。ここで MS は太陽の質量。円運動の周期 T は T =
で与えられるので、T を用いると、(5.5) は
T2 =
(2π)2 3
r → T 2 ∝ r3
GMS
2π
ω
(5.6)
こうして、ケプラーの第 3 法則が導かれたことになる。なお、ここでは
示さないが、(5.6) の関係は、現実的な惑星の軌道が楕円の場合にも成立
する。 29
第6章
運動量保存則
物理学では色々な保存則が現れ、重要な役割を演じる。
「保存則」とは、
ある物理的な量(物理量)が時間的に変化せず一定に保たれる、という
法則である。
この章では、力学に現れる重要な保存則の一つである
「運動量保存則」
について解説する。
力が働くと速度は変化する(加速する)が、その変化の度合いは物体
の質量によって異なる。では、力によって直接変化する物理量は何であ
ろうか?答えは 「運動量」
である。これを以下でみてみよう。
出発点はニュートンの運動方程式である。これを少し書き直してみよう。
d~v
d(m~v )
F~ = m~a → F~ = m =
.
dt
dt
(6.1)
そこで、運動量(ベクトル)p
~ を次式で定義する:
p~ = m~v .
(6.2)
d~p
F~ =
dt
(6.3)
すると、(6.1) の運動方程式は と書ける。つまり力で直接変化するのは運動量なのである:
「力 = 運動量の時間的変化率」
図(省略)の様なレールとトンネルで出来たおもちゃを考える。坂に
なったレールを転げ落ちた黄色の球がトンネルに入ると、何と赤色の球
になってトンネルから出て来る!一見とても不思議な出来事だが、謎解
第 6 章 運動量保存則
30
きをすると、トンネル内に静止した赤色の球があり、これにぶつかった
黄色の球が静止し、その替わりに赤色の球が(黄色の球の待っていた速
さと同じ速さで)トンネルから飛び出した、という訳である。こういう
事が可能なのは、二つの球の質量が同じ場合であり、
「黄色の球の持っていた運動量が無くなった替わりに赤色の球の運動量
が生じた」
ということになる。この場合、二つの球の運動量の合計は、球の衝突の
前後で不変であることになるが、この様に、いくつかの物体が互いに力
を及ぼし合う時に、各物体の運動量の合計が不変である(時間的に変化
しない)ことを 「運動量保存則」
という。
では、この保存則が成立することを証明してみよう。二つの物体 1, 2
~1 , F~2 とし、それぞれの運動量を p~1 , p~2 と
があり、それぞれに働く力を F
しよう。それぞれの物体に関する運動方程式は(6.3)より
d~p1
F~1 =
dt
d~
p2
F~2 =
dt
(6.4)
(6.5)
と書ける。(6.4) と (6.5) を足すと
d~p1 d~p2
d
F~1 + F~2 =
+
= (~p1 + p~2 )
dt
dt
dt
(6.6)
となる。ここで、1, 2 の間に働く力が、お互いの間で働く、作用・反作用
~1 = −F~2 なので F~1 + F~2 = ~0
の法則に従う “内力”のみであるとすると、F
となる。よって (6.6) より
d
(~p1 + p~2 ) = ~0 ↔ p~1 + p~2:時間的に一定 dt
(6.7)
が言える。これが「運動量保存則」に他ならない。 (N.B.) もし、内力以外に、“第三者”からの “外力”が働いたとすると、F~1 +
F~2 = 外力の和 となり消えないので、運動量保存は、もはや成り立たな
くなる事に注意しよう。
(演習 4) 滑らかなビリアード台の上に小球 B が静止していて、これに小
球 A が速さ v0 で衝突したところ、小球 A は衝突前の速度の方向(“入射
31
√
方向”)から 30 度を成す方向に速さ 23 v0 で散乱されたとする。この時、
小球 B はどの方向にどの様な速さで運動を始めるか求めなさい。ただし、
小球 A, B の質量は同じで m とする。
33
第7章
エネルギー保存則
次に、物理で大変重要な役割を演じる保存則として
「エネルギー保存則」
について考えよう。 7.1
仕事と運動エネルギー
質量 m の物体が高さ h の点から初速ゼロで自由落下する場合を考えよ
う。落下を初めて t 秒後の速さは
v(t) = gt (g : 重力加速度)
であり、また落下距離は
1 2
gt
2
(7.1)
(7.2)
である。地面に到着する時刻は
1
h = gt2 → t =
2
s
2h
.
g
(7.3)
なので、落下時の速さは (7.1) より
s
v=g
2h q
= 2gh
g
(7.4)
となる。
ここである時刻での 「運動エネルギー (kinetic energy)」K を質量 m と、その時の速さ v を用いて
1
K = mv 2
2
(7.5)
第7章
34
エネルギー保存則
と定義する事にする。すると、落下時の運動エネルギーは (7.4) より K = mgh
(7.6)
となる。
~ が物体に働いて、物体の位置(ベクトル)が微小
一方で、一般に力 F
な ∆~r だけ変化する時(∆~r を “変位ベクトル”と言う)、この力が物体に
対してした微小な 「仕事(work)」
が、ベクトルの内積を用いて
∆W ≡ F~ · ∆~r
(7.7)
で定義される。
自由落下の場合には重力は一定で、重力の働く向きも変位ベクトルの
方向も鉛直下向きで同じなので、落下するまでに重力が物体に対してす
る仕事は、重力の大きさ mg に落下までの移動距離 h をかけて W = mg × h = mgh
(7.8)
となる。(7.6) と (7.8) より 「重力が物体に対してした仕事の分だけ、物体の運動エネルギーが増大
した」
と言える。
この関係は、力が一定の場合に限らず一般的に言える。簡単のために x
軸にそった 1 次元的運動を考えてみよう。まず運動方程式 F = ma = m dv
dt
から出発する。両辺に v を掛けると (両辺を入れ替えて) mv
dv
= Fv ↔
dt
d 1 2
dx
( mv ) = F
dt 2
dt
(7.9)
これを時刻に関して 0 から t まで定積分すると 1 2 1 2 Zx
F dx
mv − mv0 =
2
2
0
(7.10)
が得られる。ここで左辺の v, v0 はそれぞれ時刻が t および 0 での速度を
表す。また、右辺では
Z
0
t
Z x
dx
F
dt =
F dx
dt
0
(7.11)
7.2. 位置エネルギーとエネルギー保存則
35
という “置換積分”を用いた。この (7.10) の右辺は
lim
∆x→0
X
i
Z
F (xi )∆x =
x
F (x)dx
(7.12)
0
より、ある場所での力 F (xi ) に微小変位 ∆x を掛けて得られる “微小仕事”
を足し合わせたものなので、原点から x の位置に移動するまでに力が物
体に対してした仕事 W を表していることが分かる。こうして (7.10) は
K − K0 = W
(7.13)
の様に表され、
「力のした仕事の分だけ物体の運動エネルギーが増大する」
という事が一般に言えることが分かる。
7.2
位置エネルギーとエネルギー保存則
章の最初で、高さ h の点にある物体が自由落下した状況を考えたが、地
面からその位置まで人が物体を持ち上げたとすると、人は物体に働く重
力に “逆らって”上向きに mg の力を加えながら、上向きに距離 h だけ移
動させたことに成るので、人が物体に対してした仕事は mg × h = mgh
(7.14)
であり、(7.8) と全く同じである。これは偶然ではなく、重力と人では、
物体に及ぼす力の大きさは同じで方向が逆であり、また変位の方向も逆
であるために、それらが物体に対して成す仕事は同じになるのである:
(−F~ ) · (−∆~r) = F~ · ∆~r。
すると、最初地面に静止していた物体が、地面に落下する際に運動エ
ネルギーを持つのは、人が物体に対してした仕事の分だけ、物体にエネ
ルギーが “蓄積” され、落下時にそのエネルギーが “解放”されて運動エネ
ルギーに成った、と考える事が出来る。この様に、人が物体に対してし
た仕事によって物体に蓄えられるエネルギーを 「位置エネルギー」
という。尚、英語では “potential energy” というが、これは物体に蓄えら
れた “潜在的な”エネルギーという意味である。原点を基準点に採ると、
第7章
36
エネルギー保存則
~ に逆
位置座標 x の点での位置エネルギー U (x) は、人が物体に働く力 F
らって原点から x の点まで運ぶ時の仕事なので Z
x
U (x) =
0
0
0
(−F (x ))dx = −
Z
x
F (x0 )dx0
(7.15)
0
と書ける。
自由落下の場合には、(7.6) の関係 1
mgh = mv 2 2
(7.16)
は、落下位による位置エネルギーの減少分だけ運動エネルギーが増加し
た事を言っていることに成る。つまり 「力学的エネルギー」E
を、運動エネルギーと位置エネルギーの和で
E =K +U
(7.17)
で定義すれば、
「力学的エネルギーは時間が経っても不変である (保存される)」
という
「エネルギー保存則]
が言えたことに成る。
これを一般的に証明してみよう。例えば位置座標 x が a の点 A から座
標が b の点 B まで物体が動く場合について考えると (7.10) と同様に
Z b
Z a
1 2
1 2 Zb
mv − mv =
F (x) dx =
F (x) dx −
F (x) dx
2 B 2 A
a
0
0
(7.18)
が言える。ここで vA,B は点 A、B での物体の速さ。右辺を少し書き直すと
Z b
Z a
1 2
1 2
(−F (x)) dx +
(−F (x)) dx
mv − mv = −
2 B 2 A
0
0
Z b
Z a
1
1
→ mvB2 +
(−F (x)) dx = mvA2 +
(−F (x)) dx
2
2
0
0
(7.19)
となる。ここで、点 A, B における位置エネルギーは
Z
UA =
Z
a
0
(−F (x)) dx, UB =
b
(−F (x)) dx
0
(7.20)
7.3. 万有引力による位置エネルギー
37
2
である事に注意し、また点 A, B での運動エネルギーを KA,B = 12 mvA,B
と書くと、(7.19) は
KB + UB = KA + UA → EB = EA
(7.21)
と書ける。即ち、点 A から点 B まで運動する間、力学的エネルギーが一
定に保たれること、つまりエネルギー保存則が示されたことになる。
7.3
万有引力による位置エネルギー
地表付近での重力は一定と考えてよいが、重力は物体が地球から受け
る(地球の質量が地球の重心に集まったと仮定した時の)万有引力であ
るので、(5.3) から分かるように、地表からの高度が高くなり、従って地
球の中心からの距離が大きくなると減少する。そのため、秒速 11(km)(“
第二宇宙速度”)より大きな速さでロケットを打ち上げると、地球の重力
圏を脱して宇宙の果てまで行くことが出来る。
これを万有引力による位置エネルギーを用いてみて考えてみよう。地
球の中心を原点とし、原点から無限遠に伸びる x 軸を考えると、座標が
x (x ≥ RE , RE : 地球の半径) の位置に質量 m のロケットが有る時に、
ロケットが受ける万有引力は、ニュートンの「万有引力の法則」より
F = −G
mME
(ME : 地球の質量)
x2
(7.22)
である。ただし、証明はしないが、ロケットが受ける引力は、あたかも
地球の質量がその中心に集中した時にロケットが受ける引力に等しいと
いう事実を用いた。この場合、基準点を原点にすると (7.22) の力が発散
して困るので、基準点は万有引力 F がゼロとなる無限遠点に採る。する
と、(7.15) と同様に、原点からの距離が r の位置で物体の持つ位置エネ
ルギー(U (r) と書くことにする)が U (r) = −
Z
Z
r
∞
F dx =
r
∞
G
ME m
ME m
dx = −G
2
x
r
(7.23)
と求まる。
エネルギー保存則は、力学的エネルギー
E =K +U
(7.24)
第7章
38
エネルギー保存則
が場所に依らず一定であるということを言う。特に無限遠点を考えると、
(7.23) より U (∞) = 0 であり、また当然 K ≥ 0 なので E ≥ 0 となる。即
ち、ロケットが地球の重力圏を脱して宇宙の果てまで到達できるための
条件は
E≥0
(7.25)
である(図を参照)。一方、E を地表で考えると、地表でのロケットの初
速度を v0 とすると、(7.23) より
1
ME m
E = mv02 − G
2
RE
(7.26)
よって、脱出できるための条件は 1 2
ME m
mv0 − G
≥ 0 → v0 ≥
2
RE
s
2GME
RE
(7.27)
q
E
となる。この 2GM
を “脱出速度(第二宇宙速度)”と言う。G = 6.7 ×
RE
−11
3
2
10
(m /(kg · s ))、ME = 6.0 × 1024 (kg)、RE = 6.4 × 106 (m) として
脱出速度を計算すると s
2GME
=
RE
s
2 × 6.7 × 10−11 × 6.0 × 1024
= 1.1 × 104 (m/s)、 (7.28)
6.4 × 106
即ち、秒速約 11(km) となる。
(演習 5)ばね(ばね定数 k )の力(復元力)による位置エネルギーを計
算で求めなさい。
39
第8章
正弦波、波の基本式、横
波と縦波
波動(波)というのは振動が空間を伝わって行く現象である。例えば
ピアノの弦の一点をハンマーで叩くと、弦の叩かれた部分は振動を始め、
それによりその周りの部分も引っ張られて振動を始める。こうして振動
が次々に弦を伝わって行くことになる。これが波動である。池の一点に
小石を落すと、そこから同心円状に広がる波、また音波、電磁波(光)、
地震波なども皆波動である。 8.1
正弦波、波の基本式
例えば、海面に出来る波は三角関数を用いて次の様に表すことが出来
る(図を参照)
: x
y = A sin{2π( − f t)} (λ : 波長、f : 振動数、A : 振幅)
λ
(8.1)
ここで y は時刻 t、座標 x の点における海面の変位(波が無い時からの位
置のずれ)である。例えば (8.1) で t = 0 とすると、y = A sin( 2πx
) とな
λ
り、x が λ だけ “進む”と y が同じ値に戻るようになっていることが分か
る。変位の状態(“山”や “谷”)を位相(phase)と言う。波長とは同じ位
相の状態にある隣り合う 2 点間の距離なので、確かに λ が波長になって
いることが分かる。また、(8.1) で x = 0 とすると y = −A sin(2πf t) と
なるが、これは単位時間(1 秒)で x = 0 の位置の海面が f 回振動するこ
とを表している。一方、これは振動数の意味に他ならない。つまり、海
面の各点は振動数 f で振動(単振動)しているだけで岸に向かって動い
たりはしない。各点の振動のパターンである “波形”が岸に向かって動い
て見えるだけである。
第 8 章 正弦波、波の基本式、横波と縦波
40
なお、(8.1) で表される波は sin を用いているので “正弦波”と言われる
が、cos を用いた “余弦波”も可能であり、最も一般的にはそれらの “線形
結合”で表される(“三角関数の合成”と同じ):
x
y = A sin{2π( − f t) + ϕ}
λ
(8.2)
ここで、ϕ は t = 0, x = 0 における位相の状態を表しているので “初期位
相”と呼ばれる定数である。 さて、λ と f は次の関係を満たす: v = f λ (波の基本式) (8.3)
ここで v は波の進行する速さである。実際、波がある方向に進行する時、
波長 λ だけ進むと、海面のある点は上下に一回振動するので、単位時間
に v だけ進むと λv 回振動することになる。一方、これが波の振動数 f に
等しいので、
v
→ v = fλ
(8.4)
f=
λ
が言えることになる。
この波の基本式を用いると、正弦波は y = A sin{
2π
(x − vt)}
λ
(8.5)
とも書けることが分かる。これは考えてみると当然の結果である。(8.5)
x)、即ち t = 0 の時のグラフを x
をグラフにかくと、これは y = A sin( 2π
λ
軸方向に vt だけ平行移動したものである。一方、波の速さを v としてい
るのであるから、波は時刻 t では vt だけ x 軸方向に移動していることに
なり、これは当然の結果だと言える。 8.2
横波と縦波
波には一般にそれを伝える物質である「媒質」が存在する。
(しかし光
(電磁波)の場合には、真空中でも光は伝わる!)例えば、
海面に出来る波:海水, 音波:空気, etc.
海面に出来る波は、海面の変位の方向、あるいは媒質の各点の振動方
向は、波の進行方向と直交している。この様な波を
8.2. 横波と縦波
41
「横波 (transverse wave)」 と言う。では媒質の振動方向が波の進行方向と同じ場合はあるだろうか?
答えは Yes である。こうした波を 「縦波 (longitudinal wave)」
と言う。音波が縦波の典型的な例である。例えばスピーカーから発せら
れる音で、その周りの媒質(空気の分子)が振動し、その振動する方向
に次々に(ドミノ倒しのように)振動が伝わる。各場所での空気分子の
振動による変位を縦軸にとって書くと、横波と同じように正弦波のグラ
フになる(図を参照)。この図から分かる様に、空気の分子が密になる部
分と疎になる部分が交互に現れる。こうした理由で、縦波は
「疎密波」
と呼ばれることもある。地震波には横波の S 波と縦波の P 波が混在する:
・P 波 (primary wave (第一波)): 5∼7 (km/s) (岩盤中)。先に到来(初期
微動)。
・S 波 (secondary wave (第二波)): 3∼4 (km/s)(岩盤中)。揺れは大きい
(主要動)。
43
第9章
回折、重ね合わせの原理
と干渉、うなり
9.1
回折
池の水面に出来る波を考える。波の進行方向にスリット(すき間の開
いた障壁)を置いてみると、スリットの裏側にまで波が回り込む(図を
参照)。こうした現象を
「回折」
と言う。粒子であれば、すき間を通り抜けても直進するのでスリットの
裏側に回り込むことは有り得ない。つまり、
「回折」は波(波動)に特有
の現象である。これは、ある場所に
“波面”(位相が同じ点を連ねたもの)
が到来すると、その点が振動するので、その点を中心にして新たに波が
広がって行くと考えると不思議ではない。これを
「ホイヘンスの原理」 と言う。
9.2
波の重ね合せ
例えば、池の水面の少し離れた 2 点 P, Q に小石を落すと、P, Q を中心
とした同心円状の波が出来る。P, Q の間の点にそれぞれの波が到来し重
なるとどの様な波となるであろうか?重なって出来る波の変位 y は P, Q
から広がって来た波の変位 y1 , y2 を数学的に足し合わせれば良い: y = y1 + y2
(9.1)
第 9 章 回折、重ね合わせの原理と干渉、うなり
44
この様に、実現する波は、それぞれの波を重ね合わせたものになるが、こ
れを
「重ね合わせの原理」
という。この波の基本的な性質を用いて、波の持ついくつかの特徴的な
性質について考えてみよう。
9.2.1
干渉
二つの、波長 λ、波の速さ v 、および振幅 A が同じ波が重なると、位相
が同じ “同位相”の場合には強め合い (A + A = 2A)、また “逆位相”の場
合には完全に打ち消し合う(振動しない)(A + (−A) = 0) といった事が
起きる。こうした現象を、波の “干渉”と言う。典型的な例は、光が波(波
動)であることを実証した実験として有名な “ヤングの実験”である(図
を参照)。この場合、二つのスリットからの距離が同じになるスクリーン
上の点では、二つの波の位相が同じになるので光は強め合い明るくなる。
スクリーン上で、この点から少し離れると、二つの波の位相が逆位相に
なる点が現れ、暗くなる。こうして、明暗の特徴的な縞模様が出来る。 9.2.2
うなり
例えば、二つの、わずかに波長(振動数)の違う音波が重なり合うと、
「うなり」
という現象が起きる。これは、音の強さ(振幅)が
f = |f1 − f2 |
(9.2)
の小さな振動数でゆっくりと振動する現象である。ここで f1 , f2 は元の
二つの音の振動数。
これを示してみよう。ある時刻 t での、原点における音による空気分子
の変位は、元の二つの音のそれぞれに対しては、(8.1) より
y1 = −A sin(2πf1 t),
y2 = −A sin(2πf2 t)
(9.3)
9.2. 波の重ね合せ
45
となる。尚、簡単のため、これらの振幅は同じである (A) としている。す
ると、これらの音が重なった時の、音波の変位 y は f1 + f2
f1 − f2
t) cos(2π
t)
2
2
f1 − f2
f1 + f2
= −2A cos(2π
t) sin(2π
t)
2
2
y = y1 + y2 = −2A sin(2π
(9.4)
2
t) は、
と書ける。ここで、振動数はわずかに違うだけなので、cos(2π f1 −f
2
f1 +f2
非常にゆっくり変化する t の関数である。よって、(9.4) は、sin(2π 2 t) '
sin(2πf1 t) (f1 ' f2 ) に従って、振動数 f1 ' f2 で速く振動する波の振幅
が | cos(π∆f t)| (∆f = |f2 − f1 |) に従って、振動数 ∆f でゆっくり変動す
ることを表している(図を参照)。これが 「うなり」
と呼ばれる現象である。
47
第 10 章 ドップラー効果と衝撃波
10.1
ドップラー効果
10.1.1
音源が動く場合
例えば、近づいて来た救急車が通り過ぎると、急にサイレンの音程が
低くなる(振動数が小さくなる)。こうした現象を
「ドップラー効果」 という。
音源が止まっていると、音波の波面はその点を中心に “同心円”(同心
球面)状に広がる。これに対して音源がある方向に動くと同心円にはな
らず、音源の進む方向の波長(波面間の間隔)は短く、これと逆方向の波
長は長くなる(図を参照)。すると、波の基本式 (8.3) より、v が一定だ
と振動数は波長に反比例するで、例えば音源の進む方向に居る観測者が
聞く音の振動数は、音源が静止している時の振動数(“元の”振動数)f0
に比べて高くなる。
では、どれくらい振動数は変化するであろうか?音源が点 O に静止し
ていると、1(s) 間で波は v(m) 先の点 P まで到達し、OP 間には f0 個の
波面(f0 波長分)が存在する。一方、O から P の方向に音源が u という
速さで動く場合には、1(s) で音源も O から P の方向に u だけ移動するの
で、v − u の距離の中に、やはり f0 個の波面が存在することになる。よっ
て、音源が動くときの波の波長 λ0 は、静止している時の波長 λ を用いて
λ0 =
v−u
λ
v
(10.1)
と表せる。よって v が一定だと振動数は波長に反比例するので、点 P に
第 10 章
48
ドップラー効果と衝撃波
居る観測者が聞く音の振動数 f は
f=
v
f0
v−u
(10.2)
となり、f0 より大きく、従って音源が動く方向に居る観測者が聞く音の
音程は上がることになる。これが救急車が近づくと音程が上がる理由で
ある。逆に遠ざかる時は u → −u として
f=
v
f0
v+u
(10.3)
となり、音程は下がることになる。
10.1.2
観測者が動く場合
では逆に、音源が静止していて、観測者が音源に向かって u で近づく
とどうなるであろうか?この場合、音源は静止しているので音源が発す
る波の波長は λ のままである。しかし、観測者から見ると、波の近づく
速さは v → v + u の様に大きくなる。すると、(8.3) より、波長が一定の
場合、振動数は波の速さに比例するので、観測者が聞く音の振動数は
f=
v+u
f0
v
(10.4)
となり、音程が高くなる。
10.2
衝撃波
音源が動く時のドップラー効果の場合、同心円は崩れても、円が外に
はみ出すことは無かった。しかし、実際には、例えばジェット機の様に、
音源の速さが音速
331.5 + 0.6t (m/s) (t : 摂氏での温度)
(10.5)
を超えると、円が外にはみ出し、波面は球面ではなく、図のように円錐
状になる。同様な現象は、水面にリモコンの模型船を水面の波の速さよ
10.2. 衝撃波
49
り早く走らせても起きる。
(この時は、“波面”は円錐ではなく、くさび形
になる。)
ジェット機の発する音は、こうして円錐状の波面が到達した時にのみ、
“ボン”という感じで強く聞こえる。これを
「衝撃波 (shock wave)」
と言う。 51
第 11 章 静電気
原子においては、コアの原子核中の陽子と、周りを回る電子が電気的
な引力によって引き合い、これが向心力となって、電子の円運動が可能
になっている。こうした力を
「クーロン力」
と言い、電気を持った粒子が静止していても働くので
「静電気力」
とも言われる。
11.1
クーロンの法則
クーロン力は電気を持った粒子間にのみ働く。電気の量を「電気量」あ
るいは「電荷」と言い、単位はクーロン (C) である。電気を持った粒子の
事も「電荷」と言うことがある。
クーロン力は、
「万有引力の法則」と良く似た法則によって与えられる。
即ち、電荷 q1 , q2 をもった二つの粒子が距離 r 離れてある時に働くクー
ロン力は、
二つの電荷が同符号 → 斥力 二つの電荷が逆符号 → 引力 であり、力は両者を結ぶ線分の方向を向く(作用・反作用の法則に従う)。
その大きさは
|q1 q2 |
(11.1)
F =k 2
r
で与えられる。比例定数 k は具体的には(真空中では)
k=
1
4π²0
(11.2)
第 11 章 静電気
52
で与えられる。²0 は(真空における)誘電率と呼ばれる量で、²0 = 8.85 ×
10−12 (F/m) である。(11.1) は万有引力の法則 (5.3) と良く似ている。た
だし、万有引力の時と違い、引力だけでなく斥力も存在する。
11.2
電界と電位
11.2.1
電界
電荷が分布した空間は、そこに電荷を置くと力が生じる様な電気的性
質をもった空間で、それを電界というもので表す。具体的には ~ とは、そこに単位電荷 (1 (C)) を置いた時にその電
「ある場所の電界 E
荷が受ける力」
~ の場所に q (C) の電荷を置くと、その電荷には
として定義される。電界 E
~
F~ = q E
(11.3)
の力が働くことになる。
例えば、原点に電荷 Q の粒子(単に電荷 Q と言ったりする)を置いた
~ = E は、(11.1) より原点からの
時に、それにより生じる電界の強さ |E|
距離 r の点では Q
E=k 2
(11.4)
r
となる。 11.2.2
電気力線
電界というのは目に見えずイメージし難い。そこで 「電気力線」
というものを導入する。電気力線は磁気の場合の磁力線にちょうど対応
するものである。磁力線は N 極から発し S 極で終わるが、電気力線も、正
の電荷から “湧き出て”負の電荷で “消滅”する(図を参照)。
正確には電気力線は次の様に定義される: ・方向: 空間のある点での電気力線の接線の方向は、そこでの電界の方
向に一致する。
11.2. 電界と電位
53
密度: 電気力線に垂直な単位面積を通過する電気力線の数は、そこでの
電界の強さに等しい。
では、電荷 Q から “発散”して出て行く電気力線の総数は何本であろう
か?それには、電荷の位置を中心とする任意の半径 R の球面を考え、この
面を貫く力線の総数を数えれば良い。この球面上での電界の強さは、クー
ロンの法則より
Q
E=k 2
(11.5)
R
で与えられる。これは、球面上の単位面積を貫く力線の数に等しく、ま
た球面の面積は 4πR2 である。よって、球面を貫く電気力線の総数は
k
Q
Q
× 4πR2 =
2
R
²0
となる。こうして
「電荷 Q から生じる電気力線の総数は
という重要な結論が得られる。
11.2.3
Q
²0
(11.6)
本である」
電位
電界は単位電荷当たりの電気的な力であるが、それによって生じる単
位電荷当たりの位置エネルギーを
「電位」
という。例えば、原点に電荷 Q を置いた時に、それにより生じる電位 V
は、ちょうど万有引力に依る位置エネルギー(7.23)と同様に、原点から
の距離 r の位置で
Q
V =k
(11.7)
r
で与えられる。この関係から、電位が一定の面、即ち
「等電位面」
は原点を中心とする球面になる。一方、明らかに、ある場所の電界の方
向は、そこを通る球面に垂直である。これは一般的に言えることで
「電界の方向は等電位面に垂直である」
と言える。
位置エネルギー自身は基準点の取り方で変わるので、重要なのは位置
エネルギーの差である。同様に、電位に関しても、2 点 A、B での電位
VA , VB の差、即ち “電位差”
V = VA − VB
(11.8)
第 11 章 静電気
54
といったものが重要になる。電位差を単に
「電圧」
という事もある。
例えば、2 枚の十分大きな互いに平行な金属板からなり、それぞれに正
負の電荷を蓄えることの出来る
「コンデンサ」
に電圧 V の電池をつないだところ、2 枚の “極板”に +Q, −Q の電荷が蓄
えられたとする(図を参照)。この時の Q と V の関係を求めよう。電気
力線は正電荷の極板(正極)を出て負極で終わるので、電気力線、従って
電界も極板間にのみ存在する。電気力線の密度は明らかに極板間の場所
に依らない。極板の面積を S とすると、単位面積当たり、正極には Q
の
S
Q
電荷があるので、そこから出て行く電気力線の総数は ²0 S 本であり、これ
が極板間での電界の強さに等しい: E=
Q
²0 S
(11.9)
すると、単位電荷を負極から正極まで運ぶのに必要な仕事は (重力による
位置エネルギーが mgh であるように)
V = Ed =
Qd
²0 S
S
→ Q = ²0 V
d
(11.10)
となる。ここで d は極板間の距離。この V は電気的な位置エネルギーの
差、即ち電圧 V に他ならない。
(11.10) より Q と V は比例することが分かるが、その比例定数を C と
すると
S
C = ²0
(11.11)
d
これをコンデンサの
「電気容量」
あるいは「静電容量」という。C が大きいほど電荷がたまり易いことに
注意。即ち
Q = CV
(11.12)
である。
55
第 12 章 磁気
12.1
磁界と磁荷
方位磁石の磁針は南北の方向を指す。これは小さな磁石である磁針に
南北方向の力が働いているからである。このように、そこに磁石を置く
と磁石が力を受けるような場所を
「磁界」あるいは「磁場 (magnetic field)」
という。磁針の N 極が指す方向を磁界の方向と定める。これはちょうど
正電荷(単位電荷)を置いた時に電荷が受ける力を “電界”と言うのに良
く似ている。
ちょうど電荷を置くとその周りに電界ができるように、磁界を生じさ
せている、電気量(電荷)に対応するものを
「磁気量 あるいは磁荷」
という。磁石の N, S 極に方位磁石を近づけると方位磁針が回転する(振
れる)ので、磁石の N、S 極に、正負の電荷に対応する、互いに逆符号の
磁荷があると考えることができる。
電界の時と同様に、
~ は、そこに単位磁荷を置いた時にその磁荷が受ける
「ある場所の磁界 H
力」
~ = qE
~ (11.3) に対応して と定義される。すると電気の場合の F
~
F~ = mH
(12.1)
~
が言える。ここで m は磁荷(磁気量)であり、(12.1) は磁荷 m を磁界 H
の場所に置いた時にその磁荷が受ける力である。
電気の時に「電気力線」を考えたように、磁気についても
「磁力線」
を考える。磁石の近くに方位磁石を置いた時に磁針の指し示す方向が、そ
56
第 12 章
磁気
の場での磁界の方向である。磁界の方向を連続的に連ねた曲線が磁力線
であり、磁石の上にシートを引いて鉄粉をまくと、少しシートを揺する
と磁力線のパターンが見える(図を参照)。
所で、方位磁石は回転はするが全体は(その重心は)動かない。これ
は、N 極と S 極の磁荷が、大きさが同じで符号が逆のため、それらが受
~ + (−m)H
~ = ~0 となるからである。磁気は電気
ける力が釣り合って mH
とよく似た性質を色々と持つが、これ(正負の磁荷が必ずペアーで現れ
る)が磁気の電気との大きな違いである。電気の場合には、例えば負の
電荷をもつ電子(“電気単極子”)を単独で取り出す事が可能である。し
かし磁気の場合には 「磁気単極子 (magnetic monopole) は存在しない」
ことが知られている。つまり N、S 極を単独で取り出すことは出来ず、そ
れらは常にペアーで(対になって)現れることが知られている。実際、大
きな磁石を二つに切ると、切った部分の N、S 極が対になって現れ、より
小さな磁石が2個になるだけである(図を参照)。
57
第 13 章 電流と磁気
「静電気」については既に学んだが、この章では電荷が運動すること
で生じる電荷の流れ、即ち
「電流」
について考えてみる。また、磁気は電流によって生じる事を学ぶ。
13.1
電流とは
金属の様な、電気の通り易い、即ち電流の流れやすい物体を
「導体」
という。では、なぜ金属では電流が流れ易いのであろうか。それは金属
中には 「自由電子」
という、原子核の束縛から離れ自由に運動出来る電子(電荷 −e (e : 電気
素量))が存在するからで、その流れが電流の正体である。
導線の様な細長い導体の両端に電池をつなぐと、両端の電位差(電圧)
は強制的に一定に保たれ、
(ちょうどコンデンサに電圧がかかると、極板
間に電界が生じる様に)導線中に電界が生じる。そのため導線中の自由電
子はクーロン力を受けて加速されるが、自由電子は金属中の金属イオン
(金属の原子から自由電子がはがれたもの)にぶつかり散乱されることで
一種の抵抗力を受け、電圧がかかってから十分時間が経ち “定常状態”に
なると、
(ちょうど上空から降ってくる雨滴の様に)電子は一定の平均的
速さ hvi で “流れる”ようになる。こうした巨視的な電荷の流れを
「電流」
と言う。
所で、電流の向きは歴史的に「正電荷の動く方向」として定義されて
しまったため、実際には、電流の担い手である自由電子の移動方向と電
流の方向は逆であることに注意しよう。
第 13 章
58
電流と磁気
電流の大きさ I は、導線のある断面を単位時間当たりに通過する電荷
である。単位は C/s であるが、これを特に A(アンペア)と表す。
13.2
電流と磁界
磁石を切ってもより小さな磁石が現れる、と述べたが、限りなく小さ
く切って行くと最後はどうなるであろうか?最後は原子に行き着く。そ
こでの小さな磁石の正体は電子が原子核の周りを回ったり、スピン(電
子は言わば “自転”している)をしたりして生じる、小さな 「円形電流」
である。つまり、小さな円形の電流があると、それは小さな磁石 (N, S 極
のペアーを持った) と等価なのである。こうして
電気: 静止した電荷により生じる
磁気: 運動する電荷、つまり電流により生じる
という事が分かる。実際、エルステッドは 1819 年に電流の流れている導
線の近くの磁針が振れるのを発見したが、これは電流により磁界が生じ
たことを表している。
円電流が磁石の起源であると述べたが、では円電流により生じる磁界
はどの様に与えられるであろうか?半径 r の円形の導線に電流 I が流れ
~ は、電流の
ている(円電流)とする。この時、円の中心に出来る磁界 H
流れる方向に右ねじを回した時に右ねじの進む方向であり、その大きさ
~ は、実験によれば、I に比例し r に反比例する事が分かる:
H = |H|
H=
I
.
2r
(13.1)
この関係から磁界の単位は A/m となる。ちょうど、沢山の電荷が空中に
分布している時に、ある点の電界は、各々の電荷が作る電界ベクトルの
和になる様に、円電流の作る磁界は、円の各部分を流れる電流の作る磁
界を足したものになる。円の単位長さの円周部分を通過する電流が円の
中心に作る磁界を H1 とすると
H = H1 × (2πr) → H1 =
H
I
=
2πr
4πr2
(13.2)
となる。より一般的には、単位長さの線分を流れる電流が、電流の方向
と角 θ を成す方向の、距離 r だけ離れた点 P に作る磁界は、線分と点 P
13.2. 電流と磁界
59
を含む平面に垂直で、電流の方向から点 P の方向に向かって右ねじを回
した時に右ねじの進む方向を向く。また、その磁界の大きさは
I sin θ
4πr2
H=
(13.3)
となる。(13.2) は (13.3) で θ = π2 とした場合に成っている。(13.3) を
「ビオ・サバールの法則」
1
と呼ぶ。
(13.2)、(13.3)は、電荷 Q の作る電界 E = k rQ2 (k = 4π²
)(11.4)
0
と良く似ている事に注意しよう。
次に、無限に長い直線上を電流 I が流れている時に、この直線から r 離
れた点 P に出来る磁界の大きさ H を考える。これは、直線を微小な線分
に分割し、それぞれの線分が点 P に作る磁界をビオ・サバールの法則を
使って求め、それを全ての微小線分について足し合わせる(実施には積
分)ことで求めることが出来るが、ここでは詳細は省き結果のみを書く:
H=
I
.
2πr
(13.4)
この場合、電流 I に直交する面上で、電流と交わる点を中心とし半径
r の円を考えると、この円に沿って単位磁荷が動く時に磁界のする仕事は
H × 2πr =
I
× (2πr) = I
2πr
(13.5)
となる。この関係は円に限らず、任意の閉じた曲線にそった仕事を考え
ても変わらない。
まず、一般に 3 次元空間においては、物体に働く力がする仕事は
「線積分」
で表されることを説明しよう。物体が基準点 O(普通は原点) から点 P ま
で、径路 C にそって動いたとする。径路 C を非常に多くの N 個の微小な
~i 、微小変位を ∆~ri とする
区間に分け、i 番目の区間での物体に働く力を F
~i · ∆~ri がこの区間で力のした微小な仕事を表す 。この微小仕事を全
と、F
ての区間について足し、N を無限大に(従って区間の幅を無限小に)す
る極限 lim
N
X
N →∞
F~i · ∆~ri (13.6)
i=1
を考えると、これが物体が点 O から点 P まで移動する間に力が物体に対
してした仕事を表す。(13.6) を
Z
C
F~ · d~r
(13.7)
第 13 章
60
電流と磁気
R
と書く。 C は径路 C に沿っている事を表す。こうした径路(一般に曲線)
に沿った積分を「線積分」という。
線積分を用いると、(13.5) 式を一般化した関係式は I
H
~ · d~r = I
H
(13.8)
となる。ここで は電流 I を囲む閉じた曲線に沿って一周する線積分を
表す。
(この関係式が任意の閉じた経路について成り立つことは、ここで
は証明しない。)
この関係式を
「アンペールの法則」
と呼ぶ。
「ビオ・サバールの法則」、
「アンペールの法則」は等価なものであり、
電流と磁界との関係に関する基本的な法則である。