地域の経済成長と中小企業のグローバル化

地域の経済成長と中小企業のグローバル化
戸堂 康之
東京大学 新領域創成科学研究科 国際協力学専攻 教授 停滞する日本経済には制度転換が必要
日本経済は20年の長期にわたって低迷を続け
夫、デザインなども含んだ大きな概念である。
だから、技術進歩というよりも「知恵の創造」
ている。日本の1990年から2010年までの一人当
が長期的な経済成長の源泉であるといったほう
た り 実 質GDP成 長 率 は 年 率0.79 % で あ り、
がよいかもしれない。
OECD34か国中で下から3番目であった(世界銀
したがって、経済成長を促進するには活発に
行『 世 界 開 発 指 標 』
)。 そ の 結 果、 日 本 の 実 質
知恵の創造が行われる制度が必要なのだが、そ
GDPは1990年にはOECDで7位だったものが、
のような制度作りにおいて、
「三人寄れば文殊の
現在では17位まで堕ちてしまったのである。こ
知恵」ということわざが役に立つ。つまり、多
の事実から、日本経済の停滞の原因はリーマン・
様な人がたくさん集まって、切磋琢磨し、お互
ショックや東日本大震災にあるのではなく、もっ
い刺激を受け合いながら知恵を出すことで、よ
と根が深く長期的なものであることがわかる。
りよい知恵が出てくる。言い換えれば、多様な
このような長期的な経済の停滞を打破するに
人とのつながり(ネットワーク)がイノベーショ
は、大きな制度転換が必要だ。日本は、幕末・
ンを起こすのである。このことは、ことわざだ
明治維新期に貿易の自由化や政治改革によって、
けではなく、実は経済成長論や社会ネットワー
それまでの成長率がわずか0.2%であったのを一
ク論によって学術的にも支持されている。
気に1.9%にまで上昇させた経験がある。戦後の
そして、多様な人とのつながりを起こす重要
改革もむろん、制度転換によって大きく成長し
な一つの手段が、地域内での産業集積である。
た一例である。
地域内に産業が集積することで、コミュニケー
逆に言えば、このような大きな制度転換がで
きなければ、日本経済は凋落し続ける。中国も、
ションが活発になり、情報や知識が濃密にやり
取りされる。これがイノベーションを引き起こす。
19世紀初めには世界の実質GDPの30%を占めて
しかし、地域内のつながりだけでは十分では
いたのが、その後200年近く凋落し続け、世界の
ない。地域が閉じてしまっていれば、地域が生
5%程度にまで縮小した。その後、1978年の鄧
み出す知恵にも限りがある。したがって、他の
小平の改革開放政策による大転換によって、現
地域や海外ともつながることによって、外の知
在では世界の実質GDPの20%程度まで急激に回
恵を取り込み、それを活用して新たな知恵を作
復している。中国の経験は、やり方次第では国
り出していくことが必要だ。そして、海外とつ
の経済力は落ち続けることもあるし、急成長す
ながる一つの有効な手段が、輸出や海外直接投
ることもあることをはっきりと示している。
資を通じた企業のグローバル化である。
では、どのような面で大きな制度転換を図る
必要があるのか。そもそも、長期的な経済成長
産業集積と経済成長
の源泉は技術進歩であることは、経済成長論に
地域の産業集積や企業のグローバル化が生産
よって明らかとなっている。ただし、ここでい
性の向上を促して経済成長のエンジンとなると
う「技術」とは、工学的な技術・科学的な知識
いうことは、多くの内外のデータによって実証
だけではなく、経営技術や生産工程における工
されている。例えば、より集積した地域では企
’
12.4
6
戸堂 康之(とどう やすゆき)
業研究所ファカルティフェロー。
【略歴】
【著書】
東京大学教養学部教養学科卒業、学習塾経営を
『日本経済の底力̶臥龍が目覚めるとき』
,中央
経て、スタンフォード大学経済学部博士課程修
了(経済学Ph.D.)。東京都立大学経済学部助教授、 公論新社,2011年。『途上国化する日本』,日本
経済新聞出版社,2010年。
『技術伝播と経済成
青山学院大学国際政治経済学部助教授、東京大
長−グローバル化時代の途上国経済分析−』,勁
学新領域創成科学研究科国際協力学専攻准教授
草書房,2008年。
を経て2010年12月より現職。2008年より経済産
業の生産性や利益率が高いことが示されている。
しかし、これまでの公共投資中心の政策では、
徳田秀信(みずほ総研)は、都道府県別の中小
地方の産業集積は進まない。図2が示すように、
企業の収益率は事業所密度と強く相関すること
日本では地方に多く公共投資が配分されながら、
を見出している(図1)。
地方からの人口流出が止むことはなかったのだ。
図1.事業所密度と中小企業のROA(総資本利益率)
(ROA、%)
3.5
図2.地方(北海道、東北、北陸、中国、四国、九州)の
シェア(%)
50
公共投資額
東京都
愛知県
大阪府
3.0
45
千葉県
神奈川県
埼玉県
2.5
40
福岡県
人口
2.0
35
1960
1.5
y=0.41 Ln
(x)+0.98
R2=0.72
1.0
1
10
100
(事業所数/面積(km2)、対数目盛)
1,000
出所:徳田秀信
(2010)
,
「わが国中小企業の収益性と競争力∼主要国との国際比較
に基づく実証分析と政策課題の検討∼」
『
,みずほ総研論集』
,
2010 年 IV 号.
1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005
出所:総務省ウェブサイト,総務省統計局(2010),『日本統計年鑑』,林宜嗣
(2004)
,「公共投資と地域経済−道路投資を中心に−」,『フィナンシャ
ル・レビュー』,74 号,52-64,本間正明,田中宏樹(2004),
「公共投資の地
域間配分の政策評価−都道府県パネルデータを用いた実証分析とシミュ
レーション−」,
『フィナンシャル・レビュー』,74 号,
4-22.
では、産業集積の発展のためには何が必要か。
そのヒントを、日本のオートバイ産業の事例で
しかし、残念ながら日本では地方での産業集
見てみよう。日本のオートバイ産業は戦後に本
積は必ずしも進んでいない。東京圏(神奈川、
格的に始まったが、1950年代前半には年間最多
埼玉、千葉を含む)の人口は、戦後直後には全
で約80社が参入し、一方で毎年約40社が退出し
国の15%程度だったのが、今では30%近くにま
ていくという激しい企業の参入と退出が起きた。
で膨張し、その分地方からは人口が流出してい
その中で技術は急激に向上していき、1960年に
る。図1を見ても、東京の事業所密度は多くの
は日本のオートバイ生産台数は世界一となり、
都道府県の10倍以上あることがわかる。
その過程で浜松への産業集積も進んだ。この経
このような東京への一極集中は、地方における
験は、産業集積地においては「三人寄れば文殊
「三人寄れば文殊の知恵」の効果による産業発展
の知恵」の効果によって生産性が高くなるが、
を阻害している。たしかに、東京に産業が集中
それは市場経済において企業同士そして地域同
していることが、日本の競争力を高めていたと
士が競争を通じて切磋琢磨していくからである
いうことも言える。しかし、東京直下型地震が
ことを示している。
将来確実に襲来することや、過密が進みすぎた
また、金属洋食器・金属加工の集積地として
東京では、通勤地獄に象徴されるように生活環
有名な新潟県燕市の歴史を見ると、それは変化
境が必ずしもよくないことなどから、今後はむ
の歴史でもあることがわかる。燕は江戸時代に
しろ東京への一極集中を是正する必要がある。
は農業の副業として和釘を生産していたが、和
’
12.4
7
釘の需要低下に対応して、仙台の職人から技術
支援している。岡室博之(一橋大学)らのデー
を学んで銅器の製造に移行し、さらに洋食器製
タ分析によると、研究開発に対する補助金より
造へと変化していった。戦後にはアジアとの競
もネットワーク支援的な政策の方が、むしろ企
争にさらされ、ヨーロッパに学んで高級洋食器
業の売上高向上や技術開発に貢献したという。
に特化していったり、より高い技術を要する金
日本の大学は地方においても高い技術力を持っ
属加工へと産業を転換している。つまり、集積
ているものが多いが、残念ながらその技術のシー
地は需要の変化や他地域との競争などで危機に
ズが十分に地域社会に活用されているとは言い
陥ることもまれではないが、外から知恵を取り
難い。したがって、地域内で大学と中小企業と
込みつつ、それまでの特色を生かしながらも常
のつながりを強化するための支援は必要であり、
に変化し続けることでこそ生き延びることがで
かつ有効であると考えられる。
きるのだ。
なお、地方の産業集積を構築するに当たって
現在、ITやバイオテクノロジーの世界的拠点
は、あくまでも地方が主体となり、ミニ東京を
となっているアメリカのボストンも、もともと
作るのではなく、その地方の特色を生かした産
海運業・漁業から発してモノづくりの拠点に移
業に特化した集積を目指すべきである。そのた
行し、その後アメリカの製造業の衰退とともに
めには、地方の権限を強化して、金太郎飴的で
退潮していたのが、知恵づくり拠点に転換して
はない地方独特の政策を行うことを許容し、む
復活したという歴史を持つ。
しろ奨励していかなければならない。
これらのことから、産業集積を発展させてい
くためには、既存の企業や産業を保護しようと
グローバル化と経済成長
いう政策は効果的ではなく、競争を背景とした
輸出や海外直接投資などの企業のグローバル
技術進歩、知恵の創造の促進に政策の重心を変
化が企業の生産性を向上させるという証左も多
えていく必要があることがわかる。そのような
い。例えば、図3は輸出によって企業の労働生
政策は、例えば特区制度の利用によって実行し
産性が上昇することを示している。より詳細な
やすい。特区内では、法人税の軽減によって企
企業レベルのデータ分析によると、輸出や海外
業の参入を促進したり、研究開発に対する優遇
直接投資をすることで、企業の生産性は平均的
税制によって技術開発を後押しすることが可能
に2%程度上昇する。これには、生産規模を拡
となる。外からの知恵を取り入れるために、外
大することによって生産効率を上げるという効
図3.輸出によって生産性は上昇する
10
大学の間の産学連携や、地元企業同士や地元と
出所:経済産業省『企業活動基本調査』
よる大企業や商社に対する展示会などの開催を
’
12.4
8
2007
2006
2004
者による企業向けの技術発表会や、中小企業に
2005
1995年から2007年まで一切輸出していない企業の平均
1995
6
2003
研究開発に対する補助金に加えて、大学の研究
2002
省の行っている「産業クラスター計画」では、
2001
る環境が整えられるからだ。例えば、経済産業
2000
ことで、「三人寄れば文殊の知恵」で技術進歩す
1999
ことである。これらのネットワークを強化する
2000年に輸出を開始した企業の平均
労 9
働
生
産
性
︵ 8
百
万
円
/
人 7
︶
1997
他地域の大企業や商社との産産連携を強化する
1998
しかしさらに重要なのは、地元の中小企業と
1996
資企業に対して優遇措置を与えることもできる。
果も含まれているが、海外とつながることで海
じく、グローバル化に対する政策も「三人寄れ
外の知恵を取り入れて技術進歩、知恵の創造を
ば文殊の知恵」を促進するネットワーク支援が
起こすという効果も大きい。
有効なのだ。
例えば、日本酒「真澄」で知られる長野県の
実は日本には、潜在的には生産性・技術力が
宮坂醸造は輸出に力を入れているが、宮坂社長
高く、海外市場に出ていけるにもかかわらず国
は輸出をするのは海外情報を得る手段だと明言
内にとどまっている「臥 龍 企業」が多くいるこ
する(2010年11月10日付日本経済新聞)
。そして、
とが、私自身の研究成果からわかっている。臥
カリフォルニアのナパ・バレーのワインツーリ
龍企業は、中小零細企業にも多いし、特定の地
ズムにヒントを得て、地域の同業者と「上諏訪
域や産業に限らずどこにでもいる。このような
街道呑みあるき」ツアーを催して需要を掘り起
臥龍企業は、ちょっとしたきっかけでグローバ
こし、国内の売上をも伸ばしている。最近完成
ル化することも多い。
が りゅう
した航空機ボーイング787では、開発段階から三
例えば、燕市のある金属加工業の企業は、高
菱重工業をはじめとする日本企業の多くがかか
い技術を持ちながら国内にとどまっていた。し
わり、その35%は日本製だといわれる。これは、
かし、ある日その高い技術を聞きつけた韓国企
むろんボーイングが日本企業の高い技術を評価
業がやってきて、輸出が始まったという。また、
したためであるが、反面日本企業も航空機の開
埼玉県の金子製作所は、長らく国内企業の下請
発にかかわることで開発や製造のノウハウを学
けとして医療機器や航空機の金属部品を製造し
んだという。このように、グローバル化によっ
ていた。しかし、数年前にたまたま自治体の主
て国内に海外の知恵が入ってきて、さらにそれ
催する企業の国際化セミナーに参加したことを
を活用して新しい知恵が生まれるという例は枚
きっかけに、JETROの支援を受けて海外展示会
挙にいとまがない。
に出展し、すぐに技術が認められて海外に対し
しかし、日本企業のグローバル化は十分に進
て輸出を始めることになった。福岡県のある食
んでいない。輸出額、対内直接投資額、対外直
品加工業の企業は、留学経験のある2代目が事
接投資額のGDP比でみると、日本はOECD34か
業を継いだことで輸出を考え始め、JETROや近
国中それぞれ33位、34位、27位である。ASEAN
隣のすでに輸出経験のある企業から支援を受け
諸国に対する直接投資額をとっても、EU、アメ
て海外進出にこぎつけた。
リカ、中国、ASEAN域内よりも少なく、アジア
まだまだ日本には高い技術を持っているのに
における日本企業のプレゼンスですら、日本人
グローバル化していない臥龍たちがたくさん
が考えるほど大きくはない。
眠っていることは、データで検証されているが、
したがって、企業のグローバル化を促進する
これら多くの事例からそれが実感される。これ
には政策が必要だ。TPP(環太平洋経済連携協定)
らの元臥龍企業は技術や意欲があり、さらに幸
やEU、中国、韓国などとのEPA(経済連携協定)
運が作用してグローバル化できたが、運が悪く
によって、貿易や投資の障壁を撤廃することは
てグローバル化できない臥龍企業は多いはずだ。
その代表的な政策である。しかし、それに加えて、
臥龍企業が政策的な支援を受けてグローバル化
中小企業に対して海外市場や輸出・投資制度に
し、さらに多様な海外の知恵を取り込むことで
関する情報を提供したり、海外のビジネスパー
生産性を上げることが、日本が再び高い経済成
トナーを探すための場を提供するような政策的
長を達成するための1つの道である。
支援も必要である。産業集積に対する政策と同
企業が海外進出すれば、日本の空洞化が進む
’
12.4
9
という議論がある。しかし、実際に企業や産業
だから、日本経済を立て直すためには、空洞
のデータを分析すると、日本において海外進出
化を恐れてグローバル化をしないというのは逆
によって全体として国内雇用が減ったという事
効果である。むしろ、グローバル化によって海
実はなく、むしろ長期的には海外進出した企業
外の知恵を取り入れるとともに、国内の企業活
の方が雇用を伸ばす傾向にある。これは、海外
動の重点をより多くの知恵が必要とされる部門
進出によって企業が競争力を増し、その結果企
に移していくことが必要なのだ。
業がより大きくなるからだ。例えば、福井市で
配 管 部 品 を 製 造 す る 日 本 エ ー・ エ ム・ シ ー は
変化しなければ生き残れない
1990年代後半から中国やタイに工場を進出させ
幸い、最近の日本経済の動向をみると、上述
たが、むしろその後の15年間で従業員数は2倍
したような方向で政策が動き始めている。TPPを
になった。これは、海外での技術指導や品質管
はじめとするEPAは交渉に向けて動き始めてい
理などの業務が国内で増えたからだという(2011
るし、地方自治体や公的機関による企業のグロー
年11月3日付日本経済新聞)。
バル化支援はより活発になってきている。総合
国内に技術があり、国内で知恵が創造されて
特区も開始され、復興特区においては新規参入
いる限りは、グローバル化によって空洞化が起
企業の法人税が5年間免除されるなど、参入を
きないのは明らかである。電気通信機器メーカー
活発化するための政策が導入されている。東北
であるノキアの携帯電話のある機種は、部品の
では、産学連携による研究開発補助金が手厚く
すべてを中国で生産しているが、その利益の半
支給されようとしている。
分以上はフィンランドにあるノキア本社に落ち
政策だけではない。民間も動き出している。
る(図4)
。これは、部品の製造のすべてが海外
いや、むしろ民間の動きの方が素早いと言って
に行ったとしても、研究開発、デザイン、法務、
いい。中小企業同士が連携して海外進出を果た
経営管理、マーケティングなど知恵を必要とす
そうとする動きが顕著にみられるようになった
る企業活動のすべてが本社で行われていて、知
し、地銀や信金は中小企業の海外進出のための
恵の創造に対する報酬は本社に残るからだ。
支援を活発に行い始めている。農林中金ですら、
農水産物輸出のためのセミナーを開いている
図4.ノキアの携帯電話の利益配分
(2012年1月19日付農業協同組合新聞)。
このようなネットワークの深化によって、技
小売企業の
利益
術進歩やグローバル化に対する障壁は低くなり
つつある。だから、そのような状況の変化に対
応して企業が変わっていく、例えば大学の技術
中国の部品企業
の利益
本社に落ちる
利益
を活用したり海外市場に進出したりすることが
できれば、より大きく成長することができるよ
うな下地は整い始めている。それはしかし、逆
に企業が変われなければ生き残れなくなりつつ
あるということでもある。
出所:Ali-Yrkko, P. Rouvinen, T. Seppala, and P. Yla-Anttila
(2011), “Who Captures Value in Global Supply
Chains? Case Nokia N95 Smartphone,” Journal of
Indusry, Competition and Trade.
2009年に中小企業庁が行った調査によると、
中小企業が輸出も海外直接投資もしていない理
由の最大のものは、
「必要性を感じない」という
’
12.4
10
回答であった。しかし、それから3年たった現
優秀な人材も多く、また日本で働きたいという
在では、グローバル化の「必要性を感じない」
希望を持つものも多い。それ以外にも、逆に海
中小企業は、グローバル化して競争力をますま
外で留学・就労した経験を持つ日本人も日本企
す伸ばした企業との競争によって淘汰されてし
業のグローバル化に対して十分に活用されてい
まう可能性が高まっている。
るとは言えない。臥龍人材はまだまだ眠ってい
しかも、東日本大震災やタイの洪水において
一部の部品の供給が途絶えたことによって最終
るのだ。
産学連携やグローバル化のために有効なもう
製品の生産を停止せざるを得なくなったことで、
一つの方法は、M&Aによる規模拡大である。潜
自動車・電機産業において部品の共通化は今後
在的には能力のある中小企業が産学連携やグ
確実に進む。このことは、これまでの発注企業・
ローバル化をしていないのは、人手が足りずネッ
受注(下請け)企業の長期的な関係が解消され
トワークづくりや情報収集に人が割けないから
る可能性をも示しており、変化の「必要性を感
であることが多い。であるならば、優れた技術
じない」ような企業はますます生き残れなくなっ
を持つ中小零細企業同士がM&Aによって大きく
ていくにちがいない。逆に、技術さえあれば、
なることで、その問題を解決することができる
これまでの取引関係の枠を超えて、例えば海外
はずだ。大企業であっても、M&Aによって規模
企業からも受注を受け、グローバル化によって
を大きくすることで生き残ろうとすることがあ
企業が成長できる可能性が高まっている。
るのだ。中小零細企業もM&Aを経営戦略として
しかし、壁が低くなったとはいえ、中小企業
もっと積極的に利用するべきである。ただ、中
にとって産学連携や大企業との連携、グローバ
小企業のM&Aが進まない背景には、中小企業の
ル化はまだまだ簡単ではない。だから、常にネッ
持つ技術を適正に評価できていないという問題
トワークを広げて、産学連携やグローバル化に
もあり、その点では金融機関やコンサルティン
対する政策的支援に関する情報を得ることが必
グ企業の技術の目利きにおける能力向上を期待
要だ。すでに述べたように政策はそれなりに充
したい。
実してきている。確かに、制度が複雑で使い勝
これまで述べてきたように、臥龍企業をはじ
手が悪かったり、たくさんの制度があるがため
めとする日本企業にはまだまだ底力があり、産
に逆に情報を得にくいといった面もなきにしも
業集積やグローバル化を促進する政策によって
あらずだが、そこは乗り越えられない壁ではな
その力をうまく活用することが、日本が震災か
いはずだ。
らの復興を超えて飛躍的な経済成長をとげるた
また、グローバル化のためにはグローバル人
めの大きなカギとなる。しかし、激動する世界
材を活用することも有効である。最も手っ取り
経済の中にあって、このままではその底力も早
早いのは、日本の大学を卒業した外国人を雇う
晩失われてしまうだろう。日本の底力に自信を
ことである。例えば、前述した元臥龍企業の金
持ちつつも、制度を大転換し、変化を大胆に呼
子製作所は、海外展示会で海外の企業から受注
び込んでいかなければ、日本経済を再生するこ
できそうだとなると、すぐに元留学生を雇って
とはできない。
英語の問題をクリアしたという。元留学生には
’
12.4
11