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平成 26 年度
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 口腔先端科学教育センター 第7回研究発表会
プログラム・抄録集
日 時:平成 26 年 11 月 29 日(土)
会 場:鹿児島大学 桜ヶ丘キャンパス 鶴陵会館 大ホール
(注)
*の演題は学位予備審査を兼ねる
#の演題は英語発表
8:50-9:00 開会式
・研究科長挨拶
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科長
鳥居 光男
・歯学部長挨拶
鹿児島大学歯学部長
松口 徹也
【コンペティション部門発表
歯系大学院生】
Session 1. 〔9:00~9:48〕
座長:西村 正宏(口腔顎顔面補綴学分野)
1
9:00
乳がんにおける PCP4/PEP19 の浸潤転移への関与
吉村 卓也(口腔顎顔面外科学分野・博士課程3年)
2
9:12
* 睡眠時ブラキシズムに対するプロトンポンプ阻害剤の影響
橋本 恭子(歯科矯正学分野・博士課程4年)
9:24
第一大臼歯部に発現した交叉咬合は、前歯部と小臼歯部に比べ、逆ストロークの咀
嚼パターンと密接に関連する
池森 宇泰(歯科矯正学分野・博士課程3年)
9:36
小児の口呼吸における関連因子の抽出と治療方法の確立
―「機能」と「形態」の評価から歯科的介入効果を検証する ―
村上 大輔(小児歯科学分野・博士課程4年)
3
4
Session 2. 〔9:48~10:36〕
座長:松口 徹也(口腔生化学分野)
9:48
# 表皮剥奪毒素 ETB を産生する黄色ブドウ球菌は C55 バクテリオシンを産生す
ることで ETB 非産生黄色ブドウ球菌を排除する
Fariha Afsana Shammi(口腔顎顔面外科学分野・博士課程3年)
6
10:00
#* 強制経口投与ストレスがうつ病モデル卵巣摘出マウスの行動に及ぼす影響と
GABA 神経伝達機構との関連と薬物療法の検討
塚原 飛央(歯科応用薬理学分野・博士課程3年)
7
10:12
# Bone morphogenetic protein 9 の骨芽細胞の機能への影響に関する研究
古江 きらら(歯周病学分野・博士課程2年)
8
10:24
# Paracoccus pantotrophus の組換え Sox 酵素は硫化水素を分解する
Atik Ramadhani(予防歯科学分野・博士課程2年)
5
1
10:36~10:52 休 憩
Session 3. 〔10:52~11:40〕
座長:後藤 哲哉(歯科機能形態学分野)
9
10:52
エナメル上皮腫における IL-1α を介した間質線維芽細胞との相互作用
渕上 貴央(口腔顎顔面外科学分野・博士課程3年)
10
11:04
咀嚼が胃の活動や自律神経機能、内分泌機能に与える影響の解明
小栁 宏太郎(歯科矯正学分野・博士課程2年)
11
11:16
recombinant human bone morphogenetic protein-9(rhBMP-9)によるラット頭蓋
骨欠損の治癒への影響
篠原 敬哉(歯周病学分野・博士課程2年)
12
11:28
歯性感染病巣における上皮発現機序に関する研究
田中 荘子(口腔顎顔面外科学分野・博士課程3年)
【学生部門発表】
Session 4. 〔11:40~12:04〕
座長:佐藤 友昭(歯科応用薬理学分野)
13
11:40
老化に伴う骨再生能低下と血管新生との関連性について
平沼 麻央(口腔顎顔面補綴学分野・歯学部5年)
14
11:52
ケモカイン CXCL3 は脂肪細胞分化を促進する新規アディポカインである
小森園 杏奈(口腔生化学分野・歯学部5年)
12:04~13:00 昼 食
【コンペティション部門発表
若手研究者】
Session 5. 〔13:00~14:00〕
座長:於保 孝彦(予防歯科学分野)
13:00
食道内への実験的酸刺激が覚醒時の咬筋筋活動や頭頸部動作ならびに自律神経活
動に及ぼす影響
迫口 陽子(歯科矯正学分野・研究員)
13:12
軟口蓋の Tas1r2/Tas2rs 受容体の発現と甘味/苦味神経応答特性との関係はラット
とマウス間で異なる
友成 博(口腔生理学分野・助教)
17
13:24
大脳皮質運動野におけるパルブアルブミン陽性ニューロンの役割
:咀嚼時の顎・舌筋に代表される協調運動との関連
倉本 恵梨子(歯科機能形態学分野・助教)
18
13:36
Vildagliptin は eNOS 依存的な血管内皮細胞の活性化と血管新生作用を示す
石井 正和(口腔顎顔面補綴学分野・助教)
19
13:48
歯槽骨再生を目的とした低侵襲・効率的な顎骨骨髄間葉系幹細胞培養法の開発
末廣 史雄(口腔顎顔面補綴学分野・助教)
15
16
14:00~14:06 休 憩
2
【一般発表部門】
Session 6. 〔14:06~14:54〕
座長:南 弘之(咬合機能補綴学分野)
20
14:06
正常咬合者におけるグミゼリー咀嚼時の下顎第一大臼歯の運動経路の経時的変化
北嶋 文哲(歯科矯正学分野・博士課程4年)
21
14:18
* 健常人ならびに口唇裂患者の表情形成時の上唇形態の3次元形態分析
松本 幸三(口腔顎顔面外科学分野・博士課程4年)
22
14:30
矯正治療前後の下顎前歯の位置変化が上咽頭気道形態に及ぼす影響に関する研究
權 相豪(歯科矯正学分野・博士課程1年)
14:42
嚥下における舌圧と口唇の三次元動態に関する研究
- 小児期の嚥下動作の簡便かつ客観的評価法の開発を目指して -
森園 健(小児歯科学分野・博士課程3年)
23
14:54~15:00 休 憩
<14:54~15:20 臨時センター運営会議(鶴陵会館 2F ゲストルーム鶴陵)>
Session 7. 〔15:00~15:48〕
座長:菊地 聖史(歯科生体材料学分野)
24
15:00
* 甘草由来グリチルレチン酸誘導物質の黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性の検討
大山 健太郎(口腔顎顔面外科学分野・博士課程2年)
25
15:12
口唇裂・口蓋裂を伴う患者の矯正治療における歯根吸収の原因解明
古川 みなみ(歯科矯正学分野・博士課程1年)
26
15:24
中枢神経系を介した唾液分泌促進作用の機序の解明
大賀 泰彦(歯科矯正学分野・博士課程2年)
27
15:36
オステオポンチンは骨芽細胞の生理応答性を自己調節する
楠山 譲二(口腔病理解析学分野・助教)
15:48~15:58
研究発表会表彰式
15:58-16:00 閉会式
・センター長挨拶
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科長
3
仙波 伊知郎
1
乳がんにおける PCP4/PEP19 の浸潤転移への関与
吉村 卓也(口腔顎顔面外科学分野・博士課程3年)
【目的】PEP19は小脳で特異的に発現する発達調節に関わるタンパクであることが報告されているが、その機能に
関してはほとんどわかっていない。乳がん発がん早期にPEP19の発現上昇が関与し、PEP19の抗アポトーシス作
用がAktシグナル経路を介している可能性があることが報告されている。しかし、その機能は未だ不明の点が多く、
機能、メカニズムを解明することは乳がんの診断、治療、予後予測に貢献する可能性が高く、本研究の目的はその
中でも乳がんの予後を大きく左右する浸潤転移に関してPEP19の関与を検討することである。
【材料と方法】乳がん細胞株mcf7を用い、PEP19と乳がんのstemness・浸潤転移・予後予測との関係が報告され
ているBmi-1をRNAiを用いてKnockdownすることで細胞の遊走能・浸潤能に与える影響をreal-time PCR、
Western Blot、wound healing assay、細胞形態変化を用いて評価した。
【結果】Bmi-1をKnockdownすることでPEP19の有意な発現減少を認め、また、PEP19をknockdownするとBmi-1
の減少を認めた。Negative Controlに比べPEP19、Bmi-1をKnockdownした群ではwound healing assayで遊走能
の有意な減少を認めた。細胞形態はPEP-19をKnockdownすることで敷石状へと変化した。
【考察・結論】今回の結果からBmi-1とPEP19がインタラークションしており、PEP19はSnailをコントロールす
ることで細胞の遊走能を制御する可能性が示唆された。浸潤能に関してMMPやboyden chamber、コラーゲンゲル
への浸潤に関する検討、転移能に関してゼノグラフトを行い、浸潤転移に関与する可能性を検討していきたい。
PEP-19が乳がんの診断、予後予測、新規分子標的へと発展していく可能性がある。
2
睡眠時ブラキシズムに対するプロトンポンプ阻害剤の影響
橋本 恭子(歯科矯正学分野・博士課程4年)
【目的】睡眠時ブラキシズムは睡眠時に無意識下で歯のすり合わせやかみしめなどを行う運動の総称で、睡眠障害
の国際分類(ICSD-2)では単純反復性運動障害に分類される。睡眠時ブラキシズムは歯の咬耗や破折および顎関
節症などの様々な問題を引き起こすが、効果が立証された治療法は未だ無い。本研究の目的は、睡眠時ブラキシズ
ムとの関連が注目されている胃食道逆流症の診断治療薬であるプロトンポンプ阻害剤(Proton Pump Inhibitor,以
下PPI)を睡眠時ブラキシズム患者に投与し、PPIが睡眠時ブラキシズムに与える影響を検討することである。
【材料と方法】 対象は、一般公募した睡眠時ブラキシズム患者12名とした。消化器症状の評価と内視鏡検査によ
り胃食道逆流の有無を確認後、PPIとプラセボを用いてプラセボ対照二重盲検ランダム化クロスオーバー比較試験
を行った。それぞれの薬剤は2週間以上あけてから投与開始した。それぞれの薬剤の投与開始後5日目の晩に咬筋
筋電図やビデオ撮影を含む睡眠ポリグラフ検査を行い、咬筋筋電図のバースト頻度および総活動量、睡眠時ブラキ
シズムエピソードの頻度、歯ぎしり音の頻度を比較検討した。
【結果】消化器症状を示すものは12名中5名(41.7%)、胃食道逆流関連の内視鏡所見を認めたものは12名中10名
(83.3%)であった。また、プラセボ投与時と比較して、PPI投与時には、咬筋の筋電図バーストの頻度と睡眠時
ブラキシズムエピソードの頻度、歯ぎしり音が有意に減少した。
【考察・結論】消化器症状と内視鏡所見の結果から、睡眠時ブラキシズムと胃食道逆流には関連がある可能性が示
された。またPPIは睡眠時ブラキシズムに対して有意な治療効果を示すことが示唆された。
4
3
第一大臼歯部に発現した交叉咬合は、前歯部と小臼歯部に比べ、
逆ストロークの咀嚼パターンと密接に関連する
池森 宇泰(歯科矯正学分野・博士課程3年)
【目的】片側性臼歯部交叉咬合は、咀嚼機能の異常を引き起こすことが知られているが、交叉咬合の発現部位によ
る咀嚼機能への影響は不明である。本研究の目的は、交叉咬合の発現部位が異なる成人患者について、グミゼリー
咀嚼時の下顎運動を解析し、交叉咬合の発現部位が咀嚼機能に及ぼす影響を明らかにすることである。
【材料と方法】対象は、2005 年 4 月から 2013 年 4 月の期間に、鹿児島大学付属病院矯正歯科を受診した患者の
うち、片側に交叉咬合を呈する成人患者 78 名である。交叉咬合の発現部位により、大臼歯交叉咬合群(27 名)
、
小臼歯交叉咬合群(28 名)および前歯交叉咬合群(23 名)の 3 群に分けた。また、年齢や性別のほぼ一致した 20
名の正常咬合者を対照群とした。規格化されたグミゼリーを、各群の交叉咬合側と正常咬合群の右側で 30 秒間片
咀嚼させ、咀嚼中の運動経路を 3 次元 6 自由度顎運動測定装置で記録した。計測項目は、サイクル時間、最大開口
速度、最大開口量、咀嚼角、咀嚼幅、閉口路角とし、正ストロークと逆ストロークの比率を算出し、各群間の差を
統計学的に検討した。
【結果】大臼歯交叉咬合群は、小臼歯、前歯交叉咬合群および正常咬合群に比べ、逆ストロークの比率が高く、幅
の狭いチョッピングタイプの咀嚼パターンを示した。
【考察・結論】広く強い咬合支持域を有する第一大臼歯部の交叉咬合は、他の部位に比べ、咀嚼機能に強く影響す
ると考えられた。
4
小児の口呼吸における関連因子の抽出と治療方法の確立
―「機能」と「形態」の評価から歯科的介入効果を検証する ―
村上 大輔(小児歯科学分野・博士課程4年)
【目的】本研究は、口呼吸を有する患者に対する早期の適切な介入を可能にし、機能的かつ形態的な観点から総合
的に評価し、その効果を明らかにすることを目的とする。
【材料と方法】対象は鹿児島県内の3~5歳の健康な未就学児80名(男児45名、女児35名)とする。口呼吸に関
連があると思われる53項目に関するアンケートを行うとともに、口唇閉鎖力の測定を、デジタルフォースゲージ(イ
マダ社製)にて行い、ロジスティック回帰分析を用い、口呼吸と関連のある因子を抽出する(解析1)。顔面の計
測には、非接触型3次元デジタイザ VIVID910((株)コニカミノルタセンシング,大阪)を用い、顎顔面軟組織
の3次元的成長変化を解析する(解析2)。
【結果】解析1では、「喘息既往」、「花粉症」、「日中鼻がつまりやすい」、「口がよく乾く」の4項目が説明
変数として抽出された。さらに「口唇閉鎖力」の測定結果を含める場合と含めない場合のロジスティック回帰分析
の結果を比較したところ、「口唇閉鎖力」の測定結果を含める場合の方が、回帰式の適合度を表す Nagelkerke R2
乗の値が高かった。また、口唇閉鎖力と「口がよく渇く」が口呼吸の有無に影響する変数として選択された。
解析2では、3~4歳、4~5歳における顎顔面軟組織形態の標準的成長変化が示された。また3~4歳におい
ては、顎顔面軟組織形態の主に幅径の成長に有意差がみられたのに対し、4~5歳では、幅径の成長と共に、長径
の成長にも有意差がみられた。
【考察・結論】本研究で得られる指標は、将来的には口呼吸に留まらず、顎顔面頭蓋形態成長に悪影響を及ぼす要
因に対し、早期の発見、対応を可能とし、歯科分野における臨床的意義は高いと考える。
5
5
表皮剥奪毒素 ETB を産生する黄色ブドウ球菌は C55 バクテリオシン
を産生することで ETB 非産生黄色ブドウ球菌を排除する
Fariha Afsana Shammi(口腔顎顔面外科学分野・博士課程3年)
【Aim of this study】The aim of this study is to investigate the effect of C55 bacteriocin on the competition
between ETB-positive and ETB-negative S. aureus strain. To clarify it, I performed three experiments; (1)
Suceptibility of the bacteriocin against S. aureus clinical strains, (2) Identification of immunity factor for the
bacteriocin, (3) Effect of the bacteriocin when two S. aureus strains are co-cultured.
【Materials and Methods】ETB-positive strain (TY4+) which produce C55 bacteriocin was used in this study. To
check the susceptibility of the bacteriocin against S. aureus strains, the direct method was performed. The
susceptibility of 70 strains was investigated. To identify the immunity factor, we constructed the strain
harboring the predicted genes for the resistance, and checked the susceptibility of the bacteriocin. In co-culture
assay, two S. aureus strains which had a different antibiotic resistance were mixed. After appropriate
incubation, the number of each S. aureus was counted by CFU method.
【Results】The ETB-positive strains showed no growth inhibitory zone around S. aureus TY4+. All
ETB-negative S. aureus strains showed susceptible against C55 bacteriocin although the susceptibility of this
bacteriocin was varied among S. aureus strains. I identified the immunity factor (ORF46 and ORF47;
neighboring genes of C55 bacteriocin synthesis genes) for the resistance to the bacteriocin. In co-culture assay, I
found that the bacteriocin affected the proportion of each S. aureus strain.
【Conclusion】This is the first report to demonstrate the effect of bacteriocin when same bacterial species are
co-existed. Therefore, it is proposed that bacteriocin is one the key factors for the formation of bacterial
community.
6
強制経口投与ストレスがうつ病モデル卵巣摘出マウスの行動に及ぼす影響と
GABA 神経伝達機構との関連と薬物療法の検討
塚原 飛央(歯科応用薬理学分野・博士課程3年)
【目的】 精神疾患に対する慢性的ストレスが GABA 神経伝達神経機構に与える影響を卵巣摘出うつ病モデルを用い
て、行動科学的、組織化学的に検討し、新たな薬物療法の指針をつくることを目的とする。
【材料と方法】C57/BL6J マウスの卵巣摘出を 8 週齢で行い、21 日間胃管チューブによる薬物等の強制経口投与ストレ
スを加え、不安、うつ、認知能力などを評価する各種行動試験を行うと同時に GABA 神経伝達物質の組織化学的検討
を行なった。また、本病的モデルの改善のため、病的状態において神経細胞の幼弱化が起こることに着目し、同時に
発現する新規エストロゲン膜受容体(GPR30)標的として 17α-estradiol(αE2)、や GPR30 の特異的作動薬・拮抗薬など
の各種薬物を使用して、病的状態の改善作用メカニズムを検討した。
【結果】ストレス負荷 OVX マウスは、認知機能の低下や抑うつ状態をストレス非負荷群と同様に示したが、探索行動
の増加や、抗不安様作用などの異常行動を示した。また、GABA 作動薬により各種行動試験において GABA の抑制効
果は認められなかった。この際、GABA が抑制的に働くために必須である K+Cl-共輸送体(KCC2)の減少が認められた。
この異常行動と KCC2 の減少はαE2、GPR30 の作動薬によって改善した。また、αE2 による改善作用は GPR30 拮抗
薬によって完全に消失した。
【考察・結論】うつ病モデル卵巣摘出モデルにおける慢性的強制経口投与は、KCC2 を減少させることで、GABA の
抑制作用を減少させ、異常行動を示すが、αE2 が GPR30 に作用することにより改善する。αE2 は,女性ホルモン様作
用が少なく、男性にも存在するため、ストレス依存性精神疾患だけでなく、てんかんなどの、KCC2 の減少が原因とな
っている疾患への治療薬となりうる。
6
7
Bone morphogenetic protein 9 の骨芽細胞の機能への影響に関する研究
古江 きらら(歯周病学分野・博士課程2年)
【目的】Bone morphogenetic protein(BMP)9 は強力な骨形成作用を有し、間葉系細胞の骨芽細胞への分化を促進
することが報告されている。この BMP9 のシグナル伝達には Smad 経路が関与することが示されているが、MAPK
(p38、ERK1/2、JNK)および PI3K/Akt 経路については十分に解析されていない。本研究では BMP9 による骨芽細胞
の分化における MAPK および PI3K/Akt 経路の関与について解析を行った。
【材料と方法】マウス頭蓋骨由来の骨芽細胞株 MC3T3-E1 subclone4 およびヒト骨芽細胞を用いた。Recombinant
human BMP9 (rhBMP9)を添加後、Alkaline phosphatase(ALP)活性およびカルシウム沈着に対する影響を調べた。
Western blot 法によりシグナル伝達分子のリン酸化の解析、MAPK および PI3K 経路に対する各種阻害剤の ALP 活
性およびカルシウム沈着への影響の解析を行った。real-time PCR 法により bone sialoprotein (bsp)、osteocalcin (ocn)
の発現の解析を行った。
【結果】rhBMP9 刺激を行った骨芽細胞では ALP 活性およびカルシウム沈着の亢進および骨関連タンパクの遺伝子発
現の上昇が認められた。しかし、MAPK および PI3K に対する各種阻害剤により、この ALP 活性およびカルシウム沈
着の亢進および骨関連タンパクの遺伝子発現は有意に抑制された。Western blot 法により、rhBMP9 添加後に MAPK、
Akt のリン酸化の亢進を認めた。
【考察・結論】BMP9 は骨芽細胞の分化、成熟、石灰化を促進し、MAPK および PI3K/Akt が関与していることが示
唆された。したがって骨芽細胞において PI3K/Akt 経路も BMP9 の機能に重要な役割を果たすと考えられる。
8
Paracoccus pantotrophus の組換え Sox 酵素は硫化水素を分解する
Atik Ramadhani(予防歯科学分野・博士課程2年)
【目的】Oral malodor arises from the production of volatile sulfur compounds (VSCs) including hydrogen sulfide
(H2S) in oral cavity. Hydrogen sulfide is also emitted from industrial activities and several chemotrophs including
Paracoccus pantotrophus are used to remove H2S from the gas stream using biological process. Many trials have
been shown to develop new products including oral rinse solutions to reduce VSCs. However, the effect was
limited and there have been no useful means to prevent oral malodor. The purpose of this study was to clone
sulfur-oxidizing (Sox) enzymes of P. pantotrophus and evaluate the activity to degrade H2S in view oral malodor
prevention.
【材料と方法】Four genes of P. pantotrophus coding SoxXA, SoxB, SoxCD, and SoxYZ, were amplified from P.
pantotrophus GB17 respectively. Each fragment was cloned into pQE-30 vector for the expression of 6 x
His-tagged fusion protein in E. coli. The proteins were purified using nickel affinity chromatography. The
eluted proteins were refolded by sequential dialysis against urea-decreasing phosphate buffers. The enzymes
were mixed and investigated for the degradation of H 2S by gas chromatography analysis.
【結果】Each of Sox recombinant protein was purified to apparent homogeneity when analyzed by Coomassie
blue-stained SDS-PAGE gels. P. pantotrophus GB17 cells showed H2S degrading activity in a cell
number-dependent manner. Combination of four recombinant Sox proteins showed degrading activity of H 2S.
The amount of H2S decreased after incubation with recombinant Sox proteins compared with control.
【考察・結論】The results suggest that combination of four recombinant Sox enzymes of P. pantotrophus GB17 has
an activity reducing H2S and could be useful for the prevention of oral malodor.
7
9
エナメル上皮腫における IL-1αを介した間質線維芽細胞との相互作用
渕上 貴央(口腔顎顔面外科学分野・博士課程3年)
【目的】エナメル上皮腫は歯原性上皮成分の増殖を伴う良性腫瘍であり、顎骨への高い浸潤能により、外科的治療後
の顎顔面領域の変形や機能障害を引き起こす。本研究では、エナメル上皮腫の腫瘍と間質の相互作用が本疾患の病態
に及ぼす影響の解明を目指す。
【材料と方法】本研究は、エナメル上皮腫細胞株 AM-3、ヒト線維芽細胞株 HFF-2、エナメル上皮腫病変部より採取し
た線維芽細胞等を用いた細胞実験を行った。細胞の培養上清を用いた細胞刺激や共培養を行い、細胞間の相互作用に
よる遺伝子・蛋白発現の変化、破骨細胞分化や細胞遊走能・増殖能の変化について評価を行った。
【結果】AM-3 細胞の培養上清で刺激された線維芽細胞では、IL-6 や IL-8 といった炎症性サイトカインの遺伝子・蛋
白 発現が著明に亢進した。また、その反応は抗 IL-1α抗体および IL-1Ra(レセプターアンタゴニスト)にて中和する
ことが可能であった。AM-3 細胞の培養上清で刺激された線維芽細胞の分泌する IL-6,IL-8 は AM-3 細胞の遊走能・増
殖能を有意に促進した。
【考察・結論】エナメル上皮腫細胞は IL-1α分泌を介して間質線維芽細胞からの IL-6 や IL-8 などの炎症性サイトカイ
ンの分泌を著明に促し、破骨細胞分化や腫瘍細胞遊走能を亢進して、腫瘍の浸潤発育に有利な微小環境を形成する可
能性が示された。IL-6 と IL-8 は破骨細胞分化を促進するとの報告があり、本腫瘍の骨浸潤に関与する可能性がある。
また、抗 IL-1α抗体および IL-1Ra は本腫瘍の骨浸潤発育を抑制する可能性が示唆された。
10
咀嚼が胃の活動や自律神経機能、内分泌機能に与える影響の解明
小栁 宏太郎(歯科矯正学分野・博士課程2年)
【目的】咀嚼が胃の活動や自律神経機能、内分泌機能に与える影響の解明
【材料と方法】健康で個性正常咬合を有する成人男性 15 名を対象とする。
1)口腔内診査、咬合、顎口腔機能の調査
2)全身の健康状態および消化器疾患の調査
3)介入試験
介入は“咀嚼あり”と“咀嚼なし”の 2 日間として、13C 呼気試験や胃電図検査、自律神経機能検査、血液検査、咀嚼筋
活動や嚥下の記録を行う。
①被験者入室、電極(胃電図、筋電図)装着②採血③試験食(ラコール 200ml、標識化合物として 13C-acetate Na 塩
100mg 添加)を座位で摂取させる。実験 2 日目(咀嚼あり)では無味無臭のガムを 45 秒間咀嚼した後、試験食(50ml
程度)を摂取することを 4 回繰り返してもらう。④左側側臥位の状態で安静にさせ、一定間隔で呼気採取および採血を
行う。採血後は試料を直ちに血清分離して冷凍保管する。
【結果】現在、本実験および解析中である。
【考察・結論】過去の研究より咀嚼刺激を加えた場合は咀嚼中や咀嚼直後に胃の運動が抑制され、胃からの食物の排
出が一時的に抑制されていること、また、この抑制は一過性で、摂食後しばらくすると胃の活動が亢進する傾向が認
められることが分かっている。このことから咀嚼が胃の運動機能を修飾し、その後の消化・吸収過程が円滑に行われ
るように調整的な作用を果たしているのではないかと考えられる。
8
11
recombinant human bone morphogenetic protein-9(rhBMP-9)による
ラット頭蓋骨欠損の治癒への影響
篠原 敬哉(歯周病学分野・博士課程2年)
【目的】ラット頭蓋骨欠損モデルにおける、担体のキトサンスポンジ(ChiS)、吸収性コラーゲンスポンジ(ACS)と
rhBMP-9の組み合わせによる骨再生能を評価すること。
【材料と方法】(1)麻酔下にて、 トレフィンバー(直径5mm)を用いて、9週齢wistar系ラットの頭蓋骨左右に5mm
の骨欠損を外科的に作製し、骨欠損を以下の5つの実験群に分けて処置を行った。
①Control群(担体無し),②ChiS群,③rhBMP-9/ChiS群,④ACS群,⑤rhBMP-9/ACS群
(2)8週後に屠殺し、μCT(SKYSCAN1174)撮影し、放射線学的観察及び骨量(BV)を定量化した。
(3)通法に従い、パラフィン切片作成、ヘマトキシリン・エオジン染色を行い、骨形成について組織学的観察を行った。
また、以下のパラメーターを画像解析ソフト(WINROOF)にて測定、定量化した。
①骨欠損幅(DL),②骨欠損閉鎖幅(DC),③骨欠損領域(TA),④骨欠損領域における新生骨形成領域(NBA)
⑤中心部硬組織高さ(CBH),⑥周辺部硬組織高さ(MBH)
(4)統計解析は、一元配置分散分析、Boneferroni-Dunn検定が行われた。
※本研究は、鹿児島大学動物実験委員会の承認(承認番号: 第D13008号)の元、行われた。
【結果】ACS群に対して、ChiS群、rhBMP-9/ChiS群、rhBMP-9/ACS群で有意な骨量、新生骨面積率の促進が認
められた。また、ACS群に対して、rhBMP-9/ACS群のみで有意な新生骨による欠損閉鎖率の促進が認められた。
【考察・結論】ラット頭蓋骨欠損モデルにおいて、rhBMP-9と、担体としてACSを併用することは、骨再生に有効
であることが示唆された。
12
歯性感染病巣における上皮発現機序に関する研究
田中 荘子(口腔顎顔面外科学分野・博士課程3年)
【目的】本研究は,歯根嚢胞などに代表される歯性感染症における歯原性上皮・間葉系細胞の生体防御機構に関与する働き
を解明し,歯性感染症に対する新たな治療戦略に必要な知見を得ることを目的としている.
【材料と方法】HAT7(ラット由来歯原性上皮細胞),HERS01a(マウス由来歯原性上皮細胞)を用いて,1)歯根嚢胞,歯
根肉芽腫摘出切片における接着因子等各種マーカーの発現性,2)歯原性上皮細胞(HAT-7)の細菌感染環境モデル下における
接着因子等各種マーカーの発現変化,3)Hertwig 上皮鞘細胞(HERS01a)の細菌感染環境モデル下における接着因子等各種
マーカーの発現変化,4)抗菌ペプチドの歯原性上皮細胞における作用,について検証する.
【結果】組織切片免染では,炎症性細胞の減弱と共に上皮細胞の占める割合が増加する傾向が示唆され,薄い重層上皮,網
状上皮,厚い重層上皮形成を認めた.間葉系マーカー(N-cadherin)発現は各病期で軽度に観察されたものの,炎症の程度
との間に関連性は示されなかった.細菌感染刺(LPS)存在下で HAT7 ならびに HERS01 において,上皮系マーカー
(E-cadherin)の発現増強を認めたが,間葉系マーカー(N-cadherin)の発現には変化を認めなかった.抗菌ペプチド刺激
下の Western blot 結果では HAT7,HERS01a どちらの細胞においても,Occludin,E-cad ともに control で強発現しており,
β-defensin1 刺激後との差は著明ではなかった。また免染結果では、Occludin,E-cad とも膜状での染色を認め、HERS01a
では control と difensin 添加の間に染色の差を認めた。Western によるタンパク量では差は明らかではなかったため、局在
の違いによる差ではないかと思われる.
【考察・結論】歯根嚢胞,歯根肉芽腫の組織切片ならびにマウスの歯原性上皮細胞を用いた実験より,炎症性細胞浸潤の現
症に伴う上皮系マーカー発現上昇を認めたが,間葉系マーカーの明確な変化は認められなかった.また,抗菌ペプチドの作
用は明確には現れなかった.これまでの結果から,歯原性上皮細胞は感染に対して上皮化を強めることによって物理的感染
防衛機構を持つことが示唆されている.
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老化に伴う骨再生能低下と血管新生との関連性について
平沼 麻央(口腔顎顔面補綴学分野・歯学部5年)
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【目的】高齢者における歯の喪失の原因の大半は歯周疾患による歯槽骨吸収である。歯の歯槽骨の骨量が不足した患
者への治療法として、近年では間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell:MSC)とスキャフォールドを組み合わせた再生
医療の研究が注目されている。しかし、加齢に伴い MSC の多分化能は低下することが報告されている。また、大きな
移植体では、移植体中の細胞への酸素と栄養の供給する血管の形成が重要となるが、加齢によって血管再生能も低下
してくることが報告されている。そこで今回 in vitro の系で老化に伴う骨分化能低下と血管新生能の関連性について検
討を行った。
【材料と方法】ヒト腸骨由来 MSC を長期間培養・継代を繰り返し、細胞老化を誘導した。細胞老化による増殖能、細
胞表面抗原発現、骨分化能の各変化について検討を行った。また、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を長期間培養さ
せ細胞老化を誘導し、老化による細胞増殖能と、in vitro での細胞遊走能の各変化について比較した。
【結果】MSC を 20 継代することによって、細胞の巨大化・扁平化、β-Galactosidase 活性の上昇した老化細胞が増加
することが確認され、5 継代目の MSC に比べ増殖能、骨分化能は低下した。また、細胞老化を誘導した HUVEC も増
殖能が有意に低下した。また、20 継代目の老化 HUVEC は細胞遊走能が有意に低下していた。
【考察・結論】本研究によって、老化に伴って間葉系幹細胞の骨分化能の低下が起こり、さらに血管新生能も低下す
ることが明らかとなった。血管新生能の低下は移植体への酸素・栄養供給不足を誘導するため、移植部位で機能的な
骨組織の形成を抑制する可能性が考えられる。
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ケモカイン CXCL3 は脂肪細胞分化を促進する新規アディポカインである
小森園 杏奈(口腔生化学分野・歯学部5年)
【目的】脂肪細胞は分化に伴ってアディポカインと総称される生理活性物質群を産生し、脂肪組織における慢性的な
炎症を惹起する重要な因子となっている。炎症における細胞遊走に関わるサイトカイン群は特にケモカインと呼ばれ
るが、近年では炎症における働き以外にも、ケモカインの構成的な発現が一部の細胞分化のレギュレーターとして機
能することが報告されている。しかし、脂肪細胞がどのようなケモカインを分泌し、機能的役割を果たしているかは
よく分かっていない。そこで分化誘導した脂肪細胞におけるケモカイン群とケモカイン受容体群の発現を解析し、そ
の機能を検討した。
【方法と結果】マウス脂肪前駆細胞株3T3-L1細胞を脂肪分化誘導培地で培養し、ケモカイン群及びケモカイン受容
体群の発現をリアルタイムRT-PCR法にて網羅的に解析した。その結果、脂肪分化によって、ケモカインCXCL3と
CXCL13の発現が著明に上昇することが分かった。また、3T3-L1細胞にはCXCL3受容体であるCXCR2、CXCL13受
容体であるCXCR5の発現を認めた。そこで培地にリコンビナントCXCL3を加えながら脂肪分化誘導を行うと、分化
に伴う脂肪滴の形成や脂肪分化マーカー遺伝子の発現レベルが有意に増加した。一方、リコンビナントCXCL13は分
化に影響を与えなかった。逆に、siRNAによってCXCL3及びCXCR2の発現をノックダウンすると、脂肪分化は抑制
された。次にCXCL3による分化促進機構とシグナル伝達経路を解析した結果、CXCL3は脂肪分化の初期に重要な転
写因子であるC/EBP、C/EBPの発現を上昇させており、その発現にはMAPKシグナル経路に属するERKとJNKの
活性化が関与していることが分かった。最後に、脂肪分化によるCXCL3の発現誘導メカニズムを明らかにするため
に、クロマチン免疫沈降法(ChIP assay)を用いた解析を行い、CXCL3のプロモーター領域に脂肪分化マスター転写
因子であるPPAR2の結合部位が機能的に存在することを明らかにした。
【結論】CXCL3は脂肪分化に伴うPPAR2の発現によって転写制御され、著明に産生されるケモカインである。
CXCL3は自己分泌/傍分泌性に脂肪前駆細胞に作用し、ERK及びJNKの活性化を介して、C/EBPとC/EBPの発現
を誘導することで脂肪分化を促進する新規アディポカインである可能性がある。
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食道内への実験的酸刺激が覚醒時の咬筋筋活動や頭頸部動作ならびに
自律神経活動に及ぼす影響
迫口 陽子(歯科矯正学分野・研究員)
【目的】
・食道内への酸刺激によって覚醒時に咬筋筋活動が誘発されるという仮説の検証
・胸やけなどの自覚症状や自律神経活動がそれらに対して果たす役割の検討
【材料と方法】対象は健康な男性15名、食道内への介入は1)何も注入しない(以下コントロール)、2)生理食塩
水(以下生食)注入、3)0.1N塩酸 (pH1.2、以下酸)注入の3条件で行った。咬筋筋活動の評価には表面筋電図、
嚥下や頭頸部動作の評価は喉頭部の動きや筋電図、ビデオ画像からそれらの頻度を算出した。自律神経活動の評価
には、心電図から心拍変動解析を行った。
【結果】覚醒時における食道内への酸注入は、咬筋筋活動を有意に増加させた。それらの増加は主にベースライン
の活動量の増加に由来するものであり、嚥下や頭頸部動作に伴う筋活動量については3群間で有意な差は認められ
なかった。自覚症状の増加と咬筋筋活動の増加に一定の関連性は認められなかったが、副交感神経活動と咬筋筋活
動の変化に有意な関連性が認められた。
【考察・結論】食道内への酸注入は覚醒時における咬筋筋活動を増加させた。酸注入によって誘発された咬筋筋活
動は強度が小さく、通常の診察や簡易的な筋電図検査では検出することが困難と考えられた。近年、胃食道逆流患
者には咬筋障害の罹患率が高いことが報告されており、胃食道逆流患者では酸の逆流によって、このような検出が
困難な筋活動が増加することで、咬筋障害が誘発されている可能性が考えられた。自覚症状の増加と咬筋筋活動の
増加に一定の関連性は認められなかったが、副交感神経活動と咬筋筋活動の変化に有意な関連性が認められたこと
から、酸注入によって誘発された自律神経の変化が咬筋筋活動に影響を与えている可能性が示唆された。
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軟口蓋の Tas1r2/Tas2rs 受容体の発現と甘味/苦味神経応答特性との関係は
ラットとマウス間で異なる
友成 博(口腔生理学分野・助教)
【目的】 本研究は、軟口蓋味蕾を支配する大錐体神経(GSP)の味覚応答特性と、軟口蓋味蕾における味覚受容
体発現をラットとマウス間で比較することで、味覚神経応答と受容細胞の関係を解明することを目的とする。
【実験動物と方法】
実験動物はマウスとラットを用い、神経応答は、GSPを露出分離し、中枢側で切断した後、
銀・塩化銀電極によって応答を導出し、増幅後積分応答から、苦味/甘味応答の比率を解析した。また、味覚受容
体の発現は、甘味受容体(Tas1r2)、苦味受容体(Tas2rs)、そして、これらの受容体に共役するGタンパク質のαサブ
ユニット(Gα-gustducin)に対するRNA probeを用いて、二重蛍光in situ hybridization法で解析した。
Gα-gustducin発現細胞について、Tas1r2を発現する細胞とTas2rsを発現する細胞数の割合を求め、苦味受容体/甘
味受容体を発現する細胞の存在比を解析した。
【結果】
1)ラット軟口蓋で苦味受容体を発現する細胞はTas2rs/Gust:65%で、甘味受容体を発現する細胞の
Tas1r2/Gust:33%に比べて約2倍多く存在するのにも関わらず、GSPの味覚神経応答では、逆に甘味応答の方が
苦味応答の約1.5倍大きかった。2)マウス軟口蓋では、苦味細胞と甘味細胞はほぼ同じ割合であったが、GSPの応
答では苦味応答の方が甘味応答よりも2.4 - 4.7倍大きかった。3)GSP応答の閾値を比べると、苦味に対してはマウ
スの方が、甘味に対してはラットの方がそれぞれ1log unit低かった。
【考察と結論】 本研究結果は、味神経応答が大きい場合には応答する細胞数が多いという関係は成り立たないこ
とを示している。味応答細胞数は少ないにもかかわらず、閾値が低く大きな神経応答が得られたことは、応答の大
きさは、味細胞に存在する受容体の密度に大きく依存している可能性を強く示唆している。
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大脳皮質運動野におけるパルブアルブミン陽性ニューロンの役割
:咀嚼時の顎・舌筋に代表される協調運動との関連
倉本 恵梨子(歯科機能形態学分野・助教)
【目的】パルブアルブミン(parvalbumin)陽性ニューロン(以下PVニューロン)は、大脳皮質の抑制性ニュー
ロンの中で最も大きな割合を占める。最近、感覚系において、PVニューロンが大脳皮質の広範囲のニューロン活
動を同期させることで、異なるモダリティーの統合 — 例えば食事の味や匂い、舌触りなどの統合 — を実現して
いる可能性が示唆され注目を集めている。その一方で、運動野においてはPVニューロンの解析がほとんど手付か
ずの状態で、機能もわかっていない。皮質の運動野におけるPVニューロンの機能を理解するためには、その基礎
となる形態学的データ、すなわちPVニューロンがどのような入力を受け、どんなニューロンに出力するのか、と
いった神経回路図の解明が必要である。そこで本研究では、まず、大脳皮質の運動野において、第何層の興奮性ニ
ューロンがPVニューロンへ強く入力し、興奮させるのかを明らかにした。
【材料と方法】PVニューロンの情報入力部位である樹状突起および細胞体が、特異的に、ゴルジ染色様にGFP標
識されているトランスジェニックマウスを用いた。このマウスから新鮮脳スライスを作製し、大脳皮質の第2/3層, 4
層, 5層, 6層の興奮性ニューロンをそれぞれ細胞内記録・染色法により、バイオサイチンで標識した。そして標識し
た興奮性ニューロンの軸索上のブトン(終末様構造)と、PVニューロンの樹状突起・細胞体の間で形成されるシ
ナプスの分布と個数を解析した。
【結果】興奮性ニューロンのすべての軸索ブトンのうち、PVニューロンの細胞体・樹状突起とシナプスしていたブ
トンの割合は、第2/3層, 4層, 5層の興奮性ニューロンが約14%であるのに対し、第6層の興奮性ニューロンでは約
23%と、高い割合でPVニューロンに情報入力していることが明らかになった。つまり第6層の興奮性ニューロン
は他のニューロンより1.6倍強くPVニューロンに情報入力していた。
【考察・結論】第6層の興奮性ニューロンは、PVニューロンを介して周囲の皮質のニューロン活動を同時に抑制す
ることでニューロン活動を同期させ、協調運動の形成を担っていることが示唆された。
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VildagliptinはeNOS依存的な血管内皮細胞の活性化と血管新生作用を示す
石井 正和(口腔顎顔面補綴学分野・助教)
【目的】幹細胞を用いた機能的な骨組織再生のためには、移植体への効果的な血管の導入が最も重要となる。2型糖
尿病治療薬として広く用いられているDPP-4阻害剤は血糖を下げる作用以外に、近年、心血管保護作用を示すこと
が報告されている。しかしそのメカニズムについては依然不明な点が多い。そこでマウス下肢虚血モデルを用いて
vildagliptinによる血管新生促進効果について検討を行った。
【材料と方法】野生型(WT)マウス、eNOS KOマウス、アディポネクチン(APN)KOマウスに下肢虚血モデル
を作成し、vildagliptin投与群とPBS投与群での血流改善効果を比較した。血清中のGLP-1,APN,SDF-1濃度につい
てELISAによって測定した。in vitroでのvildagliptinおよびGLP-1による血管内皮細胞の活性化(管腔形成能,
Akt-eNOSシグナルの活性化)について検討を行った。
【結果】WTマウスにおいてvildagliptin投与によってGLP-1とAPNの上昇を伴い、有意な血流改善効果が認められ
た。eNOS KOマウスではvildagliptinによる血流改善効果が完全に消失し、APN KOマウスにおいては血流改善効
果が減弱していた。In vitroの系において、vildagliptinおよびGLP-1による血管内皮細胞の活性化が認められた。
GLP-1添加によって脂肪細胞(3T3-L1)のAPN発現を増加させた。
【考察・結論】糖尿病治療薬であるvildagliptinはGLP-1、アディポネクチンの発現を上昇させ、血管内皮細胞を活
性化し、血管新生作用を示すことが明らかとなった。今後、骨組織再生医療において間葉系幹細胞移植との併用に
よって、より効果的な骨再生効果が得られる可能性が示唆される。
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歯槽骨再生を目的とした低侵襲・効率的な顎骨骨髄間葉系幹細胞培養法の開発
末廣 史雄(口腔顎顔面補綴学分野・助教)
【目的】腸骨骨髄間葉系幹細胞(Iliac Mesenchymal Stem Cells:I-MSCs)を用いて骨再生を図る研究が報告され
て以来、免疫反応や感染等の危険性が少ない自己細胞移植のニーズは高い。しかし、自己細胞移植の臨床応用には
大量の自己血清が必要であり、患者への負担は大きくなると共に、培養液の性能を均質化することも困難となる。
また、腸骨と歯槽骨は発生学的に由来が異なるため、我々は顎骨骨髄間葉系幹細胞(Alveolar Mesenchymal Stem
Cells:A-MSCs)を用いて歯槽骨を増生する研究を進めている。今回我々は、A-MSCsを無血清培養あるいは低血
清培養し、歯槽骨再生医療応用への実用性を検討したため報告する。
【材料と方法】ヒト顎骨骨髄は、インプラント埋入手術時の顎骨穿孔部から、患者の同意を得た上で専用の穿刺針
を用いて新たな侵襲を全く加えることなく合計12名から採取した。細胞の培養には無血清培地STK2、1%ウシ胎児
血清(FBS)含有STK2(低血清)培地、10%FBS含有α-MEM培地(従来法)を用いた。in vitroにおける初代培養
細胞の分離能(コロニー形成の有無)、細胞増殖能、骨・脂肪への分化能の検討、フローサイトメトリーを用いた
細胞表面抗原解析を行った。またSCIDマウスの背部皮下に担体と混和した移植体を移植し、in vivoにおける骨形成
能の検討を行った。
【結果】A-MSCsにおいて、無血清培養では初代細胞培養は成功しなかった。低血清培養は従来法と比較して、同
程度の初代細胞培養の成功率であった。さらに低血清培養は従来法に比べて細胞増殖能の促進、骨分化の促進作用
を示した。一方、脂肪分化に関しては影響を及ぼさなかった。低血清培養した細胞も従来法で培養した細胞も細胞
表面抗原のCD73、CD90、CD105が陽性で、HLA-DRは陰性であり、類似の表現形を示した。また、低血清培養し
たA-MSCsはin vivoにおいて異所性の骨形成能を示した。
【考察・結論】A-MSCsの低血清培養は、使用血清量を1/10に減らすことで患者の負担を軽減し、さらには培養期間
の短縮、骨分化能促進という点で歯槽骨再生医療の実現に有用であることが示された。
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正常咬合者におけるグミゼリー咀嚼時の下顎第一大臼歯の運動経路の経時的変化
北嶋 文哲(歯科矯正学分野・博士課程4年)
【目的】
本研究の目的は、グミゼリー咀嚼中の作業側下顎第一大臼歯の運動経路を矢状面と前頭面観で解析することで、咀
嚼機構における食物の物理的性質の変化に対する下顎運動の調節機構を明らかにすることである。
【材料と方法】
正常咬合者 17 名に検査用グミゼリーを用いて、最初の咀嚼サイクルから嚥下するまでの下顎運動を 3 次元 6 自由度
の下顎運動記録装置を用いて記録した。そして、咀嚼サイクルの総数から、前期、中期、後期に 3 等分割し、各期の
10 サイクルを解析した。分析項目は、前頭面と矢状面観において、中心咬合位から垂直にスライスレベル 2.0、3.0、
4.0、5.0 mm を設定し、各レベルの閉口路角、開口路角、咀嚼幅を算出した。3 群間の計測値の有意差の検定には、一
元配置分散分析を用いた。その後、結果に基づき、多重比較を用いて各群間の計測値を検定した。
【結果と考察】
前頭面観のスライスレベル2.0 mmの計測項目は変化が認められなかったが、スライスレベル3.0-5.0 mmの閉口路角、
開口路角、咀嚼幅は咀嚼が進行するにつれて有意に小さくなった。また、矢状面観のスライスレベルの計測項目に
おいては、ほぼ変化が認められなかった。本研究の結果、前頭面観のスライスレベル3.0 mm以上では、作業側下顎
第一大臼歯の咀嚼経路は、咀嚼中に変動する食物の物理的特性に対応して変化することが示唆された。
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健常人ならびに口唇裂患者の表情形成時の上唇形態の3次元形態分析
松本 幸三(口腔顎顔面外科学分野・博士課程4年)
【目的】口唇裂治療のゴールは、形態ならびに機能の回復である。従来、顔貌評価において安静時の口唇形態の評
価はされてきたが、機能時の表情変化に伴う口唇の3次元的形態評価は限られたものであった。
近年新しい3次元撮影装置が開発され、口唇裂患者の動画ないし表情変化の解析が行われつつある。
本研究は連写型3Dスキャナを使用し、口唇裂患者の表情時の口唇外鼻の三次元形態を評価することを前提に、対照
となる健常な日本人の表情時における三次元口唇形態を分析することを目的とした。
【材料と方法】対象は鹿児島大学歯学部学生ボランティア20名(男性10名
女性10名)および当科にて口唇外鼻修
正術を施行したUCLP患者1名。Artec3Dカラースキャナ®2台を使用し、安静時、最大笑顔時、ろうそく吹き時の
3表情を撮影。得られた画像は画像分析ソフト3D-RugleV ®にて前額部から鼻根部のTゾーンで重ね合わせを行った
後、外鼻口唇に計測基準点14点を設定し、安静時と表情形成時の形態変化ならびに、
上唇口輪筋の走行に沿った断面の対称性を分析した。
【結果】計測点の位置変化では、男女とも、笑顔時には外鼻・上唇の計測点は後上方へ移動するとともに、
側方の計測点は外方へ移動した。ろうそく吹き時には上唇の計測点が前下方へ、上唇側方部の点は内方へも移動した。
外鼻・上唇での対応する左右の点の位置変化で左右差は認めず、左右対称性に移動していた。上唇断面の左右差は0.17
〜0.91mmで、性別や表情の違いにかかわらず、上唇の外側より内側での差が大きかった。患者の術前・術後におけ
る計測点位置変化の比較では、安静時の鼻下点の位置は術前より術後でやや上方に位置し、口角点では術前笑顔時上
下的に左右差を認めたが、術後はほぼ左右対称であった。また笑顔時では側方への広がりを認めるも、ろうそく吹き
では健常人でみられた内下方への動きが少なかった。上唇断面の対称性は術前と比較して術後は対称性が増加してい
た。患者の上唇断面の左右差では、術後にほとんどの表情で概ね左右差が小さくなっていた。
【結論】口唇裂患者の表情形成時の口唇外鼻形態の分析のためのコントロール値が設定でき、今後の唇裂患者の分析
に有用と思われた。
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矯正治療前後の下顎前歯の位置変化が上咽頭気道形態に及ぼす影響に関する研究
權 相豪(歯科矯正学分野・博士課程1年)
【目的】矯正治療による下顎前歯の位置変化が、上咽頭気道形態へ影響を明らかにすることで、上下顎前歯の前後
的位置設定目標の設定について、口腔容量に配慮した治療計画を立案する一助する。
【材料と方法】鹿児島大学病院で矯正治療を受けた患者の中、・臼歯関係がAngle ClassⅠ級の者・矯正治療1開始
時の年齢が16歳以上の者・BMI(Body Mass Index)が18.5 Kg/㎡より大きく、23.9Kg/㎡より小さい者・アデノイ
ド肥大や扁桃肥大のない者・口唇口蓋列ではない者・症候群の有しない者を、①抜歯症例で下顎前歯5mm以上の舌
側移動を行った群②抜歯症例で下顎前歯5mm以下の舌側移動を行った群③上顎片顎抜歯症例の群④非抜歯症例の
群に分ける。各群で20人、合計80人を選ぶ。前歯の位置変化と気道形態の変化を調べるため、矯正治療前後の側方
頭部X規格写真を分析する。各群別に統計し比較する
【結果】①群と②群では矯正治療のPAS-NL、PAS-OccL、PAS-UTで有意な差が認められると予想される。そして、
治療前後の有意差は②群と比べ、①群で大きいと予想される。また、③群と④群では治療前後の上気道形態に有意
な差が認められないと考えられる。その理由としては下顎前歯の舌側移動により舌房が小さくなるため、舌が上咽
頭気道に位置するようになることが考えられる。
【考察・結論】上記したように、睡眠時無呼吸は上咽頭気道の狭窄や閉塞により起こる。本研究により、矯正治療
前後の下顎前歯部の舌側移動が上咽頭気道形態に影響し、睡眠時上気道の狭窄や閉塞にも影響する可能性が検証で
きると期待される。そして、矯正治療計画時、上咽頭気道への影響を考慮して下顎前歯の位置設定で、矯正治療に
より睡眠時無呼吸の発症リスクが高くなることを予防できると考えられる。
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嚥下における舌圧と口唇の三次元動態に関する研究
- 小児期の嚥下動作の簡便かつ客観的評価法の開発を目指して -
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森園 健(小児歯科学分野・博士課程3年)
【目的】嚥下運動において、複数の頭頚部関連器官の複合的な協調運動の評価方法は、これまで観察によるものが主
であり、数値化した客観的な機能評価は困難であった。また、嚥下の支援が必要な対象者の大部分は低年齢児や高齢
者であるため、簡便な評価法が望ましい。
そこで本研究は、簡便な方法で三次元運動解析が可能な装置を用いて、嚥下時の口唇周囲の軟組織動態を定量評価
し、嚥下時舌圧と同期観察することで一連の運動の協調性を検討する。
【材料と方法】健常成人を対象に5mlと20 mlの水を口腔内に保持させて自分のタイミングにて一口で嚥下させ、口
唇周囲の軟組織動態を定量評価し、嚥下時舌圧と同期観察した。さらに、嚥下時の最大舌圧値、嚥下時の最大口角間
距離と安静時口角間距離の差(口角間距離変化量)、嚥下に伴い口唇が運動してから、舌が機能するまでのタイミン
グを調べるために、舌圧が最大となる時間と口角間距離変化量が最大となる時間の差(口唇-舌 時間)を求めた。
【結果】一口量の増加により、最大舌圧値に差はなかったが、口角間距離変化量は有意に大きく、口唇-舌 時間は
短くなった。
【考察・結論】嚥下時の一口量が増加すると口唇の協調性がより求められ、舌よりも口唇の動きを大きくすることで
嚥下動作を補助し、口唇-舌 時間が短くなったと推察された。以上のことから、嚥下時の口唇と舌の協調運動の重要
性や、嚥下困難者への口唇トレーニングの必要性を客観的に示すことができ、さらには、嚥下動態をグラフにより明
視化することで、将来的には患者説明などの臨床応用ができる可能性が示唆された。
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甘草由来グリチルレチン酸誘導物質の黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性の検討
大山 健太郎(口腔顎顔面外科学分野・博士課程2年)
【目的】黄色ブドウ球菌(Sa)は、ヒトの鼻腔・口腔・皮膚等の常在菌として知られているが、種々の化膿性疾患等
の日和見感染症を引き起こす。本研究は、天然成分である甘草から抽出されるグリチルレチン酸誘導体のSaに対す
る抗菌効果について検討することが目的である。
【材料と方法】Sa臨床分離株として、メチシリン耐性Sa18株とメチシリン感受性Sa32株を用いた。甘草由来グ
リチルレチン酸誘導物質として、グリチルレチン酸ニカリウム、3−サクシニルオキシグリチルレチン酸ニナトリウ
ム、グリチルレチン酸、グリチルレチン酸ステアリル、ステアリン酸グリチルレチニルを用いた。抗菌活性評価は、
微量液体希釈法(MIC法)と短時間処理による抗菌アッセイを行った。グリチルレチン酸誘導物質の抗菌作用機序
を検討する目的で、溶菌試験及び菌結合能試験を行った。さらに、他の抗菌剤との併用による抗菌力相乗効果の有
無をMIC法にて検討した。
【結果】Sa臨床分離株50株について検討を行った結果、グリチルレチン酸(GRA)、3—サクシニルオキシグリ
チルレチン酸ニナトリウム(S-GRA)において強い抗菌活性が認められた。また、GRA及びS-GRA共にSaに対する
増殖抑制効果が認められたが、殺菌作用は認められなかった。菌結合能試験より、S-GRAはSa菌体との結合が認め
られた。抗菌剤との併用実験では、ゲンタマイシン(GM)及びテトラサイクリン(TC)との併用効果が認められ
た。
【考察・結論】本研究より、GRA及びS-GRAはSaに対し静菌的な抗菌活性を有することが明らかになった。作用機
序についてはSaとの結合性を認め、今後詳細な解明を進める予定である。GMやTC等蛋白合成阻害剤との併用効果
が認められ、GRA及S-GRAは蛋白合成阻害剤特異的な相乗効果を持つ事が考えられる。
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口唇裂・口蓋裂を伴う患者の矯正治療における歯根吸収の原因解明
古川 みなみ(歯科矯正学分野・博士課程1年)
【目的】口唇裂・口蓋裂を伴う患者の顎裂隣接歯の歯根長と移植骨の骨架橋や骨量、矯正治療による歯の移動およ
び治療期間との関連を検討し、矯正治療による歯根吸収の危険因子を明らかにすることである。
【材料と方法】過去30年間の片側性口唇顎裂および口唇口蓋裂症例で、マルチブラケット装置による矯正治療(MB
治療)を終了した患者40名を対象とした。骨移植(BG)後半年から1年後の骨架橋をChelsea Scaleによる評価で骨架
橋良好群と骨架橋不良群に分類し、移植骨の顎裂縁骨量をBGスケールスコアで評価した。歯根長はデンタルX線写
真を用いて計測し、中切歯はBG前に歯根形成が完了しているためBG前とMB治療終了後に、側切歯と犬歯の歯根長
は、MB治療終了後のみ計測した。矯正治療に関連する因子として、顎裂隣接歯の歯軸角とMB装着期間 について調
査した。歯根長の2群間の差をUnpaired t-testで、歯根長と各因子の関連をスピアマンの順位相関係数で統計学的に
検討した。
【結果】現在までの結果として、MB治療後の中切歯の歯根長は、骨架橋不良群と比較して、骨架橋良好群の方が約
2mm有意に長かったが、犬歯に差は認められなかった。中切歯の歯根長は、BGスケールのスコアと有意に関連して
いたが、歯軸角とブラケットの装着期間とは関連しなかった。
【考察・結論】BG後の骨架橋や中切歯側の骨量が、MB治療後の中切歯の短根と関連していることが示唆されたが、
一方で、MB治療前後の歯軸角は、中切歯の歯根長と関連しなかった。これは、骨量が異なる症例に対して、矯正治
療によって歯根を同じように移動させたため、歯根吸収が生じたことを示唆しており、BGスコアが低い症例では、
歯軸の設定に留意し、歯根吸収を生じないようにする必要があると考えられた。しかし、現在までの結果では、短
根が歯根吸収か不明であり、また、矯正治療による詳細な歯の移動も不明であることから、解析する項目を増やし
て今後さらなる検討を行う予定である。
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中枢神経系を介した唾液分泌促進作用の機序の解明
大賀 泰彦(歯科矯正学分野・博士課程2年)
【目的】本研究は、胃酸分泌抑制剤であるニザチジンが唾液分泌を促進するというユニークな臨床特性に着目し、
胃酸分泌抑制剤が唾液分泌を促進して食道内のクリアランスとして酸を洗い流すことにより、胃食道逆流症
(Gastroesophageal Reflux Disease:GERD)の症状緩和に貢献するというメカニズムを検証する。
【材料と方法】ハロセン麻酔下にて鼓索舌神経に逆行性蛍光標識を行い唾液分泌中枢のマーキングを行う(予備実
験を行いトレーサーが目的の上唾液核に達するまでの期間の検討を行いラットの適切な生存期間を決定する)。適
切な生存期間後に断頭および脳摘出を行い、マイクロスライサーで唾液分泌中枢の上唾液核ニューロンを含む厚さ
200μmの新鮮脳スライス標本を作製する。蛍光顕微鏡下に微小ガラス電極を上唾液核ニューロンに刺入後、TTX(テ
トロドトキシン)存在下にニザチジン、ムスカリン及びアンタゴニスト(アトロピン、M1阻害剤、M2阻害剤、M3
阻害剤、M4阻害剤、M5阻害剤)の灌流を行い、ホールセルパッチクランプ法により神経応答(膜電位と微小興奮
性シナプス後電流の頻度と振幅)を記録する。得られた記録はオフラインにて解析ソフト(Igor Pro、Mini analysis)
を用いて前述ニューロンの神経特性を解析する。
【結果】現在、実験及び解析中である。
【考察・結論】TTX(テトロドトキシン)を与え電位依存性のナトリウムチャネルを塞ぎ、活動電位を発生させな
いようにすることによって微小興奮性シナプス後電流を測定できニザチジンがどのムスカリン受容体に作用してい
るかがわかる。それによって唾液分泌促進をするより選択的な薬剤開発につながる。
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オステオポンチンは骨芽細胞の生理応答性を自己調節する
楠山 譲二(口腔病理解析学分野・助教)
【目的】オステオポンチン(OPN)は分泌型のリン酸化糖タンパク質であり、骨芽細胞分化の中期に一過性に発現する
分化マーカーである。しかしOPNノックアウトマウスは骨格異常を認めず、OPNは骨基質形成に必須でないことか
ら、OPNの骨代謝における役割は不明な点が多い。骨芽細胞にはOPN受容体であるインテグリンV1V3,CD44が
強く発現しており、骨芽細胞が産生するOPNは自己分泌/傍分泌で自身に作用する可能性がある。我々はOPNが骨
芽細胞の細胞刺激因子に対する生理応答性を自己調節するサイトカインであると仮説を立て、OPNの機能的役割とそ
の分子メカニズムの解析を行った。
【方法と結果】マウス骨芽細胞株MC3T3-E1にOPNを強発現させ、メカニカルストレス(MS)を与えたところ、コン
トロールに比べてMS応答性遺伝子の発現が減弱した。また骨分化誘導によってOPNの発現が上昇した骨芽細胞に対
し、OPN siRNAやOPN中和抗体でOPN機能を阻害した上でMSを加えると、MS応答性が有意に増大した。MSで活
性化するシグナル経路のうち、OPNはMSによるFAK(Focal Adhesion Kinase)のリン酸化を著明に抑制していること
が分かった。MSと同様にFAK活性化を誘導する細胞刺激因子である肝細胞増殖因子(HGF)や血小板由来増殖因子
(PDGF)に対しても、OPNはその働きを抑制した。次にOPNによるFAKの脱リン酸化を誘導する分子を探索したとこ
ろ、OPNはLMW-PTP(Low Molecular Weight Protein Tyrosine Phosphatase)と呼ばれるフォスファターゼの発現
を上昇させることが分かった。そこでLMW-PTPを強発現する骨芽細胞を樹立し、MSやHGFによる刺激を加えると、
その応答性は阻害された。またOPNによるMSに対する抑制機能は、LMW-PTP siRNAによって回復することができ
た。更にOPNによるLMW-PTP発現誘導に関与する受容体とシグナル伝達経路の解析を進行中である。
【結論】骨芽細胞の産生するOPNは骨芽細胞自身に作用してLMW-PTPの発現を誘導し、メカニカルストレス、HGF、
PDGFによるFAKリン酸化を抑制することで、細胞刺激因子への応答性を減弱化させていることが示唆された。OPN
は自己分泌/傍分泌性に骨芽細胞の生理応答性を調節するサイトカインとして、骨芽細胞機能に影響を与え、骨代謝
に機能的に関与している可能性がある。
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