直言日 放射光実験施設における 原子分子の高分解能

放射光第 3 巻第 1 号
1990年 2 月
11
直言日
放射光実験施設における
原子分子の高分解能分光施設
伊藤健二
高エネルギー物理学研究所放射光実験施設
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1.序論
分子分光学は,原子分子物理の基礎理論である量
物質の構造を解明する方法のーっとして,光吸
子力学の登場は言うまでもなく,今世紀半ばに始
収スペクトル測定を挙げることができる。光吸収
まる高分解能分光技術の進歩によっても大きな発
スペクトルは物質の電子構造のみならず\物質を
展を遂げた。一般に電子遷移が伴う光吸収の大部
構成する原子の相対的位置及び運動に大きく依存
分は波長 200nm以下の真空紫外 (Vacuum Ultra
する。例えば,酸素分子と窒素分子は双方共に軽
-V
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:VUV) 領域に存在することが多く,
元素の 2 原子分子であるが,全く異なる光吸収ス
従って原子・分子の電子状態を研究する場合に
ペクトルを示す。ことろで,物質の光吸収を原子
は,
或いは分子の立場から研究を行おうとする原子・
おいては,どのような波長領域においても高分解
この波長領域の光が必要となる。分光研究に
(C) 1990 The Japanese Society for Synchrotron Radiation Research
1
2
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1990年 2 月
能の分光器を用いることのメリットはあるが,主
種類の光源では必要な波長領域全てをカバーする
として波長領域 200 -50nm を対象にした高分解
ことは非常に困難であった。
能分光の研究が行われて来ている。この要因とし
1980 年頃,日米協力のともに,
4
0-200nm の
ては,光イオン化のしきい値近辺では原子・分子
広い波長領域において 15万以上の分解能で光電測
は非常に複雑な光吸収スペクトルを示すこと,及
光モードによる原子分子分光の研究を目指して,そ
びシンクロトロン放射光 (SR) 登場以前は真空紫
れぞれSURFII (NBS) ,放射光実験施設 (Photon
外・軟 X 線領域の光源としては希ガス放電による
Factory:PF) において,
連続光源がもっぱら用いられていたニとが挙げら
業が開始された 3) 。これら 2 つの分光施設は,光
れる。勿論, SR登場後は,光源からの波長領域の
源として従来の実験室光源ではなく,
制約はなくなり,各国の放射光施設においてあら
積リングから発生する SR を用いている。 SR の効
ゆる波長領域で高分解能分光を実験する装置が製
用は言うまでもなく,大きな光強度と均一な波長
作されていることをここで改めて言及する必要も
分布である。この 2 つの特徴は光電測光を行う
ないであろう。
際,欠くことのできないものである。
6.65m の分光器の建設作
(陽〉電子蓄
r何故高分
さて,原子・分子の光イオン化のしきい値近辺
解能で光電測光を行わなければならないのか? J
の波長領域での分光器は波長掃引の問題を除いて
という問いに対する具体的な答えは最後まで待っ
分解能を主眼に置くと直入射型の適当である。現
て戴くとして,とりあえずは,人間とはより級密
在,原子分子分光学に使用されている高分解能
でより正確な知識を得たがるものであるというこ
4
(分解能孟 1 x10 ) の直入射型分光器は,
10.7m
とにして置きたい。
或は 6.65m の回折格子を有するもので約 10台程度
ここでは,世界の高分解能分光研究というよう
存在する。 NRC (カナダ〉及び、 Meudon 天文台
な広い立場ではなく,私の関係してきた高エネル
(フランス〉の 10.7m を除けばほとんどが米国に
ギ一物理学研究所 (KEK) 放射光実験施設 (PF) に
ある。ところで,これらの分光器はフォーカス面
建設された高分解能 VUV 分光装置に話を限り,
に写真乾板をセットして吸収スペクトルをその乾
設計の基本思想,光学系,性能,そして,本装置
板上に記録するいわゆる写真法を目的として製作
を用いて得られた吸収スペクトルの例を紹介する
されていることで共通している。かくして,高分
ことにし fこい。
解能分光の研究は,
もっぱら写真法により行われ
てきており,吸収波長すなわちエネルギー準位の
詳細な情報を得ることを目的としてきた。しかし
2
. 6VOPE 分光装置
高分解能 VUV 分光装置を PF に建設するため
ながら,特に 1970年代後半から,高分解能での吸
に東北大学の波問先生,そして当時の PF の佐々
収強度すなわち吸収断面積の測定の必要性が強く
木先生を中心とした作業グループが 1980年に結成
指摘されてきている 1)
された。作業グループに課された使命は,波長領
0
Harvard 大の吉野は,
既製の分光器に改造を加え,光電測光法により比
域 50 -200nm において分解能 20 万以上を有し,
較的長波長領域の酸素分子の Schumann-Runge
且つ吸収スペクトルの測定手段として写真法及び
バンドの吸収断面積の測定を試みている 2)O
光電測法を持つ高分解能分光器を設計することで
し
かしながら,吉野の用いた分光器を含めて上記の
あった。
分光器には,放電を利用した実験室光源がもちい
さて,球面回折格子を用いた分光器の分解能
られており,光電測光を更に短波長まで行うには
は,理論的にはローランド円弧上の単位長 (dl) 当
充分な強度が得られなかった。更に,放電ではー
りの波長分布 (d タ)を表す線分散により決めら
放射光
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第 3 巻第 1 号
1
3
れる。回折格子の曲率を R(m) ,スペクトルの次
いる回折格子の性能,即ち各々の刻線の完全性に
数を m ,出射主光軸と回折格子の中心での法線と
大きく依存する。作業グループでは,実績のある
のなす角度を β とすると,線分散 (A/mm) は,
回折格子としてボッシュロムの曲率6.65m 凹面回
折格子〈ボッシュロムから 10.7m の回折格子を得
d
)
.
.
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04
dl
ることもできるが,
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1/
d
)
6.65m のものが性能的に勝る
とのことである)を高次で用い高分解能を達成す
で表される。ここでC1 /d) は回折格子の 1Inm
ることになった。その理由として,
当りの溝本数である。従って,分解能を上げるた
線密度の高い回折格子が開発されていなかったこ
曲率が大きく及び高密度刻線の回折格子
とが挙げられる(現在では,曲率 6. 65m ,変IJ 線密
を高いスペクトル次数で用いることが必要とな
度 2400 及び、 4800 本 /mm の回折格子が開発されて
現実の問題として分解能は用
いる〉。波長分布が連続の SR を光源として用いて
めには,
る。
しかしながら,
~ 105nm ミ入量 95nm
G
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1980年当時刻
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4
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高次分光を行う場合,異なる次数スペクトルの重
直分散オフ・プレーン・イーグル型分光器 6) を採
なりが大きな問題となる。このため,主分光器の
用することになった。尚,この分光器の通称 6V
前に異次数の波長の光を取り除く装置を設置しな
OPE は,
ければならない。図 1 a には,約 25年前に実験室
monochromator の略に由来する。
6
.65m Off-PlaneEaglespectrograph
図 2 には,
光源に前置分散系を適用した例を示す 4) 。光源が
6VOPE で採用された光学系の概
放電ランプのように縦横共に同じ広がりを持つ場
略を示す 7) 。放射光蓄積リングからの 8R は前段
合(図 1 b) には,低効率ながら主分光器の入口
マスクによって 5 mrad(h)X3
.6mrad(v) が切
にスリットに異なる波長の光を集光できるが, SR
り取られ,光源発光点 (P) から 13000mm に設置
のように入射スリットに平行方向に細長い光源の場
されている水冷8iC平面ミラー(lVI)により, 2
0
合(図 1 c) には,図 1 に示すような l 枚の回折格
跳ね下げられる。 M は, 8R の硬 X 線成分を除去
子を用いた前置分散系はもはや役立たない。作業
し後続の光学素子を防御する役割を持ってい
グループは 2 年間に渡る検討の結果,
2 枚の回折
る。既に述べた零分散型前置分散系は 2 つの分光
格子を組み合わせた零分散型前置分散系 õ) を採用
器から成っている。 P ,第 l 回折格子 (G 1
) ,中間
することを決めた。後述のように本前置分散系は
スリット (81) は 70
40-200nm の SR を任意のバンドパスで主分光器
型の定偏光角分光器を形成している。 81 ,第 2
の入射スリットに効率よく集光するものである。
回折格子 (G 2) ,主スリット( 8 2)は 90
作業グループでは更に主分光器として, SR の偏光
偏角分光器で,第 l 分光器の分散を中和する(動き
特性及び波長掃引機構を考慮した結果,
を持つ。 G1 及び G2 は非等間隔機械切り直線溝
6.65m 垂
固
回
のバンド、パス・フィルター
0
の定
R1:4
3
2
1mm
N1:200l/mm
//一一一〉誠一⑤
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R
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2 :2
N2 :204l/mm
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ペ図
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卜。
F
0
P:50URCE POINT
M:PLANE MIRROR
G
1, G2 :FOREGRATING5
G3:
MAIN GRATING
1T
5
1:INTERMEDIATE 5L
5
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SPECTROMETER
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3 :6650mm
N3:1200l/mm
タ
s :550nm
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で刻線密度は約 200本 /mm で、ある。この前置分散
置される実験ホールの幾何学的条件 2) f ナン
系では, G 1 及び G2 の回転角によりバンド、パス
バーのマッチングを考慮した G 1 , G2 ,及び G3
の中心波長,そして 81 の幅によってバンド、パス
に関する集光条件,
幅を決めることができる。 SR は G1 により S
1
3
)G 1
と G2 のコマ収差
除去及び零分散の条件,等を満足させる設計パラ
メータを求めた。これらのパラメータには,光学
上に分散される。
通常数 mm の S 1 を通過した SR は, G2 により
素子聞の距離,光学素子の入出射角, G 1 と G2
分散が取り除かれ(零分散の達成)主分光器に導
の半径及びルーリング・パラメータ等が含まれ
かれる。分解能を追求する場合には入口スリッ
る。これらのパラメータは光線追跡法と非線形最
ト,出口スリット(或はフォーカル・プレーン
適化法を組み合わせた数値的方法を用いて適正化
(FP) 上)及び回折格子の中心が回折格子の曲率
を計り,最終的に図 2 に示す光学系を採用した。
を半径とするローランド円に位置するローランド
・マウントが用いられる。
6 VOPE の主分光器
分解能を左右するものとして,分光器の光学設
計の他に設置を含む機械設計を挙げることができ
では入口スリットと出口スリッ卜(或は FP 上〉
る。
が主回折格子 (G 3) のローランド円に関して対
スリットは 10μm であり,
称の位置(ローランド円筒上)に設置される。オ
出射光の揺動につながる。
フ・プレーンの名は,スリットがローランド円か
ている鉄筋コンクリートの中 2 階デッキは光源棟
ら離れて (OFF) いることに起因する。従って,
建設段階で既に考慮されており,振動測定によれ
主分光器での波長掃引は二つのスリットを固定し
ば平均振幅 lμm以下で,
たまま回折格子の回転及び並進のみによって行わ
動の振幅も非常に小さい。更に,分解能に重大な
2
.G 3 及び出口スリットに
影響を及ぼす主分光器内の振動については,中 2
よって規定される角の二等分線上を前後すること
階デッキの上に更に建設したコンクリートパイル
になる。オフ・プレーンに対してイン・プレーン
上に主分光器を設置した。尚 M及び G1 は,放射
の直入射分光器を存在するが,波長掃引の際出口
光蓄積リングと同レベル (1 階フロア〉に設置さ
スリットを移動する必要があり,分光器としては
れ, S 1 は中 2 階の床下に取り付けられ, G 2 は主
好ましくない。又,縦分散を採用しているため入
分光器と同様に中 2 階のコンクリートパイル上に
口スリットの上方に出口スリットがくることにな
設置されている。
れる。回折格子は S
り,設計上も困難が伴うと考えられる。これらを
6 VOPE を最高分解能で使用する場合入口
μm単位の振動で、すら
6VOPE が設置され
1 階と床面との相対振
真空紫外分光を行う場合,光源(蓄積リング〉
考えて 6VOPE ではオフ・プレーンを採用して
と分光器の聞の真空的仕切りはないため,蓄積リ
いる。
ングに近い前置分散系は超高真空仕様となってお
さて,前置分散系により任意のバンド幅を切り
り,通常 10- 9 Torr 台に保たれている。主分光器
出された SR は S 2 を通過した後, G3 により分散
は写真乾板或は試料ガスを導入するためいわゆる
され,異次数のスペクトルの重なりのない高次の
高真空仕様となっているが,両者を仕切る真空タ
スペクトルを FP 上に形成する。 G3 の刻線密度
イトの入口スリット S 2 により,主分光器に 1m
は 1200 本 /mm である。又,ブレーズ波長は 550nm
Torr のガスを導入しでも G 1 の真空チェンバー
であり,実際の測光では測定する VUV 光の波長
は以前 10- 9 Torr に保たれる。
と次数の積が 550nm に近いように次数を選択す
モータによって行われる。これらのコントロール
ることが得策である。
実際の光学系設計においては,
6VOPE の波長掃引は合計 10 個のパルス・
1) 分光器の設
はコンビュータによって行われる。
1
6
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3.写真測光モードでの性能 i)
従来の高分解能吸収スペクトルの研究は,
散系は,設計段階で期待したように G1 と G2
6m
の回転及び S 1 の幅の調整により任意の波長領域
或は 10m クラスの分光器と実験室規模の光源を組
が選択できることを実験的に示すことができた。
合せ,
もっぱら写真分光法によって進められてき
又,当然のことながら,吸収スペクトルは,次数
たといっても過言ではない。写真法では, FP 上に
の増大に伴い波長分散が大きくなることが観測さ
写真乾板 (250mm X50mm) を設置し試料ガス
れ高分解能分光の可能性を示している。
6V
写真分光のテストでの最終段階は,分解能を評
OPE では,主分光器チェンバーあるいは吸収セ
価することである。このため, G3 を高次で用い
ル (G 2 と S 2 聞に設置可能〉に試料ガスを導入
て,アルゴン原子の光イオン化しきい値近辺の吸
し吸収スペクトルの測定を行うことができる。
収スペクトルを測定した。主分光器の入口スリッ
の吸収を写真乾板上に記録するものである。
写真法による 6 VOPE の調整は 1984 年夏季マ
ト幅を 10μm に設定し, G 3 を 7 次で用い, SWR
シンタイムより始められた。調整の第 l 段階とし
プレート上に吸収スペクトルの撮影を行った。図
て,前置分散系の G1 及び G2 の代わりにそれぞ
4 はそのデンシトメータ・トレースを示す。主分
れ同じ曲率を持つ凹面ミラー M1 及び M2 を設置
光器内の Ar圧は1. 5x10- 4 Torr ,前置分散系の中
しアライメン卜,集光或は全系の f ナンバーの
心波長及びバンド幅とそれぞれ 79nm , 5nm で
マッチングなどをチェックした。さらに,主回折
あった。露光時間は 8分であった。二対の接近し
格子としてブレーズ、波長 150nm ,安11線密度 1200本/
た吸収線対,
mm を用い,アルゴン原子の光イオン化しきい値
d(
3/2
)1 と 228 (3/2)1 の分離から,
近辺 ( --í9nm) の吸収スペクトル測定を試みた。
の写真分光での分解能は, 80nm近辺で 2.5 X 1
05
入口スリット幅 10μm で --0. 0015nm の接近して
以上であると評価された。この 6 VOPE の分解
いる 2 本のスペクトル線を分解することができ,
能は,現在でもこの波長領域での世界記録となっ
これは理論値 0.00125nm に匹敵するものであっ
ている。その他の次数においても,吸収スペクト
fこ O
ルの測定による分解能の評価を行った。 G3 のブ
第 2 段階として,前置分散系のテストを行っ
た。
13d (
3/2
)1 と 158 (
3/2
)1 ,及び20
6VOPE
レーズ効果は比較的大きく,測定波長と次数の積
6 VOPE での高分解能分光は,前置分散系
が 550nm近辺になる条件で写真撮影を行ったが,
の性能,則ち異次数スペクトルの分離能に依存す
SWR 乾板上に十分な S/N を得る為には,入口ス
る。前置分散系には G1 及び G2 を,主分光器に
リッ卜幅を 10μm として G3 を 5 次 -10次で用い
は高次スペクトル測定用のブレース波長 550nm ,
た場合,数分から 1 時間の露光が必要であった。
安11線密度 1200 本 /mm の回折格子を設置した。分
光器を大気圧下で調整できるということで,酸素
分子の Schumann- Runge 吸収の (0 , 0) , (1,
0
),
4.光電測光モードでの性能 8 )
写真法は上述のように静止測定であるが,光電
(2 , 0) 及び (3 , 0) バンドを選び, G 3 を l 次,
測光を行う場合には波長掃引を伴う。通常の分光
2 次及び 3 次で用いそれぞれ SWR写真乾板上に
器での波長掃引は回折格子の回転ある或は並進に
6VOPE ではフォーカル・プ
撮影を行った。前置分散系の中心波長は 200nm ,
より行われるが,
バンド幅は 10nm に設定して得られたスペクトル
レーン・スキャンニング法を採用している。この
を図 3 に示す。図 3 から明かなように,任意の波
方法では出口スリット・光検出器ユニット (SD ユ
長成分が低バックグラウンドで見事に切り出され
ニット)が G3 の FP 上を走査する。従って,測
ている。即ち,ここで考案された零分散型前置分
定に際しては前置分散系及び G3 の波長走査を行
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1
7
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Fig.3 Absorptionspectrao
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e(0 , 0) ,(1, 0) , (2 , 0) ,and (3 ,0)bands o
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o6VOPE.
う必要がない。又,前置分散系, G3 及び FP は写
300mA ,G
真法を用い予め調整しておくことができる。実際
波長は約 86nm 近辺である〉の計数率は約 lOKcps
には FP に沿ったガイドレールはなく,独立した
である。尚, FP 両端に置かれたガラス板にコー卜
直線運動機構と回転機構のコンビュータ制御によ
されたサリチル酸ソーダからの蛍光強度を光電子
り SD ユニットは 250mm の FP 上を走査する。光
倍増管で測定することにより,主分光器に導かれ
検出器としては,電子倍増管 (R515 ,浜松フォト
た SR の強度をモニターしている。
3 を 6 次で用いた場合(従って SR の
ニクス〉の第 1 カソード、面に CsI をコートしたも
のを用いることによって,検出感度の向上を図っ
さて,光電損IJ 光により気体試料の光吸収断面積
ている。又,主分光器内の試料ガス圧は 1mTorr
を正確に測定しようとする場合には,
近く迄上げることが可能である。電子倍増管から
波長連続光源,
のシグナルはプリンアンプを経由し通常のカウン
な値,
ティング・システムに導かれる。入口スリット及
報,等が必要になる。
び出口スリッ卜幅 10μm ,放射光蓄積リング電流
1) 安定な
2) カラム・デンシティーの正確
3) FP 上に届く散乱光に関する正しい情
SR はよく知られているように,波長連続で且
放射光第 3 巻第 1 号
1
8 1990年 2 月
亡ゴ>
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POWER 三 2.5
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0
9nmregiontakeni
nt
h
eseventhordero
fG3withan
0
-1 Torri
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h
emaintank , 8- mine
x
ュ
argonpressureo
f1
.
5x1
posure , andas
l
i
twidtho
f10 一 μm. Thecenterwavelengtho
f
t
h
epredisperesersystemwas7
9nm , andi
t
sbandpasswas
about:
t2.5nm.
つ構造のない優れた光源で,光吸収断面積測定に
気系から切り離され,試料ガスは入口スリット
は非常に都合がよい。 PF の陽電子蓄積リングか
(幅 10μmX 高 15mm) からのみリークする。
ら得られる SR は更に 6VOPE をよる高分解能光
従って,
このリークを補償するため微調節ノくルフ守
電測光を行う充分な安定性を有している。
を介して試料ガスを導入する必要がある。この方
カラム・デンシティーは試料ガスの密度と吸収
法により,測定中は試料ガ、ス圧を一定に保つこと
セル内の光路との積である。ここでは,主分光器
ができる。しかしながら,主分光器の内壁からの
タンクを吸収セルとして用いとり,光路長はおよ
脱ガスのため,測定継続時間は 60分が限度と考え
び、 12m程度で 1 %以下の誤差での測定が可能であ
られる。
る。種々の体積のガス溜と絶対圧ゲージを用いる
散乱光の性質を調べるため,図 5 に示すように
ことにより,主分光器内のガス庄は 2 %以下の誤
クリプトン原子による光透過をガス圧を変化させ
差で求めることができる。測定中,主分光器は排
て測定した。測定は前置分散系のバンド幅 7.5nm
放射光
第 3 巻第 1 号
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1d(3/2
)
1 lines, t
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h
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maintankgratingwithapass-bando
f
し,
図 5 に示す場合で約 3% である。
7
.
5nmc
e
n
t
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da
t8
6
.
5nm.Themeasured
4)前置分散系の中心波長が 120nm で,
andcalcul
a
t
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dt
r
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t
t
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n
c
ea
r
eshownby
(60nm) は約 5 9-6含まれるが,
openc
i
r
c
l
e
sandas
o
l
i
dcurve , respectively.
2 次光
1l 0nm 以下
では無視できる。
光電視11 光モードでの分解能は,
図 6 に示す Kr の
イオン化しきい値近辺の吸収スペクトルから求め
中心波長86.5nm' こ設定し SDユニットを 88.08nm
の位置で行った。この波長は Kr の 6
d
'(
3/2
)1
の
た。 338 (3/2)1 と 31d
(
3/2
)1 の吸収線対の分
離は 6VOPE の写真法により 0.0005nm であり,
吸収ピークに対応しており,装置分解能よりはる
従って,光電測光での分解は1. 5XI0 5 以上である
かに広い幅を有する。 Kr の圧増加に伴い,透過率
と結論できる。これは,写真法での分解能の 60
は指数関数的に減少し 1% 以下になる。 これよ
程度に当たる 3)O 尚,図 6 は G3 を 6 次で用いて
り,
得られたスペクトルである 9
6VOPE の散乱光レベルは非常に小さいこと
%
が直観できる。更に,前置分散系の通過波長成分
を種々に変化させノ〈ンド内外での透過率を測定し
た結果,以下の様な結論を得た。
1) 6VOPE による高次測定での散乱光は主と
5 .6VOPE で測定された吸収スペクトル例
既に示してきたように,
6VOPE は主として
気体原子・分子の吸収スペクトルを測定すること
口向
して主回折格子の刻線溝の不完全性に基づ
を目的として設計製作されている。以下には,
く。
分解能達成後,現在に至る迄に得られた光吸収ス
2)散乱光の波長成分は前置分散系で選択された
もので, VUV 光である。
3)散乱光レベルは前置分散系のバンド幅に比例
ペクトルの実例を示す。
写真法による目的分解能達成後,希ガス原子の
吸収スペクトルの測定を行った。従来の高分解能
2
0 1990年 2 月
放射光
第 3 巻第 1 号
コ rE 士モロ}EZ 且L口凶』
{帆E
七
4
一円戸市
示す。得られた高分解能スペクトルの解析により
多チャンネル量子欠損理論 (MQDT) が Ne のスペ
クトル系をうまく記述することがわかった 1 0) 。
写真法では,他の希ガス原子, H 2 , N 2 , 02 等の二
原子分子について測定を行っている。
写真法で得られたスペクトルで興味深いものと
して 114nm 近辺の H 2 0 を図 7 に示す l l)0
1
1
4
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n
g
t
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ツ
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よく
知られているように H 2 0 は基底状態においては
1
1
4
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非直線分子である。ところが,
Fig.7 Rotationalspectrumo
fH2
0i
nt
h
e1
1
4
スペクトルは 2 原
子分子に見られるように P- ブランチと R- ブラ
nmr
e
g
l
o
n
.
ンチから或る簡単な構造を示す。 これは,観測さ
れた光吸収によって生じる H 2 0 の励起状態が直
線分子であることに起因すると考えられる。 D 2
0 について同様な吸収を観測することができ,
直
ZO戸 nLP∞
L∞
O《
線分子の存在を強く示している。
希ガスを除けば常温で孤立系の原子の吸収スペ
||41
クトルを測定することは一般的に困難である。
6
VOPE ではヒートパイプ・オーブン内に金属原
子蒸気を発生させその吸収スペク卜ルの測定を試
1344
1346
1350
1348
みている。
日米協力により製作されたこのヒート
ノミイフ0 ・オーブンは,
一一ー WAVELENGTH (
A
)
両端に CaF 2 窓が取り付け
られており,真空的なトラブルなく G2 真空槽と
fatomicCai
nt
h
e
Fig.8 Absorptionspectrumo
w
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5
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r
a
c
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o
ftheobservedspectrogram.Thelower
主分光器の入口スリットとの聞に設置できる。
CaF 2 窓の内側には He ガスをノくッファーとして流
し,
窓への金属原子の蒸着を防いでいる。図 8 の
上段には, G3 の 4 次で撮影された Ca原子の吸収
sptectrumi
sc
a
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l
a
t
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dfromt
h
eab-
スペクトルのデンシトメータ・トレースを示
i
ni
t
i
oMQDTparameters1:
n.
す 1 2) 。
スペクトルには 4 p2P 1 / 2 と 4 p 2P 3/2
に収束する 5 個のリドベルグ系列が現れている。
測定はヘリウム放電による連続光源を用いている
図 8 の下段にはめ -inito の理論計算 1 3) から得
ため, He 及び、 Ne の吸収スペクトルの現れる波長
られた MQDT パラメータから再現されるスペク
領域では充分な強度が得られなかった。 SR を光
トルを示す。測定データの SN 比は良くないが,
源とする 6 VOPE では 50nm 近辺に存在する He
理論スペクトルと驚くべきよい一致を示す。
の (ls)(np) のリドベルグ系列については n=50
まで観測することができた 9)
0
Ne原子は,
2p
6VOPE の最大の魅力は高分解能光電測光に
軌道に 6 個の電子が存在するため光イオン化しき
よる光吸収断面積の測定である。ここでは,光吸
い値近辺には 5 個のリドベルグ系列が存在し
収断面積の測定例を 2 つ挙げてみる。
ス
ベクトルは系列聞の摂動も手伝って複雑な構造を
希ガス (He を除く〉の光イオン化しきい値近傍
の吸収スペクトルは上述のように 5 個のリドベル
nm/min ,主分光器の Kr圧は 2 X10- 5 から 4
グ系から成る。今, Kr を{71Jに取ると,吸収スペク
Torr の範囲で=行った。
トルは 4 p5(2P 3 / 2 ) に収束する 3 リドベルグ系
の不確定性が含まれる。
列と 4 p5(
2P1/2) に収束する 2 リドベルグ系列
ns' 及び、 nd' から成る。この ns' 及び、 nd' は,第 l
イオン化極限 2
カ~,
2
1
1990年 2 月
第 3 巻第 1 号
放射光
P3/2 まではシャープな吸収を示す
さて,希ガスの 2
x10-4
ここで示す断面積には 5%
P2/3 と 2 P1/2 の間での光吸収
断面積 σ を, Fano の共鳴公式を基にした MQDT
書き直すと
この極限を越えると自動イオン化のため典型
的な Fano フ。ロファイルを示す。これらのスペク
0
3
0
.05nm のバン
(εs+qs)
--
1 十 εs
2
十 σ a
(εd 十 qd)
d
1+εd
,
川十 σb
z
ム
4ll
)
(
トル・プロファイルは従来 O.
σ=σ a s
ド幅を有する分光器を用いた測定が行われたこと
があるが,
分解能不足で測定結果と理論との比較
が容易ではなかった。図 9 には 6 VOPE (波長
と表される。
ここで ε は周期的なエネルギー・ス
ケールで
分解能 0.0006nm) によって測定された Kr の光吸
収断面積を示す 14)O 波長掃引の速さは 0.006
ε1 =tan [π(ν1+μI)J /W1
(
2
)
f
o
rl=sandd
と書ける。( 1)式で, qs とも は ns' 及び、nd' の非対称
内'ι
-νEIlli­
2
0
0
性パラメータで,
σ a s と σ ad はそれぞれ, s 及び、 d
チャンネルと相互作用する 2
1
0
0
吸収断面積で,
一…MHIll制
で,
8
4
6
8
4
7
ε! , μJ は量子欠損, W! は幅に関するパラ
v
d
[Ry/Ol/2-E)
J1/2 である。
で
ν1/2 ー
n
s
'
R
メータで,
ア}
11101
σb は非共鳴断面積を表す。 (2)式
プ」
旧寸剖円
n
d
'
P3/2 の連続状態への
はリドベルグ定数, 1 1 / 2 は P 1/2 に対応するイオン
化エネルギー, E は対象とするエネルギーであ
る。図 10 には, Kr の 6
t.jil~~~",
,\mq-1\Á'~"~""~;'*
吸収断面積を示す。
O で,又,
d'-8s' 及び、 7d'-9s' の光
6 VOPE による測定結果は
(1)式で σ , q , W , μ をノミラメータとして
実験結果にフィッテインク、そ試みたのが実線で示
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-~山山内仲畑一一adM
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フィッティグは見事で,
その他
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c
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n
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ft
h
ekryp-
十数個の吸収線対について,
σ , q , W , μ のパラ
メータを求め,理論的に導きだされたノミラメータ
との比較を行った。表 1 には μ と W の結果を示
す。
Wsについて n が 14 以上で急な増加を示す
が,
これは装置分解能不足に基づくと考えられ
t
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natomi
nt
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る。 n=8-13 において実験値が理論値より小さい
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ことも検討の余地がある O
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ついても測定を行~ \同様の結果が得られている。
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2
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放射光
1990年 2 月
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第 3 巻第 1 号
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6
.
5
0
放射光第 3 巻第 1 号
1990年 2 月
23
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吸収線幅の増加する原因として希ガスの例で示
光吸収スペクトルの研究は既に 100年以上に及
したように自動イオン化の他に,分子に特有な前
ぶことになるが,例えば光イオン化しきい値近辺
期解離を挙げることができる。水素分子の 3 pπ
の 2 原子分子の吸収スペクトルが全て解明し尽く
D 1 l1 u 状態は振動準位v' 孟 3 で前期解離を引き起
されたわけではない。一番簡単な 2 原子分子であ
こすことがよく知られているが,従来の研究は定
る H 2 でさえ ,
量的な扱いには分解能の点で困難な所があった。
帰属は行われていない。これは O 2 の場合には,
図 11 には, Dl l1 u 状態のがこ 4 の R (0) 及び R
イオンの基底状態に収束するリトベルグ系列すら
(1)の光吸収断面積を示す 17 〕 O 測定結果は O
明らかになっていない。これは O 2 基底状態が三
で,理論曲線の実験結果へのフィッティングは実
重項であることによるスペクトルの複雑さに起因
線で示されている。理論式には,
自動イオン化の
すると考えられる。こられのスペクトルの帰属を
場合と同様に Fano の共鳴公式を用いた。吸収線
困難にしている原因としては異なる電子状態聞の
幅「及び q パラメータは R (0) に対して 5.6c
摂動が挙げられるが,同時に分子の特有な回転構
m- 1 及び - 2 1,又, R (1)に関しては 15.8cm-
造が困難さを助長している。所で,気体分子を断
1
70nm 近辺のスペクトルの正確な
及び一 10 であった。 v'=3 と 5 についても r 及び q
熱膨張させることによって,
を求めたが, v' 依存性は認められなかった。ここ
に簡単なものに変えることができる。図 12 に上段
で求めた r は,理論値或は蛍光スペクトルによる
には, 100μm のノズルから噴出させた N 2 の状態
実験値より少し大きく,検討を要する。光吸収断
bv
'
=8 の吸収スペクトルを示す。ノズル内の圧
面積は今回初めて測定されたが,理論との対応も
力は 2 気圧でいわゆる超音速分子線の応用であ
必要と考えられる。
る。回転分布から N 2 の回転温度は 20 -30K であ
この回転構造を非常
2
4 1990 年 2 月
放射光第 3 巻第 1 号
ると推定される。下段には,常温で測定したスペ
域 40A にわたる Kr の吸収スペクトルを得るため
クトルを示す。超音速分子線を用いることによ
には,吸収測定及び散乱光評価を含み正味 1 カ月
り,スペクトルは異常に簡単なものになる。この
必要である。同様の測定を分解能が 100 倍のレー
バンドは他のバンドから離れており,バンドヘッ
ザーで行えば,恐らく数年必要になる。すなわ
2-3 のバンドが重なり
ち,スペクトル領域を超高分解能で測定するのが
合った場合の超音速分子線の効用は容易に想像で
レーザーであるならば,広い波長領域にわたって
きる。
グローバルな測定するを行うのが 6 VOPE とな
ドもはっきりしているが,
るであろう。特に,
6.まとめ
て可視紫外域の光を用いるため,吸収線の波長を
1980年の作業グループ結成され,分光器の設計
製作が終了し,
レーザーの長所は基本波とし
6VOPE が島津製作所によって P
精度よく測定できることであり VUV 領域の波
長標準には欠かせないものとなるであろう。
F に設置されたのが 1983 年春であった。 1983 年 6
SR と高分解能分光器を組み合わせた例として
月には SR を用いた最初の吸収スペクトルが得ら
最初に述べたように 6VOPE の他に SURFII での
れ,
分光器が挙げられる。この分光器では曲率 6.
1984年 5 月には日立製作所の原因さんによっ
6
5
て前置分散系の回折格子が完成し高次分光の調
m , ~fl線密度4800本 /mm の回折格子を用い高分解
整が始まった。約 l 年後の 1985年 6 月写真法によ
能を得ょうとしている。さらに,前置分散系がな
り,世界最高分解能に到達することができた。 19
く,
84年秋,ハーバード大の吉野さんの分光器を使用
込んでおり 3) ,光電子分光に用いることも計画さ
させていただいたのがこの直接の原動力となった
れている。更に,最近では各国で自由電子レー
ように思う。図 4 に示したスペクトルをルーペを
ザーの開発が行われているが,
通してみた時の興奮は今も覚えている。やがて,
な高分解能分光器と組み合わせることにより,吸
しかも水平方向に 30mrad 近くの SR を取り
6VOPE のよう
6VOPE の目標分解能到達と共に PF 蓄積リング
収スペクトルの測定のみならず回転状態を分離し
の安定度も増し,
た光電子スペクトルの測定を行うことも可能にな
1986年秋には光電測光の調整に
移ることができた。そして 1987年春には散乱光の
るであろう。
中味を理解することができ光電測光の完成,即
ち,
6VOPE の当初の目標,写真法及び光電測
最後にあたって,
6VOPE 実現は,作業グ
光での高分解能分光を達成することができた。そ
ループの責任者であった波岡先生をはじめてとし
して,特に光電測光では理論とも比較にも耐えう
て,
る興味深い結果を得ることが可能となってきた。
集された結果であることを強調しこれらの方に
ここに記しきれない程の多くの方の作業が結
心から感謝いたします。
さて,高分解能という観点から将来を眺めた
時,すぐ考えられるのが VUV レーザーである。
実際に 4 波混合或は 3 倍高調波を用いて,ここで
述べてきた波長領域のレーザー発振が行われ高分
解能分光に応用されている 1 8 ・ 1 9) 。現在までの
所,分解能は 6 VOPE と同程度であるが,
10-
100 倍の分解能での測定が登場する日も遠くない
であろう。
6 VOPE を用いて例えば図 9 の波長
放射光第 3 巻第 1 号
1990年 2 月
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.Namioka ,
8) K.Ito , K.Maeda , Y
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1
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) K.Ueda , K.Ito , Y.S
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.Namioka ,
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).
1
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) K.I
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8
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) ;K.Maeda , K.
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Phys.Scr. , (
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9
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Phys.B , 14 , 4
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1
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) W.R.Johnsom , K.T
.Cheng , K.-N.
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7
3(
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8
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) ;K. I
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理学会分科会(1 989年 10 月〉予稿集 4 , 31 頁。
1
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) K.D.Bonin , T
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8
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Phys.R
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1
7
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19
8
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