第2章 静止流体の力学

2014/11/22
2章
静止流体の力学
2.1 静止流体の
(pressure)
圧力は次の三つの性質を持つ.
(1) 静止流体中の圧力は
作用する.
(2) 静止流体中のある点の圧力は,
同じ値をとる.(圧力
の等方性,例題2.1で証明している.)
(3) 密閉した容器内の流体に加えた圧力は,容器内の全ての部分に同じ
強さで伝わる.…
原理
水面に接する高さhの仮想的な円柱の底面積A
に働く圧力pを考える.
円柱内の水
に働く力F(
と呼ぶ)は,水の密度を,
重力加速度をgとすると
F  pa A  Ahg
であるので,
[N]
pa 大気圧
自由
表面
h
p + dp
水圧pは次式で表される.
p
p 圧力
dh
(2.1)
A 底面積
F
 p a  gh [N]/[m2] = [Pa] (2.2)
A
p
F
 p a  gh
A
(2.2)
このように,水圧は深さhに依存するので,水の高さで表すことがあ
る.さらに,
における圧力p + dpは次式で表される.
(2.3)
p  dp  p  g h  dh
a
式(2.2)と(2.3)の差をとると
(2.4)
2.2 圧力の表し方と単位
を基準とする圧力を絶対
圧力(absolute pressure),大気圧を pA
pa
基準とする圧力を
圧力(gauge
pressure)という.
圧力がpA,pB pB
の時の
圧力pA (gauge),pB
0
(gauge) は次式で表される.
正のゲージ圧
101.32 kPa : 標準大気圧
負のゲージ圧
(真空ケージ圧)
絶対真空
Vacuum
pA(gauge) = pA – pa > 0,pB(gauge) = pB – pa < 0
ここで,paは
大気圧である.
1
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SI単位系では圧力の単位はPaであるが, 他に次のものが使われる.
: 9806.65 Pa(Wgh = 103×9.80665×1)
: 133.32×103 Pa(Hggh = 13.595×103×9.80665×1)
: 1 mmHg
(at工学気圧): 98.0665×103 Pa(9.80665N/10-4 m2)
(標準大気圧) : 101.32×103 Pa = 760 mmHg(Hggh =
13.595×103×9.80665×0.76)
bar
: 105 Pa(CGS単位系から発生)
: lbf/in2(英米で使われる.1 atm = 14.7 psi)
(= mAq)
ここで,
×103 kg/m3は0ºCにおける水銀の密度である.
なお,気象では標準大気圧(101.32 kPa)を慣例により
hPaと
いうようにhPaを用いて表している.
2.3 圧力の測定
a.
(液柱圧力計,manometer): 圧力の時間的変動
(圧力変動)の小さい時の計測に適する.
最も単純なマノメータを右に示す.この例では,管内を流れる液体の
圧力pを測っており,圧力は次式で表される.
p
(2.6)
透明管
圧力が高い時には,長い透明管を使う代りに,
水銀などの高密度’の液が入った
マノメー
タを用いる.U字管において,
の原理によ
り,同一の液でつながった同一高さのA-Aの圧力
は等しいので,次式が成立つ.
p
より
p  pa   ' gh  gh1

(2.7)
a
(大気圧)
h
p
密度 
p
水面は
同じ高さ
a
等圧
h1
A
h
A
水準器の原理
’
(水銀)
管内の流体が気体の時には,水銀の代りに水をマノメータ液として
使うことが好都合であり,しかも式(2.7)のgh1は,一般に
と比較
して極めて小さいので(∵ << ’),無視して良い.
2
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1 
2
p
マノメータ(differential manometer)
1
2点間の圧力差が大きい時は
マノメータが好
h1
都合である.前例と同じく,同一の液でつながった同
一高さの点A-Aの圧力は等しいので,次式が成立つ.
2
h2
h
A
A
より
p
’
p1  p2   2 gh2   ' gh  1 gh1
(2.8)
(水銀)
b.
圧力計: マノメータでは測りにくいほど高圧であって圧力
変動が小さい時に適する.
圧力計などがある.
c.
圧力計: 圧力変動の測定が可能だが高価.抵抗線ひずみ
ゲージ式,半導体ひずみゲージ式などがある.
2.4 パスカルの原理
水圧プレス,
プレスへの応用(例題2.3): 密閉した容器にお
いて受圧面積をA2 > A1とすると,p = F1/A1 = F2/A2より
と
なるので,小さな力で重いものを持ち上げることができる.
dy
2.5 図形の各種モーメント
(1) 断面一次モーメント
(2.10)
G
𝐼𝑥 =
𝑦 2 𝑑𝐴 =

×
𝑦 2 𝑏𝑑𝑦
2
G'
G
(2) 断面二次モーメント
𝑦2
b(y)
dA
1
全面積A
(2.11)
yG y1
𝑦1
y
y2
x'
x
(4) 断面二次モーメントの平行軸定理
平行軸の定理は,
断面二次モーメントIxを,
G
軸回りの断面二次モーメントIGを用いて表す時に使う定理である.式
(2.11)において,
とおくと
Ix  
2
1
 yG
2
 yG   2 dA  
G
2

 2 yG   2 dA
1
2
2

1
ここで,
y
2
2
1
1
dA  2 yG  dA    2 dA
2

,の起点は重心だから dA  0 ,
1
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dy
G軸回りの断面二次モーメント

2
2
1  dA  I G
を代入すると
G

y
y2
x'
x
h
2
(長方形の場合)
h
h
2  2 dA  2 2  2bd
h

0
2
G'
1
全面積A
yG y1
図心を通る軸回りの断面二次モーメントIG

2

× (2.13)
G
なお,教科書の式(2.13)では,x軸から図心
までの
はhと書いてある.
IG 
b(y)
dA
dA=bd
d
h
 3  2 2b  h 3
 2b   
 
3 2
 3  0

h
×
G
G'
公式として覚えること.
- h
2
b
(円盤の場合)
IG 

d

2  2dA 2 2
d

0
2

d2
d
d4
sin2  d cos cosd 
4
2
4


2 sin2 cos2 d
0
dA
dA
ここで,倍角の公式より
d
であり,
cos 4  1  2 sin 2 2 より


G
×
G'
d
 = (d/2) sin  より
d = (d/2) cos  d
また,dA = d cos  d
であるので,
d4 
d4
2


IG 
1

cos
4

d



32 0
32

4
1

 2 d


sin
4




4
64

0
公式として覚えること.その他の形状については工業力学・材料力学
等の本を参照すること.
4
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2.6静止している流体の圧力(静水圧)
2.6.1 平面壁に及ぼす力
水面から斜面に沿ってyの距離における圧力(ゲージ圧力)は
(2.15)
であるので,平板の面積Aに対する作用力(
,total pressure)は
y
F  g sin  y12 ydA . (2.16)

ここで,O軸から面積Aの図心Gまで
の距離yGは
zG
(2.17)
z
y y1
y2
p=
 gz
yG
dy
dA
x
Gx
C
であるので,式(2.16)は次式となる.
F  g sin yG A  gzG A  pG A (2.18)
結局,全圧力Fは平板の
で与えられる.
yC
A
における水圧×平板の面積
圧力の中心
水圧によって平板に働く
は,通常,式(2.16)のように
積分して求める.しかし,円盤の時のように,全圧力F×
yc (center of pressure)として求める方が便利な場合がある.ycの定義式
は次式である.
g sin   ydA  yc   gy sin dAy  g sin   y 2dA
右辺は水圧によるモーメントの合計である.上式を簡単にすると,
 y dA  I x
yc 
 ydA yG A
2
(2.20)
が得られる.ここで,yGは図心までの距離,Ixは
の断
面二次モーメントである.次に,図心を通るG軸回りの断面二次モー
2
メントIGを用いると,平行軸の定理により I x  yG A  I G と表される
ので,式(2.20)は次のようにも書ける.
(2.22)
5
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水門に作用する水圧とトルク(回転モーメント)
長方形の水門の回転を止めるため
に必要な力Fを,
トルクの
釣合いから求めてみる.
面積
bdyに働く水圧による力は
で表されるので,
モーメ
ントdTは次式で与えられる.
dT  gzbdy y
z
h1
b
x
h
p = gz
(a)
したがって,水門全体に働く
x
y
F
dy
は次式となる.
h
 y 2 y3 
gbh 2
3h1  2h (b)
T  gb  h1  y ydy  gb h1
  
2
3
6

0
h
0
これが
と釣合うので
(c)
x
2.6.2 二次元曲面壁に及ぼす力
微小面dAに働く力は
であり,そのx方向とz方向の分力
は次式で与えられる.
z
z
dFx  gzdAsin   gzdAx,
p = gz
(∵dA sin  = dAx)
dA
pdA cos 
= pdAz
Fx   dFx  g  zdAx  gzG Ax,
zG
Ax ×GG
Ax

dAのx面への
投影面積dAx
(2.25)
面全体Aに働くx方向とz方向の分力は
pdA sin 
= pdAx
Az
dAのz面への
投影面積dAz
Fz   dFz  g  zdAz  gV (2.26)
∴Fxは図心の深さでの水圧gzG×曲面のx面への
Axに等しい.
Fzは曲面の上方にある
(Vは体積)に等しい.
結局,
と tan  
Fx
で大きさと方向が求められる.
Fz
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円筒を引き裂く力
円筒内部の圧力pによるx方向の分力は,p×曲面の
面積Ax
で与えられる.したがって,引き裂く力と材料の耐力の関係は次のよ
うになる.
T
t
2 T tl  pdl
引張応力
p
⇒
d
pdA
T
dA
拡大

x
T
T
l

p
pdA cos 
= p dAx
dAx = dA cos 
曲面のx面へ
の投影面積
ここで,Tは
応力である.このTが材料の
応力(引張強さ÷
安全率)以下となるように,配管や圧力容器の設計(材質や肉厚の決
定)が行われる.なお,引張強さは
によって決まるので,同じ材
料の場合,dが小でtが大なるほどpが大きくとれ,
性能が良いとい
える.
2.7浮力(buoyancy force)
(a)
の原理
面積A,高さhの物体に働く水圧による垂直方向上向きの力を(+)と
して考えると,
F   p0  gh2 A   p0  gh1 A  g h2  h1 A  ghA  gV
下の面
上の面
水面に浮いた物体では,水
面
に対する浮力を考
えれば良い.すなわち,物体
の
が浮力ghAと同じ
大きさになるように深さhは
決まり,その状態で浮く.
…これが浮力
大気圧 p0
h1
h2
h
面積A
p0 + gh1
p0 + gh2
(水平方向は釣合うので考えなくてよい)
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(a)船の安定性とメタセンタ
船が傾くと,浮力Fの中心C点を通る
軸(浮揚軸)と船の重量W
の作用軸がsだけずれるので,
のモーメントが発生する.
交点がメタセンタ
浮力 F
F
C'点を通る垂直軸
M

船の重心 G
C
傾く前の
浮力の中心
M
C'
s
W 船の重量
G
C'
s
傾いた時の
浮力の中心
W
このモーメントは,船が少し傾いた状態では船の重心Gに対して反
時計回りとなり,傾きを戻す
を生じる.しかし,大きく傾いた
状態では時計回りとなり,傾きは
方向になる.したがって,船
の
はこのモーメントの方向で決まる.その安定性を決めるのが,
メタセンタ(傾く前の
と傾いた時の浮揚軸の交点M)の位置で
ある.すなわち,Mが重心Gより
あれば復元力が働いて安定とな
り,Mが重心Gより
あれば不安定となる.
z
2.8流体静力学の基礎式
dy
静止流体中の微小六面体
に働く
のつり合いを考える.外力には圧力pによる力
と
(body force)があり,後者は単位質
量あたりにx, y, zの各方向に成分X, Y, Zを持つ.
p
p + x dx
(地表に垂直な上向きをz軸とすれば,重力に
よる作用は
で表わすことができる)
o
x
x方向の力のつり合いより,
𝜕𝑝
𝑝𝑑𝑦𝑑𝑧 − 𝑝 +
𝑑𝑥 𝑑𝑦𝑑𝑧 + 𝜌𝑑𝑥𝑑𝑦𝑑𝑧𝑋 = 0
⇒
𝜕𝑥
同様に,
p
p
(2.29)
 Y ,
 Z
y
z
f dy
y
圧力pは座標(x, y, z)のみの関数であるので,
∂𝑝
∂𝑝
∂𝑝
𝑑𝑝 =
𝑑𝑥 +
𝑑𝑦 +
𝑑𝑧
∂𝑥
∂𝑦
∂𝑧
式(2.28)と
(2.30)
を代入すると
𝑑𝑝 = 𝜌(𝑋𝑑𝑥 + 𝑌𝑑𝑦 + 𝑍𝑑𝑧)
f
y
f
(2.31)
(x, y)
f
x
dx
df =
p
dz
dx
y
(2.28)
f dx +
x
f dy
y
f dx
x
(x + dx, y +dy)
dy
f
y
x
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水面などの
ではdp = 0となるので次式が成り立つ.
𝑋𝑑𝑥 + 𝑌𝑑𝑦 + 𝑍𝑑𝑧 = 0
(2.32)
上式は
ベクトル(X, Y, Z)と
ベクトル(x, y, z)の内積がゼロ
であること意味している.したがって,
(外力の方向を示す線)
と等圧面は垂直でなければならない.
2.9相対的静止の状態
容器内の流体に一定の
を作用させても,容器に対して相対的
な流れが起こらなければ,その流体はみかけ上,静止状態となる.こ
れを
の状態と呼ぶ.
z
2.9.1等加速度直線運動
質量mの流体粒子に働く力は重力
mgと
mの二つであり,それぞ
れz方向とx方向の逆方向であるので,
h
式(2.31)にX = -  ,Y = 0,
,を
代入すると
m

m


等圧面
F mg
x
z
(2.40)
となる.これを積分し,x = 0,z = hに
おいて
の境界条件を代入して積 h
分定数を決めると次式が得られる.
m

m


等圧面
F mg
x
𝑝 = −𝜌 𝛼𝑥 + 𝑔𝑧 + 𝐶 ,
より,
𝑝 − 𝑝a = −𝜌𝛼𝑥 + 𝜌𝑔 ℎ − 𝑧
(2.41)
上式にp = paを代入すると液面を表す式を求めることができる.液面
の傾きを与える式はその式を
すると求められる.
𝑑𝑧
𝛼
𝛼
= −
𝑧 = − 𝑥 + ℎ , tan 𝜃 =
𝑑𝑥
𝑔
𝑔
(2.42)
液面は合力Fと
なり,液面から深さzの位置では圧力はpa + gz
となるので,液中の
は液面と平行になる.
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2.9.2 鉛直軸まわりの
運動
周方向の力がなく,半径方向と
方向のみの力がある場合の圧力変化は
次の基礎式で表すことができる.
遠心力
mr2 
r

F
等圧面
mg
𝑑𝑝 = 𝜌 𝑅𝑑𝑟 + 𝑍𝑑𝑧
h0
z
(式の導出はノート2.5参照) (2.39)
角速度 
この問題では,質量mの流体粒子に働く力はzの負の方向の重力mgと
r方向の
の二つであるので,式(2.39)にR = r2, Z = - g,
を代入すると
(2.43)
𝑑𝑝 = 𝜌 𝑟𝜔2 𝑑𝑟 − 𝑔𝑑𝑧
これを積分し,r = 0,z = h0において
分定数を決めると次式が得られる.
の境界条件を代入して積
1
𝑝 = 𝜌𝑟 2 𝜔2 − 𝜌𝑔𝑧 + 𝐶 ,
2
1
𝑝 − 𝑝𝑎 = 𝜌𝑟 2 𝜔2 + 𝜌𝑔 ℎ0 − 𝑧
2
1
𝑝 − 𝑝𝑎 = 𝜌𝑟 2 𝜔2 + 𝜌𝑔 ℎ0 − 𝑧
2
より,
(2.44)
(2.44)
この式より,z = 一定の断面では
に比例して圧力が上
がることが分かる.
ポンプはこの原理を使っている.上式にp =
paを代入すると液面を表す式を求めることができる.
r 2 2
z
 h0
2g
(2.45)
この式から,液面は
であることが分かる.その傾きを与え
る式は式(2.45)をrで微分すると求められる.
(2.46)
なお,式(2.46)は液面と合力Fとが垂直になることからも導くこと
ができる.
10