第6学年B組 音楽科学習指導案 授 業 者 研究協力者 1 2 題材名 佐々木裕子 吉澤 恭子 静から動へ,主題の反復が導く圧巻のフィナーレとは! ~ペール・ギュント第 1 組曲≪山の魔王の宮殿にて≫より~ 子どもと題材 (1) 子どもについて 6年生の音楽の授業は3年生の時から音楽専科が担当している。学習活動の構築にあ たって,次の2点を重点事項と考えている。1点目は,小グループでの自力練習と発表 の場の充実である。毎時間の授業では,4,5人単位のグループで4~8小節間のフレ ーズを練習し,発表する活動を設けている。2点目は,鑑賞と表現の融合した活動であ る。特に,音楽づくりの活動を重視し,鑑賞教材の楽曲に対しても,主題の伴奏形に簡 単な和音やリズムを変奏させるなどのアレンジを行っている。 アレンジを取り入れた活動の成果として,個の技能,特に自分で楽譜を読み取り,演 奏する力が伸びている。5年生の共通教材については学年全員が人前で独唱することが できた。また,複雑な声部の合唱曲≪狩人アレン≫なども学年全体で合唱している。し かし,技能についてはまだまだ個人差がある。特に,歌唱については,新しい楽曲にな ると,歌うことに消極的になる子どももいる。表現と鑑賞を一体化した本題材に取り組 むことにより,子どもたちが改めて歌唱表現の豊かさ,喜びを感じることを願っている。 (2) 題材について 本題材で扱う主教材≪山の魔王の宮殿にて≫は,≪ペール・ギュント第1組曲≫の第 4曲目の作品である。ノルウェーの作曲家グリーグの代表作でもあるこの組曲の原型は, 彼自身が以前に作曲した劇音楽≪ペール・ギュント≫である。この作品はノルウェーの 作家イプセンから依頼を受け,作曲されたものである。後に,グリーグはこの中から4 曲ずつ選び,まとめた作品が2つの組曲(第1組曲・第2組曲)である。≪ペール・ギ ュント≫とは,イプセンが 1867 年に作った戯曲名であり,物語の主人公ペール・ギュン トが旅に出て,年老いて帰ってくるまでの物語が描かれている。 ≪山の魔王の宮殿にて≫は変奏曲風の形式(前奏+第 1~3変奏+コーダ)をもつが, この作品の最も特徴的な要素は主題の反復である。4小節からなる主題は,全曲を通し て 18 回繰り返される。主題反復の回数においては,リズム主題が 169 回繰り返される≪ ボレロ≫(ラベル作曲)には及ばないが,この主題が4小節単位に次々と反復していく ため,緊張感を生む。例えば,24 小節間の第1変奏では主題が6回反復する。しかも, 1,2回目は原調,3,4回目は5度上に転調,この8小節間の転調を経て,早くも5 回目に原調に戻り,6回目と続く。さらに,主題を演奏する楽器が次々に変わり,緊迫 感が増す仕組みとなっているため,演奏時には演奏者の瞬時の判断力が必要となる。よ って,「ライブ」感覚に富んだ臨場感あふれる劇場型の学習活動に適した題材と考える。 (3) 指導について 本題材では,表現(歌唱・器楽・音楽づくり)と鑑賞が融合した学習活動を展開する。 本題材による「仲間との対話」を通して思考を深め,「新たな価値」をつくり上げる姿 とは,楽曲構成に着目しながら,演奏形態やアレンジの工夫を試みる活動を通して,自 分と周囲の音の重なり,和声の響きを鋭敏に感じ取り,その場で自分の演奏(音量の加 減・音色の質の向上・楽器の分担の変更など)に修正を加えていく姿と考える。 ≪山の魔王の宮殿にて≫の構成は,前奏(1小節),第1~3変奏(24 小節×3), そして,コーダ(15 小節)から成る。演奏時間は約3分,前奏は pp で始まる。第一変 奏のクレシェンドはなだらかに展開するが,第2変奏後半からは急速に変化する。そし て,あっという間に fff となり,圧巻のコーダが終結する。対話による「新たな価値」 を引き出す手立てとしては,この3分間に仕組まれたダイナミクス(pp から fff への経 過)に着目させ,各変奏ごとの演奏形態やアレンジの工夫に取り組ませたい。主題を演 奏する楽器は鍵盤ハーモニカ,キーボード,歌声に限定する。小グループごとにこれら の楽器を組み合わせた演奏形態の工夫で,音色の変化をつくり出すことができる。また, アレンジについては,リズムや和音の変奏で表現させていきたい。いずれにしても pp の 響きは個で,fff は学級全体で奏でることが不可欠となる。ダイナミクスの変化を表現 することにより,個から小グループ,そして,全体へと音による「仲間との対話」が広 がり,「新たな価値」の創造の場を実感することを期待している。 3 題材の目標〈記号は本校の資質・能力表による〉 (1) 楽曲全体の曲想の変化に関心をもち,味わいながら聴いたり演奏したりしようとする。 〈 A-11 ・ B-3 〉 (2) 曲想の変化を表現するために,演奏形態の組み合わせやアレンジの工夫をしながら,演 奏することができる。 〈A-40〉 (3) ≪山の魔王の宮殿にて≫の主題や伴奏パートを歌ったり弾いたりすることができる。 〈A-14〉 (4) ≪山の魔王の宮殿にて≫の楽曲構成に着目し,主題の反復と共に pp から fff へと刻々と 変わる曲想の経過を味わいながら聴くことができる。 〈B-7・10【共通事項】1c〉 4 題材の構想(総時数8時間) 時間 学習活動 教師の主な支援 評価 〈本校の資質・能力との関係〉 1 ・ 楽曲の特徴的要素である主題の反復 ・ 主題の反復の効果を (1) ≪山の魔王の宮 について,演奏を通して体感できるよ 感じ取っている。 殿にて≫の主題を聴 うに,各フレーズを歌ったり弾いたり 〈B-3〉 いたり主題と伴奏パ する場の充実を図る。 ・ 主題や伴奏パートを ートを演奏したりす ・ 鍵盤ハーモニカ,キーボード,歌声 生き生きと演奏してい る。 で演奏できることを知らせる。 2 3 4 る。 〈A-11・14〉 (2) ≪ 山 の 魔 王 の 宮 ・ 主題の反復と楽曲構成との関係に視 ・ 主題の反復と楽曲構 点に当て聴いたり演奏したりすること 成のかかわりをつか 殿にて≫の伴奏形を ができるように,パートの増減で音量 んでいる。 アレンジする。 や質感の変化を体感させる場とする。 〈B-7・10〉 ① 楽曲構成を知る。 ② 小 グ ル ー プ ご と ・ 主題の反復に合った伴奏パートのア ・ 主題が反復するごと レンジの発想を広げるために,グルー に,アレンジも変奏さ に主題をアレンジ プ発表の場を頻繁に設ける。また,他 せている。 する。 グループの発表を聴いた後に,修正を 〈A-40・【共通事項】1c〉 加えるという学習の流れで支援にあた る。 5 互いの音を瞬時に感じ取り,判断し ・ 次々にアレンジを変 (3) ≪ 山 の 魔 王 の 宮 ていく力をはぐくむために,個やグル 化させていく方法が, 殿にて≫の全曲演 ープ,全体の音をよく聴き合う支援の 圧巻のダイナミクスを 6 奏をする。 あり方(聴き合う対象,回数・場面の つくり上げることに有 ① 第1~3変奏の 設定)について工夫する。 効ということに気付い 7 変化に合った演奏 ・ 圧巻のダイナミクスを表現するため ている 本時 形態やアレンジを に,第1~3変奏のどこに,どのグルー 〈B-7・【共通事項】1c〉 考える。 プのアレンジを入れていくのか,複数 8 ② 曲想の変化を考 の構成図(全体掲示と個人用)を活用 えながら,全員参加 させながら,考えさせる場を設ける。 による全曲演奏を ・ これまでの学習の成果を味わい,自 ・ 全曲を個々に支え合 行う。 ・ 他の変容,自己有用感をもつことがで きるように,さらに,適度な緊張感を 生かしながら上質の演奏を目指すこと ができるように,他学級との演奏を対 比して聴く,合同で演奏するなど劇場 型「ライブ」の場を大切にする。 い,学級全員で表現し ている。さらに,自他 共に感動をもって,響 き合いを味わってい る。 〈A-14〉 5 本時の実際 本時(7/8) (1) ねらい 反復による圧巻のダイナミクスを表現するために,一人一人が演奏形態の違いによる音 色の変化,リズムや和音の変奏による和声の変化に気付き,響き合いを共有しながら演奏 することができる。 (2) 展 開 時間 ○:「仲間との対話」を通して新たな価値を創造する手立て 学習活動 5分 ① 教師の支援 評価 本時の学習課題を知る。 ・ ≪山の魔王の宮殿にて≫の楽曲構成に着目して 学習活動に見通しをもたせるために,楽曲の全体 学習課題 構成を提示する。 圧巻のダイナミクスを表現す ≪山の魔王の宮殿にて≫の楽曲構成 るためにどんな工夫をして,ど 全曲~78小節 主題が4小節 う演奏する? 各変奏~24小節(主題4小節×6回) 視点・楽器の組み合わせ 前奏(1小節)+第1~3変奏(24小節×3) ・リズム変奏 +コーダ(15小節) 15分 ② ≪山の魔王の宮殿にて≫の第 ・ 音色の質感やリズム変奏などの発想力をはぐ 1~3変奏から選択して演奏す くむために,全体で一つのパターン(例:第1変 る。 奏の前半部分の演奏をする)を試してから,グル 【仲間との対話】 ープ練習に入るなど学習展開を工夫する。 ・ 小グループごとに,第1~ ・ 他グループとの和声の違いを感じ取ることが 3変奏から選択して,アレンジ できるように,グループ同士の演奏を対比しなが を手直し,演奏する。 ら聴く場を設定する。また,特徴的なアレンジを ・ 互いのグループの演奏形態 全体で取り上げ,聴き合い,さらに,そのアレン や響き合いの違いを聴き合う。 ジを全員が一緒に演奏することで,他グループの ・ グループごとのよさや改善 演奏を共有し合う場の充実を図る。 点を出し合う。 20分 ③ ≪山の魔王の宮殿にて≫の ○ 演奏形態やリズム変奏について,これまでには 前奏から第1~3変奏までを通 ない大胆なアレンジを引き出すために,男女別の して演奏する。 グループ活動を取り入れる。男子は他を圧巻する 【仲間との対話】【自分との対話】 ダイナミックな音質,女子は緻密なパートの組み 合わせが期待できる。 (予想される子どもの反応) 視点 音量の増減 ・ Aのグループのアレンジを第3変奏 楽器の組み合わせの工夫 に加えると効果的。 歌声パートの活用 ・ 第3変奏の後半に歌声が加わると曲 属音のリズム変奏 想が高まる。 ○ 急速に変化する曲想のダイナミクスを表現す ・ 低音(高音)で「ファ#」の音を るために,前時までの活動にはなかった各グルー 伸ばす(刻む)と迫力が増す。 プの工夫に気付き,その効果について全員で試し ・ 私は高音(低音)で支えている。 てみる場を適宜設けていく。 ・ 一人一人が結集した力はすごい。 各変奏ごとの音色の違い,リズムや和声の変 化に気付き,自分と周囲との音の重なり,響き 合いを感じ取りながら演奏している。 〈A-14・【共通事項】1c〉(演奏,表情) 5分 ④ 本時の学びをふり返る。 【仲間との対話】【自分との対話】 ≪山の魔王の宮殿にて≫の演 奏を通して本時をふり返る。 ・ 全員の力を結集して演奏し終えたことを取り 上げ,一人一人の変容や響き合いの共有の素晴 らしさを価値付けていく場とする。 (3) 「仲間との対話」を通して新たな価値を創造する子どもの姿 ≪学習活動③において≫ 子どもの姿 ・ 楽曲の後半,主題パートの演奏形態,伴奏パートのリズム変奏の組み 合わせが平板(貧弱)なため,クライマックスへの経過をダイナミック に表現できずにいる。 【協働して追究する「問い」 】 クライマックスの緊迫した雰囲気を表現するために,歌声パートと 低音パート(属音を使ったアレンジ)をどう組み合わせ,変奏を加え, 演奏を練り上げていくのか。 【教師の手立て】 ・ クライマックスを効果的に表現するための手立てとして,楽器パ ートに歌声パートを重ねること,属音を8分音府で刻んだり持続音 として伸ばしたりすることなどが有効であることを,複数の演奏の 比較検討から気付かせていく場の充実を図る。 T: 「 (構成図を示し)この辺からもっとクライマックスにもっていき たいのだけれど。 」 C: 「音量をあげる。 」 「楽器を増やす。 」 T: 「もっと作戦があるよ。こちらのグループの演奏を聴いてみて。 」 C: 「歌声パートを足す。 」 「リズムを変える。 」 T: 「どの辺から。実際に歌ってみようか。 (歌声を入れたりリズムを 変奏したりした演奏と以前の演奏を比較する。 ) 」 C: 「高まる。緊張感が違う」 「今のものを参考に,もっといいアレン 仲間との対話 ジができそう。 」 ・ 自分のパートが加わることにより,音質がパワーを増していく。 だから,自分のパートは大事だ。響きに厚みを付けるために,今度 はリズムをこんな風に変えてみよう。オクターブ下で弾いて(歌っ て)みよう。 ・ A さんの変奏,盛り上がるなあ。自分もやってみよう。 ・ B さんのこの和音が入ってくると,クライマックスを感じる。 ・ もっと強力にクライマックスを表現するために,この2つのグル ープの演奏のこのアレンジの部分を合わせると,きっとよくなると 思う。 ・ 歌と楽器の音が一体になったときは,響きがぐっと広がる。予想 以上の響きだ。 目指す 子どもの姿 ・ 主題と伴奏パートの双方が,自分の音で支えている,周囲の音に 支えられているという関係を感じ取り,よりよい演奏に向かって, 自分の技能を最大限に生かしながら,伸びやかに表現している。 ・ 演奏形態の違いやリズムの変奏により,クライマックスを効果的 に表現できるということを理解している。 ・ 「ライブ」の緊張感のもと,音による調和・一体感を目指し,自 分の演奏表現をその場でコントロールしながら演奏している。
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