今、図画工作科・美術科で目指したい授業 - 4つのポイント - 1 児童生徒の実態と教材の価値を踏まえた指導計画の作成 ○ 鑑賞と表現のバランスと関連性、及び「共通事項」の観点による題材や授業のねらいの系統性 を考慮して指導計画を作成する。 ・ 鑑賞の指導については、小学校では、表現の指導に関連させて行うことを原則としているこ とに、中学校では、各学年とも適切かつ十分な授業時数を確保するとともに、表現の指導と相 互に関連を図った指導計画を作成しましょう。 ・ 「形や色彩等の造形的な特徴をとらえ、それがもたらす感情を理解し、イメージをもつ」等 の「共通事項」に基づいたねらいを設定しましょう。 2 「感じる」ことをベースとした「発想力・表現力」の向上を目指す授業の展開 ○ 育成する資質や能力と学習内容との関連を明確にして、授業のねらいを設定する。 ・ この授業でどういう力を身に付けさせたいのかと、その授業で取り組む活動とのかかわりを はっきりさせて授業のねらいを設定しましょう。 ・ 作品を作り上げていく過程で「自分の感覚や活動を通して、形や色などをとらえる資質や能 力」「形や色などを基に、自分のイメージをもつ資質や能力」などの内容を身に付けさせるこ とを意識しましょう。 3 「授業のねらいの達成を目指す言語活動」の授業への位置付け ○ 形・色・イメージなどの〔共通事項〕の視点で、授業のねらいを達成する手立てとして「言語 活動」を位置付ける。 ・ 形や色、イメージという視点で作品を鑑賞し意見交換をさせる場と時間を確保するなど、積 極的に手段としての言語活動を取り入れましょう。 4 評価の工夫改善 ○ 題材や授業のねらいを達成するための具体的な手立てを設定した上で、指導を行ったことにつ いての評価を行う。 ・ ねらいに沿って、形や色、イメージなどの共通事項の視点で具体的な指導をして、指導した ことを評価しましょう。 育成する資質や能力と学習内容との関連を明確にして授業のねらいを 設定している実践事例 小学校図画工作科第6学年学習指導案 1 題材名「墨から感じる形や色」 2 題材の目標 (1) 墨と水でできる形や色に興味をもち,自分の心や感情を表すことに絵に表すことに取り 組もうとしている。 (造形への関心・意欲・態度) (2) 心や感情について自分の思い描いたイメージが表れるよう、墨の色の濃淡を試しながら 心地よい調和やリズム感のある絵を考えている。 (発想や構想の能力) (3) 墨や筆などの特長を生かしながら、濃淡の美しさ、墨を薄めない強さ、薄い墨のにじみ の美しさなど、表し方を工夫している。 (創造的な技能) (4) 自分や友人の作品を見合ったり,話し合ったりして,墨の濃淡やにじみの感じ、イメー ジの変化などを捉えている。 (鑑賞の能力) 3 本時のねらい 墨や筆などの特長を生かしながら、濃淡の美しさ、墨を薄めない強さ、薄い墨のにじみの 美しさなど、表し方を工夫している。 4 学習過程 段階 学習活動・内容 時間 ◯ 指導上の留意点 ☆ 達成規準 1.参考作品を見て、墨の特徴に 10 ◯ 参考作品は、墨の濃淡やにじみ、かすれなどが ついて話し合う。 分かりやすいものを用意し、全員が見やすいよ 導 ・濃淡が出せる。 うに大画面の電子黒板を使用する。 ・薄い墨は柔らかい感じがする。 この時間に学習する重要な内容を確認して ・薄いと、にじむ ・濃い墨は強い感じがする。 います。これによって、児童はこの時間、水 ・かすれはいきおいがある。 墨画を描くことで何を学習するのか、明確に 入 意識することができていました。 2.本時のめあてをつかむ。 墨の特長を生かして、調和や リズム感のある表現ができる か、試してみよう。 ◯ 机上に書写の時間のように、硯、新聞紙の上に 下敷き、墨、習字紙を用意させるのに加え、筆 洗バケツに水を汲ませ、筆ふき雑巾も用意させ る。 3.墨で「調和のある表現 」「リ 30 ◯ 墨の濃淡の出し方は難しいので、濃い墨は原液 ズム感のある表現」をするため で、中間は墨1水5ぐらい、薄いは墨1水20位 構 に、濃淡やにじみ、かすれを意 を目安にし、後は筆洗バケツをうまく使って表 想 識しながら、試しながら描く。 現するとよいことを知らせる。 / ねらいと〔共通事項〕の関連が明確にされ 表 (1)試しながらどんどん描く。 ています。児童は、描くときや、他の児童の 現 (2)墨の色の濃淡やにじみ、かす 作品を見るときに、薄い墨は柔らかい感じ、 れの効果を感じる。 濃い墨は強い感じ、かすれはいきおいがある、 (3)他の児童の作品を見て、濃淡 やにじみ、かすれの効果につい て話し合う。 という墨の特徴と、その組合せから生まれる 調和やリズム感を意識して活動していました。 ねらいと〔共通事項〕との関連が明確にな り、学習に深まりが見られました。 (4)話し合いで感じたことを生か して、濃淡やにじみやかすれを 効果的に使って、調和やリズム 感がある絵を描く。 ◯ 普段使用している習字紙で試させることによっ て、失敗がないこと、何度もできることを理解 させ、どんどんいろいろな方法を試させたい。 ○ 構想で困っている児童がいたら、他の子の表現 を見てくるように促す。 ☆ 墨の濃淡やかすれ、にじみの効果を生かして 柔らかさや強さ、勢いのある表現をしようとグ ループの友達と相談している。 鑑 4.1時目にできた互いの作品を 5 ◯ 互いの作品を鑑賞し合い、「墨の色の濃淡」「に 鑑賞しあう。 じみ、かすれ」を中心に、よいと思った表現は 賞 自分の表現に取り入れてもよいことを確認する 。 この実践は、〔共通事項〕の「形や色などを基に、自分のイメージをもつ資質や能力」と題 材の学習内容である「墨の特徴から受けるイメージ」との関連を明確にして指導したものです。 一般的に、この題材を扱う場合、幾何学的な模様を描きそれで終わってしまいがちですが、 この実践では、薄い墨からは「やわらかいイメージを感じる」こと、濃い墨からは、「強いイ メージを感じる」こと、墨のかすれからは、 「 いきおいを感じる」こと等、共通事項である、 「形 や色をとらえ、それを基に自分のイメージをもつ」という大切な内容を、導入の作品鑑賞で確 認しています。 これによって、墨の濃淡や、かすれ、にじみを組み合わせて、自分のイメージどおりの心地 よい調和やリズム感のある絵を構発想・構想させるという、学習内容と〔共通事項〕の関連を 明確にして、ねらいを設定しているところが大変参考になります。 積極的に手段としての言語活動を取り入れた実践事例 中学校第1学年『美術科』学習指導案 1 題材名 「味わおう、形や色に注目して」 (鑑賞) 2 題材の目標 (1) 造形的なよさや美しさ、作者の心情や意図と表現の工夫などに関心をもち、主体的に感 じ取ろうとしている。 (美術への関心・意欲・態度) (2) 造形的なよさや美しさ、対象のイメージ、作者の心情や意図と表現の工夫、主題と表現 技法の選択や材料の生かし方などを感じ取り、自分の思いや考えをもって味わっている。 (鑑賞の能力) 3 本時のねらい 形や色彩の視点からいろいろな作品を鑑賞し、造形的なよさや美しさ、対象のイメージ、 作者の心情や意図と表現の工夫、主題と表現技能の選択や材料の生かし方などを感じ取り、 自分の思いや考えをもって味わっている。 4 学習過程 段階 導 入 学習活動・内容 時間 ◯ 指導上の留意点 ◇ 評価 1.本時のめあてをつかむ。 10 ◯ 生徒になじみのあると思われる作品を数点準 (1) 作品の概要を知る。 備し、それぞれ鑑賞させる。 ① 題名、作者等を知る。 (2) 本時のめあてを把握する。 「自画像1887」 ゴッホ 「笛を吹く少年」 マネ 気に入った作品を紹介しよう 「夜警」 レンブラント 「リンゴとオレンジのある静物」 セザンヌ ~形や色に注目して~ 「私と村」 シャガール 2.作品を鑑賞し、自分の考えを まとめる。 展 (1) 視点に沿って考える。 開 ① 形や色彩から受ける感じ ② 思い浮かぶイメージ ③ ①や②から自分のお気に 入りの作品を選択する。 漫然と鑑賞するのではなく、視点を明確にし ているところが参考になります。ここでは、造 形要素の「形や色」がもたらす感情について生 徒に意識させ、ねらいに迫っていました。 また、思い浮かぶイメージが造形要素と関連 があることにも、先生の働きかけで意識が向け られるようにしていました 。(ヒントや生徒の 言葉を補うこと等。) 具体的な例を示してわかりやすさ を優先していたことが参考になりま す。お気に入りの理由を尋ねても、 「なんとなく 」、と答えてしまう生 徒にも、先生が言葉を補い、援助し て、生徒に自分がなぜそのように感 じるのかを造形要素を関連付けて意 識させていました。 ○ 20 机間指導で、ヒントを与えたり、生徒の言葉 を補うなどして、形や色から受ける感じ、思い 浮かぶイメージに意識を向けさせるようにする。 例:太い線(力強い、激しさ) 細い線(よわよわしい) 鋭角な形(とげとげしさ、情熱的) 曲線による形(柔らかさ、穏やかさ) 赤い色(攻撃的) 青い色(冷たさ、さわやかさ) ○ 個人でワークシートにまとめさせる。 ○ 教師が生徒の言葉を補い、促して、(1)の①、 ②に触れて、理由を明らかにしてお気に入りを 紹介し合うようにさせる。 例:太く短い線で力強さや大胆さを感じる。 ・背景が紺色で不安な感じがする。 ・強い決意の顔のイメージ ・シャツの赤、ズボンや帽子の黒が鮮やかで 目に飛び込んでくる。バックの薄ぼんやり した色が対照的で少年の存在感を感じる。 3.グループで紹介し合う。 (1) 各自、(1)の①、②を基に 理由をはっきりさせて、お 気に入りの作品を発表す る。 (2) 他の発表を聞いて様々な 感じ方があることを知る。 (3) 意見交換をする。 この部分が、美術科における、本時のねらい を達成するための手段としての言語活動となり ます。 大切なことは、ただ話し合わせるのではなく、 形や色からもたらされる感情とイメージについ て、話し合わせることです。 ここでは、先生の援助を受けながら 、「どの 作品が好きか。その理由として、形や色からも たらされる感情やイメージと関連させて意見を 交換する 。」ことが活発に行われていました。 ○ 4.グループ代表の発表を聞く。 (1) 代表者を選び、意見を発 表する。 (2) 意見を交換する。 5.共通点に気付く。 10 (1) 形や色と感情、イメージ の関係に気が付く。 (2) 形や色が人間の感情を動 かし、共通性があることに 気付く。 5 終 末 教師が生徒の言葉を補い、促して、(1)の①、 ②に触れて、理由を明らかにしてお気に入りを 紹介し合うようにさせる。 例:太く短い線で力強さや大胆さを感じる。 ・背景が紺色で不安な感じがする。 ・強い決意の顔のイメージ ・シャツの赤、ズボンや帽子の黒が鮮やかで 目に飛び込んでくる。バックの薄ぼんやり した色が対照的で少年の存在感を感じる。 ○ 各グループから、①、②の視点と感情やイメ ージを明確にして作品を選んでいる生徒を意図 的指名して発表させる。 ○ 他のグループの同じ作品を選んだ生徒にも意 見を発表させる。 ◇ 形や色彩の視点から作品を鑑賞し、その感 情や特徴からとらえたイメージを基に自分の 考えを持ったり、他の生徒の意見を聞いたり して、よさを味わっている 。 (発言、ワーク シート) 6.次時の予告を確認する。 5 ○ 形や色の感情とイメージを考えて、作品の構 (1) 次時に、この学習内容を 想を練るようにさせる。 生かして表現していくこと を知る。 独立した鑑賞領域の実践例です。学習指導要領には鑑賞に充てる時数は示されていません が、生徒に、学習指導要領に示された【B 鑑賞】の内容を確実に身に付けさせることができ るように適切な時数を確保することが大切です。 「言語活動」については、それを行うこと自体が目的ではなく、授業のねらいを達成する ための手段としての「言語活動」を行うことが大切です。美術科の「思考力・判断力・表現 力」に該当する「発想や構想の能力」を確実に身に付けさせるため、形や色などの造形要素 と感情やイメージとのかかわりについて、思考させ、言葉に表す活動をさせることが大切で す。
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