前立腺癌 前立腺は膀胱からの尿の出口に位置する、男性特有の臓器で

前立腺癌
前立腺は膀胱からの尿の出口に位置する、男性特有の臓器であり、精液の一部を産
生しています。前立腺癌は前立腺から発生する癌のことです。前立腺癌は 65 歳以後
で年齢が高くなるほど増加し、70 歳代では 2~3 割、80 歳代では 3~4 割の方に前立腺
癌が発生しているとする報告もあります。前立腺癌の診断はPSA(前立腺特異抗原)
という腫瘍マーカーの導入によって発見率が増大し、早期の癌でも発見できるようにな
りました。前立腺癌は初期にはほとんど無症状です。症状を訴えられる方の多くは、良
性疾患である前立腺肥大症によるものです。前立腺癌で症状が出てくる方の多くは、
すでに進行性となっています。ですから、症状がないから前立腺癌がないとは言い切
れず、早期発見のためには、健康診断で前立腺のマーカー採血(PSA)をしていただ
くのが良いと思われます。健康診断の種類によっては、必ずしもPSA採血を行っても
らえないところもありますので、注意が必要です。
前立腺癌の診断
前立腺癌の診断にはPSAと呼ばれる採血の検査が必須となります。PSAは一般的に
は 4 未満が正常値となっており、4~10 とやや高い場合には、前立腺癌が 25~30%の方
に存在するとされ、10 以上の場合には 50~80%の方に癌が発見されるといわれていま
す。最近では 2.1~4 の間の方にも癌が発見されるということが知られてきています。
PSAに異常が認められた場合、経直腸的超音波検査と直腸診とで前立腺に前立
腺癌の所見が認められないかを検査いたします。その後前立腺癌の確定診断方法と
して前立腺生検を行います。超音波の機械で生検部位を確認しながら、確実に前立
腺組織を採取できるようにして行います。診断の精度を上げるために 8 箇所の生検を
行っております。前立腺生検によって前立腺に細菌が感染してしまう場合がありますの
で、当院では一泊入院で前立腺生検を行わせていただいております。
この検査で前立腺癌が発見された場合には、進行具合を調べるためにCT,MRI,
骨シンチグラフィーを行い、前立腺癌の前立腺での広がりや、多くに認められるリンパ
節、骨転移の有無などを詳しく調べます。
前立腺癌の進行度
A~Dの進行度で表現しています。
A:前立腺肥大症の治療を行ったときに、たまたま前立腺癌が発見された場合。
B:前立腺癌が前立腺の中にとどまっている場合。(一般的な早期がんの状態)
C:前立腺の外へと浸潤している場合。
D:転移を認める場合。
前立腺癌の治療
前立腺全摘除術
前立腺とその背側にある精嚢とを切除し、残った膀胱と尿道とを吻合する術式です。リ
ンパ節転移の有無を確認するため、リンパ節郭清も同時に施行します。癌が前立腺内
にとどまっており、10 年以上の生命予後が期待される人に対して、もっとも生存率を高
く保障できる治療法です。この治療での副作用は尿失禁と性機能傷害があります。当
院では患者様ご自身の血液を一時的に貯血していただき、手術の際に体内に戻すと
いう自己血貯血を行うようにしており、これにより、手術の際の他人の血液で行う輸血
の可能性を少なくしております。病期 B の方が対象となります。
放射線治療
放射線を照射して、がん細胞の遺伝子を破壊してしまう治療法です。対外から放射線
を当てる外照射法と、前立腺の中にアイソトープを挿入あるいは針を差し込んで前立
腺内から照射する組織内照射法とがあります。当院では組織内照射法をご希望の方
には近隣の医療機関をご紹介させていただいております。病期 B、または C の方が対
象となります。
内分泌療法
前立腺癌は男性ホルモンの影響で進行するため、この男性ホルモンを前立腺に作用
させなくする治療方法です。内服のお薬で男性ホルモンを作用させなくする抗男性ホ
ルモン薬と、男性ホルモンを薬で出させなくするLH-RHアナログと呼ばれる注射の
お薬があります。また、男性ホルモンの多くは精巣から出てきますので、精巣を摘除し
てしまう治療法や、女性ホルモンを使用する場合もあります。通常は飲み薬か、注射の
薬、またはこの両者の併用で治療いたします。
副作用としては、急に発汗がでてきたり、のぼせやすくなる”hot flash”(ホットフラッ
シュ)と呼ばれる症状が起こることが多いです。抗男性ホルモン剤を使用した場合には
乳房痛も認められることがあります。また下腹部に脂肪がつきやすく体重が増加しや
すくなります。女性ホルモン剤では心臓や脳血管に悪影響を及ぼし、重篤な場合には
心不全や脳梗塞などが起こることがあります。この治療法は他の抗がん剤と比較して
副作用が軽微と考えられ、ほとんどの方で、効果が認められますので、ほぼすべての
病期の方が対象と考えられます。ただし、この治療法は短期的には非常に有効です
が、5 年以内に約半分の場合で、癌がこの治療法でも増殖(再燃)してきます。この場
合には有効な治療法がほとんどないのが現状です。そのため、病期 B の方は手術、あ
るいは放射線治療を行います。
病期A
病期B
76 歳
未満
76 歳
以上
病期C
病期D
手術療法
○
◎
△
△
×
放射線療法
△
◎
○
◎
△
ホルモン治療
○
△
○
◎
◎
経過観察
○
△
○
△
×
◎;お勧めしている。○;選択可能。△;状況に応じて可能。
×;お勧めしていない。