佐那河内村の甲虫

阿波学会紀要
第48号(pp.53-58)
2002.3
佐那河内村の甲虫
――――――――――――――――― 昆虫班(徳島昆虫研究会)―――――――――――――――――
*1
木内 盛郷
*2
吉田 正隆
*3
黒田 祐次
*4
田中 光治
*5
櫻木 大介
(木の枝や葉を叩いて白布の上に昆虫を落として
1.はじめに
佐那河内村における甲虫類(昆虫綱甲虫目)に関
する資料としては、昭和42年(1967)発行の佐那河
内村史にオサムシ科1種、クワガタムシ科3種、セ
ンチコガネ科1種、コガネムシ科18種、テントウム
シ科4種、カミキリムシ科16種、ハムシ科1種、マ
メゾウムシ科1種の計45種が記録されているのみ
で、他には見当たらない。
この度、当地における甲虫類の調査を実施する機
会に恵まれたので調査結果の概略を報告する。
採集、あるいは確認した)
・シフティング
(落ち葉などをふるいにかけて昆虫を落として採
集、あるいは確認した)
・ライトトラップ
(発電機により灯火をつけて昆虫を集めて採集、
あるいは確認した)
・ベイトトラップ
(昆虫類の好む臭い物質で誘引して採集、あるい
は確認した)
調査に当たり、佐那河内村いきものふれあいの里
ネイチャーセンター(以下、ネイチャーセンター)
の皆様方には便宜を図っていただいた。とりわけ同
3.佐那河内村で確認された甲虫類
今回の調査で確認された甲虫類は500種を上回わ
センター指導員の和田賢次氏(徳島昆虫研究会会員)
り、未同定種(種名確定ができていないもの)もか
には調査にも同行いただいたり、数多くの資料提供
なりある。この為、相当の同定が終了次第その全容
をいただいた。ここに記して御礼申し上げる。
については別途報告することとして、ここでは主な
種についての報告に留めた。
2.調査方法
甲虫類は昆虫類の中でも最も種類数が多く、生息
環境や発生時期も多種多様であることから、調査は
ハンミョウ類 Cicindelidae
この科に属する種は肉食で、幼虫は地面に穴を掘って潜み、
付近を通る小昆虫などに大きなアゴ(口器)でかみつき、巣穴
に引っ張り込んで食べる。種によって生息地を選択する。これ
春(4月)から冬(12月)まで5名の調査員が次の
まで県内からは11種が確認されているが、村内からは次の3種
方法で延べ100日にわたり行った。
が確認された。
・目視(目で見て採集、あるいは確認した)
・スイーピング
(木の葉や花などを網で掬って採集、あるいは確
認した)
・ビーティング
1.ハンミョウ(ナミハンミョウ)(図1)
Cicindela chinensis japonica Thunberg
最も普通種で村内全域の平地から山地まで見られた。畑地や
裸地・未舗装路上に多い。
2.ニワハンミョウ(図2)C. japona Motchulsky
前種よりも生息範囲が狭く、平地にはほとんどいない。山麓
や山地の裸地に少なからず見られた。
*1 徳島市北前川町4丁目5-13
*2 徳島県農林水産部生産流通課 *3 徳島県県民環境部環境局循環型社会推進課
*4 那賀郡鷲敷町大字和食字町18-1
*5 徳島県鳴門土木事務所
53
佐那河内村の甲虫/昆虫班
3.アイヌハンミョウ(図3)C. gemmmata Faldermann
前2種とは生息地を異にする。山がかった河川の川原にのみ
生息し、園瀬川の開けた砂地に生息が確認された。
ヒメオサムシのみで、前記2にも記したようにアワオサムシと
同様にクロナガオサムシ系統のものは一頭も入らなかった。
以上のようにオサムシ類の分布は限られたものが多い。より
一層の狭い範囲に絞り込んだ調査が必要である。
オサムシ科 Carabidae
このほかに、今回の調査では確認できなかったが村内には低
この科に属する種類は非常に多いが、いわゆるオサムシ類
地の園瀬川辺などにエゾカタビロオサムシ、全域に最大種であ
(大型種:体長約25∼70袢)とゴミムシ類(小型種:体長約2∼
るマイマイカブリ(70袢)の2種は生息していると予測される。
25袢)に大きく分けられる。いわゆるオサムシ(種名の末尾に
ゴミムシ類については非常に多くの種を抱えており、その概
オサムシとついているもの)では、疑問種を含めて県内から9
要については別に報告するが、次の種についてのみ記しておく。
種の記録があるが、村内からは次の4種しか確認できなかった。
6.ナガゴミムシの一種(図8)Pterostichus sp.
1.オオオサムシ四国亜種(図4)
大川原高原のネイチャーセンター周辺から山稜と轆轤山にか
Carabus dehaanii katsumai Imura et Mizusawa
けて分布する大型(体長25袢)のナガゴミムシ。この種の仲間も
徳島県と香川県のみに生息する体長約30袢で全体濃青藍色の
飛ぶことができず、その分布は限られたものが多い。ここに紹介
オサムシ。県内では各地の低山帯から山地に生息するが1,000
したものは、鳥取県の伯耆大山周辺に生息するダイセンオオナ
袤以上の高地ではやや少ない。今回の調査では村内の山麓各地
ガゴミムシに非常によく似ている。この系統は讃岐山地の高地
から大川原高原まで多数生息していることが確認できた。
帯と、吉野川以南では山川町高越山山頂周辺、神山町雲早山∼
2.アワオサムシ(図5)
柴小屋山そして当地に至っており、他所では見られない。讃岐山
C. tosanus kawanoi(Kamiyoshi et Mizoguchi)
地のものは鳥取県のものに比べて体型がより大型であるが、高
その名(阿波オサムシ)のとおり、徳島県内で最初に発見さ
越山や柴小屋山を含む当地までのものはやや小型化する。より
れて命名された種。県内では海抜700袤以上の山地に広く分布
精査しなければ種名の確定には至らないが、地理的種分化を起
し、香川県境の一部の山地や高知県の一部(東部)にも生息す
こしやすい系統であり、もしかすると新種になる可能性がある。
ることが確認されている。村内では大川原高原のネイチャーセ
シデムシ科 Silphidae
ンター付近から旭ヶ丸、轆轤山の稜線にかけて見られた。当山
塊は四国山地の東部に当たり、本種はその全域に分布すると予
シデムシ類は漢字で「埋葬虫」と書く。その字が示すように
想されるが、東端徳島市の中津峰山(773袤)からは再度の調
動物の死肉やそれを食うハエなどの幼虫を食べる。時に生きた
査にかかわらず見付かっていない。今回の調査でも轆轤山まで
ミミズにかみついているのを見かける。村内からはコクロシデ
は見られたものの杖立峠付近では確認できなかった。本種を含
ムシ(図9)、クロシデムシ(図10)、ヨツボシモンシデムシ
むオサムシ類の多くは飛ぶための後翅が退化して飛んで移動す
(図11)、オオモモブトシデムシ(図12)、ベッコウヒラタシデム
ることができない。その為、各地で種の分化が起こり、四国山
シ(図13)、クロボシヒラタシデムシ(図14)の6種を確認し
脈でも愛媛県にはイシズチオサムシと亜種段階で異っている。
た。共に野山のそうじ屋的な存在である。大河原周辺では特に
本種は上記のように徳島県の山地、香川県境の讃岐山地並びに
ベッコウヒラタシデムシとクロシデムシが多数生息していた。
南では高知県東部一帯の山地に全域で見られるのに、杖立峠付
ハネカクシ科 Staphylinidae
近から東でなぜ見られなくなるのか不思議である。分布を阻む
何かがあるのか、これまでの調査が不十分であったのか疑問が
本科甲虫も非常に多く、100種近くを得ているが未同定種が
残るところである。
多いため、詳細は別途報告するが、特筆に値する次の一種を記
3.ヤコンオサムシ C. yaconinus Bates
録しておく。
体型は前述のオオオサムシに似るが、胸のしわや上翅の鎖線
で区別できる。平地性の種で、一ノ瀬の畑地で歩行中のものを
1.ツヤムネハネカクシの一種(図15)Quedius sp.
轆轤山に近い林内にセットしたベイトトラップに1雌が入っ
確認した。
ていた。ミヤマハネヒラタハネカクシ種群Quedius(Microsaulus
4.ヒメオサムシ(図6)C. japonicus Motchulsky
亜属)に属するものである。これまで徳島県からは、剣山から
オオオサムシより個体数は少ないように思うが、四国内の山
ツルギツヤムネハネカクシ、阿南市大竜寺山(竜の窟)からリ
地に最も普通に見られ、分布域も広い。体長約25袢と四国のオ
ュウノイワヤツヤムネハネカクシが知られるのみである。この
サムシ類では小型である。アワオサムシに体型では似るが、ヒ
ほかに四国では高知県と愛媛県に各1種が知られている。地中
メオサムシはややずんぐりして背面に光沢がない。
あるいは地下浅層性のハネカクシで地理的種分化をすることが
5.シコククロナガオサムシ(図7)
多い。今回確認されたのは1個体の雌である。本属の分類には
Leptocarabus hiurai(Kamiyoshi et Mizoguchi)
雄の交尾器を用いなければならないので雄の捕獲につとめた
種名のhiuraiは、神山町出身の昆虫学者故日浦勇氏にちなむ。
い。前述のように各地に種分化しており、特産的な種構成をす
徳島県剣山の標本を基に1960年に新種として発表された種。四
ることから、新種である可能性が高い。捕獲のためには生息し
国山地の700袤以上の高地にのみ生息するが、讃岐山地には分
ていそうなところを掘るか、そうしたところへベイトトラップ
布しない。村内では前述のアワオサムシと分布を同じくしてお
を仕掛けるしかない。
り、大川原高原から轆轤山の海抜700袤以上に見られた。1960
クワガタムシ科 Lucanidae
年代に東隣りの中津峰山からクロナガオサムシ(これまでのと
ころ四国には分布しないとされている。)の採集記録(河野、
クワガタムシ類は、後述のカブトムシと共に、なじみの多い
1963)があるが、以来クロナガオサムシどころか本種も中津峰
仲間である。
山からは見付かっていない。杖立峠付近のベイトトラップには
1.ミヤマクワガタ(図16)
54
阿波学会紀要
第48号(pp.53-58)
2002.3
コメツキムシ科 Elateridae
Lucanus maculifemoratus Motschulsky
み やま
名前は深山クワガタであるが、低山地から高地にかけて生息
コメツキムシ類は、裏返ると跳ね返って起きることから「叩
する大型のクワガタムシ。村内の低山地から大川原までの各所
頭虫」と呼ばれる。50種余が確認されているが、大型の次の3
で見られた。
種を紹介しておく。
2.ノコギリクワガタ(図17)
1.ヒゲコメツキ(図28)Pectocera fortunei Candéze
Prosopocoilus inclinatus inclinatus(Motschulsky)
雄は、鋸歯状の大顎を持つ大型のクワガタムシ。低地から中
山地に見られた。
雄の触角が櫛歯状をしたやや大型のコメツキムシ。大川原で
ライトトラップに飛来した。
2.フタモンウバタマコメツキ(図29)
3.アカアシクワガタ(図18)
Nipponodorcus rubrofemoratus(Snellen van Vollenhoven)
足が赤褐色をしている中型のクワガタムシ。やや高地∼高所
に生息しており、村内からは大川原の山稜部でのみ確認された。
4.コクワガタ(図19)
Paracalais larvatus pini(Lewis)
暖地系で平地から低山地に分布する大型のコメツキムシ。桃
山でライトトラップに飛来した。
3.オオクシヒゲコメツキ(図30)Tetrigus lewisi Candéze
その名のとおり、触角が櫛歯状をしたやや大型のコメツキム
Macrodorcas rectus rectus(Motschulsky)
シ。桃山でライトトラップに飛来した。
中型で最も普通のクワガタムシ。平地∼やや高地にかけて分
ホタル科 Lampyridae
布する。
5.スジクワガタ(図20)M. striatipennis Motschulsky
やや高地に分布する小型のクワガタムシ。大川原の山稜部で
確認された。
1.ゲンジボタル(図31)Luciola cruciata Motschulsky
一ノ瀬付近の園瀬川畔で少なからず群飛するのを確認した。
近年、水質汚染でエサとなるカワニナが減少し、各地でホタル
このほかヒラタクワガタ、ネブトクワガタ、チビクワガタは、
の里づくりなどが行われているが、当地にはまだ少なからず生
今回の調査では確認できなかったが村内にも生息しているもの
息しており、生息環境の維持が望まれる。ゲンジボタルよりも
と思われる。
広範囲に生息するヘイケボタルは確認できなかったが、これは
夜間の調査が不十分であったことによると思っている。
コガネムシ科 Scarabaeidae
1.カブトムシ(図21)Allomyrina dichotoma(Linné.)
このほか、山地では陸生のオバボタルやオオオバボタルも生
息していた。
村内全域の各所で見られた。大川原などの高地よりも中腹∼
コクヌスト科
低山地∼山麓に多い。
2.シロスジコガネ(図22)
Trogossitidae
1.オオコクヌスト(図32)Trogossita japonica Reitter
Polyphylla albolineata Motschulsky
多くのコクヌスト(穀盗人)は米・麦・トウモロコシなどの貯
暖地の海岸∼低山地に生息するやや大型のコガネムシ。嵯峨
穀害虫であるが、本種は主として枯松の樹皮下に生息し、他の
栗見坂でライトトラップに飛来した。
松材害虫やその幼虫を捕食する益虫である。大川原に至る道路
3.ヒゲコガネ(図23)P. laticollis Lewis
沿いの松伐採地で松の切り株に付いていたのを多数確認した。
雄は靴べら状の片をした触角を持つやや大型のコガネムシ。
カッコウムシ科 Cleridae
平地∼低山地に普通で、夜間灯火に飛来する。
4.アオカナブン(図24)
Rhomborrhina unicolor Motschulsky
緑色光沢のあるやや大型のコガネムシ。クヌギやコナラなど
の樹液に集まる。カナブンが中山地∼低地に分布し、本種は中
山地∼やや高地に分布して棲み分けている。
このほか、20種余りのコガネムシ類を確認している。
この科の甲虫は、幼虫・成虫が共に他の昆虫を食べて育ち、
主として枯木に棲む。
1.ホソカッコウムシ(図33)Cladiscus obeliscus Lewis
その名のとおり細長い体型で、他の種とは一見して区別でき
る。いずれの地でも個体数は多くはないが、轆轤山から大川原高
原付近に至る道路脇の枯れ枝に着いているのを数頭確認した。
2.アリモドキカッコウムシ(図34)
Thanassimus lewisi Jacobson
タマムシ科 Buprestidae
1.タマムシ(ヤマトタマムシ)(図25)
Chrysochroa fulgidissima(Schönherr)
タマムシ科を代表する種。緑色の地に赤紫色の条があり、全
黒色の地に赤褐色斑紋のある美しい種。前述のオオコクヌス
トが着いていた松の切り株に多数着いていた。
このほかに4種のカッコウムシを確認している。
体光沢の強い美しい甲虫である。幼虫はサクラ、エノキなどの
ヒラタムシ科 Cucujidae
衰弱木を食べて育つ。個体数は多くないが各地の山麓から大川
原のネイチャーセンターあたりまで見られた。
2.ウバタマムシ(図26)C. japonica japonica(Gory)
前種よりやや大型種。幼虫は松の衰弱木や枯れた木質部を食
べて育つ。同様の生活をする中型のクロタマムシBuprestis
haemorrhoidalis japanensis(図27)と共に大川原中腹のマツ
この科の甲虫は、その名のとおり体が扁平で、枯木の樹皮下
に生息する。
1.ベニヒラタムシ(図35)Cucujus coccinatus Lewis
体は黒いが上翅が赤い。樹皮下にいて目につくことが少ない。
大川原高原で1頭確認できた。
の伐採木上で見られた。このほか本科甲虫も数種が確認されて
いる。
コメツキモドキ科 Languriidae
1.ニホンホホビロコメツキモドキ(図36)
55
佐那河内村の甲虫/昆虫班
Dauledaya bucculenta(Lewis)
2.ナガニジゴミムシダマシ(図43)
コメツキモドキ科最大の種で雌個体は20袢を超える個体もあ
Ceropria induta(Wiedemann)
る。枯れた竹を食べて育つと云われているが、徳島県下からの
体長約10袢で黒地に虹色の光沢を有する。広葉樹の枯木に付
確認例は極めて少なく、1958年に三好郡山城町納屋で1頭確認
着するカワラタケなどの菌類を食べて育つ。大川原周辺の枯木
されているのみであった(中條、1958)。ところが、この度の調
に見られる。
査で一ノ瀬の園瀬川畔の枯竹から黒田がビーティングにより確
3.ミツノゴミムシダマシ(図44)
認し、引き続き調査を行った結果、調査員全員が交尾中のもの
Toxicum tricornutum Waterhouse
や産卵中のものを多数確認することができた。ちなみに本種は
本属中最大種で体長16袢前後。全体黒色で頭部に3本の突起
枯死竹よりも衰弱した竹に産卵し、枯死してもなおその竹を食
を有し、後方両側の突起の先端には金色の毛の塊を有する。乾
べて育つことも判明した。数本の竹を切って倒しておくと、翌
いた菌類を食する。灯火にも飛来する。大川原周辺で得られた。
日から飛来し、産卵行動をとることも判った。調査員の一人で
ある田中は、鷲敷町那賀川畔の竹林でも確認することができた。
カミキリモドキ科 Oedemeridae
本科に属する甲虫は灯火に飛来する種が多い。多くの種は体
テントウムシダマシ科 Endomychidae
この科の仲間は主として菌類を食べて育つ。
1.クリバネツヤテントウダマシ(図37)
液にカンタリジンを毒成分とする物質を持ち、人体の皮膚につ
くとやけどをした時のような水疱ができ皮膚炎を起こす。
1.アオカミキリモドキ(図45)
Lycoperdina castaneipennis Gorham
地面に生えるキツネノチャブクロ(担子菌類・ホコリタケ)
Xanthochroa waterhousei Harold
山地性で最も普通の種。大川原から杖立峠にかけて多産し、
を食べて育つ。轆轤山近くの鶏肉のベイトトラップにたまたま
灯火にもよく飛来する。日中は各種の花上で見られる。本種の
落ち込んでいた。
ように頭胸部が黄色く翅鞘が緑色のカミキリモドキは他に数種
2.キスジテントウダマシ(図38)
Endomychus plagiatus(Gorham)
黒色の地に黄褐色の縦縞紋様を有する美しい種で種の判断は
容易である。県内からは剣山系の丸笹山で和田賢次氏がビーテ
ィングにより確認している例があるが、この他の確認事例はな
確認されている。
2.キイロカミキリモドキ(図46)X. hilleri Harold
本種も大川原から杖立峠周辺のライトトラップに少なからず
飛来した。
このほかカトウカミキリモドキ、シリナガカミキリモドキ、
いようである。今回、大川原高原で3頭が確認され、いずれも
キバネカミキリモドキ、キアシカミキリモドキなどの生息も確
ビーティングネットに落ちてきた。枯木の樹皮下などに潜み、
認している。
それに着く菌類を食べる。
カミキリムシ科 Cerambycidae
テントウムシ科 Coccinellidae
体長1.5袢の小型種から13袢の大型種まで10数種のテントウ
本科甲虫は幼虫がテッポウムシと呼ばれ、果樹や林業害虫を
多く含んでいる。種類数も多く、村内からは100種近くが確認
ムシ類が確認された。ここでは次の3種を紹介しておく。
された。
1.カメノコテントウ(図39)Aiolocaria hexaspilota(Hope)
1.トゲウスバカミキリ(図47)Megopis nipponica Matsushita
体長約13袢の大型種。大川原高原でヤナギ類を食害するヤナ
やや大型種で幼虫はサクラの衰弱木や枯死木を食べて育つ。
ギハムシの幼虫を食べているのを確認した。
南方系の代表種とも云われ稀種に属するが、村内には多産し、
2.ジュウロクホシテントウ(図40)
栗見坂や桃山でのライトトラップによく飛来した。四国内でも
Sospita oblongoguttata(Linné.)
本種はマツの木と関係があると云われている。マツ類に付く
これほど多産する所は他に例がない。
2.アオスジカミキリ(図48)Xystrocera globosa(Olivier)
アブラムシなどを食べているのであろう。大川原周辺にはマツ
茶褐色の地に青色の縦縞紋様を持つ美しいカミキリムシ。幼
の木がかなりあることから、本種の分布に適しているのであろ
虫はネムの生木を食害し、枯死に至らせる。栗見坂や桃山での
う。稀な種で四国内でも数例しか確認例は無い。夜間のライト
ライトトラップに飛来した。
トラップに飛来した。
3.ベーツヤサカミキリ(図49)Leptoxenus ibidiiformis Bates
3.ウンモンテントウ(図41)Anatis halonis Lewis
山地生の種。県内では海抜700袤以上の山地に分布している
が個体数は多くない。本種も大川原周辺のライトトラップに飛
来した。前種によく似ているが、背面の斑紋により見分けるこ
とができる。
稀な種で県下からの採集確認例は少ない。これまで三好郡山
城町での記録があるのみ(林・大塚、1993)。
4.ベニカミキリ(図50)
Purpuricenus temminckii(Guerin-Méneville)
その名のとおり背面が紅(赤)色をした中型種。幼虫はタケ
の肉質部を食べて育つ。成虫は花に来る。
ゴミムシダマシ科 Tenebrionidae
1.カブトゴミムシダマシ(図42)
Parabolitophagus felix(Lewis)
茶褐色で体長約10袢のゴミムシダマシ。本種はマツの枯木に
着くヒトクチタケの基部裏側に穴をあけ、中に食い込んで産卵
5.ハイイロヤハズカミキリ(図51)Niphona furcata Bates
本種はタケ類の衰弱あるいは枯死した部分を食べて育つ。成
虫は早春から初夏にかけて見られる。一ノ瀬の竹林で見られた。
6.ゴマダラカミキリ(図52)
Anoplophora malasiaca(Thomson)
し、成虫・幼虫共にそれを食べて育つ。穴のあいたヒトクチタケ
古くからミカン類の害虫(テッポウムシ)としてよく知られ
を取って振るとカラカラと音がするので中にいることが判る。
る種。村内全域に分布している。本種はミカン類だけでなく、
56
阿波学会紀要
カエデ類やヤナギ類など多くの樹種(生木)を食害するので要
注意種である。
7.シロスジカミキリ(図53)Batocera lineolata Chevrolat
我が国のカミキリムシ科の中では最大種に属し、北海道を除
2002.3
第48号(pp.53-58)
自然環境は良く相当の種が期待されたが、海抜
1000袤を超える大川原高原などを有しておりなが
ら、甲虫類は必ずしも豊富とはいえない気がした。
く各地に分布は広い。幼虫はクリ、カシ、クヌギなどの生木を
しかしながら、ハネカクシ科の新種の期待がか
食べて育ち、枯死に至らせる害虫。村内でも山麓から大川原高
かるツヤムネハネカクシの一種が得られたこと
原の中腹まで分布している。
8.ハンノキカミキリ(図54)
Cagosima sanguinolenta Thomson
その名のとおりハンノキを食樹とする中型のカミキリムシ。
体はビロード状の毛を有し、全体黒色で翅鞘の周辺に細い赤色
の縁取りを有する美しい種。大川原高原のケヤマハンノキに多
や、これまで稀少種とされてきたコメツキモドキ
科のニホンホホビロコメツキモドキ、カミキリム
シ科のトゲウスバカミキリを多産するなどの知見
も得られた。
数群れていた。
以上のほかにハムシ科やゾウムシ科に属するもの
もかなり確認している。同定でき次第、改めて全容
文 献
河野仁一郎(1963):徳島県のオサムシ科について、とくし
ま虫の国12、8∼18頁。
を報告したい。
佐那河内村史編集委員会(1967):『佐那河内村史』22∼23
頁。
4.まとめ
中條道夫(1958):四国から未記録の擬叩頭虫類3種(Col.
Languriidae)、四国虫報盻、19頁。
これまで甲虫類についての調査ができていなかっ
林寛次・大塚直樹(1993):徳島県祖谷渓・歩危峡のカミキ
リムシ、月刊むし(269)、26∼27頁。
た佐那河内村へ、集中的に調査に入ることができた。
図1:ハンミョウ
(ナミハンミョウ)
図2:ニワハンミョウ
図3:アイヌハンミョウ
図4:オオオサムシ四国亜種
図5:アワオサムシ
図6:ヒメオサムシ
図7:シコククロナガオサムシ
図8:ナガゴミムシの一種
図9:コクロシデムシ
図10:クロシデムシ
図11:ヨツボシモンシデムシ
図12:オオモモブトシデムシ
図13:ベッコウヒラタシデムシ
図14:クロボシヒラタシデムシ
図15:ツヤムネハネカクシ
の一種
図16:ミヤマクワガタ
図17:ノコギリクワガタ
図18:アカアシクワガタ
図19:コクワガタ
図20:スジクワガタ
57
佐那河内村の甲虫/昆虫班
図21:カブトムシ
図22:シロスジコガネ
図23:ヒゲコガネ
図24:アオカナブン
図25:タマムシ(ヤマトタマムシ)
図26:ウバタマムシ
図27:クロタマムシ
図28:ヒゲコメツキ
図29:フタモンウバタマコメツキ
図30:オオクシヒゲコメツキ
図31:ゲンジボタル
図32:オオコクヌスト
図33:ホソカッコウムシ
図34:アリモドキカッコウムシ
図35:ベニヒラタムシ
図36:ニホンホホビロコメツキモドキ
図37:クリバネツヤテントウダマシ
図38:キスジテントウダマシ
図39:カメノコテントウ
図40:ジュウロクホシテントウ
図41:ウンモンテントウ
図42:カブトゴミムシダマシ
図43:ナガニジゴミムシダマシ
図44:ミツノゴミムシダマシ
図45:アオカミキリモドキ
図46:キイロカミキリモドキ
図47:トゲウスバカミキリ
図48:アオスジカミキリ
図49:ベーツヤサカミキリ
図50:ベニカミキリ
図51:ハイイロヤハズカミキリ
図52:ゴマダラカミキリ
図53:シロスジカミキリ
図54:ハンノキカミキリ
58